(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139151
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】履物
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
A43B23/02 103
A43B23/02 101B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039410
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】500239627
【氏名又は名称】岸原工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】岸原 章浩
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC09
4F050BC10
(57)【要約】
【課題】手を使わずに、また靴ベラなしでも履けるようにする。
【解決手段】後端にかかと部14を有する短靴11aにおいて、かかと部14の上端に、上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部16を形成する。突片部16にはかかと部14に備えられる月型芯17から延設された月型芯延長部17bを芯として備えて硬度を得る。突片部16の先端高さは履き口15の前端高さよりも高くする。また突片部16は、横断面形状において内面側が凹む湾曲形状にするとともに、突片部16の先端16aの輪郭形状を丸くして、強度を高めるとともに踵に対する当たりを柔らかくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーの後端にかかと部を有する履物であって、
前記かかと部の上端に、上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部が形成された
履物。
【請求項2】
前記突片部の先端高さが履き口の前端高さよりも上である
請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記突片部が、横断面形状において内面側が凹む湾曲形状である
請求項1または請求項2に記載の履物。
【請求項4】
前記突片部の先端の輪郭が丸い形状である
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の履物。
【請求項5】
前記突片部が、前記かかと部に備えられる月型芯から延設された月型芯延長部を芯として備える
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の履物。
【請求項6】
前記かかと部の内面に、人体の足における踵の上部に当たるパッド部が形成された
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アッパーがかかと部を有する運動靴や短靴などのような履物に関する。
【背景技術】
【0002】
かかと部を有する履物では、かかとを潰さないようにして履かないといけない。これは、かかとを潰してしまうと、歩行時に足が靴の中でぶれて歩きにくくなったり、靴の寿命を縮めたりするからである。
【0003】
しかし現実は、履くときに手を使うのは面倒であるため、靴のかかと部を痛めてしまうことが多々ある。
【0004】
下記特許文献2には、歩行時のかかと部の足抜けや足浮きを防止することを目的として、かかと部に備えられるカウンター(月型芯)を踝の下位置まで高くしようとする靴が開示されている。この構成に併せてこの靴では、カウンターの上端部の全体に反り返し部を設けることが記載されている。反り返し部を形成するのは、使用者が履く時にカウンターの上端部を踏み折ることがなくスムーズに履けるようにするためである。
【0005】
しかし、反り返し部は靴をスムーズに履けるようにするための挿入ガイド部として機能するものの、上端部が踏み折られるのを防止するための反り返った形状であって足を差し入れやすくするための形状ではない。このため、足を履き口に差し入れる際には通常の靴と同様に行う必要がある。また、踝の下でも反り返っている反り返し部は、外観を考慮すると、長く形成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、手を使わずとも履けるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段は、アッパーの後端にかかと部を有する履物であって、前記かかと部の上端に、上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部が形成された履物である。
【0009】
この構成では、上から降ろされる足の踵を突片部が履物内に確実に導く。突片部は、上方斜め後方に延びているので、靴を持つときの保持部としても機能するとともに、特徴ある外観をもたらす。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、突片部は足の踵を履物内に導くので、手や靴ベラを使わずとも正しく履けるようにできる。しかも、突片部は上方斜め後方に向けて延びているので、長くして履きやすさを向上したり、特異で美麗な外観にしたりすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0013】
この発明は、履物11を履くための動作を簡単にするものであり、ここでいう履物11は、
図1に示したようにソール12とアッパー13で構成されており、アッパー13が後端にかかと部14を有している。この例においては履物11の一例として短靴11aを示すが、履物11は運動靴など他の形態の履物であってもよい。
【0014】
図1は、左右一対の短靴のうち右方のみを後方斜め上から見た斜視図であり、短靴11aのソール12は足を支える土台となる部分であり、アッパー13は足を包んで保護する部分である。
【0015】
アッパー13は、足を差し入れる履き口15を有し、履き口15よりも前側の部分に足のつま先側が収められ、履き口15より後側の部分、つまりかかと部14が足の踵を支える。
【0016】
前述のように履く動作の簡略化をはかるため、短靴11aは、かかと部14の上端に上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部16が形成されている。突片部16はアッパー13の一部であり、かかと部14と一体であって、上方斜め後方のみに指向して延びている。
【0017】
また突片部16は、横断面形状において内面側、換言すれば前面側が凹む湾曲形状であるとともに、先端16aの輪郭が丸い形状である。いわば、かかと部14の上端を、かかと部14の上端と同様に前面側から凹んだ形状のまま上方斜め後方に向けて延長させて、先端16aを平面視半円弧状に丸くした形状である。突片部16の先端部の幅は、基部の幅よりも狭く設定されており、例えばかかと部14の幅の半分程度から半分よりも若干広く設定することができる。
【0018】
突片部16の基部は、履き口15の左右両側の縁から後方に滑らかに連続して形成されており、これより先の部分が突片部16の先端側ほど徐々に細くなり先端16aの円弧状の部分につながっている。換言すれば、突片部16の輪郭形状は上部が曲線、下部が直線又は曲線である略三角形の山形をなしており、左右両側に略三角形状の傾斜辺部16bを有している。前述のように突片部16は前面側が凹む湾曲形状であるため、突片部16は左右の傾斜辺部16bの輪郭線が間隔をあけて左右に並ぶことになる。左右に並ぶ傾斜辺部16bの輪郭線は前方のほうが開く逆「ハ」の字状である。
【0019】
このような突片部16は、前述のように硬質であり、通常のかかと部の上端部とは異なり、踏んでも容易に潰れたり折れたりしない剛性を有している。このような剛性は、短靴11aのかかと部14に備えられる月型芯17の本体部17aから延設された月型芯延長部17bを突片部16の芯として備えることで得る。
【0020】
月型芯17は、ケミシートとも称されるホットメルトタイプの合成シートで形成されており、かかと部14の外装材14aと内装材14bの間に挟み込まれる。
【0021】
図2に月型芯17の背面図、縦断面図及び横断面図を示す。
図2中、(a)背面図であり、(b)はA-A断面図、(c)はB-B断面図である。これらの図に示すように、月型芯17は、かかと部14の横断面形状に沿って横断面半円弧状をなし、上方ほど幅狭になる背面視略半円形の本体部17aを有し、本体部17aの幅方向中間位置の上端から月型芯延長部17bを形成している。
【0022】
月型芯延長部17bは全体として前面側が凹む略短冊状であり、足の踵背面の上部のくびれに対応して前方に突出して湾曲する本体部17aの上端から連続して上方斜め後方に延びている。踵背面の上部のくびれに対応する部分は縦断面円弧状の湾曲部17cであり、それより上は直線状に延びる直線部17dである。湾曲部17cの大きさと直線部17dの角度や長さは適宜設定し得るが、直線部17dの角度は45度より急であるほうが好ましい。足で踏んでも月型芯17を損傷させずに踵を円滑に案内できるからである。
【0023】
突片部16は前述のように略三角形の山形であるのに対して、月型芯延長部17bは略短冊状であるので、突片部16の傾斜辺部16bに相当する部位には、月型芯17が存在しないことになる。このため、突片部16の傾斜辺部16bには剛性はなく、月型芯延長部17bを有する部分に比べて変形しやすい状態である。
【0024】
このように、突片部16は全体が硬質ではなく、一部が硬質であり、その一部とは、左右方向の中間を通る中心線を中心とした部分である。
【0025】
図3に短靴11aの側面図を示す。この図に示すように突片部16は、履き口15左右両側縁の踝の下に対応する部位から、上方斜め後方に延びている。その高さH(通常のかかと部の高さ(仮想線S参照)より上に延びる長さ)と、後方へのせり出し長さLとの関係は、
図3の例ではH>Lとしており、突片部16の先端高さT1は履き口15の前端高さT2よりも上である。突片部16の高さHは、履き口15の前後方向の長さDとの関係によって定めるとよい。
【0026】
また、
図4の一部破断側面図に示したように、かかと部14の内面には、人体の足31における踵32の上部に当たるパッド部18が左右一対形成されている。パッド部18は履いた時の踵32のホールド性を得るためのもので、かかと部14の柔軟な内装材14bの一部に、弾力性を有する適宜の材料(図示せず)を内蔵一体化して形成されている。パッド部18の形状は正面視略円形であり、
図5に横断面図で示したように、足31の踵32背面側における上部の左右両側に当たる部分に形成されている。
【0027】
突片部16を構成する内装材16cは、平滑性のある滑りやすい生地で構成される。この内装材16cはかかと部14の内装材14bと同一材料で構成するとよい。
【0028】
以上のように構成された短靴11aは、アッパー13の履き口15に足31を差し入れる動作をするだけで容易に履くことができる。すなわち、
図4に仮想線で示したように足31のつま先33を履き口15に差し入れて踵32を下すと、踵32は突片部16の上端部に当たる。突片部16は硬質であるので、潰れるような変形はなく、踵32を前方に向けてすべらし、足31が靴内に入るのを促す。
【0029】
突片部16が踵32の滑り台として機能し、踵32がソール12のかかと部分に落ちると、足31は短靴11a内に収まる。踵32が降下するときに、突片部16の傾斜辺部16bは剛性を有さず変形可能であるので、踵32が滑り込む部分を広げる作用をする。このため、踵32はより確実にすんなりと収まることになる。
【0030】
踵32が降下してアッパー13内に収まると、踵32はかかと部14に包まれるように位置して、パッド部18が足31の対向部位に当たる。パッド部18が足31に当たることによって、履いた時のフィット感が高まるうえに、踵32を所定位置に保持するホールド性が得られる。
【0031】
このように、短靴11aを履くための動作は簡単であり、靴ベラを使う必要ない。このため、例えば要介護者や障がい者用の履物としても好適に利用できる。
【0032】
しかも、突片部16は上方斜め後方のみに延びているので、履き口15の外観を前後に長くして足31の差し入れをしやすくするとともに、踵32を前方に滑らせて落とすという一連の動作を視覚的にわかりやすくする。
【0033】
また突片部16の先端高さT1が履き口15の前端高さT2よりも上であるので、履く時に突片部16は良く目立ち、突片部16を踏みつける蓋然性を低くできる。
【0034】
突片部16の芯材となる月型芯延長部17bは基部における湾曲部17cとそれより上の直線部17dで構成されている。このため、突片部16の先端16a、つまり直線部17dの先端にかかった負荷が局所的に集中して損傷することを防止して、ガイド機能を確実に果たさせることができる。
【0035】
突片部16は横断面形状において内面側が凹む湾曲形状であるので、この点からも剛性が高く、確実な作用が期待できる。
【0036】
剛性が高いにもかかわらず、突片部16の先端16aの輪郭が丸い形状であるため、履く時の踵32に対する当たりが柔らかく、履きやすい。しかも、突片部16は滑らかに連続する輪郭を有する形状に形成できるので、美麗な外観も得られる。
【0037】
加えて、突片部16はかかと部14に備えられる月型芯17から延設された月型芯延長部17bを芯として備える構成であるので、構成を簡素にでき、徒に重量が増大することを回避できる。この結果、履き心地のよさも得られる。
【0038】
以上の構成はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することもできる。
【0039】
例えば、突片部16は月型芯17とは別の芯材を備えてもよい。また突片部16は、芯材を内蔵して硬質にするのではなく、別の部材で構成することもできる。
【0040】
突片部16は、前述例のように部分的に剛性を有するものであるほか、全体が剛性を有するものであってもよい。
【0041】
また突片部16は、容易に折れたりしないように強度を高めるため、例えば
図6に示したように、複数枚の合成シートを張り合わせて形成してもよい。
図6の(a)は、本体部17aと月型芯延長部17bの全体が2重である例を示し、(b)は、一部、つまり湾曲部17cを中心とした部分のみが二重である例を示している。
【0042】
突片部16の先端高さT1は、
図7に示したように、履き口15の前端高さT2よりも下であってもよい。このような構成では、履く時のつま先33の折り曲げ角度を小さくできるとともに、突片部16を有する履物の外観を前述例のものと別異にして突片部16の存在感を低下させた別の外観を得られる。
【符号の説明】
【0043】
11…履物
11a…短靴
14…かかと部
15…履き口
16…突片部
16a…先端
17…月型芯
17b…月型芯延長部
18…パッド部
【手続補正書】
【提出日】2022-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーの後端にかかと部を有する履物であって、
前記かかと部の上端に、前記かかと部の上端位置から上方斜め後方に向けて延びて人体の足における踵を前方斜め下方にすべらせる硬質の突片部が形成された
履物。
【請求項2】
前記突片部が、横断面形状において内面側が凹む湾曲形状である
請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記突片部の先端の輪郭が丸い形状である
請求項1または請求項2に記載の履物。
【請求項4】
前記突片部が、前記かかと部に備えられる月型芯から延設された月型芯延長部を芯として備える
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の履物。
【請求項5】
前記月型芯延長部が、前記突片部の幅方向の中間部に備えられて、前記突片部の下部における左右両側に前記月型芯延長部を有する部分よりも変形しやすい部分が形成された
請求項4に記載の履物。
【請求項6】
前記かかと部の内面に、人体の足における踵の上部に当たるパッド部が形成された
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の履物。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーの後端にかかと部を有する履物であって、
前記かかと部の上端に、前記かかと部の上端位置から上方斜め後方に向けて延びて、上から降ろされる人体の足における踵を前方斜め下方にすべらせる硬質の突片部が形成された
履物。
【請求項2】
前記突片部が、横断面形状において内面側が凹む湾曲形状である
請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記突片部の先端の輪郭が丸い形状である
請求項1または請求項2に記載の履物。
【請求項4】
前記突片部が、前記かかと部に備えられる月型芯から延設された月型芯延長部を芯として備える
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の履物。
【請求項5】
前記月型芯延長部が、前記突片部の幅方向の中間部に備えられて、
前記突片部の下部における前記月型芯延長部の左右両側に対応する部位に、前記月型芯延長部を有する部分よりも変形しやすい部分が形成された
請求項4に記載の履物。
【請求項6】
前記かかと部の内面に、人体の足における踵の上部に当たるパッド部が形成された
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の履物。