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特開2022-139429医用画像処理装置、医用画像処理方法、医用画像処理プログラム、および放射線治療装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139429
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、医用画像処理方法、医用画像処理プログラム、および放射線治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039812
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆介
(72)【発明者】
【氏名】坂田 幸辰
(72)【発明者】
【氏名】谷沢 昭行
(72)【発明者】
【氏名】岡屋 慶子
(72)【発明者】
【氏名】森 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AE01
4C082AJ08
4C082AJ10
4C082AP08
(57)【要約】
【課題】患者の透視画像から患者の体内のオブジェクトを高精度に追跡することができる医用画像処理装置、医用画像処理方法、医用画像処理プログラム、および放射線治療装置を提供すること。
【解決手段】実施形態の医用画像処理装置は、第1画像取得部と、第2画像取得部と、第1尤度分布算出部と、追跡可否判定部と、追跡部とを持つ。前記第1画像取得部は、患者の透視画像である第1画像を取得する。前記第2画像取得部は、前記第1画像とは異なる時刻に生成された前記患者の透視画像である第2画像を取得する。前記第1尤度分布算出部は、前記第1画像におけるオブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する。前記追跡可否判定部は、前記第1尤度分布に基づいて前記オブジェクトの追跡の可否を判定する。前記追跡部は、この判定結果に応じて前記第2画像における前記オブジェクトの位置を追跡する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内のオブジェクトの位置を追跡する医用画像処理装置であって、
前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する第1画像取得部と、
前記第1画像とは異なる時刻に生成された前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する第2画像取得部と、
前記第1画像取得部によって取得された前記複数の第1画像のそれぞれにおける、前記オブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する第1尤度分布算出部と、
前記第1尤度分布算出部によって算出された前記第1尤度分布に基づいて、前記オブジェクトの追跡の可否を判定する追跡可否判定部と、
前記追跡可否判定部の判定結果に応じて、前記第2画像取得部によって取得された前記第2画像における前記オブジェクトの位置を追跡する追跡部と、
を備える医用画像処理装置。
【請求項2】
前記第2画像取得部は、前記追跡可否判定部の判定結果に基づいて、前記第2画像の撮影方向を決定する、請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記第2画像取得部は、前記患者に対して治療が行われる前に、前記追跡部による前記オブジェクトの位置の追跡に使用される前記第2画像の撮影方向を決定する、請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記第2画像における前記尤度の分布を示す第2尤度分布を算出する第2尤度分布算出部を更に備え、
前記追跡部は、前記第2尤度分布算出部によって算出された前記第2尤度分布に基づいて、前記第2画像における前記オブジェクトの位置を判定する、請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記追跡部は、前記追跡可否判定部の判定結果に基づいて、前記オブジェクトの位置を追跡する領域である追跡領域を定める、請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記追跡可否判定部は、前記第2画像における前記オブジェクトの追跡の難易度を示す追跡難易度を算出し、
前記追跡部は、前記追跡可否判定部によって算出された前記追跡難易度が所定の閾値より高い前記第2画像に対して、前記追跡領域をエピポーラ線上の領域に限定する、請求項5に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記オブジェクトは金属製マーカーである、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記第1画像は、治療計画時に撮影された前記患者の3次元画像に基づいて生成された透視画像、または治療直前に前記第2画像と同じ撮影方向から撮影された透視画像であり、
前記第2画像は、前記患者に対する治療中に撮影された透視画像である、
請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
患者の体内のオブジェクトの位置を追跡する医用画像処理方法であって、
前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する第1画像取得工程と、
前記第1画像とは異なる時刻に生成された前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する第2画像取得工程と、
前記第1画像取得工程によって取得された前記複数の第1画像のそれぞれにおける、前記オブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する第1尤度分布算出工程と、
前記第1尤度分布算出工程によって算出された前記第1尤度分布に基づいて、前記オブジェクトの追跡の可否を判定する追跡可否判定工程と、
前記追跡可否判定工程の判定結果に応じて、前記第2画像取得工程によって取得された前記第2画像における前記オブジェクトの位置を追跡する追跡工程と、
を備える医用画像処理方法。
【請求項10】
患者の体内のオブジェクトの位置を追跡する医用画像処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する第1画像取得工程と、
前記第1画像とは異なる時刻に生成された前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する第2画像取得工程と、
前記第1画像取得工程によって取得された前記複数の第1画像のそれぞれにおける、前記オブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する第1尤度分布算出工程と、
前記第1尤度分布算出工程によって算出された前記第1尤度分布に基づいて、前記オブジェクトの追跡の可否を判定する追跡可否判定工程と、
前記追跡可否判定工程の判定結果に応じて、前記第2画像取得工程によって取得された前記第2画像における前記オブジェクトの位置を追跡する追跡工程と、
を実行させる医用画像処理プログラム。
【請求項11】
患者の体内のオブジェクトの位置を追跡しつつ、前記患者に放射線を照射する放射線治療装置であって、
前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する第1画像取得部と、
前記第1画像とは異なる時刻に生成された前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する第2画像取得部と、
前記第1画像取得部によって取得された前記複数の第1画像のそれぞれにおける、前記オブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する第1尤度分布算出部と、
前記第1尤度分布算出部によって算出された前記第1尤度分布に基づいて、前記オブジェクトの追跡の可否を判定する追跡可否判定部と、
前記追跡可否判定部の判定結果に応じて、前記第2画像取得部によって取得された前記第2画像における前記オブジェクトの位置を追跡する追跡部と、
前記追跡部によって追跡された前記オブジェクトの位置に応じて、前記放射線の照射を制御する照射制御部と、
を備える放射線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用画像処理装置、医用画像処理方法、医用画像処理プログラム、および放射線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、放射線を患者の体内にある病巣に対して照射することによって、その病巣を破壊する治療方法である。このとき、放射線は、病巣の位置に正確に照射される必要がある。これは、患者の体内の正常な組織に放射線を照射してしまうと、その正常な組織にまで影響を与える場合があるからである。このため、放射線治療を行う際には、まず、治療計画の段階において、予めコンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)が行われ、患者の体内にある病巣の位置が3次元的に把握される。そして、把握した病巣の位置に基づいて、正常な組織への照射を少なくするように、放射線を照射する方向や照射する放射線の強度が計画される。その後、治療の段階において、患者の位置を治療計画の段階の患者の位置に合わせて、治療計画の段階で計画した照射方向や照射強度に従って放射線が病巣に照射される。
【0003】
治療段階における患者の位置合わせでは、3次元のCTデータを治療室内に仮想的に配置し、この3次元のCTデータの位置に、実際に治療室内の移動式寝台に寝かせた患者の位置が一致するように寝台の位置を調整する。より具体的には、寝台に寝かせた状態で撮影した患者の体内のX線透視画像と、治療計画のときに撮影した3次元のCT画像から仮想的にX線透視画像を再構成したデジタル再構成X線写真(Digitally Reconstructed Radiograph:DRR)画像との2つの画像を照合することによって、それぞれの画像の間での患者の位置のずれを求める。そして、画像照合によって求めた患者の位置のずれに基づいて寝台を移動させ、患者の体内の病巣や骨などの位置を、治療計画のときと合わせる。その後、再度撮影したX線透視画像とDRR画像とを見比べつつ、病巣に対して放射線を照射する。
【0004】
患者の病巣が、肺や肝臓などの呼吸や心拍の動きによって移動してしまう器官にある場合、照射中の病巣の位置を特定する必要がある。例えば、放射線が照射されている患者のX線透視画像を撮影することで、病巣の位置を追跡するができる。病巣がX線透視画像内で鮮明に写らない場合は、患者の体内に留置されたマーカーを追跡することで、間接的に病巣の位置を追跡することができる。放射線を照射する方法として、病巣の位置を追尾して照射する追尾照射や、病巣が治療計画時の位置に来たときに照射する待ち伏せ照射がある。これらの照射方法は、呼吸同期照射法と呼ばれている。
【0005】
しかしながら、例えば、病巣やマーカーなどのオブジェクトがX線の透過率が低い肝臓などの臓器と重なると、病巣やマーカーがX線透視画像内で鮮明に写らない場合がある。また、X線透視画像内において、肋骨のようにマーカーとの区別が難しいパターンが存在する場合もある。これらの場合、病巣やマーカーなどのオブジェクトの位置を追跡できなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-82767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、患者の透視画像から患者の体内のオブジェクトを高精度に追跡することができる医用画像処理装置、医用画像処理方法、医用画像処理プログラム、および放射線治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の医用画像処理装置は、患者の体内のオブジェクトの位置を追跡する装置であって、第1画像取得部と、第2画像取得部と、第1尤度分布算出部と、追跡可否判定部と、追跡部とを持つ。前記第1画像取得部は、前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する。前記第2画像取得部は、前記第1画像とは異なる時刻に生成された前記患者の透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する。前記第1尤度分布算出部は、前記第1画像取得部によって取得された前記複数の第1画像のそれぞれにおける、前記オブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する。前記追跡可否判定部は、前記第1尤度分布算出部によって算出された前記第1尤度分布に基づいて、前記オブジェクトの追跡の可否を判定する。前記追跡部は、前記追跡可否判定部の判定結果に応じて、前記第2画像取得部によって取得された前記第2画像における前記オブジェクトの位置を追跡する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る治療システムの概略構成を示すブロック図。
図2】第1の実施形態に係る医用画像処理装置の概略構成を示すブロック図。
図3】第1の実施形態に係る第1画像の一例を示す図。
図4】第1の実施形態に係る分離度の計算に用いられるテンプレートの一例を示す図。
図5】第1の実施形態に係る患者を治療する前段階における医用画像処理装置の動作を示すフローチャート。
図6】第1の実施形態に係る患者の治療中における医用画像処理装置の動作を示すフローチャート。
図7】第2の実施形態に係る医用画像処理装置の概略構成を示すブロック図。
図8】第2の実施形態に係る患者を治療する前段階における医用画像処理装置の動作を示すフローチャート。
図9】第3の実施形態に係る放射線治療装置の概略構成を示すブロック図。
図10】第3の実施形態に係る患者の治療中における放射線治療装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の医用画像処理装置、医用画像処理方法、医用画像処理プログラム、および放射線治療装置を、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る治療システムの概略構成を示すブロック図である。治療システム1は、例えば、治療台10と、寝台制御部11と、2つの放射線源20(放射線源20-1および放射線源20-2)と、2つの放射線検出器30(放射線検出器30-1および放射線検出器30-2)と、治療ビーム照射門40と、照射制御装置50と、医用画像処理装置100とを備える。
【0012】
なお、図1に示したそれぞれの符号に続いて付与した「-」とそれに続く数字は、対応関係を識別するためのものである。より具体的には、放射線源20と放射線検出器30との対応関係では、放射線源20-1と放射線検出器30-1とが対応して1つの組となっていることを示し、放射線源20-2と放射線検出器30-2とが対応してもう1つの組となっていることを示している。なお、以下の説明において複数ある同じ構成要素を区別せずに表す場合には、「-」とそれに続く数字を示さずに表す。
【0013】
治療台10は、放射線による治療を受ける被検体(患者)Pを固定する寝台である。寝台制御部11は、治療台10に固定された患者Pに治療ビームBを照射する方向を変えるために、治療台10に設けられた並進機構および回転機構を制御する制御部である。寝台制御部11は、例えば、治療台10の並進機構および回転機構のそれぞれを3軸方向、つまり、6軸方向に制御する。
【0014】
放射線源20-1は、患者Pの体内を透視するための放射線r-1を予め定められた角度から照射する。放射線源20-2は、患者Pの体内を透視するための放射線r-2を、放射線源20-1と異なる予め定められた角度から照射する。放射線r-1および放射線r-2は、例えば、X線である。図1は、治療台10上に固定された患者Pに対して、2方向からX線撮影を行う場合を示している。なお、図1においては、放射線源20による放射線rの照射を制御する制御部の図示を省略している。
【0015】
放射線検出器30-1は、放射線源20-1から照射されて患者Pの体内を通過して到達した放射線r-1を検出し、検出した放射線r-1のエネルギーの大きさに応じた患者Pの体内のX線透視画像を生成する。放射線検出器30-2は、放射線源20-2から照射されて患者Pの体内を通過して到達した放射線r-2を検出し、検出した放射線r-2のエネルギーの大きさに応じた患者Pの体内のX線透視画像を生成する。
【0016】
放射線検出器30は、2次元のアレイ状にX線検出器が配置され、それぞれのX線検出器に到達した放射線rのエネルギーの大きさをデジタル値で表したデジタル画像を、X線透視画像として生成する。放射線検出器30は、例えば、フラット・パネル・ディテクタ(Flat Panel Detector:FPD)や、イメージインテンシファイアや、カラーイメージインテンシファイアである。以下の説明においては、それぞれの放射線検出器30が、FPDであるものとする。放射線検出器30(FPD)は、生成したそれぞれのX線透視画像を医用画像処理装置100に出力する。なお、図1においては、放射線検出器30によるX線透視画像の生成を制御する制御部の図示を省略している。
【0017】
なお、図1では、2つの撮影装置(放射線源20と放射線検出器30との組)を備える治療システム1の構成を示した。しかし、治療システム1が備える撮影装置の数は、2つに限定されない。例えば、治療システム1は、3つ以上の撮影装置(3組以上の放射線源20と放射線検出器30との組)を備えてもよい。
【0018】
治療ビーム照射門40は、患者Pの体内の病巣を破壊するための放射線を治療ビームBとして照射する。治療ビームBは、例えば、X線、γ線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線などである。治療ビームBは、治療ビーム照射門40から直線的に患者P(より具体的には、患者Pの体内の病巣)に照射される。
【0019】
照射制御装置50は、治療ビーム照射門40による治療ビームBの照射を制御する。照射制御装置50は、医用画像処理装置100から出力された治療ビームBの照射タイミングを指示する照射指示信号に応じて、治療ビーム照射門40から患者Pに治療ビームBを照射させる。
【0020】
図1では、固定された1つの治療ビーム照射門40を備える治療システム1の構成を示したが、これに限定されず、治療システム1は、複数の治療ビーム照射門を備えてもよい。例えば、治療システム1は、患者Pに水平方向から治療ビームを照射する治療ビーム照射門をさらに備えてもよい。また、治療システム1は、1つの治療ビーム照射門が患者Pの周辺を回転することによって、様々な方向から治療ビームを患者Pに照射する構成であってもよい。より具体的には、図1に示した治療ビーム照射門40が、図1に示した水平方向Yの回転軸に対して360度回転することができる構成であってもよい。このような構成の治療システム1は、回転ガントリ型治療システムとよばれる。なお、回転ガントリ型治療システムでは、治療ビーム照射門40の回転軸と同じ軸に対して、放射線源20および放射線検出器30も、同時に360度回転する。
【0021】
医用画像処理装置100は、肺や肝臓など、患者Pの呼吸や心拍の動きによって移動してしまう患者Pの体内のオブジェクトの位置を追跡し、患者Pの病巣に治療ビームBを照射する照射タイミングを決定する。患者Pの体内のオブジェクトは、患者Pの体内に留置された金属製のマーカーであるが、これに限らない。例えば、患者Pの体内のオブジェクトは、患者Pの体内の病巣であってもよい。以下の説明では、オブジェクトがマーカーである例について説明する。
【0022】
医用画像処理装置100は、それぞれの放射線検出器30によってリアルタイムに撮影された患者PのX線透視画像におけるマーカーの像を追跡することによって、病巣に照射する治療ビームBの照射タイミングを自動で決定する。このとき、医用画像処理装置100は、追跡している患者Pの体内に留置されたマーカーの像の位置が放射線治療を行う所定の範囲内にあるか否かを判定する。そして、医用画像処理装置100は、マーカーの像の位置が所定の範囲内にある場合に、治療ビームBの照射を指示する照射指示信号を照射制御装置50に出力する。これにより、照射制御装置50は、医用画像処理装置100により出力された照射指示信号に応じて、治療ビーム照射門40に治療ビームBを照射させる。
【0023】
また、医用画像処理装置100は、現在の患者Pの位置を、治療計画の段階など、放射線治療を行う前の計画段階において事前に定められた位置に合わせる位置決めのための画像処理を行う。医用画像処理装置100は、放射線治療を行う前に事前に撮影した3次元のCT画像などから仮想的にX線透視画像を再構成したDRR画像と、それぞれの放射線検出器30により出力された現在のX線透視画像とを照合することによって、放射線治療を行うのに好適な患者Pの位置を自動で探索する。そして、医用画像処理装置100は、治療台10に固定されている患者Pの現在の位置を、放射線治療を行うために事前に定められた好適な位置に移動させるための治療台10の移動量を求める。医用画像処理装置100の構成および処理に関する詳細については後述する。
【0024】
なお、医用画像処理装置100と放射線検出器30のそれぞれとは、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)によって接続されてもよい。
【0025】
次に、治療システム1を構成する医用画像処理装置100の構成について説明する。図2は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置の概略構成を示すブロック図である。図2に示した医用画像処理装置100は、第1画像取得部101と、第1尤度分布算出部102と、追跡可否判定部103と、追跡部104と、第2画像取得部105と、第2尤度分布算出部106とを備える。
【0026】
第1画像取得部101は、患者Pの透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する。第1画像は、前述した患者Pの位置決めにおいて放射線検出器30によって撮影されたX線透視画像であってもよいし、放射線治療を行う前に事前に撮影した3次元のCT画像などから仮想的にX線透視画像を再構成したDRR画像であってもよい。
【0027】
第1尤度分布算出部102は、第1画像取得部101によって取得された複数の第1画像60のそれぞれにおける、マーカー(オブジェクト)らしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する。
【0028】
図3は、第1の実施形態に係る第1画像の一例を示す図である。第1画像60には、患者Pの体内に留置されたマーカー62の像と、患者Pの体内の病巣63の像が含まれる。第1尤度分布算出部102は、第1画像60の全体に対する尤度分布を算出するのではなく、追跡領域61に対する尤度分布を算出する。追跡領域61は、マーカー62の位置を追跡する領域であり、患者Pの呼吸や心拍の動きによってマーカー62が移動する範囲を包含する領域である。このように、第1尤度分布を算出する対象を第1画像60における一部(追跡領域61)に限定することで、第1尤度分布算出部102の処理負荷を軽減することができる。
【0029】
例えば、追跡領域61は、治療計画時にCT画像に指定されたマーカー62の位置に基づいて決定される。また、追跡領域61は、実際の治療時に生じる可能のある誤差に基づくマージンを考慮して決定される。例えば、追跡領域61は、CT画像上のマーカー62の位置を中心としてマージンが付加された3次元領域が、第1画像上に射影された領域であってもよい。また、追跡領域61は、治療直前の患者の状態を考慮して決定されたマージンに応じて決定されてもよい。
【0030】
なお、図3において、マーカー62は棒状のマーカーであることとしたが、マーカー62の形状はこれに限らない。例えば、球形状のマーカーであってもよい。
【0031】
次に、第1尤度分布算出部102による尤度の算出方法について説明する。第1尤度分布算出部102は、マーカー62が投影されたときの画像パターンをテンプレート画像として予め保持しておき、第1画像60とテンプレート画像との類似度を算出することにより尤度を算出する。
【0032】
マーカー62が球形状の場合のように、マーカー62の影の形状を予め予想できる場合、その影を描画した画像をテンプレート画像として用いてよい。なお、マーカー62の影が、患者Pの体内に留置されたときのマーカー62の姿勢に応じて変化する場合、マーカー62の姿勢に応じた影を描画した複数のテンプレート画像を生成し、複数のテンプレート画像のうちの一つを選択して用いてもよい。
【0033】
尤度の数値である類似度は、テンプレート画像と第1画像60の画素値や空間的な相関値によって表される。例えば、類似度は、対応する各画素位置での画素値の差の逆数であってよい。また、類似度は、対応する画素位置の相互相関値であってもよい。
【0034】
また、第1尤度分布算出部102は、マーカー62が含まれるテンプレート画像を学習データとして用いた機械学習手法によって識別器を生成し、生成した識別器を利用して尤度を算出してもよい。例えば、マーカー62が含まれるテンプレート画像と、マーカー62が含まれない位置の第1画像60とを複数用意し、これらを機械学習手法によって学習することによって識別器が生成される。生成された識別器を用いることで、マーカー62が含まれるか否かを識別することができる。
【0035】
なお、機械学習手法としては、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、または深層学習などを利用してよい。第1尤度分布算出部102は、これらの機械学習手法を用いて算出される実数値を、尤度として算出する。実数値として、例えば、識別境界までの距離や、オブジェクトを含むと判定した識別器の割合、またはSoftmaxの出力値などを利用してよい。
【0036】
また、第1尤度分布算出部102は、分離度を用いて尤度を算出してもよい。図4は、第1の実施形態に係る分離度の計算に用いられるテンプレートの一例を示す図である。図4に示したテンプレート70の一例では、棒状のマーカー62が存在する第1領域71と、第1領域71以外の第2領域72とに分類している。つまり、第2領域72は、棒状のマーカー62が存在しない領域である。
【0037】
分離度の計算では、第1画像60にテンプレート70と同様の領域が存在する場合、第1画像60に含まれる画素値のヒストグラムが、第1領域71に属する画素値のヒストグラムと、第2領域72に属する画素値のヒストグラムとのそれぞれに分類される。これは、第1画像60に写されたマーカー62の像が第1領域71と重なった場合、第1領域71に属する画素値のヒストグラムは、暗い画素の画素値の頻度が高くなり、第2領域72に属する画素値のヒストグラムは、明るい画素の画素値の頻度が高くなるためである。
【0038】
第1尤度分布算出部102は、フィッシャーの判別基準を用いて、上述したような画素値のヒストグラムの分離性を数値化する。そして、第1尤度分布算出部102は、それぞれの領域内に属する画素の画素値の分散の平均(クラス内分散)と、それぞれの領域間の画素値の分散(クラス間分散)との比を算出し、この比を分離度として算出する。このように、第1尤度分布算出部102は、テンプレート70を用いて算出した分離度を、尤度として算出する。第1尤度分布算出部102は、算出した尤度を用いて、第1画像取得部101によって取得された複数の第1画像60のそれぞれにおける尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する。
【0039】
追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、マーカー62の追跡の可否を判定する。具体的に、追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、第1画像60の各撮影方向における追跡難易度を算出する。また、追跡可否判定部103は、追跡難易度が所定の閾値よりも高い場合、マーカー62を追跡することが不可能であると判定する。
【0040】
追跡可否判定部103は、第1尤度分布の統計量に基づいて追跡難易度を算出する。統計量は、例えば、第1尤度分布の平均値、第1尤度分布の分散などの1次統計量であるが、これに限らない。例えば、統計量は、第1尤度分布の最大値であってもよいし、これらの数値を統合した1次式で計算した値であってもよい。また、追跡可否判定部103は、第1尤度分布に対応するマーカー62の位置が得られる場合は、マーカー62の位置の周辺における第1尤度分布の統計量に絞って追跡難易度を算出してもよい。追跡可否判定部103は、各撮影方向についてのマーカー62の追跡の可否の判定結果を追跡部104および第2画像取得部105に出力する。
【0041】
追跡部104は、追跡可否判定部103の判定結果に応じて、第2画像取得部105によって取得された第2画像におけるマーカー62の位置を追跡する。追跡部104による追跡処理の詳細については後述する。
【0042】
第2画像取得部105は、第1画像とは異なる時刻に生成された患者Pの透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する。前述の第1画像は、治療計画時に撮影された患者Pの3次元画像に基づいて生成された透視画像、または治療直前に第2画像と同じ撮影方向から撮影された透視画像であるが、第2画像は、患者Pに対する治療中に放射線検出器30によって撮影された透視画像である。マーカー62を追跡するため、第2画像は所定の時間間隔で繰り返し撮影される。
【0043】
第1画像の撮影方向は、第2画像の撮影方向と同じであることが望ましい。例えば、第2画像が患者Pの位置決め時とは異なる方向から撮影される場合、第1画像は、患者Pの位置決め時に撮影された透視画像ではなく、第2画像と同じ方向で撮影された透視画像をシミュレートしたDRR画像であってもよい。また、第1画像は、前回の治療時に撮影された第2画像であってもよいし、治療直前に第2画像と同じ方向から撮影された画像であってもよい。また、第1画像は、呼吸1周期以上の動画であってもよい。
【0044】
なお、第2画像取得部105は、患者Pに対して治療ビームBの照射による治療が行われる前に、追跡可否判定部103の判定結果に基づいて、追跡部104によるマーカー62の位置の追跡に使用される第2画像の撮影方向を決定する。例えば、放射線検出器30-1の撮影方向の第1画像に対する判定結果が「追跡可」であり、放射線検出器30-2の撮影方向の第1画像に対する判定結果が「追跡可」である場合、第2画像取得部105は、放射線検出器30-1で撮影された第2画像と、放射線検出器30-2で撮影された第2画像の両方を取得する。また、放射線検出器30-1の撮影方向の第1画像に対する判定結果が「追跡可」であり、放射線検出器30-2の撮影方向の第1画像に対する判定結果が「追跡不可」である場合、第2画像取得部105は、放射線検出器30-1で撮影された第2画像のみを取得する。また、放射線検出器30-1の撮影方向の第1画像に対する判定結果が「追跡不可」であり、放射線検出器30-2の撮影方向の第1画像に対する判定結果が「追跡可」である場合、第2画像取得部105は、放射線検出器30-2で撮影された第2画像のみを取得する。
【0045】
このように、第2画像取得部105は、マーカー62を追跡することができないと判定された撮影方向の第2画像については取得しないこととすることで、患者Pの被爆を抑えることができるとともに、マーカー62の追跡の成功率を向上することができる。
【0046】
第2尤度分布算出部106は、第2画像取得部105によって取得された第2画像における尤度の分布を示す第2尤度分布を算出する。ここで、第2尤度分布算出部106は、第2画像全体に対する第2尤度分布を算出するのではなく、第2画像における追跡領域61に対する第2尤度分布を算出する。第2尤度分布の算出方法は、第1尤度分布の算出方法と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
追跡部104は、第2尤度分布算出部106によって算出された第2尤度分布に基づいて、第2画像におけるマーカー62の位置を判定する。例えば、追跡部104は、第2尤度分布において最大値となる位置を、マーカー62の位置であると判定する。
【0048】
第2画像が2方向から取得される場合、一方の第2画像におけるマーカー62の位置が特定されると、他方の第2画像におけるマーカー62の位置は、幾何学的にエピポーラ線上に限定される。そこで、追跡部104は、他方の第2画像の第2尤度分布において、エピポーラ線上の尤度分布において最大値となる位置を、マーカー62の位置であると判定してもよい。第2画像が2方向から取得される場合、追跡部104は、マーカー62の位置を3次元座標に幾何学的に変換して算出してもよい。
【0049】
追跡部104は、判定したマーカー62の位置に基づいて、治療ビームBの照射タイミングを決定する。マーカー62と病巣63との位置関係は、治療計画時に取得した患者Pの透視画像から特定することが可能である。このため、追跡部104は、マーカー62の位置に基づいて特定される患者Pの体内の病巣63の位置が、予め定められた範囲内に位置するときに、治療ビームBの照射を指示する照射指示信号を照射制御装置50に送信する。
【0050】
照射制御装置50は、医用画像処理装置100から受信した照射指示信号に応じて、治療ビーム照射門40から治療ビームBを照射させる。これによって、患者Pの体内の病巣63に治療ビームBを照射することができる。
【0051】
一方、追跡部104は、マーカー62の位置に基づいて特定される患者Pの体内の病巣63の位置が、予め定められた範囲内に位置しないときには、照射指示信号を照射制御装置50に送信しない。これによって、病巣63以外の部位に治療ビームBが照射されることを抑制することができる。
【0052】
なお、上述した医用画像処理装置100に備えられた構成要素の機能のうち一部または全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサと、プログラム(ソフトウェア)を記憶した記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)とを備え、プロセッサがプログラムを実行することにより各種機能が実現されてもよい。また、上述した医用画像処理装置100に備えられた構成要素の機能のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)などによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって各種機能が実現されてもよい。また、上述した医用画像処理装置100に備えられた構成要素の機能のうち一部または全部は、専用のLSIによって各種機能が実現されてもよい。
【0053】
ここで、プログラム(ソフトウェア)は、予めROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどの治療システム1に備えられた記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が治療システム1に備えられたドライブ装置に装着されることで、治療システム1に備えられた記憶装置にインストールされてもよい。また、プログラム(ソフトウェア)は、他のコンピュータ装置からネットワークを介して予めダウンロードされて、治療システム1に備えられた記憶装置にインストールされてもよい。
【0054】
図5は、第1の実施形態に係る患者を治療する前段階における医用画像処理装置の動作を示すフローチャートである。本フローチャートによる処理は、患者Pに対して治療ビームBの照射による治療が行われるよりも前の段階において、医用画像処理装置100によって実行される。
【0055】
まず、第1画像取得部101は、患者Pの透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する(S101)。前述したように、第1画像は、患者Pの位置決めにおいて放射線検出器30によって撮影されたX線透視画像であってもよいし、放射線治療を行う前に事前に撮影した3次元のCT画像などから仮想的にX線透視画像を再構成したDRR画像であってもよい。
【0056】
次に、第1尤度分布算出部102は、第1画像取得部101によって取得された複数の第1画像60のそれぞれにおける、マーカー(オブジェクト)らしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する(S102)。ここで、第1尤度分布算出部102は、第1画像60の全体における尤度分布を算出するのではなく、図3に示される追跡領域61における尤度分布を算出する。
【0057】
次に、追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、マーカー62の追跡の可否を判定する(S103)。例えば、追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、第1画像60の各撮影方向における追跡難易度を算出する。また、追跡可否判定部103は、追跡難易度が所定の閾値よりも高い場合、マーカー62を追跡することが不可能であると判定する。
【0058】
その後、第2画像取得部105は、追跡可否判定部103の判定結果に基づいて、第2画像の撮影方向を決定し(S104)、本フローチャートによる処理を終了する。なお、患者Pに対して治療ビームBの照射による治療が行われる際には、ステップS104において決定された撮影方向に対応する第2画像に基づいて、マーカー62の追跡が行われることとなる。
【0059】
図6は、第1の実施形態に係る患者の治療中における医用画像処理装置の動作を示すフローチャートである。本フローチャートによる処理は、患者Pに対して治療ビームBの照射による治療が行われる段階において、医用画像処理装置100によって所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0060】
まず、第2画像取得部105は、ステップS104において決定された撮影方向に対応する第2画像を取得する(S201)。第2画像は、患者Pに対する治療中に放射線検出器30によって撮影された画像である。具体的には、第2画像取得部105は、追跡難易度が所定の閾値よりも高い撮影方向については第2画像を取得せず、追跡難易度が所定の閾値以下の第2画像のみを取得する。
【0061】
次に、第2尤度分布算出部106は、第2画像取得部105によって取得された第2画像における尤度の分布を示す第2尤度分布を算出する(S202)。第2尤度分布の算出方法は、第1尤度分布の算出方法と同様である。
【0062】
次に、追跡部104は、第2尤度分布算出部106によって算出された第2尤度分布に基づいて、第2画像におけるマーカー62(オブジェクト)の位置を判定する(S203)。例えば、追跡部104は、第2尤度分布において最大値となる位置を、マーカー62の位置であると判定する。
【0063】
その後、追跡部104は、判定したマーカー62(オブジェクト)の位置に基づいて、治療ビームBの照射タイミングを決定する(S204)。例えば、追跡部104は、マーカー62の位置に基づいて特定される患者Pの体内の病巣63の位置が、予め定められた範囲内に位置するときに、治療ビームBの照射を指示する照射指示信号を照射制御装置50に送信する。照射制御装置50は、医用画像処理装置100から受信した照射指示信号に応じて、治療ビーム照射門40から治療ビームBを照射させる。
【0064】
以上説明したように、第1の実施形態において、第1画像取得部101は、患者Pの透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第1画像を取得する。第2画像取得部105は、第1画像とは異なる時刻に生成された患者Pの透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する。第1尤度分布算出部102は、第1画像取得部101によって取得された複数の第1画像のそれぞれにおける、オブジェクトらしさを表す尤度の分布を示す第1尤度分布を算出する。追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、オブジェクトの追跡の可否を判定する。追跡部104は、追跡可否判定部103の判定結果に応じて、第2画像取得部105によって取得された第2画像におけるオブジェクトの位置を追跡する。これによって、患者の透視画像から患者の体内のオブジェクトを高精度に追跡することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
第1の実施形態において、第2画像取得部105は、追跡可否判定部103の判定結果に基づいて、第2画像の撮影方向を決定することとした。これに対し、第2の実施形態において、追跡部104は、追跡可否判定部103の判定結果に基づいて、オブジェクトの位置を追跡する領域である追跡領域を定めることとする。これによって、患者の体内のオブジェクトを、より高精度に追跡することができる。以下、第2の実施形態について詳細に説明する。
【0066】
図7は、第2の実施形態に係る医用画像処理装置の概略構成を示すブロック図である。図7において、図2の各部に対応する部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0067】
追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、マーカー62の追跡の可否を判定する。具体的に、追跡可否判定部103は、第1尤度分布算出部102によって算出された第1尤度分布に基づいて、第1画像60の各撮影方向における追跡難易度を算出する。追跡難易度の算出方法は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、追跡可否判定部103は、追跡難易度が所定の閾値よりも高い場合、マーカー62を追跡することが不可能であると判定する。その後、追跡可否判定部103は、各撮影方向についてのマーカー62の追跡の可否の判定結果を追跡部104に出力する。一方、第1の実施形態と異なり、追跡可否判定部103は、第2画像取得部105には判定結果を出力しない。
【0068】
第2画像取得部105は、第1画像とは異なる時刻に生成された患者Pの透視画像であって、撮影方向の異なる複数の第2画像を取得する。例えば、第2画像は、患者Pに対する治療中に放射線検出器30によって撮影された画像である。具体的に、第2画像取得部105は、放射線検出器30-1によって撮影された透視画像および放射線検出器30-2によって撮影された透視画像の両方を、第2画像として取得する。
【0069】
第2尤度分布算出部106は、第2画像取得部105によって取得された第2画像における尤度の分布を示す第2尤度分布を算出する。具体的に、第2尤度分布算出部106は、放射線検出器30-1によって撮影された透視画像(第2画像)における尤度の分布と、放射線検出器30-2によって撮影された透視画像(第2画像)における尤度の分布とを、第2尤度分布として算出する。ここで、第2尤度分布算出部106は、第2画像全体に対する第2尤度分布を算出するのではなく、第2画像における追跡領域61に対する第2尤度分布を算出する。第2尤度分布の算出方法は、第1尤度分布の算出方法と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
追跡部104は、追跡可否判定部103の判定結果に基づいて、マーカー62の位置を追跡する領域である追跡領域61(図3)を定める。具体的に、追跡部104は、追跡可否判定部103によってマーカー62の追跡難易度が所定の閾値より高いと判定された撮影方向の第2画像に対して、追跡領域61をエピポーラ線上の領域に限定する。
【0071】
例えば、放射線検出器30-1の撮影方向に対する追跡難易度が所定の閾値より高く、放射線検出器30-2の撮影方向に対する追跡難易度が所定の閾値以下であるとする。この場合、放射線検出器30-2によって撮影された第2画像からマーカー62の位置が特定されると、放射線検出器30-1によって撮影された第2画像におけるマーカー62の位置は、幾何学的にエピポーラ線上に限定される。このため、追跡部104は、放射線検出器30-1によって撮影された第2画像に対して、追跡領域61をエピポーラ線上の領域に限定する。
【0072】
このように、追跡難易度に基づいてマーカー62を追跡しやすい撮影方向を定め、追跡するのが難しい撮影方向の第2画像からは、追跡領域61をエピポーラ線上の領域に限定してマーカー62を追跡する。これによって、本実施形態の医用画像処理装置200は、マーカー62の追跡精度を向上することができる。
【0073】
図8は、第2の実施形態に係る患者を治療する前段階における医用画像処理装置の動作を示すフローチャートである。本フローチャートによる処理は、患者Pに対して治療ビームBの照射による治療が行われるよりも前の段階において、医用画像処理装置200によって実行される。なお、図8におけるステップS301~S303は、図5におけるステップS101~S103と同様であるため、説明を省略する。
【0074】
追跡可否判定部103は、ステップS303において算出された各撮影方向の追跡難易度のうち、所定の閾値より高い追跡難易度が存在するか否かを判定する(S304)。所定の閾値より高い追跡難易度が存在しない場合(S304:NO)、追跡部104は、追跡領域61を変更することなく、本フローチャートによる処理を終了する。一方、所定の閾値より高い追跡難易度が存在する場合(S304:YES)、追跡部104は、追跡難易度が最も低い撮影方向におけるマーカー62の位置と、追跡難易度が最も低い撮影方向の撮影位置(放射線検出器30の位置)とを結ぶ直線をエピポーラ線として算出する(S305)。その後、追跡部104は、追跡難易度が所定の閾値より高い撮影方向の追跡領域61を、ステップS305で算出されたエピポーラ線上の領域に限定し(S306)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0075】
このように、追跡部104は、追跡難易度が所定の閾値以下であると判定された撮影方向の第2画像に対しては、追跡領域61を変更しない。一方、追跡部104は、追跡難易度が所定の閾値より高いと判定された撮影方向の第2画像に対しては、追跡領域61を、追跡難易度が最も低い撮影方向におけるマーカー62の位置に基づいて算出されたエピポーラ線上の領域に限定する。これによって、本実施形態の医用画像処理装置200は、マーカー62の追跡精度を向上することができる。
【0076】
(第3の実施形態)
第1の実施形態および第2の実施形態において、治療ビーム照射門40を制御する照射制御装置50が設けられることとした。これに対し、第3の実施形態においては、照射制御装置50が治療システム1に設けられておらず、放射線治療装置300が治療ビーム照射門40を制御する機能を備えることとする。以下、第3の実施形態について詳細に説明する。
【0077】
図9は、第3の実施形態に係る放射線治療装置の概略構成を示すブロック図である。図9において、図2の各部に対応する部分には同一の符号を付し、説明を省略する。第3の実施形態に係る放射線治療装置300は、照射制御部301を備えている。
【0078】
追跡部104は、第2尤度分布算出部106によって算出された第2尤度分布に基づいて、第2画像におけるマーカー62の位置を判定する。例えば、追跡部104は、第2尤度分布において最大値となる位置を、マーカー62の位置であると判定する。
【0079】
追跡部104は、判定したマーカー62の位置に基づいて、治療ビームBの照射タイミングを決定する。マーカー62と病巣63との位置関係は、治療計画時に取得した患者Pの透視画像から特定することが可能である。このため、追跡部104は、マーカー62の位置に基づいて特定される患者Pの体内の病巣63の位置が、予め定められた範囲内に位置するときに、治療ビームBの照射を指示する照射指示信号を照射制御部301に出力する。
【0080】
照射制御部301は、追跡部104から出力された照射指示信号に応じて、治療ビーム照射門40から治療ビームBを照射させる。これによって、患者Pの体内の病巣63に治療ビームBを照射することができる。
【0081】
一方、追跡部104は、マーカー62の位置に基づいて特定される患者Pの体内の病巣63の位置が、予め定められた範囲内に位置しないときには、照射指示信号を照射制御部301に出力しない。これによって、病巣63以外の部位に治療ビームBが照射されることを抑制することができる。
【0082】
図10は、第3の実施形態に係る患者の治療中における放射線治療装置の動作を示すフローチャートである。本フローチャートによる処理は、患者Pに対して治療ビームBの照射による治療が行われる段階において、放射線治療装置300によって所定の時間間隔で繰り返し実行される。なお、図10におけるステップS401~S403は、図6におけるステップS201~S203と同様であるため、説明を省略する。
【0083】
照射制御部301は、ステップS403において追跡部104によって判定されたマーカー62(オブジェクト)の位置に応じて、治療ビーム照射門40から治療ビームBを照射させる。例えば、照射制御部301は、マーカー62の位置に基づいて特定される患者Pの体内の病巣63の位置が、予め定められた範囲内に位置するときに、治療ビーム照射門40から治療ビームBを照射させる。
【0084】
このように、第3の実施形態に係る放射線治療装置300は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置100の各機能に加え、治療ビーム照射門40を制御する照射制御部301を備えている。本実施形態の放射線治療装置300によっても、第1の実施形態と同様に、マーカー62の追跡精度を向上することができる。
【0085】
なお、上記実施形態において、追跡部104によって追跡されるオブジェクトは患者Pの体内に留置された金属製のマーカーであることとしたが、患者Pの体内の病巣であってもよい。この場合、第1画像から病巣全体または病巣の一部を含む画像を切り出し、テンプレート画像として利用してもよい。第1画像が治療計画情報を含むCT画像から生成されたDRR画像の場合、CT画像内の病巣の位置が治療計画情報に含まれているため、この病巣が投影された画像を、テンプレート画像として利用してもよい。第1画像が患者Pの位置決めにおいて放射線検出器30によって撮影されたX線透視画像の場合、DRR画像と患者Pの位置が一致しているため、上記病巣の位置を流用し、その周辺のX線透視画像を切り出して、テンプレート画像として用いてもよい。
【0086】
また、追跡可否判定部103は、各撮影方向における追跡難易度を、通知部(不図示)を用いてユーザに提示してもよい。例えば、追跡可否判定部103は、ユーザが撮影方向を計画するときに、追跡難易度の低い撮影方向を通知してもよい。これによって、ユーザは、呼吸同期照射方法の成功率を見積もることや、マーカー62の追跡を1つの撮影方向の第2画像だけに限定してもよいか否か判断することができる。
【0087】
なお、上述の医用画像処理装置100、200、および放射線治療装置300は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用いることでも実現することが可能である。すなわち、第1画像取得部101、第1尤度分布算出部102、追跡可否判定部103、追跡部104、第2画像取得部105、第2尤度分布算出部106、および照射制御部301は、上記のコンピュータ装置に搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。このとき、医用画像処理装置100、200、および放射線治療装置300は、上記のプログラムをコンピュータ装置にあらかじめインストールすることで実現してもよいし、CD-ROMなどの記憶媒体に記憶して、あるいはネットワークを介して上記のプログラムを配布して、このプログラムをコンピュータ装置に適宜インストールすることで実現してもよい。また、BおよびCは、上記のコンピュータ装置に内蔵あるいは外付けされたメモリ、ハードディスクもしくはCD-R、CD-RW、DVD-RAM、DVD-Rなどの記憶媒体などを適宜利用して実現することができる。
【0088】
これまで、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 ・・・治療システム
100・・・医用画像処理装置
101・・・第1画像取得部
102・・・第1尤度分布算出部
103・・・追跡可否判定部
104・・・追跡部
105・・・第2画像取得部
106・・・第2尤度分布算出部
200・・・医用画像処理装置
300・・・放射線治療装置
301・・・照射制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10