(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139215
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】断熱構造体
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20220915BHJP
D04H 13/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16L59/02
D04H13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039494
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】517005020
【氏名又は名称】ティエムファクトリ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517008858
【氏名又は名称】株式会社ナフィアス
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】久保 鮎子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】大澤 道
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 理央
【テーマコード(参考)】
3H036
4L047
【Fターム(参考)】
3H036AB23
3H036AC06
4L047CB06
4L047CB08
(57)【要約】
【課題】本発明は、エアロゲル本来の優れた断熱性や通気性を有すると共に、粉落ちや発塵がなく、しかもドレープ性に優れる断熱構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の目的は、通気性シートを用いて形成された袋体と、前記袋体の内部の閉鎖空間に充填されたエアロゲル粉粒体とを有し、前記エアロゲル粉粒体は、平均粒径が500nm以上の範囲であり、前記袋体は、前記通気性シートの通気度が0.1cm
3/(cm
2・s)以上50cm
3/(cm
2・s)以下の範囲であり、前記通気性シートの単位面積当たりの質量が0.1g/m
2以上100g/m
2以下の範囲である、断熱構造体によって達成された。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性シートを用いて形成された袋体と、
前記袋体の内部の閉鎖空間に充填されたエアロゲル粉粒体と
を有し、
前記エアロゲル粉粒体は、平均粒径が500nm以上の範囲であり、
前記袋体は、前記通気性シートの通気度が0.1cm3/(cm2・s)以上50cm3/(cm2・s)以下の範囲であり、前記通気性シートの単位面積当たりの質量が0.1g/m2以上100g/m2以下の範囲である、断熱構造体。
【請求項2】
前記通気性シートが、不織布で形成されている、請求項1に記載の断熱構造体。
【請求項3】
前記通気性シートは、空隙率が40%以上95%以下の範囲であり、前記不織布を構成する繊維の平均繊維径が1nm以上5μm以下の範囲である、請求項2に記載の断熱構造体。
【請求項4】
前記不織布が、有機繊維で構成されている、請求項2または3に記載の断熱構造体。
【請求項5】
熱伝導率が5~60mW/(m・K)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項6】
台の載置面上に置いた前記断熱構造体を、前記台の載置面の端位置から50mmだけはみ出すように前記載置面上をスライド移動させたとき、前記載置面から延長したときの仮想面に対して、前記断熱構造体のはみ出した部分の下面が下方に変位したときの撓み角度が、30°以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項7】
前記断熱構造体を、前記エアロゲル粉粒体を通過させないチャック付きポリ袋に入れてチャックを閉めた後に台上に置き、100mmの高さ位置から前記台上に置かれた前記チャック付きポリ袋の上面を、100回繰り返しタップした後に測定した、前記袋体内の前記エアロゲルが前記袋体を通過して前記チャック付きポリ袋に漏れ出たときの漏出量が、前記袋体に充填されたときの前記エアロゲルの全体質量に対する質量割合にして、0.1質量%未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な断熱構造体に関する。さらに詳しくは、エアロゲル粉粒体と、それを収納する通気性シートの袋体とを有する断熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エアロゲルと呼ばれる、シロキサン結合を有するゲル乾燥体が知られている。具体的には、シラン化合物の単量体溶液(溶媒:水、および/または有機溶剤)を加水分解することによりゾルを形成し、そのゾルを架橋反応させることによってゲル(縮合化合物)を形成した後、ゲルを乾燥させることによって、多数の気孔を有するエアロゲル(ゲル乾燥体)が得られる(特許文献1)。
【0003】
このエアロゲルは、優れた断熱性、光学特性、電気特性を有することから種々の分野で使用が検討されている。その中でもエアロゲル粉粒体は、その形態から使用分野の拡大が期待されている(特許文献2、3)。例えば、特許文献4には、エアロゲル粒子を膨張微小球と共にポリマーマトリックス中に含有させた断熱材料が記載されている。また、特許文献5には、エアロゲルが充填された断熱層と、その断熱層を収容する、無機繊維等の織布からなる外装袋と、当該外装袋内で前記断熱層を被覆する、無機繊維等の不織布からなる保持層(発塵防止層)とを有し、これら保持層と外装袋とが縫合された構造の断熱体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5250900号公報
【特許文献2】国際公開特許2014/024413号公報
【特許文献3】特開2018-145331号公報
【特許文献4】特開2020-515685号公報
【特許文献5】特開2009-275857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらエアロゲル粉粒体は、非常に脆いため、使用中にしばしば砕けて発塵等の問題が生じやすい。こうして生じた塵は、呼吸器系の疾病を誘発する可能性があり、また、例えば衣料用断熱材として使用すると装着者に不快感を与えるおそれがある。建築物や装置の断熱材として用いた場合にも、周辺の機器等への悪影響が懸念される。特許文献4の断熱材料では、エアロゲル粉粒体がポリマーマトリックス中に固定されているため、発塵の問題は回避できるが、こうしたエアロゲル/ポリマー複合材は柔軟性に欠け、形状の自由度がないため、用途も限定される。また、ポリマーバインダーと混合される結果、エアロゲルが本来有していた通気性が失われ、断熱性も往々にして損なわれる問題がある。
【0006】
特許文献5のように、エアロゲルまたはその含有層を織布や不織布で包んだ断熱構造体であれば、上記のような断熱性の低下は防ぐことができる。しかし、使用する織布や不織布が適切なものでないと、粉落ちや発塵の抑制効果が十分には得られない。また、特許文献5記載の断熱構造体はしばしば柔軟性に欠けるため、対象物の形状に追従せず、繊維分野でいうドレープ性に劣る材料となる。そのため、やはり用途が限定され、例えばこうした断熱構造体を衣料品に使用すると、湿気のこもりや風合いの悪さにより、装着者にしばしば不快感を与える。
【0007】
本発明は上記の問題を解決すべく、エアロゲル本来の優れた断熱性を有し、エアロゲルの外部への飛散がなく、しかも通気性やドレープ性に優れた断熱構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、エアロゲルの平均粒径を規定した上で、袋体を特定の通気性シートで形成することにより、エアロゲル本来の優れた断熱性を有すると共に、エアロゲルを充填した袋体がエアロゲルを通過させずに通気性のある構造を有するので、エアロゲルの粉落ちや発塵がなく、しかもドレープ性に優れた断熱構造体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)通気性シートを用いて形成された袋体と、前記袋体の内部の閉鎖空間に充填されたエアロゲル粉粒体とを有し、前記エアロゲル粉粒体は、平均粒径が500nm以上の範囲であり、前記袋体は、前記通気性シートの通気度が0.1cm3/(cm2・s)以上50cm3/(cm2・s)以下の範囲であり、前記通気性シートの単位面積当たりの質量が0.1g/m2以上100g/m2以下の範囲である、断熱構造体。
(2)前記通気性シートが、不織布で形成されている、上記(1)に記載の断熱構造体。
(3)前記通気性シートは、空隙率が40%以上95%以下の範囲であり、前記不織布を構成する繊維の平均繊維径が1nm以上5μm以下の範囲である、上記(2)に記載の断熱構造体。
(4)前記不織布が、有機繊維で構成されている、上記(2)または(3)に記載の断熱構造体。
(5)熱伝導率が5~60mW/(m・K)である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の断熱構造体。
(6)台の載置面上に置いた前記断熱構造体を、前記台の載置面の端位置から50mmだけはみ出すように前記載置面上をスライド移動させたとき、前記載置面から延長したときの仮想面に対して、前記断熱構造体のはみ出した部分の下面が下方に変位したときの撓み角度が、30°以上である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の断熱構造体。
(7)前記断熱構造体を、前記エアロゲル粉粒体を通過させないチャック付きポリ袋に入れてチャックを閉めた後に台上に置き、100mmの高さ位置から前記台上に置かれた前記チャック付きポリ袋の上面を、100回繰り返しタップした後に測定した、前記袋体内の前記エアロゲルが前記袋体を通過して前記チャック付きポリ袋に漏れ出たときの漏出量が、前記袋体に充填されたときの前記エアロゲルの全体質量に対する質量割合にして、0.1質量%未満である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の断熱構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアロゲル本来の優れた断熱性を有すると共に、エアロゲルを充填した袋体がエアロゲルを通過させずに通気性のある構造を有するので、エアロゲルの粉落ちや発塵がなく、しかもドレープ性に優れた断熱構造体を提供することができる。本発明の断熱構造体はまた、概して軽量なので、衣料用等の断熱材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に従う一実施形態の断熱構造体の写真であって、ドレープ性を評価している状態で示す。
【
図2】比較例2の断熱構造体の写真であって、ドレープ性を評価している状態で示す。
【
図3】比較例3の断熱構造体の写真であって、ドレープ性を評価している状態で示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(1)エアロゲル粉粒体
(1-1)エアロゲル
本発明の断熱構造体は、通気性のある袋体と、その内部の閉鎖空間に充填されたエアロゲル粉粒体とを有する。ここで、エアロゲルに特に制限はなく、本発明においては、シロキサン結合を含むどのような化学構造のエアロゲル(シリカエアロゲル)も使用することができる。以下では、エアロゲルについて、その内部構造および化学構造を中心に説明する。
【0013】
(エアロゲルの内部構造)
本発明で使用するエアロゲルは、その構造を微視的に観察した場合、固形物が満たされたバルク部(骨格部)と、バルク部内に3次元ネットワーク状に貫通した気孔部(細孔部)とで主に構成されている。
【0014】
バルク部は、固形物がシロキサン結合による三次元ネットワークを形成した連続体から構成される。三次元ネットワークは、ネットワークの最小単位である格子を、立方体で近似したときの一辺の平均長さが、2nm以上25nm以下であることが好ましい。なお、一辺の平均長さは、2nm以上、5nm以上、7nm以上、10nm以上であり、かつ、25nm以下、20nm以下、15nm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
また、気孔部は、上記バルク部内を貫通するチューブ状をなし、気孔をチューブで近似し、チューブの内径を円で近似したときの平均内径は、一般に5nm以上100nm以下である。なお、気孔の平均内径は、5nm以上、7nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上であり、かつ、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下であることが好ましい。ここで、上記チューブの内径は、空気を構成する元素分子の大気圧における平均自由行程(MFP)以下の寸法となっている。
また、エアロゲルの気孔率、すなわちエアロゲル全体の体積に占める気孔部の体積の割合は、通常70%以上である。気孔率の一例としては、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上であってもよい。
【0016】
なお、本発明におけるエアロゲルは、後述する物理特性を充足する限りにおいて、上記したバルク部、気孔部以外の構造を含んでもよい。一例として、上述した気孔部とは異なる空隙(ボイド)を含んでもよい。また、別の一例として、目的とする特性を充足する限りにおいて、製造上不可避成分として残存する水、有機溶剤、界面活性剤、触媒およびこれらの分解物を含むことができる。さらに、他の一例として、目的とする特性を充足する限りにおいて、製造上不可避成分として製造空間や製造装置から混入する塵埃を含むことができる。
【0017】
なお、本発明におけるエアロゲルは、上述した構成以外に、機能性付与、外観向上、装飾性付与などを意図して添加する成分を含むことができる。例えば、帯電防止剤、潤滑剤、無機顔料、有機顔料、無機染料、有機染料を含むことができる。
【0018】
(エアロゲルの化学構造)
エアロゲルは、上述したようにシロキサン結合を含む固体であるが、本発明においてはどのような化学構造のエアロゲルも使用することができる。例えば市販品を使用することもでき、また、任意の方法で製造することも可能である。エアロゲルは一般に、シラン化合物の単量体溶液を加水分解してゾルを形成し、次いで架橋反応させることによってゲル(縮合化合物)を形成した後、そのゲルを乾燥させて製造される。ゲルの乾燥方法としては、例えば二酸化炭素の超臨界状態において、ゲル内部の液体と二酸化炭素を交換し、続いて二酸化炭素を大気圧に戻して乾燥させる、超臨界乾燥法が試みられており、本発明においてもこうした方法で得られるエアロゲルを使用することができる。しかしながら本発明においては、本発明者らが発明した大気圧乾燥法により製造したエアロゲルを使用することが好ましい。大気圧乾燥法によれば、断熱性に優れるエアロゲルを、割れ等の欠陥を殆ど生じずに製造することができる。以下、大気圧乾燥法によるエアロゲルの製造方法について説明する。
【0019】
大気圧乾燥法によるエアロゲルの製造方法は、超臨界状態での乾燥は行なわずに、例えば原料ゾルを作製するために行なうゾル生成工程において混合するシリコン化合物の適正化を図ったものであって、その他の工程については特に限定されない。本実施形態の具体的な製造方法としては、例えば、ゾル生成工程、ウェットゲル生成・成形工程、溶媒交換工程および乾燥工程をこの順で行う場合が挙げられる。なお、本実施形態のエアロゲルの製造方法は、例えば、1段階固化法と2段階固化法のいずれの構成(工程)をも採用することができる。ここで、1段階固化法とは、シリコン化合物の加水分解反応によるゾル形成と、形成されたゾルの重縮合反応によるゲル化とを、同一の溶液組成で連続して行う方法を意味し、また、2段階固化法とは、シリコン化合物を加水分解してゾルを形成した後、塩基性水溶液を添加して別の溶液組成とした上で、ゾルの重縮合反応によるゲル化を行う方法を意味する。なお、1段階固化法と2段階固化法については、例えば国際公開第2020/166302号に記載されているのと同様な方法を採用することができる。
【0020】
(1-2)エアロゲル粉粒体
本発明の断熱構造体は、エアロゲル粉粒体(エアロゲルパウダー)を含む。このエアロゲル粉粒体は、平均粒径が500nm以上の範囲であればよく、例えばエアロゲルを粉砕することによって得ることができる。その平均粒径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上、特に好ましくは60μm以上である。なお、平均粒径の上限値は、特に制限はないが、優れたドレープ性を確保する観点から、5mm以下とすることが好ましい。こうしたエアロゲル粉粒体は、例えばエアロゲルをジェットミル、ローラーミル、ビーズミル、カッターミル等を用いて機械的に粉砕し、篩や風力等通常の手段を使用して分級することによって得ることができる。また、エアロゲルを製造する過程で生じた上記平均粒径の粉末状または顆粒状物を、そのまま使用することも可能である。
【0021】
ここで平均粒径は、レーザ回折式の粒子径分布測定装置による測定、あるいは篩による分級によって定めた平均粒径をいい、例えば粒子径分布測定装置としてはSALD―2300((株)島津製作所製)によって測定することができる。
【0022】
エアロゲル粉粒体として、例えば充填率を上げるために、分級した平均粒径の異なるエアロゲル粉粒体を複数使用することもできる。
【0023】
粉砕工程を経たエアロゲル粉粒体の形状は、通常不定形となるが、その他、球状、板状、フレーク状、繊維状も使用することができる。形状は、SEMにより直接観察することができる。なお、本発明においては、板状や繊維状等の各種形状の粒子の平均粒径として、レーザ回折式装置による測定で同じ回折・散乱光のパターンを示す球状粒子や、篩によって同様に分級される球状粒子の平均粒径の値を採用している。
【0024】
(エアロゲル粉粒体の製造)
上記のように、本発明で使用するエアロゲル粉粒体は、例えばエアロゲルを機械的に粉砕し、篩や風力等通常の手段を使用して分級することによって製造することができる。これとは別に、エアロゲル製造時に、ゲルを粉砕して粉末状物や顆粒状物とすることも可能である。一般にエアロゲルの製造においては、シラン化合物の加水分解および架橋反応によってゲル(縮合化合物)を形成するが、このゲルを所定のサイズに粉砕する方法によっても、エアロゲル粉粒体を製造することができる。
【0025】
(ゲル粉砕法)
ゲル粉砕法では、加水分解および架橋反応後のゲルを所定のサイズに粉砕する。ゲルは、例えばヘンシャルミキサーにより適当な条件(回転数および時間)で粉砕することができる。
【0026】
ミキサー内でゲルを生成し、そのまま粉砕してもよい。その他密閉可能な容器内でゲルを生成し、シェイカー等の振盪装置を用いることもできる。粒子径の調整のために、ジェットミル、ローラーミル、ビーズミル、カッターミルを使用することもできる。粉砕したゲルは、未反応物、副生成物等の不純物を低減するために、洗浄してもよい。
【0027】
上記のようにして粉砕したゲルを乾燥することにより、エアロゲル粉粒体を得ることができる。乾燥方法に特に制限はなく、超臨界乾燥法、凍結乾燥法、亜臨界乾燥法などがあるが、特に大気圧乾燥法が好ましい。乾燥の手法としては、超臨界乾燥法は、設備が大型化すると共に、製造コストが著しく高価であり、大量生産が困難という課題があることから、本発明の乾燥工程では、大気圧乾燥法を用いることがより好ましい。また、エアロゲル粉粒体の平均粒径を調整するために、再粉砕工程を設けることもできる。再粉砕は、例えばゲル粉砕で使用した装置を使用し、適宜粉砕条件を定めることによりすることができる。篩や風力による分級もすることが好ましい。
【0028】
(2)袋体
(2-1)通気シート
本発明の断熱構造体は、上記エアロゲル粉粒体と共に、通気性のある特定の袋体を有する。この袋体は、前記通気性シートの通気度が0.1cm3/(cm2・s)以上50cm3/(cm2・s)以下の範囲であり、前記通気性シートの単位面積当たりの質量が0.1g/m2以上100g/m2以下の範囲の通気性シートにより形成される。ここで、通気度は通気性試験(JIS L 1096)A法による値である。通気性試験は、生地の組織の隙間を通る空気の量を調べることにより、空気の通りにくさを評価するものである。本発明において、通気シートの通気度は、より好ましくは0.3cm3/(cm2・s)程度以上、例えば0.5cm3/(cm2・s)以上20cm3/(cm2・s)以下、特に好ましくは1cm3/(cm2・s)以上10cm3/(cm2・s)以下である。
【0029】
通気シートの材質や厚さに特に制限はなく、例えばポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、セルロースおよびセルロース誘導体、キチン、キトサン、シルク(フィブロイン、セリシン)、アラミド、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリフェニレンサルファイド等の高分子からなる、厚さ1μm~100μm、特に5μm~30μmの多孔質フィルムや不織布等が挙げられる。通気シートは不織布で形成されていることが好ましい。また、不織布は、有機繊維または無機繊維で構成されることが好ましいが、特に、有機繊維で構成された不織布で形成されていることがより好ましい。袋体は、単位面積当たりの質量(不織布における目付量)が、好ましくは0.5g/m2以上50g/m2以下、特に好ましくは1g/m2以上30g/m2以下である。シートに通気性を持たすための孔径や空隙率にも制限はなく、例えば孔径0.01μm~20μm、特に0.1~5μmの微細孔を有するシートを用いることができる。また、通気シートの空隙率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上である。また、通気シートの空隙率の上限値については、通気性があればよく、特に限定はしない。また、通気シートの空隙率の上限は、ドレープ性の確保の観点から、95%以下とすることが好ましい。なお、ここでいう「空隙率」とは、不織布に占める空隙の体積割合(体積%)であり、その値は{1-(嵩比重/真比重)}×100に等しい。こうした通気性シートであれば、通気度を上記範囲内に制御することが可能である。
【0030】
上記通気性シートは、通気性等の特性を満たす範囲で、織物、編物、不織布などのカバー層が積層されたものであっても良い。また、同種もしくは異種の複数の通気性シートを積層して複合化したものであっても良い。こうした積層・複合化により、強度等の所望の機能をさらに付加することができる。なお、積層・複合化された通気性シートは、シート全体として上記の通気度等の特性を有していればよい。しかしながら、断熱複合体のドレープ性・通気性確保の観点から、上記特性を満たす通気性シートのみを用いて積層することが好ましい。
【0031】
本発明における通気性シートはまた、60°以上、特に75°以上の撓み角度を示すことが好ましい。ここで、撓み角度とは、台の載置面上に置いた試料を、前記台の載置面の端位置から50mmだけはみ出すように前記載置面上をスライド移動させたとき、前記載置面から延長したときの仮想面に対して、前記試料のはみ出した部分の下面が下方に変位したときの角度であり、最大角度が90°である。撓み角度が60°以上であると、優れたドレープ性が発現する。そして、この優れたドレープ性を有する通気性シートを用いて形成された袋体を、本発明の断熱構造体に用いた場合には、本発明の断熱構造体の撓み角度は、30°以上、好ましくは45°以上、特に好ましくは60°以上とすることができる。
【0032】
ここで、上記のような通気性シートの代わりに特許文献5記載のような外層袋を用いると、得られる断熱構造体が概して硬くなる。また、通気度が上記した範囲外の不織布で袋体を形成すると、後記するようにドレープ性が不良となる。以下、通気性シートを構成する材料や製造方法、特に不織布について、詳細に説明する。
【0033】
(繊維)
袋体の通気性シートが不織布から成る場合、不織布を構成する繊維に特に制限はなく、各種の有機繊維や無機繊維等、種々の公知の素材からなる繊維を使用することができる。有機繊維と無機繊維とが併用されていてもよい。但し、ドレープ性や発塵性を考慮すると、有機繊維から成る不織布が好ましい。
【0034】
(有機繊維)
不織布を構成する有機繊維に特に制限はなく、種々の公知の素材からなる繊維を使用することができる。例として、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、セルロースおよびセルロース誘導体、キチン、キトサン、シルク(フィブロイン、セリシン)、アラミド、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の有機溶剤および水に溶解可能な高分子;並びに、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリフェニレンサルファイド等の熱溶融可能な高分子等から選択される素材の繊維を挙げることができるが、これらに限定されない。ポリアクリロニトリル、レーヨン、ピッチ等からなる繊維を熱処理して得られる、耐炎繊維や炭素繊維を使用することも可能である。これらの高分子1種のみからなる単一繊維であってもよく、複数種の高分子をブレンドした複合繊維であってもよい。また、繊維内部に無機ナノ粒子や金属ナノ粒子を含んでもよい。その他、必要に応じて、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、クレー、タルク、カオリン等の充填剤;無機顔料、有機顔料、無機染料、有機染料等の色剤;さらには、例えば滑剤、カップリング剤、流動性改良材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0035】
(無機繊維)
袋体の通気性シートが無機繊維で構成された不織布から成る場合、不織布を構成する無機繊維に特に制限はなく、種々の公知の素材からなる繊維を使用することができる。例として、ガラス繊維、アルミナ、シリカ、ステンレス、バサルトなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
上記のような有機または無機高分子(または添加剤を含有する高分子組成物)を紡糸することにより、不織布を形成する繊維を製造することができる。勿論、各種紡糸法により製造された市販品を使用してもよい。紡糸法に特に制限はなく、例えば溶媒に溶解可能な有機高分子であれば、高分子溶液を紡糸口金から押し出して溶媒を揮発させる乾式紡糸法や、高分子溶液を紡糸口金から貧溶媒中に押し出す湿式紡糸法、熱溶融可能な高分子であれば、溶融させて防止口金を通す溶融紡糸法等、種々の公知の方法を選択することができる。汎用の紡糸装置を用いて所望の繊維を製造することが可能で、例えば繊維の断面形状を、丸型、楕円型、三角型、四角型、五角型などの多角型、星型、中空型などの種々の形状とすることができる。また、組成の異なる樹脂組成物や他種の樹脂組成物を含むサイドバイサイド、芯鞘構造を有する複合繊維であってもよい。海島構造の繊維を紡糸し、海成分を溶解し島成分のみを取り出した繊維であってもよい。
【0037】
繊維の平均繊維径は好ましくは1nm以上5μm以下の範囲であり、特に平均繊維径が1nm以上5μm以下の有機繊維が好ましい。平均繊維径は、さらには10nm以上2.5μm以下、特に100nm以上1μm以下の範囲内とすることが好ましいが、不織布の目付や厚さ、断熱構造体の用途や使用するエアロゲル粉粒体の平均粒径に応じて、所望の範囲から選定することができる。ここで、不織布が、例えば厚さが10μm程度以下、特に1μm程度以下と薄い場合には、平均繊維径が1~500nm程度、特に10~300nm程度の細い有機繊維を使用するのが好ましい。また、不織布が、例えば厚さが10μm程度より厚く、あるいは目付量が10g/m2程度よりも多いのものであれば、同一種または複数種の不織布を積層して使用することも可能である。
【0038】
(不織布)
本発明の断熱構造体が有する袋体は、好ましくは上記のような繊維、特に有機繊維からなる不織布で形成される。ここで、不織布としては目付量(単位面積当たりの質量)が0.1g/m2以上100g/m2以下の範囲のものを用いるが、所望の素材や厚さのどのような不織布をも使用することができる。素材とする高分子や繊維径等の異なる、複数種の有機繊維からなる不織布であってもよい。また、エレクトロスピニング法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラシュ紡糸法等、公知のどのような方法で製造された不織布であってもよい。セルロール、パルプ、及び/または上記したような有機繊維もしくは無機繊維から、紙漉きの手法で不織布を製造することもできる。なお、本発明での不織布には、紙も包含する。細径繊維の製造が容易な点からは、エレクトロスピニング法が好ましい。
【0039】
エレクトロスピニング法とは、荷電したポリマーから繊維化する方法で、繊維化工程で繊維同士が交絡することにより、不織布のシートが形成される。また、スパンボンド不織布は通常、紡糸した繊維を直接シート状物(ウェブ)に加工し、このウェブの繊維を結合して製造される。例えば、紡出されたフィラメントを捕集ベルト上に集めて、所定の厚さに堆積させてウェブまたはスパンボンド不織布とすることができる。通常はこうして得られたウェブを、バインダーを用いる化学的結合法、熱による結合法、および機械的結合法等によって結合・交絡処理する。ここで、化学的結合に用いられるバインダーとしては、アクリル系、ビニル系、ウレタン系、ポリエステル系、ブタジエン系等のエマルジョンや、ポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、低融点ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体等のホットメルトタイプの粉末樹脂が一般に用いられるが、本発明で使用する不織布は、これらいずれの樹脂で結合されたものであってもよい。
【0040】
(2-2)不織布の特性
本発明で使用する不織布は、上記のように目付量が0.1g/m2以上100g/m2以下の範囲であり、好ましくは0.5g/m2以上50g/m2以下、さらに好ましくは1g/m2以上30g/m2以下、特に好ましくは1~10g/m2の範囲である。しかしながら好ましい目付量は、使用するエアロゲル粉粒体の平均粒径や不織布の厚さ、断熱構造体の用途等に応じて、所望の範囲から選定することができる。
【0041】
本発明で使用する不織布はまた、上記のように0.1cm3/(cm2・s)以上50cm3/(cm2・s)以下、特に0.3cm3/(cm2・s)程度以上の通気度を有する。ここでの通気性は、上記した通気性試験(JIS L 1096)A法を用いて評価することができる。不織布の厚さにも特に制限はなく、目付量により決定される厚みのものを使用することができる。しかしながら、厚さが1~100μm程度、中でも2~50μm程度、特に5~25μm程度の不織布が好ましい。厚さが100μm程度以下であれば、断熱構造体は十分なドレープ性を発現する。また、厚さが0.1μm程度以上であれば、粉落ちが十分に抑制され、かつ十分な通気性を確保することができる。
【0042】
なお、本発明で使用する不織布は、撥水や制電性付与等の加工処理が施されていてもよい。撥水処理によって、水や油などが浸透し難くなり、耐汚染性も高いものとなる。本発明の断熱構造体は、撥水性や制電性を備えることにより、例えば被覆類等の用途に特に適したものとなる。また、制電性を付すことにより、工場等、特に溶剤を多用する塗装工場等での使用に、より適したものとすることができる。撥水処理は、例えばフッ素系もしくはシリコーン系撥水剤等の加工剤を塗布することにより、または予め撥水剤を添加剤として高分子原料に混ぜ合わせて不織布を成形することにより、行うことができる。制電性は、例えば脂肪酸エステルや第4級アンモニウム塩等の制電性付与剤を塗布する方法や、添加剤として高分子原料に混ぜ合わせて不織布を成形する方法等によって、付与することができる。不織布にはまた、断熱構造体の用途に応じて、親水加工、ギア加工、印刷、塗布、賦型加工、プレス加工などの二次加工が施されていてもよい。例えば不織布に所望の模様等を印刷し、断熱性を有する衣料品として使用することもできる。
【0043】
(好ましい通気性シート・不織布)
本発明のより好ましい態様においては、通気性シートは、上記のような通気性と撓み角度を有し、単位面積当たりの質量が0.1g/m2以上100g/m2以下の範囲である。さらに好ましくは、空隙率が40%以上の、特に80%以上の通気性シートを使用する。一般に高空隙率のシートほど断熱性やドレープ性に優れるので、本発明の断熱構造体における袋体の素材として適している。また、上記のような繊維径の繊維で形成された不織布を使用するのが好ましい。微細な繊維径の繊維により形成される不織布は柔軟で、断熱構造体は特にしなやかでドレープ性に優れるものとなる。中でも、繊維径が1~1000nm、特に100~500nmで目付量が0.1~100g/m2、特に1~10g/m2のエレクトロスピニング法で製造された不織布を使用する。これら不織布は公知であり、例えば株式会社ナフィアスから、NafiaSの商標名で市販もされている。
【0044】
(3)断熱構造体
本発明の断熱構造体は、上記のような袋体と、その内部の閉鎖空間に充填されたエアロゲル粉粒体とを有する。袋体内部へのエアロゲル粉粒体の充填方法には特に制限はなく、慣用の方法で充填することができる。例えば1枚の不織布を中央で折り曲げて両側部を熱融着またはバインダー等で接着して袋状とし、所望の量のエアロゲル粉粒体を充填した後に、袋状物の開口部を熱融着またはバインダー等で接着することにより、本発明の断熱構造体とすることができる。
【0045】
本発明の断熱構造体において、袋体内部の閉鎖空間に充填されるエアロゲル粉粒体の量に特に制限はないが、袋体の一方の主面1m2当たり1~5000g程度の量を充填することが好ましい。充填量がこれより少ないと、断熱性が不十分となる場合があり、また、充填量がこれより多いと、ドレープ性が不十分となる可能性がある。このようにエアロゲル粉粒体の充填量は、袋体の面積、特に断熱構造体における一番広い面(主面)片側の面積に対するエアロゲル粉粒体量で表され、単位はg/m2である。エアロゲル粉粒体の充填量は、より好ましくは5~2000g/m2、特に好ましくは10~500g/m2である。なお、袋体内部の閉鎖空間中には、エアロゲル粉粒体の他に、高分子等のバインダーや他種の断熱材、さらには香料や抗菌剤等の添加剤を充填してもよいが、添加剤によってはエアロゲルが本来有する通気性や断熱性を低下させる場合があるので、バインダー不含の断熱構造体とするのが好ましい。
【0046】
上記のような本発明の断熱構造体は、優れた断熱性を示し、その熱伝導率は、概して小さく、例えば5~60mW/(m・K)程度となる。また、本発明の好適な断熱構造体は、熱伝導率を40mW/(m・K)以下、さらには、25mW/(m・K)以下とすることが可能であり、極めて優れた断熱性が発現する。
【0047】
本発明の断熱構造体はまた、ドレープ性に優れ、例えば別の部材上に静置すると、その部材の形状にほぼ沿うように撓ませることができる。そのため、特に衣料用の断熱材として好適である。なお、ドレープとはインテリアの専門用語の一つで、一般に繊維が自重によってたれ下る変形現象を指し、繊維製品が対象物にフィットする度合い、柔軟性を表す。ドレープ性は例えば、断熱構造体試料を机等の台の載置面上に、一部がその台からはみ出すように置いたとき、試料(断熱構造体)が台の端部で下方にどのくらい撓むか、撓み角度を測定することによって評価することができる。ここで、撓み角度とは、台の載置面から延長したときの仮想面に対する、台の端部からはみ出した試料部分の中央部の下面の角度であり、試料部分の中央部の下面が、台の側面に接触するまで撓めば90°、台の載置面から延長したときの仮想面上に位置したままの状態で撓まなければ0°となる。本発明の断熱構造体は、通常30°以上、典型的には45°以上、特に60°以上の撓み角度を示す。
【0048】
本発明の断熱構造体は通気性のある袋体を有するので、エアロゲル粉粒体間の空気が袋体内に閉じ込められて断熱構造体の形状の自由度を損なうことがなく、断熱構造体全体が重力や外力に応じて容易に変形する。またエアロゲルは、その高い空隙率と粘弾性から、重力や外力に応じて自由に変形させることができるという特徴をもち、圧縮によって密度、空隙率を変えることができる。極めて良好なドレープ性をもつ袋体を用いることで、重力や外力に応じて自由に変形する、というエアロゲルの特徴を発現することができるため、この断熱構造体は圧縮などにより自由に密度を変えることが可能である。本発明は、極めて良好なドレープ性をもつ袋体と、重力や外力に応じて自由に変形するというエアロゲルとを組み合わせることによって、断熱構造体全体が外力に柔軟に追随して変形するという特徴を持つ。なお、本発明の断熱構造体においては、袋体が通気性と共に上記のような目付量等の特性を有するため、袋体の内部に充填したエアロゲル粉粒体の一部が、外部からの荷重等によって仮に粉砕してしまった結果、粒径が小さいエアロゲル粉粒体の粉砕物が新たに生じたとしても、それらの粉砕物が袋体から漏れ出ることは実質的にない。
【0049】
本発明の断熱構造体はまた、粉落ちが殆ど生じない利点を有する。例えば本発明の断熱構造体を、エアロゲル粉粒体を通過させないチャック付きポリ袋に入れてチャックを閉めた後に台上に置き、前記台から100mmの高さ位置から150gの質量の分銅を自由落下させてポリ袋の上面を100回繰り返しタップした後に測定すると、袋体内のエアロゲルが袋体を通過してチャック付きポリ袋に漏れ出たときの漏出量が、袋体に充填されたときのエアロゲルの全体質量に対する質量割合にして、通常0.1質量%未満、特に0.05質量%以下、典型的には0.01質量%以下となる。そのため、粉塵による呼吸器疾患や周辺装置への悪影響等を防止できる利点がある。
【0050】
本発明の断熱構造体において、袋体は、単位面積当たりの質量が0.1g/m2以上100g/m2以下の通気性シートで形成されているため、低密度で、その内部に充填されているエアロゲル粉粒体も極めて低密度である。そのため、本発明の断熱構造体は、嵩比重が概して0.03~0.50g/cm3程度、特に0.05~0.30g/cm3程度と、通常のセラミックス等の従来の無機断熱材に比べてはるかに軽量となる。
【0051】
以上のように本発明の断熱構造体は、断熱性、ドレープ性、および通気性や透湿性に優れ、しかも粉落ちが殆ど生じない利点を有する。そのため、例えば衣料用断熱材として用いられた際に、良好な保温性や風合いが発現する上、湿気のこもりや脱落した粉塵による不快感が生じ難い利点がある。しかも本発明の断熱構造体は概して軽量なので、衣料用の断熱材等として最適である。本発明の断熱構造体はまた、そのドレープ性・追随性を生かし、住宅や工場、自動販売機等における保温・保冷用パイプ等、サイズの小さな、あるいは入り組んだ構造の部材の断熱材として使用することもできる。本発明の断熱構造体は粉落ちし難いので、食品工場や半導体工場のようなクリーン度の要求される用途での使用にも好適である。
【0052】
上述したところは、この発明の実施形態の例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例について、具体的に説明する。なお評価は特に断りの無い限り23℃50%RHの雰囲気下で行った。
【0054】
<実施例1>
(袋体の調製)
エアロゲル粉粒体は、ティエムファクトリ株式会社製のエアロゲルパウダー(平均粒径:60μm)を用いた。袋体は、繊維径が約200nmのポリウレタン製の有機繊維を用いて形成した、サイズ:長さ200mm×幅200mm×厚さ15μmの不織布(NafiaS(株式会社ナフィアス製、ポリウレタン繊維の不織布、目付量5g/m2、通気度0.3cm3/(cm2・s))を、長さ方向に沿うように中央位置で折り曲げて長方形の平面形状とした後、折り曲げ部の辺以外の残りの3辺の端部のうち、一の長辺の端部と一の短辺の端部をヒートシールし、他の短辺の端部は、ヒートシールせずに開口する袋体を形成した。
【0055】
(断熱構造体の調製)
上記の開口から袋体にエアロゲルパウダー2.0gを充填した後に、開口する袋体の端部をヒートシールして袋体を密閉し、本発明に従う断熱構造体を調製した。なお、この断熱構造体は板状で、主面のサイズに比べて厚さは概ね無視できる程度であったため、エアロゲル粉粒体の充填量は(2.0g/(0.2m×0.1m)=)100g/m2と表される。
【0056】
(断熱性評価)
上記で得られた断熱構造体について、ティエムファクトリ株式会社製の熱伝導率測定器(HFM法)にて熱伝導率を測定した。測定結果を、後記する表1に示す。
【0057】
<実施例2~3>
実施例2は、袋体にエアロゲルパウダー5.0gを充填し、エアロゲル粉粒体の充填量を250g/m2とし、また、実施例3は、袋体にエアロゲルパウダー10.0gを充填し、エアロゲル粉粒体の充填量を500g/m2としたこと以外は、実施例1と同様に断熱構造体を調製し、熱伝導率を測定した。測定結果を、後記する表1に示す。
【0058】
<実施例4>
5.0gのエアロゲルパウダーと、30mlのバインダー(富士フイルム和光純薬(株)社製ポリアクリル酸溶液(約25%)8000~12000)とを混合した混合物を、袋体に充填したこと以外は、実施例1と同様に断熱構造体を調製し、熱伝導率を測定した。測定結果を、後記する表1に示す。
【0059】
<比較例1>
断熱構造体として、市販の断熱材(住友理工株式会社製の商品名ファインシュライト、ウレタン樹脂エマルジョンなどをエアロゲルと練り込んだもの)を用い、実施例1と同様にして熱伝導率を測定した。但し、本比較例の試料は厚さが2mmと薄いので、6枚重ねて測定に付した。測定結果を、後記する表1に示す。
【0060】
【0061】
表1に示す結果より、本発明の規定を満たす不織布で形成された袋体中にエアロゲル粉粒体を有する実施例1~4の断熱構造体は、いずれもバインダーで固めた比較例1の断熱材に比べ、熱伝導率の数値が低く、断熱性に優れることが明らかとなった。特に、エアロゲル粉粒体充填量を250g/m2とした実施例2の断熱構造体は、熱伝導率が15.5mW/(m・K)と低く、エアロゲル自体の熱伝導率の数値(12~14mW/(m・K))に近い数値を示した。これらの他、実施例2と実施例4の結果より、本発明の断熱構造体においては、袋体内部の閉鎖空間中にはエアロゲル粉粒体のみを充填するのが好ましいことが判明した。
【0062】
<実施例5>
実施例1で調製した断熱構造体を、チャック付きポリ袋(株式会社生産日本社製ジッパーバッグ)に入れてチャックを閉めた後に台上に置き、前記台から100mmの高さ位置から150gの質量の分銅を自由落下させてポリ袋の上面を100回繰り返しタップした。タップ操作後、袋体を通過してチャック付きポリ袋に漏れ出たエアロゲルは、観察されなかった。質量の変化を計測したところ、0.0mgであった。本発明に従う断熱構造体は、粉落ちを殆ど生じないことが示された。
【0063】
<実施例6>
エアロゲルの充填量を20g/m2(a)、50g/m2(b)、100g/m2(c)、250g/m2(d)として実施例1と同一の操作で断熱構造体を作製し、それぞれのドレープ性を評価した。
【0064】
(ドレープ性評価)
ドレープ性は、断熱構造体試料を台の端部に静置した際の撓み度合いで評価した。各試料を机上に置き、該机の載置面の端位置から試料の長手方向に50mmだけはみ出すように載置面上をスライド移動させ(机上には長さ150mmの部分を積載し)、前記載置面から延長したときの仮想面に対して、前記断熱構造体のはみ出した部分の下面が下方に変位したときの撓み角度を計測した(
図1(a)参照)。なお、この撓み角度は、断熱構造体試料が完全に撓めば90°、全く撓まなければ0°となる。評価結果を、後記する表2及び
図1に示す。
【0065】
<比較例2>
袋体の素材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維の不織布(旭化成株式会社製のエルタス(登録商標)、繊維径約20μm、目付量20g/m
2、通気度5500cm
3/(cm
2・s))を使用した以外は、実施例6(d)と同一の操作で断熱構造体を作製した。得られた断熱構造体試料について、実施例6と同一の評価を行った。評価結果を、後記する表2及び
図2に示す。
【0066】
<比較例3>
袋体として0.08mm厚のPE(ポリエチレン)袋を使用した以外は、実施例6(d)と同一の操作で断熱構造体を作製した。得られた断熱構造体試料について、実施例6と同一の評価を行った。評価結果を、後記する表2及び
図3に示す。
【0067】
【0068】
繊維径及び目付量が本発明の規定を満たす不織布を有する実施例6(a)~(d)の断熱構造体は、いずれも優れたドレープ性を示し、エアロゲル充填量が250g/m2と高い実施例6(d)の試料でも70°を超える撓み角度となった。一方、繊維径約20μm、目付量20g/m2、通気度5500cm3/(cm2・s)のPET繊維不織布を袋体とする比較例2の試料では撓み角度は3°であり、PE袋を袋体とする比較例3の試料は殆ど撓まなかった。これらの結果から、実施例6(a)~(d)の断熱構造体は、いずれもドレープ性に優れていることがわかる。
【0069】
以上の実施例より、本発明の断熱構造体は、断熱性及びドレープ性に優れ、しかも粉落ちが殆ど生じない利点を有することが示された。