IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 前田工繊株式会社の特許一覧

特開2022-140165抗微生物活性繊維糸、抗微生物活性繊維糸の製造方法、抗微生物活性不織布及び抗微生物活性マスク
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140165
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】抗微生物活性繊維糸、抗微生物活性繊維糸の製造方法、抗微生物活性不織布及び抗微生物活性マスク
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20220915BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20220915BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20220915BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20220915BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20220915BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
D01F1/10
A41D13/11 M
D04H1/4374
D04H3/16
D01F6/46 A
B01D39/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040864
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103805
【弁理士】
【氏名又は名称】白崎 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100126516
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 綽勝
(74)【代理人】
【識別番号】100132104
【弁理士】
【氏名又は名称】勝木 俊晴
(74)【代理人】
【識別番号】100211753
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】大蔵 正明
(72)【発明者】
【氏名】三村 公宏
(72)【発明者】
【氏名】西尾 彰浩
【テーマコード(参考)】
4D019
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB03
4D019BB05
4D019BC06
4D019BC10
4D019BC11
4D019BC12
4D019BC13
4D019BD01
4D019BD03
4D019CA02
4D019CB06
4D019DA02
4D019DA03
4D019DA05
4D019DA06
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE11
4L035FF01
4L035FF05
4L035KK01
4L035KK05
4L035LA01
4L047AA14
4L047AA29
4L047AB03
4L047BA09
4L047CA12
4L047CA19
4L047CB08
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】除染効果が優れると共に、汚れが付着し難い抗微生物活性繊維糸、抗微生物活性繊維糸の製造方法、抗微生物活性不織布及び抗微生物活性マスクを提供すること。
【解決手段】本発明は、抗微生物活性物質2が合成糸1に埋設された抗微生物活性繊維糸10であって、抗微生物活性物質2が最大径0.1~10μmの粒子状であり、合成糸1の垂直断面における最大径が、10~60μmであり、合成糸1の表面に抗微生物活性物質2が膨出している抗微生物活性繊維糸10、その製造方法、抗微生物活性繊維糸10を用いた抗微生物活性不織布、及び、抗微生物活性繊維糸を用いた抗微生物活性マスクである。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗微生物活性物質が合成糸に埋設された抗微生物活性繊維糸であって、
前記抗微生物活性物質が最大径0.1~10μmの粒子状であり、
前記合成糸の垂直断面における最大径が、10~60μmであり、
前記合成糸の表面に前記抗微生物活性物質が膨出している抗微生物活性繊維糸。
【請求項2】
前記抗微生物活性物質が、抗菌活性又は抗ウィルス活性を示す有機物質であり、
前記抗微生物活性物質の配合割合が0.5~10質量%である請求項1記載の抗微生物活性繊維糸。
【請求項3】
前記合成糸の素材が、ポリオレフィンである請求項1又は2に記載の抗微生物活性繊維糸。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗微生物活性繊維糸の製造方法であって、
溶融した合成高分子及び前記抗微生物活性物質を含有する混合物を紡糸し、丸線状のプレ繊維糸とする紡糸工程と、
前記プレ繊維糸を延伸し、前記合成糸の表面に前記抗微生物活性物質を膨出させる延伸工程と、
を備える抗微生物活性繊維糸の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗微生物活性繊維糸を用いた抗微生物活性不織布。
【請求項6】
エアフィルターとして用いられ、
目付が8~400gsmであり、
厚さが0.05~5mmであり、
通気度が100~2000cc/cm/sである請求項5記載の抗微生物活性不織布。
【請求項7】
エンボス加工により表面に凹部が形成されており、
該凹部が占める面積の割合が5~40%である請求項5又は6に記載の抗微生物活性不織布。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の抗微生物活性不織布を用いた抗微生物活性マスクであって、
メルトブロー不織布、該メルトブロー不織布の表面側に積層された第1不織布、及び、前記メルトブロー不織布の裏面側に積層された第2不織布、を有する本体部と、
該本体部の両側にそれぞれ取り付けられた耳紐と、
を備え、
装着時には、前記第2不織布が装着者の顔に接するものであり、
外側に位置する前記第1不織布が前記抗微生物活性不織布である抗微生物活性マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物活性繊維糸、抗微生物活性繊維糸の製造方法、抗微生物活性不織布及び抗微生物活性マスクに関し、更に詳しくは、抗微生物活性物質を含む抗微生物活性繊維糸、抗微生物活性繊維糸の製造方法、抗微生物活性繊維糸を用いた抗微生物活性不織布、及び、抗微生物活性繊維不織布を用いた抗微生物活性マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
飲食店等においては、インフルエンザウィルス、コロナウィルス、ノロウィルス等のウィルス、ブドウ球菌等の細菌等の微生物による感染症の対策として、従業員にマスク、手袋、専用の衣服等を着用させることの他、適宜、店内の除染が行われている。
店内の除染としては、例えば、除染用エアフィルターを用いた空気清浄機による店内の空間の除染や、除染用布巾で店内のテーブル等を拭くことによる除染が行われている。
【0003】
このように、感染症対策には、マスク、手袋、衣服、エアフィルター、布巾等、繊維製品が用いられる。
除染用の繊維製品の具体例としては、例えば、清浄剤、樹脂バインダー、および、布もしくは不織布を含んでなるフィルタであって、樹脂バインダーは、水性アクリル樹脂とカップリング剤とを含んでなり、水性アクリル樹脂は、水酸基含有(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体、不飽和結合含有有機酸、およびその他の(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体を含むモノマーを重合させた重合体であり、かつ、ガラス転移温度が30~100℃の範囲にある水性アクリル樹脂である、フィルタ材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、使用者の口と鼻を覆ってその使用者の顔に密着して接触させるのに好適な形状の通気性マスクであって、使用者の顔の所定の位置にマスクを保持する手段を具備し、かつフィルター材層を一層もしくは複数層を含み、該フィルター材は使用者の吸気および/または呼気が該フィルター材を通過するように配置されており、フィルター材が、酸性ポリマーを配合した通気性基材を含むマスクが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-177599号公報
【特許文献2】特表2009-543632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載のフィルタ材においては、樹脂バインダーを使用しているため、清浄剤が樹脂バインダーにより被覆され、清浄剤自体による効果を十分に発揮することができないという欠点がある。
上記特許文献2記載のマスクにおいては、酸性ポリマーを使用しているが、脱落し易く、除染効果が十分に優れるとはいえない。
【0006】
また、上記特許文献1のフィルタ材、及び、上記特許文献2記載のマスクは、汚れが付着し易いという欠点がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、除染効果が優れると共に、汚れが付着し難い抗微生物活性繊維糸、抗微生物活性繊維糸の製造方法、抗微生物活性不織布及び抗微生物活性マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、所定の抗微生物活性物質を、合成糸に埋設させ、且つ、抗微生物活性物質の一部を合成糸の表面から膨出させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、(1)抗微生物活性物質が合成糸に埋設された抗微生物活性繊維糸であって、抗微生物活性物質が最大径0.1~10μmの粒子状であり、合成糸の垂直断面における最大径が、10~60μmであり、合成糸の表面に抗微生物活性物質が膨出している抗微生物活性繊維糸に存する。
【0010】
本発明は、(2)抗微生物活性物質が、抗菌活性又は抗ウィルス活性を示す有機物質であり、抗微生物活性物質の配合割合が0.5~10質量%である上記(1)記載の抗微生物活性繊維糸に存する。
【0011】
本発明は、(3)合成糸の素材が、ポリオレフィンである上記(1)又は(2)に記載の抗微生物活性繊維糸に存する。
【0012】
本発明は、(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の抗微生物活性繊維糸の製造方法であって、溶融した合成高分子及び抗微生物活性物質を含有する混合物を紡糸し、丸線状のプレ繊維糸とする紡糸工程と、プレ繊維糸を延伸し、合成糸の表面に抗微生物活性物質を膨出させる延伸工程と、を備える抗微生物活性繊維糸の製造方法に存する。
【0013】
本発明は、(5)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の抗微生物活性繊維糸を用いた抗微生物活性不織布に存する。
【0014】
本発明は、(6)エアフィルターとして用いられ、目付が8~400gsmであり、厚さが0.05~5mmであり、通気度が100~2000cc/cm/sである上記(5)記載の抗微生物活性不織布に存する。
【0015】
本発明は、(7)エンボス加工により表面に凹部が形成されており、該凹部が占める面積の割合が5~40%である上記(5)又は(6)に記載の抗微生物活性不織布に存する。
【0016】
本発明は、(8)上記(5)~(7)のいずれか1つに記載の抗微生物活性不織布を用いた抗微生物活性マスクであって、メルトブロー不織布、該メルトブロー不織布の表面側に積層された第1不織布、及び、メルトブロー不織布の裏面側に積層された第2不織布、を有する本体部と、該本体部の両側にそれぞれ取り付けられた耳紐と、を備え、装着時には、第2不織布が装着者の顔に接するものであり、外側に位置する第1不織布が抗微生物活性不織布である抗微生物活性マスクに存する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抗微生物活性繊維糸は、最大径を上記範囲とした粒子状の抗微生物活性物質が、最大径を上記範囲とした合成糸の表面から膨出しているので、抗微生物活性物質の除染効果を十分に発揮することができる。
なお、抗微生物活性繊維糸は、バインダーやポリマー等の接着剤を付着させていないため、これによって除染効果が阻害されることもない。
【0018】
本発明の抗微生物活性繊維糸は、抗微生物活性物質が合成糸に埋設されているので、バインダーやポリマー等の接着剤を付着させずとも、抗微生物活性物質を合成糸に保持させることができる。
この場合、抗微生物活性繊維糸が擦れる等したとしても、抗微生物活性物質が脱落することを抑制することができる(以下「脱落抑制効果」という。)。
また、洗濯堅牢度も向上させることができる。
また、上記抗微生物活性繊維糸は、バインダーやポリマー等の接着剤を付着させていないため、汚れが付着し難い。
【0019】
本発明の抗微生物活性繊維糸において、抗微生物活性物質が、抗菌活性又は抗ウィルス活性を示す有機物質である場合、合成糸との相溶性が優れるものとなる。
このため、抗微生物活性物質の脱落抑制効果を向上させることができる。
このとき、抗微生物活性繊維糸においては、合成糸の素材がポリオレフィンであると、有機物質である抗微生物活性物質との相溶性がより優れるものとなるので、脱落抑制効果をより向上させることができる。
【0020】
本発明の抗微生物活性繊維糸の製造方法においては、紡糸工程ではなく、延伸工程で、合成糸の表面に抗微生物活性物質を膨出させる。
このとき、合成糸及び抗微生物活性物質の最大径を上記範囲内としているので、延伸工程により、比較的容易に抗微生物活性物質を膨出させることができる。
これにより、抗微生物活性物質が適度に膨出した状態となり、膨出し過ぎて脱落することを抑制できる。
なお、抗微生物活性物質を膨出させることによる効果は上述した通りである。
【0021】
本発明の抗微生物活性不織布は、上述した、抗微生物活性繊維糸を用いているので、除染効果が優れるものであり、汚れが付着し難い。
また、エアフィルターとして用いる場合は、目付、厚さ及び通気度を上記範囲内とすることにより、エアフィルターとしても機能を担保しつつ、除染効果を十分に発揮することができる。
【0022】
上記抗微生物活性不織布においては、エンボス加工により表面に凹部を形成することが好ましい。この場合、抗微生物活性不織布自体の強度をより向上させることができる。
また、凹部においては、抗微生物活性繊維糸の密度が高くなるため、除染効果がより優れるものとなる。
一方で、凹部以外の部分においては、不織布特有の通気性を維持することができる。
したがって、この場合の抗微生物活性不織布は、通気性を維持しつつ、除染効果が優れるものとなる。
なお、凹部が占める面積の割合を上記範囲内とすることにより、風合いを損なわず、強度をより向上させることができる。
【0023】
本発明のマスクは、上述した、抗微生物活性不織布を用いることにより、除染効果が優れるものとなる。
また、抗微生物活性不織布(第1不織布)が外側に位置することになるので、汚れが付着し難い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明に係る抗微生物活性繊維糸の一実施形態を拡大して示す概略斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明に係る抗微生物活性不織布の一実施形態を示す概略図である。
図4図4は、本発明に係る抗微生物活性マスクの一実施形態を示す概略図である。
図5(a)】図5(a)は、実施例における抗微生物活性繊維糸の電子顕微鏡写真である。
図5(b)】図5(b)は、実施例における抗微生物活性繊維糸の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
本発明に係る抗微生物活性繊維糸は、抗微生物活性を示す繊維糸である。
なお、かかる微生物には、ウィルス、細菌、真菌、寄生虫等が含まれる。
また、上記抗微生物活性繊維糸は、通常の糸と同様に、織物、編物、不織布、組物等の原糸とすることができる。
【0027】
図1は、本発明に係る抗微生物活性繊維糸の一実施形態を拡大して示す概略斜視図である。
本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸10は、合成糸1と抗微生物活性物質2とを含有し、図1に示すように、抗微生物活性物質2が合成糸1に埋設され、且つ、合成糸1の表面から膨出した構造となっている。
【0028】
抗微生物活性繊維糸10においては、抗微生物活性物質2の少なくとも一部が合成糸1に埋設され、抗微生物活性物質2と合成糸1とが一体化しているので、抗微生物活性物質を接着剤で接着した場合と比較して、抗微生物活性物質2の脱落抑制効果が優れる。
また、洗濯堅牢度も向上する。
これに加え、抗微生物活性繊維糸10においては、抗微生物活性物質2の少なくとも一部が合成糸1の表面から膨出しているので、抗微生物活性物質2の除染効果を十分に発揮することができる。
また、抗微生物活性繊維糸10は、バインダーやポリマー等の接着剤を、別途、付着させていないため、汚れが付着し難い。
【0029】
抗微生物活性繊維糸10において、合成糸1の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等のポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル等の合成高分子が用いられる。これらは、単独で用いても複数を混合して用いてよい。
これらの中でも、合成糸1の素材は、抗微生物活性物質2が有機物質である場合、相溶性及び融点の観点から、ポリオレフィンであることが好ましく、汎用性及び強度の観点から、ポリプロピレンであることがより好ましい。
因みに、合成糸1が低融点であると、溶融させる際に、抗微生物活性物質2の分解や変質を抑制することができる。
【0030】
合成糸1は、その垂直断面における最大径が10~60μmであり、15~40μmであることが好ましい。
合成糸1の垂直断面における最大径が10μm未満であると、抗微生物活性繊維糸10自体が切れ易くなる。
また、脱落抑制効果も不十分となる。
一方で、合成糸1の垂直断面における最大径が60μmを超えると、抗微生物活性物質2の多くが合成糸1に埋もれてしまい、除染効果を十分に発揮できない恐れがある。
なお、上記最大径とは、断面の中心から、その断面全てが含まれるように引いた最小の円の直径を意味する。
【0031】
抗微生物活性物質2としては、抗菌活性、防カビ活性、抗ウィルス活性等を示す物質が挙げられ、具体的には、銀系、亜鉛系、銅系、ゼオライト等の無機物質、アルコール系、フェノール系、アルデヒド系、カルボン酸系、エステル系、エーテル系、ニトリル系、過酸化物系、ハロゲン系、界面活性剤系、有機金属系、有機錯体系等の有機物質が挙げられる。
これらは、単独で用いても複数を混合して用いてよい。
これらの中でも、抗微生物活性物質2は、抗菌活性又は抗ウィルス活性を示す物質であることが好ましく、合成糸1との相溶性の観点から、これらが有機物質であることがより好ましい。
【0032】
抗微生物活性繊維糸2においては、上述したように、抗微生物活性物質2を合成糸1の表面から膨出させるため、当該抗微生物活性物質2の形態としては、固体の粒子状を採用している。
具体的には、抗微生物活性物質2は、最大径が0.1~10μmの粒子状であり、2~8μmの粒子状であることが好ましい。
抗微生物活性物質2の最大径が0.1μm未満であると、抗微生物活性物質2の多くが合成糸1に埋もれてしまい、除染効果を十分に発揮できない恐れがある。
一方で、抗微生物活性物質2の最大径が10μmを超えると、合成糸1による保持能力では抗微生物活性物質2を十分に保持できず、脱落抑制効果が不十分となる。
【0033】
したがって、抗微生物活性繊維糸10においては、合成糸1の垂直断面における最大径が10~60μmであり、且つ、抗微生物活性物質2の最大径が0.1~10μmである。
この両方の最大径を満たすことにより、上述した効果を十分に発揮することが可能となる。
【0034】
抗微生物活性繊維糸10において、抗微生物活性物質2の配合割合は0.5~10質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。
抗微生物活性物質2の配合割合が0,5質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、除染効果が不十分となる傾向にあり、抗微生物活性物質2の配合割合が10質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、抗微生物活性繊維糸10自体が切れ易くなる傾向にある。
【0035】
抗微生物活性繊維糸10の表面積において、少なくとも1個の抗微生物活性物質2を膨出させる表面積(以下「単位表面積」ともいう。)の範囲は、0.5×10-3~3×10―3mmであることが好ましい。換言すると、上記範囲の単位表面積あたり、少なくとも1個の抗微生物活性物質2を膨出させることが好ましい。
少なくとも1個の抗微生物活性物質2を膨出させる単位表面積が、0.5×10-3mm未満であると、当該単位表面積が上記範囲内にある場合と比較して、除染効果が不十分となる傾向にあり、少なくとも1個の抗微生物活性物質2を膨出させる単位表面積が、3×10-3mmを超えると、当該単位表面積が上記範囲内にある場合と比較して、抗微生物活性糸10が切れ易くなる欠点がある。
【0036】
なお、抗微生物活性繊維糸10は、酸化防止剤、遮光剤、熱老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤、着色剤、スリップ剤、メヤニ防止剤、消臭剤、撥水剤、撥アルコール剤、造核剤等の助剤を含んでいてもよい。
【0037】
次に、抗微生物活性繊維糸10の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸の製造方法は、少なくとも、紡糸工程S1と、延伸工程S2とを備える。
上記抗微生物活性繊維糸10の製造方法においては、後述するように、紡糸工程S1ではなく、延伸工程S2で、合成糸1の表面に抗微生物活性物質2を膨出させる。
【0038】
紡糸工程S1は、溶融した合成高分子及び抗微生物活性物質2を含有する混合物を紡糸し、プレ繊維糸とする工程である。すなわち、紡糸工程S1においては、いわゆる溶融紡糸によりプレ繊維糸を製造している。
【0039】
紡糸工程S1においては、まず、溶融した合成高分子及び抗微生物活性物質2を混合して混合物とする。
ここで、合成高分子(合成糸1)及び抗微生物活性物質2は、上述したものが適宜採用される。
このとき、抗微生物活性物質2の分解を避けるため、合成高分子は、極力低融点のものを採用することが好ましい。
なお、かかる混合物には、上述した助剤が含まれていてもよい。
【0040】
そして、上記混合物を紡糸する。すなわち、高温の混合物を紡糸口金から押し出し、それを冷却することにより固化させる。
このとき、紡糸工程S1においては、直径が200~1000μmの紡糸口金を用いることができる。
その中でも、一般的な紡糸口金(400μm)よりも大きい、直径が500~800μmの紡糸口金を用いることが好ましい。この場合、歩留まり良く、プレ繊維糸を製造することが可能となる。
すなわち、プレ繊維糸が切れ難く、紡糸口金の目詰まりも生じ難い。
また、抗微生物活性物質2を極力分散することができ、当該抗微生物活性物質2が偏った状態でプレ繊維糸が形成されることを防止できる。
【0041】
こうして得られるプレ繊維糸は、直径が紡糸口金に応じたサイズの丸線状となる。
なお、かかるプレ繊維糸においては、上述したように、抗微生物活性物質2は、合成高分子(合成糸2)から膨出していない。
【0042】
延伸工程S2は、所定の温度条件下、軟化したプレ繊維糸を引き延ばす工程である。延伸工程S2により、合成高分子が引き延ばされて径が小さくなると共に、その分子配列が整えられる。
このとき、プレ繊維糸の径が小さくなるため、それに含まれる抗微生物活性物質2が、その表面に膨出することになる。
なお、延伸工程S2においては、合成糸1及び抗微生物活性物質2の最大径を上述した範囲とする。
これにより、抗微生物活性物質2が適度に膨出した状態となり、抗微生物活性物質2が膨出し過ぎて脱落することを抑制できる。
【0043】
そして、冷却することにより、抗微生物活性繊維糸10が得られる(図1参照)。
かかる抗微生物活性繊維糸10には、延伸工程S2後、クリンプ加工、油剤処理、コロナ加工、エレクレット加工等を施してもよい。
その中でも、抗微生物活性繊維糸10には、強度向上の観点から、クリンプ加工を施すことが好ましい。
なお、クリンプ加工は、従来公知の方法で行えばよい。
【0044】
図3は、本発明に係る抗微生物活性不織布の一実施形態を示す概略図である。
図3に示すように、本実施形態に係る抗微生物活性不織布11は、ドレープ性を有し、表面に凹部3が設けられている。
抗微生物活性不織布11は、上述した抗微生物活性繊維糸10を織らずに絡み合わせたシート状のものである。
なお、抗微生物活性不織布には、フェルトも含まれる。
このように、抗微生物活性不織布11は、抗微生物活性繊維糸10を用いて製造されるので、除染効果が優れるものであり、汚れが付着し難い。
【0045】
抗微生物活性不織布11は、その表面に複数の凹部3が形成されている。
かかる凹部は、いわゆるエンボス加工により施される。
すなわち、熱した型を抗微生物活性不織布11の表面に押し当て、型に接する部分を溶融することにより、凹部3を形成したものである。
これにより、抗微生物活性不織布11の強度をより向上させることができる。また、抗微生物活性不織布11は、通気性を維持しつつ、除染効果がより優れるものとなる
【0046】
ここで、凹部3は、上面視で矩形状となっており、縦方向及び横方向に等間隔で配列されている。
このとき、凹部3が占める面積の割合は、全体の5~40%であることが好ましく、10~20%であることがより好ましい。
凹部3が占める面積の割合が5%未満であると、割合が上記範囲内にある場合と比較して、強度の向上が十分に認められない傾向にあり、凹部3が占める面積の割合が40%を超えると、割合が上記範囲内にある場合と比較して、抗微生物活性不織布11が硬くなり、風合いを損ねる欠点がある。
【0047】
抗微生物活性不織布11は、抗微生物活性繊維糸10を用い、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法、エアスルー法等により製造される。
また、抗微生物活性不織布11は、湿布基材、ガーゼ、衣服、布巾、マスク、手袋、吸音ボード、防音防振材、エアフィルター、ヘアキャップ等の用途に採用することができる。
【0048】
ここで、抗微生物活性服飾11を、空気清浄機やマスク等のエアフィルターとして用いる場合、抗微生物活性不織布11の目付は8~400gsmであることが好ましく、10~300gsmであることがより好ましく、13~200gsmであることが更に好ましく、13~100gsmであることがより一層好ましい。
抗微生物活性不織布11の目付が8gsm未満であると、目付が上記範囲内にある場合と比較して、目が粗くなり過ぎ、破れ易く、微生物を捕獲できない場合が生じる恐れがあり、抗微生物活性不織布11の目付が400gsmを超えると、目付が上記範囲内にある場合と比較して、微生物を捕獲する効果の向上が見込めず、一方で、取り付け箇所への重量負荷が生じるという欠点がある。
【0049】
また、この場合、抗微生物活性不織布11の厚さは0.05~5mmであることが好ましく、0.1~2mmであることがより好ましく。0.1~1mmであることが更に好ましい。
抗微生物活性不織布11の厚さが0.05mm未満であると、厚さが上記範囲内にある場合と比較して、破れ易く、微生物を捕獲できない場合が生じる恐れがあり、抗微生物活性不織布11の厚さが5mmを超えると、厚さが上記範囲内にある場合と比較して、微生物を捕獲する効果の向上が見込めず、一方で、嵩高くなるため、取り付け箇所に、一定のスペースを要するという欠点がある。
【0050】
また、この場合、抗微生物活性不織布11の通気度は100~2000cc/cm/sであることが好ましい。
抗微生物活性不織布11の通気度が100cc/cm/s未満であると、通気度が上記範囲内にある場合と比較して、十分な換気ができなくなる恐れがあり、抗微生物活性不織布11の通気度が2000cc/cm/sを超えると、通気度が上記範囲内にある場合と比較して、微生物を捕獲できない場合が生じる恐れがある。
【0051】
図4は、本発明に係る抗微生物活性マスクの一実施形態を示す概略図である。
図4に示すように、本実施形態に係る抗微生物活性マスク12は、メルトブロー不織布12a、該メルトブロー不織布12aの表面側に積層された第1不織布11、及び、メルトブロー不織布12aの裏面側に積層された第2不織布12b、を有する本体部5と、該本体部5の両側にそれぞれ取り付けられた耳紐6と、を備える。
なお、本体部5において、第1不織布11、メルトブロー不織布12a及び第2不織布12bは、縫着により連結されている。
【0052】
抗微生物活性マスク12においては、第2不織布12bが装着者の顔に接するものであり、第1不織布11が抗微生物活性不織布11である。
このように、抗微生物活性マスク12は、第1不織布が抗微生物活性不織布11であるので、除染効果が優れるものである。
また、第1不織布11が外側に位置することになるので、汚れが付着し難い。
【0053】
第1不織布11(抗微生物活性不織布11)は、プリーツ加工により、その表面にプリーツ11aが形成されている。
また、第1不織布11の上部には、鼻の形状に沿うように変形させた状態を維持するためのいわゆるノーズフィット11bが取り付けられている。
なお、プリーツ11a及びノーズフィット11bは、従来公知のものであるので、詳細な説明は省略する。
【0054】
第1不織布11(抗微生物活性不織布11)は、抗微生物活性繊維糸10を用いたものであれば特に限定されず、上述した方法で製造される。
また、第2不織布12bは、通常の糸を用いること以外は、第1不織布11と同様に、上述した方法で製造される。
その中でも、第1不織布11及び第2不織布12bは、何れも、スパンボンド法で製造されたものであることが好ましい。この場合、安価に大量生産ができると共に、マスクとしての通気性の調整を比較的容易に行うことができる。
また、メルトブロー不織布12aは、ナノファイバーを用い、メルトブロー法により製造される。
【0055】
耳紐6は、本体部5の両側にそれぞれ縫着される。
耳紐6は、紐状に限定されず、帯状であってもよい。
なお、耳紐6は、従来公知のものであるので、詳細な説明は省略する。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0057】
本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸10は、図1に示すように、抗微生物活性物質が膨出していることを除くと、合成糸1が丸線状となっているが、これに限定されず、異形断面であってもよい。
また、丸線状の場合であっても、芯鞘構造や中空部を有するものであってもよい。
【0058】
本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸10の製造方法においては、紡糸工程S1で溶融紡糸を行っているが、乾式紡糸や湿式紡糸で行ってもよい。
【0059】
本実施形態に係る抗微生物活性繊維糸10の製造方法においては、紡糸工程S1の後、一旦冷却してから延伸工程S2を行っているが、冷却を介さずに紡糸工程S1及び延伸工程S2を連続して行ってもよい。
【0060】
本実施形態に係る抗微生物活性不織布11は、表面に凹部3が設けられているが、必須ではない。
また、凹部3の形状は、上面視で矩形状となっているが、多角形状(矩形状を除く)、丸状、星状等であってもよい。
また、凹部3は、縦方向及び横方向に等間隔で配列されているが、これに限定されない。例えば、ランダムに配置されていてもよい。
【0061】
本実施形態に係る抗微生物活性マスク12においては、外側から、第1不織布11、メルトブロー不織布12a、第2不織布12bが順次積層された3層構造となっているが、更に不織布が積層されていてもよい。このとき、かかる不織布は、抗微生物活性不織布11であってもよい。
なお、装着時に、顔に接する不織布には、抗微生物活性不織布11は用いないことが好ましい。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(サンプル作製)
溶融したポリプロピレン(合成高分子)95質量%とエーテル系抗ウィルス活性剤(最大径5μm、抗ウィルス活性剤)5質量%とを混合し混合物とした。
そして、この混合物を、直径600μmの紡糸口金を用いて防止し(紡糸工程)、続けて延伸することにより(延伸工程)、断面(丸状)の最大径が30μmの抗微生物活性繊維糸を得た。
得られた抗微生物活性繊維糸の電子顕微鏡写真を図5(a)及び図5(b)に示す。
なお、図5(a)は、抗微生物活性繊維糸を400倍に拡大した電子顕微鏡写真であり、図5(b)は、1500倍に拡大した電子顕微鏡写真である。
次に、得られた抗微生物活性繊維糸を用い、スパンボンド法にて、抗微生物活性不織布(検体1)を製造した。
一方、ブランクとして、抗ウィルス活性剤を含めずに同様の方法で製造した不織布(検体2)を準備した。
【0064】
(評価)
JIS-L1922(繊維製品の抗ウィルス性試験方法)に準じ、下記条件にて抗ウィルス活性の試験を行った。
・試験ウィルス:A型インフルエンザウィルス(H3N2)
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)
・試験サンプル:0.4g
・洗い出し液:SCDLP培地
・放置条件:25℃、2時間
・感染価測定法:プラーク測定法
【0065】
1.本試験
宿主細胞にウィルスを感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残差を除去し、滅菌蒸留水を用いて10倍希釈し、1~5×10PFU/mlに調整することによりウィルス懸濁液を得た。
そして、各検体にウィルス懸濁液を0.2ml接種し、25℃、2時間作用後、洗い出し液を20ml加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、検体からウィルスを洗い出した。
プラーク測定法にてウィルス感染価を測定した結果を表1に示す。
2.宿主細胞検証試験
(1)細胞毒性確認試験
各検体に洗い出し液20mlを加え、本試験と同様に洗い出し操作を行った。
そして、プラーク測定法と同様に細胞を染色し、細胞毒性の有無を確認した。
得られた結果を表1に示す。
(2)ウィルスへの細胞の感受性確認試験
各検体に洗い出し液20mlを加え、本試験と同様に洗い出し操作を行った。
そして、これを5ml滅菌済み試験管に採り、これに、4~6×10PFU/mlに調整したウィルス懸濁液を0.05ml加えた。
25℃、30分間静置した後、プラーク測定法にてウィルス感染価を測定し、ウィルスへの細胞の感受性を確認した。
得られた結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1中、抗ウィルス活性値(Mv)は、検体2の接種直後の常用対数平均値と検体1の2時間作用後の常用対数平均値との差である。
また、検体2の接種直後の常用対数平均値と、検体2の2時間作用後の常用対数平均値との差が1以下であるので、「1.本試験」は成立している。
また、検体2のウィルス感染価(PFU/ml)の常用対数平均値と、検体1のウィルス感染価(PFU/ml)の常用対数平均値との差が0.5以下であるので、「2.宿主細胞検証試験」は成立している。
【0068】
表1の結果より、本発明の抗微生物活性繊維糸を用いた不織布は、抗ウィルス活性を示すことが確認された。
また、上述した検体1のサンプルは、洗濯堅牢度試験においても、良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の抗微生物活性繊維糸、及び、抗微生物活性繊維糸の製造方法は、感染症対策に用いられる繊維製品の原糸として用いることができる。
本発明の抗微生物活性不織布は、感染症対策に用いられる繊維製品として用いることができる。
本発明の抗微生物活性マスクは、感染症対策に用いられるマスクとして用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1・・・合成糸
2・・・抗微生物活性物質
3・・・凹部
10・・・抗微生物活性繊維糸
11・・・抗微生物活性不織布(第1不織布)
11a・・・プリーツ
11b・・・ノーズフィット
12・・・抗微生物活性マスク
12a・・・メルトブロー不織布
12b・・・第2不織布
5・・・本体部
6・・・耳紐
S1・・・紡糸工程
S2・・・延伸工程
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】