(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139712
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】吸音壁構造
(51)【国際特許分類】
E01B 19/00 20060101AFI20220915BHJP
E01F 8/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
E01B19/00 C
E01F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040215
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515113042
【氏名又は名称】株式会社ビーエステクノ
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 一孝
(72)【発明者】
【氏名】小幡 仁寿
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智幸
(72)【発明者】
【氏名】市川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 秀憲
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001BA02
2D001CA01
2D001CB02
2D001CD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を提供する。
【解決手段】鉄道線路に沿って立設された壁面20又は互いに対向する一対のフランジを有する支柱に、吸音材をフレームに収納した吸音パネル11を固定した吸音壁構造であって、前記吸音材は、少なくともポリエステル系樹脂からなる繊維を含む中綿と、該中綿を内包する表皮材とからなり、該表皮はポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む不織布からなり、前記吸音パネル11は、前記壁面20又は前記フランジと前記フレームの側壁13との間に介在する介装部材としてのL型継手プレート21又はS型継手プレートを介して、該壁面20又は該支柱に固定される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道線路に沿って立設された壁面又は互いに対向する一対のフランジを有する支柱に、吸音材をフレームに収納した吸音パネルを固定した吸音壁構造であって、
前記吸音材は、少なくともポリエステル系樹脂からなる繊維を含む中綿と、該中綿を内包する表皮材とからなり、該表皮材はポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む不織布からなり、
前記吸音パネルは、前記壁面又は前記フランジと前記フレームとの間に介在する介装部材を介して、該壁面又は該支柱に固定されることを特徴とする吸音壁構造。
【請求項2】
請求項1記載の吸音壁構造において、
前記介装部材は、前記壁面又は前記フランジに向かって前記フレームから延びる継手プレートであることを特徴とする吸音壁構造。
【請求項3】
請求項1記載の吸音壁構造において、
前記フランジと前記フレームとの間に介在する前記介装部材は、鋼板を曲げ加工して形成された板バネであることを特徴とする吸音壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道線路に沿って立設された壁面又は互いに対向する一対のフランジを有する支柱に、吸音材をフレームに収納した吸音パネルを固定した吸音壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の吸音材としては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の繊維からなり特定の範囲の密度、厚み及び通気度を備える第1の不織布を表皮層(表皮材)とし、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の短繊維からなり特定の範囲の目付け及び厚みを備える第2の不織布を基材層(中綿)とする積層不織布からなる吸音材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の吸音材によれば、前記第1の不織布と前記第2の不織布とが積層されることにより、800~1250Hzの範囲の低周波領域にて優れた吸音率を備えるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の吸音材のようにポリエチレンテレフタレート系樹脂の短繊維からなる吸音材は、水分が多い環境下では吸音率が低下するという不都合がある。
【0006】
かかる不都合は、特に降雨や消雪散水の影響がある鉄道用防音壁に吸音材を組み込んだ際に顕著となる。
【0007】
そこで、本発明は、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の吸音壁構造は、鉄道線路に沿って立設された壁面又は互いに対向する一対のフランジを有する支柱に、吸音材をフレームに収納した吸音パネルを固定した吸音壁構造であって、
前記吸音材は、少なくともポリエステル系樹脂からなる繊維を含む中綿と、該中綿を内包する表皮材とからなり、該表皮材はポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む不織布からなり、
前記吸音パネルは、前記壁面又は前記フランジと前記フレームとの間に介在する介装部材を介して、該壁面又は該支柱に固定されることを特徴とする。
【0009】
ポリプロピレン系樹脂からなる繊維は疎水性を備えているので、本発明の吸音材は、前記中綿が前記表皮材に内包されていることにより水と接触することがなく、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い。
【0010】
そして、かかる吸音材をフレームに収納した吸音パネルを、壁面又は支柱のフランジとフレームとの間に介在する介装部材を介して、壁面又は支柱に固定することで、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を実現することができる。
【0011】
また、本発明の吸音壁構造において、前記介装部材は、前記壁面又は前記フランジに向かって前記フレームから延びる継手プレートであることを特徴とする。
【0012】
本発明の吸音壁構造において、介装部材を壁面又は支柱のフランジに向かってフレームから延びる継手プレートとすることにより、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を具体的に実現することができる。
【0013】
また、本発明の吸音壁構造において、前記フランジと前記フレームとの間に介在する前記介装部材は、鋼板を曲げ加工して形成された板バネであることを特徴とする。
【0014】
本発明の吸音壁構造において、フランジとフレームとの間に介在する介装部材については、鋼板を曲げ加工して形成された板バネとすることにより、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を具体的に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の吸音材の第1の実施形態の構成を示す説明的断面図。
【
図2】本発明の吸音材の第2の実施形態の構成を示す説明的断面図。
【
図3】本発明の吸音パネルの一構成例を示す説明的断面図。
【
図4】本発明の吸音壁構造の一構成例を示す説明図。
【
図5】本発明の吸音壁構造の他の構成例を示す説明図。
【
図6】本発明の吸音壁構造の他の構成例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の吸音材1の第1の実施形態では、例えば、少なくともポリエステル系樹脂からなる繊維を含む中綿2と、中綿2の表裏両面(上層及び下層)に備えられ、中綿2を内包する1枚の表皮材3とからなる。中綿2は、2つに折りたたまれた表皮材3に挟まれており、表皮材3は、周縁部の3方にシール部4を備えている。この結果、中綿2は、表皮材3の折りたたみ部とシール部4により取り囲まれて、表皮材3に内包されている。
【0018】
なお、中綿2は表皮材3により内包されていればよく、中綿2を表皮材3により内包する構成は、
図1に示す構成に限定されるものではない。
【0019】
例えば、
図2に示す本実施形態の吸音材1の第2の実施形態のように、中綿2と、中綿2の表裏両面(上層及び下層)に備えられ、中綿2を内包する2枚の表皮材3,3とからなり、表皮材3,3が周縁部に中綿2を取り囲むシール部4を備える構成であってもよい。
【0020】
吸音材1の目付は、主に100~2000Hzの領域における吸音率をより向上させる観点や吸音材の重量増による作業性の低下を防止する観点、さらには重量増による吸音材を支持する構造体の強度確保が困難になる観点から、500~3000g/m2の範囲であることが好ましく、1000~2500g/m2の範囲であることがさらに好ましく、1300~2200g/m2の範囲であることが最も好ましい。
【0021】
吸音材1の厚みは、低音領域、特に100~1000Hzの領域の吸音率をより向上させる観点や、構造物等に据え付ける際に効率的な空間を確保する観点から10~100mmの範囲であることが好ましく20~70mmの範囲であることがより好ましい。
【0022】
中綿2は、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のポリエステル系樹脂からなる繊維のみからなるものでもよく、さらにポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含んでいてもよい。中綿2は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる繊維とポリプロピレン系樹脂からなる繊維とを含むことにより、嵩高性(吸音率の確保)と疎水性の適度なバランスを維持することがより容易になるという効果を得ることができる。
【0023】
中綿2としては、例えば、前記ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)系樹脂の短繊維と、前記ポリプロピレン系樹脂の短繊維とを含む不織布成形体を用いることができる。
【0024】
中綿2の目付は、主に100~2000Hzの領域における吸音率をより向上させる観点や吸音材の重量増による作業性の低下を防止する観点、さらには重量増による吸音材を支持する構造体の強度確保が困難になる観点から、400~2900g/m2の範囲であることが好ましく、900~2400g/m2の範囲であることがさらに好ましく、1200~2100g/m2の範囲であることが最も好ましい。
【0025】
前記ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)系樹脂の短繊維と、前記ポリプロピレン系樹脂の短繊維とは、公知の溶融紡糸法により製造されたものであってもよく、市販のものを購入したものであってもよい。前記ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)系樹脂の短繊維は、例えば、平均繊維長さが10~100mmの範囲、平均繊維径が10~50μmの範囲のものを用いることができ、前記ポリプロピレン系樹脂の短繊維は、例えば、平均繊維長さが10~100mmの範囲、平均繊維径が10~50μmの範囲のものを用いることができる。
【0026】
前記不織布成形体におけるポリエステル系樹脂の短繊維と、ポリプロピレン系樹脂の短繊維との割合は、吸音率をより向上させる観点から、質量基準で、ポリエステル系樹脂の短繊維:ポリプロピレン系樹脂の短繊維が99:1~5:95の範囲であることが好ましく、95:5~10:90の範囲であることがより好ましく、80:20~20:80の範囲であることがさらに好ましい。
【0027】
前記不織布成形体は、例えば、1~95質量%、例えば60質量%の前記ポリプロピレン系樹脂の短繊維を、99~5質量%、例えば40質量%のポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)バインダー短繊維と混合し、開繊機、カード機にてウェブを形成した後、得られたウェブをクロスレイヤー機にて多層積層し、所定のギャップ間距離に設定された熱風エアー処理機で処理し、該ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)系バインダー短繊維と、該ポリプロピレン系樹脂の短繊維とを融着処理することにより得ることができる。
【0028】
前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレングリコール等の多価アルコールと、テレフタル酸等の二塩基酸との共重合体を用いることができる。このようなポリエチレンテレフタレート系樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンイソフタレート(PBI)、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT)、ポリヘキサメチレンイソフタレート(PHI)、ポリヘキサメチレンナフタレート(PHN)等を挙げることができる。
【0029】
前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。前記α-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数2以上、好ましくは2~8のα-オレフィンを挙げることができる。前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体である場合、前記α-オレフィンから選択される1種又は2種以上のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。前記ポリプロピレン系樹脂は、MFR(メルトフローレート)が例えば1~500g/分の範囲のものを用いることができる。
【0030】
前記ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)系バインダー短繊維は、例えば、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部にバインダー成分を備えるものを用いることができる。前記バインダー成分としては、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体、低級アルコール、ポリアルキレングリコール又はそのモノエーテルからなる共重合ポリエステルを挙げることができる。
【0031】
前記不織布成形体におけるポリエステル系樹脂の短繊維と、ポリプロピレン系樹脂の短繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、複合繊維、中空繊維、異型繊維、捲縮繊維、分割繊維等の形態を含んでいてもよい。また、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、難燃剤、撥水剤、油剤、帯電防止剤、着色剤、無機物等を含んでいてもよい。
【0032】
表皮材3は、ポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む不織布からなる。表皮材3は、中綿2と水との接触をより妨げる観点から、200~500mmH2Oの範囲の耐水圧を備えることが好ましく、250~450mmH2Oの範囲の耐水圧を備えることがより好ましく、280~400mmH2Oの範囲の耐水圧を備えることが最も好ましい。
【0033】
表皮材3の目付は、耐水圧をより向上させて中綿2と水の接触をより防止する観点や、ショットブラスト耐性などの強度を維持する観点や、目付が高すぎて中綿2側に音波が伝わりにくくなることを防止する観点、目付が高すぎて超音波シール等の作業性が低下するのを防止する観点から、50~200g/m2の範囲であることが好ましく、70~150g/m2の範囲であることがより好ましい。
【0034】
表皮材3の通気度は、耐水圧をより向上させて中綿と水の接触をより防止する観点や、中綿側に音波を適度に伝えて吸音率を良好に保つ観点から、5~200cm3/cm2/秒の範囲であることが好ましく、7~150cm3/cm2/秒の範囲であることがより好ましく、10~50cm3/cm2/秒の範囲であることが最も好ましい。
【0035】
表皮材3の厚みは、耐水圧をより向上させて中綿2と水の接触をより防止する観点、ショットブラスト耐性などの強度を維持する観点や、厚すぎて中綿側に音波が伝わりにくくなることを防止する観点、厚すぎて超音波シール等の作業性が低下するのを防止する観点から、0.1~1.5mmの範囲であることが好ましく、0.3~1.0mmの範囲であることがより好ましい。
【0036】
表皮材3の表面付近に位置する繊維の平均繊維径(以下、表面繊維径ということがある)は、ショットブラスト耐性をより向上させる観点や、通気度を適度な範囲に制御する観点から、20~100μmの範囲にあることが好ましく、30~50μmの範囲にあることがより好ましい。
【0037】
表皮材3を構成する前記不織布に用いられる前記ポリプロピレン系樹脂は、中綿2に用いられるポリプロピレン系樹脂と同様に、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。前記α-オレフィンとしては、中綿2に用いられるポリプロピレン系樹脂の場合と同一のα-オレフィンを1種又は2種以上用いることができる。
【0038】
表皮材3を構成する前記不織布に用いられる前記ポリプロピレン系樹脂としては、MFR(メルトフローレート)が例えば10~100g/分の範囲にあるものを用いることができる。本実施形態の吸音材1では、表皮材3が前記範囲の耐水圧を備え、シール部4で内部がシールされていることにより、中綿2が水と接触することがなく、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い。
【0039】
表皮材3は、単層の不織布であってもよく、複数の不織布が積層された積層不織布であってもよい。表皮材3を構成する不織布としては、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、スパンボンド不織布及びメルトブローン不織布からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。表皮材3は、吸音材としてのショットブラスト耐性などの強度をより向上させる観点から、少なくともスパンボンド不織布を1層以上含むことが好ましい。また、耐水圧や通気度を好ましい範囲に制御する観点から、少なくともメルトブローン不織布を1層以上含むことが好ましい。なお、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布は、平均繊維径により区別することができる。本明細書における実施態様において、スパンボンド不織布は平均繊維径が15~100μmの範囲であり、メルトブローン不織布は平均繊維径が0.5~5μmの範囲である場合がある。
【0040】
発明者らは、不織布は含有する繊維の平均繊維径が小さい(細い)ほど緻密であり耐水圧に優れているが、その一方で、雹、霰、あるいは小石等の固体の衝突に対する耐摩耗性(耐ショットブラスト性)の見地からは、含有する繊維の平均繊維径が大きい(太い)ことが望ましいことを見出した。また、スパンボンド不織布に含まれる繊維の平均繊維径は、メルトブローン不織布に含まれる繊維の平均繊維径より大きく、メルトブローン不織布に含まれる繊維の平均繊維径は、スパンボンド不織布に含まれる繊維の平均繊維径より小さい。
【0041】
そこで、表皮材3は、例えば、25~50μmの範囲の平均繊維径を備えるポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む第1のスパンボンド不織布と、第1のスパンボンド不織布の上に位置する0.5~5μmの範囲の平均繊維径を備えるポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含むメルトブローン不織布と、該メルトブローン不織布の上に位置する25~50μmの範囲の平均繊維径を備えるポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む第2のスパンボンド不織布との少なくとも3層の構造(以下、3層の構造をSMS構造ということがある)を備えるか、15~100μmの範囲の平均繊維径を備えるポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む第3のスパンボンド不織布を含むスパンボンド不織布層のみからなるものであってもよい。ここで、「スパンボンド不織布層のみからなる」とは、メルトブローン不織布などの他の製造方法によって製造した不織布を含まないことを意味するものであり、スパンボンド不織布を複数含むことを除外するものではない。
【0042】
表皮材3は、前記の少なくとも3層の構造を備える場合、内層となる前記メルトブローン不織布の平均繊維径が細いため緻密になることにより前記範囲の耐水圧を確保することができる。その一方で、前記メルトブローン不織布は、含有する繊維の平均繊維径が小さいため、毛羽立ちやすく、ショットブラスト耐性に劣る場合があるので、前記第1又は第2のスパンボンド不織布を外層とすることにより該メルトブローン不織布を保護することができ、ショットブラスト耐性がより優れる傾向にある。
【0043】
さらに、表皮材3は、前記第2のスパンボンド不織布の上に位置する25~100μmの範囲の平均繊維径を備える繊維を含む第4のスパンボンド不織布を備える少なくとも4層の構造(以下、4層の構造をSSMS構造又はSMSS構造ということがある)を備えていてもよく、前記第4のスパンボンド不織布により、より優れたショットブラスト耐性を得ることができる。前記第4のスパンボンド不織布は、例えば、平均繊維径が30~50μmの範囲にあり、目付が70~150g/m2の範囲にあることが好ましい。
【0044】
また、表皮材3は、スパンボンド不織布層のみからなる場合、平均繊維径が10~100μmの範囲、例えば20~40μmの範囲にあり、目付が70~200g/m2の範囲にある前記第3のスパンボンド不織布を含むことにより、前記範囲の耐水圧と前記ショットブラスト耐性とを兼ね備えることができる。前記スパンボンド不織布層は、前記第3のスパンボンド不織布単層からなるものでもよく、該第3のスパンボンド不織布に他のスパンボンド不織布が積層されていてもよい。
【0045】
また、表皮材3は、スパンボンド不織布層のみからなる場合、表面付近に位置する繊維の平均繊維径(以下、表面繊維径ということがある)が25~100μmの範囲、例えば30μm超100μm以下の範囲にあることにより、優れたショットブラスト耐性を得ることができる傾向がある。前記スパンボンド不織布層では、例えば、エンボスロールを140~170℃の範囲の温度、ミラーロールを140~170℃の範囲の温度に設定してエンボス加工(熱圧着加工)を施して溶着面積比率を15%以上とすることにより、表面繊維径を前記範囲とすることができ、非エンボス部における繊維間の融着が促進されることにより見かけ上の繊維径が太くなる。また、同様の理由で、エンボス加工時の溶着面積比率を20%以上としたり、同じ溶着面積比率でもエンボス柄を0.7mm角大以上の大きな柄を採用することで、ショットブラスト耐性を向上させることができる。
【0046】
前記スパンボンド不織布は、公知のスパンボンド不織布成型機を用いて製造することができる。より具体的には、スパンボンド不織布は、例えば、原料となるポリプロピレン系樹脂を、押出機を用い溶融し、溶融した組成物を、複数の紡糸口金から吐出し、繊維状の樹脂を必要に応じて冷却し延伸させた後、捕集面上に堆積させ、エンボスロールで加熱加圧処理することによって製造することができる。
【0047】
また、前記メルトブローン不織布は、公知のメルトブローン不織布成型機を用いて製造することができる。より具体的には、メルトブローン不織布は、例えば、原料となるポリプロピレン系樹脂を溶融し、紡糸ノズルから吐出するとともに、高温高圧ガスにより牽引して細繊維化されたポリプロピレン極細繊維を多孔ベルト又は多孔ドラムなどのコレクターに捕集して、堆積することによって製造することができる。
【0048】
シール部4は、熱圧着又は超音波シールにより形成することができる。シール部4は、表皮材3,3の周縁部に中綿2を取り囲むように連続して形成されていてもよく、断続的に形成されていてもよい。シール部4は、断続的に形成される場合、平行な複数のシール部4が1つのシール部4の不連続部を他のシール部4の連続部で補完するように形成されていることが好ましい。
【0049】
シール部4の耐水圧は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、水の侵入をより抑制する観点から、100mmH2O以上が好ましく、150mmH2O以上がより好ましく、200mmH2O以上がさらに好ましく、250mmH2O以上が特に好ましく、300mmH2O以上が最も好ましい。シール部4の耐水圧の上限値は特に制限されないが、例えば1000mmH2O以下や500mmH2O以下とすることができる。
【0050】
シール条件は特に限定されないが、超音波シールの場合、シール時の圧力や出力電圧、シール時間、シールパターンなどにより任意に調整が可能である。シールが強すぎる場合上記耐水圧が低下する傾向があるので、前記要因を適度に調整することにより上記耐水圧を良好に保つことが可能である。
【0051】
シール部4の幅は、本発明の効果が発揮できれば特に制限されないが、シール部の耐水圧をより向上させつつ、破れを抑制する観点から、0.1~5.0mmの範囲であることが好ましい。シール部4の幅は、例えば0.3mmとすることができる。
【0052】
次に、
図3を参照して、本実施形態の吸音パネルについて説明する。
【0053】
図3に示すように、本実施形態の吸音パネル11は、吸音材1と、吸音材1を収容するフレーム14とを備える。フレーム14は、底部を形成する矩形状の遮蔽板12と遮蔽板12の四辺から立ち上がる側壁13とからなり上方に開放端部を備える箱状体であり、吸音材1がフレーム14に収容されたときにフレーム14の開放端部に配置される保護パネル15とを備える。
【0054】
フレーム14は、遮蔽板12、側壁13が一体として形成されていてもよく、別々の部材を接続して形成されていてもよい。フレーム14の材質は、天候、水分等に対する耐久性を備える材料であれば特に制限されず、金属製や樹脂製とすることができる。金属としては、アルミニウム、ステンレス等の軽量な金属が好ましく用いられる。
【0055】
保護パネル15は、吸音材1を雹、霰、あるいは小石等の固体から保護しつつ、音波の侵入を容易にするものであることが好ましい。そのため、本実施形態において、保護パネル15は表面に多数の貫通孔15aが配置されているパンチングプレートが好ましく用いられるが、吸音材1を保護しつつ、音波の侵入を容易にするものであればよく、パンチングプレートに限定されるものではない。保護パネル15の表面の全面積に対する、貫通孔15aの合計の面積は、特に制限されないが、例えば、20%~80%の範囲である。
【0056】
保護パネル15の材質は、吸音材1の保護と音波の侵入、天候、水分等に対する耐久性を両立できれば特に制限されず、金属製や樹脂製とすることができる。金属としては、アルミ、ステンレスなどの軽量な金属が好ましく用いられる。
【0057】
図4~
図6を参照して、本実施形態の鉄道用の吸音壁構造について説明する。
【0058】
まず、
図4に示すように、本実施形態の吸音壁構造の一例として、鉄道線路に沿って立設された壁面20に吸音パネル11を固定する構造について説明する。なお、鉄道線路に沿って立設するとは、鉄道敷地内において鉄道の線路に沿って立設されていることを指す。
【0059】
通常、コンクリートなどで構成される壁面20に吸音パネル11を固定する場合には、金属製の板材をL型に折り曲げたL型継手プレート21(本発明の介装部材に相当する)が用いられる。
【0060】
L型継手プレート21は、吸音パネル11のフレーム14の上側壁13の上側面又は下側壁13の下側面から壁面20へ延びる平板部21aと、壁面20に当接する位置で垂直に立ち上がった立ち上がり部21bとを備える。
【0061】
平板部21aは、吸音パネル11の背面側の遮蔽板12と壁面20との間に間隙を形成するように、フレーム14の上側壁13の上側面又は下側壁13の下側面の幅より大きな幅に形成される。なお、パネル11の背面側の間隙は、間隙部分を補強材などにより覆う構造としてもよい。
【0062】
また、平板部21aは、吸音パネル11のフレーム14の上側壁13の上側面又は下側壁13の下側面と当接する位置にフレーム連結孔22,22を有する。フレーム連結孔22,22には、フレーム14の上側壁13の上側面又は下側壁13の下側面にねじ止めされる固定ネジ23,23が挿通されて、固定ネジ23,23によりL型継手プレート21と吸音パネル11とが締結固定される。
【0063】
立ち上がり部21bには、例えば、その中央位置に、壁面連結孔24を有し、壁面連結孔24に壁面20に打ち込まれるアンカーボルト25が挿通されて、アンカーボルト25によりL型継手プレート21と壁面20とが締結固定される。
【0064】
なお、壁面20へのアンカーボルト25の打ち込みは、壁面20に予めアンカーを埋め込み、アンカーへアンカーボルト25を締結させることにより実現してもよく、アンカーを不要としたノープラグのアンカーボルト25を直接壁面20に締結させることにより実現してもよい。
【0065】
また、吸音パネル11を上下方向に分割して複数段に構成した場合には、最上段の吸音パネル11の上側壁13の上側面や最下段の吸音パネル11の下側壁13の下側面にL型継手プレート21を設け、中段部分の吸音パネル11同士は上下の吸音パネルを連結する連結部材により連結して構成してもよい。
【0066】
さらに、L型継手プレート21による吸音パネル11と壁面20と締結位置は吸音パネル11の上側壁13の上側面又は下側壁13の下側面に加えて又は代えて、吸音パネル11の左右側壁13の左右側面で締結してもよい。
【0067】
次に、
図5に示す本実施形態の吸音壁構造の他の例について説明する。
【0068】
鉄道線路に沿って立設された支柱30に吸音パネル11を固定する場合には、金属製の板材をS型に屈曲させたS型継手プレート31(本発明の介装部材に相当する)が用いられる。なお、支柱30は、一対のフランジ30a,30aを2組有するH鋼に限らず、少なくとも一対のフランジ30a,30aを有すればよい。
【0069】
S型継手プレート31は、吸音パネル11の前面15と平行で当接する第1平面部31aと、フランジaと平行で当接する第2平面部31bと、これら2つの第1平面部31aと第2平面部31bとを互いに垂直な平面で繋いだ垂直面部31cとを備える。
【0070】
第1平面部31aには、第1平面部31aと吸音パネル11の側壁13(正確には上側壁13の前面)とを合わせ位置で2枚同時に貫通させた貫通孔(図示省略)が形成され、側壁13側に設けられたナット(図示省略)に貫通孔を介して挿通させたボルト32を螺合させることによりS型継手プレート31と吸音パネル11とが締結固定される。
【0071】
第2平面部31bには、第2平面部31bと支柱30のフランジ30aとを合わせ位置で2枚同時に貫通させた貫通孔(図示省略)が形成され、フランジ30a側に設けられたボルト(図示省略)を貫通孔に挿通してナット33を螺合させることによりS型継手プレート31と支柱30とが締結固定される。
【0072】
なお、S型継手プレート31と吸音パネル11の側壁13との締結は、吸音パネル11の上側壁13に加えて又は代えて左右側壁13で締結してもよい。
【0073】
次に、
図6に示す本実施形態の吸音壁構造の他の例について説明する。
【0074】
支柱30のフランジ30aと吸音パネル11との固定構造については、フランジ30aと間に鋼板を曲げ加工して形成された板バネ40(本発明の介装部材に相当する)を介在させることにより構成してもよい。なお、板バネ40は、この場合、支柱2の外側(鉄道線路の反対側)に設けられる。
【0075】
板バネ40は、フランジ30aを延設した金属製の板部材50の一端部の内外両面を挟持するコ字形の挟持部41を備えている。挟持部41は、外側片部41aと内側片部41bとが対向することによって構成されている。
【0076】
挟持部41には、外側片部41aと内側片部41bとの夫々に挿通孔(図示省略)が形成され、挿通孔は、進退ボルト42を板部材50のねじ孔43に螺合させたときに、進退ボルト42が挿通する。
【0077】
挟持部41の内側片部41bには、吸音パネル11のフレーム12に当接する当接片部44が連設されている。当接片部44は、内側片部41bに対向する側に折り返して延びている。
【0078】
さらに、当接片部44には、内側片部41bと当接片部44との間に向かって折り返された入力部45が連設されている。入力部45は、板部材50に螺合する進退ボルト42の先端部が当接する。
【0079】
進退ボルト42の先端には先細りテーパ状の突起42aが形成されている。介装部材である板バネ40の入力部45には進退ボルト42の先端の突起42aが嵌り込む受け孔(図示省略)が形成されている。
【0080】
かかる構成において、進退ボルト42が板部材50に螺合され、進退ボルト42の頭部42bを回動させるだけで、進退ボルト42が進退し、進退ボルト42の先端が、入力部45に対して定位置で押圧することができ、進退ボルト42の押圧力を確実に当接片部44に伝達させることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、フランジ30aを板部材50により延設した場合、すなわち、フランジ30aと板部材50とを締結ボルト51及びナット52により締結した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、板部材50を省略して、板バネ40を直接フランジ30aに取り付けてもよい。
【0082】
次に、
図1又は
図2に示す本実施形態の吸音材1の製造方法について説明する。
【0083】
吸音材1は、例えば、少なくともポリエステル系樹脂からなる繊維を含む中綿2を、ポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む不織布である表皮材3で包み込み、前記表皮材3の端部を融着する融着工程を含む製造方法により製造することができる。
【0084】
端部を融着する方法は、本発明の効果を奏する限り制限されないが、例えば、アイロンなどの熱源をあてて加熱して樹脂を溶融させて圧着する方法、超音波を付与して樹脂を溶融させつつ圧着する超音波シール法、レーザー融着法、振動溶着法、高周波溶着法、及び熱板溶着法が挙げられる。これらの中でも、端部の融着は超音波シール法で行うことが好ましい。
【0085】
融着温度は、表皮材3の樹脂を融着できる温度であれば特に制限されないが、耐水圧のさらなる向上と融着部の剥がれを抑制する観点から、130~160℃の範囲であることが好ましく、140~155℃の範囲であることがより好ましい。
【0086】
前記融着工程を超音波シール法で行う場合における超音波シール装置の出力は、表皮材3の樹脂を融着できれば特に制限されないが、耐水圧のさらなる向上と融着部(シール部4)の剥がれを抑制する観点から、1~5Vの範囲であることが好ましい。また、圧着における圧力は、表皮材3の樹脂を融着できれば特に制限されないが、耐水圧のさらなる向上と融着部の剥がれを抑制する観点から、0.1~5MPaの範囲であることが好ましい。また、融着部を形成する速度は、融着部の剥がれを抑制しつつ、作業効率を向上させる観点から、1~30m/分が好ましい。
【0087】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例0088】
以下の実施例及び比較例において、吸音材の物性及び性能は次のようにして測定又は評価した。
【0089】
〔目付(g/m2)〕
吸音材から側周面を含まないように10cm角の試料を5点採取した。そして、各試料の重量を測定し、合計の重量を合計の面積で除して目付(g/m2)を算出した。
【0090】
〔厚み(mm)〕
前記目付の算出に用いた5点の試料につき、各試料の四辺の中央部の厚みを、鋼尺で測定し、その平均値を厚み(mm)とした。
【0091】
〔表皮材耐水圧〕
吸音材に使用する表皮材(表皮剤が無い場合は5mm厚以内でスライスされた表面領域から15cm角の試料を5点採取し、JIS L 1096(2010)のA法(低水圧法)により耐水圧を測定し、その平均値を表皮材耐水圧とした。
【0092】
〔シール部耐水圧〕
吸音材から表皮材を採取する際、シール部が15cm角の試料の中央部に含まれるように採取して、表皮材耐水圧と同一にしてシール部耐水圧を求めた。
【0093】
〔通気度(cm3/cm2/秒)〕
吸音材に使用する表皮材から、前記表皮材耐水圧と同一にして、15cm角の試料を5点採取し、JIS L 1096(2010)に準拠し、フラジール通気度測定機によって通気度を測定し、その平均値を通気度(cm3/cm2/秒)とした。
【0094】
〔ショットブラスト耐性〕
25cm角の吸音材を試料とし、該試料の上面中央部に向けて、S30(鋼球)、吹付けノズル径5mm、ノズル先端から試料上面までの距離150mm、吹付けエアー圧力0.1MPaの条件でショットブラスト試験を実施し、4秒間吹付けて表皮材が破れていれば×、破れていなければ〇、破れていないが表皮材の厚み半分以上の範囲で損傷が見られる場合は△とした。
【0095】
〔平均繊維径〕
スパンボンド不織布については、10mm×10mmの試験片を10点採取し、顕微鏡(株式会社ニコン製、商品名:ECLIPSE E400)を用い、倍率50倍で、1試験片毎に任意の20箇所の径をμm単位で小数点第1位まで読み取り、その平均値を平均繊維径とした。メルトブローン不織布については、採取した試料片の構成繊維30本の繊維径(μm)を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式名:SU3500形)を用いて、倍率500倍又は1000倍で測定し、その平均値を平均繊維径とした。
【0096】
〔表面繊維径〕
スパンボンド不織布から採取した試料片の構成繊維30本の繊維径(μm)を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式名:SU3500形)を用いて、倍率50倍又は100倍で測定し、その平均値を表面繊維径とした。繊維同士が融着して界面が明確でないため1本の繊維径が特定できない部分は除いた。なお、表皮材の断面を走査型電子顕微鏡にて観察し、非エンボス部分に融着が見られない場合は、平均繊維径をそのまま表面繊維径とした。
【0097】
〔非エンボス部繊維間の融着〕
表皮材の最表面のスパンボンド不織布の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式名:SU3500形)を用いて観察し、エンボス形状とは異なる融着形状である場合には、非エンボス部繊維間に融着があると判断した。また、エンボス形状と同等の融着形状である場合には、非エンボス部繊維間に融着がないと判断した。
【0098】
〔吸音率〕
JIS A 1405-2(伝達関数法)に準じて、太管として内径100mmの音響管を用い、細管として内径29mmの音響管を用い、垂直入射吸音率を測定した。なお、1/3オクターブバンド中心周波数50~1250Hzの吸音率は太管での測定結果であり、1600~2000Hzの吸音率は細管での測定結果である。
【0099】
〔浸水試験〕
10cm角の吸音材を試料とし、該試料を2リットルビーカーに収容された1リットルの蒸留水の水面に静かに浮かべ、1時間後の状態を観察し、浮かべた直後と変化が無ければ浸水なし(○)とし、浮かべた直後よりも吸音材の水面下への沈下がみられた場合は浸水あり(×)とした。た。なお、表皮材が吸音材の片面のみに備えられている場合は、表皮材が備えられている面を上面として前記蒸留水の水面に浮かべた。また、浸水試験後に、前記吸音率を測定し、次式(1)により浸水試験後の吸音率の変化率(%)を算出した。
【0100】
浸水試験後の吸音率の変化率(%)=
浸水試験後の吸音率/浸水試験前の吸音率 ・・・(1)
〔実施例1〕
本実施例では、次のようにして吸音材を得た。
【0101】
<表皮材の調製>
メルトフローレート(MFR)が60g/10分のプロピレン単重合体を用い、直径0.6mmの紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、230℃にて常法のスパンボンド法による溶融紡糸を行い、紡糸により得られた繊維を補集面上に堆積させ、平均繊維径が16μm、目付が10g/m2の第1のスパンボンド不織布A-1を得た。
【0102】
次に、MFRが400g/10分のプロピレン単重合体を、押出機を用いて280℃にて溶融し、得られた溶融物を、紡糸口金から吐出するとともに、280℃の加熱空気を吹付ける常法のメルトブローン法によって平均繊維径3μmの繊維を前記第1のスパンボンド不織布A-1上に堆積させ、目付が5g/m2のメルトブローン不織布B-1を形成した。
【0103】
次に、前記メルトブローン不織布B-1の上に、前記第1のスパンボンド不織布A-1と同一にして繊維を堆積させ、平均繊維径が16μm、目付が10g/m2の第2のスパンボンド不織布A-2を形成した。
【0104】
次に、前記第1のスパンボンド不織布A-1、メルトブローン不織布B-1、第1のスパンボンド不織布A-2の積層体を、温度をエンボスロール145℃、ミラーロール150℃に設定した刻印面積率18%の熱エンボスロールにて一体化し、メルトブローン不織布の表裏両面に第1のスパンボンド不織布と第2のスパンボンド不織布とが積層された3層構造(以下、SMS構造という)不織布を得た。前記SMS構造不織布の目付は25g/m2であった。
【0105】
次に、MFRが60g/10分のプロピレン単独重合体を用い、直径1.3mmの紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、230℃にて常法のスパンボンド法による溶融紡糸を行い、紡糸により得られた繊維を前記SMS構造不織布の上に堆積させ、平均繊維径が35μm、目付が100g/m2の第4のスパンボンド不織布Cを形成した。次に、前記SMS構造不織布と第4のスパンボンド不織布Cとの積層体を、温度をエンボスロール155℃、ミラーロール160℃に設定した刻印面積率18%の熱エンボスロール(エンボス柄0.9mm角)にて一体化し、表皮材として、前記SMS構造不織布の上に、前記第4のスパンボンド不織布Cが積層された4層構造(以下、SSMS構造という)不織布からなる表皮材を得た。前記表皮材の構成を、PP-SSMSということがある。
【0106】
<中綿の調製>
ポリプロピレン系短繊維(宇部エクシモ株式会社製、商品名:UCファイバー、平均繊維径21μm、平均繊維長51mm)60質量部と、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)系バインダー短繊維(ユニチカ株式会社製、商品名:メルティ4080、平均繊維径14μm、平均繊維長51mm)40質量部とを混合し、開繊機、カード機にてウェブを形成したのち、クロスレイヤー機にて多層積層し、約50mmのギャップ間距離に設定された熱風エアー処理機にて処理し、ポリプロピレン系短繊維とポリエチレンテレフタレート系短繊維とを含む約50mm厚のシート状不織布成形体からなる中綿を得た。
【0107】
<吸音材の調製>
次に、前記中綿を250mm(縦)×250mm(横)×49mm(厚み)にカットした。次に、カットした前記中綿の表裏両面に、前記表皮材を前記第4のスパンボンド不織布Cが最表面になるようにして配置し、前記中綿の周囲の該表皮材の周縁部を、超音波シール機(精電舎電子工業株式会社製、商品名:JII430SA)にて出力2.0V、圧力0.3MPa、速度5m/分の条件で融着して0.3mm幅の連続したシール部を形成し、前記中綿が前記表皮材に内包された吸音材を得た。前記シール部の外周の余った部分は裁断して削除した。
【0108】
次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0109】
〔実施例2〕
本実施例では、まず、MFRが60g/10分のプロピレン単重合体を用い、直径0.6mmの紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、230℃にて常法のスパンボンド法による溶融紡糸を行い、紡糸により得られた繊維を補集面上に堆積させ、得られた不織布を、温度をエンボスロール165℃、ミラーロール170℃に設定した刻印面積率18%(エンボス柄0.5mm角)の熱エンボスロールにて表面熱処理することにより、平均繊維径が21μm、目付が100g/m2の第3のスパンボンド不織布A-3を得た。
【0110】
次に、表皮材として、前記第3のスパンボンド不織布A-3を単層で用い、熱処理された表面を外側とした以外は、実施例1と全く同一にして、吸音材を得た。単層のスパンボンド不織布からなる前記表皮材の構成を、PP-SBということがある。次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0111】
〔実施例3〕
本実施例では、まず、MFRが60g/10分のプロピレン単独重合体を用い、直径1.3mmの紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、230℃にて常法のスパンボンド法による溶融紡糸を行い、紡糸により得られた繊維を補集面上に堆積させ、温度をエンボスロール150℃、ミラーロール160℃に設定した刻印面積率18%(エンボス柄0.9mm角)の熱エンボスロールにて表面熱処理することにより、平均繊維径が35μm、目付が100g/m2の第4のスパンボンド不織布C-1を得た。
【0112】
次に、表皮材として、前記第4のスパンボンド不織布C-1を単層で用いた以外は、実施例1と全く同一にして、吸音材を得た。次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0113】
〔実施例4〕
本実施例では、表皮材として、実施例2で得られた前記第3のスパンボンド不織布A-3を単層で用い、熱処理されていない表面を外側とした以外は、実施例1と全く同一にして、吸音材を得た。次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0114】
〔実施例5〕
本実施例では、溶融紡糸の際のエアー量を調整することにより、第4のスパンボンド不織布C-1の平均繊維径を40μmとした以外は、実施例3と全く同一にして、吸音材を得た。次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0115】
〔実施例6〕
本実施例では、メルトブローン不織布に用いる樹脂として、MFRが900g/10分のプロピレン単重合体を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、吸音材を得た。次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。結果を表1に示す。
【0116】
〔実施例7〕
本実施例では、中綿を調製する際に、クロスレイヤー機における積層数を調整し、かつ、熱風エアー処理機のギャップ間距離を25mmとして、厚みが25mmの中綿を得た以外は、実施例1と全く同一にして、吸音材を得た。次に、本実施例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0117】
〔比較例1〕
本比較例では、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)系短繊維60質量部(帝人フロンティア株式会社製、商品名:テトロン、平均繊維径30μm、平均繊維長51mm)60質量部と、実施例1と同一のポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)系バインダー短繊維40質量部とを含むシート状不織布成形体からなる中綿の一方の表面のみに、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)不織布(東洋紡株式会社製、商品名:ハイム、繊維径15μm、目付120g/m2)からなる表皮材を、スプレー糊(3M社製、品番:77)により積層して、片面表皮付きの吸音材を得た。ポリエチレンテレフタレート系繊維からなる単層のスパンボンド不織布からなる前記表皮材の構成を、PET-SBということがある。
【0118】
次に、本比較例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0119】
〔比較例2〕
本比較例では、比較例1と同一の中綿の表裏両面に、市販のポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)不織布(ユニチカ株式会社製、商品名:ポリエステルタフタ、撥水加工、繊維径23μm、目付100g/m2)からなる表皮材を積層し、縫製加工によりシール部を形成して吸音材を得た。
【0120】
次に、本比較例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0121】
〔比較例3〕
本比較例では、繊維径20μm、目付100g/m2の市販のポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)不織布(ユニチカ株式会社製、商品名:ポリエステルタフタ、撥水加工)を表皮材に用いた以外は、比較例2と同一にして吸音材を得た。
【0122】
次に、本比較例で得られた吸音材の物性及び性能を前述のようにして測定又は評価した。物性を表1に、性能のうち吸音率を表2に、浸水試験後の吸音率の変化率を表3に、それぞれ示す。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
表1~3から、少なくともポリエステル系樹脂からなる繊維を含む中綿が、ポリプロピレン系樹脂からなる繊維を含む不織布からなる表皮材に内包されている実施例1~7の吸音材によれば、水分が多い環境下でも吸音率が低下することがないことが明らかである。これに対し、表皮材がポリエステル系樹脂からなる繊維を含む不織布からなる比較例1~3の吸音材では、水分が多い環境下では吸音率が低下することが明らかである。
【0127】
以上のように、本実施形態の鉄道用の吸音壁構造によれば、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を具体的に実現することができる。
【0128】
なお、補足説明をすると、鉄道用の防音壁として要求される性能(制約条件)として、(1)列車風や飛雪荷重に耐えられる耐荷性、(2)設置上の制約として設置面積、背面空気層、さらに(3)これらを満たすためのフレーム材や設置方法が求められる。
【0129】
例えば、(1)列車風や飛雪荷重に耐えられる耐荷性については、防音壁としての強度として、吸音パネル11が、2942Pa(2942N/m2)の風荷重及び負圧荷重に対する強度、さらに、4413Pa(4413N/m2)の飛雪荷重に対する強度を有することが求められる。
【0130】
また、(2)設置上の制約として設置面積、背面空気層については、吸音パネル11(吸音材1)の寸法(幅×長さ)に応じた規定数量のほか、背面空気層を75mmとすることなどが求められる。
【0131】
さらに、(3)これらを満たすためのフレーム材や設置方法については、構成材料耐食性として、吸音パネル11が、JIS Z 2371(塩水噴霧試験方法)に規定する試験を行い、曲げ加工部等で3000時間後に膨れ、錆等の異常がないこと(赤錆レイティングナンバー9以上のこと。切断端部面は鋼板部分の浸食が0.1mm以下であること)。さらに、ボルト・ナット及びブラインドリベットの材質がステンレス材料でナットは緩み止め機能を有すること。また、防音壁壁面との間にはゴムパッキンを設置し、品質・形状はt2クロロプレンゴム以上、色は黒色とすることが求められる。
【0132】
本実施形態の鉄道用の吸音壁構造によれば、これら(1)~(3)で要求される性能(制約条件)を充足して、水分が多い環境下でも吸音率が低下し難い吸音材を組み込んだ鉄道用の吸音壁構造を具体的に実現することができる。
1…吸音材、 2…中綿、 3…表皮材、 4…シール部、 11…吸音パネル、 12…遮蔽板、 13…側壁、 14…フレーム、 15…保護パネル、20…壁面(コンクリート壁)、21…L型継手プレート、21a…平板部、21b…立ち上がり部、30…支柱、30a…フランジ、31…S型継手プレート、31a…第1平面部、31b…第2平面部、31c…垂直面部、40…板バネ、41…挟持部、42…進退ボルト、44…当接片部、45…入力部、50…板部材。