(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139537
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】表皮固定構造
(51)【国際特許分類】
B68G 7/05 20060101AFI20220915BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20220915BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B68G7/05 A
A47C31/02 A
B60N2/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039970
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】小野 博朗
(72)【発明者】
【氏名】向井 正志
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE03
(57)【要約】
【課題】シートにおける表皮をフレームに係止する係合部材の剛性低下を抑制することが可能な表皮固定構造を提供する。
【解決手段】シート1は、パッド2aの表面を覆う表皮2bの端部をフレーム4に固定する表皮固定構造として表皮固定部10を備えている。表皮固定部10は、表皮2bの端縁2dに沿って連続的に延びるJ字形断面を有する係合部材8と、フレーム4に固定され、係合部材8と係合する受け部9とを備える。係合部材8は、表皮2bの端縁2dに固定された固定部8aと、延長部8cと、延長部8cから折り返された折返し部8dと、折返し部8dから延長部8cへ向けて突出する第1係合部8bとを有する。受け部9は、フレーム4の取付面から突出する基部9aと、基部9aの先端部分に設けられ、前記取付面から離間した位置で当該取付面と平行に延びる腕部9bと、腕部9bの先端部分に設けられ、第1係合部8に係合する第2係合部9cとを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、前記フレームに取り付けられたパッドと、前記パッドの表面を覆う袋状の表皮とを備えたシートにおける前記表皮の端部を前記フレームに固定する表皮固定構造であって、
前記表皮の端縁に固定された固定部と、前記固定部から前記表皮の端部を延長する方向に延びる延長部と、前記延長部の端部から折り返された折返し部と、前記折返し部から前記延長部へ向けて突出する第1係合部とを有し、前記表皮の前記端縁に沿って連続的に延びるJ字形断面を有する係合部材と、
前記フレームにおける前記表皮が取り付けられる取付面に固定され、前記係合部材と係合する受け部と
を備え、
前記受け部は、
前記フレームの前記取付面から突出する基部と、
前記基部の先端部分に設けられ、前記取付面から離間した位置で当該取付面と平行に延びる腕部と、
前記腕部の先端部分に設けられ、前記延長部と前記折返し部の間に挿入された状態で前記第1係合部に係合する第2係合部と
を備える、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【請求項2】
請求項1に記載の表皮固定構造において、
前記取付面は、前記フレームの下面であり、
前記受け部の前記基部は、前記フレームの下方に延びる、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【請求項3】
請求項2に記載の表皮固定構造において、
前記フレームの前記下面を構成するように前記フレームに取り付けられ、水平方向に広がる平坦な形状のクッションスプリング部材をさらに備え、
前記受け部の前記基部は、前記クッションスプリング部材の下面から下方に突出し、
前記受け部は、前記クッションスプリング部材を介して前記フレームに固定されている、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【請求項4】
請求項3に記載の表皮固定構造において、
前記受け部は、インサート成形によって前記クッションスプリング部材と一体になるように形成されている、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表皮固定構造において、
前記第1係合部および前記第2係合部のいずれか一方は、その先端部から基端部に向かうにつれてその厚さが厚くなる形状であって、前記基端部側で立ち上がる第1係合面と、前記第1係合面の端縁から前記先端部に向かうように傾斜する斜面とを有する係合爪によって構成され、
前記第1係合部および前記第2係合部の他方は、その基端部に設けられ、その先端部から基端部へ向かう方向を向き、前記係合爪の前記第1係合面と係合する第2係合面と、前記第2係合面の端縁から前記先端部へ向かう当該第2係合面に隣接する隣接面とを有し、
前記第2係合面と前記隣接面とのなす角度は、前記係合爪の前記第1係合面と前記斜面で形成された角部の角度よりも大きくなるように設定されている、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【請求項6】
請求項5に記載の表皮固定構造において、
前記第1係合部は、前記斜面を有する前記係合爪から構成され、
前記第2係合部は、前記第2係合面および前記隣接面と、当該第2係合部における前記隣接面と反対側に位置し、当該第2係合部の基端部から先端部に向かうにつれて当該第2係合部の厚さが薄くなる方向に傾斜して前記係合部材の前記延長部を避ける退避面とを有する、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【請求項7】
請求項6に記載の表皮固定構造において、
前記腕部が延びる方向に対する前記退避面の傾斜角度は、前記係合爪の前記斜面の傾斜角度よりも大きく設定されている、
ことを特徴とする表皮固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートにおけるパッドを覆う表皮の端部をフレームに固定する表皮固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車などにおいて使用されるシートは、通常、特許文献1記載のシートのように、パッドの表面がトリムカバーなどの表皮によって覆われた構造を有している。
【0003】
特許文献1記載のシートは、具体的には、フレームを構成するクッションパンと、クッションパンに取り付けられたパッドと、パッドの表面を覆う袋状の表皮であるトリムカバーと、トリムカバーの端部をクッションパンの下端縁に係止するJ字形の係合部材であるフック部材とを備えている。フック部材は、袋状のトリムカバーの下端縁に取り付けられている。クッションパンの下端縁には、クッションパンの下端部を切り起こすことによって係止爪が形成されている。トリムカバーの端部に取り付けられたフック部材をクッションパンの下端縁の係止爪に係合することによって、トリムカバーがクッションパンの下端縁に係止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるシートでは、トリムカバー側のフック部材がクッションパンの下端縁に係合する構造であるので、フック部材とクッションパンとの間の距離が無い。このため、クッションパンの取付面に他部品などが配置されている場合には、フック部材と当該他部品との干渉を避けるために、フック部材に切り欠きや穴などを設ける必要がある。フック部材に切り欠きや穴などを設ければ、フック部材の剛性が低下することが懸念される。フック部材の剛性が低下すると、それに伴ってフック部材が変形しやすくなり、トリムカバーのしわやたるみが発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、シートにおける表皮をフレームに係止する係合部材の剛性低下を抑制することが可能な表皮固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表皮固定構造は、フレームと、前記フレームに取り付けられたパッドと、前記パッドの表面を覆う袋状の表皮とを備えたシートにおける前記表皮の端部を前記フレームに固定する表皮固定構造であって、前記表皮の端縁に固定された固定部と、前記固定部から前記表皮の端部を延長する方向に延びる延長部と、前記延長部の端部から折り返された折返し部と、前記折返し部から前記延長部へ向けて突出する第1係合部とを有し、前記表皮の端縁に沿って連続的に延びるJ字形断面を有する係合部材と、前記フレームにおける前記表皮が取り付けられる取付面に固定され、前記係合部材と係合する受け部とを備え、前記受け部は、前記フレームの前記取付面から突出する基部と、前記基部の先端部分に設けられ、前記取付面から離間した位置で当該取付面と平行に延びる腕部と、前記腕部の先端部分に設けられ、前記延長部と前記折返し部の間に挿入された状態で前記第1係合部に係合する第2係合部とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記の構成では、パッドの表面を覆う袋状の表皮の端部にはJ字状断面を有する係合部材が設けられ、フレームには係合部材と係合する受け部が設けられ、係合部材の第1係合部が受け部の第2係合部に係合する構造において、受け部の第2係合部がフレームにおける表皮が取り付けられる取付面から離れた位置に配置される構成になっている。具体的には、受け部が、フレームの取付面から突出する基部と、当該基部の先端部分に設けられ、取付面から離間した位置で当該取付面と平行に延びる腕部と、腕部の先端部分に設けられ、係合部材の延長部と折返し部の間に挿入された状態で第1係合部に係合する第2係合部とを有する。
【0009】
これにより、係合部材の第1係合部は、フレームの取付面から離れた位置で受け部の第2係合部と係合することが可能であるため、フレームの取付面に他部品が配置される場合でも、この他部品を腕部とフレーム取付面との間の空間に配置することができ、係合部材と他部品との干渉を避けることが可能である。その結果、表皮の端縁に沿って連続的に延びる係合部材に他部品との干渉を避けるための切り欠きを形成する必要がなくなり、係合部材の剛性低下を抑制することが可能である。
【0010】
上記の表皮固定構造において、前記取付面は、前記フレームの下面であり、前記受け部の前記基部は、前記フレームの下方に延びるのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、受け部の基部は、フレームの下方に延びるので、フレームの取付面である下面から下方に離間した位置で、係合部材の第1係合部が受け部の第2係合部に係合することが可能である。したがって、フレームの下面に他部品が有る場合でも係合部材との干渉を避けることが可能である。
【0012】
上記の表皮固定構造において、前記フレームの前記下面を構成するように前記フレームに取り付けられ、水平方向に広がる平坦な形状のクッションスプリング部材をさらに備え、前記受け部の前記基部は、前記クッションスプリング部材の下面から下方に突出し、前記受け部は、前記クッションスプリング部材を介して前記フレームに固定されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、受け部の基部は、フレームの下面を構成するクッションスプリング部材の下面から下方に突出し、受け部は、クッションスプリング部材を介してフレームに固定されている。このため、受け部をフレームに直接固定する場合と比較して、フレームの共通化が可能になる。
【0014】
上記の表皮固定構造において、前記受け部は、インサート成形によって前記クッションスプリング部材と一体になるように形成されているのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、受け部がインサート成形によってクッションスプリング部材と一体になるように形成されることにより、受け部をクッションスプリング部材と異なる材料で形成しながらクッションスプリング部材と一体化することが可能になる。その結果、シートの設計自由度の向上ならびに部品点数の抑制が可能になる。
【0016】
上記の表皮固定構造において、前記第1係合部および前記第2係合部のいずれか一方は、その先端部から基端部に向かうにつれてその厚さが厚くなる形状であって、前記基端部側で立ち上がる第1係合面と、前記第1係合面の端縁から前記先端部に向かうように傾斜する斜面とを有する係合爪によって構成され、前記第1係合部および前記第2係合部の他方は、その基端部に設けられ、その先端部から基端部へ向かう方向を向き、前記係合爪の前記第1係合面と係合する第2係合面と、前記第2係合面の端縁から前記先端部へ向かう当該第2係合面に隣接する隣接面とを有し、前記第2係合面と前記隣接面とのなす角度は、前記係合爪の前記第1係合面と前記斜面で形成された角部の角度よりも大きくなるように設定されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、第1係合部および第2係合部のいずれか一方が、斜面を有する係合爪を有するのに対して、第1係合部および第2係合部の他方は、その基端部側に設けられて係合爪の第1係合面と係合する第2係合面と、当該第2係合面に隣接する隣接面とを有する。そして、第2係合面と隣接面とのなす角度は、係合爪の第1係合面と斜面で形成された角部の角度よりも大きくなるように設定されている。これにより、第1係合部および第2係合部が係合した状態で、表皮を引っ張ることによって係合部材に対して斜面に沿った方向の外力が加わった場合でも、係合爪の斜面と隣接面とが平行になりにくくなる。その結果、係合爪の移動が隣接面によって制限されるので、係合部材と受け部との係合が外れにくくなる。
【0018】
上記の表皮固定構造において、前記第1係合部は、前記斜面を有する前記係合爪から構成され、前記第2係合部は、前記第2係合面および前記隣接面と、当該第2係合部における前記隣接面と反対側に位置し、当該第2係合部の基端部から先端部に向かうにつれて当該第2係合部の厚さが薄くなる方向に傾斜して前記係合部材の前記延長部を避ける退避面とを有するのが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、受け部側の第2係合部は、第2係合面および隣接面とともに、当該第2係合部における隣接面と反対側に位置する傾斜した退避面を有する。退避面は、当該第2係合部の基端部から先端部に向かうにつれて当該第2係合部の厚さが薄くなる方向に傾斜して係合部材の延長部を避ける。そのため、係合部材の第1係合部と受け部の第2係合部とを係合する際に、係合部材の延長部に対して第2係合部の退避面が当該延長部から遠ざかる方向に退避しているので、当該延長部が第2係合部に干渉しにくくなる。そのため、係合爪の斜面を第2係合部の隣接面と平行になるまで、係合部材を傾けることが可能になる。その結果、係合部材の第1係合部を受け部の第2係合部に係合しやすくなり、係合部材および受け部の係合作業が容易になる。
【0020】
上記の表皮固定構造において、前記腕部が延びる方向に対する前記退避面の傾斜角度は、前記係合爪の前記斜面の傾斜角度よりも大きく設定されているのが好ましい。
【0021】
かかる構成によれば、係合作業時に係合部材をより大きく傾けやすくなり、係合部材および受け部の係合作業がさらに容易になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の表皮固定構造によれば、シートにおける表皮をフレームに係止する係合部材の剛性低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る表皮固定構造が適用される自動車用シートを概略的に示す斜視図である。
【
図3】
図2の表皮の後側延設部の端縁に取り付けられた係合部材の拡大斜視図である。
【
図4】
図2のフレームおよびクッションスプリング部材の斜視図である。
【
図5】
図4のクッションスプリング部材およびそれに設けられた受け部の斜視図である。
【
図6】本実施形態の表皮固定構造における表皮側の係合部材とフレーム側の受け部とが係合した状態を示す概略説明図である。
【
図7】(a)は
図6の表皮側の係合部材とフレーム側の受け部とが係合した状態を示す図である。(b)は、表皮が引っ張られて係合部材に外力が作用しても係合部材が外れない状態を示す図である。(c)は(a)の係合部材の係合爪と受け部の頭部の拡大図である。
【
図8】本実施形態の表皮固定構造における表皮側の係合部材をフレーム側の受け部に係合する作業の途中を示す概略説明図である。
【
図9】(a)は比較例の表皮側の係合部材とフレーム側の受け部とが係合した状態を示す図である。(b)は、表皮が引っ張られて係合部材に外力が作用したときに係合部材が受け部から外れる様子を示す図である。
【
図10】比較例の表皮固定構造における表皮側の係合部材をフレーム側の受け部に係合する作業の途中を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0025】
(シート1の基本構成)
本発明の実施形態に係る表皮固定構造が適用される自動車用シート1(以下、シート1という)は、
図1~2に示されるように、着座者の臀部を支持するシートクッション2と、シートクッション2の後方側X2において起立した状態で設けられ、着座者の背中を支持するシートバック3と、シートクッション2およびシートバック3を支持するフレーム4と、シートバック3の上部に設けられ、着座者の頭部を支持するヘッドレスト5と、フレーム4をシート1の前後方向Xに移動可能に自動車の床面に固定するガイドレール6および図示しないロック機構とを備えている。さらに、シート1は、後段で詳述するが、フレーム4に取り付けられたクッションスプリング部材7(
図4~5参照)と、表皮固定部10とをさらに備えている。
【0026】
シートクッション2は、
図2に示されるように、発泡樹脂などからなる略厚板状のパッド2aと、シートパッド2aの表面を覆う袋状の表皮2bとを備えている。また、シートバック3も、シートクッション2と同様に、発泡樹脂などからなる略厚板状のパッド3aと、シートパッド3aの表面を覆う袋状の表皮3bとを備えている。
【0027】
ただし、シートクッション2の表皮2bは、その後端側X2に延設された後側延設部2cを有している点で、シートバック3の表皮3bと異なる。後側延設部2cは、クッションスプリング部材7に設けられた後述の受け部9(
図5~6参照)に後方X2から回り込んで、当該受け部9に係止される。
【0028】
図2、
図4~5に示されるクッションスプリング部材7は、シートクッション2のスプリングとして機能する水平方向(前後方向Xおよび幅方向Y)に広がる平坦な形状の部材である。クッションスプリング部材7は、具体的には、
図5に示されるように、シートクッション2を弾性的に支持するバネ性を有する略板状またはメッシュ状の本体部7aと、本体部7aの前側X1および後側X2にそれぞれ設けられた係合部7bとを備える。クッションスプリング部材7は、フレーム4のうちシートクッション2を支持する枠状のクッション支持部4aの内側に配置される。係合部7bは、クッション支持部4aにおける幅方向Yに延びる前後一対のバー4bにそれぞれ係合する。これにより、クッションスプリング部材7は、フレーム4の下面を構成するようにフレーム4に取り付けられる。
【0029】
(表皮固定部10の構成)
シート1は、シートクッション2の表皮2bの端部をフレーム4に固定するための表皮固定構造として表皮固定部10(
図6参照)を備えている。なお、シートバック3の表皮3bの端部をフレーム4に固定する構造については、表皮固定部10と同様の構造でもよいし、他の構造を採用してもよい。
【0030】
図6に示される表皮固定部10は、表皮2bの端部に設けられた係合部材8(あわせて
図2~3参照)と、クッションスプリング部材7に設けられ、当該係合部材8と係合する受け部9(あわせて
図5参照)とを備える。
【0031】
本実施形態では、3個の受け部9が
図5に示されるようにシート1の幅方向Yに互いに離間しているが、幅方向Yに連続する1個の長尺な受け部9であってもよい。また、係合部材8については、3個の係合部材8が3個の受け部9にそれぞれ独立して係合してもよいし、1個の長尺な係合部材8が3個の受け部9に同時に係合してもよい。
【0032】
係合部材8は、
図2~3および
図6に示されるように、合成樹脂などからなり、J字形断面を有する部材であり、表皮2bの後側延設部2cの端縁2dに沿って連続的に延びる。
【0033】
係合部材8は、具体的には、
図6に示されるように、端縁2dに固定された固定部8aと、固定部8aから表皮2bの後側延設部2cの端部を延長する方向(
図6の前後方向X)に延びる延長部8cと、延長部8cの端部から折り返された折返し部8dと、折返し部8dから延長部8cへ向けて突出する第1係合部を構成する係合爪8bとを有する。
【0034】
係合爪8bは、具体的には、
図7(c)に示されるように、その先端部8b5から基端部8b4に向かうにつれてその厚さが厚くなる形状であり、基端部側8b4で折返し部8dから立ち上がる第1係合面8b1と、第1係合面8b1の端縁から先端部8b5に向かうように傾斜する斜面8b2とを有する。
【0035】
一方、係合部材8に係合する受け部9は、
図5~6に示されるように、フレーム4の下面を構成するクッションスプリング部材7の本体部7aの下面7cに固定されている。これにより、受け部9は、クッションスプリング部材7を介してフレーム4に固定されている。
【0036】
本実施形態では、受け部9は、インサート成形によってクッションスプリング部材7と一体になるように形成されている。受け部9は、クッションスプリング部材7が弾力性を有する合成樹脂で形成される場合には、当該合成樹脂よりも剛性が高い樹脂または金属材料で形成される。
【0037】
受け部9は、略L字形状の断面形状を有し、シート1の幅方向Yに延びる部材である。受け部9は、具体的には、下方Zに延びる基部9aと、前方X1に延びる腕部9bと、第2係合部を構成する頭部9cとを備える。基部9aは、フレーム4の取付面を構成するクッションスプリング部材7の本体部7aの下面7cから下方Z2(外方)に突出するように設けられている。腕部9bは、基部9aの先端部分に設けられ、フレーム4の取付面(本体部7aの下面7c)から離間した位置で当該取付面と平行に延びる。頭部9cは、腕部9bの先端部分に設けられ、係合部材8の延長部8cと折返し部8dの間に挿入された状態で係合爪8bに係合可能な形状を有する。
【0038】
具体的には、頭部9cは、
図7(c)の拡大図に示されるように、3つの面、すなわち、係合爪8bの第1係合面8b1と係合する第2係合面9c1と、第2係合面9c1に隣接する隣接面9c2と、隣接面9c2と反対側に位置する斜面である退避面9c3とを有する。
【0039】
第2係合面9c1は、頭部9cの基端部9c4に設けられ、腕部9bから立ち上がって先端部9c5から基端部9c4へ向かう方向(後方X2)を向く垂直面であり、係合爪8bの第1係合面8b1と係合可能である。第2係合面9c1の高さHは、係合爪8bと係合しやすいように、係合爪8bの高さよりも低く設定され、例えば、係合爪8bの高さが2mm程度の場合には、1.5mm程度に設定される。
【0040】
隣接面9c2は、第2係合面9c1に隣接する面であり、上記の腕部9bと同じ前後方向Xに延び、具体的には、第2係合面9c1の端縁を起点として先端部9c5から基端部9c4へ延びる。
【0041】
図7(c)に示されるように、第2係合面9c1と隣接面9c2とのなす角度θ1は、係合爪8bの第1係合面8b1と斜面8b2で形成された角部8b3の角度θ3よりも大きくなるように設定されている。例えば、係合爪8bの角部8b3の角度θ3が60度程度の場合には、第2係合面9c1と隣接面9c2とのなす角度θ1は、70度以上、好ましくは90度程度に(すなわち、隣接面9c2が水平面になるように)設定されていれば、
図7(a)~(b)に示されるように、係合爪8bが外れにくくなるので好ましい。
【0042】
退避面9c3は、頭部9cにおける隣接面9c2と反対側に位置し、当該頭部9cの基端部9c4から先端部9c5に向かうにつれて当該頭部9cの厚さが薄くなる方向に傾斜しており、係合部材8を受け部9に係合する際に、係合部材8の延長部8cを避けることが可能である。
【0043】
受け部9の腕部9bが延びる方向Xに対する退避面9c3の傾斜角度θ2は、係合爪8bの斜面8b2の傾斜角度θ4よりも大きく設定されている。例えば、退避面9c3の傾斜角度θ2は、斜面8b2の傾斜角度θ4が20度程度である有る場合には、30度以上、好ましくは40度程度に設定されていれば、
図8に示されるように、係合部材8の係合爪8bを受け部9の頭部9cに係合する作業の際に、係合部材8を傾けても係合部材8の延長部8cが頭部9cに干渉しないで係合作業を容易に行うことが可能になるので好ましい。
【0044】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の表皮固定構造を構成する表皮固定部10(
図6参照)は、
図1~2に示されるフレーム4、フレーム4に取り付けられたパッド2a、およびパッド2aの表面を覆う袋状の表皮2bとを備えるシート1における表皮2bの端部をフレーム4に固定する。
【0045】
表皮固定部10は、
図2~3および
図6に示されるように、係合部材8と、係合部材8と係合する受け部9とを備える。係合部材8は、表皮2bの後側延設部2cの端縁2dに固定された固定部8aと、固定部8aから表皮2bの後側延設部2cの端部を延長する方向に延びる延長部8cと、延長部8cの端部から折り返された折返し部8dと、折返し部8dから延長部8cへ向けて突出する第1係合部を構成する係合爪8bとを有する。係合部材8は、表皮2bの後側延設部2cの端縁2dに沿って連続的に延びるJ字形断面を有する。
【0046】
受け部9は、
図5~6に示されるように、略L字形状の断面形状を有しており、フレーム4の取付面(本実施形態では、クッションスプリング部材7の本体部7aの下面7c)に固定されている。受け部9は、具体的には、フレーム4の取付面から下方Z2に突出する基部9aと、基部9aの先端部分に設けられ、前記取付面から離間した位置で当該取付面と平行に延びる腕部9bと、腕部9bの先端部分に設けられ、係合部材8の延長部8cと折返し部8dの間に挿入された状態で係合爪8bに係合する第2係合部を構成する頭部9cとを備える。
【0047】
上記構成の表皮固定部10は、パッド2aの表面を覆う袋状の表皮2bの後側延設部2cの端部にはJ字状断面を有する係合部材8が設けられ、フレーム4には係合部材8と係合する受け部9が設けられ、係合部材8の係合爪8bが受け部9の頭部9cに係合する構造である。この構造において、受け部9の頭部9cがフレーム4における表皮2bの後側延設部2cが取り付けられる取付面(下面7c)から離れた位置に配置される構成になっている。具体的には、受け部9が、フレーム4の取付面から突出する基部9aと、当該基部9aの先端部分に設けられ、取付面から離間した位置で当該取付面と平行に延びる腕部9bと、腕部9bの先端部分に設けられ、係合部材8の延長部8cと折返し部8dの間に挿入された状態で係合爪8bに係合する頭部9cとを有する。
【0048】
これにより、係合部材8の係合爪8bは、フレーム4の取付面(下面7c)から離れた位置で受け部9の頭部9cと係合することが可能であるため、フレーム4の取付面に他部品が配置される場合でも、この他部品を腕部9bとフレーム4の取付面との間の空間11に配置することができ、係合部材8と他部品との干渉を避けることが可能である。その結果、表皮2bの端縁2dに沿って連続的に延びる係合部材8に他部品との干渉を避けるための切り欠きを形成する必要がなくなり、係合部材8の剛性低下を抑制することが可能である。また、係合部材8の剛性低下に伴う表皮2bのしわやたるみの発生も抑制することが可能である。
【0049】
(2)
本実施形態の表皮固定部10では、取付面は、フレーム4の下面であり、受け部9の基部9aは、フレーム4の下方Z2に延びるので、フレーム4から下方Z2に離間した位置で、係合部材8の係合爪8bが受け部9の頭部9cに係合することが可能である。したがって、フレーム4の下面に他部品が有る場合でも係合部材8との干渉を避けることが可能である。
【0050】
(3)
本実施形態の表皮固定部10は、フレーム4の下面を構成するようにフレーム4に取り付けられ、水平方向(前後方向Xおよび幅方向Y)に広がる平坦な形状のクッションスプリング部材7をさらに備えている。受け部9の基部9aは、クッションスプリング部材7の下面7cから下方Z2に突出する。受け部9は、クッションスプリング部材7を介してフレーム4に固定されている。このため、受け部9をフレーム4に直接固定する場合と比較して、フレーム4の共通化が可能になる。
【0051】
(4)
本実施形態の表皮固定部10では、受け部9は、インサート成形によってクッションスプリング部材7と一体になるように形成されている。これにより、受け部9をクッションスプリング部材7と異なる材料で形成しながらクッションスプリング部材7と一体化することが可能になる。その結果、シート1の設計自由度の向上ならびに部品点数の抑制が可能になる。
【0052】
(5)
本実施形態の表皮固定部10では、
図6および
図7(a)~(c)に示されるように、係合部材8側の第1係合部および受け部9側の第2係合部のいずれか一方として、係合部材8側の第1係合部が、係合爪8bによって構成されている。係合爪8bは、その先端部8b5から基端部8b4に向かうにつれてその厚さが厚くなる形状であって、基端部側8b4で折返し部8dから立ち上がる第1係合面8b1と、第1係合面8b1の端縁から先端部8b5に向かうように傾斜する斜面8b2とを有する。
【0053】
係合部材8側の第1係合部および受け部9側の第2係合部の他方として、受け部9側の第2係合部は、頭部9cを有する。頭部9cは、その基端部9c4に設けられ、その先端部9c5から基端部9c4へ向かう方向(後方X2)を向き、係合爪8bの第1係合面8b1と係合する第2係合面9c1と、第2係合面9c1の端縁から先端部9c5へ向かう前記第2係合面9c1に隣接する隣接面9c2とを有する。
【0054】
図7(c)に示されるように、第2係合面9c1と隣接面9c2とのなす角度θ1は、係合爪8bの第1係合面8b1と斜面8b2で形成された角部8b3の角度θ3よりも大きくなるように設定されている。
【0055】
これにより、
図7(a)~(b)に示されるように、係合爪8bおよび頭部9cが係合した状態で、表皮2bの後側延設部2cを後方X2へ引っ張ることによって係合部材8に対して斜面8b2に沿った方向の外力が加わった場合でも、係合爪8bの斜面8b2と隣接面9c2とが平行になりにくくなる。その結果、係合爪8bの移動が隣接面9c2によって制限されるので、係合部材8と受け部9との係合が外れにくくなる。
【0056】
ここで、
図7(a)、(b)に示される本実施形態の受け部9の構造と、
図9(a)、(b)に示される従来の受け部19の構造とを対比して説明する。
【0057】
図9(a)、(b)に示される従来の受け部19の頭部19cでは、係合部材8の係合爪8bに係合する第2係合面19c1に隣接する隣接面19c2が斜面である。隣接面19c2の傾斜角度は、係合爪8bの斜面8b2の傾斜角度と同じ程度である。そのため、係合爪8bおよび頭部19cが係合した状態で、表皮2bの後側延設部2cを後方X2へ引っ張ることによって係合部材8に対して斜面8b2に沿った方向の外力が加わった場合には、係合爪8bの斜面8b2と隣接面19c2とが平行になる。その結果、係合爪8bの移動が隣接面19c2によって制限されなくなるので、係合部材8と受け部19との係合が外れやすくなる。
【0058】
それに対して、本実施形態の表皮固定部10では、
図7(a)、(b)に示されるように、係合爪8bの移動が上記の隣接面9c2(すなわち、係合爪8bの斜面8b2の傾斜角度より大きい傾斜角度を有する面)によって制限されるので、係合部材8と受け部9との係合が外れにくくなる。
【0059】
(6)
本実施形態の表皮固定部10では、
図6~8に示されるように、係合部材8側の第1係合部は、斜面8b2を有する係合爪8bから構成され、受け部9側の第2係合部が頭部9cを有する。
【0060】
図7(c)に示されるように、頭部9cは、第2係合面9c1および隣接面9c2と、当該頭部9cにおける隣接面9c2と反対側に位置し、当該頭部9cの基端部9c4から先端部9c5に向かうにつれて当該頭部9cの厚さが薄くなる方向に傾斜して係合部材8の延長部8cを避ける退避面9c3とを有する。
【0061】
かかる構成では、受け部9側の頭部9cが隣接面9c2と反対側に位置する傾斜した退避面9c3を有する。退避面9c3は、当該頭部9cの基端部9c4から先端部9c5に向かうにつれて当該頭部9cの厚さが薄くなる方向に傾斜して係合部材8の延長部8cを避ける。そのため、
図7に示されるように、係合部材8の係合爪8bと受け部9の頭部9cとを係合する際に、係合部材8の延長部8cに対して頭部9cの退避面9c3が当該延長部8cから遠ざかる方向に退避しているので、当該延長部8cが頭部9cに干渉しにくくなる。そのため、係合爪8bの斜面8b2を頭部9cの隣接面9c2と平行になるまで、係合部材8を傾けることが可能になる。その結果、係合部材8の係合爪8bを受け部9の頭部9cに係合しやすくなり、係合部材8および受け部9の係合作業が容易になる。
【0062】
ここで、
図8に示される本実施形態の受け部9の構造と、
図10に示される従来の受け部19の構造とを対比して説明する。
【0063】
図10に示される従来の受け部19の頭部19cでは、係合部材8の係合爪8bに係合する第2係合面19c1に隣接する隣接面19c2が斜面であり、隣接面19c2の反対側の退避面19c3は水平面である。そのため、係合部材8の係合爪8bと受け部19の頭部19cとを係合する際に、係合部材8の延長部8cに対して頭部19cの水平面からなる退避面19c3が干渉するので、係合部材8を傾けにくくなる。その結果、係合部材8の係合爪8bを受け部19の頭部19cに係合しにくく、係合部材8および受け部19の係合作業がしにくい。
【0064】
それに対して、本実施形態の表皮固定部10では、
図8に示されるように、係合部材8の延長部8cに対して頭部9cの退避面9c3が当該固定部8aから遠ざかる方向に退避しているので、当該延長部8cが頭部9cに干渉しにくいので、係合部材8および受け部9の係合作業が容易になっている。
【0065】
(7)
本実施形態の表皮固定部10では、
図7(c)に示されるように、腕部9bが延びる方向Xに対する退避面9c3の傾斜角度θ2は、係合爪8bの斜面8b2の傾斜角度θ4よりも大きく設定されている。かかる構成によれば、係合作業時に係合部材8をより大きく傾けやすくなり、係合部材8および受け部9の係合作業がさらに容易になる。
【0066】
(変形例)
上記実施形態では、表皮2bに固定された係合部材8側の第1係合部が係合爪8bによって構成され、フレーム4に固定された受け部9側の第2係合部が第2係合面9c1および隣接面9c2を有する頭部9cを有しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、反対の構成であってもよい。
【0067】
すなわち、本発明の変形例として、表皮2bに固定された係合部材8側の第1係合部が本発明の第2係合面および隣接面を有する頭部を有し、フレーム4に固定された受け部9側の第2係合部が本発明の係合爪によって構成されてもよい。この場合も、上記の(5)の作用効果と同様の作用効果を奏することが可能である。すなわち、係合爪および頭部が係合した状態で、表皮2bの後側延設部2cを後方X2へ引っ張ることによって係合部材8に対して係合爪の斜面に沿った方向の外力が加わった場合でも、係合爪の斜面と隣接面とが平行になりにくくなり、頭部と係合爪との相対的な移動が隣接面によって制限される。その結果、係合部材と受け部との係合が外れにくくなる。
【符号の説明】
【0068】
1 シート
2 シートクッション
2a、3a パッド
2b、3b 表皮
2c 後側延設部
2d 端縁
3 シートバック
4 フレーム
7 クッションスプリング部材
8 係合部材
8a 固定部
8b 係合爪(第1係合部)
8b1 第1係合面
8b2 斜面
8b3 角部
9 受け部
9a 基部
9b 腕部
9c 頭部(第2係合部)
9c1 第2係合面
9c2 隣接面
9c3 退避面
10 表皮固定部
11 空間