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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140378
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ランプを用いたIRE発生の開始
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
A61B18/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022036113
(22)【出願日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】63/159,412
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/672,823
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス・クラウディオ・アルトマン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK13
4C160KK23
4C160KK38
4C160MM33
(57)【要約】
【課題】不可逆的エレクトロポレーション(IRE)を使用してアブレーションを実行すること。
【解決手段】被験者内の組織をアブレーションするための方法であって、被験者の管腔に挿入される電極を有するプローブを提供することであって、そのため、電極が、アブレーションされる組織に近接する、提供することを含む。固定化信号は、被験者を固定化する電極を介して被験者に注入される。被験者が固定化されているとき、アブレーション信号は、電極を介して被験者に注入され、アブレーション信号は、不可逆的エレクトロポレーションによって被験者の組織をアブレーションするように構成されている。アブレーション信号は、第1のパルスの少なくとも1つの列を有し、第1のパルスの少なくとも1つの列の各々は、第1のパルス絶対振幅を有し、固定化信号は、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列を有し、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列の各々は、第1のパルス絶対振幅よりも小さい第2のパルス絶対振幅を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者内の組織をアブレーションするための装置であって、
前記被験者の管腔に挿入されるように構成されている電極を備えるプローブであって、そのため、前記電極が、アブレーションされる前記組織に近接する、プローブと、
プロセッサであって、
前記被験者を固定化するように構成されている固定化信号を、前記電極を介して、前記被験者に注入することと、
前記被験者が固定化されているとき、前記電極を介して前記被験者にアブレーション信号を注入することであって、前記アブレーション信号が、不可逆的エレクトロポレーションによって前記被験者の前記組織をアブレーションするように構成されている、注入することと、を行うように構成されている、プロセッサと、を備え、
前記アブレーション信号が、第1のパルスの少なくとも1つの列を含み、前記少なくとも1つの列の前記第1のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅を有し、前記固定化信号が、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列を含み、前記1つ又は2つ以上の列の前記第2のパルスの各々が、前記第1のパルス絶対振幅よりも小さい第2のパルス絶対振幅を有する、装置。
【請求項2】
前記固定化信号が、前記第2のパルスの複数の列を含み、前記複数の各々の前記第2のパルス絶対振幅が、時間的に単調に増加する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記単調増加が、直線状である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記単調増加が、非直線状である、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記第1のパルスの少なくとも1つの列内及び前記第2のパルスの1つ又は2つ以上の列内の各列が、複数のパルスを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第2のパルス絶対振幅が、前記第1のパルス絶対振幅の20%~70%である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1のパルス及び前記第2のパルスが、双極パルスを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記固定化信号の全体的な時間が、0.4秒~0.6秒の範囲内である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記プローブが、前記注入されたアブレーション信号及び前記注入された固定化信号を受信するように構成されている更なる電極を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記注入されたアブレーション信号及び前記注入された固定化信号を受信するように構成されている、前記被験者の皮膚上に位置する外部電極を備える、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる2021年3月10日出願の米国特許仮出願第63/159,412号の利益を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、外科手術に使用されるアブレーションに関し、具体的には、不可逆的エレクトロポレーション(irreversible electroporation、IRE)を使用して実行されるアブレーションに関する。
【背景技術】
【0003】
IREは、強い電界の短パルスを印加して細胞膜内に永久的、それゆえ致死的なナノ細孔を作製し、それにより細胞恒常性(内部の物理的条件及び化学的条件)を崩壊させる軟組織アブレーション技術である。IRE後の細胞死は、アポトーシス(プログラムされた細胞死)に起因し、全ての他の熱又は放射線ベースのアブレーション技術におけるような壊死(細胞自体の酵素の作用を通じて細胞の破壊をもたらす細胞傷害)に起因しない。IREは普通、正確さ、並びに細胞外マトリックス、血流、及び神経の保全が重要な領域における腫瘍のアブレーションで使用される。IREを使用するシステムのいくつかの例を以下に提供する。
【0004】
Sanoらへの米国特許第9,867,652号は、組織若しくは器官内に深く埋め込まれた腫瘍を治療するため、又は既存の完全な血管系を有する既存の動物組織から足場を生成するために器官を脱細胞化するために器官の血管系を通して印加されるIREを記載している。本特許は、「所与の組織内の電圧及び試験細胞を徐々に増加させることにより、不可逆的エレクトロポレーションが行われる点を決定することができる」と述べている。
【0005】
Schweitzerらへの米国特許出願第2018/0289417(A1)号は、エレクトロポレーションシステム、及びエレクトロポレーション療法のための組織を事前調整する方法について記載している。エレクトロポレーション発生器は、エレクトロポレーション回路及び事前調整回路を含む。事前調整回路は、患者の骨格筋組織を刺激するために事前調整電極に結合されるように構成され、事前調整信号を事前調整電極に送信するように更に構成されている。
【0006】
Davalosへの米国特許第10,286,108号は、IREが組織足場を作製するためにどのように使用され得るかを記載している。足場は、天然組織に由来し、非熱不可逆的エレクトロポレーションを使用して作製される。
【0007】
以下の本開示の実施例の詳細な説明を図面と併せ読むことで、本開示のより完全な理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】アブレーション処置に使用されるIRE(不可逆的エレクトロポレーション)システムの概略図である。
図2】双極IREパルスの概略電圧対時間グラフである。
図3】双極パルスのバーストの概略電圧対時間グラフである。
図4】固定化信号及びIREアブレーション信号の概略グラフである。
図5】固定化信号の使用を図示するIREアブレーション処置のステップのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
概論
IREアブレーションを印加する基本的な問題は、IREパルスが最初に被験者に印加されるときに、被験者がジャンプ又は痙攣し得ることである。痙攣は、高電圧IREパルスの高い電界によって引き起こされ、被験者の筋肉の骨格又は横隔収縮を生じる。痙攣は、例えば、カテーテルプローブが心筋内の所望の位置に最初に位置付けられている場合、外傷状況につながる可能性がある。
【0010】
最初に、IREパルスを、それらの全電圧振幅で印加するのではなく、本開示の実施例は、ランプ期間をパルス発生に組み込む。ランプ期間中、パルスの振幅は、有効IRE電圧未満に保たれながら徐々に増加される。ランプ期間中、パルスの振幅は十分に低く、その結果、IREは行われない。ランプ期間の後、完全なIRE電圧振幅が印加され得、その結果、IREが行われる。
【0011】
初期低電圧パルスは、IREを引き起こすことなく被験者の筋肉を固定し、そのため、被験者は、固定化され、完全なIRE電圧が達成されたときに痙攣がない。
【0012】
ランプは、線形又は指数関数などの任意の便利な形状であり得る。ランプ期間の典型的な長さは、およそ0.5秒である。
【0013】
システムの説明
ここで、図1を参照すると、図1は、IRE(不可逆的エレクトロポレーション)アブレーション処置で使用されるマルチチャネルIREシステム20の概略図である。描写された実施例では、医師22は、IREシステム20を使用して、マルチチャネルIREアブレーション処置を実行する。医師22は、遠位端28を有するアブレーションカテーテルプローブ26であって、遠位端28が、遠位端の長さに沿って配置された複数のアブレーション電極30を備える、アブレーションカテーテルプローブ26を使用して、被験者24の心臓52について処置を実行する。
【0014】
IREシステム20は、プロセッサ32及びIREモジュール34を含み、IREモジュールは、IRE発生器36及びIREコントローラ38を含む。発生器36と同様のIRE発生器が、米国特許出願第16/701,989号に記載されている。以下で詳述するように、IRE発生器36は、IRE処置を実行するために、間に電流72を発生させるように、選択された電極30に向けられる電気パルスの列を発生させる。電気パルスの列の波形(タイミング及び振幅)は、IREコントローラ38によって制御される。プロセッサ32は、また以下に詳述するように、IREシステム20と医師22との間の入力及び出力インターフェースを操作する。
【0015】
プロセッサ32及びIREコントローラ38はそれぞれ、典型的には、プログラマブルプロセッサを含み、プログラマブルプロセッサは、本明細書に記載される機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はファームウェアでプログラムされている。これに代え、あるいはこれに加えて、プロセッサ及びコントローラは、これらの機能の少なくとも一部を実行するハードワイヤード及び/又はプログラマブルハードウェア論理回路を備えてもよい。プロセッサ32及びIREコントローラ38は、簡略化のために、別個のモノリシックな機能ブロックとして図に示されているが、実際には、これらの機能の一部は単一の処理及び制御ユニット内で組み合わされてもよい。いくつかの実施例では、IREコントローラ38は、典型的には、高速制御信号がIREコントローラからIRE発生器36に送信されるので、IREモジュール34内に常駐する。しかしながら、十分に高速の信号がプロセッサ32からIRE発生器36に送信され得るならば、IREコントローラ38は、プロセッサ内に常駐してもよい。
【0016】
プロセッサ32及びIREモジュール34は典型的には、コンソール40内に常駐する。コンソール40は、医師22によって操作されるキーボード及びマウスなどの入力デバイス42を備える。ディスプレイスクリーン44は、コンソール40に近接して位置する。ディスプレイスクリーン44は、任意選択的にタッチスクリーンを含んでもよく、それにより別の入力デバイスを提供することができる。
【0017】
IREシステム20は、以下のモジュール(典型的には、コンソール40内に常駐する)のうちの1つ又は2つ以上を更に含んでもよい。
・心電図(electrocardiogram、ECG)モジュール46は、被験者24に取り付けられたECG電極50に、ケーブル48を介して結合されている。ECGモジュール46は、被験者24の心臓52の電気活動を測定するように構成されている。
・温度モジュール54は、カテーテル26の遠位端28上の各電極30に隣接して位置する、熱電対などの温度センサ56に結合され、隣接する組織58の温度を測定するように構成されている。
・追跡モジュール60は、遠位端28内の1つ又は2つ以上の電磁位置センサ61に結合されている。磁場発生器62によって発生された外部磁場の存在下で、電磁位置センサは、センサの位置とともに変化する信号を出力する。これらの信号に基づいて、追跡モジュール60は、心臓52内の電極30の位置を確認し得る。
【0018】
外部磁場を使用する位置追跡方法は、Biosense Webster Inc.(カリフォルニア州アーバイン)が製造するCARTO(商標)システムに実装されており、米国特許第5,391,199号、同第6,690,963号、同第6,484,118号、同第6,239,724号、同第6,618,612号、及び同第6,332,089号、国際公開第96/05768号、並びに米国特許出願公開第2002/0065455(A1)号、同第2003/0120150(A1)号、及び同第2004/0068178(A1)号に詳細に説明されている。
【0019】
これに代え、あるいはこれに加えて、モジュール60は、電極30によって伝達される電流又は電極30から見たインピーダンスに基づく追跡システムを使用することができる。そのようなシステムにおいて、モジュール60は、所与の電極30の位置を、所与の電極と被験者24の皮膚に結合させた複数の表面電極63との間の電流又はインピーダンスに応答して推定する。例えば、米国特許第8,456,182号に記載されたBiosense-Webster(カリフォルニア州アーバイン)製のAdvanced Current Location(ACL)システムが、そのような追跡システムである。
【0020】
カテーテル26は、ポート又はソケットなどの電気的インターフェース64を介してコンソール40に連結されている。したがって、IRE信号は、インターフェース64を介して遠位端28に搬送される。同様に、遠位端28の位置を追跡するための信号、及び/又は組織58の温度を追跡するための信号は、インターフェース64を介してプロセッサ32によって受信され、IRE発生器36によって発生されたパルスを制御する際に、IREコントローラ38によって印加され得る。
【0021】
外部電極65、すなわち「リターンパッチ」は、被験者24、典型的には被験者の胴体の皮膚上、と、IRE発生器36との間の外部に追加的に結合されてもよい。
【0022】
IREモジュールによって発生されたIRE信号は、図2及び図3及び表Iを参照して、以下に説明される。以下に述べられる場合を除いて、モジュールによって発生された信号は、選択された電極30によって使用されて、電極に近接している組織58をアブレーションする。
【0023】
図2は、本開示の一実施例による、双極IREパルス100の電圧対時間グラフの概略図である。
【0024】
グラフ102は、時間tの関数としての双極IREパルス100の電圧Vを描写する。双極性IREパルスは、正のパルス104及び負のパルス106を含むが、「正」及び「負」という用語は、双極性パルスが印加される2つの選択された電極30の任意に選択された極性を指す。正のパルス104の振幅はV+と表記され、パルスの時間幅は、t+と表記される。同様に、負のパルス106の振幅はV-と表記され、パルスの時間幅は、t-と表記される。正のパルス104と負のパルス106との間の時間は、t間隔とラベル付けされる。双極性パルス100のパラメータの典型的な値を、以下の表1に示す。
【0025】
図3は、本開示の一実施例による、双極パルスのバースト200の電圧対時間グラフの概略図である。
【0026】
IRE処置では、IRE信号は、典型的には、選択された電極対30の間で、グラフ202によって描写される1つ又は2つ以上のバースト200として搬送され、そのため、対のうちの1つは、注入電極として作用するとみなされ得る一方、対の他方は、戻り電極として作用する。あるいは、IRE信号は、1つの選択された電極30と外部電極65との間で搬送され得、その場合、選択された電極30は、注入電極として作用すると考えられ得る一方、外部電極65は、戻り電極として作用する。
【0027】
バースト200は、Nパルス列204を含み、各列は、N双極パルス100を含み、N、Nは、正の整数である。パルス列204の長さはtとラベル付けされる。パルス列204内の双極性パルス100の周期はtPPとラベル付けされ、連続する列間の間隔はΔとラベル付けされ、その間、信号は印加されない。バースト200のIREアブレーション信号の信号定義パラメータの典型的な値を、以下の表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
固定化信号
図2及び図3、並びに表Iから明らかなように、1つ又は一対の選択された電極30を介して、被験者24に送達されたIRE信号は、高電圧パルス、すなわち、最大2000Vの振幅を有するパルスを含む。本発明者らは、IRE信号が最初に被験者に送達されるときに、被験者が痙攣し得、痙攣が、被験者の筋肉の骨格又は横隔収縮を引き起こす、IREパルスの高電圧/フィールドによって引き起こされると考えられたことを観察した。
【0030】
被験者の痙攣は外傷をもたらし得る。痙攣はまた、電極30の初期位置からの移動につながる可能性があり、そのため、電極の再位置決めを必要とし、これにより、アブレーション処置の時間が増加する。
【0031】
本開示の例は、IREアブレーション信号を注入する前に、固定化信号を被験者24に注入することによって、被験者が痙攣することを防止する。固定化信号は、IREアブレーション信号が注入されたときに被験者がもはや痙攣しないように、被験者の筋肉を固定する。典型的には、固定化信号は、固定化信号がより低い絶対振幅を有することを除いて、概して、IREアブレーション信号と同様である。固定化信号は、以下に詳細に記載される。
【0032】
本開示の一実施例では、固定化信号は、単調増加振幅を有するパルス列のセットを含み、振幅の全ては、アブレーションIRE信号の振幅の絶対値よりも小さい絶対値を有する。固定化信号は、以下の図4を参照して説明される。
【0033】
図4は、本開示の一実施例による、固定化信号及びIREアブレーション信号の概略グラフ300である。グラフ300は、電圧対時間グラフであり、グラフの区分302は、本明細書で固定化信号302とも称される固定化信号を含む。グラフの区分306は、IREアブレーション信号を含み、これは、図示されるように、固定化信号の後に時間的に来る。IREアブレーション信号は、本明細書ではIREアブレーション信号306とも称される。
【0034】
IREアブレーション信号306のパラメータは、表Iによって構成されている。一例として、信号306は、4つのパルス列310を含むと想定され、本明細書ではバースト306とも称される。各パルス列310、V+、V-、t+、t-、t間隔、tPP、t、Nのパラメータは、同じであるように構成されており、連続するパルス列310の間の間隔Δはまた、表Iに記載されているとおりである。
【0035】
固定化信号302は、一般にパルス列314と呼ばれる1つ又は2つ以上のパルス列314A、314B、314C、...を含む。例として、信号302は、3つのパルス列314を含むと想定される。本開示の一実施例では、パルス振幅V+、V-を除いて、パルス列314は、パルス列310と同じパラメータを有する。更に、パルス列314間の間隔は、パルス列310と同じであり、固定化信号の最終パルス列とアブレーション信号の初期パルス列との間の間隔も同じである。
【0036】
アブレーション信号306の場合、固定化信号の所与のパルス列内のパルスの振幅は一定である。しかしながら、アブレーション信号306とは対照的に、本明細書でV+imm及びV-immと呼ばれる固定化信号302の連続するパルス列の振幅は、互いに等しくないが、むしろ時間とともに単調に変化する。すなわち、V+immの値は、時間とともに単調に増加し、V-immの値は、時間とともに単調に減少する。したがって、固定化信号の連続するパルス列の振幅の絶対値は、ランプ様の様式で単調に増加する。
【0037】
開示された実施例では、固定化信号パルス列の振幅は、アブレーション信号306の振幅V+、V-の下限値から、振幅V+、V-の上限値「u」に変化し、0<b<u<1である。変化は、線形又は非線形、例えば、指数関数であり得る。開示された実施例では、b=20%及びu=70%であるが、u、bの他の値は、上記の不等式に従うという条件で、可能である。典型的には、図4に図示されるように、固定化信号302の全体的な時間ΔTimmは、およそ0.5秒であるが、0.5秒より大きい又は小さい全体的な時間が可能である。
【0038】
固定化信号パルス列の振幅の、及び固定化信号の全体的な時間の典型的な値は、固定化信号の信号定義パラメータを列挙する表IIに示されている。
【0039】
【表2】
【0040】
図5は、本開示の一実施例による、固定化信号の使用を図示するIREアブレーション処置のステップのフローチャートである。
【0041】
IREアブレーション処置は、典型的には、異なる選択された対の電極30の間、及び/又は異なる選択された電極30と外部電極65との間に、IRE信号の複数のバースト200を印加することを含む。(各バーストは、典型的には、電極の第1、第2、第3、...対に連続的に印加される。)本開示の実施例では、固定化信号302は、バーストの各々の前に印加され得る。代替的に、固定化信号302は、バーストの選択されたものの前に印加され得る。更に代替的に、固定化信号302は、バーストの最初のもののみの前に印加され得る。
【0042】
以下の説明で簡単にするために、IRE処置は、一対の電極の間に搬送される1つのバースト200を含むことが想定され、そのため、1つの電極30は、注入電極として作用し、電極30又は電極65であり得る対の他方の電極は、戻り電極として作用する。当業者は、上記の他の場合、すなわち、2つ以上の電極対に印加される複数のバースト200について、準用して、説明を修正することができるであろう。
【0043】
初期セットアップステップ400では、医師22は、処置に使用されるIRE信号パラメータを選択する。値は、表Iに列挙され、図2及び図3を参照して上述したように選択される。加えて、医師22は、表IIに列挙され、図4を参照して上述したように、固定化信号パラメータの値を選択する。選択は、IRE信号パラメータの、及び固定化信号パラメータの事前設定値を有するプロトコルをスクリーン44上に表示することによって、並びに医師が特定のプロトコルを選択することを可能にすることなどによって、任意の便利な方法によって実施され得る。
【0044】
セットアップステップでは、医師はまた、IRE及び固定化信号を注入するために使用される一対の電極を選択する。一対の電極は、注入電極として作用する1つの電極30と、戻り電極として作用する別の電極30と、を備え得る。あるいは、対は、注入電極として作用する1つの電極30と、戻り電極として作用する外部電極65と、を備え得る。信号パラメータに関して、選択はまた、スクリーン44に事前設定されたプロトコルを表示することによっても、医師がIREアブレーションに使用される電極対を選択することを可能にし得る。
【0045】
挿入ステップ404において、処置を開始するために、医師22は、被験者の管腔を介して被験者24にカテーテル26を挿入し、次いで、制御ハンドル70を使用してカテーテルをナビゲートし、そのため、選択された注入電極30は、アブレーションされるべき標的組織と呼ばれる組織58の選択された部分に近接している。プロセッサ32は、ナビゲーションのために追跡モジュール60を使用する。モジュールは、典型的には、スクリーン44上に提示された心臓52の画像上に、遠位端28及び電極30(ステップ400において選択された注入電極30を含む)の位置を表示する。
【0046】
注入電極が標的組織に近接して位置付けられるとき、医師22は、制御ハンドル70、入力デバイス42、又はフットスイッチ(図示せず)を使用するなどの任意の便利な手段によって、プロセッサ32に制御信号を提供することによって、IREアブレーションを開始する。
【0047】
制御信号を受信すると、プロセッサ32は、固定化ステップ408を実装し、連続的に結論付けアブレーションステップ412を実装する。
【0048】
固定化ステップ408では、プロセッサは、IREモジュール34を使用して、セットアップステップ400で選択された値に従って構成され、かつ概して図4に図示される、固定化信号302を生成する。プロセッサは、固定化信号を注入電極30に向け、その結果、電極は、固定化信号を被験者24に注入する。固定化信号は、被験者24を固定化する。
【0049】
固定化信号の注入の完了時に、被験者24が固定化されたとき、プロセッサは、アブレーションステップ412に進む。ステップ412では、プロセッサは、IREモジュール34を使用して、セットアップステップ400で選択された値に従って構成され、かつ概して図4に図示される、アブレーション信号308を生成する。ステップ408について、ステップ412において、プロセッサは、アブレーション信号を注入電極30に向け、その結果、電極は、アブレーション信号を被験者24に注入し、標的組織をアブレーションする。
【0050】
本明細書で使用する場合、任意の数値又は数値の範囲についての「約」又は「およそ」という用語は、実体が、本明細書で述べる意図された目的に沿って機能することを可能とするような好適な寸法許容範囲を示すものである。より具体的には、「約」又は「およそ」は、列挙された値の±20%の値の範囲を指し得、例えば、「約90%」は、72%~108%の値の範囲を指し得、「およそ0.5秒」は、0.4秒~0.6秒の値の範囲を指し得る。
【実施例0051】
実施例1.被験者(24)内の組織(58)をアブレーションするための方法であって、
被験者の管腔に挿入されるように構成されている極(30)を備えるプローブ(26)を提供することであって、そのため、電極が、アブレーションされる組織に近接する、提供することと、
被験者を固定化するように構成されている固定化信号を、電極を介して、被験者に注入することと、
被験者が固定化されているとき、電極を介して被験者にアブレーション信号を注入することであって、アブレーション信号が、不可逆的エレクトロポレーションによって被験者の組織をアブレーションするように構成されている、注入することと、を含み、
アブレーション信号が、第1のパルスの少なくとも1つの列を含み、少なくとも1つの列の第1のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅を有し、固定化信号が、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列を含み、1つ又は2つ以上の列の第2のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅よりも小さい第2のパルス絶対振幅を有する、方法。
【0052】
実施例2.固定化信号が、第2のパルスの複数の列を含み、複数の各々の第2のパルス絶対振幅が、時間的に単調に増加する、実施例1に記載の方法。
【0053】
実施例3.単調増加が、直線状である、実施例2に記載の方法。
【0054】
実施例4.単調増加が、非直線状である、実施例2に記載の方法。
【0055】
実施例5.第1のパルスの少なくとも1つの列内及び第2のパルスの1つ又は2つ以上の列内の各列が、複数のパルスを含む、実施例1に記載の方法。
【0056】
実施例6.第2のパルス絶対振幅が、第1のパルス絶対振幅の20%~70%である、実施例1に記載の方法。
【0057】
実施例7.第1のパルス及び第2のパルスが、双極パルスを含む、実施例1に記載の方法。
【0058】
実施例8.固定化信号の全体的な時間が、0.4秒~0.6秒の範囲内である、実施例1に記載の方法。
【0059】
実施例9.プローブが、注入されたアブレーション信号及び注入された固定化信号を受信するように構成されている更なる電極(30)を備える、実施例1に記載の方法。
【0060】
実施例10.注入されたアブレーション信号及び注入された固定化信号を受信するように構成されている、被験者の皮膚上に位置する外部電極(65)を備える、実施例1に記載の方法。
【0061】
実施例11.被験者(24)内の組織(58)をアブレーションするための装置であって、
被験者の管腔に挿入されるように構成されている電極(30)を備えるプローブ(26)であって、そのため、電極が、アブレーションされる組織に近接する、プローブと、
プロセッサ(32)であって、
被験者を固定化するように構成されている固定化信号を、電極を介して、被験者に注入することと、
被験者が固定化されているとき、電極を介して被験者にアブレーション信号を注入することであって、アブレーション信号が、不可逆的エレクトロポレーションによって被験者の組織をアブレーションするように構成されている、注入することと、を行うように構成されている、プロセッサと、を備え、
アブレーション信号が、第1のパルスの少なくとも1つの列を含み、少なくとも1つの列の第1のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅を有し、固定化信号が、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列を含み、1つ又は2つ以上の列の第2のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅よりも小さい第2のパルス絶対振幅を有する、装置。
【0062】
上に記載される実施例は例として挙げたものであり、本開示は本明細書の上記で具体的に図示及び記載されるものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本開示の範囲は、本明細書の上記した様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の記載を読むと当業者に着想されるであろう、先行技術に開示されていないその変形及び修正を含む。
【0063】
〔実施の態様〕
(1) 被験者内の組織をアブレーションするための方法であって、
前記被験者の管腔に挿入されるように構成されている電極を備えるプローブを提供することであって、そのため、前記電極が、アブレーションされる前記組織に近接する、提供することと、
前記被験者を固定化するように構成されている固定化信号を、前記電極を介して、前記被験者に注入することと、
前記被験者が固定化されているとき、前記電極を介して前記被験者にアブレーション信号を注入することであって、前記アブレーション信号が、不可逆的エレクトロポレーションによって前記被験者の前記組織をアブレーションするように構成されている、注入することと、を含み、
前記アブレーション信号が、第1のパルスの少なくとも1つの列を含み、前記少なくとも1つの列の前記第1のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅を有し、前記固定化信号が、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列を含み、前記1つ又は2つ以上の列の前記第2のパルスの各々が、前記第1のパルス絶対振幅よりも小さい第2のパルス絶対振幅を有する、方法。
(2) 前記固定化信号が、前記第2のパルスの複数の列を含み、前記複数の各々の前記第2のパルス絶対振幅が、時間的に単調に増加する、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記単調増加が、直線状である、実施態様2に記載の方法。
(4) 前記単調増加が、非直線状である、実施態様2に記載の方法。
(5) 前記第1のパルスの少なくとも1つの列内及び前記第2のパルスの1つ又は2つ以上の列内の各列が、複数のパルスを含む、実施態様1に記載の方法。
【0064】
(6) 前記第2のパルス絶対振幅が、前記第1のパルス絶対振幅の20%~70%である、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記第1のパルス及び前記第2のパルスが、双極パルスを含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記固定化信号の全体的な時間が、0.4秒~0.6秒の範囲内である、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記プローブが、前記注入されたアブレーション信号及び前記注入された固定化信号を受信するように構成されている更なる電極を備える、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記注入されたアブレーション信号及び前記注入された固定化信号を受信するように構成されている、前記被験者の皮膚上に位置する外部電極を備える、実施態様1に記載の方法。
【0065】
(11) 被験者内の組織をアブレーションするための装置であって、
前記被験者の管腔に挿入されるように構成されている電極を備えるプローブであって、そのため、前記電極が、アブレーションされる前記組織に近接する、プローブと、
プロセッサであって、
前記被験者を固定化するように構成されている固定化信号を、前記電極を介して、前記被験者に注入することと、
前記被験者が固定化されているとき、前記電極を介して前記被験者にアブレーション信号を注入することであって、前記アブレーション信号が、不可逆的エレクトロポレーションによって前記被験者の前記組織をアブレーションするように構成されている、注入することと、を行うように構成されている、プロセッサと、を備え、
前記アブレーション信号が、第1のパルスの少なくとも1つの列を含み、前記少なくとも1つの列の前記第1のパルスの各々が、第1のパルス絶対振幅を有し、前記固定化信号が、第2のパルスの1つ又は2つ以上の列を含み、前記1つ又は2つ以上の列の前記第2のパルスの各々が、前記第1のパルス絶対振幅よりも小さい第2のパルス絶対振幅を有する、装置。
(12) 前記固定化信号が、前記第2のパルスの複数の列を含み、前記複数の各々の前記第2のパルス絶対振幅が、時間的に単調に増加する、実施態様11に記載の装置。
(13) 前記単調増加が、直線状である、実施態様12に記載の装置。
(14) 前記単調増加が、非直線状である、実施態様12に記載の装置。
(15) 前記第1のパルスの少なくとも1つの列内及び前記第2のパルスの1つ又は2つ以上の列内の各列が、複数のパルスを含む、実施態様11に記載の装置。
【0066】
(16) 前記第2のパルス絶対振幅が、前記第1のパルス絶対振幅の20%~70%である、実施態様11に記載の装置。
(17) 前記第1のパルス及び前記第2のパルスが、双極パルスを含む、実施態様11に記載の装置。
(18) 前記固定化信号の全体的な時間が、0.4秒~0.6秒の範囲内である、実施態様11に記載の装置。
(19) 前記プローブが、前記注入されたアブレーション信号及び前記注入された固定化信号を受信するように構成されている更なる電極を備える、実施態様11に記載の装置。
(20) 前記注入されたアブレーション信号及び前記注入された固定化信号を受信するように構成されている、前記被験者の皮膚上に位置する外部電極を備える、実施態様11に記載の装置。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】