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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139011
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】強化ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20220915BHJP
   C03B 32/00 20060101ALI20220915BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20220915BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20220915BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03B32/00
C03C3/091
C03C3/083
C03B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039209
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】稲山 尚利
(72)【発明者】
【氏名】木下 清貴
【テーマコード(参考)】
4G015
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G015EA00
4G059AA01
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB14
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DC04
4G062DC05
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA03
4G062EB03
4G062EB04
4G062EC01
4G062EC02
4G062EC03
4G062ED01
4G062EE01
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM01
4G062NN33
(57)【要約】
【課題】第一主表面及び第二主表面の両表主面で共に高い圧縮応力を有しつつ、反りが小さい強化ガラスを提供する。
【解決手段】強化ガラスの製造方法であって、第一主表面及び第二主表面を有し、第二主表面の表層部に異質層を有する強化用ガラスを準備する準備工程S1と、強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程S2と、強化用ガラスをイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る化学強化工程S3と、をこの順に備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一主表面と、前記第一主表面の反対側に位置する第二主表面とを有する強化用ガラスを成形する成形工程と、
成形直後に前記強化用ガラスを0.5℃/s以上の冷却速度で徐冷する徐冷工程と、
前記強化用ガラスの前記第一主表面の表層部を除去する除去工程と、
前記強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程と、
前記強化用ガラスをイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る化学強化工程と、をこの順に備える強化ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記除去工程では、前記第一主表面及び前記第二主表面のうち、前記第一主表面の表層部のみを除去する請求項1に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項3】
第一主表面と、前記第一主表面の反対に位置する第二主表面とを有すると共に、前記第二主表面の表層部に異質層を有する強化用ガラスを準備する準備工程と、
前記強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程と、
前記強化用ガラスをイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る化学強化工程と、をこの順に備える強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記準備工程における前記異質層は、成形過程で前記強化用ガラスを0.5℃/s以上の冷却速度で徐冷することにより形成される請求項3に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記強化用ガラスは、オーバーフローダウンドロー法又はスロットダウンドロー法により成形される請求項1~4のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程では、前記保持温度が、歪点+50℃以下であり、前記保持温度における保持時間が、10分以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記熱処理工程では、前記保持温度が、歪点+85℃以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程では、前記保持温度における保持時間が、60分以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記化学強化工程で得られた前記強化ガラスは、前記第一主表面における圧縮応力CS1と前記第二主表面における圧縮応力CS2との差の絶対値が、40MPa以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記強化用ガラスが、厚み0.3mm以下の板状ガラスである請求項1~9のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記強化用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~35%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、LiO+NaO 1~20%、KO 0~10%を含有する請求項1~10のいずれか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
第一主表面の表層部に第一圧縮応力層を有すると共に、前記第一主表面の反対に位置する第二主表面の表層部に第二圧縮応力層を有する強化ガラスであって、
前記第一主表面の表面粗さRa1と前記第二主表面の表面粗さRa2との差の絶対値が、0.1nm以上であり、
前記第一圧縮応力層の圧縮応力CS1及び前記第二圧縮応力層の圧縮応力CS2のそれぞれが、820MPa以上であり、かつ、前記第一圧縮応力層の圧縮応力CS1と前記第二圧縮応力層の圧縮応力CS2との差の絶対値が、40MPa以下である強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話(特にスマートフォン)、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、タッチパネルディスプレイなどの各種デバイスのカバーガラスとして、強化ガラスが広く用いられている。このような強化ガラスは、強化用ガラスをイオン交換処理により化学強化することで製造されるが一般的である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/088856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強化ガラスの製造工程では、強化用ガラスを化学強化する前に、強化用ガラスの一方の主表面(以下、第一主表面という)を機械研磨などにより除去する場合がある。このような第一主表面の表層部の除去は、例えば、強化用ガラスの端面形状を特殊な形状に加工する一環として行われる。
【0005】
しかしながら、本発明者らの鋭意研究の結果、このように強化用ガラスの第一主表面の表層部を研磨などにより除去すると、化学強化して得られる強化ガラスに製品基準を満たさない大きな反りが生じることが判明している。
【0006】
この反りの発生原因は、はっきりとは解明されていないが、現時点では次のように考えられている。すなわち、強化用ガラスの第一主表面及びその反対側に位置する第二主表面のそれぞれの表層部には、強化用ガラスの成形過程で形成された異質層が存在する。この異質層は、イオン交換を促進する性質を有する。したがって、第一主表面の表層部の機械研磨などにより異質層が除去されると、化学強化時に第一主表面と第二主表面とでイオン交換の進行具合が異なって両主表面の間に応力差が生じ、この応力差に起因して強化ガラスに大きな反りが生じる。
【0007】
また、イオン交換を促進する異質層が除去された第一主表面において、化学強化時に圧縮応力が低くなる傾向があるため、強化ガラスの強度低下の原因にもなり得る。
【0008】
なお、第一主表面側の異質層が完全に除去されていなくても、第一主表面側の異質層の厚みと第二主表面側の異質層の厚みとが、大きく異なれば同様の現象が生じると考えられる。
【0009】
本発明は、第一主表面及び第二主表面の両表主面で共に高い圧縮応力を有しつつ、反りが小さい強化ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一主表面と、第一主表面の反対側に位置する第二主表面とを有する強化用ガラスを成形する成形工程と、成形直後に強化用ガラスを0.5℃/s以上の冷却速度で徐冷する徐冷工程と、強化用ガラスの第一主表面の表層部を除去する除去工程と、強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程と、強化用ガラスをイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る化学強化工程と、をこの順に備える。
【0011】
上記の徐冷工程(冷却速度:0.5℃/s以上)を経た強化用ガラスでは、第一主表面及び第二主表面のそれぞれの表層部に異質層が形成されるが、除去工程で第一主表面の表層部を除去すると、第一主表面側の異質層の一部又は全部も一緒に除去される。そのため、このままの状態で化学強化を行うと、強化ガラスに大きな反りが生じ得る。そこで、本発明では、除去工程の後かつ化学強化工程の前に、強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程を行っている。このような熱処理によれば、強化用ガラスの第一主表面の表層部に異質層を再生(或いは形成)することができる。したがって、その後に強化用ガラスを化学強化しても、強化ガラスに大きな反りが生じることを抑制できる。また、第一主表面及び第二主表面のそれぞれの表層部に異質層が形成された状態で化学強化されることになるため、両主表面で共に高い圧縮応力を実現できる。
【0012】
(2) 上記(1)の構成において、除去工程では、第一主表面及び第二主表面のうち、第一主表面の表層部のみを除去することが好ましい。
【0013】
このようにすれば、強化用ガラスの第一主表面側の異質層のみが除去されることになるため、このままの状態で化学強化を行った場合に、強化ガラスに反りが生じ易くなる。つまり、本発明の熱処理工程による異質層の再生効果が特に有用となる。
【0014】
(3) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一主表面と、第一主表面の反対に位置する第二主表面とを有すると共に、第二主表面の表層部に異質層を有する強化用ガラスを準備する準備工程と、強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程と、強化用ガラスをイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る化学強化工程と、をこの順に備える。
【0015】
このようにすれば、準備工程の後かつ化学強化工程の前に、強化用ガラスを歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する熱処理工程が行われる。このような熱処理によれば、強化用ガラスの第一主表面の表層部に異質層を形成(再生)することができる。したがって、その後に強化用ガラスを化学強化しても、強化ガラスに大きな反りが生じることを抑制できる。また、第一主表面及び第二主表面のそれぞれの表層部に異質層が形成された状態で化学強化されることになるため、両主表面で共に高い圧縮応力を実現できる。
【0016】
(4) 上記(3)の構成において、準備工程における異質層は、成形過程で強化用ガラスを0.5℃/s以上の冷却速度で徐冷することにより形成されることが挙げられる。
【0017】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかの構成において、強化用ガラスは、オーバーフローダウンドロー法又はスロットダウンドロー法により成形されることが好ましい。
【0018】
(6) 上記(1)~(5)のいずれかの構成において、熱処理工程では、保持温度が、歪点+50℃以下であり、保持温度における保持時間が、10分以上であることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、熱処理が比較的低温で長時間行われることから、意図しない強化用ガラスの変形を抑制することができる。
【0020】
(7) 上記(1)~(5)のいずれかの構成において、熱処理工程では、保持温度が、歪点+85℃以上であることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、異質層の形成(再生)を効率よく行うことができる。
【0022】
(8) 上記(1)~(7)のいずれかの構成において、熱処理工程では、保持温度における保持時間が、60分以下であることが好ましい。
【0023】
熱処理工程において、保持温度における保持時間は長くなるほど、異質層の形成(再生)には効果があると考えられるが、保持時間が60分以下で実用上問題のないレベルまで異質層を形成(再生)することができる。したがって、生産効率を考慮した場合、保持温度における保持時間は、60分以下とすることが好ましい。
【0024】
(9) 上記(1)~(8)のいずれかの構成において、化学強化工程で得られた強化ガラスは、第一主表面における圧縮応力CS1と第二主表面における圧縮応力CS2との差(CS1-CS2)の絶対値が、40MPa以下であることが好ましい。
【0025】
上記のような熱処理工程を事前に行えば、化学強化工程において、CS1-CS2の絶対値が40MPa以下になる強化ガラスを簡単かつ確実に製造することができる。そして、CS1-CS2の絶対値が小さい強化ガラスであれば、大きな反りの発生を確実に抑制することができる。
【0026】
(10) 上記(1)~(9)のいずれかの構成において、強化用ガラスは、厚み0.3mm以下の板状ガラスであってもよい。
【0027】
つまり、本発明は、このような非常に厚みの薄い板状ガラスの製造にも有効な技術である。
【0028】
(11) 上記(1)~(10)のいずれかの構成において、強化用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~15%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、KO 0~10%を含有することが好ましい。
【0029】
このようなガラス組成を有する強化用ガラスであれば、化学強化時の異質層に関連した反りの問題が生じ易く、本発明の効果が特に有用となる。
【0030】
(12) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一主表面の表層部に第一圧縮応力層を有すると共に、第一主表面の反対に位置する第二主表面の表層部に第二圧縮応力層を有する強化ガラスであって、第一主表面の表面粗さRa1と第二主表面の表面粗さRa2との差(Ra1-Ra2)の絶対値が、0.1nm以上であり、第一主表面の圧縮応力CS1及び第二主表面の圧縮応力CS2のそれぞれが、820MPa以上であり、かつ、第一主表面の圧縮応力CS1と第二主表面の圧縮応力CS2との差(CS1-CS2)の絶対値が、40MPa以下である。
【0031】
このようにすれば、例えば、第一主表面が研磨面で構成され、第二主表面が未研磨面で構成される場合のように、第一主表面の表面粗さRa1と第二主表面の表面粗さRa2との差の絶対値が大きい場合であっても、両主表面で共に高い圧縮応力を有しつつ、反りが小さい強化ガラスを提供することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、第一主表面及び第二主表面の両主表面で共に高い圧縮応力を有しつつ、反りが小さい強化ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の第一実施形態に係る強化ガラスの製造方法を示すフロー図である。
図2】第一実施形態の準備工程における強化用ガラスを示す断面図である。
図3】第一実施形態の熱処理工程における熱処理条件を例示するグラフである。
図4】第一実施形態の熱処理工程後かつ強化工程前における強化用ガラスを示す断面図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る強化ガラスの製造方法を示すフロー図である。
図6】第二実施形態で用いる製造装置を示す断面図である。
図7】第二実施形態の切断工程における強化用ガラスを示す断面図である。
図8】第二実施形態の除去工程における強化用ガラスを示す断面図である。
図9】第二実施形態の熱処理工程における強化用ガラスを示す断面図である。
図10】本発明の第三実施形態に係る強化ガラスを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る強化ガラス及びその製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0035】
(第一実施形態)
図1に示すように、本発明の第一実施形態では、強化ガラスの製造方法を例示する。
【0036】
同図に示すように、本実施形態に係る強化ガラスの製造方法は、準備工程S1と、熱処理工程S2と、化学強化工程S3とを、この順に備えている。すなわち、準備工程S1の後に熱処理工程S2が実施され、さらに熱処理工程S2の後に化学強化工程S3が実施される。
【0037】
準備工程S1は、図2に示す強化用ガラス1を準備する工程である。強化用ガラス1は、未強化の板状ガラスであり、第一主表面2と、第一主表面2の反対に位置する第二主表面3とを有する。つまり、第一主表面2及び第二主表面3は、厚み方向で互いに対向する。
【0038】
強化用ガラス1は、厚み2mm以下の板状ガラスである。強化用ガラス1の厚みは、好ましくは、300μm以下、150μm以下、20μm以上150μm以下、20μm以上120μm以下、25μm以上120μm以下である。300μm以下の非常に薄い強化用ガラス1から得られる強化ガラスであれば、ディスプレイの表示面を折り畳み可能とする、いわゆるフォルダブルタイプのデバイスのカバーガラスなどに好適に使用することができる。一方、例えば、強化用ガラス1から得られる強化ガラスを、折り曲げないタイプ(ストレートタイプ)のデバイスのカバーガラスなどに使用する場合には、強化用ガラス1の厚みは、好ましくは、0.3mm超2mm以下、0.45mm以上2mm以下、0.5mm以上0.85mm以下である。なお、強化用ガラス1から得られる強化ガラスも、強化用ガラス1と実質的に同じ厚みを有する。強化ガラスの製造工程で、強化用ガラス1の第一主表面2の表層部2a及び/又は第二主表面3の表層部3aを除去する場合は、上記の強化用ガラス1の厚みは、除去後の厚みとする(図8の符号D1を参照)。
【0039】
強化用ガラス1の第二主表面3の表層部2aには、異質層4が形成されている。本実施形態では、異質層4は、強化用ガラス1の第一主表面2及び第二主表面3のうち、第二主表面3の表層部3aのみに形成されている。異質層4は、例えば5~10μmの厚みを有する層である。異質層4は、強化用ガラス1の内部層5とは性質が異なる層であり、化学強化工程S3におけるイオン交換を促進する性質を有する。本実施形態では、第一主表面2の表層部2aには、異質層が形成されていないため、第一主表面2の表層部2aは、内部層5と同様の性質を有する。なお、第一主表面2の表層部2aに、第二主表面3側の異質層4よりも薄い異質層が形成されていてもよい。
【0040】
異質層4は、現時点で詳細構造の解明には至っていないが、(1)内部層5よりも構造緩和された層、(2)内部層5とは水分量が異なる層、(3)内部層5とは組成が異なる層などから構成されていると推測される。ただし、異質層4は、溶融ガラスから板状の強化用ガラス1(厳密にはガラスリボン)を成形した直後に行われる徐冷時(徐冷条件:0.5℃/s以上の冷却速度)に形成されることは判明している。このような徐冷条件を満たす強化用ガラス1の成形方法としては、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法などのダウンドロー法(例えば3~10℃/sの冷却条件)や、フロート法(例えば0.5~2℃/sの冷却条件)などが挙げられる。平滑な表面を得るためには成形方法としてオーバーフローダウンドロー法を用いることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法で成形された強化用ガラス1は、内部に成形合流面を有する。
【0041】
強化用ガラス1は、例えば、アルカリアルミノシリケートガラスであり、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO 50~80%、Al 5~25%、B 0~35%、LiO 0~20%、NaO 1~20%、LiO+NaO 1~20%、KO 0~10%を含有する。このようなガラス組成を満たす代表的なガラスとしては、日本電気硝子株式会社製のT2X-1が挙げられる。強化用ガラス1は、実質的にLiOを含有しないガラス組成としてもよい。「実質的にLiOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にLiOを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、LiOの含有量が500ppm未満であることを指す。なお、強化用ガラス1を化学強化して得られる強化ガラスや、強化用ガラス1を成形するための溶融ガラスも、強化用ガラス1と実質的に同じガラス組成を有する。
【0042】
上記のガラス組成が好ましい理由を以下に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがない限り、モル%を指す。
【0043】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。よって、SiOの好適な下限範囲は、50%以上、55%以上、57%以上、59%以上、特に61%以上である。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。よって、SiOの好適な上限範囲は、80%以下、70%以下、68%以下、66%以下、65%以下、特に64.5%以下である。
【0044】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点、ヤング率、破壊靱性、ビッカース硬度を高める成分である。よって、Alの好適な下限範囲は、5%以上、8%以上、10%以上、11%以上、11.2%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、高温粘度が上昇して、溶融性や成形性が低下し易くなる。また、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状に成形し難くなる。特に、成形体耐火物としてアルミナ系耐火物を用いて、オーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形する場合、アルミナ系耐火物との界面にスピネルの失透結晶が析出し易くなる。更に、Alの含有量が多過ぎると、耐酸性も低下し、酸処理工程に適用し難くなる。よって、Alの好適な上限範囲は、25%以下、21%以下、20.5%以下、20%以下、19.9%以下、19.5%以下、19.0%以下、特に18.9%以下である。
【0045】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、液相温度を低下させる成分である。また、Bは、ヤング率を抑制し、曲げ強度やクラックレジスタンスを高める成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換処理によって、ヤケと呼ばれる表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力が低下したりする傾向がある。よって、Bの好適な下限範囲は、0%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.1%以上、0.3%以上であり、好適な上限範囲は、35%以下、30%以下、25%以下、22%以下、20%以下、特に15%以下である。なお、CSを高くする事を優先する観点では、Bの含有量は、さらに好ましくは0.2~5%、0.3~1%とすることできる。一方、ヤング率を抑制する事を優先する観点では、Bの含有量は、さらに好ましくは10~25%、15~23%、18~22%とすることできる。
【0046】
LiOは、イオン交換成分であり、特にガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のKイオンをイオン交換して、高い表面圧縮応力を得る成分である。また、LiOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。よって、LiOの好適な下限範囲は、0%以上、3%以上、4%以上、4.2%以上、5%以上、5.5%以上、6.5%以上、7%以上、7.3%以上、7.5%以上、7.8%以上、特に8%以上である。また、LiOの好適な上限範囲は、20%以下、15%以下、13%以下、12%以下、11.5%以下、11%以下、10.5%以下、10%未満、9.9%以下、9%以下、特に8.9%以下である。
【0047】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性、成形体耐火物、特にアルミナ耐火物との反応失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下し過ぎたり、イオン交換速度が低下し易くなる。よって、NaOの好適な下限範囲は、1%以上、5%以上、7%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に12.5%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また、NaOの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、NaOの好適な上限範囲は、20%以下、19.5%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16.5%以下、16%以下、15.5%以下、特に15%以下である。
【0048】
Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更に、KOは、耐失透性を改善したり、ビッカース硬度を高める成分でもある。しかし、KOの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また、KOの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な下限範囲は、0%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、特に3.5%以上であり、KOの好適な上限範囲は、10%以下、5.5%以下、5%以下、特に4.5%未満である。
【0049】
LiOとNaOは、いずれも溶融塩中のKイオンとイオン交換して、高い表面圧縮応力を得る成分である。よって、LiO+NaOの好適な下限範囲は、1%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、特に18.5%以上である。一方、LiO+NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。また、LiO+NaOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、LiO+NaOの好適な上限範囲は、20%以下、特に19%以下である。ここで、「LiO+NaO」は、LiO及びNaOの合量を指す。
【0050】
上記成分以外にも、強化用ガラス1は、ガラス組成として、例えば以下の成分を含有してもよい。
【0051】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり易く、またガラスが失透し易くなる。よって、MgOの好適な上限範囲は、12%以下、10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、ガラス組成中にMgOを導入する場合、MgOの好適な下限範囲は、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
【0052】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0~10%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、CaOの好適な含有量は、0~5%、0.01~4%、0.1~3%、特に1~2.5%である。
【0053】
SrOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有範囲は、0~5%、0~3%、0~1%、特に0~0.1%未満である。
【0054】
BaOは、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有範囲は、0~5%、0~3%、0~1%、特に0~0.1%未満である。
【0055】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力を増大させる効果が大きい成分である。また、ZnOは、低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の応力深さが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は、0~6%、0~5%、0~1%、0~0.5%、特に0~0.1%未満が好ましい。
【0056】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下するおそれがあり、また密度が高くなり過ぎるおそれがある。よって、ZrOの好適な上限範囲は、10%以下、8%以下、6%以下、特に5%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrOを導入することが好ましく、その場合、ZrOの好適な下限範囲は、0.001%以上、0.01%以上、0.5%以上、特に1%以上である。
【0057】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の応力深さを大きくする成分である。また、Pは、ヤング率を低く抑制する成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなる。よって、Pの好適な上限範囲は、10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、1%以下、特に0.1%未満である。
【0058】
清澄剤として、As、Sb、SnO、F、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0~30000ppm(3%)導入してもよい。SnO+SO+Clの含有量は、清澄効果を的確に享受する観点から、好ましくは0~10000ppm、50~5000ppm、80~4000ppm、100~3000ppm、特に300~3000ppmである。ここで、「SnO+SO+Cl」は、SnO、SO及びClの合量を指す。
【0059】
SnOの好適な含有範囲は0~10000ppm、0~7000ppm、特に50~6000ppmである。SOの好適な含有範囲は0~1000ppm、0~800ppm、特に10~500ppmである。Clの好適な含有範囲は0~1500ppm、0~1200ppm、0~800ppm、0~500ppm、特に50~300ppmである。
【0060】
Nd、La等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分であり、また補色となる色を加えると、消色して、ガラスの色味をコントロールし得る成分である。しかし、希土類酸化物は、原料自体のコストが高く、また多量に導入すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は、好ましくは4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下である。
【0061】
本発明では、環境面の配慮から、実質的にAs、F、PbO、Biを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が500ppm未満であることを指す。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が500ppm未満であることを指す。
【0062】
上記強化用ガラス1の組成は一例であり、イオン交換可能な成分を含有していれば任意の組成のガラスを採用可能である。なお、本発明における強化用ガラスには、ガラス質を含む広義のガラス物品が含まれ、例えば、結晶質およびガラス質の双方を含むガラスセラミックス(或いは結晶化ガラスと称される)等が含まれる。
【0063】
強化用ガラス1の歪点は、ガラス組成によっても変動するため、特に限定されるものではないが、例えば500~650℃である。ここで、強化用ガラス1の歪点は、ASTM C336に基づいて測定した値とする。
【0064】
熱処理工程S2は、強化用ガラス1に熱処理を施すことにより異質層を再生する工程である。図3に示すように、熱処理工程S2は、強化用ガラス1を室温付近から保持温度Pまで昇温する昇温工程S21と、強化用ガラス1を保持温度Pで所定の保持時間Qに亘って保持する保持工程S22と、強化用ガラス1を保持温度から室温付近まで降温する降温工程S23とを、この順に備える。なお、熱処理工程S2は、バッチ式又は連続式の加熱炉を用いて行うことができる。
【0065】
昇温工程S21における昇温速度は、例えば10~1000℃/minである。また、降温工程S23における降温速度は、例えば10~1000℃/minである。なお、昇温工程S21における昇温速度及び降温工程S23における降温速度は、保持工程S22における熱処理条件が満たされている限り、特に限定されない。
【0066】
保持工程S22における保持温度Pは、強化用ガラス1の歪点-15℃以上であり、保持工程S22における保持時間Qは、3分以上である。このような保持工程S22を含む熱処理工程S2によれば、図4に示すように、強化用ガラス1の第一主表面2に異質層6が再生される。つまり、強化用ガラス1の第一主表面2及び第二主表面3のそれぞれの表層部2a、3aに、同程度の厚みを有する異質層4、6を再び形成することができる。
【0067】
保持工程S22では、意図しない強化用ガラス1の変形を抑制する観点からは、保持温度Pが、歪点+50℃以下であり、保持時間Qが、10分以上であることが好ましい。この場合、保持時間Qは、30分以上であることがより好ましい。もちろん、この場合でも、保持時間Qは、3分以上であればよい。
【0068】
保持工程S22では、異質層6の再生を効率よく行う観点からは、保持温度Pが、歪点+85℃以上であることが好ましい。この場合、保持時間Qは、好ましくは、3分以上、10分以上、特に30分以上である。
【0069】
保持工程S22では、生産効率を向上させる観点からは、保持時間Qが、60分以下であることが好ましい。
【0070】
化学強化工程S3は、強化用ガラス1をイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る工程である。強化用ガラス1は、例えば、イオン交換処理用の溶融塩に浸漬して処理される。
【0071】
溶融塩は、強化用ガラス1中の成分とイオン交換可能な成分を含む塩であり、典型的にはアルカリ硝酸塩である。アルカリ硝酸塩としては、NaNO、KNO、LiNO等が挙げられ、これらを各々単独で(100質量%で)或いは複数種を混合して用いることができる。複数種のアルカリ硝酸塩を混合する場合の混合比率は任意に定めてよいが、例えば、質量%でNaNO 5~95%、KNO 5~95%、好ましくはNaNO 30~80%、KNO 20~70%、より好ましくはNaNO 50~70%、KNO 30~50%とすることができる。
【0072】
溶融塩の温度および浸漬時間等の条件は、所望の応力特性を得られる範囲で、ガラス組成等に応じて設定してよいが、溶融塩の温度は、例えば、350℃~500℃、好ましくは355℃~470℃、360℃~450℃、365℃~430℃、特に370℃~410℃である。また、浸漬時間は、例えば、3~300分、好ましくは5~120分、より好ましくは7~100分である。
【0073】
なお、化学強化工程S3は、強化時のサーマルショックによる強化用ガラス1の破損を抑制するために、強化用ガラス1を予熱する予熱工程を含んでいてもよい。この場合、上記の熱処理工程S2は、予熱工程の一環として行ってもよい。なお、既存の工程を変更するとかえって生産効率が低下する場合は、前述の通り予熱工程と熱処理工程S2とを独立して行うことが好ましい。この場合、熱処理工程S2の後、予熱工程前に、強化用ガラス1を一旦常温(0~50℃)まで降温してよい。
【0074】
化学強化工程S3の後、強化ガラスは、洗浄および乾燥されることが好ましい。また、強化ガラスは、表面に保護フィルムを貼り付けて保護されることが好ましい。保護フィルムとしては、自己粘着性フィルム又は微粘着性フィルムを用いることが好ましい。
【0075】
以上のような強化ガラスの製造方法であれば、熱処理工程S2における熱処理により、強化用ガラス1の第一主表面2の表層部2aにも異質層6が再生される。つまり、強化用ガラス1の第一主表面2及び第二主表面3のそれぞれの表層部2a、3aに、同程度の厚みの異質層4、6が形成された状態となる。そのため、その後の化学強化工程S3で強化用ガラス1を化学強化すれば、両主表面で共に高い圧縮応力を有しつつ、反りが小さい強化ガラスを得ることができる。
【0076】
(第二実施形態)
図5に示すように、本発明の第二実施形態では、強化ガラスの製造方法を例示する。
【0077】
同図に示すように、本実施形態に係る強化ガラスの製造方法は、成形工程T1と、徐冷工程T2と、冷却工程T3と、切断工程T4と、除去工程T5と、熱処理工程T6と、化学強化工程T7とを、この順に備えている。成形工程T1、徐冷工程T2、冷却工程T3、切断工程T4及び除去工程T5が、第一実施形態の準備工程S1に相当する。なお、第一実施形態の準備工程S1は、これらの工程T1~T5に限定されるものではない。準備工程S1は、例えば、これら工程の中の一部(例えば除去工程T5)のみを行う工程であってもよい。
【0078】
成形工程T1は、本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法を用いて強化用ガラス1(厳密にはガラスリボン)を成形する工程である。なお、強化用ガラス1の成形方法は、これに限定されず、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法や、フロート法など公知の成形方法であってもよい。
【0079】
徐冷工程T2は、成形直後に強化用ガラス1を0.5℃/s以上の冷却速度で徐冷する工程である。ここで、「成形直後」とは、成形された強化用ガラス1が室温付近まで冷却される前の高温状態を意味する。つまり、徐冷工程T2は、一旦室温付近まで冷却された強化用ガラス1を再加熱する熱処理とは異なる。
【0080】
冷却工程T3は、強化用ガラス1を室温付近まで冷却する工程である。
【0081】
本実施形態では、成形工程T1、徐冷工程T2及び冷却工程T3では、図6に示す製造装置11が用いられる。製造装置11は、溶融ガラス12からガラスリボン13を連続成形する成形ゾーン14と、ガラスリボン13を徐冷する徐冷ゾーン15と、ガラスリボン13を室温付近まで冷却する冷却ゾーン16と、成形ゾーン14、徐冷ゾーン15及び冷却ゾーン16のそれぞれに上下複数段に設けられたローラ対17とを備えている。成形ゾーン14では成形工程T1が行われ、徐冷ゾーン15では徐冷工程T2が行われ、冷却ゾーン16では冷却工程T3が行われる。
【0082】
成形ゾーン14及び徐冷ゾーン15は、ガラスリボン13の搬送経路の周囲が壁部で囲まれた炉により構成されており、ガラスリボン13の温度を調整するヒータ等の加熱装置が炉内の適所に配置されている。一方、冷却ゾーン16は、ガラスリボン13の搬送経路の周囲が壁部に囲まれることなく常温の外部雰囲気に開放されており、ヒータ等の加熱装置は配置されていない。徐冷ゾーン15及び冷却ゾーン16を通過することで、ガラスリボン13に所望の熱履歴が付与される。
【0083】
成形ゾーン14の内部空間には、オーバーフローダウンドロー法により溶融ガラス12からガラスリボン13を成形する成形体18が配置されている。成形工程T1では、成形ゾーン14の内部空間において、成形体18に供給された溶融ガラス12が成形体18の頂部18aに形成された溝部(図示省略)から溢れ出るようになっており、その溢れ出た溶融ガラス12が成形体18の断面楔状を呈する両側面18bを伝って下端18cで合流することで、板状のガラスリボン13が連続成形される。成形されたガラスリボン13は、縦姿勢のまま下方に搬送される。
【0084】
徐冷ゾーン15の内部空間は、下方に向かって所定の温度勾配を有している。徐冷工程T2では、徐冷ゾーン15の内部空間において、縦姿勢のガラスリボン13が下方に移動することで、ガラスリボン13が0.5℃/s以上の冷却速度で徐冷される。徐冷時の冷却速度は、好ましくは、1℃/s以上、2℃/s以上、3.5℃/s以上、4℃/s以上、特に5℃/s以上である。また、徐冷時の冷却速度は、好ましくは、20℃/s以下、15℃/s以下、特に12℃/s以下である。このような徐冷工程T2により、ガラスリボン13の内部歪が抑制されると共に、ガラスリボン13の両主表面に異質層が形成される。徐冷ゾーン15の内部空間の温度勾配は、例えば徐冷ゾーン15の壁部内面に設けた加熱装置により調整することができる。
【0085】
複数のローラ対17は、縦姿勢のガラスリボン13の幅方向両端部を表裏両側から挟持する。成形ゾーン14に配置された最上部のローラ対17は、冷却ローラであり、エッジローラと称される場合もある。なお、徐冷ゾーン15の内部空間などでは、複数のローラ対17の中に、ガラスリボン13の幅方向両端部を挟持しないものが含まれていてもよい。つまり、ローラ対17の対向間隔をガラスリボン13の幅方向両端部の厚みよりも大きくし、ローラ対17の間をガラスリボン13が通過するようにしてもよい。
【0086】
本実施形態では、製造装置11で得られたガラスリボン13の幅方向両端部は、成形過程の収縮等の影響により、幅方向の中央部に比べて板厚が大きい部分(以下、「耳部」ともいう)を含む。
【0087】
切断工程T4は、上述の成形工程T1、徐冷工程T2及び冷却工程T3を経たガラスリボン13を切断し、図7に示す強化用ガラス21を得る工程である。詳細には、切断工程T4では、例えば、(1)ガラスリボン13を切断して大板状のマザ-ガラスを得た後に、そのマザーガラスを切断して強化用ガラス21を得る場合と、(2)ガラスリボン13をロール状に巻き取ってガラスロールを得た後にそのガラスロールから巻き出したガラスリボン13を切断して強化用ガラス21を得る場合とがある。
【0088】
図7に示すように、切断工程T4を経て得られた強化用ガラス21の第一主表面22及び第二主表面23のそれぞれの表層部22a、23aには、徐冷工程T2に起因した異質層24、25が形成されている。
【0089】
図8に示すように、除去工程T5は、強化用ガラス21の第一主表面22及び第二主表面23のうち、第一主表面22の表層部23aのみを除去する工程である。つまり、除去工程T5後の強化用ガラス21の厚みD1は、除去工程T5前(切断工程T4)の強化用ガラス21の厚みD0よりも除去厚みΔDだけ薄くなる。ΔDは、好ましくは1~50μm、2~40μm、特に3~30μmである。なお、第二主表面23の除去厚みが、第一主表面22の除去厚みよりも小さければ、第一主表面22及び第二主表面23のそれぞれの表層部22a、23aを除去してもよい。このような除去工程T5により、第一主表面22側の異質層24の一部又は全部が除去され、第二主表面23側の異質層25の厚みが、第一主表面22側の異質層24の厚み(零を含む)よりも大きくなる。除去工程T5は、例えば、強化用ガラス21の端面を斜めに傾斜させた、いわゆる2.5D形状などの特殊形状に端面を加工する一環として行われる。
【0090】
強化用ガラス21の表層部の除去方法は、特に限定されるものではないが、例えば、エッチングなどの化学研磨、砥粒研磨などの機械研磨、化学機械研磨(CMP)などが挙げられる。本実施形態では、強化用ガラス21の表層部の除去方法として、エッチングが用いられる。
【0091】
機械研磨を用いる場合は、例えば、強化用ガラス21の第一主表面22に対して、#1000アルミナ砥粒が付着した耐水研磨紙に水を添加しながら摺動させることで実施する。そののち、酸化セリウム粉を用いて化学機械研磨を行ってもよい。
【0092】
エッチングを用いる場合、例えば、強化用ガラス21の第二主表面23に保護膜を形成した状態で、強化用ガラス21全体を液状のエッチング液に浸漬し、強化用ガラス21をウェットエッチングする。保護膜としては、第二主表面23がエッチングにより除去されるのを完全に防止するエッチング防止膜の他、第二主表面23のエッチングレートを第一主表面22のエッチングレートよりも遅くするエッチング抑制膜を使用することができる。保護膜は、エッチング終了後に強化用ガラス21から剥離する。
【0093】
エッチング液としては、ガラスをエッチング可能な酸性またはアルカリ性の水溶液を使用可能である。
【0094】
酸性のエッチング液としては、例えば、HFを含む酸性水溶液を用いることができる。HFを含む水溶液を用いた場合、ガラスに対するエッチングレートが高く、生産性が向上する。
【0095】
HFを含む水溶液は、例えば、HFのみ、あるいはHFとHClとを、HFとHNOとを、HFとHSO、HFとNHFとを、各々組み合わせて含有した水溶液である。HF、HCL、HNO、HSO、NHF各々の化合物の濃度は、0.1~30mol/Lであることが好ましい。HFを含む水溶液を用いたエッチングにおいては、ガラス成分を含むフッ化物が副産物として生成され、エッチングレートの低下や欠陥の要因となり得るが、上述のようにHCL、HNO、或いはHSO等の他の酸との混酸とすることにより、当該副産物を分解して生産性の低下を抑制できる。酸性水溶液を用いてエッチングを行う場合、酸性水溶液の温度は例えば10~30℃であり、強化用ガラス1を浸漬する時間は例えば0.1~60分間であることが好ましい。
【0096】
アルカリ性のエッチング媒質としては、NaOH又はKOHを含有したアルカリ水溶液を用いることができる。アルカリ水溶液は、上述のHFを含むエッチング媒質に比べガラスに対するエッチングレートが比較的小さいため、エッチング量を精密にコントロールし易い利点がある。
【0097】
NaOH又はKOHを含む水溶液においてアルカリ成分の濃度は、1~20mol/Lであることが好ましい。アルカリ水溶液を用いてエッチングを行う場合、アルカリ水溶液の温度は例えば10~130℃であり、強化用ガラス1を浸漬する時間は例えば0.5~120分間であることが好ましい。なお、エッチングレートを上げて生産性を上げる場合、アルカリ水溶液の温度を80℃以上に加温することが好ましい。逆に、より高い精度でエッチング量をコントロールしたい場合、アルカリ水溶液の温度を70℃以下に制限することが好ましい。また、エッチングレートの大きさをより重視する場合はNaOHの水溶液を用いることが好ましい。
【0098】
なお、エッチングは、強化用ガラス21の第一主表面22にエッチング液を塗布又は噴霧することによって行ってもよい。
【0099】
熱処理工程T6は、強化用ガラス21に熱処理を施すことにより異質層を再生する工程である。具体的には、強化用ガラス21を歪点-15℃以上の保持温度で3分以上保持して熱処理する工程であり、詳細は、第一実施形態の熱処理工程S2と同様である。このような熱処理工程T6によれば、図9に示すように、強化用ガラス21の第一主表面22に異質層24が再生される。つまり、強化用ガラス21の第一主表面22及び第二主表面23のそれぞれの表層部22a、23aに、同程度の厚みを有する異質層24、25を再び形成することができる。
【0100】
化学強化工程T7は、強化用ガラス21をイオン交換処理により化学強化して強化ガラスを得る工程であり、詳細は、第一実施形態の化学強化工程S3と同様である。上記の熱処理工程T6後に化学強化工程T7を行えば、両主表面で共に高い圧縮応力を実現しつつ、反りが小さい強化ガラスを得ることができる。
【0101】
(第三実施形態)
図10に示すように、本発明の第三実施形態では、上述の第一実施形態又は第二実施形態で説明した強化ガラスの製造方法により製造された強化ガラスを例示する。
【0102】
同図に示すように、強化ガラス31は、第一主表面32の表層部32aに第一圧縮応力層33を有すると共に、第二主表面34の表層部34aに第二圧縮応力層35を有する。また、強化ガラス31は、圧縮応力層33、35の間の内部層36に引張応力層37を有する。なお、強化ガラス31は、第一主表面32と第二主表面34とを繋ぐ端面の表層部に圧縮応力層を有していてもよい。
【0103】
第一主表面32は研磨面で構成され、第二主表面34は未研磨面で構成される。第二主表面34は、オーバーフローダウンドロー法により成形されたままの火造り面である。つまり、研磨面で構成される第一主表面32の表面粗さRa1は、未研磨面で構成される第二主表面34の表面粗さRa2よりも大きい。第一主表面32の表面粗さRa1は、0.1nm~2.0nmであり、好ましくは0.1nm~1.0nm、特に0.1nm~0.5nmである。第二主表面34の表面粗さRa2は、0.1nm~1.0nmであり、好ましくは0.1nm~0.5nm、特に0.1nm~0.2nmである。第一主表面32の表面粗さRa1と第二主表面34の表面粗さRa2との差の絶対値は、0.1nm以上であり、好ましくは0.1nm~1.0nm、特に0.1nm~0.5nmである。ここで、「表面粗さRa(Ra1及びRa2)」は、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を指す。なお、第一主表面32及び第二主表面34が、共に研磨面で構成されていてもよい。
【0104】
第一圧縮応力層33の圧縮応力CS1及び第二圧縮応力層35の圧縮応力CS2は、それぞれ820MPa以上であり、好ましくは830MPa、840MPa、特に850MPaである。ただし、研磨面である第一主表面32側の第一圧縮応力層33の圧縮応力CS1が、未研磨である第二主表面34側の第二圧縮応力層35の圧縮応力CS2よりも小さくなる傾向がある。第一圧縮応力層33の圧縮応力CS1と第二圧縮応力層35の第二圧縮応力CS2との差(CS1-CS2)の絶対値は、40MPa以下であり、好ましくは30MPa以下、20MPa以下、特に10MPa以下である。CS1/CS2は、95%以上105%以下であることが好ましい。また、第一圧縮応力層33の応力深さDOL1及び第二圧縮応力層35の応力深さDOL2のぞれぞれは、1~100μmであり、好ましくは10~90μm、20~80μm、特に30~70μmである。第一圧縮応力層33の応力深さDOL1と第二圧縮応力層35の応力深さDOL2との差(DOL1-DOL2)の絶対値は、10μm以下であり、好ましくは5μm以下、3μm以下、特に1μm以下である。ここで、「圧縮応力CS(CS1及びCS2)」及び「応力深さDOL(DOL1及びDOL2)」は、表面応力計(例えば、有限会社折原製作所製FSM-6000)を用いて、干渉縞の本数とその間隔を観察することで算出したものである。
【0105】
強化ガラス31は、平坦な板状である。強化ガラス31の反りは、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、特に好ましくは10~150μm以下である。
【0106】
なお、本発明の実施形態に係る強化ガラス及びその製造方法について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0107】
上記の実施形態では、強化ガラスの形状が平面視で矩形状(長方形又は正方形)である場合を例示したが、強化ガラスの形状は特に限定されるものでなく、例えば、平面視で円形、楕円形などの任意の形状とすることができる。
【0108】
上記の実施形態では、1回のイオン交換処理により強化ガラスを製造する場合を例示したが、2回又は3回以上のイオン交換処理により強化ガラスを製造してもよい。
【0109】
上記の実施形態に係る強化ガラスは、任意の板状またはシート状の樹脂材料、或いは金属材料、ガラス等の透明材料と接着剤等を介して積層し、積層体として用いることができる。
【実施例0110】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0111】
強化用ガラスとして、ガラス組成としてモル%で、SiO 66.4%、Al 11.5%、B 0.5%、KO 1.4%、NaO 15.2%、LiO 0.02%、MgO 4.8%、CaO 0.1%、SnO 0.1%を含むガラス板(歪点:564℃)を用意した。なお、本実施例の強化用ガラスは、オーバーフローダウンドロー法により成形されたガラス板であり、成形直後の徐冷時の冷却速度は、5℃/sである。強化用ガラスの大きさは、縦横寸法が共に50mmであり、その厚みは0.7mmである。
【0112】
この強化用ガラスの第一主表面及び第二主表面のうち、第一主表面のみを機械研磨および化学機械研磨により50μm除去し、保持温度及び保持時間を変えた熱処理を行って、各サンプル(実施例1~6、比較例1~4)を作成した。なお、比較例4に係るサンプルに対しては、片面研磨後の熱処理は行っていない。研磨面で構成される第一主表面の表面粗さRa1は、0.40nmであり、未研磨面で構成される第二主表面の表面粗さRa2は、0.17nmである。ここで、「Ra1」及び「Ra2」は、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を指す。
【0113】
作成した各サンプルを化学強化(溶融塩:KNO、処理温度:430℃、処理時間:4時間)し、各サンプルの第一主表面に第一圧縮応力層を形成すると共に、第二主表面に第二圧縮応力層を形成した。そして、各サンプルについて、第一圧縮応力層の圧縮応力CS1、応力深さDOL1を測定すると共に、第二圧縮応力層の圧縮応力CS2、応力深さDOL2を測定した。また、これらの測定値から、各サンプルについて、CS2-CS1及びCS1/CS2を計算した。その結果を表1に示す。ここで、「CS1」、「CS2」、「DOL1」及び「DOL2」は、有限会社折原製作所製のFSM-6000を用いて測定した値を指す。
【0114】
【表1】
【0115】
保持温度が歪点-15℃未満(450℃)の比較例1~3、及び、熱処理を行っていない比較例4では、研磨面である第一主表面のCS1が820MPa未満となり、両主表面でCSが高い強化ガラスを製造することができなかった。このことからも、比較例1~4では、強化用ガラスの第一主表面に異質層が無かったり、あるいは十分再生されていないことが確認できる。
【0116】
これに対し、保持温度が歪点-15℃以上(550℃)かつ保持時間が3分以上の実施例1~実施例6では、研磨面である第一主表面でもCSが820MPa以上となり、両主表面でCSが高い強化ガラスを製造することができた。このことからも、実施例1~6では、強化用ガラスの第一主表面に異質層が十分再生されていることが確認できる。特に、保持温度が歪点+85℃以上(650℃)かつ保持時間が3分以上の実施例1~3、保持温度が歪点+50℃以下(550℃)かつ保持時間が10分以上の実施例5~6において、CS1/CS2(表裏CS比)が96%以上となり、CS2-CS1(表裏CS差)が特に小さい強化ガラスを製造できるという良好な結果を得た。
【0117】
なお、比較例4については、反りが、強化前では約100μmであったのに対し、強化後では約300μmまで増加した。これに対し、実施例1~6のいずれにおいても、強化後の反りを250μm以下に抑制することができた。ここで、「反り」は、アポロ社製レーザー変位計式反り測定器を用いて測定した値を指す。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の強化ガラスは、例えば、携帯電話(特にスマートフォン)、タブレットコンピュータ、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、タッチパネルディスプレイ、その他ディスプレイデバイスのカバーガラス、車載用表示デバイス、車載用パネル等に利用可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 強化用ガラス
2 第一主表面
3 第二主表面
4、6 異質層
21 強化用ガラス
22 第一主表面
23 第二主表面
24、25 異質層
31 強化ガラス
32 第一主表面
33 第一圧縮応力層
34 第二主表面
35 第二圧縮応力層
37 引張応力層
S1 準備工程
S2 熱処理工程
S3 化学強化工程
T1 成形工程
T2 徐冷工程
T3 冷却工程
T4 切断工程
T5 除去工程
T6 熱処理工程
T7 化学強化工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10