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特開2022-140206ポリビニルアルコールフィルム及びそれを使用した光学フィルム
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  • 特開-ポリビニルアルコールフィルム及びそれを使用した光学フィルム 図1
  • 特開-ポリビニルアルコールフィルム及びそれを使用した光学フィルム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140206
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びそれを使用した光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220915BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEX
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086651
(22)【出願日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】110108562
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】陳 家穎
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
【Fターム(参考)】
2H149AB15
2H149AB26
2H149BA02
2H149FA03W
2H149FD02
2H149FD05
2H149FD17
2H149FD19
2H149FD21
2H149FD31
4F071AA29
4F071AA84
4F071AF10Y
4F071AF15
4F071AF21Y
4F071AF31Y
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】 本発明は、ポリビニルアルコールフィルム及びそれを使用した光学フィルムを得ることにある。
【解決手段】 本発明のポリビニルアルコールフィルムは均一で対称な遅延量(retardation)を有しており、延伸時において均一性を有し、フィルム切れ現象が発生しにくく、偏光フィルムを製造するのに有利である。本発明のポリビニルアルコールフィルムが有する遅延量の標準偏差は<3nmであり、且つ遅延量のフィッティングパラメータが│Asym50-1│*108<10である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有する遅延量(retardation)の標準偏差が<3nmであり、且つ前記遅延量のフィッティングパラメータが│Asym50-1│*108<10である、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルム。
【請求項2】
<55nmの最大遅延量を有する請求項1に記載のPVAフィルム。
【請求項3】
MD方向の破断伸び率は>400%である、請求項2に記載のPVAフィルム。
【請求項4】
含水率が>2.0wt%である、請求項3に記載のPVAフィルム。
【請求項5】
pH値が5.5~8.5の間である、請求項4に記載のPVAフィルム。
【請求項6】
結晶面の粒子サイズが4~6nmである、請求項5に記載のPVAフィルム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のPVAフィルムにより製造されたものである、光学フィルム。
【請求項8】
偏光フィルムである、請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記偏光フィルムが有する偏光度は>99.8である、請求項8に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムとして、特に偏光フィルムとして用いることができ、様々な分野に応用され、特にディスプレイ装置に応用される、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムは一種の親水性ポリマーであり、透明性、機械的強度、水溶性、良好な加工性などの性能を有し、包装材料又は電子製品の光学フィルムにおいて、特に偏光フィルムにおいて広く用いられている。
【0003】
PVAフィルムで光学フィルムを調製する製造工程では、必要とする性能に従い選択的に官能基修飾を使用することができ、その後で延伸が行われる。製造方法は乾式と湿式に大別することができ、乾式は、一定の温湿度下において、不活性ガス雰囲気下でPVAフィルムの延伸を行ってから、染色などの工程を行うものである。湿式は、PVAフィルムの染色を行ってから、溶液中で延伸を行うものである。乾式で調製されたPVAフィルムは、表面に平坦性がないか又は染色が不均一になるという問題がしばしば起こるが、湿式で製造されたPVAフィルムは良好な性能(例えば色が均一)を具備するため、現在では一般的に湿式法を用いてPVAフィルムを製造することが多い。
【0004】
偏光フィルムを製造する場合には、延伸倍率が高くなるほど、得られる光学性能も高くなるため、延伸時にはPVAフィルムが断裂に近づく臨界近傍まで可能な限り延伸し、光学特性に優れたPVAフィルムを得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、修飾又は染色を行うと、PVAフィルムの延伸性及び耐え得る引張強度が変化し、PVAフィルムの延伸が不均一な場合にはフィルム切れが発生してしまう。そのため、如何に均一な延伸が可能なPVAフィルムを製造し、フィルム切れ現象を低減させるかが、現在のPVAフィルムにおいて開発を要する目標の1つとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有する遅延量(retardation)の標準偏差が<3nmであり、且つ遅延量のフィッティングパラメータが│Asym50-1│*108<10である、PVAフィルムを提供することを目的としている。
【0007】
好ましい実施例中、PVAフィルムが有する最大遅延量は<56nmである。
【0008】
好ましい実施例中、PVAフィルムのMD方向の破断伸び率は>400%である。
【0009】
好ましい実施例中、PVAフィルムの含水率は>2.0wt%である。
【0010】
好ましい実施例中、PVAフィルムのpH値5.5~8.5の間である。
【0011】
好ましい実施例中、PVAフィルムの結晶面の粒子サイズは4~6nmである。
【0012】
本発明の別の目的は、光学フィルムを提供することであり、それは本発明のPVAフィルムで製造されたものである。
【0013】
好ましい実施例中、光学フィルムは偏光フィルムである。
【0014】
好ましい実施例中、偏光フィルムが有する偏光度は>99.8である。
【発明の効果】
【0015】
公知技術と比べて、本発明のPVAフィルムは均一で対称な遅延量を有しており、後の光学フィルム調製に用いた場合、均一に延伸することができてフィルム切れが発生しにくく、偏光フィルムを製造する際の欠点が効果的に改善され、製造での歩留まり率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】PVAフィルムの左、中、右で10cm*10cmの面積の試験片を三枚切り出した概念図である。
図2】PVAフィルムの遅延量とガウス-ローレンツ(Gaussian-Lorentzian Sum)対称関数をフィッティングした後の曲線分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施形態は、本発明を過度に限定するものではない。本発明が属する技術分野の当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに本明細書中で検討する実施例に対して修正や変更を行うことができ、いずれも本発明の範囲に即する。
【0018】
本明細書中の「1」及び「一種」という用語は、本明細書において文法の対象が1つ以上(即ち少なくとも1つ)存在することを指す。
【0019】
本発明のポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムは、有する遅延量の標準偏差が<3nmであり、且つ遅延量のフィッティングパラメータは│Asym50-1│*108<10である。本発明のPVAフィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール鋳造溶液を調製した後、ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥を経てポリビニルアルコール系ポリマーフィルムを形成する、という工程を含む。
【0020】
具体的に、PVAフィルムの製造方法は以下の工程を含む。溶解タンク中、ポリビニルアルコール樹脂を溶液(例えば水)中に溶解してポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する。選択的にフィルタでポリビニルアルコール鋳造溶液を濾過してもよい。その後、歯車ポンプ(gear pump)及びコーティング機(例えばT型ダイコーター)を用いてポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込む。最後に、ドラムに成膜されたPVAフィルムを剥離した後、一連の加熱ローラ及び/又は乾燥の熱処理を経てPVAフィルムを得る。
【0021】
ポリビニルアルコール鋳造溶液の調製では、ポリビニルアルコール樹脂を溶解タンク中で溶解するが、溶解タンク中の溶解温度は>100℃であり、好適には>110℃、より好適には>120℃であり、具体的には、例えば105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃、135℃又は140℃であるが、本発明はこれらに限定されない。溶解タンクは毎時4~20℃の速度で昇温するのが好ましく、好適には5~15℃、より好適には6~9℃であり、具体的には、例えば4.0℃/hr、5.0℃/hr、6.0℃/hr、7.0℃/hr、8.0℃/hr、9.0℃/hr、10℃/hr、11℃/hr、12℃/hr、13℃/hr、14℃/hr、15℃/hr、16℃/hr、17℃/hr、18℃/hr、19℃/hr又は20℃/hrなどであり、昇温速度が速すぎると、ポリビニルアルコール樹脂にケーキングが発生しやすくなり、溶解が不完全になってしまう。所望の溶解温度まで昇温させた後、ポリビニルアルコール鋳造溶液を2~4時間攪拌し続けるが、好適には3時間であり、且つ1時間に少なくとも2回攪拌方向を変えるが、好適には3回であり、例えば時計回りに20分間回転させた後、反時計回りに20分間回転させる。上述の攪拌過程における方向の反転は溶解効果を高め、ポリビニルアルコール鋳造溶液中にクラスター(cluster)が残ってしまうのを防ぐことができる。
【0022】
ポリビニルアルコール鋳造溶液の調製では、ポリビニルアルコール樹脂の含有量は10~60wt%であり、好適には15~40wt%、より好適には20~30wt%であり、具体的には、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60wt%などである。ポリビニルアルコール樹脂の含有量が不足すると、ポリビニルアルコール鋳造溶液の粘度が低くなりすぎて、乾燥負荷が過度に大きくなり、PVAフィルム調製における成膜効率が悪くなってしまう。反対に、ポリビニルアルコール樹脂の含有量が高すぎると、ポリビニルアルコール樹脂が溶解しにくくなって、クラスターが残りやすくなり、PVAフィルムの位相差の均一性が劣化し、後続の製造プロセスにおけるフィルムの延伸均一性に影響を及ぼし、さらには延伸時に切れる可能性にも影響が及んでしまう。
【0023】
上述のポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂単量体の重合によりポリビニルエステル系樹脂を形成した後、鹸化反応を行って得たものである。そのうち、ビニルエステル系樹脂単量体は、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、オクタン酸ビニルなどのビニルエステル類を含むが、本発明はこれらに限定されず、好適には酢酸ビニルである。また、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と上述のビニルエステル系樹脂単量体との共重合体も使用可能である。オレフィン類化合物は、エチレン、プロピレン又はブチレンなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。アクリレート誘導体はアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0024】
ポリビニルアルコール樹脂の鹸化度は90%以上であり、好適には99%以上であり、これにより良好な光学特性が得られるが、具体的には、例えば90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%などである。ポリビニルアルコールの重合度は800~10000の間であり、好適には2200~10000の間であり、具体的には、例えば800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000などであり、重合度が800を上回ると良好な加工特性を具備するが、重合度が10000を上回ると溶解するのに都合が悪くなる。
【0025】
鋳造溶液中には、ポリビニルアルコール系樹脂のほかに、可塑剤を含めて成膜の加工性を増強することもでき、使用可能な可塑剤には、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセロールなどの多価アルコールが含まれるが、本発明はこれらに限定されず、好適にはエチレングリコール及びグリセロールである。可塑剤の添加量は通常、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対して3~30重量部の間であり、好適には7~20重量部の間であり、具体的には、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30重量部などである。可塑剤の含有量が不足すると、形成されるPVAフィルムに結晶が生じやすくなり、後続の加工における染色効果に影響を及ぼしてしまう。反対に、可塑剤の含有量が高すぎると、PVAフィルムの機械的性質が損なわれてしまう。
【0026】
PVAフィルムの製造方法において使用する設備には、溶解タンク、フィルタ、コーティング機及び溶解タンクからコーティング機の前まで接続される輸送配管が含まれ、好ましい状態としては、それら設備に保温装置が被覆されており、保温装置は金属発熱体(電熱線)、又は内部に油や水などの液体が入れられたジャケットでよく、金属ワイヤ又はジャケット内の液体を加熱し、それら設備(特に設備と配管の表面)を均一に加熱して保温状態を維持させることで、設備又は配管の表面温度が失われてポリビニルアルコール鋳造溶液中のポリビニルアルコールにゲルやクラスターが形成されるのを防止する。また、保温温度は過度に高くしてはならず、さもないとポリビニルアルコール鋳造溶液の一部が脱水又はゲル化し、キツネ色又は黒色のゲルが形成され、後工程における塗布成膜後のPVAフィルムの表面品質や均一性に影響を及ぼしてしまう。塗布成形におけるポリビニルアルコール鋳造溶液の保温温度は80~120℃であり、好適には90~110℃、より好適には90~100℃であり、具体的には、例えば80、85、90、95、100、105、110、115、120℃などである。
【0027】
ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込むとき、鋳造ドラムの回転速度は約3~7m/minであり、好適には4~6m/minである。ドラムの速度が遅すぎると、鋳造溶液が過度に乾燥し、位相差、融点分布が不均一になる傾向がある。反対に、ドラムの速度が速すぎると、鋳造溶液の乾燥が不十分となり、剥離性が低下してしまう。また、好ましい実施形態中、ドラムの温度は85~90℃に設定し、具体的には、例えば85、86、88、87、88、89、90℃などであり、ドラムの温度が高すぎると、ドラム上の鋳造溶液に起泡現象が生じやすくなる。
【0028】
鋳造ドラム上で最初に成膜したPVAフィルムをドラムから剥離した後、乾燥を経てPVAフィルムが形成されるが、乾燥過程は、加熱ローラ上で行うか、又はフローティングドライヤー上で行うか、選択することができる。加熱ローラ及びフローティングドライヤーの数は特に限定されず、必要に応じて調整できる。但し、好ましい実施例中、乾燥室(即ち乾燥器)の温度比は最高/最低が2.0~2.4である。乾燥室の温度比が大きすぎると、結晶化度が不均一になりやすく、PVAフィルムを光学フィルムの製造に使用する際にホウ酸との反応が不均一になってしまう。また、隣接する乾燥室の温度差は65℃以下であるのが好ましく、より好適には60℃以下であり、最適なのは50℃であり、隣接する乾燥室の温度差が大きすぎると、位相差の分布が不均一になりやすくなる。また、フローティングドライヤー内で幅方向(即ち機械方向に垂直)に沿って成形されたPVAフィルムが受ける空気流量は特に限定されないが、最大/最小の空気流量比は3.0以下に制御しなければならず、具体的には、例えば0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5又は3.0である。風量が多い場所は水分が奪われやすいため、乾燥度が高くなるが、この空気流量比範囲であれば、PVAフィルムの各位置が触れる風量を同一に制御して均一に乾燥させることが可能である。また、空気流量比が大きすぎると、PVAフィルムを光学フィルムの製造に使用する際に、ホウ酸との反応が不均一になったり位相差が不均一になったりする問題が生じてしまう。
【0029】
本発明中、MDは機械方向(Machine Direction)、即ちPVAフィルムの縦方向であり、TDは幅方向(Transverse Direction)、即ちPVAフィルムの横方向である。
【0030】
本発明中、遅延量(Retardation)とは、光がフィルムを通過するときの入射偏光の位相変化量であり、即ち位相が遅延した量のことをいい、単位はnmである。遅延量数値の均一性は分子の配向均一性及び厚み均一性に関わり、後続の光学フィルムの製造工程に大きく影響する。図1に示す通り、遅延量の測定では、ホウ酸処理後のPVAフィルムのうちのMD位置を、TD方向で端部から40cm以内の範囲内とし、TD方向に沿って左、中、右で10cm*10cmの面積の試験片を3枚切り出して測定を行い、範囲内の全てのポイントにおける遅延量数値及び統計データ(最大値、標準偏差など)を得ることができる。
【0031】
本発明中、上述の遅延量のフィッティングパラメータ│Asym50-1│*108は、PVAフィルムで測定された遅延量の数値をフィッティングして得たパラメータである。フィッティングは遅延量の数値を分布図で表すものであり、表1に示す通り、遅延量の数値区間における中央値はX軸データ、曲線下面積(area)はY軸として作図し、その分布図は対称分布に近くなる。ガウス-ローレンツ(Gaussian-Lorentzian Sum)対称関数を用いてフィッティングを行い、且つソフトウェアのPeakFitを用いてデータのフィッティングを行う。フィッティングの範囲には主要分布区間を選択し、2つの端点Y値が0のデータを含め、それ以外のデータは除去し、フィッティング時にはピーク幅と形状が自由に変動できるようにして、最良のフィッティング結果を得る。高速フィッティング(Fast Peak Fit with Numerical Update)を行い、反復値(Iteration value)が変化しなくなるまで繰り返し、Asym50の数値を記録する。フィッティング後の対称分布図は図2に示す通りであり、黒い点は遅延量の分布、曲線はガウス-ローレンツ(Gaussian-Lorentzian Sum)対称関数のフィッティングデータである。
【0032】
【表1】
【0033】
本発明のPVAフィルムは有する遅延量の標準偏差が<3nmであり、且つ遅延量のフィッティングパラメータは│Asym50-1│*108<10である。具体的には、遅延量の標準偏差は例えば0.5nm、1nm、1.5nm、2nm、2.5nm又は2.9nmであるが、本発明はこれらに限定されない。遅延量のフィッティングパラメータ│Asym50-1│*108は例えば0、1、2、3、4、5、6、7、8又は9であるが、本発明はこれらに限定されず、好適には0である。遅延量の標準偏差が<3nm且つフィッティングパラメータが│Asym50-1│*108<10である場合、PVAフィルムは均一な遅延量を有し、後の光学フィルム調製での延伸時において良好な均一性を有し、フィルムが断裂しにくくなる。これは、PVAフィルムの遅延量が複屈折値及びフィルム厚さの影響を受けることが原因であり、複屈折値はポリビニルアルコールの分子配向が大きくなるほど数値も大きくなり、フィルム厚さが厚いほど光路が長くなり、測定される遅延量も大きくなる。
【0034】
本発明のPVAフィルムが有する最大遅延量は<55nmであり、具体的には、例えば1nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm又は54nmであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
PVAフィルムの含水率が低すぎると、フィルム切れ現象が生じやすくなるため好ましくない。本発明のPVAフィルムの含水率は>2.0wt%であり、具体的には、例えば2.0wt%、2.5wt%、3.0wt%、3.5wt%、4.0wt%、4.5wt%、5.0wt%、5.5wt%、6.0wt%、6.5wt%、7.0wt%、7.5wt%、8.0wt%、8.5wt%、9.0wt%、9.5wt%又は10.0wt%であるが、本発明はこれらに限定されない。しかしながら、含水率は高すぎるのも好ましくなく、含水率が高すぎると結晶化度が低くなりすぎて、PVAフィルムを水に浸漬後、過度に軟らかくなってしまい、フィルム切れ持生じやすくなる傾向がある。
【0036】
本発明中、上述の含水率測定方法の工程には、図1に示す通り、PVAフィルムのうちのMD位置を、TD方向で端部から40cm以内の範囲内とし、TD方向に沿って左、中、右で10cm*10cmの面積の試験片を3枚切り出すことが含まれる。次に、各試験片の初期重量S(g)をそれぞれ秤量した。試験片を83℃の乾燥器中に入れ、20分間乾燥してから、取り出して乾燥皿に入れ、5分間冷却した後、乾燥後の重量W(g)をそれぞれ秤量した。最後に、((S-W)/S)×100%という公式により含水率を計算した。
【0037】
PVAフィルムの製造又は加工ではおそらく加工助剤が添加されるが、添加する加工助剤の種類、濃度及び添加量はPVAフィルムの最終的なpH値に影響を与え、pH値はさらにフィルム切れの可能性に間接的な影響を与える。本発明のPVAフィルムのpHは5.5~8.5の間であり、具体的には、例えば5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0又は8.5であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
本発明中、上述のpH値測定方法の工程には、PVAフィルム約5gを105℃の乾燥器中に入れ、3時間乾燥してから、取り出して乾燥皿に入れて冷却し、乾燥後のPVAフィルム4gを精秤することが含まれる。その後、PVAフィルムを切砕してから96gの超純水を加え、蒸気を利用して加熱溶解した。冷却した後、pH測定計を用いてpH値を測定した。
【0039】
本発明におけるPVAフィルムの結晶面の粒子サイズは4~6nmであり、具体的には、例えば4nm、4.5nm、5nm、5.5nm又は6nmであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
本発明における結晶面の粒子サイズ測定方法の工程には、PVAフィルムを必要な面積にカットした後、X線回折装置(XRD)による分析を行うことが含まれ(X-ray源:Cuターゲット(CuKα,λ=0.154060nm);2θ測定範囲:8~35o)、得られたデータは機会に組込まれたソフトウェアで分析を行うことに限定されず、その他のソフトウェア(例えばPeakFit)を用いて分析を行ってもよい。
【0041】
本発明におけるPVAフィルムのMD方向の破断伸び率は>400%であり、具体的には、例えば401%、430%、450%、480%、500%、530%、550%、580%、600%、650%、680%、700%、730%、750%、780%、800%、830%、850%、880%、900%、930%、950%、980%又は1000%であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0042】
本発明中、上述のMD方向の破断伸び率及び引張強さ測定方法は以下の通りである。A4紙サイズのPVAフィルムを準備し、20℃、65%RHの恒温恒湿器に6時間入れた。MD及びTD方向がそれぞれ150mm*15mmサイズの試験片にカットした。試験片の厚さを測定した後、試験片を引張試験機に挟み、引張試験機のオペレーションプロセスを実行し、引張速度は1000mm/minとし、試験片の厚さ、長さ、幅及び名称を入力し、引張試験を実行開始して、破断伸び率及び引張強さを記録した。
【0043】
本発明のPVAフィルムは、例えば偏光フィルム、ブルーライトカットフィルム、フィルターレンズなどの光学フィルムとすることができ、本発明はこれらに限定されない。好適には、本発明のPVAフィルムは偏光フィルムとされ、偏光フィルムが有する偏光度は>99.8である。
【実施例0044】
以下では、実施例と合わせて本発明についてより詳しく説明する。但し、それらの実施例は本発明をより容易に理解できるよう助けるためのものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0045】
実施例1~4
【0046】
PVAフィルムの製作:融点(Tm)がそれぞれ233.21℃、233.24℃、233.01℃及び233.08℃のポリビニルアルコール樹脂をポリビニルアルコール鋳造溶液の主要成分とし、本発明のPVAフィルムの製造方法を用いて実施例1~4のPVAフィルムを製作した。製造方法の操作条件は表2に示す通りである。
【0047】
比較例1~3
【0048】
PVAフィルムの製作:融点(Tm)がそれぞれ233.15℃及び233.17℃のポリビニルアルコール樹脂をポリビニルアルコール鋳造溶液の主要成分とし、本発明のPVAフィルムと同じ製造方法で異なる操作条件を用いて比較例1~3のPVAフィルムを製作した。製造方法の操作条件は表2に示す通りである。
【0049】
実験例
【0050】
PVAフィルムの特性分析:実施例1~4及び比較例1~3のPVAフィルムにおける遅延量の標準偏差、最大遅延量、遅延量のフィッティングパラメータ、含水率及び結晶面の粒子サイズ、MD方向破断伸び率及びMD方向引張強さをそれぞれ測定した。測定結果は表3に示す通りである。
【0051】
偏光フィルムの製作:実施例1~4及び比較例1~3における各PVAフィルムを約30℃の水中に浸漬し、それらを膨潤させた後、1回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの2.0倍にした。次に、1回目の延伸後のPVAフィルムを0.03質量パーセントのヨウ素及び3質量パーセントのヨウ化カリウムが含まれた30℃の水溶液中に浸漬し、2回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの3.3倍にした。次に、2回目の延伸後のPVAフィルムを3質量パーセントのヨウ化カリウム及び3質量パーセントのホウ酸が含まれた30℃の水溶液中に浸漬し、3回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの3.6倍にした。次に、3回目の延伸後のPVAフィルムを5質量パーセントのヨウ化カリウム及び4質量パーセントのホウ酸が含まれた60℃の水溶液中に浸漬し、4回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの6.0倍にした。最後に、4回目の延伸後のPVAフィルムを3質量パーセントのヨウ化カリウムが含まれた水溶液中に15秒間浸漬した後、60℃で4分間乾燥して、偏光フィルムを得た。次に、実施例1~4及び比較例1~3の偏光フィルムのフィルム切れ発現性を測定した。各測定結果は表3に示す通りである。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示す通り、実施例1~4におけるPVAフィルムの遅延量の標準偏差はいずれも<3nmであり、遅延量のフィッティングパラメータ│Asym50-1│*108はいずれも<10であり、それらの偏光フィルムのフィルム切れ発現性は良好であった(5000mでフィルム切れの発生なし)。これと比べて、比較例1~3のPVAフィルムは、それぞれが遅延量の標準偏差が3nmを上回っているか、遅延量のフィッティングパラメータ│Asym50-1│*108が10を上回っており、それらの偏光フィルムはフィルム切れ発現性が好ましくなく(5000mでフィルム切れが1回、5000mでフィルム切れが2回以上)、特に比較例2及び3は含水量が2%超、結晶面の粒子サイズが6nm超、及びpH値が5.5未満と8.5超であり、結晶面の粒子サイズが大きすぎると、延伸時に大きな応力が生じ、延性が悪くなり、フィルム切れが生じる傾向にある。それらの偏光フィルムのフィルム切れ発現性は明らかに悪かった(5000mでフィルム切れが2回以上)。本発明におけるPVAフィルムの遅延量の標準偏差は<3nmであり、遅延量のフィッティングパラメータ│Asym50-1│*108はいずれも<10であり、均一な遅延量を有し、延伸時において均一性を持った延伸が可能であり、フィルム切れの問題が生じにくかった。
【0055】
要約すると、本発明のPVAフィルムは均一で対称な遅延量を有しており、後の光学フィルム調製に用いた場合、均一に延伸することができてフィルム切れが発生しにくく、偏光フィルムを製造する際の欠点が効果的に改善され、製造での歩留まり率が向上する。
【0056】
以上で本発明について詳細に説明したが、上述は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。本発明の特許請求の範囲に基づく同等変化や修飾はいずれも本発明の特許請求の範囲に属するものである。
図1
図2