(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139536
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20220915BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G02B27/01
G09F9/00 362
G09F9/00 359
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039969
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】吉井 克昌
(72)【発明者】
【氏名】大谷 久
【テーマコード(参考)】
2H199
5G435
【Fターム(参考)】
2H199DA12
2H199DA18
2H199DA32
2H199DA42
5G435BB19
5G435DD02
5G435DD04
5G435DD09
5G435GG03
5G435GG08
5G435GG46
5G435LL17
(57)【要約】
【課題】 少ない容積でありかつ拡大される画像の歪みを抑制した表示装置を提供する。
【解決手段】 本発明の表示装置100は、生成した画像を2次元状の表示領域112から出射する画像生成ユニット110と、表示領域112から出射された画像を側面122から入射し、入射した画像の水平方向を拡大した投影画像P1を側面124に生成する第1の透明基板120と、投影画像P1を側面144から入射し、入射した投影画像P1の垂直方向を拡大した投影画像P2を上面S1に生成する第2の透明基板140と、投影画像P2を観察者に向けて角度を変調する第2の角度変調器150とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成した画像を2次元状の表示領域から出射する画像生成手段と、
前記表示領域から出射された画像を入射し、入射した画像を斜め方向に投影することで入射した画像の第1の方向を拡大した第1の投影画像を生成する第1の拡大手段と、
前記第1の投影画像を入射し、入射した画像を斜め方向に投影することで前記第1の投影画像の前記第1方向と直交する第2の方向を拡大した第2の投影画像を生成する第2の拡大手段と、
前記第2の投影画像を決められた方向に出射する出射手段と、
を有する表示装置。
【請求項2】
前記第1の拡大手段は、前記表示領域からの画像を入射する第1の面と、当該第1の面から入射した画像の前記第1の投影画像を生成する第2の面とが形成された第1の透明基板を含む、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記第1の面が、前記第2の面と直交する面と交差する角を傾斜角θ1としたとき、前記第1の拡大手段による画像の拡大率αは、θ1=sin-1(1/α)で規定される、請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記第2の拡大手段は、前記第1の投影画像を入射する第3の面と、当該第3の面から入射した前記第1の投影画像の前記第2の投影画像を生成する第4の面とが形成された第2の透明基板を含む、請求項1ないし3いずれか1つに記載の表示装置。
【請求項5】
前記第3の面が、前記第4の面と直交する面と交差する角を傾斜角θ2としたとき、前記第2の拡大手段による画像の拡大率βは、θ2=sin-1(1/β)で規定される、請求項4に記載の表示装置。
【請求項6】
前記第2の透明基板は、前記第2の面が前記第3の面に面接触するように、前記第1の透明基板に固定される、請求項4に記載の表示装置。
【請求項7】
前記第2の面には、前記第1の投影画像を前記第3の面に向かわせるための第1の角度変調器が形成される、請求項6に記載の表示装置。
【請求項8】
前記第1の角度変調器は、前記第1の投影画像を反射するための傾斜面が形成されたプリズムを含む、請求項7に記載の表示装置。
【請求項9】
前記出射手段は、前記第4の面に生成された前記第2の投影画像を前記決められた方向へ向かわせるための第2の角度変調器を含む、請求項4に記載の表示装置。
【請求項10】
前記第2の角度変調器は、前記第2の投影画像を反射するための傾斜面が形成されたプリズムを含む、請求項9に記載の表示装置。
【請求項11】
前記第2の角度変調器は、前記プリズムによって反射された画像を光学的に拡散するための拡散部材を含む、請求項9に記載の表示装置。
【請求項12】
前記拡散部材は、マイクロレンズ、散乱板、拡散フィルムあるいはルーバーフィルムのいずれかを含む、請求項11に記載の表示装置。
【請求項13】
前記画像生成手段は、前記表示領域が前記第1の面に接触するように、前記第1の透明基板に固定される、請求項2に記載の表示装置。
【請求項14】
前記出射手段は、前記第2の透明基板を介して背景を見ることができる方向に前記第2の投影画像を出射させる、請求項4に記載の表示装置。
【請求項15】
前記第2の透明基板は、車両のフロントガラスの一部を構成し、またはフロントガラスの手前に配置される、請求項14に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に関し、特に、生成された画像を拡大する機能を備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載向けディスプレイは、インスツルメンツパネル内のアナログ式のメーターの置き換えを図るものや、HUD(Head Up Display)にみられる運転補助用途に組み込まれつつものもある。特許文献1は、明るく透明で、背景の色変化が少なく、かつ投影した映像だけでなく、透過した先の映像情報を重ねてみることができるディスプレイシートを開示する。
図1は、ディスプレイシート1に光投影機2の画像を投影したHUDの側面図であり、ユーザーの目4には、ディスプレイシート1に投影された画像とその延長線上にある背景とが重畳して映される。また、特許文献2は、透明性および放熱性に優れた透明有機EL表示装置を開示する。
図2は、透明有機EL表示装置の断面図であり、有機EL表示装置1は、透明有機ELパネル2と放熱シート3とを有し、放熱シート3は、その一面に金属細線7が形成された透明フィルム6から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-119362号公報
【特許文献2】特開2018-41053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HUDは、スクリーンの透過率が高いが、表示系及び光学系を構成するため広い容積が必要となる。
図1に示される投影型のディスプレイは、透明性や信頼性の観点から有利であるが、ディスプレイシート1に投影するための光投影機2の構造上の大きな容積を必要とし、映像の歪みなどが懸念される。また、透明有機EL表示装置は、透過率が高く、HUDに比べ鮮明な映像を表示可能であるが、製造の難しさがある。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、少ない容積でありながら拡大される画像の歪みを抑制した表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る表示装置は、生成した画像を2次元状の表示領域から出射する画像生成手段と、前記表示領域から出射された画像を入射し、入射した画像を斜め方向に投影することで入射した画像の第1の方向を拡大した第1の投影画像を生成する第1の拡大手段と、前記第1の投影画像を入射し、入射した画像を斜め方向に投影することで前記第1の投影画像の前記第1方向と直交する第2の方向を拡大した第2の投影画像を生成する第2の拡大手段と、前記第2の投影画像を決められた方向に出射する出射手段とを有する。
【0007】
ある態様では、前記第1の拡大手段は、前記表示領域からの画像を入射する第1の面と、当該第1の面から入射した画像の前記第1の投影画像を生成する第2の面とが形成された第1の透明基板を含む。ある態様では、前記第1の面が、前記第2の面と直交する面と交差する角を傾斜角θ1としたとき、前記第1の拡大手段による画像の拡大率αは、θ1=sin-1(1/α)で規定される。ある態様では、前記第2の拡大手段は、前記第1の投影画像を入射する第3の面と、当該第3の面から入射した前記第1の投影画像の前記第2の投影画像を生成する第4の面とが形成された第2の透明基板を含む。ある態様では、前記第3の面が、前記第4の面と直交する面と交差する角を傾斜角θ2としたとき、前記第2の拡大手段による画像の拡大率βは、θ2=sin-1(1/β)で規定される。ある態様では、前記第2の透明基板は、前記第2の面が前記第3の面に面接触するように、前記第1の透明基板に固定される。ある態様では、前記第2の面には、前記第1の投影画像を前記第3の面に向かわせるための第1の角度変調器が形成される。ある態様では、前記第1の角度変調器は、前記第1の投影画像を反射するための傾斜面が形成されたプリズムを含む。ある態様では、前記出射手段は、前記第4の面に生成された前記第2の投影画像を前記決められた方向へ向かわせるための第2の角度変調器を含む。ある態様では、前記第2の角度変調器は、前記第2の投影画像を反射するための傾斜面が形成されたプリズムを含む。ある態様では、前記第2の角度変調器は、前記プリズムによって反射された画像を光学的に拡散するための拡散部材を含む。ある態様では、前記拡散部材は、マイクロレンズ、散乱板、拡散フィルムあるいはルーバーフィルムのいずれかを含む。ある態様では、前記画像生成手段は、前記表示領域が前記第1の面に接触するように、前記第1の透明基板に固定される。ある態様では、前記出射手段は、前記第2の透明基板を介して背景を見ることができる方向に前記第2の投影画像を出射させる。ある態様では、前記第2の透明基板は、車両のフロントガラスの一部し、またはフロントガラスの手前に配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、画像生成手段で生成された画像を第1の拡大手段で第1の方向に拡大し、第1の方向が拡大された画像を第2の拡大手段で第2の方向に拡大し、第1および第2の方向が拡大された画像を出射するようにしたので、プロジェクタのような投射光学系と比較して画像を拡大するための容積を小さくすることができ、かつ拡大された画像の歪みを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】従来の透明有機EL表示装置の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施例に係る表示装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施例に係る表示装置の第1の角度変調器を示し、同図(A)は、部分的に拡大した断面図、同図(B)は、全体の概略斜視図である。
【
図6】
図6(A)は、本発明の実施例に係る表示装置の第2の透明基板の側面図、
図6(B)は、第2の透明基板が第1の透明基板に固定された状態を示す側面図である。
【
図7】
図7(A)は、第2の透明基板により生成された投影画像が投影面で反射される様子を示し、
図7(B)、(C)は、第2の透明基板の投影面に形成される第2の角度変調器の断面図である。
【
図8】
図8(A)、(B)は、本発明の実施例による第2の角度変調器の他の構成を示す断面図、
図8(C)は、プリズムの背面に吸収層がないときにノイズが生じる例を示し、
図8(D)は、背面に吸収層があるときに光が吸収される例を示し、
図8(E)は、プリズムの背面に光吸収層を積層した例を示す。
【
図9】本発明の実施例に係る第2の角度変調器の他の構成例を説明する図であり、
図9(A)は、散乱板がないときの出射例を示し、
図9(B)は、散乱板があるときの出射例を示す。
【
図10】本発明の実施例に係る第2の角度変調器の他の構成例を説明する図であり、
図10(A)は、プリズム層とレンズ層が形成された断面図を示し、
図10(B)は、その拡大図である。
【
図11】本発明の実施例に係る第2の角度変調器の他の構成例を説明する概略断面図である。
【
図12】本発明の実施例に係る表示装置の具体的な構成例を示す図であり、同図(A)は、表示装置の平面図、同図(B)は、同図(A)の側面図、同図(C)ないし(E)は、具体的な生成される画像の例である。
【
図13】
図13(A)は、本実施例の第2の角度変調器としてプリズムを用いたときの光の反射を示す図、
図13(B)は、プリズムの傾斜面に光吸収層が形成されたときの外部光の透過を例示し、
図13(B)は、プリズムの傾斜面に光吸収層が形成されないときの外部光の透過を例示する。
【
図14】
図14(A)は、散乱板を評価するときのシミュレーションモデルを示す表示装置の斜視図、
図14(B)は、プリズム層の上方に内部散乱板を形成したときの断面図、
図14(C)は、プリズム層の上方に表面散乱板を形成したときの断面図、
図14(D)は、内部散乱板をZ方向から見た平面図である。
【
図15】
図15(A)は、本実施例の第2の角度変調器の通過直後の投影画像P2を示し、
図15(B)は、拡散板が無い場合の観察者(アイボックス)から認識できる投影画像を示す。
【
図16】
図16(A)は、本実施例の表示装置を透明ディスプレイとして用いたときの斜視図、
図16(B)は、背景パターンの画像を示し、
図16(C)は、観察者の目で認識された背景パターンの画像を示す。
【
図17】本発明の実施例に係る表示装置の第2の角度変調器の他の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本発明に係る表示装置は、HUDや透過型有機EL表示装置に置換可能なディスプレイである。ある態様では、本発明の表示装置は、自動車等の移動体に搭載可能であり、さらにある態様では、表示領域の延長線上の背景を見ることができる透明なディスプレイであり、自動車のフロントガラスの一部を兼ねる。
【実施例0011】
次に、本発明の実施例に係る表示装置について図面を参照して詳細に説明する。図面は、発明を理解するために誇張されており、必ずしも実際の製品と同じスケールでないことに留意すべきである。
図3は、本発明の実施例に係る表示装置の概略構成を示す斜視図、
図4は、
図3の表示装置の平面図である。
【0012】
本発明の実施例に係る表示装置100は、拡大するための画像を生成し、生成した画像を出射する画像生成ユニット110と、画像生成ユニット110から出射された画像を入射し、入射した画像を斜め方向に投影することで画像の水平方向を拡大する第1の透明基板120と、第1の透明基板120で拡大された画像を第2の透明基板140に向かわせるように画像の出射角度を変調する第1の角度変調器130(
図5を参照。
図3、
図4には非表示)と、第1の角度変調器130で角度変調された画像を入射し、入射した画像を斜め方向に投影することで画像の垂直方向を拡大する第2の透明基板140と、第2の透明基板140で拡大された画像を観察者方向に向かわせるように画像の出射角度を変調する第2の角度変調器150(
図7を参照、
図3、
図4には非表示)とを有する。
【0013】
画像生成ユニット110は、2次元状の表示領域112(図中、ハッチング領域)に画像を生成し、生成した画像の平行光線(コリメートされた光)を表示領域112から出射させる。表示領域112は、水平方向(X方向)の長さx0、垂直方向(Y方向)の長さy0の画面サイズを有する。
【0014】
画像生成ユニット110は、種類を問わないが、例えば、液晶表示パネル(バックライト光源を含む)、有機EL表示パネルあるいは画像を投射する投射機(またはプロジェクタ)であることができ、これらによって生成された画像は、表示領域112から概ねコリメートされて出射される。画像生成ユニット110が生成する画像は任意であるが、例えば、表示装置100が車両に搭載された場合には、運転を支援する情報、道路交通情報、車用の走行状態に関する情報、経路案内情報などが生成される。また、画像表示ユニット110は、必ずしも矩形状の外観である必要はなく、任意の形状であることができる。
【0015】
第1の透明基板120は、画像生成ユニット110の表示領域112から出射された画像を入射し、入射した画像の水平方向(X方向)を拡大する。第1の透明基板120は、透過率が高ければその材質は問わず、例えば、屈折率n1の透過率の高いアクリル等の樹脂やガラス等から構成される。但し、画像生成ユニット110が液晶表示装置の場合は、複屈折の小さい材料、あるいは画像生成ユニット110側でリタデーションを解消する手段が必要である。
【0016】
第1の透明基板120は、上面、上面と平行な底面、上面および底面との間に接続された4つの側面を含む概ね矩形状の外観を有する。第1の透明基板120は、4つの側面のうちの側面122が画像生成ユニット110の表示領域112と面で接触するように、画像生成ユニット110に固定される。側面122は、表示領域112から出射される画像の入射面を提供するため、表示領域112の画面サイズよりも幾分大きな面積を有する。また、側面122は、側面124と直交する面(Y軸)から斜め方向に傾斜する。この傾斜角θ1は、鋭角である。側面122は、例えば、第1の透明基板120の側部を切断することによって形成される。
【0017】
側面122から入射した画像は、第1の透明基板120内を通過して側面124に斜め方向に投影される。これにより、側面124には、表示領域112の画像を水平方向に拡大した投影画像P1が生成される。投影画像P1の水平方向の長さx1は、傾斜角θ1の設定により決定される。水平方向の拡大率α(=x0/x1)と傾斜角θ1との関係は、スネルの法則より次式で求めることができる。x0は、表示領域112の画像の水平方向の長さである。
【0018】
【0019】
なお、第1の透明基板120は、画像のx方向のみを拡大するため、投影画像P1の垂直方向(Y方向)の長さy1は、表示領域112の画像の垂直方向の長さy0のままである(y1=y0)。
【0020】
第1の角度変調器130は、第1の透明基板120の側面124に生成された投影画像P1が第2の透明基板140の側面144に入射されるように、投影画像P1の出射角を変調する。本実施例では、第1の角度変調器130はプリズムを用いて構成される。
図5(A)は、プリズムの拡大断面図、
図5(B)は、プリズムの全体斜視図である。
【0021】
第1の透明基板120の側面124上には、Z方向に延在する三角柱状のプリズム132がX方向に複数形成される。プリズム132は、三角形状の断面を有し、傾斜面134は、第1の透明基板120の側面124と傾斜角θ3で交差する。プリズム132は、第1の透明基板110と同じ材質、あるいは第1の透明基板110の屈折率n1と同等な屈折率n2の材料から構成される(n1≒n2)。
【0022】
プリズム132の傾斜面134には、第1の透明基板110からの光線L1を第2の透明基板140に向けて反射するための反射面が形成される。傾斜面134の傾斜角θ3は、反射された光線L2が第2の透明基板140の側面144に平行に入射されるように(Y方向に平行になるように)調整される。
【0023】
各プリズム132は、X方向で互いに接しており、プリズム132の傾斜面134の間隙は、第1の透明基板120の屈折率n1と同等の屈折率の媒質136で埋められていることが望ましい。媒質136の屈折率が異なると、光線L1がプリズム132を通過して隣の反射面(傾斜面)134に到達するまでに角度が変わってしまうためである。但し、同等の屈折率の媒質136で埋められなかった場合は、光線L1が反射面134に到達するまでの角度変化を考慮した傾斜角θ3を設計することで、光線L2を第2の透明基板140の側面144に平行に入射させることができる。プリズム132間に媒質136が形成された場合、媒質136の平坦な表面136Aが第2の透明基板140の側面144と面で接触する。
【0024】
また、プリズム132のX方向の周期が大きいと(つまり、プリズムのX方向の間隔が大きくなると)、光線L2のストライプ状のムラが目立つようになる。このため、プリズム132のサイズ(X方向の底面の長さ)を、100um以下、出来れば50um以下にするのが望ましい。
【0025】
第2の透明基板140は、第1の角度変調器130によって出射角が変調された光線L2、つまり投影画像P1を入射し、入射した投影画像P1の垂直方向(Y方向)を拡大する。第2の透明基板140は、透過率が高ければ材質は問わず、例えば、透過率の高いアクリル等の樹脂やガラス等から構成される。
【0026】
図6(A)は、第2の透明基板140の側面図、
図6(B)は、第2の透明基板140が第1の透明基板に結合された状態を示す側面図である。第2の透明基板140は、上面S1、上面S1と平行な底面S2、上面S1および底面S2との間に接続された4つの側面142、144、146、148を含む概ね矩形状の外観を有する。第2の透明基板140は、4つの側面のうちの側面144が第1の透明基板120の側面124と面で接触するように、第1の透明基板120に固定される。なお、側面124に複数のプリズム132が形成されている場合には、媒質136の平坦な面136Aが第2の透明基板140の側面144に面接触する。側面144は、投影画像P1の入射面を提供するため、側面144の面積は、第1の透明基板120の側面124と同等かもしくはそれよりも幾分大きい。また、側面144は、上面S1と直交する面(Z軸)から斜め方向に傾斜する。この傾斜角θ
2は、鋭角である。側面144は、例えば、第2の透明基板140の側部を切断することによって形成される。
【0027】
第1の透明基板120の側面124に生成された投影画像P1は、第1の角度変調器130を介して第2の透明基板140の側面144から入射し、入射した投影画像P1は、第2の透明基板140内を通過して上面S1に斜め方向に投影される。これにより、上面S1には、投影画像P1を垂直方向に拡大した投影画像P2が生成される。投影画像P2の垂直方向の長さy2は、傾斜角θ2の設定により決定される。垂直方向の拡大率β(=y0/y2)と傾斜角θ2との関係は、スネルの法則より次式で求めることができる。y0は、表示領域112の画像または投影画像P1の垂直方向の長さである。
【0028】
【0029】
第2の透明基板140は、投影画像P1の垂直方向のみを拡大するため、投影画像P1の水平方向(X方向)の長さx2は、投影画像P1のx1のままである(x2=x1)。こうして、画像生成ユニット110の表示画像(x0、y0)を拡大した投影画像P2(x2、y2)が第2の透明基板の上面S1に生成される。
【0030】
次に、第2の角度変調器150について説明する。第2の角度変調器150は、第2の透明基板140の上面S1に生成された投影画像P2の出射角を光学的手段を用いて観察者の方向に変調する。
図7(A)に示すように、第2の透明基板140の上面S1に入射する光線L2の入射角が大きくなると、第2の透明基板140の上面S1が接する媒質の屈折率が第2の透明基板140よりも小さい場合には、光線L2が投影面(上面S1)で全反射してしまい、観察者Uへ向けて光が出射されない。仮に、第2の透明基板140の上面S1から光線L2が出射されたとしても、出射角が大きいと、第2の透明基板140の上面S1と対向する位置に存在する観察者Uは、投影画像P2を見ることができない。そのため、観察者U側に光を出すための機構を第2の透明基板140の投影面(上面S1)上に配置する必要がある。
【0031】
第1の態様は、
図7(B)に示すように、第1の角度変調器130と同様の反射プリズム152を第2の透明基板140の上面S1に形成することである。各プリズム152は、X方向に延在し、Y方向において隣接する。プリズム152は、第2の透明基板140の屈折率と同等の材料から構成される。プリズム152の傾斜面154は、上面S1からの光線L2を反射するための反射面として機能し、上面S1に入射した光線L2を上面S1から概ね垂直方向に平行に出射させる。傾斜面154の傾斜角は、上面S1への光線L2の入射角を考慮して設定される。
【0032】
また、プリズム152の傾斜面154の間隙は、プリズム152と同等の屈折率の媒質156で埋められている必要がある。屈折率が異なると、光線L2がプリズム152を通過して隣の反射面154に到達するまでに角度が変わってしまうためである。但し、同等の屈折率の媒質156で埋められなかった場合は、光線L2が反射面154に到達するまでの角度変化を考慮した斜面角度を設計することで、上面S1から垂直方向に光線L3を出射させる。
【0033】
また、第2の透明基板140の後方の背景を投影画像P2と重畳して映すような透明なスクリーン(または透明ディスプレイ)として使用する場合、
図7(B)に示すように、プリズム152を密に配置すると、第2の透明基板140の底面S2側からの外部光Lbの透過性が低下し、第2の透明基板140を介して背景を見難くなる。そのため、
図7(C)に示すように、プリズム152は、一定の間隔を持って粗く配置することが望ましい。スクリーンの開口率は、プリズム152のピッチと上面S1の透過部のY方向の幅から求められる。プリズム152のピッチを
図7(C)に示すようにピッチを大きくした場合、観察される投影画像P2が縞模様に見えることがあるため、ピッチは100um以下、出来れば50um以下が望ましい。
【0034】
また、プリズム152は、第1の透明基板120から上面S1に入射する全ての光L2を観察者側に出射することができる最小の大きさであることが望ましい。
図8(A)は、プリズム152が大きく、傾斜面154の反射層が大きい場合を例示しており、
図8(B)は、プリズム152が小さく、傾斜面154の反射層が小さい場合を例示している。
図8(B)の方が、プリズム152が小さく、開口率を最大限まで拡げることができる。これにより、背景からの外部光Lbの透過率を高めることができる。
【0035】
第2の透明基板140の上面S1には、画像生成ユニット110で生成された画像の光L2だけでなく、その底面S2側から背景を映す外部光Lbが入射する。底面S2側から入射した外部光Lbは、
図8(C)に示すように、プリズム152の傾斜面154で水平方向に反射し、この反射した光が隣のプリズム152の傾斜面154で反射し、観察者側にノイズ光Lcとして出射することが考えられる。これを防止するため、傾斜面154を、
図8(E)に示すように、反射層152Aと光吸収層152Bの積層にすることが望ましい。これにより、
図8(D)に示すように、プリズム152の底面側から入射した外部光Lbは光吸収層152Bによって吸収され、ノイズ光Lcの発生が抑制される。別な方法として、カラーフィルターのメタルブラックマスクのようにクロムを蒸着するようにしてもよい。クロムを蒸着すると、表面にクロムの反射層、背面に酸化クロムの光吸収層が出来るため、同様の効果を得ることができる。
【0036】
プリズム152の傾斜面154で反射して出射された光L3は平行光線であるため、観察者Uの目には一部の光しか入らない。そのため、観察者Uは、投影画像P2の一部しか認識することができない。
図9(A)は、この様子を模式的に示しており、投影画像P2の一部の光Ldが観察者Uの目に入射されない。
【0037】
これを回避するためには、第2の透明基板140の上面S1の前方に、出射した光L3の光路を変換する光路変換手段が必要となる。光路変換手段に光L3を通過させることで、第2の透明基板140の上面S1の全面から出射した光L3が観察者Uの目に入射し、観察者Uは投影画像P2のすべてを認識することができるようになる。光路変換手段としては、例えば、散乱板、マイクロレンズ、ルーバーなどを用いることができる。
図9(B)は、第2の透明基板140の上面S1に散乱板160を配置した例である。散乱板が無いと
図9(A)のように投影画像P2の一部しか視認することができないが、散乱板160を配置すると投影面の各ポイントであらゆる角度に光線が放射されるようになるので、
図9(B)に示すように一部の光線が目に入り、投影画像P2の全体を認識することができる。なお、散乱板160は、プリズム152と組み合わせることも可能である。この場合、プリズム152の前面に散乱板160が配置される。
【0038】
次に、第2の角度変調器150の別の態様について説明する。
図10(A)は、第2の透明基板140の上面S1上にプリズム層170を形成し、さらにプリズム層170の表面にレンズ層180を形成した例である。プリズム層170は、先の態様で説明したように複数のプリズム152と、プリズム152の間隙を埋める媒質156とを含む。レンズ層180は、2次元状に配置されら複数のマイクロレンズ182と、マイクロレンズ182を保持する媒質184を含む。プリズム層170によって反射された平行光L3は、マイクロレンズ182に入射し、マイクロレンズ182を通して広がり、媒質184の最終出射面186を通過した光線L4の一部が観察者Uの目に入り、投影画像P2を認識することができる。
【0039】
プリズム層170からマイクロレンズ182に入射する光の入射角は概ね0度なので、マイクロレンズ182の屈折率n4に制約はない。しかし、界面での反射による損失を避けるため、プリズム層170の屈折率n3と同等であることが望ましい。マイクロレンズ182の屈折率n4と媒質184の屈折率n5の関係は、マイクロレンズ182に平行に入射した光を拡げる必要があるため、n4<n5である。また、マイクロレンズ182によって広がった光が、隣接するマイクロレンズ182を通して広がった別の光線と最終出射面186で交差することがないよう、マイクロレンズ182の曲率を設計する必要がある。
【0040】
第2の角度変調器150のさらに別の態様について説明する。
図11は、第2の透明基板140の上面S1上にルーバー層190を配置した例である。ルーバー層190は、ある方向から光を見ることができる。但し、ルーバー層190だけでは、光は平行光線のままなので、上記した散乱機能との組み合わせが必要である。ルーバー層190は、観察者Uの方向に合わせて傾けることも可能であり、ディスプレイとしての機能を果たしながらもプライバシーフィルムの役割を果たすこともできる。
【0041】
第2の角度変調器150について複数の態様を例示したが、これらの態様は、単独で実施されても良いが、他の態様と組み合わせて実施することでより効果を発揮する場合がある。例えば、プリズム反射板と散乱層の組み合わせ、プリズム反射板とルーバー層の組み合わせ等である。プリズムの反射板による鏡面反射が目立つ場合は、円偏光板を組み合わせても良い。これにより鏡面反射を抑えることができる。
【0042】
次に、本実施例の表示装置の具体的な構成例について説明する。
図12(A)は、表示装置100の正面図、
図12(B)は、表示装置100の側面図である。表示装置100の各部の構成は、以下の通りである。また、光学シミュレーションにはLambda research社のTraceProを使用した。
画像生成ユニット110の表示領域112:20×20mm
第1の透明基板120:アクリル
第1の透明基板120の側面122の傾斜角θ
1:3.8°
第1の角度変調器130のプリズム132:アクリル
プリズム132の傾斜面134の角度:43.1°
プリズム132の傾斜面134の鏡面:Al
第2の透明基板140:アクリル
第2の透明基板140の側面144の傾斜角θ
2:3.8°
【0043】
図12(C)は、表示領域112に生成された画像、
図12(D)は、第1の透明基板120に生成された投影画像P1、
図12(E)は、第2の透明基板140に生成された投影画像P2を示している。表示領域112には、
図12(C)に示すような画像が生成される。表示領域112から出射された平行光線は、第1の透明基板120の側面124に入射角86.2°で入射する。この時点で、表示領域112の画像は、x軸方向に20mmから250mmまで延伸され、その投影画像P1が側面124に生成される。この様子を
図12((D)に示す。
【0044】
投影画像P1の光線は、第1の角度変調器130によってy軸に平行となり、z軸方向に3.8°の斜めの角度で第2の透明基板140に入射する。第2の透明基板140を伝播した光線は、第2の透明基板140の上面S1(投影面)に入射角86.2°で入射する。この段階で、投影画像P1がy軸方向に20mmから250mmまで延伸され、投影画像P1が上面S1に生成される。こうして、本実施例では、20mm×20mmの画像が、第1および第2の透明基板120、140を用いて250mm×250mmの画像まで拡大された。
【0045】
第2の透明基板140の上面S1に入射する光線L2は入射角が80°を超えているため、光線L2は界面で全反射し、投影画像P2を観察者側に出射させることができない。そこで、第1の角度変調器130と同様のプリズム152を、第2の透明基板140の上面S1上に間隔を空けて配置した。この様子を
図13(A)に示す。本例では、プリズム152は、100umピッチで配置され、12.7umがプリズムの反射板154に、残り87.3umが透過部である。
【0046】
後述するようにプリズム152の上部には拡散層が配置され、第2の透明基板140と拡散層は、屈折率がほぼ等しい粘着層などで固定される。従って、プリズム152の間も屈折率差はほとんど生じない。この大きさのプリズム152であっても全ての光線を投影面に垂直に反射させることができる。
【0047】
これにより、画像の輝度を下げることなく透過の開口率を90%まで上げることが可能となる。透明基板の材料にアクリルやガラスを使用した場合、計算上、透過率は80%となる。
【0048】
第2の透明基板140の上面S1に配置するプリズム152の傾斜面(反射面)154には、クロム(Cr)を蒸着した。クロムの裏面には、酸化クロムの光吸収層を形成した。このため、
図13(B)に示すように、第2の透明基板140の底面S2側から入射する透過光(外部光)Lbは、プリズム152の傾斜面154で反射されることなく吸収されるためノイズが軽減される。他方、光吸収層が形成されない場合、
図13(C)に示すように、透過光Lbの一部がプリズム152の傾斜面154で反射されて迷光が生じ、透過光Lbにノイズが混入することになる。
【0049】
次に、上述したプリズム反射板により出射面前方に出射した光線を観察者が認識するための散乱板の条件を評価した。このシミュレーションモデルを
図14(A)に示す。観察者の目線として、60×20mmのアイボックス200をスクリーン(表示装置100)の前方500mmに配置し、散乱板の散乱特性により視認されるイメージの違いを検証した。
【0050】
散乱板には、内部散乱板と表面散乱板とを用意した。
図14(B)は、内部散乱板210のX方向の断面図、
図14(C)は、表面散乱板220のX方向の断面図である。内部散乱板210は、散乱部212と透明部214との積層構造体である。図示する例では、内部散乱板210は、プリズム層(第2の角度変調器)230上に形成される。各散乱部212は、全面に存在せず、プリズム232の上方にのみ存在し、それ以外は透明部214が存在する。内部散乱板210の出射面(Z方向の平面図)は、
図14(D)に示すようにストライプ状に形成される。
【0051】
内部散乱板220は、表面の一部に散乱部222が形成され、それ以外の領域は透明部224である。散乱部222は、プリズム232の上方にのみ存在する。内部散乱板220は、例えば、透明フィルムと散乱フィルムを積層したものを薄くスライスしたようなものであり、表面の散乱部222は、例えば、透明部224をマスキングし、露出した表面を物理的、化学的手段により粗面処理した後にマスクを除去して形成される。
【0052】
第2の透明基板140の出射面(上面S1)からプリズム反射板(第2の角度変調器)を介して放射される投影画像P2は、
図15(A)のようになる。出射面からの光が完全な平行光であれば、全ての投影画像P2がアイボックス200に入射することはなく、
図15(B)のように一部分の画像しか認識することができない。
【0053】
散乱板210/220を配置した場合のシミュレーション結果から、内部散乱板210を用いた場合は、ヘイズ値が高くても正面(0°)透過率が高い傾向があるため、全ての投影画像P2を明確に認識するためには相当高いヘイズ値が必要となる。しかし、内部散乱による損失も高くなるため出射光の効率が悪くなる。他方、表面散乱板220を用いた場合も同様に拡散幅の狭い条件では全ての投影画像P2を認識することが難しく、拡散範囲が±20°以上の条件で認識できるようになる。表面散乱板220は、最表面の粗さで規定されるので内部散乱は発生しにくい。
【0054】
以上のことから、散乱板210/220の条件を最適化することによりディスプレイとしての機能を持たせることが可能となる。最適化条件は、表示サイズや観察者との位置関係、要求仕様により決まるので、内部散乱板210と表面散乱板220の優劣は、要求仕様により異なる。
【0055】
次に、本実施例の表示装置100を透明ディスプレイとしたとき、透明ディスプレイを通して背景がどのように見えるのかをシミュレーションで検証した結果について説明する。透明ディスプレイは、例えば、自動車等の移動体に搭載され、第2の透明基板140は、自動車のフロントガラスの一部を構成したり、あるいはフロントガラスの手前に配置される。
【0056】
図16(A)に示すように、透明ディスプレイ100から2000mm離れたところに背景パターン300を配置し、背景から発せられる光線のうちアイボックス200に入射する光線を捉え、目で認識される画像に変換した。
図16(B)は、背景パターン300の画像であり、シミュレーションの結果、目で認識される画像を
図16(C)に示す。このように、透明ディスプレイのスクリーンの開口部を通して、歪みを生じさせることなく背景パターンを認識できることが示された。
【0057】
図17(A)、(B)は、本実施例の表示装置100の第2の角度変調器の他の態様を示す図である。
図17(A)に示す構造は、
図10に示したマイクロレンズを含むレンズ層180上に拡散フィルム400を形成したものである。拡散フィルム400は、レンズ層180によって拡散された光をさらに拡散する。
図17(B)は、拡散フィルム400の代わりにルーバーフィルム410を形成したものである。この場合、ルーバーにより視角を観察者の方向に限定する効果を得ることができた。
【0058】
以上説明したように、本実施例の表示装置によれば、導波路などの複雑な光学系を用いないシンプルな構成で、ディスプレイと光学系を一体化することができ、しかも広い容積を必要としない。投影型のように全面に散乱層があるのではなく、透過部と散乱部を完全に分けているため背景とディスプレイ画像の干渉が少ない利点もある。さらに、画像を斜めに投影して拡大し、かつ、プリズムや散乱層等を組み合わせることで、高透過な透明ディスプレイを実現することができる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。