(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139618
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】高所作業安全管理システム
(51)【国際特許分類】
G08B 25/04 20060101AFI20220915BHJP
G08B 25/10 20060101ALI20220915BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20220915BHJP
A62B 35/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G08B25/04 K
G08B25/10 A
G08B21/02
A62B35/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040091
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】591080678
【氏名又は名称】株式会社中電工
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大地 秀二
(72)【発明者】
【氏名】加村 敦
【テーマコード(参考)】
2E184
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA11
2E184MA01
2E184MA06
5C086AA18
5C086CA16
5C086CA25
5C086CB20
5C086CB40
5C086DA08
5C086DA14
5C086EA41
5C086EA45
5C086FA02
5C086FA06
5C086FA18
5C086GA04
5C086GA09
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA25
5C087AA32
5C087AA37
5C087AA44
5C087BB02
5C087BB20
5C087BB74
5C087DD03
5C087DD20
5C087EE07
5C087EE14
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087FF16
5C087FF19
5C087GG08
5C087GG11
5C087GG17
5C087GG66
5C087GG83
(57)【要約】
【課題】複数の階で作業が行われる場合であっても、高所作業時における安全帯のフックをかけ忘れないようにして高所作業が安全に行えるようにする。
【解決手段】作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者がいる階を推定する。作業者が高所にいると判定された場合で、かつ、フックが落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全帯を装着して高所作業を行う作業者を管理する高所作業安全管理システムにおいて、
前記安全帯のフックに設けられ、作業者の落下を防止する落下防止用部材に前記フックがかけられた状態であるか否かを検出するフック状態検出センサと、
作業者に装着され、作業者の周囲の大気圧を検出する作業者側大気圧センサと、
前記作業者側大気圧センサとは別に構成されるとともに、所定の階に設置され、作業者が当該所定の階で高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出する第1の基準大気圧センサと、
前記作業者側大気圧センサ及び前記第1の基準大気圧センサとは別に構成されるとともに、前記所定の階とは異なる別の階に設置され、作業者が当該別の階で高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出する第2の基準大気圧センサと、
前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者がいる階を推定する推定部と、
作業者による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部と、
前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記推定部で推定された階に設置してある前記基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値との差に基づいて、作業者が前記推定部で推定された階で前記基準高さよりも所定以上高い高所にいるか否かを判定し、作業者が前記推定部で推定された階で高所にいると判定された場合で、かつ、前記フック状態検出センサにより、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知するように前記報知部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記第1の基準大気圧センサは、前記第2の基準大気圧センサよりも下の階に設置され、
前記推定部は、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値が前記第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値以下、かつ、前記第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値より大きい場合には、作業者が、前記第1の基準大気圧センサが設置された階にいると推定するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記作業者側大気圧センサ及び前記フック状態検出センサを有する子機と、
前記第1の基準大気圧センサを有する第1の基準局と、
前記第2の基準大気圧センサを有する第2の基準局と、
前記推定部及び前記制御部を有する親機と、
前記報知部を有する管理者端末とを備え、
前記子機には、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記フック状態検出センサの検出結果とを送信する子機側送信部が設けられ、
前記第1の基準局には、前記第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値を送信する第1の基準局送信部が設けられ、
前記第2の基準局には、前記第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値を送信する第2の基準局送信部が設けられ、
前記親機には、前記子機側送信部、前記第1の基準局送信部及び前記第2の基準局送信部からそれぞれ送信された前記大気圧の検出値及び前記検出結果を受信する親機側受信部と、前記制御部から出力される前記報知部の制御信号を出力する親機側送信部とが設けられ、
前記管理者端末には、前記親機側送信部から送信された前記制御信号を受信する管理者側受信部が設けられていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項4】
請求項3に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記子機は、互いに異なる階にいる作業者に装着される第1の子機及び第2の子機を含んでおり、
前記第1の子機には、前記第2の子機の前記子機側送信部から送信された前記大気圧の検出値を受信する子機側受信部が設けられ、
前記第1の子機の前記子機側送信部は、前記子機側受信部で受信した前記大気圧の検出値を送信するように構成され、
前記親機側受信部は、前記第1の子機の前記子機側送信部から送信された前記第1の子機の前記大気圧の検出値及び前記第2の子機の前記大気圧の検出値と、前記第1の基準局送信部及び前記第2の基準局送信部からそれぞれ送信された前記大気圧の検出値を受信するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項5】
請求項4に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記第1の子機の前記子機側受信部は、前記フック状態検出センサの検出結果を受信するように構成され、
前記第1の子機の前記子機側送信部は、前記子機側受信部で受信した前記検出結果を送信するように構成され、
前記親機側受信部は、前記第1の子機の前記子機側送信部から送信された前記第1の子機の前記検出結果及び前記第2の子機の前記検出結果を受信するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記第1の子機は、前記第1の基準局が設置される階にいる作業者に装着され、
前記第2の子機は、前記第2の基準局が設置される階にいる作業者に装着され、
前記親機は、前記高所作業安全管理システムの運用前に行われる設定時における前記第1の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値と前記第1の基準大気圧センサの検出値との差である第1オフセット値と、前記設定時における前記第2の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値と前記第2の基準大気圧センサの検出値との差である第2オフセット値とを記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記第1オフセット値及び前記第2オフセット値を適用して、作業者が高所にいるか否かを判定するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項7】
請求項6に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記第1オフセット値は、前記設定時に前記第1の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値から前記第1の基準大気圧センサの検出値を減算することによって得られた値であり、
前記制御部は、前記第1の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値から、前記第1の基準大気圧センサの検出値と、前記第1オフセット値と、所定の閾値とを減算して得られた値に基づいて作業者が高所にいるか否かを判定するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等で使用される高所作業安全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エレベーターの保守点検作業で使用される保守点検支援システムが開示されている。特許文献1の保守点検支援システムは、保守員が所持する携帯端末を備えており、この携帯端末には気圧センサが内蔵されている。この保守点検支援システムによれば、気圧センサが検出した大気圧の値と、予め設定されている基準階での大気圧の値との差によって携帯端末の位置と基準階との高度の差を求め、高度の差が所定の値以下であれば、乗りかごを基準階に移動させて表示装置に保守点検作業を実施することを予告するメッセージを表示装置に表示させるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、高所作業推定装置が開示されている。この高所作業推定装置も、作業者が所持する携帯端末を備えている。携帯端末には、気圧センサと加速度センサが内蔵されている。高所作業推定装置は、気圧センサによって作業者の存在する場所の気圧の情報を示す気圧情報を取得し、取得した気圧情報と基準気圧との差分が所定の閾値を超過した場合、作業者が高所にいると判定し、閾値を超過しない場合、作業者は高所にいないと判定する。さらに、高所作業推定装置は、加速度センサで取得された加速度情報に基づいて作業者が作業を実施しているか否かを判定する。そして、作業者が高所におり、かつ、作業を実施している場合にのみ、携帯端末や監督者端末にアラートや振動等の警告が出力されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165521号公報
【特許文献2】特許第6684863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等においては、高所作業が必要な場面が多く存在する。一般に、作業者は安全帯を身に付けているが、高所作業時にフックをかけていなければ万一の場合の墜落事故を未然に防止することはできない。
【0006】
この点、特許文献1では、保守員が所持する携帯端末に内蔵された気圧センサによって携帯端末の位置と基準階との高度の差を検出しているが、その検出結果は、単に乗りかごの移動や保守点検作業を実施することを予告するメッセージを表示装置に表示させる制御に使用されているだけであり、墜落事故を防止するために使用されるものではなかった。
【0007】
また、特許文献2では、作業者が高所におり、かつ、作業を実施している場合にのみ、警告を出力するので、安全帯のフックを手摺り等にかけて正しく高所作業を行っていても、いちいち警告が出力されることになり、警告が煩わしく感じることが考えられる。加えて、特許文献2では、作業者が動いていない場合には加速度が0になるので作業を行っていないと判定し、その結果、高所にいたとしても警告が出力されないことになる。しかしながら、作業者が作業を行っていなかったとしても高所にいれば安全帯のフックをかけておかなければならず、このような場合、特許文献2の装置では対応できなかった。
【0008】
また、特許文献1、2では、気圧センサによって作業者と基準階との高度の差を検出しているが、例えば、1階と2階で作業を行う場合を想定すると、1階で作業しているときには問題無く高所作業の判定を行うことができるが、2階に移動して作業すると、高所作業でないにも関わらず、高所作業であると判定されて警告対象になり得る。このことを回避するためには、階ごとに分けてシステムを運用すればよいのであるが、作業員が階を変えて作業する場合、階ごとに携帯端末を取り換える必要があり、使い勝手が悪くなる。また、携帯端末を取り替えるのを忘れて上階に移動した場合には誤って警告されることがあり、さらに、携帯端末を取り替えるのを忘れて下階に移動した場合には高所作業をしているのに高所作業でないと判定されてしまうおそれがあった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の階で作業が行われる場合であっても、高所作業時における安全帯のフックをかけ忘れないようにして高所作業が安全に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、安全帯を装着して高所作業を行う作業者を管理する高所作業安全管理システムを前提とすることができる。高所作業安全管理システムは、前記安全帯のフックに設けられ、作業者の落下を防止する落下防止用部材に前記フックがかけられた状態であるか否かを検出するフック状態検出センサと、作業者に装着され、作業者の周囲の大気圧を検出する作業者側大気圧センサと、前記作業者側大気圧センサとは別に構成されるとともに、所定の階に設置され、作業者が当該所定の階で高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出する第1の基準大気圧センサと、前記作業者側大気圧センサ及び前記第1の基準大気圧センサとは別に構成されるとともに、前記所定の階とは異なる別の階に設置され、作業者が当該別の階で高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出する第2の基準大気圧センサと、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者がいる階を推定する推定部と、作業者による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部と、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記推定部で推定された階に設置してある前記基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値との差に基づいて、作業者が前記推定部で推定された階で前記基準高さよりも所定以上高い高所にいるか否かを判定し、作業者が前記推定部で推定された階で高所にいると判定された場合で、かつ、前記フック状態検出センサにより、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知するように前記報知部を制御する制御部とを備えている。
【0011】
この構成によれば、第1の基準大気圧センサが例えば1階に設置されていて、第2の基準大気圧センサが例えば2階に設置されている場合には、1階で高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧が第1の基準大気圧センサで検出され、また2階で高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧が第2の基準大気圧センサで検出される。推定部では、作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、1階の基準高さにおける大気圧の検出値と、2階の基準高さにおける大気圧の検出値とに基づいて作業者がいる階を推定することができる。例えば、作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値が、2階の基準高さにおける大気圧の検出値よりもある値以上高い場合には、作業者は2階にはいないということであり、1階にいると推定できる。反対に、作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値が、2階の基準高さにおける大気圧の検出値と比較して、ある値より低い場合には、作業者は1階にはいないということであり、2階にいると推定できる。
【0012】
このようにして作業者がいる階を推定した後、作業者が高所(基準高さから例えば2m以上の所)にいると、作業者側大気圧センサから出力された大気圧の値が、基準高さに配置されている基準大気圧センサから出力された大気圧の値に比べて低くなり、制御部は、この差に基づいて、作業者が高所にいると判定できる。また、安全帯のフックが例えば手摺りやロープのような落下防止用部材にかけられた状態であるか否かが、フック状態検出センサにより検出される。作業者が高所にいながら、安全帯のフックを落下防止用部材にかけていない場合は、作業者による高所作業が不安全状態であると言える。この場合に、制御部は、作業者による高所作業が不安全状態であることを報知部に報知させ、例えば監督者や管理者等にそのことを知らせることができる。これにより、不安全状態を改めるように作業者に注意できる。また、不安全状態であることを報知部によって作業者自身に知らせることもでき、この場合も不安全状態を改めさせて安全に高所作業を行うことができる。
【0013】
本開示の第2の側面では、前記第1の基準大気圧センサは、前記第2の基準大気圧センサよりも下の階に設置され、前記推定部は、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値が前記第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値以下、かつ、前記第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値より大きい場合には、作業者が、前記第1の基準大気圧センサが設置された階にいると推定するように構成されている。
【0014】
この構成によれば、作業者側大気圧センサ、第1の基準大気圧センサ及び第2の基準大気圧センサのそれぞれから出力された大気圧の検出値に基づいて、作業者がいる階を正確に推定することができる。
【0015】
本開示の第3の側面では、前記作業者側大気圧センサ及び前記フック状態検出センサを有する子機と、前記第1の基準大気圧センサを有する第1の基準局と、前記第2の基準大気圧センサを有する第2の基準局と、前記推定部及び前記制御部を有する親機と、前記報知部を有する管理者端末とを備え、前記子機には、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記フック状態検出センサの検出結果とを送信する子機側送信部が設けられ、前記第1の基準局には、前記第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値を送信する第1の基準局送信部が設けられ、前記第2の基準局には、前記第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値を送信する第2の基準局送信部が設けられ、前記親機には、前記子機側送信部、前記第1の基準局送信部及び前記第2の基準局送信部からそれぞれ送信された前記大気圧の検出値及び前記検出結果を受信する親機側受信部と、前記制御部から出力される前記報知部の制御信号を出力する親機側送信部とが設けられ、前記管理者端末には、前記親機側送信部から送信された前記制御信号を受信する管理者側受信部が設けられている。
【0016】
この構成によれば、第1の基準局と第2の基準局とを別の階に設置しておくことで、各階の基準高さにおける大気圧をそれぞれ検出し、親機に送信することができる。親機では、第1の基準局と第2の基準局から送信された各階の基準高さにおける大気圧の検出値と、子機から送信された作業者の高さに応じた大気圧の検出値とを受信し、受信した検出値に基づいて、作業者がいる階の推定と、各階における高所作業の判定及びフックの状態の判定とを行うことができる。つまり、推定部及び制御部を親機に集約しながら、各階での不安全状態を把握し、作業者に対して的確に指示できる。
【0017】
本開示の第4の側面では、前記子機は、互いに異なる階にいる作業者に装着される第1の子機及び第2の子機を含んでおり、前記第1の子機には、前記第2の子機の前記子機側送信部から送信された前記大気圧の検出値を受信する子機側受信部が設けられ、前記第1の子機の前記子機側送信部は、前記子機側受信部で受信した前記大気圧の検出値を送信するように構成され、前記親機側受信部は、前記第1の子機の前記子機側送信部から送信された前記第1の子機の前記大気圧の検出値及び前記第2の子機の前記大気圧の検出値と、前記第1の基準局送信部及び前記第2の基準局送信部からそれぞれ送信された前記大気圧の検出値を受信するように構成されている。
【0018】
すなわち、例えば親機を1階に設置し、第1の子機が2階あり、第2の子機が3階にある場合を想定すると、親機と第2の子機との距離が長いので、受信部及び送信部の構成によっては通信が困難になることが考えられる。この構成では、3階にある第2の子機から送信された大気圧の検出値を2階にある第1の子機で受信し、第1の子機が1階にある親機へ送信することができるので、親機と第2の子機との距離が長くても、途中にある第1の子機が中継局となり、第2の子機から送信された大気圧の検出値を親機で確実に受信できる。
【0019】
本開示の第5の側面では、前記第1の子機の前記子機側受信部は、前記フック状態検出センサの検出結果を受信するように構成され、前記第1の子機の前記子機側送信部は、前記子機側受信部で受信した前記検出結果を送信するように構成され、前記親機側受信部は、前記第1の子機の前記子機側送信部から送信された前記第1の子機の前記検出結果及び前記第2の子機の前記検出結果を受信するように構成されている。
【0020】
この構成によれば、例えば親機を1階に設置し、第1の子機が2階あり、第2の子機が3階にある場合に、親機と第2の子機との距離が長くても、途中にある第1の子機が中継局となり、第2の子機から送信されたフック状態検出センサの検出結果を親機で確実に受信できる。
【0021】
本開示の第6の側面では、前記第1の子機は、前記第1の基準局が設置される階にいる作業者に装着され、前記第2の子機は、前記第2の基準局が設置される階にいる作業者に装着され、前記親機は、前記高所作業安全管理システムの運用前に行われる設定時における前記第1の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値と前記第1の基準大気圧センサの検出値との差である第1オフセット値と、前記設定時における前記第2の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値と前記第2の基準大気圧センサの検出値との差である第2オフセット値とを記憶する記憶部を備え、前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記第1オフセット値及び前記第2オフセット値を適用して、作業者が高所にいるか否かを判定するように構成されている。
【0022】
この構成によれば、各階にいる作業者が高所にいるか否かを正確に判定することができる。
【0023】
本開示の第7の側面では、前記第1オフセット値は、前記設定時に前記第1の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値から前記第1の基準大気圧センサの検出値を減算することによって得られた値であり、前記制御部は、前記第1の子機の前記作業者側大気圧センサの検出値から、前記第1の基準大気圧センサの検出値と、前記第1オフセット値と、所定の閾値とを減算して得られた値に基づいて作業者が高所にいるか否かを判定するように構成されている。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、第1の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、第2の基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者がいる階を推定することができるので、複数の階で作業が行われる場合であっても、高所作業時における安全帯のフックをかけ忘れないようにして高所作業が安全に行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る高所作業安全管理システムが使用される作業現場を示す図である。
【
図2】上記高所作業安全管理システムの概略構成図である。
【
図3】上記高所作業安全管理システムのブロック図である。
【
図4】上記高所作業安全管理システムの運用形態の第1例を説明する図である。
【
図5】上記高所作業安全管理システムの運用形態の第2例を説明する図である。
【
図8】上記高所作業安全管理システムの制御フローチャートである。
【
図9】親機と子機が同一高さにある場合のオフセット値の算出手法を示す図である。
【
図10】親機と子機とをペアリングする場合のオフセット値の算出手法を示す図である。
【
図11】上記高所作業安全管理システムの運用時を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る高所作業安全管理システム1(
図2及び
図3に示す)が使用される作業現場を示す図である。作業現場は、例えば各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等が行われる現場である。本実施形態に係る高所作業安全管理システム1が対象とする作業現場は、複数階を有する建築物や仮設足場等である。このような作業現場における各種建築作業には、例えば屋内外の配管作業や配線作業等が含まれる。このような各種作業現場では、足場に上がっての作業、機械の上に登っての作業、高い作業台上での作業等、いわゆる高所作業が伴うことがある。高所作業とは、例えば床や地面の高さを基準高さとした場合、基準高さから例えば1.5mまたは2.0m以上高い所(所定以上高い所)での作業と定義することができ、労働安全衛生法の定義にしたがってもよい。
【0028】
図1に示すように、作業現場には、作業者Aが歩行したり、各種作業を行ったりするための作業床100と、落下防止用部材101とが設けられている。作業床100は、高所作業を行うための床であり、基準高さから所定以上高い所に配置されている。作業床100は、足場板で構成されていてもよいし、作業台で構成されていてもよい。落下防止用部材101は、作業者Aの作業床100からの落下を防止するための部材であり、例えば手摺りや横に張り渡されたロープ等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、各種構造物の一部であってもよい。
【0029】
作業者Aは、高所作業に備えて安全帯200を装着している。この実施形態では、安全帯200がフルハーネスタイプのものである場合について説明する。安全帯200は、作業者Aの腰に巻き付ける腰ベルト201、大腿部に巻き付ける脚ベルト202、腰ベルト201から肩まで延びる肩ベルト203と、腰ベルト201から左右にそれぞれ延びるロープ204の先端部に取り付けられたフック205とを備えている。尚、本発明は、フルハーネスタイプの安全帯200以外の安全帯、例えば脚ベルト202や肩ベルト203の無い安全帯にも適用することができる。また、フック205は、1つだけ設けられていてもよい。
【0030】
図2は、高所作業安全管理システム1の一構成例を示しており、高所作業安全管理システム1の概略構成図である。高所作業安全管理システム1は、作業者Aに装着される子機2A、2B、2C、2D、2E(
図3に示す)と、子機2A~2Eから離れて設置される親機3と、管理者端末4と、基準局5B~5Eとを備えている。子機2A~2Eと親機3とは、LPWA(Low Power Wide Area)の近距離無線通信によって通信可能に構成されており、また、基準局5と親機3とは、同様な近距離無線通信によって通信可能に構成されている。子機2A~2Eと親機3との通信形態、基準局5と親機3との通信形態は、上記近距離無線通信に限られるものではなく、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等による通信形態であってもよい。また、親機3と管理者端末4とは、例えばインターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等を介して接続することができるが、これもLPWAの近距離無線通信によって通信可能に構成されていてもよい。通信手段の詳細については後述する。
【0031】
高所作業安全管理システム1は、安全帯200を装着して高所作業を行う作業者Aを管理するシステムである。作業者Aの管理とは、作業者Aが不安全な高所作業を行っているか否かを判定し、安全であれば特に報知等することなく、作業を継続させ、不安全であれば例えば管理者や作業者A自身に報知し、不安全であることを知らせて改善させることである。本高所作業安全管理システム1を使用することで、作業者Aの管理が可能になる。以下、高所作業安全管理システム1の詳細について説明する。
【0032】
(子機2A~2Eの構成)
図3に示すように、作業者Aが複数人いる場合には、子機2A~2Eが複数存在することになり、複数の子機2A~2Eが高所作業安全管理システム1の一部を構成する。すなわち、第1例に係る高所作業安全管理システム1の運用形態について、
図4に基づいて説明する。
図4は、5階建ての建築物105の内部で作業者A1~A5が作業を行っている場合について示している。
図4中の破線は通信経路を模式的に示したものである。1階には、複数の作業者A1がおり、その内の1名の作業者A1が高所に位置する作業床100の上で作業している。2階にも複数の作業者A2がおり、その内の1名の作業者A2が高所に位置する作業床100の上で作業している。3階、4階、5階についても同様である。尚、作業者A1~A5の人数、建築物105の階数等は図示したものに限られるものではなく、任意の人数、任意の階数であってもよい。また、全ての階で同時に作業が行われていてもよいし、一部の階でのみ作業が行われていてもよい。また、作業が行われる階は地下であってもよい。
【0033】
本明細書において、子機2A~2Eを1階~5階用子機2A~2Eというが、これは説明の便宜を図るためであり、1階~5階用子機2A~2Eの構造は全て同じである。したがって、各階に設置されている基準局とのペアリング(後述する)さえ行っていれば、1階用子機2Aを1階で使用しなければならないという制約はなく、1階用子機2Aを5階に設置されている基準局5Eとペアリングすれば、5階用子機として使用することができる。他の子機2B~2Eも同様である。
【0034】
建築物105の1階にいる作業者A1にはそれぞれ1階用子機2Aが装着されている。また、建築物105の2階にいる作業者A2にはそれぞれ2階用子機2Bが装着されている。また、建築物105の3階にいる作業者A3にはそれぞれ3階用子機2Cが装着されている。また、建築物105の4階にいる作業者A4にはそれぞれ4階用子機2Dが装着されている。さらに、建築物105の5階にいる作業者A5にはそれぞれ5階用子機2Eが装着されている。
【0035】
第1例では、1階~5階用子機2A~2Eの全てが1階に設置されている親機3と通信可能に構成されている例であり、この場合の親機3と1階~5階用子機2A~2Eとの通信形態としては、LPWAよりも広範囲での通信が可能なインターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等を用いた通信形態である。
【0036】
一方、
図5では、高所作業安全管理システム1の運用形態の第2例を示している。第2例では、親機3と1階~5階用子機2A~2Eとの通信形態がLPWAを用いた通信形態である。例えば5階用子機2Eと、1階に設置されている親機3との距離が長いので、LPWAを用いると5階用子機2Eと親機3との直接の通信が困難になる場合がある。このような場合には、5階用子機2Eと4階用子機2Dとの通信、4階用子機2Dと3階用子機2Cとの通信、3階用子機2Cと2階用子機2Bとの通信、2階用子機2Bと1階用子機2Aとの通信をそれぞれ可能にしておくことで、5階用子機2Eで検出された各種検出値や検出結果等を、4階用子機2D、3階用子機2C及び2階用子機2Bを介して親機3に送信することが可能になる。また、5階用子機2Eと3階用子機2Cとの通信が距離的に可能であれば、4階用子機2Dを利用しなくてもよい。同様に、4階用子機2Dで検出された各種検出値や検出結果等を、3階用子機2C及び2階用子機2Bを介して親機3に送信することや、3階用子機2Cで検出された各種検出値や検出結果等を、2階用子機2Bを介して親機3に送信することもできる。このとき、1階用子機2Aを利用してもよい。
【0037】
図1に示すように、1階~5階用子機2A~2Eは、安全帯200に設けることができ、安全帯200と一体化することができる。この図に示すように、1階~5階用子機2A~2Eはフック205に設けられていて、フック205と一体化されている。1階~5階用子機2A~2Eは、フック205の基端部であるロープ204が連結される部分に内蔵することもできる。尚、1階~5階用子機2A~2Eは、後述するフック状態検出センサ20以外の部分が安全帯200の腰ベルト201に取り付けられていてもよいし、安全帯200を介することなく、作業者A1~A5に取り付けられていてもよい。
【0038】
図6は、1階用子機2Aの詳細構造を示すブロック図である。この図に示すように、1階用子機2は、フック状態検出センサ20と、作業者側大気圧センサ21と、子機側送信部22と、子機側受信部23と、子機側マイクロコンピュータ(子機側制御部)24と、電池25とを備えている。フック状態検出センサ20と、作業者側大気圧センサ21とは分離させることができ、作業者側大気圧センサ21は作業者Aのヘルメット等に装着することもできる。
【0039】
図2に示すように、フック状態検出センサ20は、フック205の内周部、即ちフック205における落下防止用部材101(
図1に示す)と接触する部分に設けられており、当該フック205が落下防止用部材101にかけられた状態であるか否かを検出するためのセンサである。フック205を落下防止用部材101にかけると、フック205の自重によってフック状態検出センサ20が落下防止用部材101に接触する。このフック状態検出センサ20は、落下防止用部材101との接触によって非導通状態(OFF状態)から導通状態(ON状態)に切り替わる周知のスイッチ等で構成することができる。また、フック状態検出センサ20は、所定以上の圧力が作用したことを検出する感圧センサ等で構成することもできる。フック状態検出センサ20から延びる信号線(図示せず)は子機側マイクロコンピュータ24に接続されており、フック状態検出センサ20による検出結果は、子機側マイクロコンピュータ24に入力される。
【0040】
作業者側大気圧センサ21、子機側送信部22、子機側受信部23、子機側マイクロコンピュータ24及び電池25のうち、全てまたは一部がフック205に内蔵されている。尚、作業者側大気圧センサ21、子機側送信部22、子機側受信部23、子機側マイクロコンピュータ24及び電池25のうち、全てまたは一部が、既存のフック205に取付可能に構成されていてもよい。
【0041】
作業者側大気圧センサ21は、作業者A1~A5に装着され、作業者A1~A5の周囲の大気圧を検出するセンサであり、従来から周知の気圧センサで構成されている。この実施形態では、作業者側大気圧センサ21がフック205に内蔵されているが、フック205と作業者A1~A5とは高さ方向にはそれほど大きく離れることはなく、一般的に作業者A1~A5と略同じ高さにフック205が配置されることから、作業者側大気圧センサ21によって検出された大気圧は、作業者A1~A5がいる高さの大気圧と等しくなる。作業者側大気圧センサ21を作業者A1~A5のヘルメットや腰ベルト201等に取り付けている場合も、作業者A1~A5がいる高さの大気圧を作業者側大気圧センサ21によって検出できる。作業者側大気圧センサ21は、作業者A1~A5の安全を考えた場合には大気圧の検出サイクルが短い方が好ましいが、電池25の消耗も考慮すると、例えば1秒に1回程度のサイクルで大気圧を検出し、検出値(大気圧値)を出力する。作業者側大気圧センサ21は、子機側マイクロコンピュータ24に接続されており、作業者側大気圧センサ21による検出値は子機側マイクロコンピュータ24に入力される。
【0042】
子機側送信部22は、作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の検出値と、フック状態検出センサ20による検出結果とを送信する部分である。具体的には、子機側送信部22と子機側マイクロコンピュータ24とが接続されており、子機側マイクロコンピュータ24に入力された大気圧の検出値とフック状態検出センサ20による検出結果とを子機側マイクロコンピュータ24による指示に従って外部へ送信する。大気圧の検出値とフック状態検出センサ20による検出結果とが子機側マイクロコンピュータ24に入力される度に、子機側マイクロコンピュータ24は検出値及び検出結果を子機側送信部22から外部へ送信させる。
【0043】
大気圧の検出値及びフック状態検出センサ20による検出結果には、どの子機2A~2Eであるかを識別するための識別情報が付与されており、識別情報が付与された大気圧の検出値と、識別情報が付与された検出結果とが外部へ送信される。識別情報としては、例えば子機2A~2Eに固有のID番号や、管理者が子機ごとに付与した互いに異なる番号等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、各種の識別情報を含むことができる。同じ階で使用される子機であっても識別情報は異なっており、同一の作業現場で同一の識別情報が存在しないようになっている。識別情報と、作業者A1~A5とは関連付けておくことができ、どの作業者Aがどの子機を装着しているかを装着情報として管理者が保有しておく。
【0044】
図4に示す第1例では、子機側送信部22は、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線との無線通信が可能な通信モジュールで構成されていている。一方、
図5に示す第2例では、子機側送信部22は、近距離無線通信が可能な通信モジュール等で構成されており、例えば従来から周知のWi-SUN FAN、LoRaモジュール、SigfoxモジュールやNB-IoTモジュール等の低電力広域ネットワークモジュール等で構成されており、マルチホッピング可能な通信規格が好ましい。
【0045】
子機側受信部23は、他の子機2B~2Eが有する子機側送信部22と通信可能な通信モジュールであり、具体的には子機側送信部22と同規格の通信モジュールで構成されている。1階用子機2Aの子機側受信部23は、2階~5階用子機2B~2Eが有するいずれの子機側送信部22とも通信可能になっている。従って、1階用子機2Aの子機側受信部23は、2階~5階用子機2B~2Eの子機側送信部22から送信された大気圧の検出値及びフック状態検出センサ20による検出結果を受信する。同様に、2階~5階用子機2B~2Eの各子機側受信部23も他の子機の子機側送信部22から送信された大気圧の検出値及びフック状態検出センサ20による検出結果を受信する。
【0046】
1階~5階用子機2A~2Eの各子機側送信部22は、各子機側受信部23で受信した他の子機の大気圧の検出値及びフック状態検出センサ20による検出結果も、送信可能になっている。すなわち、子機側マイクロコンピュータ24は、他の子機の大気圧の検出値及びフック状態検出センサ20による検出結果を子機側受信部23で受信した場合、その検出値及び検出結果に付与されている識別情報を削除することなく、識別情報が付与された検出値及び検出結果を子機側送信部22によって外部へ送信させる。1階~5階用子機2A~2Eがこのように構成されているので、
図5に通信経路を破線で示すように、5階用子機2Eの子機側送信部22から送信された5階の検出値及び検出結果を、4階用子機2Dの子機側受信部23で受信して4階用子機2Dの子機側送信部22から送信し、それを3階用子機2Cの子機側受信部23で受信して3階用子機2Cの子機側送信部22から送信し、それを2階用子機2Bの子機側受信部23で受信して2階用子機2Bの子機側送信部22から送信し、それを親機3で受信することが可能になる。このような通信形態をマルチホッピングという。
【0047】
フック状態検出センサ20の検出結果には、フック205が落下防止用部材101にかけられていないOFF状態と、フック205が落下防止用部材101にかけられているON状態とが含まれている。子機側送信部22から送信するフック状態検出センサ20の検出結果は、フック状態検出センサ20のON及びOFF信号であってもよいし、フック205が落下防止用部材101にかけられていないことを示す信号及びフック205が落下防止用部材101にかけられていることを示す信号であってもよい。
【0048】
電池25は、フック状態検出センサ20、作業者側大気圧センサ21、子機側送信部22、子機側受信部23及び子機側マイクロコンピュータ24に電力を供給するためのものである。電池25は、充電池であってもよいし、交換可能な乾電池であってもよい。
【0049】
(基準局5B~5Dの構成)
図4に示すように、5階建ての建築物105の内部で作業者A1~A5が作業を行っている場合には、親機3が設置されている1階以外の階、即ち2階に2階用基準局5B、3階に3階用基準局5C、4階に4階用基準局5D、5階に5階用基準局5Eがそれぞれ設置される。各基準局5B~5Eは、例えば作業現場の床、作業台の下側部分等、高さが変化しない所(設置位置)に設置される。各基準局5B~5Eは、高さ方向に移動しないように設置してあればよく、水平方向への移動は差し支えない。その理由は後述する高所の検出アルゴリズムによるものである。
【0050】
本明細書において、基準局5B~5Eを2階~5階用基準局5B~5Eというが、これは説明の便宜を図るためであり、2階~5階用基準局5B~5Eの構造は全て同じである。したがって、上述した2階~5階の子機2B~2Eの各子機とのペアリングさえ行っていれば、2階用基準局5Bを2階で使用しなければならないという制約はなく、2階用基準局5Bを5階で使用される子機2Eとペアリングすれば、5階用基準局として使用することができる。他の基準局5C~2Eも同様である。
【0051】
2階~5階用基準局5B~5Eは、それぞれ各階の床面に設置してもよいし、設置台の上に設置してもよいし、三脚のような器具に設置してもよい。
図4に示す第1例と、
図5に示す第2例とでは、2階~5階用基準局5B~5Eは同じものを使用できる。
【0052】
図7は、2階用基準局5Bの詳細構造を示すブロック図である。この図に示すように、2階用基準局5Bは、基準大気圧センサ51と、基準局送信部52と、基準局マイクロコンピュータ53と、電池54とを備えている。電池54は、子機2A~2Eの電池25と同じもので構成することができる。電池54の代わりに、商用電源等から電力を供給するようにしてもよい。基準大気圧センサ51、基準局送信部52、基準局マイクロコンピュータ53及び電池54は、1つの筐体56に収容して一体化することができるが、それらのうちの一部のみを筐体56に収容し、他を別の筐体(図示せず)に収容することもできる。
【0053】
2階用基準局5Bの基準大気圧センサ51は、2~5階用子機2A~2Eの作業者側大気圧センサ21とは別に構成されるとともに、2階の作業者A2が高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さに設置され、当該基準高さにおける大気圧を検出するセンサである。基準大気圧センサ51自体は、作業者側大気圧センサ21を構成している気圧センサと同じもので構成することができる。基準大気圧センサ51は、基準局マイクロコンピュータ53に接続されており、基準大気圧センサ51による検出値は基準局マイクロコンピュータ53に入力される。
【0054】
基準大気圧センサ51は、2階用基準局5Bに設けられているので、2階の作業者A2が作業を行っている時には、2階用子機2Aの作業者側大気圧センサ21から離れて配置されることになり、2階用子機2Aの作業者側大気圧センサ21とは異なる高さの大気圧を検出する。具体的には、2階用基準局5Bが高さの変化しない所に設置されるので、作業者A2の作業中、常に同じ高さ、例えば床や地面、作業台の高さの大気圧を検出し続ける。
【0055】
基準局送信部52は、第1例に係る高所作業安全管理システム1で用いられる子機2A~2Eの子機側送信部22と同様な通信モジュールで構成されていている。すなわち、基準局送信部52は、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等を用いた通信形態による通信が可能な通信モジュールで構成されている。2階~5階用基準局5B~5Eの基準局送信部52は、LPWAよりも遠距離の通信が可能であるため、親機3と直接通信が可能である。
【0056】
基準局送信部52は、基準大気圧センサ51から入力された大気圧の検出値を基準局マイクロコンピュータ53による指示に従って外部へ送信する。大気圧の検出値は基準局マイクロコンピュータ53に入力される度に、基準局マイクロコンピュータ53は検出値を基準局送信部52から外部へ送信させる。
【0057】
(親機3の構成)
図4及び
図5に示すように、親機3は、1階の作業現場の床や地面、作業台の下側部分等、高さが変化しない所(設置位置)に設置される。親機3は、高さ方向に移動しないように設置してあればよく、水平方向への移動は差し支えない。その理由は後述する高所の検出アルゴリズムによるものである。
【0058】
図3に示すように、親機3は、基準大気圧センサ30と、親機側受信部31と、親機側送信部32と、親機側マイクロコンピュータ33と、記憶部34と、電池35とを備えている。電池35は、子機2A~2Eの電池25と同じもので構成することができる。電池35の代わりに、商用電源等から電力を供給するようにしてもよい。
【0059】
図3に示すように、基準大気圧センサ30、親機側受信部31、親機側送信部32、親機側マイクロコンピュータ33、記憶部34及び電池35は、1つの筐体36に収容して一体化することができるが、それらのうちの一部のみを筐体36に収容し、他を別の筐体(図示せず)に収容することもできる。
【0060】
基準大気圧センサ30は、2~5階用子機2A~2Eの作業者側大気圧センサ21及び2階~5階用基準局5B~5Eの基準大気圧センサ51とは別に構成されるとともに、1階の作業者A1が高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さに設置され、当該基準高さにおける大気圧を検出するセンサである。基準大気圧センサ30自体は、作業者側大気圧センサ21を構成している気圧センサと同じもので構成することができる。基準大気圧センサ30は、親機3に設けられているので、1階の作業者A1が作業を行っている時には、1階用子機2Aの作業者側大気圧センサ21から離れて配置されることになり、1階用子機2Aの作業者側大気圧センサ21とは異なる高さの大気圧を検出する。具体的には、親機3が高さの変化しない所に設置されるので、1階の作業者A1の作業中、常に同じ高さ、例えば床や地面、作業台の高さの大気圧を検出し続ける。
【0061】
親機側受信部31は、2階~5階用基準局5B~5Eと通信可能な通信モジュールを有しており、具体的には2階~5階用基準局5B~5Eの基準局送信部52と同規格の通信モジュールを有している。さらに、親機側受信部31は、1階~5階用子機2A~2Eとも通信可能な通信モジュールを有しており、具体的には1階~5階用子機2A~2Eの子機側送信部22と同規格の通信モジュールを有している。つまり、親機側受信部31は、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線との無線通信が可能な通信モジュールと、LPWAの近距離無線通信が可能な通信モジュールとを有するように構成することができる。
【0062】
ただし、
図4に示す第1例の場合、1階~5階用子機2A~2Eの子機側送信部22はインターネット回線やローカルエリアネットワーク回線との無線通信が可能な通信モジュールであるため、LPWAの近距離無線通信が可能な通信モジュールは不要であり、従って、親機側受信部31は、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線との無線通信が可能な通信モジュールのみを有する構成とすることができる。第1例では、親機側受信部31は、1階~5階用子機2A~2Eの子機側送信部22から送信された大気圧の検出値、即ち1階~5階用子機2A~2Eの作業者側大気圧センサ21で検出された大気圧の検出値を受信するとともに、1階~5階用子機2A~2Eのフック状態検出センサ20の検出結果を受信する。
【0063】
一方、
図5に示す第2例の場合、1階~5階用子機2A~2Eの子機側送信部22はLPWAの近距離無線通信が可能な通信モジュールであるため、親機側受信部31は、近距離無線通信が可能な通信モジュールも有する構成とする。第2例では、例えば3階~5階のように親機3から離れた所に設置されている子機2C~2Eから送信された検出値及び検出結果は、上述したマルチホッピングによって送信されて親機側受信部31で受信される。また、1階、2階のように親機3に近い所に設置されている子機2A、2Bから送信された検出値及び検出結果は、親機側受信部31で直接受信される。
【0064】
図3に示す親機側送信部32は、後述するが、親機側マイクロコンピュータ33から出力される制御信号を出力する部分である。親機側送信部32は、子機側送信部22と同様な通信モジュールで構成されていてもよいし、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線との無線通信が可能な通信モジュールで構成されていてもよい。
【0065】
親機側マイクロコンピュータ33は、後述する管理者端末4のスピーカ42や表示部40を遠隔制御する部分である。親機側マイクロコンピュータ33は、作業者がいる階を推定するための推定部33aと、推定された階で作業者が高所にいるか否かを判定する高所判定部33cを含む制御部33bとを備えている。推定部33a及び制御部33bは、所定のプログラムにしたがって親機側マイクロコンピュータ33を動作させることによって構成される部分であり、ハードウェアで構成されていてもよいし、ソフトウエアとハードウェアとの組み合わせで構成されていてもよい。
【0066】
推定部33aは、作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の検出値と、異なる階に設置された基準大気圧センサ51、30から出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者がいる階を推定する部分である。詳細は後述するが、「異なる階」とは上下に隣接した階のことであり、例えば1階と2階、2階と3階等である。1階の場合は、親機3の基準大気圧センサ30から出力された大気圧の検出値であるが、2階~5階の場合は、基準局5B~5Eの基準大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値である。
【0067】
高所判定部33cは、作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の検出値と、その作業者側大気圧センサ21が存在する階に設置されている基準大気圧センサ30、51から出力された大気圧の検出値との差に基づいて、作業者Aが基準高さよりも所定以上高い高所にいるか否かを判定する。例えば1階の作業者A1について判定する場合には、1階の作業者A1に装着されている作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の検出値と、1階に設置されている親機3の基準大気圧センサ30から出力された大気圧の検出値との差に基づいて判定する。また、2階の作業者A2について判定する場合には、2階の作業者A2に装着されている作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の検出値と、2階に設置されている2階用基準局5Bの基準大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値との差に基づいて判定する。
【0068】
以下、推定部33a及び制御部33bの動作について
図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。スタート後のステップS1では、2階~5階用基準局5B~5Eが基準大気圧を計測する。これは所定の短い時間間隔毎に行ってもよいし、連続的に計測してもよい。2階~5階の基準大気圧は、2階~5階用基準局2B~2Eの各基準大気圧センサ51で検出された大気圧の検出値である。ステップS2では、2階~5階用基準局2B~2Eが、各基準大気圧センサ51で検出された大気圧の検出値を親機3に送信し、親機側マイクロコンピュータ33に入力する。
【0069】
ステップS3では、1階~5階用子機2A~2Eが大気圧を計測する。これは所定の短い時間間隔毎に行ってもよいし、連続的に計測してもよい。ステップS4では、1階~5階用子機2A~2Eが、作業者側大気圧センサ21で検出された大気圧の検出値を親機3に送信し、親機側マイクロコンピュータ33に入力する。
【0070】
ステップS5では、親機3が1階の基準大気圧を計測する。これは所定の短い時間間隔毎に行ってもよいし、連続的に計測してもよい。1階の基準大気圧は、親機3の基準大気圧センサ30で検出された大気圧の検出値である。親機3の基準大気圧センサ30で検出された大気圧の検出値も親機側マイクロコンピュータ33に入力する。
【0071】
ステップS6では、推定部33aが、建築物105の情報に含まれている最低階をiとして置く処理と、j=i+1の演算を実行する。建築物105の情報は、管理者やユーザによって事前に入力されており、親機3の記憶部34に記憶されている。推定部33aは、最低階の情報を記憶部34から取得する。最低階とは、作業が行われている階のうちで最も低い階のことであり、
図4に示すように1階~5階で作業が行われていれば最低階は1階になるが、1階で作業が行われておらず、2階~5階で作業が行われていれば最低階は2階になる。以下、1階~5階で作業が行われている場合について説明する。従って、ステップS6でi=1、j=2となる。
【0072】
ステップS7では、計算値1と計算値2とを算出する。この前に、オフセット値について説明する。すなわち、高所作業安全管理システム1の運用前には、高所作業安全管理システム1の設定が行われる。この設定がペアリングであり、例えば作業者側大気圧センサ21の検出値と、基準大気圧センサ30の検出値を得て、
図10に示すようにオフセット値を算出する。この詳細については後述する。
【0073】
高所作業安全管理システム1の設定時には、まず、親機3を設置位置に設置し、1階用子機2Aを1階の作業者A1に装着し、1階用子機2Aを装着した作業者A1を親機3の設置位置の高さと同じ高さに立たせる。尚、作業者A1の身長による基準高さとの差をオフセット値で吸収することができるので、同じ高さでなくてもよい。
【0074】
そして、1階の作業者側大気圧センサ21と親機3の基準大気圧センサ30の検出値を親機側マイクロコンピュータ33に入力する。親機側マイクロコンピュータ33は、作業者側大気圧センサ21の検出値から基準大気圧センサ30の検出値を減算する。この減算処理によって得られた値がオフセット値である。つまり、作業者側大気圧センサ21と基準大気圧センサ30を同じ気圧センサで構成していても、バラつきが生じるのは避けられず、例えば同じ高さで同じタイミングで大気圧を検出しても検出値に差が出ることがある。また、作業者A1が装着している作業者側大気圧センサ21の高さは、作業者A1が親機3の設置位置の高さと同じ高さに立っていたとしても、基準大気圧センサ30よりも高い所に位置している場合がある。上記センサのバラつきによる推定部33aの推定誤り及び高所判定部33cの判定誤りが生じないようするするために、予めオフセット値を算出しておく。このようにして、キャリブレーションによる高さ方向の原点補正を行う。算出されたオフセット値は、記憶部34に記憶させておく。記憶部34は、例えば半導体メモリやSSD(Solid State Drive)等で構成されており、データの記録、読み出しが可能になっている。また、全ての作業者A1を対象として、作業者A1ごとにオフセット値を求め、識別可能に記憶しておく。
【0075】
同様に、2階~5階についてもオフセット値を求めておく。例えば2階のオフセット値を求める場合、親機側マイクロコンピュータ33は、2階の作業者A2に装着されている作業者側大気圧センサ21の検出値から2階用基準局5Bの基準大気圧センサ51による検出値を減算する。3階~5階のオフセット値も同様にして求めることができる。
【0076】
図9は、3つの1階用子機2A-1~2A-3の作業者側大気圧センサ21と、親機3の基準大気圧センサ30とのそれぞれのオフセット値の算出例を示している。
図9では、1階用子機2A-1、1階用子機2A-2及び1階用子機2A-3が単一の親機3に通信可能に接続される場合である。オフセット値を算出する場合、1階用子機2A-1、1階用子機2A-2、1階用子機2A-3及び親機3は、略同一高さに配置しておき、略同じタイミングで大気圧を検出して得られた検出値を用いる。1階用子機2A-1の作業者側大気圧センサ21の検出値が10601.234paであり、親機3の基準大気圧センサ30の検出値が10625.678paであったとした場合、第1オフセット値は、作業者側大気圧センサ21の検出値から親機基準大気圧センサ30の検出値を減算した値、即ち、-24.444paとなる。同様の算出手法によって1階用子機2A-2と親機3とのオフセット値である第2オフセット値、1階用子機2A-3と親機3とのオフセット値である第3オフセット値も算出できる。これにより、大気圧センサ21、30間のキャリブレーションを実行できる。2階~5階用基準局5B~5Eと、各階用子機2B~2Eとのオフセット値も同様にして算出できる。
【0077】
図10は、親機3と1階用子機2Aとをペアリングする場合のオフセット値の算出例を示している。
図10の場合、
図9の場合とは異なり、作業者A1に1階用子機2Aが装着されている。この例でオフセット値を算出する場合、作業者A1が親機3と同じ高さの床面や地面に立った状態で、1階用子機2A及び親機3が略同じタイミングで大気圧を検出して得られた検出値を用いる。例えば1階用子機2A及び親機3にそれぞれペアリングスイッチ(図示せず)を設けておき、1階用子機2A及び親機3のペアリングスイッチが押された時点での作業者側大気圧センサ21の検出値と、基準大気圧センサ30の検出値を記憶しておく。同じ環境でペアリングする必要があるため、事前に登録しておくことはできない。親機3の設置高さは、作業者がかがむことなく、ペアリング操作可能な高さとしておくのが好ましい。
【0078】
例えば、1階用子機2Aの作業者側大気圧センサ21の検出値が10607.234paであり、親機3の基準大気圧センサ30の検出値が10625.678paであったとした場合、オフセット値は、作業者側大気圧センサ21の検出値から基準大気圧センサ30の検出値を減算した値、即ち、-18.444paとなる。1階用子機2Aが2台以上ある場合には、同様にして第2オフセット値、第3オフセット値を算出することができる。これにより、親機3と1階用子機2Aのペアリングを行うことができる。2階~5階用基準局5B~5Eと、各階用子機2B~2Eとのオフセット値も同様にして算出できる。
【0079】
図8に示すフローチャートのステップS7では、推定部33aが計算値1及び計算値2を算出する。計算値1は、i階の大気圧の検出値とi階オフセット値とを加算し、それから許容誤差を減算することで求める。計算値2は、j階の大気圧の検出値とj階オフセット値とを加算し、それから許容誤差を減算することで求める。許容誤差とは、推定部33aによる推定誤りを抑制するために設定するものである。許容誤差を考慮する理由は、大気圧値が常に変動しているためである。許容誤差としては、例えば-5pa~-15paの範囲で設定することができ、この例では、-10paに設定している。許容誤差は設定しなくてもよい。
【0080】
その後、ステップS8に進む。ステップS8では、子機2A~2Eのうちの任意の子機で検出された大気圧の検出値(子機大気圧値)を読み込み、その子機大気圧値が計算値1以下、かつ、計算値2より大きいか否かを判定する。ステップS8でYESと判定された場合には、i階にいる子機で検出された子機大気圧であると判定できるので、子機がある階がi階であると推定できる。つまり、i階にいる作業者であると推定できる。
【0081】
ステップS8でNOと判定された場合にはステップS9に進み、i=i+1の演算と、j=i+1の演算とを実行する。ステップS10では、ステップS9で求めたiが最上階であるか否かを判定する。最上階であるか否かは、建築物105の情報に基づいて判定することができる。建築物105の情報として、最上階も含まれており、これは管理者やユーザによって事前に入力されて親機3の記憶部34に記憶されている。最上階とは、作業が行われている階のうちで最も高い階のことである。
【0082】
ステップS10でNOと判定されると、ステップS7に戻る。一方、ステップS10でYESと判定されると、ステップS11に進む。また、ステップS8でYESと判定された場合もステップS11に進む。ステップS1~S10は、推定部33aによって実行される階数推定処理である。階数推定処理では、作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の検出値と、i階の基準大気圧センサ30(または基準大気圧センサ51)から出力された大気圧の検出値と、j(=i+1)階の基準大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者がいる階を推定することができる。i階の基準大気圧センサ30(または基準大気圧センサ51)は、j階の基準大気圧センサ51よりも下の階に設置されるものであり、i階に設置されている基準大気圧センサ30(または基準大気圧センサ51)が本発明の第1の基準大気圧センサであり、j階に設置されている基準大気圧センサ51が本発明の第2の基準大気圧センサである。第1の基準大気圧センサを有する基準局が第1の基準局であり、第2の基準大気圧センサを有する基準局が第2の基準局である。第1の基準局には、第1の基準局送信部52が設けられ、また、第2の基準局には、第2の基準局送信部52が設けられている。また、i階にある子機が第1の子機であり、j階にある子機が第2の子機である。
【0083】
図3に示す高所判定部33cは、高所作業安全管理システム1の運用時に、記憶部34に記憶されたオフセット値を適用して、推定部33aによって推定された階の作業者A1~A5が高所にいるか否かを判定するように構成されており、オフセット値が複数記憶されている場合には、例えば第1オフセット値、第2オフセット値、…をそれぞれ適用して、作業者A1~A5が高所にいるか否かを判定する。
【0084】
以下、ステップS11、S12、S13の詳細について説明する。まず、高所判定部33aは、
図8に示すステップS11において、推定部33aによって推定された階にある子機2A~2Eの作業者側大気圧センサ21の検出値から、推定部33aによって推定された階に設置されている基準大気圧センサ30、51の検出値と、対応するオフセット値と、所定の高所判定用閾値とを減算して得られた値に基づいて作業者A1~A5が高所にいるか否かを判定する。
【0085】
次に、
図11に基づいて、高所作業安全管理システム1の運用時における高所判定部33cの判定処理について説明する。
図11では、1階用子機2A-1~2A-3が存在する場合を示している。親機3と1階用子機2A-1との第1オフセット値は-18.444paであり、親機3と1階用子機2A-2との第2オフセット値は-15.256paであり、親機3と1階用子機2A-3との第3オフセット値は-16.856paである。この場合の第1~第3オフセット値は、
図10に示すペアリングによって算出した値である。また、高所であるか否かを判定するための高所判定用閾値は、2m以上の高さでの作業を高所と設定した場合、-20.0paとなる。高所判定用閾値は、高所と判定する高さに応じて任意に設定することができる。また、高所作業安全管理システム1の運用時には、親機3は基準高さに設置されている。この親機3の基準大気圧センサ30の検出値は10611.234paであったとする。
【0086】
1階用子機2A-1を装着した作業者A1は基準高さに立っており、1階用子機2A-1の作業者側大気圧センサ21の検出値は10593.678paであったとする。この場合、高所判定部33cは次の演算を実行する。1階用子機2A-1の作業者側大気圧センサ21の検出値から親機3の基準大気圧センサ30の検出値と、第1オフセット値と、高所判定用閾値(-20.0pa)とを減算する。得られた値(計算値Z)は20.888paとなる。高所判定部33cは、Z>0なので、この作業者A1は高所と定義される所よりも低いところにいると判定する(ステップS12)。
【0087】
また、1階用子機2A-2を装着した作業者A1は作業台の上に立っており、1階用子機2A-2の作業者側大気圧センサ21の検出値は10566.945paであったとする。この場合、高所判定部33cは次の演算を実行する。1階用子機2A-2の作業者側大気圧センサ21の検出値から親機3の基準大気圧センサ30の検出値と、第2オフセット値と、高所判定用閾値とを減算する。得られた値(Z)は-9.033paとなる。高所判定部33cは、Z<0なので、この作業者Aは高所と定義される所にいると判定する。
【0088】
また、1階用子機2A-3を装着した作業者A1は昇降装置の上に立っており、1階用子機2A-3の作業者側大気圧センサ21の検出値は10480.678paであったとする。この場合、高所判定部33cは次の演算を実行する。1階用子機2A-3の作業者側大気圧センサ21の検出値から親機3の基準大気圧センサ30の検出値と、第3オフセット値と、高所判定用閾値とを減算した値(Z)が-87.7paとなる。高所判定部33cは、Z<0なので、この作業者A1は高所と定義される所にいると判定する。
【0089】
尚、上記演算の結果、仮にZ=0となった場合、誤差も含み、基本的にはあり得ないので、高所判定部33cは親機3の方が子機2よりも低い位置にいると判定する。
【0090】
2階~5階については、親機3を2階~5階基準局5B~5Eに置き換えることで、同様に判定することができる。
【0091】
図3に示すように、親機側マイクロコンピュータ33は、制御信号生成部33dを備えている。制御信号生成部33dは、高所判定部33cによる判定の結果、作業者A1~A5が高所にいると判定され、かつ、フック状態検出センサ20により、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態でないことが検出された場合には、そのことを周囲に報知するための報知信号(制御信号の一例)を生成する(ステップS13)。報知信号が生成されるということは、作業者A1~A5が高所作業にいるのに、フック205を落下防止用部材101にかけていないということであり、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態であるといえる。つまり、制御信号生成部33dは、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態である場合に限り、報知信号を生成する。
【0092】
一方、制御信号生成部33dは、高所判定部33cによる判定の結果、作業者A1~A5が高所にいないと判定された場合には、フック状態検出センサ20の検出結果にかかわらず、報知信号を生成しない。また、制御信号生成部33dは、フック状態検出センサ20により、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態であると検出された場合には、高所判定部33cによる判定結果にかかわらず、報知信号を生成しない。制御信号生成部33dで生成された報知信号は、親機側送信部32から管理者端末4へ送信される。ただし、報知信号が生成された後に、フック状態検出センサ20がON状態、あるいは安全作業高さまで作業者が移動したことを検出した場合は、制御信号生成部33dが安全となった旨の報知信号を生成することも可能である。
【0093】
(管理者端末4の構成)
管理者端末4は、管理者が携帯する情報端末で構成されている。管理者端末4としては、例えばスマートフォン、タブレット型端末、ノート型パーソナルコンピュータ等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、例えばデスクトップ型パーソナルコンピュータで構成されていてもよい。管理者は、例えば作業現場を管理する者、監督する監督者等であり、必ずしも作業現場にいる必要はなく、例えば管理事務所等にいてもよい。
【0094】
図3に示すように、管理者端末4は、表示部40と、操作部41と、スピーカ42と、管理者側受信部43と、管理者側マイクロコンピュータ(管理者側制御部)44と、電池45とを備えている。表示部40、操作部41及びスピーカ42は、管理者側マイクロコンピュータ44に接続されている。また、電池45は、子機2の電池24と同じもので構成することができる。
【0095】
図2に示すように、表示部40は、管理者端末4の筐体46に設けられており、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等で構成されている。操作部41は、例えばタッチ操作可能な感圧式タッチパネルや、ボタン、スイッチ等で構成されている。感圧式タッチパネルの場合、表示部40と重ねて設けることができる。スピーカ42は、各種音声を発することができるものである。
【0096】
管理者側受信部43は、親機側送信部32と通信可能な通信モジュールであり、具体的には親機側送信部32と同規格の通信モジュールで構成されている。管理者側受信部43は、親機側送信部32から送信された報知信号を受信する。
【0097】
管理者側マイクロコンピュータ44は、操作部41の操作及び管理者側受信部43で受信された報知信号の入力を受け付けるとともに、表示部40及びスピーカ42を制御する部分である。具体的には、管理者側マイクロコンピュータ44は、管理者側受信部43で受信された報知信号の入力を受け付けると、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態であることを表示部40に報知させる。表示部40による報知例としては、表示部40に例えば「高所作業中にフックをかけていない」といった文章による表示形態や、不安全状態であることを示す記号やマークを表示する形態等を挙げることができる。また、管理者側マイクロコンピュータ44は、管理者側受信部43で受信された報知信号の入力を受け付けると、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態であることをスピーカ42に報知させる。スピーカ42による報知例としては、スピーカ42に例えば「高所作業中にフックをかけていない」といった音声による形態や、各種警報音(アラーム音)を発生させる形態等を挙げることができる。上記表示部40及びスピーカ42は、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部の例である。表示部40及びスピーカ42の一方のみ設けられていてもよい。また、報知部は、例えば所定の振動を発生する振動発生器で構成されていてもよい。
【0098】
以上の構成により、親機側マイクロコンピュータ33が、作業者A1~A5が高所にいると判定し、かつ、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態でないことが検出された場合には、親機側送信部32が報知信号を管理者端末4に送信する。これにより、管理者端末4の表示部40及びスピーカ42を制御して、作業者A1~A5が不安全状態であることを報知させることができる。
【0099】
報知部としての表示部40及びスピーカ42は、管理者端末4以外にも子機2A~2Eに設けられていてもよい。図示しないが、子機2A~2Eにスピーカや振動発生器を設けておき、親機側マイクロコンピュータ33が、作業者A1~A5が高所にいると判定し、かつ、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態でないことが検出された場合には、子機2A~2Eに報知信号を送信し、これにより、スピーカや振動発生器によって作業者A1~A5が不安全状態であることを報知することができる。
【0100】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る高所作業安全管理システム1によれば、安全帯200を装着した作業者A1~A5がその階で作業しているかを推定することができる。推定した階で作業している作業者A1~A5が高所にいると、作業者側大気圧センサ21から出力された大気圧の値が、基準大気圧センサ30、51から出力された大気圧の値に比べて低くなり、この大気圧の差に基づいて、高所判定部33cは作業者A1~A5が高所にいると判定できる。また、安全帯200のフック205が落下防止用部材101にかけられた状態であるか否かが、フック状態検出センサ20により検出される。作業者A1~A5が高所にいながら、安全帯200のフック205を落下防止用部材101にかけていない場合は、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態であると言える。この場合に、作業者A1~A5による高所作業が不安全状態であることを表示部40やスピーカ42によって報知することができ、例えば監督者や管理者等にそのことを知らせることができる。これにより、不安全状態を改めるように作業者A1~A5に注意できる。また、不安全状態であることを作業者A1~A5自身に知らせることもでき、この場合も不安全状態を改めさせて安全に高所作業を行うことができる。
【0101】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明に係る高所作業安全管理システムは、例えば各種高所作業を行う作業現場で使用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 高所作業安全管理システム
2A~2E 1階~5階用子機
3 親機
4 管理者端末
5B~5E 2階~5階用基準局
20 フック状態検出センサ
21 作業者側大気圧センサ
22 子機側送信部
30 基準大気圧センサ
31 親機側受信部
32 親機側送信部
33a 推定部
33b 制御部
40 表示部(報知部)
42 スピーカ(報知部)
43 管理者側受信部
100 作業床
101 落下防止用部材
200 安全帯
205 フック