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特開2022-140316高耐熱性活性アルミナ成形体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140316
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】高耐熱性活性アルミナ成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20220915BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220915BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220915BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20220915BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20220915BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20220915BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C01G25/02
B01J37/02 101Z
B01J37/08
B01J35/08 Z
B01J32/00
B01J23/46 301M
C01B3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025905
(22)【出願日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021039396
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】則岡 慎平
(72)【発明者】
【氏名】平山 昭雄
【テーマコード(参考)】
4G048
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AD04
4G048AD06
4G140EA01
4G140EA06
4G140EC03
4G140EC08
4G169AA01
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA01C
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BB12C
4G169BC43A
4G169BC51C
4G169BC70B
4G169CC17
4G169EA04Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC02
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れるとともに、担持された活性金属の分散度を高く維持でき、かつ、活性金属を担持する工程で溶出する成分を含まない高耐熱性活性アルミナ成形体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る活性アルミナに分散担持されているジルコニアを含み、ジルコニアが主として正方晶のジルコニアとして存在している高耐熱性活性アルミナ成形体を提供する。また、活性アルミナ成形体に、ジルコニウムの水溶性化合物を溶解した硝酸酸性の水溶液を含浸して含浸体を得る含浸工程と、含浸体を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程と、乾燥体を焼成する焼成工程と、を含む高耐熱性活性アルミナ成形体の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性アルミナに分散担持されているジルコニアを含み、前記ジルコニアが主として正方晶のジルコニアとして存在している高耐熱性活性アルミナ成形体。
【請求項2】
酸化セリウムの含有量が1質量%以下であり、かつ、
空気中において1050℃、6時間の条件で焼成した後に、Cu-Kα線を線源とするX線回折測定によってα化度を測定する、という手順で測定されるα化度が、3%以下である請求項1に記載の高耐熱性活性アルミナ成形体。
【請求項3】
活性アルミナに分散担持されているジルコニアを含み、
酸化セリウムの含有量が1質量%以下であり、かつ、
空気中において1050℃、6時間の条件で焼成した後に、Cu-Kα線を線源とするX線回折測定によってα化度を測定する、という手順で測定されるα化度が、3%以下である高耐熱性活性アルミナ成形体。
【請求項4】
粒径が2mm以上20mm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の高耐熱性活性アルミナ成形体。
【請求項5】
高耐熱性活性アルミナに対するジルコニアの含有率が3質量%以上10質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の高耐熱性活性アルミナ成形体。
【請求項6】
活性アルミナ成形体に、ジルコニウムの水溶性化合物を溶解した硝酸酸性の水溶液を含浸して含浸体を得る含浸工程と、
前記含浸体を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥体を焼成する焼成工程と、を含む高耐熱性活性アルミナ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れるとともに、触媒活性金属を高い分散度で担持できる触媒担体用の耐熱性活性アルミナ成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性アルミナは、比表面積が高いことから、例えば高温の水蒸気雰囲気下で使用される水蒸気改質触媒の担体として広く用いられている(特許文献1~3)。しかし、活性アルミナは、1000℃以上の高温あるいは、より低い温度でも水蒸気分圧の高い条件では、結晶構造が変化し、比表面積が低下し、これに伴って成形体の場合には強度が著しく低下することが知られている。
【0003】
特許文献4には、0.5~10重量%のシリカを含有する活性アルミナ担体にルテニウムを担持した触媒が、炭化水素の水蒸気改質反応の条件下で、長時間にわたり安定した触媒活性および十分な強度を維持すること、ならびに、同じ条件でシリカを含有しない活性アルミナを担体とした場合には、短時間で急激な活性低下と顕著な強度低下が見られることが開示されている。
【0004】
特許文献5には、活性アルミナ粉末もしくはその成形体または活性アルミナ含有成形体に有機ケイ素化合物を担持せしめ、次いで該担持有機ケイ素化合物を酸化または熱分解させることを特徴とする耐熱性の優れた活性アルミナの製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献6には、環状シロキサンを100℃以上300℃以下の酸化雰囲気下で活性アルミナに接触させて、前記活性アルミナ上に前記環状シロキサンを分解析出させる分解析出工程と、当該活性アルミナを酸化雰囲気で焼成して当該活性アルミナ上にシリカ被覆を形成する焼成工程を有する高耐熱性活性アルミナの製造方法が開示されている。
【0006】
シリカ被覆を施した活性アルミナは、耐熱性に優れるが、触媒担体として使用する場合には、担持した金属の分散度が低下する問題がある。シリカは、活性アルミナと比較すると担持金属との相互作用が弱く、担持された金属が粗大化しやすい。
【0007】
特許文献4には、シリカを含有する活性アルミナ担体にルテニウムを担持した触媒の活性が、シリカ含有量を15%とした場合には、急速な劣化を示したこと、シリカ含有量を28%とした場合には、触媒活性が実質的に認められなかったことも記載されている。従って、シリカ被覆を施した活性アルミナは、耐熱性は向上するものの、触媒活性の低下が避けられない。
【0008】
特許文献7~9には、ランタンを含浸することにより活性アルミナの耐熱性が向上することが示されている。ランタンを添加した活性アルミナは、自動車排ガス浄化触媒において、広く用いられているが、ランタンは酸性条件では溶出しやすいため、ランタンを添加した活性アルミナを触媒担体として用いる場合には、活性金属の担持工程での溶出による耐熱性の低下や、溶出したランタンが活性金属の表面に析出して被覆することによる活性低下などの懸念がある。
【0009】
特許文献10には、アルカリ金属と、アルミナと、ジルコニアからなる非晶質の複合酸化物である高耐熱性触媒担体が示されている。この触媒担体も、酸性条件下で溶出しやすいアルカリ金属を含有するため、活性金属の担持工程でアルカリ金属が溶出する懸念がある。
【0010】
非特許文献1には、活性アルミナ上にセリア-ジルコニア(Ce0.5Zr0.5)を分散担持した担体が1273Kでの劣化処理後も高い比表面積を維持したことが示されている。
【0011】
セリア-ジルコニアは、自動車排ガス浄化触媒において、酸素吸蔵成分として広く用いられており、活性アルミナ上にセリア-ジルコニアを担持した触媒担体も広く知られている。例えば、特許文献11には、活性アルミナ上に硝酸セリウムおよび硝酸ジルコニルの水溶液を含浸担持し、空気中700℃で焼成して得た、セリア-ジルコニア-アルミナ担体が開示されている。
【0012】
活性アルミナ上にセリア-ジルコニア(CeZr1-x)を担持することで、活性アルミナの耐熱性は向上するが、セリア(酸化セリウム)も酸化ランタンと同様に、酸性溶液には溶解しやすいことから、活性金属の担持工程での溶出の懸念がある。
【0013】
特許文献12には、アルミニウムおよびジルコニウムの複合酸化物を担体としてIb族、Va族、VIa族、VIIa族、VIII族元素の金属またはその酸化物を一種以上担持させてなることを特徴とする酸化触媒が開示されている。ここでいうアルミニウムおよびジルコニウムの複合酸化物は、Al:ZrOが重量比で5:95~95:5の組成を有する非晶質のもので、例えばジルコニウムの化合物およびアルミニウムの化合物の水溶液に塩基性の沈殿剤を添加して生成した沈殿を洗浄、乾燥、焼成して製造されること、従来の触媒が1000℃以上で使用すると担体が熱によりシンタリングし比表面積が急激に低下するのに対し、この担体を用いた触媒は1000℃以上の高温においても優れた耐熱性を有することなども記載されているが、耐熱性に関する具体的な記載、特に熱処理前後の比表面積の変化や、アルミナの相変化などに関する具体的な記載は見られない。
【0014】
また、ジルコニウムの化合物およびアルミニウムの化合物の水溶液に塩基性の沈殿剤を添加して生成した沈殿を洗浄、乾燥、焼成してアルミニウムおよびジルコニウムの複合酸化物を得る方法では、廃液の処理などで経済性に課題があるほか、十分な強度を持つ成形体が得られるかどうかも明らかではない。
【0015】
特許文献13には、アルミナまたはアルミニウムオキシ水酸化物をベースとする担体上の酸化ジルコニウムを含み、900℃で4時間焼成後、酸化ジルコニウムが前記担体上に付着した粒子の形態であり、この粒径が最大10nmであることを特徴とする組成物が開示されている。
【0016】
この組成物は、例えば、ジルコニウム化合物のコロイド分散体をアルミナまたはアルミニウムオキシ水酸化物と混合したのち、乾燥し、焼成することにより得られるとされており、1000℃で4時間焼成後の比表面積の低下が、公知の含浸法により調製された酸化ジルコニウムを担持したアルミナよりも小さいことが示されている。
【0017】
しかし、この文献では、ルテニウムなどの触媒活性金属を担持した際の金属分散度に及ぼす効果は開示されておらず、またアルミナの相変化を抑制できるか否かの記載もない。また、工業的に十分な強度を持つ成形体を得る方法についても具体的な記載はない。
【0018】
特許文献14には、ルテニウム化合物と周期表IVa族元素の化合物を含有する水溶液で、pHが3以下であることを特徴とするルテニウム触媒製造用含浸液、およびこの含浸液を担体に接触させ、ルテニウム成分と周期表IVa族元素成分を該担体に担持し、得られたルテニウム担持組成物を、乾燥後、焼成することを特徴とするルテニウム触媒の製造方法が開示されている。
【0019】
より具体的には、活性アルミナにジルコニアを担持し、次いでルテニウムを担持して得られる触媒のルテニウム粒径と比較して、ルテニウム化合物とジルコニウム化合物を含有するpH3以下の含浸液を活性アルミナに含浸し、乾燥、焼成して得られる触媒のルテニウム粒径が小さくなることが示されており、その理由は含浸液において、ルテニウムとジルコニウムが錯体様の化合物を形成するためと説明されている。
【0020】
しかし、特許文献14には、アルミナに担持されたジルコニアの結晶相や、それがアルミナの耐熱性や相変化に及ぼす影響の記載はない。
【0021】
以上のように、活性アルミナ表面をシリカで被覆する、活性アルミナにランタンを担持する、活性アルミナにセリア-ジルコニアを担持するなどの方法で、耐熱性が向上することは広く知られているものの、触媒担体として用いる場合に、活性金属の担持の際に溶出することなく、担持された活性金属の分散度を高く維持でき、耐熱性の高い活性アルミナについては、なお課題があるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特公昭39-29435号公報
【特許文献2】特開昭52-52902号公報
【特許文献3】特開昭55-144089号公報
【特許文献4】特開昭57-4232号公報
【特許文献5】特開昭50-24200号公報
【特許文献6】特開2020-132514号公報
【特許文献7】特開昭62-180751号公報
【特許文献8】特開平2-83033号公報
【特許文献9】特開平9-25119号公報
【特許文献10】特開平9-122486号公報
【特許文献11】特開2016-165707号公報
【特許文献12】特開平4-135641号公報
【特許文献13】特表2011-513055号公報
【特許文献14】特開平7-116516号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】A.Iglesias-Juez, A.Martinez-Arias, M.Fernandez-Garcia、Journal of Catalysis、221巻148頁(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題に鑑み、耐熱性に優れるとともに、担持された活性金属の分散度を高く維持でき、かつ、活性金属を担持する工程で溶出する成分を含まない高耐熱性活性アルミナ成形体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明に係る第一の高耐熱性活性アルミナ成形体として、活性アルミナに分散担持されているジルコニアを含み、前記ジルコニアが主として正方晶のジルコニアとして存在している高耐熱性活性アルミナ成形体、を提供する。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る第二の高耐熱性活性アルミナ成形体として、活性アルミナに分散担持されているジルコニアを含み、酸化セリウムの含有量が1質量%以下であり、かつ、空気中において1050℃、6時間の条件で焼成した後に、Cu-Kα線を線源とするX線回折測定によってα化度を測定する、という手順で測定されるα化度が、3%以下である高耐熱性活性アルミナ成形体、を提供する。
【0027】
これらの構成によれば、耐熱性に優れるとともに、担持された活性金属の分散度を高く維持できる活性アルミナ成形体が得られる。
【0028】
上記の第一の高耐熱性活性アルミナ成形体において、酸化セリウムの含有量が1質量%以下であり、かつ、空気中において1050℃、6時間の条件で焼成した後に、Cu-Kα線を線源とするX線回折測定によってα化度を測定する、という手順で測定されるα化度が、3%以下であると、特に耐熱性の高い活性アルミナ成形体が得られる。
【0029】
上記の第一または第二の高耐熱性活性アルミナ成形体において、アルミナ成形体の粒径が2mm以上20mm以下であると、耐熱性が高く、各種の反応に好適に使用できる活性アルミナ成形体が得られる。
【0030】
また、上記の第一または第二の高耐熱性活性アルミナ成形体において、高耐熱性活性アルミナ成形体に対するジルコニアの含有率が3質量%以上10質量%以下であると、特に経済性に優れるとともに、耐熱性の高い活性アルミナ成形体が得られる。
【0031】
さらに、本発明は、活性アルミナ成形体に、ジルコニウムの水溶性化合物を溶解した硝酸酸性の水溶液を含浸して含浸体を得る含浸工程と、前記含浸体を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程と、前記乾燥体を焼成する焼成工程と、を含む高耐熱性活性アルミナ成形体の製造方法も提供する。この方法によれば、経済的に有利な方法で高耐熱性活性アルミナ成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上の構成によれば、耐熱性に優れるとともに、担持された活性金属の分散度を高く維持でき、かつ、活性金属を担持する工程で溶出する成分を含まない高耐熱性活性アルミナ成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施例および比較例による活性アルミナのX線回折パターンを示す図である。
図2】本発明の実施例および比較例による活性アルミナの1050℃焼成後のX線回折パターンを示す図である。
図3】本発明の比較例による活性アルミナのX線回折パターンを示す図である。
図4】本発明の比較例による活性アルミナの1050℃焼成後のX線回折パターンを示す図である。
図5】本発明の実施例および比較例による活性アルミナのX線回折パターンを示す図である。
図6】本発明の実施例および比較例による活性アルミナの1050℃焼成後のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明にかかる高耐熱性活性アルミナ成形体および高耐熱性活性アルミナ成形体の製造方法の実施形態について説明する。
【0035】
本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体の主成分は、γ型およびη型に代表される遷移アルミナである。活性アルミナの性質自体は、粉体であっても成形体であっても発現するが、十分な強度をもつ活性アルミナ成形体を用意して、これにジルコニアを担持して得られる成形体の態様であれば、耐熱性が高い触媒を実現する上で有利である。
【0036】
本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体は、前記の遷移アルミナに、ジルコニアが分散担持されており、前記ジルコニアは主として正方晶のジルコニアとして存在している。ジルコニアは、低温では単斜晶が安定相であるが、本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体においては、ジルコニアは、主として正方晶の形で高分散に担持されている。本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体に、単斜晶のジルコニアが含まれていても差し支えないが、ジルコニアが主として単斜晶として存在している場合は、アルミナに担持されたジルコニアの分散度が低いことから、十分な耐熱性が得られない。なお、ジルコニアが特定の結晶相の成分を「主として含む」とは、X線回折パターンに基づいて決定される当該結晶相の含有量が、ジルコニア全体の50%を超えることをいう。
【0037】
本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体は、アルミナおよびジルコニア以外に微量のシリカや希土類酸化物(酸化セリウム、酸化ランタン)を含むことを排除するものではないが、シリカおよび希土類酸化物の合計含有量が、高耐熱性活性アルミナ成形体(アルミナ、ジルコニア、およびその他の成分を含めた全体)に対して、1質量%以下であることが好ましく、検出限界以下であることがより好ましい。これは、本発明の高耐熱性活性アルミナは、シリカや希土類酸化物を含まなくても十分な耐熱性を有すること、シリカは担持金属の分散度を低下させる場合があり、また希土類酸化物は触媒活性金属を担持する際に溶出して、触媒活性を低下させる恐れがあること、による。
【0038】
本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体では、高耐熱性活性アルミナ成形体に対するジルコニアの含有率が3質量%以上10質量%以下であると、特に経済性に優れるとともに、耐熱性の高い活性アルミナ成形体が得られやすい。ジルコニアの含有量が3質量%以上であると、耐熱性が得られやすい。ジルコニアの含有量が10質量%以下であると、経済的に有利となることに加えて、活性アルミナ成形体にジルコニアを担持した後も、アルミナ担体の細孔が十分に確保されるため、ガスの拡散が妨げられず、高い触媒活性が得られやすい。また、高耐熱性活性アルミナ成形体に対するジルコニアの含有率が4質量%以上7質量%以下であると、特に耐熱性と高い触媒活性が両立されやすい。
【0039】
本発明の高耐熱性活性アルミナ成形体の製造方法は、活性アルミナ成形体に、ジルコニウムの水溶性化合物を溶解した硝酸酸性の水溶液を含浸して含浸体を得る含浸工程と、前記含浸体を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程と、前記乾燥体を焼成する焼成工程と、を含む方法である。
【0040】
活性アルミナ成形体は、γ型およびη型に代表される遷移アルミナの成形体であって、その大きさや形状に特に制限はないが、たとえば直径2mm以上20mm以下の球状ないし円柱状の成形体でありうる。このような成形体は、転動造粒法や打錠成型法によって得られる。
【0041】
ジルコニウムの水溶性化合物としては、硝酸ジルコニウム(Zr(NO)、硝酸酸化ジルコニウム(Zr(NOO)、酢酸ジルコニウム(Zr(CHCOO))、酢酸酸化ジルコニウム(Zr(CHCOO)O)などが使用できる。
【0042】
含浸工程の温度や時間は、特に制約はないが、たとえば室温で1~20時間程度行われうる。
【0043】
乾燥工程の温度や時間は、特に制約はないが、たとえば80℃~200℃で1~20時間程度行われうる。
【0044】
焼成工程の温度は、あまりに低すぎると、ジルコニウム化合物の分解が不十分となって、活性金属の担持工程において溶出する恐れがあり、あまりに高すぎても高耐熱性活性アルミナの比表面積を低下させる恐れがある。従って、550℃以上800℃以下とするのがよい。
【0045】
焼成工程の時間は、あまりに短すぎるとジルコニウム化合物の分解が不十分となる恐れがあり、あまりに長すぎると経済的に不利となるほか、高耐熱性活性アルミナの比表面積を低下させる恐れもあるため、1時間以上20時間以下程度とするのが好ましい。
【0046】
焼成工程において流通するガスは、空気でよいが、必要に応じて酸素あるいは窒素を添加して、酸素濃度を調整しても差し支えはない。
【0047】
〔別実施形態〕
耐熱性が高い触媒を実現する上で上記の実施形態に係る成形体が有利であることは前述の通りではあるが、上記の高耐熱性活性アルミナのその他の態様での利用が排除されるわけではない。したがって、活性アルミナに分散担持されているジルコニアを含み、前記ジルコニアが主として正方晶のジルコニアとして存在している高耐熱性活性アルミナ、も、本明細書で開示する発明の一つである。
【実施例0048】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
活性アルミナ(キシダ化学製、触媒用酸化アルミニウム(活性型)、4~6mm球状の成形体)40gを、酢酸酸化ジルコニウム水溶液(東京化成工業製、酸化ジルコニウム換算で20質量%含有)40gに浸漬し、15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナAを得た。
【0050】
(実施例2)
硝酸酸化ジルコニウム2水和物(Zr(NOO・2HO)3.25gを60%硝酸2.2gと純水20gを混合した希硝酸に溶解して、ジルコニウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナ30gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナBを得た。
【0051】
(実施例3)
硝酸酸化ジルコニウム2水和物6.51gを60%硝酸6.4gと純水18gを混合した希硝酸に溶解して、ジルコニウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナ30gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナCを得た。
【0052】
(比較例1)
内径138mm、高さ(内寸)22mmのホウケイ酸ガラス製シャーレの中央に、外径60mm、高さ(外寸)14mmのホウケイ酸ガラス製シャーレを置いた。内側のシャーレにデカメチルシクロペンタシロキサン1.6gを滴下し、外側のシャーレに実施例1と同じ活性アルミナ40gを均等にならして入れ、外側のシャーレには蓋をした。
【0053】
このシャーレを電気炉に装填して、常温から200℃まで1.5時間かけて昇温し、200℃で1時間保持し、約1時間かけて常温まで放冷した。なお、この工程で、電気炉内には、毎分1リットルの流量で空気を流通した。
【0054】
放冷後、シャーレを電気炉から取り出し、活性アルミナをアルミナ製焼成容器に移し替えて、常温から500℃まで1.5時間かけて昇温し、500℃で1時間焼成して、アルミナDを得た。
【0055】
(X線回折測定結果)
グラファイトモノクロメータを備えたX線回折計(島津製作所製XRD-6100)を用いて、各試料のX線回折測定を行った。測定は、X線源として、CuターゲットのX線管(管電圧40kV、管電流40mA)から放射されるCu-Kα線(0.1542nm)を用い、0.02°ステップ、各ステップでの積算時間1.2秒、検出スリット0.15mmの条件で、ステップスキャン法で行った。アルミナA、B、Cおよび未処理の活性アルミナ(アルミナEとする)のX線回折パターンは図1の通りであった。アルミナA,B,Cにおいては、アルミナEでは見られない回折線が30.3°(±0.2°)、50.4°(±0.2°)などに観測された。これらは正方晶ジルコニアの回折線である。ジルコニアの室温における安定相は単斜晶であるが、本発明のジルコニア担持アルミナにおいては、ジルコニアは主として正方晶として存在している。この結果から、ジルコニアがアルミナ表面と強く相互作用して、高分散にアルミナ上に担持されていることが推測される。
【0056】
(耐熱性評価結果)
アルミナA、B、C、DおよびEのそれぞれについて、空気中1050℃で6時間焼成する高温焼成を行った。表1に、それぞれの試料のZrOまたはSiO含有量、BET比表面積(高温焼成前後)、α化度を示した。図2には、高温焼成後のアルミナA、B、C、D、EのX線回折パターンを示した。
【0057】
【表1】

(注)BET比表面積は、高温焼成前→高温焼成後の形式で記載した。また、α化度は高温焼成後の値である。
【0058】
《SiO含有量およびZrO含有量の測定方法》
アルミナA、B、C、Dの各試料について、酸分解してICP発光分析法により、SiおよびZrを定量し、酸化物に換算して含有量を求めた。
【0059】
《BET比表面積の測定方法》
高温焼成前後の各試料について、液体窒素温度における相対圧(P/P)=0.3の条件での窒素吸着量を用いるBET1点法により、BET比表面積を測定した。
【0060】
《α化度の測定方法》
高温焼成後の各試料について、グラファイトモノクロメータを備えたX線回折計(島津製作所製XRD-6100)を用いて、X線回折測定を行った。測定は、X線源として、CuターゲットのX線管(管電圧40kV、管電流40mA)から放射されるCu-Kα線(0.1542nm)を用い、0.02°ステップ、各ステップでの積算時間1.2秒、検出スリット0.15mmの条件で、ステップスキャン法で行った。その結果は図2の通りであった。測定されたX線回折パターンに基づき、α-アルミナの(012)回折線(25.6°)に関して、純粋なα-アルミナの回折線強度に対する、各試料の回折線強度の比としてα化度を計算した。
【0061】
(Ruの担持と分散度の評価結果)
アルミナA、B、C、DおよびEのそれぞれについて、触媒活性金属としてルテニウムを担持して、金属分散度を評価した。ルテニウムの担持は、アルミナ98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより行った。
【0062】
表2に、それぞれの試料のRu、ZrOまたはSiO含有率、BET比表面積、ルテニウム分散度を示した。
【0063】
【表2】
【0064】
《Ru,SiOおよびZrO含有率の測定方法》
ルテニウムを担持後の各試料について、酸分解してICP発光分析法により、Ru,SiおよびZrを定量し、Ruはそのまま、SiおよびZrは酸化物に換算して含有率を求めた。
【0065】
《金属ルテニウム表面積の測定方法》
ルテニウムを担持後の各試料について、COパルス法による金属表面積測定法(触媒学会参照触媒委員会、「触媒」、31巻、317頁、1989年)に従い、CO吸着量を測定し、金属ルテニウムあたりのCO吸着量(CO/Ruのモル比)(すなわちルテニウム分散度)として示した。
【0066】
《実施例および比較例の評価》
高温焼成前のBET比表面積は、アルミナEが162m/gであったのに対し、アルミナA,BおよびCでは、それぞれ144,150,144m/gとなった。ジルコニアの含有量が多いほど比表面積が低下しており、元のアルミナ(アルミナE)の比表面積とそれぞれのアルミナのアルミナ含有率(=1-ジルコニア含有率)の積よりも、小さい比表面積となっていることから、ジルコニアはアルミナ表面を被覆していると推測される。
【0067】
高温焼成後のBET比表面積は、アルミナEが27.2m/g、アルミナDが78.6m/gであったのに対し、アルミナA,BおよびCでは、それぞれ64.4m/g、56.3m/g、61.3m/gとなった。実施例のアルミナA、B、およびCでは、アルミナEと比較して高温焼成後のBET比表面積の低下が顕著に小さく、シリカ被覆アルミナであるアルミナDに近い水準の比表面積を保っていた。
【0068】
高温焼成後のα化度は、アルミナEが59%、アルミナDが21%であったのに対し、アルミナBでは1.5%であり、アルミナAおよびCでは、X線回折測定においてαアルミナのピークが観測されなかった。すなわち、α化度で見る限り、アルミナA,BおよびCは、アルミナEはもちろんアルミナDよりも優れた耐熱性を示す。
【0069】
アルミナA~Eに、ルテニウムを担持した場合、担持されたルテニウムの濃度は、1.61~1.66wt%となって、いずれのアルミナを用いた場合でも大差がなかった。一方で、担持されたルテニウムの分散度は、アルミナEを用いた場合は、0.64であったのに対して、シリカ被覆アルミナであるアルミナDを用いた場合には、0.42と大きく低下した。アルミナの表面をシリカで被覆処理した場合、耐熱性は向上するが、担持金属の分散度が大きく低下することがわかる。本発明のジルコニアを担持したアルミナA、BおよびCでは、担持金属の分散度がそれぞれ、0.69、0.61、0.73となって、アルミナEと同等かそれ以上であった。特に、ジルコニアの含有率が高く、X線回折測定において正方晶ジルコニアの回折線が明瞭に観測されたアルミナAおよびアルミナCにおいては、アルミナEよりも高いルテニウム分散度を示した。
【0070】
(比較例3)
硝酸セリウム6水和物(Ce(NO・6HO)4.04gを純水24gに溶解して、セリウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナ32gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナFを得た。
【0071】
(比較例4)
硝酸酸化ジルコニウム2水和物3.47gと、硝酸セリウム6水和物4.04gとを60%硝酸3.2gと純水24gを混合した希硝酸に溶解して、ジルコニウム化合物およびセリウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナ32gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナGを得た。
【0072】
(比較例5)
硝酸酸化ジルコニウム2水和物3.47gと、硝酸セリウム6水和物8.08gとを60%硝酸3.2gと純水24gを混合した希硝酸に溶解して、ジルコニウム化合物およびセリウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナ32gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナHを得た。
【0073】
(比較例6)
二塩化酸化ジルコニウム2水和物(ZrClO・2HO)13.08gを純水25gに溶解して、ジルコニウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナ50gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、120℃に保持した乾燥器で1時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて500℃まで昇温し、500℃で2時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナIを得た。
【0074】
(X線回折測定結果)
アルミナF、G、HおよびIのX線回折パターンは図3の通りであった。アルミナFでは、アルミナEでは見られない回折線が28.6°、47.5°などに観測された。これらは酸化セリウム(CeO)に帰属される回折線である。アルミナGおよびHでは、28.8°、48.0°付近に、アルミナEでは見られない回折線が観測された。これらの回折線は、酸化セリウムと酸化ジルコニウム(ジルコニア)の固溶体に帰属される回折線である。またアルミナIのX線回折パターンでは、正方晶ジルコニアの回折線は観察されなかった。以上から、アルミナF、G、HおよびIのいずれでも、担持されたジルコニアは、主として正方晶ジルコニア以外の形で存在しているものと考えられる。
【0075】
(耐熱性評価結果)
アルミナF、G、HおよびIのそれぞれについて、空気中1050℃で6時間焼成する高温焼成を行った。表3に、それぞれの試料のZrOおよびCeO含有量、BET比表面積(高温焼成前後)、α化度を示した。図4には、高温焼成後のアルミナF、G、HおよびIのX線回折パターンを示した。
【0076】
【表3】

(注)BET比表面積は、高温焼成前→高温焼成後の形式で記載した。また、α化度は高温焼成後の値である。
【0077】
(Ruの担持と分散度の評価結果)
アルミナF、G、HおよびIのそれぞれについて、触媒活性金属としてルテニウムを担持して、金属分散度を評価した。ルテニウムの担持は、アルミナ98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより行った。
【0078】
表4に、それぞれの試料のRu、ZrOまたはCeO含有率、BET比表面積、ルテニウム分散度を示した。
【0079】
【表4】
【0080】
《比較例3~6の評価》
ジルコニアに代えて、酸化セリウムを活性アルミナに担持したアルミナFは、高温焼成後のBET比表面積(46.3m/g)がアルミナE(27.2m/g)より高いものの、実施例のアルミナB(56.3m/g)およびアルミナC(61.3m/g)と比べれば顕著に低く、ジルコニアに代えて酸化セリウムを用いても、十分な耐熱性の向上が得られないことは明らかである。また、アルミナFに担持されたルテニウムの分散度は、アルミナB、CおよびEのいずれよりも低く、酸化セリウムを活性アルミナに担持した場合には、担持されたルテニウムの分散度が低下することがわかる。
【0081】
ジルコニアと酸化セリウムの両方を活性アルミナに担持したアルミナGおよびHにおいても、ジルコニアのみを活性アルミナに担持した実施例の活性アルミナと比較して、耐熱性の向上は小さく、担持されたルテニウムの分散度は低い傾向が見られた。これは、ジルコニアと酸化セリウムの両方を活性アルミナに担持した場合には、ジルコニアが酸化セリウムと固溶体を形成するために、ジルコニアのみを活性アルミナに担持した場合と同様の効果は発揮できないためと考えられる。
【0082】
活性アルミナに、二塩化酸化ジルコニウムを用いてジルコニアを担持し、500℃で焼成して得たアルミナHにおいては、X線回折測定において正方晶のジルコニアが観測されなかった。アルミナHでは、実施例のアルミナと比較すると焼成温度が低かったため、担持されたジルコニアが正方晶を形成しなかったと考えられる。活性アルミナにジルコニアを担持してなるが、ジルコニアが主として正方晶ジルコニア以外の形態で存在しているアルミナHは、ジルコニアが主として正方晶の形態で存在している実施例の活性アルミナと比較して、耐熱性の向上は小さく、担持されたルテニウムの分散度は低い。
【0083】
(実施例4)
硝酸酸化ジルコニウム2水和物10.8gを60%硝酸11.5gと純水35gを混合した希硝酸に溶解して、ジルコニウム化合物を溶解する水溶液を得た。活性アルミナ(住友化学製、KHA-24、2~4mm球状の成形体)50gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナJを得た。
【0084】
(比較例7)
二塩化酸化ジルコニウム2水和物13.09gを純水22.5gに溶解して、ジルコニウム化合物を溶解する水溶液を得た。実施例4で用いたものと同じ活性アルミナ50gを、前記の水溶液に浸漬し15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、120℃に保持した乾燥器で1時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて500℃まで昇温し、500℃で2時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナKを得た。
【0085】
(X線回折測定結果)
アルミナJ、Kおよび未処理の活性アルミナ(住友化学製、KHA-24、2~4mm球状の成形体、以下アルミナLとする)のX線回折パターンは図5の通りであった。アルミナJでは、正方晶のジルコニアに由来する回折線が観察されたが、アルミナKでは、正方晶のジルコニアに由来する回折線は観察されなかった。
【0086】
(耐熱性評価結果)
アルミナJ、KおよびLのそれぞれについて、空気中1050℃で6時間焼成する高温焼成を行った。表5に、それぞれの試料のZrO含有量、BET比表面積(高温焼成前後)、α化度を示した。図6には、高温焼成後のアルミナJ、KおよびLのX線回折パターンを示した。
【0087】
【表5】

(注)BET比表面積は、高温焼成前→高温焼成後の形式で記載した。また、α化度は高温焼成後の値である。
【0088】
(Ruの担持と分散度の評価結果)
アルミナJ、KおよびLのそれぞれについて、触媒活性金属としてルテニウムを担持して、金属分散度を評価した。ルテニウムの担持は、アルミナ98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより行った。
【0089】
表6に、それぞれの試料のRuおよびZrO含有率、ならびにルテニウム分散度を示した。
【0090】
【表6】
【0091】
(耐水蒸気性評価結果)
アルミナJ、KおよびLおよびルテニウムを担持したアルミナJおよびアルミナLのそれぞれについて、水蒸気0.5MPa(絶対圧)および窒素0.1MPa(絶対圧)からなるガスを700℃で流通することで、高水蒸気分圧下でのアルミナの安定性を評価した。所定時間の処理を行った試料について、BET比表面積測定、X線回折によるα化度および圧壊強度の測定を行った。圧壊強度の測定は、アイコーエンジニアリング製卓上荷重試験機FTN1-13Aを用い、成形体触媒15粒の圧壊強度を測定し、その平均値を用いた。結果を表7に示す。
【0092】
【表7】

(注)Ru/アルミナLは、200時間処理後では、元の形状を維持していなかったため、粒状の部分と粉状の部分に分けて分析した。
【0093】
《実施例4および比較例7の評価》
用いた活性アルミナが異なっているが、実施例4は実施例3と、比較例7は比較例4と、それぞれ同様の方法でジルコニアを担持したものであり、活性アルミナにジルコニアを担持したものである。担持されたジルコニアが正方晶として存在している実施例4は、高温焼成後の比表面積が高く維持されている。一方、活性アルミナにジルコニアを担持しているが、正方晶のジルコニアが観察されない比較例7は、未処理の活性アルミナ(アルミナL)と比較すると、耐熱性は向上するものの、実施例4には及ばない。また担持されたルテニウムの分散度は、未処理の活性アルミナを用いた場合よりも低くなる。
【0094】
耐水蒸気性評価の結果が示すように、未処理の活性アルミナ(アルミナL)は、水蒸気分圧が高い条件では、700℃でも100時間程度で、BET比表面積の低下およびα化が進行する。またα化の進行に伴い、強度が大きく低下する。これに対し、実施例4のアルミナJは、BET比表面積の低下は小さく、α化は見られない。
【0095】
触媒担体は、一般的に活性金属を担持した状態で使用される。表7から、アルミナにルテニウムを担持した状態では、BET比表面積の低下およびα化の進行が加速することがわかる。Ru/アルミナLは、200時間後には元の形状を失うまでα化が進行したのに対し、Ru/アルミナJは、200時間後でもα化はあまり進行せず、一定のBET比表面積および強度を維持していた。
【0096】
(参考例1)
本参考例では、特許文献13に倣い、ジルコニウム化合物のコロイド分散体を用いて、活性アルミナにジルコニアを担持した例を示す。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナを破砕し、ふるい分けて、粒径1mm以上2mm未満の粒状の活性アルミナを得た。ジルコニアゾルの水分散液(第一希元素化学工業製、ZSL-10T、粒子径5~25nm、ZrOとして10.0質量%含有)8gを純水8gで希釈したジルコニアゾル分散液に、前記の破砕した活性アルミナ16gを浸漬し、15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナMを得た。
【0097】
(参考例2)
本参考例では、特許文献13に倣い、ジルコニウム化合物のコロイド分散体を用いて、活性アルミナにジルコニアを担持した例を示す。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナを破砕し、ふるい分けて、粒径0.5mm以上1mm未満の粒状の活性アルミナを得た。ジルコニアゾルの水分散液(第一希元素化学工業製、ZSL-10T)8gを純水8gで希釈したジルコニアゾル分散液に、前記の破砕した活性アルミナ16gを浸漬し、15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナNを得た。
【0098】
(参考例3)
本参考例では、特許文献13に倣い、ジルコニウム化合物のコロイド分散体を用いて、活性アルミナにジルコニアを担持した例を示す。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナを破砕し、ふるい分けて、粒径0.5mm未満の粒状の活性アルミナを得た。ジルコニアゾルの水分散液(第一希元素化学工業製、ZSL-10T)4gを純水6gで希釈したジルコニアゾル分散液に、前記の破砕した活性アルミナ8gを浸漬し、15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナOを得た。
【0099】
(参考例4)
本参考例では、特許文献13に倣い、ジルコニウム化合物のコロイド分散体を用いて、活性アルミナにジルコニアを担持した例を示す。実施例1で用いたものと同じ活性アルミナを破砕し、ふるい分けて、粒径0.5mm未満の粒状の活性アルミナを得た。ジルコニアゾルの水分散液(第一希元素化学工業製、ZSL-10T)8.4gを純水2gで希釈したジルコニアゾル分散液に、前記の破砕した活性アルミナ8gを浸漬し、15時間かけて含浸させて含浸体を得た。この含浸体をホットプレート上で蒸発乾固したのち、125℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、アルミナPを得た。
【0100】
(耐熱性評価結果)
アルミナM、N、OおよびPのそれぞれについて、空気中1050℃で6時間焼成する高温焼成を行った。表3に、それぞれの試料のBET比表面積(高温焼成前後)、α化度を示した。いずれのアルミナも、高温焼成後には比表面積が大きく低下し、α化度も高かったが、アルミナ粒子の粒径が大きいほど、比表面積の低下が大きく、α化度が高くなる傾向が見られた。最も粒径の大きいアルミナMの場合、高温焼成後の比表面積の低下もα化度も、アルミナEと大差ない結果となった。
【0101】
【表8】
【0102】
アルミナM、N、O、およびPのそれぞれについて、X線回折測定によりジルコニア由来の回折線を検討したところ、高温焼成前は、アルミナM、N、OおよびPのいずれにおいても、主として正方晶ジルコニアの回折線が観測されたが、高温焼成後は、主として単斜晶ジルコニアの回折線が観測された。アルミナA、BおよびCにおいては、高温焼成後も、主として正方晶ジルコニアの回折線が観測されており、高温焼成後のジルコニアの結晶相が、参考例のアルミナと実施例のアルミナでは異なっていた。
【0103】
以上の結果から、活性アルミナ成形体に、ジルコニアゾルを用いてジルコニアを担持した場合には、成形体粒子の表面近傍だけにジルコニアが担持されるため、十分な耐熱性が得られないことが推察される。すなわち、活性アルミナ成形体にジルコニアを担持して、十分な耐熱性を得るためには、ジルコニアが成形体粒子の内部まで十分な濃度で担持されることが必要であり、そのためにはジルコニウム化合物の水溶液を用いて、ジルコニアを担持することが好ましいと言える。
【0104】
以上の結果から、本発明の活性アルミナにジルコニアを分散担持してなり、前記ジルコニアが主として正方晶のジルコニアとして存在している高耐熱性活性アルミナが、耐熱性に優れるとともに、担持された活性金属の分散度を高く維持できることが明らかである。
【0105】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6