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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139851
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20220915BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F01P7/16 504A
F01P7/16 Z
H02K9/19 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040406
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】中川 光路
(72)【発明者】
【氏名】今井 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】穴井 稔
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB03
5H609BB12
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP07
5H609PP17
5H609QQ05
5H609QQ08
5H609RR53
5H609SS06
5H609SS21
(57)【要約】
【課題】モータの出力がモータの保護のために制限されるのを回避できる、車両用制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両では、発電モータおよび駆動モータをオイルで冷却する油冷方式が採用されており、オイルは、オイルクーラにおいて、冷却水循環路を流れる冷却水との熱交換により冷却される。通常制御(S2)では、冷却水の流量が冷却水温度に応じた流量に制御される。通常制御が行われている状態で発電モータの温度(MG1温度)および駆動モータの温度(MG2温度)の少なくとも一方が制御開始閾値以上になった場合(S1:YES)、冷却水循環路を流れる冷却水の流量が電動ウォータポンプの最大吐出流量まで増加するように、電動ウォータポンプの駆動が制御される(S2)。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、冷却水路を流れる冷却水との熱交換によりオイルを冷却し、そのオイルにより前記モータを冷却する冷却系とを搭載した車両に用いられる制御装置であって、
前記冷却水の流量を前記冷却水の温度に応じた流量に制御する流量制御手段と、
前記流量制御手段による制御が行われている状態で前記モータの温度と相関関係を有する変数が所定値以上になった場合、前記オイルと前記冷却水との間での熱交換量を増加させる熱交換量増加手段と、を含む、車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを搭載した車両に用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、シリーズ方式のハイブリッド車両には、エンジンの動力で発電する発電モータと、走行用の動力を発生する駆動モータとが搭載されている。発電モータおよび駆動モータは、デファレンシャルギヤとともにユニットケース内に収容されて、トランスアクスルとしてユニット化されている。
【0003】
ハイブリッド車両には、モータ(発電モータおよび駆動モータ)を駆動するためのインバータやマイコン(マイクロコントローラ)などを内蔵するPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)が搭載されている。モータの運転時には、銅損および鉄損などによる発熱が生じるため、それらの連続的な運転を行うには、モータの冷却が必要となる。また、PCUを冷却して、PCUの内部の電子部品の熱破壊などを防止する必要がある。そのため、ハイブリッド車両には、モータおよびPCUを冷却するHV冷却系が設けられている。
【0004】
HV冷却系は、モータの冷却方式として、オイルによりモータを冷却する油冷方式を採用している。トランスアクスルのユニットケース内には、オイルポンプが設けられており、オイルポンプが駆動されると、ユニットケースの底部に溜まっているオイルがオイルポンプに吸い上げられて、オイルポンプから吐出されるオイルがモータに供給される。
【0005】
一方、HV冷却系は、PCUの冷却方式として、冷却水によりPCUを冷却する水冷方式を採用している。HV冷却系には、電動ウォータポンプの作動により冷却水が循環する冷却水循環路が設けられている。冷却水循環路は、PCUを経由しており、冷却水循環路を冷却水が循環することにより、PCUと冷却水との間で熱交換が行われる。また、冷却水循環路は、トランスアクスルに設けられたオイルクーラを経由しており、オイルクーラでは、冷却水とトランスアクスルでモータの冷却に使用されるオイルとの間で熱交換が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-56615号公報
【特許文献2】特開2014-3752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電動ウォータポンプの駆動を制御するため、図5に示されるように、冷却水循環路を循環する冷却水の温度(冷却水温度)と電動ウォータポンプに要求される冷却水の吐出流量(W/P要求流量)との関係が設定されている。電動ウォータポンプの駆動制御では、冷却水温度が検出されて、冷却水温度とW/P要求流量との関係から、その検出された冷却水温度に応じたW/P要求流量が設定される。すなわち、冷却水温度が一定の下限温度以下の範囲では、W/P要求流量が電動ウォータポンプの最小吐出流量に設定され、冷却水温度が一定の上限温度以上の範囲では、W/P要求流量が電動ウォータポンプの最大吐出流量に設定され、冷却水温度が下限温度と上限温度との間の範囲では、冷却水温度が高いほどW/P要求流量が大きい値に設定される。そして、電動ウォータポンプの吐出流量がW/P要求流量に一致するように、電動ウォータポンプの駆動が制御される。
【0008】
そのため、高速走行時や外気温が低いなど、冷却水温度が低い状況では、W/P要求流量が小さい値に設定され、冷却水循環路を循環する冷却水の流量が低流量に制限される。モータの発熱量が大きい高出力時に冷却水の流量が低流量に制限されると、オイルクーラでの熱交換量が低下することによりオイルの冷却が不足して、油温およびモータの温度が上昇し、モータの保護のため、モータの出力が制限される可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、モータの出力がモータの保護のために制限されるのを回避できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、モータと、冷却水路を流れる冷却水との熱交換によりオイルを冷却し、そのオイルによりモータを冷却する冷却系とを搭載した車両に用いられる制御装置であって、冷却水の流量を冷却水の温度に応じた流量に制御する流量制御手段と、流量制御手段による制御が行われている状態でモータの温度と相関関係を有する変数が所定値以上になった場合、オイルと冷却水との間での熱交換量を増加させる熱交換量増加手段とを含む。
【0011】
この構成によれば、モータを搭載した車両では、モータをオイルで冷却する油冷方式が採用されており、オイルは、冷却水路を流れる冷却水との熱交換により冷却される。通常は、冷却水の流量が冷却水の温度に応じた流量に制御される。この制御が行われている状態でモータの温度と相関関係を有する変数が所定値以上になった場合、オイルと冷却水との間での熱交換量が増加される。オイルと冷却水との間での熱交換量の増加により、オイルの温度が下がるので、モータが高温になることを抑制でき、モータの出力がモータの保護のために制限されることを回避できる。
【0012】
モータの温度と相関関係を有する変数は、たとえば、サーミスタによって検出されるモータのステータコアの温度であってもよいし、モータに供給されるオイルの温度であってもよい。モータのステータコアの温度が上昇すると、それに伴ってオイルの温度が上昇するので、オイルの温度は、ステータコアの温度と正の相関関係を有する。
【0013】
熱交換量増加手段には、冷却水の流量を流量制御手段の制御による流量よりも増加させる流量増加手段が含まれてもよい。冷却水の流量を増加させることにより、オイルと冷却水との間での熱交換量を増加させることができる。
【0014】
また、冷却系に冷却水を冷却する冷却装置が含まれる構成では、熱交換量増加手段に、冷却手段の冷却能力を増加させる冷却能力増加手段が含まれてもよい。冷却装置の冷却能力を増加させることにより、冷却水の温度を下げることができるので、オイルと冷却水との間での熱交換量を増加させることができる。
【0015】
冷却系は、冷却水を冷却水路に吐出する電動ウォータポンプを備え、制御装置は、冷却水の温度と流量との関係を記憶する記憶手段をさらに含み、流量制御手段は、記憶手段に記憶されている関係から冷却水の温度に応じた流量を設定し、冷却水の流量がその設定した流量となるように、電動ウォータポンプを制御する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モータが高温になることを抑制でき、モータの出力がモータの保護のために制限されることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ハイブリッド車両の動力伝達系の構成を示すスケルトン図である。
図2】ハイブリッド車両の冷却系の構成を図解的に示す図である。
図3】ハイブリッド車両の制御系の構成(本発明の一実施形態に係る制御装置を備える構成)を示すブロック図である。
図4】流量制御処理の流れを示すフローチャートである。
図5】冷却水温度とW/P要求流量(冷却水流量)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<ハイブリッド車両の動力伝達系>
図1は、ハイブリッド車両1の動力伝達系の構成を示すスケルトン図である。
【0020】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載した車両である。ハイブリッド車両1には、エンジン2、発電モータ(MG1)3および駆動モータ(MG2)4が搭載されている。
【0021】
エンジン2は、たとえば、ガソリンエンジンであり、燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどを備えている。エンジン2の出力軸であるクランクシャフト11には、エンジンギヤ12がクランクシャフト11と一体に回転するように設けられている。
【0022】
発電モータ3および駆動モータ4は、たとえば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)からなる。永久磁石同期モータは、ステータおよびロータを備えている。ステータには、ステータコアおよびコイルが設けられている。ステータコアは、円環状(円筒状)のステータヨークおよびステータヨークから径方向内側に延びる複数のティースを有し、コイルは、各ティースに集中巻されている。ロータは、ステータの内側に配置されており、ステータヨークと同心で円環状のロータヨークおよびロータヨークに周方向に並べて埋め込まれた複数の永久磁石を有している。ステータのコイルに電流が流れると、ティースに沿って回転径方向に延びる磁束が発生し、この磁束がロータの永久磁石に作用して、ロータに回転力が生じる。そのため、ロータの回転位置に応じてコイルに流れる電流が制御されることにより、ロータに回転力が連続的に発生し、ロータが回転する。
【0023】
発電モータ3のロータの中心には、回転軸13が相対回転不能に(一体に回転するように)挿通されている。回転軸13には、発電モータギヤ14が一体に回転するように設けられている。発電モータギヤ14は、エンジンギヤ12と噛合している。
【0024】
駆動モータ4のロータの中心には、回転軸15が相対回転不能に挿通されている。回転軸15には、駆動モータギヤ16が一体に回転するように設けられており、回転軸15は、駆動モータギヤ16を介して、ハイブリッド車両1の駆動系に連結されている。駆動系には、カウンタ軸21、カウンタギヤ22およびデファレンシャルギヤ23が含まれる。カウンタ軸21は、回転軸15と平行に延びている。カウンタギヤ22は、カウンタ軸21に相対回転不能に支持されており、駆動モータギヤ16と噛合している。また、カウンタ軸21には、出力ギヤ24が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ24は、デファレンシャルギヤ23のデフケース25に固定されたリングギヤ26と噛合している。
【0025】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ4が力行運転されて、駆動モータ4が動力を発生する。駆動モータ4が発生する動力は、駆動モータギヤ16、カウンタギヤ22および出力ギヤ24を介して、デファレンシャルギヤ23のリングギヤ26に伝達され、デファレンシャルギヤ23からドライブシャフト27を介して、ハイブリッド車両1の駆動輪28に伝達される。これにより、駆動輪28が回転し、ハイブリッド車両1が前進走行または後進走行する。
【0026】
発電モータ3および駆動モータ4に要求される出力の合計がバッテリの出力より小さいときには、ハイブリッド車両1がEV走行する。すなわち、エンジン2が停止されて、発電モータ3による発電が行われず、バッテリから駆動モータ4に電力が供給されて、その電力で駆動モータ4が駆動される。
【0027】
一方、発電モータ3および駆動モータ4に要求される出力の合計がバッテリの出力を上回るときには、ハイブリッド車両1がHV走行する。すなわち、エンジン2が運転状態(ファイアリング)にされて、発電モータ3が発電運転(回生運転)されることにより、エンジン2の動力が発電モータ3で交流電力に変換される。そして、発電モータ3からの交流電力が駆動モータ4に供給されることにより、駆動モータ4が駆動される。
【0028】
なお、エンジン2の始動時には、発電モータ3が力行運転されて、エンジン2が発電モータ3によりモータリング(クランキング)される。モータリングによりエンジン2のクランクシャフト11の回転数がファイアリングに必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン2の点火プラグがスパークされると、エンジン2がファイアリングする。
【0029】
また、バッテリの充電残量が所定以下に低下すると、駆動モータ4の駆動/停止にかかわらず、エンジン2がファイアリングしている状態で、発電モータ3が発電運転されて、発電モータ3の発電電力でバッテリが充電される。バッテリは、たとえば、複数のリチウムイオン電池を組み合わせた組電池である。
【0030】
ハイブリッド車両1の減速時には、駆動モータ4が回生運転されて、駆動輪28から駆動モータ4に伝達される動力が電力に変換される。このとき、駆動モータ4が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗がハイブリッド車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。このときにも、駆動モータ4の発電電力でバッテリが充電される。
【0031】
発電モータ3および駆動モータ4は、デファレンシャルギヤ23を含む駆動系とともに、ユニットケース(図示せず)内に収容されて、トランスアクスルとしてユニット化されている。ユニットケース内には、機械式のオイルポンプ29が設けられている。オイルポンプ29は、たとえば、内接式ギヤポンプであり、ポンプケース内にポンプギヤを備えている。ポンプギヤは、エンジン2のクランクシャフト11と一体に回転するポンプ軸に相対回転不能に支持されている。クランクシャフト11が回転すると、ポンプ軸と一体にポンプギヤが回転し、ポンプギヤの回転により、ユニットケースの底部に溜まっているオイルがオイルポンプ29に吸い上げられて、オイルポンプ29からオイルが吐出される。
【0032】
<ハイブリッド車両の冷却系>
図2は、ハイブリッド車両1の冷却系の構成を図解的に示す図である。
【0033】
ハイブリッド車両1には、エンジン2を冷却するエンジン冷却系(図示せず)とは別に、トランスアクスルおよびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)31を冷却するHV冷却系32が設けられている。PCU31の構成については、後述する。
【0034】
HV冷却系32には、ユニットケース内のオイルを冷却(または加温)するためのオイルクーラ(O/C)33が含まれる。オイルポンプ29から吐出されるオイルは、オイルクーラ33を経由した後、発電モータ3および駆動モータ4を通過し、その際に発電モータ3および駆動モータ4を冷却して、ユニットケースの底部に戻る。すなわち、HV冷却系32では、発電モータ3および駆動モータ4をオイルポンプ29の駆動により循環するオイルで冷却する油冷方式が採用されている。
【0035】
一方、HV冷却系32では、PCU31の冷却方式として、冷却水によりPCU31を冷却する水冷方式が採用されており、HV冷却系32には、電動ウォータポンプ(W/P)34およびラジエータ35が含まれる。電動ウォータポンプ34の吐出口および吸込口には、それぞれ冷却水循環路36の一端および他端が接続されており、電動ウォータポンプ34が駆動されると、冷却水循環路36を冷却水が循環する。ラジエータ35は、冷却水循環路36の途中部に介装されており、冷却水循環路36は、ラジエータ35と電動ウォータポンプ34の吸込口との間において、PCU31およびオイルクーラ33を電動ウォータポンプ34の吐出口側からこの順に経由している。冷却水循環路36を循環する冷却水は、ラジエータ35に放熱して降温し、PCU31との熱交換により昇温する。また、オイルクーラ33では、オイルポンプ29の駆動により循環するオイルと冷却水との間で熱交換が行われ、オイルが降温し、冷却水が昇温する。
【0036】
<ハイブリッド車両の制御系>
図3は、ハイブリッド車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0037】
PCU31は、発電モータ3および駆動モータ4の駆動を制御するためのユニットであり、インバータおよびコンバータを備えている。インバータは、発電モータ3および駆動モータ4のそれぞれに対応して設けられており、発電モータ3および駆動モータ4の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力を発電モータ3および駆動モータ4に供給し、また、発電モータ3および駆動モータ4の回生運転(発電運転)時に、発電モータ3および駆動モータ4で発生する交流電力を直流電力に変換する。コンバータは、発電モータ3および駆動モータ4の力行運転時に、バッテリから出力される直流電力を昇圧してインバータに供給する。また、発電モータ3および駆動モータ4の回生運転時には、インバータから出力される直流電力を降圧してバッテリに供給する。
【0038】
また、ハイブリッド車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されており、PCU31には、複数のECUのうちの1つであるMGECU41が備えられている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラ)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0039】
複数のECUには、HVECU42が含まれている。HVECU42は、PCU31を介して発電モータ3および駆動モータ4を制御する。発電モータ3および駆動モータ4の制御では、HVECU42からMGECU41に、発電モータ3のトルク指令値および駆動モータ4のトルク指令値が入力される。MGECU41は、HVECU42から入力されるトルク指令値に基づいて、PCU31のインバータおよびコンバータの動作を制御する。
【0040】
また、HVECU42による制御対象には、HV冷却系32の電動ウォータポンプ34が含まれる。HVECU42は、流量制御処理により、電動ウォータポンプ34の駆動を制御して、冷却水循環路36を流れる冷却水の流量を制御する。流量制御処理については、後述する。
【0041】
HVECU42には、流量制御処理に必要なセンサとして、MG1用サーミスタ43、MG2用サーミスタ44および冷却水用サーミスタ45が接続されている。
【0042】
MG1用サーミスタ43は、発電モータ3のステータコアに取り付けられており、そのステータコアの温度に応じた検出信号を出力する。HVECU42は、MG1用サーミスタ43の検出信号から発電モータ3のステータコアの温度を演算し、その演算したステータコアの温度を発電モータ3の温度(以下、「MG1温度」という。)として検出する。
【0043】
MG2用サーミスタ44は、駆動モータ4のステータコアに取り付けられており、そのステータコアの温度に応じた検出信号を出力する。HVECU42は、MG2用サーミスタ44の検出信号から駆動モータ4のステータコアの温度を演算し、その演算したステータコアの温度を駆動モータ4の温度(以下、「MG2温度」という。)として検出する。
【0044】
冷却水用サーミスタ45は、冷却水循環路36を循環する冷却水の温度を冷却水のPCU31への入口となる位置で検出するように設けられ、PCU31の入口の位置における冷却水の温度に応じた検出信号を出力する。HVECU42は、冷却水用サーミスタ45の検出信号からPCU31の入口の位置における冷却水の温度を演算し、その演算した温度を冷却水循環路36を循環する冷却水の温度(以下、「冷却水温度」という。)として検出する。
【0045】
<流量制御処理>
図4は、流量制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0046】
流量制御処理では、まず、MG1温度およびMG2温度が取得されて、MG1温度またはMG2温度が所定の制御開始閾値以上であるか否かが判断される(ステップS1)。MG1温度およびMG2温度は、一定の周期で検出されており、MG1温度およびMG2温度の取得とは、現時点における最新のMG1温度およびMG2温度を取り上げることをいう。冷却水温度についても同様である。
【0047】
MG1温度およびMG2温度の両方が制御開始閾値未満である場合(ステップS1のNO)、通常の制御が行われる(ステップS2)。HVECU42の不揮発性メモリには、冷却水温度と電動ウォータポンプ34に要求される冷却水の吐出流量であるW/P要求流量との関係が記憶されており、通常の制御では、冷却水温度が取得されて、その不揮発性メモリに記憶されている関係から、冷却水温度に応じたW/P要求流量が設定される。冷却水温度とW/P要求流量との関係は、図5に示される関係である。この関係から、冷却水温度が一定の下限温度以下の範囲では、W/P要求流量が電動ウォータポンプ34の最小吐出流量に設定され、冷却水温度が一定の上限温度以上の範囲では、W/P要求流量が電動ウォータポンプ34の最大吐出流量に設定され、冷却水温度が下限温度と上限温度との間の範囲では、冷却水温度が高いほどW/P要求流量が大きい値に設定される。そして、電動ウォータポンプ34の吐出流量がW/P要求流量に一致するように、電動ウォータポンプ34の駆動が制御される。
【0048】
高速走行時や外気温が低いなど、冷却水温度が低い状況では、W/P要求流量が小さい値に設定され、冷却水循環路36を循環する冷却水の流量が低流量に制限される。発電モータ3および/または駆動モータ4の発熱量が大きい高出力時に冷却水の流量が低流量に制限されると、オイルクーラ33におけるオイルと冷却水との間での熱交換量が少ないために、オイルの冷却が不足して、オイルの温度(油温)が上昇し、MG1温度およびMG2温度が上昇する。MG1温度が所定の制限閾値を超えると、発電モータ3の保護のため、発電モータ3の出力が一定以下に制限される。MG2温度が所定の出力制限閾値を超えると、駆動モータ4の保護のため、駆動モータ4の出力が一定以下に制限される。MG1温度の出力制限閾値とMG2温度の出力制限閾値とは、たとえば、105~145℃の範囲内の温度値に設定され、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0049】
制御開始閾値は、出力制限閾値未満の温度値に設定され、たとえば、85~125℃の範囲内の温度値に設定されている。通常制御が行われている状態において、MG1温度およびMG2温度の少なくとも一方が制御開始閾値に達すると(ステップS1のYES)、流量最大制御が開始される(ステップS3)。流量最大制御では、W/P要求流量が電動ウォータポンプ34の最大吐出流量に設定される。これにより、冷却水温度が上限温度未満である場合、冷却水循環路36を循環する冷却水の流量が増加し、オイルクーラ33におけるオイルと冷却水との間での熱交換量が増加する。
【0050】
流量最大制御が行われている間は、MG1温度およびMG2温度の両方が所定の制御終了閾値以下に低下したか否かが繰り返し判断される(ステップS4)。制御終了閾値は、制御開始閾値以下の温度値に設定され、たとえば、65~105℃の範囲内の温度値に設定されている。MG1温度およびMG2温度の両方が制御終了閾値以下に低下するまで、流量最大制御が続けられ、MG1温度およびMG2温度の両方が制御終了閾値以下に低下すると(ステップS4のYES)、流量最大制御が終了されて、通常制御が開始される(ステップS2)。
【0051】
<作用効果>
以上のように、ハイブリッド車両1では、発電モータ3および駆動モータ4をオイルで冷却する油冷方式が採用されており、オイルは、オイルクーラ33において、冷却水循環路36を流れる冷却水との熱交換により冷却される。通常制御では、冷却水の流量が冷却水温度に応じた流量に制御される。通常制御が行われている状態でMG1温度およびMG2温度の少なくとも一方が制御開始閾値以上になった場合、冷却水循環路36を流れる冷却水の流量が電動ウォータポンプ34の最大吐出流量に増加するように、電動ウォータポンプ34の駆動が制御される。これにより、オイルクーラ33でのオイルと冷却水との間での熱交換量が増加する。オイルと冷却水との間での熱交換量の増加により、オイルの温度が下がるので、MG1温度およびMG2温度が出力制限閾値以上の高温になることを抑制でき、発電モータ3および駆動モータ4の出力がそれぞれ発電モータ3および駆動モータ4の保護のために制限されることを回避できる。その結果、ハイブリッド車両1の高速走行時など、発電モータ3および駆動モータ4の高出力時におけるドライバビリティを向上させることができる。
【0052】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0053】
たとえば、前述の実施形態では、MG1温度およびMG2温度の少なくとも一方が制御開始閾値以上になると、W/P要求流量が電動ウォータポンプ34の最大吐出流量に引き上げられるとした。
【0054】
これに限らず、MG1温度およびMG2温度の少なくとも一方が制御開始閾値以上になると、電動ウォータポンプ34の最大吐出流量以下の範囲内において、W/P要求流量が現在のW/P要求流量よりも大きい所定値に引き上げられてもよく、その所定値は、MG1温度およびMG2温度の両方が制御開始閾値以上である場合には、MG1温度およびMG2温度の一方が制御開始閾値以上である場合よりも大きい値に引き上げられてもよい。これにより、MG1温度およびMG2温度の両方が制御開始閾値以上になった場合には、MG1温度およびMG2温度の一方が制御開始閾値以上である場合よりも、オイルクーラ33でのオイルと冷却水との間での熱交換量をさらに増加させることができる。
【0055】
また、MG1温度またはMG2温度が制御開始閾値以上になった場合に、その制御開始閾値以上になるまでのMG1温度またはMG2温度の上昇度合いが大きいほど、W/P要求流量が大きい値に引き上げられてもよい。これにより、MG1温度またはMG2温度の上昇度合いが大きいほど、オイルクーラ33でのオイルと冷却水との間での熱交換量を大きく増加させることができ、MG1温度およびMG2温度が出力制限閾値に達することを良好に抑制できる。
【0056】
ラジエータ35を冷却するラジエータファンが設けられている場合、MG1温度およびMG2温度の少なくとも一方が制御開始閾値以上になると、W/P要求流量が引き上げられるとともに、または、W/P要求流量が引き上げられるのに代えて、ラジエータファンの送風能力(回転数)が引き上げられてもよい。これによっても、オイルクーラ33でのオイルと冷却水との間での熱交換量を増加させることができる。
【0057】
MG1温度についての制御開始閾値とMG2温度についての制御開始閾値とは、同一の値に限らず、異なる値に設定されてもよい。
【0058】
また、MG1温度およびMG2温度に限らず、MG1温度およびMG2温度と相関関係を有する変数、たとえば、発電モータ3および駆動モータ4を冷却するオイルの温度が検出されて、通常制御が行われている状態でオイルの温度が制御開始閾値以上になると、W/P要求流量が現在のW/P要求流量よりも大きい値に引き上げられてもよい。
【0059】
前述の実施形態では、シリーズ方式のハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両1を取り上げたが、本発明は、シリーズ・パラレル方式など、シリーズ方式以外の方式のハイブリッドシステムを搭載した車両に適用可能である。シリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムでは、たとえば、エンジンおよびモータが遊星歯車機構に接続されており、エンジンからの動力を分割してモータおよび駆動輪に振り分けることができ、エンジンからの動力およびモータからの動力を合成して駆動輪に伝達することができる。また、本発明は、ハイブリッドシステムを採用した車両に限らず、モータを搭載した車両であれば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)に適用することもでき、また、エンジンを駆動源とするコンベンショナルな車両に適用されてもよい。
【0060】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:ハイブリッド車両(車両)
3:発電モータ(モータ)
4:駆動モータ(モータ)
32:HV冷却系(冷却系)
36:冷却水循環路(冷却水路)
42:HVECU(車両用制御装置、流量制御手段、熱交換量増加手段)
図1
図2
図3
図4
図5