(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139072
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】炭素化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/00 20170101AFI20220915BHJP
【FI】
C01B32/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039298
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下位 法弘
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC11A
4G146AC11B
4G146AC20A
4G146AC20B
4G146AD21
4G146AD22
4G146AD24
4G146AD26
4G146AD30
4G146BA12
4G146CB16
4G146DA33
(57)【要約】
【課題】従来の結晶構造にない新規な特性を提供し得る、新規な結晶構造の炭素化合物を提供する。
【解決方法】 本発明の炭素化合物は、結晶性の基質上に形成され、当該基質を架橋しているスピネル型の結晶構造の相を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性の基質上に形成され、当該基質を架橋しているスピネル型の結晶構造の相を含むことを特徴とする、炭素化合物。
【請求項2】
前記スピネル型の結晶構造の相と連続して、前記基質と反対側にグラファイトが多段に積層されてなる構造のポリカーボン相を含むことを特徴とする、請求項1に記載の炭素化合物。
【請求項3】
厚さ100nm以下における抵抗率が10-5~10-10Ω・mであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭素化合物。
【請求項4】
前記抵抗率が前記炭素化合物の厚さの増大とともに減少することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素化合物。
【請求項5】
電子源が配設されたカソードと、当該カソードと対向して結晶性の基質が配設されたアノードとを配設する工程と、
前記カソード及び前記アノード間において、前記カソード側にゲート電極を配設し、前記アノード側に加速度電極を配設する工程と、
前記ゲート電極及び前記加速度電極間にアセチレン系ガスを流し、前記電子源から放出された電子と、前記ゲート電極に印加された電圧とで前記アセチレン系ガスを分解して、イオン化した炭素及びハイドロカーボンの少なくとも一方を得る工程と、
前記炭素及びハイドロカーボンの少なくとも一方を前記加速度電極に印加された電圧で加速して、前記アノードの前記基質に照射する工程と、
を含むことを特徴とする、炭素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、未来の炭素材料として注目されているものに、フラーレンやカーボンナノチューブ等があり、これらの材料を構成している原子は黒鉛やダイヤモンドと同じ炭素Cであるが、球状やチューブ状に原子が閉じた結合をした構造をもっている。特にナノサイズのチューブ状に結合した構造を持つカーボンナノチューブは半導体デバイス材料や電池材料を初め、導電性材料、水素貯蔵材料、キャパシター材料、超硬材料、医薬品、レジスト材料などへの応用が期待されている。
【0003】
また、60個の原子がサッカーボール状に結合した構造を持つものがフラーレンの中での代表的な構造のものであり、上記用途に加え、超伝導材料や超硬材料などへの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】炭素入門(https://www.toyotanso.co.jp/introduction/future.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状の炭素化合物の結晶構造は、上述のようなフラーレンやカーボンナノチューブ等の特殊な構造に加えて、グラファイト構造、ダイヤモンド構造のものしか知られておらず、その特性向上には自ずから限界があった。
【0006】
本発明は、従来の結晶構造にない新規な特性を提供し得る、新規な結晶構造の炭素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、以下に示す通りである。
(1)結晶性の基質上に形成され、当該基質を架橋しているスピネル型の結晶構造の相を含むことを特徴とする、炭素化合物。
(2)前記スピネル型の結晶構造の相と連続して、前記基質と反対側にグラファイトが多段に積層されてなる構造のポリカーボン相を含むことを特徴とする、(1)に記載の炭素化合物。
(3)厚さ100nm以下における抵抗率が10-5~10-10Ω・mであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の炭素化合物。
(4)前記抵抗率が前記炭素化合物の厚さの増大とともに減少することを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1項に記載の炭素化合物。
(5)電子源が配設されたカソードと、当該カソードと対向して結晶性の基質が配設されたアノードとを配設する工程と、前記カソード及び前記アノード間において、前記カソード側にゲート電極を配設し、前記アノード側に加速度電極を配設する工程と、前記ゲート電極及び前記加速度電極間にアセチレン系ガスを流し、前記電子源から放出された電子と、前記ゲート電極に印加された電圧とで前記アセチレン系ガスを分解して、イオン化した炭素及びハイドロカーボンの少なくとも一方を得る工程と、前記炭素及びハイドロカーボンの少なくとも一方を前記加速度電極に印加された電圧で加速して、前記アノードの前記基質に照射する工程と、を含むことを特徴とする、炭素化合物の製造方法
【発明の効果】
【0008】
以上、本発明によれば、従来の結晶構造にない新規な特性を提供し得る、新規な結晶構造の炭素化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における炭素化合物の製造装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施例における炭素化合物のSEM写真である。
【
図3】実施例における炭素化合物の電子線透過像である。
【
図4】実施例における炭素化合物の電子線透過像である。
【
図5】実施例における炭素化合物の電気特性計測装置図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の詳細及びその他の特徴について、実施の形態に基づいて説明する。
(炭素化合物)
本発明の炭素化合物は、結晶性の基質上に形成され、当該基質を架橋しているスピネル型の結晶構造の相を含む。このような構造の炭素化合物は従来に存在しなかったため、種々の特性を示すことが期待される。
【0011】
例えば、スピネル型の結晶構造に由来して、従来のカーボンには存在しなかった磁性を呈することが期待される。
【0012】
また、電気特性においても変化を見ることができ、例えば、厚さ100nm以下における抵抗率が10-5~10-10Ω・m程度と金属アルミニウム等と同程度の抵抗率を示し、金属的な特性を有することが分かる。なお、当該抵抗率を示す最低の厚さは、例えば20nmである。
【0013】
さらに、本発明の炭素化合物は厚さの増大とともにその抵抗率が減少し、やはり金属薄膜と類似の特性を示し、金属的な特性を有することが分かる。例えば、厚さが0.02μm~1.2μmに増大する間に、抵抗率は10-5~10-10Ω・mにまで減少する。
【0014】
現在、上記のような特性は、特に金属的な特性に関しては、炭素化合物中のスピネル型の結晶構造のみではなく、スピネル型の結晶構造の相と連続して、基質と反対側にグラファイトが多段に積層されてなる構造のポリカーボン相を含むという当該炭素化合物の特性に依存していると考えられる。
【0015】
なお、本発明でいうところの「架橋」とは、主に高分子化学においてポリマー同士を連結し、物理的、化学的性質を変化させる反応を意味するものではなく、以下の実施例の結果からも明らかように、互いの結晶構造が橋を架けたように結合しているような広義の結合状態を意味するものである。
【0016】
(炭素化合物の製造方法)
次に、上記炭素化合物の製造方法の一例について説明する。
図1は、炭素化合物の製造装置10の一例を示す概略構成図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の炭素化合物の製造装置10は、カソード11と、当該カソード11と対向するようにして配設されたアノード12とを有している。カソード11上には、ITO透明導電膜13を電極として電子源14が配設されている。また、アノード12上には目的とする炭素化合物を形成するための結晶性の基質15が配設されている。
【0018】
さらに、カソード11とアノード12との間には、カソード11側にゲート電極16が配設され、アノード12側に加速度電極17が配設されている。
【0019】
カソード11、アノード12、ゲート電極16及び加速度電極17は電気伝導性に優れた金属、例えばアルミニウム、金、銀、銅や、耐熱性に優れた鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、モリブデン及びこれらの合金等を用いることができる。
【0020】
また、電子源14も特に限定されるものではないが、安定した電子放出を行うという観点からカーボンナノチューブから構成することが好ましく、特には高結晶性単層カーボンナノチューブから構成することが好ましい。
【0021】
基質15も結晶性を有していれば特に限定されるものではなく、シリコン等の半導体や酸化亜鉛等のセラミックを用いることができる。
【0022】
なお、以下に説明するように、炭素化合物の製造にはアセチレン系ガスを使用するので、製造装置10の全体は必要に応じて真空チャンバ等の容器内に配設することが好ましい。
【0023】
また、製造装置10の大きさは適宜に設定することができるが、例えばカソード11及びアノード12間は0.1~1.0cm、カソード11及びゲート電極14間は0.005~0.02cm、アノード12及び加速度電極17間は0.1~0.5cmとすることができる。
【0024】
以上のような製造装置10を準備した後、カソード11及びアノード12間、より具体的にはゲート電極14及び加速度電極17間にアセチレン系ガス18を流す。アセチレン系ガス18とは、いわゆるアセチレン系炭化水素を意味するものであり、炭素間に三重結合を有する物質を意味するものである。具体的には、アセチレン、プロピン、1-ブチン等を挙げることができるが、最も反応性に富み、安価で入手が容易であることから、一般にはアセチレンを用いる。
【0025】
アセチレン系ガス18を所定の流量で流すと同時に、カーボンナノチューブ14から例えば70nA/cm2以上の電流密度(ドーズ量)で電子を放出し、ゲート電極16に例えば18~40Vの電圧を印加すると、アセチレン系ガス18は分解され、イオン化した炭素あるいはハイドロカーボンとなる。
【0026】
次いで、このイオンを加速度電極17に例えば200~600Vの電圧を印加して当該イオンを加速し、基質15に照射する。すると、基質15上に上述した少なくともスピネル型の結晶構造からなる相を含む炭素化合物が形成される。
【0027】
このように、本実施形態によれば、電子源を配設したカソードと、基質を配設したアノードとを対向させ、その間にゲート電極及び加速度電極を配設し、ゲート電極でアセチレン系ガスを分解し、加速度電極で分解して得たイオンを基質へ向けて加速して照射するという、電界電子放出の原理を用いた簡易な操作を行うのみで、目的とするスピネル型の結晶構造の相を有する炭素化合物を得ることができる。
【実施例0028】
(実施例1)
図1に示すような製造装置10を用いてスピネル型の結晶構造の相を有する炭素化合物を製造した。
【0029】
カソード11及びアノード12を金属もしくは半導体基板から構成し、ゲート電極16及び加速度電極17をステンレス加工板から構成した。次いで、カソード11及びアノード12間距離を0.35cmとし、カソード11及びゲート電極16間距離を0.01cmとし、アノード12及び加速度電極17間距離を0.17cmとした。
【0030】
また、電子源14として電子放出サイズ15×15mm2の高結晶性単層カーボンナノチューブを用い、ゲート電極16の印加電圧を22Vとした。さらに、加速度電極17への印加電圧を500Vとした。
【0031】
なお、本実施例では、製造装置10の全体を真空チャンバ内に収容し、その内部の圧力が1.6Paとなるように、アセチレンガスを導入した。また、基質15として、湿式合成により形成された酸化亜鉛を用いた。
【0032】
図2は得られた炭素化合物のSEM写真である。なお、
図2に示すSEM写真は、得られた炭素化合物を樹脂包埋した試験片を集束イオンビーム加工で剥片加工したものを写したものである。
【0033】
図2(a)から明らかなように、炭素化合物の内部には細かな空隙が見られるものの、マクロ的には楕円状であることが分かる。また、
図2(b)は、
図2(a)の白丸部分を拡大したものであるが、もともと粒状であった酸化亜鉛粒子が非平衡励起反応場により結晶C軸方向で選択的に架橋し、その結果楕円状粒子となっていることが分かる。そして、これら楕円状酸化亜鉛の粒子間に炭素膜が被覆されていることが分かる。
【0034】
図3は、酸化亜鉛と炭素膜との界面付近における結晶構造について、加速電圧300kVの高分解能電子線等価顕微鏡(HRTEM:日本電子株式会社製)を用いて観察した透過像である。
【0035】
図3(a)は、酸化亜鉛と炭素膜界面の高解像電子透過像を表し、酸化亜鉛表面に20nm程度の炭素膜が形成されており、酸化亜鉛と炭素膜との明瞭な界面が確認できることが分かる。
【0036】
図3(b)及び
図3(c)は、酸化亜鉛側の回折パターン及びフーリエ変換像を表す。
図3(a)~(c)の画像より、酸化亜鉛のC軸方向と炭素の多層膜が平行に配列していることが判明した。
【0037】
さらに、上記多層膜の回折パターンを撮像し、そのフーリエ変換像を得た(
図4(d)参照)。この結果、この多層膜はスピネル型の結晶構造を有することが判明した。
【0038】
このとき、上述のように、スピネル型の結晶構造を有する相と酸化亜鉛のC軸とは、互いに平行に結合していることから、上記相と酸化亜鉛とは架橋していることが分かる。
【0039】
また、
図3(e)から明らかなように、酸化亜鉛表面から離れた箇所の炭素膜はグラファイト層が多段に積み重なったポリカーボン相となっていることが判明した。
【0040】
(実施例2)
実施例1において、基質を酸化亜鉛から厚さ0.625mmのシリコン基板に変更した以外は、同様の製造装置10を用い、同様の条件で炭素化合物の形成を行った。
【0041】
図4は、酸化亜鉛と炭素膜との界面付近における結晶構造について、加速電圧300kVの高分解能電子線等価顕微鏡(HRTEM:日本電子株式会社製)を用いて観察した透過像である。
【0042】
図4から明らかなように、本実施例においても、実施例1と同様に、シリコンのC軸方向と炭素の多層膜が平行に配列していることが判明し、上記多層膜の回折パターンを撮像し、そのフーリエ変換像を得た。この結果、この多層膜はスピネル型の結晶構造を有することが判明した。
【0043】
また、スピネル型の結晶構造を有する相と酸化亜鉛のC軸とは、互いに平行に結合していることから、上記相とシリコンとは架橋していることが分かる。
【0044】
さらに、上述のようにして得たスピネル型の結晶構造の相を有する炭素化合物の抵抗率を
図5に示す装置を用いて測定したところ、厚さ0.03μmにおいて約10
-3~10
-5Ω・cmの抵抗率を示し、アルミニウムと同程度の低い抵抗率、すなわち高伝導性が得られることが判明した。
【0045】
また、厚さが0.03μmから1.2μmに増大するに際して、抵抗率が10-5Ω・cmから10-8Ω・cmにまで減少することが確認された。
【0046】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。