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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140256
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】エッチング液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20220915BHJP
   C23F 1/16 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01L21/306 F
C23F1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167898
(22)【出願日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2021038475
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】木村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 翔太
【テーマコード(参考)】
4K057
5F043
【Fターム(参考)】
4K057WA04
4K057WB03
4K057WB04
4K057WB05
4K057WB08
4K057WE04
4K057WF06
4K057WG01
4K057WG02
4K057WG03
4K057WG06
4K057WN01
5F043AA24
5F043AA26
5F043BB28
5F043BB30
5F043DD07
5F043DD10
5F043GG02
(57)【要約】
【課題】一態様において、エッチングむらを低減できるエッチング液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水とを含み、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、
前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水とを含み、pHが1以下であり、
前記エッチング抑制剤は、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物である、エッチング液組成物。
【請求項2】
前記エッチング抑制剤は、ポリエチレンイミンである、請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、
前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、リン酸、酢酸、及び硝酸を含む酸と、水と、を含有し、pHが1以下であり、
前記エッチング抑制剤は、下記条件で求められるエッチング抑制率が30%以上である窒素含有化合物である、エッチング液組成物。
ここで、エッチング抑制率は、リン酸、酢酸、硝酸及び水からなり、前記リン酸、酢酸及び硝酸の配合量の質量比が前記エッチング液組成物におけるリン酸、酢酸及び硝酸の配合量の質量比と同じであり、前記リン酸、酢酸及び硝酸の合計配合量が86質量%である混酸水溶液を用いて所定温度と所定時間でエッチングした際のエッチング速度を100としたときの前記エッチング液組成物のエッチング速度の相対速度Aを、100から引いた値とする。
【請求項4】
少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、
前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水と、を含有し、pHが1以下であり、
前記エッチング抑制剤は、被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位を0mV超50mV以下にすることができる窒素含有化合物である、エッチング液組成物。
【請求項5】
前記エッチング抑制剤の平均分子量が300以上である、請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
前記酸は、硝酸に加えてリン酸及び酢酸から選ばれる少なくとも1種を更に含む、請求項1又は4に記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
前記エッチング液組成物は、過酸化水素を含まない、請求項1から6のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項8】
前記金属が、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属である、請求項1から7のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングする工程を含む、エッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング液組成物及びこれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程において、例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウム等の少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングして所定のパターン形状に加工する工程が行われている。
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められており、パターンの加工技術やエッチング液に対する要求も高まりつつあり、様々なエッチング方法が提案されている(特許文献1~3)。
【0003】
例えば、特許文献1には、硝酸と水とを含むエッチング液組成物を用いて、タングステン膜と窒化チタン膜とを一括でエッチング処理する方法が提案されている。
特許文献2には、過酸化水素、及び強酸又は強塩基のうちの1つを用いてタングステン層をエッチングする方法が提案されている。
特許文献3には、過酸化水素、リン酸、及びアミンまたはアミドポリマーを用いてタングステン膜と窒化チタン膜とを一括でエッチング処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-6715号公報
【特許文献2】特開2019-114791号公報
【特許文献3】韓国特許公報10-2014-0065771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエッチング方法では、タングステン等の金属を含む被エッチング層が過剰にエッチングされてエッチングむらが生じることがあった。特に、半導体ウエハの製造過程において、生産性、収率の観点から、エッチングむらが生じにくいエッチング液が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、一態様において、エッチングむらを低減できるエッチング液組成物及びこれを用いたエッチング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水とを含み、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、リン酸、酢酸、及び硝酸を含む酸と、水と、を含有し、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、下記条件で求められるエッチング抑制率が30%以上である窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
ここで、エッチング抑制率は、リン酸、酢酸、硝酸及び水からなり、前記リン酸、酢酸及び硝酸の配合量の質量比が前記エッチング液組成物におけるリン酸、酢酸及び硝酸の配合量の質量比と同じであり、前記リン酸、酢酸及び硝酸の合計配合量が86質量%である混酸水溶液を用いて所定温度と所定時間でエッチングした際のエッチング速度を100としたときの前記エッチング液組成物のエッチング速度の相対速度Aを、100から引いた値とする。
【0009】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水と、を含有し、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位を0mV超50mV以下にすることができる窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングする工程を含む、エッチング方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、エッチングむらを低減できるエッチング液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、一態様において、少なくとも硝酸を含む酸、エッチング抑制剤、及び水を含むエッチング液を用いることで、エッチング速度を低速化し、エッチングむらを低減できるという知見に基づく。
【0013】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水とを含み、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物である、エッチング液組成物(以下、「本開示のエッチング液組成物」ともいう)に関する。本開示のエッチング液組成物によれば、エッチングむらを低減できる。
【0014】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
被エッチング層の表面を隙間なく被覆又は厚みのある保護膜を形成することで、エッチング抑制率が高くなる傾向にある。
本開示では、エッチング抑制剤である特定の窒素含有化合物が被エッチング層に選択的に吸着し、被エッチング層の表面を保護しながら緩やかにエッチングするため、エッチングむらを低減できると考えられる。
また、酸性条件下での被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位はマイナスの値であり、本開示のエッチング抑制剤である窒素含有化合物は、酸性条件下でプラスの電荷を帯びているため、被エッチング層に選択的に吸着しやすい。従って、本開示では、エッチング抑制剤である特定の窒素含有化合物が被エッチング層に含まれる金属の表面を保護しながら緩やかにエッチングするため、エッチングむらを低減できると考えられる。
なお、従来の過酸化水素を用いたエッチングでは、被エッチング層に含まれる金属の酸化状態や該金属の酸化物が複数種生成しやすくなり、エッチングむらが発生しやすくなると推定される。また、本開示のエッチング抑制剤以外の窒素含有化合物(例えば、ポリアルキレンポリアミン)では、被エッチング層に含まれる金属の表面に保護膜を形成しにくく、エッチングむらが発生しやすくなると推定される。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
[エッチング抑制剤]
本開示のエッチング液組成物に含まれるエッチング抑制剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本開示におけるエッチング抑制剤は、エッチングむら低減の観点から、エッチング抑制率が20%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が更に好ましく、60%以上が更に好ましく、70%以上が更に好ましく、80%以上が更に好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が更に好ましく、94%以上が更に好ましい。
本開示において、エッチング抑制率とは、エッチング抑制剤を使用しない場合のエッチング速度に対するエッチング抑制剤を使用した場合のエッチング速度の減少率のことを示す。エッチング抑制率は、一又は複数の実施形態において、リン酸、酢酸、硝酸及び水からなり、前記リン酸、酢酸及び硝酸の配合量の質量比がエッチング液組成物におけるリン酸、酢酸及び硝酸の配合量の質量比と同じであり、前記リン酸、酢酸及び硝酸の合計配合量が86質量%である混酸水溶液を用いて所定温度と所定時間でエッチングした際のエッチング速度を100としたときの前記エッチング液組成物のエッチング速度の相対速度Aを、100から引いた値とすることができる。なお、混酸水溶液中の各成分の配合量の質量比は適宜設定することができる。エッチング抑制率は、一又は複数の実施形態において、温度、時間等の実施条件をエッチングを行う条件に適合させて測定することができる。エッチング抑制率の測定条件は、被エッチング層に含まれる金属によって異なり、エッチング抑制率を測定するときの温度及び時間の好ましい範囲としては、一又は複数の実施形態において、後述する本開示のエッチング工程におけるエッチング温度及びエッチング時間の好ましい範囲が挙げられる。例えば、エッチング抑制率の測定における所定温度及び所定時間は、測定に用いる金属板がタングステン板又はチタン板の場合は90℃で120分間、モリブデン板、ニッケル板、コバルト板又は銅板の場合は40℃で10分間とすることができる。測定に用いる金属板の形状は、例えば、縦2cm、横2cm、厚さ0.1mmの板状体とすることができる。エッチング抑制率は、具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0017】
本開示におけるエッチング抑制剤としては、一又は複数の実施形態において、エッチングむら低減の観点から、上記条件で求められるエッチング抑制率が30%以上である窒素含有化合物であることが好ましい。
したがって、本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、リン酸、酢酸、及び硝酸を含む酸と、水と、を含有し、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、上記条件で求められるエッチング抑制率が30%以上である窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
【0018】
本開示におけるエッチング抑制剤としては、一又は複数の実施形態において、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を有するポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物が挙げられる。前記ポリアルキレンイミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン等が挙げられる。前記ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーとしては、例えば、ジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、エッチング抑制剤としては、一又は複数の実施形態において、エッチングむら低減の観点から、ポリアルキレンイミンが好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。ポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミンは、被エッチング層に含まれる金属の表面に保護膜を形成しやすく、被エッチング層に含まれる金属の酸化や該金属の酸化物の溶解の両方を抑制でき、好適にエッチングを抑制できる。
【0019】
エッチング抑制剤の平均分子量は、一又は複数の実施形態において、エッチングむらのさらなる低減の観点から、300以上であることが好ましく、100,000以下であることが好ましい。
エッチング抑制剤がポリアルキレンイミンである場合、エッチング抑制剤の数平均分子量は、一又は複数の実施形態において、エッチングむらの更なる低減の観点から、300以上が好ましく、600以上がより好ましく、1,200以上が更に好ましく、そして、粘度の観点から、100,000以下が好ましく、5,000以下がより好ましく、3,000以下が更に好ましい。より具体的には、エッチング抑制剤の数平均分子量は、300以上100,000以下が好ましく、600以上5,000以下がより好ましく、1,200以上3,000以下 が更に好ましい。
また、エッチング抑制剤がジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーである場合、エッチング抑制剤の重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、エッチングむらの更なる低減の観点から、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、4,000以上が更に好ましく、そして、50,000以下が好ましく、10,000以下がより好ましく、7,000以下が更に好ましい。より具体的には、エッチング抑制剤の分子量は、2,000以上50,000以下が好ましく、3,000以上10,000以下がより好ましく、4,000以上7,000以下 が更に好ましい。
【0020】
本開示において平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって下記条件で測定できる。
<GPC条件(ポリアルキレンイミン)>
試料液:0.1wt%の濃度に調整したもの
装置/検出器: HLC-8320GPC(一体型GPC)東ソー(株)製
カラム:α―M+α―M(東ソー株式会社製)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1% CH3COOH/水
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
試料液注入量:100μL
標準ポリマー:分子量が既知のプルラン(Shodex社 P-5、P-50,P-200、P-800)
<GPC条件(ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマー)>
試料液:0.1wt%の濃度に調整したもの
検出器:HLC-8320GPC(一体型GPC)東ソー(株)製
カラム:α―M+α―M(東ソー株式会社製)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1% CH3COOH/水
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
試料液注入量:100μL
標準ポリマー:分子量が既知のプルラン(Shodex社 P-5、P-50,P-200、P-800)
【0021】
本開示におけるエッチング抑制剤は、一又は複数の実施形態において、エッチングむら低減の観点から、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物であって、且つ、上記条件で求められるエッチング抑制率が30%以上である窒素含有化合物であることが好ましい。
したがって、本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水とを含み、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、ポリアルキレンイミン、及び、ジアリルアミン由来の構成単位を含むポリマーから選ばれる少なくとも1種の窒素含有化合物であって、かつ、上記条件で求められるエッチング抑制率が30%以上である窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
【0022】
本開示におけるエッチング抑制剤は、一又は複数の実施形態において、エッチングむら低減の観点から、被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位を0mV超50mV以下にすることができる窒素含有化合物であることが好ましい。前記金属の表面のゼータ電位は、エッチングむら低減の観点から、0mV超が好ましく、10mV以上がより好ましく、20mV以上が更に好ましい。なお、前記金属の表面のゼータ電位は、50mV以下、40mV以下、又は35mV以下であってもよい。
したがって、本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、エッチング抑制剤と、少なくとも硝酸を含む酸と、水と、を含有し、pHが1以下であり、前記エッチング抑制剤は、被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位を0mV超50mV以下にすることができる窒素含有化合物である、エッチング液組成物に関する。
【0023】
本開示において、酸性条件下での被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位はマイナスの値であり、本開示におけるエッチング抑制剤である窒素含有化合物は、酸性条件下でプラスの電荷を帯びているため、被エッチング層に選択的に吸着しやすい。従って、本開示のエッチング組成物を用いて被エッチング層をエッチングしたとき、被エッチング層に含まれる金属の表面のゼータ電位の値がプラスの値に変化したことで、エッチング抑制剤が金属の表面へ吸着したことを確認でき、金属の表面はエッチング抑制剤によって保護されながら緩やかにエッチングされるため、エッチングむらを低減できると考えられる。
【0024】
本開示のエッチング液組成物におけるエッチング抑制剤の配合量は、エッチングむら低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物におけるエッチング抑制剤の配合量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が更に好ましい。エッチング抑制剤が2種以上の組合せである場合、エッチング抑制剤の配合量はそれらの合計配合量である。
【0025】
[酸]
本開示のエッチング液組成物に含まれる酸は、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、少なくとも硝酸を含む酸である。酸は、1種単独(硝酸のみ)で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本開示における酸は、一又は複数の実施形態において、エッチングむら低減の観点から、硝酸以外にリン酸及び有機酸から選ばれる少なくとも1種を更に含むことが好ましい。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、トリメリット酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、サリチル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本開示における酸は、一又は複数の実施形態において、エッチングむら低減の観点から、硝酸に加えてリン酸及び酢酸から選ばれる少なくとも1種を更に含むことが好ましい。例えば、酸としては、一又は複数の実施形態において、リン酸、酢酸及び硝酸を含む酸が挙げられ、一又は複数の実施形態において、リン酸、酢酸及び硝酸からなる混酸が挙げられる。
【0027】
本開示における酸としてリン酸、酢酸及び硝酸からなる混酸を用いる場合、前記混酸中のリン酸の配合量は、エッチングむら低減の観点から、50質量%以上95質量%以下が好ましく、55質量%以上93質量%以下がより好ましく、60質量%以上90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、前記混酸中の酢酸の配合量は、2質量%以上80質量%以下が好ましく、3質量%以上70質量%以下がより好ましく、5質量%以上60質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、前記混酸中の硝酸の配合量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上10質量%以下が更に好ましい。リン酸と酢酸と硝酸との質量比(リン酸/酢酸/硝酸)は適宜設定することができ、例えば、88/8/4とすることができる。本開示において、混酸中の各成分の配合量は、一又は複数の実施形態において、混酸中の各成分の含有量とみなすことができる。
【0028】
本開示における酸として少なくとも硝酸用いる場合、本開示のエッチング液組成物における硝酸の配合量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上5質量%以下が更に好ましい。
【0029】
本開示のエッチング液組成物における酸の配合量は、エッチングむら低減の観点から、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中における酸の配合量は、70質量%以上98質量%以下が好ましく、75質量%以上95質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下が更に好ましい。酸が2種以上の組合せである場合、酸の配合量はそれらの合計配合量である。
【0030】
[水]
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、水を含む。本開示のエッチング液に含まれる水としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられる。
【0031】
本開示のエッチング液組成物における水の配合量は、エッチングむら低減の観点から、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物における水の配合量は、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、7質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0032】
[その他の成分]
本開示のエッチング液組成物は、本開示の効果が損なわれない範囲で、その他の成分をさらに配合してなるものであってもよい。その他の成分としては、キレート剤、界面活性剤、可溶化剤、防腐剤、防錆剤、殺菌剤、抗菌剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0033】
本開示のエッチング液組成物は、エッチングむら低減の観点から、過酸化水素を含まないことが好ましい。ここで、「過酸化水素を含まない」とは、一又は複数の実施形態において、過酸化水素を含まないこと、実質的に過酸化水素を含まないこと、又は、エッチング結果に影響を与える量の過酸化水素を含まないこと、を含む。具体的な本開示のエッチング液組成物中における過酸化水素の配合量は、特に限定されないが、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。
【0034】
[エッチング液組成物の製造方法]
本開示のエッチング液組成物は、一態様において、エッチング抑制剤と、硝酸を含む酸と、水と、所望により上述した任意成分とを公知の方法で配合することにより得られる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも、エッチング抑制剤と、硝酸を含む酸と、水とを配合する工程を含む、エッチング液組成物の製造方法(以下、「本開示のエッチング液製造方法」ともいう)に関する。
本開示において「少なくとも、エッチング抑制剤と、硝酸を含む酸と、水とを配合する」とは、一又は複数の実施形態において、エッチング抑制剤と、硝酸を含む酸と、水と、必要に応じて上述した任意成分とを同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は、特に限定されなくてもよい。前記配合は、例えば、プロペラ型撹拌機、ポンプによる液循環撹拌、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。
本開示のエッチング液製造方法において各成分の好ましい配合量は、上述した本開示のエッチング液組成物の各成分の好ましい配合量と同じとすることができる。
【0035】
本開示において「エッチング液組成物における各成分の配合量」とは、一又は複数の実施形態において、エッチング工程に使用される、すなわち、エッチング処理への使用を開始する時点(使用時)でのエッチング液組成物の各成分の配合量をいう。
本開示のエッチング液組成物中の各成分の配合量は、一又は複数の実施形態において、本開示のエッチング液組成物中の各成分の含有量とみなすことができる。ただし、中和の影響を受ける場合は、配合量と含有量が異なる場合がある。
【0036】
本開示のエッチング液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。2液型のエッチング液組成物の一実施形態としては、エッチング抑制剤を含む溶液(第1液)と、硝酸を含む酸水溶液(第2液)とから構成され、使用時に第1液と第2液とが混合されるものが挙げられる。第2液に含まれる酸は、エッチング液組成物の調製に使用する酸の全量でもよいし、一部でもよい。第1液は酸を含んでいてもよい。第1液及び第2液はそれぞれ必要に応じて上述した任意成分を含有することができる。
【0037】
本開示のエッチング液組成物のpHは、エッチングむら低減の観点から、1以下であり、0以下が好ましく、0未満がより好ましく、-1程度が更に好ましい。なお、本開示のエッチング液組成物のpHは、-5以上、又は-3以上とすることができる。本開示において、エッチング液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0038】
本開示のエッチング液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて適宜希釈してエッチング工程で使用することができる。希釈割合は例えば、5~100倍とすることができる。
【0039】
[キット]
本開示は、その他の態様において、本開示のエッチング液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。
【0040】
本開示のキットとしては、例えば、エッチング抑制剤を含む溶液(第1液)と、少なくとも硝酸を含む酸水溶液(第2液)とを相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合されるキット(2液型エッチング液)が挙げられる。第1液と第2液とが混合された後、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて希釈されてもよい。第1液又は第2液には、エッチング液の調製に使用する水の全量又は一部が含まれていてもよい。第2液に含まれる酸は、エッチング液の調製に使用する酸の全量でもよいし、一部でもよい。第1液は、酸を含んでいてもよい。第1液及び第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。本開示のキットによれば、エッチングむらを低減可能なエッチング液が得られうる。
【0041】
[被エッチング層]
本開示のエッチング液組成物を用いてエッチング処理される被エッチング層は、一又は複数の実施形態において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層である。ここで、金属としては、本発明の効果の奏する限り特に限定されるものではないが、例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これらの中でも、本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル及びジルコニウムの群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む被エッチング層のエッチングに用いられることが好ましく、一又は複数の実施形態において、タングステン膜又はモリブデン膜のエッチングに好適に用いられる。すなわち、被エッチング層としては、一又は複数の実施形態において、タングステン膜又はモリブデン膜が挙げられる。
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、タングステン、モリブデン、銅、ニッケル、コバルト及びチタンから選ばれる少なくとも1種の金属を含む被エッチング層のエッチングに用いられることが好ましく、一又は複数の実施形態において、タングステン膜、モリブデン膜、銅膜、ニッケル膜、コバルト膜又はチタン膜のエッチングに好適に用いられる。すなわち、被エッチング層としては、一又は複数の実施形態において、タングステン膜、モリブデン膜、銅膜、ニッケル膜、コバルト膜又はチタン膜が挙げられる。
【0042】
[エッチング方法]
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングする工程(以下、「本開示のエッチング工程」ともいう)を含む、エッチング方法(以下、「本開示のエッチング方法」ともいう)に関する。本開示のエッチング方法を使用することにより、一又は複数の実施形態において、エッチングむらを低減可能である。
【0043】
本開示のエッチング工程において、エッチング処理方法としては、例えば、浸漬式エッチング、枚葉式エッチング等が挙げられる。
【0044】
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がタングステン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、そして、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がタングステン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上130℃以下がより好ましく、70℃以上110℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がモリブデン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、25℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がモリブデン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、25℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がニッケル膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がニッケル膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がコバルト膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がコバルト膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がチタン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、そして、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がチタン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上130℃以下がより好ましく、70℃以上110℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層が銅膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層が銅膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
【0045】
本開示のエッチング工程において、エッチング時間は、例えば、1分以上180分以下に設定できる。
【0046】
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がタングステン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、生産性向上の観点から、0.0001g/分以上が好ましく、0.0005g/分以上がより好ましく、0.001g/分以上が更に好ましく、そして、エッチングむら低減の観点から、10g/分以下が好ましく、1g/分以下がより好ましく、0.1g/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がモリブデン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、生産性向上の観点から、0.01g/分以上が好ましく、0.03g/分以上がより好ましく、0.05g/分以上が更に好ましく、そして、エッチングむら低減の観点から、10g/分以下が好ましく、3g/分以下がより好ましく、1g/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がニッケル膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、生産性向上の観点から、0.001g/分以上が好ましく、0.005g/分以上がより好ましく、0.01g/分以上が更に好ましく、そして、エッチングむら低減の観点から、10g/分以下が好ましく、1g/分以下がより好ましく、0.5g/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がコバルト膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、生産性向上の観点から、0.0001g/分以上が好ましく、0.0005g/分以上がより好ましく、0.001g/分以上が更に好ましく、そして、エッチングむら低減の観点から、10g/分以下が好ましく、1g/分以下がより好ましく、0.1g/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がチタン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、生産性向上の観点から、0.00001g/分以上が好ましく、0.0005g/分以上がより好ましく、0.001g/分以上が更に好ましく、そして、エッチングむら低減の観点から、10g/分以下が好ましく、3g/分以下がより好ましく、1g/分以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層が銅膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング速度は、生産性向上の観点から、0.0001g/分以上が好ましく、0.0005g/分以上がより好ましく、0.001g/分以上が更に好ましく、そして、エッチングむら低減の観点から、10g/分以下が好ましく、1g/分以下がより好ましく、0.1g/分以下が更に好ましい。
【0047】
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、電子デバイス、特に、半導体ウエハの製造工程において、金属をエッチングするために用いることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、半導体ウエハの作製に好適に用いることができる。これにより、エッチングむらが改善し、生産性、収率を向上できる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、電子デバイス、特に、NAND型フラッシュメモリを含む不揮発性メモリ等の半導体メモリの製造工程において、電極をエッチングするために用いることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、三次元構造を有するパターンの作製に好適に用いることができる。これにより、大容量化されたメモリ等の高度なデバイスを得ることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、例えば、特開2020-145412号公報に開示されるようなエッチング方法に用いることができる。
【実施例0048】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
1.エッチング液の調製
(実施例1~9)
表1に示すエッチング抑制剤、混酸(リン酸/酢酸/硝酸、質量比:88/8/4)及び水を配合して実施例1~9のエッチング液(pH:-1)を得た。なお、混酸の質量比は質量換算したものである。
(比較例1)
比較例1のエッチング液には、リン酸、酢酸、硝酸及び水を質量比(リン酸/酢酸/硝酸/水)76/7/3/14で配合した混酸水溶液(pH:-1)を用いた。
(比較例2)
表1に示す窒素含有化合物(アルギニン)、混酸(リン酸/酢酸/硝酸、質量比:88/8/4)及び水を配合して比較例2のエッチング液(pH:-1)を得た。
(比較例3)
表1に示すエッチング抑制剤(ポリエチレンイミン)、過酸化水素、リン酸及び水を配合して比較例3のエッチング抑制剤(pH:-1)を得た。
調製したエッチング液における各成分の配合量(質量%、有効分)を表1に示した。なお、表1中の水の配合量には、酸水溶液や過酸化水素水等に含まれる水の配合量も含まれている。
【0050】
エッチング液の調製には、下記成分を用いた。
(エッチング抑制剤又は窒素含有化合物)
ポリエチレンイミン[数平均分子量300、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-003」]
ポリエチレンイミン[数平均分子量600、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-006」]
ポリエチレンイミン[数平均分子量1,200、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-0012」]
ポリエチレンイミン[数平均分子量1,800、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-018」]
ポリエチレンイミン[数平均分子量10,000、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-200」]
ポリエチレンイミン[数平均分子量70,000、株式会社日本触媒製の「エポミンP-1000」]
ジアリルアミン酢酸塩/二酸化硫黄共重合体[モル比50/50、重量平均分子量5,000、ニットーボーメディカル株式会社製の「PAS-92A」]
N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン[分子量130、日本乳化剤株式会社]
DL-アルギニン[分子量174、富士フイルム和光純薬株式会社製]
(過酸化水素)
22[過酸化水素、濃度35質量%、ADEKA社製]
(酸)
リン酸[燐化学工業社製、濃度85%]
酢酸[富士フイルム和光純薬株式会社、濃度100%]
硝酸[富士フイルム和光純薬株式会社、濃度70%]
(水)
水[栗田工業株式会社製の連続純水製造装置(ピュアコンティ PC-2000VRL型)とサブシステム(マクエース KC-05H型)を用いて製造した超純水]
【0051】
2.各パラメータの測定方法
[エッチング液のpH]
エッチング液の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した値であり、pHメータの電極をエッチング液へ浸漬して1分後の数値である。
【0052】
3-1.エッチング液の評価(被エッチング層:タングステン板)
[タングステン板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~9及び比較例1~3)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmの板状体であるタングステン板を浸漬させ、タングステン板は90℃で120分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、タングステン板の重量を測定し、その差分をエッチング量とした。重量の測定には、精密天秤を用いた。
そして、下記式により、タングステン板のエッチング速度を求めた。
エッチング速度(g/分)=エッチング量(g)/エッチング時間(分)
タングステン板のエッチング速度の結果を、比較例1を100とした相対値(相対速度)で表1に示した。また、比較例1のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表1に示した。
なお、前記エッチング速度及びエッチング抑制率の評価は、縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのタングステン板の代りに、縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのモリブデン板、又は、特開2020-145412号公報の図1に記載のウエハを用いて行うことができる。
【0053】
[タングステン板のエッチングむらの評価(面精度)]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~9及び比較例1~3)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのタングステン板を浸漬させ、タングステン板は90℃で120分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、タングステン板の表面をKEYENCE社製の形状測定レーザマイクロスコープVK-9710(レンズ倍率150倍)を用いて観察した写真を同装置の表面粗さモードで解析した。そして、面精度(エッチングむら)を求めた。タングステン板の面精度評価を、下記評価基準に基づいて行い、結果を表1に示した。
面精度(%)=エッチング後の表面粗さ/エッチング前の表面粗さ×100
<評価基準>
5:面精度120%未満
4:面精度120%以上200%未満
3:面精度200%以上300%未満
2:面精度300%以上500%未満
1:面精度500%以上700%未満
0:面精度700%以上
なお、前記エッチングむらの評価は、縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのタングステン板の代りに、縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのモリブデン板、又は、特開2020-145412号公報の図1に記載のウエハを用いて行うことができる。
【0054】
[ゼータ電位]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~9及び比較例1~3)に、タングステンの標準液を100ppm添加させ、ゼータ電位測定用サンプルの調製を行った。重量の測定には、精密天秤を用いた。
本調製液をキャピラリーセルDTS1070に入れ、Malvern社製「ゼータサイザーNano ZS」を用いて、以下の条件でゼータ電位の測定を行った。
<測定条件>
タングステン: 屈折率:2.200 吸収率:0.390
分散媒: 粘度:39cP、屈折率:1.426
温度:25℃
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示されるように、エッチング抑制剤及び混酸(硝酸を含む酸)が配合されている実施例1~9はいずれも、エッチング抑制剤が配合されていない比較例1~2、及び、硝酸を含まない酸が配合されている比較例3に比べて、タングステン板のエッチング速度が遅く、エッチングむらが低減していた。
【0057】
さらに、実施例1、3~4及び比較例1~3のエッチング液を用いてさらに下記の評価を行った。
【0058】
3-2.エッチング液の評価(被エッチング層:ニッケル板)
[ニッケル板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
前記タングステン板の代りに縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのニッケル板を用いたこと、及び、エッチング条件をエッチング温度40℃、エッチング時間10分に変更しこと以外は、前記タングステンのエッチング方法と同様にしてニッケル板のエッチングを行い、ニッケル板のエッチング速度を測定した。ニッケル板のエッチング速度の結果を、表2に示した。また、比較例1のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表2に示した。
【0059】
[ニッケル板のエッチングむらの評価(面精度)]
調製したエッチング液(実施例1、3~4及び比較例1~3)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのニッケル板を浸漬させ、ニッケル板は40℃で10分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、ニッケル板の表面をKEYENCE社製の形状測定レーザマイクロスコープVK-9710(レンズ倍率150倍)を用いて観察した写真を同装置の表面粗さモードで解析した。そして、面精度(エッチングむら)を求めた。ニッケル板の面精度評価は、上述したタングステンの面精度評価と同様の評価基準に基づいて行い、結果を表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示されるように、エッチング抑制剤及び混酸(硝酸を含む酸)が配合されている実施例1、3~4は、エッチング抑制剤が配合されていない比較例1~2、及び、硝酸を含まない酸が配合されている比較例3に比べて、エッチングむらが低減していた。
【0062】
3-3.エッチング液の評価(被エッチング層:コバルト板)
[コバルト板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
前記タングステン板の代りに縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのコバルト板を用いたこと、及び、エッチング条件をエッチング温度40℃、エッチング時間10分に変更しこと以外は、前記タングステンのエッチング方法と同様にしてコバルト板のエッチングを行い、コバルト板のエッチング速度を測定した。コバルト板のエッチング速度の結果を、表3に示した。また、比較例1のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表3に示した。
【0063】
[コバルト板のエッチングむらの評価(面精度)]
調製したエッチング液(実施例1、3~4及び比較例1~3)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのコバルト板を浸漬させ、コバルト板は40℃で10分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、コバルト板の表面をKEYENCE社製の形状測定レーザマイクロスコープVK-9710(レンズ倍率150倍)を用いて観察した写真を同装置の表面粗さモードで解析した。そして、面精度(エッチングむら)を求めた。コバルト板の面精度評価は、上述したタングステンの面精度評価と同様の評価基準に基づいて行い、結果を表3に示した。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示されるように、エッチング抑制剤及び混酸(硝酸を含む酸)が配合されている実施例1、3~4は、エッチング抑制剤が配合されていない比較例1~2、及び、硝酸を含まない酸が配合されている比較例3に比べて、エッチングむらが低減していた。
【0066】
3-4.エッチング液の評価(被エッチング層:チタン板)
[チタン板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
前記タングステン板の代りに縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのチタン板を用いたこと以外は、前記タングステンのエッチング方法と同様にしてチタン板のエッチングを行い、チタン板のエッチング速度を測定した。チタン板のエッチング速度の結果を、表4に示した。また、比較例1のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表4に示した。
【0067】
[チタン板のエッチングむらの評価(面精度)]
調製したエッチング液(実施例1、3~4及び比較例1~3)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのチタン板を浸漬させ、チタン板は90℃で120分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、コバルト板の表面をKEYENCE社製の形状測定レーザマイクロスコープVK-9710(レンズ倍率150倍)を用いて観察した写真を同装置の表面粗さモードで解析した。そして、面精度(エッチングむら)を求めた。チタン板の面精度評価は、上述したタングステンの面精度評価と同様の評価基準に基づいて行い、結果を表4に示した。
【0068】
【表4】
【0069】
表4に示されるように、エッチング抑制剤及び混酸(硝酸を含む酸)が配合されている実施例1、3~4は、エッチング抑制剤が配合されていない比較例1~2、及び、硝酸を含まない酸が配合されている比較例3に比べて、エッチングむらが低減していた。
【0070】
3-5.エッチング液の評価(被エッチング層:銅板)
[銅板のエッチング速度及びエッチング抑制率の評価]
前記タングステン板の代りに縦2cm、横2cm、厚み0.1mmの銅板を用いたこと、及び、エッチング条件をエッチング温度40℃、エッチング時間10分に変更しこと以外は、前記タングステンのエッチング方法と同様にして銅板のエッチングを行い、銅板のエッチング速度を測定した。銅板のエッチング速度の結果を、表5に示した。また、比較例1のエッチング速度を100とした各実施例の相対速度を100から引いた値をエッチング抑制率(%)とし、表5に示した。
【0071】
[銅板のエッチングむらの評価(面精度)]
調製したエッチング液(実施例1、3~4及び比較例1~3)に、予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmの銅板を浸漬させ、銅板は40℃で10分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、銅板の表面をKEYENCE社製の形状測定レーザマイクロスコープVK-9710(レンズ倍率150倍)を用いて観察した写真を同装置の表面粗さモードで解析した。そして、面精度(エッチングむら)を求めた。銅板の面精度評価は、上述したタングステンの面精度評価と同様の評価基準に基づいて行い、結果を表5に示した。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示されるように、エッチング抑制剤及び混酸(硝酸を含む酸)が配合されている実施例1、3~4は、エッチング抑制剤が配合されていない比較例1~2、及び、硝酸を含まない酸が配合されている比較例3に比べて、エッチングむらが低減していた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示のエッチング液組成物は、エッチングむらを低減でき、大容量の半導体メモリの製造方法において有用である。