(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139919
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】メモリデバイス
(51)【国際特許分類】
G11C 11/16 20060101AFI20220915BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20220915BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20220915BHJP
H01L 21/8239 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G11C11/16 240
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
H01L27/105 447
G11C11/16 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040502
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】松下 直輝
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119BB01
4M119CC05
4M119DD09
4M119DD17
4M119DD44
4M119EE22
4M119EE27
5F092AB07
5F092AC12
5F092AD23
5F092AD25
5F092BB53
5F092BC04
5F092BC07
(57)【要約】
【課題】メモリデバイスの特性を向上する。
【解決手段】実施形態のメモリデバイスは、メモリ素子21とスイッチング素子20とを含むメモリセルMCと、メモリセルMCに対する第1のデータの書き込み時において第1の極性を有する第1の書き込みパルスをメモリセルMCに印加し、メモリセルMCに対する第2のデータの書き込み時において第1の極性と異なる第2の極性を有する第2の書き込みパルスをメモリセルMCに印加する回路と、を含み、スイッチング素子20は、第1の極性及び第2の極性に応じた極性依存性を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリ素子とスイッチング素子とを含むメモリセルと、
前記メモリセルに対する第1のデータの書き込み時において第1の極性を有する第1の書き込みパルスを前記メモリセルに印加し、前記メモリセルに対する第2のデータの書き込み時において前記第1の極性と異なる第2の極性を有する第2の書き込みパルスを前記メモリセルに印加する回路と、
を具備し、
前記スイッチング素子は、前記第1及び第2の極性に応じた極性依存性を有する、
メモリデバイス。
【請求項2】
前記第1の書き込みパルスの印加時における前記スイッチング素子の第1の閾値電圧は、前記第2の書き込みパルスの印加時における前記スイッチング素子の第2の閾値電圧と異なる、
請求項1に記載のメモリデバイス。
【請求項3】
前記第1の書き込みパルスが“VwAPP”で示され、前記第2の書き込みパルスが“VwPAP”で示され、前記第1及び第2の書き込みパルスの比が“a”で示され、前記スイッチング素子の極性依存性が“b”で示される場合、“a”は、以下の式(1)の関係を有し、“b”は、以下の式(2)の関係を有する
a=VwPAP/VwAPP ・・・(1)
1<b<a2 ・・・(2)
請求項1又は2に記載のメモリデバイス。
【請求項4】
前記bは、前記aに等しい
請求項3に記載のメモリデバイス。
【請求項5】
前記第1の書き込みパルスの印加時における前記スイッチング素子の第1の抵抗値は、前記第2の書き込みパルスの印加時における前記スイッチング素子の第2の抵抗値と異なる、
請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のメモリデバイス。
【請求項6】
前記スイッチング素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間の第1の層とを含み、
前記第1の電極の材料は、前記第2の電極の材料と異なる、
請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載のメモリデバイス。
【請求項7】
前記スイッチング素子の前記極性依存性は、前記スイッチング素子の形成条件に基づいて、設定される、
請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のメモリデバイス。
【請求項8】
前記メモリ素子は、前記第1及び第2の極性に応じた極性依存性を有する、
請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載のメモリデバイス。
【請求項9】
前記メモリ素子は、磁気抵抗効果素子であり、
前記磁気抵抗効果素子は、
可変な磁化方向を有する第1の磁性層と、
不変な磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間の絶縁層と、
を含み、
前記第1及び第2の書き込みパルスに対する前記磁気抵抗効果素子の極性依存性は、前記第1の磁性層の寸法及び前記第1の磁性層の構成元素の組成のうち少なくとも一つの制御によって、設定される、
請求項8に記載のメモリデバイス。
【請求項10】
メモリ素子とスイッチング素子とを含むメモリセルと、
前記メモリセルに対する第1のデータの書き込み時において第1の極性を有する第1の書き込みパルスを前記メモリセルに印加し、前記メモリセルに対する第2のデータの書き込み時において前記第1の極性と異なる第2の極性を有する第2の書き込みパルスを前記メモリセルに印加する回路と、
を具備し、
前記第1の書き込みパルスの印加時における前記スイッチング素子の第1の抵抗値は、前記第2の書き込みパルスの印加時における前記スイッチング素子の第2の抵抗値と異なる、
メモリデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、メモリデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
可変抵抗素子(例えば、磁気抵抗効果素子)をメモリ素子として用いたメモリデバイスが、知られている。メモリデバイスの特性を向上するために、様々な技術の研究及び開発が、推進されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メモリデバイスの特性の向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のメモリデバイスは、メモリ素子とスイッチング素子とを含むメモリセルと、前記メモリセルに対する第1のデータの書き込み時において第1の極性を有する第1の書き込みパルスを前記メモリセルに印加し、前記メモリセルに対する第2のデータの書き込み時において前記第1の極性と異なる第2の極性を有する第2の書き込みパルスを前記メモリセルに印加する回路と、を含み、前記スイッチング素子は、前記第1及び第2の極性に応じた極性依存性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態のメモリデバイスの構成例を示す図。
【
図2】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの回路図。
【
図3】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの構造例を示す断面図。
【
図4】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの構造例を示す断面図。
【
図5】第1の実施形態のメモリデバイスのメモリセルの構造例を示す断面図
【
図6】第1の実施形態のメモリデバイスの動作例を説明するための図。
【
図7】第1の実施形態のメモリデバイスを説明するための図。
【
図8】第1の実施形態のメモリデバイスを説明するための図。
【
図9】第2の実施形態のメモリデバイスを説明するための図。
【
図10】第2の実施形態のメモリデバイスを説明するための図。
【
図11】第3の実施形態のメモリデバイスを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付す。
以下の各実施形態において、同一の複数の構成要素(例えば、回路、配線、各種の電圧及び信号など)に関して、参照符号の末尾に、区別化のための数字/英字を付す場合がある。
【0008】
末尾に区別化のための数字/英字を伴った参照符号を付された構成要素が、相互に区別されなくとも良い場合、末尾の数字/英字が省略された記載(参照符号)が用いられる。
【0009】
[実施形態]
図1乃至
図11を参照して、実施形態のメモリデバイス及びその設計方法について、説明する。
【0010】
(1)第1の実施形態
図1乃至
図8を参照して、第1の実施形態のメモリデバイス及びその設計方法について、説明する。
【0011】
(a)構成例
(a-1)全体構成
図1乃至
図5を参照して、第1の実施形態のメモリデバイスの構成について、説明する。
【0012】
図1は、本実施形態のメモリデバイスの構成例を示す図である、
図1に示されるように、本実施形態のメモリデバイス1は、メモリデバイス1の外部のデバイス(以下では、外部デバイスとよばれる)9に接続されている。外部デバイス9は、メモリデバイス1に、コマンドCMD、アドレスADR、制御信号CNTを、送る。データDTが、メモリデバイス1と外部デバイス9との間で転送される。外部デバイス9は、書き込み動作時に、メモリデバイス1内に書き込まれるデータ(以下では、書き込みデータとよばれる)を、メモリデバイス1に送る。外部デバイス9は、読み出し動作時に、メモリデバイス1から読み出されたデータ(以下では、読み出しデータとよばれる)をメモリデバイス1から受ける。
【0013】
本実施形態のメモリデバイス1は、メモリセルアレイ10、ロウ制御回路11、カラム制御回路12、書き込み回路13、読み出し回路14、電圧生成回路15、入出力回路16、及び制御回路17を含む。
【0014】
メモリセルアレイ10は、複数のメモリセルMC、複数のワード線WL及び複数のビット線BLを含む。
【0015】
複数のメモリセルMCは、メモリセルアレイ10内の複数のロウ及び複数のカラムに対応付けられている。各メモリセルMCは、複数のワード線WLのうち対応する1つに接続される。各メモリセルMCは、複数のビット線BLのうち対応する1つに接続される。
【0016】
ロウ制御回路11は、ワード線WLを介してメモリセルアレイ10に接続される。ロウ制御回路11に、アドレスADRにおけるメモリセルアレイ10のロウアドレス(又はロウアドレスのデコード結果)が、供給される。ロウ制御回路11は、ロウアドレスのデコード結果に基づいて、複数のワード線WLを制御する。これによって、ロウ制御回路11は、複数のワード線WL(複数のロウ)のそれぞれを、選択状態又は非選択状態に設定する。以下において、選択状態に設定されたワード線WLは、選択ワード線WLとよばれ、選択ワード線WL以外のワード線WLは、非選択ワード線WLとよばれる。
【0017】
カラム制御回路12は、ビット線BLを介してメモリセルアレイ10と接続される。カラム制御回路12に、アドレスADRにおけるメモリセルアレイ10のカラムアドレス(又はカラムアドレスのデコード結果)が、供給される。カラム制御回路12は、カラムアドレスADRのデコード結果に基づいて、複数のビット線BLを制御する。これによって、カラム制御回路12は、複数のビット線BL(複数のカラム)のそれぞれを選択状態又は非選択状態に設定する。以下において、選択状態に設定されたビット線BLは、選択ビット線BLとよばれ、選択ビット線BL以外のビット線BLは、非選択ビット線BLとよばれる。
【0018】
書き込み回路13は、メモリセルMCへのデータの書き込みを行う。書き込み回路13は、選択ワード線WL及び選択ビット線BLのそれぞれに、データの書き込みのための電圧を供給する。これによって、書き込み電圧(又は、書き込み電流)が、選択されたメモリセルMCに供給される。書き込み回路13は、複数の書き込み電圧のうち書き込みデータに応じたいずれか1つを、選択されたメモリセルMCに供給できる。例えば、複数の書き込み電圧のそれぞれは、書き込みデータに応じた極性(バイアス方向)を有する。例えば、書き込み回路13は、書き込みドライバ(図示せず)を含む。
【0019】
読み出し回路14は、メモリセルMCからのデータの読み出しを行う。読み出し回路14は、選択されたメモリセルMCから選択ビット線BLに出力された信号を増幅する。読み出し回路14は、増幅された信号に基づいて、メモリセルMC内のデータを判別する。例えば、読み出し回路14は、プリアンプ(図示せず)及びセンスアンプ(図示せず)を含む。
【0020】
電圧生成回路15は、外部デバイス9から提供された電源電圧を用いて、メモリセルアレイ10の各種の動作のための電圧を生成する。例えば、電圧生成回路15は、書き込み動作に用いられる種々の電圧を生成する。電圧生成回路15は、生成した電圧を、書き込み回路13に出力する。例えば、電圧生成回路15は、読み出し動作に用いられる種々の電圧を生成する。電圧生成回路15は、生成した電圧を、読み出し回路14に出力する。
【0021】
入出力回路16は、メモリデバイス1と外部デバイス9と間の各種の信号ADR,CMD,CNT,DTのインターフェイス回路として機能する。入出力回路16は、外部デバイス9からのアドレスADRを、制御回路17に転送する。入出力回路16は、外部デバイス9からのコマンドCMDを、制御回路17に転送する。入出力回路16は、種々の制御信号CNTを、外部デバイス9と制御回路17との間で転送する。入出力回路16は、外部デバイス9からの書き込みデータDTを書き込み回路13に転送する。入出力回路16は、読み出し回路14からのデータDTを、読み出しデータとして外部デバイス9に転送する。
【0022】
制御回路(シーケンサ、ステートマシン、内部コントローラともよばれる)17は、コマンドCMDをデコードする。制御回路17は、コマンドCMDのデコード結果及び制御信号CNTに基づいて、メモリデバイス1内のロウ制御回路11、カラム制御回路12、書き込み回路13、読み出し回路14、電圧生成回路15、及び入出力回路16の動作を制御する。制御回路17は、アドレスADRをデコードする。制御回路17は、アドレスのデコード結果を、ロウ制御回路11及びカラム制御回路12などに送る。尚、コマンドのデコードのための回路(コマンドデコーダ)及びアドレスのデコードのための回路(アドレスデコーダ)が、制御回路17の外部において、メモリデバイス1内に設けられてもよい。
【0023】
(a-2)メモリセルアレイ
図2乃至
図4を参照して、本実施形態のメモリデバイスにおける、メモリセルアレイの構成例について、説明する。
【0024】
図2は、本実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの構成例を示す等価回路図である。
【0025】
図2に示されるように、複数のメモリセルMCは、メモリセルアレイ10内でマトリクス状に配置されている。各メモリセルMCは、複数のビット線BL(BL<0>,BL<1>,・・・,BL<i-1>)のうち対応する1つ、及び、複数のワード線WL(WL<0>、WL<1>,・・・,WL<j-1>)のうち対応する1つ、に接続されている。i及びjは、2以上の整数である。
【0026】
各メモリセルMCは、スイッチング素子20及びメモリ素子(可変抵抗素子)21を含む。
【0027】
スイッチング素子20は、メモリセルMCの選択素子として機能する。スイッチング素子20は、対応するメモリ素子21に対するデータの書き込み及び読み出し時において、メモリ素子21に対する電圧(又は電流)の供給を制御する機能を有する。
【0028】
例えば、或るメモリセルMCに印加される或る極性の電圧が、そのメモリセルMC内のスイッチング素子20のその極性における閾値電圧より低い場合、スイッチング素子20は、オフ状態(高抵抗状態、非導通状態)に設定される。この場合において、スイッチング素子20は、メモリ素子21に対する電圧(又は電流)を、遮断する。或るメモリセルMCに印加される或る極性の電圧が、そのメモリセルMC内のスイッチング素子20のその極性における閾値電圧以上である場合、スイッチング素子20は、オン状態(低抵抗状態、導通状態)に設定される。この場合において、スイッチング素子20は、電圧(又は電流)を、メモリ素子21に供給する。
【0029】
スイッチング素子20は、メモリセル内における電流の流れる方向に依らずに、メモリセルMCに印加される電圧の大きさに応じて、メモリセルMCに電流を流すか流さないかを切り替えることが可能である。
例えば、スイッチング素子20は、2端子型の素子である。
【0030】
メモリ素子21は、可変抵抗素子である。メモリ素子21の抵抗状態は、供給された電圧(又は電流)によって、複数の抵抗状態(例えば、低抵抗状態及び高抵抗状態)に変わる。メモリ素子21は、その素子21の抵抗状態とデータ(例えば、“0”データ及び“1”データ)との関連付けによって、データを記憶できる。
【0031】
図3及び
図4は、本実施形態のメモリデバイスのメモリセルアレイの構造例を説明するための図である。
図3は、メモリセルアレイのX方向(軸)に沿う断面構造を示す模式的断面図である。
図4は、メモリセルアレイのY方向(軸)に沿う断面構造を示す模式的断面図である。
【0032】
図3及び
図4に示されるように、メモリセルアレイ10は、基板100の上面の上方に設けられている。
以下において、基板100の上面に対して平行な面は、X-Y平面とよぶ。X-Y平面に垂直な方向(軸)は、Z方向(Z軸)とする。
【0033】
複数の導電層50は、Z方向において、絶縁層90を介して、基板100の上面の上方に設けられる。複数の導電層50は、Y方向に沿って並ぶ。各導電層50は、X方向に沿って延びる。複数の導電層50は、例えば、ワード線WLとして機能する。
【0034】
複数の導電層51は、Z方向において、複数の導電層50の上方に設けられている。複数の導電層51は、X方向に沿って並ぶ。各導電層51は、Y方向に沿って延びる。複数の導電層51は、例えば、ビット線BLとして機能する。
【0035】
複数のメモリセルMCが、複数の導電層50と複数の導電層51との間に、設けられている。複数のメモリセルMCは、X-Y平面内において、マトリクス状に配列されている。
【0036】
X方向に並ぶ複数のメモリセルMCは、1つの導電層50上に設けられている。X方向に並ぶ複数のメモリセルMCは、共通のワード線WLに接続される。
Y方向に並ぶ複数のメモリセルMCは、1つの導電層51下に設けられている。Y方向に並ぶ複数のメモリセルMCは、共通のビット線BLに接続される。
【0037】
例えば、
図2の回路構成のメモリセルアレイ10において、スイッチング素子20は、Z方向においてメモリ素子21の下方に設けられている。スイッチング素子20が、メモリ素子21と導電層(ワード線)50との間に設けられている。メモリ素子21が、導電層51とスイッチング素子20との間に設けられている。
【0038】
尚、
図2の回路構成を有するメモリセルアレイ10の構造は、
図3及び
図4の例に限定されない。例えば、スイッチング素子20が、Z方向においてメモリ素子21の上方に設けられてもよい。この場合において、導電層50がビット線BLとして用いられ、導電層51がワード線WLとして用いられる。
【0039】
メモリセルMCは、
図3及び
図4の破線TPで示された形状のように、メモリセルアレイ10の形成に用いられるプロセスに応じて、テーパー状の断面形状を有する場合がある。例えば、テーパー状のメモリセルMCにおいて、基板100の表面に対して平行な方向におけるメモリセルMCの底部(本実施形態において、メモリセルMCの導電層50側の部分)の寸法が、基板100の表面に対して平行な方向におけるメモリセルMCの上部(本実施形態において、メモリセルMCの導電層51側の部分)の寸法より大きい。
【0040】
図3及び
図4において、絶縁層90が、複数の導電層50と基板100との間に設けられた例が示されている。基板100が半導体基板である場合、電界効果トランジスタ(図示せず)が、基板100の上面上に設けられてもよい。電界効果トランジスタは、絶縁層90に覆われる。基板100上の電界効果トランジスタは、ロウ制御回路11などの回路の構成素子である。電界効果トランジスタは、絶縁層90内のコンタクトプラグ(図示せず)及び配線(図示せず)を介して、メモリセルアレイ10に接続される。このように、Z方向におけるメモリセルアレイ10の下方に、メモリセルアレイ10の動作の制御のための回路が設けられてもよい。尚、基板100が絶縁性基板であれば、複数の導電層50は、絶縁層90無しに、基板100の上面上に直接設けられてもよい。
【0041】
積層型のメモリセルアレイ10の回路構成及び構造は、
図2乃至
図4に示された例に限定されない。ビット線BL及びワード線WLに対するスイッチング素子20及びメモリ素子21の接続関係に応じて、メモリセルアレイの回路構成及び構造は、適宜変形され得る。
【0042】
(a-3)メモリセル
図5は、本実施形態のメモリデバイスにおける、メモリセルの構造例を示す断面図である。
【0043】
図5に示されるように、メモリセルMCは、スイッチング素子20とメモリ素子21とを含む積層体である。各メモリセルMC内において、スイッチング素子20及びメモリ素子21は、Z方向に並んでいる。
【0044】
上述の
図2乃至
図4の例において、各メモリセルMC内において、メモリ素子(可変抵抗素子)21が、Z方向において、スイッチング素子20上に設けられている。
【0045】
例えば、メモリ素子21としての可変抵抗素子は、磁気抵抗効果素子である。この場合において、本実施形態のメモリデバイスは、MRAM(Magnetoresistive Random Access memory)のような磁気メモリである。
【0046】
例えば、磁気抵抗効果素子21は、少なくとも、2つの磁性層211,213と非磁性層212とを含む。非磁性層212は、Z方向において2つの磁性層211,213の間に設けられている。
図2乃至
図4の例において、ワード線WL側からビット線BL側に向かって、磁性層211、非磁性層212、及び磁性層213の順に、複数の層211,212,213がZ方向に並んでいる。
【0047】
2つの磁性層211,213及び非磁性層212は、磁気トンネル接合(MTJ)を成す。以下において、磁気トンネル接合を含む磁気抵抗効果素子21は、MTJ素子21とよばれる。MTJ素子21における非磁性層212は、トンネルバリア層とよばれる。
【0048】
磁性層211,213は、例えば、コバルト、鉄及び/又はボロンなどを含む強磁性層である。磁性層211,213は、単層膜でもよいし、多層膜(例えば、人工格子膜)でもよい。トンネルバリア層212は、例えば、酸化マグネシウムを含む絶縁層である。トンネルバリア層は、単層膜でもよいし、多層膜でもよい。
【0049】
本実施形態において、MTJ素子21は、垂直磁化型の磁気抵抗効果素子である。
例えば、各磁性層211,213は、垂直磁気異方性を有する。各磁性層211,213の磁化容易軸方向は、磁性層211,213の層面(膜面)に対して垂直である。各磁性層211,213の磁化の方向は、磁性層211,213の配列方向(Z方向)に対して平行である。各磁性層211,213は、磁性層211,213の層面に対して垂直な磁化を有する。
【0050】
2つの磁性層211,213のうち、一方の磁性層は、磁化の向きが可変であり、他方の磁性層は、磁化の向きが不変である。MTJ素子21は、一方の磁性層の磁化の向きと他方の磁性層の磁化の向きとの相対的な関係(磁化配列)に応じて、複数の抵抗状態(抵抗値)を有し得る。
図5の例において、磁性層213の磁化の向きは、可変である。磁性層211の磁化の向きは、不変(固定状態)である。以下において、磁化の向きが可変な磁性層213は、記憶層とよばれる。以下において、磁化の向きが不変(固定状態)の磁性層211は、参照層とよばれる。尚、記憶層213は、自由層、磁化自由層、又は、磁化可変層とよばれる場合もある。参照層211は、ピン層、ピンド層、磁化不変層、又は、磁化固定層とよばれる場合もある。
【0051】
本実施形態において、「参照層(磁性層)の磁化の向きが不変である」、又は、「参照層(磁性層)の磁化の向きが固定状態である」とは、記憶層の磁化の向きを変えるための電流又は電圧が磁気抵抗効果素子に供給された場合において、参照層の磁化の向きが、電流/電圧の供給の前後で供給された電流又は電圧によって変化しないことを、意味する。
【0052】
記憶層213の磁化の向きが、参照層211の磁化の向きと同じである場合(MTJ素子21の磁化配列状態が平行配列状態である場合)、MTJ素子21の抵抗状態は、第1の抵抗状態である。
【0053】
記憶層213の磁化の向きが、参照層211の磁化の向きと異なる場合(MTJ素子21の磁化配列状態が反平行配列状態である場合)、MTJ素子21の抵抗状態は、第1の抵抗状態と異なる第2の抵抗状態である。第2の抵抗状態(反平行配列状態)のMTJ素子21の抵抗値は、第1の抵抗状態(平行配列状態)のMTJ素子21の抵抗値より高い。
【0054】
以下において、MTJ素子の磁化配列状態に関して、平行配列状態はP状態とも表記され、反平行配列状態はAP状態とも表記される。
【0055】
例えば、MTJ素子21は、2つの電極219A,219Bを含む。磁性層211,213及びトンネルバリア層212は、Z方向において、2つの電極219A,219B間に設けられている。参照層211は、電極219Aとトンネルバリア層212との間に設けられている。記憶層213は、電極219Bとトンネルバリア層212との間に設けられている。
【0056】
例えば、シフトキャンセル層(図示せず)が、MTJ素子21内に設けられてもよい。シフトキャンセル層は、参照層211と電極219Aとの間に設けられている。シフトキャンセル層は、参照層211の漏れ磁場の影響を緩和するための磁性層である。
【0057】
MTJ素子21がシフトキャンセル層を含む場合、非磁性層(図示せず)が、シフトキャンセル層と参照層211との間に設けられる。非磁性層は、例えば、Ru層などの金属層である。
【0058】
シフトキャンセル層は、非磁性層を介して参照層211と反強磁性的に結合する。これによって、参照層211及びシフトキャンセル層を含む積層体は、SAF(Synthetic Antiferromagnetic)構造を形成する。SAF構造において、シフトキャンセル層の磁化の向きは、参照層211の磁化の向きと反対になる。SAF構造によって、参照層211の磁化の向きは、固定状態に設定される。
【0059】
例えば、MTJ素子21は、下地層(図示せず)及びキャップ層(図示せず)の少なくとも一方を含んでもよい。下地層は、磁性層(ここでは、参照層)211と電極219Aとの間に設けられている。下地層は、非磁性層(例えば、導電性化合物層)である。下地層は、下地層に接する磁性層211の特性(例えば、結晶性及び/又は磁気特性)を改善するための層である。キャップ層は、磁性層(ここでは、記憶層)213と電極219Bとの間に設けられている。キャップ層は、非磁性層(例えば、導電性化合物層)である。キャップ層は、キャップ層に接する磁性層213の特性(例えば、結晶性及び磁気特性)を改善するための層である。尚、下地層及びキャップ層は、電極219(219A,219B)の構成要素としてみなされてもよい。
【0060】
スイッチング素子20が2端子型の素子である場合、スイッチング素子20は、少なくとも、2つの電極(導電層)201,203とスイッチング層202とを含む。スイッチング層202は、Z方向において2つの電極201,203の間に設けられている。スイッチング層202は、可変抵抗層である。
【0061】
スイッチング素子20(メモリセルMC)に印加される電圧に応じて、スイッチング層202の抵抗状態は、高抵抗状態(非導通状態)又は低抵抗状態(導通状態)になる。
【0062】
スイッチング層202の抵抗状態が高抵抗状態である場合、スイッチング素子20は、オフしている。スイッチング層202の抵抗状態が低抵抗状態である場合、スイッチング素子20は、オンしている。
【0063】
メモリセルMCが選択状態に設定される場合、スイッチング素子20をオンするために、スイッチング層202の抵抗状態は、低抵抗状態である。メモリセルMCが非選択状態に設定される場合、スイッチング素子20をオフするために、スイッチング層202の抵抗状態は、高抵抗状態である。
【0064】
尚、スイッチング層202の材料に応じて、スイッチング層202の抵抗状態の変化は、スイッチング素子20(メモリセル)内を流れる電流(例えば、電流の大きさ)に依存する場合もある。
【0065】
スイッチング層202の材料は、例えば、ドーパントを含む絶縁体である。スイッチング層202に用いられる絶縁体の一例は、酸化シリコンである。スイッチング層202の材料が酸化シリコンである場合、酸化シリコンに添加されるドーパントは、ヒ素(As)又はゲルマニウム(Ge)である。例えば、ドーパントは、イオン注入によって、スイッチング層202内に添加される。
【0066】
スイッチング層202の材料は、例えば、他の材料(導電性又は絶縁性の酸化物、導電性又は絶縁性の窒化物、又は半導体)でもよい。スイッチング層202に用いられる材料に応じて、スイッチング層202に添加されるドーパントの種類は、変更され得る。スイッチング層202としての酸化シリコンに添加されるドーパントの種類は、上述の例に限定されない。
【0067】
電極201,203の材料は、金属、導電性化合物、及び半導体の中から選択される。スイッチング層202の材料に応じて、電極201,203の材料が選択されてもよい。
【0068】
以下において、スイッチング素子20の2つの電極201,203において、基板側の電極201は、下部電極とよばれる。2つの電極203のうち、Z方向において下部電極201の上方に配置された電極(基板側に対して反対側の電極)203は、上部電極とよばれる。
図5の例において、スイッチング素子20は、上部電極203を介して、MTJ素子21に接続されている。
【0069】
積層型メモリセルアレイ10を含むMRAM1において、動作の対象のメモリセル(以下では、選択セルともよばれる)に実行される動作に応じて、第1の極性の電圧又は第2の極性の電圧が、選択セルに印加される。第2の極性は、第1の極性と異なる。選択セル内を流れる電流も、印加された電圧の極性に応じた極性を有する。
【0070】
本実施形態のMRAM1において、スイッチング素子20は、メモリセルMCに対する印加電圧(例えば、書き込み電圧)の極性及び(又は)供給電流(例えば、書き込み電流)の極性に応じた極性依存性を有する。
【0071】
例えば、第1の極性の印加電圧に対するスイッチング素子20の閾値電圧(絶対値)Vth1は、第2の極性の印加電圧に対するスイッチング素子20の閾値電圧(絶対値)Vth2と異なる。
【0072】
例えば、本実施形態において、第1の極性の印加電圧がメモリセルMCに印加されている時のスイッチング素子20の抵抗値Rp1は、第2の極性の印加電圧がメモリセルMCに印加されている時のスイッチング素子20の抵抗値Rp2と異なる。
【0073】
(b)動作例
図6を参照して、本実施形態のMRAMの動作例について、説明する。
【0074】
外部デバイス9は、ユーザからの要求に応じたコマンドCMD、動作対象のアドレス(以下では、選択アドレスともよばれる)ADR及び制御信号CNTを、本実施形態のMRAM1に送る。データの書き込みが要求された場合、外部デバイス9は、コマンド及びアドレスと共に、書き込みデータDTを、本実施形態のMRAM1に送る。
【0075】
本実施形態のMRAM1は、コマンドCMD、選択アドレスADR及び制御信号CNTを受ける。書き込みデータが送られている場合、MRAM1は、書き込みデータを受ける。
【0076】
MRAM1において、制御回路17は、コマンドCMDのデコード結果及び選択アドレスADRのデコード結果に基づいて、MRAM1内の各回路11~16の動作を制御する。
【0077】
ロウ制御回路11は、選択アドレスADRのデコード結果に基づいて、複数のワード線WLのうち1つのワード線を選択する。カラム制御回路12は、選択アドレスADRのデコード結果に基づいて、複数のビット線BLのうち1つのビット線を選択する。選択ワード線と選択ビット線との間のメモリセルが、動作対象のメモリセル(選択セル)として選択される。
以下において、複数のメモリセルMCのうち、選択セル以外のメモリセルは、非選択セルとよばれる。
【0078】
ロウ制御回路11は、或る電圧値を有する電圧を選択ワード線に印加する。カラム制御回路12は、或る電圧値を有する電圧を選択ビット線に印加する。
選択ワード線と選択ビット線との間の電位差が、選択セルの動作のための印加電圧(動作電圧)として、選択セルに供給される。選択ワード線に印加される電圧の電圧値及び選択ビット線に印加される電圧の電圧値は、実行される動作に応じた大きさを有する。
【0079】
メモリセルアレイ10内に、選択セル以外の複数のメモリセル(以下では、非選択セル)が存在する。非選択セルは、非選択ワード線及び非選択ビット線のうち少なくとも一方に接続されている。積層型のメモリセルアレイ10において、選択セルに対する動作時において、選択ワード線と非選択ビット線とに接続された非選択セル、及び、非選択ワード線と選択ビット線とに接続された非選択セルが、メモリセルアレイ10内に存在する。以下において、選択ワード線と非選択ビット線とに接続された非選択セル、及び、非選択ワード線と選択ビット線とに接続された非選択セルは、半選択セルともよばれる。
【0080】
選択セルに対する動作時において、非選択セル及び半選択セルの誤動作を抑制するために、或る大きさの電圧(以下において、非選択電圧とよばれる)が、非選択ワード線及び非選択ビット線に印加される。
【0081】
コマンドが書き込みコマンドである場合、書き込みデータが、選択セルに書き込まれる。例えば、メモリセルMCが1ビットのデータを記憶する場合、第1のデータ(例えば、“0”データ)又は第2のデータ(例えば、“1”データ)が、メモリセル(選択セル)MCに書き込まれる。
【0082】
MRAM1において、選択セルに書き込まれるデータに応じて、MTJ素子21の磁化配列状態が、制御される。
例えば、MRAM1が、STT(Spin Transfer Torque)方式のデータの書き込み(書き込み動作)を実行する場合、選択セルに書き込まれるデータに応じて、参照層211側から記憶層213側へ流れる書き込み電流、又は、記憶層213側から参照層211側へ流れる書き込み電流が、MTJ素子21に供給される。
【0083】
MRAM1において、選択セルに書き込まれるデータに応じて、選択ワード線の電位及び選択ビット線の電位の大小関係(印加電圧の極性)が、制御される。
【0084】
図6は、本実施形態のMRAMにおける、書き込み動作を説明するための模式図である。
【0085】
図6の(a)は、メモリセルに対する第1のデータの書き込み動作を示している。
例えば、第1のデータ(“0”データ)は、MTJ素子21の磁化配列状態における平行配列状態に関連付けられている。
【0086】
図6の(a)に示されるように、“0”データの書き込み時において、MTJ素子21の磁化配列状態が平行配列状態(P状態)に設定される場合、書き込み電流IwAPPは、記憶層213から参照層211に向かう方向へ流れるように、選択セルMC-sに供給される。書き込み電流IwAPPは、MTJ素子21の磁化反転閾値以上の電流値を有する。より具体的には、書き込み電流IwAPPの電流値は、記憶層213の磁化反転閾値以上であり、参照層211の磁化反転閾値より低い。
【0087】
書き込み電流IwAPPの生成のために、MTJ素子21において、記憶層213側の電位が参照層211側の電位より高くされる。
【0088】
この場合において、第1の選択電圧Vsel1が、記憶層213側の配線51(本実施形態において、選択ビット線BL-s)に印加され、第2の選択電圧Vsel2が参照層211側の配線50(本実施形態において、選択ワード線WL-s)に印加されている。第1の選択電圧Vsel1の電圧値は、第2の選択電圧Vsel2の電圧値より高い。選択電圧Vsel1は、例えば、正の電圧値を有する。選択電圧Vsel2は、例えば、0Vである。
【0089】
選択ビット線BL-sと選択ワード線WL-sとの間の電位差(Vsel1-Vsel2)が、書き込み動作のための印加電圧VwAPPとして、選択セルMC-sに印加される。以下において、書き込み動作のために選択セルに印加される動作電圧は、書き込み電圧とよばれる。
【0090】
本実施形態において、MTJ素子21の記憶層213側の電位が、MTJ素子21の参照層211側の電位より高くなるようにメモリセルMCに印加された書き込み電圧VwAPPの極性は、第1の極性とよばれる。メモリセルアレイ10が
図2乃至
図5の構成を有する場合、第1の極性の書き込み電圧VwAPPの印加時、MTJ素子21の上方の配線51の電位が、MTJ素子21の下方の配線50の電位より高い。
【0091】
選択ビット線BL-sと選択ワード線WL-sとの間の電位差(書き込み電圧)VwAPPによって、選択セルMC-s内のスイッチング素子20は、オンする。第1の極性の書き込み電圧VwAPPが印加された選択セルに関して、スイッチング素子20の閾値電圧(絶対値)は、書き込み電圧(絶対値)VwAPP以下である。
例えば、“0”データの書き込み時において、オン状態のスイッチング素子20は、抵抗値Rp1を有する。
【0092】
“0”データの書き込みのための第1の極性を有する書き込み電圧VwAPPによって、書き込み電圧VwAPPの極性に応じた極性を有する書き込み電流IwAPPが、生じる。第1の極性の書き込み電圧VwAPPによって生じる書き込み電流IwAPPは、第1の極性の書き込み電流IwAPPとよばれる。
第1の極性を有する書き込み電流IwAPPは、記憶層213から参照層211に向かって、MTJ素子21内を流れる。
【0093】
書き込み電流IwAPPに起因して、スピントルクが、MTJ素子21内に生じる。スピントルクによって、記憶層213の磁化の向きは、参照層211の磁化の向きに対して反対の向きから、参照層211の磁化の向きと同じ向きに反転する。
これによって、MTJ素子21の磁化配列状態は、AP状態からP状態に変わる。
【0094】
この結果として、“0”データが、選択セルMC-s内に書き込まれる。選択セルMC-sに対する“1”データの書き込みが行われるまで、選択セルMC-sは、書き込まれた“0”データを、実質的に不揮発に記憶できる。
【0095】
尚、書き込み電流IwAPPの供給時にMTJ素子21の磁化配列状態がP状態(“0”データ保持状態)である場合、“0”データの書き込みのための書き込み電流IwAPPがMTJ素子21内に流れたとしても、記憶層213の磁化の反転は、生じない。それゆえ、“0”データの書き込み時、“0”データを記憶しているメモリセルにおいて、データの書き換えは、生じない。
【0096】
図6の(b)は、メモリセルに対する第2のデータの書き込み動作を説明するための模式図である。
【0097】
例えば、第2のデータ(“1”データ)は、MTJ素子21の磁化配列状態における反平行配列状態に関連付けられている。
【0098】
図6の(b)に示されるように、“1”データの書き込み時において、MTJ素子21の磁化配列状態が、反平行配列状態(AP状態)に設定される場合、書き込み電流IwPAPは、参照層211から記憶層213に向かう方向へ流れるように、選択セルMC-sに供給される。書き込み電流IwPAPの生成のために、MTJ素子21において、参照層211側の電位が、記憶層213側の電位より高くされる。
【0099】
この場合において、第3の選択電圧Vsel3が、参照層211側の配線50(本実施形態において、選択ワード線WL-s)に印加され、第4の選択電圧Vsel4が記憶層213側の配線51(本実施形態において、選択ビット線BL-s)に印加されている。第3の選択電圧Vsel3の電圧値は、第4の選択電圧Vsel4の電圧値より高い。選択電圧Vsel3は、正の電圧値を有する。選択電圧Vsel4は、例えば、0Vである。
【0100】
選択ワード線WL-sと選択ビット線BL-sとの間の電位差(|Vsel3-Vsel4|)が、書き込み電圧VwPAPとして、選択セルMC-sに印加される。
【0101】
本実施形態において、MTJ素子21の参照層211側の電位が、MTJ素子21の記憶層213側の電位より高くなるようにメモリセルMCに印加された書き込み電圧VwPAPの極性は、第2の極性とよばれる。メモリセルアレイ10が
図2乃至
図5の構成を有する場合、第2の極性の書き込み電圧VwPAPの印加時、MTJ素子21の下方の配線50の電位が、MTJ素子21の上方の配線51の電位より高い。
【0102】
書き込み電圧VwPAP,VwAPPの極性が互いに異なっていれば、書き込み電圧VwPAPの電圧値の絶対値は、書き込み電圧VwPPAの電圧値の絶対値と同じでもよいし、異なってもよい。電圧Vsel3の電圧値は、電圧Vsel1の電圧値と同じでもよいし、異なってもよい。電圧Vsel4の電圧値は、電圧Vsel2の電圧値と同じでもよいし、異なってもよい。
【0103】
書き込み電圧VwPAPによって、選択セルMC-s内のスイッチング素子20は、オンする。第2の極性の書き込み電圧VwPAPが印加された選択セルに関して、スイッチング素子20の閾値電圧(絶対値)は、書き込み電圧(絶対値)VwPAP以下である。
例えば、“1”データの書き込み時において、オン状態のスイッチング素子20は、抵抗値Rp2を有する。抵抗値Rp2の大きさは、抵抗値Rp1の大きさと異なる。
【0104】
“1”データの書き込みのための第2の極性を有する書き込み電圧VwPAPによって、書き込み電圧VwPAPの極性に応じた極性を有する書き込み電流IwPAPが、生じる。第2の極性の書き込み電圧VwPAPによって生じる書き込み電流IwPAPは、第2の極性の書き込み電流IwPAPとよばれる。
第2の極性を有する書き込み電流IwPAPは、参照層211から記憶層213に向かって、MTJ素子21内を流れる。書き込み電流IwPAPは、MTJ素子21の磁化反転閾値以上の電流値を有する。
【0105】
書き込み電流IwPAPに起因して、スピントルクが、MTJ素子21内に生じる。スピントルクによって、記憶層213の磁化の向きは、参照層211の磁化の向きと同じ向きから、参照層211の磁化の向きに対して反対の向きに反転する。
これによって、MTJ素子21の磁化配列は、P状態からAP状態に変わる。
【0106】
この結果として、“1”データが、選択セルMC-s内に書き込まれる。選択セルMC-sに対する“0”データの書き込みが行われるまで、選択セルMC-sは、書き込まれた“1”データを、実質的に不揮発に記憶できる。
【0107】
尚、書き込み電流IwPAPの供給時にMTJ素子21の磁化配列がAP状態(“1”データ保持状態)である場合、“1”データの書き込みのための書き込み電流IwPAPがMTJ素子21内に流れたとして、記憶層213の磁化の反転は、生じない。それゆえ、第2のデータの書き込み時、第2のデータを記憶しているメモリセルにおいて、データの書き換えは、生じない。
【0108】
選択セルMC-sの印加電圧のバイアス状態において、第2の極性は、第1の極性と異なる。以下において、第1の極性は、負の極性とよばれ、第2の極性は、正の極性とよばれる。負の極性の書き込み電圧VwAPPに起因する書き込み電流IwAPPは、負の極性の書き込み電流とよばれる。正の極性の書き込み電圧VwPAPに起因する書き込み電流IwPAPは、正の極性の書き込み電流とよばれる。
負の極性の書き込み電圧VwAPPの印加時における選択セルMC-sの電圧のバイアス状態は、負バイアス状態とよばれる。正の極性の書き込み電圧VwPAPの印加時における選択セルMC-sの電圧のバイアス状態は、正バイアス状態とよばれる。
【0109】
以下において、書き込み電圧VwAPP,VwPAPの極性の違いを示すために、書き込み電圧VwAPPは“-VwAPP(又はVwAPP(-))”表記され、書き込み電圧VwPAPは“+VwPAP(又はVwPAP(+))”と表記される場合もある。
尚、所定の書き込みデータが選択セルに書き込まれるように、選択ワード線と選択ビット線との間の電位差及び書き込み電圧(書き込み電流)の極性が設定されていれば、負の電圧値を有する選択電圧が、選択ワード線又は選択ビット線に印加されてもよい。
【0110】
例えば、MTJ素子21の極性依存性に応じて、書き込み電圧VwPAPの絶対値(|+VwPAP|)が、書き込み電圧VwAPPの絶対値(|-VwAPP|)より大きくてもよい。これによって、MTJ素子(メモリセル)における書き込みエラー率(WER)が、低減される。また、MTJ素子における経時的絶縁破壊(TDDB:Time Dependent Dielectric Breakdown)に関する特性のような、MTJ素子21の特性が、改善される。
【0111】
以下において、メモリセルに対するデータの書き込みのための書き込み電圧及び書き込み電流は、総称して、書き込みパルスともよばれる。
【0112】
図6の(c)は、書き込み動作時における非選択セルの電気的な状態を説明するための模式図である。
【0113】
図6の(c)に示されるように、書き込み動作時において、非選択電圧Vusel1が、非選択ワード線WL-zに印加され、非選択電圧Vusel2が、非選択ビット線BL-zに印加される。
非選択電圧Vusel1,Vusel2のそれぞれは、例えば、0V以上の電圧値である。
【0114】
非選択ワード線WL-zと非選択ビット線BL-zとの電位差(以下では、オフ電圧とよばれる)Voffは、書き込み電圧(絶対値)より小さい。MTJ素子21の磁化反転閾値電流以上の電流は、電圧Voffが印加された非選択セルMC-z内を流れない。
オフ電圧Voffが非選択セルMC-zに印加されている場合、スイッチング素子20は、オフしている。
【0115】
上述のように、選択セルに対する動作時、半選択セルが、メモリセルアレイ10内に存在する。
【0116】
半選択セルの誤動作が生じないように、非選択電圧Vusel1,Vusel2の電圧値が、設定される。
【0117】
第1のデータ(“0”)の書き込みにおいて、非選択電圧Vusel1,Vusel2の電圧値は、以下のように、設定される。
【0118】
非選択電圧Vusel1と選択電圧Vsel2との間の電位差が、書き込み電圧VwAPPより小さくなるように、非選択電圧Vusel1の電圧値が、設定される。例えば、非選択電圧Vusel1の電圧値は、選択電圧Vsel1の電圧値と選択電圧Vsel2の電圧値との間の電圧値を有する。
【0119】
例えば、非選択電圧Vusel1の電圧値が、選択電圧Vsel1の電圧値と選択電圧Vsel2の電圧値との間の電位差の半分の値と同じである場合、書き込み電圧VwAPPの電圧値の半分程度の電圧値を有する電圧VwAPP/2が、選択ビット線BL-sに接続された半選択セルに対して、印加される。
【0120】
この場合において、選択ビット線BL-sに接続された半選択セル内のMTJ素子21において、記憶層213側の電位が、参照層211側の電位より高い。
【0121】
非選択電圧Vusel2と選択電圧Vsel1との間の電位差が、書き込み電圧VwAPPより小さくなるように、非選択電圧Vusel2の電圧値が、設定される。例えば、非選択電圧Vusel2の電圧値は、選択電圧Vsel1の電圧値と選択電圧Vsel2との間の電圧値を有する。
【0122】
例えば、非選択電圧Vusel2の電圧値が、選択電圧Vsel1の電圧値と選択電圧Vsel2の電圧値との間の電位差の半分の値と同じある場合、電圧VwAPP/2が、選択ワード線WL-sに接続された半選択セルに対して、印加される。
【0123】
この場合において、選択ワード線WL-sに接続された半選択セル内のMTJ素子21において、記憶層213側の電位が、参照層211側の電位より高い。
【0124】
“0”データ書き込み時において、上述のように非選択電圧Vunsel1,Vunsel2の電圧値が設定された場合、半選択セルに印加された電圧の極性の向きは、書き込み電圧VwAPPの極性(負の極性)の向きと同じである。
【0125】
“0”データの書き込み動作時、非選択セル及び半選択セル内のスイッチング素子はオフしていることが、非選択セル及び非選択セルの誤動作及び(又は)選択セルに対するノイズを抑制するために、望ましい。
“0”データの書き込み時におけるスイッチング素子の閾値電圧(絶対値)Vth1は、その閾値電圧Vth1が電圧(絶対値)VwAPP/2より高く、書き込み電圧VwAPP以下となるように、設定される。
【0126】
第2のデータ(“1”)の書き込みにおいて、非選択電圧Vusel1,Vusel2の電圧値は、以下のように、設定される。
【0127】
非選択電圧Vusel1と選択電圧Vsel4との間の電位差(絶対値)が、書き込み電圧VwPAPの電圧値(絶対値)より小さくなるように、非選択電圧Vusel1の電圧値が、設定される。例えば、非選択電圧Vusel1の電圧値は、選択電圧Vsel3の電圧値と選択電圧Vsel4の電圧値との間の電圧値を有する。
【0128】
例えば、非選択電圧Vusel1の電圧値が、選択電圧Vsel3の電圧値と選択電圧Vsel4の電圧値との間の電位差の半分の値と同じである場合、書き込み電圧VwAPPの電圧値の半分程度の電圧値を有する電圧VwPAP/2が、選択ビット線BL-sに接続された半選択セルに対して、印加される。
【0129】
この場合において、選択ビット線BL-sに接続された半選択セル内のMTJ素子21において、記憶層213側の電位が、参照層211側の電位より低い。
【0130】
非選択電圧Vusel2と選択電圧Vsel3との間の電位差が、書き込み電圧VwPAPより小さくなるように、非選択電圧Vusel2の電圧値が、設定される。例えば、非選択電圧Vusel2の電圧値は、選択電圧Vsel3の電圧値と選択電圧Vsel4との間の電圧値を有する。
【0131】
例えば、非選択電圧Vusel2の電圧値が、選択電圧Vsel3の電圧値と選択電圧Vsel4の電圧値との間の電位差の半分の値と同じである場合、電圧VwPAP/2が、選択ワード線WL-sに接続された半選択セルに対して、印加される。
【0132】
この場合において、選択ワード線WL-sに接続された半選択セル内のMTJ素子21において、記憶層213側の電位が、参照層211側の電位より低い。
【0133】
“1”データ書き込み時において、上述のように非選択電圧Vunsel1,Vunsel2の電圧値が設定された場合、半選択セルに印加された電圧の極性の向きは、書き込み電圧VwPAPの極性(正の極性)の向きと同じである。
【0134】
“1”データの書き込み動作時、非選択セル及び半選択セル内のスイッチング素子はオフしていることが、非選択セル及び非選択セルの誤動作及び(又は)選択セルに対するノイズを抑制するために、望ましい。
“1”データの書き込み時におけるスイッチング素子の閾値電圧(絶対値)Vth2は、その閾値電圧Vth2が電圧(絶対値)VwAPP/2より高く、書き込み電圧VwAPP以下となるように、設定される。
【0135】
以上のように、選択セルに対する書き込み動作時において、ある電圧値を有する非選択電圧Vusel1,Vusel2が、非選択ワード線WL-z及び非選択ビット線BL-zに印加される。
これによって、選択セルに対する書き込み動作時において、非選択セルの誤動作を抑制できる。
【0136】
尚、本実施形態のMRAM1の読み出し動作は、周知の技術を用いて、実行される。それゆえ、本実施形態において、MRAM1の読み出し動作の説明は、省略する。
【0137】
本実施形態のMRAM1において、スイッチング素子20は、印加電圧(例えば、書き込み電圧)の極性に応じた依存性を有する。これによって、本実施形態のMRAM1において、電圧が印加されているスイッチング素子20は、印加されている電圧の極性に応じて異なる特性を示す。
【0138】
この結果として、本実施形態のMRAM1は、MRAM1(メモリセルMC)の動作マージンが小さくなるのを抑制できる。
【0139】
(c)設計例
図7乃至
図11を参照して、本実施形態のMRAM1における、印加電圧に対する極性依存性を有するスイッチング素子の設計例(設計方法)について、説明する。
【0140】
図7は、本実施形態のMRAM1における、メモリセルのスイッチング素子の閾値電圧と書き込み電圧との関係を説明するための図である。
【0141】
図7の横軸は電圧(電圧値)に対応し、
図7の縦軸は素子数に対応する。
図7において、“0”データの書き込み時の電圧(電圧値)は、負の極性(負の値)で示され、“1”データの書き込み時の電圧(電圧値)は、正の極性(正の値)で示されている。
【0142】
以下において、“0”データ書き込みに時におけるスイッチング素子20の閾値電圧は、“-Vth1”と表記される。“1”データ書き込みに時におけるスイッチング素子20の閾値電圧は、“+Vth2”と表記される。以下において、“-Vth1”及び“+Vth2”の閾値電圧が区別されない場合において、閾値電圧は、“Vth”と表記される。
【0143】
図7において、“VwAPP”及び“VwPAP”は、上述の互いに異なる極性の書き込み電圧を示すとともに、その電圧の電圧値を示す。
以下において、書き込み電圧VwAPP,VwPAPが区別されない場合、書き込み電圧は、“Vw”と表記される。
【0144】
図7に示されるように、“0”データの書き込みにおけるスイッチング素子20の閾値電圧“-Vth1”の分布Daは、電圧値“-VwAPP”と電圧値“-VwAPP/2”との間の電圧範囲内に設けられている。
“1”データの書き込みにおけるスイッチング素子20の閾値電圧“+Vth2”の分布Dbは、電圧値“+VwPAP/2”と電圧値“+VwPAP”との間の電圧範囲内に設けられている。
【0145】
上述のように、MTJ素子の極性依存性に応じて書き込み電圧VwAPP,VwPAPの大きさが設定されている場合、書き込み電圧VwAPP,VwPAPの絶対値は、“|-VwAPP|<|+VwPAP|”の関係を有する。但し、|-VwAPP|は、|+VwPAP|と同じでもよい。
【0146】
閾値電圧分布Daにおけるスイッチング素子20の閾値電圧の中央値は、“-medVth1”と表記される。閾値電圧分布Dbにおけるスイッチング素子20の閾値電圧の中央値は、“+medVth2”と表記される。
以下において、“+medVth1”及び“-medVth2”が区別されない場合、閾値電圧の中央値は、“medVth”と表記される。
【0147】
例えば、閾値電圧分布Da,Dbは、正規分布を有している。
【0148】
“Vth”の標準偏差(σVth)は、“medVth”の百分率(s%)を用いて示すことができる。σVth及びmedVthは、“σVth=medVth×s/100”の関係を有する。“s”は、0以上、100以下の値を有する。
【0149】
例えば、閾値電圧分布Da,Dbの正規分布は、“Vth~N(medVth,(medVth×(s/100)2))”と示される。
【0150】
MRAM1における動作マージンが“n×σVth”で示される場合、“n×σVth”は、“medVth×n×s/100”と示すことができる。ここで、“n”は、サンプル数(正の整数)である。尚、“n×σVth”は、MRAM1の書き込みエラー率に関連する値とみなすこともできる。
【0151】
書き込み動作における動作マージン(n×σVth)に基づいて、書き込み電圧“Vw”と正規分布を有するスイッチング素子の閾値電圧との関係は、以下の式(A)及び式(B)に示される。
Vw/2 < medVth-n×σVth = medVth×(1-n×s/100) ・・・(A)
medVth×(1+n×s/100) < Vw ・・・(B)
【0152】
式(A)は、閾値電圧分布Daの上限(分布の上裾)の電圧値“-Vth1a”(絶対値)と電圧値“-Vw/2(=-VwAPP/2)”(絶対値)との関係、及び、閾値電圧分布Dbの下限(分布の下裾)の電圧値“+Vth2a”(絶対値)と電圧値“Vw/2(=+VwPAP/2)”(絶対値)との関係、に相当する。
【0153】
尚、上述のように、非選択のワード線及びビット線に印加される非選択電圧の取り得る値であって、電圧値“Vw/2”は、書き込み動作時において半選択セルに印加される電圧の電圧値に相当する。
【0154】
式(B)は、閾値電圧分布Daの下限(分布の下裾)の電圧値“-Vth1b”(絶対値)と書き込み電圧“Vw(=-VwAPP)”(絶対値)との関係、及び、閾値電圧分布Dbの上限(分布の上裾)の電圧値“+Vth2b”(絶対値)と書き込み電圧“Vw(=+VwPAP)”(絶対値)との関係に相当する。
【0155】
式(A)及び式(B)に基づいて、式(C)が得られる。
medVth×(1+n×s/100) < Vw < medVth×2×(1-n×s/100) ・・・(C)
【0156】
負の極性の書き込み電圧VwAPPの絶対値及び正の極性の書き込み電圧VwPAPの絶対値が、“VwAPP<VwPAP”の関係を有する場合、式(C)は、次の式(D)のように示すことができる。
medVth×(1+n×s/100) < VwAPP < VwPAP < medVth×2×(1-n×s/100) ・・・(D)
【0157】
ここで、MTJ素子の極性依存性に応じて設定された書き込み電圧VwAPP,VwPAPの大きさ(書き込み電圧の極性依存性)が、以下の式(E)のように、係数“a”を用いて仮定される。
VwPAP = a×VwAPP ・・・(E)
【0158】
式(E)において、“a”は1より大きい値を有する。
尚、係数“a”は、異なる極性を有する書き込み電圧VwAPP,VwPAP(又は書き込み電流IwAPP,IwPAP)に対するMTJ素子21の極性依存性を示す係数(以下では、MTJ素子の極性依存性係数ともよばれる)である。“a”は、書き込み電圧VwAPP,VwPPの電圧比(又は書き込み電流IwAPP,IwPAPの電流比)で示すことができる。
【0159】
書き込み動作時におけるスイッチング素子20の閾値電圧の極性依存性が、閾値電圧の中央値を用いて、以下の式(F)のように、仮定される。
medVth1 = b×medVth2 ・・・(F)
【0160】
“medVth1”は、負の極性の書き込み電圧VwAPP(-)が選択セルに印加された場合(“0”データの書き込み時)におけるスイッチング素子20の閾値電圧Vth1の中央値を示している。
“medVth2”は、正の極性の書き込み電圧VwPAP(+)が選択セルに印加された場合(“1”データの書き込み時)におけるスイッチング素子20の閾値電圧Vth2の中央値を示している。“medVth1”及び“medVth2”は、絶対値で示している。
【0161】
式(F)において、“b”は、1以上の値(b≧1)である。
尚、係数“b”は、異なる極性を有する書き込み電圧VwAPP,VwPAP(又は書き込み電流IwAPP,IwPAP)に対するスイッチング素子20の極性依存性を示す係数である。“b”は、書き込み電圧VwAPP,VwPPに対するスイッチング素子20の閾値電圧の電圧比(又は書き込み電流IwAPP,IwPAPに対するスイッチング素子20の閾値電圧の比)で示すことができる。
【0162】
以下において、スイッチング素子20の閾値電圧分布における中央値medVth1,medVth2が、各書き込み電圧にVwAPP,VwPAPに対するスイッチング素子20の閾値電圧の代表的な値(基準値)として、スイッチング素子20の閾値電圧とみなす場合もある。
【0163】
本実施形態において、式(E)における係数“a”及び式(F)における係数“b”に基づいて、スイッチング素子20の極性依存性について、検証する。
【0164】
<<スイッチング素子が印加電圧に関する極性依存性を有さない場合>>
スイッチング素子が印加電圧に関する極性依存性を有さない場合、式(F)の“b”は、1である。この場合において、書き込み電圧VwPAPに関するスイッチング素子20の閾値電圧の中央値medVth2は、書き込み電圧VwAPPに関するスイッチング素子20の閾値電圧の中央値medVth1に等しい。ここでは、“medVth1”及び“medVth2”は、“medVth”と表記する。
【0165】
式(E)に基づいて、式(D)は、以下の式(G0)のように示すことができる。
medVth×(1 + n×s/100) < VwAPP < medVth×2×(1-n×s/100)/a ・・・(G0)
【0166】
この場合において、式(G0)に基づいて、以下の式(G1)が得られる。
(1 + n×s/100) < 2×(1-n×s/100)/a ・・・(G1)
【0167】
式(G1)は、以下の式(G2)のように示される。
0 < 2×(1-n×s/100)/a-(1+n×s/100) ・・・(G2)
【0168】
式(G2)は、以下の式(G3)のように示される。
0 < 2×(1-n×s/100)-a×(1+n×s/100) ・・・(G3)
【0169】
さらに、式(G3)は、以下の式(G4)のように示される。
0 < (2-a)-(2+a)×n×s/100 ・・・(G4)
【0170】
式(G4)に基づいて、以下の式(H)が得られる。
n×s/100 < (2-a)/(2+a) ・・・(H)
【0171】
式(H)に基づいて、スイッチング素子20の閾値電圧のばらつき“n×s/100”は、“(2-a)/(2+a)”より小さいことが、示される。
【0172】
式(H)を満たす値“a”の範囲は、“1<a<2”である。
【0173】
図8は、本実施形態のMRAMにおける、MRAMの動作マージンと値“a”との関係を示すグラフである。
【0174】
線P1は、スイッチング素子20の閾値電圧が書き込み電圧の極性に対する依存性を有さない場合における、極性の異なる2つの書き込み電圧VwAPP,PAPの電圧比を示す係数“a”とMRAMの動作マージンとの関係を示している。
線P1(四角のプロットを含む線)は、式(H)に基づく、係数“a”と動作マージン“n×s/100”との関係を示している。
【0175】
例えば、MTJ素子の極性依存性係数(書き込み電圧|VwPAP/VwAPP|の電圧比)“a”が1.2である場合における動作マージンD1は、0.2の基準値としての動作マージンに対して、スイッチング素子の閾値電圧に関して5%程度高い値となる。
【0176】
<<スイッチング素子が印加電圧に関する極性依存性を有する場合>>
スイッチング素子が印加電圧に関する極性依存性を有する場合(式(F)においてb≠1である場合)、“a”及び“b”は、以下の関係式によって、示される。
【0177】
書き込み電圧VwAPPに関して、上述の式(C)は、以下の式(I1)のように、示される。
medVth1×(1+n×s/100) < VwAPP < medVth1×2×(1-n×s/100) ・・・(I1)
【0178】
書き込み電圧VwAPPに関して、上述の式(C)は、以下の式(I2)のように、示される。
medVth2×(1+n×s/100) < VwPAP < medVth2×2×(1-n×s/100) ・・・(I2)
【0179】
上述の式(E)及び式(F)に示される関係に基づいて、以下の式(J)が、式(I2)から得られる。
medVth1×(1+n×s/100)×b/a < VwAPP < medVth1×2×(1-n×s/100)×b/a ・・・(J)
【0180】
式(J)のように、負極性の書き込み電圧VwAPP(絶対値)は、“a”及び“b”を用いた関係式で示すことができる。
【0181】
b/a>1の場合(b>aの場合)、以下の式(K1)が、式(I1)及び式(J)から得られる。
【0182】
medVth1×(1+n×s/100)×b/a < medVth1×2×(1-n×s/100) ・・・(K1)
式(K1)の左辺は、式(J)の左辺であり、式(K1)の右辺は、式(I1)の右辺である。
【0183】
式(K1)は、以下の式(K2)のように、示される。
(1+n×s/100)×b/a < 2×(1-n×s/100) ・・・(K2)
【0184】
式(K2)は、以下の式(K3)のように、示される。
0 < (2-2×n×s/100)-(1+n×s/100)×b/a ・・・(K3)
【0185】
式(K3)は、以下の式(K4)のように、示される。
0 < (2a-b)-(2a+b)×n×s/100 ・・・(K4)
【0186】
式(K4)に基づいて、スイッチング素子の閾値電圧のばらつきは、以下の式(L)のように、示される。
n×s/100 < (2a-b)/(2a+b) ・・・(K5)
【0187】
尚、上述の式(H)と式(K5)は、以下の式(L)の関係を有する。
(2-a)/(2+a) < (2a-b)/(2a+b) ・・・(L)
【0188】
式(L)に基づいて、“b<a2”の関係が、得られる。
【0189】
したがって、b>aである場合において、“b”及び“a”が“b<a2”の関係を有することによって、本実施形態のMRAM1の動作マージンは、大きくなる。
【0190】
“b/a<1”の場合(b<aの場合)において、本実施形態のMRAMの動作マージンは、式(I1)及び式(J)を用いて、は、以下の式(M1)のように示される。
medVth1 × (1+n×s/100) < medVth1×2×(1-n×s/100) × b/a ・・・(M1)
式(M1)の左辺は、式(I1)の左辺であり、式(M)の右辺は、式(J)の右辺である。
【0191】
式(M1)は、以下の式(M2)のように、示される。
1+n×s/100 < 2×(1-n×s/100)×b/a ・・・(M2)
【0192】
式(M2)は、以下の式(M3)のように、示される。
0 < 2b-2b×n×s/100-a-a×n×s/100 ・・・(M3)
【0193】
式(M2)は、以下の式(M3)のように、示される。
0 < (2b-a)-(2b+a)×n×s/100 ・・・(M4)
【0194】
式(M4)に基づいて、スイッチング素子の閾値電圧のばらつきは、以下の式(L)のように、示される。
n×s/100 < (2b-a)/(2b+a) ・・・(M5)
【0195】
上述の式(H)と式(M5)は、以下の式(N)の関係を有する。
(2-a)/(2+a) < (2b-a)/(2b+a) ・・・(N)
【0196】
式(N)に基づいて、“b>a”の関係が、得られる。
【0197】
上述に基づいて、b>aである場合において、“b”が“1<b”の関係を有する場合、本実施形態のMRAM1の動作マージンは、大きくなる。
【0198】
図8において、線P2及び線P3は、スイッチング素子20の閾値電圧が書き込み電圧の極性に対する依存性を有する場合における、極性の異なる2つの書き込み電圧VwAPP,PAPの電圧比を示す係数“a”とMRAMの動作マージンとの関係を示している。
【0199】
線P2(三角のプロットを含む線)は、式(L)に基づく、係数“a”と動作マージン“n×s/100”との関係を示している。線P2は、“b”及び“a”が、“b=a0.5”である場合における動作マージンの推移を示している。
【0200】
線P3(丸のプロットを含む線)は、式(N)に基づく、係数“a”と動作マージンとの関係を示している。線P3は、“b”及び“a”が、“b=a”である場合における動作マージンの推移を示している。
【0201】
図8に示されるように、線P2に関する動作マージンの値及び線P3に関する動作マージンの値は、線P1に関する動作マージンの値より高い。
【0202】
このように、スイッチング素子の閾値電圧が、書き込み電圧に関して極性依存性を有することによって、MRAMの動作マージンは、向上され得る。
【0203】
例えば、MTJ素子の極性依存性係数(書き込み電圧の電圧比)“a”の値が“1.2”である場合の動作マージンの値を比較した場合、0.2の基準値に対して、式(L)に基づく動作マージンD2は、式(H)に基づく動作マージン(スイッチング素子が極性依存性を有さない場合における動作マージン)D1に比較して、13%程度改善される。
【0204】
線P3に示されるように、“b”の値が“a”の値に等しい場合、式(N)に基づく動作マージンは、“a”の値に実質的に依存せずに、0.3以上の値を維持できる。
この場合において、式(N)に基づく動作マージンは、最も高い値を得ることができる。
【0205】
尚、ここでは、異なる極性の書き込み電圧VwPAP,VwAPPを用いて、MRAMの動作マージンとスイッチング素子の極性依存性との関係について、説明した。
但し、MRAMの動作マージンとスイッチング素子の極性依存性との関係は、異なる極性の書き込み電流IwAPP,IwPAPについても、上述と同様の関係を有する。
【0206】
(d)まとめ
本実施形態のMRAMは、メモリセルMC内に、メモリ素子(例えば、MTJ素子)21及びスイッチング素子20を含む。
本実施形態のMRAMにおいて、メモリセルに対する書き込みデータに応じて、第1の極性を有する書き込みパルス(書き込み電圧及び(又は)書き込み電流)又は第2の極性を有する書き込みパルスが、メモリセルに供給される。
【0207】
本実施形態のMRAMにおいて、スイッチング素子は、異なる極性を有する書き込みパルスに応じた極性依存性を有する。書き込みパルスに対する極性依存性によって、第1の極性の書き込みパルスの供給時におけるスイッチング素子の特性(例えば、閾値電圧及び抵抗値のうち少なくとも一方)は、第2の極性の書き込みパルスの供給時におけるスイッチング素子の特性と異なる。
これによって、本実施形態のMRAMは、メモリセルの動作マージンを改善できる。
【0208】
本実施形態において、スイッチング素子は、以下のような極性依存性の大きさを有する。
【0209】
MTJ素子21は、極性の異なる2つの書き込み電圧に関して、“a”の係数で示される極性依存性を有する。“a”は、正の極性の書き込み電圧VwPAPの絶対値と負の極性の書き込み電圧VwAPPの絶対値との比に基づく値(MTJ素子の極性依存性係数)である。
スイッチング素子20は、極性の異なる2つの書き込み電圧に関して、“b”の係数で示される極性依存性を有する。“b”は、正の極性の書き込み電圧VwPAPの印加時におけるスイッチング素子の閾値電圧(閾値電圧分布の中央値)と負の極性の書き込み電圧VwAPPの印加時におけるスイッチング素子の閾値電圧(閾値電圧分布の中央値)との比に基づく値(スイッチング素子の極性依存性係数)である。
【0210】
本実施形態のMRAMにおいて、“a”及び“b”は、“1<b<a2”の関係を有する。これによって、本実施形態のMRAMは、動作マージンを向上できる。
【0211】
例えば、“b”の値が“a”の値と同じである場合に、動作マージンの大きさは、最大値になり得る。
【0212】
このように、本実施形態のMRAMのように、メモリセル内のスイッチング素子が、書き込み電圧の極性に対して極性依存性を有する場合、動作マージンを改善できる。
【0213】
したがって、本実施形態のメモリデバイスは、メモリデバイスの特性を向上できる。
【0214】
(2)第2の実施形態
図9及び
図10を参照して、第2の実施形態のメモリデバイス及びその設計方法について、説明する。
【0215】
以下のように、本実施形態のメモリデバイス(例えば、MRAM)において、異なる極性の書き込み電圧に対するスイッチング素子の極性依存性は、制御され得る。
【0216】
<<スイッチング素子の材料>>
本実施形態のMRAM1において、メモリセルMCのスイッチング素子20の極性依存性は、スイッチング素子20に用いられる複数の層の材料の選択に基づいて、制御され得る。
【0217】
例えば、印加された書き込み電圧VwAPP,VwPAPの極性に対するスイッチング素子20の極性依存性は、スイッチング層202の材料及び電極201,203の材料の組合せに基づいて、制御することができる。
【0218】
電極201,203の材料の仕事関数とスイッチング層202の材料の仕事関数との間の違いにより、電位障壁が、電極201,203とスイッチング層202との間に生じる。
【0219】
2端子型のスイッチング素子20において、一方の電極(例えば、下部電極201)の材料の仕事関数が、他方の電極(例えば、上部電極203)の材料の仕事関数と異なる場合、下部電極201とスイッチング層202との間の電位障壁の大きさは、上部電極203とスイッチング層202との間の電位障壁の大きさと異なる。
スイッチング素子20に印加された電圧の極性に応じて、上部電極203側の電位障壁及び下部電極201側の電位障壁は、変調する。
【0220】
この結果として、スイッチング素子20の閾値電圧は、書き込み電圧VwAPP,VwPAPの極性に応じて、変わる。
【0221】
このように、上部電極203及び下部電極201に互いに異なる材料が用いられた場合、スイッチング素子20の特性は、書き込み電圧の極性に応じた極性依存性を有する。
電極201,203に用いられる材料に応じて、スイッチング素子20の極性依存性の大きさ(例えば、上述の式(F)の“b”の値)は、制御され得る。
【0222】
例えば、例えば、スイッチング層202の材料が酸化シリコンである場合、電極201,203の材料は、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ハフニウム(Hf)及び窒化チタン(TiN)などが用いられる。これらの材料のうち選択された1つが一方の電極の材料に用いられ、これらの材料のうち一方の電極に選択された材料と異なる材料が、他方の電極の材料に用いられる。
【0223】
電極に用いられる材料の仕事関数は、その材料からなる層の結晶構造及び結晶面に応じた値を有する。
タンタルの仕事関数は、4.0eVから4.8eVまでの範囲内の値を有する。タングステンの仕事関数は、4.32eVから5.22eVまでの範囲内の値を有する。銅の仕事関数は、4.53eVから5.10eVまでの範囲内の値を有する。ハフニウムの仕事関数は、3.5eVから3.9eVまでの範囲内の値を有する。窒化チタンの仕事関数は、例えば、4.7eVである。
【0224】
電極201,203の材料は、上記の材料に限定されず、スイッチング層202の材料に応じて、適宜変更され得る。
【0225】
尚、スイッチング素子20の極性依存性の大きさは、スイッチング層202及び電極201,203の材料に加えて、スイッチング層202と電極201,203との間の境界(界面)における各層の表面ラフネス、スイッチング層202及び電極201,203の膜厚、スイッチング層202及び電極201,203の結晶性(結晶構造)などに応じて、制御できる。
【0226】
図9は、本実施形態のMRAMにおける、スイッチング素子の極性依存性の制御の一例を説明するためのグラフである。
【0227】
図9において、下部電極BE及び上部電極TEの材料に関するスイッチング素子の抵抗値RTE及び抵抗値RBEの関係が、示されている。
【0228】
抵抗値RTEは、上部電極の電位が下部電極の電位より高いバイアス状態(例えば、
図6の(b)に示される正の極性の書き込み電圧による書き込み動作時)におけるスイッチング素子の抵抗値を示している。
抵抗値RBEは、下部電極の電位が上部電極の電位より高いバイアス状態(例えば、
図6の(a)に示される負の極性の書き込み電圧による書き込み動作時)におけるスイッチング素子の抵抗値を示している。
【0229】
図9のグラフの縦軸は、抵抗値RTEに対するスイッチング素子の抵抗値Rの比率(R/RTE)に対応する。
図9のグラフの縦軸は、logスケールで示されている。
図9のグラフの横軸において、サンプルとしての抵抗値RBE,RTEが示されている。但し、
図9のグラフの横軸は、抵抗値RBE,RTEの大小関係を示すものではない。
【0230】
図9によれば、スイッチング素子の極性依存性が、抵抗値RTEを基準とした規格化によって示されている。それゆえ、
図9の点Q0に示されるように、“R”が“RTE”である場合、“R/RTE”の値は、“1”である。
【0231】
上部電極及び下部電極の材料に応じて、スイッチング素子の極性依存性が制御される場合、電極に用いられる材料の組合せに応じて、“R/RTE=RBE/RTE”の値は、変わる。
【0232】
図9の点Q1は、下部電極の材料及び上部電極の材料が、窒化シリコン(SiN)である場合における、“RBE/RTE”の値を示している。
【0233】
点Q1のように、窒化シリコンが下部電極及び上部電極の材料に用いられた場合、“RBE/RTE”の値は、“1”である。
これは、窒化シリコンが下部電極及び上部電極の両方に用いられたスイッチング素子は、印加電圧(又は、供給電流)に関して実質的に極性依存性を有していないことを、示している。
【0234】
図9の点Q2は、下部電極の材料が窒化チタン(TiN)であり、上部電極の材料がSiNである場合における、“RBE/RTE”の値を示している。
【0235】
点Q2のように、窒化チタンが下部電極に用いられ、窒化シリコンが上部電極に用いられた場合、“RBE/RTE”の値は、1より小さくなる。
これは、窒化チタンが下部電極に用いられ、窒化シリコンが上部電極に用いられたスイッチング素子は、印加電圧(又は、供給電流)に関して極性依存性を有していることを示している。
【0236】
点Q2のように“RBE/RTE”が1より小さい場合、スイッチング素子の抵抗値RBEは、スイッチング素子の抵抗値RTEより低い。
【0237】
尚、窒化シリコンが下部電極に用いられ、窒化チタンが上部電極に用いられた場合、“RBE/RTE”の値は、1より大きくなる。
【0238】
図9の点Q3は、下部電極の材料及び上部電極の材料の両方が窒化チタンである場合における、“RBE/RTE”の値を示している。
【0239】
点Q3のように、窒化チタンが下部電極及び上部電極に用いられた場合、“RBE/RTE”の値は、1より大きくなる。
これは、窒化チタンが下部電極及び上部電極に用いられたスイッチング素子は印加電圧(又は、供給電流)に関して極性依存性を有していることを示している。このように、下部電極の材料が上部電極の材料と同じ場合であっても、電極に用いられる材料に応じて、スイッチング素子が、印加電圧(供給電流)に関する極性依存性を有する場合もある。
【0240】
点Q3のように“RBE/RTE”が1より大きい場合、スイッチング素子の抵抗値RBEは、スイッチング素子の抵抗値RTEより高い。
【0241】
点Q2及び点Q3のように、スイッチング素子の上部電極及び下部電極の材料に応じて、印加電圧(又は供給電流)に対するスイッチング素子の抵抗値RBE,RTEは、変わる。
また、点Q2及び点Q3のように、スイッチング素子の上部電極及び下部電極の材料に応じて、印加電圧(又は供給電流)に対するスイッチング素子の極性依存性の向き(抵抗値RBE,RTEの大小関係)は、変わる。
【0242】
尚、
図9の例において、電極に用いられるSiN層又はTiN層は、スイッチング層と金属層との間に設けられてもよい。
【0243】
図9を用いて説明したように、印加電圧に対するスイッチング素子の極性依存性の大きさは、スイッチング素子に用いられる材料に応じて、制御できる。
【0244】
<<スイッチング素子の形成条件>>
本実施形態のMRAMにおいて、印加電圧(又は供給電流)に対するスイッチング素子の極性依存性は、スイッチング層の形成条件を制御することによって、制御され得る。スイッチング素子の極性依存性の制御のために、例えば、スイッチング層の組成(添加元素の組成比)、スイッチング層の添加元素の種類、及び(又は)添加元素のインプラント条件などが、制御される。
【0245】
図10は、本実施形態のMRAMにおける、スイッチング素子の極性依存性の制御の一例を説明するためのグラフである。
【0246】
図10において、スイッチング素子の形成条件に関するスイッチング素子の抵抗値RTE及び抵抗値RBEの関係が示されている。
【0247】
図10グラフの縦軸は、抵抗値RTEに対するスイッチング素子の抵抗値Rの比率(R/RTE)に対応する。
図10のグラフの縦軸は、logスケールで示されている。
図10のグラフの横軸において、サンプルとしての抵抗値RBE,RTEが、示されている。但し、
図10のグラフの横軸は、抵抗値RBE,RTEの大小関係を示すものではない。
【0248】
図10において、スイッチング層(例えば、酸化シリコン層)に対するイオンインプランテーションの条件とスイッチング素子の極性依存性との関係が示されている。
【0249】
図9の例と同様に、スイッチング素子の極性依存性が、抵抗値RTEを基準とした規格化によって示されている場合、
図10の点Q10のように、“RTE”に関する“R/RTE”の値は、“1”である。
【0250】
図10の点Q11は、イオンインプランテーションによって、ヒ素(As)がスイッチング素子のスイッチング層に注入された場合における、“RBE/RTE”の値を示している。
【0251】
点Q11のように、ヒ素がスイッチング層に注入された場合、“RBE/RTE”の値は、1より大きくなる。
これは、ヒ素が注入されたスイッチング層を有するスイッチング素子は、印加電圧(又は、供給電流)に関して極性依存性を有していることを示している。
【0252】
点Q11のように“RBE/RTE”が1より大きい場合、スイッチング素子の抵抗値RBEは、スイッチング素子の抵抗値RTEより高い。
【0253】
図10の点Q12は、イオンインプランテーションによって、ゲルマニウム(Ge)がスイッチング層に注入された場合における、“RBE/RTE”の値を示している。
【0254】
点Q12のように、ゲルマニウムがスイッチング層に注入された場合、“RBE/RTE”の値は、1より小さくなる。
これは、ゲルマニウムが注入されたスイッチング層を有するスイッチング素子は、印加電圧(又は、供給電流)に関して極性依存性を有していることを示している。
【0255】
点Q12のように“RBE/RTE”が1より小さい場合、スイッチング素子の抵抗値RBEは、スイッチング素子の抵抗値RTEより低い。
【0256】
点Q11,Q12の例に示されるように、スイッチング層に注入されるイオン種に応じて、スイッチング素子の極性依存性の向き(抵抗値RBE,RTEの大小関係)は、変えることができる。
【0257】
図10の点Q13は、イオンインプランテーションによって、比較的高いドーズ量によってゲルマニウム(Ge)がスイッチング層に注入された場合における、“RBE/RTE”の値を示している。例えば、点Q13におけるゲルマニウムのドーズ量は、点Q12におけるゲルマニウムのドーズ量より高い。
【0258】
点Q13のように、点Q12の場合と同様に、ゲルマニウムがスイッチング層に注入された場合、“RBE/RTE”の値は、1より小さくなる。
【0259】
点Q13のように、比較的高いドーズ量のイオンインプランテーション条件でゲルマニウムがスイッチング層に注入された場合における“RBE/RTE”の値は、点Q12の場合に比較して、大きくなる。
【0260】
点Q12,Q13の関係は、ゲルマニウムのドーズ量に関して、ドーズ量の変化に応じて、“RBE/RTE”の大きさが変わることを示している。
例えば、ゲルマニウムのドーズ量が高くなるにしたがって、抵抗値RBEが、抵抗値RTEの変化に比較して、増加する。
【0261】
それゆえ、イオンインプランテーションの条件に関して、スイッチング層に対するイオンのドーズ量の制御によって、印加電圧(又は供給電流)に対するスイッチング素子の極性依存性の大きさが、制御され得る。
【0262】
図10の点Q14は、イオンインプランテーションによって、比較的高い加速エネルギーによってゲルマニウム(Ge)がスイッチング層に注入された場合における、“RBE/RTE”の値を示している。例えば、点Q14におけるイオンインプランテーションの加速エネルギーは、点Q12におけるイオンインプランテーションの加速エネルギーより高い。
【0263】
点Q14のように、点Q12の場合と同様に、ゲルマニウムがスイッチング層に注入された場合、“RBE/RTE”の値は、1より小さくなる。
【0264】
点Q14のように、比較的高い加速エネルギーのイオンインプランテーション条件でゲルマニウムがスイッチング層に注入された場合における“RBE/RTE”の値は、点Q12の場合に比較して、小さくなる。
【0265】
点Q12,Q14の関係は、イオンインプランテーションの加速度エネルギーに関して、加速度エネルギーの変化に応じて、抵抗値RTEに対する抵抗値RBEの大きさが変わることを示している。
例えば、イオンの加速度エネルギーが高くなるにしたがって、抵抗値RBEが、抵抗値RTEの変化に比較して、低下する。
【0266】
それゆえ、イオンインプランテーションの条件に関して、スイッチング層に対するイオンの加速エネルギーの制御によって、印加電圧(又は供給電流)に対するスイッチング素子の極性依存性の大きさが、制御され得る。
【0267】
このように、スイッチング層に対するイオンプランテーションに関して、注入されるイオン種、ドーズ量、及び加速エネルギーに応じて、印加電圧(又は供給電流)に対するスイッチン素子の極性依存性が、制御され得る。
【0268】
図10を用いて説明したように、印加電圧に対するスイッチング素子の極性依存性の大きさは、スイッチング素子の形成条件(例えば、スイッチング層に対する不純物のインプランテーションの条件)の制御に応じて、制御できる。
【0269】
尚、
図9及び
図10を用いて説明されたスイッチング素子の極性の制御に関して、書き込み電圧に応じた極性を有する書き込み電流が、スイッチング素子に供給された場合においても、スイッチング素子の極性依存性の制御は、供給された書き込み電流の極性に応じた傾向を示す。
【0270】
以上のように、本実施形態のメモリデバイス(例えば、MRAM)は、複数の極性の印加電圧に対するスイッチング素子の極性依存性を、制御できる。この結果として、本実施形態のメモリデバイスは、メモリデバイスの動作マージンを改善できる。
【0271】
したがって、第2の実施形態のメモリデバイスは、メモリデバイスの動作特性を向上できる。
【0272】
(3) 第3の実施形態
図11を参照して、第3の実施形態のメモリデバイス及びその設計方法について、説明する。
【0273】
第1及び第2の実施形態のメモリデバイス(例えば、MRAM)において、スイッチング素子は、複数の極性を有する書き込み電圧に関して極性依存性を有する。
【0274】
本実施形態のMRAMにおいて、メモリ素子(ここでは、MTJ素子)は、複数の極性を有する書き込み電圧(又は、書き込み電流)に関して極性依存性を有する。上述のように、MRAMの動作マージンに関して、書き込み電圧に対するスイッチング素子の極性依存性は、書き込み電圧に対するMTJ素子の極性依存性と相関関係を有する。それゆえ、MTJ素子の極性依存性(極性依存性係数)の制御に応じて、スイッチング素子の極性依存性が取り得る範囲も変化する。
【0275】
以下のように、複数の極性を有する書き込み電圧に対するMTJ素子の極性依存性は、制御される。尚、本実施形態のMRAMにおいて、MTJ素子及びスイッチング素子の両方の極性依存性が制御されてもよいし、MTJ素子の極性依存性のみが、制御されてもよい。
【0276】
図11は、本実施形態のMRAMにおける、MTJ素子の極性依存性の制御のための複数の例を説明するためのグラフである。
【0277】
図11の(a)は、MTJ素子の記憶層の組成とMTJ素子の磁化反転閾値の極性依存性との関係を示すグラフである。
【0278】
図11の(a)において、グラフの横軸は、記憶層内の鉄(Fe)の組成比(%)に対応する。
図11の(a)において、グラフの縦軸は、MTJ素子の極性依存性を示す値に対応する。極性依存性を示す値は、書き込み電圧VwAPPの印加時のMTJ素子の磁化反転閾値(IcAPP)と書き込み電圧VwPAPの印加時のMTJ素子の磁化反転閾値(IcPAP)との比率(Ic比=IcAPP/IcPAP)である。大きなIc比は、書き込み電圧(書き込み電流)に対するMTJ素子の極性依存性が大きいことを意味する。小さなIc比は、書き込み電圧に対するMTJ素子の極性依存性が小さいことを意味する。
【0279】
図11の(a)に示されるように、記憶層内の鉄の組成比が増加するにしたがって、Ic比が大きくなる傾向が、示される。
【0280】
図11の(b)は、MTJ素子の記憶層の組成とMTJ素子の磁化反転閾値の極性依存性との関係を示すグラフである。
【0281】
図11の(b)において、グラフの横軸は、記憶層内のホウ素(B)の組成比に対応する。
図11の(b)において、グラフの縦軸は、MTJ素子のIc比(IcAPP/IcPAP)に対応する。
【0282】
図11の(b)に示されるように、記憶層内のホウ素の組成比が増加するにしたがって、Ic比が、大きくなる傾向が、示される。
但し、ホウ素の組成比の制御によるIc比の変化の傾向は、鉄の組成比の制御によるIc比の変化の傾向と異なる。
記憶層内の鉄の組成比が制御される場合、記憶層内における鉄の組成の増加に伴って、Ic比は、比較的なだらかに増加する。これに対して、記憶層内のホウ素の組成比が制御される場合、Ic比は、記憶層内におけるホウ素の組成が或る値を超えると、比較的急峻に増加する。
【0283】
図11の(a)及び(b)のように、記憶層を構成する部材(例えば、元素の組成)の制御によって、書き込み電圧(又は書き込み電流)に対するMTJ素子の極性依存性は、制御され得る。さらに、記憶層を構成する複数の元素のうち組成を制御する元素に応じて、極性依存性の変化の傾向は、制御され得る。
【0284】
図11の(c)は、MTJ素子の記憶層の厚さ(膜厚)とMTJ素子の磁化反転閾値の極性依存性との関係を示すグラフである。
【0285】
図11の(c)において、グラフの横軸は、記憶層の膜厚に対応する。
図11の(c)において、グラフの縦軸は、MTJ素子のIc比(IcAPP/IcPAP)に対応する。
【0286】
図11(c)に示されるように、記憶層の膜厚が増加するにしたがって、Ic比が小さくなる傾向を示す。
このように、記憶層の厚さの制御によって、書き込み電圧に対するMTJ素子の極性依存性は、制御され得る。
【0287】
本実施形態のように、書き込み電圧(書き込み電流)に対するMTJ素子の極性依存性の制御の結果として、書き込み電圧(書き込み電流)に対するメモリセルの極性依存性が、制御され得る。
【0288】
これによって、本実施形態のMRAMは、メモリデバイスの動作マージンを改善できる。
【0289】
したがって、第2の実施形態のメモリデバイスは、メモリデバイスの動作特性を向上できる。
【0290】
(4) その他
上述の実施形態において、MRAMが、本実施形態のメモリデバイスとして例示されている。但し、本実施形態のメモリデバイスは、磁気抵抗効果素子(例えば、MTJ素子)がメモリ素子に用いられていれば、MRAM以外の磁気メモリでもよい。
【0291】
本実施形態のメモリデバイスは、複数の極性を有する書き込み電圧に対して、極性依存性を有するスイッチング素子を含んでいれば、磁気メモリ以外のメモリデバイスでもよい。例えば、本実施形態のメモリデバイスは、可変抵抗素子(例えば、遷移金属酸化物素子)をメモリ素子に用いたメモリデバイス(例えば、ReRAMのような抵抗変化メモリ)、相変化素子を用いたメモリ素子に用いたメモリデバイス(例えば、PCRAMのような相変化メモリ)、又は強誘電体素子をメモリ素子に用いたメモリデバイス(例えば、FeRAMのような強誘電体メモリ)でもよい。
【0292】
本実施形態のメモリデバイスは、MRAM以外のメモリデバイスであっても、上述の実施形態で説明された効果を得ることができる。
【0293】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0294】
1:メモリデバイス、20:スイッチング素子、201,203:電極、202:スイッチング層、21:メモリ素子。