(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022138999
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】回転伝達装置、および車両用ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16D 27/112 20060101AFI20220915BHJP
F16D 27/102 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/10 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/064 20060101ALI20220915BHJP
F16D 41/067 20060101ALI20220915BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20220915BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16D27/112 J
F16D27/102
F16D27/112 M
F16D41/10
F16D41/064
F16D41/067
F16F7/00 F
F16F7/00 G
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039195
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
【テーマコード(参考)】
3D333
3J066
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB32
3D333CB45
3D333CC23
3D333CD05
3D333CD16
3D333CD17
3D333CD19
3D333CD22
3D333CD37
3D333CD38
3D333CE16
3J066AA22
3J066BA01
3J066BB01
3J066BC03
3J066BD01
3J066BD05
3J066BD07
(57)【要約】
【課題】静音性に優れた回転伝達装置を提供する。
【解決手段】アーマチュア30がロータ31に向かって軸方向に移動する動作を、ローラ保持器8が係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構33を有し、運動変換機構33は、くさび部材41と、くさび部材41が摺接する傾斜摺接面42a,42bとで構成されている回転伝達装置において、アーマチュア30の衝突音を低減する衝撃吸収部材40を設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した筒状のハウジング(2)と、
一端が前記ハウジング(2)内に収容された入力軸(3)と、
一端が前記ハウジング(2)内に収容された出力軸(4)と、
前記入力軸(3)と一体に回転するように前記入力軸(3)のハウジング(2)内への収容部分に設けられた内輪(5)と、
前記出力軸(4)と一体に回転するように前記出力軸(4)のハウジング(2)内への収容部分に設けられた外輪(6)と、
前記外輪(6)の内周と内輪(5)の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子(7a,7b)と、
前記一対の係合子(7a,7b)を前記外輪(6)の内周と前記内輪(5)の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子(7a,7b)の前記外輪(6)の内周と前記内輪(5)の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪(5)に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器(8)と、
前記内輪(5)に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(30)と、
前記アーマチュア(30)と軸方向に対向して配置されたロータ(31)と、
通電により前記アーマチュア(30)を前記ロータ(31)に吸着させる電磁石(32)と、
前記電磁石(32)の通電解除により前記アーマチュア(30)が前記ロータ(31)から軸方向に離反したときに前記アーマチュア(30)を軸方向に受け止める保持プレート(23)と、
前記アーマチュア(30)が前記ロータ(31)に向かって軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器(8)が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構(33)とを有し、
前記運動変換機構(33)は、前記アーマチュア(30)と一体に軸方向移動するように前記アーマチュア(30)に固定されたくさび部材(41)と、前記係合子保持器(8)に形成され、前記くさび部材(41)が摺接する傾斜摺接面(42a,42b)とで構成されている回転伝達装置において、
前記アーマチュア(30)の衝突音を低減する衝撃吸収部材(40,45,47,49)を設けたことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記ハウジング(2)は、筒状のハウジング本体(2A)と、前記ハウジング本体(2A)に取り付けられる蓋体(2B)とからなり、
前記蓋体(2B)は、前記電磁石(32)の外周に嵌合する円筒部(11)を有し、
前記アーマチュア(30)は、前記ロータ(31)の外径よりも大きい外径を有し、
前記円筒部(11)は、前記アーマチュア(30)の前記ロータ(31)の外周よりも径方向外側に位置する部分と軸方向に対向して配置され、
前記衝撃吸収部材(40)は、前記円筒部(11)の前記アーマチュア(30)との対向位置に取り付けられている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材(45)は、前記アーマチュア(30)の前記ロータ(31)との対向面、または前記ロータ(31)の前記アーマチュア(30)との対向面に取り付けられている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材(47)は、前記アーマチュア(30)の前記保持プレート(23)との対向面、または前記保持プレート(23)の前記アーマチュア(30)との対向面に取り付けられている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記ハウジング(2)は、筒状のハウジング本体(2A)と、前記ハウジング本体(2A)に取り付けられる蓋体(2B)とからなり、
前記蓋体(2B)は、前記電磁石(32)の外周に嵌合する円筒部(11)を有し、
前記アーマチュア(30)は、前記ロータ(31)の外径よりも大きい外径を有し、
前記円筒部(11)は、前記アーマチュア(30)の前記ロータ(31)の外周よりも径方向外側に位置する部分と軸方向に対向して配置され、
前記衝撃吸収部材(40)は、前記円筒部(11)の前記アーマチュア(30)との対向位置に取り付けられ、
さらに、前記衝撃吸収部材(47)は、前記アーマチュア(30)の前記保持プレート(23)との対向面、または前記保持プレート(23)の前記アーマチュア(30)との対向面にも取り付けられている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材(45)は、前記アーマチュア(30)の前記ロータ(31)との対向面、または前記ロータ(31)の前記アーマチュア(30)との対向面に取り付けられ、
さらに、前記衝撃吸収部材(47)は、前記アーマチュア(30)の前記保持プレート(23)との対向面、または前記保持プレート(23)の前記アーマチュア(30)との対向面にも取り付けられている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材(40,45,47)は、ゴム成形体、金属製ばね、樹脂成形体のいずれかである請求項1から6のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項8】
前記衝撃吸収部材(49)は、ゴム環(50)と、そのゴム環(50)をカバーする金属環(51)とからなる請求項1から6のいずれかの記載の回転伝達装置。
【請求項9】
両端が開口した筒状のハウジング(2)と、
一端が前記ハウジング(2)内に収容された入力軸(3)と、
一端が前記ハウジング(2)内に収容された出力軸(4)と、
前記入力軸(3)と一体に回転するように前記入力軸(3)のハウジング(2)内への収容部分に設けられ、磁性材料で形成された内輪(5)と、
前記出力軸(4)と一体に回転するように前記出力軸(4)のハウジング(2)内への収容部分に設けられた外輪(6)と、
前記外輪(6)の内周と内輪(5)の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子(7a,7b)と、
前記一対の係合子(7a,7b)を前記外輪(6)の内周と前記内輪(5)の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子(7a,7b)の前記外輪(6)の内周と前記内輪(5)の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪(5)に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器(8)と、
前記内輪(5)に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(30)と、
前記アーマチュア(30)と軸方向に対向して配置されたロータ(31)と、
通電により前記アーマチュア(30)を前記ロータ(31)に吸着させる電磁石(32)と、
前記アーマチュア(30)が前記ロータ(31)に向かって軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器(8)が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構(33)とを有し、
前記運動変換機構(33)は、前記アーマチュア(30)と一体に軸方向移動するように前記アーマチュア(30)に固定されたくさび部材(41)と、前記係合子保持器(8)に形成され、前記くさび部材(41)が摺接する傾斜摺接面(42a,42b)とで構成され、
前記入力軸(3)と前記内輪(5)と前記アーマチュア(30)と前記ロータ(31)とがそれぞれ磁性材料で形成された回転伝達装置において、
前記ロータ(31)の内周と前記入力軸(3)の外周との間に、非磁性材料からなる非磁性体スリーブ(60)を介在させたことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項10】
前記入力軸(3)の外周に、前記非磁性体スリーブ(60)の軸方向の移動を規制する止め輪(63)を装着した請求項9に記載の回転伝達装置。
【請求項11】
前記内輪(5)の外周に、前記アーマチュア(30)の内周を回転可能かつ軸方向に移動可能に支持するリング(34)が嵌合して設けられ、
前記非磁性体スリーブ(60)は、前記ロータ(31)の内周に沿って軸方向に延びるストレート筒部(61)と、前記ストレート筒部(61)の一端から、前記ロータ(31)の前記アーマチュア(30)との対向面に沿って径方向外方に張り出すフランジ部(62)とを有し、
前記非磁性体スリーブ(60)の前記フランジ部(62)で前記リング(34)の軸方向移動を規制した請求項9または10に記載の回転伝達装置。
【請求項12】
前記非磁性体スリーブ(60)は、前記ロータ(31)の内周に沿って軸方向に延びるストレート筒部(61)と、前記ストレート筒部(61)の一端から、前記ロータ(31)の前記アーマチュア(30)との対向面に沿って径方向外方に張り出すフランジ部(62)とを有し、
前記非磁性体スリーブ(60)の前記フランジ部(62)を前記止め輪(63)に向かって軸方向に押圧する弾性部材(64)を設け、その弾性部材(64)の押圧力で前記非磁性体スリーブ(60)の軸方向の遊びを吸収した請求項10に記載の回転伝達装置。
【請求項13】
前記止め輪(63)は、前記非磁性体スリーブ(60)と軸方向に対向するように配置され、
前記止め輪(63)と前記非磁性体スリーブ(60)の軸方向の対向面間に弾性部材(66)を組み込み、その弾性部材(66)の押圧力で前記非磁性体スリーブ(60)の軸方向の遊びを吸収した請求項10に記載の回転伝達装置。
【請求項14】
前記弾性部材(64,66)は、コイルばね、皿ばね、波ばねのいずれかである請求項12または13に記載の回転伝達装置。
【請求項15】
車両の左右方向に移動可能に支持され、その移動に応じて左右一対の車輪(74)の向きが変化するように前記一対の車輪(74)に左右両端が連結されるステアリングラック(70)と、
前記ステアリングラック(70)に噛み合うステアリングピニオン(71)と、
運転者が回転操作するステアリングホイール(72)と、
前記ステアリングホイール(72)と前記ステアリングピニオン(71)との間で回転を伝達する回転伝達経路(73)と、
前記回転伝達経路(73)に設けられた請求項1から14のいずれかに記載の回転伝達装置(1)と、を有する車両用ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転の伝達と遮断の切り換えに用いられる回転伝達装置、およびその回転伝達装置を用いた車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸と出力軸の間で回転が伝達する締結状態と、入力軸と出力軸の間での回転の伝達が遮断される空転状態とを切り換える回転伝達装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の回転伝達装置は、両端が開口した筒状のハウジングと、一端がハウジング内に収容された入力軸と、一端がハウジング内に収容された出力軸と、入力軸と一体に回転するように入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、出力軸と一体に回転するように出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、一対の係合子間の距離を広げる方向に一対の係合子を付勢する係合子離反ばねと、一対の係合子を保持する係合子保持器とを有する。
【0004】
一対の係合子を保持する係合子保持器は、相対回転可能に支持された2個の分割保持器からなる。この2個の分割保持器は、一対の係合子を外輪の内周と内輪の外周との間に係合させる係合位置と、その一対の係合子の外輪の内周と内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で内輪に対して周方向に移動可能となっている。
【0005】
また、特許文献1の回転伝達装置は、係合子保持器(2個の分割保持器)を係合位置から係合解除位置に移動させる駆動機構として、内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、アーマチュアと軸方向に対向して配置されたロータと、通電によりアーマチュアをロータに吸着させる電磁石と、電磁石の通電解除によりアーマチュアがロータから軸方向に離反したときにアーマチュアを軸方向に受け止める保持プレートと、アーマチュアがロータに向かって軸方向に移動する動作を、係合子保持器が係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とからなるものを有する。運動変換機構は、アーマチュアと一体に軸方向移動するようにアーマチュアに固定されたくさび部材と、係合子保持器に形成された傾斜摺接面とで構成されている。傾斜摺接面は、くさび部材と摺接している。入力軸と内輪とアーマチュアとロータとは、それぞれ磁性材料(例えば鉄)で形成されている。
【0006】
特許文献1の回転伝達装置は、電磁石への通電を停止しているときは、一対の係合子間の距離が広がる方向に各係合子を付勢する係合子離反ばねの付勢力によって、一対の係合子が外輪の内周と内輪の外周との間に係合し、入力軸と出力軸の間で回転が伝達する締結状態となる。
【0007】
一方、電磁石に通電したときは、電磁石の吸引力によってアーマチュアが軸方向に移動し、そのアーマチュアと一体に軸方向移動するくさび部材が、係合子保持器(2個の分割保持器)に形成された傾斜摺接面を押圧し、係合子保持器が係合位置から係合解除位置に周方向移動する。その結果、一対の係合子間の距離が狭まる方向に各係合子が移動し、外輪の内周と内輪の外周との間への各係合子の係合が解除され、入力軸と出力軸の間での回転の伝達が遮断される空転状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1の回転伝達装置において、電磁石の通電により、アーマチュアがロータに吸着されるとき、アーマチュアとロータの間に衝突音が生じる。また、電磁石の通電解除により、アーマチュアがロータから離反して保持プレートに受け止められるときも、アーマチュアと保持プレートの間に衝突音が生じる。この衝突音は、近年、高い静音性が求められる自動車の分野(例えば、ステアバイワイヤ方式の車両用ステアリング装置に使用されるバックアップクラッチの分野等)においては特に問題となる。
【0010】
また、特許文献1の回転伝達装置においては、ロータの内周が、入力軸の外周に直接固定されている。また、入力軸は、磁性材料(例えば鉄)で形成されている。そのため、電磁石に通電して磁束を発生したときに、その磁束がロータから入力軸に漏洩してしまい、その分、アーマチュアを通る磁路の磁束密度が小さくなる。そのため、アーマチュアをロータに吸着するのに必要な電磁石の通電量が大きいという問題があった。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、静音性に優れた回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の回転伝達装置を提供する。
両端が開口した筒状のハウジングと、
一端が前記ハウジング内に収容された入力軸と、
一端が前記ハウジング内に収容された出力軸と、
前記入力軸と一体に回転するように前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられた内輪と、
前記出力軸と一体に回転するように前記出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、
前記外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子を前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子の前記外輪の内周と前記内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
前記アーマチュアと軸方向に対向して配置されたロータと、
通電により前記アーマチュアを前記ロータに吸着させる電磁石と、
前記電磁石の通電解除により前記アーマチュアが前記ロータから軸方向に離反したときに前記アーマチュアを軸方向に受け止める保持プレートと、
前記アーマチュアが前記ロータに向かって軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とを有し、
前記運動変換機構は、前記アーマチュアと一体に軸方向移動するように前記アーマチュアに固定されたくさび部材と、前記係合子保持器に形成され、前記くさび部材が摺接する傾斜摺接面とで構成されている回転伝達装置において、
前記アーマチュアの衝突音を低減する衝撃吸収部材を設けたことを特徴とする回転伝達装置。
【0013】
このようにすると、アーマチュアの衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材を有するので、アーマチュアの衝撃音を低減することができ、優れた静粛性を得ることができる。
【0014】
前記ハウジングは、筒状のハウジング本体と、前記ハウジング本体に取り付けられる蓋体とからなり、
前記蓋体は、前記電磁石の外周に嵌合する円筒部を有し、
前記アーマチュアは、前記ロータの外径よりも大きい外径を有し、
前記円筒部は、前記アーマチュアの前記ロータの外周よりも径方向外側に位置する部分と軸方向に対向して配置され、
前記衝撃吸収部材は、前記円筒部の前記アーマチュアとの対向位置に取り付けられている構成を採用することができる。
【0015】
このようにすると、電磁石の通電時に、アーマチュアがロータに吸着されるときの衝撃を、蓋体の円筒部のアーマチュアとの対向位置に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアのロータとの衝突音を低減することが可能となる。
【0016】
また、前記衝撃吸収部材は、前記アーマチュアの前記ロータとの対向面、または前記ロータの前記アーマチュアとの対向面に取り付けられている構成を採用することができる。
【0017】
このようにすると、電磁石の通電時に、アーマチュアがロータに吸着されるときの衝撃を、アーマチュアのロータとの対向面、またはロータのアーマチュアとの対向面に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアのロータとの衝突音を低減することが可能となる。
【0018】
また、前記衝撃吸収部材は、前記アーマチュアの前記保持プレートとの対向面、または前記保持プレートの前記アーマチュアとの対向面に取り付けられている構成を採用することができる。
【0019】
このようにすると、電磁石の通電解除時に、アーマチュアが保持プレートに受け止められるときの衝撃を、アーマチュアの保持プレートとの対向面、または保持プレートのアーマチュアとの対向面に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアの保持プレートとの衝突音を低減することが可能となる。
【0020】
また、前記ハウジングは、筒状のハウジング本体と、前記ハウジング本体に取り付けられる蓋体とからなり、
前記蓋体は、前記電磁石の外周に嵌合する円筒部を有し、
前記アーマチュアは、前記ロータの外径よりも大きい外径を有し、
前記円筒部は、前記アーマチュアの前記ロータの外周よりも径方向外側に位置する部分と軸方向に対向して配置され、
前記衝撃吸収部材は、前記円筒部の前記アーマチュアとの対向位置に取り付けられ、
さらに、前記衝撃吸収部材は、前記アーマチュアの前記保持プレートとの対向面、または前記保持プレートの前記アーマチュアとの対向面にも取り付けられている構成を採用することもできる。
【0021】
このようにすると、電磁石の通電時と電磁石の通電解除時のいずれにおいても、アーマチュアの衝突音を低減することが可能となる。すなわち、電磁石の通電時には、アーマチュアがロータに吸着されるときの衝撃を、蓋体の円筒部のアーマチュアとの対向位置に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアのロータとの衝突音を低減することが可能となる。また、電磁石の通電解除時には、アーマチュアが保持プレートに受け止められるときの衝撃を、アーマチュアの保持プレートとの対向面、または保持プレートのアーマチュアとの対向面に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアの保持プレートとの衝突音を低減することが可能となる。
【0022】
また、前記衝撃吸収部材は、前記アーマチュアの前記ロータとの対向面、または前記ロータの前記アーマチュアとの対向面に取り付けられ、
さらに、前記衝撃吸収部材は、前記アーマチュアの前記保持プレートとの対向面、または前記保持プレートの前記アーマチュアとの対向面にも取り付けられている構成を採用することもできる。
【0023】
このようにすると、電磁石の通電時と電磁石の通電解除時のいずれにおいても、アーマチュアの衝突音を低減することが可能となる。すなわち、電磁石の通電時には、アーマチュアがロータに吸着されるときの衝撃を、アーマチュアのロータとの対向面、またはロータのアーマチュアとの対向面に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアのロータとの衝突音を低減することが可能となる。また、電磁石の通電解除時には、アーマチュアが保持プレートに受け止められるときの衝撃を、アーマチュアの保持プレートとの対向面、または保持プレートのアーマチュアとの対向面に取り付けた衝撃吸収部材で吸収するので、アーマチュアの保持プレートとの衝突音を低減することが可能となる。
【0024】
前記衝撃吸収部材としては、ゴム成形体、金属製ばね、樹脂成形体のいずれかを採用することができる。
【0025】
また、前記衝撃吸収部材としては、ゴム環と、そのゴム環をカバーする金属環とからなるものを採用すると好ましい。
【0026】
このようにすると、ゴム環が金属環を介して衝撃を受け止めて吸収するので、ゴム環の優れた衝撃吸収性能を利用しつつ、ゴム環の耐久性を確保することが可能となる。
【0027】
またこの発明では、以下の構成の回転伝達装置も併せて提供する。
両端が開口した筒状のハウジングと、
一端が前記ハウジング内に収容された入力軸と、
一端が前記ハウジング内に収容された出力軸と、
前記入力軸と一体に回転するように前記入力軸のハウジング内への収容部分に設けられ、磁性材料で形成された内輪と、
前記出力軸と一体に回転するように前記出力軸のハウジング内への収容部分に設けられた外輪と、
前記外輪の内周と内輪の外周との間に周方向に対向して組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子を前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に係合させる係合位置と、前記一対の係合子の前記外輪の内周と前記内輪の外周との間への係合を解除する係合解除位置との間で前記内輪に対して周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記内輪に対して軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
前記アーマチュアと軸方向に対向して配置されたロータと、
通電により前記アーマチュアを前記ロータに吸着させる電磁石と、
前記アーマチュアが前記ロータに向かって軸方向に移動する動作を、前記係合子保持器が前記係合位置から係合解除位置に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構とを有し、
前記運動変換機構は、前記アーマチュアと一体に軸方向移動するように前記アーマチュアに固定されたくさび部材と、前記係合子保持器に形成され、前記くさび部材が摺接する傾斜摺接面とで構成され、
前記入力軸と前記内輪と前記アーマチュアと前記ロータとがそれぞれ磁性材料で形成された回転伝達装置において、
前記ロータの内周と前記入力軸の外周との間に、非磁性材料からなる非磁性体スリーブを介在させたことを特徴とする回転伝達装置。
【0028】
このようにすると、非磁性材料からなる非磁性体スリーブが、ロータの内周と入力軸の外周との間に介在するので、電磁石に通電して磁束を発生したときに、その磁束がロータから入力軸に漏洩するのを防止することができ、電磁石から発生する磁束によって効率的にアーマチュアを通る磁路を形成することができる。そのため、アーマチュアをロータに吸着するのに必要な電磁石の通電量を抑えることができる。
【0029】
前記入力軸の外周に、前記非磁性体スリーブの軸方向の移動を規制する止め輪を装着することができる。
【0030】
このようにすると、入力軸の外周に装着した止め輪が、非磁性体スリーブの軸方向移動を確実に規制するので、非磁性体スリーブの軸方向の位置ずれによるロータの位置ずれを防止することができる。
【0031】
前記内輪の外周に、前記アーマチュアの内周を回転可能かつ軸方向に移動可能に支持するリングが嵌合して設けられている場合、
前記非磁性体スリーブは、前記ロータの内周に沿って軸方向に延びるストレート筒部と、前記ストレート筒部の一端から、前記ロータの前記アーマチュアとの対向面に沿って径方向外方に張り出すフランジ部とを有し、
前記非磁性体スリーブの前記フランジ部で前記リングの軸方向移動を規制した構成を採用することができる。
【0032】
前記非磁性体スリーブが、前記ロータの内周に沿って軸方向に延びるストレート筒部と、前記ストレート筒部の一端から、前記ロータの前記アーマチュアとの対向面に沿って径方向外方に張り出すフランジ部とを有する場合、
前記非磁性体スリーブの前記フランジ部を前記止め輪に向かって軸方向に押圧する弾性部材を設け、その弾性部材の押圧力で前記非磁性体スリーブの軸方向の遊びを吸収した構成を採用すると好ましい。
【0033】
このようにすると、弾性部材が非磁性体スリーブの軸方向の遊びを吸収するので、非磁性体スリーブに支持されるロータと電磁石との間の軸方向隙間の大きさを高精度に管理することが可能となる。
【0034】
また、前記止め輪は、前記非磁性体スリーブと軸方向に対向するように配置され、
前記止め輪と前記非磁性体スリーブの軸方向の対向面間に弾性部材を組み込み、その弾性部材の押圧力で前記非磁性体スリーブの軸方向の遊びを吸収した構成を採用してもよい。
【0035】
このようにしても、弾性部材が非磁性体スリーブの軸方向の遊びを吸収するので、非磁性体スリーブに支持されるロータと電磁石との間の軸方向隙間の大きさを高精度に管理することが可能となる。
【0036】
前記弾性部材としては、コイルばね、皿ばね、波ばねのいずれかを採用することができる。
【0037】
またこの発明では、上記の回転伝達装置を用いた車両用ステアリング装置として、以下の構成のものを併せて提供する。
車両の左右方向に移動可能に支持され、その移動に応じて左右一対の車輪の向きが変化するように前記一対の車輪に左右両端が連結されるステアリングラックと、
前記ステアリングラックに噛み合うステアリングピニオンと、
運転者が回転操作するステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールと前記ステアリングピニオンとの間で回転を伝達する回転伝達経路と、
前記回転伝達経路に設けられた上記の回転伝達装置と、を有する車両用ステアリング装置。
【発明の効果】
【0038】
この発明の回転伝達装置は、アーマチュアの衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材を有するので、アーマチュアの衝撃音が生じにくく、静粛性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明の第1実施形態にかかる回転伝達装置を示す断面図
【
図3】
図2に示すローラ保持器が係合位置から係合解除位置に移動した状態を示す図
【
図5】
図1に示すローラ保持器(第1の分割保持器および第2の分割保持器)、保持プレート、アーマチュアの分解斜視図
【
図7】この発明の第2実施形態にかかる回転伝達装置を
図6に対応して示す図
【
図8】この発明の第3実施形態にかかる回転伝達装置を
図6に対応して示す図
【
図9】この発明の第4実施形態にかかる回転伝達装置を
図6に対応して示す図
【
図10】この発明の第5実施形態にかかる回転伝達装置を
図6に対応して示す図
【
図11】この発明の第6実施形態にかかる回転伝達装置を
図6に対応して示す図
【
図12】この発明の第7実施形態にかかる回転伝達装置を示す断面図
【
図13】この発明の第8実施形態にかかる回転伝達装置を示す非磁性体スリーブの近傍の拡大図
【
図14】この発明の第9実施形態にかかる回転伝達装置を示す非磁性体スリーブの近傍の拡大図
【
図15】
図1の回転伝達装置を組み込んだ車両用ステアリング装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1に、この発明の第1実施形態にかかる回転伝達装置1を示す。この回転伝達装置1は、両端が開口した筒状のハウジング2と、一端がハウジング2内に収容され、他端がハウジング2から突出した入力軸3と、一端がハウジング2内に収容され、他端がハウジング2から突出した出力軸4と、入力軸3のハウジング2内への収容部分に設けられた内輪5と、出力軸4のハウジング2内への収容部分に設けられた外輪6と、外輪6の内周と内輪5の外周との間に組み込まれた複数のローラ7a,7bと、これらのローラ7a,7bを保持するローラ保持器8とを有する。
【0041】
ハウジング2は、筒状のハウジング本体2Aと、ハウジング本体2Aに取り付けられた蓋体2Bとで構成されている。ハウジング本体2Aには、径方向外向きのフランジ部9が継ぎ目のない一体に形成され、そのフランジ部9に、図示しないボルトで蓋体2Bが固定されている。ハウジング本体2Aは、非磁性体金属(アルミ合金、銅合金など)で形成されている。一方、蓋体2Bは、磁性体金属(鉄、珪素鋼など)で形成されている。
【0042】
蓋体2Bは、ハウジング本体2Aのフランジ部9と軸方向に突き合わさる円環板部10と、円環板部10からハウジング本体2Aの内周に沿って軸方向に延び出す円筒部11と、円環板部10からハウジング本体2Aの側とは反対側に延び出す第2円筒部12とを有する。
【0043】
入力軸3は、外部から回転が入力される軸である。入力軸3は、蓋体2Bの第2円筒部12の内周に装着した転がり軸受13で回転可能に支持されている。入力軸3と内輪5は、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。入力軸3と内輪5は、別部材として形成し、その両者が一体に回転するようにセレーション嵌合等で結合してもよい。入力軸3と内輪5は、いずれも磁性材料(鉄、珪素鋼など)で形成されている。
【0044】
出力軸4と外輪6は、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。出力軸4と外輪6は、別部材として形成し、その両者が一体に回転するようにセレーション嵌合等で結合してもよい。出力軸4は、ハウジング本体2Aの内周に装着した転がり軸受14で回転可能に支持されている。また、外輪6の内周と内輪5の外周との間には、内輪5と外輪6を相対回転可能に連結する中間軸受15が組み込まれている。出力軸4は、入力軸3と同軸上に一列に並んで配置されている。
【0045】
図2に示すように、内輪5の外周には、周方向に等間隔に複数のカム面16が設けられている。カム面16は、前方カム面16aと、前方カム面16aに対して内輪5の正転方向後方に配置された後方カム面16bとからなる。外輪6の内周には、カム面16と半径方向に対向する円筒面17が設けられている。
【0046】
カム面16と円筒面17の間には、ローラ離反ばね18を間に挟んで周方向に対向する一対のローラ7a,7bが組み込まれている。この一対のローラ7a,7bのうち正転方向の前側のローラ7aは前方カム面16aと円筒面17の間に配置され、正転方向の後側のローラ7bは後方カム面16bと円筒面17の間に配置されている。ローラ離反ばね18は、一対のローラ7a,7bの間隔を広げる方向に各ローラ7a,7bを押圧している。
【0047】
カム面16と円筒面17の間には、周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間が形成されている。すなわち、前方カム面16aは、円筒面17との間の径方向の距離が、ローラ7aの位置から正転方向前方に向かって次第に小さくなるように形成されている。後方カム面16bは、円筒面17との間の径方向の距離が、ローラ7bの位置から正転方向後方に向かって次第に小さくなるように形成されている。
【0048】
図2では、前方カム面16aと後方カム面16bを、相反する方向に傾斜した別々の平面となるように形成しているが、前方カム面16aと後方カム面16bは、単一平面の正転方向の前側部分が前方カム面16a、後側部分が後方カム面16bとなるように、同一平面上に形成することも可能である。また、前方カム面16aと後方カム面16bは、曲面とすることも可能であるが、図のように平面とすると加工コストを低減することができる。
【0049】
図2、
図5に示すように、ローラ保持器8は、ローラ離反ばね18を間にして周方向に対向する一対のローラ7a,7bのうち一方のローラ7aをローラ離反ばね18の付勢力に抗して周方向に支持する第1の分割保持器8Aと、他方のローラ7bをローラ離反ばね18の付勢力に抗して周方向に支持する第2の分割保持器8Bとからなる。第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bは相対回転可能に支持されており、その相対回転に応じて一対のローラ7a,7bの間隔が変化するように一対のローラ7a,7bを個別に支持している。
【0050】
図5に示すように、第1の分割保持器8Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数の第1柱部19aと、これらの第1柱部19aの軸方向の一方の端部同士を連結する第1環状部20aと、第1柱部19aの軸方向の他方の端部同士を連結する第1環状部21aとを有する。また、第2の分割保持器8Bは、周方向に間隔をおいて配置された複数の第2柱部19bと、これらの第2柱部19bの軸方向の一方の端部同士を連結する第2環状部20bとを有する。
【0051】
図2に示すように、第1柱部19aと第2柱部19bは、外輪6と内輪5の間を周方向に交互に並ぶように配置されている。また、第1柱部19aと第2柱部19bは、一対のローラ7a,7bを間に挟んで周方向に対向している。すなわち、第1柱部19aと第2柱部19bは、ローラ離反ばね18を間にして周方向に対向する一対のローラ7a,7bを周方向の両側から挟み込むように、外輪6の内周と内輪5の外周の間に挿入されている。
【0052】
図1に示すように、第1環状部20aは、内輪5の外周で回転可能に支持されている。第2環状部20bは、第1環状部20aの外径よりも大きい内径を有し、第1環状部20aの外周に嵌合している。第2環状部20bは、第1環状部20aの外周で回転可能に支持されている。ここで、第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bは、それぞれ内輪5に対して回転可能となっている。その結果、第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bは、一対のローラ7a,7bの間隔を広げることにより円筒面17とカム面16との間に各ローラ7a,7bを係合させる係合位置(
図2参照)と、一対のローラ7a,7bの間隔を狭めることにより円筒面17とカム面16との間への各ローラ7a,7bの係合を解除する係合解除位置(
図3参照)との間で周方向に移動可能となっている。
【0053】
図5に示すように、第1環状部20aの外周には、第1柱部19aが連結されている。第2環状部20bの内周には、第1柱部19aとの干渉を避けるための切り欠き22が周方向に間隔をおいて複数形成されている。第2柱部19bは、第2環状部20bの側面から軸方向に突出している。
【0054】
図1に示すように、内輪5の外周には、第1環状部20aおよび第2環状部20bに軸方向に隣接して保持プレート23が固定されている。保持プレート23は、第1環状部20aおよび第2環状部20bのローラ7a,7bから遠ざかる側の軸方向移動を規制するように、第1環状部20aおよび第2環状部20bの側面を支持している。第1環状部20aおよび第2環状部20bは、保持プレート23に周方向に摺動可能に接触している。
【0055】
図4に示すように、内輪5の外周には、ローラ離反ばね18を内輪5に保持するばね保持器24が装着されている。ばね保持器24は、内輪5の外周に嵌合する円環部25と、円環部25から軸方向に延び出すばね保持片26とを有する。円環部25は、内輪5の外周に締め代をもって嵌合することにより、内輪5に固定されている。ばね保持片26は、ローラ離反ばね18を間に挟んで内輪5の外周と径方向に対向するように配置されている。ばね保持片26には、ローラ離反ばね18を収容する凹部27が形成されている。ローラ離反ばね18は圧縮コイルばねである。このばね保持片26は、ローラ離反ばね18を凹部27で保持することにより、ローラ離反ばね18がローラ7a,7bの中央を押圧するようにローラ離反ばね18を位置決めしている。
【0056】
図1に示すように、ハウジング2内には、アーマチュア30と、アーマチュア30と軸方向に対向して配置されたロータ31と、通電によりアーマチュア30をロータ31に吸着させる電磁石32と、アーマチュア30がロータ31に向かって軸方向に移動する動作を、ローラ保持器8(第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8B)が係合位置(
図2参照)から係合解除位置(
図3参照)に周方向に移動する動作に変換する運動変換機構33とが組み込まれている。
【0057】
アーマチュア30は、内輪5の外周に嵌合して固定されたリング34の外周にスライド可能に嵌合している。アーマチュア30は、このリング34の外周で、内輪5に対して回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。
【0058】
ロータ31は、入力軸3に対して軸方向と周方向のいずれにも相対移動しないように、入力軸3の外周に固定されている。ロータ31は、電磁石32とアーマチュア30の軸方向の対向面間に配置される円環板部35と、電磁石32の径方向内側に対向する円筒部36とを有する断面L字状に形成されている。ロータ31とアーマチュア30は、いずれも磁性材料(鉄、珪素鋼など)で形成されている。
【0059】
電磁石32は、磁性材料からなるフィールドコア37と、フィールドコア37に巻回されたソレノイドコイル38とを有する。電磁石32は、電磁石32の外周が蓋体2Bの円筒部11に嵌合し、かつ、電磁石32の軸方向端面が蓋体2Bの円環板部10に突き合わさった状態となるように組み付けられている。この電磁石32は、ソレノイドコイル38に通電することにより、フィールドコア37とロータ31と円筒部11とアーマチュア30を通る磁路を形成し、アーマチュア30をロータ31に吸着させる。
【0060】
保持プレート23は、電磁石32の通電解除によりアーマチュア30がロータ31から軸方向に離反したときに、そのアーマチュア30を軸方向に受け止めるように、アーマチュア30に対してロータ31の側とは反対側に軸方向に対向して配置されている。
【0061】
図6に示すように、アーマチュア30は、ロータ31の円環板部35の外径よりも大きい外径を有する。蓋体2B(
図1参照)の円筒部11は、アーマチュア30の、ロータ31の円環板部35の外周よりも径方向外側に位置する部分と、軸方向に対向して配置されている。円筒部11のアーマチュア30との対向位置に、アーマチュア30の衝突音を低減する衝撃吸収部材40が取り付けられている。衝撃吸収部材40としては、環状のゴム成形体を採用することができる。また、衝撃吸収部材40として、環状の金属製ばね(例えば、皿ばね、波ばね、圧縮コイルばね)を採用してもよい。また、衝撃吸収部材40として、環状の樹脂成形体(例えば、熱可塑性エラストマーの成形体)を採用してもよい。
【0062】
図5に示すように、運動変換機構33は、アーマチュア30と一体に軸方向移動するようにアーマチュア30に固定されたくさび部材41と、ローラ保持器8(第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8B)に形成された傾斜摺接面42a,42bとで構成されている。傾斜摺接面42a,42bは、くさび部材41と摺接する面である。
【0063】
具体的には、
図2に示すように、第1柱部19aは、ローラ7aを支持する面とは周方向の反対側に第1傾斜摺接面42aを有し、第2柱部19bも、ローラ7bを支持する面とは周方向の反対側に第2傾斜摺接面42bを有する。第1傾斜摺接面42aと第2傾斜摺接面42bは、周方向に対向している。
【0064】
図5に示すように、第1傾斜摺接面42aと第2傾斜摺接面42bは、いずれもアーマチュア30に近づく側の軸方向に沿って周方向に後退する傾斜面である。くさび部材41は、周方向に隣り合う第1柱部19aと第2柱部19bの間に挿入されるように、アーマチュア30から軸方向に突出して設けられている。くさび部材41は、アーマチュア30から軸方向に遠ざかるにしたがって周方向幅が次第に広くなる形状を持つくさび形状部43を有し、そのくさび形状部43が第1傾斜摺接面42aと第2傾斜摺接面42bの両者に摺接している(
図2参照)。保持プレート23には、くさび部材41との干渉を避けるために、くさび部材41を挿通させる貫通穴44が形成されている。
【0065】
この運動変換機構33は、
図1に示すアーマチュア30が電磁石32に向かって軸方向移動したときに、そのアーマチュア30と一体に
図5に示すくさび部材41が軸方向移動し、そのくさび部材41のくさび形状部43が、第1傾斜摺接面42aと第2傾斜摺接面42bとを周方向に押圧し、その結果、
図3に示すように、第1柱部19aと第2柱部19bとが一対のローラ7a,7b間の距離を狭める方向に第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bがそれぞれ周方向移動するように動作する。
【0066】
上記の回転伝達装置1の動作例を説明する。
【0067】
図1に示すように、電磁石32への通電を停止しているとき、この回転伝達装置1は、入力軸3と出力軸4の間で回転が伝達する締結状態となる。すなわち、電磁石32への通電を停止しているとき、アーマチュア30は、ローラ離反ばね18(
図2参照)からローラ7a,7bと運動変換機構33とを介して伝達する力によってロータ31から軸方向に離反した状態となっている。また、このとき、
図2に示すように、ローラ離反ばね18が一対のローラ7a,7bを押圧する力によって、正転方向の前側のローラ7aは、外輪6の内周の円筒面17と内輪5の外周の前方カム面16aとの間に係合し、かつ、正転方向の後側のローラ7bは、外輪6の内周の円筒面17と内輪5の外周の後方カム面16bとの間に係合した状態となっている。この状態で、内輪5が正転方向に回転すると、その回転は、正転方向の後側のローラ7bを介して内輪5から外輪6に伝達する。また、内輪5が逆転方向に回転すると、その回転は、正転方向の前側のローラ7aを介して内輪5から外輪6に伝達する。
【0068】
一方、
図1の電磁石32に通電すると、この回転伝達装置1は、入力軸3と出力軸4の間での回転の伝達が遮断される空転状態となる。すなわち、電磁石32に通電すると、アーマチュア30がロータ31に吸着され、このときのアーマチュア30の軸方向移動が運動変換機構33を介して第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bとに伝わり、第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bとが周方向に移動する。そして、この第1の分割保持器8Aと第2の分割保持器8Bの周方向移動により、
図3に示すように、第1柱部19aと第2柱部19bとが一対のローラ7a,7b間の距離が狭まる方向に各ローラ7a,7bを押圧し、その結果、正転方向の前側のローラ7aの係合待機状態(正転方向の前側のローラ7aと円筒面17の間に微小隙間があるが、内輪5が逆転方向に回転するとローラ7aが直ちに円筒面17と前方カム面16aの間に係合する状態)が解除されるとともに、正転方向の後側のローラ7bの係合待機状態(正転方向の後側のローラ7bと円筒面17の間に微小隙間があるが、内輪5が正転方向に回転するとローラ7bが直ちに円筒面17と後方カム面16bの間に係合する状態)も解除された状態となる。この状態で、内輪5に回転が入力されても、その回転は内輪5から外輪6に伝達せず、内輪5は空転する。
【0069】
ところで、
図1に示す電磁石32に通電し、その電磁石32の磁力でアーマチュア30がロータ31に吸着されるとき、アーマチュア30とロータ31の間に衝突音が生じる可能性がある。また、電磁石32の通電を解除し、ローラ離反ばね18(
図2参照)から運動変換機構33を介してアーマチュア30に伝達するローラ離反ばね18の弾性復元力によって、アーマチュア30がロータ31から離反して保持プレート23に受け止められるときも、アーマチュア30と保持プレート23の間に衝突音が生じる可能性がある。この衝突音は、近年、高い静音性が求められる自動車の分野(例えば、ステアバイワイヤ方式の車両用ステアリング装置に使用されるバックアップクラッチの分野等)においては特に問題となる。
【0070】
この問題に対し、上記実施形態の回転伝達装置1は、アーマチュア30の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材40を設けているので、アーマチュア30の衝撃音を低減することができ、優れた静粛性を得ることが可能となっている。具体的には、電磁石32の通電時に、アーマチュア30がロータ31に吸着されるときの衝撃を、蓋体2Bの円筒部11のアーマチュア30との対向位置に取り付けた衝撃吸収部材40で吸収するので、アーマチュア30のロータ31との衝突音を低減することが可能となっている。
【0071】
図7に、この発明の第2実施形態を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べて衝撃吸収部材の配置のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
図7において、衝撃吸収部材45は、アーマチュア30のロータ31との対向面に取り付けられている。アーマチュア30のロータ31との対向面には、周方向に連続する環状溝46が形成され、その環状溝46に衝撃吸収部材45が装着されている。環状溝46の軸方向深さは、外力が作用していない状態での衝撃吸収部材45の軸方向厚さよりも浅く、かつ、衝撃吸収部材45を弾性域内で圧縮変形させたときに衝撃吸収部材45が完全に埋没可能な深さに設定されている。図では、アーマチュア30のロータ31との対向面に衝撃吸収部材45を取り付けた例を示したが、これと同様の構成で、ロータ31のアーマチュア30との対向面に衝撃吸収部材45を取り付けるようにしてもよい。
【0073】
図7に示す構成を採用すると、電磁石32の通電時に、アーマチュア30がロータ31に吸着されるときの衝撃を、アーマチュア30のロータ31との対向面(またはロータ31のアーマチュア30との対向面)に取り付けた衝撃吸収部材45で吸収するので、アーマチュア30のロータ31との衝突音を低減することが可能となる。
【0074】
図8に、この発明の第3実施形態を示す。第3実施形態は、第1実施形態と比べて衝撃吸収部材の配置のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
図8において、衝撃吸収部材47は、アーマチュア30の保持プレート23との対向面に取り付けられている。アーマチュア30の保持プレート23との対向面には、周方向に連続する環状溝48が形成され、その環状溝48に衝撃吸収部材47が装着されている。図では、アーマチュア30の保持プレート23との対向面に衝撃吸収部材47を取り付けた例を示したが、これと同様の構成で、保持プレート23のアーマチュア30との対向面に衝撃吸収部材47を取り付けるようにしてもよい。
【0076】
図8に示す構成を採用すると、電磁石32の通電解除時に、アーマチュア30が保持プレート23に受け止められるときの衝撃を、アーマチュア30の保持プレート23との対向面(または保持プレート23のアーマチュア30との対向面)に取り付けた衝撃吸収部材47で吸収するので、アーマチュア30の保持プレート23との衝突音を低減することが可能となる。
【0077】
図9に、この発明の第4実施形態を示す。第4実施形態は、第1実施形態(
図6)に示す衝撃吸収部材40と、第3実施形態(
図8)に示す衝撃吸収部材47とをいずれも設けたものに対応する。そのため、第1実施形態および第3実施形態に対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
図9に示す構成を採用すると、電磁石32の通電時と電磁石32の通電解除時のいずれにおいても、アーマチュア30の衝突音を低減することが可能となる。すなわち、電磁石32の通電時には、アーマチュア30がロータ31に吸着されるときの衝撃を、蓋体2Bの円筒部11のアーマチュア30との対向位置に取り付けた衝撃吸収部材40で吸収するので、アーマチュア30のロータ31との衝突音を低減することが可能となる。また、電磁石32の通電解除時には、アーマチュア30が保持プレート23に受け止められるときの衝撃を、アーマチュア30の保持プレート23との対向面(保持プレート23のアーマチュア30との対向面でもよい)に取り付けた衝撃吸収部材47で吸収するので、アーマチュア30の保持プレート23との衝突音を低減することが可能となる。
【0079】
図10に、この発明の第5実施形態を示す。第5実施形態は、第2実施形態(
図7)に示す衝撃吸収部材45と、第3実施形態(
図8)に示す衝撃吸収部材47とをいずれも設けたものに対応する。そのため、第2実施形態および第3実施形態に対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0080】
図10に示す構成を採用すると、電磁石32の通電時と電磁石32の通電解除時のいずれにおいても、アーマチュア30の衝突音を低減することが可能となる。すなわち、電磁石32の通電時には、アーマチュア30がロータ31に吸着されるときの衝撃を、アーマチュア30のロータ31との対向面(またはロータ31のアーマチュア30との対向面)に取り付けた衝撃吸収部材45で吸収するので、アーマチュア30のロータ31との衝突音を低減することが可能となる。また、電磁石32の通電解除時には、アーマチュア30が保持プレート23に受け止められるときの衝撃を、アーマチュア30の保持プレート23との対向面(または保持プレート23のアーマチュア30との対向面)に取り付けた衝撃吸収部材47で吸収するので、アーマチュア30の保持プレート23との衝突音を低減することが可能となる。
【0081】
図11に、この発明の第6実施形態を示す。第6実施形態は、第2実施形態(
図7)と比べて衝撃吸収部材の構成のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第2実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
図11において、衝撃吸収部材49は、ゴム製のゴム環50と、そのゴム環50をカバーする金属製の金属環51とからなる。金属環51は、アーマチュア30とロータ31の軸方向の対向面間に位置する環状板部52と、アーマチュア30の外周に形成された円周溝53に軸方向に移動可能に保持される内向き突起をもつ外筒部54とで構成されている。ゴム環50は、金属環51の環状板部52のアーマチュア30に対する軸方向の対向面に接着して固定されている。
【0083】
図11に示す構成の衝撃吸収部材49を採用すると、ゴム環50が、金属環51を介して衝撃を受け止めて吸収するので、ゴム環50の優れた衝撃吸収性能を利用しつつ、ゴム環50の耐久性を確保することが可能となる。
図11では、アーマチュア30のロータ31に対する対向面に取り付けられる衝撃吸収部材49を、ゴム環50と金属環51とで構成した例を示したが、上記各実施形態の衝撃吸収部材40,45,47を、
図11に示す構成のものに置き換えてもよい。
【0084】
図12に、この発明の第7実施形態を示す。第7実施形態は、第1実施形態と比べてロータ31の固定方法が異なり、それ以外の構成は基本的に同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0085】
図12において、ロータ31の内周と入力軸3の外周との間には、ロータ31と入力軸3が直接接触する部分をもたないように非磁性体スリーブ60が介在している。非磁性体スリーブ60は、ロータ31の内周に沿って軸方向に延びるストレート筒部61と、ストレート筒部61の一端から、ロータ31のアーマチュア30との対向面に沿って径方向外方に張り出すフランジ部62とを有する。ストレート筒部61は、ロータ31の内周に締め代をもって挿入され、ロータ31に固定されている。ストレート筒部61とフランジ部62は、非磁性材料(アルミ合金、銅合金など)で継ぎ目の無い一体に形成されている。
【0086】
非磁性体スリーブ60のストレート筒部61のフランジ部62の側とは反対側の端部外周には、転がり軸受13が嵌合している。転がり軸受13は、非磁性体スリーブ60を介して入力軸3を回転可能に支持している。入力軸3の外周には、ストレート筒部61の端部に対応する位置に、止め輪63が装着されている。止め輪63の外径は、ストレート筒部61の端部外径よりも大きく設定され、その止め輪63で非磁性体スリーブ60の軸方向移動を規制するとともに、止め輪63が、転がり軸受13を介してロータ31の軸方向移動も規制するようになっている。
【0087】
非磁性体スリーブ60のフランジ部62は、内輪5の外径よりも大きい外径を有し、内輪5の外周に嵌合したリング34と軸方向に対向している。これにより、リング34が内輪5の外周から軸方向に脱落しないように、リング34の軸方向移動が規制されている。
【0088】
図12に示す構成の回転伝達装置1を採用すると、非磁性材料からなる非磁性体スリーブ60が、ロータ31の内周と入力軸3の外周との間に介在するので、電磁石32に通電して磁束を発生したときに、その磁束がロータ31から入力軸3に漏洩するのを防止することができ、電磁石32から発生する磁束によって効率的にアーマチュア30を通る磁路を形成することができる。そのため、アーマチュア30をロータ31に吸着するのに必要な電磁石32の通電量を抑えることができる。
【0089】
また、この回転伝達装置1は、入力軸3の外周に装着した止め輪63が、非磁性体スリーブ60の軸方向移動を確実に規制するので、非磁性体スリーブ60の軸方向の位置ずれによるロータ31の位置ずれを防止することが可能である。
【0090】
図13に、この発明の第8実施形態を示す。第8実施形態は、第7実施形態と比べて弾性部材64の有無のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第7実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0091】
図13において、非磁性体スリーブ60のフランジ部62は、内輪5の軸方向側面と軸方向に対向して配置されている。内輪5の軸方向側面には、周方向に連続する環状溝65が形成され、その環状溝65に環状の弾性部材64が装着されている。弾性部材64は、軸方向に圧縮した状態で組み込まれ、その弾性復元力によって、非磁性体スリーブ60のフランジ部62を止め輪63に向かって軸方向に押圧している。そして、その弾性部材64の軸方向の押圧力で、非磁性体スリーブ60の軸方向の遊び(軸方向のがたつき)を吸収している。弾性部材64としては、コイルばね、皿ばね、波ばねのいずれかを採用することができる。
【0092】
図13に示す構成の回転伝達装置1を採用すると、弾性部材64が非磁性体スリーブ60の軸方向の遊びを吸収するので、非磁性体スリーブ60に支持されるロータ31と電磁石32との間の軸方向隙間の大きさを高精度に管理することが可能となる。
【0093】
図14に、この発明の第9実施形態を示す。第9実施形態は、第7実施形態と比べて
弾性部材66の有無のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第7実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0094】
図14において、止め輪63は、非磁性体スリーブ60のストレート筒部61の、フランジ部62の側とは反対側の端部と軸方向に対向するように配置されている。止め輪63と非磁性体スリーブ60の軸方向の対向面間には、環状の弾性部材66が組み込まれている。弾性部材66は、軸方向に圧縮した状態で組み込まれ、その弾性復元力によって、非磁性体スリーブ60を内輪5に向かって軸方向に押圧している。そして、その弾性部材66の軸方向の押圧力で、非磁性体スリーブ60の軸方向の遊び(軸方向のがたつき)を吸収している。弾性部材66としては、コイルばね、皿ばね、波ばねのいずれかを採用することができる。
【0095】
図14に示す構成の回転伝達装置1を採用すると、弾性部材66が非磁性体スリーブ60の軸方向の遊びを吸収するので、非磁性体スリーブ60に支持されるロータ31と電磁石32との間の軸方向隙間の大きさを高精度に管理することが可能となる。
【0096】
上述の各回転伝達装置1は、例えば、
図15に示す車両用ステアリング装置に使用することができる。この車両用ステアリング装置は、車両の左右方向に移動可能に支持されたステアリングラック70と、ステアリングラック70に噛み合うステアリングピニオン71と、運転者が回転操作するステアリングホイール72と、ステアリングホイール72とステアリングピニオン71との間で回転を伝達する回転伝達経路73と、回転伝達経路73に駆動力を入力して一対の車輪74を操舵する操舵モータ75と、回転伝達装置1とを有する。
【0097】
ステアリングラック70は、左右両端が露出した状態で中央部がラックハウジング76に収容されている。ラックハウジング76は、ステアリングラック70を車両の左右方向に移動可能に支持している。ステアリングラック70の左右両端は、ステアリングラック70の移動に応じて左右一対の車輪74の向きが変化するように、タイロッド77を介して左右一対の車輪74に連結されている。ステアリングピニオン71は、ラックハウジング76で回転可能に支持されている。
【0098】
回転伝達経路73の途中には、ステアリングホイール72の側からステアリングピニオン71の側に向かって順に、反力モータ78、回転伝達装置1、操舵モータ75が設けられている。反力モータ78は、運転者の操舵によるステアリングホイール72の回転方向とは反対方向の操舵反力をステアリングホイール72に付与する電動モータである。操舵モータ75は、運転者によるステアリングホイール72の操舵トルクに応じて、回転伝達経路73に駆動力を入力する電動モータである。
【0099】
回転伝達装置1は、正常時は、ステアリングホイール72とステアリングピニオン71の間での回転の伝達を遮断する。一方、電源喪失時などの異常時は、ステアリングホイール72とステアリングピニオン71の間で回転を伝達する。このように、回転伝達装置1は、車両用ステアリング装置のバックアップクラッチとして機能する。
【0100】
上記実施形態では、外輪6の内周と内輪5の外周との間に係合子としてローラ7a,7bを組み込んだ例を挙げて説明したが、この発明は、係合子としてボール、スプラグなどを使用した回転伝達装置1にも同様に適用することができる。
【0101】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
1 回転伝達装置
2 ハウジング
2A ハウジング本体
2B 蓋体
3 入力軸
4 出力軸
5 内輪
6 外輪
7a,7b ローラ
8 ローラ保持器
11 円筒部
23 保持プレート
30 アーマチュア
31 ロータ
32 電磁石
33 運動変換機構
34 リング
40 衝撃吸収部材
41 くさび部材
42a,42b 傾斜摺接面
45,47,49 衝撃吸収部材
50 ゴム環
51 金属環
60 非磁性体スリーブ
61 ストレート筒部
62 フランジ部
63 止め輪
64 弾性部材
66 弾性部材
70 ステアリングラック
71 ステアリングピニオン
72 ステアリングホイール
73 回転伝達経路
74 車輪