(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139409
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 5/02 20060101AFI20220915BHJP
H04L 27/26 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H04L5/02
H04L27/26 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039781
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(71)【出願人】
【識別番号】517085125
【氏名又は名称】株式会社毎日放送
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大季
(72)【発明者】
【氏名】柴山 武英
(72)【発明者】
【氏名】岩下 功志
(57)【要約】
【課題】全二重無線通信において、OFDM信号の直交性を崩すことなくデジタルキャンセルを容易に行えるようになる無線通信システムを提供する。
【解決手段】変調方式にOFDMを使用し、主局1から従局2に向かう下り回線をその逆の上り回線よりも高い伝送レートにて全二重無線通信を行う無線通信システムにおいて、従局2は、下り回線のOFDMシンボルの2倍の長さの上り回線のOFDMシンボルを生成して、下り回線のシンボルタイミングに合わせたタイミングで送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調方式にOFDMを使用し、主局から従局に向かう下り回線をその逆の上り回線よりも高い伝送レートにて全二重無線通信を行う無線通信システムにおいて、
前記従局は、上り回線のOFDMシンボルを下り回線のOFDMシンボルのN倍(ここで、Nは2以上の整数)の長さで生成し、下り回線のシンボルタイミングに合わせたタイミングで送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記従局は、下り回線の信号に対して、下り回線のOFDMシンボルの有効シンボル長のFFT窓を下り回線のシンボルタイミングに合わせて設け、FFT窓内の下り回線の信号に対してFFT処理を行うことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の無線通信システムにおいて、
前記主局は、上り回線の信号に対して、下り回線のOFDMシンボルの有効シンボル長のFFT窓を下り回線のシンボルタイミングに合わせて設け、FFT窓内の上り回線の信号に対してFFT処理を行うことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無線通信システムにおいて、
前記従局は、下り回線のOFDMシンボル毎に干渉波の伝搬路特性を推定し、上り回線のOFDMシンボルの区間に対応する下り回線のOFDMシンボル毎の推定結果を平均することを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の無線通信システムにおいて、
Nが3以上の場合に、前記主局は、上り回線のOFDMシンボルの区間に対して少なくとも2つのFFT窓を設け、各FFT窓内の上り回線の信号をダイバーシティ合成することを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
変調方式にOFDMを使用し、主局から従局に向かう下り回線をその逆の上り回線よりも高い伝送レートにて全二重無線通信を行う無線通信方法において、
前記従局が、下り回線のOFDMシンボルのN倍(ここで、Nは2以上の整数)の長さの上り回線のOFDMシンボルを生成して、下り回線のシンボルタイミングに合わせたタイミングで送信することを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変調方式にOFDMを使用して全二重無線通信を行う無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図2に示すように、主局と従局の間で、同一の周波数、時間、及び空間を用いて双方向の無線通信を行う全二重無線通信は、周波数分割多重や時分割多重と比較して高い伝送レートを実現できる通信方式として近年注目を浴びている。全二重無線通信システムは、主局から従局に向けて伝送を行う下り回線と、従局から主局に向けて伝送を行う上り回線とを有する。例えば、下り回線では映像やデータなどの高レートのデータを伝送し、上り回線では制御用のデータなどを低レートで伝送することが多い。このように、一般的には上り回線と下り回線の伝送レートは非対称であることが多い。以降の説明では、下り回線の方が、伝送レートが高いものとする。
【0003】
全二重無線通信では、主局、従局共に、相手局からの受信信号に自局の送信信号が干渉波として混入してしまうため、この干渉成分をキャンセルする必要がある。干渉成分のキャンセル方式としては、(i)アナログキャンセル方式と、(ii)デジタルキャンセル方式に大別される。
【0004】
(i)アナログキャンセルでは、送信部から受信部に直接回り込む低遅延時間の干渉波に対して、受信アナログ回路にて干渉波のレプリカを生成し、それを受信信号から減算することで干渉波をキャンセルする。
(ii)デジタルキャンセルでは、アナログキャンセルの残差成分や送信部から送出された信号が近隣の構造物に反射し、長い遅延時間を伴って受信部に回り込むような超遅延の干渉波をキャンセルすることを目的としている。デジタルキャンセルに関しても、アナログキャンセルと同様に干渉波レプリカを生成し、それを受信信号から減算する方式がよく用いられている。
本発明はデジタルキャンセルに関するものであり、以降ではデジタルキャンセルを中心に説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全二重無線通信システムでは、変調方式として、例えば、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;直交周波数分割多重)が使用される。OFDMを用いた無線通信システムに関しては、これまでに種々の発明が提案されている。例えば、特許文献1には、送信側にて、所定の周期で、第1の既知信号と、第1の既知と同一又は符号反転させた第2の既知信号とを送信し、受信側にて、受信信号に含まれる第2の既知信号と遅延信号に含まれる第1の既知信号とが打ち消し合うように減算又は加算して、受信信号に含まれる雑音又は干渉波の成分を抽出する発明が開示されている。
【0007】
全二重無線通信システムにおいて変調方式にOFDMを用いる場合、主局と従局の間でOFDMシンボルのタイミングが同期していないと、デジタルキャンセルが困難になるという問題がある。以下、具体的に説明する。
【0008】
OFDMでは、反射波の影響を軽減するために、ガードインターバル(もしくはサイクリックプレフィックス)と称される復調タイミングの緩衝期間が設けられている。OFDM信号を復調する場合、受信信号に対してOFDMシンボルの有効シンボル長の時間窓(以降、「FFT窓」と称する)を設け、FFT窓内の信号をFFT(高速フーリエ変換)することで、時間領域の信号から周波数領域の信号に変換する。このとき、FFT窓は、反射波や隣接シンボルを取り込まないようなタイミングに設ける必要がある。もし、このタイミングがずれてしまうと、反射波や隣接シンボルによるISI(Inter Symbol Interference;シンボル間干渉)が発生し、伝送特性劣化が生じてしまう。
【0009】
図3には、従局におけるOFDM信号タイミングの例を示してある。従局では主局から送信された信号(下り回線)を受信するが、その際に従局の送信した信号(上り回線)が干渉波として混入してしまう。ここで、FFT窓は下り回線のタイミングに基づいて設けており、干渉波に対しては適切なタイミングではないため、FFT窓内に上り回線のシンボル切り替えタイミングが存在する場合がある。このような場合、FFT窓内の上り回線はOFDMとしての直交性が崩れ、その際のコンスタレーションは
図4に示すようにガウス雑音のような信号となり、この信号をキャンセルすることは困難である。
【0010】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、全二重無線通信において、OFDM信号の直交性を崩すことなくデジタルキャンセルを容易に行えるようになる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記目的を達成するために、無線通信システムを以下のように構成した。
すなわち、変調方式にOFDMを使用し、主局から従局に向かう下り回線をその逆の上り回線よりも高い伝送レートにて全二重無線通信を行う無線通信システムにおいて、従局は、上り回線のOFDMシンボルを下り回線のOFDMシンボルのN倍(ここで、Nは2以上の整数)の長さで生成し、下り回線のシンボルタイミングに合わせたタイミングで送信することを特徴とする。
【0012】
ここで、従局は、下り回線の信号に対して、下り回線のOFDMシンボルの有効シンボル長のFFT窓を下り回線のシンボルタイミングに合わせて設け、FFT窓内の下り回線の信号に対してFFT処理を行うようにしてもよい。
【0013】
また、主局は、上り回線の信号に対して、下り回線のOFDMシンボルの有効シンボル長のFFT窓を下り回線のシンボルタイミングに合わせて設け、FFT窓内の上り回線の信号に対してFFT処理を行うようにしてもよい。
【0014】
また、従局は、下り回線のOFDMシンボル毎に干渉波の伝搬路特性を推定し、上り回線のOFDMシンボルの区間に対応する下り回線のOFDMシンボル毎の推定結果を平均するようにしてもよい。
【0015】
また、Nが3以上の場合に、主局は、上り回線のOFDMシンボルの区間に対して少なくとも2つのFFT窓を設け、各FFT窓内の上り回線の信号をダイバーシティ合成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、全二重無線通信において、OFDM信号の直交性を崩すことなくデジタルキャンセルを容易に行えるようになる無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図2】全二重無線通信システムの概要を示す図である。
【
図3】従局におけるOFDM信号タイミングの例を示す図である。
【
図4】タイミングずれが生じた場合の従局のコンスタレーションの例を示す図である。
【
図5】サーキュレータ(方向性結合器)の配置例を示す図である。
【
図6】N=1、N=2の場合のOFDMシンボルフォーマットの例を示す図である。
【
図7】従局の復調部におけるN=2の場合の受信信号タイミングの例を示す図である。
【
図8】OFDMの直交性が保たれた場合の従局のコンスタレーションの例を示す図である。
【
図9】主局の復調部におけるN=2の場合の受信信号タイミングの例を示す図である。
【
図10】主局の復調部におけるN=3の場合の受信信号タイミングの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態に係る無線通信システムの構成例を示してある。本例の無線通信システムは、変調方式にOFDMを使用し、主局1から従局2に向かう下り回線をその逆の上り回線よりも高い伝送レートにて全二重無線通信を行うように構成されている。
【0019】
主局1は、変調部11と、送信高周波部12と、送受信アンテナ13と、受信高周波部14と、復調部15とを有する無線通信装置である。従局2も同様に、変調部21と、送信高周波部22と、送受信アンテナ23と、受信高周波部24と、復調部25とを有する無線通信装置である。
【0020】
主局1の変調部11では、下り回線の伝送データを受け取り、誤り訂正符号化などの処理を行った後にOFDM信号に変調する。変調部11にて生成された変調信号は送信高周波部12に入力され、送信高周波部12にて所望のキャリア周波数に変換されて、送受信アンテナ13に出力される。送受信アンテナ13は、送信高周波部12から入力された送信信号を電波として空間に送出する。
【0021】
ここで、送受信アンテナ13は、送信アンテナと受信アンテナが一体の構造であってもよく、それぞれ別に分離された構造であってもよい。一体型アンテナの場合には、
図5に示すように、送信高周波部12と受信高周波部14の間にサーキュレータと呼ばれる方向性結合器を設けることが多い。この場合、送信高周波部12からの信号は、サーキュレータを介して送受信アンテナ13に伝送される。また、送受信アンテナ13で受信された信号は、サーキュレータを介して受信高周波部14に伝送される。このとき、送信高周波部12の信号から受信高周波部14への漏洩成分が僅かではあるが残留してしまう。一般的には、この間のアイソレーションは20~30dB程度であり、この漏洩成分は干渉となる。
【0022】
また、送受信アンテナ13が分離構造の場合にも、送信アンテナから受信アンテナへと空間を経由して直接回り込む成分が干渉として発生してしまう。この間のアイソレーションは、使用するアンテナの指向性利得やアンテナ間の距離にもよるが、おおよそ50~100dB程度であり、一体型アンテナの場合よりも高いアイソレーションを確保することができる。主局1の送受信アンテナ13から送出された信号は、伝搬路を経由して、対向する従局2の送受信アンテナ23で受信される。
【0023】
従局2の送受信アンテナ23で受信された下り回線の信号は、受信高周波部24にてキャリア信号からIF(Intermediate Frequency;中間周波数)に変換され、復調部25に出力される。復調部25では、入力された信号に対し、後述する干渉波のキャンセル処理とOFDM信号の復調処理を行い、下り回線の復調データを生成する。OFDM復調処理に関しては一般的な復調処理であり、ここではその説明を割愛する。
【0024】
次に、従局2の変調部21について説明する。前述したように、下り回線の信号タイミングと上り回線の信号タイミングが異なると、デジタルキャンセルが困難となってしまう。そこで、本例の無線通信システムでは、従局2の変調部21で生成される上り回線のOFDMシンボルをN(ここで、Nは2以上の整数)倍長に拡張し、シンボルタイミングを主局1からの下り回線の受信タイミングと一致させることで、タイミングずれにより生じていた問題の解決を図る。
【0025】
まずは、従局2の変調部21で生成される上り回線のOFDMシンボルのN倍長化について説明する。ここではN倍長化のOFDMシンボルフォーマットについて説明し、N倍長の必要性については後述することとする。
【0026】
図6は、N=1、N=2の場合のOFDMシンボルフォーマットを示している。N=1の場合は、従来と同様のOFDMシンボルフォーマットである。N=2の場合は、N=1の場合の有効シンボルをコピーして連結し、従来の2倍の長さのシンボル後半部分をガードインターバルとしてシンボルの前半にコピーする。
【0027】
OFDMシンボルは、シンボルの先頭と最後で波形の連続性があり、連結しても連結タイミングでの連続性は保たれる。同様に、ガードインターバルのタイミングでも連続性はあるため、N=2倍に拡張したOFDMシンボルの期間内であれば、どのタイミングにFFT窓を設けてもOFDMの直交性は確保できる。しかしながら、従来は1シンボルで伝送していた情報をN倍の時間をかけて伝送するため、伝送レートは1/Nに低下してしまう。ただし、双方向全二重通信システムでは、上り回線は制御データの伝送などの低レート伝送で運用されることが多く、伝送レートの低下は問題にならないことが多い。
【0028】
次に、従局2の変調部21でのシンボルタイミング制御について説明する。従局2の変調部21では、上り回線の伝送データに対して変調部11と同様の変調処理を行う。このときの変調タイミングは、復調部25からのタイミングに基づいて制御される。復調部25では、受信信号からシンボルタイミングを再生し、そのタイミングを変調部21に伝達する。
【0029】
変調部21では、送信高周波部22で生じる遅延を考慮して、
図7に示すように、受信信号と送信信号のタイミングが一致するように送出タイミングを制御する。変調部21にて生成された変調信号は、送信高周波部21、送受信アンテナ23を経由して電波として空間に送出され、主局1に向けて伝送されると同時に、従局2の下り回線の受信信号に干渉波として混入することになる。
【0030】
このように、変調部21にて受信信号と送信信号のタイミングを一致させることで、下り回線のタイミングでFFT窓を設けても、そのFFT窓内で上り回線についてもシンボルの連続性がある。このため、下り回線、上り回線共に、OFDM信号の直交性を確保することができる。
【0031】
以上のように、シンボルN倍長化とシンボルタイミング制御によってOFDM信号の直交性が保たれるので、デジタルキャンセルを容易に行うことができる。このときのコンスタレーションのイメージを
図8に示す。
図8は、下り回線が16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)であり、干渉となる上り回線がQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)である場合の様子を示している。このように、シンボルのタイミングが一致している状態では、
図4に示した状態のコンスタレーションと比較して、デジタルキャンセルが容易になることが分かる。
【0032】
次に、デジタルキャンセルの一例を以下に示す。復調部25の受信信号をYとすると、直交性が確保されている状態では、周波数領域の受信信号Yは下記の式(1)で表すことができる。
【数1】
ここで、ωは周波数、H
D は下り回線の伝搬路特性、X
D は下り回線の送信信号、H
U は上り回線の伝搬路特性、X
U は上り回線の送信信号、Nは雑音である。
【0033】
直交性が崩れてしまった場合には、干渉成分であるHU (ω)XU (ω)の項をこのように簡単に表すことができず、周辺のサブキャリアや隣接シンボルとの畳み込み和によって記述される。直交性が保たれている場合には、干渉キャンセルするためには当該サブキャリアのみを考慮すればよいが、直交性が崩れてしまった場合には周辺のサブキャリアや隣接シンボルも演算対象とする必要があり、デジタルキャンセル処理が困難となる。
【0034】
デジタルキャンセル処理は、下記の式(2)に示すように、受信信号Yから干渉波レプリカUを減算することで実現できる。
【数2】
式(2)では、所望の下り回線信号をDとし、干渉となる上り信号のレプリカをUとしている。
【0035】
また、干渉波レプリカUは、下記の式(3)で表される。
【数3】
式(3)において、X
U (ω)は既知信号として変調部21から入力される。また、H^
U (ω)は干渉波の伝搬路特性の推定結果を示す。
【0036】
伝搬路特性の推定結果を算出する方式としては、例えば、OFDMサブキャリア内に挿入されているパイロットキャリアから算出する方式や、既知信号であるプリアンブルなどから算出する方式がある。もし、伝搬路特性の推定結果に誤差がない場合には、下記の式(4)となる。
【数4】
【0037】
式(1)、式(3)、式(4)を式(2)に代入すると、下記の式(5)が得られる。
【数5】
【0038】
式(5)に示すように、デジタルキャンセルによって干渉成分がキャンセルされ、所望の上り成分のみが抽出される。
以上説明した内容が、従局2における下り回線、上り回線のシンボルタイミングを一致させる処理と、そのときの下り回線のデジタルキャンセル処理になる。
【0039】
次に、主局1のデジタルキャンセル処理について説明する。従局2の送受信アンテナ23から送出された上り回線の信号は、主局1の送受信アンテナ13で受信され、受信高周波部14に入力される。受信高周波部14は、従局2の受信高周波部24と同様に受信信号を周波数変換し、復調部15に出力する。
【0040】
従局2では、前述したように受信信号と送信信号のタイミングを一致させるように制御しているが、主局1の復調部15では、
図9に示すように、伝搬遅延の影響により受信信号と送信信号のタイミングを一致させることはできない。伝送距離を1kmとすると、片道の伝搬遅延時間τ[sec]は、τ=3.33us×1の伝搬遅延となる。したがって、
図9におけるタイミングのずれは、往復の伝搬時間の2τ[sec]となる。
【0041】
このタイミングずれがガードインターバル長よりも十分短い場合には、N=1シンボル長であっても問題とはならないが、ガードインターバルを超えるような場合には、
図3で示したようなシンボル間干渉が発生してしまう。例えば、ガードインターバルを12usとした場合、500m程度の伝搬距離であれば、タイミングずれは2τ=3.33usであり、12us>3.33usなので大きな問題とならない。しかしながら、50kmの伝搬距離になると、タイミングずれは2τ=333.3usになり、シンボル長を超えてしまうようなタイミングずれとなってしまう。見通しでの伝送では50kmを超えるような伝送距離で運用することも多く、シンボルタイミングは大きくずれてしまう。
【0042】
このように、伝搬距離が長くなると、ガードインターバル長を超えるようなタイミングずれとなり、OFDMの直交性が崩れてしまうため、デジタルキャンセルが困難となる。本例の無線通信システムでは、前述したように、従局2の変調部21で生成する上り回線のOFDMシンボルをN倍の長さに拡張することで、このタイミングずれの問題を回避している。
【0043】
図9には、N=2に拡張した場合の主局1の復調部15の受信信号タイミングを示してあり、FFT窓も1シンボルの隙間を空けて設けられている。従来は上り回線のタイミングに合わせてFFT窓を設けていたが、
図9では、上り回線はN=2倍に拡張したことによりタイミングに自由度があるため、上り、下り共にOFDMの直交性を確保できるよう、下り回線のタイミングに合わせてFFT窓に設けている。このタイミングでFFT窓を設ければ、主局1の復調部15でも式(1)から式(5)で示したようなデジタルキャンセル処理を適用することが可能となる。
主局1の復調部15では、従局2の復調部25と同様にデジタルキャンセル処理とOFDM復調処理を行い、復調データを生成する。
【0044】
以上のように、第1実施例では、変調方式にOFDMを使用し、主局1から従局2に向かう下り回線をその逆の上り回線よりも高い伝送レートにて全二重無線通信を行う無線通信システムにおいて、従局2は、上り回線のOFDMシンボルを下り回線のOFDMシンボルの2倍の長さで生成し、下り回線のシンボルタイミングに合わせたタイミングで送信する。このように、OFDMシンボルのフォーマット及びシンボルタイミングの制御を工夫することで、OFDM信号の直交性を崩すことなくデジタルキャンセルを容易に行えるようになる。
【0045】
すなわち、従局2では、下り回線の信号に対して、下り回線のOFDMシンボルの有効シンボル長のFFT窓を下り回線のシンボルタイミングに合わせて設け、FFT窓内の下り回線の信号に対してFFT処理を行うことで、下り回線に対して容易にデジタルキャンセルを行える。また、主局1では、上り回線の信号に対して、下り回線のOFDMシンボルの有効シンボル長のFFT窓を下り回線のシンボルタイミングに合わせて設け、FFT窓内の上り回線の信号に対してFFT処理を行うことで、上り回線に対して容易にデジタルキャンセルを行える。
【0046】
ここで、上記の説明では、上り回線のOFDMシンボルの長さを下り回線のOFDMシンボルの2倍にしているが、下り回線のOFDMシンボルの3倍以上であってもよい。すなわち、従局2は、上り回線のOFDMシンボルを下り回線のOFDMシンボルのN倍(ここで、Nは2以上の整数)の長さで生成し、下り回線のシンボルタイミングに合わせたタイミングで送信してもよい。
【0047】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る全二重無線通信システムについて説明する。ここでは、
図7に示した従局2の受信信号タイミングを例にして説明する。N=2倍長化し、FFT窓タイミングtを導入した場合の従局2における、復調部25の式(1)に対応する受信信号Yを下記の式(6)に示す。
【0048】
【数6】
ここで、下り回線の信号X
D はもちろんtに依存しているが、上り回線の信号X
U はOFDMシンボルを2倍長化しているため、tに依存しない。
【0049】
干渉信号をキャンセルする際、式(3)に示したように、回り込みの伝搬路特性を推定する必要がある。しかしながら、この伝搬路特性の推定は、雑音などの影響により、式(4)に示したように、誤差のない推定を行うことは困難である。そこで、下記の式(7)に示すように、t=1で推定した結果H^U (ω,1)とt=2で推定した結果H^U (ω,2)を平均することで、ガウス雑音の混入による推定精度の劣化を3dB改善させることが可能となる。
【0050】
【0051】
デジタルキャンセル処理では、式(7)の演算による回り込みの伝搬路特性を改善した結果を用いて、式(5)に示すキャンセル処理を行えばよい。このような処理を行うことで、キャンセル精度を改善させることが可能となる。
【0052】
以上のように、第2実施例の従局2は、下り回線のOFDMシンボル毎に干渉波の伝搬路特性を推定し、上り回線のOFDMシンボルの区間に対応する下り回線のOFDMシンボル毎の推定結果を平均する。これにより、ガウス雑音の混入による推定精度の劣化を抑えることができ、下り回線に対するデジタルキャンセルの精度が向上する。
【0053】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る全二重無線通信システムについて説明する。第1実施形態、第2実施形態ではN=2倍長化について説明を行ったが、N=3以上のシンボルフォーマットについても本発明を適用することが可能である。
【0054】
図10には、主局1の復調部15におけるN=3の場合の受信信号タイミングの例を示してある。復調部15は、前述したように上り回線の信号を復調するが、下り回線の干渉信号との直交性を確保するため、下り回線のタイミングに基づいてFFT窓を設ける。このとき、シンボル長をN=3倍長化しているため、2シンボル分のFFT窓を設けることができる。この場合、2つのシンボルをダイバーシティ合成することで、CNRを3dB以上改善することができる。CNRを3dB改善することが可能になると、上り回線の変調多値数を1ビット上げることができる。
【0055】
したがって、例えば、上り回線でBPSK(1ビット伝送)を用いている場合、N=2の場合には、レートが1/2となり、0.5ビットの伝送効率となる。この場合に、N=3とするとレートが1/3となるが、変調多値数を1ビット上げて、QPSK(2ビット伝送)を用いることができる。この場合、2ビット/3=0.66ビットの伝送効率となる。したがって、BPSKを用いる場合には、N=2(0.5ビット)とN=3(0.66ビット)を比較して、N=3の方が効率がよいことが分かる。
【0056】
同様に、上り回線でQPSKを用いる場合は、N=2とN=3が1ビット伝送で同じ効率となり、8QAM(3ビット伝送)を用いる場合は、N=2の場合に1.5ビット伝送、N=3の場合に1.33ビット伝送となり、N=2の場合の方が効率がよいことが分かる。16QAM(4ビット伝送)以上を用いる場合にも、8QAMと同様にN=2の方が効率的である。
【0057】
以上のことをまとめると、BPSKを用いる場合はN=3、QPSKを用いる場合はN=2あるいはN=3、8QAM以上を用いる場合にはN=2とする方が効率がよいこととなる。このように、使用する変調多値数に応じて適切なN倍長を選択することで、伝送効率を最適化することが可能となる。
【0058】
以上のように、第3実施例の主局1は、上り回線のOFDMシンボルの区間に対して2つのFFT窓を設け、各FFT窓内の上り回線の信号をダイバーシティ合成する。これにより、上り回線の変調多値数を上げることができるため、伝送効率を向上させることができる。ここでは、N=3の場合について説明した、N=4以上にしてもよい。この場合、上り回線のOFDMシンボルの区間に対して設けるFFT窓の数は(N-1)が望ましいが、2つであっても構わない。すなわち、上り回線のOFDMシンボルの区間に対して少なくとも2つのFFT窓を設け、各FFT窓内の上り回線の信号をダイバーシティ合成できればよい。
【0059】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された構成に限定されるものではなく、他の構成のシステムに広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0060】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、変調方式にOFDMを使用して全二重無線通信を行う無線通信システムに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1:主局、 2:従局、 11,21:変調部、 12,22:送信高周波部、 13,23:送受信アンテナ、 14,24:受信高周波部、 15,25:復調部