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特開2022-140441統合失調症、双極性障害、認知障害及び大うつ病性障害の治療のための非定型的抗精神病薬ならびにNMDA調節剤の医薬品の組み合わせ
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  • 特開-統合失調症、双極性障害、認知障害及び大うつ病性障害の治療のための非定型的抗精神病薬ならびにNMDA調節剤の医薬品の組み合わせ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140441
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】統合失調症、双極性障害、認知障害及び大うつ病性障害の治療のための非定型的抗精神病薬ならびにNMDA調節剤の医薬品の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220915BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/554 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220915BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/40
A61K31/407
A61K31/445
A61K31/495
A61K31/496
A61K31/4985
A61K31/517
A61K31/551
A61K31/554
A61K38/07
A61P25/18
A61P25/24
A61P25/28
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/13
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022107539
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2018519482の分割
【原出願日】2016-10-14
(31)【優先権主張番号】62/242,633
(32)【優先日】2015-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】モスカル ジョセフ アール
(72)【発明者】
【氏名】メルツァー ヘバート
(57)【要約】
【課題】統合失調症、双極性障害及び/または認知障害疾患を治療するための方法を提供する。
【解決手段】特定のNMDAR調節剤、例えばrapastinel及び非定型的抗精神病薬の組み合わせを用いることにより、統合失調症、双極性障害及び/または認知障害疾患を治療する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者の統合失調症を治療する方法であって、前記患者へ
非定型的抗精神病薬、ならびに
rapastinel、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド、及びN-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドからなる群から選択されるNMDA調節剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
治療を必要とする患者の双極性障害を治療する方法であって、前記患者へ
非定型的抗精神病薬、ならびに
rapastinel、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド、及びN-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドからなる群から選択されるNMDA調節剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
治療を必要とする患者の認知障害疾患を治療する方法であって、前記患者に非定型的抗精神病薬、ならびにrapastinel、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド、及びN-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドからなる群から選択されるNMDA調節剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記認知障害疾患が、認知能力の障害、先天性欠陥、環境因子(複数可)または薬物誘発のうちの1つ以上が原因である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記認知障害疾患が、学習障害、自閉症及び/または失読症である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
治療を必要とする患者の大うつ病性障害を治療する方法であって、前記患者へ
非定型的抗精神病薬、ならびに
rapastinel、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド、及びN-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドからなる群からのNMDA調節剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項7】
前記大うつ病性障害が難治性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記非定型的抗精神病薬がルラシドン、クエチアピン、オランザピン、アセナピン、リスペリドン、ジプラシドン、クロザピン、メルペロン、カリプラジン、アリピプラゾール、ピマバンセリン、ITI-007、RP506及びレモキシプリドを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記非定型的抗精神病薬がルラシドンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記NMDA調整剤及び前記非定型的抗精神病薬が、単独で投与される場合、亜有効用量でそれぞれ投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記NMDA調節剤を投与することが、前記非定型的抗精神病薬を投与することと実質的に同時に生じる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記NMDA調節剤及び前記非定型的抗精神病薬が連続的に投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記NMDA調節剤が、前記非定型的抗精神病薬の前に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記NMDA調節剤が、前記非定型的抗精神病薬の後に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
NMDARアンタゴニストを亜慢性的に投与された患者の認知障害を実質的に回復または予防する方法であって、前記患者に亜有効用量のNMDA調節剤及び亜有効用量の非定型的抗精神病薬を投与することを含む、前記方法。
【請求項16】
前記NMDARアンタゴニストがケタミンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記NMDA調節剤がrapastinelである、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記NMDA調節剤が、N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドである、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
NMDA調整剤及び非定型的抗精神病薬を含む、薬学的に許容される組成物。
【請求項20】
NMDARアンタゴニストを更に含む、請求項19に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項21】
前記NMDARアンタゴニストがケタミンである、請求項20に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項22】
前記非定型的抗精神病薬がルラシドンである、請求項19~21のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項23】
前記NMDA調節剤がrapastinelである、請求項19~22のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は2015年10月16日出願の米国特許出願第62/242,633号に対する優先権を主張し、そのすべての内容は本明細書に参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
N-メチル-d-アスパラギン酸(NMDA)受容体(NMDAR)は、とりわけ興奮性アミノ酸のグルタミン酸及びグリシン、ならびにそのNMDA合成化合物に反応する、シナプス後イオンチャネル型受容体である。NMDA受容体は、受容体関連チャネルを通過してシナプス後神経系細胞内に2価及び1価の両イオン流を制御する。NMDA受容体は、ニューロン構造及びシナプス接続を特定する際、発生中に関係し、経験依存的シナプス修飾に関与している可能性がある。更にNMDA受容体は、長期増強及び中枢神経系疾患に関与しているとも考えられている。
【0003】
NMDA受容体は、シナプス後膜に組み込まれたいくつかのタンパク質鎖からなると考えられている。これまでに発見されたサブユニットの最初の2つのタイプは、大きな細胞外領域を形成し、その細胞外領域は大部分のアロステリック結合部位を含有する可能性があり、いくつかの膜貫通領域は、Ca++を通すことができる孔またはチャネル、及びカルボキシル末端領域を形成するように、環状に折り重ねられる。チャネルの開閉は、細胞外表面にあるタンパク質ドメイン(アロステリック部位)に種々のリガンドを結合させることによって調整される。リガンドの結合は、チャネルが、開いているか、部分的に開いているか、部分的に閉まっているか、閉まっているかで、最終的に反映されるタンパク質の全体構造の立体構造変化に影響を及ぼすと考えられる。
【0004】
近年、rapastinelなどのNMDARの改良された部分アゴニストは、げっ歯動物の海馬依存性空間学習課題を改良することが報告されており、それは認知促進及び抗うつ特性を有し得ることを示した。rapastinelの例としては、以下の構造

が挙げられ、それは分子量413.47及び化学式C183156を有する。rapastinelは、向知性、神経保護及び抗侵害受容性活性を示し、in vivo学習、記憶及び認知を強化する。
【0005】
ケタミン(NMDAR非競合的アンタゴニスト)は、即効性の抗うつ特性を生じることも報告されているが、健康なヒトに解離性及び精神病様の作用及び認知障害を引き起こし、統合失調症患者では認知障害ではなく精神病を悪化させる。ケタミンは、新奇物体認識(NOR)(ヒト陳述記憶の類似物)を含む、げっ歯動物の認知にも障害を生じさせる。NORは、海馬、嗅内、鼻周囲及び側頭関連皮質、ならびに前頭前野皮質の包括的作用に依存している。NMDAR及びα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体でのその作用を介した、グルタミン酸は、シナプス可塑性に重大な効果を有し、したがって学習及び記憶で主要な役割を担っている。
【0006】
例えば双極性うつ病の患者などのうつ病を治療するための及び/または統合失調症の患者を治療するための治療法、例えば単独で投与できる、または他の作用薬と共に投与できる薬物の重大な必要性が、まだある。
【0007】
〔要約〕
本開示は部分的には、1つ以上の非定型的抗精神病薬、及び本明細書で開示するrapastinel及び他のNMDA調整剤(そのそれぞれは本明細書で「成分」と称される場合がある)などのNMDA調整剤を含む、組み合わせを特徴とする。このような組み合わせの有益な効果は、rapastinel及び非定型的抗精神病薬(例えばルラシドン)の投与(例えば、亜急性用量)が、NMDARアンタゴニスト誘発性認知障害(例えばNMDARアンタゴニストの繰り返し投与により誘発される、例えば新奇物体認識でのNMDARアンタゴニスト誘発性障害)を回復させる及び/または予防することができるという発見に、部分的には基づく。開示した組み合わせは、1つ以上の他の生物活性成分(例えば、1つ以上の他の抗うつ化合物)及び/または1つ以上の薬学的に許容される賦形剤及び/または担体を更に含むことができる。前記組み合わせの成分(本明細書で、化学物質または化合物とも称される場合がある)は、逐次的(各成分が異なる時間に投与される)にまたは実質的に同時に患者に投与されることができる。前記成分が、同じ薬学的に許容される担体中に存在してもよく、したがって同時に投与されてもよいことは、理解されるであろう。あるいは各成分が、同時にまたは逐次的に投与されることができる、従来の経口投与形態または非経口形態などの別個の薬学的担体中に存在することができる(または一成分が経口で、他が非経口でもよい)。したがって一態様では、NMDARアンタゴニストを急性的に投与した患者の認知障害を実質的に回復させる、または予防する方法を提供し、それは、rapastinelなどの開示されたNMDA調節剤及び非定型的抗精神病薬(例えばルラシドン)を投与することを含む。例えば、必要とする患者の統合失調症または双極性障害を治療する方法が、本明細書に提供され、非定型的抗精神病薬;及びrapastinel、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド、及びN-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドからなる群から選択されるNMDA調節剤を投与することを含む。特定の想到される方法で、NMDA調整剤及び非定型的抗精神病薬は、単独で投与される場合、亜有効用量でそれぞれ投与される。
【0008】
別の実施形態で、rapastinelなどのNMDA調整剤及び非定型的抗精神病薬(例えば、ルラシドン)を含む、薬学的に許容される組成物が、ここで提供される。例えばこのような組成物は、rapastinel及び/またはルラシドンの亜急性用量または亜有効用量の(薬剤単独での投与に基づく)を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】rapastinel(rap、1.0mg/kg)ではなく、急性ケタミン(ket、30mg/kg)が、雄C57BL/6Jマウスに重大なNOR障害を誘発したことを示す。rap(1.0mg/kg)は、ket誘発性NOR障害を著しく防止した($$$P<0.001)。
図2】rap(1.0mg/kg)が著しく亜慢性(sc)PCP及びlet(10及び30mg/kg、腹腔内、1日2回、7日間、その後7日間休薬)誘発性NOR障害を著しく回復させたことを示す(###P<0.001)。
図3】亜有効用量(SED)の急性rapastinelプラスSEDルラシドン(lur)が、scket誘発性NOR障害を著しく回復させた(##P<0.001)が、これらの用量で上述の薬剤はいずれも効果はなかった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えば、rapastinel)及び非定型的抗精神病薬(そのそれぞれは本明細書で「成分」と称される場合がある)を投与することを含む、1つ以上を含む組み合わせを特徴とする。前記組み合わせの有益な効果は、非定型的抗精神病薬(例えばルラシドン)を合わせたrapastinelなどのNMDA調節剤(例えば、亜急性用量または亜有効用量)の投与が、認知障害(例えばNMDARアンタゴニストの繰り返し投与により誘発される、例えば新奇物体認識でのNMDARアンタゴニスト誘発性障害)を回復させる及び/または予防することができるという発見に、部分的には基づく。前記組み合わせは、1つ以上の他の生物活性成分(例えば、1つ以上の他の抗うつ化合物)及び/または1つ以上の薬学的に許容される賦形剤及び/または担体を更に含むことができる。前記組み合わせの成分(本明細書で、化学物質または化合物とも称される場合がある)は、逐次的(各成分が異なる時間に投与される)にまたは実質的に同時に患者に投与されることができる。前記成分が、同じ薬学的に許容される担体中に存在してもよく、したがって同時に投与されてもよいことは、理解されるであろう。あるいは各成分が、同時にまたは逐次的に投与されることができる、従来の経口投与形態または非経口形態などの別個の薬学的担体中に存在することができる(または一成分が経口で、他が非経口でもよい)。いくつかの実施形態で、非定型的抗精神病薬とrapastinel(または、例えば開示されたNMDA調節剤)の事前投与または実質的に同時投与(すなわち、1つ以上の非定型的抗精神病薬の投与前に投与される)は、特に有益な可能性がある。
【0011】
定義
「rapastinel」(または「GLYX-13」)は、以下の式で表され、
ならびに上述の化合物の多形体、水和物、溶媒和物、遊離塩基及び/または適切な塩形態を含む。
【0012】
「治療する」という用語は、病態、疾患、障害などの改善をもたらす、例えば縮小、低減、調節もしくは排除などの任意の効果を含む。
【0013】
本明細書で使用する場合「NMDA受容体アンタゴニスト」及び「NMDARアンタゴニスト」という用語は両方とも一般に、NMDA受容体のグリシン結合部位と結合することができて、及びN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)の作用に拮抗または阻害するために機能する、化学物質を指す。
【0014】
「薬学的にまたは薬理学的に許容される」とは、必要に応じて動物またはヒトに投与したとき、拒絶反応、アレルギー反応または他の有害反応を起こさない分子物質及び組成物を含む。ヒトへの投与において、調製物は、FDA Office of Biologics standardsによって要求されている無菌性、発熱性、一般的な安全性及び純度基準を満たすべきである。
【0015】
本明細書で使用する場合「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、医薬品の投与と適合する、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。薬学的活性物質のためのこのような媒体及び薬剤を使用することは、当該技術分野において周知である。本明細書に記載の組み合わせは、補足の、追加のまたは強化された治療機能を提供する、他の活性化合物も含んでよい。
【0016】
本明細書で使用する場合「医薬品組成物」という用語は、1つ以上の薬学的に許容される担体及び/または賦形剤と共に調製される、本明細書で開示した組み合わせの成分の少なくとも1つを含む組成物を指す。
【0017】
用語「個体」「患者」または「対象」は同じ意味で用いられ、哺乳動物、好ましくはマウス、ラット、他のげっ歯動物、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマまたは霊長類を含み、最も好ましくはヒトを含む、任意の動物を含む。本発明の組み合わせは、ヒトなどの哺乳動物に、本明細書に記載されるように投与することができるが、獣医学的治療を必要とする動物などの他の哺乳動物、例えば飼育動物(例えばイヌ、ネコなど)、家畜(例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)及び実験動物(例えばネズミ、マウス、モルモットなど)にも投与することができる。いくつかの実施形態で、本発明の方法で治療される哺乳動物は、例えばうつ病の治療が求められている哺乳動物である。
【0018】
本明細書で使用する場合「薬学的に許容される塩(複数可)」という用語は、本発明の組み合わせで用いられる化合物中に存在し得る、酸性基または塩基性基の塩を指す。性質が塩基性である、本発明の組み合わせに包含される化合物は、種々の有機酸及び無機酸と多種多様な塩を形成することができる。このような塩基性化合物の薬学的に許容される酸付加塩を調製するために使用し得る酸は、非毒性の酸付加塩、すなわちこれらに限定されないが、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、過リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチアニン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ショ糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、及びパモ酸塩(すなわち、1-1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))を含む薬理学的に許容されるアニオンを含む、塩を形成するものである。性質が酸性である、本発明の組み合わせに含まれる化合物は、薬理学的に許容される様々なカチオンと塩基性塩を形成することができる。このような塩の例としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含み、特にカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、亜鉛塩、カリウム塩及び鉄塩を含む。塩基性または酸性部分を含む本発明の組み合わせに含まれる化合物は、様々なアミノ酸とも薬学的に許容される塩を形成し得る。本組み合わせに包含される化合物は、酸性基及び塩基性基の両方、例えば1つのアミノ基及び1つのカルボン酸基を含有してもよい。このような場合、化合物は、酸付加塩、双性イオンまたは塩基塩として存在できる。本開示を通して、開示の化合物は、薬学的に許容される塩も含んでよい。
【0019】
組み合わせ成分
rapastinelは、本明細書に参照により取り込まれる、米国特許第5,763,393号及び同第4,086,196号に開示されているような周知の組換え法または合成法によって得てもよい。rapastinelの多形体、水和物、同族体、溶媒和物、遊離塩基、及び/またはこれに限定されないが酢酸塩などの好適な塩形態も想到される。ペプチドは、米国特許第5,763,393号に更に開示されるように、環化されても、非環化でもよい。いくつかの実施形態で、rapastinelの類似体は、Thr群またはPro群のうちの1つ以上での、CH3、OHもしくはNH2の部位の欠失など一部の挿入または欠失を含んでいてもよい。他の実施形態で、rapastinelは、1つ以上のハロゲン、C1~C3アルキル(ハロゲンもしくはアミノと任意に置換される)、ヒドロキシル及び/またはアミノと任意に置換されていてもよい。本明細書の使用に想到される他の化合物としては、米国特許第5,763,393号、同第6,107,271号、及びWood et al.,Neuro.Report,19,1059-1061,2008に開示される、NMDARのグリシン部位部分アゴニストを含み、その全内容は参照により本明細書に取り込まれる。
【0020】
本明細書に開示されるペプチドは、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方、例えばすべての天然アミノ酸(もしくはその誘導体)、すべての非天然アミノ酸(もしくはその誘導体)、または天然アミノ酸と非天然アミノ酸の混合物を含むことができると理解されてもよい。例えば、rapastinel中のアミノ酸の1、2、3つ以上は、それぞれ独立してDまたはL配置を有していてもよい。
【0021】
想到されるNMDA調節剤は、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド、及びN-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミドも含む。
【0022】
想到される非定型的抗精神病薬は、ルラシドン、クエチアピン、オランザピン、アセナピン、リスペリドン、ジプラシドン、クロザピン、メルペロン、カリプラジン、アリピプラゾール、ピマバンセリン、ITI-007、RP506及びレモキシプリドを含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、NMDARアンタゴニストは、ケタミン、メマンチン、ラニセミン(AZD6765)、CERC-301、デキストロメトルファン、デキストロルファン、フェンシクリジン、ジゾシルピン(MK-801)、アマンタジン、イフェンプロジル、AV-101、AZD6423、及びリルゾール、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグからなる群から選択される。上述のNMDARアンタゴニストの誘導体も想到される。一実施形態において、NMDARアンタゴニストは、亜酸化窒素、アトモキセチン、デキストラロルファン、ジフェニジン、エチシクリジン、ガシクリジン、イボガイン、メトキセタミン、ニトロメマンチン、ロリシクリジン、テノシクリジン、メトキシジン、チレタミン、ネラメキサン、エリプロジル、エトキサドロール、デキソキサドロール、メタドン、WMS-2539、NEFA、レマセミド、デルセミン、8A-PDHQ、アプチガネル(Cerestat、CNS-1102)、HU-211、レマセミド、リンコフィリン、TK-40、トラキソプロジル(CP-101、606)、1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACPC)、キヌレン酸もしくはその誘導体、2-カルボキシテトラヒドロキノリンもしくはその誘導体、2-カルボキシインドールもしくはその誘導体、4-ヒドロキシ-2-キノリンもしくはその誘導体、4-ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体、キノキサリン-2,3-ジオンもしくはその誘導体、三環式アンタゴニスト、ラコサミド、L-フェニルアラニン、ミダフォテル、及びアプチガネル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグからなる群から選択されてもよい。
【0024】
方法
一態様で、非定型的抗精神病薬(例えば、ルラシドン、クエチアピン、オランザピン、アセナピン、リスペリドン、ジプラシドン、クロザピン、メルペロン、カリプラジン、アリピプラゾール、ピマバンセリン、ITI-007、RP506及びレモキシプリドからなる群から選択されるもの)、及び本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えば、rapastinel)を投与することを含む、患者の認知障害疾患を実質的に回復させる、または予防する方法が、提供される。
【0025】
別の態様で、それを必要とする患者の認知障害疾患を治療する方法が提供され、それは、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えば、rapastinel)及び非定型的抗精神病薬の量を投与することを含む。認知障害疾患は、認知能力の障害、先天的欠陥、環境因子(複数可)または薬物誘発のうちの1つ以上が原因である可能性があり、ならびに学習障害及び/または失読症を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態で、1つ以上の非定型的抗精神病薬が投与される前にまたはその後に、rapastinelの量(例えば、亜急性の量)の投与が生じる。他の実施形態において、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えば、rapastinel)の投与は、非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上の投与と実質的に同時に生じる。
【0026】
更なる一態様で、これらだけに限定されないが、神経学的障害または他の障害(例えば、脳卒中、精神病性障害、疼痛(例えば、神経障害性疼痛)、うつ病(例えば、大うつ病)、パーキンソン病、及びアルツハイマー病);中枢神経系疾患(例えば、神経変性疾患、卒中、外傷性脳損傷、及び脊髄損傷);統合失調症;及び/またはうつ病(例えば、難治性うつ病)を含む障害、状態または疾患を治療する方法が提供され、それは、本明細書に記載の組み合わせ(例えば本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えば、rapastinel)の量及び1つ以上の非定型的抗精神病薬)を投与することを含む。他の例示的な状態には、学習障害、自閉症性障害、注意欠陥多動障害、不安、片頭痛、トゥーレット症候群、恐怖症、心的外傷後ストレス障害、認知症、加齢関連記憶欠損、AIDS認知症、ハンチントン病、痙縮、ミオクローヌス、筋痙攣、双極性障害、神経障害性疼痛、薬物乱用障害、尿失禁、虚血、限局性学習障害、痙攣、脳卒中後痙攣、脳虚血、低血糖、心停止、及びてんかんが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態で、rapastinel及び1つ以上の非定型的抗精神病薬は、実質的に同時に投与される。他の実施形態では、rapastinel及び1つ以上の非定型的抗精神病薬は連続的に投与され、例えば1つ以上の非定型的抗精神病薬の前またはその後に、rapastinelを投与する。
【0027】
想到される方法は、それを必要とする患者の自閉症及び/または自閉症スペクトラム障害を治療する方法を含み、それは、本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上)を投与することを含む。一実施形態で、本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上)を投与することを含む、それを必要とする患者の自閉症の症状を低減するための方法が想到される。例えば、投与すると、前記組み合わせは、自閉症の1つ以上の症状、例えば、アイコンタクトの回避、社会化不全、注意欠如、不機嫌、多動性、異常音感、不適切な言語、睡眠の乱れ、及び固執性の発現率を低下させ得る。このような減少した発生率は、未治療の個体(複数可)の発生率と比較して測定されてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、自閉症を患う患者は、脆弱X症候群、結節性硬化症、先天性風疹症候群及び未治療のフェニルケトン尿症などの別の病態も患っている。
【0029】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び1つ以上のNMDARアンタゴニスト)を投与することを含む、それを必要とする患者の疾患を治療する方法が想到されており、前記疾患は、脳虚血、脳卒中、脳外傷、脳腫瘍、急性神経障害性疼痛、慢性神経障害性疼痛、睡眠障害、薬物中毒、うつ病、特定の視覚障害、エタノール禁断症状、不安、記憶及び学習障害、自閉症、てんかん、AIDS認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、フリートライヒ失調症、ダウン症候群、脆弱X症候群、結節性硬化症、オリーブ橋小脳萎縮症、脳性麻痺、薬物誘発性視神経炎、末梢神経障害、脊髄症、虚血性網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障、心停止、行動障害、衝動制御障害、アルツハイマー病、初期のアルツハイマー病に伴う物忘れ、注意欠陥障害、ADHD、統合失調症、オピエイトの寛解、ニコチン中毒、エタノール中毒、外傷性脳損傷、脊髄損傷、心的外傷後ストレス症候群、及びハンチントン舞踏病からなる群から選択される。
【0030】
いくつかの実施形態において、それを必要とする患者の注意欠陥障害、ADHD(注意欠陥多動障害)、統合失調症、不安、オピエイトの寛解、ニコチン及び/またはエタノール中毒(例えば、そのような中毒を治療する、またはそのような中毒からの離脱の副作用を寛解する方法)、脊髄損傷、糖尿病性網膜症、外傷性脳損傷、心的外傷後ストレス症候群、及び/またはハンチントン舞踏病を治療する方法が、本明細書で想到されており、それは、本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上)を投与することを含む。例えば、統合失調症、中毒(例えばエタノールまたはオピエイト)、自閉症、ハンチントン舞踏病、外傷性脳損傷、脊髄損傷、心的外傷後ストレス症候群及び糖尿病性網膜症を患う患者はすべて、変化したNMDA受容体の発現または機能を患っていてもよい。
【0031】
例えば、本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上)を投与することを含む、それを必要とする患者のうつ病を治療する方法が、本明細書に提供される。特定の実施形態で、治療抵抗性患者は、本明細書に記載の組み合わせの投与前に、少なくとも2種類の抗うつ薬治療で治療した患者と特定される。他の実施形態では、治療抵抗性患者は、少なくとも1種類の抗うつ薬治療の副作用に耐える意志がない、または耐えることができないと特定されている患者である。
【0032】
多くの一般的なうつ状態は、大うつ病性障害及び気分変調性障害を含む。他のうつ状態は、特有の状況下で発生する。そのようなうつ状態は、精神病性うつ病、産後うつ病、季節性情動障害(SAD)、気分障害、慢性疾患(癌または慢性疼痛、化学療法、慢性ストレス、心的外傷後ストレス障害及び双極性障害(または躁うつ障害))に起因するうつ病が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
難治性うつ病は、三環系抗うつ薬、MAOI、SSRIならびに再及び再々取り込み阻害薬、及び/または抗不安薬を含む標準的な薬理学的治療、同様に精神療法、電気痙攣療法、迷走神経刺激、及び/または経頭蓋磁気刺激などの非薬理学的治療に対して抵抗性のあるうつ病に罹患している患者で生じる。治療抵抗性患者は、1つ以上の標準的な薬理学的または非薬理学的治療を受けているにも関わらず、うつ病の1つ以上の症状(例えば、持続的不安または哀感、無力感、絶望、悲観)の緩和を経験することができない患者と特定され得る。特定の実施形態では、治療抵抗性患者は、2つの異なる抗うつ薬での治療を受けているにも関わらず、うつ病の1つ以上の症状の緩和を経験することができない患者である。他の実施形態では、治療抵抗性患者は、4つの異なる抗うつ薬での治療を受けているにも関わらず、うつ病の1つ以上の症状の緩和を経験することができない患者である。治療抵抗性患者はまた、1つ以上の標準的な薬理学的または非薬理学的治療の副作用に耐える意志がない、または耐えることができない患者と特定され得る。
【0034】
例えば、うつ病患者のサブセット(例えば精神病を経験する傾向があり得る、例えば精神病の特徴を有する単極性または双極性うつ病の者)を治療する方法が、本明細書で想到される。したがって、認識及び精神病理上のケタミンの副作用が、うつ病を治療するのに必要なものと同等の用量で単回投与から発生し得るので、想到される気分障害患者は、単回の治療でさえrapastinelからよりケタミンから、追加の認知障害または精神病の再発の危険性が高くなることがあり得る。抵抗性うつ病の長期の再発治療でケタミンを複数投与する場合、しばしばケタミンによってなされたように、認知障害及び精神病の危険性はより高くなる可能性がある。例えば、多受容体AAPD/抗うつ薬ルラシドンの亜有効用量を増強し得る、亜有効用量のrapastinelの投与が、本明細書で想到される。一実施形態において、ルラシドンなどの非定型的AAPDは、治療抵抗性うつ病患者(例えば、ケタミンで治療されている)の認知障害及び精神病の危険性を低減し得る。
【0035】
また別の態様では、疼痛寛解を増強し、動物に感覚消失を与えるための方法を提供する。いくつかの実施形態で、神経障害性疼痛を治療するための方法を提供する。神経障害性疼痛は、急性でも慢性でもよい。場合によっては、神経障害性疼痛は、ヘルペス、HIV、外傷性神経損傷、脳卒中、虚血後、線維筋痛症、反射性交感神経性ジストロフィー、複合性局所疼痛症候群、脊髄損傷、坐骨神経痛、幻肢痛、糖尿病性神経障害、及び癌化学療法薬誘発性神経障害性疼痛などの状態を伴ってもよい。疼痛緩和を促進し、患者に痛覚消失を提供するための方法も想到される。
【0036】
特定の実施形態で、統合失調症を治療するための方法を提供する。例えば、妄想型統合失調症、解体型統合失調症(すなわち、破瓜型統合失調症)、緊張型統合失調症、未分化型統合失調症、残遺型統合失調症、統合失調症後うつ病、及び単純型統合失調症を、本明細書で想到する方法及び組成物を使用して治療してもよい。統合失調感情障害、妄想性障害、短期精神病性障害、共有精神病性障害、及び妄想または幻覚を伴う精神病性障害などの精神病性障害も、本明細書で想到する組成物を使用して治療してもよい。
【0037】
妄想または幻聴は存在するが思考障害、解体型行動または情動の平板化は存在しない場合、妄想型統合失調症と特徴づけられ得る。妄想は、被害的及び/または誇大的であってもよいが、これらに加えて嫉妬、宗教性または身体化などの他のテーマも存在してよい。
【0038】
思考障害及び平板な情動が共に存在する場合、解体型統合失調症と特徴づけられ得る。
【0039】
対象がほとんど不動である、または興奮した無意味な運動を示し得る場合、緊張型統合失調症と特徴づけられ得る。症状には、緊張病性昏迷及びろう屈症が含まれることができる。
【0040】
精神病症状が存在するが、妄想型、解体型または緊張型の基準を満たしていない場合、未分化型統合失調症と特徴づけられ得る。
【0041】
低い強度でのみ陽性症状が存在する場合、残遺型統合失調症と特徴づけられ得る。
【0042】
うつ病エピソードが統合失調症の余波で生じ、いくらか低レベルの統合失調症状がまだ存在し得る場合、統合失調症後うつ病と特徴づけられ得る。
【0043】
単純型統合失調症は、精神病エピソードの病歴がなく、顕著な陰性症状の潜行性かつ進行性の発生によって特徴づけられ得る。
【0044】
いくつかの実施形態で、これらに限定されないが双極性障害、境界性パーソナリティ障害、薬物中毒及び薬物性精神病を含む、他の精神疾患で存在し得る精神病症状を治療するための方法を提供する。
【0045】
別の実施形態で、例えば妄想性障害に存在し得る妄想(例えば「奇異でない」)を治療する方法を提供する。
【0046】
これらに限定されないが社会不安症、回避性パーソナリティ障害及び統合失調型パーソナリティ障害を含む状態の、引きこもりを治療するための方法も提供する。
【0047】
更に、強迫性障害(OCD)を治療するための方法を提供する。
【0048】
別の実施形態で、本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上)を投与することを含む、それを必要とする患者のアルツハイマー病を治療する、または例えば初期のアルツハイマー病に伴う、例えば物忘れを治療する方法を提供する。本明細書に記載の組み合わせ(例えば、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び非定型的抗精神病薬のうちの1つ以上)をタンパク質と接触させることを含む、in vitroまたはin vivo(例えば細胞内の)アルツハイマーのアミロイドタンパク質(例えばβアミロイドペプチド、例えばアイソフォームAβ1-42)を調節する方法も、本明細書で提供する。例えばいくつかの実施形態で、rapastinelまたは別の開示化合物は、海馬スライスの長期増強を阻害するそのようなアミロイドタンパク質の能力、及びアポトーシス神経細胞死を遮断し得る。いくつかの実施形態で、開示化合物(例えば、rapastinel)は、それを必要とするアルツハイマー患者に神経保護特性を提供し得て、例えば後期アルツハイマー関連神経細胞死に対して治療効果を提供し得る。
【0049】
いくつかの実施形態で、患者は、ヒト、例えばヒト小児患者である。
【0050】
本開示は「併用療法」を想到しており、それは、これらの治療薬の相互作用からの有益効果を提供することを意図した特定の治療レジメンの一部として、本明細書に記載のものなどのNMDA調節剤(例えばrapastinel)の量、及び1つ以上の非定型的抗精神病薬を同時投与することを含む(が、これに限定されない)。併用の有益な効果は、これらに限定されないが、治療薬の併用により生じる薬物動態学的または薬力学的な相互作用を含む。併用でのこれらの治療薬の投与は一般的に、所定の期間(通常、選択された組み合わせに応じて数日、数週間、数か月または数年)をかけて実施される。併用療法は、連続的方法で、すなわち各治療薬を異なる時間に投与する複数の治療薬の投与、及び実質的に同時の方法で、これらの治療薬または治療薬の少なくとも2つの投与を包含することを意図する。実質的に同時の投与は、例えば固定比の各治療薬を有する単一錠剤もしくはカプセル剤、または治療薬それぞれの複数の単一カプセル剤を対象に投与することによって実施することができる。各治療薬の連続または実質的に同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織を介した直接吸収を含む、任意の適切な経路によって行うことができるが、これらに限定されない。治療薬は、同じ経路によって、または異なる経路によって投与することができる。例えば、選択された組み合わせの第1の治療薬を静脈内注射によって投与してもよい一方で、その組み合わせの他の治療薬を経口投与してもよい。あるいは、例えばすべての治療薬を経口投与してもよく、またはすべての治療薬を静脈内注射によって投与してもよい。
【0051】
併用療法は、他の生物活性成分と非薬物治療を更に組み合わせた、上述のような治療薬の投与も包含することができる。併用療法が非薬物治療を更に含む場合、治療薬及び非薬物治療の組み合わせの相互作用からの有益効果が達成される限り、非薬物治療を任意の好適なときに実施してよい。例えば適切な場合には、治療薬の投与によって、おそらく数日または数週間、一時的に非薬物治療を除いた場合にも、有益効果は達成される。
【0052】
いくつかの実施形態で、本明細書に記載の組み合わせの成分のうちの1つ以上を、これに限定されないが皮下及び静脈内を含む非経口で、患者に投与してもよい。いくつかの実施形態で、本明細書に記載の組み合わせの成分の1つ以上を更に、低速制御静脈内注入によって、またはインプラントデバイスからの放出によって投与してもよい。いくつかの実施形態で、患者は、rapastinelの1回(単回)用量投与の1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間または8日後に、例えば認知障害の実質的な改善を示す。
【0053】
治療で使用するのに必要な開示化合物の治療有効量は、治療を受ける状態の性質、所望の治療時間の長さ、患者の年齢及び状態によって変化し、最終的には主治医によって決定される。しかし一般には、成人の治療で使用される用量は通常、本明細書に記載の組み合わせの各成分1日当たり約0.01mg/kg~約1000mg/kgの範囲(例えば、1日当たり約0.01mg/kg~約100mg/kg、1日当たり約0.01mg/kg~約10mg/kg、1日当たり約0.1mg/kg~約100mg/kg、1日当たり約0.1mg/kg~約50mg/kg、1日当たり約0.1mg/kg~約10mg/kg)である。特定の実施形態で、成人の治療で使用されるrapastinelの用量は通常、1日当たり約0.01mg/kg~約100mg/kgの範囲(例えば、1日当たり約0.01mg/kg~約10mg/kg、1日当たり約0.1mg/kg~約100mg/kg、1日当たり約0.1mg/kg~約50mg/kg、1日当たり約0.1mg/kg~約10mg/kg、1日当たり約1mg/kg)である。所望の用量を、単回用量で、または例えば1日当たり2回、3回、4回、もしくはそれ以上の分割用量として適切な間隔で投与される複数回用量として、好都合に投与してもよい。
【0054】
多くの因子によって、本明細書に記載の組み合わせの各成分は、広範な投薬量にわたって投与されることとなり得る。他の治療薬と組み合わせて投与する場合、本発明の化合物の投薬量を、比較的少ない投薬量で投与してもよい。特定の実施形態で、rapastinelの投薬量は、約1ng/kg~約100mg/kgでもよい。rapastinelの投薬量は、約1ug/kg、25ug/kg、50ug/kg、75ug/kg、100ug/kg、125ug/kg、150ug/kg、175ug/kg、200ug/kg、225ug/kg、250ug/kg、275ug/kg、300ug/kg、325ug/kg、350ug/kg、375ug/kg、400ug/kg、425ug/kg、450ug/kg、475ug/kg、500ug/kg、525ug/kg、550ug/kg、575ug/kg、600ug/kg、625ug/kg、650ug/kg、675ug/kg、700ug/kg、725ug/kg、750ug/kg、775ug/kg、800ug/kg、825ug/kg、850ug/kg、875ug/kg、900ug/kg、925ug/kg、950ug/kg、975ug/kg、1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、または100mg/kgを含む任意の投薬量でもよいが、これらに限定されない。
【0055】
いくつかの実施形態で、開示化合物、例えばrapastinelを、認知障害を回復させるまたは予防する量で投与してもよい。
【0056】
開示化合物は、液体または固体製剤の一部として提供されてもよく、例えば水性または油性懸濁液、液剤、乳濁剤、シロップ剤及び/またはエリキシル剤として提供されてもよい。組成物は、使用前に、水または他の好適な溶媒と組成のため乾燥製品として製剤化されてもよい。このような液状製剤は、懸濁化剤、乳化剤、非水性溶媒及び防腐剤を含む添加剤を含んでよいが、これらに限定されない。懸濁化剤は、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/シュガーシロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、及び水添食用脂を含むが、これらに限定されない。乳化剤は、レチシン、モノオレイン酸ソルビタン及びアカシアを含むが、これらに限定されない。非水性溶媒は、食用油、アーモンド油、分留ココナッツ油、油性エステル、プロピレングリコール及びエチルアルコールを含むが、これらに限定されない。防腐剤は、ヒドロキシ安息香酸メチルまたはヒドロキシ安息香酸プロピル、及びソルビン酸を含むが、これらに限定されない。想到される化合物は更に、これらに限定されないが注射または連続注入によってを含む、非経口投与用に製剤化されてよい。注射のための製剤化は、懸濁液、溶液、または油性溶媒もしくは水性溶媒中のエマルジョンの形態でもよく、ならびに懸濁化剤、安定化剤及び分散剤を含む配合剤を含んでもよいが、これらに限定されない。組成物は更に、これに限定されないが、発熱物質非含有の滅菌水(例えば、注射用水)を含む、好適な溶媒で再組成するための粉末形態で提供されてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態で、開示化合物、例えばrapastinelを、静脈内注射に適した水性組成物の一部として提供してもよい。特定の実施形態で、このような組成物は、(i)式:
を有する薬学的活性化合物またはその薬学的に許容される塩の60mg/mL~約200mg/mL(例えば、約125mg/mL~約175mg/mL、例えば、約150mg/mLまたは約75mg/mL)、(ii)水(例えば、注射用水);及び(iii)酸を含むことができ、安定な水性組成物は、25℃で約3.9~約5.5(例えば、約4.0~約5.0、約4.2~約5.0、約4.1~約4.7、約4.2~約4.8、約4.0、約4.5)のpHを有する。特定の実施形態で、このような組成物を、化合物の量を少なくとも1回の単回用量として抽出可能である容器(例えば、プレフィルドシリンジまたはバイアル)内に配分することができる。特定の実施形態で、単回用量は、約1mL~約4mL(例えば、3mL)の体積を有することができる。
【0058】
特定の実施形態で、水性組成物は、薬学的活性化合物の約200mg~約500mg(例えば、約450mg;約375;または約225mg)を含むことができる。
【0059】
特定の実施形態で、酸は、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、塩酸、臭化水素酸、酢酸、クエン酸、リン酸、硝酸、硫酸、及びアスコルビン酸からなる群から選択することができる。特定の実施形態で、酸は、水性組成物中で塩化物イオンをもたらす(例えば、塩酸)。
【実施例0060】
実施例1~3の材料及び方法
雄のC57BL/6Jマウス(月齢2-1/2-3、Jackson(MA、USA))(N=40、45及び48)の3つのコホートを、それぞれ実施例1、2、3で使用した。21±2℃及び相対湿度50±15%、14:10時間の明暗期間(点灯:午前5時00分)で保持した制御された環境下で、マウスはグループ収容された(5匹/ケージ)。すべての実験は、明周期中に行われた。食物及び水は、自由に摂取させた。マウスは到着1週間でコロニーに慣れ、その間、取り扱われなかった。すべての実験は、Northwestern University(Chicago)動物実験委員会に従って行われた。
【0061】
rapastinelは、SAI Life Sciences(India)から入手した。PCPは、National Institute of Drug Abuseから供与していただいた。ケタミンは、Sigma Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。ルラシドンは、Sumitomo Dainippon Pharma Co.,Ltd.(Osaka,Japan)から提供された。rapastinel、PCP及びケタミンを、0.9%の無菌の生理食塩水(sal)中に溶解させた。PCP及びケタミンは、10mL/体重kgの量で腹膜内(ip)に投与された。rapastinelは、静脈内に(iv)投与された。若い成熟ラット及び老齢ラットの両方の学習で、ならびにウサギの瞬目反射条件づけ課題で最適な増強を生じたので、rapastinelの投与量(1.0mg/kg)が選択された。ケタミン(30mg/kg)及びPCP(10mg/kg)の投与量は、先行実験に基づいて選択され、そこで、これらの用量がマウス及びラットの重大な認知障害を誘発することを示した。亜慢性PCP処理したマウスのNORを回復させるためのルラシドンの有効量を決定した、C57BL/6Jマウスの従来のNOR実験に基づいて、ルラシドン(0.1mg/kg)の投与量は選択された。
【0062】
急性薬物処理のために、rapastinel(1.0mg/kg、静脈内)、ルラシドン(0.1mg/kg、腹腔内)またはケタミン(30mg/kg、腹腔内)は、亜慢性ケタミンまたは亜慢性PCP処理した動物にNOR課題(後述する)の獲得試行の30分前に投与された。亜慢性薬物処理のために、7~10匹のマウス/コホートは、sal、PCPまたはケタミンに無作為に割り当てられた。1日2回7日間、sal処理したマウスは0.9%のNaClを受け、薬物処理群は、PCP(10mg/kg、腹腔内)またはケタミン(30mg/kg、腹腔内)のいずれかを受けた。この後に7日間の休薬期間が続き、その間、マウスは習慣性の開始までホームケージで障害のない状態にした(下記を参照)。
【0063】
マウスのNOR試験を、黒い反射面がNORボックスの内側表面に使用されるとき、動物はあまり探索しないことを示す予備実験に基づいて、Hashimotoらからやや修正した(Hashimoto K.;Fujita Y.;Shimizu E.;Iyo M.European Journal of Pharmacology2005,519:114-7)(すなわちボックスのサイズ、黒い反射面の代わりに箱の壁に白地を使用法及び試行の期間)。大きな物体を使用するとき、類似の観察を行った。したがって、箱の白壁及び探索のための小さな物体を使用した。マウスで使用するNORボックスの寸法は、ラットと同等である。試行の持続期間が3または5のとき、C57BL/6Jマウスはそれほど探索しなかったことが観察された。したがって、動物は両方の試行で10分間探索させると、探索時間の有意な増加が認められ、より長い試行の持続期間が使用された。NOR装置は、白壁及び固体床を備える、Plexiglas製の開放箱からなった(L52cm、W52cm、H31cm)。頭上の灯りが空間手掛かりを提供することができないように、ボックスを、テーブルの中央、床から約30cm上に配置した。亜慢性薬物処理またはsalの7日間の休薬後の1日目、獲得試行前の3日間それぞれに、マウスは、グループとして1時間、空のNOR活動領域に慣らされた。獲得試行の間、マウスに、10分間の2つの同一の物体(例えばA1及びA2)を探索させた。続いて24時間の試行間の間隔があり、その後、マウスはホームケージに戻された。保持試行の間、マウスに、獲得試行から熟知した物体(A)及び新規の物体(例えばB)を探索させた。保持試行の新規の物体の位置は、疑似乱数表を使用して試験したマウスごとに無作為に割り当てられた。疑似乱数列は、物体及び位置嗜好の作用を減らすためのGellerman(1933)によって提案された基準に従った。また偏りまたは嗅覚跡を回避するために、物体は三つ組で使用され、すなわち、獲得試行で使用した同じ物体は、保持試行では示されなかった。物体探索を盲検スコアリングするため、行動はビデオに記録された。物体探索は、動物のなめる動作、嗅ぐ動作、または嗅ぎながら前足で物体を触る動作として定義された。各試行での各物体の探索時間(秒)は、2つのストップウォッチを用いて手動で記録され、マウスが獲得及び保持試行の両方で1(秒)を超えて探索しなかった場合、それは分析から除外された。それから識別指数(DI)[(新規物体の探索の所要時間-熟知した物体の探索の所要時間)/合計探索時間]を保持試行で計算した。
【0064】
すべてのデータを、平均値±S.E.Mとして表す(1グループ当たりn=7~10)。探索データを、反復測定分散分析(ANOVA)で分析し、ANOVAによって有意な作用が検出された場合、続いて対比較で分析した。DIデータを一元ANOVAで分析し、ANOVAによって有意な作用が検出された場合、続いてBonferroni検定した。
【0065】
実施例1-rapastinelは、雄C57BL/6Jマウスの急性ケタミン誘発性NOR障害を防止した
物体探索の有意な効果は、グループのいずれの獲得試行中でも見いだせなかった(F3,31=0.90、P=0.96、データは示さず)。保持試行で、薬物処理と物体探索時間の間に有意な相互作用があった(F3,31=24.76、***P<0.001、データは示さず)。更に事後分析で、sal及びsal+rapastinel(1.0mg/kg)を与えた野生型マウスは、熟知した物体と比べて新規の物体にはっきりした好みを示し、すなわち新規の物体対熟知した物体を探索するのに著しく長い時間を費やしたことが明らかとなった(P<0.001)。この効果は、急性ケタミン(30mg/kg)で処理したマウスでは消失した-すなわち、これらのマウスは両方の物体を探索するのに同程度の時間を費やした。更に、急性ケタミン(30mg/kg)の前にrapastinel(1.0mg/kg)を与えたマウスは、熟知した物体と比較して新規の物体にはっきりした好みを示した(P<0.01)。
【0066】
有意な効果は、合計探索時間(獲得試行+保持試行)のグループ間で観察されなかった。すべての処理群のマウスは、獲得及び保持試行でほぼ等しい探索時間を費やした(sal+sal=72.5±5.7;rap+sal=76.876.8±3.8;ket+sal=82.4±11.0;rap+ket=79.2±8.3)。
【0067】
DIで、グループ間で有意な相互作用があった(F3,31=28.23、***P<0.001、図1)。急性ケタミン+sal処理したマウスのDIは、sal+sal、sal+rapastinel、及びrapastinel(1.0mg/kg)+ケタミン(30mg/kg)処理したマウスと比較して、著しく低下した(***P<0.001、###P<0.001、$$$P<0.001、図1)。したがって、1.0mg/kgのrapastinelは、DIの急性ケタミン誘発性減少を著しく防いだ。
【0068】
実施例2 rapastinelは、C57BL/6Jマウスの亜慢性PCP及び亜慢性ケタミン誘発性NOR障害を回復させた
物体探索の有意な効果は、グループのいずれの獲得試行中でも見いだせなかった(F4,47=0.76、P=0.23、データは示さず)。保持試行で、薬物処理と物体探索時間の間に有意な相互作用があった(F4,47=10.45、***P<0.001、データは示さず)。更に事後分析で、salを与えた野生型マウスは、熟知した物体と比べて新規の物体にはっきりした好みを示した(P<0.001)。この効果は、亜慢性ケタミンで処理したマウス、または亜慢性PCP処理した動物で消失した。急性rapastinel(1.0mg/kg)処理した動物は、熟知した物体と比較して新規の物体を著しく長く探索し、それによって亜慢性PCPまたは亜慢性ケタミンによって誘発される障害を回復させる(P<0.001、データは示さず)。DIにおいて、グループ間に有意な相互作用があった(F4,47=9.30、***P<0.001、図2)。亜慢性PCP及び亜慢性ケタミン処理したマウスのDIは、sal+sal処理した対照マウスと比較して著しく低下した(*P<0.05及び**P<0.01、図2)。1.0mg/kgのrapastinelを与えた、亜慢性PCP及び亜慢性ケタミン処理した動物のDIは著しく増加し、それによって亜慢性PCP及び亜慢性ケタミンの両方の処理によって生じるNOR障害の回復を著しく示す(###P<0.001、図2)。
【0069】
合計探索時間:有意な効果は、合計探索時間(獲得試行+保持試行)のグループ間で観察されなかった。すべての処理群のマウスは、獲得及び保持試行でほぼ等しい探索時間を費やした(sal+sal=74.5±5.7、亜慢性PCP=74.8±5.5、亜慢性ケタミン=80.3±7.2、亜慢性PCP+rapastinel=73.8±3.8、亜慢性ケタミン+rapastinel=86.2±8.3)。
【0070】
これらの結果から、マウスのNORを損なわない際、NMDAR非競争的アンタゴニスト(例えばPCP、ケタミン及びジゾシルピン(MK-801)の作用と、rapastinelが異なると考えられる。
【0071】
実施例3 亜有効用量のrapastinel+亜有効用量のルラシドンは、亜慢性ケタミン誘発性NOR障害を回復させた
物体探索の有意な効果は、グループのいずれの獲得試行中でも見いだせなかった(F4,43=0.92、P=0.13、データは示さず)。保持試行で、薬物処理と物体探索時間の間に有意な相互作用があった(F4,43=12.45、***P<0.001、データは示さず)。更に事後分析で、salを与えた野生型マウスは、熟知した物体と比べて新規の物体にはっきりした好みを示した(P<0.001)。scケタミン処理したマウス、ならびにscケタミン+亜有効用量のrapastinel(0.3mg/kg)及びscケタミン+亜有効用量のルラシドン(0.1mg/kg)を与えた動物で、この効果は消失した。しかしscケタミンを、亜有効用量のルラシドン+亜有効用量のrapastinelに与えるとき、動物は熟知した物体と比較して新規の物体を著しく長く探索した(P<0.001、示されないデータ)。DIは、グループ間の有意な相互作用を示した(F4,43=10.04、***P<0.001、図3)。scケタミン+sal、scケタミン+rapastinel(0.3mg/kg)、及びscケタミン+ルラシドン(0.1mg/kg)処理したマウスは、生理食塩水対照と比較してDIの著しい低下を示した(***P<0.001)。亜有効用量のrapastinel及びルラシドンの組み合わせの効果は、単独で与えられたどちらの薬の有効量の効果とも有意差はなかった。
【0072】
亜有効用量のrapastinel(0.3mg/kg)+亜有効用量のルラシドン(0.1mg/kg)の組み合わせは、scケタミンにより生じたDIの減少を著しく回復させた(###P<0.001、図3)。rapastinelは、(sc)ケタミン処理したマウスのNORを回復させるために、非定型的抗精神病薬/抗うつ薬、ルラシドンを増強した。
【0073】
合計探索時間:有意な効果は、合計探索時間(獲得試行+保持試行)のグループ間で観察されなかった。すべての処理群のマウスは、獲得及び保持試行でほぼ等しい探索時間を費やした(sal+sal=77.5±6.7、亜慢性ケタミン=86.3±5.2、亜慢性ケタミン+亜有効用量のrapastinel=73.2±4.7、亜慢性ケタミン+亜有効用量のルラシドン=71.5±6.2、亜慢性ケタミン+亜有効用量のrapastinel+亜有効用量のルラシドン=78.5±5)。
【0074】
実施例1~3の実験から、rapastinel(NMDARグリシン部位機能性部分アゴニスト)が、(i)NOR障害を誘発しなかった、(ii)急性ケタミン誘発性NOR障害を著しく防止し、ならびにNMDARアゴニスト、ケタミン及びPCPの亜慢性投与によって生じるNOR障害を回復させた、ならびに(iii)亜有効用量で投与されるとき、抗精神病/抗うつの亜有効用量のルラシドンとの組み合わせは、scケタミン処理したマウスのNORを回復させたことが強く示唆される。統合失調症の認知障害のscNMDARモデルの寛解性があるルラシドンのなど薬が、一部の統合失調症患者の認知障害を改善するのにも効果的であるので、rapastinelは、統合失調症または気分障害患者のいくつかの直接的な認知効果も有し得る。
【0075】
実施例4-(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド(化合物A)の合成
以下の反応順序は、(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミドを合成するために用いた(スキームA)。
【0076】
スキームA.化合物Aの合成
(S)-tert-ブチル1-((S)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボキシレート(2)の合成:
【0077】
(S)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-プロパン酸(1.5g,5.33mmol)をCH2Cl2(15mL)中に溶解させた。N-メチルモルホリン(NMM)(0.64mL、5.87mmol)及びクロロギ酸イソブチル(IBCF)(0.72mL、6.12mmol)を-15℃で加えて、不活性雰囲気下で30分間撹拌した。DMF(5mL)中の(S)-tert-ブチルピロリジン-2-カルボキシレート(1)(998mg、5.87mmol)とNMM(0.64mL、5.87mmol)の混合物を、反応混合物に滴下し、室温して更に3時間撹拌を続けた。反応混合物を、DCM(200mL)で希釈し、水(50mL)、クエン酸溶液(10mL)及び食塩水(10mL)で洗浄した。分離した有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗残留物を30%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物2(1.6g、69.5%)を得た。
【0078】
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ7.81-7.76(d,J=20.5Hz,1H),7.35-7.30(m,5H),5.03-4.97(m,2H),4.61-4.55(m,1H),4.32-4.16(m,2H),4.08-3.87(m,2H),3.65-3.59(m,1H),2.21-2.11(m,2H),1.98(s,3H),1.91-1.75(m,2H),1.37(s,9H);質量m/z:435.0[M++1].
【0079】
(S)-1-((S)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボン酸(3)の合成:
【0080】
CH2Cl2(5mL)中の化合物2(1g、2.30mmol)の溶液に、20%のTFA-DCM(10mL)を加え、室温にて2時間撹拌した。反応混合物を水(10mL)で希釈し、EtOAc(2×15mL)で抽出した。有機層を無水Na2SO4上で乾燥し、減圧下で濃縮して、化合物3(800mg、92%)を得た。
【0081】
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ12.58(br s,1H),7.81-7.77(d,J=8.0Hz,1H),7.35-7.27(m,5H),5.04-4.96(m,2H),4.66-4.60(m,1H),4.32-4.24(m,2H),4.04-3.86(m,1H),3.66-3.59(t,J=12.6Hz,2H),2.17-2.07(m,3H),1.98-1.80(m,4H);質量m/z:379.0[M++1].
【0082】
(2S,3R)-メチル2-((S)-1-((S)-1-((R)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキシアミド)-3-ヒドロキシブタノエート(5)の合成:
【0083】
化合物3(1.0g、2.64mmol)をCH2Cl2(10mL)中に溶解させ、NMM(0.32g、3.17mmol)及びIBCF(0.41g、3.04mmol)を-15℃にて反応混合物に加えて、不活性雰囲気下で30分間撹拌した。DMF(3mL)中の(2S,3R)-メチル3-ヒドロキシ-2-((S)-ピロリジン-2-カルボキサミド)-ブタノエート(4)(0.73g、3.17mmol)及びNMM(0.35mL)の混合物を、-15℃の反応混合物に滴下し、室温で更に3時間撹拌を続けた。反応混合物を、DCM(200mL)で希釈し、水(20mL)、クエン酸溶液(2×20mL)及び食塩水(2×50mL)で洗浄した。分離した有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗残留物を5%のCH3OH/EtOAcで溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物(5)(0.29g、19%)を得た。
【0084】
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.83-7.81(m,1H),7.72-7.70(m,1H),7.36-7.35(m,5H),5.07-5.01(m,2H),4.99-4.93(m,1H),4.58(s,1H),4.50-4.48(m,1H),4.26-4.22(m,2H),4.07-4.00(m,2H),3.89-3.86(m,1H),3.61-3.55(m,5H),3.53(s,1H),3.39(s,1H),2.12(s,1H),1.98(s,3H),1.94-1.83(m,4H),1.81-1.80(m,3H),1.05(d,J=6.5Hz,3H).質量m/z:591.0[M++1].
【0085】
ベンジル-(R)-1-((S)-2-((S)-2-((2S,3R)-1-(アミノオキシ)-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イルカルバモイル)-ピロリジン-1-カルボニル)-ピロリジン-1-イル)-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバメート(6):の合成
【0086】
メタノール性アンモニア(3mL)溶液を、化合物5(0.28g、0.47mmol)に加え、18時間、室温にて撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させ、化合物6(0.21g、82.3%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.38-7.31(m,5H),7.26(s,1H),7.10-7.03(m,2H),6.65(br s,1H),5.04-5.01(m,2H),4.98-4.84(m,1H),4.76-4.75(m,1H),4.61(s,1H),4.38-4.31(m,2H),4.02-4.00(m,2H),3.77-3.74(m,1H),3.67-3.56(m,3H),3.44-3.37(m,2H),2.14-1.86(m,8H),1.01-1.00(m,3H).
質量m/z:550[M++1].
【0087】
(S)-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド(化合物A)の合成:メタノール(5mL)中の化合物6(0.21g、0.39mmol)の溶液に、10%のPd/C(30mg)を加え、反応混合物を2時間、水素雰囲気下で撹拌した。反応混合物はセライト上で濾過され、溶媒を減圧下で蒸発させ、得られた粗残留物をジエチルエーテルによって粉砕して、A(130mg、83.3%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6)(回転異性体):δ7.39(d,J=8.0Hz,1H),7.08-7.03(m,2H),6.65(br s,1H),4.89-4.85(m,1H),1.61-1.59(m,1H),4.39-4.38(m,1H),4.02-4.00(m,2H),3.68-3.52(m,4H),3.43-3.36(m,2H),3.22-3.10(m,2H),2.19-2.13(m,1H),2.07-1.98(m,1H),1.93-1.81(m,5H),1.75(s,2H),1.01-1.00(m,3H).
LCMS m/z:400.2[M++1].
HPLC純度:99.27%。
【0088】
(S)-1-(ベンジルオキシカルボニル)ピロリジン-2-カルボン酸(8)の合成:THF:H2O(20mL、1:1)中の(S)-ピロリジン-2-カルボン酸(7)(2.0g、17.39mmol)の撹拌溶液に、Na2CO3(2.76g、26.08mmol)及びCbz-Cl(3.54g、20.80mmol)を加え、室温にて18時間撹拌した。反応混合物をEtOAc(10mL)で洗浄し、水層を3N HClで酸性化して、EtOAc(2×20mL)で抽出した。混合有機層を、食塩水で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させて、減圧下で濃縮し、化合物8(3.0g、69.7%)を得た。
【0089】
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ12.62(br s,1H),7.36-7.22(m,5H),5.12-5.00(m,2H),4.24-4.15(dd,J=5.0,36.0Hz,1H),3.46-3.31(m,2H),2.25-2.15(m,1H),1.94-1.79(m,3H).
質量m/z:250.0[M++1].
【0090】
(S)-ベンジル2-((2S,3R)-3-ヒドロキシ-1-メトキシ-1-オキソブタン-2-イルカルバモイル)ピロリジン-1-カルボキシレート(9)の合成:
化合物8(5.0g、20.08mmol)をCH2Cl2(50mL)中に溶解させて、NMM(2.43mL、22.08mmol)及びIBCF(2.74mL、23.09mmol)を加え、不活性雰囲気下にて-15℃で30分間撹拌した。DMF(15mL)中の(2S,3R)-メチル2-アミノ-3-ヒドロキシブタノエート(2.93g、22.08mmol)及びNMM(2.43mL、22.08mmol)の混合物を、-15℃で滴下した。得られた反応混合物を、室温で3時間撹拌した。それはDCM(200mL)で希釈され、有機層は水(50mL)、食塩水(50mL)で洗浄され、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物は、30%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製されて、化合物9(3.1g、42%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6)(回転異性体):δ7.98-7.94(m,1H),7.35-7.27(m,5H),5.09-4.94(m,3H),4.44(dd,J=5.5,8.5Hz,1H),4.29-4.27(m,1H),4.12(s,1H),3.62(s,3H),3.44-3.30(m,2H),2.20-2.08(m,1H),1.87-1.78(m,3H),1.08-0.94(2d,3H).
質量m/z:365.0[M++1].
【0091】
実施例5-(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド(化合物B)の合成:
以下の反応順序は、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミドを合成するために用いた(スキームB):
【0092】
スキームB.化合物Bの合成
(S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-ピロリジン-2-カルボン酸(2)の合成:
【0093】
THF:H2O(60mL、1:1)中の(S)-ピロリジン-2-カルボン酸(1)(3.0g、26.08mmol)の氷冷撹拌溶液に、Na2CO3(5.52g、52.16mmol)、Boc2O(6.25g、26.69mmol)を加え、室温にて16時間撹拌した。反応混合物を水で希釈し、EtOAc(50mL)で洗浄した。水層を、2N HClで酸性化して、EtOAc(2×100mL)で抽出した。混合有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮し、(S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-ピロリジン-2-カルボン酸(2)(4.8g、86%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ12.49(br s,1H),4.08-4.03(m,1H),3.36-3.24(m,2H),2.22-2.11(m,1H),1.87-1.76(m,3H),1.39(s,9H).
質量m/z:216.0[M++1].
【0094】
(S)-tert-ブチル2-((S)-3-ヒドロキシ-1-メトキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)-ピロリジン-1-カルボキシレート(3)の合成:
【0095】
化合物2(2.0g、9.00mmol)をCH2Cl2(10mL)中に溶解させ、-15℃まで冷却し、NMM(1.12mL、10.2mmol)及びIBCF(1.26mL、1.15mmol)を加えて、0℃で20分間撹拌した。DMF(3mL)中の(S)-メチル2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノエート(1.59g、10.2mmol)とNMM(1.12mL)の混合物を、-15℃で滴下して、得られた反応混合物を室温にて1時間撹拌した。それを、DCM(200mL)、水(50mL)で希釈し、2N HCl(20mL)及び食塩水(2×50mL)で洗浄した。分離した有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗残留物を20%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物3(2.3g)をシロップとして得た。
質量m/z:317.0[M++1].
【0096】
(S)-メチル3-ヒドロキシ-2-((S)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)プロピオネート(4)の合成:
(S)-Tert-ブチル-2-((S)-3-ヒドロキシ-1-メトキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)-ピロリジン-1-カルボキシレート(3)(500mg、1.58mmol)を、1,4-ジオキサン(3mL)中に溶解させ、ジオキサン(3.16mL、3.16mmol)中のHCl溶液を加えて、室温にて4時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させ、化合物4(280mg)を固体として得た。
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ9.99(br s,1H),9.12-9.08(m,1H),8.53(br s,1H),5.48(br s,2H),4.43-4.22(m,2H),3.82-3.67(m,4H),3.56(s,3H),2.36-2.27(m,1H),1.93-1.86(m,3H).
質量m/z:217.0[M++1].
【0097】
(S)-メチル2-((S)-1-((S)-1-((2R,3S)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-ブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)-3-ヒドロキシプロパノエート(6)の合成:
【0098】
(2S)-1-((2R)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-ブタノイル)-ピロリジン-2-カルボン酸(5)(1.3g、2.62mmol)をCH2Cl2(15mL)中に溶解させ、NMM(0.43mL)及びIBCF(0.51mL)を-10℃で加えて、不活性雰囲気下で30分間撹拌した。DMF(5mL)中の(S)-メチル-3-ヒドロキシ-2-((S)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)-プロピオネート(4)(992mg、3.93mmol)とNMM(0.43mL)の混合物を、反応混合物に滴下して、室温にて更に3時間撹拌を続けた。反応混合物を、DCM(200mL)で希釈し、水(20mL)、クエン酸溶液(2×20mL)及び食塩水(2×50mL)で洗浄した。分離した有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗製物質を5%のCH3OH/CH2Cl2で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物6(270mg、17.5%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ8.13(d,J=8.0Hz,1H),7.74(d,J=7.5Hz,1H),7.38-7.31(m,5H),5.08-4.96(m,3H),4.85-4.82(m,1H),4.56(d,J=8.0Hz,1H),4.44-4.42(m,2H),4.27(d,J=7.0Hz,1H),4.10(d,J=10.5Hz,2H),3.81-3.78(m,1H),3.72-3.70(m,1H),3.61-3.59(m,3H),3.54-3.50(m,2H),2.16-2.14(m,1H),2.05-2.01(m,1H),1.90(s,3H),1.87-1.86(m,3H),1.85-1.84(m,3H),1.21-1.20(d,J=6.0Hz,3H).
質量m/z:591.0[M++1].
【0099】
ベンジル-(2R,3S)-1-((S)-2-((S)-2-((S)-1-(アミノオキシ)-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)ピロリジン-1-カルボニル)ピロリジン-1-イル)-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イルカルバメート(7)の合成:
【0100】
CH3OH(2mL)中の化合物6(250g、0.42mmol)の溶液を、MeOH-NH3(10mL)に加え、室温にて16時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させ、化合物7(190mg、84%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.60(d,J=7.5Hz,1H),7.35-7.30(m,5H),7.18(d,J=7.0Hz,1H),7.11-7.06(m,2H),5.05-4.97(m,2H),4.82-4.81(m,1H),4.60-4.59(m,2H),4.33-4.31(m,1H),4.15-4.08(m,2H),3.81-3.79(m,1H),3.72-3.64(m,2H),3.59-3.53(m,4H),2.14(s,1H),2.03(d,J=9.0Hz,1H),1.95-1.85(m,5H),1.75(s,1H),1.10(d,J=6.5Hz,3H).
質量m/z:550.0[M++1].
【0101】
(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド(B)の合成:
【0102】
メタノール(5mL)中の化合物7(190mg、0.35mmol)の溶液に、10%のPd/C(50mg)を加え、反応混合物を2時間、水素雰囲気下で撹拌した。反応混合物をセライトパッドに通して濾過し、溶媒を減圧下で蒸発させ、粗生成物を、溶出剤としてCH2Cl2中の0~5%のCH3OHを使用する、塩基性アルミナのカラムクロマトグラフィーによって精製し、化合物B(130mg、73%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.65-7.60(m,1H),7.12-7.03(m,2H),4.81(br s,1H),4.58-4.57(m,1H),4.49(m,1H),4.38-4.19(m,1H),4.10-4.06(m,1H),3.69-3.62(m,2H),3.59-3.56(m,4H),3.49-3.45(m,2H),3.37-3.26(m,2H),2.19-2.15(m,1H),2.09-1.99(m,1H),1.95-1.84(m,5H),1.75(s,1H),1.06(d,J=13.0Hz,3H).
LCMS m/z:400.8[M++1].
HPLC純度:97.71%。
【0103】
実施例6-(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド(化合物C)の合成:
以下の反応順序は、(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミドを合成するために用いた(スキームC)。
【0104】
スキームC.化合物Cの合成
(S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-ピロリジン-2-カルボン酸(2)の合成:
【0105】
0℃のTHF:H2O(60mL、1:1)中の(S)-ピロリジン-2-カルボン酸(3.0g、26.08mmol)の撹拌溶液に、Na2CO3(5.52g、52.16mmol)及びBoc2O(6.25g、26.69mmol)を加え、室温にて16時間撹拌した。反応混合物を水で希釈し、EtOAc(50mL)で洗浄した。水層を、2N HClで酸性化して、EtOAc(2×50mL)で抽出した。混合有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮し、(S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-ピロリジン-2-カルボン酸2(4.8g、85.7%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ12.49(br s,1H),4.08-4.03(m,1H),3.36-3.24(m,2H),2.22-2.11(m,1H),1.87-1.76(m,3H),1.39(s,9H).
質量m/z:216.0[M++1].
【0106】
(S)-tert-ブチル2-((S)-3-ヒドロキシ-1-メトキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)ピロリジン-1-カルボキシレート(3)の合成:
【0107】
化合物2(2.0g、9.00mmol)をCH2Cl2(10mL)中に溶解させ、-15℃まで冷却し、NMM(1.12mL、10.2mmol)及びIBCF(1.26mL、1.15mmol)を加えて、0℃で20分間撹拌した。DMF(3mL)中の(S)-メチル-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパノエート(1.59g、10.2mmol)とNMM(1.12mL)の混合物を、-15℃で滴下添加した。得られた反応混合物を、室温で1時間撹拌した。反応混合物を、DCM(200mL)及び水(25mL)で希釈し、2N HCl(20mL)及び食塩水(10mL)で洗浄した。分離した有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗製物質は、20%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製されて、化合物3(2.3g)を固体として得た。
質量m/z:317.0[M++1].
【0108】
(S)-メチル3-ヒドロキシ-2-((S)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)プロパノエート(4)の合成:
【0109】
1,4-ジオキサン(3mL)中の(S)-tert-1-2((S)-3-ヒドロキシ-1-メトキシ-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)ピロリジン-1-カルボキシレート3(500mg、1.58mmol)の溶液に、ジオキサン(3.16mL、3.16mmol)中のHCl溶液を加えて、室温にて4時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させ、化合物4(280mg)を固体として得た。
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ9.99(br s,1H),9.12-9.08(m,1H),8.53(br s,1H),5.48(br s,2H),4.43-4.22(m,2H),3.82-3.67(m,4H),3.56(s,3H),2.36-2.27(m,1H),1.93-1.86(m,3H).
質量m/z:217.0[M++1].
【0110】
(S)-メチル2-((S)-1-((S)-1-((S)-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-3-ヒドロキシプロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)-3-ヒドロキシプロパノエート(6)の合成:
【0111】
(S)-1-((S)-3-アセトキシ-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボン酸(5)(400mg、1.05mmol)をCH2Cl2(2mL)中に溶解させ、NMM(0.13mL)及びIBCF(0.14mL)を-15℃で加えて、不活性雰囲気下で30分間撹拌した。DMF(2mL)中の(S)-メチル-3-ヒドロキシ-2-((S)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)-プロパノエート(4)(293mg、1.16mmol)とNMM(0.13mL)の混合物を、反応混合物に滴下添加して、室温にて更に3時間撹拌を続けた。反応混合物を、DCM(200mL)で希釈し、水(20mL)及び食塩水(10mL)で洗浄した。分離した有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗製物質を5%のCH3OH/CH2Cl2で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物6(80mg、13%)を得た。
【0112】
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ8.09(d,J=7.5Hz,1H),7.71(d,J=8.0Hz,1H),7.36-7.31(m,6H),5.07-4.99(m,3H),4.59-4.58(m,2H),4.41-4.40(m,1H),4.29-4.24(m,3H),3.86(t,J=9.5Hz,1H),3.72-3.68(m,1H),3.64-3.57(m,3H),3.40-3.38(m,3H),2.14-2.01(m,2H),1.98(s,3H),1.90-1.80(m,6H).
質量m/z:535.0[M++1].
【0113】
ベンジル-(S)-1-((S)-2-((S)-2-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)ピロリジン-1-カルボニル)ピロリジン-1-イル)-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバメート(7)の合成:
【0114】
MeOH中の(S)-メチル-2-((S)-1-((S)-1-((S)-2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-3-ヒドロキシプロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド)-3-ヒドロキシプロパノエート(6)(60mg、1.04mmol)の溶液に、MeOH-NH3(3mL)を加えて、室温にて16時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させ、化合物7(30mg、55%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.60(d,J=7.5Hz,1H),7.36-7.31(m,6H),7.11-7.06(m,2H),5.04-4.98(m,2H),4.82-4.74(m,2H),4.61-4.59(m,1H),4.36-4.30(m,2H),4.10-4.07(m,1H),3.67-3.65(m,2H),3.59-3.55(m,6H),3.44-3.40(m,2H),1.95-1.92(m,6H).
質量m/z:520.0[M++1].
【0115】
(S)-N-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イル)-1-((S)-1-((S)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキサミド(C)の合成:
ベンジル-(S)-1-((S)-2-((S)-2-((S)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバモイル)ピロリジン-1-カルボニル)ピロリジン-1-イル)-3-ヒドロキシ-1-オキソプロパン-2-イルカルバメート7(300mg、0.57mmol)をメタノール(8mL)中に溶解させて、10%のPd/C(50mg)を加えて、反応混合物を水素雰囲気下で2時間撹拌した。反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮して、化合物C(150mg、68%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6)(回転異性体):δ7.62(d,J=8.0Hz,1H),7.24(br s,1H),7.14-7.07(m,2H),4.87-4.82(m,2H),4.59-4.57(m,1H),4.37-4.31(m,2H),4.11-4.07(m,2H),3.70-3.39(m,8H),2.17-2.01(m,2H),1.95-1.79(m,6H).
LCMS m/z:386.4[M++1].
HPLC純度:98.45%。
【0116】
実施例7-N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミド(化合物D及びE)の合成:
以下の反応順序は、N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミド(化合物D及びE)を合成するために用いた(スキームD)。
スキームD.化合物D及びEの合成.
1-ベンジル2-エチル2-ベンジルピロリジン-1,2-ジカルボキシレート(2)の合成:及び
【0117】
不活性雰囲気下にて、THF(150mL)中の(S)-1-ベンジル-2-エチル-ピロリジン-1,2-ジカルボキシレート(1)(10g、36.10mmol)の溶液に、-25℃にてLiHMDS(THF中の1M)(43.3mL、43.3mmol)を加えて、2時間撹拌した。臭化ベンジル(5.17mL、43.26mmol)を、反応混合物に-25℃で滴下添加した。それを室温まで暖め、2時間撹拌した。反応混合物を5℃まで冷却し、飽和NH4Cl溶液でクエンチして、水層をEtOAc(2×200mL)で抽出した。混合有機抽出液を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。得られた粗残留物を5%のEtOAc/ヘキサンで溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物2(13g、75%)を液体として得た。
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ7.47-7.32(m,5H),7.27-7.16(m,3H),7.07-7.04(m,2H),5.29-5.06(m,2H),4.16-3.89(m,2H),3.57-3.33(m,2H),3.02-2.78(m,2H),2.13-1.89(m,2H),1.56-1.51(m,1H),1.21-1.04(m,3H),0.93-0.79(m,1H).
質量m/z:368.2[M++1].
【0118】
2-ベンジル-1-(ベンジルオキシカルボニル)-ピロリジン-2-カルボン酸(3)の合成:
CH3OH(20mL)中の化合物2(8.0g、21.79mmol)の撹拌溶液に、2NのKOH水溶液(20mL)を加え、100℃まで加熱して、16時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させた。得られた残留物を氷冷水(50mL)で希釈して、エーテル(50mL)で洗浄した。水性層は、HCl溶液を使用してpH約2まで酸性化し、EtOAc(2×100mL)で抽出した。混合有機層を、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮し、化合物3(6g、81%)をオフホワイトの固体として得た。
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ12.71(br s,1H),7.40-7.30(m,5H),7.25-7.19(m,3H),7.07-7.00(m,2H),5.27-5.02(m,2H),3.59-3.32(m,2H),3.02-2.83(m,2H),2.13-1.91(m,2H),1.58-1.49(m,1H),0.90-0.77(m,1H).
質量m/z:340.1[M++1].
【0119】
ベンジル-2-ベンジル-2-((2S,3R)-3-ヒドロキシ-1-メトキシ-1-オキソブタン-2-イルカルバモイル)-ピロリジン-1-カルボキシレート(4)の合成:
【0120】
DMF(20mL)中の化合物3(1.0g、2.94mmol)、L-スレオニンメチルエステル(471mg、3.53mmol)の懸濁液に、5℃にてHATU(1.12g、2.94mmol)及びDIPEA(1.58mL、8.84mmol)を加えた。反応混合物を室温で16時間撹拌した。それをEtOAc(150mL)で希釈し、水(2×30mL)で洗浄した。有機層を、食塩水で洗浄し、Na2SO4上で乾燥し、濃縮して、溶出剤として50%のEtOAc/ヘキサンを使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製され、化合物4(1.0g、74%)を得た。
1H-NMR:(200MHz,DMSO-d6):δ7.62-7.59(m,1H),7.44-7.31(m,5H),7.21-7.18(m,3H),7.06-6.99(m,2H),5.25-5.24(m,1H),5.12-4.94(m,2H),4.30(s,1H),4.15-4.08(m,1H),3.66-3.64(m,3H),3.63-3.49(m,2H),3.14(s,1H),2.89(s,1H),2.09-2.02(m,2H),1.56-1.51(m,1H),1.09-0.98(m,4H).
質量m/z:455.1[M++1],477.3[M+Na].
【0121】
ベンジル-2-((2S,3R)-3-アセトキシ-1-メトキシ-1-オキソブタン-2-イルカルバモイル)-2-ベンジルピロリジン-1-カルボキシレート(5)の合成:
【0122】
化合物4(3g、6.60mmol)をTHF(30mL)中に溶解させ、Et3N(1.11mL、7.92mmol)及びAc2O(742mg、7.26mmol)を室温にて加えた。反応混合物を室温で2時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させて、得られた残留物はCH2Cl2で希釈し、希釈HClで洗浄した。混合有機抽出液を、Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。粗残留物を、溶出剤として30%のEtOAc/ヘキサンを使用するカラムクロマトグラフィーによって精製され、化合物5(2.5g、76%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6)(回転異性体):δ8.15-7.71(m,1H),7.42-7.04(m,10H),5.30-5.19(m,2H),5.11-5.09(m,1H),4.99-4.93(m,1H),4.67-4.62(m,1H),3.66-3.64(m,3H),3.55-3.46(m,2H),3.38-3.35(m,1H),2.88-2.69(m,1H),2.17-2.00(m,2H),1.98-1.92(m,3H),1.56-1.46(m,1H),1.23-1.17(m,3H),1.02-0.86(m,1H).
LCMS m/z:497.4[M++1].
【0123】
(2S,3R)-メチル3-アセトキシ-2-(2-ベンジルピロリジン-2-カルボキシアミド)-ブタノエート(6)の合成:
【0124】
エタノール(50mL)中の化合物5(4g、8.06mmol)の撹拌溶液に、10%のPd/C(1.2g)を加え、反応混合物を4時間、H2雰囲気下(バルーン圧)で撹拌した。それをセライトパッドを通して濾過し、濾液を減圧下で濃縮して、化合物6(2.2g、75%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6)(回転異性体):δ8.22-8.17(m,1H),7.24-7.16(m,5H),5.17(t,J=11.5Hz,1H),4.48-4.42(m,1H),3.60-3.54(s,3H),3.20(t,J=13.5Hz,1H),3.06-2.97(m,1H),2.82-2.68(m,3H),2.08-2.02(m,1H),1.89(s,3H),1.72-1.51(m,3H),1.10(2d,3H).
LCMS m/z:363[M++1],385[M+Na].
【0125】
(S)-ベンジル2-(2-((2S,3R)-3-アセトキシ-1-メトキシ-1-オキソブタン-2-イルカルバモイル)-2-ベンジルピロリジン-1-カルボニル)ピロリジン-1-カルボキシレート(7)の合成:
【0126】
CH2Cl2:H2O(20mL、1:1)中の化合物6(1g、2.76mmol)とNa2CO3(732mg、6.90mmol)の撹拌溶液に、CH2Cl2(20mL)中の酸クロリド溶液[(S)-1-(ベンジルオキシカルボニル)ピロリジン-2-カルボン酸(825mg、3.31mmol)の溶液に、0℃でSOCl2(0.60mL)を滴下し、2時間還流させた。揮発物は減圧下で除去され、CH2Cl2中の(S)-ベンジル2-(クロロカルボニル)ピロリジン-1-カルボキシレートを得た]を加えて、反応混合物を室温にて2時間撹拌した。揮発物を減圧下で蒸発させた。残留物をCH2Cl2(100mL)で希釈し、濾過して、濾液を真空下で濃縮した。粗残留物を溶出剤として60%のEtOAc/ヘキサンを使用するカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物7(750mg、45%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6)(回転異性体):δ7.36-7.23(m,8H),7.15-7.12(m,3H),5.21-5.15(m,2H),5.04-4.92(m,1H),4.57-4.50(m,2H),3.88(d,J=14.5Hz,1H),3.65(s,3H),3.54-3.46(m,3H),3.21-3.13(m,1H),3.02-2.90(m,2H),2.19-2.02(m,4H),1.97(s,3H),1.89(s,1H),1.77-1.65(m,1H),1.17(s,2H),1.06(s,2H).
質量m/z:594.1[M++1].
【0127】
(2S,3R)-メチル3-アセトキシ-2-(2-ベンジル-1-((S)-ピロリジン-2-カルボニル)-ピロリジン-2-カルボキシアミド)ブタノエート(8)の合成:
【0128】
EtOAc(15mL)中の化合物7(200mg、0.336mmol)の溶液に、10%のPd/C(40mg)を不活性雰囲気下で加えて、H2雰囲気下(バルーン圧)で12時間撹拌した。反応混合物を、セライトパッドに通して濾過し、減圧下で濃縮した。得られた残留物をエーテル(10mL)で粉砕し、化合物8(125mg、81%)を固体として得た。
1H-NMR:(500MHz,CDCl3)(回転異性体):δ7.88-7.87(d,1H,J=8.5),7.30-7.26(m,2H),7.24-7.21(m,1H),7.13-7.12(d,2H,J=7),5.44-5.43(m,1H),4.76-4.74(m,1H),3.94-3.92(m,1H),3.84-3.81(m,1H),3.75(s,3H),3.50(m,1H),3.26-3.12(m,3H),2.90-2.88(m,1H),2.23-2.15(m,4H),2.04(s,3H),1.87-1.77(m,5H),1.27-1.24(m,3H).
質量m/z:460(M+1).
【0129】
ベンジル-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-3-ヒドロキシブタノエート(10)の合成:
【0130】
DMF(50mL)中の2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-3-ヒドロキシブタン酸(3.0g、13.69mmol)の溶液に、K2CO3(3.73g、27.39mmol)を加え、室温にて15分間撹拌した。(ブロモメチル)ベンゼン(2.81g、16.43mmol)を加えて、室温にて6時間撹拌した。反応混合物を水(50mL)で希釈し、EtOAc(2×50mL)で抽出した。混合有機層を食塩水(50ml)で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。粗製物質を、溶出剤として20%のEtOAc/ヘキサンを使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、ベンジル2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-3-ヒドロキシブタノエート10(2.8g、66%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.37-7.30(m,5H),6.60(d,J=8.5Hz,1H),5.18-5.08(m,2H),4.76(d,J=7Hz,1H),4.08-4.00(m,2H),1.38(s,9H),1.09(d,J=6.0Hz,3H).
質量m/z:310.0[M++1],210[M+-De Boc].
【0131】
ベンジル-3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-ブタノエート(11)の合成:
【0132】
THF(80mL)中のベンジル-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-3-ヒドロキシブタノエート(2.8g、9.06mmol)の撹拌溶液に、Ac2O(1.1g、10.87mmol)、Et3N(1.51mL、10.87mmol)及びDMAP(280mg)を加え、15分間の室温にて撹拌した。揮発物を減圧下で除去した。得られた残留物は、EtOAc(150mL)で希釈し、冷たい0.5N HCl溶液(2×20mL)で洗浄した。有機層を、食塩水で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮して、3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-ブタノエート11(2.8g、88%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ7.35-7.34(m,5H),7.27-7.25(d,J=8.5Hz,1H),5.18-5.06(m,3H),4.34-4.32(m,1H),1.90(s,3H),1.39(s,9H),1.16(d,J=3Hz,3H).
質量m/z:252[M++1-De Boc].
【0133】
(2S,3R)-3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-ブタン酸(12)の合成:
【0134】
ベンジル-3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)ブタノエート11(1.4g、3.98mmol)をEtOAc(40mL)中に溶解させて、10%のPd/C)(600mg)を加え、反応混合物を水素雰囲気下で16時間撹拌した。反応混合物はセライトに通して濾過され、溶媒を減圧下で蒸発させて、粗残留物をヘキサンで粉砕し、(2S,3R)-3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)ブタン酸12(0.7g、70%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,DMSO-d6):δ12.78(br s,1H),6.94(d,J=9.5Hz,1H),5.16-5.14(m,1H),4.17-4.15(m,1H),1.95(s,3H),1.39(s,9H),1.10(d,J=6.0Hz,3H).
質量m/z:260.0[M-1].
【0135】
(2S,3R)-メチル-3-アセトキシ-2-(1-((S)-1-((2S,3R)-3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニル-アミノ)-ブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキシアミド)-ブタノエート(13)の合成:
【0136】
不活性雰囲気下のCH2Cl2(6mL)中の化合物(2S、3R)-3-アセトキシ-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-ブタン酸12(199mg、0.76mmol)の溶液に、-15℃にてIBCF(125mg、0.91mmol)及びNMM(154mg、1.52mmol)を加え、1時間撹拌した。DMF(2mL)中の(2S,3R)-メチル3-アセトキシ-2-(2-ベンジル-1-((S)-ピロリジン-2-カルボニル)ピロリジン-2-カルボキサミド)-ブタノエート8(350mg、0.76mmol)溶液を反応混合物に加えて、-15℃で1時間撹拌した。得られた反応混合物を室温まで暖めて、19時間撹拌した。反応混合物をEtOAcで抽出し、分離した有機層を水(20mL)で、続いて食塩水(20mL)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥して、減圧下で濃縮した。粗製物質は分取HPLCにより精製され、化合物13(100mg、20%)を得た。
1H-NMR:(500MHz,CD3OD)(回転異性体):δ7.30-7.24(m,3H),7.15-7.13(m,2H),4.62-4.55(m,2H),4.29-3.97(m,1H),3.98-3.79(m,4H),3.75(s,3H),3.62-3.22(m,2H),3.23(d,J=13.5Hz,1H),3.00-2.95(q,1H),2.37-2.31(m,1H),2.23-2.10(m,2H),2.02-1.88(m,3H),1.46-1.28(m,2H),0.97(d,J=7.0Hz,6H).
【0137】
N-((2S,3R)-1-アミノ-3-ヒドロキシ-1-オキソブタン-2-イル)-1-((S)-1-((2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタノイル)-ピロリジン-2-カルボニル)-2-ベンジルピロリジン-2-カルボキサミド(D及びE)の合成:
【0138】
メタノール性NH3(10mL)中の化合物13(100mg、0.153mmol)の溶液を、72時間室温にて密閉した管で撹拌した。反応混合物を減圧下にて濃縮した。得られた粗残留物をエーテル(2×2mL)で洗浄し、化合物D及びE(85mg)のジアステレオマー混合物を得た。85mgのこの混合物を、キラル分取HPLCによって更に精製し、化合物D及びEをそれぞれ15mg得た。
1H-NMR:(500MHz,CD3OD)(回転異性体):δ7.33-7.26(m,3H),7.16(s,2H),4.55-4.54(m,1H),4.39(s,1H),4.14(s,1H),4.01-3.98(m,1H),3.91-3.71(m,3H),3.59(s,2H),3.25-3.16(m,1H),3.04-3.00(m,1H),2.33-2.10(m,3H),2.01-1.91(m,2H),1.86-1.80(m,1H),1.46-1.44(m,1H),1.34-1.29(m,1H),1.25-1.19(m,3H),0.99-0.97(d,J=14.0Hz,3H).
質量m/z:503[M+];HPLC純度:98.1%.
【0139】
均等物
当業者は、日常的な実験のみを用いて、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識する、または確認することができるだろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲によって網羅されることが意図される。
【0140】
参照による組み込み
本明細書に引用したすべての特許、公開された特許出願、ウェブサイト及び他の引用文献は、参照によりそれらの全体を本明細書に明示的に組み込まれる。
図1
図2
図3
【外国語明細書】