(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140462
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】温度応答性電解質材料、温度応答性電解質フィルム、膜、並びにイオン濃度勾配を生じさせる装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20220915BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20220915BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20220915BHJP
H01M 14/00 20060101ALI20220915BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220915BHJP
H01M 8/1018 20160101ALN20220915BHJP
【FI】
B01D69/00 500
B01D71/40
B01D53/14 210
B01D53/14 220
H01M14/00 Z
H01M8/10 101
H01M8/1018
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110403
(22)【出願日】2022-07-08
(62)【分割の表示】P 2020175455の分割
【原出願日】2012-08-17
(31)【優先権主張番号】61/525,421
(32)【優先日】2011-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/646,543
(32)【優先日】2012-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 友
(72)【発明者】
【氏名】三浦 佳子
(72)【発明者】
【氏名】ユエ メンチェン
(72)【発明者】
【氏名】今村 和史
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良平
(57)【要約】
【課題】廃棄されていた熱エネルギーを再利用可能なエネルギーへの変換や、二酸化炭素等の酸性ガスの回収を、効率よく行うこと等に利用可能な、温度応答性電解質材料を提供する。
【解決手段】イオン化可能な塩基性電離基を有するモノマー成分と、架橋性モノマー成分と、極性基を有するモノマー成分と疎水性基を有するモノマー成分の2つのモノマー成分とを又は極性基及び疎水性基とを有するモノマー成分とを、共重合して得られる高分子からなるハイドロゲル微粒子水溶液である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に応じて塩基性と中性又は酸性との間で性質が変化する温度応答性電解質の微粒子と、
半透膜と、を備え、
前記微粒子は前記半透膜に挟まれている、又は、前記微粒子は前記半透膜の両側に所定の容器を介して接しており、
前記温度応答性電解質は、分子内に極性基と疎水性基を両方有するモノマー分子と、架橋性モノマー成分と、を含む2種以上のモノマー成分を共重合して得られる高分子である、二酸化炭素分離用材料。
【請求項2】
温度に応じて塩基性と中性又は酸性との間で性質が変化する温度応答性電解質の微粒子と、
前記温度応答性電解質が透過不可能である半透膜と、を備え、
前記温度応答性電解質は、分子内に極性基と疎水性基を両方有するモノマー分子と、架橋性モノマー成分と、を含む2種以上のモノマー成分を共重合して得られる高分子である、二酸化炭素分離用材料。
【請求項3】
前記微粒子がゲル微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度勾配を化学エネルギーや電気エネルギー等に変換することができるイオン濃度勾配発生システム、装置、方法、及び、温度応答性電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤やポリNイソプロピルアクリルアミド等のポリ-N-置換アクリルアミド誘導体、ポリ-N-置換メタアクリルアミド誘導体、これらの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリペプチド(タンパク質やペプチド)の様に、分子内に極性基と疎水性基を両方有する分子は低温においては水に良く溶解・分散するが、ある温度以上に加温すると疎水性相互作用により集合・収縮・凝集・ゲル化・沈殿する温度応答性を有することが知られている。この様な材料はこれまで培養材料、DDS材料等の生体材料や、吸着剤、物質分離担体、ゲル化剤として利用されている。例えば、コラーゲン等のタンパク質を混合したMatrigel(商標)やノニオン性界面活性剤のpluronic(登録商標)、さらにポリNイソプロピルアクリルアミドであるUpCell(登録商標)は、細胞培養マトリックスやDDS材料、培養基板として販売されている。
【0003】
また、発電所や製鉄所を初めとした多くの工場や自動車・船舶・航空機の様な内燃機関を有する装置などでは、多くの熱エネルギー(火力発電やエンジンの場合、エネルギーの約60%)を廃棄している。近年、持続可能な社会の実現に向けより効率の良いエネルギー利用が必要とされており、廃熱を利用可能な他のエネルギーへ変換する技術が求められている。すでに、廃熱を熱エネルギーという形で回収し温水等として再利用(コジェネレーション、コンバインドサイクル発電、自動車の暖房等)する方法や、熱電変換素子を用いて温度差を電気エネルギーに変換する技術が開発されているが、小さな温度差を効率よく回収する技術は発明されておらず、未だに殆どの廃熱(コジェネレーションで28%)が利用されることなく環境中に廃棄されている。
【0004】
また、温暖化防止のため排気ガス中から二酸化炭素を分離回収する技術が求められている。二酸化炭素は塩基性の水溶液に良く吸収されるので現在低分子アミン水溶液を用いた化学吸収法が注目されている。しかし、低分子アミン水溶液に吸収させた二酸化炭素を溶液から分離する際に、溶液を非常に高温まで熱する必要があり、現在の化学吸収法はエネルギー効率が非常に悪い。
【0005】
なお、特許文献1には、極性高分子とそのマトリックス中に含まれる極性低分子とからなる起電力層を有する、温度差により電荷を発生させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2007-173221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、廃棄されていた熱エネルギーを再利用可能なエネルギーへの変換や、二酸化炭素等の酸性ガスの回収を、効率よく行うこと等に利用可能な、イオン濃度勾配発生システム、装置、方法、及び、温度応答性電解質材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、鋭意検討の結果、温度に応答して相転移を起こす温度応答性高分子電解質のpKaが温度に応じて変化する現象を利用することで、温度勾配をプロトン等のイオン濃度の勾配(電位差)に変換することが出来ることを見いだし、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
(1)温度応答性電解質を用い、温度勾配によりイオン濃度勾配を生じさせるシステム。(2)前記温度応答性電解質が高分子である前記(1)記載のシステム。(3)前記温度応答性電解質を水溶液の状態で用いる前記(1)または(2)記載のシステム。(4)前記温度応答性電解質の水溶液を収容する容器を有する前記(3)記載のシステム。(5)前記容器を複数有し、
該複数の容器の1部は前記温度応答性電解質の相転移温度以下の温度とし、
該複数の容器の他の1部は前記温度応答性電解質の相転移温度以上の温度とする、
前記(4)記載のシステム。
(6)前記温度応答性電解質の相転移温度以下の温度とする容器と、前記温度応答性電解質の相転移温度以上の温度とする容器とを、前記温度応答性電解質及びイオンが移動できるように互いに連結した、前記(5)記載のシステム。(7)1つの前記容器の1部分を、前記温度応答性電解質の相転移温度以下の温度とし、該容器の別の1部分を、前記温度応答性電解質の相転移温度以上の温度とする、前記(4)記載のシステム。(8)前記容器の内部が、イオンが透過可能で、前記温度応答性電解質が透過不可能な半透膜によって複数の区画に仕切られたものである、前記(4)~(7)のいずれかに記載のシステム。(9)該複数の区画の一部のみに前記温度応答性電解質を含む、前記(8)記載のシステム。
【0010】
(10)前記温度応答性電解質を固相の状態で用いる前記(1)または(2)記載のシステム。(11)前記固相の状態がハイドロゲルの状態である前記(10)記載のシステム。(12)塩水溶液を収容する容器を複数有し、
該複数の容器を温度応答性電解質の固相によって連結し、
該複数の容器の1部は前記温度応答性電解質の相転移温度よりも低い温度とし、
該複数の容器の他の1部は前記温度応答性電解質の相転移温度よりも高い温度とする、前記(10)または(11)記載のシステム。(13)前記温度応答性電解質の相転移温度よりも高い温度とする熱源が、排熱である、前記(5)~(9)及び(12)のいずれかに記載のシステム。(14) 前記温度応答性電解質がアミン含有Nイソプロピルアクリルアミドである、前記(1)~(13)のいずれかに記載のシステム。(15)前記温度応答性電解質がアミン含有Nイソプロピルアクリルアミド微粒子である、前記(14)記載のシステム。(16)前記温度応答性電解質がカルボン酸含有Nイソプロピルアクリルアミドである、前記(1)~(14)のいずれかに記載のシステム。(17)前記温度応答性電解質がカルボン酸含有Nイソプロピルアクリルアミド微粒子である、前記(16)記載のシステム。
【0011】
(18)電位差を発生させることにより電池として用いる、前記(1)~(17)のいずれかに記載のシステム。(19)酸性ガスの回収に用いる、前記(1)~(17)のいずれかに記載のシステム。(20)酸性ガスが二酸化炭素である、前記(19)記載のシステム。(21)前記温度応答性電解質が塩基性基を有する前記(19)または(20)記載のシステム。(22)前記塩基性基がアミノ基である、前記(21)記載のシステム。(23)前記アミノ基が3級アミノ基である、前記(22)記載のシステム。(24)前記塩基性基がイミダゾール基である、前記(21)記載のシステム。(25)酸性ガスの回収が、酸性ガスを塩基性水溶液または前記温度応答性電解質の水溶液中に吸収させ、該水溶液中に吸収させた酸性ガスを放出させるものである、前記(19)~(24)のいずれかに記載のシステム。(26)酸性ガスの前記水溶液中への吸収が、前記水溶液を前記温度応答性電解質の相転移温度以下の温度とすることにより行う、前記(25)記載のシステム。(27)前記水溶液中に吸収させた酸性ガスの放出が、前記水溶液を前記温度応答性電解質の相転移温度以上の温度とすることにより行う、前記(25)または(26)記載のシステム。(29)イオンの分離に用いる、前記(1)~(17)のいずれかに記載のシステム。(30)プロトン、水酸化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン及びヨウ化物イオンの少なくともいずれかの分離に用いる、前記(29)記載のシステム。
【0012】
(31)温度応答性電解質を用い、温度勾配によりイオン濃度勾配を生じさせる装置。
(32)温度応答性電解質を用い、温度勾配によりイオン濃度勾配を生じさせる方法。
(33)電離可能な官能基を有し、温度に応答して体積相転移を起こす温度応答性電解質材料。(34)塩基性官能基を有し、温度に応答して体積相転移を起こすハイドロゲル微粒子水溶液である二酸化炭素吸収用温度応答性電解質材料。(35)塩基性官能基を有し、温度に応答して体積相転移を起こすハイドロゲル薄膜である二酸化炭素吸収用温度応答性電解質材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度応答性電解質を用い、温度勾配を印加することにより、効率良くイオン濃度勾配を発生させることができる。さらに本発明は、発生させたイオン濃度勾配を、電位差として利用することにより発電、電池等や、吸着・放出の繰返しが可能な二酸化炭素等の酸性ガスの回収等に用いることができ、また、その他にも、イオン分離、燃料電池の効率化、その他のエネルギー変換等にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のイオン濃度勾配発生装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明のイオン濃度勾配発生装置の別の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明のイオン濃度勾配発生装置の別の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明のイオン濃度勾配発生装置の別の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明のイオン濃度勾配発生装置の別の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明のイオン濃度勾配発生装置の別の一例を示す概略図である。
【
図7】本発明を電池に適用する例を示す概略図である。
【
図8】本発明を二酸化炭素の回収に適用する例を示す概略図である。
【
図9】本発明に使用する温度応答性ナノ微粒子電解質の1例の温度依存による溶液pH変化及び相転移温度等を示すグラフである。
【
図10】本発明に使用する温度応答性ナノ微粒子電解質の1例の溶液の温度依存によるpH変化等を示すグラフである。
【
図11】本発明に使用する温度応答性ナノ微粒子電解質の1例の溶液の温度依存によるpH滴定結果を示すグラフである。
【
図12】本発明に使用する温度応答性ナノ微粒子電解質の1例の溶液の初発pH及び温度依存によるpH変化を示すグラフである。
【
図13】
図5に示す装置を用いた際の低温側セル内溶液と高温側のセル内溶液の温度依存によるpH変化を示すグラフである。
【
図14】本発明に使用する塩基性基含有温度応答性電解質の1例の溶液の温度依存によるpH変化を示すグラフである。
【
図15】本発明を二酸化炭素の回収に適用した1例の温度依存による二酸化炭素の吸収及び放散、並びに、溶液pH変化等を示すグラフである。
【
図16】本発明に使用するアミン基含有温度応答性電解質の1例の溶液の温度依存によるpH滴定結果を示すグラフである。
【
図17】本発明に使用するアミン基含有温度応答性微粒子電解質の1例の溶液の温度依存によるpH滴定結果を示すグラフである。
【
図18】本発明を二酸化炭素の回収に適用した1例の温度依存による二酸化炭素の放散量を示すグラフである。
【
図19】本発明を二酸化炭素の回収に適用した1例の温度依存による二酸化炭素の吸収量を示すグラフである。
【
図20】本発明を二酸化炭素の回収に適用した1例の温度依存による二酸化炭素の吸収及び放散量、並びに繰返し性能を示すグラフである。
【
図21】温度応答性固体電解質を二酸化炭素の回収に適用した例における二酸化炭素の吸収及び放散量を示すグラフである。
【
図22】本発明に使用する温度応答性電解質の1例の架橋性モノマーの共重合率と膨潤割合の関係を示すグラフである。
【
図23】本発明に使用する温度応答性電解質の1例の疎水性モノマーの共重合率と相転移温度の関係を示すグラフである。
【
図24】本発明に使用する温度応答性電解質の1例の温度変化による挙動を示す概略図である。
【
図25】半透膜を使用する形態例における、温度応答性電解質及び低分子イオンの挙動を示す概略図である。
【
図26】本発明を燃料電池に適用した例における、温度応答性電解質及び低分子イオンの挙動を示す概略図である。
【
図27】多数の温度応答性電解質および容器を用いた多段式イオン輸送システムの例を示す概略図である。
【
図28】
図27に示す多段式イオン輸送システムにおける各容器内の温度応答性電解質のpH分布を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のイオン濃度勾配発生システム、装置、及び、方法について詳細に説明する。
本発明は、温度応答性電解質を用い、温度勾配によりイオン濃度勾配を生じさせることを特徴とする。
【0016】
本発明に使用する温度応答性電解質としては、温度の変化により、イオンの電離が変化するものであれば特に限定されないが、例えば、高分子体のものであることが好ましい。
より詳細に説明すると、前記温度応答性電解質としては、界面活性剤や、ポリNイソプロピルアクリルアミド、ポリペプチド(タンパク質やペプチド)の様な、分子内に極性基と疎水性基を両方有し、さらに、水溶液中でイオンを放出することができる(イオン化可能な)官能基を有するものが挙げられる。
【0017】
イオン化可能な官能基としては、H+を放出する酸性基でも、正電荷となり得る塩基性基でもよく、本発明の適用目的に応じて、適宜、選択し得るものである。
酸性基としては、例えば、硫酸基、カルボン酸基、リン酸基、フェーノール性水酸基等が挙げられる。
塩基性基としては、例えば、アミノ基、イミダゾール基、ピリジル基等が挙げられる。
【0018】
このような温度応答性電解質は、分子内に極性基と疎水性基を両方有する分子に、イオン化可能な官能基を共有結合で結合させて作製しても良く、また、イオン化可能な電離基を有するモノマー成分と極性基を有するモノマー成分と疎水性基を有するモノマー成分、あるいは、イオン化可能な電離基を有するモノマー成分と極性基及び疎水性基を有するモノマー成分を共重合することによって作製しても良い。
【0019】
界面活性剤や、ポリNイソプロピルアクリルアミド、ポリペプチド(タンパク質やペプチド)の様な、分子内に極性基と疎水性基を両方有する分子は、低温においては水に良く溶解・分散するが、ある温度以上に加温すると疎水性相互作用により集合・収縮・凝集・ゲル化・沈殿する温度応答性を有する。
【0020】
一方で、電解質の電離度(pKa)は、電解質が存在する環境(極性)や電解質間の距離に応じて可逆的に変化する。例えば、硫酸は、極性の高い水溶液中においては殆ど電離し、極性の高い硫酸アニオン(HSO4
-やSO4
2-等の陰イオン)の構造をとるが、有機溶媒を加えて媒体の極性を下げると電離度が低下し多くが極性の低い硫酸(H2SO4)の構造となる。また、多くのカルボン酸を一つの分子や高分子、材料上に密集させると近接するカルボキシラートアニオン間で静電反発が働きイオン(RCOO-等の陰イオン)がエネルギー的に不安定化されるため、電離度が下がり電荷を持たない硫酸(RCOOH)の割合が増える。
【0021】
本発明は、上記の2つの性質を組合せ、界面活性剤やポリペプチド、ポリNイソプロピルアクリルアミドの様に、分子内に極性基と疎水性基を両方有する分子に、さらにイオン化可能な官能基(電解質)を有する(高)分子、すなわち温度応答性電解質を利用して、温度差を用いてイオン濃度勾配を発生させ、さらに化学・電気エネルギーに変換等するものである。
【0022】
このような温度応答性電解質は、高温域においては、分子が集合・収縮・凝集・ゲル化・沈殿し、これによりイオン周囲の環境が疎水性(低極性)になり、または、イオン間の距離が近づくことにより電解質がイオン化し難くなるが、低温域においては分子が分散・膨潤・溶解するために、周囲の極性が高くなり、又は、イオン間の距離が遠くなることにより電解質がイオン化しやすくなる。すなわち、硫酸やカルボン酸等の酸(負電荷となり得る官能基)を有する温度応答性電解質は低温においては低いpKa値を示すが、高温域においてはpKaの値が高くなる(
図24)。一方、アミンの様な塩基(正電荷となり得る官能基)を有する温度応答性電解質は低温においては高いpKaを有するが高温域においてはpKaの値が低くなる。
【0023】
実際に、カルボン酸を有するアクリル酸とNイソプロピルアクリルアミドを共重合体した温度応答性ナノ微粒子電解質を合成し、温度を変化させながら、pHを測定したところ温度を上昇させるとある温度を境に急激にpHが上昇する(
図9)。この時、観察されたpH勾配は最大0.1K
-1に達した。これはネルンストの式によると数十mVK
-1に相当する。また、動的光散乱法によりこのナノ微粒子の粒径の温度依存を測定すると、pHが上昇し始める温度を境にナノ微粒子が相転移を起こし、急激に収縮し始めることがわかった。すなわち、この温度応答性電解質(カルボン酸を有するポリNイソプロピルアクリルアミド共重合体ナノ微粒子)は低温においては膨潤しているため多くのカルボン酸がイオン化しているが、温度上昇とともに収縮しカルボン酸のイオン化度が低下することが示された。この現象は、カルボン酸の様な酸性の温度応答性電解質だけでなく、アミン基やイミダゾール基の様な塩基性の温度応答性電解質を用いても観察される(
図14、16、17)。
【0024】
アクリル酸の替わりにイミダゾール基(1-H-Imidazole-4-N-acryloylethanamine)やアミン基(N-[3-(Dimethylamino)propyl]methacrylamide)(DMAPM)を有する塩基性モノマーをNイソプロピルアクリルアミドと共に共重合した温度応答性ナノ微粒子電解質を合成し、温度応答的なpH変化を観察したところ、相転移点より低温においては比較的高いpHを示したが、温度を上昇させていくと相転移点付近で急激にpHが下がり始めた(
図14)。この時のpH勾配も最大約0.1K
-1でありネルンストの式によると数十mV K
-1に相当する。イミダゾールの代わりにアミン基を有するN-[3-(Dimethylamino)propyl]methacrylamideを共重合した温度応答性電解質においても高温域においてpkaが低下する(
図16)。さらにN-[3-(Dimethylamino)propyl]methacrylamideを共重合した温度応答性ナノ微粒子電解質を各温度において塩酸を用いてpH滴定を行ったところ相転移点前後で見かけの中和点が大きくシフトする(
図17)。すなわち、ジメチルアミノ基の一部は相転移温度以下では塩基として作用するが、相転移温度以上にすると収縮した高分子鎖の内部に埋もれて塩基として作用しない。
これまで電解質のpHは一般的に温度を変化させると変化することが知られていたが、通常の電解質のpH変化は1℃あたり0.01K
-1前後であった。温度応答性の電解質を用いることにより既存の電解質では見られなかった顕著なpH変化を達成できることがわかる。
【0025】
温度応答性電解質の多くは相転移点を有し、相転移温度前後で急激に集合・収縮・凝集・ゲル化・沈殿状態が変化する。そのため、該温度応答性電解質を含む水溶液等は、僅かな温度変化で急激にpHを変化させることが出来る。また、相転移温度は、該温度応答性電解質を含む溶液の極性・イオン強度や温度応答性電解質の濃度だけでなく、温度応答性電解質の親疎水性バランス、電解質密度により制御可能である(
図10)。
【0026】
さらに、変化させるpH領域や温度領域は、電解質の種類(強酸、弱酸、弱塩基、強塩基等)や密度、さらには集合・収縮・凝集・ゲル化・沈殿の度合いをコントロールすることで制御可能である。すなわち、分子設計や媒体の設計に応じて非常に低いpHから高いpHまで、目的の温度応答性をもって制御可能である。例えば、
図22に示すように、温度応答性電解質高分子(ナノ微粒子)の合成の際に、N,N‘-メチレンビスアクリルアミドのような架橋性モノマー量(架橋性モノマーの共重合率)を調整することにより、温度変化による膨潤割合を調整することができる。
また、
図23に示すように、温度応答性電解質高分子(ナノ微粒子)の合成の際に、N-t-ブチルアクリルアミドのような疎水性モノマー含有量(疎水性モノマーの共重合率)を調整することにより、相転移温度を調整することができる。
【0027】
本発明において、上記の温度応答性電解質は、水等に溶解させて水溶液等の形態で使用しても良く、固相(固体)の形態で使用しても良い。
【0028】
温度応答性電解質を水溶液の形態で使用する場合は、該温度応答性電解質が水性液媒に完全に溶解していても良く、また、水性液媒中に微粒子の状態で存在していてもよい。該温度応答性電解質が水性液媒中に微粒子の状態で存在する場合、分散剤等の使用や攪拌を行わなくとも、該ナノ微粒子が該水性液媒中に均一に存在する場合は、本発明においては、水溶液の形態とみなすものである。
【0029】
本発明において、温度応答性電解質を水溶液の形態で使用する場合は、該温度応答性電解質の水溶液を適当な容器に収容して用いる。
【0030】
図1に、酸性基を有する温度応答性電解質の水溶液を1槽の容器に収容して用いる例の概略を示す。
図1に示す使用例では、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器1の1部分を、冷熱源2によって前記温度応答性電解質の相転移温度以下の温度とし、容器1の別の1部分を、熱源3によって前記温度応答性電解質の相転移温度以上の温度とすることにより、温度勾配を与える。
この温度勾配により、容器1内の冷熱源2側では、温度応答性電解質の酸性基からプロトン(H
+)が放出され、プロトン(H
+)濃度が高くなる。一方、容器1内の熱源3側では、該温度応答性電解質が、凝集等することによりプロトン(H
+)が放出され難くなり、その結果、OH
-濃度が高くなる。即ち、容器1内のpHが、冷熱源2側では低くなり、熱源3側では高くなり、イオン濃度勾配が生じる。
【0031】
また、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器を複数(例えば2槽)用いても良い。
図2に、酸性基を有する温度応答性電解質の水溶液を収容する容器を複数槽(例として2槽)用いる例の概略を示す。
図2に示す使用例では、温度応答性電解質の水溶液を収容する複数の容器1(例として2槽)の1部(例として2槽のうちの1槽)を、冷熱源2によって前記温度応答性電解質の相転移温度よりも低い温度とし、該複数の容器1(例として2槽)の他の1部(例として2槽のうちの他の1槽)は前記温度応答性電解質の相転移温度よりも高い温度とすることにより、温度勾配を与える。
この温度勾配により、冷熱源2により冷却する容器1内では、温度応答性電解質の酸性基からプロトン(H
+)が放出され、プロトン(H
+)濃度が高くなる。一方、熱源3により加熱する容器1内では、該温度応答性電解質が、凝集等することによりプロトン(H
+)が放出され難くなり、その結果、OH
-濃度が高くなる。即ち、冷熱源2により冷却した容器1内ではpHが低くなり、熱源3により加熱した容器1内ではpHが高くなり、イオン濃度勾配が生じる。
【0032】
また、
図2に示すような温度勾配を与える場合は、冷熱源2により冷却する容器1と熱源3により加熱する容器1との間で、前記温度応答性電解質及びイオンが移動できるようにするために、互いに連結する連結部材4を有することが好ましい。
上記の連結部材4としては、例えばチューブ等を用いることができる。チューブによって、温度がそれぞれ異なる2つの溶液を繋ぐと、両溶液は連続体であるにも関わらず溶液間で温度勾配が存在する限り、溶液間にpH濃度勾配が形成される。そして一種の溶液からpHの異なる2つの溶液を生成することが出来る。
【0033】
図1及び
図2で示した使用例は、温度応答性電解質として酸性基を有するものを用いてプロトン(H
+)のイオン濃度勾配を発生させるものであるが、本発明の技術を用いれば、プロトン(H
+)のイオン濃度勾配を発生するものに限らず、様々なイオンのイオン濃度勾配発生に対して適用することができる。
図25に示すように、例えば塩化ナトリウムやヨウ化ナトリウム、酢酸ナトリウムの水溶液中に温度応答性電解質を加え温度勾配を形成すると、片側にナトリウムイオンと水酸化物イオン、反対側に酢酸イオンとプロトンを温度勾配に応じた割合で移動させることができる(
図25)。すなわち温度勾配をエネルギー源とし、例えば、酢酸ナトリウム水溶液を酢酸濃度が高い水溶液と水酸化ナトリウム濃度が高い水溶液に分離することが出来る。この際、イオンが透過可能で、前記温度応答性電解質が透過不可能な半透膜を用いると、生成した酸と塩基は連続的に温度応答性電解質から分離する事が出来る。よって、この技術は、電気分解法に代わり温度差を用いて塩溶液を塩基や酸溶液に分離する方法として応用できる。なお、半透膜としては、限外濾過膜、精密濾過膜、透析膜等が挙げられる。膜の構造としては、平膜、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラー膜等が挙げられる。
【0034】
前述の通り、本発明において、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器を有する形態をとる場合には、該容器の内部が、イオンが透過可能でかつ温度応答性電解質が透過不可能な半透膜によって複数の区画に仕切られたものであることが好ましい。
【0035】
図3に、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器の内部が、イオンが透過可能で、かつ該温度応答性電解質が透過不可能な半透膜によって複数の区画に仕切られたものである例の概略を示す。
図3に示す使用例は、温度応答性電解質の水溶液を収容する複数の容器1(例として2槽)の1部(例として2槽のうちの1槽)を、冷熱源2によって前記温度応答性電解質の相転移温度以下の温度とし、該複数の容器1(例として2槽)の他の1部(例として2槽のうちの他の1槽)は前記温度応答性電解質の相転移温度以上の温度とし、かつ、冷熱源2により冷却する容器1と熱源3により加熱する容器1とを互いに連結する連結部材4を有する点は、
図2に示す使用例と同じである。
図3に示す使用例は、
図2に示す使用例に加え、容器1の内部が、イオンが透過可能でかつ温度応答性電解質が透過不可能な半透膜5によって複数の区画に仕切られたものである。
図3に示す使用例における温度応答性電解質の水溶液は、温度応答性電解質のみを含むものではなく、酢酸ナトリウムを含むものである。
また、この使用例では、連結部材4を2つ設け、ポンプ6によって、溶液を、それぞれ一方向に移動させるようにすることもできる。
【0036】
図3に示す使用例では、冷熱源2により冷却する容器1に酢酸イオンとプロトンを、熱源3により加熱する容器1にナトリウムイオンと水酸化物イオンを、温度勾配に応じた割合で移動させることができ、生成した酸と塩基は、半透膜5によって連続的に温度応答性電解質から分離される。
【0037】
なお、
図3に示す使用例では、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器1を2つ有し、かつ、容器1が半透膜5によって仕切られたものであったが、容器1が1つのみで、かつ半透膜5によって仕切られたものであってもよい。
【0038】
図4に、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器1が1つのみで、かつ半透膜5によって仕切られたものである1例の概略を示す。
図4に示す使用例は、横長形状の、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器1を1つ有し、その中央部で半透膜5により、容器1内が2分され2つのセルが形成されている。容器1の1部分の外側を覆うように冷熱源手段21を、容器1の他の1部分の外側を覆うように熱源手段31を、それぞれ有する。冷熱源手段21および熱源手段31には、それぞれ、低温水および高温水が供給され、容器1内全体で温度勾配が与えられる。
【0039】
また
図5に、温度応答性電解質の水溶液を収容する容器1が1つのみで、かつ半透膜5によって仕切られたものである他の1例の概略を示す。
図5に示す使用例は、横長形状の容器1を1つ有し、かつ、冷熱源手段21および熱源手段31を有する点で、
図2に示す使用例と同じである。
図5に示す使用例は、その中央部に2枚の半透膜5により仕切られた区画を有する。
図5に示す使用例においては、容器1に収容されている溶液は、塩基性溶液である。温度応答性電解質は、容器1に収容されている溶液の全体的には含まれておらず、中央部の2枚の半透膜5により仕切られた区画内にのみ含まれている。
【0040】
上述の通り、温度応答性電解質を水溶液の形態で使用する例を述べたが、温度応答性電解質を水溶液の形態で使用すると、液漏れによる利用上の問題が生じたり、溶液の高い粘性・発泡性に由来するプロセスの効率低下が生じることがある。
この問題については、温度応答性電解質を固相(固体)の形態で使用することにより解決される。
【0041】
以下に、本発明において、温度応答性電解質を固相(固体)の形態で使用する例について説明する。
なお、本発明において、温度応答性電解質を固相形態での使用とは、ハイドロゲルの状態での使用も含まれる。
【0042】
図6に、温度応答性電解質を固相の形態で用いる例の概略を示す。
図6に示す使用例では、塩(KClやNaCl)水溶液を収容する容器1を複数(例えば2槽)有し、複数(例えば2槽)の容器1を温度応答性電解質の固相(温度応答性固体電解質とも称する)11によって連結し、該複数の容器1の1部(例として2槽のうちの1槽)を、冷熱源2によって温度応答性電解質の相転移温度よりも低い温度とし、該複数の容器1(例として2槽)の他の1部(例として2槽のうちの他の1槽)は前記温度応答性電解質の相転移温度よりも高い温度とすることにより、温度勾配を与える。
図6に示す使用例において、温度応答性固体電解質11を半透膜5で挟んでも良い。
【0043】
温度応答性固体電解質11を半透膜5で挟み、温度が異なる2つの塩水溶液を挟む、すなわち温度勾配を与えると、塩水溶液内に相転移温度を挟んだ温度差が存在する時、2つの溶液に大きなpH濃度勾配が形成される。このpH差は塩溶液を固体電解質から離しても維持されたことから、溶液中のカリウムイオン(またはナトリウムイオン)と塩化物イオンが温度変化に応じて輸送されてpH濃度勾配が生じたと考えられる。
【0044】
図6で示した使用例は、プロトン(H
+)のイオン濃度勾配を発生させるものであるが、本発明の技術を用いれば、プロトン(H
+)のイオン濃度勾配を発生するものに限らず、様々なイオンのイオン濃度勾配発生に対して適用することができる。
例えば、酢酸ナトリウム水溶液中に温度応答性固体電解質11を加え温度勾配を形成すると、片側にナトリウムイオンと水酸化物イオン、反対側に酢酸イオンとプロトンを温度勾配に応じた割合で移動させることができる。すなわち温度勾配をエネルギー源に酢酸ナトリウム水溶液を酢酸濃度が高い水溶液と水酸化ナトリウム濃度が高い水溶液に分離することが出来る。さらにこの様に生成した酸と塩基は連続的に温度応答性固体電解質11から分離する事が出来る。よって、この技術も、電気分解法に代わり温度差を用いて塩溶液を塩基性溶液や酸性溶液に分離する方法として応用できる。
【0045】
また、本発明における温度応答性固体電解質を用いる形態例としては、
図6で示した使用例の他、
図5に示す使用例のものの温度応答性電解質水溶液を温度応答性電解質のハイドロゲルに置き換えたものが挙げられる。
【0046】
本発明の技術は、電池、二酸化炭素のような酸性ガスの回収、イオンの分離等、様々な分野に適用することができる。
特に本発明の技術は、そのイオン濃度勾配の発生による電位差の発生を利用して、温度差電池や燃料電池の高効率化に用いることができる。
【0047】
温度差電池や燃料電池等のほとんどの電池においては電極表面で酸化還元反応が起こると同時に電解質のpHが変化する。このpH変化を常に中和することができれば、ルシャトリエの原理より酸化還元平衡が変化し、反応を促進することが出来る。本発明により電池の電極間にわずかな温度差を印加することで連続的にpH勾配を生成することが出来るので、高効率なエネルギー変換が可能となる。
例えば、カルボン酸基を有する温度応答性電解質を燃料電池に用い、電極間に温度勾配を発生させた場合、燃料電池の電極と温度応答性電解質の水溶液にプロトン濃度勾配が形成され、
図26に示すように正・負両電極反応が促進され、結果として、燃料電池が高効率化される。
【0048】
図7に、本発明の技術を電池に適用する例の概略を示す。
図7に示す使用例は、温度応答性電解質の水溶液を収容する2つの容器1のうちの1つを冷熱源2によって前記温度応答性電解質の相転移温度よりも低い温度とし、もう1つの容器1は前記温度応答性電解質の相転移温度よりも高い温度とし、かつ、冷熱源2により冷却する容器1と熱源3により加熱する容器1とを互いに連結する連結部材4を2つ設け、ポンプ6によって、溶液を、それぞれ一方向に移動させるようにした。また、冷熱源2により冷却する容器1と熱源3により加熱する容器1のそれぞれに電極7を有し、これらの電極7は電気的に接続される。
【0049】
次いで、本発明の技術を、二酸化炭素のような酸性ガスの回収に適用する形態について説明する。特に、酸性ガスとして、二酸化炭素を例にとって、以下に詳細に説明する。
【0050】
塩基性基を有する温度応答性電解質は低温域では溶液が塩基性になるため気相中から二酸化炭素を良く吸収するが、温度を相転移温度以上に加熱すると溶液が中性あるいは酸性になるので溶解した二酸化炭素を効率よく回収する事が可能である(
図15)。また、二酸化炭素の吸収と回収は溶液を数℃加熱冷却し相転移を起こすことで繰り返し行うことが出来る(
図15)。内燃機関から排出される二酸化炭素の吸収技術の確立は地球温暖化防止のために必要不可欠であるため、本発明により内燃機関からの廃熱を利用して二酸化炭素を吸収できるようになれば、発電所や製鉄所などの大規模な工場だけでなく自動車や家庭用発電システムなどから低コストで二酸化炭素を回収するシステムになる。
【0051】
図8に、本発明の技術を二酸化炭素の回収に適用する例の概略を示す。
図8に示す使用例は、塩基性基を有する温度応答性電解質の水溶液を収容する2つの容器1のうちの1つを冷熱源2によって前記温度応答性電解質の相転移温度よりも低い温度とし、もう1つの容器1は前記温度応答性電解質の相転移温度よりも高い温度とし、かつ、冷熱源2により冷却する容器1と熱源3により加熱する容器1とを互いに連結する連結部材4を2つ設け、ポンプ6によって、溶液を、それぞれ一方向に移動させるようにした。また、冷熱源2により冷却する容器1中の溶液は、pHが高くなり二酸化炭素を効率よく吸収できるようになった。また、二酸化炭素を吸収した温度応答性電解質水溶液を熱源3により加熱すると、pHが低くなり該溶液中から二酸化炭素が容易に放出させることができる。二酸化炭素を放出させた後の溶液は、冷熱源2により冷却することにより、再度、二酸化炭素の吸収に供することができる。
【0052】
なお、
図8に示す使用例は、塩基性基を有する温度応答性電解質を水溶液の状態で用いる形態であるが、この形態では、二酸化炭素吸収液の吸収容量を向上させる為には、電解質の濃度を上昇させる必要がある。水溶液の電解質濃度を上昇させると、溶液粘性や発泡性が上昇し気液プロセスによる二酸化炭素の回収が非効率になる場合がある。そこで、温度応答性の電解質を固体(ゲル状)のフィルム化することにより、溶液粘性や発泡性の問題を解決し、より効率的に二酸化炭素を回収することが可能になる。
【0053】
さらに本発明は、
図27に示すような、多段式のイオン輸送システムの形態を採ることができる。
図27に示す多段式イオン輸送システムは、異なる相転移温度とpKa(酸・塩基性)を有する温度応答性ナノ微粒子4種類を組み合わせたものである。
図27の一番左の容器1と左から二番目の容器1の間には相転移温度が低温域に存在し、酸性の強い温度応答性電解質水溶液を循環させる。左から二番目の容器1と中央の容器1の間には相転移温度が高温域に存在し、酸性の弱い温度応答性電解質水溶液を循環させる。中央の容器1と右から二番目の容器1の間には相転移温度が高温域に存在し塩基性の弱い温度応答性電解質水溶液を循環させる。右から二番目の容器1と一番右の容器1の間には相転移温度が低温域に存在し、塩基性の強い温度応答性電解質水溶液を循環させる。中央の容器1は全ての温度応答性電解質の相転移温度以上の温度に保持し、左右両端の容器1は全ての温度応答性電解質の相転移温度以下の温度に保持する。それぞれの電解質は半透膜(点線)である半透膜5で隔てられプロトン、水酸化物イオンや低分子イオンのみが容器間の温度差に応じて輸送される。
図28に、上記の多段式イオン輸送システムにおける各容器1内の温度応答性電解質のpH分布の概念を示す。
図28中の点線は各電解質の相転移温度を示す。
【実施例0054】
以下、本発明に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
[カルボン酸を含有した酸性温度応答性ナノ微粒子電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを68mol%、アクリル酸を10mol%、疎水性の強いN-t-ブチルアクリルアミドを20mol%、架橋剤のN,N‘-メチレンビスアクリルアミドを2mol%共重合したナノ微粒子水溶液)の合成と評価]
30mLの超純水にN-イソプロリルアクリルアミドを120mg、N-t-ブチルアクリルアミドを38.4mg、アクリル酸を11μL、N,N‘-メチレンビスアクリルアミドを4.6mg、ドデシル硫酸ナトリウムを17.4mg溶解し、100mLのナスフラスコに入れてセプタムで密栓し、油浴で70℃に昇温した状態で、マグネティックスターラーで均一になるまで攪拌した。均一になったらセプタムにニードルを二本差し、一本の先を液面の下に、もう一本の先を液面の上に配置し、液面の下に配置したニードルに外部から窒素をゆっくりバブリングして30分脱気した。5.88mgの4,4’-Azobis(4cyano-valeic acid)を0.6mlのジメチルスルホキシドに溶解したものをニードルで溶液に添加し、窒素をつないだニードル以外を全て取り外し、窒素雰囲気下70℃で3時間反応を行った。セプタムを開封することで反応を停止させ10,000 Da MWCOの透析チューブに反応溶液を入れ大量の水を繰り返し取り替えながら三日間透析を行って、界面活性剤や未反応のモノマーを取り除いた。この溶液内の電解質ナノ微粒子の大きさ(粒径)を動的光散乱法で測定した。ナノ微粒子の粒径の測定結果を
図9の(-○-)のプロットで示した。またこの電解質ナノ微粒子の溶液を純水で10倍に希釈して窒素雰囲気化でpHを測定した。ナノ微粒子溶液のpHの測定結果を
図9の(-●-)のプロットで示した。なお、この電解質内に含まれるカルボン酸の量と同じ量のアクリル酸(モノマー)を溶解した超純水のpHの測定結果を、
図9の(-□-)のプロットで示した。
さらに本溶液を1mMのNaCl溶液に溶解してpHを測定した。このpHの測定結果を
図10の(-●-)のプロットで示した。また、
図10においては、ナノ微粒子の純水溶液の温度変化によるpH変化を(-○-)のプロットで、アクリル酸(モノマー)の純水溶液の温度変化によるpH変化を(-□-)のプロットで示した。
【0056】
この温度応答性ナノ微粒子を強陽イオン交換樹脂にてイオン交換し、30℃と75℃で0.05MのNaOH水溶液を使ってpH滴定した。結果を
図11に示した。
図11において、30℃での滴定結果を(-●-)のプロットで、75℃での滴定結果を(-○-)のプロットで示した。75℃での滴定結果において見かけの中和点が明らかに左側にシフトしていることからナノ微粒子の収縮により実質的な溶液内の酸の量が減少した事がわかった。
【0057】
また、本水溶液を強陽イオン交換樹脂にてイオン交換した後、所定量のNaOHを添加して室温にてpHを5.5、4.5、3.5に調節し
図4に示す装置の容器1に入れ左右の温度をゆっくり変化させた。容器1の低温側のpHは高温側の温度を変化させても殆ど変化はなかったが、容器1の高温側のpH応答は、
図12の(a)、(b)、(c)にそれぞれ示すように変化した。左右のセルの間には半透膜5を設置し高分子(温度応答性電解質ナノ微粒子)の移動が生じず、低分子イオンの移動のみが起こるようにした。(a)及び(b)においては、容器1の高温側のpHは昇温に従って相転移温度付近から急激に高くなった。(a)~(c)のいずれにおいても、容器1の高温側のpHは降温時も昇温時と同様のpH温度プロファイルを示した。
【0058】
また、本水溶液を強陰イオン交換樹脂にてイオン交換した後、凍結乾燥により固体化した。得られた固体200mgに2mLの1mMヨウ化ナトリウム水溶液を加えてハイドロゲルを作成し、半透膜で挟んで
図5に示す装置の中央部(2枚の半透膜5で挟まれた部分)に設置した。半透膜5の外側の左右には50mLの1mMヨウ化ナトリウム水溶液を入れ右のセル温度を20℃で一定にしたまま左側のセルの温度を素早く75℃まで昇温させたときの高温側と低温側のセル内溶液のpH応答を
図13に示す。
図13において、高温側セル内溶液のpHを(-●-)のプロットで、低温側セル内溶液のpHを(-○-)のプロットで示す。温度応答性電解質ナノ微粒子のハイドロゲルと左右のセルの間には半透膜5を設置し高分子の移動がおこらず、低分子イオンの移動のみが起こるようにした。低温側のセル内溶液のpHは高温側のセルの温度を変化させるとpHが低下し、高温側のセル内溶液のpHは昇温後徐々に高くなった。pH差(pH濃度勾配)形成後、セルから溶液を取り出して20℃に戻しても溶液のpHは元に戻ることがなかった。以上のことより低温側セルにヨウ素イオンが高温側セルにナトリウムイオンが多く分配したことがわかる。
【0059】
〔実施例2〕
[イミダゾールを含有した塩基性温度応答性ナノ微粒子電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを93mol%、1-H-イミダゾール-4-N-アクリロイルエタンアミンを5mol%、架橋剤のN,N‘-メチレンビスアクリルアミドを2mol%共重合したナノ微粒子)の合成と評価]
イミダゾール基を側鎖に持つアクリルアミド(1-H-イミダゾール-4-N-アクリロイルエタンアミン)は、Wenhao Liu. et. Al., J. AM. CHEM. SOC. 2010年, Vol.132, p.472-483に従って、ヒスタミンとN-(アクリロイルオキシ)スクシンイミドの縮合反応により合成した。30mLの超純水にN-イソプロリルアクリルアミドを985mg、1-H-イミダゾール-4-N-アクリロイルエタンアミンを76.4mg、N,N‘-メチレンビスアクリルアミドを29mg、臭化セチルトリメチルアンモニウムを21.9mg溶解し、100mLのナスフラスコに入れてセプタムで密栓し、油浴で70℃に昇温した状態で、マグネティックスターラーで均一になるまで攪拌した。均一になったらセプタムにニードルを二本差し、一本の先を液面の下に、もう一本の先を液面の上に配置し、液面の下に配置したニードルに外部から窒素をゆっくりバブリングして30分脱気した。21mgの2,2‘-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)・二塩酸を0.3mlの超純水に溶解したものをニードルで溶液に添加し、窒素をつないだニードル以外を全て取り外し、窒素雰囲気下70℃で3時間反応を行った。セプタムを開封することで反応を停止させ10,000Da MWCOの透析チューブに反応溶液を入れ大量の水を繰り返し取り替えながら三日間透析を行って、界面活性剤や未反応のモノマーを取り除いた。この電解質ナノ微粒子の溶液をナノ微粒子の濃度が10mg/mLになるように純水で希釈して、強陰イオン交換樹脂で全ての陰イオンを取り除いた後、窒素をバブリングしながら温度の変化によるpH変化を測定した。結果を
図14に示す。
図14より、相転移温度(30℃)を境にpHが急激に低下していることが分かる。
【0060】
次に24℃に温度を固定し一晩空気(二酸化炭素を含む)をバブリングした後、空気をバブリングしたまま温度を変化させてpHを測定した結果を
図15に示す。低温域において二酸化炭素を吸収することによりpHが低下し、昇温すると相転移温度付近で高分子構造変化により急激にpHが低下したことが分かる。また、pH低下は二酸化炭素の放散を引き起こし溶液のpHが上昇し、降温すると高分子の構造変化により溶液のpHが上昇し再度二酸化炭素を吸収できるようになることも分かる。
【0061】
〔実施例3〕
[アミン基を含有した塩基性温度応答性高分子電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを95mol%、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPM)を5mol%共重合した直鎖状高分子)の合成と評価]
30mLのメタノールにN-イソプロリルアクリルアミド、DMAPMを、それぞれ、95mol%、5mol%(モノマー相濃度312mM)となるように溶解させ、100mLのナスフラスコに入れてセプタムで密栓し、セプタムにニードルを二本差し、一本の先を液面の下に、もう一本の先を液面の上に配置し、液面の下に配置したニードルに外部から窒素をゆっくりバブリングして30分脱気した。続いて窒素雰囲気下、油浴で加熱還流し10mgのアゾビスイソブチロニトリルを0.3mlのメタノールに溶解したものをニードルで溶液に添加し、窒素をつないだニードル以外を全て取り外し、窒素雰囲気下70℃で3時間反応を行った。セプタムを開封することで反応を停止させメタノールを減圧留去した。残渣を純水に溶解し10,000 Da MWCOの透析チューブに反応溶液を入れ大量の純水を繰り返し取り替えながら三日間透析を行って、未反応のモノマーを取り除いた。得られた溶液を凍結乾燥し、得られた高分子を水に溶解して濃度が10mg/mLになるように純水で希釈して、強陰イオン交換樹脂で全ての陰イオンを取り除いた後、30℃と75℃の各温度の溶液について、窒素をバブリングしながら塩酸水溶液を用いてpH滴定を行った。結果を
図16に示す。
図16において、30℃の溶液の滴定結果を(-○-)のプロットで、75℃の溶液の滴定結果を(-●-)のプロットで、それぞれ示した。なお、
図16の横軸は、高分子1g当たりの滴定HClのmol量を示すものである。75℃の溶液における見かけのpKa値は6.8であり30℃の溶液におけるpKa値である8.8よりも約2小さいものであった。これはプロトン濃度を100倍変化させられることを意味するものである。
【0062】
〔実施例4〕
[アミン基を含有した塩基性温度応答性ナノ微粒子電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを93mol%、DMAPMを5mol%、架橋剤のN,N‘-メチレンビスアクリルアミドを2mol%共重合したナノ微粒子)の合成と評価]
30mLの超純水に、N-イソプロリルアクリルアミド、DMAPM、N,N‘-メチレンビスアクリルアミドを、それぞれ93mol%、5mol%、2mol%(モノマー相濃度312mM)となるように溶解させ臭化セチルトリメチルアンモニウムを21.9mg溶解し、100mLのナスフラスコに入れてセプタムで密栓し、油浴で70℃に昇温した状態で、マグネティックスターラーで均一になるまで攪拌した。均一になったらセプタムにニードルを二本差し、一本の先を液面の下に、もう一本の先を液面の上に配置し、液面の下に配置したニードルに外部から窒素をゆっくりバブリングして30分脱気した。21mgの2,2‘-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)・二塩酸を0.3mlの超純水に溶解したものをニードルで溶液に添加し、窒素をつないだニードル以外を全て取り外し、窒素雰囲気下70℃で3時間反応を行った。セプタムを開封することで反応を停止させ10,000 Da MWCOの透析チューブに反応溶液を入れ大量の水を繰り返し取り替えながら三日間透析を行って、界面活性剤や未反応のモノマーを取り除いた。この電解質ナノ微粒子の溶液をナノ微粒子の濃度が10mg/mLになるように純水で希釈して、強陰イオン交換樹脂で全ての陰イオンを取り除いた後、30℃、45℃、60℃、75℃の各温度の溶液について、窒素をバブリングしながら塩酸水溶液を用いてpH滴定を行った。結果を
図17に示す。
図17において、30℃での溶液の滴定結果を(-○-)のプロットで、45℃での溶液の滴定結果を(-●-)のプロットで、60℃での溶液の滴定結果を(-□-)のプロットで、75℃での溶液の滴定結果を(-■-)のプロットで、それぞれ示した。なお、
図17の横軸は、ナノ微粒子1g当たりの滴定HClのmol量を示すものである。
図17より温度上昇と共に見かけのpKaが低下することがわかる。また60℃以上において見かけの中和点が二段階になり、75℃においては見かけのアミン量が半分以下になっていることがわかる。
【0063】
〔実施例5〕
[アミン基を含有した塩基性温度応答性ナノ微粒子電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを65mol%、DMAPMを30mol%、架橋剤のN,N‘-メチレンビスアクリルアミドを5mol%共重合したナノ微粒子)の合成と評価]
30mLの超純水に、N-イソプロリルアクリルアミド、DMAPM、N,N‘-メチレンビスアクリルアミドを、それぞれ65mol%、30mol%、5mol%(モノマー相濃度312mM)となるように溶解させ臭化セチルトリメチルアンモニウムを21.9mg溶解し、100mLのナスフラスコに入れてセプタムで密栓し、油浴で70℃に昇温した状態で、マグネティックスターラーで均一になるまで攪拌した。均一になったらセプタムにニードルを二本差し、一本の先を液面の下に、もう一本の先を液面の上に配置し、液面の下に配置したニードルに外部から窒素をゆっくりバブリングして30分脱気した。21mgの2,2‘-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)・二塩酸を0.3mlの超純水に溶解したものをニードルで溶液に添加し、窒素をつないだニードル以外を全て取り外し、窒素雰囲気下70℃で3時間反応を行った。セプタムを開封することで反応を停止させ10,000 Da MWCOの透析チューブに反応溶液を入れ大量の水を繰り返し取り替えながら三日間透析を行って、界面活性剤や未反応のモノマーを取り除いた。この電解質ナノ微粒子の溶液をナノ微粒子の濃度が1mg/mLになるように純水で希釈して、強陰イオン交換樹脂で全ての陰イオンを取り除いた後、その500mLをガス洗浄瓶に入れ10%二酸化炭素(90%窒素)ガスをバブリングした。30℃で一晩二酸化炭素を飽和させ、75℃に昇温した際の二酸化炭素の放散量をガスクロマトグラフにて定量した結果を
図18に(-○-)のプロットで示した。続いて75℃から30℃に降温した際の二酸化炭素吸収量をガスクロマトグラフにて定量した結果を
図19に(-○-)のプロットで示した。また同様の実験を低分子であるDMAPMモノマー水溶液(アミン濃度はナノ微粒子と一定)を用いて行った結果を
図18、
図19に(-●-)のプロットで示した。なお、
図18、
図19のグラフは同様の実験を純水で行った際の二酸化炭素放散・吸収量を差し引いてプロットした。
図18、
図19より、低分子のDMAPMモノマーが殆ど二酸化炭素を放散・吸収しない一方で、温度応答性のナノ微粒子からはアミン一分子当りほぼ一分子の二酸化炭素が吸脱着されていることがわかった。上記の溶液への二酸化炭素放散・吸収のサイクルを3回繰り返した際の繰り返し放散量・吸収量(同じ溶液1Lあたり)を
図20に示した。
【0064】
〔実施例6〕
[カルボン酸を含有した酸性温度応答性電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを68mol%、アクリル酸を10mol%、疎水性の強いN-t-ブチルアクリルアミドを20mol%、架橋剤のN,N‘-メチレンビスアクリルアミドを2mol%共重合したナノ微粒子水溶液)の合成とフィルム化および評価]
実施例1と同様の方法で調製した温度応答性電解質ナノ微粒子溶液を乾燥させメタノールに溶解した後にガラス半透膜上にキャストし、上からもう一枚の半透膜で挟み自然乾燥することで二枚の半透膜間に温度応答性の電解質フィルムを作成した。作成した膜を
図6に示すような膜透過実験装置にセットし、膜の両側から異なる温度のNaCl水溶液を接触させたときの両側の水溶液のpHおよびイオン濃度を観察した。その結果、低温側の水溶液のpHは低くかつ水素イオン濃度が高くなっており、一方高温側の水溶液のpHは高くかつ水酸イオン濃度が低くなっていることが確認できた。
【0065】
〔実施例7〕
[アミンを含有した塩基性温度応答性ナノ微粒子電解質(N-イソプロリルアクリルアミド(NIPAm)を93mol%、アミン含有モノマーを5mol%、架橋剤のN,N‘-メチレンビスアクリルアミドを2mol%共重合した高分子)の合成とフィルム化および評価]
30mLの超純水にN-イソプロリルアクリルアミド(NIPAm)を985mg、各種アミンを側鎖に持つアクリルアミドモノマー(DMAPM、アミノプロピルアクリルアミド(APM)、1-H-イミダゾール-4-N-アクリロイルエタンアミン)をN-イソプロリルアクリルアミドの93分の5モル当量、N,N‘-メチレンビスアクリルアミドを29mg(N-イソプロリルアクリルアミドの93分の2モル当量)、臭化セチルトリメチルアンモニウムを21.9mg溶解し、100mLのナスフラスコに入れてセプタムで密栓し、油浴で70℃に昇温した状態で、マグネティックスターラーで均一になるまで攪拌した。均一になったらセプタムにニードルを二本差し、一本の先を液面の下に、もう一本の先を液面の上に配置し、液面の下に配置したニードルに外部から窒素をゆっくりバブリングして30分脱気した。21mgの2,2‘-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)・二塩酸を0.3mlの超純水に溶解したものをニードルで溶液に添加し、窒素をつないだニードル以外を全て取り外し、窒素雰囲気下70℃で3時間反応を行った。セプタムを開封することで反応を停止させ10,000 Da MWCOの透析チューブに反応溶液を入れ大量の水を繰り返し取り替えながら三日間透析を行って、界面活性剤や未反応のモノマーを取り除いた。強陰イオン交換樹脂で水溶液中の全ての陰イオンを取り除いた後、乾燥させ白色粉末を得た。白色粉末をメタノールに溶解し、ガラスのU字管内にキャストし自然乾燥させることでガラス管内に固体の温度応答性電解質フィルムを形成させた。フィルムに所定量の水を添加し、20℃の飽和水蒸気含有10%二酸化炭素(90%窒素)を流通させた。ガラス管の温度を30℃と75℃の間で変化させたときの二酸化炭素の吸収量・放散量をガスクロマトグラフにより定量した。
なおガラス管の温度を30℃にすることは、二酸化炭素を吸収させることであり、75℃にすることは、吸収した二酸化炭素を放散させることである。
【0066】
〔実施例8〕
[アミン基を含有した塩基性温度応答性高分子電解質(N-イソプロリルアクリルアミドを95mol%、DMAPMを5mol%共重合した直鎖状高分子)の合成と評価]
実施例3と同様の方法で調製した温度応答性高分子電解質溶液を乾燥させ白色粉末を得た。白色粉末をメタノールに溶解し、ガラスのU字管内にキャストし自然乾燥させることでガラス管内に固体の温度応答性電解質フィルムを形成させた。フィルムに所定量の水を添加し、20℃の飽和水蒸気含有10%二酸化炭素(90%窒素)を流通させた。ガラス管の温度を30℃と75℃の間で変化させたときの二酸化炭素の吸収量・放散量をガスクロマトグラフにより定量した。
【0067】
上記実施例7及び8で作成した各フィルム(DMAMP5%mol含有ナノ微粒子からなるフィルム、AMP5%mol含有ナノ微粒子からなるフィルム、DMAMP5%mol含有直鎖状高分子からなるフィルム)と、参考・比較例として、NIPAmの単独重合体ナノ微粒子からなるフィルム、DMAMP98%mol含有直鎖状高分子からなるフィルム、及び、水非添加フィルムとを用いて、二酸化炭素の吸収量・放散量を測定した結果を、
図21に示す。
図21において、(A)はフィルム1g当たりの二酸化炭素の吸収または放散体積量(ml)を示し、(B)はフィルムのアミン基1mol当たりの二酸化炭素の吸収または放散mol量(mol)を示す。
アミン基を有するフィルムを用いたものは、十分な二酸化炭素の吸収及び放散が確認できた。
しかし、アミン基を有さない(NIPAmの単独重合体ナノ微粒子からなる)フィルムでは、二酸化炭素の吸収及び放散が僅かしか確認できなかった。また、水非添加フィルムを用いた場合には、二酸化炭素の吸収及び放散が全く確認できなかった。また、DMAMP98%mol含有直鎖状高分子からなるフィルムでは、十分な二酸化炭素の吸収及び放散が確認できたが、アミノ基1mol当たりの二酸化炭素の吸収または放散mol量は高くなかった。
【0068】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2011年8月19日付で出願された米国仮特許出願(61/525,421)及び2012年5月14日付で出願された米国仮特許出願(61/646,543)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
本発明のイオン濃度勾配発生システム、装置、方法、及び、温度応答性電解質材料によれば、電池等や、二酸化炭素等の酸性ガスの回収、イオン分離、燃料電池の効率化、その他のエネルギー変換等にも適用が可能である。