IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-空気入りタイヤ 図1
  • 特開-空気入りタイヤ 図2
  • 特開-空気入りタイヤ 図3
  • 特開-空気入りタイヤ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140557
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20220915BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20220915BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20220915BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20220915BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B60C1/00 Z
B60C19/12 Z
B29C33/02
B29C35/02
C09K3/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117225
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2018548146の分割
【原出願日】2018-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017174081
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】干場 崇史
(57)【要約】
【課題】タイヤ内面に離型剤が付着した状態でシーラント層を貼り付けることにより、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性とシーラント層の接着性とを両立することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫された空気入りタイヤであって、トレッド部1の内面にタイヤ周方向に沿ってシーラント層6が配置されており、少なくともシーラント層6の配置領域において蛍光X線分析法で検出される離型剤のケイ素の量が0.1重量%~10.0重量%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫された空気入りタイヤであって、トレッド部の内面にタイヤ周方向に沿ってシーラント層が配置されており、少なくとも該シーラント層の配置領域において蛍光X線分析法で検出される前記離型剤のケイ素の量が0.1重量%~10.0重量%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記シーラント層がブチル及び/又は天然ゴムを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記シーラント層がタイヤ周方向に延在するシート状であり、前記シーラント層の厚さが0.5mm~5.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記シーラント層の幅方向の中心位置がタイヤ赤道に対して±10mmの範囲に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記シーラント層の片側幅が、最小幅を有するベルト層の片側幅に対して100%以上であり、最大幅を有するベルト層の片側幅に対して105%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記離型剤のケイ素の量は前記コーティング層から転写されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、タイヤ内面に離型剤が付着した状態でシーラント層を貼り付けることにより、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性とシーラント層の接着性とを両立することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
パンクシール性を有する空気入りタイヤとして、タイヤ内面のトレッド部に対応する領域に粘着性シーラントからなるシーラント層を配置したものが提案されている(例えば、特許文献1)。このようなシーラント層を備えた空気入りタイヤにおいては、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、粘着性シーラントが異物に纏わり付き、その異物の脱落に伴って粘着性シーラントがパンク穴に導かれてシール効果を発揮する。
【0003】
一方、ブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する際、ブラダーがグリーンタイヤの内面に貼り付き易いため、グリーンタイヤの内面に離型剤を塗布することにより、グリーンタイヤとブラダーとの貼り付きを防止するようにしている。そのような場合において、タイヤ内面にシーラント層を配置しようとすると、離型剤が付着したタイヤ内面とシーラント層との接着性が悪く、シーラント層が剥がれ易いという問題がある。
【0004】
これに対して、グリーンタイヤの内面に離型剤を塗布し、そのグリーンタイヤを加硫した後にタイヤ内面のバフ掛けを行うことで離型剤を除去することが提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、そのようなバフ掛けを行うことでインナーライナーのゲージも薄くしてしまうため、空気保持性が悪化するという問題がある。また、グリーンタイヤの内面に予めフィルムを貼り、そのフィルムを貼った状態でグリーンタイヤの内面に離型剤を塗布し、そのグリーンタイヤを加硫した後にフィルムを剥がすことで離型剤を除去することが提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、加硫後にフィルムを剥がす工程が必要となり製造時間が増加するため、タイヤ生産性が悪化するという問題がある。その他、離型剤が付着したタイヤ内面を洗浄することが提案されているが、このような手法では離型剤を十分に取り除くことができず、しかもタイヤ生産性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2003-080909号公報
【特許文献2】日本国特許第4410753号公報
【特許文献3】日本国特開2015-107690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、タイヤ内面に離型剤が付着した状態でシーラント層を貼り付けることにより、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性とシーラント層の接着性とを両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫された空気入りタイヤであって、トレッド部の内面にタイヤ周方向に沿ってシーラント層が配置されており、少なくとも該シーラント層の配置領域において蛍光X線分析法で検出される前記離型剤のケイ素の量が0.1重量%~10.0重量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、少なくともシーラント層の配置領域に転写される離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、タイヤ内面とシーラント層との接着性を十分に確保することができる。また、本発明によれば、従来のようにタイヤ内面のバフ掛けを行う場合や、タイヤ内面にフィルムを貼り付ける場合、タイヤ内面を洗浄する場合とは異なって、タイヤ生産性を悪化させることはない。その結果、タイヤ生産性を悪化させずに、空気保持性とシーラント層の接着性とを両立することが可能となる。
【0009】
本発明では、シーラント層はブチル及び/又は天然ゴムを含んでいることが好ましい。これにより、シーラント層の接着性を改善する、或いは、シーラント層の変形を抑制することができる。
【0010】
本発明では、シーラント層はタイヤ周方向に延在するシート状であり、シーラント層の厚さは0.5mm~5.0mmであることが好ましい。これにより、パンクシール性を確保しながら、転がり抵抗の悪化を防止することができる。
【0011】
本発明では、シーラント層の幅方向の中心位置はタイヤ赤道に対して±10mmの範囲に配置されていることが好ましい。このようにシーラント層を配置することで、タイヤユニフォミティを悪化させることがない。特に、タイヤ赤道に対して±5mmの範囲で配置されていることがより好ましい。
【0012】
本発明では、シーラント層の片側幅は、最小幅を有するベルト層の片側幅に対して100%以上であり、最大幅を有するベルト層の片側幅に対して105%以下であることが好ましい。これにより、ベルト層の下部におけるパンクシール性を確保しながら、シーラント層が流動した場合でも振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す斜視断面図である。
図2図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す赤道線断面図である。
図3図3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一部を拡大して示す断面図である。
図4図4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。 図1~4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図1,2において、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。そして、トレッド部1とサイドウォール部2とビード部3とで囲まれた空洞部4にはシーラント層6が接着されている。このシーラント層6はタイヤ内面5のトレッド部1に対応する領域に配置されている。
【0015】
シーラント層6は粘着性のシーラント材からなる。シーラント材は、任意の粘着性組成物を使用することができる。このようなシーラント材を用いることで、シーラント材の有する粘着性によりタイヤ内面5に対して接着することが可能になる。
【0016】
上記空気入りタイヤにおいて、図3に示すように、タイヤ内面5にはタイヤ径方向内側からシーラント層6、離型剤の転写層7の順に積層されている。この離型剤の転写層7は、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫することにより、加硫済みの空気入りタイヤにおいて、そのタイヤ内面5に転写されたものである。このようにして転写された離型剤はタイヤ内面5の全面には転写されておらず点在している。
【0017】
トレッド部1の内面の離型剤において、タイヤ内面5の少なくともシーラント層6の配置領域では、ケイ素の量が0.1重量%~10.0重量%である。本発明では、トレッド部1の内面における離型剤の量を規定するにあたって、一般的な離型剤の主成分であるケイ素の量を指標とする。このケイ素の量は蛍光X線分析法を用いて検出することができ、一般に、蛍光X線分析法にはFP法(ファンダメンタルパラメータ法)と検量線法とがあるが、本発明ではFP法を採用する。離型剤(ケイ素)の量を測定する際には、上記空気入りタイヤの複数の箇所(例えば、タイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所の計7箇所)においてカーカス層及びインナーライナー層を剥離して得られたシートサンプル(寸法:幅70mm、長さ100mm)を用い、各シートサンプルから更に角部4箇所及び中央部1箇所の計5箇所の測定サンプル(寸法:幅13mm~15mm、長さ35mm~40mm)を抜き取り、各測定サンプルについて蛍光X線分析装置を用いて離型剤の量を測定する。そして、上記シートサンプル毎に5つの測定サンプルの測定値を平均することによりシートサンプル毎の離型剤の量が算出され、その算出値がそれぞれ0.1重量%~10.0重量%の範囲に含まれるのである。また、蛍光X線粒子は原子番号に比例した固有のエネルギーを有しており、この固有エネルギーを測定することにより元素を特定することが可能となる。具体的には、ケイ素の固有エネルギーは1.74±0.05keVである。なお、離型剤(ケイ素)の蛍光X線粒子数(X線強度)は0.1cps/μA~1.5cps/μAの範囲である。
【0018】
離型剤からなる転写層7に配合可能な成分としては、例えば、シリコーン成分を有効成分として含有するものが挙げられる。シリコーン成分としては、オルガノポリシロキサン類が挙げられ、例えば、ジアルキルポリシロキサン、アルキルフェニルポリシロキサン、アルキルアラルキルポリシロキサン、3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を挙げることができる。ジアルキルポリシロキサンは、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサンである。アルキルフェニルポリシロキサンは、例えば、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体である。アルキルアラルキルポリシロキサンは、例えば、メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサンである。これらのオルガノポリシロキサン類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0019】
上述のように離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、少なくともシーラント層6の配置領域に転写される離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面5に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面5からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、タイヤ内面5とシーラント層6との接着性を十分に確保することができる。ここで、シーラント層6の配置領域における離型剤のケイ素の量が、0.1重量%より少なくなると空気保持性の向上が得られず、10.0重量%より多くなるとシーラント層6の接着性が悪化し、十分な耐久性が得られない。
【0020】
また、従来のようにタイヤ内面のバフ掛けを行う場合や、タイヤ内面にフィルムを貼り付ける場合、タイヤ内面を洗浄する場合とは異なって、タイヤ生産性を悪化させることはない。その結果、タイヤ生産性を悪化させずに、空気保持性とシーラント層6の接着性とを両立することが可能となる。これに対して、上述した従来の方法によりタイヤ内面に付着した離型剤を除去する場合には、各工程の作業時間が付加されるので、本発明のように離型剤が付着した状態でシーラント層を配置する場合と比べてタイヤ生産性が悪化することとなる。
【0021】
上記空気入りタイヤにおいて、シーラント層6はブチル及び/又は天然ゴムを含んでいることが好ましい。特に、インナーライナーに使用される不透過性ゴムはブチルと馴染みが良いため、接着性の観点から、シーラント層6はブチルを含んでいることがより好ましい。一方、天然ゴムは強靭であるため、走行時の熱によりシーラント材の流動化が生じても、シーラント層6の変形を抑制することができる。このようにシーラント層6が構成されることで、シーラント層6の接着性を改善する、或いは、シーラント層6の変形を抑制することができる。
【0022】
シーラント層6はタイヤ周方向に延在するシート状であり、シーラント層6の厚さは0.5mm~5.0mmであると良い。これにより、パンクシール性を確保しながら、転がり抵抗の悪化を防止することができる。ここで、シーラント層6の厚さが、0.5mm未満であるとパンクシール性を十分に確保することができず、5.0mm超であるとシーラント層6の重量が増加すると共に、シーラント層6が発熱し易いので、転がり抵抗が悪化する傾向がある。上述したシーラント層6の厚さは、シーラント層の幅方向の中心位置から幅方向外側に向かってシーラント層の全幅の40%となる幅方向両側の位置で測定される厚さと、シーラント層の幅方向の中心位置で測定される厚さの計3点の平均値である。
【0023】
シーラント層6は、その幅方向の中心位置がタイヤ赤道に対して±10mmの範囲に配置されていることが好ましく、タイヤ赤道に対して±5mmの範囲で配置されていることがより好ましい。このようにシーラント層6を配置することで、タイヤユニフォミティを悪化させることがない。
【0024】
図4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示すものである。図4に示す空気入りタイヤは、タイヤ赤道線CLを基準に線対称に構成されている。図4において、一対のビード部3,3間には少なくとも1層(図4では2層)のカーカス層10が装架されている。このカーカス層10はタイヤ径方向に配向する複数本のカーカスコードを含んでおり、カーカスコードとして有機繊維コードが好ましく使用される。カーカス層10において、カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度は例えば20°~45°の範囲に設定されている。カーカス層10はゴムで被覆されている。カーカス層10は各ビード部3に配置されたビードコア11の廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられている。各ビードコア11のタイヤ外周側には断面三角形状のビードフィラー12が配置されている。そして、タイヤ内表面における一対のビード部3,3間の領域にはインナーライナー層13が配置されている。
【0025】
一方、トレッド部1におけるカーカス層10のタイヤ外周側には複数層(図4では2層)のベルト層14が埋設されている。ベルト層14はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層14において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層14の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層14のタイヤ外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層15が配置されている。ベルトカバー層15は少なくとも1本の補強コードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回したジョイントレス構造とすることが望ましい。また、ベルトカバー層15はベルト層14の幅方向の全域を覆うように配置しても良く、或いは、ベルト層14の幅方向外側のエッジ部のみを覆うように配置しても良い。ベルトカバー層15の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0026】
図4に示すベルト層14は、トレッド部1において、タイヤ径方向内側に位置する第1ベルト層14Aと、タイヤ径方向外側に位置する第2ベルト層14Bとを包含するものである。このベルト層14において、第1ベルト層14Aの片側幅BW1は、第2ベルト層14Bの片側幅BW2よりも大きく設定されているため、第1ベルト層14Aが最大幅を有するベルト層であり、第2ベルト層14Bが最小幅を有するベルト層である。このとき、シーラント層6の片側幅Wは、最小幅のベルト層14(第2ベルト層14B)の片側幅BW2に対して100%以上に設定されると共に、最大幅のベルト層14(第1ベルト層14A)の片側幅BW1に対して105%以下に設定されている。即ち、シーラント層6の端部6eは、最小幅のベルト層14の端部14Beの幅方向位置と、最大幅のベルト層14の端部14Aeに対して105%の幅方向位置との間の領域S内に存在する。
【0027】
このようにシーラント層6の片側幅Wをベルト層14の片側幅BWに対して適度に設定することで、ベルト層14の下部におけるパンクシール性を十分に確保すると共に、走行時にシーラント層6が流動した場合であっても、シーラント層6の偏りに起因する振動を抑制することができる。ここで、シーラント層6の片側幅Wが最小幅のベルト層14の片側幅BW2に対して100%未満であると、ベルト層14の下部におけるパンクシール性を十分に確保することができない。一方、シーラント層6の片側幅Wが最大幅のベルト層14の片側幅BW1に対して105%超であると、走行時の熱によるシーラント材の軟化と遠心力の影響により、トレッド部1のセンター側に向かってシーラント材が流動し、走行時の振動の原因となる。
【0028】
次に、本発明の空気入りタイヤの製造方法について説明する。グリーンタイヤを加硫するにあたって、予めブラダーに離型剤を被覆(好ましくは焼付け塗布)してブラダーの外面に離型剤からなるコーティング層を形成する。このブラダーの外面にコーティング層を形成する工程は、例えば、離型剤を塗布後に150℃で1時間、90℃で4時間又は常温で8時間の条件下で保管しながら施工する。また、ブラダーの外面にコーティング層を形成する工程は、1回以上3回以下の範囲で実施する。このようにコーティング層が形成されたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫する。そして、その加硫済みタイヤにおいて、トレッド部1のタイヤ内面5のシーラント層6の配置領域に対してタイヤ周方向に沿ってシーラント層6を配置する。
【0029】
上述のように離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫を行うことにより、少なくともシーラント層6の配置領域に転写される離型剤のケイ素の量を0.1重量%~10.0重量%とすることが可能となる。このように微量の離型剤をタイヤ内面5に付着させた場合、離型剤がタイヤ内面5からの空気の透過を阻害し、空気保持性が良化する一方で、タイヤ内面5とシーラント層6との接着性を十分に確保することができる。また、従来のようにタイヤ内面のバフ掛けを行う場合や、タイヤ内面にフィルムを貼り付ける場合、タイヤ内面を洗浄する場合とは異なって、タイヤ生産性を悪化させることはない。その結果、タイヤ生産性を悪化させずに、空気保持性とシーラント層6の接着性とを両立することが可能となる。
【0030】
特に、ブラダーの外面にコーティング層を形成する工程において、コーティング層の被覆時間t(hour)と温度T(℃)とがt≧0.0001T2-0.07T+9かつT≦180℃の条件を満たすことが好ましい。また、上述した被覆時間tと温度Tの関係式を満たすと共に、被覆時間tを1~8時間の範囲とし、T≦160℃を満たすことがより好ましい。更には、温度Tを90℃、被覆時間tを4時間とすることがより好ましく、温度Tを150℃、被覆時間tを1時間とすることが最も好ましい。このような条件を満たすことで、コーティング層を有するブラダーにおいて、離型剤をコーティングする時間を短縮することができると共に、ブラダーライフの短縮を防止することができる。ここで、温度T(℃)が高い程、短時間でコーティング層を形成することができるが、ブラダーが劣化し易く、ブラダーライフを縮めることとなる。
【0031】
上記空気入りタイヤの製造方法において、シーラント層6をタイヤ内面5に配置する際に、ダイスからシート状に押し出されたシーラント材をタイヤ内面5に直接圧着し、タイヤ周方向に沿って配置することが好ましい。これにより、タイヤ内面5には層状のシーラント材が配置される。このようにシーラント層6を形成することで、タイヤ生産性を高めることができると共に、シーラント層6の形状の安定化にも繋がる。
【0032】
或いは、シーラント層6をタイヤ内面5に配置する際に、略紐状のシーラント材を連続的に螺旋状に塗布して配置することが好ましい。これにより、タイヤ内面5には、複数本の略紐状のシーラント材がタイヤ幅方向に並ぶように配置される。このようにシーラント層6を形成することで、シーラント材を隙間なく配置することができるため、タイヤ生産性を高めることができる。
【実施例0033】
タイヤサイズ255/40R20で、トレッド部の内面にタイヤ周方向に沿ってシーラント層が配置された空気入りタイヤにおいて、離型剤の除去方法、タイヤ内面への離型剤の塗布、加硫時における離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーの使用、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量[重量%]、シーラント層の厚さ[mm]を表1及び表2のように設定した比較例1~5及び実施例1~7のタイヤを製作した。
【0034】
比較例1については、タイヤ内面に離型剤を塗布し、離型剤の除去作業は行わなかった。また、比較例2~4については、タイヤ内面に離型剤を塗布し、加硫工程の終了後に離型剤の除去作業を行った。具体的には、比較例2ではバフ掛けによりタイヤ内面の離型剤を除去し、比較例3では予めタイヤ内面に貼ったフィルムを剥がすことによりタイヤ内面の離型剤を除去し、比較例4ではタイヤ内面を洗浄することによりタイヤ内面の離型剤を除去した。
【0035】
なお、表1及び表2において、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(島津製作所社製 EDX-720)を用いて、製作工程終了後の各試験タイヤのタイヤ周方向4箇所及びタイヤ幅方向3箇所でそれぞれ測定された離型剤(ケイ素)の量に基づいて算出された算出値を平均したものである。測定条件としては、真空状態で、電圧50kV、電流100μA、積分時間50秒、コリメータφ10mmである。
【0036】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、シーラント層の接着性、空気保持性、タイヤ生産性、パンクシール性及び転がり抵抗を評価し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0037】
シーラント層の接着性:
ここで言うシーラント層の接着性は、タイヤ内面とシーラント層との接着面における剥がれに対する評価を示す。各試験タイヤをそれぞれリムサイズ20×9.0Jのホイールに組み付け、走行速度80km/h、空気圧160kPa、荷重8.5kN、走行距離6480kmの条件でドラム試験機にて走行試験を実施した後、シーラント層の脱落又は剥がれの有無を目視により確認した。シーラント層の脱落及び剥がれが無い場合を「◎(優)」で示し、シーラント層の剥がれがシーラント層全体の1/8未満の場合を「○(良)」で示し、シーラント層の剥がれがシーラント層全体の1/8以上1/4未満の場合を「△(可)」で示し、シーラント層の剥がれがシーラント層全体の1/4以上の場合を「×(不可)」で示した。
【0038】
空気保持性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ20×9.0Jのホイールに組み付け、空気圧270kPa、温度21℃の条件で24時間放置した後、初期空気圧250kPaにして42日間に渡って空気圧を測定し、15日目から42日目のエア漏れ量の傾きを求めた。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど空気保持性が優れていることを意味する。なお、指数値が「98」以上であれば、従来レベルの空気保持性を維持している。
【0039】
タイヤ生産性:
各試験タイヤについて、タイヤ1本を製作するために要する製作時間(分)を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ生産性が優れていることを意味する。
【0040】
パンクシール性:
各試験タイヤにパンク孔を空け、温度一定の環境下で、タイヤ内圧が250kPaになるように空気を充填した。その後、空気漏れが生じたか否かを空気圧の測定により確認した。評価結果は、空気圧250kPaを100とする指数にて示した。この指数値が100に近いほどパンクシール性が優れていることを意味する。
【0041】
転がり抵抗:
各試験タイヤをリムサイズ20×9.0Jのホイールに組み付けて、空気圧250kPaを充填し、ISOの規定に準拠して、ドラム径1707mmのドラム試験機を用いて転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
この表1及び表2から判るように、実施例1~7の空気入りタイヤは、比較例1に比して、タイヤ生産性を悪化させることなく、空気保持性を維持しながらシーラント層の接着性が改善されていた。また、実施例4~6の空気入りタイヤは、比較例1に比して、転がり抵抗を維持しながら、パンクシール性が改善されていた。実施例7の空気入りタイヤは、シーラント層の厚さを比較的厚く設定したため、比較例1に比して、転がり抵抗が悪化したが、パンクシール性が改善されていた。
【0045】
一方、比較例2においては、タイヤ内面のバフ掛けを行ったため、タイヤ生産性が悪化し、インナーライナーのゲージが薄くなったことで空気保持性も悪化した。比較例3においては、タイヤ内面にフィルムを貼り付けて加硫後にフィルムを剥がしたため、タイヤ生産性が悪化した。比較例4においては、タイヤ内面を洗浄したものの、タイヤ内面の離型剤を完全に除去することができず、タイヤ内面に離型剤が比較的多く残ったため、シーラント層の接着性が低下した。比較例5においては、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量を多く設定したため、シーラント層の接着性の改善効果が不十分であった。
【0046】
タイヤサイズ255/40R20で、離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いてグリーンタイヤを加硫し、加硫済みの空気入りタイヤのトレッド部の内面にシーラント層を配置した空気入りタイヤにおいて、タイヤ内面の離型剤(ケイ素)の量[重量%]、コーティング層の被覆時間tと温度Tを表3のように設定した実施例8~13のタイヤを製作した。これら試験タイヤについて、下記試験方法によりコーティング層の寿命を評価し、その結果を表3に併せて示した。
【0047】
コーティング層の寿命:
離型剤からなるコーティング層を備えたブラダーを用いて加硫し、タイヤ内面に転写された離型剤(ケイ素)の量を本発明で規定する範囲内の状態で加硫できたグリーンタイヤの本数を測定した。評価結果は、実施例8を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどコーティング層の寿命が優れていることを意味する。
【0048】
【表3】
【0049】
この表3から判るように、実施例9~13の空気入りタイヤは、実施例8に比して、コーティング層の寿命が改善されていた。なお、実施例13は、温度Tを比較的高温に設定したことでコーティング層よりもブラダー本体が先に寿命を迎えたので、その時点でのタイヤ加硫本数をコーティング層の寿命として評価した。
【符号の説明】
【0050】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 空洞部
5 タイヤ内面
6 シーラント層
7 転写層
14 ベルト層
14A 第1ベルト層
14B 第2ベルト層
図1
図2
図3
図4