IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ シチズンマシナリーミヤノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-工作機械 図1
  • 特開-工作機械 図2
  • 特開-工作機械 図3
  • 特開-工作機械 図4A
  • 特開-工作機械 図4B
  • 特開-工作機械 図4C
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139886
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23B 7/00 20060101AFI20220915BHJP
   B23Q 5/34 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B23B7/00
B23Q5/34 510B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040452
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 孝哲
(72)【発明者】
【氏名】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】小山 務
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045BA01
3C045BA11
3C045CA01
3C045EA12
3C045EA20
(57)【要約】
【課題】電磁クラッチの摩耗によらずワークの加工状態やワーク加工のサイクルタイムを保つ工作機械を提供する。
【解決手段】
電磁クラッチ制御手段180が、エンコーダー170の検出したカム140の回転位置θから刃物台120の位置を検出する刃物台位置検出部181と、エンコーダー170の検出したカム140の回転位置θからカム140の回転速度ωを算出するカム回転速度算出部182と、刃物台位置検出部181の検出した刃物台120の位置とカム回転速度算出部182の算出したカム140の回転速度ωとから電磁クラッチによるカム140の回転速度ωの切り替えを開始する切替開始タイミングを調整する切替開始タイミング調整部183とを有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを切削加工する切削工具を保持して前記ワークに対して進退自在に直線運動する刃物台と、該刃物台の直線運動の動力源となるモーターと、該モーターの回転運動を前記刃物台の直線運動に変換するカムと、前記カムの回転速度を切り替える電磁クラッチと、前記カムの回転位置を検出するカム位置検出手段と、前記電磁クラッチによる前記カムの回転速度の切り替えを制御する電磁クラッチ制御手段とを備えて前記ワークを切削加工する工作機械であって、
前記電磁クラッチ制御手段が、前記カム位置検出手段の検出した前記カムの回転位置から前記刃物台の位置を検出する刃物台位置検出部と、前記カム位置検出手段の検出した前記カムの回転位置から前記カムの回転速度を算出するカム回転速度算出部と、前記刃物台位置検出部の検出した前記刃物台の位置と前記カム回転速度算出部の算出した前記カムの回転速度とから前記電磁クラッチによる前記カムの回転速度の切り替えを開始する切替開始タイミングを調整する切替開始タイミング調整部とを有している、工作機械。
【請求項2】
前記刃物台が前記ワークに近づく場合に、前記電磁クラッチ制御手段が前記電磁クラッチに対して前記カムの回転速度を高速から低速に切り替える低速切替制御を行い、
前記刃物台が前記ワークから遠ざかる場合に、前記電磁クラッチ制御手段が前記電磁クラッチに対して前記カムの回転速度を低速から高速に切り替える高速切替制御を行い、
前記電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部が、前記電磁クラッチによる低速切替制御を開始する低速切替開始タイミングを調整する、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記電磁クラッチ制御手段が、前記刃物台位置検出部の検出した前記刃物台の位置と前記カム回転速度算出部の算出した前記カムの回転速度とに基づいて前記電磁クラッチの摩耗状態を判断する摩耗状態判断部と、前記電磁クラッチの交換を報知する交換報知部とを有し、
前記摩耗状態判断部が前記切替開始タイミング調整部による前記切替開始タイミングの調整できないと判断した場合に、前記交換報知部が前記電磁クラッチの交換を報知する、請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記電磁クラッチ制御手段が、前記刃物台位置検出部の検出した前記刃物台の位置と前記カム回転速度算出部の算出した前記カムの回転速度とに基づいて前記電磁クラッチの摩耗状態を判断する摩耗状態判断部と、前記電磁クラッチの摩耗状態を報知するクラッチ状態報知部とを有し、
前記切替開始タイミング調整部が前記切替開始タイミングの調整を行った場合に、前記クラッチ状態報知部が前記電磁クラッチの摩耗状態を報知する、請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項5】
前記刃物台が、複数設置され、
前記電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部が、すべての前記刃物台の移動速度の制御を開始するタイミングを調整する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチを有する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを把持して回転する主軸と、ワークを切削する回転工具を保持した刃物台と、附帯装置を作動させるカム軸と、このカム軸をクラッチを介して回転駆動するモーターを備えた自動旋盤のような工作機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、このような工作機械において用いられるクラッチとして、伝達軸と一体に回転するローターと、このローターと離間対向してローターに磁着自在であると共に被伝達軸と一体に回転するアーマチュアとを有する摩擦式の電磁クラッチを用いることが多い。
この電磁クラッチは、電磁クラッチへ通電することで、ローターとアーマチュアとを磁着させて、伝達軸の回転を被伝達軸に伝達している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63-103901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電磁クラッチは、回転数の異なるローターとアーマチュアとを磁着させて伝達軸の回転を被伝達軸に伝達しているため、ローターとアーマチュアとを磁着させる際にローターとアーマチュアとの対向面が摩擦により摩耗することがある。
ローターとアーマチュアとの対向面が摩耗していくと、電磁クラッチへの通電に対する応答性(被伝達軸の回転速度が伝達軸の回転速度に到達するまでの時間)が悪化し、加工精度への影響や工具破損などが生じてしまったり、ワーク加工のサイクルタイムが長くなってしまったりする虞れがある。
【0006】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、電磁クラッチの摩耗によらずワークの加工状態やワーク加工のサイクルタイムを保つ工作機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1に、ワークを切削加工する切削工具を保持して前記ワークに対して進退自在に直線運動する刃物台と、該刃物台の直線運動の動力源となるモーターと、該モーターの回転運動を前記刃物台の直線運動に変換するカムと、前記カムの回転速度を切り替える電磁クラッチと、前記カムの回転位置を検出するカム位置検出手段と、前記電磁クラッチによる前記カムの回転速度の切り替えを制御する電磁クラッチ制御手段とを備えて前記ワークを切削加工する工作機械であって、前記電磁クラッチ制御手段が、前記カム位置検出手段の検出した前記カムの回転位置から前記刃物台の位置を検出する刃物台位置検出部と、前記カム位置検出手段の検出した前記カムの回転位置から前記カムの回転速度を算出するカム回転速度算出部と、前記刃物台位置検出部の検出した前記刃物台の位置と前記カム回転速度算出部の算出した前記カムの回転速度とから前記電磁クラッチによる前記カムの回転速度の切り替えを開始する切替開始タイミングを調整する切替開始タイミング調整部とを有していることを特徴とする。
【0008】
第2に、前記刃物台が前記ワークに近づく場合に、前記電磁クラッチ制御手段が前記電磁クラッチに対して前記カムの回転速度を高速から低速に切り替える低速切替制御を行い、前記刃物台が前記ワークから遠ざかる場合に、前記電磁クラッチ制御手段が前記電磁クラッチに対して前記カムの回転速度を低速から高速に切り替える高速切替制御を行い、前記電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部が、前記電磁クラッチによる低速切替制御を開始する低速切替開始タイミングを調整することを特徴とする。
【0009】
第3に、前記電磁クラッチ制御手段が、前記刃物台位置検出部の検出した前記刃物台の位置と前記カム回転速度算出部の算出した前記カムの回転速度とに基づいて前記電磁クラッチの摩耗状態を判断する摩耗状態判断部と、前記電磁クラッチの交換を報知する交換報知部とを有し、前記摩耗状態判断部が前記切替開始タイミング調整部による前記切替開始タイミングの調整できないと判断した場合に、前記交換報知部が前記電磁クラッチの交換を報知することを特徴とする。
【0010】
第4に、前記電磁クラッチ制御手段が、前記刃物台位置検出部の検出した前記刃物台の位置と前記カム回転速度算出部の算出した前記カムの回転速度とに基づいて前記電磁クラッチの摩耗状態を判断する摩耗状態判断部と、前記電磁クラッチの摩耗状態を報知するクラッチ状態報知部とを有し、前記切替開始タイミング調整部が前記切替開始タイミングの調整を行った場合に、前記クラッチ状態報知部が前記電磁クラッチの摩耗状態を報知することを特徴とする。
【0011】
第5に、前記刃物台が、複数設置され、前記電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部が、すべての前記刃物台の移動速度の制御を開始するタイミングを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を奏することができる。
(1)電磁クラッチ制御手段が、カム位置検出手段の検出したカムの回転位置から刃物台の位置を検出する刃物台位置検出部と、カム位置検出手段の検出したカムの回転位置からカムの回転速度を算出するカム回転速度算出部とを有していることにより、刃物台がワークの加工を行うワーク加工位置に到達した状態におけるカムの回転速度や刃物台がワークから退避した刃物台退避位置に到達した状態におけるカムの回転速度が確認可能となるため、刃物台の位置とカムの回転速度とから電磁クラッチの摩耗状態を間接的に推定することができる。
そして、電磁クラッチ制御手段が、刃物台位置検出部の検出した刃物台の位置とカム回転速度算出部の算出したカムの回転速度とから電磁クラッチによるカムの回転速度の切り替えを開始する切替開始タイミングを調整する切替開始タイミング調整部を有していることにより、刃物台がワーク加工位置または刃物台退避位置に到達した際のカムの回転速度を測定しておき、所定の回転速度に達していない場合に切替開始タイミングを調整することで刃物台がワーク加工位置または刃物台退避位置に到達した際にカムの回転速度が所定の回転速度に達するため、電磁クラッチの摩耗状態によらずワークの加工状態やワーク加工のサイクルタイムを保つことができる。
【0013】
(2)刃物台がワークに近づく場合に、電磁クラッチ制御手段が電磁クラッチに対してカムの回転速度を高速から低速に切り替える低速切替制御を行い、刃物台がワークから遠ざかる場合に、電磁クラッチ制御手段が電磁クラッチに対してカムの回転速度を低速から高速に切り替える高速切替制御を行うことにより、ワークに対して加工が行われない時間のみが短縮されるため、ワークを工作機械に設置してからワークを工作機械から回収するまでの時間を短縮することができる。
そして、電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部が、電磁クラッチによる低速切替制御を開始する低速切替開始タイミングを調整することにより、刃物台がワーク加工位置に達する際にカムの回転速度を所定の回転速度まで減速させることが可能となるため、切削工具がワークに勢いよく当接して加工精度への影響や工具破損などが発生してしまうことを防ぐことができる。
【0014】
(3)摩耗状態判断部が切替開始タイミング調整部による切替開始タイミングの調整できないと判断した場合に、交換報知部が電磁クラッチの交換を報知することにより、電磁クラッチの摩耗状態に応じて電磁クラッチの交換の時期が報知されるため、工作機械の利用者が電磁クラッチの交換時期を容易に把握することができる。
【0015】
(4)切替開始タイミング調整部が切替開始タイミングの調整を行った場合に、クラッチ状態報知部が電磁クラッチの摩耗状態を報知することにより、電磁クラッチの摩耗状態が報知されるため、工作機械の利用者が電磁クラッチの摩耗状態を容易に把握することができる。
【0016】
(5)刃物台が、複数設置され、電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部が、すべての刃物台の移動速度の制御を開始するタイミングを調整することにより、すべての刃物台がワーク加工位置に達する際にカムの回転速度を所定の回転速度まで減速させることが可能となるため、工作機械が複数の刃物台を有する多軸自動旋盤であっても、電磁クラッチの摩耗状態によらず、ワークの加工状態やワーク加工のサイクルタイムを保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例である工作機械の装置構成図。
図2図1に示すカムの形状およびエンコーダーによる測定点を示す図。
図3図1に示す刃物台の移動範囲を示す図。
図4A】初期状態におけるカム本体の回転位置に対するカム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係を示す図。
図4B】クラッチ摩耗状態におけるカム本体の回転位置に対するカム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係を示す図。
図4C】電磁クラッチへの通電タイミングを調整した状態におけるカム本体の回転位置に対するカム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ワークを切削加工する切削工具を保持してワークに対して進退自在に直線運動する刃物台と、この刃物台の直線運動の動力源となるモーターと、このモーターの回転運動を刃物台の直線運動に変換するカムと、カムの回転速度を切り替える電磁クラッチと、カムの回転位置を検出するカム位置検出手段と、電磁クラッチによるカムの回転速度の切り替えを制御する電磁クラッチ制御手段とを備えてワークを切削加工する工作機械であって、電磁クラッチ制御手段が、カム位置検出手段の検出したカムの回転位置から刃物台の位置を検出する刃物台位置検出部と、カム位置検出手段の検出したカムの回転位置からカムの回転速度を算出するカム回転速度算出部と、刃物台位置検出部の検出した刃物台の位置とカム回転速度算出部の算出したカムの回転速度とから電磁クラッチによるカムの回転速度の切り替えを開始する切替開始タイミングを調整する切替開始タイミング調整部とを有し、電磁クラッチの摩耗によらずワークの加工状態やワーク加工のサイクルタイムを保つものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0019】
例えば、カム位置検出手段は、カムの回転位置を検出できれば、回転していることを物理的な変化量としてセンサー素子で検知するエンコーダー等、如何なるものであってもよい。
【実施例0020】
以下、図1乃至図4Cに基づいて、本発明の一実施例である工作機械100について説明する。
【0021】
<1.工作機械の概要>
まず、図1乃至図3に基づき、工作機械100の概要について説明する。
図1は本発明の一実施例である工作機械の装置構成図であり、図2図1に示すカムの形状およびエンコーダーによる測定点を示す図であり、図3図1に示す刃物台の移動範囲を示す図である。
【0022】
工作機械100は、図1に示すように、ワークWを回転自在に保持する主軸110と、このワークWを切削加工する切削工具Tを保持する刃物台120と、この刃物台120の直線運動の動力源となるモーター130と、このモーター130の回転運動を刃物台120の直線運動に変換するカム140と、モーター130の動力を主軸110とカム140とに伝達するモーター動力伝達機構150と、カム140の回転速度を切り替える回転速度切替機構160と、カム140の回転位置を検出するエンコーダー(カム位置検出手段)170とを備えてワークWを切削加工する。
【0023】
主軸110は、先端側でワークWを保持し、後端側に歯車111が設けられている。
この歯車111が回転することで、ワークWが回転する。
【0024】
刃物台120は、先端側には切削工具Tが設けられ、後端側にはカム140と当接するアーム121が設けられている。
カム140が回転し、このカム140に連結されたアーム121が動くことで、刃物台120は、ワークWに対して進退自在に直線運動する。
【0025】
モーター130は、先端にモーター130と一体になって回転するプーリー131を有している。
【0026】
カム140は、カム軸141と、このカム軸141に貫挿されてカム軸141と一体に回転するカム本体142とを有している。
カム軸141は、先端側にギア141aが設けられ、後端にはエンコーダー170が取り付けられている。
カム本体142は、図2に示すように、小半径R1と、大半径R2とを有し、その周側面142aに刃物台120のアーム121が当接している。
したがって、カム軸141が回転することで、カム本体142はカム軸141と一体に回転し、カム本体142と当接するアーム121を有する刃物台120は、図3に示すように、ワークWから完全に退避した刃物台退避位置L1とワークWの加工を行うワーク加工位置L2との間を往復動自在に直線運動する。
【0027】
モーター動力伝達機構150は、モーター130の動力を刃物台120に伝達する刃物台側伝達軸151と、モーター130の動力を主軸110に伝達する主軸側伝達軸152と、モーター130と刃物台側伝達軸151とを連結する第1伝達ベルト153と、刃物台側伝達軸151と主軸側伝達軸152とを連結する第2伝達ベルト154とを有している。
【0028】
刃物台側伝達軸151は、軸本体151aと、この軸本体151aの後端に設けられたプーリー151bと、軸本体151aの先端に設けられたギア151cと、プーリー151bとギア151cとの間に設けられたかさ歯車151dとが一体となって構成されている。
【0029】
主軸側伝達軸152は、軸本体152aと、この軸本体152aの後端に設けられたプーリー152bと、軸本体152aの先端に設けられて主軸110の歯車111と係合するギア152cとが一体となって構成されている。
【0030】
第1伝達ベルト153は、モーター130のプーリー131と刃物台側伝達軸151のプーリー151bとに装着され、モーター130の回転を刃物台側伝達軸151に伝達している。
第2伝達ベルト154は、刃物台側伝達軸151のプーリー151bと主軸側伝達軸152のプーリー152bとに装着され、モーター130の回転を刃物台側伝達軸151を介して主軸側伝達軸152に伝達している。
【0031】
回転速度切替機構160は、カム軸141と刃物台側伝達軸151とを連結する機構であり、低速回転機構161と高速回転機構162とを有している。
カム軸141と刃物台側伝達軸151とを低速回転機構161で連結した場合、カム軸141と刃物台側伝達軸151とを高速回転機構162で連結した場合に比べてカム軸141の回転速度が遅くなる。
【0032】
低速回転機構161は、一端が刃物台側伝達軸151のギア151cと係合して刃物台側伝達軸151の回転数を減速する減速ギア161aと、一端が減速ギア161aと係合する第1伝達軸161bと、一端がカム軸141のギア141aと係合する第2伝達軸161cと、第1伝達軸161bの他端と第2伝達軸161cの他端とを接続する低速側電磁クラッチ161dとを有している。
低速側電磁クラッチ161dは、入力側の第1伝達軸161bの他端に連結されるローターと出力側の第2伝達軸161cの他端に連結されるアーマチュアとからなる摩擦式の電磁クラッチであり、ローターとアーマチュアとは磁力により接続自在となっている。
そして、低速側電磁クラッチ161dへ通電された時にローターとアーマチュアとが接続され、低速側電磁クラッチ161dへ通電されない時にローターとアーマチュアとの接続が解除される。
【0033】
高速回転機構162は、一端が刃物台側伝達軸151のかさ歯車151dと係合する第1伝達軸162aと、この第1伝達軸162aの他端と一端で係合する第2伝達軸162bと、この第2伝達軸162bの他端と係合する第3伝達軸162cと、この第3伝達軸162cの一端とカム軸141の先端とを接続する高速側電磁クラッチ162dを有している。
高速側電磁クラッチ162dは、入力側の第3伝達軸162cの一端に連結されるローターと出力側のカム軸141の先端に連結されるアーマチュアとからなる摩擦式の電磁クラッチであり、ローターとアーマチュアとは磁力により接続自在となっている。
そして、高速側電磁クラッチ162dへ通電された時にローターとアーマチュアとが接続され、高速側電磁クラッチ162dへ通電されない時にローターとアーマチュアとの接続が解除される。
【0034】
すなわち、低速側電磁クラッチ161dにおいて、ローターとアーマチュアとが磁力により接続されることで、第1伝達軸161bの他端と第2伝達軸161cの他端とが接続されてカム140が低速回転し、高速側電磁クラッチ162dにおいて、ローターとアーマチュアとが磁力により接続されることで、第3伝達軸162cの一端とカム軸141の先端とが接続されてカム140が高速回転することになり、カム140の回転速度は、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dにより切り替えられることになる。
【0035】
エンコーダー170は、図2に示すカム本体142の計測点142bの位置を測定することで、カム本体142の回転位置θを検出する。
なお、一例としてエンコーダー170が検出するカム本体142の回転位置θは、刃物台120のアーム121とカム本体142と当接する位置を0度として、反時計回りを正とする。
【0036】
工作機械100は、さらに、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dを制御して、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dによるカム140の回転速度ωの切り替えを制御する電磁クラッチ制御手段180を備えている。
電磁クラッチ制御手段180は、エンコーダー170の検出したカム本体142の回転位置θから刃物台120の位置を検出する刃物台位置検出部181と、エンコーダー170の検出したカム本体142の回転位置θからカム140の回転速度ωを算出するカム回転速度算出部182と、刃物台位置検出部181の検出した刃物台120の位置とカム回転速度算出部182の算出したカム140の回転速度ωとから高速側電磁クラッチ162dによるカム140の回転速度ωの切り替えを開始する切替開始タイミングを調整する切替開始タイミング調整部183と、刃物台位置検出部181の検出した刃物台120の位置とカム回転速度算出部182の算出したカム140の回転速度ωとに基づいて低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dの摩耗状態を判断する摩耗状態判断部184と、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dの摩耗状態を報知するクラッチ状態報知部185と、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dの交換を報知する交換報知部186とを有している。
【0037】
<2.カム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係>
次に、図1乃至図4Cに基づき、カム本体142の回転位置θ(カム本体142の計測点142bの位置)に対するカム軸141の回転速度ωと電磁クラッチ(低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162d)への通電と刃物台120の位置との関係について説明する。
【0038】
<2.1.初期状態>
まず、図1乃至図4Aに基づき、電磁クラッチのローターとアーマチュアとのあいだに摩耗が生じていない初期状態におけるカム本体142の回転位置θに対するカム軸141の回転速度ωと電磁クラッチへの通電と刃物台120の位置との関係について説明する。
図4Aは、初期状態におけるカム本体の回転位置θに対するカム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係を示す図である。
カム本体142が、例えば図2に示すような形状である場合、図4Aに示すように、刃物台120をワーク加工位置L2に留まらせるカム本体142の回転範囲Δ1および刃物台120を刃物台退避位置L1に留まらせるカム本体142の回転範囲Δ2が、刃物台120をワーク加工位置L2から刃物台退避位置L1まで移動させるカム本体142の回転範囲Δ3および刃物台120を刃物台退避位置L1からワーク加工位置L2まで移動させるカム本体142の回転範囲Δ4より大きくなっている。
【0039】
図4Aに示すように、カム軸141が回転すると、刃物台120のアーム121と当接するカム本体142の半径がR1からR2に増加していくと、刃物台120が、ワーク加工位置L2に向かって近づきはじめる。
【0040】
このカム本体142の半径が変わるタイミングで、電磁クラッチ制御手段180は、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dに対してカム140の回転速度ωを高速のω2から低速のω1に切り替える低速切替制御を行う。
すなわち、電磁クラッチ制御手段180は、高速側電磁クラッチ162dへの通電を切って高速側電磁クラッチ162dをOFFにし、低速側電磁クラッチ161dへの通電を行って低速側電磁クラッチ161dをONにする。
このときのエンコーダー170で検出されるカム本体142の測定点142bの位置はθ1(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP1と当接する位置)である。
【0041】
低速切替制御を行うと、低速の回転速度ω1で回転している低速回転機構161の第1伝達軸161bに連結したローターと高速の回転速度ω2で回転している低速回転機構161の第2伝達軸161cに連結したアーマチュアとが磁着する。
これにより、図1に示すように、モーター130の動力は、刃物台側伝達軸151および低速回転機構161を介してカム140に伝わる。
【0042】
なお、低速側電磁クラッチ161dのローターとアーマチュアとが磁着しようとするとき、低速側電磁クラッチ161dの第1伝達軸161bと第2伝達軸161cとの回転速度が異なることから、低速側電磁クラッチ161dのローターとアーマチュアとの間で摩擦が発生する。
この低速側電磁クラッチ161dに生じる摩擦により、第2伝達軸161cの回転速度ωが瞬時に低速のω1に切り替わらずに、徐々に減速される。
【0043】
そして、カム軸141が回転して、カム本体142の測定点142bの位置がθ2になった(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP2と当接する位置になった)とき、カム軸141の回転速度ωが、低速のω1となる。
さらに、カム軸141が回転して、カム本体142の測定点142bの位置がθ3になった(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP3と当接する位置になった)とき、刃物台120はワーク加工位置L2に到達し、ワークWに対する加工が切削工具Tによって実施される。
【0044】
そして、カム軸141が回転して、刃物台120のアーム121と当接するカム本体142の半径がR2からR1に減少していくと、刃物台120が、ワークWから遠ざかり、刃物台退避位置L1に向かって近づきはじめる。
【0045】
このカム本体142の半径が変わるタイミングで、電磁クラッチ制御手段180は、低速側電磁クラッチ161dおよび高速側電磁クラッチ162dに対してカム140の回転速度ωを低速のω1から高速のω2に切り替える高速切替制御を行う。
すなわち、電磁クラッチ制御手段180は、切削工具TによるワークWに対する加工が完了したとして、低速側電磁クラッチ161dへの通電を切って低速側電磁クラッチ161dをOFFにし、高速側電磁クラッチ162dへの通電を行って高速側電磁クラッチ162dをONにする。
このときのエンコーダー170で検出されるカム本体142の測定点142bの位置はθ4(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP4と当接する位置)である。
【0046】
高速切替制御を行うと、高速の回転速度ω2で回転している高速回転機構162の第3伝達軸162cに連結したローターと低速の回転速度ω1で回転しているカム軸141に連結したアーマチュアとが磁着する。
これにより、図1に示すように、モーター130の動力は、刃物台側伝達軸151および高速回転機構162を介してカム140に伝わる。
【0047】
なお、高速側電磁クラッチ162dのローターとアーマチュアとが磁着しようとするとき、カム軸141と第3伝達軸162cとの回転速度が異なることから、高速側電磁クラッチ162dのローターとアーマチュアとの間で摩擦が発生する。
この高速側電磁クラッチ162dに生じる摩擦により、第2伝達軸161cの回転速度ωが瞬時に高速のω2に切り替わらずに、徐々に増速される。
【0048】
そして、カム軸141が回転して、カム本体142の測定点142bの位置がθ5になった(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP5と当接する位置になった)とき、カム軸141の回転速度ωが、低速のω1から高速のω2に増速される。
さらに、カム軸141が回転して、カム本体142の測定点142bの位置がθ6になった(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP6と当接する位置になった)とき、刃物台120は刃物台退避位置L1に到達し、この間にワークWが移動したり、交換されたりする。
【0049】
さらに、カム軸141が回転して、カム本体142の測定点142bの位置がθ1になった(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP1と当接する位置になった)とき、高速側電磁クラッチ162dがOFFになり、低速側電磁クラッチ161dがONになる。
このようにカム軸141が一周することで、ワークWが順次加工されていく。
【0050】
<2.2.電磁クラッチに摩耗が生じた状態>
次に、図1乃至図3図4Bに基づき、電磁クラッチのローターとアーマチュアとのあいだに摩耗が生じたクラッチ摩耗状態におけるカム本体142の回転位置θに対するカム軸141の回転速度ωと電磁クラッチへの通電と刃物台120の位置との関係について説明する。
図4Bは、クラッチ摩耗状態におけるカム本体の回転位置に対するカム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係を示す図である。
なお、図4Bのカム本体142の回転位置θとカム軸141の回転速度ωとの関係を示すグラフにおいて、点線は図4Aに示した初期状態におけるカム本体142の回転位置θとカム軸141の回転速度ωとの関係である。
また、クラッチ摩耗状態においても初期状態と同様の挙動となる箇所については、説明を省略する。
【0051】
図4Bに示すように、カム軸141が回転すると、電磁クラッチ制御手段180は、低速切替制御を行う。
このとき、エンコーダー170で検出されるカム本体142の測定点142bの位置はθ1(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP1と当接する位置)である。
そして、上述した初期状態と同様に、ローターとアーマチュアとの間で摩擦が発生して、第2伝達軸161cの回転速度ωが瞬時に低速のω1に切り替わらずに徐々に減速されるが、低速側電磁クラッチ161dのローターとアーマチュアとの対向面が初期状態よりも摩耗していることから、ローターとアーマチュアとの間の摩擦力が低下しているので、第2伝達軸161cの回転速度ωが低速のω1に減速されにくくなっている。
したがって、カム軸141が回転して、刃物台120がワーク加工位置L2に到達する回転位置であるθ3にカム本体142の測定点142bが到達しても、図4Bに示すように、カム軸141の回転速度ωは、低速ω1に到達しなくなっている。
この結果、カム軸141の回転速度ωが低速のω1になるのは、カム本体142の測定点142bがθ3よりも進んだθ3aに到達したときである。
【0052】
すなわち、図4Bに示すように、初期状態における第2伝達軸161cの回転速度ωが低速のω1に減速するまでのカム軸141の回転範囲をδ1とすると、クラッチ摩耗状態における第2伝達軸161cの回転速度ωが低速のω1に減速するまでのカム軸141の回転範囲δ1aは、δ1よりも長くなっている。
換言すると、電磁クラッチに摩耗が生じると、切削工具TによるワークWに対する加工が開始された状態(カム本体142の測定点142bがθ3に到達した状態。すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP3と当接する位置になった状態)でカム軸141の回転速度の減速が終わっていないことになる。
【0053】
さらに、カム軸141が回転すると、電磁クラッチ制御手段180は、高速切替制御を行う。
このとき、エンコーダー170で検出されるカム本体142の測定点142bの位置はθ4(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP4と当接する位置)である。
そして、上述した初期状態と同様に、ローターとアーマチュアとの間で摩擦が発生して、カム軸141の回転速度ωが瞬時に高速の回転ω2に切り替わらずに徐々に増速されるが、高速側電磁クラッチ162dのローターとアーマチュアとの対向面が初期状態よりも摩耗していることから、ローターとアーマチュアとの間の摩擦力が低下しているので、カム軸141の回転速度ωが高速のω2に増速されにくくなっている。
したがって、カム軸141が回転して、刃物台120が刃物台退避位置L1に到達する回転位置であるθ6にカム本体142の測定点142bが到達しても、図4Bに示すように、カム軸141の回転速度ωは、高速のω2に到達しなくなっている。
この結果、カム軸141の回転速度ωが高速のω2になるのは、カム本体142の測定点142bがθ6よりも進んだθ6aに到達したときである。
【0054】
すなわち、図4Bに示すように、初期状態におけるカム軸141の回転速度ωが高速回転のω2に増速するまでのカム軸141の回転範囲をδ2とすると、クラッチ摩耗状態におけるカム軸141の回転速度ωが高速のω2に増速するまでのカム軸141の回転範囲δ2aは、δ2よりも長くなっている。
換言すると、電磁クラッチに摩耗が生じると、ワークWから刃物台120の退避が完了された状態(カム本体142の測定点142bがθ6に到達した状態)でカム軸141の回転速度の増速が終わっていないことになる。
【0055】
さらに、カム軸141が回転して、カム軸141が回転すると、電磁クラッチ制御手段180は、低速切替制御を行う。
このとき、エンコーダー170で検出されるカム本体142の測定点142bの位置は、θ1(すなわち、図2に示すアーム121の先端がカム本体142のP1と当接する位置)である。
【0056】
このように、電磁クラッチに摩耗が生じると、電磁クラッチ制御手段180が高速切替制御を行った際に、カム軸141の回転速度ωが増速しにくくなっているため、ワークWの加工に寄与しない期間(カム本体142の測定点142bの位置が、θ6からθ1まで変化する期間)において、カム軸141の回転速度が高速の回転ではないため、初期状態に比べてワーク加工のサイクルタイムが長くなってしまう。
また、電磁クラッチに摩耗が生じると、電磁クラッチ制御手段180が低速切替制御を行った際に、カム軸141の回転速度ωが減速しにくくなっているため、刃物台120がワーク加工位置L2に到達する際の刃物台120の移動速度が初期状態に比べて早くなり、切削工具TがワークWに初期状態に比べて勢いよく当接して加工精度への影響や工具破損などが生じてしまうことがある。
【0057】
<2.3.クラッチ摩耗状態への対応>
次に、図1乃至図3図4B図4Cに基づき、電磁クラッチへの通電タイミングの調整について説明する。
図4Cは、電磁クラッチへの通電タイミングを調整した状態におけるカム本体の回転位置に対するカム軸の回転速度と電磁クラッチへの通電と刃物台の位置との関係を示す図である。
なお、図4Cのカム本体142の回転位置θとカム軸141の回転速度ωとの関係を示すグラフにおいて、点線は図4Aに示した初期状態におけるカム本体142の回転位置θとカム軸141の回転速度ωとの関係であり、細い実線は図4Bに示したクラッチ摩耗状態におけるカム本体142の回転位置θとカム軸141の回転速度ωとの関係である。
さらに、図4Cのカム本体142の回転位置θと電磁クラッチへの通電との関係を示すグラフにおいて、細い実線は図4Bに示したクラッチ摩耗状態におけるカム本体142の回転位置θと電磁クラッチへの通電との関係である。
また、図4Cにおいても、クラッチ摩耗状態および初期状態と同様の挙動となる箇所については、説明を省略する。
【0058】
電磁クラッチ制御手段180の摩耗状態判断部184は、刃物台位置検出部181の検出した刃物台120の位置とカム回転速度算出部182の算出したカム140の回転速度ωとから、クラッチ摩耗状態における第2伝達軸161cの回転速度ωが低速のω1に減速するまでのカム軸141の回転範囲δ1aを算出し、初期状態における第2伝達軸161cの回転速度ωが低速のω1に減速するまでのカム軸141の回転範囲δ1の量との差分D(図4B参照)を算出し、この差分Dに基づいて電磁クラッチの摩耗状態を判断する。
そして、電磁クラッチ制御手段180は、この差分Dが予め測定した電磁クラッチの摩耗量のデータに基づく所定値以上であれば、刃物台120がワーク加工位置L2に到達した際に、カム140の回転速度ωが所定の回転速度ω1に達していないとして、切替開始タイミング調整部183により下記の低速切替制御を開始する低速切替開始タイミング(高速側電磁クラッチ162dへの通電を止めて、低速側電磁クラッチ161dへの通電を行うタイミング。図4Bのクラッチ摩耗状態におけるθ1)の調整を行うと共にクラッチ状態報知部185に電磁クラッチの摩耗状態を報知させ、さらに所定値を大きく超えると切替開始タイミング調整部183による調整ができないと判断して、交換報知部186に電磁クラッチの交換を報知させる。
【0059】
<2.3.1.電磁クラッチへの通電タイミングの調整>
電磁クラッチへの低速切替開始タイミングの調整を行う場合、低速切替開始タイミングを回転位置θ1から回転位置θ1aに変更する。
この回転位置θ1aは、刃物台120がワーク加工位置L2に到達する回転位置θ3より前の回転位置θ2aから、回転範囲δ1aを引いた回転位置である。
すなわち、
θ1a=θ2a-δ1a
となっている。
【0060】
このように低速切替開始タイミングを回転位置θ1から回転位置θ1aに調整することにより、図4Cに示すように、刃物台120がワーク加工位置L2に到達している状態で、すでにカム軸141の回転速度ωがω1まで減速されているので、ワークWの加工を低速で確実に行なうことができる。
すなわち、本実施例では、刃物台120がワークWに近づく場合に、電磁クラッチ制御手段180が電磁クラッチに対して行う減速制御に対して切替開始タイミング調整部183が、低速切替開始タイミングを調整する。
【0061】
<3.本実施例の工作機械が奏する効果>
以上説明したように、本発明の一実施例である工作機械100によれば、電磁クラッチ制御手段180が、カム位置検出手段であるエンコーダー170の検出したカム140の回転位置θから刃物台120の位置を検出する刃物台位置検出部181と、エンコーダー170の検出したカム140の回転位置θ(すなわち、すなわち、カム本体142の計測点142bの位置)からカム140の回転速度ωを算出するカム回転速度算出部182とを有していることにより、刃物台120がワークWの加工を行うワーク加工位置L2に到達した状態におけるカム140の回転速度ωや刃物台120がワークWから退避した刃物台退避位置L1に到達した状態におけるカム140の回転速度ωが確認可能となるため、刃物台120の位置とカム140の回転速度ωとから電磁クラッチ(低速側電磁クラッチ161d、高速側電磁クラッチ162d)の摩耗状態を間接的に推定することができる。
【0062】
また、摩耗状態判断部184が切替開始タイミング調整部183による切替開始タイミングの調整できないと判断した場合に、交換報知部186が電磁クラッチの交換を報知することにより、電磁クラッチの摩耗状態に応じて電磁クラッチの交換の時期が報知されるため、工作機械100の利用者が電磁クラッチの交換時期を容易に把握することができる。
【0063】
<4.変形例>
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
例えば、カム本体の形状は図2に示す形状に限定されるものではなく、刃物台を進退自在にできれば、いかなる形状であってもよい。
すなわち、上述した実施例におけるカム本体の形状は、刃物台をワーク加工位置および刃物台退避位置に留まらせるカムの回転範囲が、刃物台をワーク加工位置と刃物台退避位置との間を移動させるカムの回転範囲より大きくなるような形状であったが、刃物台をワーク加工位置および刃物台退避位置に留まらせるカムの回転範囲が、刃物台をワーク加工位置と刃物台退避位置との間を移動させるカムの回転範囲より小さくなるような形状であってもよい。
【0065】
例えば、上述した実施例において、刃物台120のアーム121がカム本体142の小半径R1の部分と当接している際に刃物台120が刃物台退避位置L1に位置し、刃物台120のアーム121がカム本体142の大半径R2の部分と当接している際に刃物台120がワーク加工位置L2に位置していたが、刃物台のアームがカム本体の大半径の部分と当接している際に刃物台が刃物台退避位置に位置し、刃物台のアームがカム本体の小半径R1の部分と当接している際に刃物台はワーク加工位置に位置するように刃物台やアームの形状を変更してもよい。
【0066】
例えば、上述した実施例において、切替開始タイミング調整部183が調整する切替開始タイミングは、低速切替開始タイミングのみであったが、低速側電磁クラッチ161dへの通電をOFFとし、高速側電磁クラッチ162dへの通電をONにする高速切替開始タイミングを調整してもよい。
【0067】
例えば、上述した実施例において、刃物台は1つ設置されていたが、工作機械に設置される刃物台の個数は1つに限定されるものではなく、複数設置されていてもよい。
この際、電磁クラッチ制御手段の切替開始タイミング調整部は、すべての刃物台の移動速度の制御を開始するタイミング(すなわち、各刃物台に対応するカムの回転速度を切り替える2つの切替開始タイミングの少なくとも1つ)を調整する。
これにより、すべての刃物台がワーク加工位置に達する際にカムの回転速度を所定の回転速度まで減速させることが可能となるため、工作機械が複数の刃物台を有する多軸自動旋盤であっても、電磁クラッチの摩耗によらずワークの加工状態やワーク加工のサイクルタイムを保つことができる。
【符号の説明】
【0068】
100 ・・・工作機械
110 ・・・主軸
111 ・・・歯車
120 ・・・刃物台
121 ・・・アーム
130 ・・・モーター
131 ・・・プーリー
140 ・・・カム
141 ・・・カム軸
141a・・・ギア
142 ・・・カム本体
142a・・・周側面
142b・・・計測点
150 ・・・モーター動力伝達機構
151 ・・・刃物台側伝達軸
151a・・・軸本体
151b・・・プーリー
151c・・・ギア
151d・・・かさ歯車
152 ・・・主軸側伝達軸
152a・・・軸本体
152b・・・プーリー
152c・・・ギア
153 ・・・第1伝達ベルト
154 ・・・第2伝達ベルト
160 ・・・回転速度切替機構
161 ・・・低速回転機構
161a・・・減速ギア
161b・・・第1伝達軸
161c・・・第2伝達軸
161d・・・低速側電磁クラッチ
162 ・・・高速回転機構
162a・・・第1伝達軸
162b・・・第2伝達軸
162c・・・第3伝達軸
162d・・・高速側電磁クラッチ
170 ・・・エンコーダー(カム位置検出手段)
180 ・・・電磁クラッチ制御手段
181 ・・・刃物台位置検出部
182 ・・・カム回転速度算出部
183 ・・・切替開始タイミング調整部
184 ・・・摩耗状態判断部
185 ・・・クラッチ状態報知部
186 ・・・交換報知部

W ・・・ワーク
T ・・・切削工具
L1 ・・・刃物台退避位置
L2 ・・・ワーク加工位置
θ ・・・カム本体の回転位置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C