(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013974
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/508 20060101AFI20220112BHJP
F16F 9/348 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F16F9/508
F16F9/348
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116053
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】安井 剛
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA53
3J069CC15
3J069EE25
3J069EE28
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】サブバルブのオーバーライドの影響を受けず車両における乗り心地を向上できる緩衝器を提供する。
【解決手段】緩衝器Dは、アウターチューブ1とアウターチューブ1内に移動可能に挿入されるロッド2とを有して伸縮可能な緩衝器本体Aと、緩衝器本体A内に設けられる二つの作動室R1,R2を並列して連通するメイン通路MPとサブ通路SPと、メイン通路MPに設けられるメイン減衰力発生要素と、サブ通路SPに設けられるサブ減衰力発生要素SDとを備え、メイン減衰力発生要素MDは、メイン通路MPを開閉するメインバルブ4,7のみを有し、サブ減衰力発生要素SDは、サブ通路SPに直列に設けられるオリフィス2fとサブ通路SPを開閉するとともに開弁圧がメインバルブ4,7よりも低いサブバルブ13とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブと、前記アウターチューブ内に移動可能に挿入されるロッドとを有して伸縮可能な緩衝器本体と、
前記緩衝器本体内に設けられる二つの作動室を並列して連通するメイン通路とサブ通路と、
前記メイン通路に設けられるメイン減衰力発生要素と、
前記サブ通路に設けられるサブ減衰力発生要素とを備え、
前記メイン減衰力発生要素は、前記メイン通路を開閉するメインバルブのみを有し、
前記サブ減衰力発生要素は、前記サブ通路に直列に設けられるオリフィスと前記サブ通路を開閉するとともに開弁圧が前記メインバルブよりも低いサブバルブとを有する
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記オリフィスは、可変オリフィスである
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記アウターチューブ内に挿入されるとともに前記アウターチューブ内に前記二つの作動室を区画する隔壁部材を備え、
前記メイン通路は、前記隔壁部材に設けられるメインポートで形成され、
前記メインバルブは、前記隔壁部材に積層されるリーフバルブである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記隔壁部材を貫く軸部材を備え、
前記サブ通路は、前記軸部材内を通過する部分を有する
ことを特徴する請求項3に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記軸部材の先端に装着されて前記隔壁部材を前記軸部材に固定するとともに前記サブ通路の一部が形成されるバルブホルダを備え、
前記サブバルブは、前記バルブホルダに保持される
ことを特徴とする請求項4に記載の緩衝器。
【請求項6】
前記サブバルブは、
内周あるいは外周の一方が固定されて固定端とされ内周あるいは外周の他方を自由端として撓みが許容されるとともに前記サブ通路に設けられる環状弁体と、
前記環状弁体の自由端との間に環状隙間を開けて対向する環状対向部とを有する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、車両の車体と車輪との間に介装されて、伸縮時に生じる液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発生して車体の振動を抑制するのに利用されている。
【0003】
このような緩衝器は、車両における乗り心地をより一層向上できるような減衰力特性を実現すべく、日々改良されている。緩衝器の伸縮速度が微低速域においては、減衰力を伸縮速度に対して速やかに立ち上げるが、低速領域では減衰力が過剰とならないように減衰係数を低下させ、高速領域ではさらに一段減衰係数を低下させて伸縮速度に比例する減衰力を発揮させることにより、微低速域において車輪の振動を効果的に減衰させるとともにその他の速度域での車両における乗り心地を向上できる減衰力特性(
図7中の実線を参照)を実現する緩衝器が要望される場合がある。
【0004】
このような減衰力特性を実現する緩衝器は、たとえば、以下のように構成される。具体的には、緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドと、ピストンロッドの先端の外周に装着されてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、ピストンに積層されてピストンロッドに装着されるサブバルブケースと、環状であって内周がピストンロッドに固定されてピストンに設けられたポートを開閉する伸側リーフバルブと圧側リーフバルブと、環状であって内周がピストンロッドに固定されて外周が隙間を開けてサブバルブケースに設けられた円環状の弁座に対向するサブバルブとを備えて構成される(たとえば、特許文献1参照)。このように構成された緩衝器では、ピストンに設けられたポートと、サブバルブケースに設けられたサブポートとで伸側室と圧側室とを連通する通路を形成されており、サブバルブと伸側および圧側のリーフバルブとが前記通路に直列に配置されている。
【0005】
上記構成によれば、緩衝器の伸縮速度(ピストン速度)が低く、サブバルブが撓まない速度領域では、サブバルブの自由端の外周と円環状の弁座との間にできる隙間が狭い状態に維持される。しかし、緩衝器のピストン速度が上昇してサブバルブの自由端側の端部が撓むと、その自由端の外周にできる隙間が広くなって、ピストン速度が上昇したときの緩衝器の減衰係数が小さくなり、緩衝器の減衰力特性が速度に依存した特性となる。
【0006】
また、従来の緩衝器では、高速で伸縮した場合、伸側と圧側のリーフバルブが撓んでポートを大きく開放し作動油の流れに抵抗を与えるようになり、これによって緩衝器の伸縮速度が高速域では主として伸側と圧側のリーフバルブで減衰力を発生して減衰係数を低速域の減衰係数よりも一段低下させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の緩衝器では、サブバルブの固定端側の端部を間座で押さえており、この間座とサブバルブとが当接する当接部の自由端側の縁を支点にしてサブバルブが撓む。また、従来の緩衝器では、前述した通り、サブバルブが伸側リーフバルブと圧側リーフバルブに対して直列に設けられており、伸側室と圧側室とを行きかう作動油の全流量がサブバルブを通過する。そのため、従来の緩衝器では、サブバルブに大きな負荷がかかって限界を超えて撓んでしまうことのないように撓み量を規制するバルブストッパが設けられている。
【0009】
よって、緩衝器の伸縮速度が高速域にある場合に、サブバルブの撓みがバルブストッパで規制される関係で、サブバルブにおける流路面積が伸側と圧側のリーフバルブにおける流路面積以下となってボトルネックとなってしまう。すると、従来の緩衝器の減衰力特性は、
図7の破線で示したように、高速域における減衰力にサブバルブの抵抗による圧力損失分がオーバーライドされて、減衰力が過剰となってしまい、車両における乗り心地が損なわれてしまう。
【0010】
そこで、本発明は、サブバルブのオーバーライドの影響を受けず車両における乗り心地を向上できる緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する緩衝器は、アウターチューブと、アウターチューブ内に移動可能に挿入されるロッドとを有して伸縮可能な緩衝器本体と、緩衝器本体内に設けられる二つの作動室を並列して連通するメイン通路とサブ通路と、メイン通路に設けられるメイン減衰力発生要素と、サブ通路に設けられるサブ減衰力発生要素とを備え、メイン減衰力発生要素がメイン通路を開閉するメインバルブのみを有し、サブ減衰力発生要素がサブ通路に直列に設けられるオリフィスとサブ通路を開閉するとともに開弁圧がメインバルブよりも低いサブバルブとを有している。このように構成された緩衝器は、サブバルブが設けられるサブ通路とメインバルブが設けられるメイン通路が二つの作動室を並列して連通しているので、サブバルブの流路面積がボトルネックとなってメインバルブに影響を与えない。
【0012】
また、オリフィスを可変オリフィスとして緩衝器を構成してもよく、このように構成された緩衝器によれば、緩衝器の減衰力特性の調整と可変オリフィスの特性が減衰力特性に現れるタイミングを調整できる。
【0013】
また、緩衝器は、アウターチューブ内に挿入されるとともにアウターチューブ内に二つの作動室とを区画する隔壁部材を備え、メイン通路が隔壁部材に設けられるメインポートで形成され、メインバルブが隔壁部材に積層されるリーフバルブとされてもよい。このように構成された緩衝器によれば、隔壁部材にメイン通路とメインバルブを集約でき、メインバルブをリーフバルブとしたことで隔壁部材と隔壁部材に組み付けられるメインバルブのトータルの全長を短くしやすくなりストローク長の確保が容易となる。
【0014】
また、緩衝器は、隔壁部材を貫く軸部材を備え、サブ通路が軸部材内を通過する部分を有してもよい。このように構成された緩衝器では、サブ通路の設置が容易となる。
【0015】
さらに、緩衝器は、軸部材の先端に装着されて隔壁部材を軸部材に固定するとともにサブ通路の一部が形成されるバルブホルダを備え、サブバルブがバルブホルダに保持されてよい。このように構成された緩衝器では、サブバルブの設置が容易となるだけでなく、緩衝器の組み立てが非常に簡単となる。
【0016】
また、サブバルブが内周あるいは外周の一方が固定されて固定端とされ内周あるいは外周の他方を自由端として撓みが許容されるとともにサブ通路に設けられる環状弁体と、環状弁体の自由端との間に環状隙間を開けて対向する環状対向部とを備えていてもよい。このように構成された緩衝器によれば、環状弁体が撓まない状態において環状隙間でサブ通路を絞って減衰力を発揮できるとともに、外径の異なる環状弁体の交換によって減衰力特性を容易に調整できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の緩衝器によれば、サブバルブのオーバーライドの影響を受けず車両における乗り心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態の緩衝器の縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態の緩衝器の一部拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態の緩衝器のサブバルブの拡大断面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態の緩衝器の減衰力特性を示した図である。
【
図5】本発明の一実施の形態の第一変形例の緩衝器の一部拡大断面図である。
【
図6】本発明の一実施の形態の第二変形例の緩衝器の一部拡大断面図である。
【
図7】従来の緩衝器の減衰力特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、アウターチューブとしてのシリンダ1と、シリンダ1内に移動可能に挿入されるロッド2とを有して伸縮可能な緩衝器本体Aと、緩衝器本体A内に設けられる二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2と並列して連通するメイン通路MPとサブ通路SPと、メイン通路MPに設けられたメイン減衰力発生要素MDと、サブ通路SPに設けられたサブ減衰力発生要素SDとを備えている。そして、この緩衝器Dの場合、図示しない車両における車体と車軸との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0020】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1に示すように、緩衝器本体Aは、アウターチューブとしての有底筒状のシリンダ1と、シリンダ1内に移動可能に挿入されるロッド2と、ロッド2に連結されてシリンダ1内に移動可能に挿入されるとともにシリンダ1内を作動室としての伸側室R1と圧側室R2とに区画する隔壁部材としてのピストン3とを備えている。
【0021】
そして、ロッド2の
図1中上端となる基端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ロッド2が図外の前記ブラケットを介して車体と車軸の一方に連結される。また、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1が図外の前記ブラケットを介して車体と車軸の他方に連結される。
【0022】
このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ロッド2がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン3がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
【0023】
また、緩衝器本体Aは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、内周にロッド2が摺動自在に挿通される環状のロッドガイド10を備えている。よって、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン3から見てロッド2とは反対側に、フリーピストン11が摺動自在に挿入されている。
【0024】
シリンダ1内におけるフリーピストン11の上側には液室Lが形成され、下側にはガス室Gが形成されている。さらに、液室Lは、ピストン3でロッド2側の伸側室R1とピストン3側の圧側室R2とに区画されており、伸側室R1と圧側室R2には、それぞれ作動油等の液体が充填されている。その一方、ガス室Gには、エア、又は窒素ガス等の気体が圧縮された状態で封入されている。
【0025】
そして、緩衝器Dの伸長時にロッド2がシリンダ1から退出し、その退出したロッド2の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン11がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮時にロッド2がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したロッド2の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン11がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
【0026】
なお、フリーピストン11に替えて、ブラダ、又はベローズ等を利用して液室Lとガス室Gとを仕切っていてもよく、この仕切となる可動隔壁の構成は適宜変更できる。
【0027】
さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ロッド、単筒型であり、緩衝器Dの伸縮時にフリーピストン(可動隔壁)11でガス室Gを拡大又は縮小させて、シリンダ1に出入りするロッド2の体積補償をする。しかし、この体積補償のための構成も適宜変更できる。
【0028】
例えば、フリーピストン(可動隔壁)11とガス室Gとを廃し、シリンダ1の外周にアウターシェルを設けて緩衝器を複筒型にする。そして、シリンダ1とアウターシェルとの間に液体を貯留するリザーバ室を形成し、このリザーバ室で体積補償をしてもよい。さらに、そのリザーバ室は、シリンダ1とは別置き型のタンク内に形成されていてもよい。また、緩衝器Dは、ロッド2の中央にピストン3が装着されてシリンダ1の両端からロッド2の端部がシリンダ1外に突出する両ロッド型の緩衝器として構成されてもよい。
【0029】
ロッド2は、先端側に設けた小径部2aと、小径部2aより
図2中上側の大径部2bとの境に設けられた段部2cと、小径部2aの先端外周に設けられた螺子部2dと、小径部2aの先端から開口して軸方向へ延びる縦孔2eと、大径部2bから開口して縦孔2eへ通じるオリフィス2fとを備えている。
【0030】
つづいて、隔壁部材としてのピストン3は、環状であってロッド2の小径部2aの外周に嵌合されており、ロッド2の螺子部2dに螺着されるバルブホルダ12によってロッド2に固定されている。このように、本実施の形態では、ロッド2を軸部材として用いている。より詳細には、ピストン3は、環状の本体部3aと、本体部3aの外周に設けられてシリンダ1の内周に摺接する摺接筒3bと、本体部3aの同一円周上に設けられて本体部3aを軸方向に貫く伸側メインポート3cと、本体部3aの前記伸側メインポート3cよりも外周側の同一円周上に設けられて本体部3aを軸方向に貫く圧側メインポート3dと、本体部3aの
図2中下端の伸側メインポート3cと圧側メインポート3dとの間に設けられて伸側メインポート3cを取り囲む環状の伸側弁座3eと、本体部3aの
図2中上端に設けられて伸側メインポート3cを避けて圧側メインポート3dの開口のみをそれぞれ個別に取り囲む花弁型の圧側弁座3fとを備えて構成されている。そして、本実施の形態では、ピストン3に設けられた伸側メインポート3cと圧側メインポート3dとによって、伸側室R1と圧側室R2とを連通するメイン通路MPが構成されている。他方、ロッド2の内部およびオリフィス2fは、メイン通路MPを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通するサブ通路SPの一部を形成している。
【0031】
戻って、ピストン3の
図2中下面には、ロッド2の小径部2aに内周側が固定される積層リーフバルブでなる伸側メインバルブ4、伸側メインバルブ4の撓みの支点の位置を設定する環状であって伸側メインバルブ4より外径が小径な間座5および環状のスペーサ6が重ねられている。また、ピストン3の
図2中上面には、ロッド2の小径部2aに内周側が固定される積層リーフバルブでなる圧側メインバルブ7、圧側メインバルブ7の撓みの支点の位置を設定する環状であって圧側メインバルブ7より外径が小径な間座8およびバルブストッパ9が重ねられている。
【0032】
そして、これらのバルブストッパ9、間座8、圧側メインバルブ7、ピストン3、伸側メインバルブ4、間座5およびスペーサ6は、順にロッド2の小径部2aの外周に組み付けられた後、ロッド2の先端の螺子部2dに螺着されるバルブホルダ12とロッド2の段部2cとで挟持されてロッド2に固定される。
【0033】
伸側メインバルブ4は、複数の環状板を積層して構成された積層リーフバルブであって、内周が前述の通りロッド2に固定されてピストン3の
図2中下端に積層されてピストン3の伸側弁座3eに着座している。伸側メインバルブ4は、伸側弁座3eに着座した状態では伸側弁座3eにより取り囲まれている伸側メインポート3cを閉塞するが、圧側メインポート3dの入口については閉塞しない。そして、伸側メインバルブ4は、伸側メインポート3cを介して正面側に作用する伸側室R1の圧力と背面側に作用する圧側室R2との差圧が開弁圧に達すると外周を撓ませて伸側弁座3eから離間して伸側メインポート3cを開放し、伸側メインポート3cを通過する液体の流れに抵抗を与える。本実施の形態の緩衝器Dでは、伸側メインバルブ4は、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、伸側メインポート3cを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与える。また、伸側メインバルブ4は、伸側メインポート3cを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。
【0034】
また、伸側メインバルブ4の内周が当接する本体部3aの当接面より伸側弁座3eの方が
図2中下方へ突出していて、両者の高さに差(高低差)が設けられていて、伸側メインバルブ4は、ピストン3に重ねられてロッド2の外周に内周側が固定されると前記高低差によって外周が撓む。このように伸側メインバルブ4には、予め初期撓みが与えられて伸側弁座3eに自身が発揮する弾発力で自身を押し付けている。よって、伸側室R1と圧側室R2との差圧による伸側メインバルブ4を撓ませる力が前述の弾発力による押し付け力に打ち勝つようになるまで伸側メインバルブ4は開弁せず、この開弁時の差圧が伸側メインバルブ4の開弁圧となる。よって、伸側メインバルブ4の開弁圧は、伸側メインバルブ4の撓み剛性と伸側メインバルブ4に与える初期撓み量によって調整できる。
【0035】
他方の圧側メインバルブ7は、複数の環状板を積層して構成された積層リーフバルブであって、内周が前述の通りロッド2に固定されてピストン3の
図2中上端に積層されてピストン3の圧側弁座3fに着座している。圧側メインバルブ7は、圧側弁座3fに着座した状態では圧側弁座3fにより取り囲まれている圧側メインポート3dのみを閉塞するが、伸側メインポート3cの入口については閉塞しない。そして、圧側メインバルブ7は、圧側メインポート3dを介して正面側に作用する圧側室R2の圧力と背面側に作用する伸側室R1との差圧が開弁圧に達すると外周を撓ませて圧側弁座3fから離間して圧側メインポート3dを開放し、圧側メインポート3dを通過する液体の流れに抵抗を与える。本実施の形態の緩衝器Dでは、圧側メインバルブ7は、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、圧側メインポート3dを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに抵抗を与える。また、圧側メインバルブ7は、圧側メインポート3dを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。なお、圧側メインバルブ7の開弁圧は、伸側メインバルブ4と同様に、圧側メインバルブ7の撓み剛性と圧側メインバルブ7に与える初期撓み量によって調整できる。
【0036】
このように本実施の形態のメイン減衰力発生要素MDは、メイン通路MPを構成する伸側メインポート3cおよび圧側メインポート3dに設けられた伸側メインバルブ4と圧側メインバルブ7とで構成されている。
【0037】
なお、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7は、複数枚の環状板を積層して構成される積層リーフバルブとされているが、環状板の積層枚数は緩衝器Dに発生させた減衰力に応じて任意に変更でき、1枚の環状板のみで構成されるリーフバルブとされてもよい。また、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7は、リーフバルブ或いは積層リーフバルブ以外の構成のバルブとされてもよいが、薄い環状板を用いたリーフバルブ或いは積層リーフバルブとされることで緩衝器Dのピストン部の全長が長くならず緩衝器Dのストローク長を確保しやすくなるという利点を享受できる。
【0038】
また、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7は、間座5,8によって内周が支持されていて、間座5,8によって支持されていない外周側の撓みが許容される。よって、間座5,8の外径の設定によって、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7の撓みの支点の位置を変更できる。
【0039】
バルブストッパ9は、圧側メインバルブ7が大きく撓んだ際に圧側メインバルブ7の外周に当接して圧側メインバルブ7のそれ以上の撓みを規制して圧側メインバルブ7を保護する。
【0040】
スペーサ6は、複数枚の環状のワッシャで構成されており、後述するバルブホルダ12の位置を調整する。伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7の環状板の枚数の調整によって、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7の軸方向の厚みが薄くなった場合、スペーサ6のシムの枚数の調整によって、バルブホルダ12でバルブストッパ9、間座8、圧側メインバルブ7、ピストン3、伸側メインバルブ4、間座5およびスペーサ6に対して軸力をかけられなくなることが無いよう対処すればよい。
【0041】
バルブホルダ12は、サブ減衰力発生要素SDにおけるサブバルブ13における環状弁体14を保持する保持軸12aと、保持軸12aの
図2中上端に連なってロッド2の先端の螺子部2dに螺着される筒状のナット部12bと、保持軸12aの
図2中上端外周に設けたフランジ部12cと、フランジ部12cの
図2中下端外周から垂下されるとともに下端内周に内側へ向けて突出する環状突起を有する環状部12dとを備えている。また、バルブホルダ12の最大外径は、シリンダ1の内径よりも小さく、メイン通路MPによる伸側室R1と圧側室R2との連通を阻害しない。
【0042】
また、バルブホルダ12は、保持軸12aの
図2中下端外周に形成される螺子部12eと、保持軸12aの上端から開口してフランジ部12cの下端に開口してナット部12b内を環状部12d内に連通する連通孔12fとを備えている。
【0043】
保持軸12aの外周には、環状のスペーサ16、バルブストッパ17、間座18、サブバルブ13における環状弁体14および間座19が順に組付けられている。そして、これら環状のスペーサ16、バルブストッパ17、間座18、サブバルブ13における環状弁体14および間座19は、保持軸12aの螺子部12eに螺着されるナット20とフランジ部12cの付け根に形成される内周座部12gとで挟持された状態で固定される。
【0044】
このようにバルブホルダ12をロッド2の螺子部2dに取り付けると、連通孔12fがロッド2内およびロッド2に設けたオリフィス2fを通じて伸側室R1に連通される。また、連通孔12fは、環状部12dの内周を通じて圧側室R2に連通される。このように、本実施の形態の緩衝器Dでは、オリフィス2f、ロッド2内、連通孔12fおよび環状部12dの内側の空隙でメイン通路MPを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通するサブ通路SPを形成している。このように、メイン通路MPとサブ通路SPとは、並列して伸側室R1と圧側室R2とを連通している。
【0045】
サブバルブ13は、バルブホルダ12の保持軸12aの外周に内周が固定される環状弁体14と、バルブホルダ12の環状部12dの内周に周方向に沿って設けられた環状突起で形成される環状対向部15とを備えている。よって、サブバルブ13は、サブ通路SPにオリフィス2fと直列に設けられており、サブバルブ13とオリフィス2fとでサブ減衰力発生要素SDを構成している。また、オリフィス2fは、サブ通路SPのみに設けられており、メイン通路MPには設けられていない。また、オリフィス2fは、サブ通路SPに対してサブバルブ13と直列に設けられれば良いので、設置個所はロッド2に限られず、たとえば、バルブホルダ12の連通孔12fをオリフィスとするなどバルブホルダ12に設けてもよい。
【0046】
環状弁体14は、
図3に示すように、積層された三枚のリーフバルブ14a,14b,14cを有して構成されていて、弾性変形できる。そして、環状弁体14を構成する三枚のリーフバルブのうちの中央のリーフバルブ14bの外径は、上下両端に位置するリーフバルブ14a,14cの外径よりも大きい。なお、環状弁体14を構成するリーフバルブの枚数は、緩衝器Dで得たい減衰力に応じて任意に設定でき、複数でなくとも単数とされてもよい。
【0047】
そして、環状弁体14は、中央のリーフバルブ14bの外周面がバルブホルダ12に設けた環状対向部15の内周面に対向する位置に位置決めされて保持軸12aに固定される。また、上端のリーフバルブ14aとその直上のバルブストッパ17との間、および下端のリーフバルブ14cとその直下のナット20との間には、それぞれ間座18,19が介装されている。スペーサ16は、複数の環状板で構成されており、スペーサ16における環状板の積層枚数の調整によって、環状弁体14のリーフバルブ14bは、丁度環状対向部15の内周面と対向するように位置決めされる。
【0048】
これらの各間座18,19は、外径が環状弁体14を構成する各リーフバルブ14a,14b,14cの外径よりも小さい環状板であり、環状弁体14はその内周部を間座18,19で挟まれた状態でバルブホルダ12の保持軸12aに固定されている。その一方、環状弁体14の間座18,19よりも外周側は、間座18,19と環状弁体14との当接部の外周縁を支点に
図3中上下方へ撓んで変位できる。
【0049】
このように、本実施の形態では、バルブホルダ12に装着された環状弁体14の内周がバルブホルダ12の保持軸12aに対して動かない固定端となっており、環状弁体14の外周側に位置する中央のリーフバルブ14bの外周面が、バルブホルダ12に設けられた環状対向部15に対して上下方向へ動ける自由端となっている。
【0050】
また、バルブホルダ12における環状部12dには、環状部12dの内周の全周から径方向内側へ突出する環状突起で形成される環状対向部15が設けられており、その環状対向部15の内周側に環状弁体14が配置される。そして、緩衝器Dの動き出しのような、ピストン速度が0(ゼロ)に近い極低速域では、環状弁体14が撓まず、
図3に示す取付初期の状態に保たれる。
【0051】
このように、環状弁体14が撓んでいない状態では、
図3に示すように、環状弁体14のリーフバルブ14bは、外周面を環状対向部15の内周面に正対させて、環状対向部15との間に所定の環状隙間Pをあけて対向する。そして、本実施の形態では、正対するリーフバルブ14bと環状対向部15との間にできる環状隙間Pは非常に狭く、その環状隙間Pの開口面積は、前述のオリフィス2fの開口面積よりも小さい。
【0052】
その一方、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が低速域、又は中高速域にある場合には、環状弁体14の外周部が撓み支点に下側へと撓む。反対に、緩衝器Dの収縮時であってピストン速度が低速域、又は中高速域にある場合には、環状弁体14の外周部が撓み支点に上側へと撓む。環状弁体14が撓んで環状対向部15から離間して開弁する際の伸側室R1と圧側室R2の差圧、つまり、サブバルブ13の開弁圧は、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7の開弁圧より低く、ピストン速度が低速域にある場合、サブバルブ13は前述の通り開弁するが、伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7は開弁せず、液体はサブ通路SPのみを通過することになる。
【0053】
このように、環状弁体14の外周部が上下に撓む低速域、及び高速域では、上下にずれた環状弁体14のリーフバルブ14bと環状対向部15との間にできる環状隙間の開口面積が、オリフィス2fの開口面積よりも大きくなる。
【0054】
また、環状弁体14の上側に位置するバルブストッパ17は、サブ通路SPを流れる液体の流量が多くなって環状弁体14が大きく撓むとリーフバルブ14bの
図3中上端面に当接して、環状弁体14のそれ以上の
図3中上方側への撓みを規制して、環状弁体14を保護する。また、バルブストッパ17は、環状弁体14に対向する
図3中下面の外周から内周側へ向けて形成される切欠17aを備えている。切欠17aは、バルブストッパ17にリーフバルブ14bが当接しても環状弁体14とバルブストッパ17とで区画される空隙を外方へ連通させて当該空隙が閉鎖空間となるのを防止している。この切欠17aの設置により、バルブストッパ17にリーフバルブ14bが当接して際にリーフバルブ14bがバルブストッパ17に吸着するのが防止される。よって、サブバルブ13が最大限に開弁してから閉弁側へ動作した際に、サブバルブ13のサブ通路SPの閉じ遅れが阻止される。
【0055】
さらに、環状弁体14の下側に位置するナット20は、サブ通路SPを流れる液体の流量が多くなって環状弁体14が大きく撓むとリーフバルブ14bの
図3中下端面に当接して、環状弁体14のそれ以上の
図3中上方側への撓みを規制して、環状弁体14を保護する。よって、ナット20は、バルブホルダ12に環状弁体14、スペーサ16、バルブストッパ17、間座18,19を固定する役割を果たすとともに環状弁体14の
図3中下方側の撓みを規制するバルブストッパとしても機能している。
【0056】
また、ナット20は、環状弁体14に対向する
図3中上面の外周から内周側へ向けて形成される切欠20aを備えている。切欠20aは、ナット20にリーフバルブ14bが当接しても環状弁体14とナット20とで区画される空隙を外方へ連通させて当該空隙が閉鎖空間となるのを防止している。この切欠20aの設置により、ナット20にリーフバルブ14bが当接して際にリーフバルブ14bがナット20に吸着するのが防止される。よって、サブバルブ13が最大限に開弁してから閉弁側へ動作した際に、サブバルブ13のサブ通路SPの閉じ遅れが阻止される。
【0057】
以下、本実施の形態に係る緩衝器Dの作動について説明する。緩衝器Dの伸長時には、ピストン3がシリンダ1内を上方へ移動して伸側室R1を圧縮する。緩衝器Dの伸長速度が微低速域にある場合、伸側室R1の圧力が上昇するものの圧側室R2の圧力との差圧が伸側メインバルブ4の開弁圧に達しないため、伸側メインバルブ4は開弁せず伸側メインポート3cを閉塞したまま維持する。圧側メインバルブ7は、伸側室R1の圧力を背面側から受けて圧側メインポート3dを閉塞する。緩衝器Dの伸長速度が微低速域にある場合、伸側室R1の圧力が上昇するものの圧側室R2の圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧に達しないため、サブバルブ13は閉弁状態となるが環状弁体14と環状対向部15との間に環状隙間Pが形成されている。よって、液体は、遮断されるメイン通路MPを通過できないものの、サブ通路SPを介して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。液体は、サブ通路SPを通過する際に、オリフィス2fおよび環状隙間Pを通過するが閉弁状態のサブバルブ13における環状隙間Pの流路面積はオリフィス2fの流路面積よりも小さい。そのため、緩衝器Dの伸長速度が微低速域にある場合、緩衝器Dは、主としてサブバルブ13が液体に与える抵抗によって伸長を妨げる減衰力を発生する。したがって、緩衝器Dの伸長速度が微低速域にある場合の緩衝器Dの伸側の減衰力特性(緩衝器Dの伸長速度に対する減衰力の特性)は、
図4に示したように、減衰係数が非常に大きくピストン速度の増加に対して大きく立ち上がる特性となる。
【0058】
緩衝器Dの伸長速度が微低速域を超えて低速域にある場合、伸側室R1の圧力が上昇するものの圧側室R2の圧力との差圧が伸側メインバルブ4の開弁圧に達しないため、伸側メインバルブ4は未だ開弁せず伸側メインポート3cを閉塞したまま維持する。圧側メインバルブ7は、伸側室R1の圧力を背面側から受けて圧側メインポート3dを閉塞する。緩衝器Dの伸長速度が低速域にある場合、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧を超えるので環状弁体14が撓んでサブバルブ13が開弁して環状弁体14と環状対向部15との間の環状隙間Pの流路面積が大きくなる。よって、液体は、遮断されるメイン通路MPを通過できないものの、サブ通路SPを介して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。液体は、サブ通路SPを通過する際に、オリフィス2fおよび環状隙間Pを通過するが開弁状態のサブバルブ13における環状隙間Pの流路面積はオリフィス2fの流路面積よりも大きくなる。よって、緩衝器Dの伸長速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、主としてオリフィス2fが液体に与える抵抗によって伸長を妨げる減衰力を発生する。したがって、緩衝器Dの伸長速度が微低速域にある場合の緩衝器Dの伸側の減衰力特性は、
図4に示したように、オリフィス特有の緩衝器Dの伸長速度の2乗に比例する特性となるが、前記伸長速度が微低速域にある場合に比較して傾きが寝る特性となる。
【0059】
さらに、緩衝器Dの伸長速度が低速域を超えて中高速域にある場合、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差圧が伸側メインバルブ4の開弁圧に達して、伸側メインバルブ4が撓んで開弁して伸側メインポート3cを開放する。圧側メインバルブ7は、伸側室R1の圧力を背面側から受けて圧側メインポート3dを閉塞する。緩衝器Dの伸長速度が中高速域にある場合、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧を超えているのでサブバルブ13が開弁して環状弁体14と環状対向部15との間の環状隙間Pの流路面積が大きくなる。液体は、サブ通路SPを通過し得るがメイン通路MPも開放されるので、両者を通じて伸側室R1から圧側室R2へ移動する。緩衝器Dの伸長速度が中高速域にある場合、伸側室R1から圧側室R2へ移動する液体の流量が多くなるので、サブ通路SPのオリフィス2fとサブバルブ13を通過する際に液体がうける抵抗は、伸側メインバルブ4を通過する際に液体が受ける抵抗よりも大きくなるので、液体は、サブ通路SPを通過しがたくなり、伸側室R1から圧側室R2へ移動する液体の殆どは、メイン通路MPを通過するようになる。よって、緩衝器Dの伸長速度が中高速域にある場合、緩衝器Dは、主として伸側メインバルブ4が液体に与える抵抗によって伸長を妨げる減衰力を発生する。したがって、緩衝器Dの伸長速度が中高速域にある場合の緩衝器Dの伸側の減衰力特性は、
図4に示したように、伸側メインバルブ4の特有の緩衝器Dの伸長速度に比例するような特性となるが、前記伸長速度が低速域にある場合に比較して減衰係数が小さくなる特性となる。
【0060】
つづいて、緩衝器Dの収縮時には、ピストン3がシリンダ1内を下方へ移動して圧側室R2を圧縮する。緩衝器Dの収縮速度が微低速域にある場合、圧側室R2の圧力が上昇するものの伸側室R1の圧力との差圧が圧側メインバルブ7の開弁圧に達しないため、圧側メインバルブ7は開弁せず圧側メインポート3dを閉塞したまま維持する。伸側メインバルブ4は、圧側室R2の圧力を背面側から受けて伸側メインポート3cを閉塞する。緩衝器Dの収縮速度が微低速域にある場合、圧側室R2の圧力が上昇するものの伸側室R1の圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧に達しないため、サブバルブ13は閉弁状態となるが環状弁体14と環状対向部15との間に環状隙間Pが形成されている。よって、液体は、遮断されるメイン通路MPを通過できないものの、サブ通路SPを介して圧側室R2から伸側室R1へ移動する。液体は、サブ通路SPを通過する際に、オリフィス2fおよび環状隙間Pを通過するが閉弁状態のサブバルブ13における環状隙間Pの流路面積はオリフィス2fの流路面積よりも小さい。そのため、緩衝器Dの収縮速度が微低速域にある場合、緩衝器Dは、主としてサブバルブ13が液体に与える抵抗によって収縮を妨げる減衰力を発生する。したがって、緩衝器Dの収縮速度が微低速域にある場合の緩衝器Dの圧側の減衰力特性は、
図4に示したように、減衰係数が非常に大きくピストン速度の増加に対して大きく立ち上がる特性となる。
【0061】
緩衝器Dの収縮速度が微低速域を超えて低速域にある場合、圧側室R2の圧力が上昇するものの伸側室R1の圧力との差圧が圧側メインバルブ7の開弁圧に達しないため、圧側メインバルブ7は未だ開弁せず圧側メインポート3dを閉塞したまま維持する。伸側メインバルブ4は、圧側室R2の圧力を背面側から受けて伸側メインポート3cを閉塞する。緩衝器Dの収縮速度が低速域にある場合、圧側室R2の圧力と伸側室R1の圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧を超えるので環状弁体14が撓んでサブバルブ13が開弁して環状弁体14と環状対向部15との間の環状隙間Pの流路面積が大きくなる。よって、液体は、遮断されるメイン通路MPを通過できないものの、サブ通路SPを介して圧側室R2から伸側室R1へ移動する。液体は、サブ通路SPを通過する際に、オリフィス2fおよび環状隙間Pを通過するが開弁状態のサブバルブ13における環状隙間Pの流路面積はオリフィス2fの流路面積よりも大きくなる。よって、緩衝器Dの収縮速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、主としてオリフィス2fが液体に与える抵抗によって収縮を妨げる減衰力を発生する。したがって、緩衝器Dの収縮速度が低速域にある場合の緩衝器Dの圧側の減衰力特性は、
図4に示したように、オリフィス特有の緩衝器Dの収縮速度の2乗に比例する特性となるが、前記収縮速度が微低速域にある場合に比較して傾きが寝る特性となる。
【0062】
さらに、緩衝器Dの収縮速度が低速域を超えて中高速域にある場合、圧側室R2の圧力と伸側室R1の圧力との差圧が圧側メインバルブ7の開弁圧に達して、圧側メインバルブ7が撓んで開弁して圧側メインポート3dを開放する。伸側メインバルブ4は、圧側室R2の圧力を背面側から受けて伸側メインポート3cを閉塞する。緩衝器Dの収縮速度が中高速域にある場合、圧側室R2の圧力と伸側室R1の圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧を超えているのでサブバルブ13が開弁して環状弁体14と環状対向部15との間の環状隙間Pの流路面積が大きくなる。液体は、サブ通路SPを通過し得るがメイン通路MPも開放されるので、両者を通じて圧側室R2から伸側室R1へ移動する。緩衝器Dの収縮速度が中高速域にある場合、圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流量が多くなるので、サブ通路SPのオリフィス2fとサブバルブ13を通過する際に液体がうける抵抗は、圧側メインバルブ7を通過する際に液体が受ける抵抗よりも大きくなるので、液体は、サブ通路SPを通過しがたくなり、圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の殆どは、メイン通路MPを通過するようになる。よって、緩衝器Dの収縮速度が中高速域にある場合、緩衝器Dは、主として圧側メインバルブ7が液体に与える抵抗によって収縮を妨げる減衰力を発生する。したがって、緩衝器Dの収縮速度が中高速域にある場合の緩衝器Dの圧側の減衰力特性は、
図4に示したように、伸側メインバルブ4の特有の緩衝器Dの収縮速度に比例するような特性となるが、前記収縮速度が低速域にある場合に比較して減衰係数が小さくなる特性となる。
【0063】
ここで、本実施の形態の緩衝器Dでは、伸側室R1と圧側室R2とを並列して連通するメイン通路MPとサブ通路SPと、メイン通路MPにおけるメイン減衰力発生要素MDとサブ通路SPに設けられるサブ減衰力発生要素SDとを備え、メイン減衰力発生要素MDがメイン通路MPを開閉するメインバルブとしての伸側メインバルブ4と圧側メインバルブ7のみを有し、サブ減衰力発生要素SDがサブ通路SPに直列に設けられるオリフィス2fとサブ通路SPを開閉するとともに開弁圧がメインバルブとしての伸側メインバルブ4と圧側メインバルブ7よりも低いサブバルブ13とを有して構成されている。このように構成された緩衝器Dでは、オリフィス2fとサブバルブ13が設けられるサブ通路SPとメインバルブとしての伸側メインバルブ4と圧側メインバルブ7のみを有するメイン通路MPとが並列して伸側室R1と圧側室R2とを連通しているので、サブバルブ13がバルブストッパ17或いはナット20によって撓みが規制されてもメイン通路MPを通過する液体の流れに対して影響を与えない。つまり、本実施の形態の緩衝器Dでは、サブバルブ13が流路面積を最小に制限するボトルネックとなることがない。したがって、緩衝器Dの伸縮速度が高速域に達しても、ピストン3によって圧縮される伸側室R1の液体の多くはメイン通路MPを流れるので、サブバルブ13による圧力損失が伸側メインバルブ(メインバルブ)4における圧力損失に加わって、減衰力が過剰となるオーバーライドを抑制できる。
【0064】
なお、このように本実施の形態の緩衝器Dでは、主としてサブバルブ13で減衰力を発生する速度域を微低速域とし、主としてオリフィス2fで減衰力を発生する速度域を低速域とし、主として伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7で減衰力を発生する速度域を中高速域としている。なお、微低速、低速および中高速の区分する速度については設計者が任意に設定できる。
【0065】
以上のように、緩衝器Dは、シリンダ(アウターチューブ)1と、シリンダ(アウターチューブ)1内に移動可能に挿入されるロッド2とを有して伸縮可能な緩衝器本体Aと、緩衝器本体A内に設けられる伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2とを並列して連通するメイン通路MPとサブ通路SPと、メイン通路MPに設けられるメイン減衰力発生要素MDと、サブ通路SPに設けられるサブ減衰力発生要素SDとを備え、メイン減衰力発生要素MDは、メイン通路MPを開閉する伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7のみを有し、サブ減衰力発生要素SDは、サブ通路SPに直列に設けられるオリフィス2fとサブ通路SPを開閉するとともに開弁圧が伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7よりも低いサブバルブ13とを備えている。このように構成された緩衝器Dでは、サブバルブ13が設けられるサブ通路SPと伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7が設けられるメイン通路MPが伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2とを並列して連通しているので、サブバルブ13の流路面積がボトルネックとなって伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7に影響を与えない。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、緩衝器Dの伸縮速度が高速域に達しても伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7の特性にサブバルブ13の特性がオーバーライドして減衰力が過剰となる現象が発生せず、車両における乗心地を向上できる。
【0066】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、メイン通路MPにおける伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7の開弁圧よりもメイン通路MPに並列されるサブ通路SPのサブバルブ13の開弁圧が低く、サブ通路SPのみにオリフィス2fを備えているので、緩衝器Dの微低速域、低速域および中高速域の減衰力特性を、対応するサブバルブ13、オリフィス2fおよび伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7の特性で設定できる。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、減衰力特性を細かく設定できる。
【0067】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ(アウターチューブ)1内に挿入されるとともにシリンダ(アウターチューブ)1内に伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2とを区画するピストン(隔壁部材)3を備え、メイン通路MPがピストン(隔壁部材)3に設けられる伸側メインポート(メインポート)3cおよび圧側メインポート(メインポート)3dで形成され、伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7がピストン(隔壁部材)3に積層されるリーフバルブとされている。このように構成された緩衝器Dによれば、ピストン(隔壁部材)3にメイン通路MPと伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7を集約でき、伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7をリーフバルブとしたことでピストン(隔壁部材)3とピストン(隔壁部材)3に組み付けられる伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7のトータルの全長を短くしやすくなりストローク長の確保が容易となる。
【0068】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン(隔壁部材)3を貫くロッド(軸部材)2を備え、サブ通路SPがロッド(軸部材)2内を通過する部分を有している。このように構成された緩衝器Dでは、二つの作動室を伸側室R1と圧側室R2とする場合において、ピストン(隔壁部材)3にメイン通路MPと伸側メインバルブ(メインバルブ)4および圧側メインバルブ(メインバルブ)7を集約しつつ、ロッド(軸部材)2内にメイン通路MPを迂回するサブ通路SPの一部が形成されるので、サブ通路SPの設置が容易となる。
【0069】
なお、メインバルブとしての伸側メインバルブ4および圧側メインバルブ7と、とサブバルブ13については、リーフバルブ以外にも開弁圧の設定が可能な開閉型のバルブであってもよい。
【0070】
さらに、本実施の形態の緩衝器Dでは、ロッド(軸部材)2の先端に装着されてピストン(隔壁部材)3をロッド(軸部材)2に固定するとともにサブ通路SPの一部が形成されるバルブホルダ12を備え、サブバルブ13がバルブホルダ12に保持されている。このように構成された緩衝器Dでは、バルブホルダ12に予めサブバルブ13をアッセンブリ化でき、バルブホルダ12をロッド(軸部材)2にピストン(隔壁部材)3を固定するナットとしても利用できる。よって、このように構成された緩衝器Dによれば、サブバルブ13の設置が容易となるだけでなく、緩衝器Dの組み立てが非常に簡単となる。
【0071】
なお、本実施の形態では、サブバルブ13は、環状弁体14が内周固定で外周側の撓みが許容されており、外周の環状対向部15に対向している構造となっているが、サブバルブの環状弁体を外周固定にして内周側の撓みを可能として、この環状弁体の内周に環状弁座を対向させる構造を備えていてもよい。
【0072】
そして、本実施の形態の緩衝器Dでは、サブバルブ13は、内周あるいは外周の一方が固定されて固定端とされ内周あるいは外周の他方を自由端として撓みが許容されるとともにサブ通路SPに設けられる環状弁体14と、環状弁体14の自由端との間に環状隙間Pを開けて対向する環状対向部15とを備えている。このように構成された緩衝器Dによれば、環状弁体14が撓まない状態において環状隙間Pでサブ通路SPを絞って減衰力を発揮でき、伸縮速度が極低速域における減衰力を発生できるとともに、環状弁体14の外径の大きさで環状隙間Pの開口面積の調整できるから、外径の異なる環状弁体14の付け替えによって減衰力特性を容易に調整できる。
【0073】
また、
図2に示したところでは、オリフィス2fを固定オリフィスとしていたが、
図5に示した一実施の形態の第一変形例の緩衝器D1のように、サブ通路SPに設けられるオリフィスを可変オリフィスとしてもよい。具体的には、
図5に示すように、緩衝器D1は、緩衝器Dの構成から以下のように変更した構成を備えればよい。緩衝器D1は、オリフィス2fの代わりにロッド2の大径部2bの側方からロッド2内へ通じる横孔2gを備えるとともに、ロッド2内であって横孔2gよりも
図5中下方に挿入されて固定される環状の弁座部材22と、ロッド2内に収容されるとともに弁座部材22に遠近可能なニードル23とを備えている。そして、ニードル23が弁座部材22に対して遠近することでニードル23と弁座部材22との間の流路面積を変更可能となっており、ニードル23と弁座部材22とで可変オリフィスVOを形成している。また、ニードル23は、ロッド2の上端からロッド2内に挿入されるコントロールロッド24に連結されており、コントロールロッド24の操作によって弁座部材22に対して遠近して弁座部材22との軸方向距離を変化させる。なお、コントロールロッド24は、図示しないモータや直動のアクチュエータによって駆動されてもよいし、手動によって操作されるものであってもよい。このように構成された緩衝器D1は、可変オリフィスVOの流路面積の変更で、緩衝器D1の減衰力特性の調整と可変オリフィスVOの特性が前記減衰力特性に現れるタイミングを調整が可能となる。
【0074】
また、
図1に示したところでは、軸部材をロッド2とし、隔壁部材をピストン3として、二つの作動室を伸側室R1と圧側室R2としているが、
図6に示した複筒型の緩衝器D2のように、圧側室R4とリザーバRとを仕切るバルブケース30を隔壁部材として、軸部材をバルブケース30にメインバルブ31を固定するためのガイドロッド32とし、二つの作動室を圧側室R2とリザーバRとしてもよい。
【0075】
緩衝器D2は、シリンダ34と、シリンダ34の外周を覆うとともにシリンダ34との間にリザーバRを形成する有底筒状のアウターチューブ35と、シリンダ34内に移動可能に挿入されるロッド36とを備えた緩衝器本体A1と、ロッド36に連結されてシリンダ34内に移動可能に挿入されてシリンダ34内を伸側室R3と圧側室R4とに区画するピストン37と、シリンダ34の
図5中下端に嵌合するとともにアウターチューブ35の底部との間で挟持されるとともにアウターチューブ35内にリザーバRと圧側室R4とを区画する隔壁部材としてのバルブケース30と、バルブケース30に設けたメインポートとしての排出ポート30cと、排出ポート30cを開閉するメインバルブ31と、バルブケース30を貫く軸部材してのガイドロッド32とを備えている。
【0076】
シリンダ34とアウターチューブ35の上端は、図示しない環状であって内周にロッド36が挿通されるロッドガイドによって閉塞されており、シリンダ34およびアウターチューブ35内は、密閉空間とされている。
【0077】
ピストン37は、シリンダ34内を液体が充填される伸側室R3と圧側室R4とに区画するとともに、伸側室R3と圧側室R4とを連通する通路37a,37bと、通路37aの途中に設けられて伸側室R3から圧側室R4へ向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える減衰バルブ37cと、通路37bの途中に設けられて圧側室R4から伸側室R3へ向かう液体の流れのみを許容するとともに液体の流れに抵抗を与える減衰バルブ37dとを備えている。
【0078】
バルブケース30は、シリンダ34の下端に嵌合されて、圧側室R4とシリンダ34とアウターチューブ35との間に形成されるリザーバRとを区画している。このように本実施の形態の緩衝器D2では、アウターチューブ35内の圧側室R4とリザーバRとを作動室とし、これらを区画するバルブケース30を隔壁部材としている。
【0079】
詳細には、バルブケース30は、環状であって、シリンダ34の
図6中下端に嵌合される本体部30aと、本体部30aの下端外周から下方へ向けて延びる環状の脚部30bと、本体部30aの同一円周上に設けられて本体部30aを軸方向に貫くメインポートとしての排出ポート30cと、本体部30aの排出ポート30cよりも外周側の同一円周上に設けられて本体部30aを軸方向に貫く吸込ポート30dと、本体部30aの
図6中下端の排出ポート30cとを備えて構成されている。そして、本実施の形態では、バルブケース30に設けられた排出ポート30cによって、作動室としての圧側室R4と作動室としてのリザーバRとを連通するメイン通路MPとしてのメインポートを形成している。また、バルブケース30は、脚部30bにシリンダ34とアウターチューブ35との間の環状隙間と脚部30b内とを連通する切欠30eが設けられており、メインポートによる圧側室R4とリザーバRとの連通を妨げないようになっている。
【0080】
また、バルブケース30の内周には、軸部材としてのガイドロッド32が挿通されている。ガイドロッド32は、バルブケース30内に挿入される筒状の軸部32aと、軸部32aの先端外周に設けられた螺子部32bと、軸部32aの基端外周に設けられたフランジ部32cとを備えている。また、軸部32a内の途中には、オリフィス32dが設置されている。
【0081】
バルブケース30の
図6中下端には、排出ポート30cを開閉する環状の積層リーフバルブでなるメインバルブ31が重ねられており、バルブケース30の
図6中上端には、吸込ポート30dを開閉する環状のチェックバルブ33が重ねられている。これらのメインバルブ31、バルブケース30およびチェックバルブ33は、ガイドロッド32の軸部32aの外周に順番に組み付けられるとともに、螺子部32bに螺着されるバルブホルダ12とフランジ部32cとで挟持されてガイドロッド32に固定されている。バルブホルダ12は、緩衝器Dにおけるバルブホルダと同一部品であって、サブバルブ13を保持するとともに、隔壁部材としてのバルブケース30を軸部材としてのガイドロッド32に固定する役割も果たしている。
【0082】
メインバルブ31は、複数の環状板を積層して構成された積層リーフバルブであって、内周が前述の通りガイドロッド32に固定されてバルブケース30の
図6中下端に積層されてバルブケース30の
図6中下端に設けられて排出ポート30cを取り囲む弁座30fに着座している。メインバルブ31は、弁座30fに着座した状態では弁座30fにより取り囲まれている排出ポート30cのみを閉塞し、吸込ポート30dの入口については閉塞しない。そして、メインバルブ31は、排出ポート30cを介して正面側に作用する圧側室R4の圧力と背面側に作用するリザーバRとの差圧が開弁圧に達すると外周を撓ませて弁座30fから離間して排出ポート30cを開放し、排出ポート30cを通過する液体の流れに抵抗を与える。本実施の形態の緩衝器D2では、メインバルブ31は、緩衝器Dの収縮時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、排出ポート30cを圧側室R4からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与える。また、メインバルブ31は、排出ポート30cを圧側室R4からリザーバRへ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。このように本実施の形態の緩衝器D2におけるメイン減衰力発生要素MDは、メイン通路MPを構成する排出ポート30cに設けられたメインバルブ31で構成されており、オリフィスを備えていない。
【0083】
なお、メインバルブ31の開弁圧の設定は、緩衝器Dと同様にメインバルブ31の撓み剛性と初期撓み量によって調整でき、撓みの支点の位置の調整についてはメインバルブ31の背面側に積層される間座40の外径の変更で行うことができる。また、メインバルブ31の最大撓み量の規制のためのバルブストッパを設けてもよいし、ガイドロッド32のフランジ部32cをメインバルブ31のバルブストッパとして用いてもよい。
【0084】
また、チェックバルブ33は、環状板で構成されており、内周が前述の通りガイドロッド32に固定されてバルブケース30の
図6中上面に積層されてバルブケース30の
図6中上端に設けられて吸込ポート30dを取り囲む弁座30gに着座している。チェックバルブ33は、弁座30gに着座した状態では弁座30gにより取り囲まれている吸込ポート30dのみを閉塞する。なお、チェックバルブ33は、排出ポート30cに対向する位置に透孔33aを備えており、バルブケース30の
図6中上面に当接した状態でも排出ポート30cを閉塞することはない。そして、チェックバルブ33は、リザーバRの圧力よりも圧側室R4の圧力が低下すると撓んで吸込ポート30dを開放し、排出ポート30cを介してリザーバRから圧側室R4へ移動する液体の流れを許容する。このように、チェックバルブ33は、吸込ポート30dをリザーバRから圧側室R4へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。
【0085】
そして、前述のようにバルブホルダ12がガイドロッド32に螺着されると、軸部32a内がバルブホルダ12の連通孔12fに対向し、軸部32a内が連通孔12fを通じて圧側室R4に連通される。また、軸部32aの
図6中下端は、リザーバRに望んでいるので、バルブホルダ12の環状部12d内、連通孔12fおよび軸部32a内を通じて圧側室R4とリザーバRとが連通されている。よって、軸部32aおよびバルブホルダ12は、メイン通路MPに並列して圧側室R4とリザーバRと連通するサブ通路SPを形成している。
【0086】
バルブホルダ12およびサブバルブ13は、緩衝器Dと同様の構成とされている。よって、サブバルブ13は、環状弁体14とバルブホルダ12に設けた環状対向部15とで構成されている。そして、環状弁体14は、スペーサ16、バルブストッパ17、間座18、および間座19とともに保持軸12aの外周に組み付けられた状態で、螺子部12eに螺着されるナット20とフランジ部12cの付け根に形成される内周座部12gとで挟持されてバルブホルダ12に固定される。よって、緩衝器D2にあっても、二つの作動室である圧側室R4とリザーバRとが並列されるメイン通路MPとサブ通路SPによって連通されており、メイン通路MPを形成するメインポートである排出ポート30cにメインバルブ31が設けられ、サブ通路SPにサブ減衰力発生要素SDとしてのオリフィス32dおよびサブバルブ13が直列に設けられている。そして、メインバルブ31の開弁圧は、サブバルブ13の開弁圧よりも大きくなるように設定される。
【0087】
そして、環状弁体14が撓んでいない状態における環状隙間Pの開口面積は、前述のオリフィス32dの開口面積よりも小さい。緩衝器D2の収縮時であってピストン速度が低速域、又は中高速域にある場合には、環状弁体14が撓んで環状隙間Pの開口面積がオリフィス32dよりも大きくなる。サブバルブ13の開弁圧は、メインバルブ31の開弁圧より低く、緩衝器D2の収縮時におけるピストン速度が低速域にある場合、サブバルブ13は前述の通り開弁するが、メインバルブ31は開弁せず、液体はサブ通路SPのみを通過することになる。
【0088】
このように構成された緩衝器D2の伸長時には、ピストン37がシリンダ34内を上方へ移動して伸側室R3を圧縮する。液体は、圧縮される伸側室R3からピストン37の通路37aおよび減衰バルブ37cを通過して拡大される圧側室R4へ移動する。ロッド36のシリンダ34からの退出によって、ロッド36がシリンダ34から退出した体積分の液体がシリンダ34内で不足するが、不足分の液体は、チェックバルブ33が開弁してリザーバRから吸込ポート30dを通じて圧側室R4へ供給される。よって、緩衝器D2は、伸長時に減衰バルブ37cによって伸長を妨げる減衰力を発生する。
【0089】
これに対して、緩衝器D2の収縮時には、ピストン37がシリンダ34内を下方へ移動して圧側室R4を圧縮する。液体は、圧縮される圧側室R4からピストン37の通路37bおよび減衰バルブ37dを通過して拡大される伸側室R3へ移動する。緩衝器D2が収縮する場合、ロッド36がシリンダ34内へ侵入するため、ロッド36がシリンダ34内へ侵入した体積分の液体がシリンダ34内で過剰となり、過剰分の液体は、メイン通路MP或いはサブ通路SPを介してリザーバRへ移動する。緩衝器D2の収縮速度が微低速域にある場合、圧側室R4の圧力が上昇するもののリザーバRの圧力との差圧がメインバルブ31の開弁圧に達しないため、液体はメイン通路MPを通過できない。他方、緩衝器D2の収縮速度が微低速域にある場合、圧側室R4の圧力が上昇するもののリザーバRの圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧に達しないため、サブバルブ13も閉弁状態となるが、液体は、サブバルブ13における環状隙間Pを通過し得る。よって、液体は、遮断されるメイン通路MPを通過できないもののサブ通路SPを介して圧側室R4からリザーバRへ移動する。液体がサブ通路SPを通過する際に、オリフィス32dおよび環状隙間Pを通過するが閉弁状態のサブバルブ13における環状隙間Pの流路面積はオリフィス32dの流路面積よりも小さい。また、減衰バルブ37dを通過して圧側室R4から伸側室R3へ向かう液体は、減衰バルブ37dから抵抗を受けるため、圧側室R4の圧力は、伸側室R3の圧力よりも高くなる。そのため、緩衝器D2の収縮速度が微低速域にある場合、緩衝器D2は、主としてサブバルブ13および減衰バルブ37dが液体に与える抵抗によって減衰力を発生する。したがって、緩衝器D2の収縮速度が微低速域にある場合の緩衝器D2の圧側の減衰力特性は、減衰係数が非常に大きくピストン速度の増加に対して大きく立ち上がる特性となる。
【0090】
緩衝器D2の収縮速度が微低速域を超えて低速域にある場合、圧側室R4の圧力が上昇するもののリザーバRの圧力との差圧がメインバルブ31の開弁圧に達しないため、メインバルブ31は未だ開弁せず排出ポート30cを閉塞したまま維持する。緩衝器D2の収縮速度が低速域にある場合、圧側室R4の圧力とリザーバRの圧力との差圧がサブバルブ13の開弁圧を超えるので環状弁体14が撓んでサブバルブ13が開弁して環状弁体14と環状対向部15との間の環状隙間Pの流路面積が大きくなる。よって、液体は、遮断されるメイン通路MPを通過できないものの、サブ通路SPを介して圧側室R2から伸側室R1へ移動する。液体は、サブ通路SPを通過する際に、オリフィス32dおよび環状隙間Pを通過するが開弁状態のサブバルブ13における環状隙間Pの流路面積はオリフィス32dの流路面積よりも大きくなる。また、減衰バルブ37dを通過して圧側室R4から伸側室R3へ向かう液体は、減衰バルブ37dから抵抗を受けるため、圧側室R4の圧力は、伸側室R3の圧力よりも高くなる。よって、緩衝器D2の収縮速度が低速域にある場合、緩衝器D2は、主としてオリフィス32dおよび減衰バルブ37dが液体に与える抵抗によって減衰力を発生する。したがって、緩衝器D2の収縮速度が低速域にある場合の緩衝器D2の圧側の減衰力特性は、オリフィス特有の緩衝器D2の収縮速度の2乗に比例する特性となるが、前記収縮速度が微低速域にある場合に比較して傾きが寝る特性となる。
【0091】
さらに、緩衝器D2の収縮速度が低速域を超えて中高速域にある場合、圧側室R4の圧力とリザーバRの圧力との差圧がメインバルブ31の開弁圧に達して、メインバルブ31が撓んで開弁して排出ポート30cを開放する。緩衝器D2の収縮速度が中高速域にある場合、サブバルブ13も開弁する。よって、液体は、サブ通路SPを通過し得るがメイン通路MPも開放されるので、両者を通じて圧側室R2から伸側室R1へ移動する。緩衝器D2の収縮速度が中高速域にある場合、圧側室R4からリザーバRへ移動する液体の流量が多くなるので、サブ通路SPのオリフィス32dとサブバルブ13を通過する際に液体がうける抵抗は、圧側メインバルブ7を通過する際に液体が受ける抵抗よりも大きくなるので、液体は、サブ通路SPを通過しがたくなり、圧側室R4からリザーバRへ移動する液体の殆どは、メイン通路MPを通過するようになる。また、減衰バルブ37dを通過して圧側室R4から伸側室R3へ向かう液体は、減衰バルブ37dから抵抗を受けるため、圧側室R4の圧力は、伸側室R3の圧力よりも高くなる。よって、緩衝器D2の伸長速度が中高速域にある場合、緩衝器D2は、主としてメインバルブ31および減衰バルブ37dが液体に与える抵抗によって減衰力を発生する。したがって、緩衝器D2の収縮速度が中高速域にある場合の緩衝器D2の圧側の減衰力特性は、メインバルブ31の特有の緩衝器D2の収縮速度に比例するような特性となるが、前記収縮速度が低速域にある場合に比較して減衰係数が小さくなる特性となる。なお、減衰バルブ37dに代えて、通路37bに圧側室R4から伸側室R3へ向かう液体の流れのみを許容するチェックバルブを設けてもよい。チェックバルブは、液体の流れに歩トンと抵抗を与えないため、緩衝器D2の減衰力に寄与しない。よって、減衰バルブ37dに代えてチェックバルブを設ける場合、緩衝器D2は、収縮速度が微低速域にある際には主としてサブバルブ13によって、収縮速度が低速域にある際には主としてオリフィス32dによって、収縮速度が中高速域にある際には主としてメインバルブ31によって、それぞれ減衰力を発生する。
【0092】
このように、本実施の形態の緩衝器D2は、圧側室R4とリザーバRとを並列して連通するメイン通路MPとサブ通路SPと、メイン通路MPに設けられるメイン減衰力発生要素MDと、サブ通路SPに設けられるサブ減衰力発生要素SDとを備え、メイン減衰力発生要素MDがメイン通路MPを開閉するメインバルブ31のみを有し、サブ減衰力発生要素SDがサブ通路SPに直列に設けられるオリフィス32dとサブ通路SPを開閉するとともに開弁圧がメインバルブ31よりも低いサブバルブ13とを有して構成されている。このように構成された緩衝器D2では、オリフィス32dとサブバルブ13が設けられるサブ通路SPとメインバルブとしてのメインバルブ31のみを有するメイン通路MPとが並列して圧側室R2とリザーバRとを連通しているので、サブバルブ13がバルブストッパ17或いはナット20によって撓みが規制されてもメイン通路MPを通過する液体の流れに対して影響を与えない。つまり、本実施の形態の緩衝器D2では、サブバルブ13が流路面積を最小に制限するボトルネックとなることがない。したがって、緩衝器D2の伸縮速度が高速域に達しても、ピストン3によって圧縮される圧側室R4の液体の多くはメイン通路MPを流れるので、サブバルブ13による圧力損失がメインバルブ31における圧力損失に加わって、減衰力が過剰となるオーバーライドを抑制できる。
【0093】
以上のように、メイン通路MPとサブ通路SPは、アウターチューブ1,35内の伸側室R1と圧側室R2とを連通してもよいし、圧側室R4とリザーバRとを連通してもよい。また、緩衝器D2のロッド36およびピストン37の代わりに、緩衝器Dのロッド2、ピストン3、伸側メインバルブ4、圧側メインバルブ7、バルブホルダ12およびサブバルブ13を適用して、ピストン側とバルブケース側にそれぞれメイン通路MPとサブ通路SP、メイン減衰力発生要素MDおよびサブ減衰力発生要素SDを設ける構成も採用可能である。また、作動室を伸側室とリザーバとして、伸側室とリザーバとをメイン通路とサブ通路とで並列して連通させて、メイン通路にメイン減衰力発生要素を設けて、サブ通路にサブ減衰力発生要素を設けてもよい。
【0094】
なお、サブバルブ13は、前述したところでは、環状弁体14と、環状弁体14に対して環状隙間Pを開けて対向する環状対向部15とを備えて構成されているが、これに代えて、図示はしないが、径の異なる内側弁座と外側弁座と、内側弁座に一端面の内周側を着座させるとともに外側弁座に他端面の外周側を着座させる環状の内外両開きのリーフバルブとでなるドカルボンバルブとされてもよい。このようにサブバルブ13をドカルボンバルブとする場合、伸側室R1(圧側室R4)から圧側室R2(リザーバR)へ向かう液体の流れに対してはリーフバルブが内周或いは外周の一方を撓ませてサブ通路SPを開き、圧側室R2(リザーバR)から伸側室R1(圧側室R4)へ向かう液体の流れに対してはリーフバルブが内周或いは外周の他方を撓ませてサブ通路SPを開いて、液体の流れに抵抗を与えることができる。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
1・・・シリンダ(アウターチューブ)、2・・・ロッド(軸部材)、2f,32d・・・オリフィス、3・・・ピストン(隔壁部材)、3c・・・伸側メインポート(メインポート)、3d・・・圧側メインポート(メインポート)、4・・・伸側メインバルブ(メインバルブ)、7・・・圧側メインバルブ(メインバルブ)、12・・・バルブホルダ、13・・・サブバルブ、14・・・環状弁体、15・・・環状対向部、30・・・バルブケース(隔壁部材)、31・・・メインバルブ、32・・・ガイドロッド(軸部材)、35・・・アウターチューブ、A,A1・・・緩衝器本体、D,D1,D2・・・緩衝器、MD・・・メイン減衰力発生要素、MP・・・メイン通路、R1・・・伸側室(作動室)、R2・・・圧側室(作動室)、R4・・・SD・・・サブ減衰力発生要素、SP・・・サブ通路、VO・・・可変オリフィス