(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139629
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ピストンポンプおよびこれを備える水流揚鉱システム
(51)【国際特許分類】
F04B 15/02 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
F04B15/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040106
(22)【出願日】2021-03-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省資源エネルギー庁 令和2年度 海洋鉱物資源開発に向けた資源量評価・生産技術等調査、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】林元 和智
【テーマコード(参考)】
3H075
【Fターム(参考)】
3H075AA12
3H075AA13
3H075BB03
3H075BB24
3H075BB27
3H075CC08
3H075CC15
3H075CC16
3H075CC25
3H075DA07
(57)【要約】
【課題】高圧圧送時であっても、揺動管を揺動させる力を小さくして、揺動管を左右のメガネ板の吸込吐出口との連通位置に確実に切り替えることができるピストンポンプおよびこれを備える水流揚鉱システムを提供する。
【解決手段】この逆流防止機構付のピストンポンプ1は、メガネ板8に設けられた左右一対の吸込吐出口1L、1Rが、相互の間隔が吸込吐出口1L、1Rの開口幅以上に設定され、ウェアプレート12には、ウェアプレート12とメガネ板8との摺接部に、一対の吸込吐出口1L、1Rの開口幅以上の広さをもつシール部14L、14Rが自身開口部13の両側に設けられている。そして、ウェアプレート12は、揺動管2と一対のポンプシリンダ4L、4Rとの連結状態の切り替え時に、ウェアプレート12にかかるスラスト荷重を受ける流体軸受80で支承されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送対象物を輸送する輸送管が自身前壁側に接続されるホッパと、
前記ホッパの背壁側に設けられて左右一対の吸込吐出口を有するとともに該一対の吸込吐出口相互の間隔が該吸込吐出口の開口幅以上に設定されたメガネ板と、
前記ホッパ内に揺動可能に収容されて前記輸送管を前記一対の吸込吐出口に交互に連通させるように自身先端の開口部を前記一対の吸込吐出口のいずれかに臨む位置に交互に切換え移動可能な揺動管と、
前記揺動管を前記一対の吸込吐出口に交互に連通する位置に揺動させるアクチュエータと、
前記一対の吸込吐出口の背部にそれぞれ接続されて前記揺動管との非連通時には前記ホッパ内の輸送対象物を吸引するとともに前記揺動管との連通時には前記吸引した輸送対象物を吐出する左右一対のポンプシリンダと、
前記揺動管の先端部外周面に当該先端部外周面に対して揺動軸線に沿った方向に相対的にスライド可能に篏合されて且つ前記メガネ板の対向面とは摺接するように装着されるとともに、前記揺動管の先端の開口部の左右両側であって前記メガネ板の対向面と自身とが摺接する部分に前記メガネ板の一対の吸込吐出口の開口幅以上の広さに設けられたシール部を有するウェアプレートと、
前記揺動管と前記一対のポンプシリンダとの連結状態の切り替え時に、前記ウェアプレートにかかるスラスト荷重を受ける流体軸受と、
を備えることを特徴とするピストンポンプ。
【請求項2】
海底熱水鉱床などに存在する海洋資源を水流中に注入して移送する水流揚鉱システムであって、
往路水流管および復路水流管を有するとともに前記往路水流管から前記復路水流管に向かう水流を形成するように構成される循環管路と、
前記往路水流管に高圧水を注入可能に設置される高圧ポンプと、
前記掘削物を前記循環管路に注入可能に設置されるピストンポンプと、
前記掘削物を前記復路水流管から回収可能に設置される回収ホッパと、を備え、
前記ピストンポンプとして、請求項1に記載のピストンポンプが装備されている、
ことを特徴とする水流揚鉱システム。
【請求項3】
前記循環管路から前記高圧ポンプで供給される高圧水を分岐して前記流体軸受に高圧水を供給する供給管路を有する請求項2に記載の水流揚鉱システム。
【請求項4】
前記供給管路は、前記ピストンポンプで前記掘削物を前記循環管路に注入する位置よりも上流側の位置で前記循環管路から分岐されている請求項3に記載の水流揚鉱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底熱水鉱床などに存在する海洋資源を海底から揚鉱するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業機器を製造する上で必要不可欠な金属であり存在量が少ない有用金属の価格が高騰している。有用金属は産業上必要不可欠なものである。しかし、可採量が少ないだけでなく、産出国が限られているため地政学的リスクが存在している。そこで、有用金属含有鉱物の中でも、海底熱水鉱床などに存在する海洋資源が注目されている。
海底熱水鉱床などから海洋資源を揚鉱する方法として、揚鉱ポンプを用いたポンプリフト方式が試みられている。これまで、この種の鉱床において、ドラムカッタやカッタヘッド等の掘削ヘッドを備えた採鉱機により海中で鉱石を破砕し、その破砕した鉱石の礫を海中でスラリとし、そのスラリを揚鉱ポンプに向けて移送する採鉱装置が提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
一方、建築、土木工事における流動性の乏しい低スランプのコンクリートの圧送や土圧シールド工法における礫や土砂の圧送技術として、揺動管方式のピストンポンプが採用されている。
揺動管方式のピストンポンプでは、吐出と吸込みの切り替えに揺動管を用いる構造上、吐出と吸込みの切り替え時に、一方側の吐出吸入口から他方側の吐出吸入口に揺動管の連通口の位置を切り替える途中で、吐出側と吸込み側とが連通する瞬間が発生する。
このとき、輸送対象物の一部が、高圧な吐出側のポンプシリンダから低圧な吸込側のポンプシリンダに瞬間的に逆流する。このような逆流が生じると、容積効率が低下して振動や衝撃が発生するおそれがある。
【0004】
これに対し、逆流防止機構を有する揺動管方式のピストンポンプが提案されている。例えば特許文献1に記載のピストンポンプは、上述した、メガネ板の左右の吸込吐出口の間隔を、揺動管の連通口の開口幅以上としている。
そして、同文献記載の技術では、連通口の両側に位置するシール部を有するウェアプレートを設け、両側のシール部を、一対の吸込吐出口の開口幅以上の広さに形成するとともに、ウェアプレートの背面には、揺動管の切り替え移動時に、対向するメガネ板に対して、ウェアプレートを摺動自在に挟持するガイド板を設けている。
また、例えば特許文献2に記載の逆流防止機構付のピストンポンプは、メガネ板およびガイド板に対するウェアプレートの摺動面に、潤滑剤を供給する潤滑溝を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-213348号公報
【特許文献2】特開2003-343429号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】海底熱水鉱床開発計画 第一期最終評価報告書(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、海底熱水鉱床の鉱石を移送する揚鉱ポンプとしては、多段遠心ポンプが採用されている。多段遠心ポンプは複数のインペラと複数のボリュート室を有する複雑な接液部形状となっており、接液部品はスーパー2相ステンレスや高クロム鋳鉄等が採用される。
【0008】
しかしながら、陸上での遠心ポンプを用いたスラリ移送では、接液部品が摩耗した場合、その場所での接液部品の交換も可能であるが、海底熱水鉱床などの海洋資源が存在する深海からの多段遠心ポンプを用いたスラリ移送では、接液部品を交換する場合、深海から船上に多段遠心ポンプを引き上げて部品の交換作業をする必要がある。
このため、商業化レベルでの稼働においては、複雑な接液部形状を持つ多段遠心ポンプの接液部品が早期に摩耗した場合、接液部品の交換に多くの時間と費用が必要なことが問題と考えられている。
【0009】
また、海底熱水鉱床の鉱石する技術に逆流防止機構を有する揺動管方式のピストンポンプの採用も考えられる。しかし、特許文献1および2のいずれに記載される技術においても、揺動管の連通位置の切り替え移動時には、メガネ板およびウェアプレート相互が面接触により摺動し、また、ガイド板およびウェアプレート相互も面接触により摺動する。
そのため、揺動管の連通位置の切り替え移動時における摺動抵抗が大きく、揺動管を左右のメガネ板の吸込吐出口に連結するときに大きな駆動力を要するため、各構成部材および駆動装置の大型化を招くという問題がある。
【0010】
また、この種の逆流防止機構を有するピストンポンプは、輸送対象物として、建築、土木工事における流動性の乏しい低スランプのコンクリートや土砂、あるいは、し尿処理場や下水処理場等で発生する低含水率の脱水汚泥等の圧送に用いられる。
そのため、高圧圧送になるほど、揺動管の連通位置の切り替え時に、輸送対象物の高い圧力によってウェアプレートがより強く押されることになる。これにより、メガネ板とウェアプレートとの間に隙間ができて、輸送対象物の漏れ量が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、高圧圧送時であっても、揺動管を揺動させる力を小さくして、揺動管を左右のメガネ板の吸込吐出口との連通位置に確実に切り替え可能なピストンポンプおよびこれを備える水流揚鉱システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るピストンポンプは、輸送対象物を輸送する輸送管が自身前壁側に接続されるホッパと、前記ホッパの背壁側に設けられて左右一対の吸込吐出口を有するとともに該一対の吸込吐出口相互の間隔が該吸込吐出口の開口幅以上に設定されたメガネ板と、前記ホッパ内に揺動可能に収容されて前記輸送管を前記一対の吸込吐出口に交互に連通させるように自身先端の開口部を前記一対の吸込吐出口のいずれかに臨む位置に交互に切換え移動可能な揺動管と、前記揺動管を前記一対の吸込吐出口に交互に連通する位置に揺動させるアクチュエータと、前記一対の吸込吐出口の背部にそれぞれ接続されて前記揺動管との非連通時には前記ホッパ内の輸送対象物を吸引するとともに前記揺動管との連通時には前記吸引した輸送対象物を吐出する左右一対のポンプシリンダと、前記揺動管の先端部外周面に当該先端部外周面に対して揺動軸線に沿った方向に相対的にスライド可能に篏合されて且つ前記メガネ板の対向面とは摺接するように装着されるとともに、前記揺動管の先端の開口部の左右両側であって前記メガネ板の対向面と自身とが摺接する部分に前記メガネ板の一対の吸込吐出口の開口幅以上の広さに設けられたシール部を有するウェアプレートと、前記揺動管と前記一対のポンプシリンダとの連結状態の切り替え時に、前記ウェアプレートにかかるスラスト荷重を受ける流体軸受と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る水流揚鉱システムは、海底熱水鉱床などに存在する海洋資源を水流中に注入して移送する水流揚鉱システムであって、往路水流管および復路水流管を有するとともに前記往路水流管から前記復路水流管に向かう水流を形成するように構成される循環管路と、前記往路水流管に高圧水を注入可能に設置される高圧ポンプと、前記海洋資源を前記循環管路に注入可能に設置されるピストンポンプと、前記海洋資源を前記復路水流管から回収可能に設置される回収ホッパと、を備え、前記ピストンポンプとして、本発明の一態様に係るピストンポンプが装備されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係るピストンポンプでは、ウェアプレートの支持部に対して、揺動管と左右の圧送シリンダとの連結状態の切り替え時に、ウェアプレートにかかるスラスト荷重を流体軸受で受けるように構成している。
これにより、本発明の一態様に係るピストンポンプによれば、ウェアプレートにポンプシリンダ側から揺動管の方向にかかるスラスト荷重を流体軸受の水圧供給面にかかる水圧による揺動管側からポンプシリンダ方向への推力で相殺して軽減できる。
また、ウェアプレートにかかるスラスト荷重を受ける流体軸受は、ウェアプレートとの受圧面が水膜によって非接触摺動となる。そのため、摩擦係数を大幅に軽減できるので、メガネ板の左右の吸込吐出口に揺動管を連結するときの駆動力を低減できる。
【0015】
そして、本発明の一態様に係る水流揚鉱システムによれば、例えば船上に設置した高圧ポンプから圧送される高圧水で船上と海底近傍との間に循環水流を作り、海底またはその近傍に配置した本発明の一態様に係るピストンポンプで鉱石等の海洋資源を注入して揚鉱することができるため、極めてシンプルな構成で深海から船上までの揚鉱が可能となる。
ここで、本発明の一態様に係る水流揚鉱システムにおいて、前記循環管路から前記高圧ポンプで供給される高圧水を分岐して前記流体軸受に高圧水を供給する供給管路を有することは好ましい。また、前記供給管路は、前記ピストンポンプで前記掘削物を前記循環管路に注入する位置よりも上流側の位置で前記循環管路から分岐されていることは好ましい。
【0016】
このような構成であれば、流体軸受に供給する高圧水として、例えば船上に設置した高圧ポンプで供給される高圧水を循環管路から分岐して流体軸受に供給できるので、供給する高圧水を船上に設置した高圧ポンプで供給できる。そのため、流体軸受に高圧水を供給するためのポンプを海底に設けることが不要である。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、高圧圧送時であっても、揺動管を揺動させる力を小さくして、揺動管を左右のメガネ板の吸込吐出口との連通位置に確実に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一態様に係る水流揚鉱システムの一実施形態を示す模式的全体構成図である。
【
図2】
図1に示すピストンポンプと循環管路との接続状態の一実施形態を示す縦断面図である。
【
図3】
図2に示すピストンポンプと循環管路との接続状態をポンプシリンダ側から見た模式的説明図である。
【
図4】
図2に示すピストンポンプにおける逆流防止機構の作動状態の説明図(a)、(b)、(c)であり、同図は、
図2のX-X断面から見た動作のイメージを示している。
【
図5】
図2に示すピストンポンプにおけるポンプシリンダ側から見た逆流防止機構の動作のイメージを示す作動状態の説明図(a)~(k)である。同図において、流路中の網掛け部にて連通状態の遷移するイメージを示している。
【
図6】複数の電磁弁でのON/OFF制御の作動状態を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0020】
まず、第一実施形態の水流揚鉱システムおよびこれを用いた水流揚鉱方法について説明する。
本実施形態は、
図1に示すように、海底SBの海底熱水鉱床Tを、採鉱機(不図示)を用いて掘削し、海洋資源である掘削した鉱石を、本発明に係る水流揚鉱システム300によって洋上SLの洋上基地Gまで揚鉱する水流揚鉱方法である。
水流揚鉱システム300は、同図に示すように、洋上基地Gから海底SBに垂下される揚鉱機器200と、循環管路310と、を備える。揚鉱機器200には、逆流防止機構付きのピストンポンプ1が装備されている。循環管路310は、海底SBの近傍まで延設された往路水流管311と、海底SBの近傍から洋上基地Gまで延設された復路水流管312と、を有する。
【0021】
洋上基地Gは例えば船舶であり、洋上基地Gには高圧ポンプ320が設置されている。本実施形態の水流揚鉱システム300は、この高圧ポンプ320で往路水流管311に高圧水を注入して、往路水流管311により洋上基地Gから海底SBに向かう水流を、復路水流管312で再び洋上基地Gまで戻す循環流が形成されるようになっている。
さらに、本実施形態の水流揚鉱システム300は、復路水流管312に対して、逆流防止機構付きのピストンポンプ1で掘削した鉱石を注入して、循環管路310の水流に乗せて鉱石を洋上基地Gまで移送するように構成されている。
【0022】
より詳しくは、同図に示すように、本実施形態の水流揚鉱システム300は、一台のピストンポンプ1が装備された揚鉱機器200と、往路水流管311および復路水流管312を有する循環管路310と、洋上基地Gに設置された高圧ポンプ320と、洋上基地Gに設置された回収ホッパ330と、を備える。回収ホッパ330は、海洋資源(この例では、採鉱機器を用いて海底で掘削された鉱石)を復路水流管312から回収可能に設置される。
【0023】
洋上基地Gには、クレーン370が設置され、クレーン370からアンビリカブルケーブル360を介して揚鉱機器200に対して、駆動に必要な電力や圧油の供給および信号の授受が可能になっている。
また、洋上基地Gに設置された回収ホッパ330には不図示の分級機が付設され、分級機は鉱石成分と海水とを分けて海水のみをタンク340に導出する。そして、高圧ポンプ320は、タンク340に貯留された海水を、往路水流管311に高圧水として注入可能に設置されている。
【0024】
循環管路310は、往路水流管311から復路水流管312に向かう循環水流を形成するように、洋上基地Gから海底SBの海底熱水鉱床Tの近傍に設置された揚鉱機器200まで配管される。ピストンポンプ1は、循環管路310に対して海洋資源を注入可能なように揚鉱機器200に設置される。
なお、往路水流管311および復路水流管312の敷設範囲は適宜設定できる。本実施形態では、揚鉱機器200近傍の、U字状の折り返し部分よりも上流側が往路水流管311であり、U字状の折り返し部分よりも下流側が復路水流管312である。そして、ピストンポンプ1は、復路水流管312に吐出配管6を介して海洋資源を注入可能に揚鉱機器200の筐体210内に設置されている。
【0025】
本実施形態の揚鉱機器200は、筐体210の上部には、不図示の採鉱機器で掘削した鉱石が投入される投入ホッパ211が設けられ、投入ホッパ211下部の吐出口には切り出し装置212が付設されている。
筐体210の内部上方には、スクリューコンベヤ225が配置され、ベルトフィーダ等の切り出し装置212で切り出された鉱石がスクリューコンベヤ225に導入される。スクリューコンベヤ225の前端部(取出口)は、ピストンポンプ1のホッパ9の後部を貫通してホッパ9内に連通しており、スクリューコンベヤ225の駆動により、ホッパ9に向けて鉱石を所定量ずつ送出可能になっている。
【0026】
本実施形態のピストンポンプ1は、
図2に拡大図示するように、上部に開口するホッパ9を備え、ホッパ9内部には、略S字状に屈曲形成された揺動管2が、揺動可能に収容されている。ホッパ9内の揺動管2は、その基端部2bがホッパ9の前壁1fの下部の位置に回動可能に支持されている。
揺動管2の基端部2bには、
図1に示す復路水流管312への吐出配管6に接続されるカップリング5が設けられている。カップリング5には、吐出配管6の一端が接続され、揺動管2の基端部2bが吐出配管6に連通するように配置される。
【0027】
揺動管2の中間部2mの上部には、軸線が水平な揺動管軸10の一端が固定されている。揺動管軸10の一端は、ホッパ9の背壁1bに回動可能に支持される。揺動管軸10の他端は、ホッパ9の背壁1bの外側に延出され、切換レバー11が固着されている。揺動管軸10の回転中心CL1と、揺動管2の基端部2bの回転中心CL2とは、水平な一の揺動軸線CL上にある。
ホッパ9の背壁1bの下部には、一対の吸込吐出口1L、1Rを左右に有するメガネ板8が設けられている。メガネ板8は、揺動管2の先端部2tが摺接する部分に配置されている。メガネ板8は、ホッパ9の背面側から交換可能に装着される。
揺動管2の先端部2tは、メガネ板8に圧接された状態で摺動する。そのため、揺動管2の先端部2tには、交換可能なウェアプレート(wear plate)12が取付けられている。本実施形態では、メガネ板8およびウェアプレート12には、耐摩耗材が使用されている。
【0028】
本実施形態のピストンポンプ1は、ウェアプレート12に、メガネ板8と摺接するウェアリング20が装着されている。本実施形態のウェアプレート12には、揺動管2の先端部2tに、ウェアプレート12の中央の開口部13と同軸となる位置に、円筒状のウェアリング(wear ring)20が装着される。
ホッパ9の背部には、メガネ板8の一対の吸込吐出口1L、1Rに対向する位置に、それぞれ一端が開口した一対のポンプシリンダ4L、4Rが、互いの軸線を揺動軸線CLと平行にして取付けられている。
【0029】
一対のポンプシリンダ4L、4Rは、各ポンプシリンダ4L、4R内に搬送ピストン7をそれぞれ有する。各搬送ピストン7は、
図1に示す一対の駆動シリンダ15L、15Rによって、油圧駆動で交互に往復動される。
これにより、各ポンプシリンダ4L、4Rは、対応する吸込吐出口1L、1Rが揺動管2との非連通時にはホッパ9内の海洋資源を吸引し、揺動管2との連通時にはその吸引した海洋資源を復路水流管312に向けて吐出するように駆動される。
【0030】
図3に示すように、上記切換レバー11とホッパ9との間には、一対の切換シリンダ3L、3Rがアクチュエータとして取付けられている。一対の切換シリンダ3L、3Rは、切換シリンダ3L、3Rの一方が伸長するとき、他方が縮小するようになっている。
一対の切換シリンダ3L、3Rの伸縮に対応して、揺動管軸10が揺動軸線CLまわりに所定タイミングで回動し、揺動管2が所定の回動範囲にて左右に揺動される。これにより、
図2に示す揺動管2の先端部2tが、左右の吸込吐出口1L、1Rのいずれかに臨む位置に交互に移動するようになっている。
【0031】
ここで、本実施形態のピストンポンプ1は逆流防止機構を備える。
本実施形態の逆流防止機構は、
図5(b)に示すように、メガネ板8の左右の吸込吐出口1L、1Rの間隔が、ウェアプレート12と一体で回動するウェアリング20の開口部20mの幅以上とされている。
ウェアプレート12は、
図5に示すように、ウェアプレート12の開口部13(
図4参照)の左右両端にシール部14L、14Rを有する。左右のシール部14L、14Rは、メガネ板8との対向面と自身とが摺接しつつ回動されるように設けられている。
本実施形態のシール部14L、14Rは、揺動管2の回動方向において、メガネ板8に形成された一対の吸込吐出口1L、1Rの開口幅以上の広さにそれぞれ設けられる。なお、本実施形態において、一対の吸込吐出口1L、1Rの開口形状は円形であり、相互の開口径は同一である。
【0032】
ウェアプレート12の内周は、
図2に示すように、ホッパ9側に固定された軌道盤60Aに装着された受動体61Aおよび転動体62Aで支承され、さらに、セットプレート40側に固定された軌道盤60Bに装着された受動体61Bおよび転動体62Bで支承されている。ウェアプレート12の外周は、ホッパ9側に固定された流体軸受80と、セットプレート40側に固定された軌道盤60Cに装着された受動体61Cと転動体62Cとで前後から支承されている。
【0033】
本実施形態では、各転動体62A,62B、62Cには円筒ころが用いられており、各軌道盤60A,60B、60Cは、各転動体62A,62B、62Cを自転自在に保持する保持器とされている。また、各転動体62A,62B、62Cに対して、ウェアプレート12とは反対の側には、各転動体62A,62B、62Cに対応する凹の円筒面が形成された複数の受動体61A,61B,61Cが介装され、各受動体61A,61B,61Cによって、各転動体62A,62B、62Cの揺動軸線CLに沿った方向での位置および姿勢を保持している。
【0034】
ここで、本実施形態の流体軸受80は、略弓型で円弧状に形成された軸受枠80hと、複数の第一摺動ピース80sと、複数の第二摺動ピース80pと、を有する。軸受枠80hの両端は、ホッパ9の下部側内面にねじ等によって固定されるようになっている。
軸受枠80hには、周方向に沿って、第一摺動ピース80s若しくは第二摺動ピース80pを収容する複数の収容穴が貫通形成されている。各第一摺動ピース80sおよび各第二摺動ピース80pは、周方向に沿って略扇状に形成されている。
そして、軸受枠80hの複数の収容穴に対して収容された、複数の第一摺動ピース80sと、複数の第二摺動ピース80pとの組が周方向に沿って配置されることで、ウェアプレート12の外周を支持する流体軸受全体が構成されている。
【0035】
各第二摺動ピース80pは、周方向に沿った長さが、第一摺動ピース80sよりも長く形成されている。そして、各第二摺動ピース80pには、外周面から中央部に連通するように高圧水導入通路が形成され、さらに、各第二摺動ピース80pが装着されたときにウェアプレート12の外周面と対向する側の面には、高圧水吐出口が高圧水導入通路に貫通形成されて高圧水供給面になっている。
さらに、本実施形態の水流揚鉱システム300では、循環管路310から分岐する供給管路350が設けられている。供給管路350は、吐出配管6の接続部よりも循環管路310の上流側に設けられている。供給管路350により、
図1に示す高圧ポンプ320から循環管路310に供給される高圧水を分岐して流体軸受80に高圧水を供給可能になっている。
【0036】
図5に、ポンプシリンダ4L、4R側から見た逆流防止機構の揺動動作の作動イメージを示す。
同図の(a)から(f)に示す揺動行程にかけては、同図でのウェアプレート12の左サイドに対して、ポンプシリンダ4L、4R側から揺動管2の方向に向けて、スラスト荷重が増大するように変化しつつ負荷がかかる。
一方、同図の(g)から(k)に示す揺動行程にかけては、同図でのウェアプレート12の右サイドに対して、ポンプシリンダ4L、4R側から揺動管2の方向に向けて、スラスト荷重が減少するように変化しつつ負荷がかかる。
【0037】
本実施形態の水流揚鉱システム300では、このように遷移する各揺動行程(a)~(k)において、各揺動行程での負荷がかかる位置と負荷の大きさが変化しつつウェアプレート12に作用するスラスト荷重に対して可及的に対応すべく、ウェアプレート12の外周側を支持する流体軸受80の各第二摺動ピース80pに対し、適正なタイミングで必要な水圧をかける与圧遷移機構90が設けられている。
【0038】
与圧遷移機構90は、
図2に示すように、供給管路350に介装されており、供給管路350に供給された高圧水は、与圧遷移機構90を介して調圧されるとともに、複数の分岐管路351、352から流体軸受80の各部に配置された各第二摺動ピース80pに対して与圧が遷移されつつ供給されるようになっている。
より詳しくは、
図3に示すように、与圧遷移機構90は、複数の分岐管路351~353を有するとともに、これら分岐管路351~353に介装された、複数の電磁弁91~電磁弁95と、複数の絞り弁96~98と、複数の逆止弁99a,99bと、を有する。本実施形態の例では、供給管路350は、その下流側で、第一段の分岐管路351、352、353の3つに分岐されている。
【0039】
同図中央の第一段の分岐管路351には、上流側から電磁弁91および絞り弁96が介装されるとともに、絞り弁96の下流側が更に2つに分岐された第二段の分岐管路351a,351bとされている。第二段の分岐管路351a,351bには、それぞれに逆止弁99a,99bが介装されている。逆止弁99a,99bの向きは、上流側から下流側に向かう流れを許容し、その逆方向には阻止するように設けられている。
同図左側の第一段の分岐管路352には、上流側から電磁弁92および電磁弁93、並びに、絞り弁97が介装されるとともに、絞り弁97の下流側が更に3つに分岐された第二段の分岐管路352a,352b,352cとされている。分岐管路351aは、分岐管路352bの位置で分岐管路352に合流している。
同図右側の第一段の分岐管路353には、上流側から電磁弁94および電磁弁95、並びに、絞り弁98が介装されるとともに、絞り弁98の下流側が更に3つに分岐された第二段の分岐管路353a,353b,353cとされている。分岐管路351bは、分岐管路353bの位置で分岐管路353に合流している。
【0040】
本実施形態の与圧遷移機構90では、供給管路350の末端が6つの分岐管路352a,352b,352c、および分岐管路352a,352b,352cに分岐されてホッパ9の下面9dに設けられた複数の分岐管路接続部にそれぞれ接続されている。複数の分岐管路接続部は、ホッパ9の下面9d側の肉厚部を貫通する貫通流路を有し、各貫通流路が、上述した各第二摺動ピース80pの外周面の高圧水導入通路に連通する位置に開口している。
【0041】
上述した電磁弁91~電磁弁95のON/OFF制御の作動状態を
図6のタイミングチャートに示す。同図に示すように、電磁弁91は、ウェアプレート12の作動全域にかけて低圧水を注水するように水圧を制御する。
ここで、揺動管2と左右のポンプシリンダ4L、4Rとの連結状態の切り替え時間は1秒~1.5秒程度と短時間である。そのため、本実施形態では、流体軸受80に対する高圧水の注水については、左右それぞれに2個の電磁弁92,93および電磁弁94,95を配置しており、これらの協働動作によって注水するタイミングを制御する構成としている。
【0042】
つまり、
図6に示すように、本実施形態では、電磁弁92および電磁弁93の開状態が重なりあう部分で流体軸受80の左サイドの各第二摺動ピース80pに高圧水が供給される。また、電磁弁94および電磁弁95の開状態が重なりあう部分で流体軸受80の右サイドの各第二摺動ピース80pに高圧水が供給される。
さらに、本実施形態では、適圧な潤滑流体を流体軸受80の各第一摺動ピース80sおよび各第二摺動ピース80pのすべり面に供給するために、供給管路350から中央の分岐管路351に電磁弁91および絞り弁96を介装して、電磁弁91と絞り弁96とで流体軸受80に対し、
図5に示す揺動行程(a)~(k)の全域において低圧水を供給している。
【0043】
また、分岐管路352において、電磁弁92と電磁弁93および絞り弁97とによって、ウェアプレート12の左サイドへの高圧水を制御するように配置して、
図5に示す揺動行程(d)~(e)で最大となる高圧水を流体軸受80の各第二摺動ピース80pのすべり面に供給するように構成している。
また、分岐管路353において、電磁弁94と電磁弁95および絞り弁98とによって、ウェアプレート12右サイドへの高圧水を制御するように配置して、
図5に示す揺動行程(g)~(h)で最大となる高圧水を流体軸受80の各第二摺動ピース80pのすべり面に供給するように構成している。
【0044】
流体軸受80の各第一摺動ピース80sおよび各第二摺動ピース80pに対して供給する低圧水および高圧水の圧力の実施例としては、循環管路310の水圧7MPaに対して、中央の分岐管路351による低圧水の水圧は、電磁弁91および絞り弁96によって2MPaに調圧して流体軸受80に供給している。また、分岐管路352および分岐管路353での高圧水の水圧は、絞り弁97と絞り弁98とでそれぞれ6MPaに調圧して流体軸受80に供給している。
【0045】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態の水流揚鉱システム300によれば、船上に設置した高圧ポンプ320から圧送される高圧水で船上と海底近傍間に循環水流を作り、海底近傍に配置した逆流防止機構を有するピストンポンプ1で鉱石を注入して揚鉱する水流を利用した揚鉱システムであり、極めてシンプルな構成で深海から船上までの揚鉱が可能となる。
特に、本実施形態のピストンポンプ1によれば、ウェアプレート12の支持部が、揺動管2の揺動範囲の全体に亘ってウェアプレート12を揺動軸線の前後から複数の転動体62A,62B、62Cを介して常に支承する構造を基本構造とし、さらに、逆流防止機能を有する揺動管式のピストンポンプ1の揺動管2と左右のポンプシリンダ4L、4Rとの連結状態の切り替え時に、ウェアプレート12にかかるスラスト荷重を、流体軸受80で受けるように構成している。
【0046】
これにより、ウェアプレート12に対してポンプシリンダ4L、4R側から揺動管2の方向にかかるスラスト荷重を、流体軸受80の水圧供給面にかかる水圧による揺動管2側からのポンプシリンダ4L、4R方向への推力で相殺して軽減できる。
また、ウェアプレート12にかかるスラスト荷重を受ける流体軸受80は、ウェアプレート12との受圧面が、水膜により非接触摺動となるため、摩擦係数を大幅に軽減できる。そのため、揺動管2を左右のメガネ板8の吸込吐出口に連結するときの駆動力を低減できる。
【0047】
さらに、本実施形態の水流揚鉱システム300では、循環管路310から高圧ポンプ320で供給される高圧水を分岐して流体軸受80に高圧水を供給する供給管路350を有するので、本実施形態の水流揚鉱システム300によれば、流体軸受80に供給する高圧水を船上に設置した高圧ポンプ320で供給される高圧水から分岐して供給できる。つまり、流体軸受80に供給する高圧水を船上に設置した高圧ポンプ320で供給できる。そのため、高圧水を循環管路310から分岐して供給するため、流体軸受80に高圧水を供給するためのポンプを海底に設けることが不要である。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の逆流防止機構付のピストンポンプ1によれば、高圧圧送時であっても、揺動管2を揺動させる力を小さくして、揺動管2を左右のメガネ板8の吸込吐出口1L、1Rとの連通位置に確実に切り替えることができる。そして、本実施形態の水流揚鉱システム300によれば、シンプルな構成で深海から船上までの揚鉱が可能な水流揚鉱システム300を提供できる。
なお、本発明に係る水流揚鉱システム300は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 ピストンポンプ
1L、1R 吸込吐出口
1b 背壁
1f 前壁
2 揺動管
2b 基端部
2m 中間部
2t 先端部
3L、3R 切換シリンダ
4L、4R ポンプシリンダ
5 カップリング
6 吐出配管
7 搬送ピストン
8 メガネ板
9 ホッパ
10 揺動管軸
11 切換レバー
12 ウェアプレート
13 開口部
14L、14R シール部
15L、15R 駆動シリンダ
20 ウェアリング
20m 開口部
40 セットプレート
60A、60B、60C 軌道盤
61A、61B、61C 受動体
62A、62B、62C 転動体
80 流体軸受
90 与圧遷移機構
91~95 電磁弁
96~98 絞り弁
99a,99b 逆止弁
200 揚鉱機器
210 筐体
211 投入ホッパ
212 切り出し装置
225 スクリューコンベヤ
300 水流揚鉱システム
310 循環管路
311 往路水流管
312 復路水流管
320 高圧ポンプ
330 回収ホッパ
340 タンク
350 供給管路
351~353 分岐管路
352a,352b,352c 第二段の分岐管路
353a,353b,353c 第二段の分岐管路
360 アンビリカブルケーブル
370 クレーン
CL 揺動軸線
G 洋上基地
SB 海底
SL 洋上
T 海底熱水鉱床