(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140506
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】官能化シラン及び電解質組成物及びこれらを含む電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
C07F 7/12 20060101AFI20220915BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20220915BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220915BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220915BHJP
【FI】
C07F7/12 T
C07F7/12 V CSP
C07F7/18 P
C07F7/12 L
C07F7/12 D
H01M10/052
H01M10/0569
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113476
(22)【出願日】2022-07-14
(62)【分割の表示】P 2020147415の分割
【原出願日】2015-10-05
(31)【優先権主張番号】62/059,663
(32)【優先日】2014-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514195610
【氏名又は名称】シラトロニクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】ペーニャ ウエソ ホセ アドリアン
(72)【発明者】
【氏名】オスマロフ デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ドン ジエン
(72)【発明者】
【氏名】ウスレー モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ポリーナ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ ポン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ リウ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート デボラ
(72)【発明者】
【氏名】ウエスト ロバート
(57)【要約】
【課題】電解質溶媒として使用され得る有機ケイ素化合物を提供する。
【解決手段】構造R
4-a-Si-(Sp-Y)
a-Z
bの化合物について記載する。式中、「a」は1~4の整数であり、「b」は0~(3×a)の整数であり、「b」=0の場合は不在である「Z」は「R」又は式(II)であり、式(II)中、各「R」はハロゲン、C
1-6直鎖若しくは分岐アルキル、アルケニル若しくはアルキニル又はC
1-6直鎖若しくは分岐ハロ-アルキル、ハロ-アルケニル若しくはハロ-アルキニルであり、各「Sp」はC
1-15直鎖若しくは分岐アルキレニル又はCMS直鎖若しくは分岐ハロ-アルキレニルであり、各「Y」は有機極性基である。これらの化合物の1種以上を含有する電解質組成物についても記載する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
から成る群から選択される化合物であって、
「a」は2~4の整数であり、「b」は0~(3×a)の整数であり、
「Z」は、「b」=0の場合は存在せず、「R」及び
から成る群から選択され、
各「R」は、独立して、ハロゲン、C
1-6直鎖又は分岐アルキル、アルケニル又はアルキニル及びC
1-6直鎖又は分岐ハロ-アルキル、ハロ-アルケニル又はハロ-アルキニルから成る群から選択され、
式I及びII中の各「Sp」は、独立して、C
1-15直鎖又は分岐アルキレン及びC
1-15直鎖又は分岐ハロ-アルキレンから成る群から選択され、
式I中の各「Y」は、独立して、
から成る群から選択され、湾曲した結合はC
2-6アルキレン架橋部分を示す、化合物。
【請求項2】
各「Y」は、独立して、
から成る群から選択される有機極性基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
各「R」は、独立して、フッ素、及びC1-6直鎖又は分岐フルオロ-アルキル、フルオロ-アルケニル又はフルオロ-アルキニルから成る群から選択され、
式I及びII中の各「Sp」は、独立して、C1-15直鎖又は分岐フルオロ-アルキレンから成る群から選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
「a」は2であり、「b」は0~2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立して、C1-6直鎖アルキレン及びC1-6直鎖フルオロ-アルキレンから成る群から選択される、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
「a」は2であり、「b」は0~6である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立して、C1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
「a」は3であり、「b」は0~9である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立してC1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、請求項10に記載の化合物。
【請求項13】
「a」は4であり、「b」は0~12である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立して、C1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、請求項13に記載の化合物。
【請求項16】
少なくとも1つの「R」はフッ素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を、塩と組み合わせて含む、電解質組成物。
【請求項18】
前記塩がリチウム含有塩である、請求項17に記載の電解質組成物。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の電解質組成物を含む電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願に援用される2014年10月3日に出願の米国仮特許出願第62/059663号の優先権をここに主張する。
【0002】
リチウムイオンバッテリ中の液状電解質は従来、リチウム塩(通常はLiPF6)をエチレンカーボネート(EC)と1種以上の共溶媒、例えばジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)又はエチルメチルカーボネート(EMC)との有機溶媒ブレンド物中に含む。残念ながら、LiPF6は、60℃を超えると、また充電電圧が4.3ボルトを超えるとこれらのカーボネート溶媒中で不安定となる。これらの温度又は電圧を超えた状態でリチウムイオンバッテリを使用すると電極材料及びバッテリ性能が急速に劣化する。加えて、現行のリチウムイオン電解質溶媒の引火点は35℃前後であり、リチウムイオンセルに極端な異常が生じた際に放出されるエネルギーの主な供給源である。これらの大きな制約を考えると、現行の電解質は、携帯用製品、電気駆動車(EDV)を含めた全ての用途及び発電所規模用途向けの進化したリチウムイオンバッテリの開発を妨げている。バッテリの故障率を劇的に低下させることも、大型リチウムイオンバッテリをEDV及び供給網での電気貯蔵における用途で効果的に役立てるために必要とされる。
【0003】
したがって、エネルギー貯蔵デバイス、例えばリチウムイオンバッテリにおける改善された電解質溶液が求められているが、そのニーズは長きにわたって満たされていない。
【発明の概要】
【0004】
本明細書で開示するのは、数ある他の用途の中でもとりわけ、電気化学デバイスにおいて電解質溶媒として使用するための有機ケイ素(OS)化合物である。
【0005】
概して、OS化合物は環境に優しく、不燃性で高温耐性の材料である。こういった特徴がOS材料を、エネルギー貯蔵デバイスにおける電解質溶媒、バインダ及びコーティングとしての使用によく適したものにしている。OS系の電解質は、一次及び充電式バッテリを含めた全てのリチウム(Li)系電気化学系(すなわち、リチウムイオン、リチウム空気)及びキャパシタ(すなわち、スーパー/ウルトラキャパシタ)に適合する。OS系電解質をリチウムバッテリに取り入れる過程でのセルのデザインにおける変更は限られたものであり、これらの電解質は既存の製造工程及び設備での生産作業に組み入れることができる。
【0006】
本明細書に記載のOS化合物は、伝統的なリチウムイオンバッテリ中のカーボネート系溶媒系に代わる液状電解質溶媒として使用できる。このOS系溶媒によりリチウムイオンバッテリの性能及び酷使に対する耐性は大幅に改善され、改善点にはより長い寿命にわたって高温での熱安定性が向上すること、電解質引火点が上昇して安全性が改善されること、電圧安定性が向上するため高電圧カソード材料の使用及びより高いエネルギー密度の達成が可能になること、EDV及び供給網での電気貯蔵用途で使用する大型リチウムバッテリの要件と一致する低いバッテリ故障率並びに現行のデザインで採用し易くするための、リチウムイオンバッテリで現在使用されている材料との適合性が含まれる。電気二重層キャパシタ(EDLC)デバイスもOS系電解質で機能すると実証されている。工業、軍事及び消費者向け製品デバイスにおける特定用途の要件を満たすように、本明細書に記載のOS化合物をOS系電解質ブレンド物において使用できる。
【0007】
本発明の化合物及び電解質調合物の目的及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から十二分に明らかとなる。
【0008】
したがって、本明細書で開示するのは以下である。
1.
【化1】
から成る群から選択され、
「a」は1~4の整数であり、「b」は0~(3×a)の整数であり、
「Z」は、「b」=0の場合は存在せず、「R」及び
【化2】
から成る群から選択され、
各「R」は独立してハロゲン、C
1-6直鎖又は分岐アルキル、アルケニル又はアルキニル及びC
1-6直鎖又は分岐ハロ-アルキル、ハロ-アルケニル又はハロ-アルキニルから成る群から選択され、
式I及びII中の各「Sp」は独立してC
1-15直鎖又は分岐アルキレニル及びC
1-15直鎖又は分岐ハロ-アルキレニルから成る群から選択され、
式I中の各「Y」は独立して有機極性基から成る群から選択される化合物。
【0009】
2.各「Y」は独立して
【化3】
から成る群から選択される有機極性基であり、湾曲した結合はC
2-6アキレン(akylene)架橋部分を示す、請求項1に記載の化合物。
【0010】
3.各「Y」は独立して
【化4】
から成る群から選択される有機極性基である、請求項2に記載の化合物。
【0011】
4.各「R」は独立してフッ素及びC1-6直鎖又は分岐フルオロ-アルキル、フルオロ-アルケニル又はフルオロ-アルキニルから成る群から選択され、
式I及びII中の各「Sp」は独立してC1-15直鎖又は分岐フルオロ-アルキレニルから成る群から選択される、請求項3に記載の化合物。
【0012】
5.「a」は1であり、「b」は0~3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【0013】
6.「b」は1であり、「Z」は「-R」である、請求項5に記載の化合物。
【0014】
7.少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立してC1-6直鎖アルキレン及びC1-6直鎖フルオロ-アルキレンから成る群から選択される、請求項5に記載の化合物。
【0015】
8.「a」は2であり、「b」は0~6である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【0016】
9.「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項7に記載の化合物。
【0017】
10.少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立してC1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、請求項7に記載の化合物。
【0018】
11.「a」は3であり、「b」は0~9である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【0019】
12.「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項11に記載の化合物。
【0020】
13.少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立してC1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、請求項11に記載の化合物。
【0021】
14.「a」は4であり、「b」は0~12である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【0022】
15.「b」は1であり、「Z」は「R」である、請求項14に記載の化合物。
【0023】
16.少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立してC1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、請求項14に記載の化合物。
【0024】
17.少なくとも1つの「R」はフッ素である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【0025】
18.請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物を塩と組み合わせて含む電解質組成物。
【0026】
19.塩がリチウム含有塩である、請求項18に記載の電解質組成物。
【0027】
20.請求項18に記載の電解質組成物を含む電気化学デバイス。
【0028】
本発明の化合物のより限定的なバージョンにおいて、各「Y」は独立して
【化5】
から成る群から選択される有機極性基である。
【0029】
加えて、各「Y」は任意で且つ独立して
【化6】
から成る群から選択される有機極性基になり得る。
【0030】
本発明の化合物の代替のバージョンにおいて、「a」は1であり、「b」は0~2であり、任意で「b」は1であり、「Z」はRである。このバージョンにおいて、任意の実施形態は、少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立して、フッ素化し得るC1-6直鎖又は分岐アルキレンから成る群から選択されるものである。
【0031】
本発明の化合物の別の代替のバージョンにおいて、「a」は2であり、「b」は0~6であり、任意で「b」は1であり、「Z」はRである。このバージョンにおいて、任意の実施形態は、少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立して、フッ素化し得るC1-6直鎖又は分岐アルキレンから成る群から選択されるものである。
【0032】
本発明の化合物のさらに別の代替のバージョンにおいて、「a」は3であり、「b」は0~9であり、任意で「b」は1であり、「Z」はRである。このバージョンにおいて、任意の実施形態は、少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立して、フッ素化し得るC1-6直鎖又は分岐アルキレンから成る群から選択されるものである。
【0033】
本発明の化合物のさらに別の代替のバージョンにおいて、「a」は4であり、「b」は0~12であり、任意で「b」は1であり、「Z」はRである。このバージョンにおいて、任意の実施形態は、少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は独立して、フッ素化し得るC1-6直鎖又は分岐アルキレンから成る群から選択されるものである。
【0034】
本明細書では、本明細書に記載の化合物を塩と組み合わせて含む電解質組成物も開示する。リチウム含有塩が好ましい。本明細書では、この電解質組成物を含む電気化学デバイスも開示する。
【0035】
下付き文字「a」及び「b」の性質から、以下の一般構造は明確に本明細書で開示及び請求の化合物の範囲内にある。
【化7】
様々なR基は「R」に関して上で定義した通りであり、Spは上で定義した通りであり、Yは上で定義した通りである。好ましくは、本発明の化合物の全てのバージョンにおいて、YはLi
+に配位できる有機極性基である。
【0036】
極性基Yが2以上の価を有する場合、基は2つ以上の置換部位を有する。したがって、Yにはスペーサ基を介して2つ以上のケイ素原子が結合し得て、Zの定義について上で述べた通りである。したがって、以下の構造も明確に本明細書で開示及び請求の化合物の範囲内にある。
【化8】
など。
【0037】
本発明の化合物の全てのバージョンにおいて、「ハロゲン」はフルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを含む。フルオロ及びクロロは好ましいハロゲン置換基である。用語「塩」は本明細書においてその慣用的な化学的意味合いで使用され、酸及び塩基の中和反応で生じるイオン化合物を意味する。本明細書において、塩は目的をもって広く定義されており、以下に限定するものではないが、ナトリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、ホウ酸塩、リン酸塩等を含めた全ての塩を含む。非限定的な例には、ナトリウムヘキサフルオロホスフェート、過塩素酸ナトリウム、ナトリウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミド、マグネシウムヘキサフルオロホスフェート、過塩素酸マグネシウム、マグネシウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミド、マグネシウムテトラフルオロボレート、マグネシウムトリフルオロメチルスルホネート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEA-TFB)、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムパークロレート及びテトラエチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミデートが含まれる。用語「リチウム含有塩」には明確に、以下に限定するものではないが、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、LiN(SO2C2F5)2、リチウムアルキルフルオロホスフェート及びリチウムビス(キラト(chelato))ボレートが含まれる。
【0038】
本明細書では、これまでの段落に記載された1種以上の有機ケイ素化合物を含む電解質組成物も開示する。本明細書では、そのような電解質組成物を含む電気化学デバイスも開示する。本明細書で開示の化合物は、ありとあらゆる種類の電荷貯蔵デバイス(例えば、セル、バッテリ、キャパシタ等)で使用するための電解質の調合に極めて有用である。
【0039】
本明細書で開示の有機ケイ素溶媒分子は、慣用のカーボネート溶媒と比較して目覚しくも思いもよらない熱安定性を有する。LiPF6等のリチウム塩を含む電解質組成物に調合する場合でさえ、この有機ケイ素溶媒は、高温への曝露及び動作中のブレイクダウンに対する際立った耐性を示す。実施例及び図で示すように、本明細書で開示の有機ケイ素溶媒分子の幾つかの変化形は、LiPF6の存在下、175℃まで及びそれを超えた温度で熱安定性を示している。これらのデータは、有機ケイ素分子デザインにおける必須の安定化元素としてのケイ素が本質的に有する強みを実証している。本明細書で開示の分子の変化形には、非フッ素化、フッ素化、多フッ素化、多官能性及び代替のアルキル構造体、また多くの異なるLi+配位官能基が含まれる。官能基には、数多くの中でもとりわけニトリル、カーボネート、スルホン及びエステルが含まれる。175℃への60分間にわたる曝露後、気相及び液相分解の両方をそれぞれEI-MS及びNMRで測定することで有機ケイ素溶媒に1MのLiPF6塩をプラスした電解質のブレイクダウンを判定した。OS溶媒の著しい気相又は液相分解は観察されなかった。
【0040】
本明細書における数値範囲には、具体的に開示されているか否かに関わらず、その範囲に含まれる全ての数字及び数字の部分集合が含まれるものとする。さらに、これらの数値範囲は、その範囲内の任意の数字又は数字の部分集合を対象とした請求項をサポートすると解釈される。例えば、1~10と開示した場合、2~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9等の範囲をサポートすると解釈される。
【0041】
本発明の単数の特徴又は制約への言及は全て、そうではないと明記されない限り又は言及した際の文脈から反対であるとはっきりと含意されない限り、対応する複数の特徴又は制約を含み、またその逆も同様である。明確に単数に限定されない限り、不定冠詞の「ある~」は「少なくとも1つ」を意味するものとする。
【0042】
そうではないと明記されない限り又は組み合わせに言及した際の文脈から反対であるとはっきりと含意されない限り、本明細書における方法又は工程ステップの組み合わせは全て任意の順序で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1Aは、F1S
3MN+LiPF
6、LiBF
4又はLiTFSIの酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
図1Bは、
図1Aと同じデータの詳細図である。
【
図2】
図2A及び
図2Bは、二重に測定したF1S
3MN+LiPF
6、LiBF
4又はLiTFSIの還元安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
【
図3】
図3Aは、F1S
3MN又はF1S
3M2+1MのLiPF
6の酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
図3Bは、
図3Aと同じデータの詳細図である。
【
図4】F1S
3MN又はF1S
3M2+1MのLiPF
6の還元安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
【
図6】F1S
3M2+LiPF
6の熱安定性を示す。
【
図7】F1S
3MN+LiTFSIの熱安定性を示す。
【
図8】F1S
3MN+LiBF
4の熱安定性を示す。
【
図10】DF1S
3MN+20%EC及びVC/LiBOBの熱安定性を示す。
【
図11】脱リチウム化NCAカソードで加熱されたカーボネートのコントロールと比較したF1S
3MN電解質の安定性の強化を示す。
【
図12】様々なCレート、30℃での様々な電解質溶媒を含むセルの放電容量を示す。
【
図14】様々なCレート、55℃での、
図12と同じ電解質溶媒を含むセルの放電容量を示す。
【
図16】DF1S
2MN電解質+TEA-BF
4を含むEDLCデバイスの性能を示す。
【
図17】様々な電解質溶媒+TBP-PF
6を含むEDLCデバイスの性能を示す。
【
図18】1ND1N+1MのLiPF
6又は1MのLiTFSIの酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
【
図19】1ND1N+1MのLiPF
6又は1MのLiTFSIの還元安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
【
図20】
図20A及び
図20Bは、1ND1N及び1MのLiPF
6又は1MのLiTFSIでの0から6V、6から0Vでサイクル走査する場合の電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)を示す。
図20Aは第1サイクルを示す。
図20Bは第2サイクルを示す。
【
図21】
図21Aは、F1S
3MN又は1ND1N+1MのLiPF
6の酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
図21Bは、
図21Aと同じデータの詳細図である。
【
図22】
図22Aは、F1S
3MN又は1ND1N+1MのLiTFSIの酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。
図22Bは、
図22Aと同じデータの詳細図である。
【
図23】純粋な1ND1Nの熱安定性を示す質量スペクトルである。
【
図24】1ND1N+LiPF
6の熱安定性を示す質量スペクトルである。
【
図25】
図25Aは、
図24の質量スペクトルプロファイルの24~30m/zの詳細図である。
図25Bは、
図24の質量スペクトルプロファイルの49~55m/zの詳細図である。
【
図26】1ND1N+LiTFSI、ビニレンカーボネート(VC)及びリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)の熱安定性を示す。
【
図27】1ND1N+LiBF
4の熱安定性を示す。
【
図28】様々なCレートでの様々な電解質を含むセルの放電容量を示す。
【
図29】様々な他の電解質溶媒を含むセルの放電容量を示し、第1サイクルと第50サイクルとを比較している。
【
図30A】様々なCレートでの1ND1N-LiPF
6系電解質を含むセルの放電容量を示す。
【
図30B】様々なCレートでの1ND1N-LiTFSI系電解質を含むセルの放電容量を示す。
【
図31】ピークを帰属させた1ND1Nの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3中)を示す。
【
図32】ピークを帰属させたF1S
3MNの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3中)を示す。
【
図33】ピークを帰属させたDF1S
2MNの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3中)を示す。
【
図34】ピークを帰属させたDF1S
3MNの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3中)を示す。
【
図35】ピークを帰属させたF1S
3cMNの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3中)を示す。
【
図36】ピークを帰属させた1S
3MNの
1H-NMRスペクトル(CDCl
3中)を示す。
【
図37】175℃での60分後のF1S
3MC、F1S
3cMN及び1S
3DN+1MのLiPF
6の気相分解を示す。図は、175℃まで顕著な気相分解がないことを示す。
【
図38】175℃での60分後のDF1S
2MN、TF1S
2MN及びTF1S
3MN+1MのLiPF
6の気相分解を示す。図は、175℃まで顕著な気相分解がないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
明細書全体を通して、様々な有機ケイ素化合物をより簡単に記載するのに多数の省略した略語を用いる。以下の約束事を用いる。
【0045】
FnSnMN化合物は一般式:
【化9】
を有し、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なり、独立してC
1~C
6直鎖又は分岐アルキル、アルケニル、アルキニル又はハロゲン(好ましくは、F)から成る群から選択され、「スペーサ」はC
1~C
6直鎖又は分岐アルキレン(好ましくは、C
1~C
6直鎖二価アルキレン)であり、Yは前述の極性有機部分である。
【0046】
本明細書で開示の化合物は多数の異なる経路で生成できる。化合物の生成に用いることができる一般的なアプローチは以下の通りである。
【化10】
R
1、R
2及びR
3基は本明細書においてRに関して定義した通りである。R
4はYと同じ定義を有する。「n」は正の整数である。
【0047】
本明細書で開示の化合物は以下のアプローチでも生成できる。
【化11】
ここでもまた、R
1、R
2及びR
3基は本明細書においてRに関して定義した通りである。R
4はYと同じ定義を有する。
【0048】
本明細書で開示の化合物は、以下の反応スキームを含めた多数の特定の経路でも生成される。
【化12】
及び
【化13】
及び
【化14】
及び
【化15】
及び
【化16】
及び
【化17】
(R
4はYに関して上で定義した通りである)
及び
【化18】
(R
4はYに関して上で定義した通りである)
及び
【化19】
(R
4はYに関して上で定義した通りである)
【0049】
LiTFSI、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(Sigma-Aldrichカタログ番号449504)は、幾つかの国際的なサプライヤにより供給される市販品である。
【化20】
【0050】
明記されるか否かに関わらず、本明細書に記載の要素及び方法ステップは任意の組み合合わせで用いることができる。
【0051】
そうではないと明記されない限り又は組み合わせに言及した際の文脈から反対であるとはっきりと含意されない限り、本明細書における方法ステップの組み合わせは全て任意の順序で行うことができる。
【0052】
本明細書において、文脈から明らかにそうではない場合を除いて、単数形は複数の指示物を含む。
【0053】
本明細書で引用する全ての特許、特許公報及び同業者により論評される出版物(すなわち、「参考文献」)は、各個別の参考文献が参照により援用されるものとして具体的且つ個別に示された場合と同程度まで参照により明確に援用される。本開示と援用した参考文献とが対立する場合は、本開示が優先される。
【0054】
本明細書で開示の化合物及び組成物は本明細書に図示及び記載のパーツの特定の構成及び配置に限定されず、請求項の範囲内となるようなその改変された形態をも含むと理解される。
【0055】
本開示の化合物は、1つ以上の末端又は内部極性有機置換基又は部分の形態の共通する構造的特徴を有する有機ケイ素化合物である。本明細書において、用語「極性有機置換基」及び「極性有機部分」は交換可能に使用される。用語は、以下に限定するものではないが、明確に以下の官能基を含む。
【化21】
【化22】
【0056】
好ましい化合物に含まれるのは、以下の構造体である。
【化23】
【化24】
【0057】
上記の構造体は全て末端シアノ基をつけて描かれている。これは簡潔さを目的としたものにすぎない。シアノ部分の代わりに上述したような内部及び/又は末端極性部分を有する類似化合物は明確に本開示の範囲内にある。同様に、ハロゲン化化合物を上ではフッ素化化合物として描いている。フッ素原子の代わりに他のハロゲン置換基(塩素、臭素及び/又はヨウ素)を有する類似化合物は明確に本開示の範囲内にある。列挙した各化合物について、2つの択一的な系統名を与える(各対の名前の第1の名前は基礎を成すコアをニトリルとし、第2の名前は基礎を成すコアをシランとする)。加えて、各化合物には省略した名称が与えられており、DF=ジフルオロ、TF=トリフルオロであり、「Sn」はケイ素原子と末端シアネート、イソシアネート又はチオシアネート部分との間のアルキレンスペーサを示し、「n」はスペーサ中の炭素原子の数を表す。選択した有機ケイ素(OS)化合物の物理的性質を表1に示す。
【0058】
類似スルホンの合成は、以下の例証となる、記載の化合物1NMS、F1S3MS及びDF1S3MSの合成を用いて達成できる。本明細書に含まれるより広い開示内におさまる他のスルホンも、単に適宜開始試薬を変更することで同じ経路で生成できることに留意されたい。
【0059】
1NMSの合成は以下の通りに進行した:2-(メチルスルホニル)エタノールを0.5モル当量のヘキサメチルジシラザン及び触媒としての約1%モル当量のAl(H
2PO
4)
3と、溶媒なしで混合した。混合物を約80℃で一晩維持し、2回蒸留すると純粋な1NMSが得られた。
【化25】
【0060】
F1S
3MSの合成は以下の通りに進行した:アリルメチルスルフィドをエタノールに溶解させ、4モル当量のH
2O
2と混合した。約3%モル当量のアンモニウムヘプタモリブデートを酸化用の触媒として添加した。次の日、溶液をNaHCO
3溶液で中和し、CH
2Cl
2で抽出し、水画分を廃棄し、有機層を蒸発させ、蒸留するとアリルメチルスルホンが得られた。アリルメチルスルホンを、カールシュテット触媒を使用してジメチルクロロシランでヒドロシリル化した。生成物を、NaFHFを使用して約150℃でフッ素化し、濾過し、2回蒸留し、モレキュラーシーブ上で乾燥させると純粋なF1S
3MSが得られた。
【化26】
DF1S
3MSの合成は以下の通りに進行した:3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランをエタノールに溶解させ、水中の1モル当量のNaOHと混合した。次に、1モル当量のMe
2SO
4を混合物に添加し、一晩還流させた。固形物を濾別した。粗生成物を4モル当量のH
2O
2及び3%モル当量のアンモニウムヘプタモリブデートで酸化させた。溶媒を蒸発させ、水中の2モル当量のHFを添加した。生成物をCH
2Cl
2で抽出し、蒸留した。
【化27】
【0061】
これらのスルホン化合物に関する追加のキャラクタリゼーションデータは、本明細書に添付、援用される付属書類に含まれる。
【0062】
表1に示すように、フッ素の追加及びスペーサ長さの短縮により粘度は低下し、伝導率は上昇し、引火点は低下した。DF1S2MNは最低粘度及び最高伝導率を有する。
【0063】
【0064】
純粋な1ND2、1ND1、1ND1N、F1S3MN、DPF1S3MN、F1S3MC、F1S3ME、F1S3MA、F1S3MS、1NMS、F1S3M2及びF1S3cMN、またこれらの溶媒を含有する電解質溶液の物理的性質を表2に示す。
【0065】
【0066】
本明細書で開示の有機ケイ素化合物に加えて、本発明の電解質組成物は慣用の非ケイ素共溶媒を含み得る。例えば、本発明の電解質組成物はニトリル及びカーボネート、例えばアセトニトリル、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)又はエチルメチルカーボネート(EMC)を含み得る。本電解質組成物は非ケイ素共溶媒を広い範囲の濃度で含み得て、以下に限定するものではないが、約1~約40質量%が含まれる。適切な共溶媒の濃度の例には、約1質量%、約5質量%、約10質量%、約15質量%、約20質量%、約25質量%、約30質量%、約40質量%又は前出の量の間及びそれを含む範囲が含まれる。
【実施例0067】
F1S
3MN合成:
スキーム1は、F1S
3MNの合成スキームを示す。[F]はフッ素化剤、例えばHF、NH
4FHF又は他のフッ素化剤を示す。NH
4FHFは好ましくは実験室規模での合成向けのフッ素化剤として使用する。HFを使用するならば、唯一の副生成物はHClである。合成したF1S
3MN化合物を固形塩からヘキサンで洗い出し、蒸留し、CaOで乾燥させ、再度蒸留する。
【化30】
スキーム1
【0068】
スキーム2は、フッ素化剤としてNH
4FHFを使用したF1S
3MNの合成スキームを示す。カールシュテット触媒(白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体溶液、カタログ番号479519、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)を使用して、約3%の置換が第2級炭素で起き、イソF1S
3MNが生成される。このイソF1S
3MNはF1S
3MNより低い沸点を有し、その大半が分留で分離できる。
【化31】
【0069】
スキーム3は、Cl1S
3MN中間体を使用したF1S
3MNの代替のより短い合成スキームを示す。Cl1S
3MN中間体はGelest,Inc.(製品コードSIC2452.0、11イースト・スティール・ロード、モリスヴィル、ペンシルバニア州)から調達できる。Cl1S
3MN中間体の使用により合成にかかる時間が短縮される。
【化32】
スキーム3
【0070】
スキーム4は、F1S
3MNのさらに別の合成スキームを示す。スキーム1と同様に、[F]はフッ素化剤、例えばHF、NH
4FHF又は他のフッ素化剤を示す。この合成スキームにおいてHFをフッ素化剤として使用しても固形の副生成物が発生しないため、ヘキサン抽出及び固形物の濾過は必要ない。唯一の副生成物はHClである。
【化33】
スキーム4
【0071】
スキーム5は、F1S
3MNのさらに別の合成スキームを示す。スキーム1と同様に、[F]はフッ素化剤、例えばHF、NH
4FHF又は他のフッ素化剤を示す。
【化34】
【0072】
F1S3MNの合成:
好ましい経路において、シアン化アリルを、少量のカールシュテット触媒と共に約100℃まで加熱する。ジメチルクロロシランを滴加し、4時間にわたって還流させた。室温まで冷却した後、混合物を1モル当量のフッ化水素アンモニウムを室温で使用してフッ素化した。冷たいヘキサンを混合物に添加し、固形物を濾別し、溶媒を蒸発させた。酸化カルシウムを粗生成物に添加し、真空下、45~55℃、0.4Torrで蒸留すると所望の生成物F1S3MNが得られた。
【0073】
【0074】
好ましい経路において、酢酸アリルをジメチルクロロシランと混合し、少量のカールシュテット触媒を添加する。混合物を一晩反応させた。次の日、混合物を0.33モル当量の三フッ化アンチモンを室温で使用して一晩、強く撹拌しながらフッ素化した。次の日、固形物を濾別し、生成物を真空下、25~30℃、0.3Torrで蒸留すると所望の生成物F1S3MEが得られた。
【0075】
このエステルは、電解質組成物中の電気化学溶媒として適している。F1S3MEは1MのLiPF6との良好な溶解性を有し、室温で速やかに溶解する。その引火点は66℃で許容範囲であり、その誘電率も6.6で同様である。そのCV酸化/還元挙動も同様にリチウムイオン電荷貯蔵セルに適している。80%のF1S3ME電解質でのセルのフルサイクルは安定しており、容量は良好であった。30℃で極めて低い電流密度を5V以下の電位で保持した。F1S3MEは、基礎となるPt酸化及びグラファイト還元により電気化学的に実行可能である。通常の還元挙動を第1サイクルで示し、第2サイクルでパッシベーションが観察された。26サイクルにわたって、F1S3MEは、NMC/グラファイト電極系における80%電解質調合物において良好にサイクルした(データは示さず)。
【0076】
【0077】
ビス(シアノプロピル)ジクロロシランを2モル当量のHF水溶液と室温で混合し、一晩反応させた。粗生成物をジクロロメタンで抽出し、溶媒を蒸発させ、生成物を真空下、165℃、0.1Torrで蒸留すると所望の生成物DF1S3DNが得られた。
【0078】
【0079】
DF1S3DNをTHFに溶解させ、氷浴で冷却し、次に2モル当量のメチルマグネシウムブロミドを添加し、ゆっくりと室温に達するまで混合物を反応させた。混合物をエタノールでクエンチし、粗生成物をジクロロメタンで抽出し、溶媒を蒸発させ、生成物を真空下、125℃、0.2Torrで蒸留すると所望の生成物1S3DNが得られた。
【0080】
【0081】
シアノプロピルトリクロロシランを氷浴で冷却し、4モル当量のHF水溶液を滴加した。混合物を2時間以下にわたって反応させた。粗生成物をジクロロメタンで抽出し、溶媒を蒸発させ、生成物を真空下、25℃、0.2Torrで蒸留すると所望の生成物TF1S3MNが得られた。
【0082】
DPF1S
3MNの合成:
【化39】
スキーム10
【0083】
ビス(イソプロピル)シアノプロピルクロロシランをTHFに溶解させ、氷浴で冷却し、次に1モル当量のHF水溶液を滴加し、室温で一晩反応させた。次の日、溶媒を蒸発させ、生成物を真空下、60℃、0.2Torrで蒸留すると所望の生成物DPF1S3MNが得られた。
【0084】
DPF1S3MNを生成することで、ケイ素原子上のアルキル基が大きくなると分子の物理的特性及び電子的特性がどのように影響を受けるかを調べた。この化合物はLiPF6との良好な溶解性を有し、室温で速やかに溶解する。約5Vまでサイクリックボルタンメトリ(CV)において安定した酸化挙動を示した。そのCV還元挙動も良好であり、第2サイクルでパッシベーションが起きた。この化合物は高温(引火点=118℃)及び約5Vまでの電位での電気化学的用途に適している。DPF1S3MNは、基礎となるPt酸化及びグラファイト還元により電気化学的に実行可能である。
【0085】
DF1S
3MSOの合成:
【化40】
スキーム11
【0086】
DF1S3MSOが、記載の手順にしたがったDF1S3MSの合成中の不完全な酸化の副生成物として得られた。DF1S3MSOを、真空下、40℃、0.1Torrでの蒸留により精製した。
【0087】
【0088】
この合成においては、2モル当量のジメチルアリルアミンを1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び少量のカールシュテット触媒と混合する。混合物を100℃まで加熱し、一晩反応させる。次の日、混合物を、0.67モル当量の三フッ化アンチモンを使用して150℃で一晩、力強く撹拌しながらフッ素化した。次の日、固形物を濾別し、生成物を真空下、20~25℃、0.2Torrで蒸留すると所望の生成物F1S3MAが得られた。
【0089】
【0090】
アリルアルコールを、ヘキサメチルジシラザンで、触媒量のアルミニウム二水素ホスフェートを80℃で使用して一晩、シリル化した。ヒドロシリル化前に、中間体アリルオキシトリメチルシランを蒸留することで精製した。ヒドロシリル化を一晩、1モル当量のジメチルクロロシラン及び少量のカールシュテット触媒を80℃で用いて行った。次の日、混合物を2モル当量のフッ化水素酸水溶液を室温で使用し、力強く撹拌しながらフッ素化及び加水分解すると(3-ヒドロキシプロピル)ジメチルフルオロシランが得られ、次のステップの前にこれを蒸留した。最後の中間体をヘキサンに溶解させ、1モル当量のトリメチルアミンを添加し、混合物を氷浴で冷却し、メチルクロロホルメートを混合物に滴加し、次に一晩、室温で反応させた。次の日、固形物を濾別し、溶媒を蒸発させ、生成物を真空下、28℃間、0.2Torrで蒸留すると所望の生成物F1S3MCが得られた。
【0091】
F1S3MCを合成し、一般に使用されているカーボネートの電気化学的性能をシリル類似体と比較した。F1S3MCのCV酸化及び還元は電気化学的用途に適していると判明した。合成は極めて良好であり、F1S3MCが>99.8%の純度で得られた。F1S3MCは1MのLiPF6に室温で速やかに溶解した。30℃で許容可能なサイクルを良好な容量でもって示した。F1S3MCは、電位約5Vまで良好な酸化安定性も示した。CVにおいて、還元は第1サイクルにおいて2つのピークを示し(1.7V及び0.6V)、第2サイクルでパッシベーションが見られた。
【0092】
有機ケイ素材料の電気化学的安定性の測定
計算化学法を用いて、様々な有機ケイ素分子の電気化学的性質を計算した。発明者らは、アイオワ州立大学のGordon研究チームが密度汎関数理論(DFT)分子軌道計算のために開発したGAMESSプログラムを用いた。HOMO(最高被占分子軌道)及びLUMO(最低空分子軌道)エネルギーレベル(化合物の還元及び酸化電位と相関)をB3LYP/DZVレベルで計算した。有機ケイ素溶媒を含有する電解質の酸化安定性を、線形掃引ボルタンメトリ(LSV)又はサイクリックボルタンメトリ(CV)を用いて3電極セルで測定した。白金マイクロ電極を作用電極、リチウム金属を対電極及び基準電極の両方として使用した。系の電位を、開回路電圧(OCV)から6又は8V(対Li/Li+)へと走査速度10mV/sで上昇させた。得られた電流密度(mA/cm2)を各電位で記録し、高い電流は酸化反応を示す(すなわち、低い酸化安定性)。線形掃引ボルタンメトリの場合は、8Vを最終電位として用いることで、より広い電圧範囲にわたって材料の基本的な酸化安定性を評価した。サイクリックボルタンメトリの場合は、6Vを用いて、従来のバッテリ用途により深く関係した電位で材料を複数回の走査にわたって評価した。複数回の走査をサイクリックボルタンメトリ実験で行うことで、観察された反応の可逆性/不可逆性を判定した。
【0093】
有機ケイ素溶媒を含有する電解質の還元安定性を、線形掃引ボルタンメトリ(LSV)を用いて3電極セルにおいて測定した。ガラス炭素電極を作用電極、リチウム金属を対電極及び基準電極の両方として使用した。系の電位を、開回路電圧(OCV、典型的には3V)から0.1V(対Li/Li+)へと走査速度10mV/sで低下させた。得られた電流密度(mA/cm2)を各電位で記録し、大きい電流は還元反応を示す(すなわち、低い還元安定性)。2回の走査を行うことで、還元工程が可逆的であるか不可逆的であるか(すなわち、パッシベーションが行われる)を評価した。
【0094】
F1S3MNの電気化学安定性:
F1S3MN及びF1S3M2に関する分子軌道図は(図示せず)、最高被占分子軌道(HOMO)と最低空分子軌道(LUMO)とのエネルギー差はF1S3MN(9.07eV)のほうがF1S3M2(8.20eV)より大きいことを示す。F1S3MNは、F1S3M2(-6.84eV)より高い酸化電位(-8.75eV)も有する。
【0095】
図1A及び1Bは、F1S
3MN+LiPF
6、LiBF
4又はLiTFSIの酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。酸化安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。
図1Bは
図1Aと同じデータの詳細図である。F1S
3MN-LiPF
6電解質は最良の酸化安定性を示し、電流密度1mA/cm
2を7.3Vで有し、それに対してF1S
3MN-LiBF
4及びF1S
3MN-LiTFSIはそれぞれ電流密度1mA/cm
2を6.8V及び6.2Vで有した。
【0096】
図2A及び2Bは、F1S
3MN+LiPF
6、LiBF
4又はLiTFSIの還元安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。還元安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。
図2A及び2Bは2つの別々の走査である。F1S
3MN-LiPF
6電解質は最良の還元安定性を示した。
【0097】
図3A及び3Bは、F1S
3MN又はF1S
3M2+1MのLiPF
6の酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。酸化安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。
図3Bは
図3Aと同じデータの詳細図である。F1S
3MNは、F1S
3M2より改善された酸化安定性を示した。
【0098】
図4は、F1S
3MN又はF1S
3M2+1MのLiPF
6の還元安定性をカーボネートコントロール電解質+LiPF
6と電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で2つの別々の走査において比較したものである。還元安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。F1S
3MNは、F1S
3M2より低い還元耐性を示した。
【0099】
純粋な溶媒及び調合した電解質の熱安定性の測定
純粋な有機ケイ素溶媒及び電解質組成物の両方の熱安定性を以下のようにして測定した。約0.75mLの液体試料を密閉セルにおいてアルゴンパージ下で加熱した。アルゴンパージを大気サンプリング質量分析計まで続けた。質量分析計ではあらゆる気相不純物及び/又は分解生成物を、電子衝撃質量分析(EI-MS)を用いて極めて低レベルで検出できる。試料を、1時間にわたってバッテリ用途に関連した既定の温度レベル(30、55、70、100、125、150、175及び200℃)で保持した。気相分解生成物を、EI-MSで得られたフラグメンテーションパターンをNISTスタンダードと比較することで同定した。加熱実験(及び全ての気相生成物の検出/回収)に続いて、残った液体試料をNMR分光法で分析することで分解の程度を定量的に分析した。複数の核を精査することで、有機ケイ素溶媒、カーボネート共溶媒、全ての添加剤及びリチウム塩(存在する場合)を含めた系の全ての成分を十分に分析した。
【0100】
F1S
3MNの熱安定性:
図5A及び5Bは、F1S
3MN+LiPF
6の熱安定性を示す。F1S
3MN-LiPF
6電解質(バッチZP815-01)を30~175℃の温度に曝露し、電子衝撃質量分析(EI-MS)及び核磁気共鳴分光法(NMR)により気体及び液体分解生成物についてそれぞれ分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。F1S
3MNは175℃まで顕著な気相及び/又は液相分解を示さなかった。Me
2SiF
2は温度100~125℃、81m/zで現れ、MeSiF
3は温度150~175℃、85m/zで現れた。しかしながら、81m/z及び85m/zピークは100~175℃で不規則に現れた。さらに、
1H NMR分析は、175℃まで加熱した後は分解がないことを示した。したがって、F1S
3MNは175℃まで一貫性のある分解を示さない。
図5Aは、
図5Bと同じデータの詳細図を示す。
【0101】
図6は、F1S
3M2+LiPF
6の熱安定性を示す。F1S
3M2-LiPF
6電解質を30~150℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。F1S
3M2は温度≧125℃で分解を示した。分解生成物にはMe
2SiF
2及び1,4-ジオキサンが含まれた。
1H NMR分析は、150℃で約6%の分解を示した。これらの結果は、
図5A及び
図5Bに関連して論じたものと共に、F1S
3MNがF1S
3M2より熱的に安定していることを示す。
【0102】
図7は、F1S
3MN+LiTFSIの熱安定性を示す。F1S
3MN-LiTFSI電解質を30~185℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。気相ピークが温度≧150℃で観察された。117及び102のピークは、F1S
3MN-LiBF
4電解質及び純粋な溶媒について観察されたパターンとマッチした(
図8及び9を参照のこと)。
【0103】
図8は、F1S
3MN+LiBF
4の熱安定性を示す。F1S
3MN-LiBF
4電解質を30~200℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。気相ピークが温度≧175℃で観察された。117及び102のピークは、純粋な溶媒及びF1S
3MN-LiTFSI電解質について観察されたパターンとマッチした(
図7及び9を参照のこと)。
1H NMR分析は、フッ素化分解生成物がないこと、また<0.5%の非フッ素化加水分解生成物を示した。
【0104】
図9は、純粋なF1S
3MNの熱安定性を示す。F1S
3MN電解質を30~195℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。気相ピークが温度≧150℃で観察された。150℃ではMe
2SiF
2が観察されたが(96/81m/z)、他のピークはこの生成物に関連していなかった。
1H NMR分析は、フッ素化分解生成物がないこと、加水分解が<0.5%であることを示した。
【0105】
上記のデータは、F1S3MNがLiPF6と最も熱的に安定したOS溶媒であることを示す。
【0106】
【0107】
市販の3-シアノプロピルジクロロメチルシラン(CAS番号1190-16-5、Sigma Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)を室温でフッ化水素アンモニウムでフッ素化した。次に、冷たいヘキサンを混合物に添加した。固形物を濾別し、溶媒を蒸発させた。酸化カルシウムを粗生成物に添加した。溶媒を真空下、35~45℃、0.4Torrで蒸留すると所望の生成物が極めて高い純度(約99.8%)及び約90%の収率で得られた。
【0108】
【0109】
アクリロニトリルを、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン及び酸化銅(I)とフラスコ内で混合し、60℃まで加熱した。次に、ジクロロメチルシランを滴加し、一晩還流させた。室温まで冷却した後、混合物を真空(43℃、0.2Torr)下で蒸留するとジクロロ中間体(DCl1S2MN)が得られた。この中間体を、1.2モル当量のフッ化水素アンモニウムを室温で又は1.2モル当量のフッ化水素ナトリウムを130℃で使用してフッ素化した。次に、ジクロロメタンを添加し、固形物を濾別した。溶媒を蒸発させ、粗生成物を真空下で蒸留した。トリエチルアミン及びモレキュラーシーブを生成物に加えて、真空下、25~33℃、0.1Torrで蒸留すると所望の生成物が極めて高い純度(>99%)、約75%の収率で得られた。
【0110】
DF1S
3MNの熱安定性:
図10は、DF1S
3MN+LiPF
6の熱安定性を示す。DF1S
3MN-LiPF
6電解質(ZP990-01)を30~150℃の温度に曝露し、電子衝撃質量分析(EI-MS)及び核磁気共鳴分光法(NMR)により気体及び液体分解生成物についてそれぞれ分析した。DF1S
3MNは150℃まで顕著な気相及び/又は液相分解を示さなかった。
【0111】
熱的酷使に対する耐性に関する示差走査熱量測定(DSC)評価:
DSC測定をF1S3MN及びカーボネート系電解質について脱リチウム化カソード材料の存在下で行うことで完全なセル構成での安全上の利点であると言い換えることができる潜在的な熱的酷使に対する耐性効果を評価した。より高い開始温度、低い総熱出力及び低いピーク熱出力は全て、完全な構成のセルにおける熱的酷使に対する挙動の改善を示唆する効果である。
【0112】
図11はF1S
3MN+LiPF
6及び様々なカーボネート共溶媒の熱安定性を示し、カーボネートコントロール電解質+LiPF
6と比較している。各電解質を含むセルを4.25Vまで充電し、次に解体した。リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)カソードをジエチレンカーボネートですすぎ、乾燥させた。5mgの活物質及び2mgの新鮮な電解質を含有する各試料をステンレス鋼のDSCパンに密封した。速度2℃/分でのDSC走査は、カーボネートコントロール電解質が、どの有機ケイ素電解質ブレンド物よりもずっと低い開始温度で反応したことを示した。加えて、EMCを有機ケイ素で置き換えた電解質はコントロール電解質よりずっと低いピーク熱出力を有する。
【0113】
電解質の調製
電解質のブレンドを、無水分(<5ppm)及び無酸素(<20ppm)のアルゴングローブボックス内で完了させる。溶媒、塩及び添加剤を含めた全ての電解質成分をブレンド前に適切に乾燥させており、グローブボックス内に保存する。溶媒水分を定期的にKarl Fischer測定によりモニタすることで水分レベルを<20ppmに維持する。概して、溶媒をまず別のバイアルに秤量し、均一になるまで混合する。溶媒の70%をメスフラスコに入れる。リチウム(又は他の)塩をゆっくりと添加し、完全に溶解するまで磁気撹拌子で撹拌する。次に、他の添加剤(すなわち、VC、LiBOB)をゆっくりと添加し、溶液が均一になるまで撹拌する。撹拌子を取り出し、残っている溶媒の一部を添加することで体積要件を満たす。撹拌子をメスフラスコに戻し、電解質を均一になるまで撹拌する。ブレンドが完了した後、電解質を、保存用の乾燥したバイアル又は代替の容器に入れる。
【0114】
F1S
3MNのリチウムイオンセルにおける性能:
図12は、様々な電解質溶媒を含むセルの30℃での放電容量を示す。3種の異なる電解質溶媒をリチウムイオンセルにおいて、2032サイズのコインセルアセンブリ(
図13に示すような積層アセンブリ)において様々なCレートでの一連のサイクルにわたって試験した。アセンブリはグラファイトアノード、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)カソード及びCelgard,LLC(シャーロット、ノースカロライナ州)製の「2500」タイプのセパレータを備える。3種の電解質溶媒は(1)1:1の体積基準でエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を含むコントロールEPA6カーボネート電解質(三角)、(2)79%のF1S
3MN、20%EC、1MのLiPF
6及び固形電解質相間(SEI)形成添加剤を含むF1S
3MN系電解質(四角)並びに(3)79%F1S
3M2、20%EC、1MのLiPF
6及びSEI形成添加剤を含むF1S
3M2系電解質(円)である。
図12に示すように、F1S
3MN系電解質は4CレートでEPA6と同等である。
【0115】
図14は、
図12で示し説明したものと同じ電解質を含むセルの55℃での放電容量を示す。セルを同じやり方で組み立て、C/2レートでサイクルさせた。
図14に示すように、F1S
3MN系溶媒は55℃で、カーボネートコントロール及びF1S
3M2系電解質の両方と比べて改善されたサイクル安定性を有した。
【0116】
電気二重層キャパシタセルにおけるF1S
3MN及びDF1S
2MNの性能:
対称的な電気二重層キャパシタ(EDLC)を、
図15に示すようなCR2032コインセルに組み立てた。グラスファイバーセパレータ(AP40、Merck Millipore)を2枚のACクロス電極の間に挟み、100μLの電解質をセパレータに加えた。テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEA-BF
4、Alfa Aesar、99%)及びテトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(TBP-PF
6、Sigma Aldrich、≧99.0%)を塩として使用した。F1S
3MN(99.4%)及びDF1S
2MN(99.8%)の有機ケイ素溶媒はSilatronixが製造した。アセトニトリル(AN、Sigma Aldrich、無水、99.8%)を共溶媒として使用した。
【0117】
Calgon carbon製のZorflex FM10 100%活性炭素(AC)クロスを両方の電極に使用した。FM10は、表面積1000~2000m2/g、厚さ0.5mm及び面密度120g/m2を有する。ACクロスを直径15mmのディスク状に打ち抜き、バインダ又は導電性添加剤を全く使用せずに電極として直接使用した。
【0118】
EDLCセルの性能をサイクリックボルタンメトリ(CV)により、Biologic BMP300ポテンショスタットを使用して試験した。炉内でのコントロールとしての温度の変動は±0.1℃である。EDLCセルのサイクリックボルタンメトリ(CV)応答を0から3V、走査速度10mV/sで行った。正規化した比容量Cを以下の方程式[1,2]:
【数1】
にしたがって導き出した。式中、iは電流であり、vは走査速度であり、mは1つの電極の質量である。
【0119】
図16は、TEA-BF
4塩を含有するOS電解質のEDLCセルのサイクリックボルタモグラムを示す。電解質ZX1193は、70体積パーセントのDF1S
2MN及び30体積パーセントのアセトニトリルに溶解させた1.0MのTEA-BF
4を含んだ。電解質ZX1190は、体積基準60:40でブレンドされたDF1S
2MN及びアセトニトリル溶媒に溶解させた0.8MのTEA-BF
4を含んだ。両方の電解質調合物のEDLCセルは0の横軸に対して規則的且つ対称的な特徴を示し、これはセルの非酸化還元又は誘導電流特性を示す。
【0120】
図17は、TBP-PF
6塩を含有するZX1170電解質及びZX1184電解質のEDLCセルのサイクリックボルタモグラムを示す。電解質ZX1170は、F1S
3MNに溶解させた1.2MのTBP-PF
6を有し、電解質ZX1184はDF1S
2MNに溶解させた1.2MのTBP-PF
6を有する。非酸化還元又は誘電電流特性も、電解質ZX1170及びZX1184調合物両方のEDLCセルから観察できる。
【0121】
1ND1N合成:
スキーム16は1ND1Nの合成スキームを示す。1ND1Nは、ナトリウム(Na)、酸化カルシウム(CaO)又は水素化カルシウム(CaH
2)で化学的に乾燥できない。
【化45】
【0122】
1ND1Nの電気化学安定性:
1ND1N及び1ND1に関する分子軌道図(図示せず)から、1ND1Nの最高被占分子軌道(HOMO)と最低空分子軌道(LUMO)とのエネルギー差が7.88eV(LUMO=0.21eV、HOMO=-7.88eV)であり、1ND1では8.36eV(LUMO=1.63eV、HOMO=-6.73eV)であることがわかる。1ND1Nは素晴らしい酸化安定性を有するが、1ND1より還元耐性は低い。
【0123】
図18は、1ND1N+1MのLiPF
6又は1MのLiTFSIの酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。酸化安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。
【0124】
図19は、1ND1N+1MのLiPF
6又は1MのLiTFSIの還元安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。還元安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。各電解質についての2回の別々の走査を示す。
【0125】
図20A及び20Bは、1ND1N及び1MのLiPF
6又は1MのLiTFSIでの0から6V、6から0Vでサイクル走査する場合の電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)を示す。
図20Aは第1サイクルを示す。
図20Bは第2サイクルを示す。
【0126】
図21A及び21Bは、F1S
3MN又は1ND1N+1MのLiPF
6の酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。酸化安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mV/sで試験した。
図21Bは
図21Aと同じデータの詳細図である。F1S
3MN-LiPF
6電解質は7.3Vで1mA/cm
2の電流密度を有し、1ND1N-LiPF
6電解質は7.2Vで1mA/cm
2の電流密度を有した。
【0127】
図22A及び22Bは、F1S
3MN又は1ND1N+1MのLiTFSIの酸化安定性を電流密度(mA/cm
2)対電圧(V対Li/Li
+)で示す。酸化安定性を室温で、Ptの作用電極、Liの対電極、Li/Li
+の基準電極及び掃引速度10mv/sで試験した。
図22Bは
図22Aと同じデータの詳細図である。F1S
3MN-LiTFSI電解質は6.2Vで1mA/cm
2の電流密度を有し、1ND1N-LiTFSI電解質は6.5Vで1mA/cm
2の電流密度を有した。
【0128】
1ND1Nの熱安定性
図23は純粋な1ND1Nの熱安定性を示す。1ND1Nを30~189℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。1ND1Nは189℃まで液相又は気相分解生成物を示さなかった。
1H NMRは約5%の分解を示した。
【0129】
図24は1ND1N+LiPF
6の熱安定性を示す。1ND1N-LiPF
6電解質を30~150℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。1ND1Nは気相分解を≧70℃で示したが、活発な反応は150℃まで観察されなかった。Me
2SiF
2(81m/z)(96g/モル)及びアクリロニトリル(53g/モル)と考えられる52/53m/zのピークが温度125~150℃で現れた。1,4-ジオキサンガスは150℃で観察されなかった。
1H NMR分析から、50.6%の1ND1Nが125℃で残留し、58%が150℃で残留したことが判明した。125℃では、39.7%のフッ素化生成物F1NM1N(非加熱の試料では2.3%)、1.6%のMe
2SiF
2(非加熱の試料では0%)及び2.95%の加水分解(非加熱の試料では5.5%)の存在が観察された。150℃では、41%のフッ素化生成物F1NM1N(非加熱の試料では2.3%)、1.7%のMe
2SiF
2(非加熱の試料では0%)及び5.0%の加水分解(非加熱の試料では5.5%)の存在が観察された。
【0130】
1ND1N-LiPF
6を125~150℃で加熱した際に52/53m/zで観察されたピークを同定するために、加熱した1ND1N-LiPF
6に関する質量スペクトルプロファイルを2-プロペンニトリル及びシアン化水素に関する国立標準技術研究所(NIST)のスタンダードの質量スペクトルプロファイルと比較した。
図25Aは、
図24の質量スペクトルプロファイルの24~30m/zの詳細図である。
図25Bは、
図24の質量スペクトルプロファイルの49~55m/zの詳細図である。
図25A及び25Bにおいて突出したピークが見られた温度に注釈をつける。
図25Bにおける51、52及び53m/zのピークは、アクリロニトリルが存在している可能性を示す。HCNの存在は、NISTスペクトルにおける26及び27m/zのピークの存在により確実に確認も否定もできない。
図25Aのスペクトルは27m/zより26m/zでのピーク強度が大きいことを示し、これはアクリロニトリルの存在をサポートしている。しかしながら、27m/zのピークのマグニチュードは、アクリロニトリル単独で見込まれるものより大きい。
【0131】
図26は、1ND1N+LiTFSI、ビニレンカーボネート(VC)及びリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)の熱安定性を示す。1ND1N-LiTFSI-VC-LiBOBを30~185℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。1ND1N-LiTFSI-VC-LiBOBは185℃まで気相分解生成物を示さなかった。
1H NMRは、3%(非加熱試料において)から18.7%(加熱後)への加水分解の増加を示し、これはNMR分析を行う前の遅れによるものと考えられる。
【0132】
図27は1ND1N+LiBF
4の熱安定性を示す。1ND1N-LiBF
4を30~125℃の温度に曝露し、質量分析により分解生成物について分析した。突出したピークが見られた温度に注釈をつける。気相生成物が≧30℃で発生した。予期したように、Me
2SiF
2(81m/z)(96g/モル)が観察された。アクリロニトリルは観察されなかった。
1H NMRは、3.7%の加水分解及び34.2%のフッ素化生成物を示した(3組のピーク)。
19F NMRは、系中の全てのFがSiに結合していることを示した。BF
4は残留しなかった。1ND1Nを分解するのに十分なFがなかった(約5Mの1ND1N対4MのF)。
【0133】
質量分析では加熱した1ND1N-LiBF4試料中にアクリロニトリルは観察されなかったが、非加熱のコントロールでは観察された(70ppm)。これは1ND1NがLiBF4とは室温で安定ではないことを示す。NMR分析から、以下の表に示すように、加熱しても分解の増加に殆ど影響しないことが判明した。
【0134】
【0135】
セルにおける1ND1Nの性能:
図28は、様々な電解質を含むセルの様々なCレートでの放電容量を示す。電解質溶媒は、(1)1ND1N、(2)1ND1N+20%エチレンカーボネート(EC)共溶媒(1ND1N_EC)及び(3)1ND2+20%EC共溶媒(1ND2_EC)であった。全ての調合物はSEI形成添加剤及び1MのLiPF
6塩も含有した。
図28に示すように、20%EC共溶媒は1ND1Nの性能を改善した。20%EC共溶媒を使用した場合、1ND1Nは全てのCレートで1ND2より低下した性能を示した。
【0136】
図29は、様々な他の電解質溶媒を含むセルの放電容量を示す。電解質溶媒は、(1)1ND1N+20%EC共溶媒、1MのLiPF
6及びSEI形成添加剤(1ND1N-EC-LiPF
6。
図29において1ND1N_ECとして示す)、(2)1ND1N+20%EC共溶媒、1MのLiTFSI及びSEI形成添加剤(1ND1N-EC-LiTFSI。
図29において1ND1N_Tとして示す)並びに(3)1ND2+20%EC共溶媒、1MのLiPF
6及びSEI形成添加剤(1ND2-EC-LiPF
6。
図29においてCP597-07として示す)であった。1ND1N-EC-LiPF
6の組み合わせ及び1ND1N-EC-LiTFSIの組み合わせは、1ND2-EC-LiPF
6の組み合わせに匹敵する性能を示した。
【0137】
図30A及び30Bはそれぞれ、1ND1N-LiPF
6系電解質又は1ND1N-LiTFSI系電解質を含むセルの様々なCレートでの放電容量を示す。各実験に関し、Saft America(コッキーズヴィル、メリーランド州)NCAカソード、グラファイトアノード及びCelgard,LLC(シャーロット、ノースカロライナ州)製の2500セパレータを備えたCR2032コインセルを使用した。セルを、定電流/定電圧(CCCV)充電法によりC/5、C/2、1C又は2Cレートで4.1Vまで充電した。セルを各サイクルで3.0Vまで定電流及び充電時と同じレートで放電した。
図30Aにおいて、1ND1N-LiPF
6系電解質溶液は1MのLiPF
6及び1ND1N(バッチZP780-01)を含み、充電/放電を30℃又は55℃で行った。
図30Bにおいて、1ND1N-LiTFSI系電解質溶液は1MのLiTFSI及び1ND1N、バッチ(ZT781-01)を含み、充電/放電を30℃、55℃又は70℃で行った。
図30A及び38Bに示すように、1ND1N-LiTFSI系電解質は、1ND1N-LiPF
6系電解質より良好なレート能力を示した。
【0138】
OS溶媒及び電解質溶液の物理的性質:
上の表1は、選択した有機ケイ素(OS)化合物(1S3MN、F1S3MN、F1S3cMN、DF1S3MN、DF1S2MN及びF1S3M2)の純粋な溶媒及び調合した電解質溶液としての物理的性質を示す。上の表2は、純粋な1ND2、1ND1、1ND1N F1S3MN、DPF1S3MN、F1S3MC、F1S3ME、F1S3MA、F1S3MS、1NMS、F1S3M2及びF1S3cMN並びにこれらを含有する様々な電解質組成物の物理的性質を示す。両方の表において、伝導率はmS/cmの単位を有し、粘度はcPの単位を有し、引火点は摂氏である。
【0139】
1ND1N、1ND1N、DF1S
2MN、DF1S
3MN、F1S
3cMN及び1S
3MNについてのCDCl
3中でのプロトン(
1H)NMRスペクトルを
図31~36にそれぞれ示す。フッ素原子を含有する選択した化合物に関し、
19F-NMRデータをCDCl
3及びDMSO-d
6中で収集した。結果を以下にまとめる:
【0140】
CDCl
3
中の
19
F-NMR
F1S3MN -162.3ppm、1J(19F,29Si)=280Hz
イソF1S3MN -166.6ppm、1J(19F,29Si)=284Hz
DF1S3MN -135.3ppm、1J(19F,29Si)=296Hz
TF1S3MN -136.8ppm、1J(19F,29Si)=280Hz
DF1S2MN -135.2ppm、1J(19F,29Si)=296Hz
【0141】
DMSO-d
6
中の
19
F-NMR
F1S3MN -159.2ppm、1J(19F,29Si)=279Hz
【0142】
OS電解質溶液の熱安定性:
図37及び38は、F1S
3MC、F1S
3cMN、1S
3DN DF1S
2MN、TF1S
2MN及びTF1S
3MN+1MのLiPF
6の気相分解を示す。各電解質を30~175℃の温度に曝露し(各ステップで60分)、電子衝撃質量分析(EI-MS)及び核磁気共鳴分光法(NMR)により気体及び液体分解生成物についてそれぞれ分析した。顕著な気相及び/又は液相分解は175℃まで認められなかった。
【0143】
結論:
F1S3MN及び1ND1Nは共に、リチウムイオンバッテリにおける電解質溶媒としての使用に適している。F1S3MN及びDF1S2MNは、EDLCデバイスにおける電解質溶媒としての機能を実証した。F1S3MNは、試験した全ての塩で極めて高い熱安定性(1H NMRで測定)を示す。F1S3MNはOSで最も高い熱安定性をLiPF6に対して示し(175℃)、分解は観察されなかった。F1S3MNは気相生成物を純粋な溶媒としてLiBF4及びLiTFSIで生ずる。これらの気相生成物は低レベルのF1S3MNの蒸発のせいであると考えることができる。F1S3MNはF1S3M2より高い電圧安定性(ウィンドウの広い高い酸化電位)を示す。F1S3MNは4CのレートまでEPA6と同等の性能をもたらす。LiBOBのF1S3MN(<0.03M)における溶解性は共溶媒がないと限られたものとなるが、LiBOBの溶解性は共溶媒(すなわち、20%EC)の使用により改善される(>0.1M)。F1S3MNの分解生成物はMe2SiF2及びMeSiF3であり、共に気体である。
【0144】
1ND1Nは、純粋な溶媒として又はLiTFSI電解質との組み合わせにおいて185~190℃まで気相分解を示さない。1ND1NのLiTFSI電解質との組み合わせは70℃以上まで有望である。1ND1N+LiPF6は、1ND1又は1ND2+LiPF6より熱的に安定である。125℃を超えるとアクリロニトリルを生成する。他の非スペーサ化合物と同様に、1ND1Nは室温でLiBF4と反応する。しかしながら、1ND1Nを完全に分解するのに十分なFはなく、アクリロニトリルを生成しない。1ND1Nのレート性能は1ND2より若干低い。
【0145】
F1S3ME、DPF1S3MN及びF1S3MCは全て、リチウムイオンバッテリ中の電解質溶媒としての使用に適している。F1S3MC、F1S3cMN、1S3DN、DF1S2MN、TF1S2MN及びTF1S3MNは、LiPF6と熱安定性を示し(175℃)、分解は観察されない。
【0146】
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕
【化46】
から成る群から選択され、
「a」は1~4の整数であり、「b」は0~(3×a)の整数であり、
「Z」は、「b」=0の場合は存在せず、「R」及び
【化47】
から成る群から選択され、
各「R」は、独立して、ハロゲン、C
1-6直鎖又は分岐アルキル、アルケニル又はアルキニル及びC
1-6直鎖又は分岐ハロ-アルキル、ハロ-アルケニル又はハロ-アルキニルから成る群から選択され、
式I及びII中の各「Sp」は、独立して、C
1-15直鎖又は分岐アルキレニル及びC
1-15直鎖又は分岐ハロ-アルキレニルから成る群から選択され、
式I中の各「Y」は、独立して、有機極性基から成る群から選択される、化合物。
〔2〕各「Y」は、独立して、
【化48】
から成る群から選択される有機極性基であり、湾曲した結合はC
2-6アルキレン架橋部分を示す、前記〔1〕に記載の化合物。
〔3〕各「Y」は、独立して、
【化49】
から成る群から選択される有機極性基である、前記〔2〕に記載の化合物。
〔4〕各「R」は、独立して、フッ素、及びC
1-6直鎖又は分岐フルオロ-アルキル、フルオロ-アルケニル又はフルオロ-アルキニルから成る群から選択され、
式I及びII中の各「Sp」は、独立して、C
1-15直鎖又は分岐フルオロ-アルキレニルから成る群から選択される、前記〔3〕に記載の化合物。
〔5〕「a」は1であり、「b」は0~3である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物。
〔6〕「b」は1であり、「Z」は「-R」である、前記〔5〕に記載の化合物。
〔7〕少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立して、C
1-6直鎖アルキレン及びC
1-6直鎖フルオロ-アルキレンから成る群から選択される、前記〔5〕に記載の化合物。
〔8〕「a」は2であり、「b」は0~6である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物。
〔9〕「b」は1であり、「Z」は「R」である、前記〔7〕に記載の化合物。
〔10〕少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立して、C
1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、前記〔7〕に記載の化合物。
〔11〕「a」は3であり、「b」は0~9である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物。
〔12〕「b」は1であり、「Z」は「R」である、前記〔11〕に記載の化合物。
〔13〕少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立してC
1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、前記〔11〕に記載の化合物。
〔14〕「a」は4であり、「b」は0~12である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物。
〔15〕「b」は1であり、「Z」は「R」である、前記〔14〕に記載の化合物。
〔16〕少なくとも1つの「R」はフッ素であり、各「Sp」は、独立して、C
1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、前記〔14〕に記載の化合物。
〔17〕少なくとも1つの「R」はフッ素である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物。
〔18〕前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物を、塩と組み合わせて含む、電解質組成物。
〔19〕前記塩がリチウム含有塩である、前記〔18〕に記載の電解質組成物。
〔20〕前記〔18〕に記載の電解質組成物を含む電気化学デバイス。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1'〕
【化50】
から成る群から選択される化合物と、リチウム含有塩とを含む、電解質組成物であって、
「a」は1であり、「b」は0~1の整数であり、
「Z」は、「b」=0の場合は存在せず、「R」及び
【化51】
から成る群から選択され、
各「R」は、独立して、ハロゲン、C
1-6直鎖もしくは分岐アルキル、アルケニル又はアルキニル及びC
1-6直鎖もしくは分岐ハロ-アルキル、ハロ-アルケニル又はハロ-アルキニルから成る群から選択され、少なくとも1つの「R」はフッ素であり、
式I及びII中の各「Sp」は、独立して、C
1-15直鎖又は分岐アルキレニルから成る群から選択され、
式I中の各「Y」は、独立して、
【化52】
から成る群から選択される有機極性基から成る群から選択される、電解質組成物。
〔2'〕各「R」が、独立して、フッ素、及びC
1-6直鎖もしくは分岐フルオロ-アルキル、フルオロ-アルケニル又はフルオロ-アルキニルから成る群から選択される、前記〔1'〕に記載の電解質組成物。
〔3'〕「b」が1であり、「Z」が「-R」である、前記〔1'〕又は〔2'〕に記載の電解質組成物。
〔4'〕各「Sp」が、独立して、C
1-6直鎖アルキレンから成る群から選択される、前記〔1'〕~〔3'〕のいずれか一項に記載の電解質組成物。
〔5'〕前記リチウム含有塩が、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(CF
3SO
2)
3C、LiN(SO
2C
2F
5)
2、リチウムアルキルフルオロホスフェート、及びリチウムビス(キレート)ボレートから成る群から選択される、前記〔1'〕~〔4'〕のいずれか一項に記載の電解質組成物。
〔6'〕前記〔1'〕~〔5'〕のいずれか一項に記載の電解質組成物を含む電気化学デバイス。