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特開2022-13965クロロプレン系ゴム組成物及びその加硫成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013965
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】クロロプレン系ゴム組成物及びその加硫成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 11/00 20060101AFI20220112BHJP
   C08K 5/47 20060101ALI20220112BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20220112BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C08L11/00
C08K5/47
C08K5/14
F16J15/10 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018211379
(22)【出願日】2018-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敦典
(72)【発明者】
【氏名】砂田 貴史
【テーマコード(参考)】
3J040
4J002
【Fターム(参考)】
3J040EA15
3J040FA06
3J040FA20
4J002AC091
4J002DA036
4J002DE070
4J002DE100
4J002EF030
4J002EH090
4J002EK038
4J002EV327
4J002FD016
4J002FD157
4J002FD158
4J002GJ02
4J002GN00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】得られる加硫成型体の圧縮永久歪を維持しつつ加硫速度を速めたクロロプレンゴム組成物及びこれを加硫して得た加硫成型体を提供する。
【解決手段】クロロプレン系ゴム100質量部と、下式の化合物0.5~5.0質量部と、有機過酸化物0.05~4.0質量部を有するクロロプレンゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン系ゴム100質量部と、化学式1で表される硫黄系化合物0.5~5.0質量部と、有機過酸化物0.05~4.0質量部を有するクロロプレンゴム組成物。
【化1】
(化学式1中、R1は水素、水酸基、炭素数1~8のアルキル基又は金属元素のいずれか、R2及びR3は水素又は炭素数1~8のアルキル基のいずれかを表す。)
【請求項2】
硫黄系化合物が4-メチルチアゾリジン-2-チオン、3-メチルチアゾリジン-2-チオン、4-イソプロピル-1,3-チアゾリジン-2-チオンから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項3】
有機過酸化物がジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド及び4,4-ビス[(t-ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチルから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項4】
クロロプレン系ゴムが、2-クロロ-1,3-ブタジエンの単独重合体、又は、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種の単量体と2-クロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体である請求項1~請求項3いずれか一項記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4いずれか一項に記載したクロロプレンゴム組成物の加硫成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン系ゴムと特定の硫黄系化合物及び有機過酸化物を有するクロロプレンゴム組成物、及びこのクロロプレンゴム組成物の加硫成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴム組成物は、機械特性、難燃性などに優れているため工業用ゴム製品の材料として広く用いられており、様々な改良がなされている。例えば、特許文献1には加硫速度を向上させたクロロプレンゴムの技術が開示されている。特許文献2~4には耐熱性を向上させたクロロプレンゴムの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-181451号公報
【特許文献2】特開2009-275124号公報
【特許文献3】特開2010-106227号公報
【特許文献4】特開2005-060546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、得られる加硫成型体の圧縮永久歪を維持しつつその加硫速度を速めたクロロプレンゴム組成物及びこれを加硫して得た加硫成型体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、クロロプレン系ゴム100質量部と、化学式1で表される硫黄系化合物0.5~5.0質量部と、有機過酸化物0.05~4.0質量部を有するクロロプレンゴム組成物である。
【化1】
(化学式1中、R1は水素、水酸基、炭素数1~8のアルキル基又は金属元素のいずれか、R2及びR3は水素又は炭素数1~8のアルキル基のいずれかを表す)
硫黄系化合物は、4-メチルチアゾリジン-2-チオン、3-メチルチアゾリジン-2-チオン、4-イソプロピル-3-メチルチアゾリジン-2-チオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
有機過酸化物は、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド及び4,4-ビス[(t-ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
クロロプレン系ゴムは、2-クロロ-1,3-ブタジエンの単独重合体、又は、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種の単量体と2-クロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体であることが好ましい。
クロロプレンゴム組成物は、加硫成形することにより、自動車用シール材、ホース材、ゴム型物、ガスケットなどの加硫成形体として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、得られる加硫成型体の圧縮永久歪を維持しつつその加硫速度を速めたクロロプレンゴム組成物及びこれを加硫して得た加硫成型体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0008】
クロロプレンゴム組成物は、(1)クロロプレン系ゴム100質量部と、(2)硫黄系化合物0.5~5.0質量部と、(3)有機過酸化物0.05~4.0質量部を有するものである。
以下、各成分について説明する。
【0009】
(1)クロロプレン系ゴム
クロロプレン系ゴムは、クロロプレン重合体を主成分とするものである。クロロプレン重合体は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(以下、クロロプレンと記す。)の単独重合体、又は、クロロプレンと共重合可能な他の単量体とクロロプレンとの共重合体及びこれら重合体の混合物である。ここで、クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルなどのアクリル酸のエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルなどのメタクリル酸のエステル類、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、アクリロニトリルなどがある。
【0010】
クロロプレン系ゴムとして、クロロプレンと共重合可能な他の単量体とクロロプレンとの共重合体を用いる場合は、他の単量体の共重合量をクロロプレン100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下とするとよい。他の単量体の共重合量をこの範囲に調整することで、得られるクロロプレンゴム組成物の特性を損なわずに、これら単量体を共重合させたことによる効果を発現することができる。
【0011】
クロロプレンと共重合する他の単量体は、1種類に限定されるものではなく、例えばクロロプレンを含む3種以上の単量体を共重合したものでもよい。また、重合体のポリマー構造も、特に限定されるものではない。
【0012】
[クロロプレン系ゴムの製造方法]
クロロプレン系ゴムは、ロジンなどを乳化分散剤として用いて、重合反応の触媒、重合開始剤、連鎖移動剤などの存在下で、クロロプレンを主成分とする原料単量体を乳化重合することにより得られる。
【0013】
重合反応の触媒としては、例えば、硫酸カリウムなどの無機過酸化物、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類などの有機過酸化物がある。触媒活性化剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、酸化鉄(II)、アントラキノン、β-スルフォン酸ナトリウム、フォルムアミジンスルフォン酸、L-アスコルビン酸などがある。
【0014】
重合開始剤としては特に制限はなく、クロロプレン単量体の乳化重合に一般に用いられる公知の重合開始剤、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどが用いられる。
【0015】
連鎖移動剤も、特に限定されるものではなく、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものを使用することができる。具体的には、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタンなどの長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲン化合物、ヨードホルム、ベンジル1-ピロールジチオカルバメート(別名ベンジル1-ピロールカルボジチオエート)、ベンジルフェニルカルボジチオエート、1-ベンジル-N,Nジメチル-4-アミノジチオベンゾエート、1-ベンジル-4-メトキシジチオベンゾエート、1-フェニルエチルイミダゾールジチオカルバメート(別名1-フェニルエチルイミダゾールカルボジチオエート)、ベンジル-1-(2-ピロリジノン)ジチオカルバメート(別名ベンジル-1-(2-ピロリジノン)カルボジチオエート)、ベンジルフタルイミジルジチオカルバメート(別名ベンジルフタルイミジルカルボジチオエート)、2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート(別名2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート)、2-シアノブト-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート(別名2-シアノブト-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート)、ベンジル-1-イミダゾールジチオカルバメート(別名ベンジル-1-イミダゾールカルボジチオエート)、2-シアノプロプ-2-イル-N,N-ジメチルジチオカルバメート、ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、シアノメチル-1-(2-ピロリドン)ジチオカルバメート、2-(エトキシカルボニルベンジル)プロプ-2-イル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、1-フェニルエチルジチオベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イルジチオベンゾエート、1-酢酸-1-イル-エチルジチオベンゾエート、1-(4-メトキシフェニル)エチルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、エトキシカルボニルメチルジチオアセタート、2-(エトキシカルボニル)プロプ-2-イルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、t-ブチルジチオベンゾエート、2,4,4-トリメチルペンタ-2-イルジチオベンゾエート、2-(4-クロロフェニル)-プロプ-2-イルジチオベンゾエート、3-ビニルベンジルジチオベンゾエート、4-ビニルベンジルジチオベンゾエート、ベンジルジエトキシホスフィニルジチオフォルマート、t-ブチルトリチオペルベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、ナフタレン-1-カルボン酸-1-メチル-1-フェニル-エチルエステル、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸、ジベンジルテトラチオテレフタラート、カルボキシメチルジチオベンゾエート、ジチオベンゾエート末端基を持つポリ(酸化エチレン)、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸末端基を持つポリ(酸化エチレン)、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]プロパン酸、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]コハク酸、3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエートカリウム、シアノメチル-3,5-ジメチル-1Hピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル-(フェニル)ジチオカルバメート、ベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルメチル-4-クロロジチオベンゾエート、4-ニトロベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、1-シアノ-1-メチルエチル-4-クロロジチオベンゾエート、3-クロロ-2-ブテニル-4-クロロジチオベンゾエート、2-クロロ-2-ブテニルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、3-クロロ-2-ブテニル-1Hピロール-1-ジチオカルボン酸、2-シアノブタン-2-イル-4-クロロ-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオエート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート、ジベンジルトリチオカルボナート、ブチルベンジルトリチオカルボナート、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]-2-メチルプロピオン酸、2,2′-[カルボノチオイルビス(チオ)]ビス[2-メチルプロピオン酸]、2-アミノ-1-メチル-2-オキソエチルブチルトリチオカルボナート、ベンジル-2-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-メチル-2-オキソエチルトリチオカルボナート、3-[[[(t-ブチル)チオ]チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、シアノメチルドデシルトリチオカルボナート、ジエチルアミノベンジルトリチオカルボナート、ジブチルアミノベンジルトリチオカルボナートなどのチオカルボニル化合物などが好適に用いられる。
【0016】
クロロプレンラテックスの重合温度は、特に限定されるものではなく、一般に乳化重合が行われる0~50℃、好ましくは20~50℃の範囲とすることができる。また、前述した重合工程で得られるクロロプレン系ゴムの最終重合率は、特に限定するものではないが、30~100%の範囲内で任意に調節することが好ましい。最終転化率を調整するためには、所望する転化率になった時に、重合反応を停止させる重合停止剤を添加して重合を停止させればよい。
【0017】
重合停止剤は、特に限定されるものではなく、通常用いられているものを使用することができる。具体的には、チオジフェニルアミン、4-ターシャリーブチルカテコール、2,2-メチレンビス-4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノールなどがある。
【0018】
次に、重合工程により得られた重合液から、未反応単量体の除去を行う。その方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スチームストリッピング法がある。その後、pHを調整し、常法の凍結凝固、水洗、熱風乾燥などの工程を経てクロロプレン系ゴムが得られる。
【0019】
(2)硫黄系化合物
硫黄系化合物は、化学式2で表されるものであり、得られるクロロプレンゴム組成物の加硫を促進させるために添加するものである。
【化2】
(化学式2中、R1は水素、水酸基、炭素数1~8のアルキル基又は金属元素のいずれか、R2及びR3は水素又は炭素数1~8のアルキル基のいずれかを表す)
【0020】
硫黄系化合物の添加量は、クロロプレン系ゴム100質量部に対して0.5~5.0質量部であり、好ましくは0.75質量部~3.0質量部、さらに好ましくは1.0質量部~2.0質量部である。硫黄系化合物の添加量が0.5質量部に満たないと、得られるクロロプレンゴム組成物の加硫を促進させる効果が低くその加硫速度を向上させることができない。また、硫黄系化合物の添加量が5.0質量部を超えてしまうと、得られる加硫成形体のゴム弾性が失われて、熱老化後の破断時伸びが低下し、圧縮永久ひずみが悪化してしまう場合がある。
【0021】
硫黄系化合物の具体例としては、4-メチルチアゾリジン-2-チオン、3-メチルチアゾリジン-2-チオン、4-イソプロピル-3-メチルチアゾリジン-2-チオンなどがあり、これらを併用することもできる。
【0022】
本発明のクロロプレンゴム組成物には、これら硫黄系化合物の他に、クロロプレンゴムの加硫に一般に用いられる、チオウレア系、グアニジン系、チウラム系、チアゾール系の加硫促進剤を併用してもよい。チオウレア系の加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、トリエチルチオウレア、N,N’-ジフェニルチオウレアなどがあり、特にトリメチルチオウレアやエチレンチオウレアが好ましい。また、3-メチルチアゾリジンチオン-2、ジメチルアンモニウムハイドロジェンイソフタレートあるいは1,2-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体などの加硫促進剤も使用することができる。
【0023】
(3)有機過酸化物
有機過酸化物は、上述の硫黄化合物との相乗効果により、得られるクロロプレンゴム組成物の加硫を促進させるために添加するものである。
【0024】
有機過酸化物の添加量は、クロロプレン系ゴム100質量部に対して、0.05~4.0質量部であり、好ましくは0.1質量部~2.0質量部、さらに好ましくは質量部0.3~1.0質量部である。有機過酸化物の添加量が0.05質量部に満たないと、得られるクロロプレンゴム組成物の加硫を促進させる効果が低くその加硫速度を向上させることができない。また、有機過酸化物の添加量が4.0質量部を超えてしまうと、得られる加硫成形体のゴム弾性が失われて、熱老化後の破断時伸びが低下してしまう場合がある。
【0025】
有機過酸化物の具体例としては、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド及び4,4-ビス[(t-ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチルがある。ジアルキルパーオキサイドとしてはジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロビル)ベンゼン、1,4-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロビル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどが、ジアルキルパーオキサイドとしてはジベンゾイルパーオキサイド、ジ-p-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジ-o-メチルベンゾイルパーオキサイドなどがあり、これらを併用することもできる。
【0026】
[その他の化合物]
架橋助剤
クロロプレンゴム組成物には、その加硫速度や加硫密度を向上させるために、加硫助剤としての二官能性エステル化合物又は三官能性エステル化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を添加することもできる。
【0027】
これら加硫助剤の添加量は、クロロプレン系ゴム100質量部に対して、0.2~5質量部が好ましく、さらに好ましくは0.5~4質量部である。加硫助剤の添加量が0.2質量部未満では添加する効果が得られない場合があり、5質量部を超えて添加すると、得られる加硫物の硬度が高くなりすぎる場合がある。
【0028】
加硫助剤の具体例としては、トリメチロールプロパン、エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアネート、トリアリルシアネート、マレイミド系化合物などがあり、これらを併用することもできる。
【0029】
マレイミド系化合物としては、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、2-メチル-N-フェニルマレイミド、2,3-ジメチルマレイミド、2-エチルマレイミド、2-n-ブチルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N,N’-1,2-エチルビスマレイミド、N,N’-1,2-ヘキシルビスマレイミド、N-プロピオン酸マレイミド、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、6,7-メチレンジオキシ-4-メチル-3-クマル酸マレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、N-ブロモメチル-2,3-ジクロロマレイミド、N-(3-マレイミドベンゾイルオキシ)コハク酸、N-(3-マレイミドプロピオオキシ)コハク酸、N-(3-マレイミドブチルオキシ)コハク酸、N-(3-マレイミドヘキシルオキシ)コハク酸、N-(4-ジメチルアミノ-3,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N,N’-1,2-フェニレンジマレイミド、N,N’-1,3-フェニレンジマレイミド、N,N’-1,4-フェニレンジマレイミド、N-N’-1,3-ナフテンジマレイミド、N,N’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビスマレイミド、N-(1-ピレニル)マレイミド、1,1’-(メチレンジ-4,1-フェニレン)ビスマレイミド、N-[4-(2-ベンズイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、2,3-ジフェニルマレイミドなどがある。
【0030】
フェノチアジン
クロロプレンゴム組成物には、その加工安定性を向上させるためにフェノチアジンを添加することもできる。
【0031】
フェノチアジンの添加量は、クロロプレン系ゴム100質量部に対して0.1~2質量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.3~1.5質量部である。この範囲でフェノチアジンを添加することにより、得られるクロロプレンゴム組成物の加工安定性を向上させる効果が高い。
【0032】
クロロプレンゴム組成物は、上述の化合物をその加硫温度以下の温度で混練することで得られるものである。混練装置としては、ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロールなどがある。
【0033】
クロロプレンゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でカーボンブラック、可塑剤、加硫剤、カーボンブラック以外の充填剤や補強剤、加工助剤、老化防止剤などを添加しても良い。
【0034】
<加硫成形体>
クロロプレンゴム組成物の加硫成形体は、上述のクロロプレンゴム組成物を所望する各種の形状に成形された後に加硫したり、クロロプレンゴム組成物を加硫した後に各種の形状に成形したりして得られるものである。クロロプレンゴム組成物から加硫成形体を成形する方法は、プレス成形、押出成形、カレンダー成形などの方法がある。
【0035】
クロロプレンゴム組成物を加硫する温度は、その組成に合わせて適宜設定すればよく、通常は140~220℃、好ましくは150~180℃の範囲で行われる。また、加硫する時間もクロロプレンゴム組成物の組成や形状によって適宜設定すればよく、通常は10分~60分の範囲で行われる。
【0036】
加硫成形体は、上述のクロロプレンゴム組成物を加硫成形して得られるものであり、加硫速度を速いにもかかわらず、その圧縮永久歪が維持されたものである。
【実施例0037】
クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴムの製造:
加熱冷却ジャケットと攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体37質量部、アクリロニトリル単量体4質量部、ジエチルキサントゲンジスルフィド0.5質量部、純水200質量部、ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.00質量部、水酸化ナトリウム0.40質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)2.0質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレン単量体は、重合開始20秒後から分添し、重合開始からの10秒間の冷媒の熱量変化を元に分添流量を電磁弁で調整し、以降10秒毎に流量を再調節することで連続的に行った。クロロプレン単量体及びアクリロニトリル単量体の合計量に対する重合率が50%となった時点で重合停止剤であるフェノチアジンを加えて重合を停止させた。その後、減圧下で反応溶液中の未反応単量体を除去することでクロロプレン-アクリロニトリル共重合体ラテックスを得た。
【0038】
得られたクロロプレン-アクリロニトリル共重合体ラテックスをpH7.0に調整し、-20℃に冷やした金属板上で凍結凝固させることで乳化破壊した。得られたシートを水洗し、130℃で15分間乾燥させることにより、固形状のクロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴムを得た。
【0039】
クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴムの数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、及び分子量分布(Mw/Mn)は、クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴムをTHFでサンプル調整濃度0.1質量%の溶液とした後、高速GPC装置(TOSOH HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)により測定した(標準ポリスチレン換算)。その際、プレカラムとしてTSKガードカラムHHR-H、分析カラムとしてHSKgelGMHHR-H3本を使用し、サンプルポンプ圧8.0~9.5MPa、流量1mL/min、40℃で流出させ、示差屈折計で検出した。
【0040】
流出時間と分子量は、以下にあげる分子量既知の標準ポリスチレンサンプル計9点を測定して作成した校正曲線を用いた。(Mw=8.42×10、1.09×10、7.06×10、4.27×10、1.90×10、9.64×10、3.79×10、1.74×10、2.63×10
【0041】
クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴムに含まれる不飽和ニトリル単量体単位量は、クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴム中の窒素原子の含有量から算出した。具体的には、100mgのクロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴムを、元素分析装置(スミグラフ220F:株式会社住化分析センター製)を用いて窒素原子含有量を測定し、アクリロニトリル単量体単位を算出した。
元素分析の測定条件は次のとおり行った。電気炉温度は反応炉900℃、還元炉600℃、カラム温度70℃、検出器温度100℃に設定し、燃焼用ガスとして酸素を0.2ml/min、キャリアーガスとしてヘリウムを80ml/minフローした。検量線は窒素含有量が既知のアスパラギン酸(10.52%)を標準物質に用いて作成した。
【0042】
結果、数平均分子量(Mn)は138×10/mol、重量平均分子量(Mw)は473×10g/mol、分子量分布(Mw/Mn)は3.4であった。また、クロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴム中のアクリロニトリル単量体単位量は1.2質量%であった。
【0043】
(実施例1)
(クロロプレンゴム組成物の製造)
上述のクロロプレン-アクリロニトリル共重合ゴム及び表1記載の各化合物を8インチオープンロールで混練し、クロロプレンゴム組成物を得た。
表1で用いた化合物は以下のとおり。
クロロプレンゴム:デンカ株式会社製メルカプタン変性クロロプレンゴム 生ゴムムーニー粘度ML1+4(100℃)=60
硫黄系化合物A:ランクセス社製 MTT-80
硫黄系化合物B:4-メチルチアゾリジン-2-チオン(市販品)
硫黄系化合物C:4-イソプロピル-3-メチルチアゾリジン-2-チオン(市販品)
有機過酸化物A:日本油脂株式会社製 パーブチル(登録商標)P-40
有機過酸化物B:日本油脂株式会社製 パーブチル(登録商標)C-40
有機過酸化物C:日本油脂株式会社製 パーヘキサ(登録商標)25B
ステアリン酸:新日本理化株式会社製 ステアリン酸50S
カーボンブラック:東海カーボン株式会社製 シーストSO FEFカーボン
可塑剤:大八化学工業株式会社製 ジオクチルセバケート
酸化マグネシウム:協和化学工業株式会社製 キョーワマグ(登録商標)150
耐熱老化防止剤:大内新興化学工業株式会社製 ノクラック(登録商標)CD 4,4‘-ビス(α、α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
酸化亜鉛:堺化学工業株式会社製 酸化亜鉛2種
耐オゾン老化防止剤:大内新興化学工業株式会社製 ノクラック(登録商標)6C N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン
【0044】
(クロロプレンゴム組成物の評価)
得られたクロロプレンゴム組成物について、日本ゴム協会標準規格SRIS3102-1977に基づいて、オシレーションディスクレオメータ(No.292ロータスレオメータ、株式会社東洋精機製作所製)を用いて170℃における加硫時間(T90及びT10)を測定し、加硫時間を算出した。15min以下の値を示したものを合格とした。
【0045】
(加硫成形体の製造)
得られたクロロプレンゴム組成物を、160℃×20分の条件でプレス加硫して、厚さ2mmのシート状の加硫成形体を作製した。得られた加硫成形体について、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0046】
(加硫成形体の評価)
(1)熱老化後の切断時伸びの変化率
JIS K6251に準拠して、シート状の加硫成形体を厚さ2mmのダンベル状3号形試験片に成形したサンプルを10枚準備し、そのうちの5枚を株式会社島津製作所製の加硫ゴム用長ストローク引張試験システムを用いて引張速度500mm/分で測定した。次いで、残りの5枚を130℃で70時間熱処理した後、切断時伸びを上述と同一の方法で測定し、熱処理前後の値の変化率を以下の式1(式中、Aは熱処理前の測定サンプルの切断時伸びの値(5枚の平均値)、Bは熱処理後の測定サンプルの切断時伸びの値(5枚の平均値)を示す。)によって算出した。-15%以上0%以下の値を示したものを合格とした。
熱老化後の伸びの変化率(%)=(B-A)/A×100・・・(式1)
(2)圧縮永久歪
JIS K6262に基づいて、130℃、72時間における圧縮永久歪の評価を行った。54%以下の値を示したものを合格とした。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例2~9及び比較例1~4におけるクロロプレンゴム組成物及び加硫成形体は、クロロプレンゴム組成物を作製する際の配合を表1に記載した条件に変更して実施例1と同様に作製し、実施例1と同様に評価したものである。評価結果を表1に示した。
【0049】
表1に示した結果から、本願発明のクロロプレンゴム組成物は、加硫成型体とした際に圧縮永久歪を維持しつつ、その加硫速度が向上していることがわかった。当該加硫成形体は、これらの性質を有するため、自動車用ゴム部材、ホース及びゴム型物などの成形品として好適に使用できる。