(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139250
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】シール付き軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220915BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220915BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20220915BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20220915BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20220915BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16C19/06
F16C33/58
F16C33/78 Z
F16C35/077
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039541
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】居島 啓一
(72)【発明者】
【氏名】河岸 誠
【テーマコード(参考)】
3J006
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AB05
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE34
3J006CA01
3J117AA10
3J117CA06
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB10
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB06
3J216BA19
3J216BA30
3J216CA01
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC16
3J216CC33
3J216DA08
3J216DA21
3J216EA02
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA73
3J701FA11
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】絶縁被膜によって高い電食防止性能を確保しつつ、シールによって十分な潤滑性能を得ることが可能なシール付き軸受を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるシール付き軸受の構成は、外輪120と内輪110との間を封止するシール130を備えたシール付き軸受(軸受100)であって、外輪120の外周面124または内輪110の内周面のいずれか一方を被覆する絶縁被膜140を有し、絶縁被膜140は外輪120の内周面または内輪110の外周面の縁126まで被覆していて、縁126を被覆する絶縁被膜140の表面は円筒形であり、シール130は縁126を被覆する絶縁被膜140に圧入されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間を封止するシールを備えたシール付き軸受であって、
外輪の外周面または内輪の内周面のいずれか一方を被覆する絶縁被膜を有し、
前記絶縁被膜は外輪の内周面または内輪の外周面の縁まで被覆していて、
前記縁を被覆する絶縁被膜の表面は円筒形であり、前記シールは前記縁を被覆する絶縁被膜に圧入されていることを特徴とするシール付き軸受。
【請求項2】
前記シールの芯金は、前記縁を被覆する絶縁被膜に当接する円筒部を有することを特徴とする請求項1に記載のシール付き軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪と内輪との間を封止するシールを備えたシール付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。この高電圧部品の電流が軸受に通電すると、軸受の転動体の表面、外輪や内輪の軌道面に電食が生じてしまい、損傷の一因となる。そこで例えば特許文献1では、軌道輪の表面に絶縁被膜を設けた電食防止転がり軸受が開示されている。特許文献1では、絶縁被膜を、ガラス繊維と非繊維質の絶縁性無機充填材とを含有したポリファニレンサルファイド樹脂により形成している。
【0003】
特許文献1の転がり軸受では、内輪と外輪の表面に複数の円周溝を形成し、その上に絶縁被膜をかぶせて形成している。これにより、射出成形時に絶縁被膜に形成された突条が円周溝に嵌まり込んだ状態となる。したがって、被膜の軸方向のずれが防止され、はがれや浮き上りを防止可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受では、上述した耐電食性能に加え、転がり接触面に油膜を形成することで金属面間の直接接触を防止し、接触面の摩擦を低減させ、摩耗や焼き付きを防止することも求められる。このため、軸受では、内外の軌道輪の間にて転動体を側方から覆うシールを設け、シールによってグリースを保持する構成がよく知られている。このとき、特許文献1のように外輪の内周面や内輪の外周面に円周溝を形成し、かかる円周溝に絶縁被膜を嵌め込む構成であると、外輪や内輪にシールを嵌め込む溝を確保することができない。
【0006】
上記の問題を解決する方法としては、外輪の外周面や内輪の内周面を絶縁被膜によって覆い、外輪の内周面や内輪の外周面に形成された円周溝にシールを嵌め込む構成が考えられる。
しかしながら、このような構成であると、絶縁被膜とシールとの間で外輪や内輪が一部露出した状態となる。すると、耐電食性能が低下する要因となる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、絶縁被膜によって高い電食防止性能を確保しつつ、シールによって十分な潤滑性能を得ることが可能なシール付き軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシール付き軸受の代表的な構成は、外輪と内輪との間を封止するシールを備えたシール付き軸受であって、外輪の外周面または内輪の内周面のいずれか一方を被覆する絶縁被膜を有し、絶縁被膜は外輪の内周面または内輪の外周面の縁まで被覆していて、縁を被覆する絶縁被膜の表面は円筒形であり、シールは縁を被覆する絶縁被膜に圧入されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成では、外輪の外周面や内輪の内周面は、その縁までが絶縁被膜によって被覆されている。これにより、外輪や内輪が露出しなくなるため、高い電食防止性能を確保することができる。そしてシールは、縁を被覆する絶縁被膜に圧入される。したがって、外輪の外周面や内輪の内周面の縁までを絶縁被膜によって被覆した場合であっても、シールを設けることができる。これにより、外輪と内輪との間を封止し、シールの内部にグリースを保持することで、運転時の回転による摩擦を低減し、摩耗や焼き付きを防止する。したがって、十分な潤滑性能を得ることが可能となる。
【0010】
上記シールの芯金は、縁を被覆する絶縁被膜に当接する円筒部を有するよい。かかる構成によれば、シールの芯金と絶縁被膜との接触面積を増やせるため、シールを良好に保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁被膜によって高い電食防止性能を確保しつつ、シールによって十分な潤滑性能を得ることが可能なシール付き軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態にかかるシール付き軸受を説明する図である。
【
図3】従来の技術的思想を延長して絶縁被覆とシールを両方設けた軸受を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0014】
図3は、従来の技術的思想を延長して絶縁被覆とシールを両方設けた軸受を説明する図である。なお、
図3(a)に示す軸受10aと
図3(b)に示す軸受10bにおいて同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を割愛する。なお、
図3(a)(b)は玉の大きさを揃えて図示している。
【0015】
図3(a)に示す軸受10aは、内輪12と外輪14との間に転動体としての玉16を備えている。玉16は保持器18によって保持されている。外輪14と内輪12との間はシール20によって封止される。シール20は、芯金22および芯金22を支持するリップ24によって構成される。
【0016】
軸受10aでは、外輪14の外周面が絶縁被膜30によって覆われている。このような構成では、絶縁被膜30にシール溝32を設けることになるため、成形時に無理抜きできなくなってしまう。また絶縁被膜30は線膨張係数が大きいため、シール20とのシメシロ量が変化しやすく、安定した組付け状態を維持しにくい。
【0017】
図3(b)に示す軸受10bでは、外輪14にシール溝14aを設けている。このような構成であると、外輪14の内径面の縁14bは絶縁被膜30に覆われていないため、ハウジングとの間に高周波の電気が流れてしまうため、絶縁性能が低下してしまう。
【0018】
これに対し本発明は、下記の構成により、絶縁被膜によって高い電食防止性能を確保しつつ、シールによって十分な潤滑性能を得ることが可能なシール付き軸受を提供する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかるシール付き軸受(以下、軸受100と称する)を説明する図である。本実施形態の軸受100は玉軸受である。なお、本実施形態では外輪120を絶縁被膜140によって被覆する構成を例示するが、これに限定するものではない。内輪110を絶縁被膜140によって被覆する構成であっても同様の効果を得ることが可能である。
【0020】
図1に示すように、軸受100は、内輪110と外輪120との間に転動体としての玉102を備えている。玉102は保持器104によって保持されている。内輪110と外輪120の間は、シール130によって封止されている。
【0021】
本実施形態では、シール130は、芯金132およびそれに支持されたリップ134によって構成されている。内輪110にはシール溝112が形成されていて、そこにリップ134が接触する。
【0022】
一方、外輪120の内周面の縁126には樹脂溝122が形成されている。「内周面の縁126」とは、軌道面の肩121より外側を意味している。そして
図1に示すように本実施形態の軸受100は、外輪120の外周面が絶縁被膜140によって被覆されている。特に本実施形態では、絶縁被膜140は、外輪120の外周面124から側面125を回り込み、内周面の縁126まで連続して被覆している。そして、絶縁被膜140の端部142が爪のように樹脂溝122に入り込んだ状態となっている。これにより、外輪120は、内周面の縁126まで絶縁被膜140によって被覆される。したがって、外輪120が露出しなくなるため、高い電食防止性能を確保することができる。
【0023】
また本実施形態の軸受100では、外輪120の内周面の縁126を被覆する絶縁被膜140には、表面が円筒形の当接面144が形成されている。一方、シール130の芯金132は、円環状の封止部132aと、封止部132aの縁から立ち上がる円筒部132bから構成されている。
図1からわかるように、芯金132の片側の断面形状はL字形状となっている。そして、絶縁被膜140の円筒形の当接面144にシール130の芯金132の円筒部132bをはめ込むことにより、シール130が外輪120に取り付けられる。
【0024】
これにより、外輪120の外周面124の縁までを絶縁被膜によって被覆した場合であっても、シール130を設けることができる。したがって、外輪120と内輪110との間を封止し、シール130の内部にグリース(不図示)を保持することができ、運転時の回転による摩擦が低減される。このため、十分な潤滑性能を得ることが可能となる。
【0025】
また、シール130と絶縁被膜140の接触箇所が両方とも円筒状であることにより、互いの接触面積を大きく取ることができる。したがって、圧入であるにもかかわらず姿勢を安定させることができ、また脱落を防止することができる。
【0026】
図2は、シールの変形例を説明する図である。
図2(a)に示すシール130aでは、封止部132aと円筒部132bとの間にバネ部136が設けられている。
図2(b)に示すシール130bでは、封止部132aと円筒部132bとの間に撓み部138が設けられている。これにより、シメシロ量の違いによってリップ134の当たりが変わった際に、バネ部136および撓み部138が応力緩和として機能する。したがって、絶縁被膜140に対してシールの芯金を安定した状態で当接させることが可能となる。
【0027】
なお、本実施形態では、外輪120の外周面124を絶縁被膜140によって覆う構成を例示したが、これに限定するものではない。内輪110の内周面を絶縁被膜140によって覆う構成であっても上述した効果を得ることが可能である。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、外輪と内輪との間を封止するシールを備えたシール付き軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10a…軸受、10b…軸受、12…内輪、14…外輪、14a…シール溝、14b…縁、16…玉、18…保持器20…シール、22…芯金、24…リップ、30…絶縁被膜、32…シール溝、100…軸受、102…玉、104…保持器、110…内輪、112…シール溝、120…外輪、121…軌道面の肩、122…樹脂溝、124…外周面、125…側面、126…縁、130…シール、130a…シール、130b…シール、132 …芯金、132a …封止部、132b…円筒部、134…リップ、136…バネ部、138…撓み部、140…絶縁被膜、142…絶縁被覆の端部、144…当接面