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特開2022-139249近交系マウス及び近交系マウスの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139249
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】近交系マウス及び近交系マウスの作製方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20220915BHJP
   C12N 15/24 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
A01K67/027
C12N15/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039540
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】森本 將弘
(57)【要約】
【課題】従来のTh2免疫反応活性化モデルでは、他のサイトカインの影響や解析の煩雑さ等により十分なTh2免疫反応のメカニズム解析ができなかった。そこで、本発明の課題は、好酸球数が増加した近交系マウスを提供することにある。
【解決手段】非近交系マウスを交配して得られた、生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上である近交系マウスを作製する。非近交系マウスが非近交系ICRマウスであることや、兄妹交配の第n世代(n=25以上)である近交系マウスであることが好ましい。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非近交系マウスを交配して得られた、生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上である近交系マウス。
【請求項2】
非近交系マウスが非近交系ICRマウスであることを特徴とする請求項1記載の近交系マウス。
【請求項3】
兄妹交配の第n世代(n=25以上)である、請求項1又は2記載の近交系マウス。
【請求項4】
脾臓におけるIL-5mRNAの発現が、正常な非近交系ICRマウスの脾臓におけるIL-5mRNAの発現と比較して有意差がないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか記載の近交系マウス。
【請求項5】
受精卵が、受託番号NITE P-03337として寄託されている、請求項1~4のいずれか記載の近交系マウス。
【請求項6】
(a)非近交系マウスを交配して、交配前のマウスの末梢血液中の好酸球数の平均値と比較して2SD値以上の末梢血液中の好酸球数を有する仔マウスを選択する工程A;
(b)前記工程Aで選択した仔マウスを20世代以上兄妹交配して近交系マウスを作製する工程B;
の工程A及びBを備えた、近交系マウスの作製方法。
【請求項7】
非近交系マウスが非近交系ICRマウス又はDDYマウスであることを特徴とする請求項6記載の近交系マウスの作製方法。
【請求項8】
生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上である請求項6又は7記載の近交系マウスの作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は末梢血液中の好酸球数が通常の近交系マウスよりも多い近交系マウスや、かかる近交系マウスの作製方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
Th2免疫反応が活性化したモデル動物としては、寄生虫感染や実験的にサイトカインを制御したモデル動物が用いられている。しかしながら、その活性化メカニズムの解明には、反応過程の複雑さやTh2免疫反応の活性化が継続的でない等の理由でこれらのモデルを用いたTh2活性化メカニズムの解析においては、十分な成果が得られていない。そのため、これらのTh2免疫反応が活性化したモデルはTh2の活性化が生体にどのような影響を及ぼすかを研究する場合にのみ用いられている。しかし、このような使用方法に関しても、これらのモデルでのTh2活性化の期間が2週間程度と一時的であり、所定の処置又は解析をするにあたって、Th2免疫反応が至適であるタイミングを計ることも比較的困難であり、その点からもTh2活性化モデルとしては十分ではないと考えられていた。
【0003】
一方、好酸球増多症を示すモデルマウスはいくつか存在している。たとえば、好酸球に対して増殖活性を持つIL-5遺伝子を導入したIL-5トランスジェニックマウス(非特許文献1参照)や、抑制性サイトカインでありTh2サイトカインの抑制を引き起こすと考えられているIL-10のノックアウトマウス(非特許文献2参照)が開示されている。これらは既知のサイトカイン機能を利用したモデル動物であり、Th2活性化メカニズムの解析には使用できず、好酸球機能そのものを解析する用途にしか使用できなかった。
【0004】
一方、本発明者は、寄生虫由来難溶物質の単回投与でマウスの好酸球を増加させる方法を開示した(特許文献1参照)。かかる方法は免疫賦活化誘導の観点で優れているが、寄生虫由来難溶物質を調整する必要があると共に有効成分の含有量にバラツキがあるという問題があった。そこで、より簡便に好酸球が増加したモデル動物の作製が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-92045号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Channing Yu, et al., J. Exp. Med. Volume 195, Numver 11, June 3, 2002 1387-1395
【非特許文献2】Kurt G. Tournoy et al., J. Allergy Clin. Immunol. 2001 Mar, 107(3):483-91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来のTh2免疫反応活性化モデルでは、他のサイトカインの影響や解析の煩雑さ等により十分なTh2免疫反応のメカニズム解析ができなかった。そこで、本発明の課題は、好酸球数が増加した近交系マウスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
免疫系の実験では、通常、C57BL、Blub/C等の近交系マウスを使用するのが通常であり、非近交系マウスは遺伝的なバックグラウンドが大きすぎることから使用されない。こうした中、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討するなかで、上記特許文献1に記載されたTh2免疫賦活化用組成物を投与した非近交系マウスを用い、Th2免疫反応の活性化の指標として末梢血好酸球数に着目して研究を進めた。かかる過程において正常の非近交系マウスよりも末梢血中の好酸球数が多い非近交系マウスを数匹見つけた。そこで、その末梢血好酸球数が多い非近交系マウスを用いて近交系マウスを作製したところ、末梢血好酸球数が多いという形質が固定した近交系マウスを得ることができ、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕非近交系マウスを交配して得られた、生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上である近交系マウス。
〔2〕非近交系マウスが非近交系ICRマウスであることを特徴とする上記〔1〕記載の近交系マウス。
〔3〕兄妹交配の第n世代(n=25以上)である、上記〔1〕又は〔2〕記載の近交系マウス。
〔4〕脾臓におけるIL-5mRNAの発現が、正常な非近交系ICRマウスの脾臓におけるIL-5mRNAの発現と比較して有意差がないことを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれか記載の近交系マウス。
〔5〕受精卵が、受託番号NITE P-03337として寄託されている、上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の近交系マウス。
〔6〕(a)非近交系マウスを交配して、交配前のマウスの末梢血液中の好酸球数の平均値と比較して2SD値以上の末梢血液中の好酸球数を有する仔マウスを選択する工程A;
(b)前記工程Aで選択した仔マウスを20世代以上兄妹交配して近交系マウスを作製する工程B;
の工程A及びBを備えた、近交系マウスの作製方法。
〔7〕非近交系マウスが非近交系ICRマウス又はDDYマウスであることを特徴とする上記〔6〕記載の近交系マウスの作製方法。
〔8〕生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上である上記〔6〕又は〔7〕記載の近交系マウスの作製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の近交系マウスは好酸球が正常のマウスと比較して高値であることから、好酸球の機能解析が可能となるほか、好酸球が増加したモデル動物として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2において、生後6週若しくは18週のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の心採血により採取した血液中の好酸球数を調べた結果を示す図である。
図2】実施例3において、生後6週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の骨髄組織標本をHE染色して光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図3】実施例3において、生後6週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の骨髄組織標本における全骨髄細胞のうちの好酸球数の比率を示したグラフである。
図4】実施例4において、生後6週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の骨髄組織の免疫組織化学的観察を行った結果を示す図である。
図5】実施例4において、生後6週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の骨髄組織の免疫組織化学的観察を行い、総骨髄細胞に占める陽性を示す細胞の割合を調べた結果を示す図である。
図6】実施例5において、生後6週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)のIFN-γ、IL-4及びIL-5の発現を調べた結果を示す図である。上から順に脾臓、腸間膜リンパ節、骨髄である。
図7】実施例6において、生後10週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の大腸炎モデルにおける体重測定結果を示す図である。
図8】実施例6において、生後10週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の大腸炎モデルにおける大腸の長さの測定結果を示す図である。
図9】実施例6において、生後10週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)の大腸炎モデルにおける組織標本をHE染色して光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の近交系マウスは、非近交系マウスを交配して得られた、生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上である近交系マウスであれば特に制限されず、以下「本件近交系マウス」ともいう。また、本発明の近交系マウスの作製方法は、(a)非近交系マウスを交配して、交配前のマウスの末梢血液中の好酸球数の平均値と比較して2SD(standard deviation)値以上の末梢血液中の好酸球数を有する仔マウスを選択する工程A;
(b)前記工程Aで選択した仔マウスを20世代以上兄妹交配して近交系マウスを作製する工程B;
の工程A及びBを備えた、近交系マウスの作製方法であれば特に制限されず、以下「本件近交系マウスの作製方法」ともいう。
【0013】
ここで、本明細書において近交系とは、兄妹交配で20世代以上継代した系統をいう。かかる近交系マウスは遺伝子座の99%が同一と推定され、遺伝学的に完全に同じとして使用されている。また、非近交系とは、遺伝子座がヘテロを多く含む系統をいう。なお、本明細書において、上記兄妹交配とは、同腹の子からオスとメスを選び交配することを意味する。
【0014】
本件近交系マウスは、より形質が固定される観点で兄妹交配の第n世代(n=25以上)であることが好ましい。また、兄妹交配においては、生まれる仔の中から末梢血液中の好酸球数が300以上のマウスを選択する方法を挙げることができる。
【0015】
非近交系マウスとしては、ICRマウス、又はDDYマウス等を挙げることができ、ICRマウスを好適に挙げることができる。さらに、末梢血液中の好酸球数が200/μL以上の非近交系マウスであることや、通常のICRマウスの末梢血液中の好酸球数の平均値と比較して2SD値以上の好酸球数を有するICRマウスであることが好ましい。なお、通常のICRマウスの末梢血液中の好酸球数の平均値は101.4±59.3/μL(n=34)である。
【0016】
本件近交系マウスとしては、生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上であり、好ましくは300/μL以上、より好ましくは400/μL以上を挙げることができる。末梢血液中の好酸球数は公知の手法でカウントすることができる。具体的には、血液を採取して好酸球計測板でカウントする方法(ヒンケルマン法)や、百分比(白血球数に対する)によって染色する方法を挙げることができる。なお、生後6~18週齢で末梢血液中の好酸球数が200/μL以上とは生後6~18週齢のいずれかで末梢血液中の好酸球数が200/μL以上であればよいが、好ましくは生後6~18週齢のいずれも末梢血液中の好酸球数が200/μL以上であることが好ましい。
【0017】
また、別の態様としては、受精卵が、受託番号NITE P-03337として寄託されている近交系マウスを挙げることができる。上記受託番号NITE P-03337として寄託されている受精卵は日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室に所在するNITE独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センターにおいて2020年12月17日に受託されており、一定の条件下で分譲可能である。
【0018】
本件近交系マウスは、脾臓におけるIL-5mRNAの発現が、正常な非近交系ICRマウスの脾臓におけるIL-5mRNAの発現と比較して有意差がないことが好ましい。ここで「有意差がない」とは、統計学的に有意差がないことを意味し、例えば有意差があるとは、T検定によるにp値が0.05以下であることをいう。
【0019】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1] (好酸球産生能が高いマウスの作製)
Th2活性化のメカニズムの解明を行うなかで、本発明者は先に、従来のTh2免疫反応を活性化するモデルに変わる新しいモデルの作製を試みていた。その過程で、末梢血好酸球数に着目して実験を進めた。その際に、使用していたICRマウスで、ICR正常対照マウス(コントロールマウス)よりはるかに好酸球数が高いマウスを数匹発見した。これらのICRマウス同士を交配して得られた仔マウスの好酸球数を測定し、市販のICRマウス(日本SLC社)の末梢血液中の好酸球数の平均値2SDの値以上の好酸球数を示したマウスを陽性個体と判断し、陽性個体選抜方式による兄妹交配を20回繰り返して近交系マウスを作製し、かかる近交系マウスを「Yamaマウス」と命名した。
【0021】
[実施例2] (Yamaマウスにおける末梢血中の好酸球数)
実施例1で作製したYamaマウスにおける末梢血の好酸球数を調べた。なお、動物愛護の観点、及び採血に対する負荷や好酸球数の推移を予備実験より考慮し、好酸球数の確定は生後6週齢で行うこととした。
【0022】
好酸球数の測定は以下の方法で行った。生後6週齢又は18週齢のYamaマウス(n=40)及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)(n=34)の眼窩採血により採取した血液の一部をHinkelmann液(0.5% yellow eosin、0.5% phenol、0.5% formalin)で10倍希釈し、穏やかに攪拌した後、好酸球計算盤(TATAI)を用いて好酸球数(Number of eosinophils)の計数を行った。結果を図1に示す。
【0023】
図1から明らかなように、生後6週齢での末梢血中の好酸球数(好酸球数/μL)は、コントロールマウスと比べてYamaマウスでは5.5倍以上、生後18週齢で3.5倍以上と高値を維持していた。なお、その後引き続き25世代の兄妹交配を行い、さかのぼること約10世代では、正常ICR平均値+2SD以上(陽性)個体が100%であり、形質の発現が交配初期段階よりも安定して発現していると考えられた。一方、年齢が進むに従って好酸球数の減少が認められるが、初期の数値が高いため、生後18週齢の正常対照群に対して有意に高い値を示していた。なお、生後6週齢から18週齢にかけて好酸球数が低下しているが、これは正常なマウスでもみられる傾向であり、より生体に近い状態であり、免疫機構が正常に働いていることを意味する。また、18週齢でも好酸球数が高い値を維持していたことは、継続的なTh2活性化メカニズムの解析を行うためのTh2活性化モデルとして有用である。
【0024】
[実施例3] (骨髄組織の好酸球数)
骨髄組織において好酸球数が増加するかどうかを調べるために、病理組織学的観察を行った。病理組織標本は、以下の手順により作製した。すなわち、生後6週齢のYamaマウス及びコントロールマウスを、それぞれ塩酸ケタミン、塩酸キシラジン混合麻酔をした後、ヘパリン化シリンジを用いて心臓からの全採血により安楽殺させた。その後、脾臓、腸間膜リンパ節、肝臓、及び十二指腸基部から空腸を採材し、カルノア液で固定して4μmのパラフィン切片(病理組織標本)を作製した。上記病理組織標本を、定法のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施した後、光学顕微鏡により観察した。結果を図2に示す。また、上記病理組織標本の全骨髄細胞のうちの好酸球数の比率を示したグラフを図3に示す。
【0025】
図2の左矢印(黒三角)で示すように、骨髄での好酸球は、Yamaマウスにおいて顕著に増加していた。また、図3に示すように、総骨髄細胞に占める陽性を示す細胞の割合がコントロールマウスと比較して2倍以上高くなっていた。
【0026】
[実施例4] (骨髄組織の免疫組織化学的観察)
骨髄組織における好酸球の増加が見られるかどうかについて、免疫組織化学的観察も行った。作製した骨髄の切片を好酸球のマーカーである抗ECP (Eosinophil cationic protein)抗体にて免疫染色を実施した。免疫染色は、キシレンにてパラフィンを除去後、抗原賦活化を0.05%トリプシン(37℃、30分間)にて行った。その後、内因性ペルオキシダーゼを3%過酸化水素水(室温、10分間)にて不活化させ、ブロッキング液(10%スキムミルク、2%BSAをPBSへ溶解)にてブロッキング (室温、30分間)を行った。Rabbit Anti- Mouse Eosinophil Cationic Protein (ECP) IgG (Aviscera Bioscience Inc.)を400倍希釈し切片へ滴下させ、室温にて1時間静置させた。その後PBSで3回洗浄し、EnVision+System-HRP Labelled Polymer Anti-Rabbit(Dako社)を滴下させ室温にて1時間静置させた。PBSで3回洗浄後、DAB Substrate(Roche社)で発色させて光学顕微鏡により観察した。結果を図4に示す。また、抗ECP抗体に陽性を示す細胞数を測定した。測定は各群の個体で100倍にて5視野の総骨髄細胞数及び陽性細胞数を測定することによって行った。そして、総骨髄細胞数に占める陽性を示す細胞数の割合を計算した。結果を図5に示す。
【0027】
図4の矢印(黒三角)で示すように、免疫組織化学的観察によっても好酸球の産生が増加していることが観察された。さらに、図5から明らかなように、総骨髄細胞に占める陽性を示す細胞の割合が上記実施例3の図3と同様の数値であり、骨髄での好酸球の増加が免疫染色によっても確認された。
【0028】
[実施例5](IL-5 mRNAの発現)
従来の好酸球数値が高いマウスとしては好酸球増殖因子であるサイトカインIL-5を分泌する遺伝子改変マウス、Th2活性化抑制因子であるIL-10の分泌を抑制した遺伝子改変マウス、寄生虫に感染させたマウス、抗原の感作等によるTh2免疫活性化マウスが用いられていた。これらのモデルでは好酸球数値は高いものの、IL-4又はIL-5の増加が認められ、サイトカインの有無や処置過程の煩雑さが実験に影響する懸念は払拭できていない。さらに、寄生虫感染や抗原の感作により、好酸球数の増加以外にも様々な影響が懸念される。そこで、YamaマウスにおけるIFN-γ、IL-4及びIL-5のmRNAの発現を調べた。
【0029】
以下の手順に従ってRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量PCRによるmRNAの検出を行った。すなわち、第21世代の生後6週齢のマウス(n=3)の脾臓(spleen)、腸間膜リンパ節(Mesentery lymph node)、又は骨髄(marrow)から、RNeasyTMKit(QIAGEN社)を用いてマニュアルに従い、RNAを抽出した。続いて、抽出したRNA10μlにランダムプライマー(Invitrogen社)を1μg加え、70℃で10分間反応後、直ちに氷上で静置した後、5×RT buffer、dNTP、0.1M DTT、RNAsin(Promega社)を加えて19μLとし、42℃で2分間、SuperScriptII(Invitrogen社)1μLを加えて計20μLとし、42℃で50分間、70℃で15分間反応させることでcDNAを合成した。さらに、IFN-γ、IL-4及びIL-5のmRNAを増幅するプライマーセット(Applied Biosystems社)、上記で合成したcDNA、及びTaqManTMGene Expression Assaysキット(Applied Biosystems社)を用いたStep OneTMReal-Time PCR System(Applied Biosystems社)によりリアルタイムPCR法を行い、IFN-γ、IL-4、IL-5のmRNA量を定量した。PCRの条件としては、50℃で2分間、95℃で10分間を1サイクル、95℃で15秒間、60℃で1分間を50サイクルとして行った。なお、コントロールマウスとしてハウスキーピング遺伝子である18s rRNAを増幅するプライマーセット(Applied Biosystems社)を用いたリアルタイムPCR法を行い、算出された18s rRNA量の値によりIFN-γ、IL-4、IL-5のmRNA量の値を標準化した。結果を図6に示す。
【0030】
図6から明らかな様に、好酸球に関連するIL-5のmRNAの発現は脾臓、腸間膜リンパ節、又は骨髄のいずれにおいてもコントロールマウスとYamaマウスにおいて有意な差はみられなかった。したがって、YamaマウスにおいてはIL-5の発現増加によらずに好酸球を増加していることが明らかとなった。
【0031】
また、Th-1、Th-2免疫反応の指標となるIFN-γ、IL-4については、脾臓ではIFN-γとIL-4のいずれも増加しており、腸間膜リンパ節及び骨髄では有意な差はみられなかった。通常、TH-1にシフトしていればIFN-γの発現が増加してIL-4の発現が低下し、TH-2にシフトしていればIFN-γの発現が低下してIL-4の発現が増加する。そのため、図5の結果は、TH-1とTh-2のバランスが崩れていない傾向にあることがうかがえる。
【0032】
[実施例6] (YamaマウスにおけるTh2免疫反応)
Th2免疫反応が抑制的となっていると考えられている実験的潰瘍性大腸炎モデルにより、体重の変化、大腸の長さ、病理組織学的変化を調べた。
【0033】
生後10週齢のYamaマウス及びICR正常対照マウス(コントロールマウス)に対し、潰瘍性大腸炎モデルとするためにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲用水に5%溶解し自由に節水させた。DSS投与時を0dayとして経時的に体重を測定し、その後6日後にそれぞれ塩酸ケタミン及び塩酸キシラジン混合麻酔した後、ヘパリン化シリンジを用いて心臓からの全採血により安楽殺させた。結腸から直腸までを大腸として採材し、大腸の長さを測定後、カルノア液で固定し、その後4μmのパラフィン切片(大腸病理組織標本)を作製した。上記病理組織標本を、定法のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施した後、光学顕微鏡により観察した。図7に体重測定結果、図8に大腸の長さを測定した結果、図9に病理組織標本を光学顕微鏡により観察した結果を示す。
【0034】
正常対照マウスでは、大腸炎により、体重の減少と大腸の長さの短縮が認められたが、Yamaマウスでは体重減少や大腸の長さの短縮は認められなかった。病理織組織学的にも、正常対照マウスでは粘膜上皮の壊死と周辺組織への炎症細胞の浸潤が生じていたが、Yamaマウスでは粘膜上皮の壊死や炎症細胞の浸潤は見られなかった。この結果から、Yamaマウスは好酸球の増多症だけではなく、病変部位での好酸球浸潤はあまり認められなかったことから、好酸球増多が病変の原因ではなくTh2免疫反応そのものの活性化により生じていることが確認された。すなわち、YamaマウスはTh2活性化モデルマウスでもあると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本件近交系マウスは、好酸球数が症状の増強に関与すると考えられている疾患、たとえば肝硬変、肺腺症、又はアトピー症の病害の解明やそれらの疾患に対する薬理効果試験、好酸球増多メカニズムの解明に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9