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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139850
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20220915BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20220915BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20220915BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20220915BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20220915BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20220915BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/30 900
B60W20/50
B60L50/61
F02D29/04 F
F02D29/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040405
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】中川 光路
(72)【発明者】
【氏名】今井 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】穴井 稔
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB05
3D202BB46
3D202BB58
3D202CC15
3D202CC55
3D202DD29
3G093AA07
3G093BA28
3G093CA01
3G093DB00
3G093EB05
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA01
5H125CA09
5H125CD06
5H125DD05
5H125EE05
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】電動オイルポンプを搭載しなくても、駆動モータに高温保護のための出力制限がかかることを回避できる、ハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両のEV走行中に(S1:YES)、MG2温度が検出されて、MG2温度が閾値以上になった場合(S2:YES)、停止状態のエンジンが始動される(S3)。エンジンのクランクシャフトが回転すると、オイルポンプが駆動されるので、オイルが駆動モータを経由して循環し、駆動モータがオイルで冷却される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力軸の動力を電力に変換する発電モータと、走行用の動力を発生する駆動モータと、前記出力軸の動力により駆動されるオイルポンプとを搭載し、前記駆動モータを前記オイルポンプの駆動により循環するオイルで冷却する油冷方式を採用したハイブリッド車両に用いられる制御装置であって、
前記駆動モータの温度を検出する検出手段と、
前記エンジンが停止した状態での前記駆動モータが発生する動力による前記ハイブリッド車両の走行中に、前記検出手段により検出される温度が所定値以上になった場合、前記エンジンを始動させる始動手段と、を含む、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両(HV:Hybrid Vehicle)の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、シリーズ方式のハイブリッド車両には、エンジンの動力で発電する発電モータと、走行用の動力を発生する駆動モータとが搭載されている。
【0003】
発電モータおよび駆動モータには、永久磁石同期モータが用いられる。永久磁石同期モータは、ステータコアのティースにコイルが巻かれた構成のステータと、永久磁石が取り付けられたロータとを備えている。ステータのコイルに電流が流れると、磁束が発生し、この磁束がロータの永久磁石に作用して、ロータに回転力が生じる。ロータの回転位置に応じて、コイルに流れる電流が制御されることにより、ロータに回転力が連続的に発生し、ロータが連続回転する。
【0004】
永久磁石同期モータの運転時には、銅損および鉄損などによる発熱が生じる。そのため、永久磁石同期モータの連続的な運転を行うには、永久磁石同期モータの冷却が必要となる。ハイブリッド車両では、発電モータおよび駆動モータの冷却方式として、モータ内部にオイルを流通させる油冷方式が一般に採用されており、発電モータおよび駆動モータを収容するユニットケース内でオイルを循環させるオイルポンプが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-271712号公報
【特許文献2】特開2012-96584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オイルポンプは、たとえば、機械式のオイルポンプであり、エンジンの出力軸上に設けられて、エンジンの動力により駆動される。そのため、エンジンを停止した状態での駆動モータの駆動により、ハイブリッド車両が電気自動車(EV:Electric Vehicle)としてEV走行しているときには、オイルポンプが駆動されない。EV走行中、オイルポンプが駆動されず、駆動モータが冷却されないために高温になると、駆動モータの保護のため、駆動モータに出力制限がかかり(目標トルクが低減され)、ハイブリッド車両が登坂路で走行できなくなるおそれがある。
【0007】
発電モータおよび駆動モータを含むユニットに、機械式のオイルポンプに代えて、または、機械式のオイルポンプに加えて、電動モータにより駆動される電動オイルポンプを搭載すれば、かかる懸念を払拭できるが、ユニットのコストの上昇およびサイズの大型化を招く。
【0008】
本発明の目的は、電動オイルポンプを搭載しなくても、駆動モータに高温保護のための出力制限がかかることを回避できる、ハイブリッド車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、エンジンの出力軸の動力を電力に変換する発電モータと、走行用の動力を発生する駆動モータと、出力軸の動力により駆動されるオイルポンプとを搭載し、駆動モータをオイルポンプの駆動により循環するオイルで冷却する油冷方式を採用したハイブリッド車両に用いられる制御装置であって、駆動モータの温度を検出する検出手段と、エンジンが停止した状態での駆動モータが発生する動力によるハイブリッド車両の走行中に、検出手段により検出される温度が所定値以上になった場合、エンジンを始動させる始動手段とを含む。
【0010】
この構成によれば、エンジンが停止した状態での駆動モータが発生する動力によるハイブリッド車両の走行中、つまりハイブリッド車両のEV走行中は、オイルポンプが駆動されないため、5km/h程度の低車速で駆動モータから高トルクが連続的に出力される状況が続くと、駆動モータの温度が上昇する。ハイブリッド車両のEV走行中に、駆動モータの温度が検出されて、駆動モータの温度が所定値以上になった場合、停止状態のエンジンが始動される(出力軸が回される)。
【0011】
エンジンの出力軸が回転すると、オイルポンプが駆動されるので、オイルが駆動モータを経由して循環し、駆動モータがオイルで冷却される。よって、電動オイルポンプを搭載しなくても、駆動モータが高温になることを抑制でき、駆動モータに高温保護のための出力制限がかかることを回避できる。
【0012】
エンジンの始動は、エンジンのファイアリングの開始を意味してもよいが、発電モータによるエンジンのモータリングの開始の意味であってもよい。エンジンの始動がモータリングの開始を意味する場合、エンジンの始動後、燃料の噴射および点火が行われずに、モータリングが継続されてもよいし、燃料の噴射および点火が行われて、モータリングからファイアリングに移行されてもよい。
【0013】
たとえば、駆動モータで使用する電力を蓄えるバッテリの充電残量が十分である場合(バッテリの充電残量が所定量以上である場合、バッテリの充電容量に対する充電残量の比率を示すSOC(State Of Charge)が一定値以上である場合)、エンジンの始動後にモータリングが継続されることにより、燃料の消費が抑制されてもよい。これにより、ハイブリッド車両の燃費の向上を図ることができる。一方、バッテリの充電残量が不足している場合(バッテリの充電残量が所定量未満である場合、バッテリのSOCが一定値未満である場合)には、エンジンの始動後にモータリングからファイアリングに移行されて、発電モータによる発電が行われてもよい。これにより、バッテリの充電残量が不足することを防止できる。
【0014】
駆動モータの温度を検出するために、たとえば、駆動モータのステータコアにサーミスタが取り付けられてもよい。この場合、駆動モータの温度は、サーミスタによる検出温度そのままの値であってもよいし、サーミスタによる検出温度の上昇度合いから推定されてもよい。
【0015】
所定値は、駆動モータの出力制限が開始される温度の閾値(出力制限閾値)よりも低い値に設定されることが好ましく、たとえば、駆動モータの温度の上昇度合いが大きいほど、所定値が出力制限閾値に対して低い値に設定されてもよい。所定値が出力制限閾値よりも低い値に設定されることにより、駆動モータの温度が出力制限閾値に達する前に、駆動モータをオイルで冷却することができる。しかし、所定値が低すぎると、エンジンの始動の頻度が多くなるので、駆動モータの温度の上昇度合いが大きいほど、所定値が出力制限閾値に対して低い値に設定されることにより、駆動モータの温度が出力制限閾値に達することを良好に防止できながら、エンジンの始動の頻度が多くなることを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電動オイルポンプを搭載しなくても、駆動モータに高温保護のための出力制限がかかることを回避できる。その結果、ハイブリッド車両が低車速で走行可能な登坂路の勾配が増大し、ハイブリッド車両の登坂性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ハイブリッド車両の動力伝達系の構成を示すスケルトン図である。
図2】ハイブリッド車両の電気系の構成(本発明の一実施形態に係る制御装置を備える構成)を示すブロック図である。
図3】強制冷却処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<ハイブリッド車両の動力伝達系>
図1は、ハイブリッド車両1の動力伝達系の構成を示すスケルトン図である。
【0020】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載した車両である。ハイブリッド車両1には、エンジン2、発電モータ(MG1)3および駆動モータ(MG2)4が搭載されている。
【0021】
エンジン2は、たとえば、ガソリンエンジンであり、燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどを備えている。エンジン2の出力軸であるクランクシャフト11は、発電モータ3および駆動モータ4を含むトランスアクスルに設けられたインプットシャフトに対して一体的に回転するよう結合され、インプットシャフトには、ギヤ12が一体に回転するように設けられている。
【0022】
発電モータ3および駆動モータ4は、たとえば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)からなる。永久磁石同期モータは、ステータおよびロータを備えている。ステータには、ステータコアおよびコイルが設けられている。ステータコアは、円環状(円筒状)のステータヨークおよびステータヨークから径方向内側に延びる複数のティースを有している。発電モータ3では、コイルが各ティースに巻かれている(集中巻)。駆動モータ4では、コイルが複数のティースに跨がって巻かれている(分布巻)。ロータは、ステータの内側に配置されており、ステータヨークと同心で円環状のロータヨークおよびロータヨークに周方向に並べて埋め込まれた複数の永久磁石を有している。ステータのコイルに電流が流れると、ティースに沿って回転径方向に延びる磁束が発生し、この磁束がロータの永久磁石に作用して、ロータに回転力が生じる。そのため、ロータの回転位置に応じてコイルに流れる電流が制御されることにより、ロータに回転力が連続的に発生し、ロータが回転する。
【0023】
発電モータ3のロータの中心には、回転軸13が相対回転不能に(一体に回転するように)挿通されている。回転軸13には、発電モータギヤ14が一体に回転するように設けられている。発電モータギヤ14は、ギヤ12と噛合している。
【0024】
駆動モータ4のロータの中心には、回転軸15が相対回転不能に挿通されている。回転軸15には、駆動モータギヤ16が一体に回転するように設けられており、回転軸15は、駆動モータギヤ16を介して、ハイブリッド車両1の駆動系に連結されている。駆動系には、カウンタ軸21、カウンタギヤ22およびデファレンシャルギヤ23が含まれる。カウンタ軸21は、回転軸15と平行に延びている。カウンタギヤ22は、カウンタ軸21に相対回転不能に支持されており、駆動モータギヤ16と噛合している。また、カウンタ軸21には、出力ギヤ24が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ24は、デファレンシャルギヤ23のデフケース25に固定されたリングギヤ26と噛合している。
【0025】
ハイブリッド車両1では、エンジン2の動力がギヤ12から発電モータギヤ14に入力され、発電モータ3により、発電モータギヤ14に入力されるエンジン2の動力が電力に変換される。一方、駆動モータ4により、電力が動力に変換される。駆動モータ4が発生する動力は、駆動モータギヤ16、カウンタギヤ22および出力ギヤ24を介して、デファレンシャルギヤ23のリングギヤ26に伝達され、デファレンシャルギヤ23からドライブシャフト27を介して、ハイブリッド車両1の駆動輪28に伝達される。これにより、駆動輪28が回転し、ハイブリッド車両1が前進走行または後進走行する。
【0026】
また、発電モータ3および駆動モータ4は、デファレンシャルギヤ23を含む駆動系とともに、ユニットケース(図示せず)内に収容されている。ユニットケース内には、機械式のオイルポンプ29が設けられている。オイルポンプ29は、たとえば、内接式ギヤポンプであり、ポンプケース内にポンプギヤを備えている。ポンプギヤは、エンジン2のクランクシャフト11と一体に回転するポンプ軸に相対回転不能に支持されている。クランクシャフト11が回転すると、ポンプ軸と一体にポンプギヤが回転し、ポンプギヤの回転により、ユニットケースの底部に溜まっているオイルがオイルポンプ29に吸い上げられて、オイルポンプ29からオイルが吐出される。
【0027】
ハイブリッド車両1には、ユニットケース内で使用するオイルを冷却(または加温)するためのオイルクーラが備えられている。オイルポンプ29から吐出されるオイルは、オイルクーラでの熱交換の後、ユニットケース内の各部に供給される。具体的には、ユニットケースには、たとえば、発電モータ3にオイルを供給する油路および駆動モータ4にオイルを供給する油路などが形成されている。オイルポンプ29から吐出されるオイルは、オイルクーラを通過して熱交換した後、ユニットケースに形成された油路を通して、発電モータ3、駆動モータ4およびデファレンシャルギヤ23などの各部に供給される。すなわち、ハイブリッド車両1では、発電モータ3および駆動モータ4をオイルポンプ29の駆動により循環するオイルで冷却する油冷方式が採用されている。
【0028】
また、デファレンシャルギヤ23のデフケース25およびリングギヤ26の回転時、つまりハイブリッド車両1の走行時には、ユニットケースの底部に溜まっているオイルがデフケース25およびリングギヤ26によって掻き上げられる。ハイブリッド車両1がある程度の車速で走行しているときには、デフケース25およびリングギヤ26によって掻き上げられるオイルが飛散し、そのオイルの飛沫がユニットケース内の各部に供給される。
【0029】
<ハイブリッド車両の電気系>
図2は、ハイブリッド車両1の電気系の構成を示すブロック図である。
【0030】
ハイブリッド車両1には、バッテリ(BAT)31およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)32が搭載されている。
【0031】
バッテリ31は、複数の二次電池を組み合わせた組電池である。二次電池は、たとえば、リチウムイオン電池である。バッテリ31は、たとえば、約200~350V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0032】
PCU32は、発電モータ3および駆動モータ4の駆動を制御するためのユニットであり、インバータ33,34、コンバータ(CONV)35およびMGECU36を備えている。
【0033】
インバータ(INV1)33は、発電モータ3を駆動する三相電圧形インバータであり、2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ33は、発電モータ3の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を発電モータ3に供給する。また、インバータ33は、発電モータ3の回生運転(発電運転)時に、発電モータ3で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0034】
インバータ(INV2)34は、駆動モータ4を駆動する三相電圧形インバータであり、インバータ33と同様に、2個のIGBTの直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ34は、駆動モータ4の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を駆動モータ4に供給する。また、インバータ34は、駆動モータ4の回生運転(発電運転)時に、駆動モータ4で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0035】
コンバータ35は、発電モータ3および駆動モータ4の力行運転時に、バッテリ31から出力される直流電力を昇圧してインバータ33,34に供給する。また、発電モータ3および駆動モータ4の回生運転時には、インバータ33,34から出力される直流電力を降圧してバッテリ31に供給する。
【0036】
ハイブリッド車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されており、MGECU36は、複数のECUのうちの1つである。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラ)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0037】
複数のECUには、HVECU41が含まれている。HVECU41は、エンジン2を制御し、また、PCU32を介して発電モータ3および駆動モータ4を制御する。発電モータ3および駆動モータ4の制御では、HVECU41からMGECU36に、発電モータ3のトルク指令値および駆動モータ4のトルク指令値が入力される。MGECU36は、HVECU41から入力されるトルク指令値に基づいて、インバータ33,34およびコンバータ35の動作を制御する。
【0038】
ハイブリッド車両1では、エンジン2の始動時には、バッテリ31から出力される直流電力がコンバータ35により昇圧されて、昇圧された直流電力がインバータ33で交流電力に変換され、交流電力が発電モータ3に供給される。これにより、発電モータ3が力行運転されて、エンジン2が発電モータ3によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン2のクランクシャフト11の回転数がファイアリングに必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン2の点火プラグがスパークされると、エンジン2がファイアリングする。
【0039】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ4が力行運転されて、駆動モータ4が動力を発生する。
【0040】
発電モータ3および駆動モータ4に要求される出力の合計がバッテリ31の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1がEV走行する。すなわち、エンジン2が停止されて、発電モータ3による発電が行われず、バッテリ31から駆動モータ4に電力が供給されて、その電力で駆動モータ4が駆動される。発電モータ3に要求される出力が駆動モータに要求される出力と合計されるのは、たとえば、ハイブリッド車両1の走行状態がEV走行から次に説明するHV走行に切り替わるときや、EV走行中に発電モータ3によるエンジン2のモータリングにより放電が行われるときである。
【0041】
一方、発電モータ3および駆動モータ4に要求される出力の合計がバッテリ31の出力を上回るときには、ハイブリッド車両1がHV走行する。すなわち、エンジン2が運転状態(ファイアリング)にされて、発電モータ3が発電運転(回生運転)されることにより、エンジン2の動力が発電モータ3で交流電力に変換される。そして、発電モータ3からの交流電力がインバータ33で直流電力に変換され、インバータ33から出力される直流電力がインバータ34で交流電力に変換されて、その交流電力が駆動モータ4に供給されることにより、駆動モータ4が駆動される。
【0042】
また、バッテリ31の充電残量が所定以下に低下すると、駆動モータ4の駆動/停止にかかわらず、エンジン2がファイアリングしている状態で、発電モータ3が発電運転される。このとき、発電モータ3からの交流電力がインバータ33で直流電力に変換され、インバータ33から出力される直流電力がコンバータ35で降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ31に供給されることにより、バッテリ31が充電される。
【0043】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ4が回生運転されて、駆動輪28から駆動モータ4に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ4が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このときにも、駆動モータ4からの交流電力がインバータ34で直流電力に変換され、インバータ33から出力される直流電力がコンバータ35で降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ31に供給されることにより、バッテリ31が充電される。
【0044】
また、HVECU41には、制御に必要な各種のセンサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。センサには、サーミスタ42が含まれる。サーミスタ42は、駆動モータ4のステータコアに取り付けられており、ステータコアの温度に応じた検出信号を出力する。HVECU41は、サーミスタ42の検出信号から駆動モータ4のステータコアの温度を演算し、その演算したステータコアの温度を駆動モータ4の温度(以下、「MG2温度」という。)として検出する。
【0045】
<強制冷却処理>
図3は、強制冷却処理の流れを示すフローチャートである。
【0046】
ハイブリッド車両1では、エンジン2を停止した状態での駆動モータ4の駆動によるEV走行中、エンジン2が停止していることにより、オイルポンプ29が駆動されず、オイルポンプ29から駆動モータ4にオイルが供給されない。そのため、ハイブリッド車両1が5km/h程度の低車速で登坂路を走行することにより、駆動モータ4が低速回転で高トルクを連続的に出力する状況が続くと、MG2温度が上昇する。MG2温度が出力制限閾値を超えると、駆動モータ4の保護のため、駆動モータ4の出力を制限する出力制限機能が作動し、駆動モータ4の目標トルク(トルク指令値)が低減される。5km/h程度の低車速での走行時は、デファレンシャルギヤ23のデフケース25およびリングギヤ26がオイルを掻き上げることによるオイルの飛散もなく、そのオイルの飛散による駆動モータ4の冷却作用も見込めない。
【0047】
そこで、ハイブリッド車両1の走行中は、駆動モータ4が高温状態(MG2温度が出力制限閾値を超える状態)になるのを抑制するため、HVECU41により、強制冷却処理が所定の周期で実行される。
【0048】
強制冷却処理では、ハイブリッド車両1がEV走行中であるか否かが判断される(ステップS1)。EV走行中ではない場合には(ステップS1のNO)、エンジン2が駆動中であり、オイルポンプ29から駆動モータ4にオイルが供給されているので、強制冷却処理が終了される。
【0049】
EV走行中である場合には(ステップS1のYES)、MG2温度が取得されて、MG2温度が所定の閾値(所定値)以上であるか否かが判断される(ステップS2)。閾値は、たとえば、一定値であり、出力制限閾値よりも低い値に設定される。
【0050】
MG2温度が閾値未満である場合(ステップS2のNO)、強制冷却処理が終了される。
【0051】
MG2温度が閾値以上である場合(ステップS2のYES)、エンジン2が始動されて(ステップS3)、強制冷却処理が終了される。エンジン2の始動により、オイルポンプ29が駆動され、オイルポンプ29から駆動モータ4にオイルが供給されて、駆動モータ4がオイルで冷却される。
【0052】
エンジン2の始動は、発電モータ3によるエンジン2のモータリングの開始、つまりクランクシャフト11の積極的な回転の開始を意味する。エンジン2の始動後は、オイルポンプ29からのオイルの吐出流量が一定以上(たとえば、5L/min以上)となる回転数でエンジン2が運転されれば、その運転は、発電モータ3によるモータリング運転であっても、燃料の噴射および点火が行われるファイアリング運転であっても構わない。
【0053】
強制冷却処理によるエンジン2の始動後、MG2温度が所定の終了閾値以下に低下すると、エンジン2は、通常の制御により、バッテリ31の充電残量が所定よりも多いときには、停止され、バッテリ31の充電残量が所定以下のときには、ファイアリング運転されるとよい。終了閾値は、エンジン2の始動および停止が頻繁に繰り返されないよう、エンジン2の始動判定の閾値よりも低い値に設定される。
【0054】
<作用効果>
以上のように、ハイブリッド車両1のEV走行中に、MG2温度が検出されて、MG2温度が閾値以上になった場合、停止状態のエンジン2が始動される。エンジン2のクランクシャフト11が回転すると、オイルポンプ29が駆動されるので、オイルが駆動モータ4を経由して循環し、駆動モータ4がオイルで冷却される。よって、電動オイルポンプを搭載しなくても、駆動モータ4が高温になることを抑制でき、駆動モータ4に高温保護のための出力制限がかかることを回避できる。その結果、ハイブリッド車両1が低車速で走行可能な登坂路の勾配が増大し、ハイブリッド車両1の登坂性能を向上できる。
【0055】
また、オイルポンプ29が駆動されることにより、発電モータ3および駆動モータ4を収容するユニットケース内の各部にオイルが供給されるので、ハイブリッド車両1が5km/h程度の低車速でEV走行しているときにも、各部をオイルで潤滑することができる。
【0056】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0057】
たとえば、MG2温度が閾値以上になり、エンジン2が始動された後、バッテリ31の充電残量に応じて、エンジン2の運転がモータリング運転とファイアリング運転とに切り替えられてもよい。バッテリ31の充電残量が十分である場合、つまりバッテリ31の充電残量が所定量以上である場合には、エンジン2の始動後、モータリングが継続されてもよい。これにより、燃料の消費を抑制でき、ハイブリッド車両1の燃費の向上を図ることができる。一方、バッテリ31の充電残量が不足している場合、つまりバッテリ31の充電残量が所定量未満である場合には、エンジン2の始動後に、モータリングからファイアリングに移行されて、発電モータ3による発電が行われてもよい。これにより、バッテリ31の充電残量が不足することを防止できる。
【0058】
なお、バッテリ31の充電残量が十分であるか不足しているかは、バッテリ31の充電容量に対する充電残量の比率を示すSOC(State Of Charge)で判断されてもよい。すなわち、SOCが一定値以上である場合、バッテリ31の充電残量が十分であると判断され、SOCが一定値未満である場合、バッテリ31の充電残量が不足していると判断されてもよい。
【0059】
エンジン2を始動させるMG2温度の閾値は、たとえば、MG2温度の上昇度合いが大きいほど、出力制限閾値に対して低い値に設定されてもよい。閾値が出力制限閾値よりも低い値に設定されることにより、MG2温度が出力制限閾値に達する前に、駆動モータ4をオイルで冷却することができる。しかし、閾値が低すぎると、エンジン2の始動の頻度が多くなるので、MG2温度の上昇度合いが大きいほど、閾値が出力制限閾値に対して低い値に設定されることにより、MG2温度が出力制限閾値に達することを良好に防止できながら、エンジン2の始動の頻度が多くなることを抑制できる。
【0060】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:ハイブリッド車両
2:エンジン
3:発電モータ
4:駆動モータ
11:クランクシャフト(出力軸)
29:オイルポンプ
41:HVECU(制御装置、検出手段、始動手段)
42:サーミスタ(検出手段)
図1
図2
図3