(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140163
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】はんだ接合法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20220915BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20220915BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
C22C13/00
C22C12/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040861
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温でのはんだ接合が可能で、しかも、高い信頼性をも併せ持つ汎用性のある鉛フリーはんだ合金、及びはんだ接合方法を提供する。
【解決手段】基板の電極と電子部品の電極とを接合するはんだ組成にAgを含有しないはんだ合金を用いることによって、基板とはんだ接合部の接合界面にAg3Sn金属間化合物を生成することを防止して、高い信頼性を有するはんだ接合を実現させることを可能とした。はんだ接合に用いるのはSn-Bi系低融点はんだである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板電極と電子部品電極のはんだ接合に於いて、基板とはんだ接合部の接合界面にAg3Sn金属間化合物を生成させないことを特徴とするはんだ接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の接合方法に於いて、はんだ接合に用いるはんだ合金にAgが含有していないことを特徴とするはんだ接合方法。
【請求項3】
請求項1及び請求項2記載のはんだ接合方法に於いて、はんだ接合に用いるはんだ合金組成がSn-Bi系低融点はんだ組成であることを特徴とするはんだ接合方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3記載のはんだ接合方法を用いて接合したことを特徴とするはんだ接合部並びに電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合方法、及び当該はんだ接合方法を用いたはんだ接合部に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境負荷軽減のため、電子部品の接合材料として鉛フリーはんだが広く普及しており、Sn-Ag-Cu系はんだ合金やSn-Cu-Ni系はんだ合金はその代表的な組成であるが、耐熱温度が低い電子部品の接合には、BiやInを多く含有する低融点はんだ合金も用いられている。
【0003】
そして、近年のノートPCやスマートフォン、特にウェアラブル機器では、その特性から小型化が進み、消費電力の少ないCPUや長時間動作可能な電源などが必要とされている。
そして、それら電子部品の接合に用いられるはんだ合金も低融点特性に加え、接合信頼性も求められており、それに伴うはんだ付け工法の提案もなされている。
特許文献1では、2.5質量%以上3.1質量%以下のAgと、0.6質量%以上1質量%以下のCuと、3質量%以上5質量%以下のSbと、3.1質量%以上4.5質量%以下のBiと、0.01質量%以上0.1質量%以下のNiと、0.0085質量%以上0.1質量%以下のCoとを含み、残部がSnからなる鉛フリーはんだを用いて、電極がSn-3Ag-0.5Cu合金から構成されるBGAのはんだ接合がはんだ接合部に発生するクラックの進展を抑制するという技術が開示されている。
特許文献2では、Sn-In系ハンダを用いてはんだ接合時に於けるハンダの濡れ性を確保し、ハンダ融点の劇的低下を解決する技術が開示されている。
特許文献3では、電子部品の電極に形成したはんだ合金よりも融点の低いSn-Bi系はんだ合金を用いて、電子部品の熱的損傷を低減し、優れた接続信頼性を有するはんだ継手を形成し、基板の電極と電子部品の電極とを接合するはんだ接合に関する技術が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1~特許文献3で開示されているはんだ合金並びにそれを用いたはんだ接合方法に関する技術には、低融点鉛フリーはんだ合金を用いた電子部品電極との接合信頼性を十分に満足する技術の提案がなされていないのが現状である。
【0005】
一方、最近のPCやスマートフォン等に於いては環境に配慮したはんだ付けに加え、接合信頼性やコスト削減の供給をも満たすはんだ合金並びにはんだ付けの方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-104169号公報
【特許文献2】登録第6579253号公報
【特許文献3】特開2018-121055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低温でのはんだ接合が可能で、しかも、高い信頼性をも併せ持つ汎用性のある鉛フリーはんだ合金及びはんだ接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく、低融点の鉛フリーはんだ合金並びに当該はんだ合金を用いたはんだ接合方法に着目して鋭意検討を重ねた結果、基板の電極と電子部品の電極とを接合するはんだ組成にAgを含有しないはんだ合金を用いることによって、基板とはんだ接合部の接合界面にAg3Sn金属間化合物を生成させないことにより、高い信頼性を有するはんだ接合を実現させることを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち本発明は、Cuは主流の基板電極とSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ合金BGAの電子部品の電極を鉛フリーはんだ合金にて接合する場合に、はんだ合金組成にAgを含有しない鉛フリーはんだ合金を用いて電子部品の電極とはんだ接合することにより、
基板電極のはんだとの接合界面にAg3Snの生成させないことに成功し、高い接合信頼性を有するはんだ接合を可能とした。
更に、Sn-Bi系鉛フリーはんだ合金を用いることにより、200℃以下の低温ではんだ接合が可能となり、環境負荷の低減と電子部品の熱損傷の抑制、基板や電子部品の耐熱性を下げることによるコスト低減をも可能とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、低温でのはんだ接合を可能とし、しかも高い接合信頼性を有するはんだ接合が可能となり、環境負荷の低減と電子部品の熱損傷の抑制、基板や電子部品の耐熱性を下げることによるコスト低減が可能になるため、PC等の電子機器等に広く応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1のはんだ組成にて接合したはんだ接合部の断面SEM写真。
【
図2】本発明の実施例2のはんだ組成にて接合したはんだ接合部の断面SEM写真。
【
図3】比較例1のはんだ組成にて接合したはんだ接合部の断面SEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のはんだ接合方法は、基板とはんだとの接合界面にAg3Sn金属間化合物を生成させない鉛フリーはんだ合金組成、すなわち、Agを含有しないはんだ合金組成を用いてはんだ接合を行うことである。
従来は、電子部品の電極と同じ組成のはんだ合金、例えば、Sn-3Ag-0.5Cuをはんだ接合に使用していた。
最近では、低融点はんだ合金であるSn-Bi共晶組成やBiが30質量%以上含有した組成をはんだ接合に試みられているが、元来、Biが多量に含有されたはんだ合金を用いたはんだ接合部は接合部の脆さが指摘されており、接合強度向上の目的でAgが0.1~1.0質量%添加された組成が検討されてきた。
しかし、電子機器の連続使用や負荷条件を想定したエージングにより、Agを含有しBiが多量に含有する低温鉛フリーはんだ合金では、経時的に接合強度が低下することが判明し、その解決方法を検討した結果、上記の如く、Agを含有しないはんだ合金組成を用いることにより、電子部品の電極組成にAgが含まれていても、基板とのはんだ接合界面にAg3Snが生成しないことを見出し、信頼性の高いはんだ接合方法を完成させた。
【0013】
一方、Cuを電極とする基板とSn-4Ag-0.5Cuを電極とする電子部品の接合にAgを含有しない低温鉛フリーはんだを用いた接合に関して、特許文献1の実施例ではんだ組成と電極の組合せの開示はなされているが、はんだ接合時の冷却方法によりBi層の微細化の有無をポイントとして発明がなされているため、本発明の基板とはんだ接合の接合界面に生成するAg3Snについては全く触れておらず、Ag3Snの存在が接合信頼性の有無を左右することの示唆すらなされていない。
【0014】
更に、本発明のはんだ接合方法に用いる鉛フリーはんだ合金は、Sn-Bi系鉛フリーはんだが好ましく、42Sn58Bi共晶組成やBiを30~50質量%、Sbを0.1質量%以上3.0質量%以下、Cuを0.1質量%以上2.0質量%以下、Niを0.001質量%以上0.5質量%以下、残部Sn組成が更に好ましく、本発明の効果を有する範囲に於いて、前記組成にIn、P、Ge、Ga、Si、Ti、Al、Mn、V、Pd等の成分を含有させても構わない。
また、本発明の効果を有する範囲に於いて、上記組成以外のAgを含有しない鉛フリーはんだ合金組成を用いても構わない。
【実施例0015】
以下に、実施例を示し、本発明について説明する。
(はんだ合金組成)
・実施例1:Sn-37Bi-0.5Cu-0.5Sb-0.03Ni
・実施例2:42Sn-58Bi
・比較例1:Sn-57Bi-1Ag
(試料作成)
・上記はんだ組成を用い、粒径500μmのはんだボールを作製し、株式会社日本スペリア社製フラックスRM-5を、無酸素銅を有する基板(15×15×1.6mm、FR-4)に適量塗布し、前記はんだボールをマウントし、株式会社タムラ製作所社製リフロー装置TNW33-36ETを用いてリフリーはんだ付けを実施し、評価試料を作製した。
・その後、各評価試料の一部を75℃の恒温槽に100時間投入し、エージング処理を行い、断面観察用試料を作製した。
(試料の評価)
・実施例1、実施例2、及び比較例1の各合金組成にて作製した断面観察用試料を日本電子株式会社製走査電子顕微鏡(JSM-6360LA)を用い、断面観察を行い、各試料を評価した。
(評価結果)
・評価結果を
図1~
図3に示す。
【0016】
図1は本発明の実施例1、
図2は本発明の実施例2であり、両方共エージング前後でBi粒子(1)の肥大化以外に変化はなく、Ag3Sn金属間化合物(4)の生成は見られない。
一方、
図3は比較例として、Agを含有するはんだ合金にてはんだ接合した試料であるが、エージング処理前にAg3Sn金属間化合物の結晶が接合界面付近に見られ、エージング後にはAg3Sn金属間化合物が肥大していることが分かった。
このように、本発明のはんだ接合方法であるAgを含有しない鉛フリーはんだ合金を基板電極とのはんだ接合に用いることにより、エージング処理を行った場合に於いても接合界面及び接合界面付近にAg3Snの発生が見られないことが分かり、接合信頼性の高い接合であることが判明した。