(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140073
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ソーワイヤーの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B24D 11/06 20060101AFI20220915BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20220915BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B24D11/06 Z
B24D3/00 340
B24D3/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040719
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】302018053
【氏名又は名称】株式会社中村超硬
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】沖村 厚志
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 智弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 和宏
(72)【発明者】
【氏名】船橋 信光
(72)【発明者】
【氏名】清水 研作
(72)【発明者】
【氏名】野尻 泰行
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA03
3C063AB09
3C063BA17
3C063BA37
3C063BC02
3C063CC13
(57)【要約】
【課題】ワイヤー外表面に付着する砥粒の量のばらつきを抑え、砥粒の付着分布の均一化を図ることができるとともに、更に、生産性や生産コストの改善された固定砥粒式のソーワイヤーの製造方法および製造装置を提供せんとする。
【解決手段】砥粒を含有させたメッキ液8を攪拌して砥粒含有メッキ液を生成する第1の槽2と、砥粒含有メッキ液8中にワイヤー9を通し、電気メッキにより該ワイヤー9上に砥粒を付着させる第2の槽3と、第1の槽2で生成された砥粒含有メッキ液8を第2の槽3に供給するメッキ液供給手段4と、第2の槽3から排出されたワイヤー上に付着している砥粒を検出する検出手段5と、検出手段5の検出の結果に基づき、第1の槽2におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽3への砥粒含有メッキ液の供給量の少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整する制御手段6を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーの外周に電気メッキにより砥粒を固着させてなる固定砥粒式のソーワイヤーの製造方法であって、
第1の槽で、砥粒を含有させたメッキ液を攪拌して砥粒含有メッキ液を生成し、
生成した砥粒含有メッキ液を、第1の槽から第2の槽に供給し、
第2の槽で、砥粒含有メッキ液中にワイヤーを通し、電気メッキにより該ワイヤー上に砥粒を付着させ、
ワイヤー上に付着した砥粒を検出し、該検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽への砥粒含有メッキ液の供給量のうち、少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整することを特徴とするソーワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記第1の槽における攪拌を下向き攪拌とした請求項1記載のソーワイヤーの製造方法。
【請求項3】
共通の前記第1の槽に対し、2つ以上の前記第2の槽を並列に設け、
前記2つ以上の第2の槽をそれぞれ通過する各ワイヤー上に付着する砥粒をそれぞれ検出し、
該検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量のうち、少なくとも一方を制御し、各ワイヤー上の砥粒の付着量を調整し、
2本以上のソーワイヤーを同時に製造する、
請求項1又は2記載のソーワイヤーの製造方法。
【請求項4】
前記各ワイヤー上の砥粒の付着量のばらつきは、前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量を制御することで調整する請求項3記載のソーワイヤーの製造方法。
【請求項5】
前記第2の槽から排出された砥粒含有メッキ液を、前記第1の槽に還流させるとともに、砥粒を通さずメッキ液のみ通すフィルターを通じて、第1の槽のメッキ液を取り出し、代わりに新たなメッキ液に投入する請求項1~4の何れか1項に記載のソーワイヤーの製造方法。
【請求項6】
ワイヤーの外周に電気メッキにより砥粒を固着させてなる固定砥粒式のソーワイヤーの製造装置であって、
砥粒を含有させたメッキ液を攪拌して砥粒含有メッキ液を生成する第1の槽と、
砥粒含有メッキ液中にワイヤーを通し、電気メッキにより該ワイヤー上に砥粒を付着させる第2の槽と、
第1の槽で生成された砥粒含有メッキ液を第2の槽に供給するメッキ液供給手段と、
第2の槽から排出されたワイヤー上に付着している砥粒を検出する検出手段と、
検出手段の検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽への砥粒含有メッキ液の供給量の少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整する制御手段と、
よりなることを特徴とするソーワイヤーの製造装置。
【請求項7】
前記第1の槽における攪拌として、下向き攪拌装置を備えた、請求項6記載のソーワイヤーの製造装置。
【請求項8】
前記メッキ液供給手段の前記第1の槽内に設置される砥粒含有メッキ液の取り込み口が、前記攪拌により下方から上方に対流する流れの途中位置に設けられた、
請求項6又は7記載のソーワイヤーの製造装置。
【請求項9】
前記第2の槽の内部に、前記メッキ液供給手段から供給された砥粒含有メッキ液を外周部の通孔から噴出するメッキ液噴出管を設けてなり、
該メッキ液噴出管は、前記第2の槽の内部を走行する前記ワイヤーの下方に、該ワイヤーに沿って配置され、外周部の前記ワイヤーに対向する上側位置およびワイヤーと反対側の下側位置に、前記通孔が設けられた、
請求項6~8の何れか1項に記載のソーワイヤーの製造装置。
【請求項10】
共通の前記第1の槽に対し、2つ以上の前記第2の槽を並列に設け、
前記検出手段は、前記2つ以上の第2の槽をそれぞれ通過する各ワイヤー上に付着する砥粒をそれぞれ検出し、
前記制御手段は、前記検出手段の検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量のうち、少なくとも一方を制御し、各ワイヤー上の砥粒の付着量を調整し、
2本以上のソーワイヤーを同時に製造する、
請求項6~9の何れか1項に記載のソーワイヤーの製造装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記各ワイヤー上の砥粒の付着量のばらつきを、前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量を制御することで調整する請求項10記載のソーワイヤーの製造装置。
【請求項12】
前記第2の槽から排出された砥粒含有メッキ液を、前記第1の槽に還流させる還流路を設けるとともに、
砥粒を通さずメッキ液のみ通すフィルターを通じて、第1の槽のメッキ液を取り出し、代わりに新たなメッキ液に投入するメッキ液交換手段を設けてなる、
請求項6~11の何れか1項に記載のソーワイヤーの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子材料のスライス工程などで使用される固定砥粒式のソーワイヤーの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子材料のスライス工程で使用される固定砥粒式ソーワイヤーは、ワイヤーの外周にダイヤモンド、CBN等の砥粒を固着したものであり、ダイヤモンドの固着法としてレジンボンド法や電気メッキにより砥粒を固着させる電着法がある。レジンボンド法はレジンによる砥粒の保持力が弱いために寿命が短い。電着法は、寿命は長いものの、生産効率が悪い(生産速度が遅い、スペースをとる)といった欠陥を持っている。
【0003】
電着法の生産性を向上させるべく、メッキ液中に含有させる砥粒の量はできるだけ多く高密度とし、ワイヤーの走行速度を速めるとともに補助電極を設けて電流密度を維持することが為されている(例えば、特許文献1参照。)。また、他の方法として、砥粒が分散したメッキ液の流れの中を、該流れと同一方向にワイヤーを通過させることで砥粒を効率よく付着させることも為されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、メッキ液中の砥粒を高密度化させると、生産速度やコスト低減等、生産効率が著しく向上するものの、ワイヤー外表面に付着する砥粒の量がメッキ液中での砥粒の分散度合いやメッキ効率などの影響によって大きくばらつき、密に付着している箇所や疎に付着している箇所ができるなど、ワイヤー外表面に安定して砥粒を均一に付着・分布させることが難しいという課題がある。
【0005】
また、メッキ液中のワイヤーに流れる電流値を増減させてワイヤー外表面に付着する砥粒の量のばらつきが所定範囲内に収まるように制御することも提案されている。しかし、電流値を増減させるとめっき厚や皮膜の性状が変動するため、薄付けのめっきであれば影響は小さく問題ないが、設計上の自由度に限界が生じる。その他の方法として、ダイヤモンド砥粒を増減させることやワイヤーの送り速度を調整することも考えられるが、めっき液中にダイヤモンド砥粒を投入することはできても減らすことは難しく、実現性に乏しいし、送り速度の変動は生産速度、ひいては生産量が変動することになり、量産では適用しがたい。
【0006】
【特許文献1】特開2006-55952号公報
【特許文献2】特開2006-110703号公報
【特許文献3】特開2012-232389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ワイヤー外表面に付着する砥粒の量のばらつきを抑え、砥粒の付着分布の均一化を図ることができるとともに、更に、生産性や生産コストの改善された固定砥粒式のソーワイヤーの製造方法および製造装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる現況に鑑み、鋭意検討した結果、ワイヤー上に砥粒を付着させるメッキ槽に直接砥粒が投入するのではなく、前段階で砥粒を含有させたメッキ液を生成し、これを上記メッキ槽に供給するように構成することで、メッキ液の供給量によりメッキ槽でのワイヤーへの砥粒の付着量を制御できることを見出し、さらには、当該前段階で生成される砥粒含有メッキ液の砥粒の量にばらつきがあると、メッキ槽での付着量が減ってしまうことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) ワイヤーの外周に電気メッキにより砥粒を固着させてなる固定砥粒式のソーワイヤーの製造方法であって、第1の槽で、砥粒を含有させたメッキ液を攪拌して砥粒含有メッキ液を生成し、生成した砥粒含有メッキ液を、第1の槽から第2の槽に供給し、第2の槽で、砥粒含有メッキ液中にワイヤーを通し、電気メッキにより該ワイヤー上に砥粒を付着させ、ワイヤー上に付着した砥粒を検出し、該検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽への砥粒含有メッキ液の供給量のうち、少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整することを特徴とするソーワイヤーの製造方法。
【0010】
(2) 前記第1の槽における攪拌を下向き攪拌とした(1)記載のソーワイヤーの製造方法。
【0011】
(3) 共通の前記第1の槽に対し、2つ以上の前記第2の槽を並列に設け、前記2つ以上の第2の槽をそれぞれ通過する各ワイヤー上に付着する砥粒をそれぞれ検出し、該検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量のうち、少なくとも一方を制御し、各ワイヤー上の砥粒の付着量を調整し、2本以上のソーワイヤーを同時に製造する、(1)又は(2)記載のソーワイヤーの製造方法。
【0012】
(4) 前記各ワイヤー上の砥粒の付着量のばらつきは、前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量を制御することで調整する(3)記載のソーワイヤーの製造方法。
【0013】
(5) 前記第2の槽から排出された砥粒含有メッキ液を、前記第1の槽に還流させるとともに、砥粒を通さずメッキ液のみ通すフィルターを通じて、第1の槽のメッキ液を取り出し、代わりに新たなメッキ液に投入する(1)~(4)の何れかに記載のソーワイヤーの製造方法。
【0014】
(6) ワイヤーの外周に電気メッキにより砥粒を固着させてなる固定砥粒式のソーワイヤーの製造装置であって、砥粒を含有させたメッキ液を攪拌して砥粒含有メッキ液を生成する第1の槽と、砥粒含有メッキ液中にワイヤーを通し、電気メッキにより該ワイヤー上に砥粒を付着させる第2の槽と、第1の槽で生成された砥粒含有メッキ液を第2の槽に供給するメッキ液供給手段と、第2の槽から排出されたワイヤー上に付着している砥粒を検出する検出手段と、検出手段の検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽への砥粒含有メッキ液の供給量の少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整する制御手段と、よりなることを特徴とするソーワイヤーの製造装置。
【0015】
(7) 前記第1の槽における攪拌として、下向き攪拌装置を備えた、(6)記載のソーワイヤーの製造装置。
【0016】
(8) 前記メッキ液供給手段の前記第1の槽内に設置される砥粒含有メッキ液の取り込み口が、前記攪拌により下方から上方に対流する流れの途中位置に設けられた、(6)又は(7)記載のソーワイヤーの製造装置。
【0017】
(9) 前記第2の槽の内部に、前記メッキ液供給手段から供給された砥粒含有メッキ液を外周部の通孔から噴出するメッキ液噴出管を設けてなり、該メッキ液噴出管は、前記第2の槽の内部を走行する前記ワイヤーの下方に、該ワイヤーに沿って配置され、外周部の前記ワイヤーに対向する上側位置およびワイヤーと反対側の下側位置に、前記通孔が設けられた、(6)~(8)の何れかに記載のソーワイヤーの製造装置。
【0018】
(10) 共通の前記第1の槽に対し、2つ以上の前記第2の槽を並列に設け、前記検出手段は、前記2つ以上の第2の槽をそれぞれ通過する各ワイヤー上に付着する砥粒をそれぞれ検出し、前記制御手段は、前記検出手段の検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量のうち、少なくとも一方を制御し、各ワイヤー上の砥粒の付着量を調整し、2本以上のソーワイヤーを同時に製造する、(6)~(9)の何れかに記載のソーワイヤーの製造装置。
【0019】
(11) 前記制御手段は、前記各ワイヤー上の砥粒の付着量のばらつきを、前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量を制御することで調整する(10)記載のソーワイヤーの製造装置。
【0020】
(12) 前記第2の槽から排出された砥粒含有メッキ液を、前記第1の槽に還流させる還流路を設けるとともに、砥粒を通さずメッキ液のみ通すフィルターを通じて、第1の槽のメッキ液を取り出し、代わりに新たなメッキ液に投入するメッキ液交換手段を設けてなる、(6)~(11)の何れかに記載のソーワイヤーの製造装置。
【発明の効果】
【0021】
以上にしてなる本発明によれば、第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽への砥粒含有メッキ液の供給量のうち、少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整することができ、めっき厚や皮膜の性状を変動させてしまうことなく、ワイヤー外表面に安定して砥粒を均一に付着・分布させることができ、生産性や生産コストも改善される。
【0022】
本発明では、第1の槽で生成した砥粒含有メッキ液を第2の槽に供給するため、ワイヤーを通してメッキする第2の槽に大量の砥粒含有メッキ液を供給して砥粒の量を調整する必要がないため、従来のものに比べてコンパクトにできる。したがって、共通の前記第1の槽に対し、2つ以上の前記第2の槽を並列に設け、前記2つ以上の第2の槽をそれぞれ通過する各ワイヤー上に付着する砥粒をそれぞれ検出し、該検出の結果に基づき、前記第1の槽におけるメッキ液の攪拌量、及び前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量のうち、少なくとも一方を制御し、各ワイヤー上の砥粒の付着量を調整し、2本以上のソーワイヤーを同時に製造することで、均一に砥粒が付着した高品質のソーワイヤーを、より効率よく生産することができる。
【0023】
とくに、前記2つ以上の第2の槽への砥粒含有メッキ液の各供給量を制御することで、各ワイヤー上の砥粒の付着量のばらつきを調整することができ、効率よく品質のよいソーワイヤーを安定して供給することができる。
【0024】
また、第2の槽から排出された砥粒含有メッキ液を、前記第1の槽に還流させるとともに、砥粒を通さずメッキ液のみ通すフィルターを通じて、第1の槽のメッキ液を取り出し、代わりに新たなメッキ液に投入するものでは、生産を止めることなく劣化したメッキ液を新たなメッキ液に変え、品質を維持することができ、効率よく高品質なソーワイヤーを生産できるとともに、このようなフィルターやメッキ液の取り出し部は、ワイヤーや電極、各種センサ等が適宜設けられる第2の槽ではなく、第1の槽に設けることができるので、設計上の自由度が維持されるとともにワイヤーに向かう砥粒の流れに悪影響を与えることを回避できる。とくに上記したように一つの第1の槽に対して複数の第2の槽を設ける場合に効率的である。
【0025】
また、第2の槽の内部に、前記メッキ液供給手段から供給された砥粒含有メッキ液を外周部の通孔から噴出するメッキ液噴出管を設けてなり、該メッキ液噴出管は、第2の槽の内部を走行するワイヤーの下方に、該ワイヤーに沿って配置され、外周部のワイヤーに対向する上側位置およびワイヤーと反対側の下側位置に、通孔が設けられたものでは、ワイヤーに向けて上方に噴出した砥粒含有メッキ液の流れを、下方に噴出して槽内の底から上方に戻ってくる流れによってワイヤー付近で滞留させ、砥粒がワイヤーにより付着しやすい状況を作成することが可能となり、付着量の安定化と増大化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の代表的実施形態に係るソーワイヤーの製造装置を示す説明図。
【
図2】(a)は同じく製造装置の第2の槽の内部のメッキ槽の縦断面図、(b)は横断面図。
【
図3】同じく製造装置の制御コンピュータの構成を示すブロック図。
【
図4】(a)は砥粒が付着したワイヤーに対するカメラの撮像領域を示す説明図、(b)~(d)は取得される画像情報の例を示す説明図。
【
図5】同じく製造装置においてメッキ液交換手段を設けた例を示す説明図。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るソーワイヤーの製造装置を示す説明図。
【
図7】メッキ液の供給量、攪拌量と砥粒の付着量の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明に係るソーワイヤーの製造装置の代表的実施形態を示している。本発明のソーワイヤーの製造装置1は、
図1に示すように、ワイヤー9の外周に電気メッキにより砥粒80を固着させてなる固定砥粒式のソーワイヤーの製造装置である。
【0029】
具体的には、砥粒80を含有させたメッキ液8を攪拌して砥粒含有メッキ液を生成する第1の槽2と、砥粒含有メッキ液8中にワイヤー9を通し、電気メッキにより該ワイヤー9上に砥粒を付着させる第2の槽3と、第1の槽2で生成された砥粒含有メッキ液8を第2の槽3に供給するメッキ液供給手段4と、第2の槽3から排出されたワイヤー上に付着している砥粒を検出する検出手段5と、検出手段5の検出の結果に基づき、第1の槽2におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽3への砥粒含有メッキ液の供給量の少なくとも一方を制御し、ワイヤー上の砥粒の付着量を調整する制御手段6とを備えている。
【0030】
このように、あらかじめ第1の槽2で生成した砥粒含有メッキ液を、第2の槽3に供給するように構成したことにより、第2の槽に大量の砥粒含有メッキ液を供給して砥粒の量を調整する必要がなくなり、メッキ槽(第2の槽3)は従来のものに比べてコンパクトに構成されている。本例の第2の槽は、水平方向に平行に設けられた一対のローラ間に複数回架け渡された1本のワイヤーの往路、復路(上下の走行部)にそれぞれ槽を設け、各槽でメッキを行うように構成されているが、第2の槽はこのような構成に何ら限定されるものではない。
【0031】
砥粒80は、例えばダイヤモンド、CBN等の超砥粒が挙げられるが、これらに限定されない。砥粒の粒径についてもソーワイヤーとして用いることができる程度であれば特に限定はない。砥粒を含有さえるメッキ液は、特に限定はなく、例えばニッケル含有有機酸、ニッケル含有無機酸などが使用できる。また、光沢剤やpH緩衝剤などの添加剤が必要に応じて添加される。
【0032】
ワイヤー9は、金属、非金属、各種のものを用いることができる。非金属性のものを用いる場合は、その表面に導電性を付与するための一般的なメッキ処理を行うことができる。
【0033】
第1の槽2には、砥粒をメッキ液を均一になるように攪拌する攪拌装置7が設けられている。攪拌装置7は、液中に浸されるプロペラ式(軸流式)の攪拌翼70と攪拌翼70を回転させる回転軸71とその基端側で液外の位置に設けられる駆動モータ72とより構成され、駆動モータ72の回転数を後述の処理装置60で制御することで攪拌量が制御される。下を向いた攪拌翼70が回転することによりメッキ液が下向きに攪拌される。
【0034】
また、第1の槽2には、メッキ液供給手段4として第1の槽2内部の砥粒含有メッキ液を吸い出す吸出ポンプ40が設けられている。吸出ポンプ40の取り込み口は、上記下向きに攪拌されて槽内の底に当たって上方に流れるメッキ液の流れの途中位置に設けられ、攪拌された均一な砥粒を効率よく取り込むように構成されている。
【0035】
第1の槽2には、第2の槽から排出された砥粒含有メッキ液を戻して還流させるための還流路37が接続されている。砥粒は第2の槽で消費(ワイヤーに付着)されて減っていくため、第1の槽2で適宜補充され、その濃度が維持される。ここで、第1の槽2には、砥粒を通さずメッキ液のみ通すフィルターを通じて適宜メッキ液を取り出し、代わりに新たなメッキ液に投入するメッキ液交換手段を設けることが好ましい。このような手段を設けることで生産を止めることなく劣化したメッキ液を新たなメッキ液に変え、砥粒の補充・濃度維持だけでなくメッキ液の品質を維持することができる。
【0036】
このようなメッキ液交換手段としては、たとえば
図5に示すように、第1の槽2の側部に、側壁の開口部20を通じてメッキ液が流入できる排出槽21を設け、該開口部20に前記フィルター22を設けることで、メッキ液を排出槽21に排出するとともに、新規なメッキ液を供給するように構成される。メッキ液は常時フィルター22を通じて少しづつ排出され、排出された分だけ図示しないタンクから供給されるように構成されているが、開口部に開閉シャッタを設けて排出のタイミングを制御することも勿論できる。
【0037】
第2の槽3に供給されるワイヤー9は、図示しないが、あらかじめ脱脂や水洗い、下地のメッキなどが必要に応じて行われる。ワイヤー9の第2の槽3への送出は、槽の壁にワイヤー9を通す挿通孔32、33が設けられるとともに、液外の回転ローラー30、31の間にワイヤー9を複数回掛け渡して往復走行させるようにしている。
【0038】
本例では、第2の槽3内部をワイヤー9の往路、復路用にそれぞれメッキ槽3A、3Bを上下独立に設けられている。各メッキ槽3A、3Bにワイヤー9が通され、各々電極34やメッキ液噴出管35が設けられるとともに、メッキ液供給手段4によって第1の槽2から供給される砥粒含有メッキ液は、途中で二分されて各メッキ槽3A、3Bの各メッキ液噴出管35に供給されるように構成されている。
【0039】
各メッキ槽3A,3Bのワイヤーを通す挿通孔33からは、メッキ液が漏れ出てくるが、これを受けるための液受け部36が底部に設けられ、この液受け部36に溜まった砥粒含有メッキ液を第1の槽2に戻すための還流路37が設けられている。ただし、本例のように第2の槽3を往路復路用にそれぞれ独立のメッキ槽3A,3Bを設けるのではなく、一つのメッキ槽で構成しても勿論よく、その場合には当該メッキ槽から直接第1の槽2に還流させる流路を設ければよい。
【0040】
本例のように、回転ローラ30/31をメッキ液の外側に設けることで、回転ローラ30/31をメッキ液に浸す必要がなくなり、回転ローラ上のワイヤーを掛けるためのガイド溝がメッキにより埋まってしまい、ワイヤーが外れたり、ワイヤーが当該埋まったメッキ中の砥粒によって切断されてしまうといった不都合を回避できる。ただし、本例の形態以外の従来から公知の形態を採用することも勿論可能である。
【0041】
ワイヤー9はこれら液外の回転ローラー30、31の間に複数回架け渡されて、各メッキ槽3A、3Bのメッキ液内外を複数回往復走行し、これによりワイヤー9外周に砥粒80が徐々に付着されていく。各回転ローラー30、31は、軸方向が互いに平行且つメッキ液液面と平行となるように配されている。
【0042】
第2の槽3(各メッキ槽3A、3B)のメッキ液内には、陽極34が上記往復走行するワイヤー9と平行に配されている。回転ローラー30と陽極34には、それぞれ給電装置が接続され、回転ローラー30の外周面を通じてワイヤー9にも電流が供給される。これにより回転ローラー30、31間を往復しているワイヤー9の各ループが陰極となり、陽極34近傍にてワイヤーの外周部にメッキ被膜を介して砥粒80が付着する。
【0043】
第2の槽3(各メッキ槽3A、3B)の内部には、
図2(a)、(b)に示すように、メッキ液供給手段4から供給された砥粒含有メッキ液を外周部の通孔351、352から噴出するメッキ液噴出管35が設けられている。メッキ液噴出管35は、第2の槽3の内部を走行するワイヤー9の下方に、該ワイヤーに沿って配置されるとともに、外周部のワイヤーに対向する上側位置およびワイヤーと反対側の下側位置に、通孔351、352が設けられている。
【0044】
このような噴出形態とすることで、通孔351からワイヤーに向けて上方に噴出した砥粒含有メッキ液の流れが、通孔352から下方に噴出して槽内の底から上方に戻ってくる流れにより、ワイヤー9の付近で滞留し、砥粒がワイヤーにより付着しやすい状況を作成することができる。ただし、他の噴出形態を採用することも勿論可能である。
図2(b)に示すように、ワイヤーごとに仕切り板38で槽内を仕切ることや、さらに仕切り板38で仕切られた槽内の各底面に上記通孔352から下方に噴出したメッキ液が上方にスムーズに戻るための断面視略V字状のガイド板39を設けることが好ましい。
【0045】
検出手段5は、
図1に示すように、第1の槽2から出て走行しているワイヤー9の外表面を撮像するカメラ50と、該カメラ50で得られた画像情報に基いてワイヤー9外表面に付着している砥粒80の量を算出する制御手段6としての制御コンピュータから構成されている。制御手段6としての制御コンピュータは、上記カメラ50、攪拌装置7の駆動モータ72、メッキ液供給手段4の吸出ポンプ40がそれぞれ接続されている。
【0046】
制御手段6の制御コンピュータは、カメラ50から受信した画像情報に基づき砥粒の量を算出する検出手段5として機能すると同時に、算出された砥粒の量に基づき、駆動モータ72又は吸出ポンプ40に制御信号を送信し、攪拌装置7による攪拌量を制御する攪拌量制御処理部60d、又はメッキ液供給手段4による供給量を制御する供給量制御処理部60eとしても機能する。
【0047】
より詳しくは、制御手段6としての制御コンピュータは、
図3に示すように、処理装置60と記憶手段61を備え、処理装置60に上記カメラ50、駆動モータ72、メッキ液供給手段4の吸出ポンプ40が接続されている。処理装置60はマイクロプロセッサなどのCPUを主体に構成され、図示しないRAM、ROMからなる記憶部を有して各種処理動作の手順を規定するプログラムや処理データが記憶される。
【0048】
処理装置60は、機能的にはカメラ50から受信する画像情報を記憶手段61の画像情報記憶部61aに記憶する画像情報取得処理部60aと、前記画像情報記憶部61aに記憶された画像情報に基づいて砥粒の量を算出する砥粒量算出処理部60bと、前記砥粒量算出処理部60bで算出された砥粒の量が設定された所定の範囲内にあるか否か判定する判定処理部60cと、判定処理部60cの判定結果に応じて、攪拌量を増減させる制御信号を生成し、該信号を駆動モータ72に送信する攪拌量制御処理部60dと、判定処理部60cの判定結果に応じて、供給量を増減させる制御信号を生成し、該信号を吸出ポンプ40に送信する供給量制御処理部60eとを少なくとも備え、これら機能は上記プログラムにより実現される。
【0049】
画像情報取得処理部60aや砥粒量算出処理部60bの詳細は、特開2012-232389号公報に記載の処理(変形例を含む)を同様に適用できる。たとえば、
図4(a)はカメラ50で撮像される領域62を示す概略図であり、
図4(b)~(d)はそれぞれ画像情報取得処理部60aにより取得され、記憶手段61の画像情報記憶部61aに記憶される画像情報の例を示している。
【0050】
また砥粒量算出処理部60bは、これら画像情報に基づき、砥粒の量として砥粒80の数量、面積比などの数値として算出する。この数量や面積比は、画像情報の全体又は所定領域に含まれる砥粒を認識してその数や面積比を算出することもできるし、外形上、所定の高さ以上に突出している部分を砥粒と認識してその数を算出することも可能であり、その他、同じく付着した砥粒の量を反映する数値でもよい。
【0051】
判定処理部60cは、砥粒量算出処理部60bで算出された砥粒の量、例えば砥粒の数の合算値が、設定された所定の数値範囲内にあるか否か判定する。そして、例えば合算値が上限値を上回った場合は、攪拌量制御処理部60dがその超えた値の大きさに応じて攪拌量を減少させる量を予め定められた式に基づいて算出し、減少させる制御信号を生成して駆動モータ72に送信するか、または供給量制御処理部60eがその超えた値の大きさに応じて供給量を減少させる量を予め定められた式に基づいて算出し、減少させる制御信号を生成して吸出ポンプ40に送信する。
【0052】
逆に下限値を下回った場合には、攪拌量制御処理部60dがその下回った値の大きさに応じて攪拌量を増加させる量を予め定められた式に基づいて算出し、増加させる制御信号を生成して駆動モータ72に送信するか、または供給量制御処理部60eがその下回った値の大きさに応じて供給量を増加させる量を予め定められた式に基づいて算出し、増加させる制御信号を生成して吸出ポンプ40に送信する。これら増減量は式に基づいて算出するのではなく、あらかじめ一定の増減量に決めておいてもよい。
【0053】
図6は、共通の第1の槽2に対し、2つ以上の第2の槽3を並列に設けた、本発明の他の実施形態に係るソーワイヤーの装置1Aを示している。検出手段5は、第2の槽3をそれぞれ通過する各ワイヤー9上に付着する砥粒をそれぞれ検出する。また、制御手段6は、検出手段5の検出の結果に基づき、第1の槽2におけるメッキ液の攪拌量、及び第2の槽3への砥粒含有メッキ液の各供給量のうち、少なくとも一方を制御し、各ワイヤー9上の砥粒の付着量を調整する。
【0054】
このような装置によれば、2本以上のソーワイヤーを同時に効率よく製造できるとともに、制御手段6として制御コンピュータにより、各ワイヤー上の砥粒の付着量のばらつきを、第2の槽3への砥粒含有メッキ液の各供給量を制御することで調整することができ、各第2の槽3で製造されるソーワイヤーの砥粒付着量についても均一化を図ることができ、安定した品質を維持できる。
【0055】
第2の槽3は、上述の代表的実施形態と同様の構成(変形例を含む)を採用できる。その他の構成(変形例)についても、上述の代表的実施形態と同様の構成を採用でき、同一構成については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0057】
以下、
図1の装置を用い、砥粒含有メッキ液の供給量、攪拌装置による攪拌量をそれぞれ変化させた場合の砥粒の付着量を確認した試験の結果について説明する。
【0058】
試験条件は、次のとおりとした。
・ワイヤー素線径:0.04mm
・メッキ液の種類:ニッケルメッキ液
・砥粒:サンゴバン社製「MB-DWタイプ」5-10(単位:μm)サイズ
・ワイヤー走行速度:40m/min
・第2の槽(メッキ槽)のメッキ液の温度:45℃、pH:4.0、電流値:2.0A
【0059】
図7の結果、ポンプ出力が大きいほど、また、攪拌量(攪拌速度)が大きいほど、砥粒の付着量が多くなることが確認された。