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特開2022-139194二次電池用電極および該電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139194
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】二次電池用電極および該電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220915BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220915BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220915BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039463
(22)【出願日】2021-03-11
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
(72)【発明者】
【氏名】武下 宗平
(72)【発明者】
【氏名】長野 愛子
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA08
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA22
5H050HA05
5H050HA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電極活物質層の一部において局所的に非球状粒子を配向させることが容易な二次電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、前記気相を残しつつ成膜する工程;前記成膜された塗膜の表面部に、凹凸転写する工程;前記凹凸が転写された塗膜を乾燥して電極活物質層を形成する工程;および前記形成した電極活物質層をプレス処理する工程と;を包含する、二次電池用電極の製造方法である。前記電極活物質粒子は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状粒子である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;
前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、前記気相を残しつつ成膜する工程;
前記成膜された塗膜の表面部に、凹凸転写する工程;
前記凹凸が転写された塗膜を乾燥して電極活物質層を形成する工程;および
前記形成した電極活物質層をプレス処理する工程と;
を包含し、
前記電極活物質粒子は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状粒子である、
二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたとき、
緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である、
請求項1に記載に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記電極活物質粒子が、黒鉛粒子である、請求項1または2に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記電極活物質粒子が、断面視における長辺に対する短辺の比が0.5以下の非球状粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
電極集電体と、
前記電極集電体上に設けられた電極活物質層と、
を備える二次電池用電極であって、
前記電極活物質層は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状の黒鉛粒子を含有し、
前記電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが設けられており、
ここで、前記電極活物質層を、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、
前記低密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dL1、dL2、dL3
前記高密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dH1、dH2、dH3、としたときに、
(dH3/dL3)<(dH1/dL1
の関係を具備し、
前記電極活物質層は、複数の空隙を有し、
前記電極活物質層の厚さ方向に沿った断面視において、前記低密領域の上層における、全空隙に対する、前記空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比が、0.40以上である、
二次電池用電極。
【請求項6】
前記電極活物質層において、前記低密領域の上層dL1と下層dL3とは、
(dL1/dL3)<1.1
の関係を具備する、請求項5に記載の二次電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極および該電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。かかる電極活物質層は、一般的に、電極活物質、バインダ樹脂等の固形分、および溶媒を含む電極材料(いわゆる、電極合材)を電極集電体の表面に塗工し、乾燥した後、必要によりプレスすることにより形成される。
【0004】
二次電池は、その普及に伴い、さらなる高性能化が求められている。高性能化の一つの方法として、負極活物質層中で黒鉛を配向させることが知られている。例えば、特許文献1には、黒鉛を含むスラリーを負極集電体上に塗布し、磁場を印加することで黒鉛を配向させ、その後乾燥して負極活物質層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-96386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、電極活物質層の一部において局所的に黒鉛等の非球状粒子を配向させることが難しいという課題を有している。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電極活物質層の一部において局所的に非球状粒子を配向させることが容易な二次電池用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、二次電池用電極の製造方法が提供される。ここに開示される二次電池用電極の製造方法は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;
前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、前記気相を残しつつ成膜する工程;
前記成膜された塗膜の表面部に、凹凸転写する工程;
前記凹凸が転写された塗膜を乾燥して電極活物質層を形成する工程;および
前記形成した電極活物質層をプレス処理する工程と;
を包含する。
前記電極活物質粒子は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状粒子である。
このような構成によれば、電極活物質層の一部において局所的に非球状粒子を配向させることが容易である。
【0009】
このとき、記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたとき、
緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上であることが好ましい。
【0010】
ここに開示される二次電池用電極の製造方法の好ましい一態様では、前記電極活物質粒子が、黒鉛粒子である。このような構成によれば、二次電池に優れたクーロン効率および優れたサイクル特性を付与できる電極を製造することができる。
【0011】
ここに開示される二次電池用電極の製造方法の好ましい一態様では、前記電極活物質粒子が、断面視における長辺に対する短辺の比が0.5以下の非球状粒子である。
このような構成よれば、非球状粒子を配向させることがより容易である。
【0012】
別の側面から、ここに開示される二次電池用電極は、電極集電体と、
前記電極集電体上に設けられた電極活物質層と、
を備える。
前記電極活物質層は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状の黒鉛粒子を含有する。
前記電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが設けられている。
ここで、前記電極活物質層を、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、
前記低密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dL1、dL2、dL3
前記高密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dH1、dH2、dH3、としたときに、
(dH3/dL3)<(dH1/dL1
の関係を具備する。
前記電極活物質層は、複数の空隙を有する。
前記電極活物質層の厚さ方向に沿った断面視において、前記低密領域の上層における、全空隙に対する、前記空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比が、0.40以上である、
このような構成によれば、二次電池に優れたクーロン効率および優れたサイクル特性を付与できる二次電池用電極を提供することができる。
【0013】
ここに開示される二次電池用電極の好ましい一態様では、前記電極活物質層において、前記低密領域の上層dL1と下層dL3とは、
(dL1/dL3)<1.1
の関係を具備する。
このような構成によれば、イオン拡散性がより向上した二次電池用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る電極製造方法の主な工程を示すフローチャートである。
図2】湿潤粉体を形成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
図3】湿潤粉体用意工程に使用される撹拌造粒機の一例を模式的に示す説明図である。
図4】成膜工程に使用されるロール成膜装置の構成の一例を模式的に示す説明図である。
図5】凹凸転写前の塗膜中の黒鉛粒子の配向状態を示す模式断面図である。
図6】凹凸転写後の塗膜中の黒鉛粒子の配向状態を示す模式断面図である。
図7】一実施形態に係る電極製造方法の実施に好適な電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図8】一実施形態に係る電極製造方法で製造された電極を用いたリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
図9】比較例におけるプレス工程前の電極活物質層の断面SEM画像である。
図10】比較例におけるプレス工程後の電極活物質層の断面SEM画像である。
図11】実施例におけるプレス工程前の電極活物質層の断面SEM画像である。
図12】実施例におけるプレス工程後の電極活物質層の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される二次電池用電極の製造方法に係る実施形態の例について詳細に説明する。
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0016】
本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質中のリチウムイオンが電荷の移動を担う二次電池をいう。また、「電極体」とは、正極および負極で構成される電池の主体を成す構造体をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。電極活物質(即ち正極活物質または負極活物質)は、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な化合物をいう。なお、電極活物質は、単に「活物質」と記すことがある。
【0017】
図1に、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法の各工程を示す。本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程(湿潤粉体用意工程)S101、ここで、該湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;該湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該気相を残しつつ成膜する工程(成膜工程)S102;該成膜された塗膜の表面部に、凹凸転写する工程(凹凸転写工程)S103;該凹凸が転写された塗膜を乾燥して電極活物質層を形成する工程(乾燥工程)S104;および該形成した電極活物質層をプレス処理する工程(プレス工程)S105と;を包含する。ここで、該電極活物質粒子は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状粒子である。
【0018】
上記工程S101および工程S102の内容が示すように、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法においては、湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)が採用されている。
【0019】
まず、湿潤粉体用意工程S101について説明する。当該工程S101では、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する。この湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0020】
まず、湿潤粉体を形成する凝集粒子の各成分について説明する。当該凝集粒子に含まれる、電極活物質粒子およびバインダ樹脂は、固形分である。
使用される粒子状の電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。なかでも、粒子内の抵抗に異方性があり、配向させることによって電極を高性能化することができるため(特に、得られる電極が二次電池に優れたクーロン効率および優れたサイクル特性を付与できるため)、黒鉛が好ましい。
【0021】
本実施形態においては、電極活物質粒子として、断面視における長辺に対する短辺の比(短辺/長辺)が0.95未満の非球状粒子が用いられる。当該比(短辺/長辺)が、小さい方がより配向し易いため、当該比(短辺/長辺)は、0.8以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
なお当該比(短辺/長辺)は、次のようにして求めることができる。電極活物質粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を取得する。画像内の任意に得らばれる10個の粒子についてそれぞれ、最長の軸の長さ(すなわち、長辺)と、当該軸に直交する軸であって最も長い軸の長さ(すなわち、短辺)とを求め、(短辺/長辺)の比を算出する。10個の粒子の(短辺/長辺)の比の平均値を、当該比(短辺/長辺)(すなわち、断面視における長辺に対する短辺の比)とする。
電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。凝集粒子に含まれる電極活物質の粒子の数は、複数である。
【0022】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
【0023】
湿潤粉体を形成する凝集粒子は、固形分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質を含有していてもよい。その例としては、導電材や増粘剤等が挙げられる。
導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。
また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。
【0024】
このほか、電極が全固体電池の電極である場合は、固体電解質が固形分として用いられる。固体電解質としては、特に限定されるものではないが、LiS、P、LiI、LiCl、LiBr、LiO、SiS、B、ZmSn(ここでmおよびnは正の数であり、ZはGe、ZnまたはGa)、Li10GeP12等を構成要素とする硫化物固体電解質が好適例として挙げられる。
なお、本明細書において、「固形分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形分が占める割合のことをいう。
【0025】
溶媒は、湿潤粉体を形成する凝集粒子において液相を構成する成分である。溶媒としては、バインダ樹脂を好適に分散または溶解し得るものであれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、溶媒として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
【0026】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、湿潤粉体を形成する凝集粒子は、上記以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0027】
次に、湿潤粒子の状態について説明する。当該湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0028】
ここで、湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
この分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている。この4つの分類を、本明細書においても採用しており、よって、ここで開示される湿潤粉体は、当業者にとって、明瞭に規定されている。以下、この4つの分類について図2を用いて具体的に説明する。なお、図2は、4つの分類について当該技術分野における一般的な内容を説明するためのものであり、図示の便宜上、活物質粒子を球状粒子として記載している。上述のように本実施形態において用いられるのは、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の粒子である。
【0029】
「ペンジュラー状態」は、図2の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0030】
また、「ファニキュラー状態」は、図2の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
【0031】
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0032】
「キャピラリー状態」は、図2の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。
【0033】
「スラリー状態」は、図2の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
【0034】
従来より、湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば図2の(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
【0035】
これに対し、本実施形態において用意される湿潤粉体は、気相を制御することによって、従来の湿潤粉体とは異なる状態としたものであり、上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)が形成されている湿潤粉体である。この2つの状態においては、活物質粒子(固相)2が溶媒(液相)3によって液架橋されており、かつ空隙(気相)4の少なくとも一部が、外部に通じる連通孔を形成しているという共通点を有する。本実施形態において用意される湿潤粉体を、便宜上「気相制御湿潤粉体」とも称する。
【0036】
上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態にある凝集粒子を電子顕微鏡像観察(例、走査型電子顕微鏡(SEM)観察)した際には、凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められないが、このとき、少なくとも50個数%以上の凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められないことが好ましい。
【0037】
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスを応用して製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態またはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される、電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を作製することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
湿潤粉体用意工程で用意される好適な気相制御湿潤粉体としては、湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0038】
気相制御湿潤粉体は、公知の撹拌造粒機(プラネタリーミキサー等のミキサー)を用いて各成分を混合することによって、作製することができる。
具体的には例えば、先ず、溶媒を除く材料(固形成分)を予め混合して溶媒レスの乾式分散処理を行う。これにより、各固形成分が高度に分散した状態を形成する。その後、当該分散状態の混合物に、溶媒その他の液状成分(例えば液状のバインダ)を添加してさらに混合する。これによって、各固形成分が好適に混合された湿潤粉体を作製することができる。
【0039】
より具体的には、図3に示すような撹拌造粒機10を用意する。撹拌造粒機10は、典型的には円筒形である混合容器12と、当該混合容器12の内部に収容された回転羽根14と、回転軸16を介して回転羽根(ブレードともいう)14に接続されたモータ18とを備える。
撹拌造粒機10の混合容器12内に固形分である電極活物質と、バインダ樹脂と、種々の添加物(例、増粘材、導電材等)を投入し、モータ18を駆動させて回転羽根14を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度、回転させることによって各固形分の混合体を製造する。そして、固形分が70%以上、より好ましくは80%以上(例えば85~98%)になるように計量された適量の溶媒を混合容器12内に添加し、撹拌造粒処理を行う。特に限定するものではないが、回転羽根14を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度さらに回転させる。これによって、混合容器12内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。
【0040】
得られる造粒体の粒径は、後述するロール成膜装置の一対のロール間ギャップの幅よりも大きな粒径をとり得る。ギャップの幅が10μm~100μm程度(例えば20μm~50μm)の場合、造粒体の粒径は50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0041】
ここで、用意すべき気相制御湿潤粉体は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)を形成している。そのため、電子顕微鏡観察において凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15質量%程度、または3~8質量%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。
このような固相と液相と気相との状態を得るため、上述の造粒体製造操作において、気相を増大させ得る種々の処理や操作を取り入れることができる。例えば、撹拌造粒中若しくは造粒後、乾燥した室温よりも10~50℃程度加温されたガス(空気または不活性ガス)雰囲気中に造粒体を晒すことにより余剰な溶媒を蒸発させてもよい。また、溶媒量が少ない状態でペンジュラー状態またはファニキュラーI状態である凝集粒子の形成を促すため、活物質粒子その他の固形成分同士を付着させるために圧縮作用が比較的強い圧縮造粒を採用してもよい。例えば、粉末原料を鉛直方向から一対のロール間に供給しつつロール間で圧縮力が加えられた状態で造粒する圧縮造粒機を採用してもよい。
【0042】
次に、成膜工程S102について説明する。成膜工程S102においては、上記で用意した湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、湿潤粉体が有する気相を残した状態で成膜する。
【0043】
成膜工程S102において用いられる電極集電体としては、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体が正極集電体である場合には、電極集電体は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。正極集電体は、アルミニウム製であることが好ましく、特に好ましくはアルミニウム箔である。電極集電体が負極集電体である場合には、電極集電体は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。負極集電体は、銅製であることが好ましく、特に好ましくは銅箔である。電極集電体の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0044】
湿潤粉体を用いた成膜について説明する。湿潤粉体を用いた成膜は、公知のロール成膜装置を用いて行うことができる。成膜装置の好適な例としては、図4に模式的に示すようなロール成膜装置20が挙げられる。かかるロール成膜装置20は、第1の回転ロール21(以下「供給ロール21」という。)と第2の回転ロール22(以下「転写ロール22」という。)とからなる一対の回転ロール21,22を備えている。供給ロール21の外周面と転写ロール22の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール21,22は、図4の矢印に示すように逆方向に回転することができる。
かかる供給ロール21と転写ロール22は、長尺なシート状の電極集電体31上に成膜する電極活物質層(塗膜)33の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。すなわち、供給ロール21と転写ロール22の間には、所定の幅のギャップがあり、かかるギャップのサイズにより、転写ロール22の表面に付着させる湿潤粉体(電極合材)32から成る塗膜33の厚さを制御することができる。また、かかるギャップのサイズを調整することにより、供給ロール21と転写ロール22の間を通過する湿潤粉体32を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態に製造された湿潤粉体32(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持することができる。
【0045】
供給ロール21および転写ロール22の幅方向の両端部には、隔壁25が設けられている。隔壁25は、湿潤粉体32を供給ロール21および転写ロール22上に保持すると共に、2つの隔壁25の間の距離によって、電極集電体31上に成膜される塗膜(電極活物質層)33の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁25の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料(湿潤粉体)32が供給される。
成膜装置20では、転写ロール22の隣に第3の回転ロールとしてバックアップロール23が配置されている。バックアップロール23は、電極集電体31を転写ロール22まで搬送する役割を果たす。転写ロール22とバックアップロール23は、図4の矢印に示すように、逆方向に回転する。
供給ロール21、転写ロール22、バックアップロール23は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール21、転写ロール22およびバックアップロール23の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、湿潤粉体32を転写ロール22に沿って搬送し、転写ロール22の円周面からバックアップロール23により搬送されてきた電極集電体31の表面上に当該湿潤粉体を塗膜33として転写することができる。
なお、図4では、供給ロール21、転写ロール22、バックアップロール23は、それぞれの回転軸が水平に並ぶように配置されているが、これに限られず、例えば後述する図5に示すような位置にバックアップロール(図5参照)が配置されてもよい。
【0046】
また、供給ロール21、転写ロール22およびバックアップロール23のサイズは特に制限はなく、従来のロール成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら3種の回転ロール21,22,23の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜を形成する幅についても従来のロール成膜装置と同様でよく、塗膜を形成する対象の電極集電体の幅によって適宜決定することができる。また、これら回転ロール21,22,23の円周面の材質は、従来公知のロール成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。
【0047】
このように、公知のロール成膜装置によって、装置の湿潤粉体32およびそれからなる塗膜を圧縮する力を調整しつつ、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を転写することによって、湿潤粉体の有する気相を残した状態で成膜することができる。
【0048】
次に、凹凸転写工程S103について説明する。当該凹凸転写工程S103においては、当該成膜された塗膜の表面部に、凹凸転写する。
【0049】
凹凸の転写は、公知方法により行うことができる。例えば、所定の凹凸パターンを備える転写型を用意し、プレス装置に装着し、当該塗膜の表面部に転写型を押し当てる方法、所定の凹凸パターンを備えるロール型を転写型として用意し、成膜された塗膜を備える電極集電体を搬送すると共に、ロール型を回転させて、当該塗膜の表面部に型を押し当てる方法等が挙げられる。
連続的に凹凸転写を行うことができるため、ロール型を用いる方法が好ましい。
なお、転写型が備える凹凸パターンは、電極に形成する凹凸パターンに応じて適宜選択すればよい。
塗膜に形成される凹部の深さが塗膜の厚みの5%~90%(特に10%~60%)となるように凹凸転写することが好ましい。
【0050】
この凹凸転写によって、塗膜に、凹部と凸部とを有する凹凸パターンが形成される。
ここで塗膜は、上述のようにペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)にある湿潤粉体(気相制御湿潤粉体)からなる塗膜である。この塗膜においては、図2の(A)および(B)に示すように、気相4が多く存在し、この気相4は塗膜内で連通孔を形成している。また、活物質粒子2同士が溶媒3によって架橋されている状態であり、キャピラリー状態の図2の(C)とは異なり、活物質粒子2の全体が溶媒3に覆われていない。よって、凹凸転写の際に塗膜が圧力を受けた際に、気相4が孤立した気泡として留まりにくく、圧縮できる余地が大きい。さらに、活物質粒子2と溶媒3との間の抵抗が小さいため、活物質粒子2が移動しやすい。したがって、気相制御湿潤粉体からなる塗膜は、展延性に優れる。
【0051】
図5に凹凸転写前の塗膜中の電極活物質粒子の配向状態を模式的に示す。図6に凹凸転写後の塗膜中の電極活物質粒子の配向状態を模式的に示す。
塗膜33において、非球状形状の電極活物質粒子34は、ロール成膜時に受ける応力によって、図5に示すように、その長軸方向が塗膜33の厚さ方向に直交する方向(すなわち、図面の左右方向)に概ね配向している。
ここで転写型が備える凹凸パターンは、凹部と凸部とを有する。転写型の凸部が、塗膜33に侵入すると、気相制御湿潤粉体32からなる塗膜33内においては電極活物質粒子34が移動し易いため、電極活物質粒子34の中心が凹部に押されている場合を除いて、電極活物質粒子34は凸部に押されて向きを変える。
その結果、図6に示すように、電極活物質粒子34が凹部の中心線に向かって傾斜するような配向状態が得られる。
【0052】
このように、気相制御湿潤粉体32からなる塗膜33内においては電極活物質粒子34が移動し易く、転写型の凸部によって押圧される部分において電極活物質粒子34の配向が容易に起こるため、電極活物質層となる塗膜の一部において局所的に非球状の電極活物質粒子を配向させることが非常に容易である。
【0053】
次に、乾燥工程S104について説明する。当該乾燥工程S104では、上記凹凸が転写された塗膜から乾燥によって溶媒を除去することにより、電極活物質層を形成する。
乾燥工程S104は、公知方法に従い行うことができる。例えば、該凹凸が転写された塗膜を、熱風乾燥、赤外線乾燥等によって乾燥することにより、行うことができる。
【0054】
乾燥工程S104の実施により、電極集電体上に電極活物質層が形成された電極を得ることができる。
【0055】
次に、プレス工程105について説明する。当該プレス工程105では、上記形成した電極活物質層をプレス処理する。当該プレス工程105によって、電極活物質層の目付量、密度等を調整することができる。
【0056】
プレス工程105は、公知方法に従い行うことができる。
例えば、プレス工程105は、上記形成した電極活物質層を、ロール圧延機を用いてプレスすることにより行うことができる。この時のプレス条件は特に限定されず、電極活物質層の所望の目付量、密度等によって適宜決定すればよいが、プレス圧が線圧1ton/cm~5ton/cm程度に設定されていることが好ましい。
あるいは、例えば、プレス工程105は、上記形成した電極活物質層を、平板圧延機を用いてプレスすることにより行うことができる。この時のプレス条件は特に限定されず、電極活物質層の所望の目付量、密度等によって適宜決定すればよいが、プレス圧が100~500MPa程度に設定されていることが好ましい。
【0057】
プレス工程S105後の電極活物質層の密度(電極密度)(g/cm)は、使用する電極材料等によって異なるため、一概に言えるものではないが、例えば、電極が正極である場合には、電極密度は1.0g/cm以上で4.5g/cm以下あることが好ましく、2.0g/cm以上4.2g/cm以下であることがより好ましく、2.2g/cm以上3.8g/cm以下であることがさらに好ましい。電極が負極である場合には例えば、電極密度は0.8g/cm以上で2.0g/cm以下あることが好ましく、0.9g/cm以上1.8g/cm以下であることがより好ましく、1.0g/cm以上1.6g/cm以下であることがさらに好ましい
【0058】
ここで、電極活物質層の表層部には凹凸が形成されている。プレス工程105において、この形成された凹凸が残存するように実施してよい。このとき、電極活物質層が所定の凹凸パターンを有する電極を製造することができる。当該電極において、凸部のある領域が優先的に圧縮されるため、凸部のある領域が相対的に電極密度が高い高密領域となり、凹部のある領域が相対的に電極密度が低い低密領域となる。
あるいは、プレス工程105において、電極活物質層の凹凸がなくなるまで(すなわち、電極活物質層の凸部が、電極活物質層の凹部と概ね同等の高さになるまで)凸部を圧縮してもよい。このとき、電極活物質層の表面がフラットであり、かつ相対的に電極密度が高い高密領域と、相対的に電極密度が低い低密領域とを有する電極を製造することができる。
【0059】
本実施形態においては、凹凸転写工程S103で配向した電極活物質粒子は、プレス工程105でのプレス処理によって電極活物質層が圧縮されるのに伴って傾斜が小さくなるものの、未だに凹部の中心線に向かって傾斜した状態にある。電極活物質層の凹凸がなくなるまでプレスした場合でも、この電極活物質粒子の傾斜が見られる。よって得られた電極の電極活物質層においては、凹凸転写工程において凹凸パターンの凸部によって押圧した部分において電極活物質粒子が配向している。したがって、本実施形態によれば、活物質層の一部において局所的に、かつ選択的に電極活物質粒子を配向させることが容易である。よって本実施形態によれば、電極活物質粒子が配向した領域が所定のパターンで配置された活物質層を備える電極を容易に作製することができる。また、本実施形態に係る製造方法では、磁場によって配向しない電極活物質粒子であっても、配向させることができる。
【0060】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法の好適な一実施形態として、工程S102~S104を連続して行う方法について、図面を参照しつつさらに説明する。
図7は、ロール成膜ユニットを備えた電極製造装置70の概略構成を構成的に示した説明図である。
電極製造装置70は、大まかにいって、図示しない供給室から搬送されてきたシート状集電体31の表面上に湿潤粉体32を供給して塗膜33を形成する成膜ユニット40と、該塗膜33を厚さ方向にプレスし、該塗膜の表面凹凸形成処理を行う塗膜加工ユニット50と、表面凹凸形成処理後の塗膜33を適切に乾燥させて電極活物質層を形成する乾燥ユニット60を備える。
【0061】
成膜ユニット40は、上述したロール成膜装置(図4)と同様、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続された供給ロール41、転写ロール42,43,44およびバックアップロール45を供える。
本実施形態に係る成膜ユニットでは、図示されるように、転写ロールが連続的に複数備えられている。この例では、供給ロール41に対向する第1転写ロール42、該第1転写ロールに対向する第2転写ロール43、および、該第2転写ロールに対向し、且つ、バックアップロール45にも対向する第3転写ロール44を備えている。
このような構成とすることにより、各ロール間のギャップG1~G4のサイズを異ならせ、湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜を形成することができる。以下、このことを詳述する。
【0062】
図示するように、供給ロール41と第1転写ロール42との間を第1ギャップG1、第1転写ロール42と第2転写ロール43との間を第2ギャップG2、第2転写ロール43と第3転写ロール44との間を第3ギャップG3、そして第3転写ロール44とバックアップロール45との間を第4ギャップG4とすると、ギャップのサイズは、第1ギャップG1が相対的に最大であり、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4の順に少しずつ小さくなるように設定されている(G1>G2>G3>G4)。このように集電体31の搬送方向(進行方向)に沿ってギャップが徐々に小さくなる多段ロール成膜を行うことにより、湿潤粉体32を構成する凝集粒子の過剰な潰れが防止され、連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。即ち、成膜ユニット40は以下のように作動させることができる。
【0063】
供給ロール41、第1転写ロール42、第2転写ロール43、第3転写ロール44およびバックアップロール45は、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ異なる回転速度で回転させることができる。具体的には、供給ロール41の回転速度よりも第1転写ロール42の回転速度が速く、第1転写ロール42の回転速度よりも第2転写ロール43の回転速度は速く、第2転写ロール43の回転速度よりも第3転写ロール44の回転速度は速く、第3転写ロール44の回転速度よりもバックアップロール45の回転速度は速い。
このように各回転ロール間で集電体搬送方向(進行方向)に沿って回転速度を少しずつ上げていくことによって、図4のロール成膜装置20とは異なる多段ロール成膜を行うことができる。このとき、上記のとおり、第1ギャップG1、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4をこの順に少しずつ小さくなるように設定することによって、本成膜ユニット40に供給された湿潤粉体32は、その気相状態を保持、すなわち孤立空隙が過剰に生じることなく連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。特に限定するものではないが、各ギャップG1~G4のサイズ(幅)は、10μm~100μm程度の範囲内から設定することができる。
【0064】
次に、電極製造装置70の塗膜加工ユニット50について説明する。図5に示すように、塗膜加工ユニット50は、成膜ユニット40から搬送されてきた集電体31の表面上に付与されている塗膜33の性状を調整するユニットであり、本実施形態においては、塗膜の密度や膜厚を調整するプレスロール52と、塗膜の表面に、凹凸転写を行うための、凹凸加工ロール54と、を備えている。なお、プレスロール52は、電極製造装置70の任意の構成である。
プレスロール52は、搬送されてきた集電体31を支持しつつ進行方向に送り出すバックアップロール52Bと、バックアップロール52Bに対向する位置に配置され、塗膜33を膜厚方向に押圧して圧縮するためのワークロール52Aとを備えている。かかるプレスロール52は、搬送されてきた集電体31上に形成(成膜)されたペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)の湿潤粉体32からなる塗膜33を、孤立空隙を生じさせない程度にプレスして圧縮することができる。
かかるプレスロール52による好適なプレス圧は、目的とする塗膜(電極活物質層)の膜厚や密度により異なり得るため特に限定されないが、概ね0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
【0065】
プレスロール52よりも集電体搬送方向(進行方向)の下流側に配置される凹凸加工ロール54は、プレスロール52を経て搬送されてきた集電体31を支持しつつ進行方向に送り出すバックアップロール54Bと、バックアップロール54Bに対向する位置に配置され、塗膜33を膜厚方向に押圧し、該塗膜表面に凹凸形成を施すためのワークロール54Aとを備えている。即ち、かかる凹凸加工ロール54は、第2のプレスロールとして機能し、且つ、その際のプレス圧により塗膜表面に所定の間隔(ピッチ)およびパターンの凹凸表面を連続的に形成する。したがって、ワークロール54Aの表面には、塗膜表面に所定の間隔(ピッチ)およびパターンの凹凸面を形成するための対応する凹凸面が形成されている。
かかる凹凸加工ロール54による好適なプレス圧は、対象とする塗膜(電極活物質層)の表層部分の密度、形成したい凹凸パターンの高低差(最大山高さと最大谷深さとの間の長さ。以下同じ。)、等により異なり得るため特に限定されないが、概ね1MPa~150MPa、例えば5MPa~100MPa程度に設定することができる。
【0066】
凹凸加工ロール54を塗膜33が通過することにより、その表面に凹凸が転写される。このとき、ワークロール54Aの凹凸パターンの凸部によって、非球状の電極活物質粒子が押圧される。これにより、電極活物質粒子は塗膜33の厚さ方向に向かって傾斜する。よって塗膜33に形成された凹部の中心線に向かって傾斜した電極活物質粒子の配向状態が得られる。
【0067】
図7に示すように、電極製造装置70の塗膜加工ユニット50よりも集電体搬送方向の下流側には、乾燥ユニット60として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室62が配置され、塗膜加工ユニット50から搬送されてきた集電体31の表面上の塗膜33を乾燥する。なお、かかる乾燥ユニット60は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥ユニットと同様でよく、特に本発明を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0068】
塗膜33を乾燥後、50~200MPa程度のプレス加工を行うことにより、リチウムイオン二次電池用の長尺なシート状電極が製造される。こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0069】
本実施形態に係る製造方法によって得られる電極の電極活物質層においては、電極活物質粒子が配向しているという特徴を有する。これに伴い電極活物質粒子間の空隙もまた配向しているという特徴を有する。
ここで、電極活物質層はプレス処理により圧縮しているため、電極活物質層の断面電子顕微鏡画像においては、黒鉛粒子の一つ一つを把握するよりも、空隙を見る方が配向を確認し易い。
また、得られた電極の電極活物質層においては、凹凸転写工程S103において凹凸パターンの凸部によって押圧された部分は、押圧されていない部分と比較して電極密度が低密度であるという特徴を有する。すなわち、電極活物質層が、エネルギー密度の点で有利な高密領域と、Liイオンの挿入/脱離経路となってイオン拡散に有利な低密領域とを有する。
これは、凹凸転写された電極活物質層の表層部においては、凸部(凹凸パターンの凸部によって押圧されなかった部分)と凹部(凹凸パターンの凸部によって押圧された部分)が存在するが、プレス工程ではこの電極活物質層の表層部の凸部が優先的に圧縮されるためである。また、電極活物質層の表層部の凸部部分では、電極活物質層の上層部が特に高密度化される。
【0070】
よって、本実施形態によれば、電極集電体と、当該電極集電体上に設けられた電極活物質層と、を備える二次電池用電極であって、以下の特徴を備える電極を得ることができる。
(1)当該電極活物質層は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.95未満の非球状の電極活物質粒子を含有している。
(2)当該電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが設けられている。
(3)ここで、前記電極活物質層を、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、
前記低密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dL1、dL2、dL3
前記高密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dH1、dH2、dH3、としたときに、
(dH3/dL3)<(dH1/dL1
の関係を具備する。
(4)当該電極活物質層は、複数の空隙を有し、電極活物質層の厚さ方向に沿った断面視において、当該低密領域の上層において、全空隙に対する、当該空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比が、0.40以上である。
【0071】
ここで、電極活物質粒子が黒鉛粒子である場合には、上記の特徴を備える電極は、クーロン効率に優れるという利点を有し、また、充放電を繰り返した際の容量劣化耐性が高い(すなわち、サイクル特性に優れる)という利点を有する。
【0072】
なお、本明細書においては、電極活物質層を均等に区分した3つの層を、上層、中間層および下層という。下層とは、電極活物質層と正極集電体との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層の厚さの概ね33%内部の位置までをいう。同様にして中間層とは、電極活物質層の厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層の厚さの概ね33%~66%の位置、上層とは電極活物質層の厚さの概ね66%~100%の位置までをいう。
【0073】
また、上層、中間層および下層の電極密度は、例えば、電極の真密度に該当範囲(すなわち上層、中間層および下層のいずれか)の充填率を乗ずることによって求めることができる。電極の真密度は、例えば、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出される値である。該当範囲の充填率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において二値化処理を行うことによって算出することができる。具体的には、該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、該当範囲に存在する固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S1/(S1+S2)×100」から算出することができる。
【0074】
なお、低密領域の上層における、全空隙に対する、当該空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比は、次のようにして求めることができる。まず、電極活物質層の厚さ方向に沿った断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を取得し、固相部分と気相(空隙)部分とを二値化処理する。具体的には画像解析ソフト(例、「Matlab」など)を用いて、該当範囲に存在する固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。この空隙部分を画像解析ソフトによって楕円近似し、楕円の長軸を、空隙の長軸として求める。画像解析ソフトを用いて、空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度を求め、全空隙に対する、当該空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比を算出する。
なお、この比は、好ましくは0.45以上であり、より好ましくは0.50以上である。
【0075】
ここで、当該電極活物質層において、前記低密領域の上層dL1と下層dL3とは、
(dL1/dL3)<1.1
の関係を具備することも可能である。このとき、低密領域はLiイオンの挿入/脱離経路として機能する領域であり、かかる低密領域が上層から下層にかけて密度差が小さい状態で形成されていることによって、集電体付近に存在する電極活物質にまでLiイオンを好適に導入することができる。これにより、イオン拡散性がより向上した電極を提供することができる。なお、(dL1/dL3)で表される比は、凹凸転写時の転写型による押圧力を調整することによって調整することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法では、気相制御湿潤粉体が用いられる。このような方法では、得られる電極は、次のような特徴を有し得る。
(5)電極活物質層におけるLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアにおける表面積を、相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測したときの平均表面積が、1.05×L×Bcm以上である。
(6)電極活物質層における気体残留率((空気の体積/塗膜の体積)×100)が10vol%以下である。
(7)電極活物質層についての放射光X線ラミノグラフィー法による空隙観察に基づく空隙分布において、全空隙容積(100vol%)に対する2000μm以上の容積の空隙比率が30vol%以下である。
(8)電極活物質層を、当該電極活物質層の表面から電極集電体に至る厚み方向に上層および下層の2つの層に均等に区分し、該上層および下層のバインダ樹脂の濃度(mg/L)を、それぞれ、C1およびC2としたとき、0.8≦(C1/C2)≦1.2の関係を具備する。
【0077】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法によって、製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0078】
本実施形態に係るシート状電極を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池100の一例を図8に示す。
リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)100は、扁平形状の捲回電極体80と非水電解液(図示せず)とが電池ケース(即ち外装容器)70に収容された電池である。電池ケース70は、一端(電池の通常の使用状態における上端部に相当する。)に開口部を有する箱形(すなわち有底直方体状)のケース本体72と、該ケース本体72の開口部を封止する蓋体74とから構成される。ここで、捲回電極体80は、該捲回電極体の捲回軸が横倒しとなる姿勢(即ち、捲回電極体80の捲回軸方向と蓋体74の面方向とはほぼ平行である。)で、電池ケース70(ケース本体72)内に収容されている。電池ケース70の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼といった軽量で熱伝導性の良い金属材料が好ましく用いられ得る。
また、図8に示すように、蓋体74には外部接続用の正極端子81および負極端子86が設けられている。蓋体74には、電池ケース70の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された排気弁76と、非水電解液を電池ケース70内に注入するための注入口(図示せず)が設けられている。電池ケース70は、蓋体74を電池ケース本体72の開口部の周縁に溶接することによって、該電池ケース本体72と蓋体74との境界部を接合(密閉)することができる。
【0079】
捲回電極体80は、長尺なシート状の典型的にはアルミニウム製の正極集電体82の片面または両面に長手方向に沿って正極活物質層84が形成された正極シート83と、長尺なシート状の典型的には銅製の負極集電体87の片面または両面に長手方向に沿って負極活物質層89が形成された負極シート88とを、典型的には多孔性のポリオレフィン樹脂からなる2枚の長尺状のセパレータシート90を介して積層して(重ね合わせて)長手方向に捲回されている。この正極シート83および負極シート88の少なくとも一方(好ましくは両方)が、上述の製造方法によって製造されている。好適には、この負極シート88が、上述の製造方法によって製造されており、電極活物質粒子が黒鉛粒子である。このとき、正極シート83は、公知方法によって製造されたものであってよいし、上述の製造方法よって製造されていてもよい。
扁平形状の捲回電極体80は、例えば、正負極シート83,88および長尺なシート状のセパレータ90を、断面が真円状の円筒形状になるように捲回した後で、該円筒型の捲回体を捲回軸に対して直交する一の方向に(典型的には側面方向から)押しつぶして(プレスして)拉げさせることによって、扁平形状に成形することができる。かかる扁平形状とすることで、箱形(有底直方体状)の電池ケース70内に好適に収容することができる。なお、上記捲回方法としては、例えば円筒形状の捲回軸の周囲に正負極およびセパレータを捲回する方法を好適に採用し得る。
【0080】
特に限定するものではないが、捲回電極体80としては、正極活物質層非形成部分82a(即ち、正極活物質層84が形成されずに正極集電体82が露出した部分)と負極活物質層非形成部分87a(即ち、負極活物質層89が形成されずに負極集電体87が露出した部分)とが捲回軸方向の両端から外方にはみ出すように重ねあわされて捲回されたものであり得る。その結果、捲回電極体80の捲回軸方向の中央部には、正極シート83と負極シート88とセパレータ90とが積層されて捲回された捲回コアが形成される。また、正極シート83と負極シート88とは、正極活物質非形成部分82aと正極端子81(例えばアルミニウム製)が正極集電板81aを介して電気的に接続され、また、負極活物質層非形成部分87aと負極端子86(例えば銅またはニッケル製)が負極集電板86aを介して電気的に接続され得る。なお、正負極集電板81a,86aと正負極活物質層非形成部分82a,87aとは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
なお、非水電解液としては、典型的には適当な非水系の溶媒(典型的には有機溶媒)中に支持塩を含有させたものを用いることができる。例えば、常温で液状の非水電解液を好ましく使用し得る。非水系の溶媒としては、一般的な非水電解液二次電池に用いられる各種の有機溶媒を特に制限なく使用し得る。例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を、特に限定なく用いることができる。支持塩としては、LiPF等のリチウム塩を好適に採用し得る。支持塩の濃度は特に制限されないが、例えば、0.1~2mol/Lであり得る。
【0081】
なお、ここで開示される技術の実施にあたっては、電極体を図示するような捲回電極体80に限定する必要はない。例えば、複数の正極シートおよび負極シートをセパレータを介して積層して形成される積層タイプの電極体を備えるリチウムイオン二次電池であってもよい。また、本明細書に開示される技術情報から明らかなとおり、電池の形状についても上述した角型形状に限定されるものではない。また、上述した実施形態は、電解質が非水電解液である非水電解液リチウムイオン二次電池を例にして説明したが、これに限られず、例えば、電解液に代えて固体電解質を採用したいわゆる全固体電池に対しても、ここで開示された技術を適用することができる。その場合には、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態の湿潤粉体は、固形分として活物質に加えて固体電解質を含むように構成される。
【0082】
非水電解液が供給され、電極体を内部に収容したケースが密閉された電池組立体に対して、通常、初期充電工程が行われる。従来のこの種のリチウムイオン二次電池と同様、電池組立体に対して外部接続用正極端子および負極端子との間に外部電源を接続し、常温(典型的には25℃程度)で正負極端子間の電圧が所定値となるまで初期充電する。例えば初期充電は、充電開始から端子間電圧が所定値(例えば4.3~4.8V)に到達するまで0.1C~10C程度の定電流で充電し、次いでSOC(State of Charge)が60%~100%程度となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC-CV充電)により行うことができる。
【0083】
その後、エージング処理を行うことにより、良好な性能を発揮し得るリチウムイオン二次電池100を提供することができる。エージング処理は、上記初期充電を施した電池100を、35℃以上の高温度域に6時間以上(好ましくは10時間以上、例えば20時間以上)保持する高温エージングにより行われる。これにより、初期充電の際に負極の表面に生じ得るSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の安定性を高め、内部抵抗を低減することができる。また、高温保存に対するリチウムイオン二次電池の耐久性を高めることができる。エージング温度は、好ましくは35℃~85℃(より好ましくは40℃~80℃、更に好ましくは50℃~70℃)程度とする。このエージング温度が上記範囲より低すぎると、初期内部抵抗の低減効果が十分でないことがある。上記範囲より高すぎると、非水系溶媒やリチウム塩が分解するなどして電解液が劣化し、内部抵抗が増加することがある。エージング時間の上限は特にないが、50時間程度を超えると、初期内部抵抗の低下が著しく緩慢になり、該抵抗値がほとんど変化しなくなることがある。したがって、コスト低減の観点から、エージング時間は、6~50時間(より好ましくは10~40時間、例えば20~30時間)程度とすることが好ましい。
【0084】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0085】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0086】
<実施例>
負極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(負極材料)を用いて銅箔上に負極活物質層を形成した。
本試験例では、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が10μmである黒鉛粒子、バインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、溶媒として水を用いた。なお、黒鉛粒子は、断面視における長辺に対する短辺の比が0.2の鱗片状黒鉛を用いた。
【0087】
まず、98質量部の上記黒鉛粉、1質量部のCMCおよび1質量部のSBRからなる固形分を、図3に示すような回転羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリミキサーやハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、回転羽根を有する撹拌造粒機内で回転羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形成分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90質量%となるように溶媒である水を添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化処理を行い、次いで1000rpmの回転速度で2秒間撹拌微細化処理を続けた。これにより本試験例に係る湿潤粉体(負極材料)を作製した。
混合撹拌処理および微細化を行い、本試験例に係る湿潤粉体(負極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(負極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に塗膜を転写した。
【0088】
この塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロール(線圧約40N/cm)を用いて、凹凸形状(ピッチ250μm)を転写した。凹凸が転写された塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、その後、線圧約4t/cmでロールプレスした。これにより、電極集電体上に気相制御湿潤粉体からなる電極活物質層が形成された電極(負極)を得た。
【0089】
<比較例>
凹凸転写ロールを用いた凹凸形状の転写を行わなかった以外は実施例と同様にして、電極(負極)を得た。
【0090】
<負極活物質層のSEM観察>
比較例について、ロールプレス(すなわちプレス工程)の前と後において、負極活物質層の断面SEM画像を取得した。その断面SEM画像を、図9(プレス工程前)および図10(プレス工程後)に示す。
実施例についても、ロールプレス(すなわちプレス工程)の前と後において、負極活物質層の断面SEM画像を取得した。その断面SEM画像を、図11(プレス工程前)および図12(プレス工程後)に示す。
図9より、比較例の負極活物質層において、黒鉛粒子の長軸が、塗膜の厚さ方向と直交する方向に概ね配向しているのが観察される。図10より、プレス処理すると、空隙量が減るが、黒鉛粒子の長軸が、塗膜の厚さ方向と直交する方向に概ね配向しているのが観察される。
一方、図11は、実施例において凹凸が転写された負極活物質層であり、凹部の両側部において、黒鉛粒子の長軸が傾斜しているのが観察される。図12より、プレス処理されて電極活物質層の表層部がフラットになっても黒鉛粒子の長軸が傾斜しており、黒鉛粒子がV字状に配向しているのが観察される。
【0091】
実施例の黒鉛粒子が配向した領域において、該当領域に存在する固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行った。さらにこの空隙部分を楕円近似し、楕円の長軸を、空隙の長軸として求めた。空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度を求め、全空隙に対する、当該空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比を算出した。これには、画像解析ソフト「Matlab」を用いた。その結果、実施例における当該比は、0.51であった。
一方、比較例の上記と対応する領域に対しても、全空隙に対する、当該空隙の長軸と厚さ方向に直交する方向との角度θが±5°の範囲外にある空隙の個数の比を算出した結果、当該比は、0.39であった。
また、実施例および比較例において得られた負極の負極活物質層について断面SEM画像から空隙率を求めたところ、比較例においては、負極活物質層の表面側で15.11%であり、集電体側で13.25%であった。一方、実施例においては、黒鉛粒子の長軸が、V字状に配向している領域において、負極活物質層の表面側で17.65%であり、集電体側で10.38%であった。
【0092】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した実施例および比較例の電極を用いて、評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
具体的には、正極として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、ポリフッ化ビニリデン、およびアセチレンブラックを90:8:2の質量比で含有する正極活物質層を備える正極を用意した。
また、セパレータシートとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
【0093】
正極と、実施例または比較例の負極とを、セパレータを介在させつつ積層し、端子類を取り付けてラミネートケースに収容した。ラミネートケースに非水電解液を注入して、ラミネートケースを封止した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。このようにして、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0094】
<評価用リチウムイオン二次電池の評価>
上記した評価用リチウムイオン二次電池に対し、1/3Cの電流値で充放電を3回繰り返し、その時の充電容量および放電容量を測定した。クーロン効率(%)を下記式より求めた。また、放電容量維持率(%)を、下記式より求めた。
クーロン効率(%)=(放電3回目の放電容量/充電3回目の充電容量)×100
放電容量維持率(%)=(放電3回目の放電容量/放電1回目の放電容量)×100
【0095】
比較例で得られた負極を用いた評価用リチウムイオン二次電池のクーロン効率は、71.08%であった。これに対し、実施例で得られた負極を用いた評価用リチウムイオン二次電池のクーロン効率は、90.11%であり、26%の向上が見られた。
また、比較例で得られた負極を用いた評価用リチウムイオン二次電池の放電容量維持率は、54.17%であった。これに対し、実施例で得られた負極を用いた評価用リチウムイオン二次電池の放電容量維持率は、78.38%であり、44%の向上が見られた。
【0096】
以上のことから、ここに開示される二次電池用電極の製造方法によれば、活物質層の一部において局所的に黒鉛を配向させることが容易であることがわかる。また、ここに開示される二次電池用電極の製造方法によって得られる電極は、電極活物質粒子が黒鉛粒子である場合に、クーロン効率とサイクル特性に優れることがわかる。
【0097】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 撹拌造粒機
20 ロール成膜装置
31 電極集電体
32 湿潤粉体(電極合材)
33 塗膜
34 電極活物質粒子
70 電極製造装置
40 成膜ユニット
50 塗膜加工ユニット
60 乾燥ユニット
80 捲回電極体
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12