IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニック株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-III族窒化物基板 図1
  • 特開-III族窒化物基板 図2
  • 特開-III族窒化物基板 図3
  • 特開-III族窒化物基板 図4
  • 特開-III族窒化物基板 図5
  • 特開-III族窒化物基板 図6
  • 特開-III族窒化物基板 図7
  • 特開-III族窒化物基板 図8
  • 特開-III族窒化物基板 図9
  • 特開-III族窒化物基板 図10
  • 特開-III族窒化物基板 図11
  • 特開-III族窒化物基板 図12
  • 特開-III族窒化物基板 図13
  • 特開-III族窒化物基板 図14
  • 特開-III族窒化物基板 図15
  • 特開-III族窒化物基板 図16
  • 特開-III族窒化物基板 図17
  • 特開-III族窒化物基板 図18
  • 特開-III族窒化物基板 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140562
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】III族窒化物基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20220915BHJP
   C30B 25/14 20060101ALI20220915BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20220915BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/14
C30B25/20
H01L21/205
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117453
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2019172644の分割
【原出願日】2019-09-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、環境省、平成30年度未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業(高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証)委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】森 勇介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 政志
(72)【発明者】
【氏名】今西 正幸
(72)【発明者】
【氏名】北本 啓
(72)【発明者】
【氏名】滝野 淳一
(72)【発明者】
【氏名】隅 智亮
(72)【発明者】
【氏名】岡山 芳央
(57)【要約】
【課題】高いキャリア濃度を達成しながら、低転位及び低抵抗のIII族窒化物基板を提供する。
【解決手段】III族窒化物基板は、研磨された面内において、第1不純物濃度を示す第1領域と、第1不純物濃度よりも低い第2不純物濃度を示す第2領域と、を有し、第1領域の第1転位密度は、第2領域の第2転位密度よりも低い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaN層を備えたIII族窒化物基板であって
前記GaN層は、
第1不純物濃度の酸素を含む複数の第1領域と、
前記第1不純物濃度よりも低い第2不純物濃度の酸素を含む第2領域と、
前記第1不純物濃度よりも低い第3不純物濃度の酸素を含む複数の第3領域と、
を有し、
前記複数の第1領域及び前記複数の第3領域は、前記第2領域の周囲に配置されており、
前記第1領域の第1転位密度は、前記第2領域の第2転位密度よりも低く、
前記第2領域の数密度は、3×106/cm以下である、III族窒化物基板。
【請求項2】
前記複数の第1領域と複数の前記第3領域とは、前記第2領域の周囲に周方向に交互に配置されている、請求項1に記載のIII族窒化物基板。
【請求項3】
前記第2領域の数密度は、1.5×10/cm以下である、請求項1または2に記載のIII族窒化物基板。
【請求項4】
前記第1領域は、前記第2領域に向かって縮径する形状である、請求項1から3のいずれか一項に記載のIII族窒化物基板。
【請求項5】
前記第3領域は、前記第2領域に向かって縮径する形状である、請求項1から4のいずれか一項に記載のIII族窒化物基板。
【請求項6】
前記第1領域に含まれる不純物元素として、さらにシリコンを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のIII族窒化物基板。
【請求項7】
前記第1不純物濃度は、酸素濃度が1×1020/cm3以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載のIII族窒化物基板。
【請求項8】
GaN層がエピタキシャル成長されるためのGaN基板を更に備え、
前記GaN層の転位密度は、前記GaN基板の転位密度よりも低い、請求項1から7のいずれか一項に記載のIII族窒化物基板。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のIII族窒化物基板と、
前記III族窒化物基板に形成されたデバイス構造と、
を備える、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縦型GaNパワーデバイスには、低抵抗、低転位のGaN基板が必要とされている。例えばn型の低抵抗のGaN基板を作成する場合、Si原子やO原子の混入量を増加させてキャリア濃度を向上させることが行われてきた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-132558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、キャリア濃度が1×1020/cm以上の高濃度となる場合には、結晶性の悪化や転位欠陥の増加といった問題が生じる場合がある。
【0005】
本発明は、高いキャリア濃度を達成しながら、低転位及び低抵抗のIII族窒化物基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るIII族窒化物基板は、研磨された面内において、第1不純物濃度を示す第1領域と、
前記第1不純物濃度よりも低い第2不純物濃度を示す第2領域と、
を有し、
前記第1領域の第1転位密度は、前記第2領域の第2転位密度よりも低い。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るIII族窒化物基板によれば、低転位であって低抵抗であり、デバイス形成時に、転位密度の高い第2領域でリークが生じるのを抑制でき、絶縁耐圧の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係るIII族窒化物基板のm面から見た断面図である。
図2】実施の形態1に係るIII族窒化物基板のa面から見た断面図である。
図3】実施の形態1に係るIII族窒化物基板の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4図3のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。
図5】二次イオン質量分析法による解析範囲を示す、III族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。
図6図5の解析範囲の顕微鏡像である。
図7図5の解析範囲について、二次イオン質量分析法によって得られる酸素濃度を濃淡として示す図である。
図8図5の解析範囲について、二次イオン質量分析法によって得られるSi濃度を濃淡として示す図である。
図9】OVPE-GaN層の厚さが50μmである場合のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。
図10】OVPE-GaN層の厚さが200μmである場合のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。
図11】OVPE-GaN層の厚さが300μmである場合のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。
図12】OVPE-GaN層の厚さと転位密度との関係を示す図である。
図13】転位密度6.2×10/cmのOVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図14】転位密度6.4×10/cmのOVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図15】転位密度5.7×10/cmのOVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図16】転位密度4.3×10/cmのHVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図17】実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造方法のフローチャートである。
図18】実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造装置の構成を示す概略図である。
図19図18のIII族窒化物基板の製造装置の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
第1の態様に係るIII族窒化物基板は、研磨された面内において、第1不純物濃度を示す第1領域と、
前記第1不純物濃度よりも低い第2不純物濃度を示す第2領域と、
を有し、
前記第1領域の第1転位密度は、前記第2領域の第2転位密度よりも低い。
【0010】
第2の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第1の態様において、前記第1領域は、前記第2領域を中心として前記第2領域の周囲を囲うように配置されていてもよい。
【0011】
第3の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第1又は第2の態様において、前記第1領域は、前記第2領域に向かって縮径する形状であってもよい。
【0012】
第4の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記第2不純物濃度よりも低い第3不純物濃度を示す第3領域を、更に有してもよい。
【0013】
第5の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第4の態様において、前記第3領域は、前記第2領域を中心として前記第2領域の周囲を囲うように配置されていてもよい。
【0014】
第6の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第4の態様において、前記第1領域と前記第3領域とは、前記第2領域を中心として前記第2領域の周囲に交互に配置されていてもよい。
【0015】
第7の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第1から第6のいずれかの態様において、前記第1領域に含まれる不純物は、酸素、シリコンの群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0016】
第8の態様に係るIII族窒化物基板は、上記第1から第7のいずれかの態様において、前記第1不純物濃度は、酸素濃度が1×1020/cm以上であってもよい。
【0017】
第9の態様に係るデバイスは、上記第1から第8のいずれかの態様に係るIII族窒化物基板と、
前記III族窒化物基板に形成されたデバイス構造と、
を備える。
【0018】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物基板について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0019】
(実施の形態1)
<III族窒化物基板>
図1は、実施の形態1に係るIII族窒化物基板のm面から見た断面図である。図2は、実施の形態1に係るIII族窒化物基板のa面から見た断面図である。図3は、実施の形態1に係るIII族窒化物基板の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピット3の分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。図4は、図3のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。
実施の形態1に係るIII族窒化物基板は、研磨された面内において、例えば、図1及び図2に示すように、種基板1の上に成長したGaN層2とを有する。また、GaN層2の表面には、図1のm面から見た断面図に示されるように、{11-22}面を有する。さらに、図2のa面から見た断面図に示されるように、{10-11}面を有する。また、図3のSEM写真及び図4の表面研磨後のカソードルミネッセンス像に示されるように、{11-22}面の第1領域11と、{10-11}面の第3領域13と、がエッチピットである第2領域12の周囲を囲んでそれぞれ6つ配置されている。第1領域11及び第3領域13は、第2領域12の周囲を交互に配置されている。さらに、第1領域11及び第3領域13は、第2領域12に向かって縮径している。換言すれば、第1領域11及び第3領域13は、第2領域12を中心として放射状に延びている。また、エッチピットであるそれぞれの第2領域12の周囲に第1領域11及び第3領域13が配置されている。
なお、図3のSEM写真に示されるように、この実施の形態1に係るIII族窒化物基板の面ではエッチピット3の密度が低く、つまり、転位密度が低いことがわかる。
【0020】
<不純物濃度について>
図5は、二次イオン質量分析法による解析範囲20を示す、III族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。図6は、図5の解析範囲の顕微鏡像である。図7は、図5の解析範囲について、二次イオン質量分析法によって得られる酸素濃度を濃淡として示す図である。図8は、図5の解析範囲について、二次イオン質量分析法によって得られるSi濃度を濃淡として示す図である。
このIII族窒化物基板は、例えば、図7に示すように、第1領域11の酸素濃度は、1020/cm台の後半であるのに対して、第3領域13の酸素濃度は、1020/cm台の前半である。つまり、第1領域11の酸素濃度は、第3領域13の酸素濃度よりも高い。また、第2領域12の酸素濃度は、第1領域11の酸素濃度よりも低く、第3領域13よりも高いことがわかる。また、第1領域11の第1転位密度は、第2領域12の第2転位密度よりも低い。なお、図8に示すように、Si濃度は、第1領域11、第2領域12及び第3領域13にわたって1018/cm前半~1019/cm台後半であって、各領域について大きな差異はなく、不純物濃度の差異は酸素濃度に依存している。
【0021】
<成長層の厚さと転位密度について>
図9は、OVPE-GaN層の厚さが50μmである場合のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。図10は、OVPE-GaN層の厚さが200μmである場合のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。図11は、OVPE-GaN層の厚さが300μmである場合のIII族窒化物基板のc軸から見た表面転位を示すカソードルミネッセンス(CL)像である。図12は、OVPE-GaN層の厚さと転位密度との関係を示す図である。
図9乃至図11に示すように、図1及び図2の成長層であるGaN層2の厚さが増加するにつれて第2領域12の数が少なくなることがわかる。つまり、図12に示すように、種基板1の上に成長するGaN層2の厚さが増加するにつれて転位密度が低くなることがわかる。具体的には、種基板1のHVPE-GaNの場合に転位密度が約3×10cm-2と高いのに対して、GaN層2の厚さが200μmで転位密度が約1.5×10cm-2、GaN層2の厚さが300μmで転位密度が約8×10cm-2と低くなっている。転位密度を考慮すると、およそGaN層2の厚さが200μm以上であることが好ましい。さらに、GaN層2の厚さが300μm以上であることがより好ましい。
【0022】
図13は、転位密度6.2×10/cmのOVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。図14は、転位密度6.4×10/cmのOVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。図15は、転位密度5.7×10/cmのOVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。図16は、転位密度4.3×10/cmのHVPE-GaN層の表面を表面研磨及びエッチング後のエッチピットの分布を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図16に示すように、種基板1のHVPE法(ハイドライド気相成長法)によるGaN層の表面は、非常に高い転位密度を有する。一方、上記の種基板1の上にOVPE法(酸化物気相成長法)によって成長させたGaN層2を設けることによって、図12乃至図15に示すように、転位密度をおよそ2桁程度低減させることができる。
このIII族窒化物基板によれば、低転位であって低抵抗である。そこで、その上にデバイス形成した場合にも、転位密度の低い第1領域の不純物濃度を高めることで、低抵抗化した第1領域に電気を優先的に流すことができる。これによって、転位密度の高い第2領域でリークが生じるのを抑制でき、絶縁耐圧の向上を図ることができる。
【0023】
<III族窒化物基板の製造方法の概要>
本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造方法の概要を図17のフローチャートを参照して説明する。実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造方法は、反応性ガス供給工程(S01)、III族元素酸化物ガス生成工程(S02)、III族元素酸化物ガス供給工程(S03)、窒素元素含有ガス供給工程(S04)、被酸化性ガス供給工程(S05)、III族窒化物結晶生成工程(S06)、被酸化性ガス反応工程(S07)、および残留ガス排出工程(S08)を有する。このIII族窒化物基板の製造方法では、III族元素酸化物ガスを原料とするOVPE法によるGaN層の成長を行うことを特徴とする。
(1)反応性ガス供給工程では、反応性ガスを原料反応室へ供給する(S01)。
(2)III族元素酸化物ガス生成工程では、出発III族元素源と反応性ガス(出発III族元素源が酸化物の場合は還元性ガス、金属の場合は酸化性ガス)を反応させ、III族元素酸化物ガスを生成する(S02)。
(3)III族元素酸化物ガス供給工程では、III族元素酸化物ガス生成工程で製造されたIII族元素酸化物ガスを育成チャンバへ供給する(S03)。
(4)窒素元素含有ガス供給工程では、窒素元素含有ガスを育成チャンバへ供給する(S04)。
(5)被酸化性ガス供給工程では、被酸化性ガスを育成チャンバへ供給する(S05)。
(6)III族窒化物結晶生成工程では、III族元素酸化物ガス供給工程で育成チャンバ内へ供給されたIII族元素酸化物ガスと、窒素元素含有ガス供給工程で育成チャンバ内へ供給された窒素元素含有ガスを反応させ、III族窒化物結晶を生成させる(S06)。
(7)被酸化性ガス反応工程では、育成チャンバ内に供給されるIII族元素酸化物ガス以外の酸化物と被酸化性ガスを反応させIII族窒化物結晶中への酸素の混入を抑制する(S07)。
(8)残留ガス排出工程では、III族窒化物結晶の生成に寄与しない未反応のガスをチャンバ外に排出する(S08)。
以上の各工程によって、種基板へIII族窒化物結晶を成長させたIII族窒化物基板を生成することができる。
【0024】
<III族窒化物基板の製造装置の概要>
本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造装置150の概要を図18及び図19のIII族窒化物基板の製造装置150の構成を示す概略図を参照して説明する。
なお、図18及び図19において、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なっている場合がある。実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造装置150は、原料チャンバ100内に、原料反応室101が配置されており、原料反応室101内に出発III族元素源105を載置した原料ボート104が配置されている。原料反応室101には、出発III族元素源105と反応するガスを供給する反応性ガス供給管103が接続されており、またIII族酸化物ガス排出口107を有する。反応性ガスは、出発III族源が酸化物の場合は還元性ガス、金属の場合は酸化性ガスを用いる。また、原料チャンバ100には、第1搬送ガス供給口102が備わっており、III族酸化物ガスと搬送ガスは、III族酸化物ガス及び搬送ガス排出口108から接続管109を通過し育成チャンバ111へと流れる。育成チャンバ111は、III族酸化物ガス及び搬送ガス供給口118と被酸化性ガス供給口113と窒素元素含有ガス供給口112と第2搬送ガス供給口114と排気口119を有し、種基板116を設置する基板サセプタ117を備える。
【0025】
<製造方法および製造装置の詳細>
図18及び図19を用いて、実施の形態1に係るIII族窒化物基板の製造方法の詳細を説明する。
ここでは、出発III族元素源105に金属Gaを用いた場合の説明を行う。
(1)反応性ガス供給工程では、反応性ガス供給管103より反応性ガスを原料反応室101へ供給する。
(2)III族元素酸化物ガス生成工程では、反応性ガス供給工程で原料反応室101へ供給された反応性ガスが、出発III族元素源105である金属Gaと反応し、III族酸化物ガスであるGaOガスを生成する。生成されたGaOガスはIII族酸化物ガス排出口107を経由し、原料反応室101から原料チャンバ100に排出される。排出されたGaOガスは、第1搬送ガス供給口102から原料チャンバへと供給される第1搬送ガスと混合され、III族酸化物ガス及び搬送ガス排出口108へと供給される。ここで、第1ヒータ106の温度を、GaOガスの沸点の観点から800℃以上とし、第2ヒータ115よりも低温とすべく1800℃未満とする。出発Ga源は、原料ボート104内に載置されている。原料ボート104は、反応性ガスと出発Ga源の接触面積を大きくできる形状であることが好ましい。
【0026】
なお、III族酸化物ガスを生成する方法には、大別して、出発Ga源105を還元する方法と、出発Ga源105を酸化する方法とがある。例えば、還元する方法においては、出発Ga源105に酸化物(例えばGa)、反応性ガスとして還元性ガス(例えばHガス、COガス、CHガス、Cガス、HSガス、SOガス)を用いる。一方、酸化する方法においては、出発Ga源105に非酸化物(例えば液体Ga)、反応性ガスとしては酸化性ガス(例えばHOガス、Oガス、COガス)を用いる。例えば、下記式(I)によってIII族酸化物ガスを生成することができる。
2Ga+HO→GaO+H (I)
また、出発Ga源105の他に、In源、Al源を出発III族元素として採用できる。ここで第一搬送ガスとしては、不活性ガス、またはHガスを用いることができる。
【0027】
(3)III族元素酸化物ガス供給工程では、III族元素酸化物ガス生成工程で生成されたGaOガスを、III族酸化物ガス及び搬送ガス排出口108、接続管109、III族酸化物ガス及び搬送ガス供給口118を経由し育成チャンバ111へと供給する。原料チャンバ100と育成チャンバ111を接続する接続管109の温度が、原料チャンバ100の温度より低下すると、III族酸化物ガスを生成する反応の逆反応が生じ、出発Ga源105が接続管109内で析出する。したがって、接続管109は、第3ヒータ110によって、原料チャンバ100の温度より低下しないよう第1ヒータ106より高温に加熱する。
【0028】
(4)窒素元素含有ガス供給工程では、窒素元素含有ガスを窒素元素含有ガス供給口112から育成チャンバ111に供給する。窒素元素含有ガスとしては、NHガス、NOガス、NOガス、NOガス、Nガス、Nガス、等を使用できる。
【0029】
(5)被酸化性ガス供給工程では、被酸化性ガス供給口113から被酸化性ガスを育成チャンバ111へと供給する。被酸化性ガスを供給する理由は、III族酸化物ガス以外の酸化物ガスを還元するためである(被酸化性ガス反応工程)。被酸化性ガスとしては、Ga源以外の酸化物ガスとの反応性の観点から、Bガス、Gaガス、Inガス、Tlガス等を使用できる。さらに、被酸化性ガスとして、CHガス、Cガス、Cガス、C10ガス、Cガス、Cガス、Cガス、Cガス、Cガス、HCNガス、等を使用することも可能である。
【0030】
(6)III族窒化物結晶生成工程では、各供給工程を経て、育成チャンバ内へと供給された原料ガスを合成し、III族窒化物結晶の製造を行う。育成チャンバ111は、第2ヒータ115により、III族酸化物ガスと窒素元素含有ガスが反応する温度まで高温化する。この際、育成チャンバ111の温度は、III族酸化物ガスを生成する反応の逆反応が生じないようにするため、原料チャンバ100の温度より低下しないよう加熱する。ゆえに、第2ヒータ115の温度は、1000℃以上かつ1800℃以下とする。また、原料チャンバ100で生成されたGaOガス、及び第1搬送ガスによる育成チャンバ111の温度変動を抑制する理由から第2ヒータ115と第3ヒータ110の温度は同じとする。
【0031】
III族酸化物供給工程を経て、育成チャンバ111へと供給されたIII族酸化物ガスと、窒素元素含有ガス供給工程を経て、育成チャンバ111へと供給される窒素元素含有ガスを種基板116より上流で混合することによって、下記式(II)によって種基板116上でIII族窒化物結晶の成長を行うことができる。
GaO+2NH→2GaN+HO+2H (II)
【0032】
この際、窒素元素含有ガスが育成チャンバ111からの熱で分解することを抑制するために、窒素元素含有ガス供給口112、及び育成チャンバ111の外壁を断熱材で被覆することが好ましい。
【0033】
また、育成チャンバ111の炉壁や基板サセプタ117上へのIII族窒化物結晶の寄生成長が問題として挙げられる。そこで第2搬送ガス供給口114より育成チャンバ111へと供給された搬送ガスにより、III族酸化物ガス、及び窒素元素含有ガスの濃度を制御することにより、育成チャンバ111の炉壁や基板サセプタ117へのIII族窒化物結晶の寄生成長を抑制することができる。
【0034】
また、種基板116としては、例として、窒化ガリウム、ガリウム砒素、シリコン、サファイア、炭化珪素、酸化亜鉛、酸化ガリウム、ScAlMgOを用いることができる。
第二搬送ガスとしては、不活性ガス、またはHガスを用いることができる。
【0035】
さらに、III族窒化物結晶の酸素濃度の低減のために、被酸化性ガス供給工程を経て、育成チャンバ111内に被酸化性ガスを供給する。III族酸化物ガス生成工程、III族酸化物ガス供給工程を経て育成チャンバ111に供給されるGa源以外の酸化物ガスが、III族窒化物結晶の酸素濃度の増加に起因する。したがってGa源以外の酸化物ガスが種基板116に到達する前に、被酸化性ガスと反応させることで、結晶中への酸素の混入を抑制することができる。例えば、被酸化性ガスとして、Inガスを用いて、Ga源以外の酸化物ガスであるHOを反応させる場合、InガスとHOガスが反応し、InOガスとHガスが生成される。InOガスは、本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法のように1000℃を超える成長温度では固体中に極めて取り込まれにくい。
なお、未反応のIII族酸化物ガス、窒素元素含有ガス、被酸化性ガス、および搬送ガスは排気口119から排出される(残留ガス排出工程)。
【0036】
このIII族窒化物基板の製造方法では、III族元素酸化物ガスを原料とするOVPE法によるGaN層の成長を行っている。これによって、GaN層のc面に対して斜めのファセット面である{11-22}面(第1領域)及び{10-11}面(第3領域)から構成されるピットを基板全面に形成する成長モードとすることができる。その結果、成長したGaN層が厚くなるにつれて転位が掃き集められて転位密度を低減することができる。上述のように、成長させるGaN層の厚さとしては、200μm以上が好ましい。その一方、OVPE法(酸化物気相成長法)でGaN層を成長させているので、GaN層の面内において1020/cm台後半の高い酸素濃度とすることができる。
【0037】
(実施例1)
図19において、原料チャンバ100にライン1から供給する反応性ガス及び第1搬送ガスとして、Hガスを4L/min、Nガスを1L/min、Oガスを0.02L/minとした。育成チャンバ111にライン2から供給する第2搬送ガスとして、Hガスを2.5L/min、Nガスを2.5L/minとした。また、育成チャンバ111にライン3から供給する窒素元素含有ガスとして、Hガスを0L/min、Nガスを2.5L/min、N2ガスを13~14L/min、NHガスを1~2L/minとした。育成チャンバ111にライン4から供給する第2搬送ガスとして、Hガスを12.5L/min、Nガスを12.5L/minとした。
また、原料チャンバ100の温度を1130℃、育成チャンバ111の温度を1200℃とした。加熱方式は抵抗加熱とした。育成チャンバ111での雰囲気は大気圧とし、成長時間を460分とした。
【0038】
この実施例1に係るIII族窒化物基板によれば、種基板1の上にOVPE法(酸化物気相成長法)によって成長させたGaN層2を設けることによって、種基板1に比べて転位密度をおよそ2桁程度低減させることができる。
【0039】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係るIII族窒化物基板によれば、低転位であって低抵抗であり、デバイス形成時に、転位密度の高い第2領域でリークが生じるのを抑制でき、絶縁耐圧の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 種基板
2 成長層
3 エッチピット
10 III族窒化物基板
11 第1領域
12 第2領域
13 第3領域
20 解析範囲
100 原料チャンバ
101 原料反応室
102 第1搬送ガス供給口
103 反応性ガス供給管
104 原料ボート
105 出発Ga源(出発III族元素源)
106 第1ヒータ
107 III族酸化物ガス排出口
108 III族酸化物ガス及び搬送ガス排出口
109 接続管
110 第3ヒータ
111 育成チャンバ
112 窒素元素含有ガス供給口
113 被酸化性ガス供給口
114 第2搬送ガス供給口
115 第2ヒータ
116 種基板
117 基板サセプタ
118 III族酸化物ガス及び搬送ガス供給口
119 排気口
150 III族窒化物基板の製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19