(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139643
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220915BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20220915BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M4/86 H
H01M4/96 H
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040123
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB03
5H018DD06
5H018EE05
5H018EE13
5H018EE18
5H018HH05
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS12
5H032CC11
5H032CC16
5H032EE02
5H032EE05
5H032EE13
5H032EE15
5H032HH01
(57)【要約】
【課題】充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】空気極2は、基材6と、基材6に保持された触媒層8と、を備え、触媒層8は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有する触媒と、触媒層8に導電性を付与する炭素材料からなる導電材と、触媒層8に撥水性を付与するフッ素樹脂からなる撥水剤とを含んでおり、触媒層8の表面を走査型電子顕微鏡で拡大した際の視野内でランダムに選択した複数箇所の解析点について測定した前記炭素材料に含まれる炭素の原子数%をCとし、前記フッ素樹脂に含まれるフッ素の原子数%をFとし、前記Cに対する前記Fの比をF/Cとし、前記複数箇所分の前記F/Cを基に求めた標準偏差をσとした場合に、σが、0.03≦σ≦0.05の範囲にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に保持された触媒層と、を備えている空気二次電池用の空気極であって、
前記触媒層は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有する触媒と、前記触媒層に導電性を付与する炭素材料からなる導電材と、前記触媒層に撥水性を付与するフッ素樹脂からなる撥水剤とを含んでおり、
前記触媒層の表面を走査型電子顕微鏡で拡大した際の視野内でランダムに選択した複数箇所の解析点について測定した前記炭素材料に含まれる炭素の原子数%をCとし、前記フッ素樹脂に含まれるフッ素の原子数%をFとし、前記Cに対する前記Fの比をF/Cとし、前記複数箇所分の前記F/Cを基に求めた標準偏差をσとした場合に、前記σが、0.03≦σ≦0.05の範囲にある、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
前記触媒層は、前記フッ素樹脂を10重量%以上30重量%以下、前記炭素材料を20重量%以上含んでいる、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項3】
前記触媒は、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物である、請求項1又は2に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項4】
容器と、
前記容器内に貯留された電解液と、
前記電解液内に配設された負極と、
一方の面が、前記容器の外部に露出して大気に開放されており、前記一方の面の反対側に位置する他方の面が、前記容器の内側に位置付けられ前記電解液と接している正極とを備え、
前記正極は、請求項1~3の何れかに記載の空気二次電池用の空気極である、空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(アルカリ電解液)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する。)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する。)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(I)
放電(酸素還元反応):O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記した空気二次電池においては、高出力化が未だ十分には図られていない。このため、空気二次電池の実用化を図るためには、更なる高出力化が求められている。
【0010】
上記したような高出力化を妨げている主な要因は、充電時及び放電時の過電圧が大きいことが挙げられる。
【0011】
ここで、空気二次電池においては、充電反応は固体(触媒)及び液体(電解液)から形成される二相界面で進行し、放電反応は固体(触媒)、液体(電解液)及び気体(酸素)が同時に存在する三相界面でのみ進行する。従って、空気極が電解液に接していない乾燥状態や電解液に完全に浸漬している状態では、充放電の一方の反応又は両方の反応における過電圧が極端に高くなることがある。そこで、充放電反応を効率良く進行させて過電圧を低減させ、空気二次電池の高出力化を図るためには、空気極の撥水性を適正化する必要があると考えられる。しかしながら、空気二次電池において空気極の撥水性を適正化することに関しては、未だ十分に検討がなされていないのが現状である。
【0012】
なお、電極の撥水性の適正化については、例えば、燃料電池の分野で放電性能(酸素還元反応)を向上させる観点から多くの研究がなされている。しかしながら、空気二次電池では、更に充電反応(酸素発生反応)を考慮する必要があり、燃料電池の分野とは求められる撥水性や作用効果が全く異なっており、燃料電池の分野の知見をそのまま適用することはできない。
【0013】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、基材と、前記基材に保持された触媒層と、を備えている空気二次電池用の空気極であって、前記触媒層は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有する触媒と、前記触媒層に導電性を付与する炭素材料からなる導電材と、前記触媒層に撥水性を付与するフッ素樹脂からなる撥水剤とを含んでおり、前記触媒層の表面を走査型電子顕微鏡で拡大した際の視野内でランダムに選択した複数箇所の解析点について測定した前記炭素材料に含まれる炭素の原子数%をCとし、前記フッ素樹脂に含まれるフッ素の原子数%をFとし、前記Cに対する前記Fの比をF/Cとし、前記複数箇所分の前記F/Cを基に求めた標準偏差をσとした場合に、前記σが、0.03≦σ≦0.05の範囲にある、空気二次電池用の空気極が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、基材と、前記基材に保持された触媒層と、を備えている空気二次電池用の空気極であって、前記触媒層は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有する触媒と、前記触媒層に導電性を付与する炭素材料からなる導電材と、前記触媒層に撥水性を付与するフッ素樹脂からなる撥水剤とを含んでおり、前記触媒層の表面を走査型電子顕微鏡で拡大した際の視野内でランダムに選択した複数箇所の解析点について測定した前記炭素材料に含まれる炭素の原子数%をCとし、前記フッ素樹脂に含まれるフッ素の原子数%をFとし、前記Cに対する前記Fの比をF/Cとし、前記複数箇所分の前記F/Cを基に求めた標準偏差をσとした場合に、前記σが、0.03≦σ≦0.05の範囲にある。F/Cの標準偏差のσが0.03≦σ≦0.05の範囲にある空気極は、空気極内においてフッ素樹脂の適度な偏りが得られる。空気極内にフッ素樹脂の適度な偏りがあると充電反応に必要な二相界面、及び放電反応に必要な三相界面を十分に確保することができ、充放電反応を効率良く進行させることができる。その結果、過電圧を低減させ、空気二次電池の高出力化を図ることができる。このため、本発明によれば、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極、及び、この空気極を含む、高出力化が図られた空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る空気二次電池を概略的に示した構成図である。
【
図2】酸素発生側のサイクリックボルタモグラムを示したグラフである。
【
図3】酸素還元側のサイクリックボルタモグラムを示したグラフである。
【
図4】分極特性とF/C比の標準偏差σとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態に係る空気二次電池用の空気極2、及びこの空気極2を含む空気二次電池(以下、電池とも表記する。)4について図面を参照して説明する。
【0018】
空気極2は、
図1における拡大図に示すように、基材6と、この基材6に保持された触媒層8とを備えている。
【0019】
基材6は、ガス拡散を阻害しない材料で、触媒層8を保持できるものであれば特に限定されるものではない。この基材6としては、例えば、カーボンペーパー、炭素繊維織物、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンクロス等の炭素系多孔質基材や、発泡金属、金属メッシュ、エキスパンドメタル等の金属系多孔質基材が好適なものとして挙げられる。また、これらの基材にガス拡散を阻害しない範囲でフッ素樹脂からなる撥水剤を含浸させて、電解液の耐漏液性を付与しても良い。
【0020】
触媒層8は、触媒と、触媒層8に導電性を付与する炭素材料からなる導電材と、触媒層8に撥水性を付与するフッ素樹脂からなる撥水剤とを含んでいる。
【0021】
触媒としては、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を用いることが好ましい。このビスマスルテニウム複合酸化物は、組成式がBi2Ru2O7-z(ただし、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)で表されるパイロクロア型の結晶構造を有している。
【0022】
次に、触媒としてのパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物の製造方法に関し、具体的に以下に説明する。
【0023】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを同じ濃度となるように蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加える。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持し、酸素バブリングを行いながら撹拌する。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で10時間以上、20時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。そして、この乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒で粉砕した後、空気雰囲気下で350℃以上、650℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、24時間以下保持することにより焼成し、焼成物を得る。得られた焼成物を60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗した後乾燥させる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が得られる。
【0024】
次に、調製されたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0025】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、準備する硝酸水溶液に関し、その濃度は5mol/L以下とし、その量はビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量とし、その温度は20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0026】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、6時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水又はイオン交換水に投入され洗浄される。
【0027】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物については、100℃以上、120℃以下の環境下で1時間以上、2時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0028】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0029】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
【0030】
次に、導電材としての炭素材料には、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等を用いることが可能である。特に、耐酸化性という観点からは黒鉛を採用することが好ましい。
【0031】
次に、撥水剤としてのフッ素樹脂は、充放電反応に対して安定性を有していれば特に限定されない。好ましいフッ素樹脂としては、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカンポリマー)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PVF(ポリビニルフルオライド)等が挙げられる。なお、フッ素樹脂は、空気極2に適切な撥水性を付与する働きをするだけではなく、触媒粒子や導電材といった空気極の構成材料同士を結着させる働きもする。
【0032】
空気極2は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、触媒粒子(ビスマスルテニウム複合酸化物粒子)の集合体である触媒粉末、導電材としての炭素材料の粒子の集合体である炭素材料粉末、撥水剤としてのフッ素樹脂、及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、炭素材料粉末、フッ素樹脂及び水を混錬して触媒層合剤スラリーを調製する。
【0033】
得られた触媒層合剤スラリーは、例えば、所定寸法のカーボンペーパーの片面にバーコーターを用いて塗布する。これにより、触媒層スラリーとカーボンペーパーとの複合体が得られる。その後、この複合体を50℃以上80℃以下に加熱して10時間以上24時間以下保持して乾燥処理を行う。乾燥処理後、複合体を、ホットプレスにより加熱しながら圧縮し、焼成処理する。これにより、カーボンペーパーと触媒層とが接合され一体化した空気極2が得られる。
【0034】
なお、触媒層スラリーを塗布する方法としては、バーコーターに限定されるものではなく、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スクリーン印刷法等を適宜選択することができる。
【0035】
ここで、本発明者らは、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極を開発すべく鋭意研究を行なった。その研究過程において、ビスマスルテニウム複合酸化物からなる触媒と、炭素材料からなる導電材と、フッ素樹脂からなる撥水剤とを混錬して得た合剤スラリーをカーボンペーパー上に塗布し、その後のホットプレスにおける焼成条件を変えて熱圧着させて空気極を作製し、得られた空気極の表面の組成分析及び当該空気極を組み込んだ電池のサイクリックボルタメトリー(以下、CVとも表記する。)評価を実施し、フッ素樹脂の偏りと分極特性の関係を調査した。従来、炭素の濃度とフッ素の濃度との比であるF/Cの標準偏差の値が小さいほどCVの分極特性は良好になると考えられていた。しかし、上記の調査の結果、炭素の濃度とフッ素の濃度との比であるF/Cの標準偏差が一定の数値より低下すると逆にCVの分極特性が悪化することを見出した。これは、フッ素樹脂を過度に均一に付与すると充電反応に必要な二相界面、または放電反応に必要な三相界面が減少することになるためと考えられる。このような結果から、良好な充放電特性を得るためには適度なフッ素樹脂の偏りが必要であるとの知見を得た。
【0036】
この知見を基に本実施形態の空気極では、触媒層の表面の炭素の濃度とフッ素の濃度との比であるF/Cの値を基に標準偏差σを求め、この標準偏差σが0.03≦σ≦0.05であることを特徴としている。詳しくは、本実施形態の空気極において、触媒層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大した際の視野内でランダムに選択した複数箇所の解析点について、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた分析により上記した炭素材料に含まれる炭素の原子数%、及び、上記したフッ素樹脂に含まれるフッ素の原子数%を測定する。このとき得られる炭素の原子数%の値をCとし、得られたフッ素の原子数%をFとする。そして、Cに対するFの比をF/Cとし、上記した複数箇所分のF/Cの値を基に標準偏差σを求める。本実施形態の空気極は、この標準偏差σが0.03≦σ≦0.05の範囲内にある。
【0037】
本実施形態の空気極においては、上記した標準偏差σが0.03未満となると触媒層内でフッ素樹脂が過度に均一に存在する状態となり、充電反応に必要な二相界面、または放電反応に必要な三相界面を減少させてしまい、良好な充放電反応の進行が阻害される。一方、上記した標準偏差σが0.03以上となると触媒層内でフッ素樹脂が適度に偏って存在する状態となり、充電反応に必要な二相界面、及び放電反応に必要な三相界面が増加し、良好な充放電反応の進行が促進される。ところで、上記した標準偏差σが0.05を超えるほどに触媒層内のフッ素樹脂を偏らせて存在させることは、現状の製造方法においては難しい。よって、上記した標準偏差σの上限値は0.05とする。
【0038】
ここで、触媒層に添加されるフッ素樹脂は、添加量が少なすぎると、そもそも良好な撥水性を触媒層に付与することができない。一方、フッ素樹脂の添加量が多すぎるとσの値が極端に低下し、更に導電性の低下やガス拡散の阻害を引き起こすため、フッ素樹脂は触媒層全体の10重量%以上、30重量%以下とすることが好ましい。また、触媒層に添加される炭素材料は、添加量が少なすぎると、良好な導電性を触媒層に付与することができない。このため、炭素材料は、良好な導電性を確保するために触媒層全体の20重量%以上添加することが好ましい。しかし、炭素材料の添加量が多くなり過ぎると、触媒の量が相対的に減り良好な充放電反応を進行させることが難しくなる。よって、炭素材料の添加量は、触媒層全体の50重量%以下とすることが好ましい。
【0039】
次に、本実施形態の空気極を組み込んだ空気二次電池の一例として、電気化学測定に用いることができる3電極式の電池4について以下に説明する。
【0040】
電池4は、
図1に示すように、作用極用容器10と、この作用極用容器10に液絡部12を介して連結されている参照極用容器14と、作用極用容器10に配設された空気極2及び対極30と、参照極用容器14に配設された参照極16とを備えている。
【0041】
作用極用容器10は、アクリル製の箱状をなしており、側壁18の一部に側壁開口部20が設けられている。この側壁開口部20は、空気極2と相似形の平面視形状をなしており、空気極2より僅かに小さい。この側壁開口部20には、側壁18の外側から空気極2が覆い被さるように配設されている。つまり、側壁開口部20は空気極2で閉塞されている。空気極2の周縁部は、作用極用容器10の外側からアクリル製の枠部材22により固定されている。枠部材22は、中央に側壁開口部20と同形の開口部24を有しており、作用極用容器10の側壁18にねじ26で固定されている。空気極2は、基材6の側が作用極用容器10の外側に位置付けられ、触媒層8の側が作用極用容器10の内側に位置付けられている。つまり、空気極2は、触媒層8が作用極用容器10の内部に露出しており、基材6が大気に開放されている。なお、空気極2と側壁18とが重なり合っている部分には図示しないゴムパッキンが配設されており、空気極2の触媒層8が側壁開口部20の周囲の側壁18と密着しており、液密性が確保される態様となっている。
【0042】
作用極用容器10の内部には、アルカリ電解液28が貯留されている。上記のように空気極2の触媒層8は作用極用容器10の内部に露出しているので、空気極2の触媒層8は、アルカリ電解液28と接触している。
【0043】
また、作用極用容器10には、空気極2に対向する位置に空気極2よりも十分に大きい面積を有するニッケル板製の対極30が配設されている。この対極30はアルカリ電解液28に完全に浸漬された状態にある。
【0044】
なお、空気極2には、空気極用リード32が、対極30には、対極用リード34がそれぞれ電気的に接続されている。
【0045】
参照極用容器14は、アクリル製の箱状の容器であり、上部の開口36に蓋38が嵌め込まれている。参照極用容器14の内部にはアルカリ電解液28が貯留されている。上記した蓋38の所定位置に参照極16が配設されている。参照極16は、Hg/HgO電極であり、ほぼ半分がアルカリ電解液28に浸漬されている。また、参照極用容器14は、液間電位差の影響を除くために、液絡部12を介して作用極用容器10と連結されている。なお、参照極16には、参照極用リード40が電気的に接続されている。
【0046】
なお、上記したアルカリ電解液28としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0047】
電池4においては、空気極用リード32及び対極用リード34を介して充電することにより、空気極2で酸素が発生し、この酸素は、空気極2の内部を通って大気に開放されている基材6の部分から大気中に放出される。一方、放電時には、大気中から基材6の部分を介して取り込まれた酸素が還元されて放電反応が起き、空気極用リード32及び対極用リード34を介して放電電流を出力することができる。
【0048】
ここで、本実施形態の電池4は、上記した3電極式の電池に限定されるものではなく、電極が正極及び負極の2つである他の空気二次電池であってもよい。このような空気二次電池としては、例えば、容器と、この容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備えており、この電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含んでおり、この正極が本実施形態に係る空気極である、空気二次電池が挙げられる。また、上記した負極として、水素吸蔵合金を含む負極を採用した空気水素二次電池を形成することも可能である。
【0049】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極触媒の合成
1)共沈工程
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを所定量準備し、これらBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oが同じ濃度となるように75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。そして、この混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を加えた。この際の浴温度は75℃とし、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成した。このペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で12時間保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物(前駆体)を得た。
【0050】
2)焼成工程
得られた乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒で粉砕した後、空気雰囲気下で600℃に加熱し、1時間保持する焼成処理を施し、焼成物を得た。得られた焼成物を70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で乾燥させた。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を得た。
【0051】
得られたビスマスルテニウム複合酸化物を、乳鉢に入れ乳棒を用いて粉砕することにより所定粒子径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を得た。このビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0052】
3)酸処理工程
濃度を2mol/Lに調整した硝酸水溶液と、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末とをスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌した。このとき、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gに対して、硝酸水溶液が20mLの割合となるように硝酸水溶液の量を調整した。
【0053】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、70℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃に加熱することにより乾燥処理を行った。
【0054】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2Ru2O7)の粉末を得た。
【0055】
(2)空気極の製造
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を50質量部、炭素材料としての高純度天然黒鉛の粉末(SECカーボン株式会社製SNO-1T、平均粒子径1~2μm)を30質量部、フッ素樹脂としてのFEPディスパージョン(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製パーフルオロエチレンプロペンコポリマー120-JRB、平均粒子径0.2μm)を固形分比換算で20質量部、エタノールを10質量部、及びイオン交換水を70質量部準備し、これらを自転公転ミキサーの撹拌容器に投入した。そして、自転公転ミキサーを駆動することにより、混合・撹拌して固形分比50%の触媒層合剤スラリーを得た。
【0056】
次に、上記のようにして得られた触媒層合剤スラリーを基材としてのカーボンペーパー(SGLカーボン社製GDL29BA、目付:36g/m2、厚み:173μm)に、線径50μmのバーコーターを用いて塗布することで触媒層スラリーとカーボンペーパーとの複合体を形成した。そして、この複合体を60℃で12時間保持して乾燥させた後、ホットプレスにより加熱しながら圧縮し、焼成処理を施した。このとき、プレス圧15kgf/cm2の面圧で加圧しながら150℃、10分間の条件で焼成し、カーボンペーパーと触媒層が接合され一体化された空気極2を得た。得られた空気極2は、電極面積が縦40mm、横40mm、厚みが0.15mm、触媒量が2.7mg/cm2であった。なお、空気極2は、2枚作製し、一方は分析用とし、他方は電池組み立て用とした。
【0057】
(3)電池の組み立て
アクリル製の箱状をなしており、側壁18の一部に側壁開口部20が設けられている作用極用容器10及び電池組み立て用の空気極2を準備した。側壁開口部20は、縦35mm、横35mmの四角形状をなしている。そして、この側壁開口部20に空気極2を覆い被せるように密着させた。このとき、空気極2は、触媒層8の側が作用極用容器10の内部に向くように、基材6の側が作用極用容器10の外側を向くように配設されており、側壁開口部20を閉塞している。そして、空気極2の周縁部を、作用極用容器10の外側からアクリル製の枠部材22により固定した。枠部材22は、中央に側壁開口部20と同形の開口部24を有しており、作用極用容器10の側壁18にねじ26で固定した。なお、作用極用容器10の側壁18と空気極2とが重なり合っている部分には、図示しないゴムパッキンが配設されており、空気極2の触媒層8が側壁開口部20の周囲の側壁18と密着しており、液密性が確保されている。
【0058】
更に、作用極用容器10の内部において、空気極2と対向する位置に縦100mm、横100mmの四角形状をなしているニッケル板製の対極30を配設した。
【0059】
その後、アルカリ電解液28を作用極用容器10内に所定量注入した。アルカリ電解液28としては、5mol/LのKOH水溶液を用いた。対極30はアルカリ電解液28に完全に浸漬された状態にある。また、空気極2の触媒層8は作用極用容器10の内部に露出しているので、空気極2の触媒層8は、アルカリ電解液28と接触している。一方、空気極2の基材6の側は大気側に露出している。
【0060】
なお、空気極2には、空気極用リード32を、対極30には、対極用リード34をそれぞれ電気的に接続した。
【0061】
次に、アクリル製の箱状の参照極用容器14を準備した。参照極用容器14は、上部に開口36が設けてあり、この開口36より参照極用容器14の内部にアルカリ電解液28を所定量注入した。アルカリ電解液28としては、5mol/LのKOH水溶液を用いた。上記した開口36は蓋38により閉塞した。この蓋38の所定位置には参照極16が配設されている。この参照極16は、Hg/HgO電極であり、ほぼ半分がアルカリ電解液28に浸漬された状態となっている。また、参照極用容器14は、液間電位差の影響を除くために、液絡部12を介して作用極用容器10と連結した。なお、参照極16には、参照極用リード40を電気的に接続した。
以上のようにして
図1に示す電池4を製造した。
【0062】
(実施例2)
ホットプレスにおける焼成温度を200℃としたことを除いて、実施例1と同様に空気極及び電池を製造した。
【0063】
(実施例3)
ホットプレスにおける焼成条件を200℃、1分間に変更したことを除いて、実施例1と同様に空気極及び電池を製造した。
【0064】
(比較例1)
ホットプレスにおける焼成温度を250℃としたことを除いて、実施例1と同様に空気極及び電池を製造した。
【0065】
(比較例2)
ホットプレスにおける焼成条件を300℃、1分間としたことを除いて、実施例1と同様に空気極及び電池を製造した。
【0066】
(比較例3)
ホットプレスにおける焼成時間を1分間としたことを除いて、実施例1と同様に空気極及び電池を製造した。
【0067】
(比較例4)
ホットプレスにおける焼成条件を250℃、1分間としたことを除いて、実施例1と同様に空気極及び電池を製造した。
【0068】
2.空気極及び空気二次電池の評価
(1)空気極のSEM/EDS分析
分析用の空気極について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するとともにエネルギー分散型X線分光法(EDS)により元素分析を行う、いわゆるSEM/EDS分析を行った。なお、SEM/EDS分析の分析装置としては、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(JSM-6510)及びエネルギー分散形X線分析装置(JED-2300)を用いた。
【0069】
具体的な分析の手順としては、まず、実施例1~3、比較例1~4の分析用の空気極から縦1cm、横1cmの四角形状の試料を切り出した。そして、この試料をカーボンテープ上に固定し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、加速電圧15keVにて1000倍まで拡大して表面形態を観察した。続いて、拡大倍率1000倍での視野内でランダムに選択した20箇所の解析点を分析対象とした。その際に生じる特性X線を分光することで、各解析点における定量分析を実施した。なお、各解析点に対して電子線を照射した際に、実効的に解析される範囲は、実験条件より、解析点を中心に直径3μm程度の範囲と推定される。定量分析により得られた全原子の存在量を100%とした際のフッ素及び炭素の割合を原子数換算し、フッ素の原子数%及び炭素の原子数%を求めた。そして、フッ素の原子数%をFとし、炭素の原子数%をCとした場合に、F/Cで表される比を、各解析点1~20について求めた。その結果を表1に示した。
【0070】
次いで、解析点1~20のF/Cの値から標準偏差σを求めた。その結果を表1及び表2に示した。
【0071】
【0072】
(2)電気化学測定
実施例1~3の空気二次電池を用いてサイクリックボルタメトリーにより電気化学測定を行った。酸素還元反応の評価は掃引電位が-0.35~0.1V、掃引速度が5mV/秒に設定し、酸素発生反応の評価は掃引電位が0.1~0.65V、掃引速度が5mV/秒に設定した。印加した電位を横軸に、応答した電流密度を縦軸としたサイクリックボルタモグラムにおいて、10mA/cm2の電流値に対応する正極電位を酸素発生電位(EOER)、-10mA/cm2の電流値に対応する正極電位を酸素還元電位(EORR)とし、EOERとEORRの差分から分極特性(ΔE)を算出した。この分極特性は数値が小さいほど、効率良く充放電反応が進行していることを意味する。
【0073】
また、比較例1~4の空気二次電池についてもサイクリックボルタメトリーにより電気化学測定を行った。ただし、比較例1~4の空気二次電池については、酸素還元反応の評価における掃引電位を-0.5~0.1Vに変更したことを除き、実施例1と同様に電気化学測定を行った。
【0074】
【0075】
(3)結果と考察
表1にEDSによる定量分析結果から算出した各解析点のF/C比と標準偏差σをまとめた。ここで、F/C比の標準偏差σはFの偏在度合いを示しており、実施例1~3ではσの値が0.03より高く、一方で比較例1~4ではσの値が0.03より小さいことが判る。
【0076】
図2及び
図3には酸素発生側及び酸素還元側のサイクリックボルタモグラムをそれぞれ示した。
図2において、空気極電位を貴な方向に印加した際に応答電流が見られるが、これは酸素発生に伴う反応電流であり、より低い電位で電流値が立ち上がるほど、効率良く酸化反応が進行していることを示す。一方、
図3において、空気極電位を卑な方向に印加した際に応答電流が見られるが、これは酸素還元に伴う反応電流である。電流値は負の数値を示しているが、これは還元反応のためである。こちらはより高い電位で電流値が立ち上がるほど、効率良く還元反応が進行していることを示している。
【0077】
表2には、酸素発生電位(E
OER)、酸素還元電位(E
ORR)、分極特性(ΔE)、F/C比の標準偏差σをそれぞれまとめた。また、F/C比の標準偏差σとΔEの関係を
図4に示した。良好な分極特性を示した実施例1~3はσ値が0.03より高く、一方で高いΔEを示した比較例1~4ではσ値が0.03より低いことが判る。このことから良好な分極特性を得るためには適度なフッ素樹脂の偏りが必要であり、フッ素を過度に均一に付与すると充電反応に必要な二相界面、または放電反応に必要な三相界面が減少してしまうと考えられる。
【0078】
一方でフッ素の偏在の度合いが高すぎると部分的に撥水性が不足し、基材側に電解液が染み込むことによって細孔が塞がれてガス拡散性が低下し、放電性能が低下する。このため、σ値は0.03以上、0.05以下が適切であると考えられる。また、フッ素樹脂の添加が多すぎるとσ値が極端に低下するのに加えて、導電性の低下やガス拡散の阻害を引き起こすため、フッ素樹脂は触媒層全体の10~30重量%とすることが適切であると考えられる。また、触媒層の導電性を確保するため、炭素材料は触媒層全体の20重量%以上とすることが適切であると考えられる。
【0079】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、基材と、前記基材に保持された触媒層と、を備えている空気二次電池用の空気極であって、前記触媒層は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有する触媒と、前記触媒層に導電性を付与する炭素材料からなる導電材と、前記触媒層に撥水性を付与するフッ素樹脂からなる撥水剤とを含んでおり、前記触媒層の表面を走査型電子顕微鏡で拡大した際の視野内でランダムに選択した複数箇所の解析点について測定した前記炭素材料に含まれる炭素の原子数%をCとし、前記フッ素樹脂に含まれるフッ素の原子数%をFとし、前記Cに対する前記Fの比をF/Cとし、前記複数箇所分の前記F/Cを基に求めた標準偏差をσとした場合に、前記σが、0.03≦σ≦0.05の範囲にある、空気二次電池用の空気極である。
【0080】
この第1の態様によれば、空気極内においてフッ素樹脂の適度な偏りが得られる。空気極内にフッ素樹脂の適度な偏りがあると充電反応に必要な二相界面、及び放電反応に必要な三相界面を十分に確保することができ、充放電反応を効率良く進行させることができる。
【0081】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記触媒層が、前記フッ素樹脂を10重量%以上30重量%以下、前記炭素材料を20重量%以上含んでいる、空気二次電池用の空気極に関する。
【0082】
この第2の態様によれば、空気極の導電性の低下やガス拡散が阻害されることを抑制することができる。
【0083】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1の態様又は第2の態様において、前記触媒が、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物である、空気二次電池用の空気極に関する。
【0084】
この第3の態様によれば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が酸素発生及び酸素還元の二元機能を有しているので、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与し、空気二次電池の高出力化に貢献することができる。
【0085】
本発明の第4の態様は、容器と、前記容器内に貯留された電解液と、前記電解液内に配設された負極と、一方の面が、前記容器の外部に露出して大気に開放されており、前記一方の面の反対側に位置する他方の面が、前記容器の内側に位置付けられ前記電解液と接している正極とを備え、前記正極が、本発明の第1の態様~第3の態様の何れかの空気二次電池用の空気極である、空気二次電池に関する。
【0086】
この第4の態様によれば、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極を含む、高出力化が図られた空気二次電池を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
2 空気極
4 電池(空気二次電池)
6 基材
8 触媒層
10 作用極用容器
12 液絡部
14 参照極用容器
16 参照極
28 アルカリ電解液
30 対極