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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139410
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】レーダアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/22 20060101AFI20220915BHJP
   H01Q 19/15 20060101ALI20220915BHJP
   H01Q 1/52 20060101ALI20220915BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01Q13/22
H01Q19/15
H01Q1/52
G01S7/03 240
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039782
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 瞳子
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 裕三
(72)【発明者】
【氏名】三浦 庸平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 俊也
【テーマコード(参考)】
5J020
5J045
5J046
5J070
【Fターム(参考)】
5J020BC06
5J020BC12
5J020BD04
5J020DA03
5J045DA04
5J045HA04
5J045NA07
5J046AA02
5J046AB08
5J046AB09
5J046UA02
5J070AD01
5J070AF01
5J070AF05
5J070AK11
(57)【要約】
【課題】組付精度によらず、より良好な指向性特性を得ることが可能なレーダアンテナを提供する。
【解決手段】複数のスロットが形成された導波管2に、ホーン状のフレア3が組み付けられたレーダアンテナ1であって、導波管2は、断面が略四角形の筒状で前面部にスロットが形成された本体部21と、本体部21の両側面部に設けられ本体部21の前面部から所定の距離に該側面部から略垂直に延びる所定の長さの特性維持部221と、特性維持部221と連接しフレア3の基端部31a、32cと接触する連結部222と、を備え、導波管2の連結部222側に突出する空孔で、導波管2の連結部222とフレア3の基端部31a、32cとの間を介して電波が導波管2の背面側に伝搬するのを防止するチョーク部2Aを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが形成された導波管に、ホーン状のフレアが組み付けられたレーダアンテナであって、
前記導波管は、断面が略四角形の筒状で前面部に前記スロットが形成された本体部と、前記本体部の両側面部に設けられ前記本体部の前面部から所定の距離に該側面部から略垂直に延びる所定の長さの特性維持部と、前記特性維持部と連接し前記フレアの基端部と接触する連結部と、を備え、
前記導波管の連結部側または前記フレアの基端部側に突出する空孔で、前記導波管の連結部と前記フレアの基端部との間を介して電波が前記導波管の背面側に伝搬するのを防止するチョーク部を備える、
ことを特徴とするレーダアンテナ。
【請求項2】
前記本体部の両側面部に、断面がコ字状の耳部がその開口側が前記本体部の側面部側に向くように設けられ、前記耳部の前記本体部の前面部側の辺部が前記特性維持部を構成し、前記耳部の前記本体部の側面部に対向する辺部が前記連結部を構成し、
前記チョーク部は、前記連結部を貫通し前記連結部の長手方向に沿って延びている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダアンテナ。
【請求項3】
前記電波が前記導波管の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できるように、前記耳部の大きさ、前記チョーク部の大きさおよび位置の少なくともひとつが設定されている、
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナとして、導波管の前面に複数のスロット(長孔)を形成し、各スロットの傾斜角度、幅、切込み深さ、配置などを調整することで所定の指向性特性あるいは周波数特性を得るようにした放射導波管を備えたレーダアンテナが知られている(例えば、特許文献1等参照。)。このレーダアンテナは、複数のスロットが形成された導波管を挟むように、上フレアと下フレアで構成されるホーン状のフレアが配設され、複数の導波管押え金具によって導波管とフレアとが組み付けられている。
【0003】
このようなレーダアンテナにおいて良好なアンテナ特性を得るには、導波管とフレアとが隙間なく密着していることが望ましいが、組付時に導波管とフレアとの間に部分的に隙間が生じてしまうことが避けられない。この結果、多数形成されたスロットの一部の特性が設計通りにならず、アレイアンテナ全体としての水平面指向性が設計値に対して劣る、という問題があった。そして、レーダアンテナに対する要求仕様が厳しい場合には、この特性劣化のために歩留まりが悪くなる、という問題が生じ得ていた。
【0004】
このような問題を解決するために、組付精度によらず良好な指向性特性を得ることが可能、というレーダアンテナが知られている(例えば、特許文献2等参照。)。このレーダアンテナの導波管は、断面が略四角形の筒状で前面部にスロットが形成された本体部と、本体部の両側面部に設けられ本体部の前面部から所定の距離に略垂直に延びる特性維持部と、本体部に設けられフレアの基端部と連結するための連結部と、を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-79424号公報
【特許文献2】特開2019-165390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような特許文献2に記載のレーダアンテナによれば、組付精度によらず良好な指向性特性を得ることが可能であるが、レーダアンテナに対する要求仕様がますます厳しくなっているなかで、導波管とフレアとの間に隙間があったとしても、より良好な指向性特性が得られるレーダアンテナが望まれている。
【0007】
そこで本発明は、組付精度によらず、より良好な指向性特性を得ることが可能なレーダアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、複数のスロットが形成された導波管に、ホーン状のフレアが組み付けられたレーダアンテナであって、前記導波管は、断面が略四角形の筒状で前面部に前記スロットが形成された本体部と、前記本体部の両側面部に設けられ前記本体部の前面部から所定の距離に該側面部から略垂直に延びる所定の長さの特性維持部と、前記特性維持部と連接し前記フレアの基端部と接触する連結部と、を備え、前記導波管の連結部側または前記フレアの基端部側に突出する空孔で、前記導波管の連結部と前記フレアの基端部との間を介して電波が前記導波管の背面側に伝搬するのを防止するチョーク部を備える、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダアンテナにおいて、前記本体部の両側面部に、断面がコ字状の耳部がその開口側が前記本体部の側面部側に向くように設けられ、前記耳部の前記本体部の前面部側の辺部が前記特性維持部を構成し、前記耳部の前記本体部の側面部に対向する辺部が前記連結部を構成し、前記チョーク部は、前記連結部を貫通し前記連結部の長手方向に沿って延びている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のレーダアンテナにおいて、前記電波が前記導波管の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できるように、前記耳部の大きさ、前記チョーク部の大きさおよび位置の少なくともひとつが設定されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、導波管の本体部の両側面部に特性維持部が設けられ、さらに、電波が導波管の背面側に伝搬するのを防止するチョーク部が設けられているため、組付精度によらず、より良好な指向性特性・アンテナ特性を得ることが可能となる。すなわち、導波管の指向性特性は、導波管の両側面から垂直に延びる部材の位置と長さ、つまり、この発明では特性維持部の位置と長さに依存するが、特性維持部が導波管自体に設けられているため、その位置と長さが変化することがない。このため、たとえ導波管の連結部とフレアの基端部との間に隙間が生じたとしても、良好なアンテナ特性を得ることが可能となる。
【0012】
さらに、チョーク部が設けられているため、導波管の連結部とフレアの基端部との間を介して電波が導波管の背面側に伝搬するのを防止することが可能で、より良好な指向性特性を得ることが可能となる。しかも、チョーク部は、導波管の連結部側またはフレアの基端部側に突出する空孔であるため、構成が簡易で、容易かつ精度高く製作することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、断面がコ字状の耳部の一辺部で連結部が構成され、チョーク部が連結部を貫通して連結部の長手方向に沿って延びているだけであるため、構成が簡易で、容易かつ精度高く製作することが可能となる。特に、本体部と耳部を含む導波管を一体で製作する場合に、押し出し加工や引き抜き加工で容易に製作することが可能となる。しかも、連結部を貫通するチョーク部が設けられているため、つまり、連結部が短い2辺で構成されているため、押し出し加工や引き抜き加工において材料が隙間なく密に(途切れることなく)流れ、精度高く製作することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、電波が導波管の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できるように、耳部の大きさやチョーク部の大きさ、位置が設定されているため、より良好な指向性特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態に係るレーダアンテナの概略構成を示す側面図である。
図2図1のレーダアンテナの導波管の拡大断面図である。
図3図1のレーダアンテナの電波の伝搬状態を示す図である。
図4図1のレーダアンテナにおける導波管とフレアとの隙間と耳部内を示す拡大図である。
図5図4のハッチング部において、耳部の寸法・形状を適正化しない場合の電界分布を示す図(a)と、耳部の寸法・形状を適正化した場合の電界分布を示す図(b)である。
図6図1のレーダアンテナにおいて、耳部の幅寸法のみを調整した場合の透過係数S21を示す図(a)と、耳部の高さ寸法のみを調整した場合の透過係数S21を示す図(b)と、チョーク部の幅寸法のみを調整した場合の透過係数S21を示す図(c)である。
図7図1のレーダアンテナにおいて、耳部の厚みのみを調整した場合の透過係数S21を示す図(a)と、チョーク部の位置のみを調整した場合の透過係数S21を示す図(b)と、耳部の幅寸法と高さ寸法を調整した場合の透過係数S21を示す図(c)である。
図8図1のレーダアンテナにおいて、耳部の大きさ、チョーク部の大きさおよび位置を最適化した場合と、最適化しない場合の透過係数S21を示す図である。
図9】耳部にチョーク部が設けられていない場合における正偏波成分の励振振幅を示す図(a)と、交差偏波成分の励振振幅を示す図(b)である。
図10】耳部にチョーク部が設けられている場合における正偏波成分の励振振幅を示す図(a)と、交差偏波成分の励振振幅を示す図(b)である。
図11図1のレーダアンテナにおいて、耳部の大きさ、チョーク部の大きさおよび位置が最適化されていない場合の平均利得を示す図(a)と、最適化された場合の平均利得を示す図(b)である。
図12】この発明の実施の形態における耳部の第1の変形例を示す図(a)と、第2の変形例を示す図(b)と、第3の変形例を示す図(c)である。
図13】この発明の実施の形態において、チョーク部がフレア側に設けられた場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係るレーダアンテナ1の概略構成を示す側面図であり、図2は、このレーダアンテナ1の導波管2の拡大断面図である。このレーダアンテナ1は、複数のスロット2aが形成された導波管2に、ホーン状のフレア3が組み付けられた長尺状のアレイアンテナであり、導波管2の形状、構造が従来のレーダアンテナと異なり、この異なる構成について主として以下に説明する。
【0018】
導波管2は、図2に示すように、本体部21と、本体部21の両側面部213、214に設けられた耳部22と、を備え、本体部21と耳部22とが一体的に形成されている。ここで、本体部21と耳部22の形状、構成を明確にするために便宜上、本体部21と耳部22との境に実線を描き、本体部21と耳部22とに異なるハッチングを付している。
【0019】
本体部21は、断面が略四角形の筒状の長尺体で、前面部211にスロット2aが複数形成されている。すなわち、断面が横長の略四角形の長い筒状体で、水平に延びた状態で、前面部211と背面部212が略垂直に延び、上側の側面部213と下側の側面部214が略水平に延びる。そして、上下方向に延びる長孔状のスロット2aが、前面部211の長手方向に複数形成され、各スロット2aの傾斜角度、幅、切込み深さ、配置などは、所定の指向性特性および周波数特性が得られるように設定されている。このような本体部21は、導波管としての機能部であり、その形状、厚みは、所定のアンテナ特性が得られるように設定されている。
【0020】
耳部22は、断面がコ字状の長尺体で、その開口側が本体部21の側面部213、214側に向くように設けられている。すなわち、耳部22と本体部21の側面部213、214とで、断面が略四角形の筒体・空洞が形成されるようになっている。そして、耳部22の本体部21の前面部211側の辺部(垂直辺)が、本体部21の両側面部213、214に設けられた特性維持部221を構成する。また、耳部22の本体部21の側面部213、214に対向する辺部(水平辺)が、特性維持部221と連接しフレア3の基端部31a、32cと接触する連結部222を構成する。
【0021】
ここで、特性維持部221は、本体部21の前面部211から所定の距離D1において、側面部213、214から略垂直に延びる部位であり、所定の長さD2を有する。すなわち、本体部21の導波管としてのアンテナ特性・指向性特性を規定するものであり、所定のアンテナ特性が得られるように、位置と形状つまり距離D1と長さD2が設定されている。ここで、双方の特性維持部221の距離D1および長さD2は、同寸法に設定されている。
【0022】
連結部222は、フレア3の基端部31a、32cと連結するための部位であり、本体部21の側面部213、214に対して略平行に延びている。この連結部222の反特性維持部221側の端部から本体部21側に延びる連結背面部223が、本体部21の側面部213、214に連結されている。ここで、連結背面部223と本体部21の背面部212の外面が面一になるように、耳部22が本体部21に設けられている。
【0023】
このように、後述するチョーク部2Aが設けられていない状態では、導波管2の断面形状は、上下に三層・三室に分けられた略四角形で、中央の層の前面部211が突出したものとなっている。そして、アルミ材や鍛銅材などを押し出し加工や引き抜き加工して、製造できるように形成されている。
【0024】
フレア3は、平板状の上フレア31と下フレア32とから構成されている。上フレア31は、その導波管2側において、図1に示すように、略水平に延びる上側水平部(基端部)31aが形成され、この上側水平部31aから斜め上方に上側斜面部31bが延びている。一方、下フレア32は、その導波管2側において、略水平に延びる第1の下側水平部32aと、この第1の下側水平部32aから略垂直下方に延びる下側垂直部32bと、この下側垂直部32bから略水平に延びる第2の下側水平部(基端部)32cが形成され、この第2の下側水平部32cから斜め下方に下側斜面部32dが延びている。
【0025】
そして、上側水平部31aと下側垂直部32bと第2の下側水平部32cで囲まれた空間内に導波管2が収容され、導波管2とフレア3とが組み付けられている。すなわち、上側水平部31aと上側の連結部222とがネジやリベット等の留め具(図示せず)で連結され、第2の下側水平部32cと下側の連結部222とが留め具で連結され、下側垂直部32bと両耳部22の連結背面部223とが留め具で連結されている。さらに、上側水平部31aと第1の下側水平部32aとが留め具で連結されている。
【0026】
ここで、留め具は、導波管2およびフレア3の長手方向に沿って所定間隔で複数設けられている。また、図1中の符号4は、サプレッサである。
【0027】
一方、導波管2の連結部222側に突出する空孔で、導波管2の連結部222とフレア3の基端部31a、32cとの間を介して電波が導波管2の背面側に伝搬するのを防止するチョーク部2Aが設けられている。この実施の形態におけるチョーク部2Aは、連結部222を貫通し連結部222の長手方向に沿って延び、連結部222の端から端にわたって形成されている。換言すると、本体部21の側面部213、214のそれぞれに、断面が逆L字状の2つの部材が、その水平端部が対向するように本体部21の長手方向に沿って形成され、水平端部間にチョーク部2Aが形成されている。
【0028】
このチョーク部2Aおよび耳部22の内部がキャビティとして働き、図3に示すように、導波管2の連結部222とフレア3の基端部31a、32cとの隙間Gを介して電波が導波管2の背面側に伝搬するのが抑制され、電波が導波管2の前面側にのみ伝搬するようになっている。すなわち、レーダアンテナ1のアンテナ特性・指向性特性が、チョーク部2Aの背面側の端部Pから背面側の構造に影響されないようになっている。
【0029】
そして、電波が導波管2の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できるように、耳部22の大きさ、チョーク部2Aの大きさおよび位置の少なくともひとつが設定されている。換言すると、耳部22の大きさ、チョーク部2Aの大きさおよび位置を適正値に調整することで、電波が導波管2の背面側に伝搬するのをより効果的に防止でき、レーダアンテナ1の指向性特性を良好にすることが可能となる。
【0030】
まず、耳部22の大きさ、つまり耳部22の内部の大きさ・寸法を適正にすることで、電波が導波管2の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できる。すなわち、図4に示すように、導波管2とフレア3との隙間Gと耳部22内に着目し、耳部22内の空間を耳空間C1、チョーク部2A内の空間をチョーク空間C2とする。そして、図5(a)に示すように、耳空間C1の幅寸法D3と高さ寸法D4が適正化されていない場合には、導波管2とフレア3との隙間Gにおいて、電波が導波管2の背面側に伝搬してしまう。これに対して、図5(b)に示すように、チョーク空間C2の寸法を変えずに、耳空間C1の幅寸法D5と高さ寸法D6を適正化すると、導波管2とフレア3との隙間Gにおいて、電波が導波管2の背面側に伝搬しないことが確認された。ここで、図5における黒いドットは、電界の強度を示し、黒いドットが多いほど電界が強く、つまり電波が伝搬し、黒いドットが少ないほど電界が弱い、つまり電波が伝搬していないことを示す。
【0031】
次に、図6(a)に示すように、耳空間C1の幅寸法のみを調整することで、中心周波数において、透過係数S21の値を低くする(チョーク特性を発揮する)ことが可能となる。ここで、透過係数S21は、図5におけるポートP1からポートP2間の透過係数である。第2に、図6(b)に示すように、耳空間C1の高さ寸法のみを調整することで、使用中心周波数近辺において透過係数S21の値を低くすることが可能となる。第3に、図6(c)に示すように、チョーク部2Aの幅寸法のみを調整することで、使用中心周波数近辺において透過係数S21の値を低くすることが可能となる。第4に、図7(a)に示すように、耳部22の連結部222の厚み寸法のみを調整することで、使用中心周波数近辺において透過係数S21の値を低くすることが可能となる。第5に、図7(b)に示すように、チョーク部2Aの位置のみを調整することで、使用中心周波数近辺において透過係数S21の値を低くすることが可能となる。第6に、図7(c)に示すように、耳空間C1の幅寸法と高さ寸法のみを調整することで、使用中心周波数近辺において透過係数S21の値を低くすることが可能となる。
【0032】
そして、これらすべて、つまり、耳部22(耳空間C1)の大きさ、チョーク部2Aの大きさと位置を調整・適正化することで、図8に示すように、使用中心周波数近辺において良好な透過係数S21が得られるものである。ここで、図8における破線は、耳部22の大きさ、チョーク部2Aの大きさと位置を適正化しない場合を示す。このようにして、電波が導波管2の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できるように、耳部22の大きさ、チョーク部2Aの大きさおよび位置が設定されている。
【0033】
このような構成のレーダアンテナ1によれば、導波管2の本体部21の両側面部213、214に特性維持部221が設けられ、さらに、電波が導波管2の背面側に伝搬するのを防止するチョーク部2Aが設けられているため、組付精度によらず、より良好な指向性特性・アンテナ特性を得ることが可能となる。すなわち、導波管2の指向性特性は、導波管2の両側面から垂直に延びる部材の位置と長さ、つまり、この発明では特性維持部221の位置と長さに依存するが、特性維持部221が導波管2自体に設けられているため、その位置と長さが変化することがない。このため、たとえ導波管2の連結部222とフレア3の基端部31a、32cとの間に隙間が生じたとしても、良好なアンテナ特性を得ることが可能となる。
【0034】
さらに、チョーク部2Aが設けられているため、導波管2の連結部222とフレア3の基端部31a、32cとの間を介して電波が導波管2の背面側に伝搬するのを防止することが可能で、より良好な指向性特性を得ることが可能となる。しかも、チョーク部2Aは、導波管2の連結部222側に突出する空孔であるため、構成が簡易で、容易かつ精度高く製作することが可能となる。
【0035】
しかも、断面がコ字状の耳部22の一辺部で連結部222が構成され、チョーク部2Aが連結部222を貫通して連結部222の長手方向に沿って延びているだけであるため、構成が簡易で、容易かつ精度高く製作することが可能となる。特に、本体部21と耳部22を含む導波管2を一体で製作する場合に、押し出し加工や引き抜き加工で容易に製作することが可能となる。しかも、連結部222を貫通するチョーク部2Aが設けられているため、つまり、連結部222が短い2辺で構成されているため、押し出し加工や引き抜き加工において材料が隙間なく密に(途切れることなく)流れ、精度高く製作することが可能となる。
【0036】
また、電波が導波管2の背面側に伝搬するのをより効果的に防止できるように、耳部22の大きさやチョーク部2Aの大きさ、位置が設定されているため、より良好な指向性特性を得ることが可能となる。このようなチョーク部2Aによる効果、耳部22の大きさやチョーク部2Aの大きさ、位置の最適化による効果について、以下に説明する。
【0037】
図9図10は、フレア3の上フレア31と下フレア32との合わせ面の長さに対する、放射パターンの変化を示す図である。ここで、合わせ面の長さとは、図1における上側水平部31aと第1の下側水平部32aとの重なり状態を示す長さであり、プラス値の場合には重なっている長さを示し、マイナス値の場合には上側水平部31aと第1の下側水平部32aとが離されている長さを示す。そして、耳部22にチョーク部2Aが設けられていない場合には、図9に示すように、正偏波成分の励振振幅(a)と交差偏波成分の励振振幅(b)ともに、上側水平部31aと第1の下側水平部32aとの重なり状態、つまり、導波管2の背面側の構造に影響を受けていることが認められる。
【0038】
これに対して、耳部22にチョーク部2Aが設けられている場合には、図10に示すように、正偏波成分の励振振幅(a)と交差偏波成分の励振振幅(b)ともに、上側水平部31aと第1の下側水平部32aとの重なり状態、つまり、導波管2の背面側の構造に影響を受けていない(構造によって変化しない)ことが認められる。また、チョーク部2Aがない場合には、図9(b)に示すように、-135°辺りから-270°辺りにおいて導波管2の背面側への放射が認められるが、チョーク部2Aがある場合には、図10(b)に示すように、導波管2の背面側への放射が認められない。
【0039】
また、図11は、導波管2に10コのスロット2aが設けられたモデルにおいて、導波管2の連結部222とフレア3の基端部31a、32cとの間に隙間がある場合と、隙間がない場合の平均利得パターンを比較した図である。耳部22の大きさやチョーク部2Aの大きさ、位置が最適化されていない場合、図11(a)に示すように、「隙間あり」の場合と「隙間無し」の場合とでパターンに大きな差がある、つまり、パターンが組付精度に依存することが認められる。これに対して、耳部22の大きさやチョーク部2Aの大きさ、位置が最適化されている場合、図11(b)に示すように、「隙間あり」の場合と「隙間無し」の場合とでパターンに大きな差がない、つまり、パターンが組付精度に依存しないことが認められる。
【0040】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、耳部22と本体部21の側面部213、214とで形成される空間(耳空間C1)の断面が略四角形で、チョーク部2A内の空間(チョーク空間C2)の幅が耳空間C1よりも小さく耳空間C1の上部中央部に設けられているが、耳空間C1の形状、チョーク部2Aの位置などはこれに限らない。例えば、図12(a)に示すように、耳空間C1の幅とチョーク空間C2の幅とを同じにし、耳空間C1とチョーク空間C2とを同形状に(一直線状に)一体的に形成してもよい。また、図12(b)に示すように、耳空間C1の上部背面側にチョーク空間C2を設けたり、耳空間C1の上部前面側にチョーク空間C2を設けたりしてもよい。
【0041】
また、上記の実施の形態では、チョーク部2Aが導波管2の連結部222側に突出する空孔であるが、チョーク部2Aがフレア3の基端部31a、32c側に突出する空孔であってもよい。例えば、図13に示すように、上フレア31の上側水平部31aを反導波管2側に突出するように折り曲げてチョーク部2Aを形成し、チョーク部2Aと耳部22の連結部222との間に導波管2に沿って延びる空間・空孔を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 レーダアンテナ
2 導波管
2A チョーク部
2a スロット
21 本体部
211 前面部
213、214 側面部
22 耳部
221 特性維持部
222 連結部
3 フレア
31 上フレア
32 下フレア
31a 上側水平部(基端部)
32c 第2の下側水平部(基端部)
D1 所定の距離
D2 所定の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13