(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139182
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】超音波撮像装置、および超音波撮像方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20220915BHJP
A61B 8/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
A61B8/14
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039448
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 一力
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601DD15
4C601DE04
4C601EE04
4C601HH02
4C601HH14
4C601HH24
4C601HH25
4C601HH27
4C601HH28
4C601HH31
4C601JB28
4C601JB48
(57)【要約】
【課題】複数の送信角度で撮像範囲を走査して3次元超音波撮像を行う際位に、送信ビームの局所的な送信時間差によって生じるアーチファクトを低減する。
【解決手段】超音波の送受信を行って、撮像範囲を走査する全体走査を2回以上繰り返し、2回以上の全体走査で得た2組以上の信号を合成して1つの時相の超音波画像を生成する。全体走査の各回において、隣接する送信ビーム間の送信時間差がアジマス方向とエレベーション方向で同程度となる送信パターンを用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送信ビームを複数の送信角度で撮像範囲に対し送信する送信部と、
前記撮像範囲からの反射波である受信ビームを送信角度毎に整相して受信する受信部と、
一つの撮像範囲の全体走査を2回以上繰り返すことにより得た2組以上の受信信号を合成し、1つの時相の超音波画像を生成する信号合成部と、
前記送信部を制御する送信制御部と、を備え
前記送信制御部は、各回の全体走査において、異なる送信角度に送信される時間的に隣接する送信ビームが、アジマス方向とエレベーション方向とのいずれについても、空間的に隣接しない送信角度となる送信シーケンスを用いて前記送信部を制御することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスは、空間的に隣接する送信ビーム間の送信時間差がアジマス方向とエレベーション方向のいずれの方向についても所定時間差以下となるように設定されていることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記複数の送信角度の送信は、同一送信角度につき複数回の送信を含み、
前記送信シーケンスは、同一送信角度で行う複数回の送信を、各回の全体走査に分割して行う送信シーケンスであることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスは、カラードプラ撮像に用いる送信シーケンスであって、各回の全体走査における前記複数回の送信回数が、前記撮像範囲に含まれる流体の最大流速到達時間で決まる許容値以内に設定されていることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスは、前記送信ビームの送信角度をアジマス方向及びエレベーション方向のいずれか一方に順次切り替え、その際、隣接する送信角度は、他方についても送信角度を切り替える送信シーケンスであることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスは、前記送信ビームの送信角度をアジマス方向及びエレベーション方向にずらした角度に切り替え、前記撮像範囲を斜め方向に走査する送信シーケンスであることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスは、前記撮像範囲を、前記送信ビームの送信角度が異なる複数の区画に分け、時間的に隣接する送信ビームが異なる区画に含まれる送信角度となるように送信角度を切り替えて、全区画を走査する送信シーケンスであることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスを格納する記憶部をさらに備え、
前記送信シーケンス制御部は、前記記憶部に格納された送信シーケンスを用いて前記送信部を制御することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項9】
請求項3に記載の超音波撮像装置であって、
前記信号合成部は、同一送信角度の複数回の送信により得られた受信信号を合成する際に、複数回の全体走査のそれぞれで得られた受信信号を用いて代表値を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波撮像装置であって、
前記信号合成部は、複数回の全体走査毎に異なる重みを用いて、代表値を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項11】
請求項9に記載の超音波撮像装置であって、
前記信号合成部は、複数回の全体走査のそれぞれで得られた受信信号に、受信信号を得た時相毎に異なる重みを用いて、代表値を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項12】
請求項9に記載の超音波撮像装置であって、
前記信号合成部は、複数回の前記全体走査のそれぞれで得られた受信信号を時間軸に配置してフィッティング曲線を求め、当該フィッティング曲線から代表値を定めることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項13】
請求項9に記載の超音波撮像装置であって、
前記信号合成部は、同一送信角度の複数回の送信により得られた受信信号を合成する際に、異なる送信角度の送信で同一位置から得られる受信信号同士を合成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項14】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記送信シーケンスは、Bモード画像を得る送信と、カラードプラ画像を得る送信とを含み、
前記カラードプラ画像を得る送信において、前記送信シーケンスを用いることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項15】
請求項14に記載の超音波撮像装置であって、
前記Bモード画像を得る送信は、前記撮像範囲に含まれる複数の小領域をそれぞれ走査する複数の送信グループを含み、前記送信部は、前記複数の送信グループの少なくとも一つを、1つの全体走査と次の全体走査との間で行うことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項16】
請求項15に記載の超音波撮像装置であって、
前記信号合成部は、前記複数の送信グループの走査により、各小領域から得られた受信信号を用いて前記撮像範囲のBモード画像を生成する際に、送信グループの異なる受信信号について前記小領域の境界近傍に空間フィルタを掛けることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項17】
請求項15に記載の超音波撮像装置であって、
前記複数の送信グループが走査する範囲は、一つの小領域及びそれに隣接する他の小領域の境界近傍の領域を含み、
前記信号合成部は、前記複数の送信グループの走査により、各小領域から得られた受信信号を用いて前記撮像範囲のBモード画像を生成する際に、複数の送信グループの走査により同一位置から重複して得られた受信信号を合成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項18】
超音波の送受信を行って、撮像範囲を走査する全体走査を2回以上繰り返す工程と、
2回以上の全体走査で得た2組以上の信号を合成して1つの時相の超音波画像を生成する工程と、を含み
前記全体走査の各回において、隣接する送信ビーム間の送信時間差がアジマス方向とエレベーション方向で同程度となる送信パターンを用いることを特徴とする超音波撮像方法。
【請求項19】
請求項18に記載の超音波撮像方法であって、
複数回の前記全体走査は、それぞれ、送信ビームを所定のPRTで同一送信角度に複数回送信する送信工程を含み、前記同一送信角度の送信回数Mが、次式を満たすことを特徴とする超音波撮像方法。
【数1】
式中、N
0は、2つのアジマス方向の送信時間差及び2つのエレベーション方向の送信時間差の平均値、Tは前記撮像範囲に含まれる流体の最大流速到達時間、R
2は時間差の許容値を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の超音波撮像装置に関し、特に体組織の速度を求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
先進国における主要な死因の一つは循環器疾患であり、異常が生じた心血管では弁逆流など健常時と異なる血流が生じることが知られている。異常血流を評価することは、循環器疾患の重症度の判定や治療判断に繋がる。超音波撮像装置はリアルタイムに体内の血流状態を把握できることから、循環器疾患の診断に広く用いられている。
【0003】
超音波撮像装置で血流を計測する手法の一つにカラードプラ法がある。カラードプラ法は、移動する散乱体(主に赤血球)で超音波が反射する際に発生するドプラ効果を利用して散乱体の移動速度を推定する速度計測法の一つで、短時間に体内の様々な深さ、様々な位置に対して超音波送受信を行うことにより、広い範囲の速度分布の時間変化を得る。以前は、超音波送受信を2次元的な断面で行う2次元カラードプラしか無かったが、近年では、超音波送受信を3次元的に行い、ボリューム撮像をする3次元カラードプラも普及している。3次元カラードプラは、例えば、弁逆流が噴き出す向きを3次元的に把握したい場合など、複雑な血流の把握に役立つ。
【0004】
カラードプラ法において、広い範囲の速度分布を得るには、超音波送信ビームを複数の角度で順次、送信すること(超音波ビームの走査)が必要になる。カラードプラの画像更新頻度(2次元カラードプラではフレームレート、3次元カラードプラではボリュームレートと呼ぶ)はとりうる送信角度の数が多いほど低下するため、2次元的な走査が必要な3次元カラードプラの画像更新頻度は、1次元的な走査を行う2次元カラードプラの画像更新頻度よりも低くなりやすい。しかしながら、例えば5~6Hzなど、10Hzを大きく下回る低い画像更新頻度では血流の時間変化を正確に観測できず、例えば心臓弁膜症の診断で観察される、弁逆流が最大流速を示す瞬間を捉えることが難しい。一方で、空間当たりにとりうる送信角度の数(以下、送信ビーム密度と呼ぶ)を減らすと、画像が疎となり、血流の速度分布を正しく捉えることが困難になる。そのため、少ない送信角度の数で3次元カラードプラのボリューム撮像を行う必要があり、1方向に対する1回の送信から、近傍の複数方向の反射信号を受信するパラレル受信整相が広く用いられる。この整相方法を用いれば、送信ビーム密度が低くても、空間当たりの受信ビーム数(以下、受信ビーム密度)を高く保つことができるので、ボリュームレートの高さと密な画像の取得とを両立することができる。
【0005】
パラレル受信整相は、カラードプラに限らず、超音波画像の画像更新頻度向上に有用であるものの、パラレル受信整相を用いて受信ビーム密度を上げた超音波画像では、ブロック状アーチファクトが発生することが知られている。このアーチファクトは、同じ送信角度の送信ビームに帰属する受信ビーム間では信号値の空間的連続性が保たれるのに対し、異なる送信角度の送信ビームに帰属する受信ビーム間では信号値が不連続になるために、結果として、送信角度が切り替わる境界位置ごとに画像が不連続になることで生じる。特に3次元撮像の走査は、一般的に、最初の断面を1次元的に走査し、次に隣接する断面を1次元的に走査し、という繰り返しにより行われるため、断面と断面の間で撮像のタイミングが異なることとなり、上記のアーチファクトが断面間でスライス状に発生しやすい。このようなアーチファクトが生じた超音波画像では、臓器の構造や血流パターンが崩れて表示されるために、それらの形態評価が難しくなる。特にカラードプラでは、疾患の診断や心機能の評価に必要な弁逆流や短絡血流、渦の視認性が低下し、それらのサイズや流量の定量評価が不正確になることで、診断精度が低下する。
【0006】
このようなスライス状アーチファクトを低減する技術として、特許文献1では、同一の撮像範囲に対し、時間的に分割された複数の送信ビーム群に分けて超音波撮像を行い、その際、空間的に隣接する送信ビームが異なる送信ビーム群に属するように超音波送信を行う技術を開示している。この技術は、空間的に疎な超音波撮像を複数回に分けて行い、後からそれらの画像を合成することにより、1回の撮像当たりの、撮像範囲全体での撮像タイミングの差を小さくし、スライス状アーチファクトの発生を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術は、撮像範囲全体の撮像タイミングの差を小さくすることでスライス状のアーチファクトの発生を抑えているものの、局所的にみれば、隣接する送信ビーム間の時間差はかえって大きくなっている。このような局所的な時間差の広がりは、特にカラードプラ撮像において大きな影響を生じる。なぜならば、形態画像であるBモード画像の撮像においては、各方向の送信ビームは通常1回ずつしか送信されないのに対し、カラードプラ撮像においては、速度を検出するために、各方向の送信ビームを複数回連続して繰り返し送信するためである。この繰り返し送信回数は、通常、10回前後であるので、特許文献1に記載の技術をカラードプラ撮像に当てはめた場合、隣接する送信ビーム間の時間差は、Bモード画像の撮像と比較して約10倍に及ぶ。その結果、スライス状アーチファクトの発生は防げても、個々の送信ビーム間に生じるブロック状アーチファクトは顕著に現れやすくなる。
【0009】
以上のように、特許文献1に記載の技術は、特にカラードプラ撮像において、送信ビーム間に生じるブロック状アーチファクトを抑制できないことが課題である。
【0010】
本発明は、局所的な送信時間差によって生じるアーチファクトを低減した3次元超音波撮像を行う超音波撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はパラレル受信整相を用いた3次元撮像において、隣接する送信ビーム間の送信時間差がアジマス方向とエレベーション方向とで同程度となる送信パターンを採用することにより、上記課題を解決する。
【0012】
すなわち、本発明の超音波撮像装置は、超音波の送信ビームを複数の送信角度で撮像範囲に対し送信する送信部と、撮像範囲からの反射波である受信ビームを送信角度毎に整相して受信する受信部と、一つの撮像範囲の全体走査を2回以上繰り返すことにより得た2組以上の受信信号を合成し、1つの時相の超音波画像を生成する信号合成部と、送信部を制御する送信制御部と、を備える。送信制御部は、各回の全体走査において、異なる送信角度に送信される時間的に隣接する送信ビームが、アジマス方向とエレベーション方向とのいずれについても、空間的に隣接しない送信角度となる送信シーケンスを用いて送信部を制御する。
【0013】
また、本発明の超音波撮像方法は、超音波の送受信を行って、撮像範囲を走査する全体走査を2回以上繰り返す工程と、2回以上の全体走査で得た2組以上の信号を合成して1つの時相の超音波画像を生成する工程と、を含み、全体走査の各回において、隣接する送信ビーム間の送信時間差がアジマス方向とエレベーション方向で同程度となる送信パターンを用いる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超音波撮像において、局所的な送信時間差によって生じるアーチファクトを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態1における超音波撮像装置の一構成例を示すブロック図。
【
図2】実施形態1における制御部の動作処理フローを示す図。
【
図3】カラードプラ画像を得るための送信の一般的な送信順番を空間的に示す図。
【
図4】送信の一般的な切り替わり順を時系列的に示す図。
【
図6】実施形態1の送信パターンの他の例を示す図。
【
図7】実施形態1の送信パターンのさらに別の例を示す図。
【
図8】実施形態1の送信シーケンスの一例を示す図。
【
図9】
図8の送信シーケンスで得られたドプラ速度の時間変化の一例を示す図。
【
図10】ドプラ速度の時間変化にフィッティング曲線を当てはめた例を示す図。
【
図11】ユーザーに提示する画像表示の一例を示す図。
【
図12】ユーザーに提示する画像表示の他の例を示す図。
【
図13】ユーザーに提示する画像表示のさらに別の例を示す図。
【
図14】実施形態2における制御部の動作処理フローを示す図。
【
図15】実施形態2の送信シーケンスの一例を示す図。
【
図16】Bモード画像の撮像範囲を分割する一例を示す図。
【
図17】Bモード画像の撮像範囲を分割する他の例を示す図。
【
図18】Bモード画像の撮像範囲を分割するさらに別の例を示す図。
【
図19】Bモード画像の撮像範囲の一部オーバーラップさせて分割した例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に従い説明する。
【0017】
<実施形態1>
本実施形態の超音波撮像装置は、一般的な超音波撮像装置と共通する構成を有しているが、局所的な送信時間差によって生じるアーチファクトを低減する手段が追加されていることが特徴である。本実施形態では局所的な送信時間差によるアーチファクトを最も生じやすい3次元カラードプラ撮像を例に取り上げるが、本発明はBモード画像の撮像に適用してもよい。
【0018】
以下、
図1を参照して、本実施形態の超音波撮像装置を説明する。
【0019】
超音波撮像装置1は超音波探触子2を制御しながら超音波画像を生成するものであり、入力部10、制御部11、超音波信号(送信ビーム)を送信する送信部12、エコー信号を受信する受信部13、表示部14、メモリ(記憶部)15を備えている。制御部11は、取得されたエコー信号に基づき、Bモード画像と呼ばれる断層画像や、カラードプラ画像と呼ばれる血流速度分布の画像を算出する信号処理部41と、送信部12が送信する送信ビームの送信角度や時間などを制御する送信シーケンス制御部(送信制御部)42と、を備える。ここでは、送信角度の走査順序を空間的に定めたパターンを送信パターンと呼び、送信パターンを含めた時間的な送信順序を定めたものを送信シーケンスと呼ぶ。
【0020】
超音波探触子2は、検査対象の生体3に接し、送信部12で生成された信号に従い、生体3内の心血管30に対し超音波を照射し、受信部13は心血管30のエコー信号を受信する。超音波探触子2は、スキャン方式に応じて連続波あるいはパルス波を発生し、撮像範囲21の2次元的な断面像あるいは3次元的な立体像を撮像する。
【0021】
入力部10は、超音波撮像装置を操作する医師や技師(以下、まとめてユーザーという)が制御部11に対し超音波撮像装置の動作条件を設定するキーボードやポインティングデバイスを備える。また検査に心電図等の外部機器からの情報を利用する場合、外部機器からの情報を取り込む機能も備える。
【0022】
制御部11は、入力部10によって設定された超音波撮像装置の動作条件に基づき送信部12、受信部13、表示部14および信号処理部41を制御するもので、例えばコンピュータシステムのCPU(Central Processing Unit)に構築することができる。
【0023】
送信部12は、所定の周波数の信号を発生する発振器を備え、超音波探触子2に駆動信号を送る。また送信部12には、図示していないが、超音波探触子2から発信される超音波(送信ビーム)の送信角度や深度を変更するためのビームフォーマーが備えられている。3次元カラードプラ撮像では、アジマス方向とエレベーション方向の2次元方向に送信角度を異ならせて、それぞれの送信角度で複数回の送受信を行う。この送信ビームの送信角度や送信タイミングを決める送信シーケンスは、送信シーケンス制御部42が送信部12に指示する。
【0024】
受信部13は、図示していないが、受信回路やサンプリング周波数が通常10MHzから50MHzのA/D(Analog-to-Digital )コンバーターを含み、そのほかに、超音波探触子2によって受信されたエコー信号に対し整相加算、検波、増幅などの信号処理を行う。ただし、A/Dコンバーターは受信部13の代わりに信号処理部41の前段に備えてもよく、その場合は整相加算、検波、増幅などの信号処理を信号処理部41が行う。また、受信部13は、図示していないが、超音波探触子2の受信素子毎、あるいは素子を束ねた開口部毎のエコー信号を一時的に保存する受信データメモリを有してもよい。
また、本実施形態の受信部13は、一つの送信角度の送信ビームに対し複数方向の反射波を受信するパラレル受信整相を行う。
【0025】
信号処理部41は、例えばCPUが実行するソフトウェアにより、超音波画像の形成を行う。この中には、エコー信号の反射強度分布を輝度分布として画像化したBモード画像を形成するBモード画像演算部411や、エコー信号の位相情報からドプラ効果に基づいて移動体の運動情報を推定したカラードプラ画像を形成するカラードプラ演算部412、撮像範囲を複数回走査して得た複数組の信号データに基づき、それらの信号データを合成して1つの時相の超音波画像を生成する信号合成部414を含む。またBモード画像やカラードプラ画像を表示画像として、表示部14に表示する表示画像形成部13を含む。
【0026】
カラードプラ演算部412は、例えば、移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値等を、方位角や深さの異なる計測点ごとに推定する。移動体には、例えば、心壁等の組織や血流、造影剤を含む。本実施形態では、特に断りのない限り、カラードプラを血流の速度分布として扱う。また、信号処理部41は、
図1には示していないが、カラードプラ演算部412の後段、または信号合成部414の後段において、移動体の運動情報にクラッタフィルタを掛けることにより、静止している組織や動きの遅い組織に由来する信号成分(クラッタ信号と呼ばれる)を排除、または抑制してもよい。一般に、血流に由来するエコー信号は、周辺組織に由来するエコー信号と比較して微弱であるため、クラッタフィルタを用いることで血流を強調して表示することができる。
【0027】
送信シーケンス制御部42は、空間的に隣接する送信ビーム間の送信時間差がアジマス方向とエレベーション方向で同程度となる送信パターンで超音波送信を行うことを送信部12に指示する。この送信シーケンスは、画角や深さレンジ等の撮像条件に基づいて、撮像の都度、生成してもよいし、予め用意されたパターンを適用してもよい。送信シーケンスの詳細は後述する。
【0028】
信号処理部41や送信シーケンス制御部42の構成要素の一部又は全部の機能は、制御部11を構成するものと同一のCPU、あるいは異なるCPUで実行するソフトウェアで実現する他、ASIC (Application Specific Integrated Circuit )やFPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェアで実現してもよい。
【0029】
メモリ15は、エコー信号、信号処理部41や送信シーケンス制御部42での演算に必要な情報(ユーザーが入力部10により指示した情報等)、信号処理部41や送信シーケンス制御部42の処理結果(Bモード画像、カラードプラ画像等)を記憶する。
【0030】
上記構成における本実施形態の超音波撮像装置の動作を説明する。
図2に、3次元カラードプラ撮像を行う場合の動作の流れを示す。
【0031】
[ステップS1]
撮像が開始されると、送信シーケンス制御部42は送信部12に対し送信シーケンスを指示する(S1)。送信シーケンス制御部42が指示する送信シーケンスは、3次元カラードプラ撮像において、送信ビームの走査順序を予め定めたものであり、メモリ15に格納されている。本実施形態の送信シーケンスは、カラードプラ画像においてスライス状アーチファクトやブロック状アーチファクトを抑制する送信シーケンスが設定されている。
【0032】
以下、送信シーケンスの詳細を説明する。
【0033】
前提として、3次元カラードプラ撮像では、アジマス方向とエレベーション方向に、それぞれ、送信角度を異ならせて送信を行い、同じ送信角度の送信ビームから複数の受信ビームを得る。以下の説明では、一つの送信角度の送信ビームから複数の受信ビームを得る範囲を、送信ブロックという。同じ送信ブロックに属する受信ビームが、同じ時相の速度情報である。またカラードプラ画像を得るための送信では、異なる2つ以上の時相の信号から速度情報を得る必要があることから、同じ方向に少なくとも2回以上、通常5~15回送信を行う。この際、超音波が撮像深さの最深部に到達して探触子素子面に返ってくるまでの時間を空けて送信を行う。この時間間隔はPRT(pulse repetition time)と呼ばれる。
【0034】
このような前提において、送信ブロック間の時間差が比較的短く、アジマス方向とエレベーション方向のいずれについても大きな差がなければ、アーチファクトは抑制されるが、送信ブロック間の時間差が大きいとアーチファクトが生じやすい。このことを、
図3及び
図4に示す従来の送信シーケンスを用いて詳述する。
図3は、送信角度の切り替わる順番、すなわち走査の順番を、空間的に、ある深さの面上に配置することで表現した図であり、一例として6×6の送信ブロックを走査する場合を示している。
【0035】
図3に示す走査順序では、送信角度をアジマス方向に順次切り替えながら一次元的に走査し、第1段目の送信ブロック群の信号を取得する。次に送信角度をエレベーション方向にずらし、送信角度を再びアジマス方向に順次切り替えながら1次元的に走査して、第2段目の送信ブロック群の信号を取得する。これを繰り返すことで、撮像範囲全体の信号を取得する。
【0036】
図4は、一連のボリューム撮像の中で送信が切り替わるタイミングを時間的に示した図であり、Bモード画像を得るための送信400とカラードプラ画像を得るための送信410とをセットとして各セットを繰り返し、カラードプラ画像を得るための送信410では、第1段目から第6段目の送信ブロック群を走査し、一つの送信角度では一例として9回の繰り返し送信を行う場合を示している。
【0037】
図3に示す走査順序で、
図4に示すように、一つの送信角度で9回の繰り返し送信を行う場合、アジマス方向に隣接する送信ブロック間では、走査の時間差ΔTaは、9×PRTであるのに対し、エレベーション方向に隣接する送信ブロック間では、時間差ΔTeは6×9×PRT(54×PRT)となり、大きな差、時間的には6倍の差が生じる。この時間差により、第1段目と第2段目の間でスライス状のアーチファクトが発生する。
【0038】
例えば、心臓の撮像を想定し、PRTを0.2ミリ秒とした場合、
図3の走査順序では、アジマス方向に隣接する送信ブロック間の時間差ΔTaは1.8ミリ秒となり、僧房弁や大動脈弁等が開いて流入速度が最大に達するまでの時間(通常、100~150ミリ秒程度。以下、最大流速到達時間と称する)と比して十分に短いが、エレベーション方向に隣接する送信ブロック間の時間差ΔTeは、PRTの54倍、すなわち10.8ミリ秒となる。これは、最大流速到達時間の10%以上に相当し、簡単のため、弁が開いてから流入血流が等加速度的に速度を増すと仮定すると、エレベーション方向に隣接する送信ブロック間では、最大流速の10%以上の速度差が生じうると見積もられる。すなわち、
図3のように走査の順番が段状に整列している場合、アジマス方向に隣接する送信ブロック間の時間差と、エレベーション方向に隣接する送信ブロック間の時間差には6倍の差が存在し、第1段目と第2段目の間でスライス状のアーチファクトが発生しうる。
【0039】
また特許文献1に記載される技術は、送信ブロックを2ないし3の送信ブロック群に分けて、アジマス方向或いはエレベーション方向に隣接する送信ブロックが同じ送信ブロック群に属さない走査順序にするものであるが、この技術はBモード画像についてスライス状アーチファクトを抑制する効果が得られるものの、同一送信角度で複数回の送信を行うカラードプラ画像については、隣接する送信ブロック間における時間差が大きく、最大流速の10%以上の速度差が生じうるためブロック状アーチファクトを抑制できない。
【0040】
本実施形態の送信シーケンスは、カラードプラ画像において上述したスライス状アーチファクト及びブロック状アーチファクトを抑制するため、カラードプラ画像を得るための送信に関して、アジマス方向に隣接する送信ブロック間の時間差と、エレベーション方向に隣接する送信ブロック間の時間差が同程度であること(条件1)、かつ隣接する送信ブロック間の時間差の代表値が最大流速到達時間に比して十分に短くなること(条件2)を満たす送信シーケンスを用いる。ここで「時間差が同程度」は、例えば4方向(
図3の上下左右)の時間差の標準偏差が平均的に2以内程度に収まることが好ましく、また、「最大流速到達時間に比して十分に短い」は、例えば最大流速到達時間の5%以内程度であることが好ましい。これらの基準値は、画像全体の見え方や、弁逆流・短絡血流・渦の視認性、およびそれらのサイズや流量の評価精度に基づいて、予め決定しておいてもよいし、ユーザーからの指定を受け付けてもよい。
【0041】
上述した条件1は、同一深さの面上における上下左右の方向をU,D,L,Rで表現し、隣接する送信ブロックとの走査順差の代表値をNi(i=U,D,L,Rのいずれか)、ローカルな4方向の送信ブロック間の走査順差の平均値をμとすると、式(1)で表すことができる。R1は、隣接する送信ブロック間の走査順差の標準偏差に対する許容上限であり、前掲の例ではR1=2である。
【0042】
【0043】
また、上述した条件2は、同じ方向に連続して送信する繰り返し送信回数をMとし、パルス繰り返し周期をPRTとし、最大流速到達時間をTとすると、次式(2)で表すことができる。N0は全てのNの平均値を表す。
【0044】
【数2】
式(2)において、R
2は最大流速到達時間に対する送信ブロック間の時間差の許容上限を意味し、前掲の例では、R
2=5%となる。
【0045】
条件1(式(1))を満たす走査順(送信パターン)の例を
図5、6、7に示す。
図5~7において、Tは送信ブロックを意味し、Tに付いている数字は走査順序を示している。
【0046】
図5は、アジマス方向の送信ブロックを、上から2行ずつを1組とするブロック群にして、各ブロック群において、左から右に行を交互に変えながら、ジグザグに走査をする走査順である。この場合、ほとんどの送信ブロック間で走査順の差(N)は5~7であり、ほぼ均一な時間差を得ることができるが、異なるブロック群に属する送信ブロックとの間では、一部の送信ブロック(例えば、走査順2の送信ブロックと走査順20の送信ブロックの間)について大きな時間差が生じる。このような部分では局所的に連続性が低下するものの、走査順2の送信ブロック、走査順20の送信ブロックともに、残りの3方向に対しては連続性を保っており、また、各々の近傍の送信ブロックは上下左右の4方向で連続性を保っているので、スライス状アーチファクトやブロック状アーチファクトは生じにくい。
【0047】
図6は、斜め方向に走査する走査順である。この場合、全ての隣接する送信ブロック間において走査順の差は6以内に収まり、なおかつ、どの送信ブロックに着目しても上下左右の4方向で走査順の差がほぼ均一になる。
図7は、36個ある送信ブロックを、4個の送信ブロックで構成される9個のエリア(区画)に分け、各エリアを巡回するように走査する走査順である。他の2方式に比べると走査順の差のばらつきが大きいものの、ランダム性が高く方向特異性が存在しないため、少なくともスライス状アーチファクトの発生は抑えることができる。
【0048】
図5~
図7に示すいずれの送信シーケンスでも走査順の差が特定の方向でのみ大きくなるような事象は起きていない一方、走査順の差の代表値は概ね6程度で、
図3の方式から改善しておらず、条件2:隣接する送信ブロック間の時間差の代表値が最大流速到達時間に比して十分に短くなることを満たさない可能性が高い。
【0049】
条件2を満たす送信シーケンスとするとするため、本実施形態では、通常は同じ方向に連続して送信する繰り返し送信を、時間的に分割し複数回に分けて行う。具体例を
図8に示す。
図8でも、Bモード画像を得るための送信800とカラードプラ画像を得るための送信(以下カラードプラ送信という省略する)810とをセットにして、このセットを繰り返すことは
図3と同様であるが、カラードプラ送信810は、撮像範囲を構成する全部の送信ブロックを走査する送信(全体走査)を複数回行う。一回の全体走査では、例えば、
図5~
図7に示す走査順序のいずれかで1番から36番までの送信ブロックの走査を一巡する。
図5~
図7の走査順序のいずれを選択するかは、撮像範囲における撮像対象(関心領域)の位置などに応じて適宜決めることができる。このような全体走査を繰り返す。その際、各回の全体走査において、それぞれ、送信ブロック間の時間差が式(2)を満たすように、1回の全体走査における一つの送信角度方向の送信回数M(或いはそれを決める全体走査の回数)を定める。すなわち、PRTと送信回数Mと隣接する送信ブロック間走査順差の平均N
0との積(PRT×M×N
0)が、最大流速到達時間Tに対する送信ブロック間の時間差の許容値(T×R
2)以下となるようにする。
【0050】
ここで一つの送信角度方向の送信回数Mは、全体走査の回数をM2、平均化する速度の推定回数をM1とすると次式(3)で表される。ここで平均化する速度の推定回数とは、一つの送信角度方向における連続する2回の送信間で行われる速度の推定を1回としたとき、複数回(ここではM2回)の全体走査を行う間に実施される速度推定回数の総数である。全体走査が1回の場合、全ての送信は連続して行われるので、M-1回の速度推定が行える。一方、全体走査を複数回に分割した場合、送信回数Mが同一でも、一部の送信間が不連続となるため、その分、速度の推定回数は減少する。
【0051】
【0052】
このとき、送信回数Mに対し、それを小さくしすぎないための最小値Mminを設定する。この最小値Mminは、クラッタフィルタのフィルタリングに必要な繰り返し送信回数の許容値であり、クラッタフィルタの特性に応じて適切な値が設定される。
【0053】
一般に、カラードプラ撮像で同じ方向に10回前後の繰り返し送信を行う目的の一つは、速度推定を複数回行ってその平均をとることにより、より確からしい数値を得るというもので、平均化回数が多いほど数値は安定する。もう一つの目的は、クラッタフィルタと呼ばれる低速度成分をカットするフィルタの効果を得ることであり、繰り返し送信回数が少ないとその効果は得にくくなる。クラッタフィルタのフィルタリングに必要な繰り返し送信回数の最小値はフィルタの設計によっても異なるが、例えば繰り返し送信回数4回以下などでは正しく作用しなくなる。
【0054】
本実施形態の送信シーケンスでは、1回の全体送信における繰り返し送信数を減らしても複数回の全体送信を行うことで速度の推定回数M1を確保して、1つ目の効果である速度推定の安定化を図ることができ、さらに1回の全体送信における送信回数Mに上述のような最小値Mminの制限を設けることで、2つ目の効果を担保することができる。
【0055】
PRTについては、1回の走査に着目すれば、送信の時間間隔はPRTそのものであるから、PRTによって規定される速度レンジは変化しない。
【0056】
図8の例では、M
min=5とすることで、式(3)を満たし、なおかつ平均化する速度推定の回数を元とほぼ同一とするため、平均化する速度推定の回数M
1を12回、全体走査の回数M
2を3回とし、繰り返し送信回数Mを5回としている。但し、
図8は上述した条件を満たす送信シーケンスの一例であって、本実施形態はこれに限定されるものではない。また全体走査における走査順序は、式(1)を満たすものであれば、
図5~
図7の走査順序に限定されない。
【0057】
上述した条件を満たすように決定される送信シーケンスは、ユーザーが入力部10により指示した画角や深さレンジ等の撮像条件に基づいて、式(1)、式(2)、および式(3)を満たすように自動的に生成してもよいし、予め用意されたパターンの中からこれらの数式を満たすものを選択して適用してもよい。また、とりうる撮像条件と対応する送信シーケンスをあらかじめ用意しておいてもよい。一般に、3Dカラードプラ撮像で用いる撮像条件をユーザー側で大きく変更することは少ないので、撮像条件と対応した送信シーケンスを予め用意しておく方が、装置動作のレスポンスを良くする面で有利である。
【0058】
[ステップS2]
送信部12は、送信シーケンス制御部42の指示する送信シーケンスに基づき、指示された送信順、送信角度、繰り返し送信回数で超音波探触子2に駆動信号を送る。これにより、例えば、
図8に示したように、Bモード画像を得るための送信800と、カラードプラ画像を得るための送信810(複数回の全体走査)とを交互に繰り返す。ここで、Bモード画像を得るための送信800と、カラードプラ画像を得るための送信810は、必ずしも空間的に同一の範囲で行われる必要は無い。また、とりうる送信角度の数や、送信角度、走査の順番は、Bモード画像を得るための送信800と、カラードプラ画像を得るための送信810とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0059】
このとき、駆動周波数や波数、送信ビームの収束性など、その他の送信条件は、従来の3Dカラードプラ撮像に準じる。一般に、送信角度や送信ビームの収束性は、それを実現する送信波面に変換され、その送信波面を形成する駆動遅延時間を超音波探触子2の駆動素子毎に与える。
【0060】
[ステップS3]
超音波探触子2は、送信部12から送られた駆動信号に則り超音波の送信を行う。また、超音波探触子2は、体内から返ってきたエコー信号を受信する。この工程は、通常の3Dカラードプラ撮像と同様である。
【0061】
[ステップS4]
受信部13は、超音波探触子2によって受信されたエコー信号に対し検波処理を行う。この検波処理には、通常の3Dカラードプラ撮像と同様、検波、増幅、整相加算などが含まれる。検波処理の結果、Bモード画像の形成に用いる受信信号と、カラードプラ画像の形成に用いる受信信号が、それぞれ信号処理部41に送られる。また、このとき、受信信号は、受信時間に適宜、窓を設けるなどして、深さ毎の情報に分けられている。信号処理部41に送るカラードプラ画像の形成に用いる受信信号は、この時点でパラレル受信整相を行っていてもよいし、チャンネル毎の受信信号のまま信号処理部41に伝送し、信号処理部41がパラレル受信整相を行ってもよい。受信部13がパラレル受信整相を行う効果は、受信部13が信号処理部41に伝送する情報量を小さくすることで、伝送に掛かる時間を抑制する効果が期待できる。
【0062】
[ステップS5]
信号処理部41は、受信部13から送られてきた信号に基づき、Bモード画像およびカラードプラ画像を形成する。Bモード画像の形成は通常と同じであるため、ここでは、カラードプラ画像の形成についてのみ述べる。
【0063】
〈ステップS51〉
カラードプラ演算部412は、各々の送信角度について、通常の3Dカラードプラ撮像と同様にカラードプラ演算を行い、演算結果を信号合成部414に送る。ここで、カラードプラ演算とは、繰り返し送信により得た2つ以上の時相の受信信号の位相成分に基づいて、深さ毎のドプラ速度を演算することを示す。例えば、
図8の送信シーケンスを用いた場合、各送信角度、各深さに関して、繰り返し送信により取得した連続する4時相のドプラ速度の組が、全体走査のタイミングが異なる3組分得られる。
【0064】
〈ステップS52〉
信号合成部414は、カラードプラ演算部412から送られた演算結果に基づき、全体走査のタイミングが異なる複数の組のドプラ速度を合成することにより、1つのボリュームのカラードプラ画像を形成して、表示画像形成部413に送る。このとき、合成の方法は、通常の3Dカラードプラ撮像と同様、単純な算術平均としてもよいが、本実施形態では、全体走査を複数回行ってドプラ速度を求めており、全体走査の異なる回でそれぞれ得られたドプラ速度を単純平均すると血流変化を正しく捉えることができない可能性があるため、それを解消する合成方法を採用する。具体的には、ドプラ速度が得られたタイミングに応じた重み付けをして加算する手法、或いは、各回で得られたドプラ速度をフィッティングする手法を採用する。
【0065】
まず、重み付け加算について、
図8の送信シーケンスを用いて得られたドプラ速度について、合成する場合を例に、説明する。
【0066】
図9は、3回の全体走査で得られたドプラ速度の時間軸に沿った分布を示す図であり、バツ印が各時相で得られたドプラ速度を示す。
図8の送信シーケンスを用いた場合、繰り返し送信により取得した連続する4時相は、最大流速到達時間に対して充分に短い時間間隔(=PRT)となっているが、1番から36番までの走査順を一巡した後、再び戻ってきた時相は、長い時間(=PRT×5×36)が空いている。このため、例えば3回の全体走査811~813のうち、真ん中の全体走査812のタイミングが血流速度のピークの時相と一致していた場合、第1~第3の全体走査811~813で得られる12のドプラ速度を単純に算術平均すると、取得できる最大ドプラ速度は周囲の時相のドプラ速度となまされたものになり、真の最大ドプラ速度を逃すことになる。
【0067】
本実施形態では、第1~第3の全体走査811~811を含む全体の時相における中央時相に近いほど重み係数を大きくして合成することで、最大ドプラ速度を計測する可能にする。重み付け加算は、例えば、式(4)に示すように、全体走査毎に重みを付けて加算平均する。この場合、中央時相に近い全体走査ほど重み係数を大きくする。
【0068】
【数4】
ただし、V
0は推定した中央時相のドプラ速度、V
i,jはi回目の全体走査におけるj回目の繰り返し送信を意味し、α
iは全体走査毎の重み係数を表す。
【0069】
あるいは、数式(5)に示すように、時相ごとに重みを付けて加算平均をしてもよい。この場合、中央時相に近い時相ほど重み係数を大きくする。
【数5】
ただし、β
i,jは時相毎の重み係数を表す。
【0070】
また重み付け加算ではなく、
図10に示すように、12のドプラ速度に対してフィッティング関数を演算して、その中央時相t
0の値を、合成後のドプラ速度値としてもよい。フィッティング関数には、例えば、演算に用いる時相の数以下の次数の多項式を用いてもよい。特に、近い時相間でのばらつきの影響を無視するため、式(6)に示すような、次数がM
2-1の多項式を用いてもよい。
【0071】
【数6】
式中、a、b、cはそれぞれ所定の係数を表す。
【0072】
このような合成処理は、カラードプラ演算部412が全ての送信角度に対するカラードプラ演算を終え、演算結果を纏めて信号合成部414に送ってから、全ての送信角度に対して一斉に行うこともできるし、カラードプラ演算部412が各送信角度に対するカラードプラ演算を終える毎に演算結果を信号合成部414に送り、送信角度毎に行うこともできる。カラードプラ演算の演算結果を順次、信号合成部414に送る方法は、カラードプラ演算部412の演算と信号合成部414の演算を並列に処理できるため、全体の演算時間を抑制する効果が期待できる。
【0073】
また、信号合成部414の演算には、異なる送信ブロックに属する受信ビームから演算した、同じ位置の信号同士を合成する処理を含んでもよい(この合成処理を、上述の複数送信結果の合成と区別して送信ブロック間合成と呼ぶ)。パラレル受信整相によって得られた受信ビームのうち、送信ビーム中心から離れた位置の受信ビームに基づいて演算したドプラ速度にはオフセット誤差が生じることが知られ、隣接する送信ブロックでは、このオフセット誤差の正負が反転する。したがって、隣接する送信ブロックに由来する同じ位置の信号同士を合成する送信ブロック間合成は、このような誤差を低減する効果がある。なお送信ブロック間合成は、エコー信号そのものに対して行っても、ドプラ速度の演算後に行ってもよく、ほぼ同等の効果を得ることができる。
【0074】
一般に合成する送信ブロック間の時間差が大きいと、このような誤差低減効果を得にくくなるが、本実施形態では、アジマス方向に隣接する送信ブロック間の時間差、およびエレベーション方向に隣接する送信ブロック間の時間差をともに最大流速到達時間に比して十分に短くする送信シーケンスを採用しているので、全ての方向で送信ブロック間合成による誤差低減効果を得るためにも有用である。
【0075】
[ステップS6]
表示画像形成部413は、Bモード画像演算部411、および信号合成部414から送られてきた画像信号に基づき、ユーザーに提示する画像を形成する。画像の表示形態は、特に限定されないが、Bモード画像とカラードプラ画像とを重ねて表示することが一般的である。
【0076】
ユーザーに提示する画像の表示例を
図11~
図13に示す。
図11は、3次元画像の表示例、
図12は、2次元断面画像の表示例、
図13は、直交2断面画像を並列表示した例である。ドプラ速度の表示方法は2次元カラードプラのように流速値と色調を対応させたカラーバーを用意し、色の分布として表示してもよい。
図12や
図13はこの方法でドプラ速度を示している。あるいは、
図11に示すように、ドプラ速度が一定以上の領域のみに色を付けて表示してもよい。この表示方法は、流速の有無を視認するのに有効であり、3次元表示のように色分けが視認しづらい表示形態において、例えば弁逆流の有無だけを確認したいときに特に有効である。
【0077】
エレベーション方向に隣接する送信ブロック間の時間差が大きい場合、3次元のカラードプラ画像はこの方向にブロッキングを生じやすく、また、この方向の断面カラードプラ画像は走査方向の断面画像と比べてブロッキングを生じやすい。これに対し、本実施形態では、アジマス方向に隣接する送信ブロック間の時間差、およびエレベーション方向に隣接する送信ブロック間の時間差をともに最大流速到達時間に比して十分に短くすることで、このような方向に依存したブロッキングの生じやすさの差を低減する効果が期待できる。
【0078】
以上、説明したように、本実施形態によれば、次の2つの条件を満たす送信シーケンスを用いることで、繰り返し送信を必須とする3次元カラードプラ画像においてスライス状やブロック状アーチファクトを抑制することができる。条件1:送信ブロック間の走査順差を4方向で低減し平準化する条件、条件2:隣接する送信ブロック間の時間差の代表値が計測対象である流体の最大流速到達時間に比して十分に短くなる条件。条件2は、全体走査を、1送信角度の送信回数を時間的に分割した複数回の全体走査に分け、各全体走査における1送信角度の送信回数(M)を最大流速到達時間に対する許容値以下とすることで達成される。さらに1送信角度の送信回数(M)に対し、許容最小値以上を設定することでクラッタフィルタの効果を担保できる。
【0079】
また本実施形態によれば、複数回の送信によって隣接エコー信号間の演算で得られたドプラの合成において、複数の全体走査のタイミングやエコー信号の時相を考慮した合成処理を行うことで、真の最大ドプラ速度の計測が不正確になるのを抑制することができる。さらに本実施形態では、隣接送信ブロックに属する同じ位置からのエコー信号或いはそれから演算で求めたドプラ信号をブロック間合成することができ、その際、送信ブロック間の走査順差が4方向で平準化されているので、ブロック間合成によって期待されるブロック端部領域の誤差低減効果を向上することができる。
【0080】
<実施形態2>
本実施形態は、実施形態1のカラードプラ画像を得るための送信における複数回の全体走査及び走査順序の制御に加えて、Bモード画像とカラードプラ画像との時相を揃える制御を追加する。このため、Bモード画像を得るための送信を分割し、カラードプラ画像を得るための送信群(複数回の全体走査)の各全体走査の間で実行する。
【0081】
実施形態1のようにBモード画像を得るための送信800とカラードプラ画像を得るための送信群810とが完全に分かれた送信シーケンスを用いた撮像では、Bモード画像の代表時相を、Bモード画像を得るための送信の中央時相とし、カラードプラ画像の代表時相を、カラードプラ画像を得るための送信群の中央時相とした場合、Bモード画像の代表時相とカラードプラ画像の代表時相は常に時間的に離れることになる。例えば、Bモード画像を得るための総送信回数がカラードプラ画像を得るための総送信回数の10分の1程度、全体送信シーケンスのボリュームレートが10Hzである場合、Bモード画像の代表時相とカラードプラ画像の代表時相は、50ミリ秒程度離れる。このような場合、例えば、弁が閉じた時相のBモード画像と、流入血流が生じているカラードプラ画像が重なって表示されるような状況が発生しうる。本実施形態では、Bモード画像とカラードプラ画像との時相を揃える制御を加えることで、両画像を重畳表示した際に生じうる時相のずれを解消する。
【0082】
以下、
図14及び
図15を参照して、実施形態1と異なる点を中心に、本実施形態の処理内容を説明する。
図14は、動作処理フローを示す図、
図15は送信の切り替えを時間軸に沿って示す図である。
図14において、
図2と同じ処理は同じ符号で示し、重複する説明は省略する。また本実施形態においても、装置の構成は、
図1に示した実施形態1の構成と共通しているので、適宜、
図1を参照する。
【0083】
[ステップS11]
撮像が開始されると、送信シーケンス制御部42が送信部12に送信シーケンスを指示する。
【0084】
送信シーケンスは、Bモード画像を得るための送信と、カラードプラ画像を得るための送信とを含み、カラードプラ画像を得るための送信については、実施形態1のステップS1と同様の条件(条件1、条件2及び必要であれば条件3)を満たす送信シーケンスとする。Bモード画像を得るための送信については、複数の送信グループに分けて、カラードプラ画像を得るための送信(各全体走査)の間に行う。これは、1ボリュームのBモード画像を分割して取得することを意味する。
図15に示す例では、Bモード画像を得るための送信800全体を、カラードプラ画像を得るための送信の全体走査(811、812、813)の回数で等分して3つの走査グループ801~803を作り、各走査グループを、カラードプラ画像を得るための送信の1回の全体走査と、次の全体走査の間に行う。
【0085】
Bモード画像を得るための送信は、Bモード画像を得るための送信800の分割と撮像範囲の分割とを対応させて、各送信走査グループで、対応する撮像範囲の分割領域を走査する。撮像範囲の分割方法の例を
図16~
図18に示す。
図16~
図18は、それぞれ、Bモード画像を得るための送信に関し、分割した送信が行われる範囲を、ある深さの面上に配置することで表現した図である。
【0086】
図16に示す例は、撮像範囲をエレベーション方向に単純に3分割し、第1のエリア(小領域)から第3のエリアを走査グループ801~803で上から順に走査する手法、
図17に示す例は、
図16に示す撮像範囲をさらに細かく分割し、空間的に離間した小領域(3つの第1のエリア等)を走査グループ801~803で順次走査し、撮像範囲全体でBモード画像の時相が揃うようにした例である。
図18に示す例は、3つの送信グループに属する送信をモザイク状に行う例であり、アジマス方向及びエレベーション方向に隣接するエリアは、互いに異なる送信グループ、即ち異なる時間で走査される。このようなモザイク状の送信は、特定の断面(スライス)間でのみ、すなわちエリアとエリアとの境で、撮像タイミングの大きな時間差を生じるのを防ぐ効果がある。
【0087】
さらに各走査グループで、分割した撮像範囲を、一部重複するように走査することも可能である。一部重複して走査する例を、
図19に示す。この例は、
図16の領域分割の場合を示しており、第1の走査グループで走査する第1のエリアと、第2の走査グループで走査する第2のエリアとは、エレベーション方向に一部重複し、第2の走査グループで走査する第2のエリアと、第3の走査グループで走査する第3のエリアとは、エレベーション方向に一部重複している。このように走査する小領域を一部重複させることで、
図18より簡易な制御で
図18と同様にエリアとエリアとの境で、撮像タイミングの大きな時間差を生じるのを防ぐ効果が得られる。
図19は、
図16の場合に一部重複走査する例を示したが、
図16以外の領域分割であっても同様に適用することができる。
【0088】
なお、
図16~
図19に示すBモード画像の範囲は、カラードプラ画像の範囲と必ずしも同一である必要は無い。
【0089】
本実施形態では、
図15に示すような、カラードプラ画像を得るための送信の間にBモード画像を得るための送信を行う送信シーケンスを用いることで、Bモード画像の代表時相とカラードプラ画像の代表時相を近づけることができる。Bモード画像とカラードプラ画像の総送信回数の割合及び全体送信シーケンスのボリュームレートが前掲の例と同様である場合、
図15の送信シーケンスでは、Bモード画像の代表時相とカラードプラ画像の代表時相を、17ミリ秒程度に抑えられる。
【0090】
[ステップS5]
信号処理部41は、受信部13から送られてきた受信信号に基づき、Bモード画像およびカラードプラ画像を形成する。カラードプラ画像の形成(合成手法)は、実施形態1と同様である。ここでは、Bモード画像の形成についてのみ述べる。
【0091】
〈ステップS50〉
Bモード画像演算部411は、各々の送信角度について、通常のBモード撮像と同様の演算処理を行い、演算結果を信号合成部414に送る。
【0092】
〈ステップS53〉
信号合成部414は、Bモード画像演算部411から送られた演算結果を所定の位置に配置して3次元Bモード画像の再構築を行う。このとき、
図16~
図18のような送信グループの撮像を行った場合、撮像タイミングの異なる小領域の境界では、Bモード画像にスライス状、またはブロック状のアーチファクトが生じやすくなる。これを回避するためには、小領域の境界で平滑化フィルタを掛ければよい。また、
図19に示すように、予め小領域同士の一部がオーバーラップするように撮像した場合には、オーバーラップした部分の信号を合成処理する。信号段階での合成処理は、後からのフィルタ処理と比較し、画像の空間分解能の低下を防ぐ効果がある。
【0093】
以上説明したように、本実施形態によれば、Bモード画像を得るための送信を時間的に分割することで、カラードプラ画像との時間的なずれを平均的にはなくすことができ、Bモード画像とカラードプラ画像とを重畳表示した際に、ある時点の速度情報が異なる時相の形態画像上に提示されるというような画像間のずれを解消することができる。また本実施形態によれば、Bモード画像を得るための送信を分割する際に、分割のパターンをオーバーラップさせたり、受信データに平滑化フィルタを適用したりすることで、分割に起因してスライス状或いはブロック状アーチファクトが発生するのを防止することができる。
【0094】
以上、3次元カラードプラ撮像を行う場合を例に本発明の実施形態を説明したが、本発明は、全体走査を複数回行って1時相の画像を合成すること、および、各回の全体走査で特定の送信シーケンスを用いることが特徴であり、カラードプラ撮像だけでなく、Bモード画像を含む他の超音波画像の撮像についても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1・・・超音波撮像装置
10・・・入力部
11・・・制御部
12・・・送信部
13・・・受信部
14・・・表示部
15・・・メモリ
2・・・超音波探触子
21・・・撮像範囲
3・・・生体
30・・・心血管
41・・・信号処理部
411・・・Bモード画像演算部
412・・・カラードプラ演算部
413・・・表示画像形成部
414・・・信号合成部
42・・・送信シーケンス制御部