(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139779
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】走行装置及び該走行装置を備えた無人搬送車
(51)【国際特許分類】
B62D 61/06 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
B62D61/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040308
(22)【出願日】2021-03-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(74)【代理人】
【識別番号】100184631
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 隆
(72)【発明者】
【氏名】長末 秀樹
(57)【要約】
【課題】所定軸線を中心として周方向に間隔を空けて配置されるとともにそれぞれが全方位に移動可能なオムニホイールからなる少なくとも三つの駆動車輪を備えた全方位移動型の走行装置において、各駆動車輪の小型化を図るとともに、各駆動車輪の床面との摩擦による摩耗劣化を抑制する。
【解決手段】少なくとも三つの駆動車輪13は、それぞれの車軸19の軸線が平面視で所定軸線Cを通るように配置されている。走行装置10は、少なくとも三つの駆動車輪13のそれぞれに対して、前記所定軸線Cを中心とする径方向の内側又は外側に設けられたオムニホイールからなる従動車輪14と、各駆動車輪13と該各駆動車輪13に対応する従動車輪14とを一組として支持する支持アーム15とを備えている。この支持アーム15は、アーム長さ方向の中間部を支点に上下に揺動可能に車両本体2に接続されており、支持アーム15の揺動中心位置は従動車輪14側に偏位している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に設けられ、鉛直に延びる所定軸線を中心として周方向に間隔を空けて配置されるとともにそれぞれが全方位に移動可能なオムニホイールからなる少なくとも三つの駆動車輪と、該少なくとも三つの駆動車輪をそれぞれ独立に駆動することで、前記車両本体を全方位へ移動可能にする車輪駆動部とを備えた走行装置であって、
前記少なくとも三つの駆動車輪は、それぞれの車軸の軸線が平面視で前記所定軸線を通るように配置されており、
前記少なくとも三つの駆動車輪のそれぞれに対して、前記所定軸線を中心とする径方向の内側又は外側に設けられ、前記車両本体の移動に従動して全方位に移動可能なオムニホイールからなる従動車輪と、
前記少なくとも三つの駆動車輪のそれぞれに対して設けられ、該各駆動車輪と該各駆動車輪に対応する従動車輪とを一組として支持する支持アームとを備え、
それぞれの前記駆動車輪に対して設けられる前記支持アームは、アーム長さ方向の中間部を支点に上下に揺動可能に前記車両本体に接続されていて、その揺動中心位置が、該支持アームに支持された一組の前記駆動車輪及び前記従動車輪の間において該従動車輪側に偏位するように構成されていることを特徴とする走行装置。
【請求項2】
前記車輪駆動部は、前記少なくとも三つの駆動車輪のそれぞれに対して設けられ、該各駆動車輪に動力伝達可能に接続されたモータを有し、
前記各駆動車輪と、該各駆動車輪に接続されたモータとは、前記所定軸線を中心とする径方向において、該各駆動車輪に対応する前記各従動車輪よりも内側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の走行装置。
【請求項3】
前記各モータは、出力軸が前記各駆動車輪の車軸に対して同軸になる状態で該各駆動車輪に接続されていることを特徴とする請求項2記載の走行装置。
【請求項4】
前記各駆動車輪を駆動するモータは、前記所定軸線を中心とする径方向において、該各駆動車輪よりも内側に配置されていることを特徴とする請求項2又は3記載の走行装置。
【請求項5】
前記各駆動車輪を駆動するモータは、前記所定軸線を中心とする径方向において、該各駆動車輪よりも外側に配置されていることを特徴とする請求項2又は3記載の走行装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の走行装置と、前記車両本体とを備えていることを特徴とする無人搬送車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動車輪にオムニホイールを使用した全方位移動型の走行装置、及び該走行装置を備えた無人搬送車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述した全方位移動型の走行装置の一例として、実用新案登録第3168451号(下記特許文献1)に開示された走行装置が知られている。この全方位移動型の走行装置では、オムニホイールからなる四つの駆動車輪が、円板状の車両本体の下面に周方向に等間隔に配置されている。各オムニホイールは、車軸回りに回転する本体ホイールと、本体ホイールの周縁部に取付けられ、周方向に間隔を空けて配置されるとともに車軸方向に回転可能な樽型ローラとを有している。各オムニホイールは、それぞれの車軸の軸線が、円板状の車両本体の中心を通るように配置されている。各オムニホイールは、異なるモータによりそれぞれの車軸回りに独立に回転駆動される。そして、前記走行装置は、各オムニホイールの車軸回りの速度ベクトルを合成した任意の方向に走行可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示す走行装置において、搭載物(車両本体やワーク等の積載物)の重量を増加させると、各駆動車輪に作用する重力方向の荷重が増加する。この荷重の増加に対応するためには、各駆動車輪を構成するオムニホイールのサイズを大型化して各駆動車輪の耐荷重を上げる必要がある。しかし、オムニホイールは、通常のキャスタ車輪等に比べて特殊な構造を有しているので、大型化すると特注品になるケースが多く、通常の車輪を大型化する場合に比べてコストデメリットが大きいという問題がある。
【0005】
また、各駆動車輪は、モータにより回転駆動されるため発進時や旋回時等に床面から比較的大きな摩擦力が作用する。この摩擦力は、通常、各駆動車輪に作用する重力方向の荷重に比例して増加する。したがって、走行装置の搭載物の重量が増加すると、各駆動車輪に作用する床面からの摩擦力が増加して、各駆動車輪の摩耗劣化が生じ易くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであって、各駆動車輪がオムニホイールにより構成された全方位移動型の走行装置において、各駆動車輪の小型化を図るとともに、各駆動車輪の床面との摩擦による摩耗劣化を抑制することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明の一局面は、
車両本体に設けられ、鉛直に延びる所定軸線を中心として周方向に間隔を空けて配置されるとともにそれぞれが全方位に移動可能なオムニホイールからなる少なくとも三つの駆動車輪と、該少なくとも三つの駆動車輪をそれぞれ独立に駆動することで、前記車両本体を全方位へ移動可能にする車輪駆動部とを備えた走行装置であって、
前記少なくとも三つの駆動車輪は、それぞれの車軸の軸線が平面視で前記所定軸線を通るように配置されており、
前記少なくとも三つの駆動車輪のそれぞれに対して、前記所定軸線を中心とする径方向の内側又は外側に設けられ、前記車両本体の移動に従動して全方位に移動可能なオムニホイールからなる従動車輪と、
前記少なくとも三つの駆動車輪のそれぞれに対して設けられ、該各駆動車輪と該各駆動車輪に対応する従動車輪とを一組として支持する支持アームとを備え、
それぞれの前記駆動車輪に対して設けられる前記支持アームは、アーム長さ方向の中間部を支点に上下に揺動可能に前記車両本体に接続されていて、その揺動中心位置が、該支持アームに支持された一組の前記駆動車輪及び前記従動車輪の間において該従動車輪側に偏位するように構成されている走行装置に係る。
【0008】
この構成によれば、車両本体には、所定軸線を中心として周方向に間隔を空けて並ぶ少なくとも三つの駆動車輪が設けられており、前記所定軸線を中心とする径方向(以下、車両内外方向という)において各駆動車輪の内側又は外側には、従動車輪が設けられている。各駆動車輪と各駆動車輪に対応する従動車輪とは支持アームに支持されており、各支持アームは、アーム長さ方向の中間部を支点に上下に揺動可能に車両本体に接続されている。
【0009】
したがって、走行装置に搭載される搭載物(車両本体やワーク等の積載物)の重量は、各支持アームを介して駆動車輪及び従動車輪に分配して作用する。よって、各車輪に作用する重力方向の荷重を低減することができ、延いては、各車輪に使用されるオムニホイールの小型化を図って部品コストを低減することができる。
【0010】
また、前記走行装置では、搭載物の重量が各支持アームを介して駆動車輪及び従動車輪に分配して作用するばかりでなく、各支持アームの揺動中心位置が、該支持アームに支持された一組の駆動車輪及び従動車輪の間において該従動車輪側に偏位しているので、梃子の原理(モーメントの釣り合い)に基づいて、各駆動車輪に作用する重力方向の荷重を、従動車輪に作用する重力方向の荷重よりも低減することができる。よって、従動車輪に比べて摩耗し易い駆動車輪の劣化を可及的に抑制することができる。
【0011】
また、前記走行装置では、駆動車輪と従動車輪とのいずれか一方が、車両内外方向の内側に位置する内輪とされ、他方が車両内外方向の外側に位置する外輪とされる。いずれの場合であっても、外輪のサイズは、従動車輪を設ない従来の走行装置の外輪(駆動車輪)に比べて小型化される。外輪のサイズが小型化されると、通常、外輪の厚みは薄くなる。したがって、例えば走行装置の外形寸法を一定に維持したまま(外輪の車両外側端面の位置を維持したまま)外輪の厚みを薄くすると、外輪を構成するオムニホイールの接地位置が平面視で車両内外方向の外側に移動する。この結果、走行装置の所定軸線から外輪の接地位置までの距離が増加するので、走行装置の旋回時等に外輪の踏ん張りが効いて走行安定性を向上させることができる。
【0012】
また、前記走行装置では、駆動車輪及び従動車輪を支持する支持アームがその中間部を支点に揺動可能に構成されている。したがって、駆動車輪及び従動車輪が床面上の段差や凸部を乗り越える際には、前記支持アームがその中間部を支点に上下に揺動して、車両本体の姿勢は殆ど変化しない。したがって、車両本体に積載したワーク等の積載物を落下させることなく安定した走行を実現することができる。
【0013】
本発明に係る走行装置において、前記車輪駆動部は、前記少なくとも三つの駆動車輪のそれぞれに対して設けられ、該各駆動車輪に動力伝達可能に接続されたモータを有し、前記各駆動車輪と、該各駆動車輪に接続されたモータとは、前記所定軸線を中心とする径方向(車両内外方向)において、該各駆動車輪に対応する前記各従動車輪よりも内側に配置されている構成を採用することができる。
【0014】
この構成の走行装置によれば、各駆動車輪と各駆動車輪に接続されるモータとが、各駆動車輪に対応する従動車輪よりも車両内外方向の内側に配置されている。したがって、モータ等の重量物を出来る限り走行装置の内側(つまり前記所定軸線側)に集約して、走行装置の前記所定軸線回りの慣性モーメントを低減することができる。これにより、走行装置の走行性能(特に旋回応答性)を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る走行装置において、前記各モータは、出力軸が前記各駆動車輪の車軸に対して同軸になる状態で該各駆動車輪に接続されている構成を採用することができる。
【0016】
この構成の走行装置によれば、モータの出力軸と各駆動車輪とが同軸に接続されるので、モータを含む車両全体の重量バランスを向上させて、延いては、走行装置の走行安定性を向上させることができる。
【0017】
本発明に係る走行装置において、前記各駆動車輪を駆動するモータは、前記所定軸線を中心とする径方向(車両内外方向)において、該各駆動車輪よりも内側に配置されている構成を採用することができる。
【0018】
この構成の走行装置によれば、重量物であるモータを駆動車輪よりもさら車両内側に配置することで、走行装置の前記所定軸線回りの慣性モーメントをより一層低減することができる。延いては、走行装置の走行性能(特に旋回応答性)を可及的に向上させることができる。
【0019】
本発明に係る走行装置において、前記各駆動車輪を駆動するモータは、前記所定軸線を中心とする径方向(車両内外方向)において、該各駆動車輪よりも外側に配置されている構成を採用することができる。
【0020】
この構成の走行装置によれば、各駆動車輪に対してモータが車両外側に配置されている。したがって、モータが走行装置の中心部に密集してそのメンテナンス性が低下するのを防止することができる。
【0021】
本発明の他の局面は、前記走行装置と、前記車両本体とを備えた無人搬送車に係る。
【0022】
本発明の無人搬送車によれば、各駆動車輪に作用する重力方向の荷重を低減して、各駆動車輪を構成するオムニホイールを小型化することができる。これにより、車両本体を床面から極力低い位置に配置して車両全体を低重心化することができる。よって、工場内の狭いスペースで急な旋回動作が頻繁に要求される無人搬送車において、その旋回性能を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、各駆動車輪がオムニホイールにより構成された全方位移動型の走行装置において、各駆動車輪と該各駆動車輪のそれぞれに対して設けられた従動車輪とを上下に揺動可能な支持アームに支持させるとともに、該支持アームの揺動中心位置を該駆動車輪と従動車輪との間において従動車輪側に偏位させるようにしたことで、各駆動車輪に作用する重力方向の荷重を低減することができる。これにより、各駆動車輪の小型化を図るとともに、各駆動車輪の床面との摩擦による摩耗劣化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施形態に係る走行装置を備えた無人搬送車を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る走行装置を備えた無人搬送車を下側から見た平面図である。
【
図3】
図3は、走行装置の駆動車輪及び従動車輪を構成するオムニホイールを示す軸方向から見た側面図である。
【
図7】
図7は、
図2における車輪の支持構造を線図化した図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る走行装置と、従来形態に係る走行装置とを比較した比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
《実施形態》
図1に示すように、本例の無人搬送車1は、全方位移動型の走行装置10と、走行装置10上に載置される支持台2(車両本体の一例)と、走行装置10の走行制御を行う制御装置(図示省略)とを備えている。支持台2は、平面視で正三角形の三つの頂部を面取りした形状をしている。無人搬送車1は、支持台2の上面にワーク等の物品を積載した状態で走行装置10によって駆動走行される。尚、走行装置10による無人搬送車の走行経路は、制御装置のROM内に予め記憶された固定経路であってもよいし、制御装置によりAI探索等に基づいて算出した自動算出経路であってもよい。
【0027】
図2に示すように、走行装置10は、フレーム11と、フレーム11の下面に取付けられた三つの走行車輪部12とを備えている。三つの走行車輪部12は、無人搬送車1の中心軸線C回りに周方向に等間隔に(60°置きに)配置されている。中心軸線C(所定軸線の一例)は、無人搬送車1の中心位置を通り且つ鉛直に延びる仮想軸線である。本例において、無人搬送車1の中心位置は、平面視における支持台2の図心位置であって無人搬送車1全体の重心位置に一致している。尚、以下の説明において、中心軸線Cを中心とする径方向を「車両内外方向」と定義する。また、特に断らない限り、「内側」及び「外側」は、車両内外方向の内側及び外側を意味するものとする。
【0028】
フレーム11は、支持台2の外縁に沿って形成された略正三角形状の枠状部11aと、平面視で無人搬送車1の中心位置から放射状に延びて枠状部11aの三つの角部に接続される三つの延設部11bと、各延設部11bの下面に形成され、走行車輪部12の支持アーム15(後述する)を揺動支持するための突出板部11cとを有している。
【0029】
前記三つの走行車輪部12はそれぞれ、前記フレーム11の各延設部11bの下側に配置されている。
【0030】
各走行車輪部12は、駆動車輪13と、該駆動車輪13よりも車両内外方向の外側に配置された従動車輪14と、該駆動車輪13及び従動車輪14を一対一組で支持する支持アーム15とを有している。
【0031】
各走行車輪部12の駆動車輪13は、中心軸線Cを中心とする同一円周上に周方向に等間隔に配置されており、各駆動車輪12の軸線(車軸19の軸線)は、平面視で走行装置10の中心軸線Cを通っている。
【0032】
同様に、各走行車輪部12の従動車輪14は、各駆動車輪13よりも外側の同一円周上に周方向に等間隔に配置されており、各従動車輪14の軸線(車軸20の軸線)は、平面視で走行装置10の中心軸線Cを通っている。
【0033】
駆動車輪13及び従動車輪14は、全方位移動型の車輪であるオムニホイールにより構成されている。本例では、駆動車輪13及び従動車輪14は、同じ車輪径及び車輪幅を有する同型式のオムニホイールにより構成されている。
【0034】
図3及び
図4を参照して、前記オムニホイールの構成を説明する。各図では、駆動車輪13のオムニホイールを示している。従動車輪14のオムニホイールについては、図中の符号13を符号14に置換して同じ添字a~hを使用すれば容易に理解できるので、その詳細な説明を省略する。
【0035】
駆動車輪13のオムニホイールは、中心部に車軸19が挿通される中心穴13bを有する本体13aと、
図4において、この本体13aの右側に設けられた回転体13c,13d,13e、及び左側に設けられた回転体13f,13g,13hとから構成される。本体13aは円板状の基部を有し、この基部の左右両側には、それぞれ、回転体13c,13d,13e,13f,13g,13hを、垂直面で回転自在に支持するためのリブ部が形成されている。
【0036】
前記回転体13c,13d,13e,13f,13g,13hは、それぞれ同じ曲率の樽型形状を有するとともに、それぞれ支持軸により回転自在に支持され、各支持軸は、垂直面内に位置した状態で前記リブ部によって支持されている。また、回転体13c,13d,13eは、本体13aの周方向において等間隔に配設され、回転体13f,13g,13hも同様に、本体13aの周方向において等間隔に配設され、更に回転体13c,13d,13e、及び回転体13f,13g,13hは、相互間で位相が周方向に60°ずれた位置関係となっている。
【0037】
また、回転体13c,13d,13eは、各支持軸を含む鉛直平面において、各外面が同一の円弧上に位置し、同様に、回転体13f,13g,13hは、各支持軸を含む鉛直平面において、各外面が同一の円弧上に位置する。
【0038】
こうして、駆動車輪13のオムニホイールは、その車軸19を中心として回転することによりその回転方向に進むことができるとともに、各回転体13c,13d,13e,13f,13g,13hが回転することにより、車軸19の回転方向と交差する水平方向にスライドすることができるようになっている。
【0039】
前記支持アーム15は、
図2及び
図5に示すように、フレーム11の延設部11bの下側に水平に配置された矩形板状の揺動板部15aと、揺動板部15aに接続された内側取付板部15b及び外側取付板部15cとを有している。
【0040】
揺動板部15aは、車両内外方向に沿って延設されていて、揺動ピン18を介してフレーム11の下面の突出板部11cに支持されている。
【0041】
突出板部11cは、
図6に示すように、その板幅方向が前記延設部11bの幅方向に一致する状態で、該延設部11bの下面から下側に突出している。
【0042】
突出板部11cの下端部には、延設部11bの延設方向(
図6の紙面垂直方向)から見て、下側に開放するコ字状の凹部11dが形成されている。支持アーム15の揺動板部15aは、突出板部11cの凹部11dに下側から嵌め込まれて、一対の揺動ピン18を介して該突出板部11cに支持されている。
【0043】
各揺動ピン18は、軸方向の中間部に雄ネジ部が形成された螺子固定式のピンボルトからなる。各揺動ピン18は、前記突出板部11cにおける凹部11dの両側の壁部を貫通して固定されている。揺動ピン18の先端部は、支持アーム15における揺動板部15aの板幅方向の両端面に形成された支持孔(図示省略)に嵌挿されている。そうして、支持アーム15のアーム長さ方向の中間部が、一対の揺動ピン18により支持されている。支持アーム15は、この一対の揺動ピン18を支点に、前記中心軸線Cを含む鉛直平面に沿って上下に揺動可能になっている。尚、アーム長さ方向とは、駆動車輪13と従動車輪14との離間方向であって、本例では前記中心軸線Cを中心とする径方向に一致している。
【0044】
内側取付板部15bは、揺動板部15aにおける車両内外方向の内側端縁から垂下する矩形板部である。内側取付板部15bの外側面(
図5の右側面)には、減速機16を介してモータ17が固定されている。内側取付板部15bの左側には駆動車輪13が配置されており、前記減速機16の出力軸(図示省略)は、該内側取付板部15bを貫通して該駆動車輪13の車軸19に回転一体に連結されている。前記モータ17(車輪駆動部の一例)は、その出力軸が駆動車輪13の車軸19と同軸になるように配置されている。減速機16は、その入力軸と出力軸とが同軸に配置された同軸減速機により構成されている。尚、モータ17は、駆動車輪13の車軸19に対して非同軸に配置されていてもよい。この場合、減速機16は非同軸型の減速機で構成すればよい。
【0045】
外側取付板部15cは、揺動板部15aにおける車両内外方向の外側端縁から垂下する矩形板部である。外側取付板部15cの外側には従動車輪14が配置されており、従動車輪14の車軸20は、外側取付板部15cに対して不図示の軸受を介して回転自在に支持されている。
【0046】
図7は、
図2における各車輪13,14の支持構造を線図化した図である。この図では、三つの延設部11bと支持アーム15とを太線で示し、揺動ピン18を白丸で示している。同図に示すように、揺動ピン18は、支持アーム15における揺動板部15aの長手方向の中間部を支持している。揺動ピン18による支持アーム15の支持位置、つまり支持アーム15の揺動中心位置は、該支持アーム15に支持された一組の駆動車輪13及び従動車輪14の間において該従動車輪14側に偏位している。このことは、上述の
図5からも読取ることができる。すなわち、揺動ピン18の軸線から駆動車輪13の外側端面までの距離をL1とし、揺動ピン18の軸線から従動車輪14の内側端面までの距離をL2としたとき、L1>L2の関係を満たしている。本例では、L1:L2は3:1とされているが、これに限ったものではなく、L1>L2の関係を満たしていれば如何なる比率であってもよい。
【0047】
以上の構成を備えた本例の走行装置10によれば、前記制御装置(図示せず)による制御の下で、各駆動車輪13の回転速度を、三つのモータ17によって次式(1)に基づいて独立に制御することで、その場旋回を含む全方位への走行制御が実現される。
図7には、式(1)中の変数を理解し易いように図示している。式(1)の左辺のv1,v2,v3は、各駆動車輪13の回転速度であり、右辺のVx,及びVyはそれぞれ、走行装置10のX軸方向の速度、及びY軸方向の速度であり、ωは、走行装置10の中心軸線C回りの回転速度であり、Rは中心軸線Cから各駆動車輪13までの距離である。
【0048】
走行装置10が走行する際には、各駆動車輪13及び各従動車輪14に対して、搭載物(支持台2や支持台2上の物品等)の重量が重力方向の荷重として作用するが、この搭載物の重量が大きいと、各駆動車輪13に過度の荷重がかかって各駆動車輪13の摩耗劣化が急速に進行する。また、搭載物の重量増加に対応するために各駆動車輪13の耐荷重を増加させようとすると、各駆動車輪13のオムニホイールが大型化して部品コストが増加するという問題がある。
【0049】
これに対して、本実施形態の走行装置10では、各駆動車輪13とそれぞれに対応する各従動車輪14とを一組で支持アーム15に支持させ、更に支持アーム15の長さ方向の中間部を揺動ピン18回りに上下に揺動可能に支持するとともに、支持アーム15の揺動中心位置である揺動ピン18の軸線位置を、支持アーム15に支持された一対の駆動車輪13と従動車輪14との間において該従動車輪14側に偏位させるようにした。
【0050】
これによれば、走行装置10に搭載される搭載物の重量は、各支持アーム15を介して駆動車輪13及び従動車輪14に分配して作用する。よって、各車輪13,14に作用する重力方向の荷重を低減することができ、延いては、各車輪13,14に使用されるオムニホイールの小型化を図って部品コストを低減することができる。
【0051】
また、支持アーム15の揺動中心位置(揺動ピン18の位置)が、支持アーム15に支持された一対の駆動車輪13と従動車輪14との間において該従動車輪14側に偏位しているので、梃子の原理(モーメントの釣り合い)に基づいて、各駆動車輪13に作用する重力方向の荷重を、各従動車輪14に作用する重力方向の荷重よりも低減することができる。したがって、従動車輪14に比べて摩耗し易い駆動車輪13の劣化を確実に防止することができる。
【0052】
図8は、本実施形態に係る走行装置10と、駆動車輪102のみを有する従来形態の走行装置101との車輪構成を比較した比較図である。尚、
図8では、分かり易いように、三つの駆動車輪13のうちの一つを拡大して従来形態との比較を行っているが、他の二つについても同様である。
【0053】
この図に示すように、本実施形態の走行装置10では、駆動車輪13及び従動車輪14に使用されるオムニホイールが、従来形態の駆動車輪102に使用されるオム二ホイールよりも格段に小型化されていることが分かる。
【0054】
ここで、従動車輪14の外側端面の位置P1は、設計要件に基づいて決まるため自由に変更することはできない。したがって、本実施形態の車輪構造を採用したとしても、外輪である従動車輪14の外側端面の位置P1は、従来形態の走行装置101の駆動車輪102の外側端面の位置に維持される。一方、外輪である従動車輪14の厚みは、従来形態の走行装置101の駆動車輪102に比べて車輪サイズが小型化される分だけ薄くなる。この結果、本実施形態の走行装置10では、従動車輪14の外側の接地位置P2(オムニホイールの軸方向の外側の車輪の接地位置)が、従来形態の走行装置101における駆動車輪102の外側の接地位置P3に比べて所定量δだけ外側に移動することとなる。したがって、走行装置10の旋回時等に、走行装置10の中心軸線Cから出来るだけ遠い位置で各従動車輪14を接地させて、各従動車輪14による踏ん張りを効かせることができる。よって、走行装置10の走行安定性(特に旋回時の走行安定性)を向上させることができる。
【0055】
また、前記走行装置10によれば、駆動車輪13及び従動車輪14が床面上の段差や凸部を乗り越える際に、支持アーム15がその中間部を支点に上下に揺動することにより支持台2の姿勢を水平に維持することができる。したがって、支持台2に積載されたワーク等の搭載物を落下させることなく安定した車両走行を実現することができる。
【0056】
また、本実施形態の走行装置10では、三つの駆動車輪13と、該各駆動車輪13に接続されたモータ17とが、前記中心軸線Cを中心とする径方向(車両内外方向)において、該各駆動車輪13に対応する各従動車輪14よりも内側に配置されている。
【0057】
これにより、モータ17等の重量物を出来る限り走行装置10の中心軸線C付近に集約して、走行装置10の前記中心軸線C回りの慣性モーメントを低減することができる。この結果、走行装置10の走行性能(特に旋回応答性等)を向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態の走行装置10では、各モータ17は、出力軸が各駆動車輪13の車軸19に対して同軸になる状態で減速機16を介して各駆動車輪13に接続されている。
【0059】
これによれば、モータ17の出力軸と各駆動車輪13の車軸19とが同軸に接続されるので、モータ17を含む走行装置10全体の重量バランスを向上させて、延いては、走行装置10の走行安定性を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態の走行装置10では、各駆動車輪13を駆動するモータ17は、前記中心軸線Cを中心とする径方向(車両内外方向)において、該各駆動車輪13よりも外側に配置されている。
【0061】
これによれば、モータ17が駆動車輪13の外側に配置されているので、モータ17が走行装置10の中心部に密集してそのメンテナンス性が悪化するのを防止することができる。
【0062】
また、本実施形態の無人搬送車1は、前記走行装置10と支持台2とを備えている。
【0063】
この無人搬送車1によれば、各駆動車輪13に作用する重力方向の荷重を低減して、各駆動車輪13を構成するオムニホイールを小型化することができる。これにより、無人搬送車1の車高を低くして車両全体を低重心化することができる。よって、工場内の狭いスペースで急な旋回動作が要求される無人搬送車1においてその旋回性能を十分に確保することができる。
【0064】
《変形例1》
図9は、実施形態の変形例1を示す
図7相当図である。本変形例では、駆動車輪13に対するモータ17の配置位置が前記実施形態とは異なっている。尚、以下の変形例において、前記実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0065】
すなわち、本変形例では、各駆動車輪13を駆動するモータ17と減速機16とは、前記中心軸線Cを中心とする径方向(車両内外方向)において、各駆動車輪13よりも内側に配置されている。
【0066】
本変形例によれば、前記実施形態と同様に、駆動車輪13と従動車輪14とを一対一組として支持アーム15に支持するとともにその揺動中心位置を従動車輪14側に偏位させるようにしているので、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
しかも、本変形例では、重量物であるモータ17を駆動車輪13よりもさら車両内側に配置することで、走行装置10の前記中心軸線C回りの慣性モーメントをより一層低減することができる。延いては、走行装置10の走行性能(特に旋回応答性等)を可及的に向上させることができる。
【0068】
《変形例2》
図10は、実施形態の変形例2を示す
図7相当図である。本変形例では、駆動車輪13と従動車輪14との位置関係が前記実施形態とは異なっている。
【0069】
すなわち、前記実施形態では、従動車輪14が、走行装置10の中心軸線Cを中心とする径方向(車両内外方向)において、駆動車輪13よりも外側に配置されているのに対し、本変形例では、従動車輪14は、該径方向において前記駆動車輪13よりも内側に配置されている。すなわち、本変形例では、駆動車輪13が車両内外方向の外側に位置する外輪とされ、従動車輪14が車両内外方向の内側に位置する内輪とされている。揺動ピン18による支持アーム15の支持位置は、前記実施形態と同様に、駆動車輪13と従動車輪14との間で該従動車輪14側(本変形例では車両内外方向の内側)に偏位している。
【0070】
本変形例によれば、前記実施形態と同様に、駆動車輪13と従動車輪14とを一対一組として支持アーム15に支持するとともにその揺動中心位置を従動車輪14側に偏位させるようにしているので、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
また、各駆動車輪13を各従動車輪14よりも外側に配置することで、各駆動車輪13と床面との間のグリップ力の発生位置を走行装置10の中心軸線Cから極力遠ざけることができる。よって、走行装置10の旋回時等に、外側である駆動車輪13による踏ん張りを効かせて、走行装置10の走行安定性を可及的に向上させることができる。
【0072】
《他の実施形態》
前記実施形態では、走行装置10に設けられる駆動車輪13が三つである例を説明したが、これに限ったものではなく、四つ以上であってもよい。
【0073】
前記実施形態では、走行装置10を無人搬送車1に搭載した例を説明したが、これに限ったものではなく、例えば、人が運転操作する車両に搭載するようにしてもよい。
【0074】
また、前記実施形態では、駆動車輪13と従動車輪14とが同じ大きさ及び形状のオムニホイールにより構成されているが、これに限ったものではない。すなわち、前記実施形態のように、支持アーム15の揺動中心位置を従動車輪14側に偏位させるようにした場合、駆動車輪13に作用する重力方向の荷重は、従動車輪14に作用する重力方向の荷重よりも小さくなる。したがって、駆動車輪13に関しては従動車輪14よりも小型化のオムニホイールを使用するようにしてもよい。これにより、駆動車輪13の周辺にモータ17や減速機16の配置スペースを十分に確保することができる。また、駆動車輪13は、従動車輪14に比べて摩耗による交換頻度が高いので、このような交換頻度の高い駆動車輪13を小型化してそのコストを低減することで、走行装置10のメンテナンスコストを低減することができる。
【0075】
前記実施形態では、走行装置10はフレーム11を含んでおり、支持アーム15はフレーム11を介して支持台2(車両本体)に支持されているが、これに限ったものではない。例えば、フレーム11を廃止して支持アーム15を支持台2の下面に直接支持させるようにしてもよい。
【0076】
前記実施形態では、駆動車輪13と従動車輪14とを走行装置10の中心軸線Cを中心とする径方向に間隔を空けて同心状に二列に配置するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば従動車輪14の列を増やして三列以上に構成してもよい。
【0077】
前記実施形態では、モータ17は減速機16を介して駆動車輪13に連結されているが、これに限ったものではなく、例えば減速機16を廃止してモータ17を直接、駆動車輪13に連結するようにしてもよい。また、モータ17は、電気モータに限ったものではなく、例えば油圧モータ等により構成されていてもよい。
【0078】
また、前記実施形態では、所定軸線が中心軸線Cである例を示したが、これに限ったものではなく、所定軸線が無人搬送車1の重心位置や図示位置から離れていてもよい。
【0079】
また、前記実施形態では、支持アーム15は、車両内外方向に延びる矩形板状をなしているが、これに限ったものではなく、例えば平面視でL字状やZ字状に形成してもよい。支持アーム15の形状に拘わらず、アーム長さ方向の中間部(支持アーム15における駆動車輪13と従動車輪14との間の中間部)に揺動中心位置を設定すればよい。
【0080】
尚、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と
均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0081】
C 中心軸線(所定軸線)
1 無人搬送車
2 支持台(車両本体)
10 走行装置
13 駆動車輪
14 従動車輪
15 支持アーム
17 モータ
19 車軸
20 車軸