(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139246
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】半導体基板、および、半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20220915BHJP
C30B 19/04 20060101ALI20220915BHJP
C30B 19/10 20060101ALI20220915BHJP
H01L 21/208 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B19/04
C30B19/10
H01L21/208 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039537
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 晋也
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 和弘
【テーマコード(参考)】
4G077
5F053
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB07
4G077BE15
4G077CG02
4G077CG07
4G077EB01
4G077EB05
4G077ED05
4G077ED06
4G077EF03
4G077HA02
4G077HA06
4G077QA04
4G077QA12
4G077QA26
4G077QA38
4G077QA74
4G077QA79
5F053AA03
5F053BB21
5F053DD20
5F053FF01
5F053FF02
5F053GG01
5F053HH05
5F053LL02
5F053LL03
5F053PP01
5F053RR20
(57)【要約】
【課題】窒化ガリウム単結晶の結晶性をより改善する。
【解決手段】半導体基板100は、サファイア単結晶で構成されるサファイア基板と、サファイア基板の上に設けられ、窒化ガリウム単結晶で構成される窒化ガリウム単結晶層130と、窒化ガリウム単結晶層130内に形成され、0.8at%以上のマンガンを含むマンガン偏析層140と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア単結晶で構成されるサファイア基板と、
前記サファイア基板の上に設けられ、窒化ガリウム単結晶で構成される窒化ガリウム単結晶層と、
前記窒化ガリウム単結晶層内に形成され、0.8at%以上のマンガンを含む層であるマンガン偏析層と、
を備える、半導体基板。
【請求項2】
前記マンガン偏析層は、前記窒化ガリウム単結晶層内に形成された転位に対応する位置に形成される、請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記マンガン偏析層は、前記窒化ガリウム単結晶層内において、前記窒化ガリウム単結晶層の厚み方向に延びる前記転位を遮るように、前記厚み方向に対して交差する方向に広がって形成される、請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記マンガン偏析層は、前記窒化ガリウム単結晶層における貫通転位密度が相対的に低い領域に設けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記マンガン偏析層を含む前記窒化ガリウム単結晶層の格子定数aevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvとは、下記式(A)の関係を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体基板。
{1-(格子定数aev/格子定数atv)}×100≦0.2[%] ・・・式(A)
【請求項6】
前記マンガン偏析層を含む前記窒化ガリウム単結晶層の格子定数cevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvとは、下記式(B)の関係を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体基板。
{1-(格子定数cev/格子定数ctv)}×100≦0.2[%] ・・・式(B)
【請求項7】
前記サファイア基板と、前記窒化ガリウム単結晶層との間に設けられる緩衝層を備え、
前記緩衝層は、前記サファイア基板のうち前記窒化ガリウム単結晶層側の表面に形成された変質層であり、前記サファイア単結晶の結晶構造がマンガン酸化物のスピネル型結晶構造に変換されたものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項8】
金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物を含む反応材料を、窒素雰囲気下で溶融して融液を得る工程と、
前記融液にサファイア基板を浸漬する工程と、
前記融液に前記サファイア基板を浸漬した状態で、700℃~1000℃に20時間以上保持する工程と、
を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、および、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は、発光ダイオード、半導体レーザ、または、高耐圧・高周波電源用トランジスタ等を構成する半導体材料として注目されている。
【0003】
窒化ガリウムをサファイア基板等の上に単結晶薄膜として成膜させる場合、一般的には、ハイドライド気相エピタキシャル成長法、および、有機金属気相成長法等の気相成長法が用いられる。ハイドライド気相エピタキシャル成長法では、アンモニアガスおよび塩化ガリウム蒸気を基板上において反応させる。
【0004】
このような気相成長法では、サファイア等の異種材料で形成された基板上に窒化ガリウム結晶を成長させる。このため、基板と窒化ガリウムとの熱膨張係数の差、または、格子不整合を緩和するために、基板と窒化ガリウム結晶との間にバッファ層を設ける技術が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
しかし、上記特許文献1、2に開示される技術を採用した場合でも、気相成長によって合成された窒化ガリウム結晶には、結晶欠陥が多数存在するため、デバイスに組み込んだ際に目的の特性を得ることが難しかった。また、気相成長法では、窒素源として高い反応性を有するアンモニアガスを用いるため、有害ガスの除去設備が必要となり、かつ製造工程及び製造装置が複雑化しやすく、製造コストが高くなってしまう。
【0006】
そこで、結晶欠陥が発生しにくい窒化ガリウム結晶の製造方法として、液相成長を用いて窒化ガリウム結晶を製造する方法が検討されている(例えば、特許文献3)。このような方法では、液相からの結晶析出によって窒化ガリウム結晶を階段状に層状成長させることができるため、格子不整合が発生しにくく、窒化ガリウム結晶における結晶欠陥の発生を抑制することができると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-310900号公報
【特許文献2】特開2000-269605号公報
【特許文献3】特開2019-151542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3に開示される技術を採用した場合でも、結晶性が十分に改善された窒化ガリウム単結晶を形成することは依然として困難であった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、窒化ガリウム単結晶の結晶性をより改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、サファイア単結晶で構成されるサファイア基板と、サファイア基板の上に設けられ、窒化ガリウム単結晶で構成される窒化ガリウム単結晶層と、窒化ガリウム単結晶層内に形成され、0.8at%以上のマンガンを含む層であるマンガン偏析層と、を備える、半導体基板が提供される。
【0011】
また、マンガン偏析層は、窒化ガリウム単結晶層内に形成された転位に対応する位置に形成されてもよい。
【0012】
また、マンガン偏析層は、窒化ガリウム単結晶層内において、窒化ガリウム単結晶層の厚み方向に延びる転位を遮るように、厚み方向に対して交差する方向に広がって形成されてもよい。
【0013】
また、マンガン偏析層は、窒化ガリウム単結晶層における貫通転位密度が相対的に低い領域に設けられてもよい。
【0014】
また、マンガン偏析層を含む窒化ガリウム単結晶層の格子定数aevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvとは、下記式(A)の関係を満たしてもよい。
{1-(格子定数aev/格子定数atv)}×100≦0.2[%] ・・・式(A)
【0015】
また、マンガン偏析層を含む窒化ガリウム単結晶層の格子定数cevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvとは、下記式(B)の関係を満たしてもよい。
{1-(格子定数cev/格子定数ctv)}×100≦0.2[%] ・・・式(B)
【0016】
また、サファイア基板と、窒化ガリウム単結晶層との間に設けられる緩衝層を備え、緩衝層は、サファイア基板のうち窒化ガリウム単結晶層側の表面に形成された変質層であり、サファイア単結晶の結晶構造がマンガン酸化物のスピネル型結晶構造に変換されたものであってもよい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物を含む反応材料を、窒素雰囲気下で溶融して融液を得る工程と、融液にサファイア基板を浸漬する工程と、融液にサファイア基板を浸漬した状態で、700℃~1000℃に20時間以上保持する工程と、を含む、半導体基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、窒化ガリウム単結晶の結晶性をより改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体基板を厚み方向に切断した断面構成を示す断面図である。
【
図2】同実施形態に係るマンガン偏析層を説明する図である。
【
図3】同実施形態に係る窒化ガリウム単結晶の製造に用いる反応装置の構成を示す模式図である。
【
図4】同実施形態に係る半導体基板の製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図5】実施例1に係る、緩衝層、および、マンガン偏析層を含む窒化ガリウム単結晶層を積層したサファイア基板の断面TEM観察における明視野像である。
【
図6】実施例1に係る、緩衝層、および、マンガン偏析層を含む窒化ガリウム単結晶層を積層したサファイア基板に対し、窒素、酸素、マンガン、アルミニウム、および、ガリウムの各元素についてライン分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
なお、以下の説明において参照する各図面では、説明の便宜上、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。したがって、各図面において図示される構成部材同士の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材同士の大小関係を正確に表現するものではない。また、以下の説明では、積層方向を上下方向と表現し、サファイア基板が存在する方向を下方向と表現する。
【0022】
[半導体基板100]
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体基板100を厚み方向に切断した断面構成を示す断面図である。
図1に示すように、半導体基板100は、サファイア基板110と、緩衝層120と、窒化ガリウム単結晶層130とを備える。
【0023】
サファイア基板110は、例えば、サファイア単結晶(単結晶サファイア)で構成される板状の支持体である。サファイア単結晶は、α-アルミナ(α-Al2O3)で構成されるコランダム構造の結晶体である。サファイア単結晶は、優れた機械的特性および熱的特性、化学的安定性、ならびに、光透過性を有する。このため、サファイア基板110は、例えば、発光ダイオード、半導体レーザ、または、高耐圧・高周波電源用トランジスタ等を製造するための基板として用いられる。サファイア基板110の厚みは、例えば、0.4mm程度である。
【0024】
緩衝層120は、サファイア基板110の上に直接設けられる。緩衝層120は、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の表面(c面)に形成された変質層である。緩衝層120は、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の結晶構造が、マンガン酸化物のスピネル型結晶構造に変換されたものである。緩衝層120は、スピネル型結晶構造のマンガン酸化物の微結晶で構成される結晶層であり、それぞれの微結晶の方位が[111]に略配向している。微結晶には[111]に略配向を維持しつつ、緩衝層120の面内で30°回転した双晶が存在してもよい。
【0025】
マンガン酸化物は、化学式MnB2O4で表される、マンガンを含む複酸化物であることが好ましい。マンガン酸化物は、例えば、MnAl2O4およびMnGa2O4のうちのいずれか一方または両方の複酸化物を含むことが好ましい。これにより、緩衝層120に適したスピネル型結晶構造を実現でき、緩衝層120による緩衝機能を好適に発揮できる。
【0026】
窒化ガリウム単結晶層130は、緩衝層120の上に設けられる。本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶層130は、鉄(Fe)原子と、マンガン原子(Mn)とがドープされた窒化ガリウム単結晶で構成される。つまり、窒化ガリウム単結晶層130は、鉄原子と、マンガン原子とがドープされた窒化ガリウムの単結晶膜として緩衝層120の上に積層される。例えば、緩衝層120が設けられたサファイア基板110上に窒化ガリウム単結晶をエピタキシャル成長させることにより、窒化ガリウム単結晶からなる窒化ガリウム単結晶層130が、緩衝層120を介してサファイア基板110上に設けられる。窒化ガリウム単結晶層130の厚みは、例えば、数μm程度である。ここで、窒化ガリウム単結晶層130は、初期成長層として、結晶方位のズレや不純物粒界がある微結晶層があってもよい。層内の一部でも一様な単結晶層が確認できれば単結晶層と表現している。
【0027】
また、窒化ガリウム単結晶層130は、例えば、6E×17(Atoms/cm3)以上の鉄原子を含む。窒化ガリウム単結晶層130に含まれる鉄原子の濃度は、例えば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定することができる。
【0028】
なお、窒化ガリウム単結晶層130は、緩衝層120の上に複数層設けられていてもよい。すなわち、窒化ガリウム単結晶層130は、緩衝層120の上に2層以上積層されていてもよい。窒化ガリウム単結晶層130の積層数の上限に限定はないが、窒化ガリウム単結晶層130の積層数が多すぎると、半導体基板100が窒化ガリウム単結晶層130の積層方向に反るおそれがある。このため、窒化ガリウム単結晶層130の積層数の上限は、例えば、10層である。
【0029】
また、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶層130内には、マンガン偏析層が形成される。
図2は、本発明の一実施形態に係るマンガン偏析層140を説明する図である。マンガン偏析層140は、マンガンで構成される層である。
【0030】
図2に示すように、マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130の内部に形成される。マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130において生じる転位LD(
図2中、破線で示す)の上方に形成される。マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130における転位LDに対応する位置に形成される。転位LDは、窒化ガリウム単結晶層130における窒化ガリウム単結晶の成長方向(窒化ガリウム単結晶層130の厚み方向Z)に沿って形成される。転位LDの伝搬方向は、概ね、窒化ガリウム単結晶層130の厚み方向Zに沿った方向となる。
【0031】
マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130内において、窒化ガリウム単結晶層130の厚み方向(Z方向)に延びる転位LDを遮るように、厚み方向に対して交差(例えば、直交)する方向(窒化ガリウム単結晶の主面方向に対して平行な方向X)に沿って形成される。マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130中において、窒化ガリウム単結晶層130の面方向(X方向)全体に渡って長く形成されるのではなく、X方向の一部のエリアに部分的に形成される。つまり、マンガン偏析層140の幅(X方向の長さ)は、窒化ガリウム単結晶層130の全体幅(X方向の長さ)より小さい。また、1つの窒化ガリウム単結晶層130の内部において、相異なる位置に複数のマンガン偏析層140が形成されてもよい。
図2に示すように、複数のマンガン偏析層140は、互いに異なる幅(X方向の長さ)を有していてもよい。また、複数のマンガン偏析層140は、互いに異なる高さ位置(Z方向の位置)に形成されてもよい。また複数のマンガン偏析層140は、互いに異なる層厚を有していてもよい。
【0032】
転位LDは、窒化ガリウム単結晶の成長過程において生じる原子のズレによって形成される線状の結晶欠陥である。したがって、マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶の成長過程において生じる転位LDにマンガンが取り込まれることによって形成されると推察される。つまり、成長途中の窒化ガリウム単結晶層130中に転位LDが形成されることによって、窒化ガリウム単結晶層130中に含まれるマンガン原子が当該転位LDの部分に偏析して、マンガン偏析層140が形成され、マンガン偏析層140によって原子のズレが補正される。これにより、マンガン偏析層140は、転位LDのさらなる伝搬を停止させることができる。したがって、窒化ガリウム単結晶層130におけるマンガン偏析層140の上方には、転位LDがほとんど形成されないことになる。
【0033】
したがって、窒化ガリウム単結晶層130内に形成されたマンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130の成長方向(つまり、厚み方向Z)に貫通する転位LDである貫通転位TDの形成を低減することができる。つまり、マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130における貫通転位密度が相対的に低い領域に設けられるといえる。貫通転位密度が相対的に低い領域は、窒化ガリウム単結晶層130全体における貫通転位密度の平均値よりも貫通転位密度が低い領域である。
【0034】
かかるマンガン偏析層140より、窒化ガリウム単結晶層130全体における貫通転位密度を低減することができ、窒化ガリウム単結晶層130の結晶性を向上できる。
【0035】
[緩衝層120の特性]
続いて、本実施形態に係る半導体基板100を構成する緩衝層120の特性について説明する。
【0036】
半導体基板100において、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の(10-10)面に対し、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(110)面と、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(11-20)面とは略平行である。なお、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の(10-10)面に対し、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(110)面と、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(11-20)面とが略平行であることは、X線解析装置によるインプレーン測定(2θχ-φ測定、および、φスキャン(ツイスト測定))によって確認できる。X線解析装置は、例えば、株式会社リガク社製の全自動水平型多目的X線解析装置「SmartLab 3XG 9MTP」である。
【0037】
ここで、略平行とは、2つの面の法線方向が一致する場合だけでなく、2つの面の法線方向が所定角度範囲内でずれている場合も含む。ここで、所定角度範囲とは、インプレーンの2θχ-φ測定およびφスキャンにおいて、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(110)面と、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(11-20)面の回折ピークが検出される、測定系の角度誤差も含めた角度バラツキの範囲である。以下の説明における「略平行」も同様である。
【0038】
したがって、半導体基板100において、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面における[1-10]軸は、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面における[1-100]軸と、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶の(0001)面における[11-20]軸と略平行となる。
【0039】
また、半導体基板100において、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面における[01-1]軸は、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面における[01-10]軸と、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶の(0001)面における[1-210]軸と略平行となる。
【0040】
また、半導体基板100において、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面における[-101]軸は、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面における[-1010]軸と、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶の(0001)面における[-2110]軸と略平行となる。
【0041】
半導体基板100において、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面は、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面および窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶の(0001)面と略平行である。なお、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面と、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面と、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の(0001)面とが略平行であることは、上記X線解析装置によるアウトオブプレーン測定(2θ-ω測定)によって確認できる。
【0042】
ここで、略平行とは、3つの面の法線方向が一致する場合だけでなく、3つの面の法線方向が所定角度範囲内でずれている場合も含む。ここで、所定角度範囲とは、アウトオブプレーンの2θ-ω測定において、同一測定で緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面と、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面と、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の(0001)面の回折ピークが検出される、測定系の角度誤差も含めた角度バラツキの範囲である。
【0043】
また、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のマンガン酸化物の結晶層の(111)面の法線方向の[111]軸の、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面に対する方位バラツキは、0°以上6°未満である。これにより、緩衝層120の形成による格子不整合の緩和効果に加えて、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の微結晶が角度バラツキをもつことで、配向性を継承しつつ、緩衝効果を高めることができる。
【0044】
また、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(0002)面の法線方向の[0002]軸の、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面に対する方位バラツキは、0°以上1.2°未満である。これは、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の微結晶の角度バラツキに沿って配向性を継承しつつ、窒化ガリウムの初期成長層が形成されると考えられ、これにより、緩衝効果を高めることができる。
【0045】
このように、本実施形態に係る半導体基板100において、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面の法線方向の[111]軸は、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面の法線方向の[0001]軸と略平行である。このため、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層を起点として成長した窒化ガリウム単結晶(窒化ガリウム単結晶層130)の(0001)面の法線方向の[0001]軸は、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面の法線方向の[111]軸に対して略平行になる。したがって、緩衝層120上に成長した窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面の法線方向の[0001]軸は、結果として、サファイア基板110のサファイア単結晶の(0001)面の法線方向の[0001]軸と略平行となる。つまり、緩衝層120は、サファイア基板110のサファイア単結晶の配向(面内の3回対称性)を、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶に継承させることができる。
【0046】
[緩衝層120の厚み]
本実施形態に係る半導体基板100において、緩衝層120の厚みは、例えば、10nm以上250nm以下である。緩衝層120の厚みが、10nm未満であると、緩衝層120として十分な効果が発現しないと考えられ、サファイア基板110のサファイア単結晶の配向(面内の3回対称性)を、サファイア基板110の全面積で一様に、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶に継承させることが困難である。一方、緩衝層120の厚みが、250nmを上回ると、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の微結晶層が厚く発達して結晶層界面の段差や角度バラツキが大きくなるため、サファイア基板110のサファイア単結晶の配向の、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶への継承性が低下してしまう。
【0047】
したがって、緩衝層120の厚みを10nm以上250nm以下とすることにより、緩衝層120は、サファイア基板110のサファイア単結晶の配向を、窒化ガリウム単結晶層130の窒化ガリウム単結晶に確実に継承させることが可能となる。
【0048】
[緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の格子定数]
上記したように、緩衝層120は、スピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層によって構成され、窒化ガリウム単結晶層130は、窒化ガリウム単結晶によって構成される。このような単結晶の格子定数は、例えば、上記X線解析装置によるX線回折によって算出することができる。なお、X線回折の測定は、例えば、上記株式会社リガク社製の全自動水平型多目的X線解析装置「SmartLab 3XG 9MTP」によって行うことができる。
【0049】
具体的には、株式会社リガク社製の全自動水平型多目的X線解析装置「SmartLab 3XG 9MTP」の2D広域逆格子Mapの解析パッケージを用い、サファイア基板110を構成するサファイア単結晶の[0001]軸を(11-20)面オリフラの側に半導体基板100を傾け(χ方向スキャン)、2θ/ωを18°~80°の範囲とし、χを-7.5°~67.5°の範囲として、逆格子点の分布を測定する。そして、検出器SCによって取得された画像データを逆格子マップ作成用データへ変換し、逆格子空間の直行座標系(Qx、Qz)へ座標変換して、逆格子マップを得る。続いて、サファイア基板110におけるサファイア単結晶、緩衝層120におけるスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層、および、窒化ガリウム単結晶層130における窒化ガリウム単結晶の積層軸の対応関係と、X線の入出射方法とを加味して逆格子シミュレーションを行い、逆格子マップと重ねて表示させる。逆格子マップで得られた逆格子点を逆格子シミュレーション結果から割り付けて、緩衝層120におけるスピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の(111)面の逆格子点(Qx、Qz)座標から、スピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の格子定数aspiを算出する。
【0050】
こうしてX線回折によって算出された、緩衝層120におけるスピネル型結晶構造のMnAl2O4の格子定数aspiは、8.170~8.338Åである。
【0051】
なお、サファイア単結晶の理論値の格子定数aspaは、4.758Åである。また、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvは、3.189Åである。なお、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvは、窒化ガリウム単結晶の文献値の格子定数aである(Juza, Hahn., Z. Anorg. Chem. 239(1938)285.)。
【0052】
つまり、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層の格子定数aspiの1/(2√2)倍は、サファイア単結晶の理論値の格子定数asapの1/√3倍と、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvとの間の値である。
【0053】
換言すれば、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層の格子定数aspi、サファイア単結晶の理論値の格子定数asap、および窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvは、以下の式(1)を満たす。
(1/√3)×asap < (1/(2√2))×aspi < atv ・・・(式1)
【0054】
このように算出された格子定数から、下記(式2)を用いて、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層と、窒化ガリウム単結晶(理論値)との格子不整合(ミスマッチ)量が算出される。
格子不整合量 = [(格子定数aspi)/(2√2)-(格子定数atv)]/(格子定数atv) ・・・(式2)
【0055】
例えば、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層と、窒化ガリウム単結晶(理論値)との格子不整合量は-8.30%となる。
【0056】
つまり、緩衝層120におけるスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層の格子定数aspiは、8.170~8.338Åであるため、緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層と、窒化ガリウム単結晶(理論値)との格子不整合量の絶対値は、7.25%未満となる。一方、サファイア単結晶(理論値)と窒化ガリウム単結晶(理論値)との格子不整合量は、約-13.8%である。
【0057】
このように、本実施形態に係る半導体基板100において、窒化ガリウム単結晶の成長の起点となる緩衝層120を構成するスピネル型結晶構造のMnAl2O4の結晶層と、窒化ガリウム単結晶(理論値)との格子不整合量は、サファイア単結晶(理論値)と窒化ガリウム単結晶(理論値)との格子不整合量よりも小さい。したがって、本実施形態のようにサファイア基板110上に緩衝層120を介して窒化ガリウム単結晶層130を間接的に成長させる場合は、サファイア基板110上に窒化ガリウム単結晶層130を直接成長させる場合と比較して、窒化ガリウム単結晶層130の結晶性を向上させることが可能となる。
【0058】
[緩衝層120におけるマンガン原子の濃度]
本実施形態に係る緩衝層120は、スピネル型結晶構造の、マンガンを含む複酸化物に含まれる、マンガン原子を、1at%(原子%)含む。
【0059】
これにより、イオン交換を促してスピネル型構造の発達を促進することができる。
【0060】
[マンガン偏析層140の特性]
続いて、本実施形態に係る半導体基板100を構成するマンガン偏析層140の特性について説明する。
【0061】
本実施形態に係るマンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130内において、0.8at%以上のマンガンを含む層である。例えば、マンガン偏析層140は、窒化ガリウム単結晶層130内において、0.8at%以上6.7at%のマンガンを含む層である。
【0062】
マンガンの含有量が0.8at%未満の領域は、マンガン偏析層140として機能せず、転位LDの伝搬を停止させることが困難であり、貫通転位TDが形成されてしまう。
【0063】
したがって、窒化ガリウム単結晶層130内において、0.8at%以上のマンガンを含む層であるマンガン偏析層140が、窒化ガリウム単結晶層130内に形成されることにより、マンガン偏析層140は、転位LDの伝搬を停止することができ、貫通転位TDを低減することが可能となる。
【0064】
なお、マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130全体に含まれるマンガンの濃度は、0.39at%以上である。
【0065】
[窒化ガリウム単結晶層130の貫通転位密度]
続いて、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の貫通転位密度について説明する。このような単結晶の貫通転位密度は、透過電子顕微鏡(TEM)によって得られる像から算出することができる。なお、貫通転位密度は、例えば、日本電子株式会社製の透過電子顕微鏡「JEM-ARM200」によって得られる像から算出することができる。
【0066】
具体的には、まず、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、半導体基板100から、窒化ガリウム単結晶層130の断面観察用の試料を切り出す。なお、試料の厚み方向が、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の[1-100]軸方位となるように、切り出し方位、および、観察方位を揃える。また、試料の成長方向が、窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の[0001]軸方位、長手(幅)方向が[11-20]軸方位に対応する。
【0067】
こうして、切り出した試料をTEMによって観察し、明視野像から転位の本数を割り出す。貫通転位密度は、成長方向の上下に貫通する転位LDである貫通転位TDを、試料断面積で除算し、単位面積(cm2)当たりの貫通転位TDの本数で評価する。例えば、試料の厚みが100nmであり、10μm幅の貫通転位TDが1本確認される場合、貫通転位密度は、1×108[cm-2]と算出される。
【0068】
本実施形態に係る半導体基板100における窒化ガリウム単結晶層130を構成する窒化ガリウム単結晶の貫通転位密度は、1.0×108[cm-2]以下、好ましくは、5.0×107[cm-2]以下、例えば、3.0×107[cm-2]である。
【0069】
このように、本実施形態に係る半導体基板100は、窒化ガリウム単結晶層130の貫通転位密度が低いことから、結晶性が高いことが理解できる。
【0070】
[窒化ガリウム単結晶層130の格子定数]
続いて、本実施形態に係る、マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130全体の格子定数aevおよび格子定数cevについて説明する。マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130全体の格子定数aev(平均値)および格子定数cev(平均値)は、上記スピネル型結晶構造の金属酸化物の結晶層の格子定数aspiと同様の算出方法によって算出できる。
【0071】
算出された窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevは、3.1826Å以上3.189Å以下であり、例えば、3.184Åである。
【0072】
また、上記したように、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvは、3.189Åである。
【0073】
したがって、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvとは、下記式(A)の関係を満たす。
{1-(格子定数aev/格子定数atv)}×100≦0.2[%] ・・・式(A)
【0074】
また、算出された窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevは、5.1676Å以上5.178Å以下であり、例えば、5.177Åである。
【0075】
また、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvは、5.178Åである。なお、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvは、窒化ガリウム単結晶の文献値の格子定数cである(Juza, Hahn., Z. Anorg. Chem. 239(1938)285.)。
【0076】
したがって、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvとは、下記式(B)の関係を満たす。
{1-(格子定数cev/格子定数ctv)}×100≦0.2[%] ・・・式(B)
【0077】
このように、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevの差は、0.2%以下である。同様に、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevの差は、0.2%以下である。
【0078】
窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvおよび格子定数ctvに対する、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevおよび格子定数cevの差が、0.2%以下であることにより、窒化ガリウム単結晶層130の結晶性をより向上させることができる。つまり、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevおよび格子定数cevは、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvおよび格子定数ctvとほとんど差がない。したがって、窒化ガリウム単結晶層130は、窒化ガリウム単結晶の文献値と同程度の高い結晶性を有する。
【0079】
なお、窒化ガリウム単結晶層130にマンガン偏析層140が設けられるため、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevおよび格子定数cevと、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvおよび格子定数ctvとの差がほとんどなくなり、窒化ガリウム単結晶の結晶ひずみが緩和される(ゼロに近づく)と推察される。なお、結晶ひずみは、理論値の格子定数である場合、ゼロとなる。
【0080】
[半導体基板100の製造方法]
続いて、本実施形態に係る半導体基板100の製造方法について説明する。
【0081】
本実施形態に係る半導体基板100の製造方法は、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物を加熱溶融し、窒化鉄の窒化作用を用いることで、結晶成長基板としてのサファイア基板110の上に、緩衝層120および窒化ガリウム単結晶層130を製造する方法である。上記の方法によれば、従来の液相成長と比較して、低圧(例えば、常圧)環境下にて、緩衝層120をサファイア基板110の上に成膜するとともに、窒化ガリウム単結晶(窒化ガリウム単結晶層130)を緩衝層120の上に液相エピタキシャル成長させることができる。
【0082】
[反応材料]
まず、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶の製造方法にて用いられる反応材料について説明する。反応材料として、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物が用いられる。
【0083】
金属ガリウムは、高純度のものを使用することが好ましく、例えば、市販の純度99.99%以上のものを使用することができる。
【0084】
窒化鉄は、具体的には一窒化四鉄(Fe4N)、一窒化三鉄(Fe3N)、一窒化二鉄(Fe2N)またはこれらの2種以上の混合物を使用することができる。窒化鉄は、高純度のものを使用することが好ましく、例えば、市販の純度99.9%以上のものを使用することができる。
【0085】
窒化鉄中の鉄原子は、金属ガリウムと混合されて加熱されることにより、触媒として機能し、窒化鉄中の窒素原子または融液中の窒素分子から活性窒素を発生させる。発生した活性窒素は、金属ガリウムと反応することで、窒化ガリウム単結晶を生成する。
【0086】
具体的には、窒化鉄として一窒化四鉄が使用される場合、窒化鉄および金属ガリウムは、一窒化四鉄の窒化作用によって反応し、窒化ガリウムを生成する(反応式1)。
Fe4N+13Ga→GaN+4FeGa3 ・・・反応式1
【0087】
また、窒素雰囲気中または窒化鉄から融液中に溶解した窒素および金属ガリウムは、鉄原子が触媒として機能することで反応し、窒化ガリウムを生成する(反応式2)。
2Ga+N2+Fe→2GaN+Fe ・・・反応式2
【0088】
なお、反応材料における窒化鉄の割合は、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物の合計モル数に対して、2モル%以下であることが好ましい。窒化鉄の割合が2モル%を超える場合、窒化鉄中の鉄原子と、金属ガリウムとの合金形成量が増大し、反応材料を溶融した融液の粘度が増加する。これにより、窒化ガリウム単結晶の成長速度が低下するため、窒化鉄の割合が2モル%を超えることは、好ましくない。
【0089】
金属マンガンまたはマンガン化合物は、高純度のものを使用することが好ましく、例えば、市販の純度99.9%以上のものを使用することができる。
【0090】
マンガン化合物は、例えば、窒化マンガン、酸化マンガン(MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4)、塩化マンガンである。
【0091】
反応材料における、金属マンガンまたはマンガン化合物は、好ましくは、金属マンガンおよび窒化マンガンのうち、いずれか一方または両方である。反応材料として、金属マンガンおよび窒化マンガンのうち、いずれか一方または両方を用いることで、窒化ガリウム単結晶層130に含まれる不純物を低減することが可能となる。
【0092】
なお、反応材料における金属マンガンまたはマンガン化合物の割合は、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物の合計モル数に対して、5モル%未満であることが好ましい。金属マンガンまたはマンガン化合物の割合が5モル%以上である場合、窒化ガリウム単結晶の結晶性が低下するため好ましくない。
【0093】
[反応装置]
続いて、
図3を参照して、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶の製造方法において用いられる反応装置について説明する。
図3は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶の製造に用いる反応装置200の構成を示す模式図である。
【0094】
図3に示すように、反応装置200は、電気炉210と、電気炉210の側面に設けられたヒータ212と、ガス導入口220と、ガス排気口222と、回転軸230とを含む。また、電気炉210の内部には、反応材料の原料融液Mを収容する反応容器240を載置する架台242が設けられる。回転軸230の下端には、窒化ガリウム単結晶を成長させるサファイア基板110が水平に取り付けられる。すなわち、反応装置200は、反応材料を溶融した原料融液Mに浸漬されたサファイア基板110上に窒化ガリウム単結晶層130(窒化ガリウムの単結晶膜)をエピタキシャル成長させる装置である。
【0095】
電気炉210は、密閉された構造を有し、内部に反応容器240を収容する。電気炉210は、例えば、内径(直径)が約200mmであり、高さが約800mmである筒状構造である。
【0096】
ヒータ212は、電気炉210の長手方向の側面に配置され、電気炉210内部を加熱する。
【0097】
ガス導入口220は、電気炉210の上部に設けられる。ガス導入口220は、電気炉210内に雰囲気ガスを導入する。雰囲気ガスは、例えば、窒素(N2)ガス、アルゴン(Ar)である。ガス排気口222は、電気炉210の下部に設けられる。ガス排気口222は、電気炉210内から雰囲気ガスを排出する。ガス導入口220およびガス排気口222により、電気炉210の内部の圧力は、ほぼ常圧(すなわち、大気圧)に保たれる。
【0098】
架台242は、反応容器240を支持する部材である。具体的に説明すると、架台242は、反応容器240がヒータ212によって均等に加熱されるように反応容器240を支持する。例えば、架台242の高さは、反応容器240がヒータ212の中央部に位置するような高さである。
【0099】
反応容器240は、反応材料が溶融した原料融液Mを保持する容器である。反応容器240は、例えば、外径(直径)が約100mmであり、高さが約90mmであり、厚みが約5mmである円筒形状の容器である。反応容器240は、例えば、カーボンで構成される。反応容器240をカーボンで構成することにより、酸素等の不純物が反応材料に混入してしまう事態を回避することができる。なお、反応容器240は、カーボンに限らず、1000℃付近の高温で金属ガリウムと反応しない材質、例えば、酸化アルミニウム等の他の材料で構成されてもよい。
【0100】
原料融液Mは、反応材料が溶融した液体である。具体的に説明すると、原料融液Mは、反応材料である金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物をヒータ212によって加熱溶融した液体である。なお、反応材料である金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物の混合割合は、上述したように、金属ガリウムおよび窒化鉄の総モル数に対して、窒化鉄のモル数が2%以下、金属マンガンまたはマンガン化合物のモル数が5%未満であることが好ましい。
【0101】
サファイア基板110は、表面に窒化ガリウムの単結晶膜を積層可能な基板である。サファイア基板110は、例えば、円板、矩形板等の平板形状であってもよい。ただし、サファイア基板110の形状は、係る例に限定されない。
【0102】
回転軸230は、電気炉210の上部に設けられる。回転軸230は、例えば、下端にサファイア基板110を挟持するための複数の鉤を備え、サファイア基板110を水平に保持する。本実施形態では、回転軸230を上下させることで、回転軸230に取り付けられたサファイア基板110を原料融液Mに浸漬したり、原料融液Mから引き上げたりする。
【0103】
なお、回転軸230は、軸を中心に回転可能に設けられてもよい。回転軸230を回転させることにより、サファイア基板110を回転させ、原料融液Mを撹拌することができる。これにより、原料融液M中の窒素濃度分布をより均一にすることができ、サファイア基板110により均一な窒化ガリウムの単結晶膜を成長させることが可能となる。
【0104】
また、上記したように、本実施形態に係る回転軸230は、サファイア基板110を、原料融液Mの液面に対して水平に保持する。これにより、サファイア基板110に対する、原料融液Mの深さ方向の窒素濃度分布の影響を小さくすることができる。したがって、反応装置200は、サファイア基板110に、より均一に窒化ガリウム単結晶膜を成長させることが可能となる。
【0105】
回転軸230は、反応容器240と同様に、例えば、カーボンで構成される。回転軸230をカーボンで構成することにより、酸素等の不純物が反応材料に混入してしまう事態を回避することができる。なお、回転軸230は、カーボンに限らず、1000℃付近の高温で金属ガリウムと反応しない材質、例えば、酸化アルミニウム等の他の材料で構成されてもよい。
【0106】
以上説明したように、反応装置200は、回転軸230を上下させることによってサファイア基板110を原料融液Mに浸漬させ、サファイア基板110上に窒化ガリウムの単結晶膜(窒化ガリウム単結晶層130)を成長させることができる。
【0107】
これにより、反応装置200は、サファイア基板110と結晶方位が揃った(すなわち、エピタキシャル成長した)窒化ガリウムの単結晶膜(窒化ガリウム単結晶層130)をサファイア基板110の上に積層することが可能となる。
【0108】
[製造方法]
続いて、本実施形態に係る半導体基板100の製造方法の流れについて説明する。
図4は、本実施形態に係る半導体基板100の製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。本実施形態に係る半導体基板100の製造方法は、融液生成工程S110、浸漬工程S120、保持工程S130、精製工程S140を含む。以下、各工程について説明する。
【0109】
[融液生成工程S110]
まず、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物の粉末を混合して上述の反応容器240に充填し、反応容器240を電気炉210内に載置する。
【0110】
続いて、電気炉210内にガス導入口220から雰囲気ガスを導入し、電気炉210内を窒素雰囲気とした上で、ヒータ212によって反応容器240内の反応材料を加熱する。なお、ガス導入口220から電気炉210内に導入された雰囲気ガスは、ガス排気口222から排出されるため、電気炉210内は、ほぼ常圧に保たれる。
【0111】
ここで、反応容器240内の反応材料は、金属ガリウム、窒化鉄、および、金属マンガンまたはマンガン化合物が反応する反応温度まで少なくとも加熱される。このような反応温度は、具体的には、300℃以上、1000℃以下であり、好ましくは、700℃以上、1000℃以下である。
【0112】
こうして、窒素雰囲気下において、反応容器240内の反応材料が溶融し、原料融液Mが生成される。
【0113】
[浸漬工程S120]
回転軸230を操作して、回転軸230に保持されたサファイア基板110を原料融液M中に浸漬する。
【0114】
[保持工程S130]
回転軸230に保持されたサファイア基板110を原料融液M中に浸漬した状態で、反応容器240内の原料融液Mを、上記反応温度の範囲内に、20時間以上100時間以下保持する。これにより、原料融液M中に浸漬されたサファイア基板110上に緩衝層120および窒化ガリウムの均一な単結晶膜を成長させることができる。
【0115】
なお、保持工程S130において、原料融液M(反応材料)の温度は、反応温度の範囲内(例えば、300℃以上、1000℃以下)に収まっていれば、一定である必要はなく、変動していてもよい。
【0116】
[精製工程S140]
ただし、上記の融液生成工程S110~保持工程S130を実行することで得られた反応生成物には、鉄およびガリウムの金属間化合物、および、マンガンおよびガリウムの金属間化合物等の副生成物が含まれていることがある。そこで、窒化ガリウム単結晶を析出させたサファイア基板110は、精製工程S140を経ることで副生成物が除去される。
【0117】
精製工程S140は、例えば、王水等の酸を用いた酸洗浄を用いることができる。これにより、鉄とガリウムとの金属間化合物、および、マンガンとガリウムとの金属間化合物等を酸に溶解させ、窒化ガリウム単結晶(窒化ガリウム単結晶層130)を精製することができる。
【0118】
以上説明したように、本実施形態に係る半導体基板100の製造方法は、常圧等の低圧の窒素雰囲気下にて、液相成長により効率的に窒化ガリウム単結晶を製造することができる。
【実施例0119】
以下では、本発明の実施例および比較例について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本発明に係る半導体基板、および、半導体基板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0120】
また、以下の実施例および比較例では、共通して、純度7Nの金属ガリウム(DOWAエレクトロニクス株式会社製)、純度99%以上の一窒化三鉄(株式会社高純度化学研究所製)、純度99%以上の窒化マグネシウム(株式会社高純度化学研究所製)、純度99%以上の金属マンガン(株式会社高純度化学研究所製)を用いた。また、サファイア基板110として、直径が約2インチ、かつ厚みが0.4mm厚であり、窒化ガリウムの単結晶膜を積層させる面が(0001)面(c面)であるサファイア基板(信光社製)を用いた。
【0121】
[実施例1]
まず、反応装置200の内部に設置した反応容器240に、金属ガリウム(Ga)、一窒化三鉄(Fe3N)、および、金属マンガン(Mn)の各原料をGa:Fe3N:Mn=97.5mol%:0.5mol%:2mol%の割合にて混合し、投入した。また、回転軸230には、窒化ガリウム単結晶層130を形成する面が(0001)面のサファイア基板110を載置した。
【0122】
続いて、以下の温度プロファイルによって、反応装置200の内部温度を制御することで、金属ガリウム、一窒化三鉄、および、金属マンガンを反応させ、窒化ガリウム単結晶を製造した。
【0123】
具体的に説明すると、まず、毎分3000mLの流量で反応装置200の内部に窒素ガス(純度99.99%)を導入し、反応装置200の内部雰囲気を窒素略100%の1気圧とした。そして、反応装置200の内部温度を200℃までマニュアルで昇温した後、毎時100℃の割合で内部温度を950℃まで上昇させた。その後、反応装置200の内部温度を1時間、950℃で保持した。この間、サファイア基板110を原料融液Mの上方に保持した。その後、サファイア基板110を原料融液Mに浸漬し、950℃で20時間保持した。このとき、回転軸230を軸中心にして、サファイア基板110を毎分10回転の速度で回転させることで原料融液Mを撹拌した。その後、自然放熱によって反応容器240の内部が室温に戻るまで自然冷却させた。取り出した半導体基板100を王水で洗浄することで、残存した金属ガリウム、鉄とガリウムとの金属間化合物、または、マンガンとガリウムの金属間化合物等を除去した。
【0124】
続いて、実施例1に係る、緩衝層120、および、マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130(窒化ガリウム単結晶)を積層したサファイア基板110について、断面TEM観察を行い、上記貫通転位密度を測定した。なお、断面TEM観察には、上記日本電子株式会社製の透過電子顕微鏡「JEM-ARM200」を用いた。
【0125】
図5は、実施例1に係る、緩衝層120、および、マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130を積層したサファイア基板110の断面TEM観察における明視野像である。
図5に示すように、サファイア基板110の表面に変色部が見られた。なお、変色部は、緩衝層120であることが確認された。
【0126】
また、
図5に示すように、窒化ガリウム単結晶層130内において転位LDが生じていること、および、転位LDの上方にマンガン偏析層140が形成されていることが確認された。また、窒化ガリウム単結晶層130内において、マンガン偏析層140によって、転位LDの伝搬が停止されていることも確認できた。
【0127】
また、実施例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の貫通転位密度は、3.0×107[cm-2]であった。
【0128】
続いて、サファイア基板110から窒化ガリウム単結晶層130を跨ぐ0.7μm領域について、実施例1に係る、緩衝層120および窒化ガリウム単結晶層130(窒化ガリウム単結晶)を積層したサファイア基板110について、EDS(エネルギー分散型X線分光器)でライン分析を行った。
【0129】
図6は、実施例1に係る、緩衝層120、および、マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130(窒化ガリウム単結晶)を積層したサファイア基板110に対し、窒素、酸素、マンガン、アルミニウム、および、ガリウムの各元素についてライン分析した結果を示す図である。
【0130】
図6に示すように、酸素(O)は、サファイア基板110側の距離の0点(0μm位置)から0.27μm位置までは、約60at%で推移するが、0.32μm位置にかけて約7at%まで急激に減少する。これに対応するように、窒素(N)は、0.32μm位置から0.33μm位置にかけて、約1at%以下から約12at%まで、ガリウム(Ga)は、約0at%から約45at%に急激に存在量が増加する。また、アルミニウム(Al)は、0点からおよそ0.27μm位置までは約40at%で推移するが、0.32μm位置にかけて約1at%まで徐々に存在量が低下する。
【0131】
また、マンガン(Mn)は、0.28μm位置から0.30μm位置にかけて、約0at%から約10at%まで急激に存在量が増加するが、0.33μm位置にかけて約0.4at%まで急激に存在量が低下する。つまり、マンガンは、緩衝層120に対応する0.28μm位置から0.33μm位置にかけて、最大10at%存在する。
【0132】
また、窒化ガリウム単結晶層130に対応する0.38μm位置から0.60μm位置にかけて、マンガンが、最大6.7at%存在することを示すピークが2つ検出された。この2つのピークは、マンガン偏析層140を示すものであると推察される。
【0133】
また、実施例1に係る、緩衝層120、および、マンガン偏析層140を含む窒化ガリウム単結晶層130を積層したサファイア基板110について、上記逆格子マップ測定を行い、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevおよび格子定数cevを算出した。
【0134】
その結果、実施例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevは、3.184Åであった。窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、実施例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevの差は、0.157%であった。
【0135】
また、実施例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevは、5.177Åであった。窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、実施例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevの差は、0.154%であった。
【0136】
[比較例1]
まず、反応装置200の内部に設置した反応容器240に、金属ガリウム(Ga)、一窒化三鉄(Fe3N)、および、窒化マグネシウム(Mg3N2)の各原料をGa:Fe3N:Mg3N2=99.75mol%:0.2mol%:0.05mol%の割合にて混合し、投入した。また、回転軸230には、窒化ガリウム単結晶層130を形成する面が(0001)面のサファイア基板110を載置した。
【0137】
続いて、以下の温度プロファイルによって、反応装置200の内部温度を制御することで、金属ガリウム、一窒化三鉄、および、窒化マグネシウムを反応させ、窒化ガリウム単結晶を製造した。
【0138】
具体的に説明すると、まず、毎分3000mLの流量で反応装置200の内部に窒素ガス(純度99.99%)を導入し、反応装置200の内部雰囲気を窒素略100%の1気圧とした。そして、反応装置200の内部温度を200℃までマニュアルで昇温した後、毎時100℃の割合で内部温度を700℃まで上昇させた。その後、反応装置200の内部温度を10時間、700℃で保持した。この間、サファイア基板110を原料融液Mの上方に保持した。その後、サファイア基板110を原料融液Mに浸漬し、反応装置200の内部温度を毎時5℃の割合で880℃まで上昇させ、880℃で20時間保持した。このとき、回転軸230を軸中心にして、サファイア基板110を毎分10回転の速度で回転させることで原料融液Mを撹拌した。その後、自然放熱によって反応容器240の内部が室温に戻るまで自然冷却させた。取り出した半導体基板100を王水で洗浄することで、残存した金属ガリウム、鉄とガリウムとの金属間化合物、または、マグネシウムとガリウムの金属間化合物等を除去した。
【0139】
続いて、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130(窒化ガリウム単結晶)を積層したサファイア基板110について、比較例1と同様に、断面TEM観察を行い、上記貫通転位密度を測定した。断面TEM観察の結果、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130において、マンガン偏析層140の存在を確認できなかった。
【0140】
また、比較例1に係る窒化ガリウム単結晶層130の貫通転位密度は、1.4×108[cm-2]であった。
【0141】
また、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130を積層したサファイア基板110について、上記逆格子マップ測定を行い、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevおよび格子定数cevを算出した。
【0142】
その結果、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevは、3.158Åであった。窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevの差は、0.97%であった。
【0143】
また、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevは、5.176Åであった。窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、比較例1に係る、窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevの差は、0.174%であった。
【0144】
[比較例2]
従来の気相成長によってサファイア基板上に形成した窒化ガリウム結晶(市販品、貫通転位密度5×108[cm-2]以下)を比較例2とした。
【0145】
比較例2の窒化ガリウム結晶について、上記逆格子マップ測定を行い、窒化ガリウム結晶の格子定数aevおよび格子定数cevを算出した。
【0146】
その結果、比較例2に係る、窒化ガリウム結晶の格子定数aevは、3.178Åであった。窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、比較例2に係る、窒化ガリウム結晶の格子定数aevの差は、0.34%であった。
【0147】
また、比較例2に係る、窒化ガリウム結晶の格子定数cevは、5.156Åであった。窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、比較例2に係る、窒化ガリウム結晶の格子定数cevの差は、0.559%であった。
【0148】
以上の実施例1および比較例1~2で測定された結果をまとめて下記の表1に示す。
【表1】
【0149】
表1の結果を参照すると、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、実施例1の窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevの差は、0.157%と小さいことが分かる。また、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、実施例1の窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevの差は、0.154%と小さいことが分かる。
【0150】
一方、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、比較例1の窒化ガリウム単結晶層130の格子定数aevの差は、0.97%であり、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、比較例1の窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevの差は、0.174%であった。また、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数atvに対する、比較例2の窒化ガリウム結晶の格子定数aevの差は、0.34%と小さいものの、窒化ガリウム単結晶の理論値の格子定数ctvに対する、比較例2の窒化ガリウム単結晶層130の格子定数cevの差は、0.559%であった。
【0151】
つまり、実施例1の窒化ガリウム単結晶層130は、マンガン偏析層140を備えない比較例1~2と比較して、窒化ガリウム単結晶の文献値と同程度の格子定数atvおよび格子定数cevを有していることが確認された。したがって、実施例1の窒化ガリウム単結晶層130は、マンガン偏析層140を備えない比較例1~2よりも、結晶性が高いことが分かった。
【0152】
また、実施例1は、比較例1~2よりも一桁以上貫通転位密度が低いことが確認された。このため、実施例1の窒化ガリウム単結晶(窒化ガリウム単結晶層130)でデバイスを作成した際に、歩留まりを向上させることができる。また、実施例1は、貫通転位密度が低いため、実施例1の窒化ガリウム単結晶(窒化ガリウム単結晶層130)でLEDを作成した際には、発光効率を向上させることが可能となる。
【0153】
以上説明したように、本実施形態によれば、液相法を用いてサファイア基板110の上に形成した窒化ガリウムについて、より結晶性に優れた面内均一性の高い窒化ガリウム単結晶を得ることが可能である。
【0154】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0155】
なお、上記実施形態において、緩衝層120の上に窒化ガリウム単結晶層130が直接設けられる構成を例に挙げた。しかし、緩衝層120と窒化ガリウム単結晶層130との間に中間層が設けられてもよい。中間層は、例えば、窒化ガリウム単結晶に対して(0001)面の法線方向の[0001]軸が所定の方位バラツキ範囲を有し、[0001]軸の方位がランダムな窒化ガリウムで構成される。