(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138972
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20220915BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039161
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 武博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠二
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049AB03
3J049BB02
3J049BB13
3J049BB23
3J049BB26
3J049BB35
3J049BH01
3J049CA02
3J049CA03
(57)【要約】
【課題】エンジン始動時にシリンダの内部にエアが混入するのを効果的に抑制することが可能なチェーンテンショナを提供する。
【解決手段】エンジンカバー9に開口する油孔30からシリンダ本体部10Aの内部にオイルを導入するようにシリンダ10に設けられた給油通路31を有するチェーンテンショナにおいて、給油通路31は、シリンダ10の表面に油孔30と対向して形成されたオイル溝32と、オイル溝32からシリンダ本体部10Aの内部に連通して形成されたオイル導入孔33とを有し、オイル導入孔33は、油孔30よりも下側の位置にオイル入口33aをもつように設けられ、オイル溝32は、上向き流路36と下向き流路37とに分岐して流す分岐部35を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とし、前記開口端をエンジンカバー(9)内に向けた姿勢で前記エンジンカバー(9)に形成されたテンショナ取り付け孔(11)に挿入されるシリンダ本体部(10A)と、前記シリンダ本体部(10A)に一体に形成され、前記エンジンカバー(9)の外面(12)に面接触して固定されるシリンダフランジ部(10B)とを有するシリンダ(10)と、
前記シリンダ本体部(10A)に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ(17)と、
前記プランジャ(17)を前記シリンダ本体部(10A)から突出する方向に付勢するリターンスプリング(18)と、
前記エンジンカバー(9)に開口する油孔(30)から前記シリンダ本体部(10A)の内部にオイルを導入するように前記シリンダ(10)に設けられた給油通路(31)と、
前記プランジャ(17)が前記シリンダ本体部(10A)に押し込まれる方向に移動するときにオイルの粘性抵抗によりダンパ力を発生する油圧ダンパ機構(19)と、を有するチェーンテンショナにおいて、
前記給油通路(31)は、前記油孔(30)からオイルを受け入れるように前記シリンダ(10)の表面に前記油孔(30)と対向して形成されたオイル溝(32)と、前記オイル溝(32)内のオイルを前記シリンダ本体部(10A)の内部に導入するように前記オイル溝(32)から前記シリンダ本体部(10A)の内部に連通して形成されたオイル導入孔(33)とを有し、
前記オイル導入孔(33)は、前記油孔(30)よりも下側の位置にオイル入口(33a)をもつように設けられ、
前記オイル溝(32)は、前記油孔(30)から受け入れたオイルを、エア抜き用の上向き流路(36)と、前記オイル入口(33a)に接続する下向き流路(37)とに分岐して流す分岐部(35)を有することを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記下向き流路(37)は、前記油孔(30)の断面積よりも大きい流路面積を有するように形成されている請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記オイル溝(32)は、前記油孔(30)からオイルを受け入れて前記分岐部(35)に流す分岐前流路(34)を有し、
前記分岐前流路(34)は、前記油孔(30)の断面積よりも大きい流路面積を有する請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記分岐前流路(34)は、水平方向または水平に対して上向きの流路のみで形成されている請求項3に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記分岐前流路(34)は、前記油孔(30)の位置から前記分岐部(35)に向けて次第に流路面積が拡大するテーパ状に形成されている請求項3または4に記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記分岐部(35)は、前記油孔(30)から直接オイルを受け入れるように前記油孔(30)と対向して配置され、
前記分岐部(35)には、水平方向に沿った断面積が、前記下向き流路(37)の流路面積よりも大きいバッファ室(43)が形成されている請求項1または2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記シリンダ(10)の前記表面は、前記シリンダ本体部(10A)の外周の前記テンショナ取り付け孔(11)の内周との嵌合面(16)である請求項1から6のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項8】
前記シリンダ(10)の前記表面は、前記シリンダフランジ部(10B)の前記エンジンカバー(9)の外面(12)との合わせ面(15)である請求項1から6のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの張力保持に用いられるチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンに使用されるチェーン伝動装置として、例えば、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するものや、クランクシャフトの回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するものや、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するものや、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するものなどがある。これらのチェーン伝動装置のチェーンの張力を適正範囲に保つために、チェーンテンショナが使用される。
【0003】
このような用途に使用されるチェーンテンショナとして、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1のチェーンテンショナは、シリンダと、シリンダに軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャと、プランジャをシリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、プランジャがシリンダに押し込まれる方向に移動するときにオイルの粘性抵抗によりダンパ力を発生する油圧ダンパ機構とを有する。
【0004】
シリンダは、エンジンカバーのテンショナ取り付け孔に挿入されるシリンダ本体部と、シリンダ本体部に一体に形成され、エンジンカバーの外面に面接触して固定されるシリンダフランジ部とを有する。シリンダ本体部は、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状の部分であり、開口端をエンジンカバー内に向けた姿勢でテンショナ取り付け孔に挿入される。
【0005】
エンジンカバーには、エンジンのオイルポンプから送り出されるオイルを、チェーンテンショナに供給するための油孔が形成されている。チェーンテンショナのシリンダには、エンジンカバーの油孔からシリンダの内部にオイルを導入する給油通路が設けられている。給油通路は、シリンダの表面からシリンダの内部に連通するように形成されたオイル導入孔である。
【0006】
この特許文献1のチェーンテンショナは、エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャがシリンダ内に押し込まれる方向(以下、「押し込み方向」という)に移動し、チェーンの緊張を吸収する。このとき、シリンダの内部のオイルの粘性抵抗によりダンパ力が発生するので、プランジャはゆっくりと移動する。
【0007】
一方、エンジン作動中にチェーンの張力が小さくなると、リターンスプリングの付勢力とシリンダ内のオイルの圧力とによって、プランジャがシリンダから突出する方向(以下、「突出方向」という)に移動し、チェーンの弛みを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一般に、エンジンが停止すると、エンジンのオイルポンプも停止するので、エンジンカバーの油孔内のオイルの油面が下がり、油孔にエアが溜まった状態となる。そのため、エンジンを再始動したときに、エンジンカバーの油孔に溜まったエアが、オイル導入孔を通ってシリンダの内部に移動し、シリンダ内のオイルに混入する。そして、シリンダ内のオイルにエアが混入すると、プランジャに押し込み方向の荷重が負荷されたときに、シリンダ内のエアが圧縮することでプランジャが移動するので、ダンパ力が不安定となる問題が生じる。
【0010】
そこで、エンジンを再始動したときに、エンジンカバーの油孔に溜まったエアがシリンダの内部に流入しにくくするため、特許文献1のチェーンテンショナでは、オイル導入孔の途中から分岐するエア抜き通路を設けている。
【0011】
特許文献1のチェーンテンショナにおいて、オイル導入孔は、エンジンカバーの油孔から直接オイルを受け入れるように、シリンダフランジ部のエンジンカバーとの合わせ面に開口するオイル入口を有する。そして、そのオイル入口とシリンダの内部とを連通するオイル導入孔の途中から上方に分岐するようにエア抜き孔が設けられ、そのエア抜き孔を通って、オイル導入孔内に溜まったエアを上方に排出することが可能となっている。
【0012】
しかしながら、本願の発明者らが、社内において、特許文献1のチェーンテンショナを試作評価したところ、エンジン始動時に、エンジンカバーの油孔に溜まったエアが、シリンダのオイル導入孔を通ってシリンダの内部に移動するときに、そのエアを、オイル導入孔の途中から上方に分岐するエア抜き孔を通って排出することはできるものの、依然として、シリンダ内のオイルに相当量のエアが混入してしまうことが分かった。
【0013】
そこで、本願の発明者らが、シリンダ内のオイルにエアが混入する原因を調査検討した。その結果、エンジン始動時に、エンジンカバーの油孔からオイル導入孔にエアのみが流入するときは、オイル導入孔の途中から上方に分岐するエア抜き孔を通って、円滑にエアを排出することができるが、エンジンカバーの油孔からオイル導入孔に流入するオイルに、気泡の状態でエアが分散して含まれるときは、その気泡の状態のエアが、オイル導入孔からエア抜き孔に流れ込まずに、オイルと一緒にオイル導入孔を流れてシリンダの内部まで到達することが分かった。
【0014】
この発明が解決しようとする課題は、エンジン始動時にシリンダの内部にエアが混入するのを効果的に抑制することが可能なチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明では、以下の構成のチェーンテンショナを提供する。
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とし、前記開口端をエンジンカバー内に向けた姿勢で前記エンジンカバーに形成されたテンショナ取り付け孔に挿入されるシリンダ本体部と、前記シリンダ本体部に一体に形成され、前記エンジンカバーの外面に面接触して固定されるシリンダフランジ部とを有するシリンダと、
前記シリンダ本体部に軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャと、
前記プランジャを前記シリンダ本体部から突出する方向に付勢するリターンスプリングと、
前記エンジンカバーに開口する油孔から前記シリンダ本体部の内部にオイルを導入するように前記シリンダに設けられた給油通路と、
前記プランジャが前記シリンダ本体部に押し込まれる方向に移動するときにオイルの粘性抵抗によりダンパ力を発生する油圧ダンパ機構と、を有するチェーンテンショナにおいて、
前記給油通路は、前記油孔からオイルを受け入れるように前記シリンダの表面に前記油孔と対向して形成されたオイル溝と、前記オイル溝内のオイルを前記シリンダ本体部の内部に導入するように前記オイル溝から前記シリンダ本体部の内部に連通して形成されたオイル導入孔とを有し、
前記オイル導入孔は、前記油孔よりも下側の位置にオイル入口をもつように設けられ、
前記オイル溝は、前記油孔から受け入れたオイルを、エア抜き用の上向き流路と、前記オイル入口に接続する下向き流路とに分岐して流す分岐部を有することを特徴とするチェーンテンショナ。
【0016】
このようにすると、シリンダの表面に、エンジンカバーの油孔からオイルを受け入れるオイル溝が形成され、そのオイル溝が、エア抜き用の上向き流路と下向き流路とに分岐する分岐部を有し、その分岐部から下向きに分岐する下向き流路に、油孔よりも下側に位置するオイル導入孔のオイル入口が接続されているので、油孔からオイル溝に受け入れたオイルに気泡の状態でエアが含まれる場合にも、その気泡に作用する浮力によって、下向き流路に接続されたオイル導入孔のオイル入口までエアが到達しにくく、エア抜き用の上向き流路を通ってエアを効果的に排出することができる。そのため、エンジン始動時にシリンダの内部にエアが混入するのを効果的に抑制することが可能である。
【0017】
前記下向き流路は、前記油孔の断面積よりも大きい流路面積を有するように形成すると好ましい。
【0018】
このようにすると、下向き流路の流路面積が比較的大きいものとなるので、オイルの粘性に対して気泡の浮力の影響が大きくなる。そのため、オイルに含まれる気泡が、下向き流路を通ってオイル導入孔のオイル入口まで到達するのを効果的に防止することが可能となる。
【0019】
前記オイル溝は、前記油孔からオイルを受け入れて前記分岐部に流す分岐前流路を有し、
前記分岐前流路は、前記油孔の断面積よりも大きい流路面積を有する構成を採用すると好ましい。
【0020】
このようにすると、比較的大きい流路面積をもつ分岐前流路が、分岐部の上流側に設けられているので、オイルに含まれる気泡とオイルとが、分岐部に到達する前に上下に分離しやすくなる。そのため、オイルに含まれる気泡を、分岐部において、エア抜き用の上向き流路に効率的に導入することができる。
【0021】
前記分岐前流路は、水平方向または水平に対して上向きの流路のみで形成すると好ましい。
【0022】
このようにすると、浮力による気泡の移動方向と、分岐前流路のオイルの流れの方向とが逆向きになることがないので、オイルが分岐前流路を流れるときに、そのオイルに含まれる気泡とオイルとが、分岐前流路内において円滑に上下に分離する。そのため、オイルに含まれる気泡を、分岐部において、エア抜き用の上向き流路に効率的に導入することができる。
【0023】
前記分岐前流路は、前記油孔の位置から前記分岐部に向けて次第に流路面積が拡大するテーパ状に形成すると好ましい。
【0024】
このようにすると、オイルが油孔の位置から分岐部に向けて流れるときに、オイルの流路面積が次第に拡大することで、オイルの流速が次第に遅くなるので、オイルに含まれる気泡が、分岐前流路内において合体しやすい。そのため、オイルに含まれる気泡を、分岐部において、エア抜き用の上向き流路に効率的に導入することができる。
【0025】
前記分岐部は、前記油孔から直接オイルを受け入れるように前記油孔と対向して配置され、
前記分岐部には、水平方向に沿った断面積が、前記下向き流路の流路面積よりも大きいバッファ室が形成されている構成を採用すると好ましい。
【0026】
このようにすると、分岐部に形成されたバッファ室において、オイルの粘性に対して気泡の浮力の影響が大きくなる。そのため、オイルに含まれる気泡とオイルとが、分岐部において上下に分離しやすく、オイルに含まれる気泡を、分岐部において、エア抜き用の上向き流路に効率的に導入することができる。
【0027】
前記シリンダの前記表面は、前記シリンダ本体部の外周の前記テンショナ取り付け孔の内周との嵌合面とすることができる。すなわち、前記オイル溝は、前記シリンダ本体部の外周の前記テンショナ取り付け孔の内周との嵌合面に形成することができる。
【0028】
前記シリンダの前記表面は、前記シリンダフランジ部の前記エンジンカバーの外面との合わせ面とすることができる。すなわち、前記オイル溝は、前記シリンダフランジ部の前記エンジンカバーの外面との合わせ面に形成することができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明のチェーンテンショナは、エンジンカバーの油孔からオイルを受け入れるオイル溝がシリンダの表面に形成され、そのオイル溝が、油孔から受け入れたオイルを、エア抜き用の上向き流路と、油孔よりも下側に位置するオイル導入孔のオイル入口に接続する下向き流路とに分岐して流す分岐部を有するので、油孔からオイル溝に受け入れたオイルに気泡の状態でエアが含まれる場合にも、そのエアが、オイル溝の分岐部でオイルから分離しやすく、下向き流路に接続されたオイル導入孔のオイル入口まで到達しにくい。そのため、エンジン始動時にシリンダの内部にエアが混入するのを効果的に抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明の第1実施形態のチェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す図
【
図8】
図2に示す分岐前流路のさらに他の変形例を示す図
【
図9】この発明の第2実施形態のチェーンテンショナを示す断面図
【
図10】この発明の第3実施形態のチェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す図
【
図15】この発明の第4実施形態のチェーンテンショナを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に、この発明の第1実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、カムシャフト4に固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達し、そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)の開閉を行なう。
【0032】
エンジンが作動しているときのクランクシャフト2の回転方向は一定(図では右回転)であり、このときチェーン6は、クランクシャフト2の回転に伴ってスプロケット3に引き込まれる側(図の右側)の部分が張り側となり、スプロケット3から送り出される側(図の左側)の部分が弛み側となる。そして、チェーン6の弛み側の部分には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触している。チェーンテンショナ1は、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0033】
図2に示すように、チェーンテンショナ1は、エンジンカバー9に固定されるシリンダ10を有する。シリンダ10は、エンジンカバー9のテンショナ取り付け孔11に挿入されるシリンダ本体部10Aと、エンジンカバー9の外面12に面接触して固定されるシリンダフランジ部10Bとを有する。シリンダ本体部10Aとシリンダフランジ部10Bは、アルミ合金で継ぎ目のない一体に形成されている。
【0034】
エンジンカバー9は、チェーン6(
図1参照)が収容されるチェーン収容室13を形成する壁体である。テンショナ取り付け孔11は、エンジンカバー9の外面12(チェーン収容室13の側とは反対側の面)から内面(チェーン収容室13の側の面)に貫通して形成されている。
【0035】
シリンダフランジ部10Bは、ボルト14でエンジンカバー9に固定されている。シリンダフランジ部10Bには、エンジンカバー9の外面12に面接触する合わせ面15が形成されている。合わせ面15とエンジンカバー9の外面12との間は、ボルト14の締め付けによってシールされている。シリンダ本体部10Aの外周には、テンショナ取り付け孔11の内周に嵌合する円筒状の嵌合面16が形成されている。
【0036】
図3に示すように、チェーンテンショナ1は、シリンダ本体部10Aに軸方向に摺動可能に挿入されたプランジャ17と、プランジャ17をシリンダ本体部10Aから突出する方向に付勢するリターンスプリング18と、プランジャ17がシリンダ本体部10Aに押し込まれる方向に移動するときにオイルの粘性抵抗によりダンパ力を発生する油圧ダンパ機構19とを有する。
【0037】
シリンダ本体部10Aは、軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状に形成されている。シリンダ本体部10Aは、開口端をエンジンカバー9内に向けた姿勢でテンショナ取り付け孔11に挿入されている。シリンダフランジ部10Bは、シリンダ本体部10Aの閉塞端の側の端部外周に形成されている。
【0038】
プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出端はチェーンガイド8を押圧している。シリンダ10は、プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出方向が、水平よりも下側に傾斜した方向となる姿勢で取り付けられている。プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出方向が、水平方向となる姿勢で取り付けてもよい。
【0039】
プランジャ17は、プランジャ17のシリンダ本体部10A内への挿入端が開口し、プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出端が閉塞した筒状に形成されている。プランジャ17の材質は、鉄系材料(例えばSCM(クロムモリブデン鋼)やSCr(クロム鋼)等の鋼材)である。
【0040】
プランジャ17には、軸方向の一端がプランジャ17内に挿入され、軸方向の他端がプランジャ17から突出した状態となるようにインナースリーブ20が挿入されている。インナースリーブ20のプランジャ17からの突出端は、シリンダ本体部10Aの閉塞端で支持されている。インナースリーブ20のプランジャ17内への挿入端には、チェックバルブ21が設けられている。
【0041】
チェックバルブ21は、インナースリーブ20とプランジャ17の内部領域を、インナースリーブ20の側のリザーバ室22とプランジャ17の側の圧力室23とに区画している。ここで、リザーバ室22の容積は、プランジャ17が軸方向移動しても変化せず、一定である。一方、圧力室23の容積は、プランジャ17がシリンダ本体部10Aから突出する方向に軸方向移動するときは拡大し、プランジャ17がシリンダ本体部10Aに押し込まれる方向に軸方向移動するときは縮小する。チェックバルブ21は、圧力室23の側からリザーバ室22の側へのオイルの流れを制限し、リザーバ室22の側から圧力室23の側へのオイルの流れのみを許容する。
【0042】
圧力室23には、リターンスプリング18が組み込まれている。リターンスプリング18は、金属製の線材を螺旋状に巻回した圧縮コイルばねである。リターンスプリング18は、一端がチェックバルブ21で支持され、他端がプランジャ17を軸方向に押圧し、その押圧によって、プランジャ17をシリンダ本体部10Aから突出する方向に付勢している。
【0043】
インナースリーブ20の外周と、プランジャ17の内周との間には、圧力室23の容積が縮小するときに圧力室23からオイルをリークさせるリーク隙間24が形成されている。リーク隙間24は、半径方向の幅が0.010~0.050mmの範囲に設定された円筒状の微小隙間である。
【0044】
シリンダ本体部10Aの内周とプランジャ17の外周との間には、円筒状のガイド隙間25が形成されている。ガイド隙間25の半径方向の幅は、リーク隙間24の半径方向の幅よりも大きく設定され、例えば、0.015~0.065mmの範囲に設定することができる。
【0045】
ここで、リザーバ室22と圧力室23とチェックバルブ21とリーク隙間24は、油圧ダンパ機構19を構成している。すなわち、プランジャ17がシリンダ本体部10Aから突出する方向に移動するときは、チェックバルブ21が開くことによって、リザーバ室22から圧力室23に作動油が導入され、プランジャ17がシリンダ本体部10Aに押し込まれる方向に移動するときは、チェックバルブ21が閉じ、圧力室23からリーク隙間24を通ってオイルが流出し、そのオイルの粘性抵抗によってダンパ力を発生するようになっている。
【0046】
インナースリーブ20のプランジャ17からの突出部分には、筒状空間26とリザーバ室22の間を連通する通油路27が設けられている。筒状空間26は、プランジャ17のシリンダ本体部10Aへの挿入端よりもシリンダ本体部10Aの閉塞端に近い側において、シリンダ本体部10Aの内周とインナースリーブ20の外周とで半径方向に挟まれる円筒状の領域である。通油路27は、インナースリーブ20を径方向に貫通して形成された貫通孔である。
【0047】
図2、
図5に示すように、エンジンカバー9には、エンジンのオイルポンプ(図示せず)から送り出されるオイルを、チェーンテンショナ1に供給するための油孔30が形成されている。油孔30は、円形の断面形状をもつ丸穴である。油孔30は、エンジンカバー9のテンショナ取り付け孔11の内周に開口している。
【0048】
シリンダ10には、油孔30から供給されるオイルをシリンダ本体部10Aの内部に導入する給油通路31が設けられている。給油通路31は、シリンダ10の表面(ここでは、シリンダ本体部10Aの外周の円筒状の嵌合面16)に形成されたオイル溝32と、オイル溝32内のオイルをシリンダ本体部10Aの内部に導入するようにオイル溝32からシリンダ本体部10Aの内部に連通して形成されたオイル導入孔33(
図4参照)とを有する。
【0049】
図2に示すように、オイル溝32は、分岐前流路34と分岐部35と上向き流路36と下向き流路37とを有する。分岐前流路34は、油孔30からオイルを受け入れてそのオイルを分岐部35まで流す流路である。分岐前流路34の上流側端部は、油孔30から直接オイルを受け入れるようにテンショナ取り付け孔11の内周の油孔30の開口と径方向に対向して配置され、分岐前流路34の下流側端部は、油孔30から流れてきたオイルを分岐部35に流入させるように分岐部35に接続している。
【0050】
分岐前流路34は、水平に対して上向きの流路のみで形成されている。図では、分岐前流路34として、水平に対して右上向きに延びた後、水平に対して左上向きに延びる流路を示している。分岐前流路34が、さらに水平方向の流路を含むようにしてもよい。分岐前流路34は、方形の断面形状をもつ方形溝である。分岐前流路34は、油孔30の断面積よりも大きい流路面積(オイルの流れる方向に直交する断面に沿った流路の断面積)を有する。
【0051】
分岐部35は、油孔30から分岐前流路34に受け入れたオイルを、上向き流路36と下向き流路37とに分岐して流すように、分岐前流路34と上向き流路36と下向き流路37とが接続する部分である。上向き流路36は、分岐部35から上向きにエアを排出するエア抜き用の流路であり、オリフィス通路38とエア抜き通路39とを介してエンジンカバー9の内側のチェーン収容室13に連通している。
【0052】
上向き流路36は、分岐部35からシリンダ本体部10Aの外周を上向きに延びて形成されている。上向き流路36は、方形の断面形状をもつ方形溝である。上向き流路36は、油孔30の断面積よりも大きい流路面積を有するように形成されている。オリフィス通路38は、シリンダ本体部10Aの外周に形成された微小な円環溝である。エア抜き通路39は、テンショナ取り付け孔11の内周とシリンダ本体部10Aの外周との間に形成された隙間である。
【0053】
図4に示すように、下向き流路37は、分岐部35からシリンダ本体部10Aの外周を下向きに延びて形成されている。下向き流路37は、方形の断面形状をもつ方形溝である。下向き流路37は、油孔30の断面積よりも大きい流路面積を有するように形成されている。下向き流路37は、オイル導入孔33のオイル入口33aに接続している。オイル導入孔33は、シリンダ本体部10Aの下側の周壁部分を半径方向に貫通して形成された孔である。オイル入口33aは、オイル導入孔33のシリンダ本体部10Aの外周側の開口部分である。オイル入口33aは、油孔30(
図5参照)の開口位置よりも下側に位置している。
【0054】
次に、このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。
【0055】
エンジン作動中に、
図1に示すチェーン6の張力が大きくなると、そのチェーン6の張力によって、プランジャ17がシリンダ本体部10A内に押し込まれる方向に移動し、チェーン6の緊張を吸収する。このとき、
図3に示す圧力室23の圧力がリザーバ室22の圧力よりも高くなるので、チェックバルブ21は閉じた状態となる。また、プランジャ17の移動に応じて圧力室23の容積が縮小するので、その縮小した容積の分、圧力室23からリーク隙間24を通ってオイルがリークし、このときリーク隙間24を流れるオイルの粘性抵抗でダンパ力が発生し、そのダンパ力によってチェーン6のばたつきが防止される。そして、圧力室23からリーク隙間24を通って筒状空間26にリークしたオイルの大部分は、通油路27を通ってリザーバ室22に戻る。また、圧力室23からリーク隙間24を通って筒状空間26にリークしたオイルの一部は、ガイド隙間25を潤滑する。
【0056】
一方、エンジン作動中に、
図1に示すチェーン6の張力が小さくなると、
図3に示すリターンスプリング18の付勢力と圧力室23の油圧とによって、プランジャ17が突出方向に移動し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、プランジャ17の移動に応じて圧力室23の容積が拡大するので、圧力室23の圧力がリザーバ室22の圧力よりも低くなり、チェックバルブ21が開く。そして、リザーバ室22からチェックバルブ21を通って圧力室23にオイルが流入し、プランジャ17が速やかに移動する。このとき、
図2、
図4の鎖線の矢印に示すように、油孔30から供給されるオイルが、オイル溝32の分岐前流路34、分岐部35、下向き流路37、オイル導入孔33を順に通ってシリンダ本体部10Aの内部に導入される。
【0057】
エンジンが停止すると、エンジンのオイルポンプも停止するので、エンジンカバー9の油孔30内のオイルの油面が下がり、油孔30にエアが溜まった状態となる。その後、エンジンを再始動すると、まず、エンジンカバー9の油孔30からオイル溝32にエアのみが流入する。このとき、そのエアは、オイル溝32の分岐前流路34、分岐部35、上向き流路36、オリフィス通路38、エア抜き通路39を順に通ってチェーン収容室13に排出される。続いて、エンジンカバー9の油孔30からオイル溝32にオイルが流入し始める。このとき、オイルに気泡の状態でエアが分散して含まれることがあるが、オイルに含まれる気泡とオイルは、気泡に作用する浮力によって分岐前流路34内で上下に分離して流れ、分岐部35において、気泡は上向き流路36に流入し、オイルは下向き流路37に流入する。上向き流路36に流入した気泡は、オリフィス通路38とエア抜き通路39とを順に介してチェーン収容室13に排出される。下向き流路37に流入したオイルは、オイル導入孔33を通ってシリンダ本体部10Aの内部に流入する。
【0058】
このチェーンテンショナ1は、
図2に示すように、シリンダ10の表面に、エンジンカバー9の油孔30からオイルを受け入れるオイル溝32が形成され、そのオイル溝32が、エア抜き用の上向き流路36と下向き流路37とに分岐する分岐部35を有し、その分岐部35から下向きに分岐する下向き流路37に、油孔30よりも下側に位置するオイル導入孔33のオイル入口33a(
図4参照)が接続されているので、油孔30からオイル溝32に受け入れたオイルに気泡の状態でエアが含まれる場合にも、その気泡に作用する浮力によって、下向き流路37に接続されたオイル導入孔33のオイル入口33aまでエアが到達しにくく、エア抜き用の上向き流路36を通ってエアを効果的に排出することができる。そのため、エンジン始動時にシリンダ10の内部にエアが混入するのを効果的に抑制することが可能である。
【0059】
また、このチェーンテンショナ1は、
図2に示す下向き流路37が、油孔30の断面積よりも大きい流路面積を有し、下向き流路37の流路面積が比較的大きいので、下向き流路37内において、オイルの粘性に対して気泡の浮力の影響が大きくなる。そのため、オイルに含まれる気泡が、下向き流路37を通ってオイル導入孔33のオイル入口33aまで到達するのを効果的に防止することが可能である。
【0060】
また、このチェーンテンショナ1は、油孔30の断面積よりも大きい流路面積をもつ分岐前流路34が、分岐部35の上流側に設けられているので、オイルに含まれる気泡とオイルとが、分岐部35に到達する前に上下に分離しやすい。そのため、オイルに含まれる気泡を、分岐部35において、エア抜き用の上向き流路36に効率的に導入することが可能となっている。
【0061】
また、このチェーンテンショナ1は、
図2に示すように、分岐前流路34が、水平方向または水平に対して上向きの流路のみで形成されているので、浮力による気泡の移動方向と、分岐前流路34のオイルの流れの方向とが逆向きになることがない。そのため、オイルが分岐前流路34を流れるときに、そのオイルに含まれる気泡とオイルとが、分岐前流路34内において円滑に上下に分離する。その結果、オイルに含まれる気泡を、分岐部35において、エア抜き用の上向き流路36に効率的に導入することが可能となっている。
【0062】
図6に示すように、分岐前流路34は、シリンダ本体部10Aの軸線方向に対し、分岐部35に向かって上向きに傾斜して延びる部分を有するように形成することができる。このようにすると、プランジャ17(
図2参照)のシリンダ本体部10Aからの突出方向が、水平方向または水平よりも下側に傾斜した方向となる姿勢でシリンダ10を取り付けたときに、確実に分岐前流路34を水平に対して上向きに傾斜させることができる。また、分岐前流路34の傾斜により分岐部35の位置が比較的上側にくるので、下向き流路37の長さが長くなる。そのため、エンジン停止時に下向き流路37に比較的多いオイルを溜めることができ、そのオイルを利用してエンジン始動時に迅速にダンパ力を発揮することが可能となる。
【0063】
また、
図6に示すように、分岐前流路34は、油孔30の位置から分岐部35に向けて次第に流路面積が拡大するテーパ状に形成することができる。このようにすると、オイルが油孔30の位置から分岐部35に向けて流れるときに、オイルの流路面積が次第に拡大することで、オイルの流速が次第に遅くなるので、オイルに含まれる気泡が、分岐前流路34内において合体しやすい。そのため、オイルに含まれる気泡を、分岐部35において、エア抜き用の上向き流路36に効率的に導入することができる。
【0064】
図7に示すように、分岐前流路34は、その全長が、シリンダ本体部10Aの軸線方向に対し、分岐部35に向かって上向きに傾斜して延びるように形成してもよい。
【0065】
上記実施形態では、分岐前流路34を、上向き流路36および下向き流路37に対してシリンダ本体部10Aの開口端の側(図では右側)に形成したものを例に挙げて説明したが、
図8に示すように、分岐前流路34を、上向き流路36および下向き流路37に対してシリンダ本体部10Aの閉塞端の側(図では左側)に形成し、その分岐前流路34を、シリンダ本体部10Aの軸線方向に対し、分岐部35に向かって上向きに傾斜して延びるように形成してもよい。このようにすると、プランジャ17(
図2参照)のシリンダ本体部10Aからの突出方向が、水平よりも上側に傾斜した方向となる姿勢でシリンダ10を取り付けたときにも、確実に分岐前流路34を水平に対して上向きに傾斜させることができる。
【0066】
図9に第2実施形態のチェーンテンショナ1を示す。第2実施形態は、第1実施形態とシリンダ本体部10Aの内部の構造のみが異なり、その他の構成(給油通路31の構成を含む)は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
シリンダ本体部10A内には、シリンダ本体部10Aとプランジャ17とで囲まれた圧力室23が形成されている。シリンダの閉塞端には、リザーバ室22が形成されている。圧力室23とリザーバ室22の間には、チェックバルブ21が設けられている。
【0068】
プランジャ17の外周とシリンダ本体部10Aの内周との間には、圧力室23の容積が縮小するときに圧力室23からオイルをリークさせるリーク隙間24が形成されている。
【0069】
プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出端には、圧力室23とチェーン収容室13の間を連通する逃がし通路40が形成されている。逃がし通路40には、圧力室23内の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに開くリリーフバルブ41が設けられている。
【0070】
オイル導入孔33は、シリンダ本体部10Aの下側の周壁部分を半径方向に貫通して形成された孔であり、オイル溝32とリザーバ室22の間を連通している。
【0071】
リザーバ室22と圧力室23とチェックバルブ21とリーク隙間24は、油圧ダンパ機構19を構成している。すなわち、プランジャ17がシリンダ本体部10Aから突出する方向に移動するときは、チェックバルブ21が開くことによって、リザーバ室22から圧力室23に作動油が導入され、プランジャ17がシリンダ本体部10Aに押し込まれる方向に移動するときは、チェックバルブ21が閉じ、圧力室23からリーク隙間24を通ってオイルが流出し、そのオイルの粘性抵抗によってダンパ力を発生するようになっている。
【0072】
プランジャ17のシリンダ本体部10A内への挿入端とシリンダ本体部10Aの閉塞端との間に、アシストスプリング42が組み込まれている。アシストスプリング42は、リターンスプリング18がプランジャ17を押圧する付勢力を補助することで、チェーンガイド8のチェーン6に対する追従性を高める機能を有する。
【0073】
この第2実施形態のチェーンテンショナ1も、第1実施形態と同様の作用効果を有する。
【0074】
図10に、この発明の第3実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。第3実施形態は、第1実施形態と比べて、エンジンカバー9の油孔30の開口位置、エンジンカバー9に対するシリンダ10の取り付け姿勢、シリンダ10に形成されるオイル溝32およびオイル導入孔33の構成のみが異なり、その他の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
シリンダ10は、プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出方向が、水平方向となる姿勢でエンジンカバー9に取り付けられている。プランジャ17のシリンダ本体部10Aからの突出方向が、水平よりも下側に傾斜した方向となる姿勢で取り付けてもよい。
【0076】
図13に示すように、エンジンカバー9には、エンジンのオイルポンプ(図示せず)から送り出されるオイルを、チェーンテンショナ1に供給するための油孔30が形成されている。油孔30は、円形の断面形状をもつ丸穴である。油孔30は、エンジンカバー9の外面12に開口している。
【0077】
シリンダ10には、油孔30から供給されるオイルをシリンダ本体部10Aの内部に導入する給油通路31が設けられている。給油通路31は、シリンダ10の表面(ここでは、シリンダフランジ部10Bのエンジンカバー9の外面12との合わせ面15)に形成されたオイル溝32と、オイル溝32内のオイルをシリンダ本体部10Aの内部に導入するようにオイル溝32からシリンダ本体部10Aの内部に連通して形成されたオイル導入孔33(
図11参照)とを有する。
【0078】
図12に示すように、オイル溝32は、分岐部35と上向き流路36と下向き流路37とを有する。分岐部35は、油孔30から直接オイルを受け入れるようにエンジンカバー9(
図13参照)の外面12の油孔30の開口と軸方向に対向して配置されている。分岐部35には、バッファ室43が形成されている。バッファ室43は、シリンダフランジ部10Bのエンジンカバー9(
図13参照)の外面12との合わせ面15から柱状に窪んで形成された凹部である。
図12に示すように、バッファ室43の上下方向の高さ寸法と水平方向の幅寸法は、いずれも油孔30の内径よりも大きい。また、
図13に示すように、バッファ室43の水平方向に沿った断面積は、下向き流路37の流路面積よりも大きい。
【0079】
図12に示すように、上向き流路36は、分岐部35からシリンダ本体部10Aの外周に沿って上向きに円弧状に延びて形成されている。上向き流路36は、方形の断面形状をもつ方形溝である。上向き流路36は、油孔30の断面積よりも大きい流路面積を有するように形成されている。
【0080】
図11に示すように、上向き流路36は、シリンダ本体部10Aの上方でエア抜き通路39に接続し、そのエア抜き通路39を介してエンジンカバー9の内側のチェーン収容室13に連通している。エア抜き通路39は、テンショナ取り付け孔11の内周とシリンダ本体部10Aの外周との間に形成された微小隙間である。このエア抜き通路39は、
図14に示すように、シリンダ本体部10Aの上部外周に沿って軸方向に延びるDカット部44(シリンダ本体部10Aの軸線と平行な平面に沿ってシリンダ本体部10Aの外周を除去した形状の部分)を設けることで形成することができる。
【0081】
図12に示すように、下向き流路37は、分岐部35からシリンダ本体部10Aの外周に沿って下向きに円弧状に延びて形成されている。下向き流路37は、方形の断面形状をもつ方形溝である。下向き流路37は、油孔30の断面積よりも大きい流路面積を有するように形成されている。下向き流路37は、オイル導入孔33のオイル入口33aに接続している。
【0082】
図11に示すように、オイル導入孔33は、シリンダフランジ部10Bの下側部分を半径方向に貫通して形成された縦孔部45と、シリンダフランジ部10Bの合わせ面15から縦孔部45に至るように軸方向に延びて形成された横孔部46とで構成されている。縦孔部45のシリンダフランジ部10Bの外周の側の端部は、栓部材47で閉塞されている。栓部材47は、図では雄ねじ部材である。オイル導入孔33のオイル入口33aは、オイル導入孔33の横孔部46の合わせ面15の側の開口部分である。
図12に示すように、オイル入口33aは、油孔30の開口位置よりも下側に位置している。
【0083】
このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。第1実施形態と同様、エンジンが停止すると、エンジンのオイルポンプも停止するので、エンジンカバー9の油孔30内のオイルの油面が下がり、油孔30にエアが溜まった状態となる。その後、エンジンを再始動すると、まず、エンジンカバー9の油孔30からオイル溝32にエアのみが流入する。このとき、そのエアは、オイル溝32の分岐部35、上向き流路36、エア抜き通路39を順に通ってチェーン収容室13に排出される。続いて、エンジンカバー9の油孔30からオイル溝32にオイルが流入し始める。このとき、オイルに気泡の状態でエアが分散して含まれることがあるが、オイルに含まれる気泡とオイルは、分岐部35において気泡に作用する浮力によって上下に分離し、気泡は上向き流路36に流入し、オイルは下向き流路37に流入する。上向き流路36に流入した気泡は、エア抜き通路39を介してチェーン収容室13に排出される。下向き流路37に流入したオイルは、オイル導入孔33を通ってシリンダ本体部10Aの内部に流入する。
【0084】
このチェーンテンショナ1は、
図12に示すように、シリンダ10の表面に、油孔30からオイルを受け入れるオイル溝32が形成され、そのオイル溝32が、エア抜き用の上向き流路36と下向き流路37とに分岐する分岐部35を有し、その分岐部35から下向きに分岐する下向き流路37に、油孔30よりも下側に位置するオイル導入孔33のオイル入口33aが接続されているので、油孔30からオイル溝32に受け入れたオイルに気泡の状態でエアが含まれる場合にも、その気泡に作用する浮力によって、下向き流路37に接続されたオイル導入孔33のオイル入口33aまでエアが到達しにくく、エア抜き用の上向き流路36を通ってエアを効果的に排出することができる。そのため、エンジン始動時にシリンダ10の内部にエアが混入するのを効果的に抑制することが可能である。
【0085】
また、このチェーンテンショナ1は、
図12に示す下向き流路37が、油孔30の断面積よりも大きい流路面積を有し、下向き流路37の流路面積が比較的大きいので、下向き流路37内において、オイルの粘性に対して気泡の浮力の影響が大きくなる。そのため、オイルに含まれる気泡が、下向き流路37を通ってオイル導入孔33のオイル入口33aまで到達するのを効果的に防止することが可能である。
【0086】
また、このチェーンテンショナ1は、
図13に示すように、分岐部35に形成されたバッファ室43が、下向き流路37の流路面積よりも大きい断面積をもつので、バッファ室43内において、オイルの粘性に対して気泡の浮力の影響が大きくなる。そのため、オイルに含まれる気泡とオイルとが、分岐部35において上下に分離しやすく、オイルに含まれる気泡を、分岐部35において、エア抜き用の上向き流路36に効率的に導入することができる。
【0087】
図15に、第4実施形態のチェーンテンショナ1を示す。第4実施形態は、第3実施形態とシリンダ本体部10Aの内部の構造のみが異なり、その他の構成は同一である。また、シリンダ本体部10Aの内部の構造は、第2実施形態と同一である。そのため、第2実施形態および第3実施形態に対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0088】
上記各実施形態では、チェーンテンショナ1を、クランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達するチェーン伝動装置に組み込んだ例を挙げて説明したが、チェーンテンショナ1は、クランクシャフトの回転をオイルポンプやウォーターポンプやスーパーチャージャー等の補機に伝達するチェーン伝動装置や、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するチェーン伝動装置や、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するチェーン伝動装置に組み込むことも可能である。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 チェーンテンショナ
9 エンジンカバー
10 シリンダ
10A シリンダ本体部
10B シリンダフランジ部
11 テンショナ取り付け孔
12 外面
15 合わせ面
16 嵌合面
17 プランジャ
18 リターンスプリング
19 油圧ダンパ機構
30 油孔
31 給油通路
32 オイル溝
33 オイル導入孔
33a オイル入口
34 分岐前流路
35 分岐部
36 上向き流路
37 下向き流路
43 バッファ室