(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139514
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】植物体によるエチレンガスの産生抑制方法、植物体の成長を抑制する方法及び植物体用エチレンガス産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
A01G 7/06 20060101AFI20220915BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220915BHJP
A01N 57/20 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
A01G7/06 A
A01P21/00
A01N57/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039936
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 豊嗣
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 雄希
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 仁
(72)【発明者】
【氏名】河合 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】田邉 昌子
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
2B022EA10
2B022EB06
4H011AB03
4H011BB17
4H011DA13
4H011DD03
4H011DE15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法及び新規なエチレンガス産生抑制剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物を植物体に投与するする、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法。
(式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子等に置換されていてもよく、X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、nは0~10の整数を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を植物体に投与する工程を有する、
前記植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法。
【化1】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の方法を植物体に適用することにより、前記植物体の成長を抑制する方法。
【請求項3】
前記成長が、果実の成熟である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記成長が、枝葉又は果実の脱離である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記成長が、器官脱離後の果実の追熟である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、
植物体用のエチレンガス産生抑制剤。
【化2】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
【請求項7】
前記植物体の成長を抑制するための、請求項6に記載のエチレンガス産生抑制剤。
【請求項8】
前記成長が、果実の成熟である、請求項7に記載のエチレンガス産生抑制剤。
【請求項9】
前記成長が、枝葉又は果実の脱離である、請求項7に記載のエチレンガス産生抑制剤。
【請求項10】
前記成長が、器官脱離後の果実の追熟である、請求項7に記載のエチレンガス産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体によるエチレンガスの産生抑制方法、植物体の成長を抑制する方法及び植物体用エチレンガス産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンは炭素数2のアルケンであり、植物ホルモンとして作用することが知られている。例えば、エチレンガスが、植物体の熟成、老化、器官脱離、成長、枝分かれ、分げつ、種子形成、花の形成、及び種子発芽等を促進することが報告されている。
【0003】
特許文献1には、エチレンガスを利用することにより未熟果実等の成熟促進、花芽形成、球根の休眠打破、老化促進等の効果が得られることが開示されている。特許文献2には、サラシナショウマ属植物を継続的にエチレンガスに接触させて種子の発芽を促進させる方法が開示されている。特許文献3には、唐辛子植物体をエチレンガス雰囲気下に置くことにより、植物体から果実が離脱することを促進する方法が開示されている。特許文献4には、エチレンガス発生剤が内蔵された密封カバーの内部に柿を収容・密封することによち、熟柿を効率よく製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-333205号公報
【特許文献2】特開2009-219461号公報
【特許文献3】特開2013-111050号公報
【特許文献4】特表2013-521774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、植物体近傍のエチレンガスの濃度を制御することは、植物体の熟成、老化、器官脱離、成長、枝分かれ、分げつ、種子形成、花の形成、及び種子発芽等を制御する観点から好ましい。また、収穫後の果実等の植物体について、エチレンガスを多く放出する植物体の近傍に他の植物体を置いておくと、放出されたエチレンガスに起因して当該他の植物体の追熟が促進され、当該他の植物体が腐敗しやすくなるという問題がある。したがって、植物体近傍のエチレンガス濃度を制御する方法、特に植物体近傍のエチレンガス濃度を低く維持する方法を提供することが望まれている。
【0006】
しかしながら、植物体自身がエチレンガスを放出するため、植物体近傍のエチレンガス濃度を低く維持するためには、持続的に植物体近傍の雰囲気を置換する必要があり、植物体近傍のエチレンガス濃度を低く維持することは容易でない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する新規な方法、及び新規なエチレンガス産生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を解決するために鋭意検討した。その結果、特定の化合物、及びその塩が、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を植物体に投与する工程を有する、
前記植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法。
【化1】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
[2]
[1]に記載の方法を植物体に適用することにより、前記植物体の成長を抑制する方法。
[3]
前記成長が、果実の成熟である、[2]に記載の方法。
[4]
前記成長が、枝葉又は果実の脱離である、[2]に記載の方法。
[5]
前記成長が、器官脱離後の果実の追熟である、[2]に記載の方法。
[6]
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、
植物体用のエチレンガス産生抑制剤。
【化2】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
[7]
前記植物体の成長を抑制するための、[6]に記載のエチレンガス産生抑制剤。
[8]
前記成長が、果実の成熟である、[7]に記載のエチレンガス産生抑制剤。
[9]
前記成長が、枝葉又は果実の脱離である、[7]に記載のエチレンガス産生抑制剤。
[10]
前記成長が、器官脱離後の果実の追熟である、[7]に記載のエチレンガス産生抑制剤。
【0010】
本発明によれば、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する新規な方法、及び新規なエチレンガス産生抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
[エチレンガス産生抑制方法]
本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法は、下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を植物体に投与する工程を有する。
【0013】
【化3】
ここで、式(1)中、R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、nは0~10の整数を示す。
【0014】
本発明者らは、上記式(1)で表される化合物、及びその塩(以下、これらを総称して、「本化合物等」という。)からなる群より選択される少なくとも1種を植物体に投与すると、その植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出が抑制され、その結果、当該植物体近傍のエチレンガス濃度が低下することを見出した。
【0015】
エチレンガスは、植物体において、メチオニンを出発物質とするエチレン生合成経路により産生されることが知られている。具体的には、エチレン生合成経路は、逐次的に生じる(1)SAM合成酵素によるメチオニンからS-アデノシル-L-メチオニンの合成、(2)ACC合成酵素によるS-アデノシル-L-メチオニンから1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸の合成、及び(3)ACC酸化酵素によるエチレンへの1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸の分解(酸化)を含む。また、エチレン生合成経路の上記(3)においてエチレン生成の基質となる1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)は、エチレン生合成経路以外にも代謝経路があることが知られており、例えば、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)によるγ-グルタミルACC(GACC)の生成反応の基質となることが知られている。
【0016】
本発明者らは、本化合物等を植物体に投与すると、以下のように、植物体内において本化合物等が上記のエチレン生合成経路に働きかけることで、エチレンガスの産生及び/又は放出が抑制されると考えている。すなわち、本化合物等を植物体に投与すると、本化合物等が植物体においてγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の阻害剤として働くことにより、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)のγ-グルタミルACC(GACC)への変換が抑制され、一時的にACCの濃度が上昇する。かかるACCの濃度の上昇を感知した植物体は、エチレン生合成経路におけるS-アデノシル-L-メチオニン又はACCの合成を抑制させ、すなわち、エチレン生合成経路を不活性化する。これにより、本化合物等が投与された植物体は、エチレンの産生を抑制する。ただし、本化合物等を投与した際に植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出が抑制される機構はこれに限られない。
【0017】
本明細書中、「植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する」とは、植物体内におけるエチレンガスの濃度又は含有量を低下させること、植物体によるエチレンガスの放出を抑制させ、植物体近傍のエチレンガス濃度を低下させること、並びに、本実施形態の方法を適用しない場合と比較して植物体近傍のエチレンガス濃度が特定の値に到達するまでの時間を延長することの全てを包含する。
【0018】
(化合物)
上記式(1)中、R1、及びR2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-CN、-NO2、-NHCOR3、-OR3、-SR3、-OCOR3、-SO2R3、及び-SO2NR3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、XCは、-COOH、又は-COO-を示し、XNは、-NH2、又は-NH3
+を示す。
【0019】
XCは、-COOH、及び-COO-から、XNは、-NH2、及び-NH3
+から各々独立に選択される。XC、及びXNの好ましい組み合わせは、XCが-COOHであり、XNが-NH2である場合、及びXCが-COO-であり、XNが-NH3
+である場合である。XC、及びXNの好ましい態様は、本化合物等の存在する環境により異なり、特に環境のpHに依存する。
【0020】
R1、及びR2における1価の炭化水素基には、1価の脂肪族炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、及び1価の芳香族炭化水素基、並びに、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のうち少なくとも2種の基が単結合を介して結合した1価の基が含まれる。
【0021】
R1、及びR2における1価の脂肪族炭化水素基の炭素数としては、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上3以下が更に好ましい。1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、及びドデシル基のようなアルキル基;ビニル基、アリル基、及び1-ブテニル基のようなアルケニル基;並びに、エチニル基、及びプロピニル基のようなアルキニル基が挙げられる。
【0022】
R1、及びR2における1価の脂環式炭化水素基の炭素数としては、3以上15以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、5以上8以下が更に好ましい。1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロオクチル基のようなシクロアルキル基;シクロペンテニル基、及びシクロへキセニル基のようなシクロアルケニル基;並びに、パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、及びテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基のような橋かけ環式炭化水素基が挙げられる。
【0023】
R1、及びR2における1価の芳香族炭化水素基の炭素数としては、6以上14以下が好ましく、6以上10以下がより好ましい。1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、及びナフチル基が挙げられる。
【0024】
R1、及びR2における脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のうち少なくとも2種の基が単結合を介して結合した1価の基としては、上記の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基において、水素原子が上記の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の少なくとも1種に置換された基が挙げられる。すなわち、脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した1価の基としては、水素原子が上記の1価の脂環式炭化水素基に置換された上記の1価の脂肪族炭化水素基、及び水素原子が上記の1価の脂肪族炭化水素基に置換された上記の1価の脂環式炭化水素基が挙げられる。水素原子が上記の1価の脂環式炭化水素基に置換された上記の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、及び2-シクロヘキシルエチル基のようなシクロアルキル置換アルキル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基としては、水素原子が上記の1価の芳香族炭化水素基に置換された上記の1価の脂肪族炭化水素基であるアラルキル基、及び水素原子が上記の1価の脂肪族炭化水素基に置換された上記の1価の芳香族炭化水素基である脂肪族炭化水素置換アリール基が挙げられる。
【0025】
R1、及びR2における1価の炭化水素基としては、1価の脂肪族炭化水素基、及び1価の芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子が1価の脂肪族炭化水素基に置換された1価の芳香族炭化水素基、及び水素原子が1価の脂肪族炭化水素基に置換された1価の脂環式炭化水素基も好ましい。その中でも、R1、及びR2における1価の炭化水素基としては、1価の脂肪族炭化水素基、及びアルキル置換アリール基(芳香族環の水素原子の1つ以上をアルキル基に置換したものから水素原子を1つ取り除いた1価の基)がより好ましい。
【0026】
R3における1価の脂肪族炭化水素基の炭素数としては、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上3以下が更に好ましい。R3における1価の脂肪族炭化水素基の例示は、R1、及びR2における1価の脂肪族炭化水素基として例示したものと同じである。
【0027】
R3における1価の脂肪族炭化水素基は、無置換であることが好ましいが、置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、カルボニル基、ヒドロキシ基、置換オキシ基(例えば、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数7~16のアラルキルオキシ基、及び炭素数1~4のアシルオキシ基等)、カルボキシ基、置換オキシカルボニル基(例えば、炭素数1~4のアルコキシカルボニル基、炭素数6~10のアリールオキシカルボニル基、及び炭素数7~16のアラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル等の炭素数1~4のアルキル置換カルバモイル、及びフェニルカルバモイル基等の炭素数6~10のアリール置換カルバモイル基)、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基(例えば、無置換のアミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、及びジエチルアミノ基等の炭素数1~4のモノ又はジアルキルアミノ基;1-ピロリジニル、ピペリジノ、及びモルホリノ基等の5~8員の環状アミノ基;アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、及びベンゾイルアミノ基等の炭素数1~10のアシルアミノ基;ベンゼンスルホニルアミノ、及びp-トルエンスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基)、スルホ基、及び1価の複素環式基等が挙げられる。また、上記のヒドロキシ基やカルボキシ基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0028】
R3における1価の脂肪族炭化水素基の置換基としての複素環式基に含まれる複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子)を有する3~10員環、及びこれらの縮合環を挙げることができる。上記複素環は、好ましくは4~6員環である。複素環としては、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、及びγ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、及びモルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、及びイソクロマン環等の縮合環;並びに、3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、及び3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、及びチアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;並びに、ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、並びに、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、及びトリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、及びピペラジン環等の6員環;並びに、インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、及びプリン環等の縮合環等)が挙げられる。なお、1価の複素環式基とは、上記の複素環から1個の水素原子を除いた基を意味する。
【0029】
R1、及びR2における1価の炭化水素基が、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-NHCOR3、-OR3、-SR3、-OCOR3、-SO2R3、及び-SO2NR3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されている場合、R3が当該1価の炭化水素基と互いに結合することにより、環を形成していてもよい。
【0030】
R1、及びR2における1価の炭化水素基が置換基により置換されている場合、置換基としては、ハロゲン原子、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-NHCOR3、-OR3、及び-OCOR3が好ましく、-COOR3、-CONR3
2、及び-OR3がより好ましく、-COOR3が更に好ましく、-COOHが特に好ましい。
【0031】
R1、及びR2は、各々独立に、水素原子、及び上述した1価の炭化水素基から選択される。R1、及びR2の組み合わせは特に限定されないが、-OR1、及び-OR2の組み合わせとしては、下記の(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)又は(vi)の組み合わせが好ましい。特に、上記式(1)中、後述するnが0以上2以下の場合は、下記の(i)、(ii)、(iii)、(iv)又は(v)の組み合わせが好ましく、下記の(iii)又は(v)の組み合わせがより好ましい。nが3以上の場合は、下記の(vi)の組み合わせが好ましい。
【0032】
(i)-OR
4で表される基(R
4は置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい1価の複素環式基を示す。)と下記式(i-1)で表される基との組み合わせ
【化4】
ここで、式(i-1)中、R
5、R
6、及びR
7は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい1価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。R
8は、各々独立に、水素原子、アルキル基、及びアルケニル基からなる群より選択される基を示す。R
5、R
6、及びR
7から選択される2つの基は互いに結合して、環を形成していてもよい。
【0033】
R4、R5、R6、及びR7における1価の芳香族炭化水素基、1価の複素環式基、及び1価の脂肪族炭化水素基の例示は、R1、R2、又はR3において1価の芳香族炭化水素基、1価の複素環式基、及び1価の脂肪族炭化水素基として例示したものと同じである。また、R4、R5、R6、及びR7における1価の芳香族炭化水素基、1価の複素環式基、及び1価の脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基の例示は、R3において脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基として例示したものと同じである。R8におけるアルキル基、及びアルケニル基の例示は、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものと同じである。
【0034】
(ii)下記式(ii-1)で表される基と下記式(ii-2)で表される基との組み合わせ
【化5】
ここで、式(ii-1)中、R
9は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し、R
10は水素原子又は下記式(ii-1-1)で表される基である。
【化6】
ここで、式(ii-1-1)中、R
11は水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、n1は0以上4以下の整数であり、n2は0又は1であり、n3は0以上4以下の整数である。n1、n2及びn3から選択される2以上は、同一であっても異なっていてもよい。X
1はアミド結合又はアルケニレン基を示し、X
2は-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を示す。ただし、R
3は上記と同義である。
【化7】
ここで、式(ii-2)中、Z
1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。ただし、R
8は上記と同義である。Z
2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を示す。ただし、R
3は上記と同義である。Z
1とZ
2は互いに結合して、環を形成していてもよい。
【0035】
R9におけるアルキル基、及びアリール基の例示は、R1、及びR2においてアルキル基、及びアリール基として例示したものと同じであり、Z1、及びZ2におけるアルキル基、及びアルケニル基の例示は、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものと同じである。R9、及びZ2が有していてもよい置換基の例示は、R3において脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基として例示したものと同じである。
【0036】
X1におけるアルケニレン基としては、R1、及びR2においてアルケニル基として例示したものから、更に水素原子を1つ取り除いた2価の基が挙げられる。Z1におけるアルコキシ基、及びアルケニルオキシ基としては、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものに由来するアルコキシ基、及びアルケニルオキシ基が挙げられる。例えば、メチル基に由来するアルコキシ基とは、メトキシ基を意味し、ビニル基に由来するアルケニルオキシ基とは、ビニルオキシ基を意味する(以下同様。)。
【0037】
(iii)置換基を有していてもよいアルコキシ基と下記式(iii-1)、(iii-2)、(iii-3)及び(iii-4)(以下、「式(iii-1)~(iii-4)」と表記する。)で表される基から選択される基との組み合わせ(中でも、置換基を有していてもよいアルコキシ基と下記式(iii-1)で表される基との組み合わせが好ましい。)
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
ここで、式(iii-1)~(iii-4)中、Z
1、及びZ
2は上記と同義である。Z
1とZ
2は互いに結合して、環を形成していてもよい。式(iii-3)及び(iii-4)中、R
12は水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。
【0038】
置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものに由来するアルコキシ基、及びアルケニルオキシ基が挙げられる。また、かかるアルコキシ基が有していてもよい置換基の例示は、R3において脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基として例示したものと同じである。置換基を有していてもよいアルコキシ基は、好ましくは置換基を有していないものであり、アルコキシ基が置換されていない場合、好ましい炭素数は1~3である。すなわち、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、及びプロピルオキシ基が好ましい。
【0039】
式(iii-1)~(iii-4)中、Z1は水素原子、-COOR8、-CONR8
2-SO2R8、又は-SO2NR8
2であることが好ましく、水素原子、又は-COOR8であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。式(iii-1)~(iii-4)中、Z2は置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、置換基を有する炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましい。この場合の置換基としては、ハロゲン原子、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-NHCOR3、-OR3、及び-OCOR3が好ましく、-COOR3、-CONR3
2、及び-OR3がより好ましく、-COOR3が更に好ましく、-COOHが特に好ましい。中でも、式(iii-1)~(iii-4)中、Z2は1つ又は2つの-COOHに置換されたメチル基、エチル基、又はプロピル基であると好ましい。
【0040】
(iv)-OR
1と-OR
2が、同一又は異なって、下記式(iv-1)で表される基である組み合わせ
【化12】
ここで、式(iv-1)中、Z
1、及びZ
2は上記と同義である。Z
1とZ
2は互いに結合して、環を形成していてもよい。
【0041】
(v)-OR1及び-OR2がいずれもヒドロキシ基である組み合わせ
【0042】
(vi)ヒドロキシ基と置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素オキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)との組み合わせ
【0043】
(vi)の組み合わせにおける脂肪族炭化水素オキシ基を構成する脂肪族炭化水素基の例示は、R1、及びR2において脂肪族炭化水素基として例示したものと同じである。
【0044】
R1、及びR2のより好ましい態様の一例としては、R1、及びR2が、各々独立に、水素原子、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基、及びカルボキシメチル基置換フェニル基である場合が挙げられる。R1、及びR2の更に好ましい例としては、各々独立に、水素原子、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基、及びカルボキシメチル基置換フェニル基が挙げられる。上記のトリル基としては、o-トリル基、m-トリル基、及びp-トリル基のいずれも好ましいが、m-トリル基が一層好ましい。上記のカルボキシメチル基置換フェニル基としては、2-カルボキシメチルフェニル基、3-カルボキシメチルフェニル基、及び4-カルボキシメチルフェニル基のいずれも好ましいが、3-カルボキシメチルフェニル基が一層好ましい。
【0045】
R1とR2との組み合わせは、水素原子と水素原子との組み合わせであってもよく、水素原子と炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基との組み合わせであってもよく、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基と炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基との組み合わせであってもよく、水素原子とカルボキシメチル基置換フェニル基との組み合わせであってもよく、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基とカルボキシメチル基置換フェニル基との組み合わせであってもよく、カルボキシメチル基置換フェニル基とカルボキシメチル基置換フェニル基との組み合わせであってもよい。
【0046】
上記式(1)中、nは0以上10以下の整数を示す。nは、好ましくは1以上9以下であり、より好ましくは2以上8以下であり、更に好ましくは2以上6以下であり、更により好ましくは2以上4以下であり、特に好ましくは2である。
【0047】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、下記の式(2)~(6)で表される化合物(光学異性体を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。また、下記式(2)~(6)で表される化合物は、いずれも、そのアミノ基及び/又はカルボキシ基がプロトン化されている態様であってもよく、脱プロトン化されている態様であってもよい。
【0048】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【0049】
上記式(1)で表される化合物は塩を形成していてもよい。上記式(1)で表される化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、及びN-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基との塩;リジン、アルギニン、及びオルニチン等の塩基性アミノ酸との塩;遷移金属塩;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、及びホウ酸等の無機酸との塩;並びに、シュウ酸、酢酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
【0050】
上記式(1)で表される化合物は、従来公知の種々の方法により製造することができる。具体的な製造方法は、国際公開第2007/066705号、及び特開2017-100993号公報を参照することができる。
【0051】
式(1)で表される化合物の塩は、上記方法で得られた式(1)で表される化合物に、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び水酸化バリウム等の塩基性化合物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、及びN-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基;リジン、アルギニン、及びオルニチン等の塩基性アミノ酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、及びホウ酸等の無機酸;並びに、シュウ酸、酢酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸等を反応させることにより製造することができる。
【0052】
(植物体の種類)
本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法を適用する植物は、特に限定されず、通常エチレンガスを産生及び/又は放出し得る植物であればよく、例えば、サラシナショウマ、アーティチョーク、アイスプラント、アスパラガス、アセロラ、アチョクチャ、アップランドクレス、アテモヤ、アニス、アボカド、アマランサス、アンジェリカ、イチゴ、イチジク、イノンド、ウイキョウ、ウリ、エシャロット、エンダイブ、エンドウ豆、オクラ、オレンジ、ガーキン、カイラン、カサバ、カブ、カボチャ、カランボラ(スターフルーツ)、ガリアマスクメロン、カリフラワー、カルドン、ガルバンゾ、カンタロープ、キウイ、菊、菊イモ、キノコ、キバナツノゴマ、キャッサバ、キャベツ、キュウリ、グアーガム、グアバ、クシュクシュ、クズウコン、クレソン、ケール、ケッパー、ゴーヤー、コールラビ、ココヤシ、コショウ、ゴボウ、コラード、コリアンダー、ザクロ、サッサフラス、サツマイモ、サトイモ、サフラン、サポジラ、サルサパリラ、サルシファイ、シトロン、ジャガイモ、ジャボチカバ、ショウガ、ショクヨウカヤツリ、スイートコーン、スイートバジル、スイカ、スイスチャード、スイバ、スターアニス、ズッキーニ、ステムレタス、スベリヒユ、スポンディアス、セイヨウアブラナ、セイヨウワサビ、セキショウモ、セリ、セロリ、セロリアック、大根、大豆、竹、玉ねぎ、タマリロ、タンポポ、チコリー、チャイブ、チャヤ、チョウジ、高麗人参、チンゲンサイ、ツルレイシ、唐辛子、唐茄子、トウモロコシ、トマティロ、トマト、トリュフ、梨、茄子、ナツメ、ナランジロ、ニンジン、ニンニク、ネクタリン、ノウゼンハレン、パースニップ、パイナップル、パセリ、ハツカダイコン、ハックルベリー、パッションフルーツ、バナナ、ハネデュー、パパイヤ、パプリカ、ハマアカザ、ハマナ、ハマベブドウ、ハヤトウリ、パラミツ、バンバラマメ、バンレイシ、ビート、ピーナッツ、ピーマン、ヒカマ、ヒシ、ピタヤ、ヒョウタン、ヒレハリソウ、ビワ、フタナミソウ、フダンソウ、ブドウ、ブラックベリー、プラム、プランテン、ブルーベリー、ブロッコリー、ペカン、ヘチマヒョウタン、ほうれん草、ホタルブクロ、ボニアートポテト、ホホバ、マーシュ、マカダミア、マスカディンブドウ、マスクメロン、マスタード、マスタードコラード、マメ、マメイサポテ、マランガ、マンゴー、メキャベツ、メロン、モモ、ヤマゴボウ、ヤムイモ、ユーゲニア、ヨウサイ、ラーブブロッコリー、ラズベリー、ラッキョウ、ラベージ、リーキ、リュウガン、リンゴ、ルートパセリ、ルタバガ、ルッコラ、ルバーブ、レイシ、レタス、レンズマメ、ローゼル、ロメインレタス、柿、赤チコリー、及び野生セロリ、並びにこれらと同属の植物が挙げられる。
【0053】
後述するように、本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法を適用した場合に、植物体の成長が抑制される効果が顕著にみられる観点から、本実施形態の方法を適用する植物としては、サラシナショウマ、唐辛子、及び柿が好ましい。また、本実施形態の方法を適用する植物としては、リンゴ属、モモ属、及びワニナシ属の植物も好ましく、その中でも、リンゴ、モモ、及びアボカドがより好ましい。
【0054】
なお、本実施形態の方法を適用する植物としては、野生型の植物に限定されず、変異体や形質転換体であってもよい。
【0055】
(植物体の状態)
本実施形態の方法を適用する際の植物体の状態としては、特に限定されず、通常の生育状態であってもよいし、植物体の一部が切断された状態であってもよい。
【0056】
「通常の生育状態」とは、本実施形態の方法の対象とする植物の本来有すべき構成要素の全てが備えられている状態を意味し、例えば、植物体の特定の構成要素(器官)が人為的に取り除かれていない状態を意味する。「通常の生育状態」の例としては、植物体の根及び/又は茎の一部又は全部が地中に植えられている状態(土耕栽培)、並びに植物体の根及び/又は茎の一部又は全部が水中に浸漬された状態で保持されている状態(水耕栽培)等が挙げられる。
【0057】
「植物体の一部が切断された状態」である植物体としては、植物体の一部分が切断されて取り除かれた場合において、取り除かれた部分と、かかる部分が取り除かれた後に残る部分の双方を包含する。植物体の一部が切断された状態である植物体の例としては、植物体の茎、根、花、枝、葉、果実、稲穂、及びむかご等であって、植物体から切り離された状態にあるもの、並びに、茎、根、花、枝、葉、果実、稲穂、及びむかご等が取り除かれた植物体が挙げられる。より具体的には、植物体の一部が切断された状態である植物体としては、葉、切り花、塊茎、塊根、及び果実が挙げられる。
【0058】
一般的に、植物体においてその一部が切断されると、その切断面は、経時的に修復すると考えられ、切断直後においては、その切断面に、植物体の内部組織が露出しているが、一定期間経過後には、その切断面は修復され、内部組織が露出していない状態となる。本明細書において、「植物体の一部が切断された状態」には、その切断面において、内部組織が露出している状態と、内部組織が露出していない状態の双方を包含するものとする。
【0059】
本実施形態の方法を適用する際の植物体としては、少なくとも果実を有するものであると好ましく、果実であるとより好ましい。農作物のうち、果実は、高濃度のエチレンガスを放出する傾向にあるからである。また、植物体は、収穫後、又は自発的に器官脱離した後の果実であってもよい。
【0060】
(化合物の投与)
本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を植物体に投与する工程を有する。本化合物等の投与方法は、特に限定されないが、例えば、本化合物等を含む液体を植物体の少なくとも一部に対して散布する方法、並びに、本化合物等を含む液体に植物体の少なくとも一部を浸漬する方法等が挙げられる。植物体が地中に植えられている場合、本化合物等を地面に散布することにより本化合物等を投与してもよい。
【0061】
本化合物等を含む液体を植物体の少なくとも一部に対して散布する方法において、液体を散布する植物体の部分は特に限定されないが、例えば、葉、根、茎、及び果実等が挙げられる。このなかでも液体が散布される部分は、果実であると好ましい。そのような態様によれば、エチレンガスの産生及び/又は放出をより一層抑制できる傾向にある。散布方法としては、特に限定されず、例えば、ジョウロ等を用いた散布、及び霧吹き等を用いた噴霧(スプレー散布)が挙げられる。
【0062】
本化合物等を含む液体に植物体の少なくとも一部を浸漬する方法において、液体に浸漬する植物体の部分は特に限定されないが、例えば、葉、根、茎及び果実等が挙げられ、その中でも果実が好ましい。
【0063】
本化合物等の投与の回数、各投与間の間隔、及び投与する期間は、特に限定されない。投与の回数は、1回であってもよく、5回以下であってもよく、10回以下であってもよく、50回以下であってもよい。各投与間の間隔は、1時間以下の間隔であってもよく、1日以下の間隔であってもよく、3日以下の間隔であってもよく、1週間以下の間隔であってもよい。投与する期間は、1日以下であってもよく、3日以下であってもよく、1週間以下であってもよく、1か月以下であってもよく、1年以下であってもよいし、あるいは、1日以上であってもよく、3日以上であってもよく、1週間以上であってもよく、1か月以上であってもよく、1年以上であってもよい。なお、本化合物等を含む液体に植物体を浸漬する場合や本化合物等を含む溶液を植物体に連続的に噴霧する場合においては、その投与の回数は1回とする。
【0064】
本実施形態の方法において、エチレンガスの濃度を低く保持し続ける観点から、例えば、6時間以上7日以下の間隔で本化合物等を繰り返し投与し続けてもよい。投与間隔は、18時間以上5日以下であってもよく、24時間以上4日以下であってもよく、36時間以上72時間以下であってもよい。
【0065】
本化合物等の投与が本化合物等を含む液体を用いて行われる場合、当該液体は、本化合物等を任意の溶媒に溶解させることにより得ることができる。当該溶媒としては、植物体が接触及び/又は吸収することが許容可能な溶媒であれば特に限定されないが、好ましくは水である。
【0066】
液体中の上記式(1)で表される化合物、及びその塩の含有量の合計は特に限定されないが、液体全体に対して、質量比で、好ましくは10ppm以上10.0%以下であり、より好ましくは50ppm以上5.0%以下であり、更に好ましくは100ppm以上1.0%以下である。
【0067】
本化合物等を含む液体は、本化合物等、及び溶媒以外に、植物体が接触及び/又は吸収することが許容可能なその他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、公知の肥料、鮮度保持剤、及びpH調整剤(特に、水酸化ナトリウム等の塩基性のものが挙げられる。)等が挙げられる。
【0068】
本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法によれば、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制することができる。ここで、特許文献1~4を参照して上述したとおり、エチレンガスは、植物体の成長及び老化を促進するものである。したがって、本実施形態は、植物体の成長を抑制する方法をも提供する。また、エチレンガスを放出する植物体の近傍に他の植物体が位置している場合において、当該他の植物体は、近傍に位置する植物体が放出するエチレンガスによりその成長が促進されることが知られている。したがって、本実施形態は、植物体により放出されるエチレンガスに起因して当該植物体の近傍に位置する他の植物体の成長が促進されることを抑制する方法をも提供する。
【0069】
[植物体の成長を抑制する方法]
本実施形態の植物体の成長を抑制する方法は、本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法を植物体に適用することにより行われる。すなわち、本実施形態の植物体の成長を抑制する方法は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を植物体に投与する工程を有する。
【0070】
本明細書中、「植物体の成長を抑制する」とは、果実の成熟を遅延させること、植物体が有する枝葉又は果実が脱離することを抑制させること、並びに、収穫後又は器官脱離後の果実が追熟することを遅延させることの全てを包含する。
【0071】
したがって、本実施形態の方法によれば、植物体の成長を抑制し、すなわち、植物体の老化を抑制することができる。したがって、特に、収穫後の農作物等に適用することにより、その消費期限を延長することができると考えられる。
【0072】
[近傍の植物体の成長を促進することを抑制する方法]
本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法は、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制することができるため、通常エチレンガスを放出する植物体に、かかる方法を適用すると、当該植物体が有する他の植物体の成長を促進させることを抑制することができる。
【0073】
より詳細には、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を植物体(「第1の植物体」という。)に投与すると、本化合物等が投与された第1の植物体において、エチレンガスの産生及び/又は放出が抑制される。当該第1の植物体は、本実施形態の方法を適用しなければ、エチレンガスを放出し、その近傍に位置する他の植物体(「第2の植物体」という。)の成長を促進するものと考えられる。一方、本化合物等を投与する場合、第1の植物体によるエチレンガスの放出が抑制されるため、第1の植物体が放出するエチレンガスに起因する第2の植物体の成長の促進が抑制される。なお、「植物体の成長を抑制する」とは、上記植物体の成長を抑制する方法において記載したものと同義である。
【0074】
[植物体用エチレンガス産生抑制剤]
本実施形態の植物体用のエチレンガス産生抑制剤は、下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
【0075】
【化18】
ここで、式(1)中、R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、nは0~10の整数を示す。
【0076】
式(1)中における、R1、及びR2の1価の炭化水素基、R3、XC、並びにXNの定義、例示、組み合わせ、及び好ましい態様は上述したものと同様である。また、式(1)で表される化合物の塩の例示についても、上述したものと同様である。
【0077】
本実施形態のエチレンガス産生抑制剤の対象となる植物、及び植物体の状態は、本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法を適用する植物、及び植物体の状態として記載したものと同様である。
【0078】
本実施形態のエチレンガス産生抑制剤の投与態様についても、本実施形態の植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制する方法において記載したものと同様である。
【0079】
本実施形態のエチレンガス産生抑制剤は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のみからなるものであってもよく、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種以外の成分を含んでいてもよい。
【0080】
エチレンガス産生抑制剤が含み得る成分としては、植物体が接触及び/又は吸収することが許容可能な成分であれば特に限定されず、溶媒、公知の肥料、鮮度保持剤、及びpH調整剤(特に、水酸化ナトリウム等の塩基性のものが挙げられる。)等が挙げられる。溶媒としては、特に限定されず、例えば、水等が挙げられる。
【0081】
エチレンガス産生抑制剤における、上記式(1)で表される化合物、及びその塩の含有量の合計は、特に限定されないが、エチレンガス産生抑制剤全体に対して、質量比で、好ましくは10ppm以上10.0%以下であり、より好ましくは50ppm以上5.0%以下であり、更に好ましくは100ppm以上1.0%以下である。
【0082】
本実施形態のエチレンガス産生抑制剤によれば、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制することができる。ここで、特許文献1~4を参照して上述したとおり、エチレンガスは、植物体の成長及び老化を促進するものである。したがって、本実施形態のエチレンガス産生抑制剤によれば、植物体の成長を抑制させることができる。植物体の成長の詳細は、植物体の成長を抑制する方法において記載したものと同様である。
【実施例0083】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0084】
[エチレンガスの産生抑制効果の評価]
(化合物)
式(1)で表される化合物として、下記式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」という。)、及び下記式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」という。)を準備した。
【化19】
【化20】
【0085】
(試験1)
果実であるリンゴ(品種:ふじりんご)をサンプルとして、以下のような方法で、化合物(2)及び化合物(4)のエチレンガス産生抑制効果を評価した。
【0086】
サンプルの表面に純水、化合物(4)の0.05質量%溶液、又は化合物(2)の0.05質量%溶液を40回スプレー散布した。その後、空気1Lと共に、気体を透過しない袋にサンプルを封入した。48時間室温で静置した後、シリンジを用いて袋内の空気を100mL取り出し、エチレンガス検知管(ガステック社製、No.172)により、採取した空気中のエチレンガスの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
(試験2)
サンプルとして、果実であるリンゴ(品種:ジョナゴールド)を用いたこと以外は、上記試験1と同様にして、化合物(2)及び化合物(4)のエチレンガス産生抑制効果を評価した。結果を表2に示す。
【0089】
【0090】
(試験3)
サンプルとして、果実であるアボカドを用いたこと以外は、上記試験1と同様にして、化合物(2)及び化合物(4)のエチレンガス産生抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0091】
【0092】
(試験4)
サンプルとして、果実であるモモを用いたこと以外は、上記試験1と同様にして、化合物(4)のエチレンガス産生抑制効果を評価した。なお、化合物(2)については試験を行わなかった。結果を表4に示す。
【0093】
【0094】
表1~4から、式(1)で表される化合物を植物体に投与すると、植物体によるエチレンガスの産生及び放出が抑制されることがわかった。
本発明の方法は、例えば、植物体によるエチレンガスの産生及び/又は放出を抑制することができる。その結果、この方法は、例えば、植物体の成長を抑制することができるため、農業、商業等の分野で産業上の利用可能性を有する。本発明の方法は、例えば、野菜や果実のような農作物の流通時及び/又は保存時における鮮度保持、並びに農作物の成長速度の制御等を目的として利用することができる。