(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140237
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】栽培方法および栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20220915BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20220915BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20220915BHJP
A01G 22/60 20180101ALI20220915BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G22/05 Z
A01G22/15
A01G22/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144985
(22)【出願日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021038658
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松浦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】竹下 稔
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B022AB15
2B022AB17
2B022DA01
2B022DA08
(57)【要約】
【課題】キク科またはナス科の植物の、ウイルス病の発病を防止しながらUV障害の発生を十分に低減する。
【解決手段】キク科またはナス科の植物(4)の栽培方法であって、LED光源(1a)を用いて、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有する光を、1日当たり暗期に0.6kJ/m
2以上1.2kJ/m
2未満の照射量で、植物(4)に照射する工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LED光源を用いてキク科またはナス科の植物に光を照射する工程を含み、当該工程では、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有する光を、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で、前記植物に照射することを特徴とする、栽培方法。
【請求項2】
前記光は、半値幅が、ピーク波長±6nmの波長範囲に含まれる、請求項1に記載の栽培方法。
【請求項3】
前記暗期は、前記光の照射量に対する可視光の照射量の割合が10%以下となる期間であることを特徴とする、請求項1または2に記載の栽培方法。
【請求項4】
287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有する光を、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で、キク科またはナス科の植物に照射可能なLED光源を備えることを特徴とする、栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス病の発病を低減可能な、キク科またはナス科の植物の栽培方法および栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
黄化えそウイルス(以下、「TSWV」と略称する)およびトマトモザイクウイルス(以下、「ToMV」と略称する)等の、植物にえそ症状を発症させるウイルスは、微小昆虫または感染した植物汁液を介して容易に伝搬する。そのため、これらのウイルスはキク科またはナス科の植物の管理作業または土壌汚染等を介して伝染し、これらの植物の生産に大きな被害をもたらす。このような被害は日本をはじめ、全世界的に広がっており、重大な問題となっている。
【0003】
特許文献1には、波長280~290nmの深紫外光(UV-B)をトマト苗に0.7~1.4kJ/m2の照射量で照射することで、トマトに抵抗性を誘導し、ToMVへの感染および発病を低減する技術が開示されている。なお、非特許文献1には、特許文献1に記載の深紫外光の照射実験が明期に行われたものであることが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、上述の深紫外光をトマト苗に、1日当たり暗期に0.3~0.4kJ/m2の照射量で照射することで、UV障害を低減しながら、ToMVへの感染および発病を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-7185号公報
【特許文献2】特開2019-162059号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S Matsuura et. al.,"Suppression of Tomato mosaic virus disease in tomato plants by deep ultraviolet irradiation using light-emitting diodes", Letters in Applied Microbiology 59, p457-463,2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、トマトへのToMVの感染および発病は低減できるが、葉の褐変および巻葉等のUV障害の発生については、未だ改善の余地がある。UV障害の程度をさらに低減できれば、作物の品質への悪影響が回避でき商品価値のさらなる向上が期待できる。これは、キク等の鑑賞用植物では葉も商品に含まれるため、特に重要である。また、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、トマト以外の植物に対する効果は不明である。
【0008】
本発明の一態様は、キク科またはナス科の植物において、ウイルス病の発病を低減しながら、UV障害の発生を十分に低減できる栽培方法等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る栽培方法は、LED光源を用いてキク科またはナス科の植物に光を照射する工程を含み、当該工程では、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有する光を、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で、前記植物に照射する。
【0010】
本発明の一態様に係る栽培方法は、前記光は、半値幅が、ピーク波長±6nmの波長範囲に含まれてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る栽培方法は、前記暗期は、前記光の照射量に対する可視光の照射量の割合が10%以下となる期間であってもよい。
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る栽培装置は、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有する光を、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で、キク科またはナス科の植物に照射可能なLED光源を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、キク科またはナス科の植物において、ウイルス病の発病を防止しながら、UV障害の発生を十分に低減できる栽培方法等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る植物の栽培装置の概要構成を示す模式図である。
【
図2】キクへの光照射による、TSWV発病指数への影響を示すグラフである。
【
図3】キクへの光照射による、TSWV蓄積量への影響を示すグラフである。
【
図4】タバコへの光照射による、TSWV輪紋病斑数への影響を示すグラフである。
【
図5】タバコへの光照射による、TSWV低減効果を示す写真を表す図である。
【
図6】タバコへの光照射による、TSWV局部病斑数への影響を示すグラフである。
【
図7】タバコへの光照射による、TSWV病斑面積率への影響を示すグラフである。
【
図8】トマトへの光照射による、ToMV発病指数への影響を示すグラフである。
【
図9】トマトへの光照射による、ToMV蓄積量への影響を示すグラフである。
【
図10】トマトへの光照射による、ToMV局部病斑数への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において「A~B」とは、特に指定しない限りA以上B以下であることを示している。
【0016】
〔栽培装置〕
図1の符号101は、本発明の一実施形態に係る植物の栽培装置10の概要構成を示す模式図である。また、
図1の符号102は、栽培装置10が備える光照射モジュール1の外観構成を示す模式図である。
図1の符号101に示すように、栽培装置10は、光照射モジュール1と、支持棒2と、電気コード3とを備える。光照射モジュール1は、ガラス温室またはビニールハウス内で、所定の波長のUV(紫外線)を、所定の照射量により均一照射できるモジュールである。光照射モジュール1が照射するUVは、特許請求の範囲に記載の「光」の一例である。
【0017】
支持棒2は、針金を介して天井から吊り下げられており、1本の支持棒2に対して複数台の光照射モジュール1が設置されている。なお、支持棒2の設置方法は、このような態様に限定されず、光照射モジュール1からのUVが植物4に問題なく照射され、光照射モジュール1を備えた支持棒2の設置位置を固定できる態様であれば、どのような設置方法を採用してもよい。
【0018】
植物4は、光照射モジュール1からUVを照射することで、えそ症状の原因となるウイルス(以下、単に「ウイルス」と称する場合がある)への感染および発病が低減され得る植物である。このようなウイルスとしては、例えば、TSWV、茎えそウイルス(CSNV)およびToMVが挙げられる。植物4は、キク科の植物またはナス科の植物である。キク科の植物としては、例えば、キク、ガーベラ、ダリア、マリーゴールド、マーガレット、レタスおよびシュンギクが挙げられる。ナス科の植物としては、例えば、トマト、タバコ、ナス、ジャガイモ、トウガラシ、シシトウ、ピーマンおよびペチュニアが挙げられる。ただし、植物4の例はこれに限られず、キク科またはナス科の植物であれば、特に限定されない。
【0019】
図1の符号102に示すように、光照射モジュール1は、LED(Light Emitting Diode)光源1aと、電気コード3とを備える。光照射モジュール1は、電気コード3によって電源(不図示)に電気的に接続されている。また、光照射モジュール1は、全体形状が略直方体形状を為している。LED光源1aは、光照射モジュール1の略直方体形状の一面を為す略四角形状の底面の中央付近に設けられている。本実施形態では、1台の光照射モジュール1に対して1つのLED光源1a(実装LEDチップ)を設けている。なお、1台の光照射モジュール1に対して2つ以上のLED光源1aを設けてもよい。また、光照射モジュール1は、湿度対策のためLEDチップを石英ガラスで覆ったタイプのモジュールでもよい。
【0020】
LED光源1aは、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有するUVを照射可能な光源である。LED光源1aは、290nm以上292nm以下の範囲にピーク波長を有するUVを照射可能であることがより好ましい。光照射モジュール1は、LED光源1aによりUVを照射する。
【0021】
従来、有効波長成分として280nm以上290nm以下の波長域の深紫外光(以下、「従来のUV」と称する場合がある)をトマトに照射すると、ToMV感染および発病を低減できることが知られていた。これは、従来のUVが照射されたトマトにおいて、感染特異的タンパク質(Pathogenesis-related protein)をコードする遺伝子等、ウイルスに対して抵抗性を示す遺伝子の発現が誘導されることが要因と考えられる。このような遺伝子発現誘導の結果、従来のUVが照射されたトマトは、ウイルスに対して抵抗性を獲得し、ウイルス感染および発病が低減すると考えられる。
【0022】
しかしながら、トマト等の植物に対してこのような従来のUVを照射すると、UV障害が生じてしまう。UV障害とは、植物へのUV照射に起因して起こり得る植物の変化のうち、形態上好ましくない変化である。UV障害としては、例えば、褐変等の葉色の変化、巻葉等の葉形状の変化およびクチクラ層の発達による葉の光沢上昇が挙げられる。
【0023】
これまで、トマトに生じるUV障害を低減するために、従来のUVの照射量を制限する等の試みがなされてきた。しかしながら、植物へのウイルス感染の低減と、UV障害の低減とを両立するために最適なUVの特性については、明らかではなかった。
【0024】
本発明者らは、照射可能なUVの波長が段階的に異なる複数のLED光源を用いて、植物4へのUV照射実験を行った。その結果、本発明者らは、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有するUVであれば、植物4に対するウイルス抵抗性の誘導効果と、UV障害の低減効果とのバランスが最適であることを突き止めた。そのため、このようなUVであれば、植物4へのウイルス感染の低減とUV障害程度の低減とを、従来よりも高い次元で両立できることを見出した。すなわち、本発明者らの鋭意検討によって、植物へのウイルス感染の低減と、UV障害程度の低減とを両立するために最適なUVの特性が初めて明らかとなった。
【0025】
また、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有するUVは、従来のUVよりも、波長領域が長波長側にシフトしている。そのため、仮に287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有するUVが人体に照射されてしまっても、従来のUVよりも人体への毒性は低い。すなわち、本実施形態に係る栽培装置10が照射するUVは、人体への安全性の観点からも優れている。
【0026】
LED光源1aが照射可能なUVは、半値幅が、ピーク波長±6nmの波長範囲に含まれる光であることが好ましい。ここでいう半値幅とは、半値全幅である。このような構成であれば、LED光源1aが照射するUVは、ピーク波長から大きく外れた波長成分をほとんど含まない。したがって、植物4に照射した場合に、ピーク波長およびその近傍の波長成分により植物4のウイルスに対する抵抗性を効果的に誘導しながら、ピーク波長よりも短い波長成分は最小限となるため、UV障害を最小限にコントロールできる。
【0027】
LED光源1aは光の指向特性が鋭いため、植物体に均一にUVを照射するためには、栽培装置10において、光照射モジュール1を一定間隔で配置することが好ましい。なお、
図1の符号101では、1つの光照射モジュール1に対して2つの植物4が対応している様子が示されている。しかしながら、1つの光照射モジュール1に対して1つの植物4を対応させてもよいし、3つ以上の植物4を対応させてもよい。また、光照射モジュール1は、二条並列または二条千鳥となるように配置されてもよい。要するに、光照射モジュール1は、植物草冠上で一定の均一な照射強度が得られるような配置にするのが望ましい。また、このような配置方法については、簡単な光学的計算により算出することが可能である。
【0028】
LED光源1aは、UVを、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で照射可能である。植物4におけるUV障害を軽減しながら、ウイルス病の低減に必要な照射量は、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満である。「暗期」については後述する。
【0029】
植物4に照射されるUVの照射量が1.2kJ/m2以上となる場合、LED光源1aが照射するUVであっても、植物4にUV障害を引き起こす可能性がある。植物4のUV障害を最小レベルにするため、LED光源1aによる1日当たりの照射量は1.2kJ/m2未満とする。
【0030】
また、植物4に照射するUVの照射量が0.6kJ/m2未満である場合、植物4におけるウイルス抵抗性が十分に誘導されない可能性がある。このため、LED光源1aによる、植物4への1日当たりの照射量は0.6kJ/m2以上とする。
【0031】
以上の通り、LED光源1aは、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で照射可能な出力を備えていればよい。なお、栽培装置10が、1つの植物4に対して複数のLED光源1aにより照射を行うよう構成されている場合、当該複数のLED光源1aが、合計すれば上述の照射量で照射可能な出力を備えていればよい。
【0032】
〔栽培方法〕
本実施形態に係る栽培方法では、LED光源1aを用いて植物4にUVを照射する工程を含む。また、前記工程では、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有するUVを、1日当たり暗期に0.6kJ/m2以上1.2kJ/m2未満の照射量で植物4に照射する。本実施形態に係る栽培方法に使用するLED光源1aは、上述の栽培装置10が備えるものであってよい。
【0033】
本実施形態に係る栽培方法では、UVを暗期に照射する。ここで、暗期とは、植物4への、LED光源1aによるUV照射量に対する可視光の照射量の割合が10%以下となる期間であってよい。可視光とは、360nm以上830nm以下の波長を有する光であり、自然光および人工光の両方を含み得る。
【0034】
暗期として、例えば、日没後から日の出前までの(自然光が全く存在しないか、または若干の自然光が存在する薄明の状態も含む)任意の期間のことであってよい。言い換えれば、暗期とは大半が真っ暗な状態であるが、薄明も含まれ得る状態のことである。また、薄明とは日の出の約30分前から日の出までの時期、または日没から日没の約30分後までの時期のことである。
【0035】
LED光源1aが照射可能なUVは、従来の280nm以上290nm以下の波長域のUVよりは安全性が向上しているが、依然として人体に有害となり得る波長である。そのため、植物4へのUVの照射を、人間が作業を行わない夜間や夜明け前等の暗期に実施することは、人体への安全性の観点から好ましい。
【0036】
また、暗期は、室内への自然光の入光を制限したり、室内の光源を制御したりする方法により、植物4が受ける可視光の割合を人工的に低減する期間であってもよい。この場合、暗期は、1日のうちのいずれの時期に設定してもよい。
【0037】
このように、UV照射を暗期に行う構成によれば、植物4に対して、可視光の影響を最小限にした状態でUVを照射できる。したがって、植物4に照射される光の波長を容易にコントロールできるため、植物4におけるUV障害の低減およびウイルス病の発病の低減の両立を、容易に実現できる。この観点からは、UV照射は、暗期の中でも完全に真っ暗な時期に行われることが最も好ましい。
【0038】
なお、上述のように植物4に対するUVの照射を暗期(例えば、夜間)のみに限定した場合、例えば、特許文献1において安全性向上のため設置が好ましいとされている報告灯等の設備を用いない運用が可能となる。さらに、暗期は作業者が植物4のメンテナンス等の作業を行わないため、作業者が誤ってUVを直視する危険性が回避できるなど、実用的なメリットが複数ある。
【0039】
光照射モジュール1は、比較的面積の小さい、太陽光利用のガラス温室またはビニールハウスの育苗床で利用可能である。また、光照射モジュール1は、大面積の本圃でも利用可能であり、その場合、長期に亘り植物4のウイルス病の発病を低減できる可能性がある。
【0040】
また、本実施形態に係る栽培方法におけるUV照射は、既存のウイルス感染防止対策の少なくとも一部を代替し得るものである。植物ウイルスは昆虫等が媒介して伝播することが知られている。そのため、植物4へのウイルス感染防止対策として、殺虫剤の散布が行われている。植物4へのUV照射を行うことで、植物4に対する殺虫剤の散布回数を低減してもよい。これにより、農薬の使用量の低減およびこれらの散布労力の低減が実現できる。
【0041】
また、ハサミ等の管理用具を用いた植物4の管理作業中に、管理用具に付着した汁液を介してウイルスが伝播する場合がある。そのため、このような管理用具は頻繁に消毒することが好ましい。植物4へのUV照射を行うことで、管理用具の消毒回数および消毒液等の使用量を低減してもよい。これにより、植物4の管理作業コストの低減にも繋がる。
【実施例0042】
〔1.キク科の植物に対するUV照射の効果〕
キク科の植物の栽培で問題となるTSWVの感染および発病を低減し、かつ、キク科の植物にUV障害を引き起こさない、最適なUVの波長と照射量とを明らかにするために、キク(‘神馬’)へのUV照射実験を行った。
【0043】
(方法)
11月に、1a(アール)の鉄骨ハウスにキク(‘神馬’)を定植した。栽培条件は、ドレインベッド隔離床、20cm株間の4条植え、夜温18℃設定、夜間中断電照、養液土耕とした。また、ドレインベッド3ベッドを2分割し、無照射区(Control)1区および照射区4区の計5処理区を設けた。
【0044】
各照射区において、光照射モジュールにより照射されるUVの特性および1日当たりの設定照射量は、以下の通りである;
(1)ピーク波長285nm(λp=285nm、Δλ=10nm)、600J/m2、
(2)ピーク波長285nm(λp=285nm、Δλ=10nm)、300J/m2、
(3)ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)、1200J/m2、
(4)ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)、600J/m2。
【0045】
「λp」はピーク波長の範囲を示し、「Δλ」は半値幅を示す。前記(1)および(2)では、発光出力30mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(日機装技研製)を、前記(3)および(4)では、発光出力31~35mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(Dowa製)をそれぞれ用いた。UVの照射量は、植物草冠上層部での照射強度を、UV検出器(UV-3719-4)を接続しX1-1オプトメーターで計測し、1日当たりの照射量を計算した。
【0046】
照射方法としては、11月から12月にかけて、キク定植の2週間経過後から毎日、夜間に5時間(AM1:00~AM6:00)、前記の照射量をキクに照射した。植物草冠上層部への照射強度は、1日当たりの照射量が300J/m2の条件では1.7μW/cm2、600J/m2の条件では3.3μW/cm2、1200J/m2の条件では6.7μW/cm2に設定した。
【0047】
ウイルス接種は、照射開始7日後に、タバコ(Nicotiana rustica)により増殖したTSWVキク分離株を、各区指定した8株の上位展開葉3葉にカーボランダム(登録商標)を用いて汁液接種した。カーボランダムは、炭化ケイ素の粉末である。その後も、UVの照射を継続した。
【0048】
接種11日後および接種21日後に、各区指定した8株における発病指数を調査した。UV障害は、目視により観察した。発病指数の評価は、以下の基準で行った;
「0」:無症状、
「1」:接種葉に僅かの黄化えそ斑が観察される、
「2」:接種葉に明瞭な黄化えそ斑が観察される、
「3」:接種葉に多数の黄化えそ斑が観察される。
【0049】
ここで、「僅か」とは、注意深く観察すれば見つかる程度を示す。発病指数の統計解析は、Kruskal-Wallis検定により、n=8で、P<0.05を有意差ありとして行った。
【0050】
UV障害の程度については、以下の基準により評価した;
「-」:無障害、
「±」:接種葉に僅かの褐変、縮葉または巻葉が観察される、
「+」:接種葉に明瞭な褐変、縮葉または巻葉が観察される、
「++」:接種葉に、より明瞭な褐変、縮葉または巻葉が観察される。
【0051】
ここで、「僅か」とは、注意深く観察すれば見つかる程度を示す。なお、UV障害の評価基準については、他の実施例でも同様である。
【0052】
供試ウイルスであるTSWVの、病斑部に局在するという性質上、上述の方法では、サンプルによってはTSWVを検出することができない。そのため、全葉抽出によってウイルス蓄積量を調査する手法を採用した。ここでは、TSWV接種サンプルの全葉を液体窒素により凍結粉砕後、1サンプルを3本の1.5mLチューブに分けてRNAを抽出し、1本のチューブにまとめて精製した。その後、ノーマライザーとしてPGKタンパク質の遺伝子発現量を用い、比較Ct法による定量PCR解析により、キク葉内のTSWVウイルス蓄積量を調査した。
【0053】
(結果)
図2は、接種21日後における各サンプルの発病指数を示す。また、
図3は、各サンプルのTSWV蓄積量を示す。
図2に示すように、無照射区では、接種21日後において、接種葉に明瞭な黄化えそ斑が観察されたが、各照射区では、発病指数が有意に低減していた。
【0054】
図2および
図3に示すように、各照射区の中で、ピーク波長291nm、600J/m
2の照射区がTSWVによる発病の低減効果を表し、かつUV障害が最も軽微であった。一方、ピーク波長291nm、1200J/m
2の照射区では、ピーク波長285nm、600J/m
2の照射区とほぼ同等のUV障害が発生した。この結果から、ピーク波長291nmのUVにおける1日当たりの照射量は、1200J/m
2未満が適正照射量であることが明らかとなった。
【0055】
なお、
図3に示すように、キク体内のTSWV蓄積量は、ピーク波長291nmでは600J/m
2、1200J/m
2ともに低く、ピーク波長285nmの場合と、TSWV感染の低減効果に有意差は認められなかった。
【0056】
以上の結果から、ピーク波長291nmのUVを1日当たり夜間に600J/m2で照射することで、TSWVによるキクえそ病の発病を、UV障害をほぼ完全に回避しながら効果的に低減できた。また、ピーク波長291nmのUVでは、1日当たりの照射量が1200J/m2未満であれば、UV障害を回避できることが示された。
【0057】
〔2.ナス科の植物に対するUV照射の効果〕
ナス科の植物の栽培で問題となるTSWVまたはToMVの感染および発病を低減し、かつ、ナス科の植物にUV障害を引き起こさない、最適なUVの波長と照射量とを明らかにするために、タバコ(Nicotinia rustica)およびトマト(‘桃太郎8’)へのUV照射実験を行った。タバコは、ナス科の植物において代表的なモデル植物である。
【0058】
〔2-1.タバコへの600J/m2での照射〕
(方法)
鉄骨PO(ポリオレフィン)フィルムハウスに光照射モジュール4個を50cm四方に設置し、その下部にポット栽培の4.1葉期のタバコ(Nicotinia rustica)を静置した。無照射区(Control)1区および照射区3区の計4処理区を設けた。
【0059】
各照射区において、光照射モジュールにより照射されるUVの特性は以下の通りである、;
(1)ピーク波長284nm(誤差±1nm、λp=283~285nm、Δλ=11~12nm)、
(2)ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)、
(3)ピーク波長297nm(誤差±1nm、λp=296~298nm、Δλ=11~12nm)。
【0060】
光照射モジュールによる1日当たりの照射量は、600J/m2とした。光照射モジュールは、発光出力30mW、動作電圧5.5Vの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(Dowa製)を用いた。UVの照射量は、植物草冠上層部での照射強度をUV検出器(UV-3719-4)で計測し、1日当たりの照射量を計算した。
【0061】
照射方法としては、3月に、4.1葉期のタバコを静置した日から毎日、夜間に14時間(17:00~7:00)かけて、前記の照射量をタバコに照射した。植物草冠上層部への照射強度は1.2μW/cm2とした。ハウス内の温度は、夜間15℃、日中30℃とした。
【0062】
ウイルス接種は、照射開始8日後に、予め準備したタバコのTSWV発病葉により、各群のタバコの第4葉および第5葉に、カーボランダムを用いて汁液接種した。その後も、UVの照射を継続した。
【0063】
接種10日後に、接種葉の輪紋病斑数を調査した。UV障害は、目視により観察した。輪紋病斑数の統計解析は、Tukey検定により、n=5で、P<0.05を有意差ありとして行った。
【0064】
(結果)
図4は、接種10日後での、各サンプルの接種葉における輪紋病斑数を示す。
図4に示すように、接種葉における輪紋病斑数は、ピーク波長284nmおよび291nmの照射群で有意に少なく、UV照射の効果が認められた。ピーク波長284nmの照射区では、巻葉および葉焼けのUV障害が発生した。ピーク波長291nmの照射区では、僅かにUV障害が発生したが、問題になる程度ではなかった。一方、ピーク波長297nmの照射区では、UV障害は全く発生しなかったが、輪紋病斑数は無照射区と有意差がなく、照射によるウイルス低減効果は認められなかった。
【0065】
以上の結果より、ピーク波長291nmのUVは、1日当たり夜間に600J/m2で照射することで、UV障害を十分に回避しながらウイルス病を低減できる特性を有するUVであることが判明した。
【0066】
〔2-2.タバコへの1000J/m2での照射〕
(方法)
1a(アール)の鉄骨ハウスに、9cmポットに移植したタバコ(Nicotiana rustica)を静置した。ドレインベッド上を3分割し、無照射区(Control)、291nm照射区および285nm照射区の計3処理区を設けた。各区について、タバコ6株とした。
【0067】
各照射区において、光照射モジュールにより照射されるUVの特性は、以下の通りである;
(1)ピーク波長285nm(λp=285nm、Δλ=10nm)、
(2)ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)。
【0068】
光照射モジュールによる1日当たりの照射量は、1000J/m2とした。光照射モジュールは、前記(1)では、発光出力30mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(日機装技研製)を、前記(2)では、発光出力31~35mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(Dowa製)を用いた。UVの照射量は、植物表面上での照射強度をUV検出器(UV-3719-4)で計測し、1日当たりの照射量を計算した。
【0069】
照射方法としては、2月に毎日、夜間に5.5時間(PM10:30~AM4:00)、照射強度が植物表面上で約5μW/cm2となるように、前記の照射量をタバコに照射した。
【0070】
ウイルス接種は、照射開始5日後に、予め準備したTSWVキク分離株(タバコで増殖)を、各区6株のタバコの第6葉に、カーボランダムを用いて汁液接種した。その後も、UVの照射を継続した。
【0071】
接種10日後に、接種葉の局部病斑数を計測した。UV障害は、目視により観察した。局部病斑数の統計解析は、Tukey検定により、n=6で、P<0.05を有意差ありとして行った。
【0072】
(結果)
図5は、接種10日後における各サンプルの接種葉の外観を示す。
図6は、接種10日後における各サンプルの接種葉における局部病斑数を示す。
図5および
図6に示すように、無照射区では、接種10日後において接種葉に平均214個の局部病斑が出現した。一方、ピーク波長285nmの照射区では15個、ピーク波長291nmの照射区では65個の局部病斑がそれぞれ出現していた。これは、無照射区に対して、ピーク波長285nmの照射区では6%、ピーク波長291nmの照射区では31%への、大幅な低減となった。ピーク波長285nmの照射区では、強い縮葉および葉焼けのUV障害が発生したが、ピーク波長291nmの照射区では僅かな縮葉が見られただけで、UV障害はほとんど問題にはならなかった。以上より、ピーク波長291nmのUVを1日当たり1000J/m
2で照射することで、UV障害を十分に回避しながら、TSWV感染を有効に低減できることが判明した。
【0073】
〔2-3.タバコへの500J/m2での照射〕
(方法)
1a(アール)の鉄骨ハウスに、9cmポットに移植したタバコ(Nicotiana rustica)を静置した。ドレインベッド上を3分割し、無照射区(Control)1区および照射区2区を設けた。各区について、タバコ6株とした。
【0074】
各照射区において、光照射モジュールにより照射されるUVの特性は、以下の通りである;
(1)ピーク波長285nm(λp=285nm、Δλ=10nm)、
(2)ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)。
【0075】
光照射モジュールによる1日当たりの照射量は、500J/m2とした。光照射モジュールは、前記(1)では、発光出力30mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(日機装技研製)を、前記(2)では、発光出力31~35mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(Dowa製)を用いた。UVの照射量は、植物表面上での照射強度をUV検出器(UV-3719-4)で計測し、1日当たりの照射量を計算した。
【0076】
照射方法としては、1月から2月にかけて毎日、夜間に2時間(AM2:00~AM4:00)、照射強度が植物表面上で7μW/cm2となるように、前記の照射量をタバコに照射した。
【0077】
ウイルス接種は、照射開始6日後に、予め準備したTSWVキク分離株(タバコで増殖)を、各区6株のタバコの第5葉および第6葉に、カーボランダムを用いて汁液接種した。その後も、UVの照射を継続した。
【0078】
接種7日後に、接種葉の病斑面積率(%)を計測した。UV障害は、目視により観察した。病斑面積率の統計解析は、Tukey検定により、n=4~6で、P<0.05を有意差ありとして行った。
【0079】
(結果)
図7は、接種7日後での、各サンプルの接種葉における病斑面積率(%)を示す。
図7に示すように、無照射区では、接種7日後において接種葉の病斑面積率は約30%であった。一方、ピーク波長285nmの照射区では12.5%、ピーク波長291nmの照射区では18.3%の病斑面積率であり、両者間に有意差はなく、いずれも病斑形成に対して低減効果が認められた。しかしながら、無照射区とピーク波長291nmの照射区との間にも、病斑面積率に有意差はなかった。すなわち、ピーク波長291nmでは、TSWV感染の低減効果を得るためには、1日当たり500J/m
2を超える照射量を要することが判明した。ピーク波長285nmの照射区では、縮葉等のUV障害が発生したが、ピーク波長291nmの照射区では、UV障害は全く認められなかった。
【0080】
〔2-4.トマトへのUV照射における発病低減効果およびUV障害回避効果〕
(方法)
1a(アール)の鉄骨ハウスに、9cmポットに移植したトマト(‘桃太郎8’)を静置した。‘桃太郎8’は、ToMVに対する抵抗性遺伝子Tm-2aをヘテロに有する品種である。ドレインベッド上を2分割し、無照射区(Control)および照射区の計2処理区を設けた。各区について、トマト9株とした。
【0081】
照射区において、光照射モジュールにより照射されるUVの特性は、次の通りである;ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)。
【0082】
光照射モジュールによる1日当たりの照射量は、1170J/m2とした。光照射モジュールは、発光出力31~35mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(Dowa製)を用いた。UVの照射量は、植物草冠上層部での照射強度をUV検出器(UV-3719-4)で計測し、1日当たりの照射量を計算した。
【0083】
照射方法としては、2月から3月にかけて毎日、夜間に6.5時間(PM10:30~AM5:00)、照射強度が植物草冠上層部で約5μW/cm2となるように、前記の照射量をトマトに照射した。
【0084】
ウイルス接種は、照射開始11日後に、抵抗性遺伝子Tm-2a打破系統のToMV株(タバコで増殖)を、各区9株のトマトの本葉2葉期の第1~2葉に、カーボランダムを用いて汁液接種した。その後も、UVの照射を継続した。
【0085】
接種8日後に、発病指数を調査した。UV障害は、目視により観察した。発病指数の評価は、以下の基準で行った;
「0」:無発病、
「1」:接種葉に僅かの黄化えそ斑が観察される、
「2」:接種葉に明瞭な黄化えそ斑が観察される、
「3」:接種葉に多数の黄化えそ斑が観察される、
「4」:接種葉の枯死が観察される。
【0086】
ここで、「僅か」とは、注意深く観察すれば見つかる程度を示す。発病指数の統計解析は、Mann-Whitney U 検定により、n=9で、P<0.1を有意傾向ありとして行った。
【0087】
また、実施例1と同様、トマト葉におけるウイルス蓄積量を調査した。ここでは、接種8日後の、上記発病指数の調査に用いたトマトの第4~5葉0.15~0.2gをサンプリングして、-80℃に保存したToMV接種サンプルを用いた。このToMV接種サンプルから、市販キットにより全RNAを抽出して精製した。その後、ノーマライザーとしてトマトのEF1a遺伝子の遺伝子発現量を用い、比較Ct法による定量PCR解析により、トマト葉内のToMVウイルス蓄積量を調査した。
【0088】
(結果)
図8は、接種8日後における各サンプルの発病指数を示す。また、
図9は、各サンプルのToMV蓄積量を示す。
図8に示すように、無照射区では、接種8日後における発病指数は約2だったのに対し、照射区では約1.1であった。すなわち、トマトにおいて、UV照射によるToMVの発病低減傾向が認められた。また、照射区では、僅かな葉の光沢および縮葉といったUV障害が見られたが、生育にはほとんど影響のない極めて軽微なものであった。
【0089】
図9に示すように、トマト体内のToMV蓄積量は、照射区では無照射区の約64%であり、照射区の方が少なかった。すなわち、UV照射による、トマト葉でのToMV増殖低減効果が観察された。
【0090】
以上の結果から、ピーク波長291nmのUVを1日当たり夜間に1170J/m2で照射することで、トマトのToMVによる発病を、UV障害を十分に回避しながら効果的に低減できた。
【0091】
〔2-5.トマトへのUV照射における感染低減効果〕
(方法)
1a(アール)の鉄骨ハウスに、9cmポットに移植したトマト(‘桃太郎8’)を静置した。ドレインベッド上を2分割し、無照射区(Control)および照射区の計2処理区を設けた。各区について、トマト6株とした。
【0092】
照射区において、光照射モジュールにより照射されるUVの特性は、次の通りである;ピーク波長291nm(誤差±1nm、λp=290~292nm、Δλ=11~12nm)。
【0093】
光照射モジュールによる1日当たりの照射量は、1170J/m2とした。光照射モジュールは、発光出力31~35mWの、SMD基板実装タイプの光照射モジュール(Dowa製)を用いた。UVの照射量は、植物草冠上層部での照射強度をUV検出器(UV-3719-4)で計測し、1日当たりの照射量を計算した。
【0094】
照射方法としては、3月に毎日、夜間に6.5時間(PM10:30~AM5:00)、照射強度が植物草冠上層部で約5μW/cm2となるように、前記の照射量をトマトに照射した。
【0095】
ウイルス接種は、照射開始3日後に、抵抗性遺伝子Tm-2a打破系統のToMV株(タバコで増殖)を、各区6株のトマトの本葉5.5葉期の第4~5葉に、カーボランダムを用いて汁液接種した。その後も、UVの照射を継続した。
【0096】
接種7日後に、接種葉の局部病斑数を調査した。局部病斑数の統計解析は、t-検定により、n=6で、P<0.01を有意差ありとして行った。
【0097】
(結果)
図10は、接種7日後における各サンプルの接種葉における局部病斑数を示す。
図10に示すように、無照射区では、接種7日後において接種葉に平均79.5個の局部病斑が出現した。一方、照射区では24.8個の局部病斑が出現しており、UV照射によって、トマトのToMVに対する有意かつ明らかな感染低減効果が認められた。
【0098】
以上より、ピーク波長291nmのUVを1日当たり1170J/m2で照射することで、トマトへのToMVの感染を有効に低減できることが判明した。
【0099】
〔LED光源について〕
LED光源の製造性および流通性の問題から、すべてのピーク波長を連続的に試行することは不可能であり、今回の実験のように約5nm間隔の非連続的なピーク波長で実験データを蓄積した。しかし、この方法でも、最適な波長を絞り込むのに必要かつ十分な精度を有していると判断できる。すなわち、本願の出願時の技術水準においては、上述の各実施例は、UVのピーク波長を最大限に細分化した条件による実験となっている。
【0100】
LED光源におけるピーク波長の誤差を±1nmと考えると、上述の実施例で使用したピーク波長285nmのLED光源は、ピーク波長286nmのUVも照射し得る。また、ピーク波長297nmのLED光源は、ピーク波長296nmのUVも照射し得る。これを考慮すると、上述の各実施例では、287nm以上295nm以下の範囲にピーク波長を有するUVであれば、キク科またはナス科の植物のウイルス病について、最も効果的に、UV障害を回避しながら低減できることが示されたと言える。
【0101】
〔付記事項〕
また、本発明は上述した各実施形態または各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。