(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139508
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20220915BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220915BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20220915BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20220915BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20220915BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/48 301
G01R31/389
G01R31/382
G01R31/385
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039929
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 尚志
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA01
2G216BA51
2G216CB13
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】二次電池の塩濃度斑の推定精度を向上させることが可能な推定装置、推定方法及び推定プログラムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る推定装置10は、二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出し、二次電池の計測電圧値と、二次電池の固相電位差及び液相電位差との電圧誤差ΔVを算出する。次いで、推定装置10は、電圧誤差ΔVに相当する二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出し、塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定する。そして、推定装置10は、特定された塩濃度と二次電池の塩濃度の初期値との差を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の塩濃度の斑を推定する推定装置であって、
前記二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出する電位差算出部と、
前記二次電池の計測された電圧値と前記二次電池の前記固相電位差及び前記液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出する誤差算出部と、
前記電圧誤差ΔVに相当する前記二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出するパラメータ算出部と、
塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定する塩濃度特定部と、
特定された塩濃度と前記二次電池の塩濃度の初期値との差を算出する塩濃度斑推定部と
を備える、推定装置。
【請求項2】
前記二次電池の塩濃度には、前記二次電池の液相塩濃度が含まれており、
前記二次電池の直流抵抗電圧は、前記二次電池の液相塩濃度に対応する塩濃度依存パラメータを用いて規定することができ、
前記塩濃度特定部は、塩濃度依存パラメータと液相塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する液相塩濃度を特定し、
前記塩濃度斑推定部は、特定された液相塩濃度と前記二次電池の液相塩濃度の初期値との差を算出する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記塩濃度依存パラメータには、前記二次電池の電解液のイオン伝導率が含まれており、
前記直流抵抗電圧は、前記二次電池の電流値と、前記二次電池が備える正極及び負極の反応面積と、前記二次電池が備える正極、負極及びセパレータの厚さと、前記イオン伝導率を用いて規定される、請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記二次電池の反応過電圧は、前記二次電池の液相塩濃度に対応する塩濃度依存パラメータを用いて規定することができ、
前記パラメータ算出部は、前記二次電池の反応過電圧を最小にする塩濃度依存パラメータを算出し、
前記塩濃度特定部は、塩濃度依存パラメータと液相塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する液相塩濃度を特定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記塩濃度依存パラメータには、前記二次電池の交換電流密度が含まれており、
前記反応過電圧は、既定の定数と、前記二次電池の電流値及び温度と、前記二次電池が備える正極及び負極の反応面積と、前記交換電流密度によって規定される、請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
二次電池の塩濃度の斑を推定する推定方法であって、
前記二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出し、
前記二次電池の計測された電圧値と前記二次電池の前記固相電位差及び前記液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出し、
前記電圧誤差ΔVに相当する前記二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出し、
塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定し、
特定された塩濃度と前記二次電池の塩濃度の初期値との差を算出する、推定方法。
【請求項7】
二次電池の塩濃度の斑を推定する推定プログラムであって、コンピュータに対し、
前記二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出するステップと、
前記二次電池の計測された電圧値と前記二次電池の前記固相電位差及び前記液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出するステップと、
前記電圧誤差ΔVに相当する前記二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出するステップと、
塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定するステップと、
特定された塩濃度と前記二次電池の塩濃度の初期値との差を算出するステップと
を実行させる、推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の塩濃度を推定する推定装置、推定方法及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電気自動車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車等の電力を駆動力として利用する車両では、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池が使用されている。
【0003】
このような二次電池内の塩濃度の斑を推定する技術の一例として、特許文献1は、二次電池の測定値を用いて電池電流密度を推定し、当該電池電流密度に基づいて電極間電解液塩濃度差を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、二次電池が高頻度で充放電されることにより、二次電池の面方向(
図5)における塩濃度差、すなわち、塩濃度斑が発生する。しかしながら、特許文献1が開示する監視装置では、電池電流密度のみに基づいて電極間電解液塩濃度差を算出するため、二次電池の面方向における塩濃度斑を推定できず、二次電池の塩濃度斑の推定精度が低いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するものであり、二次電池の塩濃度斑の推定精度を向上させることが可能な推定装置、推定方法及び推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度の斑を推定する推定装置は、
二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出する電位差算出部と、
二次電池の計測された電圧値と二次電池の固相電位差及び液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出する誤差算出部と、
電圧誤差ΔVに相当する二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出するパラメータ算出部と、
塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定する塩濃度特定部と、
特定された塩濃度と二次電池の塩濃度の初期値との差を算出する塩濃度斑推定部とを備える。
【0008】
二次電池の塩濃度には、二次電池の液相塩濃度が含まれており、
二次電池の直流抵抗電圧は、二次電池の液相塩濃度に対応する塩濃度依存パラメータを用いて規定することができ、
塩濃度特定部は、塩濃度依存パラメータと液相塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する液相塩濃度を特定し、
塩濃度斑推定部は、特定された液相塩濃度と二次電池の液相塩濃度の初期値との差を算出することができる。
【0009】
塩濃度依存パラメータには、二次電池の電解液のイオン伝導率が含まれており、
直流抵抗電圧は、二次電池の電流値と、二次電池が備える正極及び負極の反応面積と、二次電池が備える正極、負極及びセパレータの厚さと、イオン伝導率を用いて規定することができる。
【0010】
二次電池の反応過電圧は、二次電池の液相塩濃度に対応する塩濃度依存パラメータを用いて規定することができ、
パラメータ算出部は、二次電池の反応過電圧を最小にする塩濃度依存パラメータを算出し、
塩濃度特定部は、塩濃度依存パラメータと液相塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する液相塩濃度を特定することができる。
【0011】
塩濃度依存パラメータには、二次電池の交換電流密度が含まれており、
反応過電圧は、既定の定数と、二次電池の電流値及び温度と、二次電池が備える正極及び負極の反応面積と、交換電流密度によって規定することができる。
【0012】
また、本発明の別の態様に係る二次電池の塩濃度の斑を推定する推定方法は、
二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出し、
二次電池の計測された電圧値と二次電池の固相電位差及び液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出し、
電圧誤差ΔVに相当する二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出し、
塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定し、
特定された塩濃度と二次電池の塩濃度の初期値との差を算出する。
【0013】
さらに、本発明の別の態様に係る二次電池の塩濃度の斑を推定する推定プログラムは、コンピュータに対し、
二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出するステップと、
二次電池の計測された電圧値と二次電池の固相電位差及び液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出するステップと、
電圧誤差ΔVに相当する二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出するステップと、
塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定するステップと、
特定された塩濃度と二次電池の塩濃度の初期値との差を算出するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、二次電池の塩濃度斑の推定精度を向上させることが推定装置、推定方法及び推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る推定装置の構成を示す図である。
【
図2】二次電池のイオン伝導率κと、二次電池の液相塩濃度との対応関係を示す図である。
【
図3】二次電池の交換電流密度i
0と、二次電池の液相塩濃度との対応関係を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る推定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】二次電池の厚み方向の塩濃度の一例を示す図である。
【
図9】正極及び負極の活物質SOC(State Of Charge)と電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る推定装置10の構成を示すブロック図である。推定装置10は、車両に設置された二次電池の塩濃度を推定する装置である。推定装置10の具体例として、例えば、車両に設置されるECU(Electronic Control Unit)等が挙げられる。
【0017】
推定装置10は、通信インタフェース(I/F)11と、記憶装置12と、演算装置13とを備える。通信I/F11は、推定装置10と、車両に設置された二次電池及び他の装置との間で、信号の送受信を行うインタフェースである。
【0018】
記憶装置12は、演算装置13が実行する推定プログラム、演算装置13が処理する種々の情報が保存される記憶装置である。
【0019】
演算装置13は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の演算装置である。演算装置13は、記憶装置12に保存された推定プログラムを実行することにより、推定プログラムによって規定される推定方法を実行する。推定プログラムには、計測値取得部130、電位差算出部131、計測値判定部132、誤差算出部133、パラメータ算出部134、塩濃度特定部135及び塩濃度斑推定部136が含まれる。なお、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の集積回路が、これらのプログラムモジュールを実行してもよい。
【0020】
計測値取得部130は、二次電池の計測値である計測電流値、計測電圧値及び計測温度を取得するプログラムモジュールである。計測値取得部130は、二次電池の電流を検出する電流センサ(図示せず)から通信I/F11を介して、二次電池の計測電流値を取得できる。また、計測値取得部130は、二次電池の電圧を検出する電圧センサ(図示せず)から通信I/F11を介して、二次電池の計測電圧値を取得できる。さらに、計測値取得部130は、二次電池の温度を検出する温度センサ(図示せず)から通信I/F11を介して、二次電池の計測温度を取得できる。
【0021】
電位差算出部131は、二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出するプログラムモジュールである。電位差算出部131は、二次電池の固相拡散モデルを用いて、二次電池の厚み方向(
図5)の正極の固相電圧差及び負極の固相電圧差のそれぞれを算出することができる。
【0022】
数式1は、固相拡散モデルの一例である固相拡散方程式である。
【数1】
ここで、cは活物質のリチウムイオン濃度[mol/m
3]を表す。tは時間を表す。rは、活物質の粒子径方向の位置を表す。Dsは、固相におけるリチウムイオンの拡散係数[m
2/s]を表す。
【0023】
数式2は、数式1の固相拡散モデルの境界条件を示す。
【数2】
ここで、c
sは活物質表面のリチウムイオン濃度[mol/m
3]を表す。R
pは、活物質の粒子径方向の表面位置を表す。j
Liはリチウムイオンの流束[mol/m
2s]を表す。
【0024】
数式1に示す固相拡散モデルは、活物質中のリチウムイオンの濃度分布を4次元多項式で近似し、活物質の平均リチウムイオン濃度c
avgと、活物質表面のリチウムイオン濃度c
sとの差を1次遅れモデルで表現することによって導出できる。
図6は、固相拡散のモデル化を示す概念図である。
図6に示すグラフは、活物質における拡散によるリチウムイオンの濃度分布を示す。
【0025】
活物質の平均リチウムイオン濃度c
avg[mol/m
3]は、数式3を用いて表すことができる。
【数3】
【0026】
活物質の体積平均のリチウムイオン濃度流束q[mol/m
3・m]は、数式4を用いて表すことができる。
【数4】
【0027】
活物質表面のリチウムイオン濃度c
sは、数式5を用いて表すことができる。
【数5】
【0028】
リチウムイオンの流束j
Liは、数式6を用いて表すことができる。
【数6】
ここで、Iは電流を表す。a
sは、体積当たりの活物質の表面積(比面積)[1/m]を表し、数式7を用いて表すことができる。Fはファラデー定数である。L
pは正極の厚さ[m]を表す。L
nは負極の厚さ[m]を表す。Aは電極の反応面積[m
2]を表す。
【数7】
ここで、ε
sは多孔度を表す。
【0029】
図7は、等価回路モデルを示す概略図である。等価回路モデルは、二次電池の挙動を模擬するモデルである。例えば、等価回路モデルは、電流を入力にして電圧を算出することができる。等価回路モデルは、数式1や
図6のモデルに対する数式を、その要素として使用する。Iは電流を表す。R
diffはRC回路の抵抗を表す。C
diffはRC回路のキャパシタ容量を表す。正負極OCP(Open Circuit Potential)マップとは、正極及び負極それぞれの活物質SOCと電圧との関係を示すものである。正極及び負極の活物質SOCは、それぞれ
図9に示すθ
p、θ
nのように表すことができる。ここで、c
sは活物質表面のリチウムイオン濃度を表す。c
s,maxは最大リチウムイオン濃度を表す。pは正極を示し、nは負極を示す。
【0030】
数式8は、リチウムイオンの流束j
Liと電流Iとの関係を表す式である。L
eは、正負極それぞれの厚みを表す。
【数8】
【0031】
また、電位差算出部131は、二次電池の液相拡散モデルを用いて、二次電池の厚み方向の液相電位差を算出することができる。数式9は、液相拡散モデルの一例である液相拡散方程式である。
【数9】
ここで、ε
eは多孔度を表す。c
eは塩濃度[mol/m
3]を表す。tは時間を表す。t
+
0は輸率を表す。D
e
effは、液相におけるリチウムイオンの拡散係数[m
2/s]を表す。xは負極の集電板を基準とする厚み方向の位置を表す。
【0032】
数式10は、数式9の液相拡散モデルの境界条件を示す。
【数10】
ここで、L
nは負極の厚さ[m]を表し、L
sはセパレータの厚さ[m]を表し、L
pは正極の厚さ[m]を表す。Lは正極、負極及びセパレータの厚みを表し、L
n、L
s及びL
pの和に相当する。L
n
-は、負極とセパレータの境界の負極側を表す。L
n
+は、負極とセパレータの境界のセパレータ側を表す。D
e,n
effは、負極におけるリチウムイオンの拡散係数[m
2/s]を表す。D
e,s
effは、セパレータにおけるリチウムイオンの拡散係数[m
2/s]を表す。D
e,p
effは、正極におけるリチウムイオンの拡散係数[m
2/s]を表す。
【0033】
図8は、二次電池の厚み方向の塩濃度の一例を示す図である。
図8に示すように、二次電池の厚み方向の塩濃度が放射線状に分布すると仮定した場合、その放射線は、数式11を用いて近似することができる。
【数11】
ここで、c
e,nは負極付近における塩濃度を表す。c
e,sはセパレータ付近における塩濃度を表す。c
e,pは正極付近における塩濃度を表す。tは時間を表す。a
1~a
9は可変パラメータを表す。c
e,0は平均塩濃度を表す。Δc
e,nは負極の塩濃度変化量を表す。Δc
e,sはセパレータの塩濃度変化量を表す。Δc
e,pは正極の塩濃度変化量を表す。
【0034】
そして、数式11の近似式で表される塩濃度を、数式9に示す液相の拡散方程式に代入することにより可変パラメータa
1~a
9が算出でき、数式12に示す塩濃度の伝達関数が得られる。
【数12】
ここで、sはラプラス演算子を表す。n及びdは係数であり、それぞれ正極、負極及びセパレータの多孔度ε、液相の拡散係数De、輸率t0+、比面積a及び厚さLによって定まる。
【0035】
そして、数式12に示す塩濃度の伝達関数に基づき、塩濃度による液相電位差Δφc
eを示す数式13を導出することができる。
【数13】
ここで、Rは気体定数であり、Tは温度である。t
+は輸率である。
【0036】
電位差算出部131は、数式13を用いて、液相電位差を算出することができる。
【0037】
計測値判定部132は、取得された計測値を判定するプログラムモジュールである。具体的には、計測値判定部132は、取得された計測電流値の絶対値が、既定の閾値以内であるか否か判定する。この閾値は、二次電池が実際に入出力し得る電流値に基づいて定めることができる。計測値判定部132は、取得された計測電流値の絶対値が既定の閾値以内である場合、当該計測電流値と、当該計測電流値に関連する計測電圧値及び計測温度を、1セットとして記憶装置12に保存する。
【0038】
また、計測値判定部132は、記憶装置12に保存された計測値のセット数が閾値を超えるか否か判定する。この閾値は、後述する数式18に示す近似式が成り立つ電流値とすることができる。
【0039】
誤差算出部133は、計測電圧値と固相電位差及び液相電位差の和との差であるセル電圧誤差ΔVを算出するプログラムモジュールである。具体的には、誤差算出部133は、数式14に示すように、計測電圧値から、電位差算出部131が算出した固相電位差及び液相電位差を減算して、セル電圧誤差ΔVを算出することができる。
【数14】
【0040】
二次電池の電圧は、数式15に示すように、二次電池の固相電位差、液相電位差、反応過電圧及び直流抵抗電圧の和として表すことができる。
【数15】
【0041】
従って、セル電圧誤差ΔVは、二次電池の反応過電圧と直流抵抗電圧に起因すると仮定すると、数式16のように定義することができる。
【数16】
ここで、R
η(i
0)は、二次電池の反応抵抗を表す。Iは、二次電池の計測電流値を表す。R
dc(κ)は、二次電池の直流抵抗を表す。従って、セル電圧誤差ΔVは、二次電池の反応過電圧と直流抵抗電圧の和に相当する。
【0042】
二次電池の反応過電圧ηは、数式17によって表すことができる。
【数17】
ここで、Rは気体定数を表す。Tは、二次電池の計測温度を表す。Fはファラデー定数である。Iは、二次電池の計測された電流を表す。i
0は、二次電池の交換電流密度を表す。Aは、二次電池が備える正極及び負極の反応面積を表す。
【0043】
二次電池の電流が十分に大きい場合、二次電池の反応過電圧ηは、数式18に示す式で近似することができる。数式18は、反応過電圧ηが電流に比例することを意味する。
【数18】
【0044】
一方、二次電池の直流抵抗電圧V
dcは、数式19によって表すことができる。
【数19】
ここで、L
nは二次電池の負極の厚さを表す。L
sは、二次電池のセパレータの厚さを表す。L
pは、二次電池の正極の厚さを表す。κ
n
effは、二次電池の負極の有効イオン伝導率を表す。κ
s
effは、二次電池のセパレータの有効イオン伝導率を表す。κ
p
effは、二次電池の正極の有効イオン伝導率を表す。なお、κ
effは、イオン伝導率κと多孔度ε
brugを乗算することによって求められる。brugは、電極のイオン経路を考慮したブラグマン係数である。
【0045】
パラメータ算出部134は、セル電圧誤差ΔVを最小にする塩濃度依存パラメータを算出するプログラムモジュールである。具体的には、パラメータ算出部134は、数式16に基づき、二次電池の反応過電圧と直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出する。
【0046】
ここで、パラメータ算出部134は、再帰最小二乗法を利用して、二次電池の反応抵抗Rη(i0)及び/又は直流抵抗Rdc(κ)を最小にする塩濃度依存パラメータを求めることができる。また、パラメータ算出部134は、拡張カルマンフィルタ等の適応フィルタを利用して、二次電池の反応抵抗Rη(i0)及び/又は直流抵抗Rdc(κ)を最小にする塩濃度依存パラメータを求めてもよい。
【0047】
塩濃度特定部135は、塩濃度依存パラメータと二次電池の塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定するプログラムモジュールである。塩濃度依存パラメータは、二次電池の液相の塩濃度に依存するパラメータである。本実施形態では、塩濃度依存パラメータとして、二次電池の電解液のイオン伝導率κ及び二次電池の交換電流密度i0を採用する。
【0048】
図2は、二次電池の塩濃度依存パラメータの一例であるイオン伝導率κと、二次電池の液相塩濃度との対応関係を示す図である。塩濃度特定部135は、
図2に示すような対応関係に基づき、パラメータ算出部134が算出したイオン伝導率κに対応する液相塩濃度を特定する。
【0049】
ここで、対応する液相塩濃度が2つ存在する場合、塩濃度特定部135は、二次電池のそれまでの使われ方に基づいて、対応する2つの液相塩濃度のうちの一方を選択することができる。具体的には、二次電池の放電の頻度が充電の頻度よりも高い場合、塩濃度特定部135は、2つの液相塩濃度のうち値の大きいものを選択する。一方、二次電池の充電の頻度が放電の頻度よりも高い場合、塩濃度特定部135は、2つの液相塩濃度のうち値の小さいものを選択する。
【0050】
図3は、二次電池の塩濃度依存パラメータの一例である交換電流密度i
0と、二次電池の固相Li濃度及び液相塩濃度との対応関係を示す図である。塩濃度特定部135は、
図3に示すような対応関係に基づき、パラメータ算出部134が算出した交換電流密度i
0に対応する液相塩濃度を特定する。
【0051】
ここで、対応する液相塩濃度が2つ存在する場合、塩濃度特定部135は、二次電池のそれまでの使われ方に基づいて、対応する2つの液相塩濃度のうちの一方を選択することができる。具体的には、二次電池の放電の頻度が充電の頻度よりも高い場合、塩濃度特定部135は、2つの液相塩濃度のうち値の大きいものを選択する。一方、二次電池の充電の頻度が放電の頻度よりも高い場合、塩濃度特定部135は、2つの液相塩濃度のうち値の小さいものを選択する。
【0052】
塩濃度斑推定部136は、二次電池の塩濃度の斑を推定するプログラムモジュールである。具体的には、塩濃度斑推定部136は、塩濃度特定部135が特定した液相塩濃度と、当該液相塩濃度の初期値との差を算出する。この差が、二次電池の液相塩濃度の斑に相当する。
【0053】
図4は、推定装置10が実行する処理の一例を示すフローチャートである。ステップS101では、計測値取得部130が、二次電池の計測電流値、計測電圧値及び計測温度を取得する。ステップS102では、電位差算出部131が、二次電池の正極及び負極の固相電圧を算出し、これらの固相電圧の差である固相電位差を算出する。ステップS103では、電位差算出部131が、二次電池の正極及び負極の液相電圧を算出し、これらの液相電圧の差である液相電位差を算出する。
【0054】
ステップS104では、計測値判定部132が、ステップS101で取得された計測電流値の絶対値が閾値以内であるか否か判定する。計測電流値の絶対値が閾値を超える場合(NO)、
図4の処理が終了する。当該閾値は、二次電池が実際に入出力し得る電流値に基づいて定められる。そのため、閾値を超えた計測電流値と、当該計測電流値に関連する計測電圧値及び計測温度が、後述するステップS105で記憶装置12に保存されない。その結果、ノイズである可能性が高い計測値に基づいて二次電池の塩濃度斑が推定されるのを防ぐことができる。
【0055】
一方、計測電流値の絶対値が閾値以下である場合(YES)、ステップS105で計測値判定部132が、ステップS101で取得された計測電流値、計測電圧値及び計測温度を記憶装置12に保存する。
【0056】
ステップS106では、計測値判定部132は、記憶装置12に保存された計測値のセット数が閾値を超えるか否か判定する。記憶装置12に保存された計測値のセット数が閾値以下である場合(NO)、
図4の処理が終了する。一方、保存された計測値のセット数が閾値を超える場合(YES)、ステップS107に処理が分岐する。
【0057】
ステップS107では、誤差算出部133が、記憶装置12から計測電圧値を取得し、当該計測電圧値から、ステップS102及びS103において当該計測電圧値を用いて算出された固相電位差及び液相電位差を減算することにより、セル電圧誤差ΔVを算出する。
【0058】
ステップS108では、パラメータ算出部134が、セル電圧誤差ΔVを最小にする塩濃度依存パラメータを算出する。ステップS109では、塩濃度特定部135が、塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定する。ステップS110では、塩濃度斑推定部136が、特定された塩濃度と当該塩濃度の初期値との差を算出し、
図4の処理が終了する。
【0059】
上述した実施形態では、推定装置10の電位差算出部131が、二次電池の固相電位差及び液相電位差を算出する。次いで、誤差算出部133が、二次電池の計測電圧値と固相電位差及び液相電位差の和との差である電圧誤差ΔVを算出する。次いで、パラメータ算出部134が、電圧誤差ΔVに相当する二次電池の反応過電圧及び直流抵抗電圧の和を最小にする塩濃度依存パラメータを算出する。これにより、電圧誤差ΔVを最小にする塩濃度依存パラメータを算出することができる。
【0060】
次いで、塩濃度特定部135が、塩濃度依存パラメータと塩濃度との対応関係に基づき、算出された塩濃度依存パラメータに対応する塩濃度を特定する。そして、塩濃度斑推定部136が、特定された塩濃度と二次電池の塩濃度の初期値との差を、塩濃度の斑として算出する。
【0061】
このように電圧誤差ΔVを最小にする塩濃度依存パラメータに基づいて特定された塩濃度と二次電池の塩濃度の初期値との差を、塩濃度の斑として算出するため、塩濃度斑の推定精度を高めることができる。
【0062】
図5は、推定装置10による推定対象の二次電池の一例を示す図である。二次電池は、
図5に示すように厚み方向及び面方向を有する。二次電池内では、厚み方向に電極シートが積層される。また、二次電池は、面方向の各端部に正極集電端子及び負極集電端子を備える。一般に、二次電池が高頻度で充放電されることにより、二次電池の面方向における塩濃度差、すなわち、塩濃度斑が発生する。この面方向の塩濃度斑は、二次電池の厚み方向の液相塩濃度の斑として現れる。
【0063】
上述した実施形態では、このような二次電池の面方向の塩濃度斑と相関する厚み方向の液相塩濃度の斑と関連する直流抵抗電圧を、電圧誤差ΔVの要素として定義する。推定装置10は、このような直流抵抗電圧を最小にする塩濃度依存パラメータを特定し、当該塩濃度依存パラメータに対応する液相塩濃度を特定する。そして、推定装置10は、特定された液相塩濃度と液相塩濃度の初期値との差を、液相塩濃度の斑として算出する。上述したように、厚み方向の液相塩濃度の斑は、二次電池の面方向における塩濃度斑を反映する。そのため、推定装置10は、二次電池の面方向における塩濃度斑を推定することができ、塩濃度斑の推定精度を高めることができる。
【0064】
このように二次電池の塩濃度斑を高い精度で推定することにより、二次電池の状態を正確に把握することができる。そのため、二次電池の充放電を適切に制御することができる。例えば、二次電池の放電が過剰に制限されるのを防ぐことができ、二次電池の電力を有効に利用することができる。その結果、二次電池の電力によって駆動される車両の燃費を向上させることができると共に、当該車両のドライバビリティの低下を防ぐことができる。
【0065】
上述の例において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに提供することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM)を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに提供されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。コンピュータには、PC(Personal Computer)、サーバ、CPU、MPU、FPGA、ASIC等の種々の装置が含まれる。
【0066】
本発明は上述した実施形態に限られたものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 推定装置
12 記憶装置
13 演算装置
130 計測値取得部
131 電位差算出部
132 計測値判定部
133 誤差算出部
134 パラメータ算出部
135 塩濃度特定部
136 塩濃度斑推定部