(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140040
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】車両用シート駆動システム
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20220915BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20220915BHJP
B60N 2/20 20060101ALI20220915BHJP
B60N 2/809 20180101ALI20220915BHJP
G10L 15/00 20130101ALI20220915BHJP
G10L 15/28 20130101ALI20220915BHJP
G10L 13/00 20060101ALI20220915BHJP
G06F 3/16 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B60N2/90
B60N2/06
B60N2/20
B60N2/809
G10L15/00 200J
G10L15/28 230K
G10L13/00 100L
G06F3/16 630
G06F3/16 650
G06F3/16 670
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040674
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝部 健一
(72)【発明者】
【氏名】山田 光一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 悠馬
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BA02
3B087BB02
3B087BD03
3B087DC06
3B087DE09
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】シート装置に特定動作を実行させるための音声コマンドを音声認識部が認識したときに乗員に不快感を与え難いようにする。
【解決手段】少なくとも一つの特定動作を実行可能なシート装置と、乗員が発した音声を取得する音声取得部と、音声取得部が取得した音声に含まれる音声コマンドを認識可能な音声認識部と、各特定動作とそれぞれ対応する少なくとも1つの音声コマンド例が記録された記録部と、音声認識部が認識した音声コマンドが音声コマンド例と一致したか否かを判定するコマンド判定部と、コマンド判定部が一致したと判定した場合に、コマンド判定部が一致したと判定した判定時刻から所定時間が経過したか否かを判定する時間判定部と、所定時間が経過したと時間判定部が判定したときに、音声コマンド例に対応する特定動作をシート装置に実行させるようにシート装置を作動させる作動制御部と、を備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロアに支持され、少なくとも一つの特定動作を実行可能なシート装置と、
前記車両の乗員が発した音声を取得する音声取得部と、
前記音声取得部が取得した音声に含まれる音声コマンドを認識可能な音声認識部と、
前記各特定動作とそれぞれ対応する少なくとも1つの音声コマンド例が記録された記録部と、
前記音声認識部が認識した前記音声コマンドが、前記音声コマンド例と一致したか否かを判定するコマンド判定部と、
前記コマンド判定部が一致したと判定した場合に、前記コマンド判定部が一致したと判定した判定時刻から所定時間が経過したか否かを判定する時間判定部と、
前記所定時間が経過したと前記時間判定部が判定したときに、前記音声コマンド例に対応する前記特定動作を前記シート装置に実行させるように、前記シート装置を作動させる作動制御部と、
を備える車両用シート駆動システム。
【請求項2】
音声を出力可能な音声出力部を備え、
前記コマンド判定部が一致したと判定した場合に、前記所定時間が経過したと前記時間判定部が判定するまでに、前記コマンド判定部が一致したと判定した前記音声コマンド例を表す音声を前記音声出力部が出力する請求項1に記載の車両用シート駆動システム。
【請求項3】
前記乗員が所定の起動音声コマンドを発したと判定したときに、前記音声認識部を、前記音声取得部が取得した音声に含まれる前記音声コマンドを認識可能な状態にするウェイクアップ判定部を備え、
前記音声認識部が前記音声コマンドを認識可能な状態になったときに、前記音声出力部が、前記音声認識部が前記音声コマンドを認識可能であることを表す確認音声を出力し、
前記音声出力部が前記確認音声を出力した後に、前記音声認識部が認識した前記音声コマンドが前記音声コマンド例と一致したと前記コマンド判定部が判定したときに、前記時間判定部が前記判定時刻から前記所定時間が経過したか否かを判定する請求項2に記載の車両用シート駆動システム。
【請求項4】
前記所定時間が1.0~3.0秒である請求項1~請求項3の何れか1項に記載の車両用シート駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には車両用シート駆動システムが開示されている。この車両用シート駆動システムは、スライド可能なシート装置と、乗員が発した音声を取得する音声取得部と、音声取得部が取得した音声に含まれる音声コマンドを認識可能な音声認識部と、シート装置にスライド動作を実行させるための駆動力を付与可能な駆動部と、駆動部を制御する駆動制御部と、を備える。
【0003】
例えば、運転席にスライド動作を実行させるための音声コマンドを乗員が発すると、音声認識部がこの音声コマンドを認識する。音声認識部がこの音声コマンドを認識すると、駆動部が運転席に駆動力を付与し、運転席がスライド動作を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記車両用シート駆動システムでは、音声認識部が上記音声コマンドを認識してからスライド動作を開始するまでの時間について改善の余地がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、シート装置に特定動作を実行させるための音声コマンドを音声認識部が認識したときに乗員に不快感を与え難い車両用シート駆動システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明に係る車両用シート駆動システムは、車両のフロアに支持され、少なくとも一つの特定動作を実行可能なシート装置と、前記車両の乗員が発した音声を取得する音声取得部と、前記音声取得部が取得した音声に含まれる音声コマンドを認識可能な音声認識部と、前記各特定動作とそれぞれ対応する少なくとも1つの音声コマンド例が記録された記録部と、前記音声認識部が認識した前記音声コマンドが、前記音声コマンド例と一致したか否かを判定するコマンド判定部と、前記コマンド判定部が一致したと判定した場合に、前記コマンド判定部が一致したと判定した判定時刻から所定時間が経過したか否かを判定する時間判定部と、前記所定時間が経過したと前記時間判定部が判定したときに、前記音声コマンド例に対応する前記特定動作を前記シート装置に実行させるように、前記シート装置を作動させる作動制御部と、を備える。
【0008】
請求項1に記載の車両用シート駆動システムのシート装置は、車両のフロアに支持され、少なくとも一つの特定動作を実行可能なシート装置を備える。車両用シート駆動システムでは、車両の乗員が発した音声を、シート装置に設けられた音声取得部が取得し、音声取得部が取得した音声に含まれる音声コマンドを音声認識部が認識可能である。さらに音声認識部が認識した音声コマンドが、記録部に記録された少なくとも1つの音声コマンド例と一致したか否かをコマンド判定部が判定する。さらに、コマンド判定部が一致したと判定した場合に、コマンド判定部が一致したと判定した判定時刻から所定時間が経過したか否かを時間判定部が判定する。さらに、所定時間が経過したと時間判定部が判定したときに、音声コマンド例に対応する特定動作をシート装置に実行させるように、作動制御部がシート装置を作動させる。
【0009】
このように請求項1に記載の車両用シート駆動システムでは、判定時刻から所定時間が経過したときにシート装置が特定動作を実行する。換言すると、判定時刻においてシート装置が特定動作を開始しない。そのため、シート装置が実行する特定動作が、乗員に不快感を与え難い。
【0010】
請求項2に記載の発明に係る車両用シート駆動システムは、請求項1に記載の車両用シート駆動システムにおいて、音声を出力可能な音声出力部を備え、前記コマンド判定部が一致したと判定した場合に、前記所定時間が経過したと前記時間判定部が判定するまでに、前記コマンド判定部が一致したと判定した前記音声コマンド例を表す音声を前記音声出力部が出力する。
【0011】
請求項2に記載の車両用シート駆動システムでは、コマンド判定部が一致したと判定した場合に、所定時間が経過したと時間判定部が判定するまでに、コマンド判定部が一致したと判定した音声コマンド例を表す音声を音声出力部が出力する。そのため、乗員は音声出力部が出力した音声コマンド例を表す音声を聞くことにより、これからシート装置が特定動作を実行することを認識できる。そのため、シート装置が特定動作を実行したときに、乗員が不快感を覚えるおそれが小さい。
【0012】
請求項3に記載の発明に係る車両用シート駆動システムは、請求項2に記載の車両用シート駆動システムにおいて、前記乗員が所定の起動音声コマンドを発したと判定したときに、前記音声認識部を、前記音声取得部が取得した音声に含まれる前記音声コマンドを認識可能な状態にするウェイクアップ判定部を備え、前記音声認識部が前記音声コマンドを認識可能な状態になったときに、前記音声出力部が、前記音声認識部が前記音声コマンドを認識可能であることを表す確認音声を出力し、前記音声出力部が前記確認音声を出力した後に、前記音声認識部が認識した前記音声コマンドが前記音声コマンド例と一致したと前記コマンド判定部が判定したときに、前記時間判定部が前記判定時刻から前記所定時間が経過したか否かを判定する。
【0013】
請求項3に記載の車両用シート駆動システムでは、乗員が所定の起動音声コマンドを発したと判定したときに、ウェイクアップ判定部が、音声認識部を音声取得部が取得した音声に含まれる音声コマンドを認識可能な状態にする。さらに、音声認識部が音声コマンドを認識可能な状態になったときに、音声認識部が音声コマンドを認識可能であることを表す確認音声を音声出力部が出力する。さらに、音声出力部が確認音声を出力した後に、音声認識部が認識した音声コマンドが音声コマンド例と一致したとコマンド判定部が判定したときに、時間判定部が判定時刻から所定時間が経過したか否かを判定する。乗員は、起動音声コマンドを発声し且つ音声出力部による確認音声の出力を認識した後に音声コマンドを発することにより、これからシート装置が特定動作を実行することを認識できる。そのため、シート装置が特定動作を実行したときに、乗員が不快感を覚えるおそれが小さい。
【0014】
請求項4に記載の発明に係る車両用シート駆動システムは、請求項1~請求項3の何れか1項に記載に記載の車両用シート駆動システムにおいて、前記所定時間が1.0~3.0秒である。
【0015】
請求項4に記載の車両用シート駆動システムでは、所定時間が1.0~3.0秒である。即ち、乗員が音声コマンドを発生してからシート装置が特定動作を開始するまでに、少なくとも1.0~3.0秒が経過する。判定時刻から1.0~3.0秒である所定時間が経過したときにシート装置が特定動作を実行すると、シート装置に着座した乗員(被験者)が不快感を覚え難いことが官能評価試験によって判明した。そのため、シート装置が特定動作を実行したときに、乗員が不快感を覚え難い。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る車両用シート駆動システムによれば、シート装置に特定動作を実行させるための音声コマンドを音声認識部が認識したときに乗員に不快感を与え難い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用シート駆動システムを備える車両のルーフを省略して示す模式的な平面図である。
【
図2】
図1に示される車両に設けられた運転席(助手席)の模式的な側面図である。
【
図3】
図2に示される運転席(助手席)のシートバック及びヘッドレストの模式的な正面図である。
【
図4】車両用シート駆動システムのブロック図である。
【
図6】シートECUのROMに記録された音声コマンドリストを示す図である。
【
図7】スライド動作及びリクライニング動作に関する官能評価試験の結果を表す図である。
【
図8】スライド動作及びリクライニング動作に関する官能評価試験の結果を表す図である。
【
図9】シートECUが行う処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1~
図9を用いて本発明の実施形態に係る車両用シート駆動システム10(以下、駆動システム10)について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRは車両前方向を示し、矢印UPは車両上方向を示し、矢印LHは車両左右方向(車両幅方向)の左側を示す。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示す。
【0019】
図1に示されるように、駆動システム10が搭載された車両12の車体14の車室14Aには、右側の前席(シート装置)16及び左側の前席(シート装置)18が設けられている。なお、車体14には車両ドアが含まれる。インストルメントパネル14Cの右側部にステアリングホイール14Dが設けられている。そのため以下の説明では、右側の前席16を運転席16と称し、左側の前席18を助手席18と称する。運転席16には乗員P1が着座し、助手席18には乗員P2が着座している。
【0020】
図2に示されるように、車室14Aのフロア14Bには、運転席16及び助手席18をそれぞれ前後方向にスライド可能に支持するスライドレール装置20が設けられている。各スライドレール装置20は、フロア14Bに固定された前後方向に延在する左右一対のロアレール21と、各ロアレール21に前後方向にスライド可能に支持された左右一対のアッパレール22と、を有する。スライドレール装置20は、電動モータからなる第1アクチュエータ(作動制御部)24と、動力伝達機構(図示省略)と、を有する。第1アクチュエータ24が正転しながら駆動力を発生すると、この駆動力が動力伝達機構からアッパレール22に伝わり、アッパレール22がロアレール21に対して前方へスライドする。第1アクチュエータ24が逆転しながら駆動力を発生すると、この駆動力が動力伝達機構からアッパレール22に伝わり、アッパレール22がロアレール21に対して後方へスライドする。
【0021】
各スライドレール装置20の各アッパレール22には支持部材26が設けられている。運転席16及び助手席18の支持部材26には、シート19がそれぞれ支持されている。シート19は、シートクッション19A、シートバック19B及びヘッドレスト19Cを有する。支持部材26の上端部にシートクッション19Aが固定されている。シートクッション19Aの後端部とシートバック19Bの下端部はリクライニング機構30を介して回転可能に接続されている。各リクライニング機構30には第2アクチュエータ(作動制御部)32が設けられている。第2アクチュエータ32が正転しながら駆動力を発生すると、この駆動力によってリクライニング機構30が回転し、シートバック19Bがシートクッション19Aに対して倒れる。換言すると、シートバック19Bがシートクッション19Aに対して前方に相対回転する。第2アクチュエータ32が逆転しながら駆動力を発生すると、この駆動力によってリクライニング機構30が回転し、シートバック19Bがシートクッション19Aに対して起きる。換言すると、シートバック19Bがシートクッション19Aに対して後方に相対回転する。
【0022】
図2及び
図3に示されるように、ヘッドレスト19Cは、クッション部19C1と、上端部がクッション部19C1に固定された左右一対のステー19C2と、を有する。左右のステー19C2は、シートバック19Bの上端部に上下方向にスライド可能に支持されている。
【0023】
図1に示されるように、フロア14Bには運転席16及び助手席18より後方側に位置する後席(シート装置)34が設けられている。後席34は、単一のシートクッション34Aと、単一のシートバック34Bと、3個のヘッドレスト34Cと、を有する。シートクッション34A及びシートバック34Bの車両幅方向の寸法は、車室14Aの車両幅方向の寸法と略同一である。
【0024】
図4に示されるように駆動システム10は、第1アクチュエータ24、第2アクチュエータ32、シートECU(Electronic Control Unit)40、マイク(音声取得部)42、スピーカ44、車体ECU58及びカーナビゲーションシステム60を備える。第1アクチュエータ24、第2アクチュエータ32、マイク42及びスピーカ44は、シートECU40に電気的に接続されている。運転席16及び助手席18は、第1アクチュエータ24及び第2アクチュエータ32に加えて、シートECU40、マイク42及びスピーカ44を備える。カーナビゲーションシステム60は車体14に設けられている。カーナビゲーションシステム60は、タッチパネル式のディスプレイ(図示省略)を有する。
【0025】
車体14には車体ECU58が設けられている。車体ECU58にカーナビゲーションシステム60が電気的に接続されている。シートECU40と車体ECU58は、車内ネットワーク(図示省略)を介して互いにデータ交換可能(通信可能)に接続されている。
【0026】
図5に示されるようにシートECU40は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)40A、ROM(Read Only Memory)(記録部)40B、RAM(Random Access Memory)40C、ストレージ40D、通信I/F(Inter Face)40E及び入出力I/F40Fを含んで構成されている。CPU40A、ROM40B、RAM40C、ストレージ40D、通信I/F40E及び入出力I/F40Fは、バス40Zを介して相互に通信可能に接続されている。ECU40は、タイマー(図示省略)から日時に関する情報を取得可能である。なお、車体ECU58の基本構成も
図5に示されるシートECU40と実質的に同一である。
【0027】
CPU40Aは、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU40Aは、ROM40B又はストレージ40Dからプログラムを読み出し、RAM40Cを作業領域としてプログラムを実行する。CPU40Aは、ROM40B又はストレージ40Dに記録されているプログラムに従って、各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0028】
ROM40Bは、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM40Cは、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ40Dは、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、各種プログラム及び各種データを格納する。通信I/F40Eは、シートECU40が他の機器と通信するためのインタフェースである。入出力I/F40Fは、様々な装置と通信するためのインタフェースである。例えば、入出力I/F40Fには、第1アクチュエータ24、第2アクチュエータ32、マイク42、スピーカ44が接続されている。
【0029】
マイク42は、乗員P1、P2が発した音声を電気信号に変換してシートECU40へ送信する。
図3に示されるように、マイク42はクッション部19C1の下面に設けられている。そのため運転席16に着座した乗員P1の頭部P1aの近傍に運転席16のマイク42が位置し、且つ、助手席18に着座した乗員P2の頭部P2aの近傍に助手席18のマイク42が位置する。さらに各マイク42の指向性は狭い。具体的には、運転席16のマイク42は運転席16のシート19の直前領域の音声のみを収音し、助手席18のマイク42は助手席18のシート19の直前領域の音声のみを収音する。そのため、乗員P1が発した音声を助手席18のマイク42が集音するおそれは小さい。同様に、乗員P2が発した音声を運転席16のマイク42が集音するおそれは小さい。
【0030】
スピーカ44は音を出力可能である。スピーカ44は、例えばヘッドレスト19Cに設けられる。各スピーカ44の指向性は狭い。そのため、乗員P1が運転席16のスピーカ44が出力した音を聞き取るのは容易であり、乗員P2が運転席16のスピーカ44が出力した音を聞き取るのは困難である。同様に、乗員P2が助手席18のスピーカ44が出力した音を聞き取るのは容易であり、乗員P1が助手席18のスピーカ44が出力した音を聞き取るのは困難である。
【0031】
図4に示されるようにシートECU40は、機能構成として、ウェイクアップ判定部411、音声認識部412、時間判定部413、コマンド判定部414、駆動制御部415及び返答制御部416を有する。ウェイクアップ判定部411、音声認識部412、時間判定部413、コマンド判定部414、駆動制御部415及び返答制御部416は、CPU40AがROM40Bに記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより実現される。ウェイクアップ判定部411、音声認識部412、時間判定部413、コマンド判定部414、駆動制御部415及び返答制御部416の機能については後述する。
【0032】
ROM40Bには、
図6に示された音声コマンドリスト65が記録されている。音声コマンドリスト65は、第1アクチュエータ24及び第2アクチュエータ32の少なくとも一つの駆動力を用いて運転席16及び助手席18に少なくとも一つの特定動作を実行させるための音声コマンド例を規定する。本実施形態の運転席16及び助手席18は、4つの特定動作(前方スライド動作、後方スライド動作、前方リクライニング動作及び後方リクライニング動作)を実行可能である。音声コマンドリスト65に規定された音声コマンド例(文字列)には、第1例~第4例が含まれる。音声コマンドリスト65に規定された各音声コマンド例(第1例~第4例)は、4つの特定動作のそれぞれと対応する。第1例が表す文字列は「シート前」であり、第2例が表す文字列は「シート後ろ」であり、第3例が表す文字列は「シート倒す」であり、第4例が表す文字列は「シート起こす」である。なお、音声コマンドリスト65に含まれる音声コマンド例の数は、運転席16及び助手席18が実行する特定動作の数(種類)と同じである。
【0033】
後述するように、乗員P1、P2が音声を発したとき、音声に含まれる音声コマンドが、音声コマンドリスト65の何れかの音声コマンド例と一致するか否かが判定される。さらに、一致すると判定された時刻(以下、判定時刻と称する)から所定時間が経過したときに、第1アクチュエータ24及び第2アクチュエータ32の少なくとも一方の駆動力によって運転席16及び助手席18の少なくとも一方が、一致すると判定された音声コマンド例が表す特定動作を実行する。
【0034】
図7及び
図8は、乗員P1、P2が発した音声コマンドが音声コマンドリスト65の何れかの音声コマンド例と一致した場合に、運転席16及び助手席18と実質的に同一構成のシート装置(図示省略)が、スライド動作及びリクライニング動作を行ったときの官能評価試験の結果を表す。22人の被験者が、この官能評価試験に参加した。22人には男性及び女性が含まれる。最も身長が低い被験者の身長は150cmであり、最も身長が高い被験者の身長は190cmである。最も体重が少ない被験者の体重は46kgであり、最も体重が大きい被験者の体重は105kgである。この官能評価試験における上記所定時間は2.0秒である。
【0035】
箱ひげ図である
図7の縦軸は、この官能評価試験に参加した上記22人の官能評価である。縦軸の「1」は、被験者が「遅い」と感じることを表す。縦軸の「2」は、被験者が「やや遅い」と感じることを表す。縦軸の「3」は、被験者が「適切」と感じることを表す。縦軸の「4」は、被験者が「やや早い」と感じることを表す。縦軸の「5」は、被験者が「早い」と感じることを表す。スライド動作の場合及びリクライニング動作の場合の中央値は「3.0」である。スライド動作の場合の平均値は「2.59」であり、リクライニング動作の場合の平均値は「2.82」である。スライド動作の場合の第一四分位数は「2.00」であり、リクライニング動作の場合の第一四分位数は「2.75」である。
【0036】
図8のグラフは、この官能評価試験に参加した上記22人の官能評価を5段階で示す。「1」は「遅い」と感じる被験者の割合(%)を示す。「2」は「やや遅い」と感じる被験者の割合を示す。「3」は「適切」と感じる被験者の割合を示す。「4」は「やや早い」と感じる被験者の割合を示す。「5」は「早い」と感じる被験者の割合を示す。
【0037】
図7及び
図8から明らかなように所定時間を2.0秒に設定した場合の官能評価試験の結果は良好である。そのため、本実施形態ではスライド動作及びリクライニング動作を行なう場合の所定時間は2.0秒に設定されている。
【0038】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0039】
運転席16及び助手席18の駆動システム10のシートECU40は、
図9のフローチャートの処理を繰り返し実行する。なお、以下の説明では、運転席16及び助手席18の中で当該処理が行われることにより動作させられるものを「前席16、18」と称する場合がある。
【0040】
まずステップS10において、シートECU40のウェイクアップ判定部411が、マイク42から送信された音声データを音声認識処理し、当該音声データが表す文字列(テキストデータ)を生成する。さらにウェイクアップ判定部411は、この文字列に基づいて、乗員P1、P2が「ウェイクアップ」という起動音声コマンドを発したと判定した場合に、ステップS10でYesと判定する。なお、ウェイクアップ判定部411及び後述する音声認識部412が実行する音声認識処理は、例えば特開2019-090945号公報、特開2020-086203号公報、特開2020-101610号公報、及び特開2019-176431号公報に開示されているように周知であり、これら各公報に開示された内容で実行可能である。
【0041】
ステップS10でYesと判定したシートECU40はステップS11へ進む。シートECU40がステップS11へ進んだとき、音声認識部412が動作可能な状態に設定される。動作可能な状態に設定された音声認識部412は、マイク42から入力された音声データに基づいて、当該音声データが示す文字列(テキストデータ)を生成する。即ち、音声認識部412は、マイク42から入力された音声を認識する。さらにステップS11において、返答制御部416が「システム返答」を表す音声データをスピーカ44へ送信し、スピーカ44に当該システム返答を表す音声である確認音声を出力させる。この確認音声は、音声認識部412が動作可能な状態に設定されたことを表す音声である。例えば、スピーカ44は「はい」という確認音声を出力する。
【0042】
ステップS11の処理を終えたシートECU40はステップS12へ進み、コマンド判定部414が、マイク42から送信された音声データから音声認識部412が生成した文字列(音声コマンド)(コマンド)に、音声コマンドリスト65の各音声コマンド例が含まれているか否かを判定する。シートECU40はYesと判定するまでステップS12の処理を繰り返す。
【0043】
ステップS12においてYesと判定したとき、シートECU40はステップS13へ進み、返答制御部416が「システム返答」を表す音声データをスピーカ44へ送信し、スピーカ44に当該システム返答を表す音声を出力させる。このシステム返答は、ステップS12で一致すると判定された音声コマンドリスト65の各音声コマンド例が表す音声である。例えば、ステップS12で、音声コマンドリスト65の第1例が表す文字列「シート前」と一致する文字列が含まれていると判定された場合は、スピーカ44は「シート前」という音声を出力する。例えば、ステップS12で、音声コマンドリスト65の第3例が表す文字列「シート倒す」と一致する文字列が含まれていると判定された場合は、スピーカ44は「シート倒す」という音声を出力する。
【0044】
但し、ステップS12においてスピーカ44が出力する「音声コマンドリスト65の各音声コマンド例が表す音声」は、ステップS12で一致すると判定された文字列が表す意味と同じ意味の音声(言葉)であれば、当該文字列と一致しなくてもよい。例えば、ステップS12で、音声コマンドリスト65の第1例が表す文字列「シート前」と一致する文字列が含まれていると判定された場合に、スピーカ44が「シートを前方の位置へ移動させます」という音声を出力してもよい。
【0045】
ステップS13の処理を終えたシートECU40はステップS14へ進み、ステップS12で一致するとコマンド判定部414が判定した判定時刻から所定時間(2.0秒)が経過したか否かを、時間判定部413が上記タイマーからの情報に基づいて判定する。シートECU40はYesと判定するまでステップS14の処理を繰り返す。
【0046】
ステップS14においてYesと判定したシートECU40はステップS15へ進み、ステップS13で行われたシステム返答が表す特定動作を前席16、18が実行するように、駆動制御部415が第1アクチュエータ24及び第2アクチュエータ32の少なくとも一つに作動信号を送信する。
【0047】
例えば、ステップS12においてマイク42から送信された音声データから音声認識部412が生成した文字列に、音声コマンドリスト65の第1例が表す文字列「シート前」と一致する文字列が含まれていると判定された場合を想定する。この場合はシート19が前方スライド動作を実行するように、駆動制御部415が第1アクチュエータ24を制御する。
【0048】
シートECU40は、ステップS15の処理を終えたとき、又は、ステップS10でNoと判定したとき、
図9のフローチャートの処理を一旦終了する。
【0049】
以上説明した本実施形態の駆動システム10では、判定時刻から所定時間(2.0秒)が経過したときに前席16、18が特定動作を実行する。換言すると、判定時刻において前席16、18が特定動作を開始しない。乗員P1、P2が音声コマンドを発生してから前席16、18が特定動作を開始するまでに、少なくとも2.0秒が経過する。この長さの所定時間が経過したときに前席16、18が特定動作を実行すると、前席16、18に着座した乗員P1、P2が不快感を覚え難いことが官能評価試験によって判明している。そのため前席16、18が特定動作を実行したときに、乗員P1、P2が不快感を覚え難い。
【0050】
さらに駆動システム10では、ステップS12において、コマンド判定部414が音声認識部412が生成した文字列と音声コマンドリスト65の音声コマンド例とが一致するか否かを判定する。そして、コマンド判定部414が一致すると判定した場合は、判定時刻から所定時間が経過したと時間判定部413が判定するまでに、一致したと判定された音声コマンド例を表す音声をスピーカ44が出力する。そのため、乗員P1、P2はスピーカ44が出力した音声コマンド例を表す音声を聞くことにより、これから前席16、18が特定動作を実行することを認識できる。そのため前席16、18が特定動作を実行したときに、乗員P1、P2が不快感を覚えるおそれが小さい。
【0051】
さらに駆動システム10では、ステップS10において乗員P1、P2が起動音声コマンドを発したと判定されたときに、ウェイクアップ判定部411が、音声認識部412を音声コマンドを認識可能な状態にする。さらに音声認識部412が音声コマンドを認識可能な状態になったときに、ステップS11において、音声認識部412が音声コマンドを認識可能であることを表す確認音声を、スピーカ44が出力する。さらにスピーカ44が確認音声を出力した後に、音声認識部412が認識した音声コマンドが音声コマンド例と一致したとコマンド判定部414が判定したときに、ステップS14において時間判定部413が判定時刻から所定時間が経過したか否かを判定する。乗員P1、P2は、起動音声コマンドを発声し且つスピーカ44による確認音声の出力を認識した後に音声コマンドを発することにより、これから前席16、18が特定動作を実行することを認識できる。そのため前席16、18が特定動作を実行したときに、乗員P1、P2が不快感を覚えるおそれが小さい。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0053】
スライド動作及びリクライニング動作の上記所定時間は、1.0~3.0秒の任意の値(時間)であってもよい。1.0~3.0秒の任意の値であれば、乗員が不快感を覚えるおそれが小さいことが官能評価試験によって判明している。
【0054】
スライド動作の上記所定時間と、リクライニング動作の上記所定時間と、が互い異なる値であってもよい。また、前方スライド動作の上記所定時間と、後方スライド動作の上記所定時間と、が互い異なる値であってもよい。また、前方リクライニング動作の上記所定時間と、後方リクライニング動作の上記所定時間と、が互い異なる値であってもよい。
【0055】
スライド動作及びリクライニング動作の上記所定時間は、1.0~3.0秒に含まれない値であってもよい。
【0056】
乗員P1、P2が各特定動作の上記所定時間を任意に設定できるようにしてもよい。例えば、カーナビゲーションシステム60のディスプレイ(タッチパネル)を用いて、乗員P1、P2が各特定動作の上記所定時間を任意に設定できるようにしてもよい。
【0057】
マイク42及びスピーカ44の少なくとも一方を、運転席16及び助手席18のヘッドレスト19C以外の部位に設けてもよい。
【0058】
マイク42を車体14に設けてもよい。但し、この場合は、シート装置に設けられたマイク42より指向性が狭く且つ乗員P1が発した音声のみを取得し易いマイク42と、シート装置に設けられたマイク42より指向性が狭く且つ乗員P2が発した音声のみを取得し易いマイク42と、を車体14に設けるのが好ましい。
【0059】
車両12にウェイクアップ用スイッチ(図示省略)を設けてもよい。この場合は、ウェイクアップ用スイッチが操作されたときに、シートECU40がステップS10でYesと判定する。
【0060】
後席34に本発明を適用してもよい。この場合、後席34がアクチュエータによって駆動される可動部として、スライドレール装置及びリクライニング機構の少なくとも一つを備える。
【0061】
運転席16、助手席18及び後席34の少なくとも一つが、可動部として、スライドレール装置、リフタ機構、リクライニング機構及びオットマンの少なくとも一つを備え、且つ、判定時刻から所定時間が経過したときに特定動作が実行されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 車両用シート駆動システム(駆動システム)
12 車両
14B フロア
16 前席(運転席)(シート装置)
18 前席(助手席)(シート装置)
24 第1アクチュエータ(作動制御部)
32 第2アクチュエータ(作動制御部)
34 後席(シート装置)
40B ROM(記録部)
411 ウェイクアップ判定部
412 音声認識部
413 時間判定部
414 コマンド判定部
415 駆動制御部(作動制御部)
42 マイク(音声取得部)
44 スピーカ(音声出力部)
65 音声コマンドリスト(音声コマンド例)
P1 乗員
P2 乗員