(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140018
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法及び正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20220915BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220915BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220915BHJP
C01G 37/14 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/525
H01M4/505
C01G37/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040644
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】喜多條 鮎子
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CB12
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、簡易に電気化学的活性の高い正極活物質を得ることのできる方法を提供することである。
【解決手段】固相反応により合成されたLiMO
2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)を機械的に粉砕することにより正極活物質を得る正極活物質の製造方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相反応により合成されたLiMO2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)を機械的に粉砕することにより正極活物質を得る正極活物質の製造方法。
【請求項2】
LiMO2とフッ化リチウムとを混合して機械的に粉砕することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
LiMO2の結晶子サイズが、120Å以下となるように機械的に粉砕することを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
LiMO2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)及びフッ化リチウムを含む正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的粉砕により正極活物質を得る正極活物質の製造方法及び正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の需要は、電気自動車の駆動用電源としても利用されていることから増加の一途をたどっている。大型リチウムイオン二次電池の開発においては、更なる高エネルギー密度化に加え、電極材料の低コスト化も重要視されている。現在のリチウムイオン二次電池の正極材料は、層状岩塩型LiMO2(Mはバナジウム、クロム、鉄、コバルト又はニッケル)が主に利用されているが、構造劣化などの問題から、0.5電子反応までしか利用することができない。LiCrO2では、水熱合成法で合成することにより結晶子サイズを低下させることで、電気化学的に活性を示す事が知られているが(結晶子サイズ:16nm)(非特許文献1参照)、水熱合成法は、非常に手間とコストのかかる方法である。一方、固相合成によってもLiCrO2を製造することができるが、固相合成により得られたLiCrO2(結晶子サイズ:50nm)は、電気化学的に不活性である(非特許文献2参照)。また、同じ層状岩塩型の結晶構造を有するLiVO2、LiMnO2、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2等においても固相合成により得られたものの活性は低かった。そのため、これらの化合物を簡易に電気化学的活性の高い状態で得る方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G.X.Feng,et al.,J.Mater.Chem.,19,2993(2009)
【非特許文献2】S.Komaba,et al.,Electrochem.Commun.,12,355(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、簡易に電気化学的活性の高い正極活物質を得ることのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、LiCrO2等を簡易に電気化学的活性の高い正極材料(活物質)として製造する方法の検討を開始した。検討を進めるなかで、従来は不活性とされていた固相反応で合成されたLiCrO2を、機械的に粉砕(メカニカルミリング)してナノ粒子化することにより、層状岩塩型の結晶構造が不規則岩塩型の結晶構造となり、電気化学的活性が向上することを見いだした。さらに、フッ化リチウム(LiF)と混合して機械的に粉砕してナノ粒子化することにより、層状岩塩型では150mAh/gの可逆容量が、不規則岩塩型とすることで約2倍の230mAh/gの大容量を達成できることを見いだした。
【0006】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)固相反応により合成されたLiMO2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)を機械的に粉砕することにより正極活物質を得る正極活物質の製造方法。
(2)LiMO2とフッ化リチウムとを混合して機械的に粉砕することを特徴とする上記(1)の製造方法。
(3)LiMO2の結晶子サイズが、120Å以下となるように機械的に粉砕することを特徴とする上記(1)又は(2)の製造方法。
(4)LiMO2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)及びフッ化リチウムを含む正極活物質。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、簡易に電気化学的活性の高い正極活物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1~4及び比較例1のX線回折測定結果を示す図である。
【
図2】
図2は、(a)比較例1、(b)実施例3、(c)実施例4のSEM画像を示す図である。
【
図3】
図3は、電気化学的評価に使用した電池の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1~4及び比較例1の充放電曲線を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例2、4及び比較例1のサイクル特性を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例4、5及び6のX線回折測定結果を示す図である。
【
図7】
図7は、(a)実施例5及び(b)実施例6のSEM画像を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例5、7~9及び比較例1のX線回折測定結果を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例4及び5~6の充放電曲線を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例5及び7~9の充放電曲線を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例5、8及び9のサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の正極活物質の製造方法は、固相反応により合成されたLiMO2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)を機械的に粉砕することにより正極活物質を得る。本発明において固相反応とは、2種類以上の固体原料を混合した後、高温で反応させて目的物を得る反応のことであり、Liを含む原料とMを含む原料とを混合して焼結することによりLiMO2を得ることができる。Liを含む原料としては特に制限されないが、例えば、Liの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等のLiの塩を挙げることができ、Mを含む原料としては特に制限されないが、例えば、V2O3、Cr2O3、Mn2O3、Fe2O3、Co2O3、Ni2O3等のMの酸化物を挙げることができる。これらの原料を混合して焼成するが、焼成温度、焼成時間等の焼成条件、その他の製造条件などは、LiMO2を製造するための通常の条件に従うことができ、適宜選択することができる。
【0010】
本発明において機械的に粉砕するとは、機械的エネルギーを加えることによりLiMO2を粉砕することをいい、機械的エネルギーを加える粉砕方法であれば特に制限されないが、例えば、ローラーミル、ハンマーミル、ピンミル、粉砕媒体を使用する粉砕機等を使用する方法などを挙げることができる。粉砕媒体を使用する粉砕機としては、例えば、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル等を挙げることができ、粉砕媒体の材質としては、ジルコニア等のセラミックス製、ステンレス等の金属製などを挙げることができ、形状としてはボール状(ビーズを含む)、ロッド状等を挙げることができる。粉砕媒体としては材質、形状又は大きさが異なる複数種類の粉砕媒体を使用してもよい。ボール形状を有する粉砕媒体を使用する粉砕機をボールミルと総称するが、ボールミルは本発明における粉砕処理に使用する粉砕機として好適である。特に遊星ボールミルが好ましい。本発明における粉砕処理は乾式でも湿式でもよく、粉砕雰囲気は大気雰囲気でも不活性ガス雰囲気でもよいが、より簡便な乾式、大気雰囲気で粉砕処理を行うことができる。また、粉砕時に特に加熱等を行う必要もない。本発明における粉砕処理では、粉砕後のLiMO2の平均一次粒子径が50~500nmとなるように粉砕することが好ましく、100~300nmとなるように粉砕することがより好ましい。また、一次粒子径が50~500nmの範囲となるように粉砕することが好ましく、100~300nmの範囲となるように粉砕することがより好ましい。平均一次粒子径は、粉砕処理後の粒子のSEM画像を画像解析することにより求めることができる。また、本発明における粉砕処理では、粉砕後のLiMO2の結晶子サイズが、120Å以下、100Å以下、90Å以下又は70Å以下となるように粉砕することが好ましい。結晶子サイズの下限は、正極活物質として使用できる限り制限されない。結晶子サイズの下限としては、例えば、40Å以上、50Å以上、60Å以上等を挙げることができる。結晶子サイズとしては、例えば、40~120Å、50~100Å、60~90Å等を挙げることができる。結晶子サイズは、X線回折測定により求めることができる。粉砕時間等の粉砕条件は、粉砕後のLiMO2の平均一次粒子径や結晶子サイズが前記範囲となるように選択することができる。LiMO2は、ナノサイズへの粉砕処理の前に予備粉砕(粗粉砕)してもよい。
【0011】
本発明の製造方法では、固相反応により合成されたLiMO2とフッ化リチウム(LiF)とを混合して機械的に粉砕することが好ましい。LiMO2とLiFとを粉砕機に投入して処理することにより混合と粉砕を行うことができる。予備混合を行ってもよい。混合するLiFとLiMO2との割合は、LiF添加の効果を発揮する観点と、LiFの添加量が多すぎるとLiFによる絶縁性が高まるため、これを防止する観点から、LiMO2 1モルに対してLiFが0.1~1.0モルが好ましく、0.2~0.7モルがより好ましく、0.2~0.5モルが更に好ましい。この場合においても、粉砕物の平均一次粒子径が50~500nmとなるように粉砕することが好ましく、100~300nmとなるように粉砕することがより好ましい。また、粉砕物の一次粒子径が50~500nmの範囲となるように粉砕することが好ましく、100~300nmの範囲となるように粉砕することがより好ましい。また、粉砕後のLiMO2の結晶子サイズが120Å以下、100Å以下、90Å以下又は70Å以下となるように粉砕することが好ましい。結晶子サイズの下限は、正極活物質として使用できる限り制限されない。結晶子サイズの下限としては、例えば、40Å以上、50Å以上等を挙げることができる。結晶子サイズとしては、例えば、40~120Å、40~100Å、50~90Å、50~70Å等を挙げることができる。本発明の製造方法により得られるLiMO2の粉砕物、又はLiMO2とLiFとの混合粉砕物は、優れた充放電特性を有するので、リチウム二次電池等の正極活物質として優れる。
【0012】
本発明のLiMO2(但し、Mはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種)及びフッ化リチウムを含む正極活物質は、本発明の製造方法によりLiMO2とLiFを混合粉砕することにより得ることができる。本発明の正極活物質におけるLiMO2とLiFの存在状態は、LiMO2粒子とLiF粒子が単純に混合された状態及びLiMO2粒子の表面にLiFが付着した状態で混合された状態を含む。すなわち、本発明の正極活物質は、LiMO2粒子とLiF粒子からなってもよく、表面にLiFが付着したLiMO2粒子からなってもよく、LiMO2粒子、LiF粒子及び表面にLiFが付着したLiMO2粒子からなってもよい。LiMO2粒子表面へのLiFの付着状態は、粒子状で付着してもよく、膜状で付着してもよい。いずれの場合においても、本発明の正極活物質を使用して電極上に活物質層を形成した場合、LiMO2粒子とLiFが接するので、LiFを添加することによりLiMO2に対するLiの挿入脱離が容易になりLiの拡散性が向上して、電極反応性が向上すると考えられる。本発明の正極活物質は、表面にLiFが付着したLiMO2粒子を含むことが好ましい。本発明の正極活物質は、LiMO2とLiF以外に、正極活物質としての使用に支障を与えない範囲で他の成分を含んでもよい。本発明の正極活物質は、そのままで使用してもよく、電極の導電性を向上させるために他の導電材料と混合して又は複合化して使用してもよい。他の導電材料としては、例えば、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等の炭素源を挙げることができ、これらによりカーボンコートして使用することができる。本発明の正極活物質による活物質層を集電体上に形成することにより正極を作製することができ、集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス、銅等を挙げることができ、形状としては、板状、箔状、網状、多孔体状等を挙げることができる。本発明の正極活物質層を集電体上に形成する際には、バインダーを混合して集電体上に塗布してもよい。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂などの熱可塑性樹脂等を挙げることができる。塗布方法としては、正極活物質又は正極活物質とバインダーの混合物を集電体上に塗布できる方法であれば特に制限されない。
【実施例0013】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0014】
[実施例1~4]
炭酸リチウム(Li2CO3)と酸化クロム(III)(Cr2O3)をリチウムとクロムのモル比が1:1となるように混合した。混合物を大気中で850℃、24時間焼成してLiCrO2を作製した。作製したLiCrO22gを、直径3mmのジルコニアボール30gと共に遊星ボールミル用容器に入れ(容器内の雰囲気は空気)、600rpmの条件で粉砕した(遊星ボールミル装置:Fritsch社製、Pulverisette7)。粉砕時間は実施例1では3時間、実施例2では6時間、実施例3では12時間、実施例4では24時間とした。実施例1~4で得られた粉砕物にカーボンコートを行った。コート方法としては、粉砕物とアセチレンブラック(デンカ株式会社製、Li-250)を、粉砕物:アセチレンブラックが質量比で80:10となるように、直径3mmのジルコニアボール20gと共に遊星ボールミル用容器に入れ(容器内の雰囲気は空気)、400回転で1時間混合した。
【0015】
[実施例5、6]
実施例1と同様にLiCrO2を作製した。作製したLiCrO21.5gとフッ化リチウム(LiF)を、直径3mmのジルコニアボール30gと共に遊星ボールミル用容器に入れ(容器内の雰囲気は空気)、600rpmの条件で24時間粉砕した。LiFの添加量をLiCrO21モルに対し、実施例5では0.5モル、実施例6では1.0モルとした。実施例5及び6で得られた混合粉砕物に実施例1と同様にカーボンコートを行った。
【0016】
[実施例7~9]
実施例1と同様にLiCrO2を作製した。作製したLiCrO21.5gとフッ化リチウム(LiF)を、LiFの添加量がLiCrO21モルに対して0.5モルとなるように、直径3mmのジルコニアボール30gと共に遊星ボールミル用容器に入れ(容器内の雰囲気は空気)、600rpmの条件で粉砕した。粉砕時間は実施例7では3時間、実施例8では6時間、実施例9では12時間とした。実施例7~9で得られた混合粉砕物に実施例1と同様にカーボンコートを行った。
【0017】
[比較例1]
実施例1と同様にLiCrO2を作製し、遊星ボールミルで粉砕しなかった。これを比較例1のLiCrO2とした。作製したLiCrO2に実施例1と同様にカーボンコートを行った。
【0018】
実施例1~4で得られた粉砕物及び比較例1のLiCrO
2をX線回折測定(株式会社リガク製、MiniFlex600)した結果を
図1に示す。また、実施例3及び4の粉砕物並びに比較例1のLiCrO
2の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を
図2に示す。
図2(a)は比較例1、
図2(b)は実施例3、
図2(c)は実施例4のSEM画像である。SEM画像の観察から粉砕前(比較例1)のLiCrO
2の一次粒子径は1μmを越えているのに対し、粉砕後の粒子の一次粒子径は100~150nm(実施例3)、50~100nm(実施例4)となっていた。
図1から比較例1のLiCrO
2は、層状岩塩型の結晶構造であるのに対し、実施例1~4の粉砕物は、いずれも不規則岩塩型の結晶構造であることがわかる。また、比較例1のLiCrO
2の結晶子サイズは607Åであるのに対し、各粉砕物の結晶子サイズは、実施例1で112Å、実施例2で89Å、実施例3で62Å、実施例4で59Åであり、粉砕することにより結晶子サイズが小さくなった。粉砕時間が12時間と24時間とでは、結晶子サイズにあまり変化はなかった。結晶子サイズは、得られた粉砕物のXRDパターンに帰属される2以上のXRDピークから、Williamson-Hall法により求まる径(以下、「WH径」ともいう。)である。具体的には、不規則岩塩型LiCrO
2に帰属できる2以上のXRDピーク、好ましくは不規則岩塩型LiCrO
2に帰属できる全てのXRDピーク、について、それぞれ、以下のプロットを行う。得られる複数点のプロットの最小二乗法により以下の一次近似式を求め、該一次近似式のy切片の逆数が結晶子径である。
<プロット>
Y=(β・sinθ)/λ
X=sinθ/λ
<一次近似式>
Y=2η・X+(1/ε) ・・・(1式)
これらの式において、βは半値幅(°)、θは回折角(°)、λは線源の波長(nm)、ηは不均一歪及びεは結晶子径(Å)であり、なおかつ、一次近似式における1/εがy切片である。本実施例におけるWH径の算出に当たり、不規則岩塩型LiCrO
2に帰属される全てのXRDピークを使用して上述のプロットを行った。また、粉砕前の層状岩塩型のLiCrO
2の結晶子サイズについても同様に算出した。
【0019】
実施例1~4で得られた粉砕物及び比較例1のLiCrO
2を使用してリチウムイオン電池を作製し、充放電特性とサイクル特性を評価した。リチウムイオン電池の作製は、次のように行った。実施例1~4で得られた粉砕物及び比較例1のLiCrO
2(以下、活物質ともいう。)を、活物質:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデンが質量比で80:15:5となるように、アセチレンブラック(デンカ株式会社製)及びポリフッ化ビニリデンとそれぞれ混合した。混合したものをアルミ箔に塗布し、乾燥後に直径15mmに打ち抜き、正極(塗布電極)を作製した。負極には直径15mmのLi金属(本城金属製)を使用し、セパレータとしてポリプロピレン(セルガード社製)、電解液として1M LiPF6/EC:DMC(=1:1vol%)、電池ケースとしてコインセル(2032型)を使用して、
図3のようにコイン電池を作製した。実施例1~4及び比較例1の充放電試験を、電流密度29mA/g、電圧範囲2.0~4.5V、25℃で行った。得られた充放電曲線を
図4に示す。比較例1ではわずかな放電容量しか得られなかったが、実施例1~4ではいずれも約120mAh/gの放電容量が得られた。次に、実施例2、4及び比較例1のサイクル試験を、電流密度29mA/g(0.1C)、電圧範囲2.0~4.5V、25℃、サイクル回数50で行った。結果を
図5に示す。実施例2(6時間粉砕)と実施例4(24時間粉砕)とで、サイクル特性にはほとんど変化はみられなかった。
【0020】
実施例4、5及び6で得られた粉砕物をX線回折測定した結果を
図6に示す。また、実施例5及び6の粉砕物の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を
図7に示す。
図7(a)は実施例5の粉砕物の画像であり、
図7(b)は実施例6の粉砕物の画像である。
図6から実施例5及び6の粉砕物も実施例4の粉砕物と同様に不規則岩塩型の結晶構造であることがわかる
【0021】
実施例5及び7~9で得られた粉砕物及び比較例1のLiCrO
2をX線回折測定した結果を
図8に示す。
図8から比較例1のLiCrO
2は、層状岩塩型の結晶構造であるのに対し、実施例5及び7~9の粉砕物は、いずれも不規則岩塩型の結晶構造であることがわかる。また、各粉砕物の結晶子サイズは、実施例7で56Å、実施例8で58Å、実施例9で57Å、実施例5で56Åであり、粉砕することにより結晶子サイズは小さくなったが、粉砕時間による結晶子サイズの変化はあまりみられなかった。
図6及び8に示す結果から、LiCrO
2とLiFとの粉砕物では38.0°~38.5°にLiFの(1 1 1)面のピークが観察され、LiFの添加量を増加させると前記ピークが高くなることから、粉砕物中ではLiCrO
2とLiFが混合された状態で存在すると考えられ、機械的エネルギーによる粉砕力を加えていることから、LiFの少なくとも一部はLiCrO
2粒子表面に付着しているものと考えられる。
【0022】
実施例5~9で得られた粉砕物を使用して実施例1と同様にリチウムイオン電池を作製し、充放電特性、サイクル特性及びレート特性を評価した。充放電試験は、電流密度23mA/g、電圧範囲2.0~4.5V、25℃で行った。
図9に実施例4及び5~6の充放電曲線を示し、
図10に実施例5及び7~9の充放電曲線を示す。
図9からLiCrO
21モルに対してLiFが0.5モルの場合が他の場合よりも大きな放電容量が得られた。
図10から実施例5及び7~9では、205~239mAh/gという非常に大きな放電容量が得られた。サイクル試験は、電流密度23mA/g、電圧範囲2.0~4.5V、25℃、サイクル回数50で行った。
図11に実施例5、8及び9の結果を示す。実施例8と9では、50サイクル後も110mAh/gの放電容量を維持していた。実施例8のレート特性を、
図12中に記載した条件で測定した。結果を
図12、13及び表1に示す。いずれのレートにおいても50%前後の容量維持率を示した。
【0023】
本発明の製造方法は、簡易に電気化学的活性の高い正極活物質を得ることができるので、例えば、リチウムイオン二次電池をはじめとする電池の正極に使用できる活物質の製造に好適に使用できる。本発明の正極活物質は、電気化学的活性が高いためリチウムイオン二次電池をはじめとする電池の正極に好適に使用できる。