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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139874
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ヒートシンク一体型絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220915BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220915BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20220915BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H01L23/36 Z
H01L25/04 C
H05K1/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040439
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
(72)【発明者】
【氏名】黒光 祥郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 慶昭
【テーマコード(参考)】
5E338
5F136
【Fターム(参考)】
5E338AA01
5E338AA16
5E338BB75
5E338EE02
5F136BA03
5F136BA06
5F136BB05
5F136DA27
5F136FA02
5F136FA03
(57)【要約】
【課題】温度変化による面に直交する方向への応力の発生を抑制することにより、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供する。
【解決手段】ヒートシンク20と絶縁樹脂層12と回路層13を備え、回路層13は、銅又は銅合金で構成されており、ヒートシンク20の天板部21は、アルミニウム又はアルミニウムからなるアルミニウム層21aと銅層21cとを備えたクラッド構造とされ、銅層21cの表面に絶縁樹脂層12が形成されており、アルミニウム層21aの厚さtaと銅層21cの厚さtcとの比ta/tcが30以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシンクと、このヒートシンクの天板部に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の一方の面に形成された回路層と、を備え、
前記回路層は、銅又は銅合金で構成されており、
前記ヒートシンクの天板部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層とこのアルミニウム層に積層された銅層とを備えたクラッド構造とされ、前記銅層の表面に前記絶縁樹脂層が形成されており、
前記アルミニウム層の厚さtaと前記銅層の厚さtcとの比ta/tcが30以下であることを特徴とするヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【請求項2】
前記絶縁樹脂層は、無機材料のフィラーを含有していることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【請求項3】
前記ヒートシンクは、放熱フィンを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒートシンクと、このヒートシンクの天板部に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の一方の面に形成された回路層と、を備えたヒートシンク一体型絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。なお、絶縁層としては、セラミックスを用いたものや絶縁樹脂を用いたものが提案されている。
絶縁樹脂層を備えた絶縁回路基板として、例えば特許文献1には、ヒートシンクと回路層とを絶縁樹脂シートによって絶縁したヒートシンク一体型絶縁回路基板が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、熱発生部材の少なくとも一つの面に熱伝導性絶縁接着膜を介して放熱ベース基板が接着された複合部材が開示されている。この特許文献2においては、温度変化に伴う放熱部材および熱発生部材の膨張または伸縮から生じる応力によって熱伝導性絶縁接着膜にクラックが生じることを抑制するために、せん断接着力と熱応力の関係、および、破断伸度と熱歪との関係を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-204700号公報
【特許文献2】特開2019-041111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヒートシンクの天板部に絶縁樹脂層を形成し、この絶縁樹脂層の上に回路層を形成したヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、温度変化によって面に直交する方向への応力が生じ、反りが発生することがある。
ヒートシンク一体型絶縁回路基板において反りが生じた場合には、回路層の端部が絶縁樹脂層から剥離したり、この剥離が絶縁樹脂層の内部に進展したりしてしまうおそれがあった。
ここで、特許文献2においては、面内の応力やひずみについては評価しているが、面に直交する方向についての応力については考慮されていない。このため、回路層の剥離や絶縁樹脂層の内部剥離については、全く対応していない。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、温度変化による面に直交する方向への応力の発生を抑制することにより、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明者ら鋭意検討を行った結果、銅層とアルミニウム層との厚さ比を適正化することにより、温度変化による面に直交する方向への応力を低減可能であるとの知見を得た。
すなわち、ヒートシンクの天板部を銅層とアルミニウム層とが積層したクラッド構造とし、銅層の厚さ、アルミニウム層の厚さを変更し、温度変化による面に直交する方向への応力を熱計算することにより、これらの厚さの適正範囲を求めた。
【0008】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板は、ヒートシンクと、このヒートシンクの天板部に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の一方の面に形成された回路層と、を備え、前記回路層は、銅又は銅合金で構成されており、前記ヒートシンクの天板部は、アルミニウム又はアルミニウムからなるアルミニウム層とこのアルミニウム層に積層された銅層とを備えたクラッド構造とされ、前記銅層の表面に前記絶縁樹脂層が形成されており、前記アルミニウム層の厚さtaと前記銅層の厚さtcとの比ta/tcが30以下であることを特徴としている。
【0009】
この構成のヒートシンク一体型絶縁回路基板によれば、ヒートシンクの天板部が銅層とアルミニウム層とが積層されたクラッド構造とされており、前記アルミニウム層の厚さtaと前記銅層の厚さtcとの比ta/tcが30以下とされているので、温度変化によって生じる面に直交する方向への応力を低減することができ、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0010】
ここで、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、前記絶縁樹脂層は、無機材料のフィラーを含有していることが好ましい。
この場合、絶縁樹脂層の熱伝導性が確保されることから、回路層の上に搭載された熱源からの熱をヒートシンク側へと効率良く伝達することができ、ヒートシンク側で効率良く放熱することが可能となる。
【0011】
また、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、前記ヒートシンクは、放熱フィンを備えていることが好ましい。
この場合、前記ヒートシンクにおける放熱特性が向上し、回路層の上に搭載された熱源からの熱をヒートシンク側で効率良く放熱することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度変化による面に直交する方向への応力の発生を抑制することにより、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法の一例を説明するフロー図である。
図3】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
図4】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10およびこのヒートシンク一体型絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0015】
図1に示すパワーモジュール1は、ヒートシンク一体型絶縁回路基板10と、このヒートシンク一体型絶縁回路基板10の一方の面(図1において上面)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
【0016】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。ヒートシンク一体型絶縁回路基板10と半導体素子3とを接合するはんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0017】
絶縁樹脂層12は、回路層13とヒートシンク20との間の電気的接続を防止するものであり、絶縁性を有する樹脂で構成されている。
本実施形態では、絶縁樹脂層12の強度を確保するとともに、熱伝導性を確保するために、無機材料のフィラーを含有する樹脂を用いることが好ましい。ここで、フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を用いることができる。絶縁樹脂層12における熱伝導性を確保する観点から、フィラーの含有量は70mass%以上であることが好ましく、80mass%以上であることがより好ましい。
また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂、シリコン樹脂等を用いることができる。ここで、エポキシ樹脂であればフィラーを70mass%以上含有することができ、シリコン樹脂であればフィラーを80mass%以上含有することができる。
【0018】
なお、絶縁樹脂層12における絶縁性を十分に確保するためには、絶縁樹脂層12の厚さを50μm以上とすることが好ましく、100μm以上とすることがより好ましい。一方、ヒートシンク一体型絶縁回路基板10における放熱性をさらに確保するためには、絶縁樹脂層12の厚さを250μm以下とすることが好ましく、150μm以下とすることがより好ましい。
【0019】
回路層13は、図4に示すように、絶縁樹脂層12の一方の面(図4において上面)に、導電性に優れた銅又は銅合金からなる金属片33が接合されることにより形成されている。回路層13を構成する金属片33として、無酸素銅の圧延板を打ち抜いたものが用いられている。
この回路層13においては、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
ここで、回路層13の厚さtは、0.1mm以上3.0mm以下の範囲内とされていることが好ましい。回路層13の厚さtを0.1mm以上とすることで、半導体素子3の発熱を十分に広げることができる。一方、回路層13の厚さtを3.0mm以下とすることで、回路パターンの形成精度悪化や製造効率悪化などの問題の発生を抑制することできる。
なお、回路層13の厚さtは、放熱性確保のためには0.3mm以上とすることがさらに好ましく、0.5mm以上とすることがより好ましい。また、回路層13の厚さtは、2.5mm以下とすることがさらに好ましく、2.0mm以下とすることがより好ましい。
【0020】
ヒートシンク一体型絶縁回路基板10は、ヒートシンク20と、このヒートシンク20の天板部21の一方の面(図1において上面)に形成された絶縁樹脂層12と、絶縁樹脂層12の一方の面(図1において上面)に形成された回路層13と、を備えている。なお、上述の半導体素子3は、回路層13の一方の面(図1において上面)に接合される。
【0021】
ヒートシンク20は、天板部21と、この天板部21の他方の面(図1において下面)から突出した放熱フィン25と、を備えている。
このヒートシンク20においては、天板部21で熱を面方向に拡げるとともに、放熱フィン25を介して外部に放熱する構成とされている。
【0022】
ヒートシンク20の天板部21は、図1に示すように、銅層21cとアルミニウム層21aとが積層されたクラッド構造とされており、銅層21cの表面に絶縁樹脂層12が形成されている。
銅層21cは、純銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、無酸素銅で構成されている。
アルミニウム層21aは、純アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されており、本実施形態では、A6063合金で構成されている。A6063以外にも、A3003等のアルミニウム合金を用いることができる。純アルミニウムとしては、純度が99mass%以上の2N-Al、純度が99.9mass%以上の3N-Al、純度が99.99mass%以上の4N-Alなどを用いることができる。
【0023】
そして、天板部21を構成するアルミニウム層21aの厚さtaと銅層21cの厚さtcとの比ta/tcが30以下とされている。比ta/tcが30を超えた場合、熱処理時に部材の線膨張差を起因とした熱応力により金属(銅層21c)と樹脂界面端部から剥離が生じる。
ここで、アルミニウム層21aの厚さtaと銅層21cの厚さtcとの比ta/tcは、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。アルミニウム層21aの厚さtaと銅層21cの厚さtcとの比ta/tcの下限に特に制限はないが、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態においては、天板部21を構成する銅層21cの厚さtcが0.1mm以上3.0mm以下の範囲内とされていることが好ましい。銅層21cの厚さtcを0.1mm以上とすることで、固相拡散接合によりアルミニウム層21aと銅層21cとが積層したクラッド構造を形成した際に銅層21cが全て金属間化合物に変わり放熱性が悪化することを抑制できる。一方、銅層21cの厚さtcを3.0mm以下とすることにより、銅の加工性の面で問題が生じることを抑制できる。
ここで、銅層21cの厚さtcは、0.3mm以上であることがさらに好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。また、銅層21cの厚さtcは、3.0mm以下であることがさらに好ましく、2.0mm以下であることがより好ましい。
【0025】
また、本実施形態においては、天板部21を構成するアルミニウム層21aの厚さtaが0.1mm以上5.0mm以下の範囲内とされていることが好ましい。アルミニウム層21aの厚さtaを0.1mm以上とすることにより、フィンの加工面で問題が生じることを抑制できる。一方、アルミニウム層21aの厚さtaを5.0mm以下とすることにより、放熱性が悪化することを抑制できる。
ここで、アルミニウム層21aの厚さtaは、1.0mm以上であることがさらに好ましく、2.0mm以上であることがより好ましい。また、アルミニウム層21aの厚さtaは、4.0mm以下であることがさらに好ましく、3.0mm以下であることがより好ましい。
【0026】
なお、放熱フィン25は、アルミニウム層21aに接続されており、本実施形態においては、放熱フィン25もアルミニウム層21aと同じ材質(A6063合金)で構成されている。
また、放熱フィン25は、ピンフィン構造であってもよいし、櫛形構造であってもよい。なお、放熱フィン25が形成された箇所における放熱フィン25が占める体積割合を10%以上40%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10の製造方法について、図2から図4を参照して説明する。
【0028】
(天板部形成工程S01)
まず、アルミニウム層21aと銅層21cとが積層したクラッド構造の天板部21を形成する。
本実施形態では、図3に示すように、アルミニウム板31aと銅板31cとを積層し、積層方向に加圧および加熱することにより、アルミニウム板31aと銅板31cとを固相拡散接合することで、クラッド構造の天板部21を形成している。なお、本実施形態においては、図3に示すように、アルミニウム板31aに放熱フィン25が形成された状態で、銅板31cと接合している。
ここで、アルミニウム板31aと銅板31cの固相拡散接合の条件は、加熱温度が400℃以上548℃未満の範囲内、加圧荷重が0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内、保持時間が5分以上240分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0029】
(樹脂組成物配設工程S02)
次に、図4に示すように、ヒートシンク20の天板部21(銅層21c)の一方の面(図4において上面)に、無機材料のフィラーと樹脂と硬化剤とを含有する樹脂組成物32を配設する。本実施形態では、樹脂組成物32はシート状のものを用いている。
【0030】
(金属片配置工程S03)
次に、樹脂組成物32の一方の面(図4において上面)に、回路層13となる複数の金属片33を回路パターン状に配置する。
【0031】
(加圧および加熱工程S04)
次に、加圧装置によってし、ヒートシンク20と樹脂組成物32と金属片33とを積層方向に加圧するとともに加熱することにより、樹脂組成物32を硬化させて絶縁樹脂層12を形成するとともに、ヒートシンク20の天板部21(銅層21c)と絶縁樹脂層12、絶縁樹脂層12と金属片33とを接合する。
【0032】
この加圧および加熱工程S04においては、加熱温度が120℃以上350℃以下の範囲内とされ、加熱温度での保持時間が10分以上180分以下の範囲内とされていることが好ましい。また、積層方向の加圧荷重が1MPa以上30MPa以下の範囲内とされていることが好ましい。
ここで、加熱温度の下限は150℃以上とすることがさらに好ましく、170℃以上とすることがより好ましい。一方、加熱温度の上限は250℃以下とすることがさらに好ましく、200℃以下とすることがより好ましい。
加熱温度での保持時間の下限は30分以上とすることがさらに好ましく、60分以上とすることがより好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は120分以下とすることがさらに好ましく、90分以下とすることがより好ましい。
積層方向の加圧荷重の下限は5MPa以上とすることがさらに好ましく、8MPa以上とすることがより好ましい。一方、積層方向の加圧荷重の上限は15MPa以下とすることがさらに好ましく、10MPa以下とすることがより好ましい。
【0033】
上述した各工程によって、本実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10が製造される。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板10によれば、ヒートシンク20の天板部21が銅層21cとアルミニウム層21aとが積層されたクラッド構造とされており、アルミニウム層21aの厚さtaと銅層21cの厚さtcとの比ta/tcが30以下とされているので、温度変化によって生じる面に直交する方向への応力を低減することができ、回路層13と絶縁樹脂層12との剥離、あるいは、絶縁樹脂層12の内部剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0035】
本実施形態においては、絶縁樹脂層12が無機材料のフィラーを含有しているので、絶縁樹脂層12の熱伝導性が確保され、回路層13の上に搭載された半導体素子3からの熱をヒートシンク20側へと効率良く伝達することができる。
【0036】
また、本実施形態においては、ヒートシンク20が放熱フィン25を備えているので、ヒートシンク20における放熱特性が向上し、回路層13の上に搭載された半導体素子3からの熱をヒートシンク20側で効率良く放熱することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態においては、図2から図4に示すヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法によってヒートシンク一体型絶縁回路基板を製造するものとして説明したが、これに限定されることはない。
例えば、本実施形態では、銅板とアルミニウム板とを固相拡散接合することによってクラッド構造の天板部を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム板の表面に銅層をめっきすることにより、クラッド構造の天板部を形成してもよい。
【0038】
さらに、本実施形態では、ヒートシンク一体型絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、ヒートシンク一体型絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、ヒートシンク一体型絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0039】
また、本実施形態では、絶縁樹脂層が無機材料のフィラーを含有したものとして説明したが、これに限定されることはなく、無機材料のフィラーを含有しないものであってもよい。
さらに、本実施形態では、ヒートシンクが放熱フィンを備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、放熱フィンを備えていない構造のヒートシンクであってもよい。
【実施例0040】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0041】
表1に示す構造のヒートシンクの天板部(50mm×50mm、厚さは表1に記載)に、表1に示す樹脂組成物のシート材を配置し、この樹脂組成物のシート材上に、表1に示す回路層を形成する金属片を配置し、積層したヒートシンクと樹脂組成物のシート材と金属片とを、積層方向に加圧しながら加熱し、樹脂組成物を硬化させて絶縁樹脂層を形成するとともに、ヒートシンクの天板部と絶縁樹脂層、および、絶縁樹脂層と金属片を接合し、ヒートシンク一体型絶縁回路基板を得た。なお、積層方向の加圧圧力は1MPa、加熱温度は530℃、加熱温度での保持時間は60分とした。また、表1において、「Al2O3,BN」は、アルミナとBNを1:4(体積比)で混合したフィラーを用いたことを示す。
以上のようにして、得られたヒートシンク一体型絶縁回路基板について、以下の項目について評価した。
【0042】
(熱処理後の破断)
得られたヒートシンク一体型絶縁回路基板に対して、300℃×10分の熱処理を実施し、絶縁樹脂層の破断状況を確認した。なお、熱処理後のヒートシンク一体型絶縁回路基板を、上面視した矩形の対角線上に切断し、断面観察を行い、絶縁樹脂層における破断長が絶縁樹脂層における対角線長さの2%以上の場合を「×」、2%未満の場合を「○」とした。
【0043】
【表1】
【0044】
天板部をアルミニウムのみで構成した比較例1においては、熱処理後に絶縁樹脂層の破断が確認された。
天板部をアルミニウム層と銅層との積層構造とし、アルミニウム層の厚さtaと銅層の厚さtcとの比ta/tcが30を超える比較例2においては、熱処理後に絶縁樹脂層の破断が確認された。
【0045】
これに対して、天板部をアルミニウム層と銅層との積層構造とし、アルミニウム層の厚さtaと銅層の厚さtcとの比ta/tcが30以下である本発明例1~14においては、熱処理後における絶縁樹脂層の破断を十分に抑制することができた。
【0046】
以上のことから、本発明例によれば、温度変化による面に直交する方向への応力の発生を抑制することにより、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0047】
10 ヒートシンク一体型絶縁回路基板
12 絶縁樹脂層
13 回路層
20 ヒートシンク
21 天板部
21c 銅層
21a アルミニウム層
25 放熱フィン
図1
図2
図3
図4