(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139185
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】表示装置原色設計システム、表示装置原色設計方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 1/60 20060101AFI20220915BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20220915BHJP
G01J 3/46 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
H04N1/60
G06T1/00 510
G01J3/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039452
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 紘一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 崇
【テーマコード(参考)】
2G020
5B057
5C079
【Fターム(参考)】
2G020DA05
2G020DA12
2G020DA13
2G020DA34
5B057CA01
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB01
5B057CB08
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5B057CC01
5B057CE17
5B057DB02
5B057DB06
5B057DB09
5B057DC25
5C079HB01
5C079HB05
5C079HB11
5C079KA15
5C079KA18
5C079LA02
5C079LA31
5C079LB01
5C079MA19
5C079MA20
5C079NA03
5C079NA29
5C079PA05
(57)【要約】
【課題】観察者毎に表示色の補正を行なう必要が無い、多数の観察者間で表示色が同様に観察される表示装置の原色の分光分布を設計する表示装置原色設計システムを提供する。
【解決手段】本発明は、所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出部と、表示装置の原色の光源の候補となる候補原色の分光分布と、等色関数の各々とから、物体色それぞれに対応する、物体色を近似する表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出部と、表示色の色差に基づいて、候補原色の分光分布から表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出部と、
表示装置の原色の候補となる候補原色の分光分布と、前記等色関数の各々とから、前記物体色それぞれに対応する、当該物体色を近似する前記表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出部と、
前記表示色の色差に基づいて、前記候補原色の前記分光分布から前記表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化部と
を備えることを特徴とする表示装置原色設計システム。
【請求項2】
前記分類が、少なくとも、印刷物、塗装物、絵画、皮膚、生地の各々のいずれか一つを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の表示装置原色設計システム。
【請求項3】
前記分類が前記印刷物である場合、すくなくとも印刷される基材、インキの各々の組合せによる小分類で物体が設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の表示装置原色設計システム。
【請求項4】
前記分類が前記皮膚である場合、すくなくとも体の部位による小分類で物体が設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の表示装置原色設計システム。
【請求項5】
前記物体色算出部が、前記物体色を算出する際、当該物体が観察される環境の光源を選択し、当該光源の分光分布を用いて前記物体色を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の表示装置原色設計システム。
【請求項6】
前記物体色算出部が、前記物体色を算出する際、当該物体が観察される環境で用いられる標準的な光源を用いて、当該光源の分光分布を用いて前記物体色を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の表示装置原色設計システム。
【請求項7】
物体色算出部が、所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出過程と、
表示色算出部が、表示装置の原色の光源の候補となる候補原色の分光分布と、前記等色関数の各々とから、前記物体色それぞれに対応する、当該物体色を近似する前記表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出過程と、
表示装置原色最適化部が、前記表示色の色差に基づいて、前記候補原色の前記分光分布から前記表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化過程と
を含むことを特徴とする表示装置原色設計方法。
【請求項8】
コンピュータを、
所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出手段、
表示装置の原色の光源の候補となる候補原色の分光分布と、前記等色関数の各々とから、前記物体色それぞれに対応する、当該物体色を近似する前記表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出手段、
前記表示色の色差に基づいて、前記候補原色の前記分光分布から前記表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化手段
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に用いられる原色の分光放射輝度を設計する表示装置原色設計システム、表示装置原色設計方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ等の表示装置の分光特性によっては、同一の表示画面を観察している場合にも関わらず、観察者毎の等色関数の個人差によって、異なる表示色として知覚されることがある。
これにより、表示装置の表示画面に表示されるデザインの色を複数の観察者で評価する際に、同一の表示色が観察者間において異なる表示色として観察され、観察者間における色の評価に対する意志疎通が難しくなる場合がある。
【0003】
また、特許文献1に示されているように、表示色の画質を向上させるため、表示装置の原色の分光特性を狭帯域とするに従い、表示色域は拡大し、一方、知覚する個人差は顕著に表れるようになる。
そして、特許文献1では、観察者ごとに異なる等色関数に基づいて、画像の表示色を調整することにより、色の知覚の個人差が小さくなるよう画像の色変換を行なうソフトウェア的な方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2においては、ハードウェア的な方法として、観察者ごとに異なる等色関数に基づいて色の個人差が小さくなるように、表示装置の原色の分光特性を設計する方法が開示されている。
そして、表示装置の原色の設計においては、表示する物体の分光反射率と光源の分光放射輝度とから観察者ごとの測色値を取得し、観察者ごとの表示装置の測色値との色差が小さくなるように、表示装置の原色の分光分布を最適化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-120796号公報
【特許文献2】特開2019-62285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、観察者の各々が画像を観察する際、観察する画像毎に、各観察者の等色関数に基づいた色変換処理を表示色に対して行う必要がある。
また、特許文献2においては、デジタルシネマ分野などにおいて表示する物体が不定であるため、様々な物体の分光反射率に基づいて表示装置の分光分布を設計することになり、個人差に対する抑制効果は各物体に対して中途半端な状態となる。
さらに、特許文献2においては、物体の観察環境の光源が不定であるため、設計に用いられなかった光源下では必ずしも個人差抑制効果が得られるとは言えない。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、観察者毎に表示色の補正を行なう必要が無い、多数の観察者間で表示色が同様に観察される表示装置の原色の分光放射輝度の分光分布(単に、分光分布と示す場合有り)を設計する表示装置原色設計システム、表示装置原色設計方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の表示装置原色設計システムは、所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出部と、表示装置の原色の候補となる候補原色の分光分布と、前記等色関数の各々とから、前記物体色それぞれに対応する、当該物体色を近似する前記表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出部と、前記表示色の色差に基づいて、前記候補原色の前記分光分布から前記表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化部とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の表示装置原色設計システムは、前記分類が、少なくとも、印刷物、塗装物、絵画、皮膚、生地の各々のいずれか一つを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の表示装置原色設計システムは、前記分類が前記印刷物である場合、すくなくとも印刷される基材、インキの各々の組合せによる小分類で物体が設定されることを特徴とする。
【0011】
本発明の表示装置原色設計システムは、前記分類が前記皮膚である場合、すくなくとも体の部位による小分類で物体が設定されることを特徴とする。
【0012】
本発明の表示装置原色設計システムは、前記物体色算出部が、前記物体色を算出する際、当該物体が観察される環境の光源を選択し、当該光源の分光分布を用いて前記物体色を算出することを特徴とする。
【0013】
本発明の表示装置原色設計システムは、前記物体色算出部が、前記物体色を算出する際、当該物体が観察される環境で用いられる標準的な光源を用いて、当該光源の分光分布を用いて前記物体色を算出することを特徴とする。
【0014】
本発明の表示装置原色設計方法は、物体色算出部が、所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出過程と、表示色算出部が、表示装置の原色の候補となる候補原色の分光分布と、前記等色関数の各々とから、前記物体色それぞれに対応する、当該物体色を近似する前記表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出過程と、表示装置原色最適化部が、前記表示色の色差に基づいて、前記候補原色の前記分光分布から前記表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化過程とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明のプログラムは、コンピュータを、所定の分類に属する物体が、異なる観察者の等色関数の各々により知覚される色それぞれを物体色として算出する物体色算出手段、表示装置の原色の候補となる候補原色の分光分布と、前記等色関数の各々とから、前記物体色それぞれに対応する、当該物体色を近似する前記表示装置における分光分布を所定の等色関数で観察したときの表示色を算出する表示色算出手段、前記表示色の色差に基づいて、前記候補原色の前記分光分布から前記表示装置の原色の分光分布を求める表示装置原色最適化手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、観察者毎に表示色の補正を行なう必要が無い、多数の観察者間で表示色が同様に観察される表示装置の原色の分光放射輝度を設計する表示装置原色設計システム、表示装置原色設計方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態による表示装置原色設計システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】等色関数選択部102が表示部109に表示画面に表示する観察者の選択画面の一例を示す図である。
【
図3】物体分類選択部103が表示部109に表示画面に表示する対象物分類の選択画面の一例を示す図である。
【
図4】印刷物をさらに分類するために、物体分類選択部103が表示部109に表示画面に表示する選択項目の一例を示す図である。
【
図5】皮膚をさらに分類するために、物体分類選択部103が表示部109に表示画面に表示する選択項目の一例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態における環境光選択部104が表示部109に表示画面に表示する対象物を観察する際の光源の分類の選択画面の一例を示す図である。
【
図7】原色分光分布設定部106が表示部109の表示画面に表示する表示装置の原色の形状の設定や種類の選択を行う画面の一例を示す図である。
【
図8】本実施形態における原色分光放射輝度(r(λ)、g(λ)、b(λ))の分布形状の一例を示す図である。
【
図9】表示装置原色最適化部108が観察した原色の各々の色差の平均値を比較する図の一例を示す図の見方を示す概念図である。
【
図10】表示装置原色最適化部108が対象物分類として印刷物を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
【
図11】第1の実施形態において、表示装置原色最適化部108が表示装置の原色の色差を求める際に用いた、光源の分光放射輝度を示す図である。
【
図12】第1の実施形態において、表示装置原色最適化部108が表示装置の原色の色差を求める際に用いた、印刷物の基材の分光反射率を示す図である。
【
図13】表示装置原色最適化部108が対象物分類として皮膚を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
【
図14】表示装置原色最適化部108が対象物分類として絵画(例えば、油彩画)を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
【
図15】表示装置原色最適化部108が対象物分類として絵画(例えば、水彩画)を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
【
図16】表示装置原色最適化部108が対象物分類として印刷物を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
【
図17】表示装置原色最適化部108が対象物分類として皮膚を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
【
図18】本実施形態の表示装置原色設計システムによる表示装置の原色の中心波長及び半値幅を算出する処理の動作例を示すフローチャートである。
【
図19】第2の実施形態における環境光選択部104が表示部109に表示画面に表示する対象物を観察する際の光源の分類の選択画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、対象物を表示する一般的な表示装置において、異なる複数の観察者が同一の画像を観察した際、画像において知覚する色の個人差を最小化する表示装置の原色(色成分R(Red)、色成分G(Green)、色成分B(Blue))を設計する表示装置原色設計システムに関する。
そして、本発明の表示装置原色設計システムは、複数の観察者の個人差を最小化するため、観察対象の対象物を所定の分類により限定し、各対象物の個々の色の特徴に対応して表示装置の原色の分光放射輝度を特定する構成である。
【0019】
また、表示する対象物を撮像する環境の光源が一般に不定であるため、複数の光源を用いて表示装置の個人差を評価することにより、特定の光源に依存せず、個人差を抑制する効果を向上させる構成を備えている(後述する第1の実施形態に対応)。
一方、本発明は、表示する対象物の各々を撮像する環境が一般に不定ではあるが、対象物の各々を限定することにより、対象物のそれぞれに照射される光源を特定し、その光源を使用することで個人差を抑制する効果を向上させる構成を備えている(後述する第2の実施形態に対応)。
【0020】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による表示装置原色設計システムの構成例を示すブロック図である。
図1において、表示装置原色設計システム1は、データ入力部101、等色関数選択部102、物体分類選択部103、環境光選択部104、物体色算出部105、原色分光分布設定部106、表示色算出部107、表示装置原色最適化部108、表示部109、等色関数記憶部110、物体分光反射率記憶部111、環境光分光放射輝度記憶部112、原色分光放射輝度記憶部113及び最適化原色分光放射輝度記憶部114の各々を備えている。
【0021】
データ入力部101は、観察者となる人間の各々の等色関数、物体の分類及び各物体の分光反射率及び環境光の分光放射輝度、表示装置の原色の分光放射輝度などのデータを外部装置から読み込み、それぞれ、等色関数記憶部110、物体分光反射率記憶部111、環境光分光放射輝度記憶部112及び原色分光放射輝度記憶部113の各々に書き込んで記憶させる。
【0022】
等色関数選択部102は、後述する物体色算出部105が物体色(すなわち、物体色の三刺激値)を算出する際に用いる等色関数のグループを表示部109に表示する。
そして、等色関数選択部102は、表示部109に表示されている観察者の各々から、操作者が選択した観察者の等色関数を等色関数記憶部110から読み出し、物体色算出部105に対して出力する。
【0023】
図2は、等色関数選択部102が表示部109に表示画面に表示する観察者の選択画面の一例を示す図である。
図2において、CIE標準観測者、CIE補助標準観測者、論文データ#1、論文データ#2及び観察者#1の各々が選択される観察者として示されている。
CIE標準観測者及びCIE補助標準観測者の各々は、CIEが定義した一般的な人間であり、等色関数はこれらの標準観測者に対応してCIEから提供されている。
【0024】
論文データ#1は、等色関数に関する論文に含まれる多くの観測者のグループであり、観測者各々の等色関数それぞれが示されている。
論文データ#2は、上記論文データ#1とは異なる等色関数に関する論文に含まれる多くの観測者のグループであり、観測者各々の等色関数それぞれが示されている。
観察者#1は、操作者などが予め集めた観察者のグループであり、例えば、同一の表示装置(あるいは同一種類の表示装置)で同一の画像を観察して、デザインにおける色を決定するグループに属する等色関数が既知の人間のグループ、あるいは一人の観察者である。
【0025】
そして、等色関数選択部102は、操作者が選択した観察者の等色関数を等色関数記憶部110から読み出す。
例えば、操作者がCIE標準観測者、CIE補助標準観測者及び観察者#1の各々を選択した場合、等色関数選択部102は、これらCIE標準観測者、CIE補助標準観測者、観察者#1それぞれの観察者の等色関数(後述する等色関数xi(λ)、yi(λ)、zi(λ))を、等色関数記憶部110から読み出す。
【0026】
そして、等色関数選択部102は、読み出した(すなわち、操作者の選択した)観察者の等色関数を物体色算出部105に対して出力する。
ここで、観察者は、選択画面における観察者のグループを、一つあるいは複数を任意に選択することができる(複数選択可)。
【0027】
図1に戻り、物体分類選択部103は、後述する物体色算出部105が物体色を算出する際に用いる対象物(物質)の分光反射率の分類(対象物分類)を表示部109に表示する。
そして、物体分類選択部103は、表示部109に表示されている対象物の分類である対象物分類の各々から、操作者が選択した対象物の対象物分類の物質の分光反射率(物体分光反射率)を物体分光反射率記憶部111から読み出し、物体色算出部105に対して出力する。
【0028】
図3は、物体分類選択部103が表示部109に表示画面に表示する対象物分類の選択画面の一例を示す図である。
図3において、印刷物、塗装物、絵画、皮膚、生地などの各々が、選択される対象物分類として示されている。
印刷物は、写真画像、ポスターや建装材などを含み、印刷媒体(基材)にインキを使って印刷した対象物を示している。塗装物は、基材(下地塗装された基材も含む)にペンキなどを塗装した対象物を示している。絵画は、油絵の具を用いて描かれた油彩画や、水彩絵の具を用いて描かれた水彩画などの対象物を示している。皮膚は、人間の部位の各々の皮膚を対象物として示している。生地は、布などの生地であり、作成した糸の材質(種類、品番)、織り方(あるいは縫い方)、糸の色などでさらに分類(小分類に分類)される。
【0029】
例えば、操作者が
図3の表示画面において印刷物を選択した場合、等色関数選択部102は、印刷物をさらに詳細に分類するための選択画面を表示する。
図4は、印刷物をさらに分類するために、等色関数選択部102が表示部109に表示画面に表示する選択項目の一例を示す図である。
図4(a)は、印刷物の分類における小分類としての選択項目の一つである、印刷に用いられる基材(印刷媒体)の種類を示している。紙#1から紙#3の各々は、それぞれ一般的に用いられる標準的な紙、あるいは印刷に使用する紙などが示されている。金属#1及び金属#2の各々は、それぞれ一般的に用いられる標準的な金属、あるいは印刷に使用する金属などが示されている。木材#1及び木材#2の各々は、それぞれ一般的に用いられる標準的な木材、あるいは印刷に使用する木材などが示されている。
【0030】
図4(b)は、印刷物の分類における小分類としての選択項目の一つである、印刷に用いられる印刷方法の種類を示している。ここで、印刷方法は、小分類の印刷する手法として、オフセット、グラビア、シルク及びインクジェットなどが示されている。
図4(c)は、選択項目の一つである、印刷に用いられるインキの種類(インキセット)を示している。インキ#1からインキ#5の各々は、それぞれ一般的に用いられるインキセットや、印刷に使用するインキセットなどが示されている(インキセットの場合、それぞれの色のインキが単色で基材に印刷される)。
【0031】
そして、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)の選択画面において、操作者が基材として紙#1及び紙#3、印刷方法としてオフセット及びグラビア、オフセット印刷用インキとしてインキ#1及びインキ#3の各々を選択した場合、物体分類選択部103は、紙#1、紙#3、オフセット、インキ#1及びインキ#3(オフセットに用いられるインキセットであり、単色毎あるいは複数色の色刷りの印刷)の組合せの各々における分光反射率(物体分光反射率)を、物体分光反射率記憶部111から読み出す。オフセット印刷方法においては、インキ#1が3種類、インキ#3が5種類のインキで構成されている場合、2(紙の種類数)×3(インキ#1のインキの種類数)+2(紙の種類数)×5(インキ#3のインキの種類数)=16種類の分光反射率が読み出される。
【0032】
図3に戻り、操作者が
図3の表示画面において皮膚を選択した場合、等色関数選択部102は、皮膚をさらに詳細に分類するための選択画面を表示する。
図5は、皮膚をさらに分類するために、物体分類選択部103が表示部109に表示画面に表示する選択項目の一例を示す図である。
【0033】
図5(a)は、選択項目の一つである、人体の何れの部位の皮膚かを特定するための、人体の部位の種類を示している。部位としては、例えば、小分類として手の平、手の甲、腕、背中、腹部、顔などが示されている。
図5(b)は、選択項目の一つである、人種及び肌の部位における肌色の種類を示している。この種類としては、肌色の小分類として、肌色#1から肌色#7などが示されている。
【0034】
また、表示装置原色設計システム1を人種の生物学的な区分としてのコーカソイド、モンゴロイド、ニグロイド、オーストらロイドなどとして特定の人種を対象として運用する場合、肌色の種類は特定されて一種類となるため、肌色を選択肢とする必要は無い。この場合、表示装置原色設計システム1は、肌色の種類を選択する機能を備えない構成としてもよい。
【0035】
そして、
図5(a)及び
図5(b)の選択画面において、操作者が部位として手の平及び顔、肌色の分類として肌色#1、肌色#3、肌色#6の各々を選択した場合、物体分類選択部103は、手の平及び顔、肌色#1、肌色#3、肌色#6の組合せの各々における分光反射率(物体分光反射率、後述する分光反射率r
j(λ))を、物体分光反射率記憶部111から読み出す。この場合、2(部位の種類数)×3(肌色の種類数)=6種類の分光反射率が読み出される。
また、他の塗装物、絵画及び生地の各々についても、複数の選択項目が示され、それぞれ選択した選択項目の組合せに対応して、物体分類選択部103は、物体分光反射率記憶部111から物体分光反射率(後述する分光反射率r
j(λ))を読み出す。
【0036】
図1に戻り、環境光選択部104は、後述する物体色算出部105が物体色を算出する際に用いる、対象物を観察する環境における光源の分光放射輝度(環境光分光放射輝度)の分類を表示部109に表示する。
そして、環境光選択部104は、表示部109に表示されている光源の分類の各々から、操作者が選択した光源の分光放射輝度(環境光分光放射輝度)を環境光分光放射輝度記憶部112から読み出し、物体色算出部105に対して出力する。
【0037】
図6は、第1の実施形態における環境光選択部104が表示部109に表示画面に表示する対象物を観察する際の光源の分類の選択画面の一例を示す図である。
図6は、例えば、光源の分類として、LED照明#1、LED照明#2(紫外光有り)、蛍光灯#1、蛍光灯#2及び屋外などの各々を選択する画面である。
【0038】
すなわち、
図6において、LED照明#1、LED照明#2(紫外光有り)、蛍光灯#1、蛍光灯#2及び屋外などの各々が、環境における光源(環境光分光放射輝度)の分類として示されている。ここで、LED照明#1は、人間が認識出来る波長範囲の分光放射輝度のデータであり、LED照明#2は、人間が認識出来ない紫外光の波長範囲を含む分光放射輝度のデータであることを示している。
例えば、LED照明#1、LED照明#2、蛍光灯#1及び蛍光灯#2の各々は、製造メーカが仕様を提供しているデバイス名が記載されている。屋外は、例えば、晴天における太陽光下の状態を示している。
【0039】
そして、環境光選択部104は、操作者が選択した光源に対応する環境光分光放射輝度を環境光分光放射輝度記憶部112から読み出す。
例えば、操作者がLED照明#1、LED照明#2及び屋外の各々を選択した場合、環境光選択部104は、これらLED照明#1、LED照明#2、屋外それぞれの光源の環境光分光放射輝度を、環境光分光放射輝度記憶部112から読み出す。
ここで、観察者は、選択画面における光源を、一つあるいは複数を任意に選択することができる(複数選択可)。
【0040】
図1に戻り、物体色算出部105は、等色関数選択部102、物体分類選択部103及び環境光選択部104の各々から供給される等色関数、物体分光反射率、環境光分光放射輝度それぞれにより、物体色を算出する。
このとき、物体色算出部105は、操作者が選択した観察者の等色関数x
i(λ)、y
i(λ)、z
i(λ)を、等色関数選択部102から入力する。ここで、iは観察者のインデックスを表す。
【0041】
また、物体色算出部105は、操作者が選択した対象物分類に対応する物体分光反射率rj(λ)を、物体分類選択部103から入力する。ここで、jは物体のインデックスを表す。
また、物体色算出部105は、操作者が選択した環境の光源の各々に対応する環境光分光放射輝度(分光分布)lk(λ)を、環境光選択部104から入力する。ここで、kは光源のインデックスを表す。
【0042】
そして、物体色算出部105は、j番目の物体の分光反射率rj(λ)と、k番目の光源の分光分布lk(λ)と、i番目の観察者の等色関数xi(λ)、yi(λ)、zi(λ)の各々とから、下記の(1)式により、i番目の観察者により視認される物体色の三刺激値Xpi、j、k、Ypi、j、k、Zpi、j、kを算出する。
【0043】
【0044】
原色分光分布設定部106は、操作者が選択した表示装置の原色(例えば、色成分R、色成分G、色成分B)の分光放射輝度データ(後述するr(λ)、g(λ)、b(λ))を読み出す。
このとき、原色分光分布設定部106は、分光放射輝度を選択する表示画面を、表示部109に表示させ、操作者に対して原色の種類の選択を促す。
【0045】
図7は、原色分光分布設定部106が表示部109の表示画面に表示する表示装置の原色の形状の設定や種類の選択を行う画面の一例を示す図である。
図7(a)は、表示装置の原色分光放射輝度データとして、色成分RのR原色の分光放射輝度r(λ)、色成分GのG原色の分光放射輝度g(λ)及び色成分BのB原色の分光放射輝度b(λ)の各々の分光分布の形状の設定を行う設定画面を示している。本実施形態において、分光分布の形状は、 左右対称の釣り鐘型の曲線形状で近似される分布形状(正規分布に対応する形状)を用いており、分布形状の中央値の波長が中心波長であり、分布の左右幅が半値幅で設定される。
【0046】
図8は、本実施形態における原色分光放射輝度(r(λ)、g(λ)、b(λ))の分布形状の一例を示す図である。
図8のグラフにおいて、横軸が波長を示し、縦軸が放射光の強度値(各色成分における放射光の波長の強度値を、各色成分の放射光の最大値で除算した規格値)を示している。
図8において、分光分布の形状は、左右対称の釣り鐘型の曲線形状であり、波長λ0及び波長λpが中心波長を示している。
また、波長λ0及び波長λpの各々の分光分布の半値幅がL1であり、この半値幅L1の数値は後述するように任意に設定することができる。
【0047】
図7に戻り、
図7(a)において、例えば、B原色の分光分布を例に、分光分布の形状の設定方法について説明する。
中心波長最小値は、後述する表示装置における表示色を設定する際に用いる波長λの最小値であり、
図8における波長λ0に対応している。
中心波長最大値は、上記表示色を設定する際に用いて波長λの最大値であり、
図8における波長λpに対応している。
中心波長刻みは、中心波長最小値λ0から中心波長最大値λpまでの波長範囲で、中心波長となる波長を生成する刻み幅を示している。
【0048】
例えば、中心波長刻みの刻み幅が10nmである場合、中心波長最小値λ0から10nmずつ増加させた波長を中心波長とする分光分布を生成することを示す。
すなわち、中心波長最小値が400nmであり、中心波長最大値が500nmであり、中心波長刻みが10nmである場合、400nm(λ0)、410nm(λ1)、420nm(λ2)、430nm(λ3)、440nm(λ4)、450nm(λ5)、460nm(λ6)、470nm(λ7)、480nm(λ8)、490nm(λ9)及び500nm(λ10)の11個(0≦p≦10)の分光分布が生成される。
【0049】
半値幅最小値は、後述する表示装置における表示色を設定する際に用いる分光分布の半値幅の最小値(L0)である。
また、半値幅最大値は、後述する表示装置における表示色を設定する際に用いる分光分布の半値幅の最大値(Lq)である。
半値幅刻みは、半値幅最小値から半値幅最大値までの波長範囲で、分光分布の半値幅となる波長を生成する刻み幅を示している。
例えば、半値幅刻みの刻み幅が10nmである場合、半値幅最小値L0から5nmずつ増加させた波長を中心波長とする分光分布を生成することを示す。
【0050】
例えば、半値幅刻みの刻み幅が5nmである場合、半値幅最小値から5nmずつ増加させた波長を半値幅とする分光分布を生成することを示す。
すなわち、半値幅最小値が10nmであり、半値幅最大値が50nmであり、半値幅刻みが5nmである場合、10nm(L0)、15nm(L1)、20nm(L2)、25nm(L3)、30nm(L4)、35nm(L5)、40nm(L6)、45nm(L7)、50nm(L8)の9個(0≦q≦8)の分光分布が生成される。
これにより、中心波長が11通り、半値幅が9通りの組合せとして、B原色において99通りの組合せの数の原色の分光分布が生成される。
【0051】
また、他のG原色及びR原色の各々においても、上述したB原色と同様に、中心波長の中心波長最小値、中心波長最大値及び中心波長刻みと、半値幅の半値幅最小値、半値幅最大値及び半値幅刻みとの各々を設定することにより、原色分光分布設定部106は、G原色、R原色それぞれにおける組合せ数を求める。
【0052】
そして、原色分光分布設定部106は、R原色、G原色及びB原色の各々の組合せを、さらに組み合わせた数の原色の分光分布の分布形状を取得し、表示色算出部107に対して、順次、組合せの分光分布の分布形状、すなわちR原色、G原色及びB原色の各々の波長ごとの強度値(規格値)を出力する。
また、本実施形態においては、分光分布の形状を正規分布の場合で説明したが、正規分布の形状に限らず、左右の曲線のテイルの形状が異なっている分布曲線でもよい。
【0053】
図7(b)は、すでに使用されている表示装置の原色(R色成分、G色成分及びB色成分)の放射光輝度の分光分布のデータを選択する選択画面を示している。
図7(b)においては、例えば、表示装置の原色のデータセットとして、原色データセット#1、原色データセット#2、原色データセット#3、原色データセット#4及び原色データセット#5の各々が表示される。
本実施形態においては、複数の原色データセットの選択が可能であり、
図7(b)において、操作者は、選択画面から原色データセット#1、原色データセット#2及び原色データセット#5を選択している。
【0054】
そして、原色分光分布設定部106は、操作者が選択した原色データセット#1、原色データセット#2及び原色データセット#5の各々の放射光輝度の分光分布のデータを、原色分光放射輝度記憶部113から読み出し、表示色算出部107に対して出力する。
本実施形態において、原色データセットの各々は、分光分布のデータとして、波長毎の強度値(
図7(a)で説明した規格値としての強度値)として、原色分光放射輝度記憶部113に予め書き込まれて記憶されている。この分光分布のデータは、すでに製造されている原色の分光放射輝度を測定して取得したデータである。
【0055】
また、本実施形態においてはバックライトと各原色のカラーフィルタとを合わせた、各原色の放射光の分光分布のデータとして記憶されている場合を示した。
しかしながら、バックライトにおける放射光の分光放射輝度の分光分布と、各原色のカラーフィルタの透過率の分光分布との各々を、原色分光放射輝度記憶部113に独立に書き込んで記憶させておく構成としてもよい。
この構成の場合、表示色算出部107は、操作者が選択したバックライト及びカラーフィルタの各々の分光分布を組み合わせて、原色の分光分布として用いる。
【0056】
図1に戻り、表示色算出部107は、原色分光分布設定部106から、原色の分光分布が供給された場合、観察者の等色関数を用いて、すなわち、i番目の観察者の等色関数x
i(λ)、y
i(λ)、z
i(λ)における表示色の三刺激値X
r、i、Y
r、i、Z
r、i、X
g、i、Y
g、i、Z
g、i、X
b、i、Y
b、i、Z
b、iを、以下の(2)式により算出する。
【0057】
【0058】
表示色算出部107は、i番目の観察者が表示装置を観察したときに、当該観察者が知覚する物体色の三刺激値Xpi、j、k、Ypi、j、k、Zpi、j、kを近似する表示装置の分光分布di、j、k(λ)を以下の(3)式及び(4)式により算出する。
【0059】
【0060】
【0061】
ここで、表示色算出部107は、(3)式において、各観察者が知覚する物体色の三刺激値Xpi、j、k、Ypi、j、k、Zpi、j、kのベクトルに対して、各観察者が知覚する各原色の表示色の三刺激値Xr、i、Yr、i、Zr、i、Xg、i、Yg、i、Zg、i、Xb、i、Yb、i、Zb、iの逆行列を乗算する。
これにより、表示色算出部107は、各観察者の知覚する各原色の各々における分光放射輝度と、実際の分光放射輝度との比率ri、j、k、比率gi、j、k、比率bi、j、kのそれぞれを算出する。比率ri、j、kは、R原色の分光分布に対応する比率である。また、比率gi、j、kは、G原色の分光分布に対応する比率である。比率bi、j、kは、B原色の分光分布に対応する比率である。
【0062】
表示色算出部107は、(4)式により、原色分光分布設定部106から供給されるR原色、G原色及びB原色の各々の分光分布に対して、比率ri、j、k、比率gi、j、k、比率bi、j、kのそれぞれを乗算することにより、観察者iの知覚する各原色の分光分布を合成した合成分光分布di、j、k(λ)を算出する。
そして、表示色算出部107は、以下の(5)式により、上記合成分光分布の表示装置により、所定の観察者が知覚する表示色の分光分布di、j、k(λ)で知覚する表示色の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k及びZdi、j、kの各々を次式で計算する。
【0063】
【0064】
表示色算出部107は、後述する色差の算出を行う場合に、各観察者iが知覚する分光分布di、j、k(λ)の各々を比較可能な数値とするため、所定の観察者が知覚する表示色の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kのそれぞれを、ある所定の観察者の等色関数により固定して(5)式により算出する。
この所定の観察者は、例えば、CIEが提供する2度視野及び10度視野の各々の等色関数や、操作者が選択した観察者iのいずれかの観察者の等色関数などを用いる。
【0065】
表示装置原色最適化部108は、以下の(6)式により、観察者iのいずれかの観察者を基準観察者として、他の観察者の各々の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの差分のそれぞれを求めて、基準観察者の三刺激値Xd1、j、k、Yd1、j、k、Zd1、j、k(参照表示色の三刺激値)と、他の観察者iの三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの各々の間における原色の色差の平均値Eを算出する。
【0066】
【0067】
上記(6)式において、本実施形態において、表示装置原色最適化部108は、観察者#1(i=1)と、観察者#N(2≦i≦N)までの観察者との各々の色差を求める。すなわち、(6)式において、観察者#1(i=1)の三刺激値は、Xp1、j、k、Yp1、j、k、Zp1、j、kとなっている。
しかしながら、基準観察者は、操作者が選択して、表示色の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの各々の算出に用いた観察者であれば、いずれでもよい。
【0068】
そして、表示装置原色最適化部108は、上記(6)式により、観察者#1とそれ以外の観察者#i(2≦i≦N)との各々の三刺激値それぞれの差分の二乗の平方根の(色差ΔE*ab)の平均値を、操作者が選択した表示装置における原色の個人差Eとして算出する。
【0069】
【0070】
また、表示装置原色最適化部108は、操作者が選択した表示装置における原色の色差の平均値Eの算出方法として、上記(6)式に限らず、(7)式に示すように観察者#i(1≦i≦N)との各々の三刺激値と三刺激値の平均値との差分から計算する構成としてもよい。
(7)式において、mean()は、()(括弧)内の平均値を算出する関数である。f()は、()(括弧)内の総和や最大値、分散などのいずれかを選択して計算した関数とする。また、(7)式において、物体#j(1≦j≦M)や光源#k(1≦k≦K)の総和の代わりに最大値や分散などを選択して用いてもよい。
表示装置原色最適化部108は、原色分光分布設定部106から供給される、操作者が選択した全ての表示装置の原色における個人差Eを算出する。
【0071】
図9は、表示装置原色最適化部108が観察した原色の各々の色差の平均値を比較する図の一例を示す図の見方を示す概念図である。
図9(a)は、B原色における中心波長及び半値幅の組合せのいずれかのR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。したがって、この集合体において左上のブロック2011が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0072】
そして、
図9(a)における列方向にR原色の半値幅が操作者により
図7(a)の設定画面で設定した半値幅刻み、すなわち刻み幅5nm単位で、半値幅最小値10nmから増加させて、半値幅最大値60nmまでのR原色の各々の半値幅が示されている。
同様に、
図9(a)における行方向にG原色の半値幅が操作者により
図7(a)の設定画面で設定した半値幅刻み、すなわち刻み幅5nm単位で、半値幅最小値10nmから増加しており、半値幅最大値60nmまでのG原色の各々半値幅が示されている。
このため、右下のブロック2066が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0073】
また、
図9(b)は、
図9(a)のR原色の半値幅及びG原色の半値幅の各々の組合せのいずれかのブロックの構成を示している。
すなわち、
図9(b)は、B原色における中心波長及び半値幅の組合せのいずれかにおける、R原色及びG原色の半値幅の組合せ毎の中心波長毎の色差を示す色差マップを示している。
この色差マップは、R原色及びG原色の各々の中心波長毎の色差を階調度としており、例えば256階調の場合、色差が「0」から「255」までに量子化されている。表示装置原色最適化部108が取得した色差の平均値の例えば最大値である最大色差により、色差の各々を除算して規格化し、256の範囲に分割することにより量子化を行っている。色差(階調度)が「0」に近くなるに従い色差マップにおいては黒に近くなり、一方、色差が「255」に近くなるに従い色差マップにおいては白に近くなる。
【0074】
そして、
図9(b)の色差マップにおいて、縦軸がG原色の中心波長(nm)を示し、縦軸がR原色の中心波長(nm)を示している。
この色差マップにおいては、列方向にR原色の中心波長が操作者により
図7(a)の設定画面で設定した中心波長幅刻み、すなわち刻み幅10nm単位で、中心波長最小値580nmから増加させて、中心波長最大値650nmまでのR原色の各々の中心波長が示されている。
同様に、この色差マップにおいては、行方向にG原色の中心波長が操作者により
図7(a)の設定画面で設定した中心波長幅刻み、すなわち刻み幅10nm単位で、中心波長最小値500nmから増加させて、中心波長最大値580nmまでのG原色の各々の中心波長が示されている。
【0075】
図10は、表示装置原色最適化部108が対象物分類として印刷物を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。この
図10における印刷物の印刷方式は、オフセット印刷を用いている。
図10(a)は、対象物分類が印刷物に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅15nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。また、各ブロックの色差マップの構成も、すでに説明した
図9(b)と同様である。
【0076】
したがって、
図10(a)において、集合体の左上のブロック3011が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
そして、右下のブロック3066が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0077】
また、
図10(b)は、対象物分類が印刷物に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅20nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
また、
図10(c)は、対象物分類が印刷物に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅30nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0078】
図11は、表示装置原色最適化部108が表示装置の原色の色差を求める際に用いた、光源の分光放射輝度を示す図である。この
図11は、すでに説明した
図10と、後述する
図13、
図14、
図15、
図16、及び
図17の色差を算出するために物体色算出部105が用いた光源の分光放射輝度を示している。
図11において、横軸は、波長を示しており、縦軸が放射輝度(各原色において、560nmの放射輝度を100に規格化した値)を示している。この使用した光源(実線)は、参考として記載した標準の光A(点線)や、例えばCIE標準光源D65(点線)などと分光分布が異なり、得られる物体色が異なることが判る。
【0079】
図12は、表示装置原色最適化部108が表示装置の原色の色差を算出する際に用いた、印刷物の基材の分光反射率を示す図である。この
図12は、すでに説明した
図10の色差を算出するために物体色算出部105が用いた印刷物の分光反射率を示している。
図12において、横軸は、波長を示しており、縦軸が分光反射率(反射率:印刷物の分光反射率)を示している。この使用した印刷物の分光反射率(反射率)は、人間の可視帯域の380nmから730nmにおいて、ほぼフラットの曲線形状を示している。
【0080】
図13は、表示装置原色最適化部108が対象物分類として皮膚を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
この
図13の色差を算出する際に用いた皮膚は、顔の各部位であり、分光反射率のデータとして、「文献ISO/TR 16066:2003 Graphic technology-Standard object colour spectra database for colour reproduction evaluation (SOCS)」における皮膚のデータを使用した。
また、皮膚の環境光源には、
図10の印刷物の色差を算出する際と同様に、
図11の分光放射輝度のデータを用いた。
図13(a)は、対象物分類が皮膚に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅15nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0081】
したがって、
図13(a)において、集合体の左上のブロック3111が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
そして、右下のブロック3166が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0082】
また、
図13(b)は、対象物分類が皮膚に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅20nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
また、
図13(c)は、対象物分類が皮膚に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅30nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0083】
図14は、表示装置原色最適化部108が対象物分類として絵画(例えば、油彩画)を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
この
図14の色差を算出する際に用いた絵画は、油彩画であり、分光反射率のデータとして、「文献ISO/TR 16066:2003 Graphic technology - Standard object colour spectra database for colour reproduction evaluation (SOCS)」における油彩画のデータを使用した。
また、油彩画の環境光源には、
図10の印刷物の色差を算出する際と同様に、
図11の分光放射輝度のデータを用いた。
図14(a)は、対象物分類が油彩画に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅15nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0084】
したがって、
図14(a)において、集合体の左上のブロック3211が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
そして、右下のブロック3266が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0085】
また、
図14(b)は、対象物分類が油彩画に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅20nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
また、
図14(c)は、対象物分類が油彩画に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅30nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0086】
図15は、表示装置原色最適化部108が対象物分類として絵画(例えば、水彩画)を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
この
図15の色差を算出する際に用いた絵画は、水彩画であり、分光反射率のデータとして、「文献ISO/TR 16066:2003 Graphic technology - Standard object colour spectra database for colour reproduction evaluation (SOCS)」における水彩画のデータを使用した。
また、水彩画の環境光源には、
図10の印刷物の色差を算出する際と同様に、
図11の分光放射輝度のデータを用いた。
図15(a)は、対象物分類が水彩画に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅15nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0087】
したがって、
図15(a)において、集合体の左上のブロック3311が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
そして、右下のブロック3366が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0088】
また、
図15(b)は、対象物分類が水彩画に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅20nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
また、
図15(c)は、対象物分類が水彩画に対応した、B原色における中心波長450nm及び半値幅30nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0089】
図16は、表示装置原色最適化部108が対象物分類として印刷物を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
この
図16の色差を算出する際に用いた印刷物の印刷方法は、オフセット印刷であり、分光反射率のデータとして、
図10の原色の色差を求める際に用いた
図12の分光反射率のデータを使用した。
また、印刷物の環境光源には、
図10の印刷物の色差を算出する際と同様に、
図11の分光放射輝度のデータを用いた。
図16(a)は、対象物分類が印刷物に対応した、B原色における中心波長460nm及び半値幅15nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0090】
したがって、
図16(a)において、集合体の左上のブロック3411が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
そして、右下のブロック3466が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0091】
また、
図16(b)は、対象物分類が印刷物に対応した、B原色における中心波長460nm及び半値幅20nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
また、
図16(c)は、対象物分類が印刷物に対応した、B原色における中心波長460nm及び半値幅30nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0092】
図17は、表示装置原色最適化部108が対象物分類として皮膚を選択して、観察した原色の各々の色差の平均値を比較する色差マップの集合体を示す図である。
この
図17の色差を算出する際に用いた皮膚は、
図13と同様に、顔の各部位であり、分光反射率のデータとして、「文献ISO/TR 16066:2003 Graphic technology-Standard object colour spectra database for colour reproduction evaluation (SOCS)」における皮膚のデータを使用した。
また、皮膚の環境光源には、
図10の印刷物の色差を算出する際と同様に、
図11の分光放射輝度のデータを用いた。
図17(a)は、対象物分類が皮膚に対応した、B原色における中心波長460nm及び半値幅15nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0093】
したがって、
図17(a)において、集合体の左上のブロック3511が原点のブロックであり、R原色の半値幅最小値10nm及びG原色の半値幅最小値10nmの各々の組合せの色差マップを示している。
そして、右下のブロック3566が終点のブロックであり、R原色の半値幅最大値60nm及びG原色の半値幅最大値60nmの各々の組合せの色差マップを示している。
【0094】
また、
図17(b)は、対象物分類が皮膚に対応した、B原色における中心波長460nm及び半値幅20nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
また、
図17(c)は、対象物分類が皮膚に対応した、B原色における中心波長460nm及び半値幅30nmの組合せにおけるR原色及びG原色の半値幅毎の色差マップを一つのブロックとする色差マップの集合体を示している。この集合体における列方向(R原色の半値幅)及び行方向(G原色の半値幅)の配列は、すでに説明した
図9(a)と同様である。
【0095】
図10、
図13、
図14、
図15の各色差マップにおける色差を比較すると、対象物分類の印刷物、皮膚、油彩画及び水彩画の各々において、中心波長の帯域及び半値幅の波長幅における色差がそれぞれ大きく異なっていることが判る。
例えば、対象物分類が印刷物である
図10(a)におけるブロック3066の色差マップと、対象物分類が油彩画である
図14(a)におけるブロック3266の色差マップとを比較した場合、B原色の中心波長及び半値幅の各々が同一であり、かつR原色及びG原色の半値幅が同一であるにも関わらず、R原色及びG原色の中心波長の組合せに対応した色差が大きく異なっている。
【0096】
また、
図14及び
図15の各々を比較して見ると、同じ絵画ではあるが、油彩画と水彩画との違いにより、対象物分類が油彩画である
図14(a)におけるブロック3211の色差マップと、対象物分類が水彩画である
図15(a)におけるブロック3311の色差マップとを比較した場合、B原色の中心波長及び半値幅の各々が同一であり、かつR原色及びG原色の半値幅が同一であるにも関わらず、R原色及びG原色の中心波長の組合せに対応した色差が大きく異なっている。
【0097】
次に、
図10及び
図16の各々を比較すると、対象物分類としては印刷物で同一であり、かつ、R原色及びG原色の半値幅が同一であり、B原色の半値幅も同一であるにもかかわらず、B原色の中心波長が異なるのみで、R原色及びG原色の中心波長の組合せに対応した色差が大きく異なっている。
また、
図13及び
図17の各々を比較すると、対象物分類としては皮膚で同一であり、かつ、R原色及びG原色の半値幅が同一であり、B原色の半値幅も同一であるにもかかわらず、B原色の中心波長が異なるのみで、R原色及びG原色の中心波長の組合せに対応した色差が大きく異なっている。
【0098】
したがって、対象物分類により分類された対象物の種類により、あるいは中心波長及び半値幅の組合せにより、観察者の各々における知覚される色の色差(色を知覚する個人差)が、R原色、G原色及びB原色各々の中心波長及び半値幅の各々の組合せにより大きく異なることが判る。
これにより、対象物分類及び観察する環境の光源の分類の各々を行うことにより、表示装置で観察する対象物(物体)を分類して、ある程度特定し(すなわち、分光反射率の分類)、かつ観察する環境の光源(すなわち、分光放射輝度の分類)を行うことにより、各対象物に対応した色差範囲(観察者の各々が同様の色として知覚が可能な色差の許容範囲)内に色差を納めることが可能な、表示装置の原色の中心波長及び半値幅の範囲を高い精度で取得することが可能となる。
【0099】
図18は、本実施形態の表示装置原色設計システムによる表示装置の原色の中心波長及び半値幅を算出する処理の動作例を示すフローチャートである。
ステップS11:
等色関数選択部102は、後述する物体色算出部105が物体色を算出する際に用いる等色関数(観察者)のグループを選択する選択画面を表示部109に表示する。
そして、等色関数選択部102は、表示部109に表示されている観察者の各々から、操作者が選択した観察者の等色関数x
i(λ)、y
i(λ)及びz
i(λ)の各々を等色関数記憶部110から読み出し、物体色算出部105に対して出力する。
【0100】
ステップS12:
環境光選択部104は、後述する物体色算出部105が物体色を算出する際に用いる、物体を観察する光源(分光分布lk(λ))を選択するための環境の光源の選択画面を表示部109に表示する。
そして、環境光選択部104は、表示部109に表示されている環境の光源の各々から、操作者が選択した光源に対応する分光分布lk(λ)を環境光分光放射輝度記憶部112から読み出し、物体色算出部105に対して出力する。
【0101】
ステップS13:
物体分類選択部103は、後述する物体色算出部105が物体色を算出する際に用いる分光反射率rj(λ)を選択するための対象物分類の選択画面を表示部109に表示する。
そして、物体分類選択部103は、表示部109に表示されている対象物分類の各々から、操作者が選択した分類における対象物の分光反射率rj(λ)を物体分光反射率記憶部111から読み出し、物体分光反射率として物体色算出部105に対して出力する。
【0102】
ステップS14:
物体色算出部105は、物体を観察する観察者の等色関数xi(λ)、yi(λ)及びzi(λ)の各々と、物体を観察する環境の光源の分光分布lk(λ)と、観察される物体の分光反射率rj(λ)(物体分光反射率)とのそれぞれから、(1)式により、物体を観察した観察者の知覚する三刺激値Xpi、j、k、Ypi、j、k、Zpi、j、kを算出する。
【0103】
ステップS15:
原色分光分布設定部106は、表示装置の原色を設定する設定画面を表示部109に表示させ、操作者に対して原色の分布形状を生成する中心波長及び半値幅の組合せを行うデータ(
図7(a)に対応)、あるいはすでに存在する原色の分布形状そのもののデータ(
図7(b)に対応)を選択させる。
そして、原色分光分布設定部106は、操作者が設定した中心波長及び半値幅の組合せにより生成した分布形状のデータ、あるいは原色分光放射輝度記憶部113から読み出した選択した表示装置の原色の分布形状そのもののデータを、色成分R、色成分G及び色成分Bの各々に対応させ、それぞれ、原色分光放射輝度データr(λ)、g(λ)、b(λ)として出力する。
【0104】
ステップS16:
表示色算出部107は、観察者iの各々が表示装置の表示画面を観察した際における、物体を観察した観察者iの知覚する三刺激値Xpi、j、k、Ypi、j、k、Zpi、j、kを近似する、上記表示装置の表示画面の物体の画像(物体の画像を構成する画像構成単位である画素の各々)における分光分布di、j、k(λ)を、すでに説明した(2)式から(4)式により、原色分光放射輝度データr(λ)、g(λ)、b(λ)と、観察者iの等色関数xi(λ)、yi(λ)及びzi(λ)の各々とにより算出する。
【0105】
そして、表示色算出部107は、分光分布di、j、k(λ)を所定の観察者が知覚したときの表示色の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kを、すでに説明した(5)式により算出する。
【0106】
ステップS17:
表示色算出部107は、全ての観察者iの分光分布di、j、k(λ)、及び原色の分光分布に対応する、所定の観察者が知覚する表示色の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kを算出したか否か、すなわち操作者が選択した観察者の全ての観察者iに対して、操作者が設定あるいは選択した物体と光源の分布形状の全ての組合せに対応させて三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの算出が終了したか否かの判定を行う。
【0107】
このとき、表示色算出部107は、操作者が選択した観察者の全ての観察者iに対して、操作者が設定あるいは選択した物体と光源の分布形状の全ての組合せに対応させて三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの算出が終了した場合、処理をステップS18へ進める。
一方、表示色算出部107は、操作者が選択した観察者の全ての観察者iに対して、操作者が設定あるいは選択した物体と光源の分布形状の全ての組合せに対応させて三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの算出が終了していない場合、処理をステップS15へ進め、残りの観察者i及び原色に対応する三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kの算出を継続する。
【0108】
ステップS18:
表示装置原色最適化部108は、表示色算出部107が算出した観察者iの各々の三刺激値Xd
i、j、k、Yd
i、j、k、Zd
i、j、kから、すでに説明したように、観察者iの間の色差の平均値Eを(6)式により、原色の中心波長及び半値幅の組合せ毎に算出する。この(6)式により求めた色差の平均値Eにより、すでに説明した
図10から
図18の各々の色差マップの各々の画素の階調度としての色差が求められる。
【0109】
ステップS19:
表示装置原色最適化部108は、算出した色差の平均値Eが対象物分類により分類される印刷物、塗装物、絵画、皮膚、生地などに対して予め設定された色差範囲に入るか否かの判定を行い。このとき、表示装置原色最適化部108は、対象物分類に設定された色差範囲に入る色差の平均値Eを算出した中心波長及び半値幅の組合せを抽出する。
そして、表示装置原色最適化部108は、色差範囲に入る平均値Eを算出した中心波長及び半値幅の範囲を、原色毎に求める。
【0110】
表示装置原色最適化部108は、例えば、対象物分類が印刷物の場合、R原色の中心波長がRCmin(nm)~RCmax(nm)、半値幅がRWmin(nm)~RWmax(nm)として、G原色の中心波長がGCmin(nm)~GCmax(nm)、半値幅がGWmin(nm)~GWmax(nm)として、B原色の中心波長がBCmin(nm)~BCmax(nm)、半値幅がBWmin(nm)~BWmax(nm)として抽出する。
そして、表示装置原色最適化部108は、抽出した色差範囲に入る平均値Eを算出した中心波長及び半値幅の範囲を、原色毎に最適化原色分光放射輝度記憶部114に書き込んで記憶させる。
【0111】
同様に、表示装置原色最適化部108は、対象物分類が塗装物、絵画、皮膚、生地などにおいて、R原色の中心波長がRCmin(nm)~RCmax(nm)、半値幅がRWmin(nm)~RWmax(nm)として、G原色の中心波長がGCmin(nm)~GCmax(nm)、半値幅がGWmin(nm)~GWmax(nm)として、B原色の中心波長がBCmin(nm)~BCmax(nm)、半値幅がBWmin(nm)~BWmax(nm)として抽出する。
【0112】
これにより、上述して求めた、対象物分類に対応して、R原色の中心波長の波長範囲及び半値幅の波長範囲と、G原色の中心波長の波長範囲及び半値幅の波長範囲と、B原色の中心波長の波長範囲及び半値幅の波長範囲との各々を満足するように、バックライトの光源の分光分布と、カラーフィルタの透過特性とを設計する。
【0113】
また、対象物分類に対応して、色差の平均値Eが最小値となるR原色の中心波長及び半値幅の各々の組合せと、G原色の中心波長及び半値幅の各々の組合せと、及びB原色の中心波長及び半値幅の各々の組合せとを、バックライトの光源の分光分布と、カラーフィルタの透過特性とを設計値として、最終的に作成される原色の目標値としてもよい。
また、
図7(b)において選択した原色データセットに、対象物分類に設定した色差範囲に対応した色差となる原色の組合せがあれば、その原色の組合せを表示装置に適用する。
【0114】
上述したように、本実施形態によれば、観察する物体を対象物分類により分類(分光反射率を分類)し、物体を観察する環境の光源(環境光の分光放射輝度の分光分布)を特定することにより、観察者iの間における色差を、それぞれの物体を観察する際に設けられた色差範囲内に含まれるように設計することが可能なため、それぞれの分光反射率及び観察する観察者毎に表示色の補正を行なう必要が無く、多数の観察者iの間において表示色が同様に観察される表示装置の原色の分光放射輝度を容易に設計することが可能となる。
【0115】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。
本発明の第2の実施形態による表示装置原色設計システムの構成は、
図1における第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態と異なる第2の実施形態による表示装置原色設計システムの動作のみを説明する。
【0116】
第1の実施形態においては、
図6に示すように、物体を観察する光源を複数の種類から選択する構成となっている。
一方、第2の実施形態においては、対象物分類によっては、観察する物体によって業界標準などにより、観察する環境の光源の特性(分光放射輝度の分光分布)が予め定められていたり、あるいは、特定の観察用途向けの特性の光源が用いられたりしている。
【0117】
図19は、第2の実施形態における環境光選択部104が表示部109に表示画面に表示する対象物を観察する際の光源の分類の選択画面の一例を示す図である。
すなわち、第2の実施形態においては、環境光選択部104が
図6に示される観察する光源の選択画面ではなく、
図19に示す対象物分類などに対応する特定の光源の分光放射輝度の分光分布の選択を行う画面を表示する構成となっている。
図19において、観察する際の光源の分類は、対象物分類に対応して設定されており、本実施形態において、印刷物光源、建装材光源、太陽光、診察室及び手術室の各々などとして設定されている。
【0118】
印刷物光源は、対象物分類において印刷物に分類される物体を観察する環境の光源であり、例えば、CIEが物体の色を計測するために設定した、相対的な分光分布を定めた標準イルミナント(標準の光)AおよびD65を照射する具体的な光源としてのA光源やD65光源などである。
建装材光源は、建装材を用いる部屋などの場所に設置される候補としての光源の特性(の分光放射輝度の分光分布)などである。
【0119】
太陽光は、室外で観察する建物の建装材、例えば建物の壁、扉や塀など物体に対応する光源の特性である。
診察室及び手術室の各々の光源の特性は、例えば、日本工業規格「JIS Z 9110」で規定される診察室、手術室それぞれの照明基準による光源や、一般的な病院の診察室及び手術室で用いられる光源の種別から特定する。
そして、環境光選択部104は、対象物分類に対応して、操作者が
図19に示す選択画面において選択した環境の光源の分光分布を、環境光分光放射輝度記憶部112から読み出し、物体色算出部105に対して出力する。
【0120】
物体色算出部105は、すでに説明したように、環境光選択部104から供給される光源の分光分布と、物体分類選択部103から供給される分光反射率と、等色関数選択部102から供給される等色関数の各々により物体色の三刺激値Xpi、j、k、Ypi、j、k、Zpi、j、kを算出する。
表示色算出部107は、すでに説明したように、色差の算出を行う場合に、各観察者iが知覚する分光分布di、j、k(λ)の各々を比較可能な数値とするため、所定の観察者が知覚する表示色の三刺激値Xdi、j、k、Ydi、j、k、Zdi、j、kのそれぞれを、ある所定の観察者の等色関数により固定して算出する。
そして、表示装置原色最適化部108は、観察者の間において色差の差分が対象物分類で分類される物体に対して予め設定されている色差範囲に入る原色の分光分布を取得する。
【0121】
上述したように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、観察する物体を対象物分類により分類(分光反射率を分類)し、物体を観察する環境の光源(環境光の分光放射輝度の分光分布)を特定することにより、観察者iの間における色差を、それぞれの物体を観察する際に設けられた色差範囲内に含まれるように設計することが可能なため、それぞれの分光反射率及び観察する観察者毎に表示色の補正を行なう必要が無く、多数の観察者iの間において表示色が同様に観察される表示装置の原色の分光放射輝度を容易に設計することが可能となる。
【0122】
また、本実施形態によれば、対象物分類により分類される物体に応じた、業界標準などによって予め定められた観察する環境の光源の特性(分光放射輝度の分光分布)や、特定の観察用途向けに用いられた光源の特性に応じて求めた物体色から、表示装置の表示色の色差を算出して、表示装置の原色の分光分布を求めるため、第1の実施形態に比較して、観察者iの各々の間の個人差をより小さくする表示装置の原色の分光分布を設計することが可能となる。
【0123】
なお、本発明における
図1の表示装置原色設計システムの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行することにより、観察者の間において色差が物体に設定された色差範囲内に収まる、表示装置の原色の分光分布を設計する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWW(World Wide Web)システムも含むものとする。
【0124】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc - Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0125】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0126】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0127】
1…表示装置原色設計システム
101…データ入力部
102…等色関数選択部
103…物体分類選択部
104…環境光選択部
105…物体色算出部
106…原色分光分布設定部
107…表示色算出部
108…表示装置原色最適化部
109…表示部
110…等色関数記憶部
111…物体分光反射率記憶部
112…環境光分光放射輝度記憶部
113…原色分光放射輝度記憶部
114…最適化原色分光放射輝度記憶部