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特開2022-13953電極及び固体型リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013953
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】電極及び固体型リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220112BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220112BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220112BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220112BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M4/139
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018202058
(22)【出願日】2018-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 明
(72)【発明者】
【氏名】福本 武文
(72)【発明者】
【氏名】町田 信也
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK15
5H029AK16
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL18
5H029AM12
5H029CJ02
5H029HJ02
5H050AA12
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA19
5H050CA20
5H050CA21
5H050CA22
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA09
5H050EA12
5H050EA14
5H050GA02
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】酸化物型固体電解質をセパレータとして備える固体型リチウムイオン二次電池に適する、新たな電極を提供すること。
【解決手段】電極活物質及び(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWO(x及びyは、x≧0、y≧0、0<x+y≦60を満足する。)を含有する電極活物質層と、集電体を備えることを特徴とする電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及び(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWO(x及びyは、x≧0、y≧0、0<x+y≦60を満足する。)を含有する電極活物質層と、集電体を備えることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記電極活物質と前記(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOの質量比が8:2~3:7の範囲内である請求項1に記載の電極。
【請求項3】
45≦x+y≦55を満足する請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記電極が正極である請求項1~3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
y>0である請求項4に記載の電極。
【請求項6】
前記電極が負極であり、y=0である請求項1~3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電極と、
前記電極の対極と、
前記電極及び前記対極の間に、酸化物型固体電解質を材料とするセパレータと、
を備えることを特徴とする固体型リチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記セパレータにおける前記酸化物型固体電解質が前記(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOであってy=0のものである、請求項7に記載の固体型リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電極の製造方法であって、
前記電極活物質及び前記(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOを混合して混合物とする工程、
前記混合物と前記集電体が接した状態で、前記(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOのガラス転移温度以上かつ結晶化温度未満の範囲内の温度で加熱する工程、
を有する製造方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の固体型リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記集電体と前記セパレータとの間に、前記電極活物質及び前記(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOが存在する状態で、前記(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOのガラス転移温度以上かつ結晶化温度未満の範囲内の温度で加熱する工程、
を有する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体型リチウムイオン二次電池と固体型リチウムイオン二次電池に用いられる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、二次電池としては、樹脂製セパレータに有機溶媒を含む非水電解液を含浸させた非水系二次電池が主に用いられている。ここで、有機溶媒を含む非水電解液はセパレータで完全に固定化されていないため、電池破損時には非水電解液が液漏れするおそれがある。
【0003】
そのため、非水電解液及び樹脂製セパレータの代わりに、セラミックスや高分子などの固体電解質を用いた、固体型二次電池の開発研究が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されているように、主に硫化物からなる固体電解質を用いた固体型二次電池の検討が行われている。ここで、硫化物は電荷担体であるリチウムイオンの伝導性が比較的高いとの性質を示す。そのうえ、硫化物材料は比較的やわらかいため成形性に優れており、硫化物材料と電極に用いられる活物質との界面を形成するのが容易であるとの利点を有する。例えば、硫化物材料と活物質とは、これらの混合物を加圧するだけで密着し、上記界面を形成できるため、リチウムイオンの伝導パスが容易に確保できる。
【0005】
しかし、主に硫化物からなる固体電解質をセパレータに用いる際、加圧により粒子同士を接触させるため、疎な部分ができる。そして、当該固体電解質をセパレータとして用いた固体型二次電池を作動すると、上記の疎な部分にリチウムイオンが集中し、その結果として、リチウム金属からなるデンドライトが形成されてしまうとの問題がある。この問題を解決するためには、当該固体電解質からなるセパレータの厚みを増加せざるを得なかった。
【0006】
また、固体電解質として酸化物を用いる検討も行われている。通常、酸化物は高温での焼結を経て固体電解質とされる。酸化物からなる固体電解質は高密度であり、緻密な構造体であるためデンドライトの問題は生じにくい。
【0007】
しかし、酸化物を用いた固体電解質(以下、酸化物型固体電解質ということがある。)は硬いため成形性に劣り、酸化物型固体電解質と電極に用いられる活物質との界面を形成するのが比較的困難である。実際には、酸化物型固体電解質に正極活物質をスパッタで付着させるスパッタ法や、酸化物型固体電解質に正極活物質を密着させた接合物を焼結させる焼結法で、固体型二次電池の製造を行わざるを得なかった。ここで、スパッタ法で製造された二次電池においては、正極の厚みがナノ水準であり、固体型二次電池の容量を大きくすることが困難であった。また、焼結法で製造された固体型二次電池においては、熱に因る正極活物質の変性が懸念される。
【0008】
非特許文献1に記載されるように、Weppnerらによって、高い導電率を示し電気化学的に安定なガーネット型酸化物としてLiLaZr12が提案された。
この酸化物型固体電解質であるLiLaZr12は1000℃以上の温度で作製することが一般的である。そのため、LiLaZr12と正極活物質との密着性を向上させる目的で、例えば、LiLaZr12の粉末又はLiLaZr12の原料粉末に正極活物質を密着させた接合物を用いて焼結法を適用しようとする場合には、1000℃以上の加熱が必要となる。しかしながら、かかる温度に因り、正極活物質が変性するおそれがあるため、事実上、焼結法を採用することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-228570号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、従来の固体型二次電池には種々の課題があり、新たな固体型二次電池の提供が熱望されている。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、特に、酸化物型固体電解質をセパレータとして備える固体型リチウムイオン二次電池に適する、新たな電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、リチウムを含有する低融点のガラスの性質を利用して、電極と酸化物型固体電解質を密着させる技術を想起した。具体的には、リチウムを含有する低融点のガラスを電極活物質が存在する電極活物質層に含有させることで、電極活物質層内部におけるリチウムイオンの移動を担保しつつ、電極活物質層の成形性と、電極活物質層及び酸化物型固体電解質の密着性を確保させることを想起した。
そして、本発明者は、リチウムを含有する低融点のガラスとして、LiPO-LiSO系ガラスに着目し、鋭意検討を重ねることにより、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の電極は、電極活物質及び(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWO(x及びyは、x≧0、y≧0、0<x+y≦60を満足する。)を含有する電極活物質層と、集電体を備えることを特徴とする。
本発明の固体型リチウムイオン二次電池は、本発明の電極と、対極と、前記電極及び前記対極の間に、酸化物型固体電解質を材料とするセパレータと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電極は、自身の成形性に優れ、かつ、酸化物型固体電解質との界面形成にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】評価例1の粉末X線回折チャートである。
図2】製造例EのLiPO-LiSO系ガラスのDSCチャートである。
図3】参考例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線である。
図4】実施例2の固体型リチウムイオン二次電池の模式図である。
図5】実施例2の固体型リチウムイオン二次電池の充電曲線である。
図6】実施例2の固体型リチウムイオン二次電池の放電曲線である。
図7】実施例3の固体型リチウムイオン二次電池の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例や参考例等に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0018】
本発明の電極は、電極活物質及び(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWO(x及びyは、x≧0、y≧0、0<x+y≦60を満足する。)を含有する電極活物質層と、集電体を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。ただし、本発明の電極が負極の場合は、LiWOのW6+が還元するおそれがあるため、y=0であるのが好ましい。換言すれば、y>0であれば、本発明の電極は正極であるのが好ましい。
なお、電極が正極であれば、電極活物質は正極活物質であり、電極活物質層は正極活物質層である。電極が負極であれば、電極活物質は負極活物質であり、電極活物質層は負極活物質層である。
【0020】
正極活物質としては、二次電池の正極活物質として用いられるものであればよく、例えば、層状岩塩構造の一般式:LiNiCo(MはAl及び/又はMnである。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。)で表されるリチウム複合金属酸化物、LiMnOを挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn、LiMn等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/または負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0021】
正極活物質としては、高容量である点から、層状岩塩構造の一般式:LiNiCo(MはAl及び/又はMnである。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。)で表されるリチウム複合金属酸化物が好ましい。
【0022】
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが10/100<b<95/100、1/100<c<60/100、1/100<d<60/100の範囲であることが好ましく、40/100<b<90/100、1/100<c<40/100、1/100<d<40/100の範囲であることがより好ましく、60/100<b<85/100、1/100<c<20/100、1/100<d<20/100の範囲であることがさらに好ましい。
【0023】
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
【0024】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じるおそれがあるため、当該おそれの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag-Sn合金、Cu-Sn合金、Co-Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、SiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0025】
(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおけるx及びyは、x≧0、y≧0、0<x+y≦60を満足する。x+yが0<x+y≦60の範囲内であるため、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOはガラス状態であり、一定程度の導電性を示す。(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWO(0<x+y≦60)を粉末X線回折装置で測定すると、非晶質を示すハローが観測される。
【0026】
(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWO(x及びyは、x≧0、y≧0、0<x+y≦60を満足する。)(本明細書において、「LiPO-LiSO系ガラス」ということがある。)は、比較的低温領域にガラス転移温度を示す。そのため、本発明の電極の製造時に、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの混合物を、LiPO-LiSO系ガラスのガラス転移温度以上の温度で加熱することで、LiPO-LiSO系ガラスが軟化して、電極活物質の粒子間の隙間に入ることができる。その結果、緻密な構造の電極活物質層が形成される。
【0027】
x+yが大きいほど、LiPO-LiSO系ガラスのガラス転移温度が低くなる傾向にある。電極を製造する際の加熱温度を低くすることができる点では、x+yが大きい方が好ましい。
また、x+yの値が45~55の範囲内に、LiPO-LiSO系ガラスの電気伝導性の極大値があると考えられる。
他方、x+yの値が60を超えると、結晶が生成しやすくなり、ガラス状態のものを製造するのが困難となる場合がある。
以上の事項を総合すると、x+yは、40≦x+y<60を満足するのが好ましく、45≦x+y≦55を満足するのがより好ましく、47≦x+y≦53を満足するのがさらに好ましいと考えられる。
【0028】
xの範囲としては、x=0、0<x≦60、40≦x≦60、45≦x≦55、47≦x≦53を例示できる。
yの範囲としては、y=0、0<y≦40、10≦y≦35、15≦y≦35を例示できる。
【0029】
LiPO-LiSO系ガラスは、本発明の電極の構造の面では、電極活物質層の緻密性と成形性を確保するための重要な役割を担っており、さらに、集電体と電極活物質層の密着性を確保するための重要な役割を担っている。
また、LiPO-LiSO系ガラスは、本発明の電極の機能の面では、電極活物質層の導電性及びリチウムイオン伝導性を確保するための重要な役割を担っている。
【0030】
そして、LiPO-LiSO系ガラスは、本発明の固体型リチウムイオン二次電池においては、本発明の電極と、酸化物型固体電解質を材料とするセパレータとの間に、好適な界面を形成するための重要な役割を担っている。
【0031】
本発明の電極において、電極活物質とLiPO-LiSO系ガラスの質量比としては、8:2~3:7の範囲内が好ましく、7:3~4:6の範囲内がより好ましい。
【0032】
LiPO-LiSO系ガラスは、LiPOガラス、LiSO及び/又はLiWOの混合物を加熱して液体とし、当該液体を急速に冷却することで製造できる。ここで、LiPOガラスは、Li化合物及びリン酸化合物の混合物を加熱して液体とし、当該液体を急速に冷却することで製造できる。
【0033】
本発明の電極における電極活物質層には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、LiPO-LiSO系ガラス以外の固体電解質や、導電助剤などの公知の添加剤が配合されていてもよい。
【0034】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
電極活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、電極活物質:導電助剤=1:0.01~1:0.3であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0035】
集電体は、固体型リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0036】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
本発明の電極の製造方法としては、
電極活物質及び(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOを混合して混合物とする工程(以下、混合工程ということがある。)、
混合物と集電体が接した状態で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOのガラス転移温度以上かつ結晶化温度未満の範囲内の温度で加熱する工程(以下、加熱工程ということがある。)、
を有する製造方法を例示できる。
【0038】
混合工程における混合機としては、混合攪拌機、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、分散機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサーなどの、一般的なものを採用すればよい。
【0039】
加熱工程における加熱温度が高すぎると、LiPO-LiSO系ガラスが結晶化する場合があるため、不都合である。さらに、電極活物質の劣化や変質が生じるおそれがある。これらの点から、加熱温度の上限は400℃未満が好ましい。
加熱工程における加熱温度としては、LiPO-LiSO系ガラスのガラス転移温度(以下、Tgと略すことがある。)以上400℃未満が好ましく、Tg以上350℃以下がより好ましく、Tg以上330℃以下がさらに好ましく、Tg以上310℃以下が特に好ましく、Tg以上300℃以下が最も好ましい。また、加熱工程における加熱温度としては、Tg+5℃~Tg+40℃の範囲内、Tg+5℃~Tg+30℃の範囲内、Tg+5℃~Tg+20℃の範囲内としてもよい。
【0040】
加熱工程においては、加熱時に、軟化したLiPO-LiSO系ガラスが電極活物質の粒子間の隙間に流動するための時間や環境を確保するのが好ましい。例えば、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの混合物の加熱時に、混合物に対して外圧を加える及び/又は減じる条件を、一定時間、維持させることが好ましい。特に、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの混合物を、無加圧条件下又は減圧下で一定時間加熱した後、加熱条件下で、所望の形状に加圧成型することが好ましい。
【0041】
加熱工程は、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの劣化を抑制する雰囲気下で実施されるのが好ましく、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施されるのが好ましい。
加熱工程で使用される加熱装置としては、加圧可能な加圧-加熱装置(ホットプレスなど)が好ましく、さらには、通電しながら加圧及び加熱可能な放電プラズマ焼結装置も使用することができる。
【0042】
次に、本発明の固体型リチウムイオン二次電池について説明する。
本発明の固体型リチウムイオン二次電池は、本発明の電極と、対極と、前記電極及び前記対極の間に、酸化型固体電解質を材料とするセパレータと、を備えることを特徴とする。
【0043】
対極は、本発明の電極であってもよいし、従来の一般的な電極であってもよい。
【0044】
次に、酸化物型固体電解質を材料とするセパレータについて説明する。
酸化物型固体電解質としては、固体型リチウムイオン二次電池の動作時にリチウムと反応せず、かつ、固体型リチウムイオン二次電池の動作時に還元反応も生じないものが選択される。
【0045】
一般的な酸化物型固体電解質は、焼結させて製造されるため、緻密な構造体となっている。
【0046】
酸化物型固体電解質としては、ガーネット型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物を挙げることができる。酸化物型固体電解質としては、電位窓の関係から組成内に遷移金属を含まない酸化物が望ましい。その理由は、遷移金属を含む酸化物を固体電解質として用いると、負極に電位の低い材料を用いた場合、負極反応より先に固体電解質中の遷移金属が還元されるため、印加した電流が電池反応ではなく電解質の還元分解に使用されてしまうためである。
【0047】
ガーネット型酸化物としては、ガーネット結晶構造を示す組成式Li 12(5≦a≦7、MはY、La、Pr、Nd、Sm、Lu、Mg、Ca、Sr又はBaから選択される1種以上の元素。MはZr、Hf、Nb又はTaから選択される1種以上の元素。)で表される酸化物、及び、当該組成式のLi、M又はMの一部がLi、M又はMで置換された酸化物を挙げることができる。より具体的なガーネット型酸化物としては、LiLaZr12、LiLaNb12、LiLaTa12、LiLa(Nb,Ta)12、LiBaLaTa12を挙げることができる。ガーネット型酸化物は、対リチウム電位が0V以下の条件で反応しないとの利点に加えて、正極及び負極間が5Vや6Vとなる高電位条件においても反応しないとの利点があるため、特に好ましい。
【0048】
NASICON型酸化物としては、組成式Li (0.5<a<5、0≦b<3、0.5≦c<3、0<d≦3、2<b+d<4、3<e≦12、MはB、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb又はSeから選択される1種以上の元素。MはTi、Zr、Hf、Ge、In、Ga、Sn又はAlから選択される1種以上の元素。)で表される酸化物を挙げることができる。好適なNASICON型酸化物としては、MがAl、MがGeのものを挙げることができ、具体的にはLi1.5Al0.5Ge1.512を例示できる。
【0049】
LISICON型酸化物としては、組成式Li4-2xZnGeO(0≦x≦1)で表される酸化物を例示できる。
【0050】
上記以外の酸化物型固体電解質の具体例として、LiPO、LiPOの酸素の一部が窒素で置換したLiPON、LiBOを例示できる。
【0051】
また、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOであってy=0のもの、すなわち、(100-x)LiPO・xLiSO(xは0<x≦60を満足する。)をセパレータとしての酸化物型固体電解質として採用してもよい。
(100-x)LiPO・xLiSO(xは0<x≦60を満足する。)をセパレータとして採用した場合には、加工・成形が容易であるといえる。さらには、本発明の電極における電極活物質層とセパレータとの親和性が優れることになるので、両者の界面は良好に形成されると考えられる。
【0052】
本発明の電極におけるLiPO-LiSO系ガラスと、セパレータにおける(100-x)LiPO・xLiSOは、異なるものであってもよいし、同一のものであってもよい。
【0053】
酸化物型固体電解質を材料とするセパレータの厚み(t)は、0.1μm≦t≦2000μmが好ましく、0.5μm≦t≦1500μmがより好ましく、1μm≦t≦300μmがさらに好ましい。tが厚すぎると、抵抗が大きくなり、電池として作動困難になるだけでなく、固体型リチウムイオン二次電池が大型化してしまうことが懸念される。他方、tが薄すぎると製造作業が困難となる場合がある。
【0054】
本発明の固体型リチウムイオン二次電池の製造方法においては、電極の集電体と酸化物型固体電解質を材料とするセパレータとの間に、LiPO-LiSO系ガラスが存在する状態で、LiPO-LiSO系ガラスのガラス転移温度以上かつ結晶化温度未満の範囲内の温度で加熱する工程(以下、電極-セパレータ密着工程ということがある。)を行うことが好ましい。
電極-セパレータ密着工程の具体例としては、集電体と酸化物型固体電解質を材料とするセパレータとの間に、電極活物質層を挟んだ状態で、又は、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの混合物を挟んだ状態で、LiPO-LiSO系ガラスのガラス転移温度以上かつ結晶化温度未満の範囲内の温度で加熱する工程を挙げることができる。
【0055】
電極-セパレータ密着工程に因り、LiPO-LiSO系ガラスが軟化して、電極活物質層が酸化物型固体電解質を材料とするセパレータと、好適に密着できる。そのため、本発明の電極及びセパレータの間で形成される界面は、著しく好適なものとなる。
【0056】
電極-セパレータ密着工程において電極活物質層を用いる場合には、集電体と電極活物質層を具備する本発明の電極を用いてもよいし、又は、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスを含有する電極活物質層を別途製造した上で、当該電極活物質層を用いてもよい。
【0057】
電極-セパレータ密着工程において、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの混合物を用いる場合には、一の工程で、本発明の電極が製造されると共に、本発明の電極と酸化物型固体電解質を材料とするセパレータが密着した積層体が製造されることになる。
【0058】
電極の製造方法における加熱工程にて説明したのと同様に、電極-セパレータ密着工程における加熱温度が高すぎると、LiPO-LiSO系ガラスが結晶化する場合があるため、不都合である。さらに、電極活物質の劣化や変質が生じるおそれがある。
電極-セパレータ密着工程における加熱温度としては、LiPO-LiSO系ガラスのガラス転移温度以上400℃未満が好ましく、Tg以上350℃以下がより好ましく、Tg以上330℃以下がさらに好ましく、Tg以上310℃以下が特に好ましく、Tg以上300℃以下が最も好ましい。また、電極-セパレータ密着工程における加熱温度としては、Tg+5℃~Tg+40℃の範囲内、Tg+5℃~Tg+30℃の範囲内、Tg+5℃~Tg+20℃の範囲内としてもよい。
【0059】
電極-セパレータ密着工程においては、加熱時に、集電体とセパレータの積層方向に外圧を加えることが好ましい。電極-セパレータ密着工程は、電極活物質及びLiPO-LiSO系ガラスの劣化を抑制する雰囲気下で実施されるのが好ましい。
【0060】
本発明の固体型リチウムイオン二次電池は、その構成に因り、電極活物質層と酸化物型固体電解質を材料とするセパレータとが好適に接合し得るため、リチウムイオンの伝導パスが好適に確保できる。さらに、本発明の固体型リチウムイオン二次電池は、酸化物型固体電解質を材料とするセパレータを採用しているため、デンドライト形成を好適に抑制できる。
【0061】
本発明の固体型リチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0062】
本発明の固体型リチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に固体型リチウムイオン二次電池を搭載する場合には、固体型リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。固体型リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の固体型リチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例0064】
以下に、実施例等を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
(製造例A)
LiCO及び(NHHPOをモル比1:2で秤量して、混合し、混合物とした。当該混合物を950℃に加熱して、液体とした。当該液体を急冷して、固化させた後に、粉砕することで、LiPOガラスを得た。
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比70:30で秤量して、混合し、混合物とした。大気下、当該混合物を850℃付近に加熱して、液体とした。当該液体を急冷して、固化させた後に、粉砕することで、透明な製造例AのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
製造例AのLiPO-LiSO系ガラスは、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=30、y=0のものに相当する。
【0066】
(製造例B)
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比60:40で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=40、y=0のものに相当する、透明な製造例BのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0067】
(製造例C)
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比55:45で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=45、y=0のものに相当する、透明な製造例CのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0068】
(製造例D)
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比50:50で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=50、y=0のものに相当する、透明な製造例DのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0069】
(製造例E)
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比45:55で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=55、y=0のものに相当する、透明な製造例EのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0070】
(製造例F)
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比40:60で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=60、y=0のものに相当する、製造例FのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
製造例FのLiPO-LiSO系ガラスには、やや白濁が観察された。
【0071】
(製造例G)
LiPOガラス及びLiSO・HOをモル比35:65で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=65、y=0のものに相当する、製造例GのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
製造例GのLiPO-LiSO系ガラスには、白濁が観察された。かかる白濁は結晶と考えられる。
【0072】
(製造例H)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:45:5で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=45、y=5のものに相当する、透明な製造例HのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0073】
(製造例I)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:40:10で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=40、y=10のものに相当する、透明な製造例IのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0074】
(製造例J)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:35:15で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=35、y=15のものに相当する、透明な製造例JのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0075】
(製造例K)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:30:20で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=30、y=20のものに相当する、透明な製造例KのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0076】
(製造例L)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:25:25で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=25、y=25のものに相当する、透明な製造例LのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0077】
(製造例M)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:20:30で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=20、y=30のものに相当する、透明な製造例MのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0078】
(製造例N)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:15:35で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=15、y=35のものに相当する、透明な製造例NのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0079】
(製造例O)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:10:40で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=10、y=40のものに相当する、透明な製造例OのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0080】
(製造例P)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比50:5:45で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=5、y=45のものに相当する、透明な製造例PのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0081】
(製造例Q)
LiPOガラス及びLiWOをモル比50:50で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=0、y=50のものに相当する、透明な製造例QのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0082】
(製造例R)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比60:20:20で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=20、y=20のものに相当する、透明な製造例RのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0083】
(製造例S)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比40:30:30で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=30、y=30のものに相当する、透明な製造例SのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
【0084】
(製造例T)
LiPOガラス、LiSO・HO及びLiWOをモル比30:35:35で用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、(100-(x+y))LiPO・xLiSO・yLiWOにおいて、x=35、y=35のものに相当する、製造例TのLiPO-LiSO系ガラスを製造した。
製造例TのLiPO-LiSO系ガラスには、白濁が観察された。かかる白濁は結晶と考えられる。
【0085】
製造したLiPO-LiSO系ガラスの一覧を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
(評価例1)
製造例A、製造例B、製造例D及び製造例FのLiPO-LiSO系ガラス、並びに、LiPOガラスにつき、Cu-Καを用いた粉末X線回折装置にて、分析を行った。各粉末X線回折チャートを図1に示す。
【0088】
その結果、x=0であるLiPOガラス並びにx=30~50である製造例A、製造例B及び製造例DのLiPO-LiSO系ガラスにおいては、非晶質を示すハローが、20~30°の範囲にわたり、観測された。x=60である製造例FのLiPO-LiSO系ガラスにおいては、非晶質を示すハローに加えて、若干のピークらしきものが観測された。
【0089】
以上の結果から、xが60未満の場合にはLiPO-LiSO系ガラスはガラス状態であるものの、xが60以上の場合にはLiPO-LiSO系ガラスには結晶が混在する場合があるといえる。
【0090】
(評価例2)
製造例C、製造例D、製造例E、製造例F、製造例H、製造例I、製造例K、製造例L、製造例O及び製造例PのLiPO-LiSO系ガラス、並びに、LiPOガラスにつき、示差走査熱量計(以下、DSCと略すことがある。)にて、ガラス転移温度(Tg)の測定及び結晶化温度(Tc)の測定を行った。DSCの昇温速度は10℃/分とし、室温から450℃又は500℃までの範囲を測定対象とした。
これらの結果のうち、y=0のLiPO-LiSO系ガラスの結果を表2-1に示し、y>0のLiPO-LiSO系ガラスの結果を表2-2に示す。また、製造例EのLiPO-LiSO系ガラスのDSCチャートを図2に示す。
【0091】
【表2-1】
【0092】
表2-1から、y=0のLiPO-LiSO系ガラスのxが増加するに従い、Tgが減少傾向にあることがわかる。また、いずれのLiPO-LiSO系ガラスにおいても、TcとTgの差が一定程度であるといえる。
【0093】
【表2-2】
【0094】
表2-2から、yの値が上昇するに従い、Tgが増加傾向にあることがわかる。
【0095】
(評価例3)
製造例C、製造例D、製造例E、製造例FのLiPO-LiSO系ガラス、並びに、LiPOガラスにつき、それぞれのガラスを用いた電気伝導度測定用セルを製造して、25℃での抵抗を測定した。測定された抵抗値に基づき、電気伝導度を算出した。
これらの結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3から、LiPOガラスにLiSOを添加することで、著しく電気伝導度が向上するといえる。また、xの値が45~55の範囲内に、LiPO-LiSO系ガラスの電気伝導性の極大値があると考えられる。
【0098】
評価例1~評価例3の結果を総合して考察すると、LiPO-LiSO系ガラスにおいて、x(又はx+y)は45≦x(又はx+y)≦55を満足するのが好ましく、47≦x(又はx+y)≦53を満足するのがさらに好ましいといえる。
【0099】
また、製造例H~製造例SのLiPO-LiSO系ガラスにつき、それぞれのガラスを用いた電気伝導度測定用セルを製造して、25℃での抵抗を測定した。測定された抵抗値に基づき、バルクガラスとしての電気伝導度を算出した。
さらに、製造例H~製造例SのLiPO-LiSO系ガラスにつき、ボールミルで粉砕し、200メッシュの篩を通過させて微粉末とした。当該微粉末を360MPaの圧力でプレスして、ペレットを製造した。当該ペレットを用いた電気伝導度測定用セルを製造して、25℃での抵抗を測定した。測定された抵抗値に基づき、ペレットとしての電気伝導度を算出した。
これらの結果を表4に示す。なお、表4の空欄は未測定を意味する。
【0100】
【表4】
【0101】
表4から、バルクガラスにおいては、yが上昇するに従い、LiPO-LiSO系ガラスの電気伝導度が向上する傾向にあるといえる。LiPO-LiSO系ガラス粉末を圧縮したペレットにおいては、yの値が20~25の範囲内に、電気伝導度の極大値があると考えられる。
【0102】
(評価例4)
以下のとおり、製造例DのLiPO-LiSO系ガラスの還元に対する耐久性を試験した。
【0103】
銅箔の上に環状の絶縁性合成樹脂を配置した。絶縁性合成樹脂の環内に製造例DのLiPO-LiSO系ガラスを充填し、さらに、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒を少量添加した。絶縁性合成樹脂の上側にリチウム箔を配置することで、銅箔とリチウム箔とで製造例DのLiPO-LiSO系ガラスを挟んだ状態の評価用セルを製造した。
評価用セルにおける銅箔を作用極、リチウム箔を対極及び参照極とみなして、評価用セルを0~2Vの電圧を印加するサイクリックボルタンメトリー(以下、CVと略すことがある。)試験に供した。
その結果、CV曲線からは、LiPO-LiSO系ガラスの還元分解に由来する挙動(電流)が観察されなかった。LiPO-LiSO系ガラスは還元条件下での耐久性に優れるといえる。
【0104】
比較試験として、製造例DのLiPO-LiSO系ガラスに替えて、50LiPO・50LiVOで表されるLiPO-LiVO系ガラスを充填した評価用セルを製造して、0.5~3Vの電圧を印加するサイクリックボルタンメトリー試験を行った。
その結果、電圧が2.2Vの時点でV5+がV4+に還元されたと推定される電流が観測された。電圧が2.2V以下の条件下では、LiPO-LiVO系ガラスの使用は不適切であるといえる。
【0105】
(実施例1)
正極活物質として59質量部のLiCoOと、39質量部の製造例DのLiPO-LiSO系ガラスと、導電助剤として2質量部のアセチレンブラックを混合して、正極活物質層製造用組成物とした。窒素雰囲気下、正極活物質層製造用組成物を加圧-加熱装置内に配置した。正極活物質層製造用組成物を300℃に加熱して、15分間保持した。次いで、300℃で加熱状態の正極活物質層製造用組成物を100MPaで加圧して、加熱・加圧状態を30分間保持した後に、室温まで冷却して、実施例1の正極活物質層を製造した。
【0106】
集電体として、径15.5mm、厚さ1mmのステンレス鋼製(SUS316に相当する。)の箔を準備した。集電体と、実施例1の正極活物質層との結着剤として、ペースト状の黒鉛粉末分散水を準備した。
集電体の表面に黒鉛粉末分散水を塗布し、その上に実施例1の正極活物質層を配置して積層体とした。積層体を乾燥させて水を除去することで、実施例1の正極を製造した。
【0107】
厚さ500μmの金属リチウム箔を径16mmに裁断し負極とした。セパレータとして径16mm、厚さ1mmのガラスフィルターを準備した。エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:4:4で混合した有機溶媒に、LiPFを濃度1mol/Lで溶解させて、電解液とした。
【0108】
セパレータを実施例1の正極と負極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを参考例1のリチウムイオン二次電池とした。
【0109】
(評価例5)
参考例1のリチウムイオン二次電池に対して、充電レート0.1C、放電レート0.05Cでの充放電を行った。観測された充放電曲線を図3に示す。
図3から、参考例1のリチウムイオン二次電池は好適に充放電を行ったことがわかる。
【0110】
(実施例2)
正極活物質として40質量部の層状岩塩構造のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物と、58質量部の製造例DのLiPO-LiSO系ガラスと、導電助剤として2質量部のアセチレンブラックを混合して、正極活物質層製造用組成物とした。
【0111】
50mgの製造例DのLiPO-LiSO系ガラスを、室温条件下、130MPaで加圧して、径10mm、厚さ0.5mmの酸化物型固体電解質とした。これをセパレータとして使用した。
【0112】
負極活物質として、径6mm、質量58.8mgのリチウム箔を準備した。
【0113】
集電体としてのAl箔の上に2.5mgの正極活物質層製造用組成物を配置し、その上にセパレータを配置した。これらを、300℃での加熱及び130MPaで加圧して、加熱・加圧状態を30分間維持することで、厚み0.0148mmの正極活物質層を形成させるとともに、集電体と正極活物質層とセパレータとしての酸化物型固体電解質が一体化した積層体を製造した。さらに、酸化物型固体電解質の上にリチウム箔及び集電体としてのCu箔を積層し、加圧して、実施例2の固体型リチウムイオン二次電池を製造した。
【0114】
なお、セパレータ及び実施例2の固体型リチウムイオン二次電池の製造には、セラミックス製であって内径10mmの円筒状の側部成形型、並びに、ステンレス鋼製(SUS316に相当する。)の上部成形型及び下部成形型で構成される成形装置を用いた。
【0115】
製造直後の実施例2の固体型リチウムイオン二次電池の模式図を、図4に示す。
図4において、下部成形型10の上に、集電体及び正極活物質層が積層した正極1、セパレータとしての酸化物型固体電解質2、リチウム箔3、Cu箔4がこの順に積層されている。Cu箔4の上には上部成形型11が配置されており、正極1、酸化物型固体電解質2、リチウム箔3及びCu箔4は、上部成形型11と下部成形型10で加圧されている。
なお、5はセラミックス製であって内径10mmの側部成形型である。
【0116】
(評価例6)
100℃の恒温層中で、実施例2の固体型リチウムイオン二次電池に対して、電流レート10μA/cm、電圧2.5~4.35Vの条件で充放電を行い、充放電曲線を観察した。充電曲線を図5に示し、放電曲線を図6に示す。図5及び図6において、縦軸は電圧(V)であり、横軸は容量(mAh/g)である。
【0117】
使用した正極活物質の理論容量は180mAh/g程度である。図6における放電曲線の放電容量からみて、実施例2の固体型リチウムイオン二次電池はほぼ定量的な容量を示したといえる。
【0118】
(実施例3)
正極活物質として59.8質量部の層状岩塩構造のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物と、38質量部の製造例LのLiPO-LiSO系ガラスと、導電助剤として2.2質量部のアセチレンブラックを、ボールミルを用いて100rpmで72時間混合して、正極活物質層製造用組成物とした。
【0119】
51.3mgの製造例DのLiPO-LiSO系ガラスを、室温条件下、130MPaで加圧して、径10mm、厚さ0.5mmの酸化物型固体電解質とした。これをセパレータとして使用した。
【0120】
負極活物質として、径4mmのリチウム箔及び径6mmのインジウム箔を準備した。
【0121】
集電体としてのAl箔の上に1.4mgの正極活物質層製造用組成物を配置し、その上にセパレータを配置した。これらを、300℃での加熱及び130MPaで加圧して、加熱・加圧状態を30分間維持することで、正極活物質層を形成させるとともに、集電体と正極活物質層とセパレータとしての酸化物型固体電解質が一体化した積層体を製造した。さらに、酸化物型固体電解質の上にリチウム箔及びインジウム箔を積層し、加圧して、実施例3の固体型リチウムイオン二次電池を製造した。
【0122】
なお、セパレータ及び実施例3の固体型リチウムイオン二次電池の製造には、セラミックス製であって内径10mmの円筒状の側部成形型、並びに、ステンレス鋼製(SUS316に相当する。)の上部成形型及び下部成形型で構成される成形装置を用いた。
【0123】
(評価例7)
100℃の恒温層中で、実施例3の固体型リチウムイオン二次電池に対して、電流レート10μA/cm、電圧2~4Vの条件で充放電を行い、充放電曲線を観察した。充放電曲線を図7に示す。
図7から、実施例3の固体型リチウムイオン二次電池が好適に充放電することが確認できる。
【0124】
(実施例4)
負極活物質として30質量部のLiTi12と、60質量部の製造例DのLiPO-LiSO系ガラスと、導電助剤として10質量部のアセチレンブラックを、ボールミルを用いて100rpmで72時間混合して、負極活物質層製造用組成物とした。
【0125】
50mgの製造例DのLiPO-LiSO系ガラスを、室温条件下、130MPaで加圧して、径10mm、厚さ0.5mmの酸化物型固体電解質とした。これをセパレータとして使用した。
【0126】
集電体としてのAl箔の上に70mgの負極活物質層製造用組成物を配置し、その上にセパレータを配置した。これらを、300℃での加熱及び130MPaで加圧して、加熱・加圧状態を30分間維持することで、負極活物質層を形成させるとともに、集電体と負極活物質層とセパレータとしての酸化物型固体電解質が一体化した積層体を製造した。さらに、酸化物型固体電解質の上にリチウム箔及び集電体としてのCu箔を積層し、加圧して、実施例4の固体型リチウムイオン二次電池を製造した。
【0127】
なお、セパレータ及び実施例4の固体型リチウムイオン二次電池の製造には、セラミックス製であって内径10mmの円筒状の側部成形型、並びに、ステンレス鋼製(SUS316に相当する。)の上部成形型及び下部成形型で構成される成形装置を用いた。
【0128】
(評価例8)
100℃の恒温層中で、実施例4の固体型リチウムイオン二次電池に対して、電流レート0.39μA/cm、電圧0.5~2.5Vの条件で充放電を行ったところ、実施例4の固体型リチウムイオン二次電池が充放電することが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7