(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139392
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】湿度測定装置、平衡質量の測定方法、平衡含水率の取得方法、及び拡散係数の取得方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20220915BHJP
G01N 27/22 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N27/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039755
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 竜
(72)【発明者】
【氏名】曽根 涼太
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一平
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AA14
2G060AB02
2G060AE19
2G060AF10
2G060BD08
2G060HC10
2G060KA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】一つの装置を用いて、一度に複数の相対湿度におけるコンクリートの含水量を短期間で取得できる方法等を提供する。
【解決手段】筐体11を備え、筐体は、側壁12と、側壁の長手方向の一端部側に形成される開口部13を有し、側壁の長手方向の他端部側に形成される閉塞部14と、側壁の内壁面と閉塞部とに囲まれ、開口部から閉塞部までの間の空間である空間部15と、セメント質硬化体の供試体が配置される複数の第1配置部16と、放湿剤又は吸湿剤が配置される第2配置部17とを形成可能に構成され、内壁面には、第1配置部に配置された供試体に仕切られた空間の湿度を測定するための湿度測定器を設置可能な設置部が形成されており、第2配置部は、第1配置部よりも他端部側に設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質硬化体の湿度を測定するための湿度測定装置であって、
筐体を備え、
前記筐体は、
側壁と、
前記側壁の長手方向の一端部側に形成される開口部と、を有し、
前記側壁の長手方向の他端部側に形成される閉塞部と、
前記側壁の内壁面と前記閉塞部とに囲まれた空間であって、前記開口部から前記閉塞部までの間の空間である空間部と、
セメント質硬化体の供試体が配置される複数の第1配置部と、
放湿剤又は吸湿剤が配置される第2配置部と、を形成可能に構成され、
前記内壁面には、前記第1配置部に配置された前記供試体に仕切られた空間の湿度を測定するための湿度測定器を設置可能な設置部が形成されており、
前記第2配置部は、前記第1配置部よりも、前記他端部側に設けられる湿度測定装置。
【請求項2】
複数の前記第1配置部は、前記側壁の長手方向に沿って前記内壁面に設けられ、
前記供試体が配置された場合に、当該供試体により、前記長手方向の垂直断面において前記空間部を遮断可能な形状で形成されている請求項1に記載の湿度測定装置。
【請求項3】
前記閉塞部は、前記第2配置部を兼ねる請求項1又は2に記載の湿度測定装置。
【請求項4】
前記第2配置部は、前記空間部の一部領域であって、当該一部領域は、前記第1配置部に配置された隣接する前記供試体同士の間の空間部よりも広い領域である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の湿度測定装置。
【請求項5】
前記筐体は、前記長手方向において分割可能に構成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の湿度測定装置。
【請求項6】
前記側壁の内壁面は、前記空間部が角柱状又は円柱状となるように、形成されている前記請求項1乃至5のいずれか1項に記載の湿度測定装置。
【請求項7】
前記湿度測定器を備える請求項1乃至6のいずれかに記載の湿度測定装置。
【請求項8】
下記(A)及び(B)工程を経た後、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の湿度測定装置に備えられた湿度測定器により、供試体に仕切られた空間内の湿度を測定し、該湿度が平衡に達したときの供試体の平衡質量を測定する平衡質量の測定方法。
(A)セメント質硬化体から板を複数切り出した後、該板の周囲を封止部材で封止して供試体を作製する、供試体の作製工程
(B)前記供試体及び、放湿剤又は吸湿剤を、前記湿度測定装置の筐体に配置する配置工程
【請求項9】
前記供試体の作製工程において、切り出される各供試体の厚さは0.5~5cmである請求項8に記載の平衡質量の測定方法。
【請求項10】
前記配置工程において、放湿剤が配置され、当該放湿剤は保管容器に入れられた液体である請求項8又は9に記載の平衡質量の測定方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載の平衡質量を用いて、平衡含水率を算出して取得する平衡含水率の取得方法。
【請求項12】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載の放湿剤又は吸湿剤の質量の変化、及び供試体の質量の変化から、拡散係数を算出して取得する、拡散係数の取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート内部の湿度環境を模した空間(以下、略して「模擬空間」ということもある。)内の湿度を測定する装置、及び該装置を用いて平衡質量を測定する方法等に関する。ここで、平衡質量とは、コンクリート等のセメント質硬化体の吸湿と放湿が平衡に達したときのセメント質硬化体の質量をいう。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの長期の耐久性を高めてコンクリートの寿命を延ばす上で、コンクリート内部の水分や湿気の移動特性を知ることが重要である。この湿気の移動特性を把握する際に用いる特性値の一つに平衡含水率がある。平衡含水率とは、材料周辺の水蒸気を吸湿又は放湿して、吸湿及び放湿が平衡に達したときの、材料中の蒸発可能な水分の質量又は体積と、該材料の乾燥時の質量または体積の比で表される。
そして、この平衡含水率をフィックの第一法則の水分流束の式に代入して得られる拡散係数は、湿気移動解析等のシミュレーションを行う場合に必要な特性値である。また、複数の相対湿度に対し、対応する複数の平衡含水率をプロットすると、材料の吸湿・放湿特性を表わす平衡含水率曲線が得られる。
【0003】
現在、平衡含水率を取得する方法は、JIS A 1475「建築材料の平衡含水率測定方法」に規定されている(非特許文献1、非特許文献2)。該方法は、ある相対湿度のデシケータ又はチャンバーの中に試験片を入れ、試験片の吸湿と放湿が平衡に達したときの含水量に基づき、平衡含水率を算出する方法である。
【0004】
しかし、前記JISの方法は複数の相対湿度において平衡含水率を取得する場合、次の課題がある。すなわち、相対湿度の水準の数のデシケータ等と試験片を用意する場合は、同じ相対湿度でも試験片のバラツキにより平衡含水率が変わることがある。また1台のデシケータ等を相対湿度の水準の数だけ使い回す場合は、平衡に達するまで長時間かかるから、複数の平衡含水率を取得するには、その分、時間がかかる。特に試験片がコンクリートでは、試験片の大きさによっては含水量が平衡に達するまで6か月以上も要することがあり、実用的ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS A 1475「建築材料の平衡含水率測定方法」
【非特許文献2】中央試験所、「建築材料の平衡含水率試験」、(財)建材試験センター、建材試験情報5 '06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、前記課題に鑑み、一つの装置で、一度に複数の湿度におけるコンクリートの質量を短期間で取得できる湿度測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的にかなう湿度測定装置等を検討した結果、下記の構成を有する湿度測定装置等は前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
[1]セメント質硬化体の湿度を測定するための湿度測定装置であって、
筐体を備え、
前記筐体は、
側壁と、
前記側壁の長手方向の一端部側に形成される開口部と、を有し、
前記側壁の長手方向の他端部側に形成される閉塞部と、
前記側壁の内壁面と前記閉塞部とに囲まれた空間であって、前記開口部から前記閉塞部までの間の空間である空間部と、
セメント質硬化体の供試体が配置される複数の第1配置部と、
放湿剤又は吸湿剤が配置される第2配置部と、を形成可能に構成され、
前記内壁面には、前記第1配置部に配置された前記供試体に仕切られた空間の湿度を測定するための湿度測定器を設置可能な設置部が形成されており、
前記第2配置部は、前記第1配置部よりも、前記他端部側に設けられる湿度測定装置。
[2]複数の前記第1配置部は、前記側壁の長手方向に沿って前記内壁面に設けられ、
前記供試体が配置された場合に、当該供試体により、前記長手方向の垂直断面において前記空間部を遮断可能な形状で形成されている前記[1]に記載の湿度測定装置。
[3]前記閉塞部は、前記第2配置部を兼ねる前記[1]又は[2]に記載の湿度測定装置。
[4]前記第2配置部は、前記空間部の一部領域であって、当該一部領域は、前記第1配置部に配置された隣接する前記供試体同士の間の空間部よりも広い領域である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の湿度測定装置。
[5]前記筐体は、前記長手方向において分割可能に構成されている前記[1]乃至[4]のいずれかに記載の湿度測定装置。
[6]前記側壁の内壁面は、前記空間部が角柱状又は円柱状となるように、形成されている前記[1]乃至[5]のいずれかに記載の湿度測定装置。
[7]前記湿度測定器を備える前記[1]乃至[6]のいずれかに記載の湿度測定装置。
[8]下記(A)及び(B)工程を経た後、前記[1]乃至[7]のいずれかに記載の湿度測定装置に備えられた湿度測定器により、供試体に仕切られた空間内の湿度を測定し、該湿度が平衡に達したときの供試体の平衡質量を測定する平衡質量の測定方法。
(A)セメント質硬化体から板を複数切り出した後、該板の周囲を封止部材で封止して供試体を作製する、供試体の作製工程
(B)前記供試体及び、放湿剤又は吸湿剤を、前記湿度測定装置の筐体に配置する配置工程
[9]前記供試体の作製工程において、切り出される各供試体の厚さは0.5~5cmである前記[8]に記載の平衡質量の測定方法。
[10]前記配置工程において、放湿剤が配置され、当該放湿剤は保管容器に入れられた液体である前記[8]又は[9]に記載の平衡質量の測定方法。
[11]前記[8]乃至[10]のいずれかに記載の平衡質量を用いて、平衡含水率を算出して取得する平衡含水率の取得方法。
[12]前記[8]乃至[10]のいずれかに記載の放湿剤又は吸湿剤の質量の変化、及び供試体の質量の変化から、拡散係数を算出して取得する、拡散係数の取得方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の湿度測定装置を用いれば、一度に複数の湿度におけるセメント質硬化体の平衡質量を短期間で測定できるから、セメント質硬化体の平衡含水率等を容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の湿度測定装置の一例を示す模式図(断面図)である。
【
図2】セメント質硬化体から供試体を複数切り出した状態の一例を示す模式図と、供試体、湿度測定器、及び放湿剤又は吸湿剤を配置した湿度測定装置の一例を示す模式図(断面図)である。
【
図3】分割した状態の筐体の第1配置部に供試体を配置した後、該筐体を重ね合わせる過程の一例を示す模式図である。
【
図4】筐体を分割した状態の一例を示す模式図(断面図)であって、(a)は供試体を配置した分割した筐体と、(b)は供試体を配置していない分割した筐体を示す図である。
【
図5】筐体を分割した状態の一例を示す斜視図であって、(a)は供試体を配置した分割した筐体と、(b)は供試体を配置していない分割した筐体を示す図である。
【
図6】本発明の平衡含水率の取得方法により取得した平衡体積含水率を用いて作成した平衡体積含水率曲線の一例を示す図である。
【
図7】供試体の質量減少率をプロットした図である。
【
図8】平衡体積含水率に対し拡散係数をプロットした図である。
【
図9】相対湿度に対し平衡体積含水率をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のとおり、湿度測定装置、平衡質量の測定方法、平衡含水率の取得方法、及び拡散係数の取得方法である。以下、本発明について、湿度測定装置、平衡質量の測定方法、平衡含水率の取得方法、及び拡散係数の取得方法に分けて説明する。
【0012】
1.湿度測定装置
本発明の湿度測定装置1は筐体11を備え、前記筐体11は、側壁12と、側壁12の長手方向の一端部側に形成される開口部13と、前記側壁12の長手方向の他端部側に形成される閉塞部14とを有する。
前記筐体11の外形は、特に限定されないが、筐体の作製の容易さや取り扱いの容易さから、好ましくは角柱状又は円柱状である。また、前記筐体11の側壁12の内壁面は、空間部15が角柱状又は円柱状となるように形成されている。
筐体11の材質は、特に限定されないが、第1配置部16や第2配置部17等の加工が容易なことから、好ましくはアクリル樹脂や塩化ビニル樹脂等の樹脂である。前記筐体11は、前記供試体21の設置を容易にするため、好ましくは、前記長手方向において分割可能に構成されている。前記開口部13は外気と接していて湿気の流路となる。
前記他端部側に形成される閉塞部14は、例えば、底面であり、該底面の上に載置台(第2配置部17)を置く構成や、第2配置部17を筐体11に一体成型した構成がある。
【0013】
また、前記湿度測定装置1は、前記側壁12の内壁面と前記閉塞部14とに囲まれた空間であって、前記開口部13から前記閉塞部14までの間の空間である空間部15を有する。前記筐体11の側壁12の内壁面は、好ましくは、前記空間部15が角柱状又は円柱状となるように形成されている。このように、前記空間部15は角柱状又は円柱状となるように形成されると、角柱や円柱の型枠や、円柱のコンクリートのコア抜きの形状が一般的なので、実施が容易になる。
また、前記閉塞部14は、前記第2配置部17を兼ねてもよい。
前記空間部15は、供試体21によって複数の空間に仕切られた場合、該空間は、供試体21の作製に用いられたコンクリート等のセメント質硬化体の内部の湿度環境を模した空間になる。
【0014】
前記側壁12の内壁面は、前記セメント質硬化体2の供試体21が配置される複数の第1配置部16と、放湿剤又は吸湿剤22が配置される第2配置部17が形成可能に構成されている。
前記内壁面には、前記第1配置部16に配置された前記供試体21に仕切られた空間の湿度を測定するための湿度測定器18を設置可能な設置部19が形成されており、前記第2配置部17は、前記第1配置部16よりも、前記他端部側に設けられる。
【0015】
前記第1配置部16は、前記側壁12の長手方向に沿って前記内壁面に複数設けられ、前記供試体21が配置された場合に、当該供試体21により、前記長手方向の垂直断面において前記空間部15を遮断可能な形状で形成されている。ここで、前記第1配置部16が前記空間部15を遮断可能な形状で形成されているとは、例えば、前記第1配置部16が溝の場合に、垂直断面が円形なら、円周の一部分でなく全体に渡って溝が形成されていることを意味する。また、前記第1配置部16は、供試体21を設置して空間部15を遮断可能な形状であればよく、例えば、凹部(溝)又は凸部が挙げられる。例えば、筐体11が分割可能に構成される場合には、分割された筐体11にそれぞれ、凹部(溝)又は凸部が設けられており、重ね合わせた際に、これらの凹部(溝)又は凸部が垂直断面方向に連なるように構成され、これにより、第1配置部16が形成される。
前記第2配置部17は、前記空間部15の一部領域であって、当該一部領域は、前記第1配置部16に配置された隣接する前記供試体21同士の間の空間部15よりも広い領域である。前記第2配置部17をより広い領域としたのは、湿度の測定期間が長期に渡る場合、多量の吸湿剤等が必要になるから、このような容積の大きな吸湿剤等でも、広い領域にすれば前記第2配置部17に配置できるからである。
【0016】
さらに、前記内壁面には、前記第1配置部16に配置された複数の前記供試体21に仕切られた空間内の湿度を測定するための湿度測定器18を設置可能な設置部19が形成されている。
そして、前記設置部19は、側壁12を貫通する挿入孔が挙げられるが、これに限られない。例えば、湿度測定器18の検知部に予め接着する等して取り付ける構成の場合には、この筐体11の内壁面と検知部との接着部が前記設置部19に相当する。
また、前記湿度測定装置1は、前記設置部19に前記湿度測定器18を備えていてもよい。
【0017】
2.湿度測定方法
該湿度測定方法は、前記(A)及び(B)工程を経た後、前記湿度測定装置1に備えられた湿度測定器18により、前記供試体21に仕切られた空間内の湿度を測定し、該湿度が平衡に達したときの供試体21の平衡質量を測定する方法である。以下、前記各工程に分けて説明する。
【0018】
(A)供試体の作製工程
該工程は、セメント質硬化体2から板を複数切り出した後、該板の周囲を封止部材で封止して供試体21を作製する工程である。
前記セメント質硬化体2は、コンクリート、又はモルタル等が挙げられる。また、前記セメント質硬化体2に用いるセメント、骨材、及び混和材は、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、エコセメント、速硬セメント、川砂利、山砂利、砕石、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、高炉スラグ、フライアッシュ、及びシリカフューム等が挙げられる。
前記供試体21の形状は、前記空間部15の形状が円柱状であれば円板状であり、角柱状であれば角板状である。また、前記供試体21の厚さは、特に限定されないが、0.5cm以上とすると供試体21が切り出す際等に割れにくく、5cm以下とすると、平衡に達するまでの期間が相対的に短くなるため、特に好ましい。
また、前記封止部材は、第1配置部16と供試体21が接した箇所において湿気の漏洩を封止するために用いるから、封止機能があれば特に限定されず、例えばラバーリング等が挙げられる。さらに前記封止機能を強化するため、前記第1配置部16をシリコンオイル等で埋めるとよい。
【0019】
(B)供試体及び、放湿剤又は吸湿剤の配置工程
該工程は、前記供試体21及び、放湿剤又は吸湿剤22を、前記湿度測定装置1の筐体11に配置する配置工程である。また、該工程には、前記筐体11が長手方向に分割された状態において、該筐体11に構成された第1配置部16に、複数の前記供試体21を配置するともに、該筐体11に構成された第2配置部17に、放湿剤又は吸湿剤22を配置した後に、該筐体11を重ね合わせて、前記供試体21及び、前記放湿剤又は吸湿剤22を密閉する工程も含めることができる。
放湿剤22を用いた場合、供試体21は吸湿し、吸湿剤22を用いた場合、供試体21は放湿する。このように、本発明の湿度測定方法は、放湿剤又は吸湿剤22を用いるという簡単な操作により、吸湿過程又は放湿過程における湿度を容易に測定することができる。
また、前記放湿剤22及び吸湿剤22は、所定の放湿機能や吸湿機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、これらは液体であっても固体であってもよい。液体を用いる場合には、シャーレ等の保管容器に入れて配置される。
液体としては、例えば、水、又は飽和塩水溶液等を用いることができ、飽和塩水溶液としては、塩化亜鉛水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硝酸マグネシウム水溶液等が挙げられる。前記飽和塩水溶液は、密封した容器内の相対湿度を一定に保つことができる。また、固体としては、例えば、シリカゲル、又は生石灰等を用いることができる。
前記湿度測定器18は、特に限定されず、市販の湿度センサでよく、例えば、IST HYT939(シスコム社製)等が挙げられる。また、前記設置部19が挿入孔の場合、湿度センサを挿入しない間はゴム栓等で塞いでおくとよい。
本発明の湿度測定方法の技術的特徴の一つは、コンクリート内部の湿度環境を模した空間として、前記供試体21に仕切られた空間内の湿度を測定する点にある。その効果として、一つの測定装置で一度に複数の測定ができるため、1つのデシケータを使いまわすような従来の測定方法に比べて、早期に試験結果が得られるものであり、また、複数のデシケータを使用した場合に生じるような装置間の測定バラつきが発生せず、精度よく測定できる。加えて、
図2に例示するように、湿度測定器18が水分に接することなく、湿度を簡易かつ精度よく測定できる。
【0020】
3.平衡含水率の取得方法
該平衡含水率の取得方法は、前記平衡質量を用いて平衡含水率を算出して取得する方法である。前記平衡含水率は下記(1)式、又は(2)式を用いて算出する。
Ww=100×(Me-Mc)/Mc ・・・(1)
Wv=100×(Me-Mc)/V ・・・(2)
ただし、(1)式中、Wwは供試体21の平衡質量含水率を表わし、Meは湿度が平衡に達したときの各供試体21の質量を表わし、Mcは乾燥して恒量になった各供試体21の質量を表わす。また、(2)式中、Wvは各供試体21の平衡体積含水率を表わし、Meは湿度が平衡に達したときの各供試体21の質量を表わし、Mcは乾燥して恒量になった各供試体21の質量を表わし、Vは各供試体21の体積を表わす。
【0021】
4.拡散係数の取得方法
該取得方法は、放湿剤又は吸湿剤22の質量の変化、及び供試体21の質量の変化から、各供試体21を通過する単位時間及び単位面積あたりの水分量である水分流束と、そのときの隣り合う供試体21の平衡体積含水率の差を供試体21の厚さで除して平衡含水率勾配を求め、該水分流束、及び平衡体積含水率勾配を用いて下記(3)式により拡散係数を算出して取得する方法である。
D=J/(dWv/dX) ・・・(3)
ただし、(3)式中、Dは拡散係数(cm
2/day)を表わし、Jは水分流束(g/cm
2・day)を表わし、dWv/dXは平衡体積含水率勾配((g/cm
3)/cm)を表す。
前記質量の変化は、少なくとも、測定開始時と、湿度が平衡に達したときの各供試体21の質量を測定して求めるが、その際、供試体21の封止部材は装着した状態、又は脱着した状態のいずれでもよい。
なお、本文では、拡散係数は前記(3)式を用いて算出したが、拡散係数の取得方法はこれに限定されない。例えば下記(4)式のような値を用いてもよい。
ただし、(4)式中、Dは拡散係数を表わし、Wは含水率を表わし、W
0は100%、λはボルツマン変数を表わす。なお、ボルツマン変数とは乾燥面からの距離を乾燥期間の平方根で除した値である。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)普通ポルトランドセメント(略号:C)
太平洋セメント社製である。
(2)山砂(略号:S)
表乾密度は2.56g/cm3である。
(3)砂岩砕石(略号:G)
表乾密度は2.66g/cm3である。
(4)上水道水(略号:W)
(5)AE減水剤(略号:AD)
商品名はポゾリスNo.70[登録商標]で、BASF社製である。
(6)AE剤(略号:AE)
商品名はマスターエア404[登録商標]で、BASF社製である。
【0023】
2.供試体の作製
表1に示す配合に従い、前記の各材料を容量50リッターのパン型ミキサに一括して投入し、2分間混練した後、該混練物を内径10cm、高さ20cmの型枠に打設して成形しセメント質硬化体2(コンクリート)を得た。次に、該硬化体を20℃で28日間封緘養生した後に脱型し、
図2に示すように切り出して、厚さ1cmの供試体21を10枚作製した。
次に、前記供試体21の円周を封止部材(ラバーリング)で被覆して10枚の供試体21を得た。
【0024】
【0025】
3.平衡質量の測定、及び平衡体積含水率の取得
次に、
図2、
図4、及び
図5に示すように、前記10枚の供試体21、及び蒸留水が入った容器(シャーレ)を、分割した状態の、アクリル製の筐体11の第1配置部16(溝)、及び第2配置部17(底面)に、それぞれ配置した後、前記筐体11と10個の湿度測定器18(湿度センサIST HYT939、シスコム社製)が設置部19(挿入孔)に挿入された筐体11を重ね合わせて、10か所の模擬空間と開口部13を構成した。
次に、相対湿度が12%の環境下に前記湿度測定装置1を保管し、これらの10か所の模擬空間内の相対湿度を測定して、湿度が平衡に達したときの各供試体21を前記湿度測定装置1から取り出して、直ちに供試体21のラバーリングを外し、各供試体21の質量(平衡質量)を測定した。ここで、前記「湿度が平衡に達したとき」とは、1日あたりの相対湿度の変化が0.1%以下となったときである。また、1枚の供試体21の平衡質量を測定する間、残りの9枚の供試体21は、空気中での乾燥を防ぐため密閉袋に入れて一時的に保管した。
さらに、各供試体21は105℃で24時間乾燥して、各供試体21の乾燥質量を測定した。
そして、前記平衡質量、乾燥質量、及び前記(2)式を用いて平衡体積含水率を算出して取得した。なお、供試体21の体積は78.5cm
3を用いた。
図6に取得した平衡体積含水率を用いて作成した平衡体積含水率曲線を示す。なお、各供試体21の平衡含水率に対応する相対湿度は供試体21を挟む2つの空間の相対湿度の平均値を用いている。つまり、平衡質量の測定値は、測定対象の供試体21を挟む2つの空間の相対湿度の平均値における、平衡質量に相当する。
【0026】
図6に示すように、本発明の測定方法によれば、一つの装置を用いて、一度に複数の相対湿度における供試体21の平衡質量を測定できるから、平衡含水率の取得は容易で、平衡含水率曲線を短期間で作成できる。また、
図9には、JIS A 1475「建築材料の平衡含水率測定方法」に則り、相対湿度12、33、45、59、74、85、および96%に調湿したデシケータ内に厚さ1cmの供試体21を保管することにより取得した平衡含水率曲線の結果を併記している。本発明の平衡含水率曲線は、供試体21を挟む2つの空間の相対湿度の平均値を用いるものであるが、
図9に示す通り、JISA1475の測定方法による測定結果を、高い精度で再現できていることがわかる。
また、
図7は、乾燥期間における、供試体21の質量減少率について、開口部13から空間部15を除いて3cmの位置にある供試体21を示したものである。
図7に示すように、JIS A 1129「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」(
図7において「JIS法」と表記する。)が規定する10×10×40cmのコンクリート供試体を、相対湿度が60%の環境下に保管した場合、平衡状態に達するまで180日以上要するのに対し、本発明では乾燥期間が120日程度で平衡状態となり、測定期間を大幅に短縮できるから、本発明は実用性や利便性が極めて高い。なお、
図7は一例であり、開口部13から空間部15を除いて、1cm、2cm、4cm、5cmの供試体21の質量減少率についても、同様に、JIS法と比較して、測定期間を大幅に短縮できるものである。
【0027】
4.拡散係数の取得
前記各供試体21の平衡質量の測定の際、蒸留水が入った容器の質量も測定した。そして、各供試体21及び容器の質量の変化は、測定開始時と、湿度が平衡に達したときの各供試体21及び容器の質量の差から求めた。次に、各供試体21及び容器の質量の変化から、各供試体21を通過する単位時間及び単位面積あたりの水分量である水分流束と、そのときの隣り合う供試体21の平衡体積含水率の差を供試体21の厚さで除して平衡体積含水率勾配を求めた。そして、該水分流束、及び平衡体積含水率勾配を用いて前記(3)式により拡散係数を算出して取得した。
図8に平衡体積含水率に対する拡散係数のグラフを示す。本発明の拡散係数の取得方法によれば、平衡体積含水率に対する拡散係数を短期間で容易に求めることができる。