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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013959
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/16 20060101AFI20220112BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220112BHJP
   C07K 14/575 20060101ALI20220112BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20220112BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220112BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220112BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220112BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220112BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220112BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220112BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C12N15/16 ZNA
C07K19/00
C07K14/575
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/00
A61K38/26
A61K47/64
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018207134
(22)【出願日】2018-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512300159
【氏名又は名称】エクスエル‐プロテイン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 吉朗
(72)【発明者】
【氏名】岡松 順子
(72)【発明者】
【氏名】平澤 成郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 慶実
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー ウリ
(72)【発明者】
【氏名】デシュライン ニコル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA24X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C076CC21
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA41
4C084DB35
4C084NA03
4C084ZC35
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA30
4H045DA45
4H045EA27
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定性が向上したGLP-1(1-37)改変体を提供する。
【解決手段】下記(a)ならびに(b):(a)ある特定の配列のアミノ酸配列からなるGLP-1(1-37)、または前記ある特定の配列のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が置換されているGLP-1(1-37)変異体;ならびに(b)少なくとも50個のプロリンおよびアラニン残基からなるアミノ酸配列を含むランダムコイルポリペプチド部分、を含む、融合タンパク質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)ならびに(b)を含む、融合タンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるGLP-1(1-37)、または配列番号1のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が置換されているGLP-1(1-37)変異体;ならびに
(b)少なくとも50個のプロリンおよびアラニン残基からなるアミノ酸配列を含むランダムコイルポリペプチド部分。
【請求項2】
ランダムコイルポリペプチド部分が、GLP-1(1-37)またはGLP-1(1-37)変異体のC末端に付加されている、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項3】
ランダムコイルポリペプチド部分が、50~3000個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む、請求項1または2記載の融合タンパク質。
【請求項4】
プロリン残基が、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列の10%超かつ75%未満を構成する、請求項1~3のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項5】
ランダムコイルポリペプチド部分が、複数のアミノ酸リピートを含み、前記リピートが、プロリンおよびアラニン残基からなり、6個以下の連続したアミノ酸残基が同一である、請求項1~4のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記GLP-1(1-37)変異体が、配列番号1のアミノ酸配列において1~6番目のアミノ酸残基のいずれか1個が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である、請求項1~5のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記GLP-1(1-37)変異体が、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である、請求項1~6のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記GLP-1(1-37)変異体が、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基がアラニン残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である、請求項7記載の融合タンパク質。
【請求項9】
配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基がアラニン残基に置換されている、請求項9記載のGLP-1(1-37)変異体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項記載の融合タンパク質、あるいは請求項9または10記載のGLP-1(1-37)変異体を含む、医薬。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項記載の融合タンパク質、あるいは請求項9または10記載のGLP-1(1-37)変異体を含む、糖尿病治療剤。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項記載の融合タンパク質、あるいは請求項9または10記載のGLP-1(1-37)変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13記載のポリヌクレオチド、およびそれに作動可能に連結されているプロモーターを含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項14記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質などに関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、前駆体タンパク質であるプレプログルカゴンのプロセシングにより生成されるグルカゴン関連ペプチドの一つであり、栄養素刺激により消化管上皮で分泌されるペプチドホルモンである。GLP-1は、膵臓におけるインスリン分泌促進作用(インクレチン作用)との関連性を有することが考えられていた。
【0003】
GLP-1は当初、プレプログルカゴンペプチドの92位~128位のアミノ酸配列を有する37アミノ酸からなるペプチド(以下、「GLP-1(1-37)」と呼ぶ)として同定された。その後、GLP-1(1-37)における7位~37位のアミノ酸配列を有する31アミノ酸のペプチド(以下、「GLP-1(7-37)」と呼ぶ)およびそのアミド体がインクレチン作用の活性本体として作用していることが明らかになった(特許文献1)。
【0004】
GLP-1(7-37)は、インクレチン作用および膵臓におけるインスリン産生細胞誘導作用(β細胞増殖促進およびアポトーシス抑制作用)を有する(特許文献1)。そのため、GLP-1(7-37)に基づく医薬が開発されている。また、GLP-1(7-37)を安定化するための改変体も検討されている(特許文献2)。
【0005】
一方、GLP-1(1-37)は、GLP-1(7-37)と異なる作用を示し、腸管細胞のインスリン産生細胞への分化誘導作用を有することが見出された(特許文献1)。しかし、インクレチン作用および膵臓におけるインスリン産生細胞誘導作用が弱いことから、GLP-1(1-37)に基づく医薬は開発されていない。また、本発明者らが把握する限り、GLP-1(1-37)を安定化するための改変体も検討されていない。
【0006】
医薬として有用なペプチドを安定化する方法として、安定化ポリペプチドを付加する方法が提案されている(特許文献3および4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4548335号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0059780号明細書
【特許文献3】特許第5828889号公報
【特許文献4】特許第5351889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安定性が向上したGLP-1(1-37)改変体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、プロリンおよびアラニン残基に富むランダムコイルポリペプチドの付加により、GLP-1(1-37)の安定性を向上させることができること、およびGLP-1(1-37)の特定のアミノ酸残基を置換した変異体も安定性を向上させることができることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕下記(a)ならびに(b)を含む、融合タンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるGLP-1(1-37)、または配列番号1のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が置換されているGLP-1(1-37)変異体;ならびに
(b)少なくとも50個のプロリンおよびアラニン残基からなるアミノ酸配列を含むランダムコイルポリペプチド部分。
〔2〕ランダムコイルポリペプチド部分が、GLP-1(1-37)またはGLP-1(1-37)変異体のC末端に付加されている、〔1〕の融合タンパク質。
〔3〕ランダムコイルポリペプチド部分が、50~3000個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む、〔1〕または〔2〕の融合タンパク質。
〔4〕プロリン残基が、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列の10%超かつ75%未満を構成する、〔1〕~〔3〕のいずれかの融合タンパク質。
〔5〕ランダムコイルポリペプチド部分が、複数のアミノ酸リピートを含み、前記リピートが、プロリンおよびアラニン残基からなり、6個以下の連続したアミノ酸残基が同一である、〔1〕~〔4〕のいずれかの融合タンパク質。
〔6〕前記GLP-1(1-37)変異体が、配列番号1のアミノ酸配列において1~6番目のアミノ酸残基のいずれか1個が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である、〔1〕~〔5〕のいずれかの融合タンパク質。
〔7〕前記GLP-1(1-37)変異体が、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である、〔1〕~〔6〕のいずれかの融合タンパク質。
〔8〕前記GLP-1(1-37)変異体が、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基がアラニン残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である、〔7〕の融合タンパク質。
〔9〕配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体。
〔10〕配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基がアラニン残基に置換されている、〔9〕のGLP-1(1-37)変異体。
〔11〕〔1〕~〔8〕のいずれかの融合タンパク質、あるいは〔9〕または〔10〕のGLP-1(1-37)変異体を含む、医薬。
〔12〕〔1〕~〔8〕のいずれかの融合タンパク質、あるいは〔9〕または〔10〕のGLP-1(1-37)変異体を含む、糖尿病治療剤。
〔13〕〔1〕~〔8〕のいずれかの融合タンパク質、あるいは〔9〕または〔10〕のGLP-1(1-37)変異体をコードするポリヌクレオチド。
〔14〕〔13〕のポリヌクレオチド、およびそれに作動可能に連結されているプロモーターを含む発現ベクター。
〔15〕〔14〕の発現ベクターを含む宿主細胞。
【発明の効果】
【0011】
本発明の融合タンパク質およびGLP-1(1-37)変異体は、GLP-1(1-37)の活性を保持し、かつ安定性が向上したタンパク質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、GLP-1(1-37)ペプチド(ネイティブGLP-1)の雄性C57BL/6Jマウスにおける血中動態を示すグラフである。
図2図2は、Corynex(登録商標)発現系(CspA)で発現させたネイティブGLP-1またはGLP-1(1-37)変異体(GLP-1R6A)とランダムコイルポリペプチド部分(PAS200またはPAS600)との融合タンパク質のSDS-PAGEを示す図である。
図3図3は、GLP-1R6A-PA600ペプチドのベースピーククロマトグラム/トータルイオンクロマトグラム(BPC/TIC)のデータを示す図である。
図4図4は、GLP-1R6A-PA600ペプチドの飛行時間型質量分析(TOF MS)のデータを示す図である。
図5図5は、GLP-1R6A-PA600ペプチドの再構成のデータを示す図である。
図6図6は、融合タンパク質(PASylation(登録商標)ペプチド)およびネイティブGLP-1のGLP-1受容体に対する活性化作用を示すグラフである。
図7図7は、融合タンパク質(PASylation(登録商標)ペプチド)およびネイティブGLP-1の雄性C57BL/6Jマウスにおける血中動態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、融合タンパク質を提供する。本発明の融合タンパク質は、下記(a)ならびに(b)を含む:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるGLP-1(1-37)、または配列番号1のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が置換されているGLP-1(1-37)変異体;ならびに
(b)少なくとも50個のプロリンおよびアラニン残基からなるアミノ酸配列を含むランダムコイルポリペプチド部分。
【0014】
上記(a)におけるGLP-1(1-37)が有する配列番号1のアミノ酸配列は、プレプログルカゴンペプチドの92位~128位の37アミノ酸からなるアミノ酸配列に相当する。上記(a)におけるGLP-1(1-37)変異体は、配列番号1のアミノ酸配列において1~6番目のアミノ酸残基のいずれか1個が別のアミノ酸残基に置換されている変異体が好ましく、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基が別のアミノ酸残基に置換されている変異体がより好ましい。置換後のアミノ酸残基としては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられ、非極性側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)が好ましく、アラニンが特に好ましい。上記(a)におけるGLP-1(1-37)変異体は、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基がアラニン残基に置換されている変異体が特に好ましい。置換されるアミノ酸残基の個数は、1~3個であり、好ましくは1または2個であり、より好ましくは1個である。
【0015】
上記(b)のランダムコイルポリペプチド部分は、プロリン/アラニン-リッチ配列(PAS)から構成されるアミノ酸配列を有するポリペプチド部分である(特許第5828889号公報)。ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、GLP-1(1-37)活性を保持し、融合タンパク質の安定性が向上し、かつ融合タンパク質の産生が可能との条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。
【0016】
ランダムコイルポリペプチド部分は、少なくとも50個のプロリンおよびアラニン残基からなるアミノ酸配列を含み、例えば、少なくとも100個、少なくとも150、少なくとも200個、少なくとも250個、少なくとも300個、少なくとも350、少なくとも400個、少なくとも500個、または少なくとも600個のプロリンおよびアラニン残基からなるアミノ酸配列を含んでもよい。ランダムコイルポリペプチド部分は、例えば、最大で3000個、最大で2000個、最大で1500個、最大で1200個、最大で800個のプロリンおよびアラニンアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含んでもよい。ランダムコイルポリペプチド部分は、例えば、約50、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約500、約600、約700、約800、約900~約3000個のプロリンおよびアラニンアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含んでもよい。ランダムコイルポリペプチド部分は、例えば、200~3000個、200~2500個、200~2000個、200~1500個、200~1000個、300~3000個、300~2500個、300~2000個、300~1500個、300~1000個、400~3000個、400~2500個、400~2000個、400~1500個、400~1000個、500~3000個、500~2500個、500~2000個、500~1500個、500~1000個、600~3000個、600~2500個、600~2000個、600~1500個、600~1000個、700~3000個、700~2500個、700~2000個、700~1500個、700~1000個、800~3000個、800~2500個、800~2000個、800~1500個、または800~1000個のプロリンおよびアラニンアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0017】
ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、例えば、10%超のプロリン残基を含んでもよく、好ましくは、12%超、14%超、18%超、20%超、22%、23%、または24%超、最も好ましくは、25%超のプロリン残基を含んでもよい。ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、例えば、75%未満、好ましくは、70%未満、65%未満、60%未満、55%未満、または50%未満のプロリン残基を含んでもよく、ここで、より低い値が好ましい。より好ましくは、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、48%未満、46%未満、44%未満、または42%未満のプロリン残基を含んでもよい。さらにより好ましくは、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、41%未満、40%未満、39%未満、38%未満、37%未満、または36%未満のプロリン残基を含んでもよく、ここで、より低い値が好ましい。最も好ましくは、アミノ酸配列は、35%未満のプロリン残基を含んでもよい。プロリン残基は、好ましくは、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列の10%超かつ75%未満を構成してもよい。
【0018】
逆もまた同様に、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、例えば、25%超、好ましくは、30%超、35%超、40%超、45%、50%超、52%超、54%超、56%超、58%超、または59%超のアラニン残基を含んでもよく、ここで、より大きい値が好ましい。より好ましくは、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、60%超、61%超、62%超、63%超、または64%超のアラニン残基を含んでもよい。最も好ましくは、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、65%超のアラニン残基を含んでもよい。
【0019】
したがって、ランダムコイルポリペプチド部分は、約25%のプロリン残基と約75%のアラニン残基からなるアミノ酸配列を含んでもよい。あるいは、ラランダムコイルポリペプチド部分は、約35%のプロリン残基と約65%のアラニン残基からなるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0020】
ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸配列は、10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、または約2%未満のプロリンおよびアラニンとは異なるアミノ酸を含んでもよい。
【0021】
ランダムコイルポリペプチド部分は、複数のアミノ酸リピートを含んでもよい。アミノ酸リピートは、プロリンおよびアラニン残基からなり、6個以下の連続したアミノ酸残基が同一である、アミノ酸配列である。アミノ酸リピートとしては、例えば、以下:
AAPAAPAPAAPAAPAPAAPA(配列番号13);
AAPAAAPAPAAPAAPAPAAP(配列番号14);
AAAPAAAPAAAPAAAPAAAP(配列番号15);
AAPAAPAAPAAPAAPAAPAAPAAP(配列番号16);
APAAAPAPAAAPAPAAAPAPAAAP(配列番号17);
AAAPAAPAAPPAAAAPAAPAAPPA(配列番号18)および
APAPAPAPAPAPAPAPAPAP(配列番号19)
のアミノ酸配列が挙げられる。ランダムコイルポリペプチド部分は、アミノ酸リピートの組合せ、断片、または円順列変異体を含んでもよい。
【0022】
「ランダムコイルポリペプチド部分」とは、ランダムコイルコンホメーションを形成するポリペプチドをいう。ランダムコイルコンホメーションの形成は、例えば、円二色性(CD)分光法により確認することができる。ランダムコイルポリペプチド部分のより詳細な定義については、特許第5828889号公報を参照することができる。
【0023】
融合タンパク質における上記(a)および(b)の融合様式は、融合タンパク質がGLP-1(1-37)活性を保持し、かつ融合タンパク質の安定性が向上する限りにおいて特に限定されないが、上記(a)および(b)が共有結合的に連結していることが好ましく、融合タンパク質を生物学的方法により産生可能にする観点から、上記(a)および(b)が単一のポリペプチド中に含まれていることがより好ましく、上記(b)が上記(a)のC末端またはN末端に付加されていることがさらにより好ましく、活性を保持する観点から、上記(b)が上記(a)のC末端に付加されていることが特に好ましい。
【0024】
本発明はまた、GLP-1(1-37)変異体(以下、単に「変異体」と略すことがある)を提供する。本発明の変異体は、上記(a)におけるGLP-1(1-37)変異体として例示したものが挙げられるが、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基が別のアミノ酸残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体であり、より好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基または6番目のアルギニン残基がアラニン残基に置換されているGLP-1(1-37)変異体である。
【0025】
本発明の融合タンパク質または変異体は、医薬等の用途の観点から、GLP-1(1-37)活性を保持することが好ましい。本明細書において「GLP-1(1-37)活性」とは、ネイティブGLP-1(1-37)が有する生化学的、生理学的、または薬理学的活性をいう。GLP-1(1-37)活性は、例えば、GLP-1受容体に対する活性化作用、または腸管細胞のインスリン産生細胞への分化誘導作用を指標として示されてもよい。この場合において、GLP-1受容体に対する活性化作用を有する、または腸管細胞のインスリン産生細胞への分化誘導作用を有する場合に、GLP-1(1-37)活性を有するということができる。また、GLP-1受容体に対する活性化作用が高い、または腸管細胞のインスリン産生細胞への分化誘導作用が高ければ、GLP-1(1-37)活性が高いということができる。GLP-1(1-37)活性の程度は、例えば、GLP-1受容体に対する活性化作用のEC50を指標として示されてもよい。「GLP-1(1-37)活性を保持する」とは、例えば10~1000nM、好ましくは20~500nMのEC50値を示すことであってもよい。EC50は、例えば、融合タンパク質の濃度の対数値を横軸に、活性値を縦軸にとり、得られるシグモイド曲線から、最大活性の50%の活性が得られる濃度を計算し、EC50とすることにより求めることができる。
【0026】
本発明の融合タンパク質または変異体は、医薬等の用途の観点から、ネイティブGLP-1(1-37)と比して安定性が向上することが好ましい。本明細書において「安定性」とは、ペプチドまたはタンパク質が元の化学構造、または生化学的、生理学的、薬理学的活性を維持する能力をいい、特に、生体内での安定性をいう。安定性の程度は、例えば血中半減期を指標として示されてもよい。この場合において、血中半減期が長い場合に、安定性が高いということができる。「安定性が向上する」とは、相対的指標として、例えば、ネイティブGLP-1(1-37)の1.1倍以上の安定性を示すことであってもよく、好ましくは1.3倍以上、より好ましくは5倍以上、さらにより好ましくは10倍以上、特に好ましくは20倍以上の安定性を示すことであってもよい。あるいは、「安定性が向上する」とは、絶対的指標として、例えば、0.5時間以上の血中半減期を示すことであってもよく、好ましくは0.6時間以上、より好ましくは1時間以上、さらにより好ましくは2時間以上、特に好ましくは4時間以上の血中半減期を示すことであってもよい。血中半減期は、例えば、マウスの血液投与後の血液サンプル中のペプチドまたはタンパク質の存在量の経時変化をLC-MS(例、Q-TOF/MS)で分析することより求めることができる。
【0027】
本発明の融合タンパク質または変異体は、GLP-1(1-37)活性を保持し、かつ生体内の安定性が向上しているので、例えば、医薬、または試薬として、特に医薬として有用である。したがって、本発明は、上記の融合タンパク質または変異体を含む医薬を提供する。本発明の融合タンパク質または変異体は、医薬組成物の形態において提供されてもよい。このような医薬組成物は、上記の融合タンパク質または変異体に加えて、医薬上許容され得る担体を含んでいてもよい。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0028】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量のリガンドを溶解させた液剤、有効量のリガンドを固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の有効成分を懸濁させた懸濁液剤、有効量の有効成分を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0029】
医薬または医薬組成物は、非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与)に好適である。このような非経口的な投与に好適な医薬または医薬組成物としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0030】
医薬または医薬組成物の投与量は、有効成分の種類・活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、適宜設定することができる。
【0031】
本発明の融合タンパク質または変異体は、例えば、糖尿病(例、1型、2型)等の疾患の治療剤または治療用医薬組成物として有用である。1型糖尿病の発症時には、膵臓β細胞数が30%以下に減少することが報告されている(Eisenbarth GS,N.Engl.J.Med,314,1360-1368,1994)。2型糖尿病の発症時には、膵臓β細胞機能が50%以下に低下することが報告されている(Lebovitz HE,Joslin’s Diabetes Mellitus 14th Ed.687-710,2005)。GLP-1(1-37)は、腸管細胞のインスリン産生細胞への分化を誘導する。本発明の融合タンパク質または変異体は、GLP-1(1-37)活性を有するので、GLP-1(1-37)と同様に腸管細胞のインスリン産生細胞への分化を誘導し、インスリン産生細胞数を増加させることが期待される。インスリン産生細胞数の増加により、1型または2型糖尿病で減少したβ細胞の数または機能を補償し、糖尿病を改善させるために有用と考えられる。
【0032】
本発明の融合タンパク質または変異体は、本発明の融合タンパク質または変異体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞(本発明の宿主細胞)を用いて、融合タンパク質を宿主細胞に産生させることで入手することができる。本発明の融合タンパク質または変異体を産生させるための宿主細胞としては、例えば、動物、昆虫、魚類、植物、または微生物に由来する細胞が挙げられる。動物としては、哺乳動物または鳥類(例、ニワトリ)が好ましく、哺乳動物がより好ましい。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、家畜および使役用の哺乳動物(例、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)が挙げられる。
【0033】
好ましい実施形態では、宿主細胞は、ヒト細胞、またはヒトタンパク質の産生に汎用されている細胞(例、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎由来HEK293細胞)である。
【0034】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、微生物である。融合タンパク質または変異体の大量生産等の観点より、このような宿主細胞を用いてもよい。微生物としては、例えば、細菌および真菌が挙げられる。細菌としては、宿主細胞として用いられている任意の細菌を使用することができ、例えば、バシラス(Bacillus)属細菌〔例、枯草菌(Bacillus subtilis)〕、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌〔(例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕、エシェリヒア(Escherichia)属細菌〔例、シェリヒア・コリ(Escherichia coli)〕、パントエア(Pantoea)属細菌(例、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis))が挙げられる。真菌としては、宿主細胞として用いられている任意の真菌を使用することができ、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属真菌〔例、サッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)〕、およびシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属真菌〔例、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)〕が挙げられる。あるいは、微生物として、糸状菌を用いてもよい。糸状菌としては、例えば、アクレモニウム属(Acremonium)/タラロマイセス属(Talaromyces)、トリコデルマ属(Trichoderma)、アルペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フサリウム属(Fusarium)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、フミコーラ属(Humicola)、エメリセラ属(Emericella)、およびハイポクレア属(Hypocrea)に属する細菌が挙げられる。
【0035】
さらに別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、腸内細菌である。融合タンパク質または変異体を腸内で産生させる観点より、このような宿主細胞を用いてもよい。腸内細菌としては、例えば、乳酸菌(Duan FF,Diabetes 64:1794-803,2015)が挙げられる。
【0036】
本発明の宿主細胞は、本発明の融合タンパク質または変異体をコードするポリヌクレオチドに加えて、当該ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を含むことが好ましい。用語「発現単位」とは、タンパク質として発現されるべき所定のポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む、当該ポリヌクレオチドの転写、ひいては当該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の産生を可能にする単位をいう。発現単位は、ターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。発現単位は、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。発現単位は、微生物(宿主細胞)においてゲノム領域(例、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドが固有に存在する天然ローカスである天然ゲノム領域、もしくは当該天然ローカスではない非天然ゲノム領域)、または非ゲノム領域(例、細胞質内)に含まれることができる。発現単位は、1または2以上(例、1、2、3、4、または5)の異なる位置においてゲノム領域中に含まれていてもよい。非ゲノム領域に含まれる発現単位の具体的な形態としては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、および人工染色体が挙げられる。
【0037】
発現単位を構成するプロモーターは、その下流に連結されたポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質を宿主細胞で発現させることができるものであれば特に限定されない。例えば、プロモーターは、宿主細胞に対して同種であっても異種であってもよいが、好ましくは異種である。例えば、組換えタンパク質の産生に汎用される構成または誘導プロモーターを用いることができる。このようなプロモーターは、用いられる宿主細胞の種類(例、ヒト細胞等の哺乳動物細胞、微生物)に応じて、哺乳動物由来のプロモーター、微生物由来のプロモーター、ウイルス由来のプロモーター等のプロモーターを適宜選択することができる。
【0038】
本発明の宿主細胞は、当該分野において公知の任意の方法により作製することができる。例えば、本発明の宿主細胞は、発現ベクターを用いる方法(例、コンピテント細胞法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム沈澱法)、またはゲノム改変技術により作製することができる。発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じる組込み型(integrative)ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれることができる。一方、発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じない非組込み型ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれず、宿主細胞内において、発現ベクターの状態のまま、ゲノムDNAから独立して存在できる。あるいは、ゲノム編集技術(例、CRISPR/Casシステム、Transcription Activator-Like Effector Nucleases(TALEN))によれば、発現単位を宿主細胞のゲノムDNAに組み込むこと、および宿主細胞が固有に備える発現単位を改変することが可能である。
【0039】
発現ベクターは、発現単位として上述した最小単位に加えて、宿主細胞で機能するターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する耐性遺伝子が挙げられる。発現ベクターはまた、宿主細胞のゲノムDNAとの相同組換えのために、宿主細胞のゲノムとの相同組換えを可能にする領域をさらに含んでいてもよい。例えば、発現ベクターは、それに含まれる発現単位が一対の相同領域(例、宿主細胞のゲノム中の特定配列に対して相同なホモロジーアーム、loxP、FRT)間に位置するように設計されてもよい。発現単位が導入されるべき宿主細胞のゲノム領域(相同領域の標的)としては、特に限定されないが、宿主細胞において発現量が多い遺伝子のローカスであってもよい。
【0040】
発現ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、または人工染色体であってもよい。発現ベクターはまた、組込み型(integrative)ベクターであっても非組込み型ベクターであってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクター、またはRNAベクター(例、レトロウイルス)であってもよい。このような発現ベクターは、用いられる宿主細胞の種類(例、ヒト細胞等の哺乳動物細胞、微生物)に応じて、適宜選択することができる。
【0041】
宿主細胞を培養するための培地は公知であり、宿主細胞の種類に応じた適切な培地を用いることができる。このような培地には、所定の成分(例、炭素源、窒素源、ビタミン)が添加されてもよい。宿主細胞は、通常16~42℃、好ましくは25~37℃で、通常5~168時間、好ましくは8~72時間培養される。培養方法としては、例えば、バッチ培養法、流加培養法、連続培養法が挙げられる。あるいは、誘導剤を用いて、融合タンパク質の発現を誘導してもよい。
【0042】
産生された目的タンパク質は、塩析、沈殿法(例、等電点沈殿法、溶媒沈殿法)、分子量差を利用する方法(例、透析、限外濾過、ゲル濾過)、特異的親和性を利用する方法(例、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー)、疎水度の差を利用する方法(例、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー)、またはこれらの組み合わせにより、宿主細胞またはその含有培地から精製および単離することが可能である。本発明の融合タンパク質または変異体が宿主細胞内に蓄積される場合、本発明の融合タンパク質または変異体は、まず、宿主細胞を破砕(例、ソニケーション、ホモジナイゼーション)または溶解(例、リゾチーム処理)し、次いで、得られた破砕物および溶解物を、上述した方法で処理することにより、得ることができる。
【0043】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質または変異体の作製に用いることができる、上述したような、本発明の融合タンパク質または変異体をコードするポリヌクレオチド、ならびにそれを含む発現ベクターおよび宿主細胞を提供する。
【実施例0044】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
比較例1.GLP-1(1-37)の血中動態
市販の飼料(オリエンタル酵母、CRF-1)および水道水を自由摂取させた8週齢の雄性C57BL/6Jマウスに、GLP-1(1-37)を120nmol/10mL/kgで腹腔内投与した。投与後5、15、30、60、180、360分に頸静脈より採血し、遠心分離後、採取した血漿に有機溶媒および酸変性による除タンパク質処理を施した後、LC/MS/MS(AB SCIEX、QTRAP(登録商標)6500)分析に供した。
GLP-1(1-37)濃度は、投与後30分で最高血中濃度(110nM)に達したが、3時間後には2nMに低下し、投与後速やかに血中から消失することが確認された(図1)。したがって、GLP-1(1-37)の血中での分解を抑制し、血中半減期を延長させることが必要と考えられた。
【0046】
実施例1.アミノ酸置換によるGLP-1(1-37)の安定化
(1-1)GLP-1(1-37)および変異体の調製
アミノ酸置換によるGLP-1(1-37)の血中安定性の向上を検討した。GLP-1(1-37)(以下、「ネイティブGLP-1」とも呼ぶ)およびGLP-1(1-37)変異体(GLP-1F4AおよびGLP-1R6A)をペプチド合成により調製した。GLP-1F4AおよびGLP-1R6Aはそれぞれ、ネイティブGLP-1のアミノ酸配列において4番目のフェニルアラニン残基および6番目のアルギニン残基をアラニン残基に置換した変異体である。ネイティブGLP-1および変異体のアミノ酸配列を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(1-2)血中安定化の検討
各ペプチド500μg/kgをC57BL/6Jマウスの尾静脈内に投与し、血中濃度の推移を測定したところ、下記の表2に示す半減期が得られた。GLP-1F4AおよびGLP-1R6AはネイティブGLP-1よりも延長した半減期を示し、特にGLP-1R6Aでは延長効果が非常に高く、ネイティブGLP-1と比べて7.2倍の値を示した。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例2.ランダムコイルポリペプチド部分の付加によるGLP-1(1-37)の安定化
(2-1)ランダムコイルポリペプチド部分付加GLP-1(1-37)融合タンパク質の調製
ランダムコイルポリペプチド部分付加によるGLP-1(1-37)の血中安定性の向上を検討した。最初に、ランダムコイルポリペプチド部分付加GLP-1(1-37)融合タンパク質が生産可能であるかを検討した。
ランダムコイルポリペプチド部分として200または600アミノ酸残基からなるプロリン/アラニン-リッチ配列(PAS)を有するポリペプチド部分(PA200、PA600)を用いた。ネイティブGLP-1およびGLP-1R6AにこれらのPASの付加(PASylation(登録商標))を施すことにより得られる融合タンパク質(GLP-1-PA200、GLP-1-PA600、GLP-1R6A-PA200、およびGLP-1R6A-PA600)を、Corynex(登録商標)発現系(CspA)にて発現させた。具体的には、WO2016/171224の記載に従い、CspAシグナル配列のC末側に、それぞれの融合タンパク質(GLP-1-PA200、GLP-1-PA600、GLP-1R6A-PA200、およびGLP-1R6A-PA600)を接続したアミノ酸配列を有するタンパク質を発現させた。CspAシグナル配列は、細胞膜を透過する際に細胞膜上に存在するシグナルペプチダーゼにより切断されるため、目的の融合タンパク質(GLP-1-PA200、GLP-1-PA600、GLP-1R6A-PA200、およびGLP-1R6A-PA600)が培養上清中に分泌される。CspAシグナル配列および融合タンパク質のアミノ酸配列を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
培養上清中に分泌発現された融合タンパク質をSDS-PAGEで分析したところ、2~3g/Lという良好な発現量を得たことが示された(図2)。この結果から、ランダムコイルポリペプチド部分付加GLP-1(1-37)融合タンパク質はCorynex(登録商標)発現系で生産可能であることが確かめられた。
【0053】
(2-2)融合タンパク質の定量方法の検討
LC-MSによる分析をPAS配列が付加されたペプチド(融合タンパク質)の定量に用いることができるかを検討するため、各融合タンパク質をQ-TOF/MS(AB SCIEX,X500B QTOF system)で定量した。Q-TOF/MS条件を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
GLP-1R6A-PA600のQ-TOF/MSデータを図3~5に示す。トータルイオンクロマトグラム(TIC)にて溶出時間4.96分のピークのMSスペクトルからデコンボリューションを行い、分子量を計算した結果52270.85となり、GLP-1R6A-PA600の理論値52269.73とほぼ一致した。血漿サンプルの前処理はAmicon(登録商標)Ultra-0.5(NMWL:100kDa)を用いて限外ろ過する事により行い、ろ液を回収して分析に供した。本結果より、血漿中GLP-1融合タンパク質濃度のLC-MSによる分析が可能であることが示され、LC-MS分析により血中安定性の評価が可能であることが示された。
【0056】
(2-3)融合タンパク質のGLP-1受容体活性化作用試験(in vitro)
各融合タンパク質の活性はGLP-1受容体に対する活性化作用で評価した。評価はGLP-1受容体、およびcAMP Respose Element(CRE)-luciferaseを発現させたHEK293T細胞株を用いて実施した。
【0057】
10%FBSニチレイ(Sigma、172012)、1%Penicillin-Streptomycin(P/S、ナカライテスク、09367-34)および300μg/mL G418(ナカライテスク、1651326)を含むDMEM/Ham’s F-12培地(ナカライテスク、08460-95)で維持したHEK293T細胞をD-PBS(-)(ナカライテスク、14249-95)で洗浄後、0.1%trypsin/0.4mM EDTA(0.25%trypsin/1mM EDTA(ナカライテスク07086-74)をPBS(-)で希釈)で細胞を剥がし回収、G418非存在下で100mmディッシュに2.5×10cells播種し、37℃、5%COで一晩培養した。翌日70~80%コンフルエントであることを確認し、GLP-1受容体遺伝子、cAMP応答配列(CRE)を含むホタル・ルシフェラーゼベクター[pGL4.29[luc2P/CRE/Hygro vector](Promega、E8471)および内部コントロールとしてウミシイタケ・ルシフェラーゼベクター[pGL4.74[hRluc/TK](Promega、E6921)とLipofectamineTM2000 reagent(Life Technologies、11668-027)、OPTI-MEM(Life Technologies、31985062)を穏やかに混合し20分静置後、P/S非添加の養生培地に交換した細胞に全量滴下し37℃、5%COで4時間以上培養して遺伝子導入を行った。培養後96ウェルプレート(Corning Biocoat poly-D-Lysine cellware 96well Black/Clear plate with lid)に1.2×10cells/well播種し37℃、5%COで一晩培養した。翌日、培地を完全に除去しCD293培地(Life Technologies)で調製した被験物質溶液を60μL/ウェルずつ添加し、37℃、5%COで4時間培養後、Dual-Glo(登録商標)Luciferase Assay System(Promega)のDual-Glo(登録商標)Luciferase Assay Reagentを20μL/ウェル添加し、遮光下で15分振とう後、FDSS7000EX(浜松ホトニクス)の高感度発光測定Lumi(Photon Countingモード)を用いて測定した。その後ホタルルシフェラーゼ発光を止め、Dual-Glo(登録商標)Stop&Glo(登録商標)Reagentを20μL/ウェル添加し、遮光下で15分振とう後、再度FDSS7000にてウミシイタケルシフェラーゼの測定を行った。
測定値はホタルルシフェラーゼによる積算値lucをウミシイタケルシフェラーゼによる積算値hRlucで除し、luc/hRlucを活性値とし、GraphPad Prism6でEC50値を算出した。
【0058】
ネイティブGLP-1およびGLP-1R6Aに由来の4種類のPASylation(登録商標)ペプチド(GLP-1-PA200、GLP-1-PA600、GLP-1R6A-PA200、GLP-1R6A-PA600)を精製し、ネイティブGLP-1(1-37)を加えた5種類のペプチドについて活性を評価した。その結果、GLP-1-PA200およびGLP-1-PA600の活性はGLP-1(1-37)と比し5~10倍程度低下したが、GLP-1R6A-PA200およびGPL-1R6A-PA600はGLP-1(1-37)と比べて若干の低下あるいはほぼ同程度の活性であり、ほぼ維持されていることが確認された(図6、表5)。
【0059】
【表5】
【0060】
(2-4)融合タンパク質の血中動態試験(in vitro)
ネイティブGLP-1およびGLP-1R6Aから4種類のPASylation(登録商標)ペプチド(GLP-1-PA200、GLP-1-PA600、GLP-1R6A-PA200、GLP-1R6A-PA600)を精製し、ネイティブGLP-1(1-37)を加えた5種類のペプチドについて血中動態を評価した。市販の飼料および水道水を自由摂取させた8週齢の雄性C57BL/6JマウスにGLP-1(1-37)および4種のPASylated GLP-1を120nmol/10mL/kgで腹腔内投与した。ネイティブGLP-1(1-37)は投与後30分、1、3時間、4種のPASylated GLP-1は投与後8、12、18時間に採血しDPP-IV阻害剤およびProtease inhibitor cocktailを添加したチューブに入れ混合した。遠心分離後採取した血漿100μLに蒸留水200μLを添加混合し、Amicon(登録商標)Ultra-0.5(NMWL:100kDa)を用いて限外ろ過後のろ液を回収して分析に供した。
【0061】
ネイティブGLP-1(1-37)は投与1時間後には検出限界(0.15μM)未満となり血中から速やかに消失し血中半減期が0.2時間であったが、PASylated GLP-1はいずれも投与18時間後まで1μM以上の血中曝露を認め、PASylation(登録商標)による血中半減期の延長が確認された。また、PA200、PA600共にnative+PASylationと比し改変体+PASylationで血中半減期の延長効果の増強が確認され、改変体-PA200でt1/2=7.1時間、改変体-PA600ではt1/2=20時間とGLP-1(1-37)と比べて30倍~100倍の半減期延長を認めた(図7、表6)。
【0062】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の融合タンパク質または変異体は、医薬、特に糖尿病治療剤等の用途に有望である。本発明のポリヌクレオチド、発現ベクターおよび宿主細胞は、本発明の融合タンパク質または変異体の調製に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号1は、GLP-1(1-37)のアミノ酸配列を示す。
配列番号2は、GLP-1F4Aのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、GLP-1R6Aのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、CspAシグナル配列のアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、GLP-1-PA200のアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、GLP-1-PA600のアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、GLP-1R6A-PA200のアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、GLP-1R6A-PA600のアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、GLP-1-PA200のアミノ酸配列をコードする塩基配列を示す。
配列番号10は、GLP-1-PA600のアミノ酸配列をコードする塩基配列を示す。
配列番号11は、GLP-1R6A-PA200のアミノ酸配列をコードする塩基配列を示す。
配列番号12は、GLP-1R6A-PA600のアミノ酸配列をコードする塩基配列を示す。
配列番号13~19は、ランダムコイルポリペプチド部分のアミノ酸リピートのアミノ酸配列の例を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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