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  • 特開-ワークの製造方法 図1
  • 特開-ワークの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139923
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ワークの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/382 20140101AFI20220915BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20220915BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B23K26/382
H05K3/00 N
H05K3/46 X
H05K3/46 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040506
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 光教
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 孝樹
【テーマコード(参考)】
4E168
5E316
【Fターム(参考)】
4E168AD03
4E168AD07
4E168AD12
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA28
4E168FC07
4E168GA04
4E168JA15
4E168JB01
5E316AA02
5E316AA12
5E316AA43
5E316CC16
5E316FF01
5E316GG15
5E316GG16
5E316GG17
5E316HH40
(57)【要約】
【課題】 レーザ加工によってワークを加工した際に発生する加工変質層とマイクロクラックとを効果的に除去できるワークの製造方法を提供する。
【解決手段】 基材をレーザ加工したワークの製造方法であって、前記基材にレーザ光を照射して前記基材にレーザ加工部位を形成するレーザ加工工程S2と、前記レーザ加工部位に生成される加工変質層を、前記基材が難溶な第1処理液にて処理し、前記加工変質層を溶解、除去する加工変質層除去工程S3と、前記加工変質層除去工程の後に、前記レーザ加工部位の表面を前記基材が可溶な第2処理液でエッチング処理するエッチング工程S4と、を備えるワークの製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材をレーザ加工したワークの製造方法であって、
前記基材にレーザ光を照射して前記基材にレーザ加工部位を形成するレーザ加工工程と、
前記レーザ加工部位に生成される加工変質層を、前記基材が難溶な第1処理液にて処理し、前記加工変質層を溶解、除去する加工変質層除去工程と、
前記加工変質層除去工程の後に、前記レーザ加工部位の表面を前記基材が可溶な第2処理液でエッチング処理するエッチング工程と、
を備えることを特徴とするワークの製造方法。
【請求項2】
前記レーザ加工工程により前記基材の表面に付着するデブリまたはドロスを、前記基材表面を研磨することで除去する研磨工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のワークの製造方法。
【請求項3】
前記研磨工程は、前記加工変質層除去工程の前に行われることを特徴とする請求項2に記載のワークの製造方法。
【請求項4】
前記基材は窒化アルミニウムであり、前記第1処理液はフッ酸、第2処理液は水酸化カリウムの溶液であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のワークの製造方法。
【請求項5】
前記ワークは平板状の基板であり、前記レーザ加工工程において前記基板に貫通孔を形成することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のワークの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ照射によって加工されるワークの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工対象物(以下、ワークと称する。)にレーザ光を照射することにより、ワークへの貫通孔形成や切断等の加工を行う方法が知られている。レーザ加工は、ワークへのレーザ光の照射による光化学反応(アブレーション)、光熱反応あるいはそれらの複合作用を利用した加工であり様々な分野で広く利用されている。例えば特許文献1には、貫通孔内に導体を充填したビア電極を備えた配線基板が記載され、ビア電極の貫通孔はレーザ加工により形成されている。
【0003】
レーザ加工においては、材料表面が飛散したデブリや溶けた材料物質の溶融凝固物(ドロス)の加工部位や加工部位周辺への付着、熱影響による加工部位のマイクロクラック、熱影響層(加工変質層,レーザ加工によって硬さ変化が生じた領域)の発生が問題となっている。このような問題を抑制するために、レーザ光のパワー密度や、レーザ光の集光点の位置を特定した加工方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-216583号公報
【特許文献2】特許第5901178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1に記載されるようなビア電極を備えた配線基板において、基板の貫通孔の周囲にデブリやドロスが付着し、貫通孔の内壁面にマイクロクラック、または加工変質層が形成されていた場合、基板表面の配線やビア電極の導体を充填する妨げとなり、配線基板の電気的な接続の信頼性を落とす原因となる。更には、加工変質層やマイクロクラックは微小な空隙を有していることから、ビア電極として導体を貫通孔に充填した後、表裏の気密が保てなくなることがある。
【0006】
レーザ加工の加工原理を考慮すると、デブリやドロスの付着やマイクロクラック、加工変質層の生成を完全に避けることはできない。そのため、レーザ加工後にワークをブラシ洗浄、リンス洗浄、超音波洗浄、高圧水洗浄、真空乾燥、プラズマ洗浄、研磨等の方法による洗浄することも行われているが、これら方法でもデブリ、ドロス、マイクロクラック、または加工変質層を確実に除去することは難しく、特に貫通孔の内壁面に生成されたマイクロクラックや加工変質層を除去することは容易ではない。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みて完成されたものであり、その目的は、レーザ加工によってワークを加工した際に発生する加工変質層とマイクロクラックとを効果的に除去できるワークの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
基材をレーザ加工したワークの製造方法であって、前記基材にレーザ光を照射して前記基材にレーザ加工部位を形成するレーザ加工工程と、前記レーザ加工部位に生成される加工変質層を、前記基材が難溶な第1処理液にて処理し、前記加工変質層を溶解、除去する加工変質層除去工程と、前記加工変質層除去工程の後に、前記レーザ加工部位の表面を前記基材が可溶な第2処理液でエッチング処理するエッチング工程と、を備えるワークの製造方法とする。
また、前記レーザ加工工程により前記基材の表面に付着するデブリまたはドロスを、前記基材表面を研磨することで除去する研磨工程をさらに備えたワークの製造方法としてもよい。
さらにまた、前記研磨工程は、前記加工変質層除去工程の前に行われてもよい。
また、前記基材は窒化アルミニウムであり、前記第1処理液はフッ酸、第2処理液は水酸化カリウムの溶液としてもよい。
また、前記ワークは平板状の基板であり、前記レーザ加工工程において前記基板に貫通孔を形成するワークの製造方法としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のワークの製造方法によれば、レーザ加工によって発生する加工変質層とマイクロクラックとを効果的に除去することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るワークの製造方法を示す工程図である。
図2】レーザ加工後の貫通孔周辺を模式的に示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、ビア電極を備えた配線基板を例とし本発明のワークの製造方法を説明する。図1は、本実施形態に係るワークの製造方法を示す工程図である。配線基板は、以下の工程により製造される。
【0012】
[レーザ加工工程:S1]
はじめに、配線基板の基材を準備し、基材にレーザ光を照射して、基材の表裏面を挿通する貫通孔を形成する。本実施例では、基材は窒化アルミニウムであり、この基材の表面側上方よりYAGレーザを照射して貫通孔を形成する。この工程により、レーザ加工における加工部位である基材の貫通孔の開口周囲と貫通孔の内壁面には、デブリ、ドロス、クラック、熱影響層(加工変質層)が形成される。図2は、レーザ加工後の貫通孔周辺を模式的に示した拡大断面図である。基材10の表面側であり、貫通孔11の開口周辺には、レーザ加工により飛散したデブリ101が付着し、裏面側の貫通孔11開口周辺には、基材10が溶融し裏面側に流れ凝固したドロス102が形成される。また、貫通孔11の内壁面には、レーザ加工の熱影響により形成された加工変質層103が形成されるとともにクラック104が形成される。クラック104は、貫通孔11の内壁面に形成された加工変質層103から基材10にまで及び形成される。
【0013】
デブリ101、ドロス102、加工変質層103は、基材10を構成する窒化アルミニウムがレーザ光の照射により分解または溶融されることで形成され、分解、溶融された窒化アルミニウムが大気中で冷却される際に酸化されるため、その主成分は酸化アルミニウム(Al)であると考えられる。
【0014】
[研磨工程:S2]
次に、基材の表裏面を研磨する。研磨は、定盤等の平滑面上に研磨剤を塗布し、その平滑面に基材をすり合わせることにより行う。この工程により、貫通孔の開口周囲に形成されたデブリ、ドロスが除去される。貫通孔の内壁面に形成された加工変質層及びクラックは、貫通孔の内壁面に残存したままである。
【0015】
[加工変質層除去工程:S3]
次に、基材(窒化アルミニウム)が難溶であり、加工変質層(酸化アルミニウム)が可溶な処理液に基材を浸漬する。ここでいう「基材が難溶」とは、基材の主成分が処理液に全く溶解しない不溶から、時間をかければ基材の主成分は溶解されるが、ワークの製造に合理的な浸漬時間においてワークの機能を損なう範囲での基材の形状変化が起こらない程度に溶解されることまでを含む。また、ここでいう「加工変質層が可溶」とは、ワークの製造に合理的な浸漬時間において、処理液に加工変質層の主成分を溶解できることをいう。この工程では、加工変質層を処理液中に溶解させることで基材から加工変質層と加工変質層に形成されたクラックを除去する。このとき基材はほぼ溶解されない。そのため、基材に形成されたクラックも除去されない。本実施例では、処理液としてフッ酸を利用した。
【0016】
なお、本実施例では、加工変質層除去工程S3の前に研磨工程S2を行い、デブリやドロスを除去したが、必ずしも研磨工程S2は必要ではない。デブリやドロスは、加工変質層と同じ成分で構成されているため、研磨工程S2を実施せず、加工変質層除去工程S3において、デブリやドロスを処理液により溶解して加工変質層とともに除去してもよい。ただし、デブリやドロスは加工変質層より大きな厚みで形成されることが多く、その場合、加工変質層のみを除去する場合より処理液への浸漬時間を長くとる必要があるため、研磨工程S2を実施することが好ましい。また、基材の処理液への浸漬は、処理液に超音波印加して行うことで、より効果的に加工変質層の除去を行うことができる。
【0017】
[エッチング工程:S4]
次に、基材(窒化アルミニウム)が可溶な処理液に基材を浸漬し、基材の表面をエッチングする。ここでいう「基材が可溶」とは、ワークの製造に合理的な浸漬時間において、基材表面に形成されたクラックが除去できる程度に基材の主成分を溶解できることをいう。この工程では、基材を処理液中に浸漬して基材の表面をエッチングし、貫通孔の内壁面の基材に形成されたクラックを除去する。本実施例では、処理液として水酸化カリウム(KOH)溶液を利用した。
【0018】
エッチング工程S4は、加工変質層除去工程S3より後に実施する。これは、レーザ加工工程S1により基材に形成されたクラックは、加工変質層やデブリ、ドロスに被覆される場合がほとんどあるためであり、加工変質層除去工程S3より先にエッチング工程S4を実施すると、加工変質層によって被覆された部分の基材のエッチングが進行せず、クラックの除去が困難となるためである。加工変質層除去工程S3とエッチング工程S4とを順に行うことで、このような問題を解決し、加工変質層及び基材に形成されたクラックを効果的に除去することが可能となる。さらに、基材の処理液への浸漬は、処理液に超音波印加して行うことで、より効果的にクラックの除去を行うことができる。
【0019】
また、研磨工程S2は加工変質層除去工程S3より後でもよいことを上述したが、研磨工程S2はエッチング工程S4を実施する前までに行うことが好ましい。エッチング工程S4より前に研磨工程S2を実施することで、レーザ加工に起因しない、例えば研磨工程S2によって基材に発生したクラックもエッチング工程S4で除去することができる。
【0020】
[洗浄工程:S5]
次に、基材を洗浄する。洗浄は、洗浄液である純水による水洗、超音波洗浄や高圧洗浄により行われ、上述の各工程で基材に付着した処理液やデブリ、ドロス等の残渣を基材から取り除く。
【0021】
[乾燥工程:S6]
次に、洗浄された温風乾燥させ、洗浄液を除去する。以上の工程により、レーザ加工により発生するデブリ、ドロス、加工変質層及びクラックがない貫通孔を備えた基材(ワーク)が製造され、最後に、基材の表裏面の所定の位置及び貫通孔の内壁面に金属膜を形成し、貫通孔に導体を充填してビア電極を備えた配線基板が製造される。
【0022】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。例えば、実施例では基材を窒化アルミニウムの基板として説明したが、他のセラミック材料や金属材料、樹脂材料等からなる基板や基板以外の加工対象物としてもよく、レーザ加工により形成される加工変質層と基材とが異なる物質であれば本発明は適用可能である。
【0023】
また、レーザ加工は基材に貫通孔を形成する孔加工を例に説明したが、切断やトリミング等の他の種類のレーザ加工にも本発明は適用できる。さらにレーザ加工におけるレーザ光源についてもYAGレーザに限定されず、COレーザやファイバレーザ等、基材や加工の種類によって適宜光源を選択してもよい。
【0024】
また、実施例では、洗浄工程を洗浄液による洗浄、乾燥工程を温風乾燥として説明したが、特にこの方法に限定されるものではなく、周知の洗浄方法、乾燥方法を適宜採用して構わない。
【符号の説明】
【0025】
10 基材
11 貫通孔
101 デブリ
102 ドロス
103 加工変質層
104 クラック
図1
図2